JP5782897B2 - ポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法、ポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法 - Google Patents

ポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法、ポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法、ポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法、および、ポリテトラフルオロエチレンシートに関する。δ
ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」とも言う)は溶融粘度が380℃で約1011ポアズと極めて高く、一般の熱可塑性樹脂(成形時の溶融粘度10〜10ポアズ)で用いられている押出成形、射出成形などの成形方法では成形が困難である。
このため、PTFEの成形方法としては、例えば、特許文献1(国際公開98/041386号公報)に記載されているように、圧縮成形が最も一般的である。特に、PTFEブロック状成形品(通称、大物ブロックと称される。)の成形方法としては、この圧縮成形が用いられる。
圧縮成形では、以下の(a)〜(c)の工程にしたがって行われる。
(a)金型中に原料粉末を均一に充填し、常温で、プレス装置によって100〜1000kg/cmで圧縮する。
(b)得られた比較的もろい未焼成体を炉に入れ、融着させるために360〜380℃まで上昇させ、その温度で焼結が全体に均一に完了するまで保持する。
(c)そのまま炉の温度を室温まで冷やしてブロック状成形品を得る。
このようにして得られたブロック成形品を切削し、例えば、厚み25μm程度のフィルムを得る。得られたPTFEフィルムは、耐熱電線、車両モータ・発電機などの耐熱絶縁テープ等に用いられる。
そして、上述の特許文献1(国際公開98/041386号公報)の記載によると、従来の焼成方法では、自重によって焼成後のブロック成形品に内部応力が残る。そして、焼成時にブロック状成形品に歪みが生じて変形することで、ブロック状成形品を切削して得られるフィルムにカール(シワ、曲がり、ねじれ等)が発生することや高価なPTFE材料のロスが生じやすいこと等の問題点に着目している。そして、これらの問題点を解決するために、まず、PTFEの未焼成体を形成し、その未焼成体を炉の中で回転させながら焼成を行う、という焼成方法を提案している。
上述の特許文献1(国際公開98/041386号公報)に記載の焼成方法によると、得られるブロック状成形品の歪みや残留応力を低減することができる。しかし、この焼成方法における、焼成後のブロック状成形品の冷却工程では、静置することにより、単調に、室温まで冷却するか、所定の冷却装置を用いて、単調に、目的の温度になるまで冷却することが提案されているに過ぎない。このように、冷却工程においてブロック状成形品の内部等に生じうる歪みや残留応力については、なんら詳細な検討が行われていない。
特に、PTFEは、熱伝導率が非常に低いため、冷却工程では、ブロック状成形品の表面温度が下がっていたとしても、内部温度は表面温度に追従するようには下がっておらず、表面温度と内部温度との間に大きな温度差が生じ、大きな歪みが残ってしまことがある。このような歪みは、ブロック状成形品の厚みが大きければ大きいほど、表面温度と内部温度の温度差が大きくなりやすいため、顕著になる。このため、ブロック状成形品の冷却工程において、生じうる歪みを小さく抑えるには、表面温度と内部温度との温度差が大きくならないように、十分に時間をかけて少しずつ冷却することが望ましい。
これに対して、従来の冷却工程のような温度を単調に低下させる冷却方法では、表面温度と内部温度との温度差が所定の温度差より大きくならないように維持しながら冷却しようとすると、非常に長い時間を要してしまう。
したがって、できるだけ表面温度と内部温度との温度差が大きくならないようにしつつ、できるだけ冷却に要する時間を短くすることができるように、歪みの程度と製造に要する時間とのバランスを定めて、冷却を行い、所定のバランスのポリテトラフルオロエチレン成形品を得ることになる。
しかし、このような所定のバランスのポリテトラフルオロエチレン成形品について、製造に要する時間をさらに短くしようとすると歪みの程度が悪化してしまうか、もしくは、歪みの程度をさらに小さく抑えようとすると製造に要する時間がさらに長くなってしまう。
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、製造に要する時間を短くすること、もしくは、歪みを小さく抑えること、または、製造に要する時間を短くしつつ歪みを抑えること、の少なくともいずれかが可能な、ポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法、ポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法、ポリテトラフルオロエチレンシートを提供することにある。
本発明の第1観点に係るポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法は、ポリテトラフルオロエチレン粉末を圧縮成形して得られる円筒形状のブロック体を、融点(融解温度)を超える温度まで加熱した後に、第1温度低下処理を行い、第1温度低下処理の後に、第1温度低下処理よりも穏やかな温度低下速度で、結晶化温度になるまで冷却する第2温度低下処理を行う。結晶化温度とは、第1温度低下処理を行う対象のブロック体を構成しているPTFEについて、DSC(Differential Scanning Calorimetry, 示差走査熱量分析)曲線を作成した場合における、発熱ピークの頂点の温度であり、JIS−K7121に準じて測定して得られる温度である。
また、第1温度低下処理の終了後、第2温度低下処理の開始前の間は、本発明の趣旨に反しない限り、他の温度処理を行ってもよい。例えば、第1温度低下処理が終了した時点で、その時点での温度を僅かな時間だけ維持する処理を行い、その後に第2温度低下処理を開始させてもよい。
本発明の第2観点に係るポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法は、第1観点に係るポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法において、第1温度低下処理は、ブロック体の表面温度もしくはブロック体の雰囲気温度が、ブロック体において結晶化が生じる結晶化温度領域よりも高温である状態でのみ行う。
本発明の第3観点に係るポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法は、第2観点に係るポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法において、ブロック体の表面温度もしくはブロック体の雰囲気温度が結晶化温度になるまで冷却された後は、所定時間の間、ブロック体の表面温度もしくはブロック体の雰囲気温度を結晶化温度で維持する。
ここで、「所定時間の間」は、例えば、ブロック体の内部温度と表面温度との温度差が十分に小さくなるまでの間とすることができる。この「温度差が十分に小さくなる」とは、例えば、ブロック体の内部温度と表面温度との温度差が、所定時間の開始時点の温度差の50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、もしくは、10%以下になるまでの間としてもよい
本発明の第観点に係るポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法は、第1観点から第3観点のいずれかに係るポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法で得られた成形品を切削することによりポリテトラフルオロエチレンシートを製造する
本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレン成形品を製造する場合に、製造に要する時間を短くした場合であっても、歪みの程度の悪化を抑えることができるか、もしくは、歪みの程度を小さく抑える場合であっても製造に要する時間が長くならないようにすることができる。
本発明のブロック体の雰囲気温度の時間変化を示すグラフである。 ブロック体の形状の一例を示す斜視図である。 炉内温度制御システムの一例を示すブロック構成図である。 炉の一例を示す側面視概略断面図である。 炉の他の例を示す側面視概略断面図である。 DSC曲線を示すグラフである。 供給熱風温度の時間変化の概略を示すグラフである。 ブロック体の内部温度と表面温度との温度差の時間変化の概略を示すグラフである。 実施例および参考例で用いた炉およびブロック体の断面斜視図である。 参考例1における供給熱風温度、ブロック体の表面温度、および、ブロック体の内部温度の時間変化を示すグラフである。 実施例1、参考例1のブロック体の表面温度、および、ブロック体の内部温度の時間変化を示すグラフである。 実施例1、参考例1のブロック体の表面温度と内部温度との温度差の時間変化を示すグラフである。
本発明のポリテトラフルオロエチレン(以下、単に「PTFE」という。)成形品の製造方法では、ポリテトラフルオロエチレン粉末を圧縮成形して得られる円筒形状のブロック体を、融点を超える温度まで加熱した後に、第1温度低下処理を行い、第1温度低下処理の後に、第1温度低下処理よりも穏やかな温度低下速度で、ブロック体の結晶化が完了する温度である結晶化温度になるまで冷却する第2温度低下処理により、PTFE成形品を得る。例えば、図1のグラフに示す一例のように、昇温区間、融着区間、結晶化区間、冷却区間の順にブロック体に供給する熱風の温度を変化させる等によって、PTFE成形品を得ることができる。
また、この製造方法で得られたPTFE成形品を切削するという製造方法によって、ポリテトラフルオロエチレンシートが製造される。このポリテトラフルオロエチレンシートの用途は、特に限定されるものではなく、例えば、ライニングシート、パッキン、ガスケット、ダイヤフラム弁等が挙げられる。例えば、厚み25μm程度のフィルムを得た場合には、耐熱電線、車両モータ・発電機などの耐熱絶縁テープ等に用いることができる。
(PTFE粉末)
PTFE粉末は、懸濁重合によって得られた粉末であることが好ましいが、他の重合方法(例えば、乳化重合)によって得られた粉末であってもよい。ポリテトラフルオロエチレン粉末の平均粒径は、特に限定されるものではないが、10〜1000μmであってよい。
PTFEとしては、押出成形、射出成形などの成形方法による成形が困難であるものとして、例えば、PTFEのホモポリマーまたはテトラフルオロエチレンと他のフルオロモノマーとのコポリマーが挙げられる。このコポリマーにおけるテトラフルオロエチレンとフルオロモノマーとのモル比は、95:5〜99.999:0.001であることが好ましい。また、このコポリマーは、テトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルからなるコポリマー(すなわち、ビニルエーテル変性ポリテトラフルオロエチレン)であることが好ましい。パーフルオロビニルエーテルは、
式(I): CF2=CF−ORf
[Rfは、炭素原子およびフッ素原子を必須としており、水素原子を有しておらず、酸素原子を有していてもよい有機基である。]
で示される化合物であることが好ましい。
式(I)のパーフルオロビニルエーテルにおけるRf基は、炭素数1〜10のパーフロオロアルキル基、炭素数4〜9のパーフロオロ(アルコキシアルキル)基、
式(II):
Figure 0005782897
[式(II)中、mは0〜4の数である。]
式(III)
Figure 0005782897
[式(III)中、nは1〜4の数である。]
の少なくともいずれか1つで示される基であることが好ましい。
(円筒形状のブロック体)
ブロック体は、ポリテトラフルオロエチレン粉末を圧縮成形して得られる円筒形状であれば特に限定されるものではなく、例えば、図2の斜視図に示すような形状を有するブロック体10であってもよい。このブロック体は、厳密な意味での円筒形状に限られるものではなく、全体的に丸みを帯びた形状であってもよいし、円筒形状が僅かに変形した形状であってもよい。また、ブロック体の形状としては、直径よりも軸方向長さの方が長くものであってもよいし、直径よりも軸方向長さの方が短いものであってもよい。ブロック体の最大厚みは、図2において“S”で示すようにブロック体10の外表面10aと内表面10bとの間の径方向の距離をいい、特に限定されないが、5〜50cmであることが好ましく、10〜30cmであることが特に好ましい。
(圧縮成形)
圧縮成形時の圧縮圧力は、100〜1000kg/cmであってよい。圧縮圧力を保持する時間は、1分〜5時間であってよい。
(昇温区間)
昇温区間は、特に限定されるものではなく、例えば、圧縮成形によって得られたブロック体を炉に入れ、PTFEの融点(融解温度)を超える温度であってPTFEの分解が生じる温度未満の温度である昇温目標温度まで雰囲気温度を昇温させる区間をいう。この昇温目標温度は、後述する結晶化温度領域の上限温度よりも高い温度である。なお、PTFEの融点(融解温度)とは、対象のブロック体を構成しているPTFEについて、DSC曲線を作成した場合における、吸熱ピークの頂点の温度であり、JIS−K7121に準じて測定して得られる温度である。特に、ここでは、対象のブロック体を構成しているPTFEについて、DSC曲線を作成した場合に、吸熱ピークが初めに観測される温度(焼成時の融点を示す温度である。)を超える温度まで加熱し、その後一度温度を低下させることで発熱ピークを観測し(発熱ピークの温度は結晶化温度を示す。)、その後に再度昇温させて二度目に吸熱ピークが観測される場合においてその吸熱ピークの温度を一般的なPTFEの融点とする。
ここでの昇温速度については、ブロック体の表面と内部との温度差が大きくなりすぎることを避けるために、PTFE内部の熱伝導の速度および最大厚み部分の厚さ等を考慮して適宜定めることが好ましい。
(融着区間)
融着区間は、昇温区間において炉内の雰囲気温度を昇温目標温度まで上昇させた後の区間であり、ブロック体の焼結が全体に均一に完了するまで、昇温目標温度と同じ温度で維持する処理が行われる区間である。なお、この融着区間は、PTFE粉末の融着状態の均一性を向上させる観点から、1〜100時間維持することが好ましく、10〜50時間維持することがより好ましいが、昇温区間の終了時点においてPTFE粉末の融着状態の均一性が十分に確保されている場合には、融着区間を短縮してもよい。
このような炉の熱供給装置を備えたシステムとしては、例えば、図3に示すような炉内温度制御システム100が挙げられる。この炉内温度制御システム100は、PTFEのブロック体10を内部に収容する炉20と、炉20内の温度を調整するための熱供給装置30を備えている。熱供給装置30は、炉20に送る熱を生じさせる発熱部32と、発熱部32で生じた熱を炉20内に送るための送風部33と、炉20内の温度(具体的には、発熱部32によって加熱され送風部33によって送られる空気の温度)を把握するための炉内温度センサ31と、炉内温度センサ31で得られた情報に基づいて発熱部32や送風部33の出力を調節する制御部34と、を備えている。この熱供給装置30の制御部34による出力制御(例えば、発熱部32の出力を下げることで温度を下げる、および/または、送風部33の出力を下げることで供給熱量を下げて温度を下げる等)によって、ブロック体10の温度変化を調節する。発熱部32や送風部33の出力レベルは、連続的に調節可能に構成されていてもよいし、段階的に調節可能に構成されていてもよい。また、この送風部33によって生じる流速は、特に限定されるものではなく、焼成の効率の観点から、1〜10m/sであることが好ましく、2〜5m/sであることがより好ましい。なお、この炉内温度制御システム100は、ブロック体の温度を調節する装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。
ブロック体を加熱するための炉としては、被加熱物質を回転させながら加熱を行う回転加熱式の炉であってもよい。このような回転加熱式の炉を用いた焼成としては、例えば、図4に示すように、PTFEのブロック体10の軸方向が水平方向となるように保持しつつ回転させるためのローラ21aがブロック体10の内側に配置されており、ローラ21aを回転させてブロック体10の回転軸10cが軸心となるように回転させながら炉20内を昇温させることで焼成を行ってもよい。また、回転加熱式の炉を用いた焼成の別の例としては、例えば、図5に示すように、PTFEのブロック体10を内部に収容して回転させるための筒状体21dと、この筒状体21dを回転させるためのローラ21b、21cとが、炉20内に配置されており、このローラ21b、21cの回転により筒状体21dを回転させることでブロック体10を回転させながら、炉20内を昇温させて焼成を行ってもよい。なお、ブロック体10は、連続的に回転させてもよいし、断続的に回転させてもよい。回転速度は、通常1〜300回転/時であってよい。このように、炉に入れられたブロック体を回転させながら昇温させることで、得られる焼成体の均一性を向上させることができる。
昇温区間や融着区間での処理を終えたブロック体は、結晶化区間に移行する。この結晶化区間では、上述の炉や熱供給装置等を用いて、第1温度低下処理および第2温度低下処理が行われる。
(結晶化区間における第1温度低下処理)
昇温区間や融着区間での処理を終えたブロック体は、後述する第2温度低下処理を開始するよりも前の時点で、第1温度低下処理が施される。この第1温度低下処理は、第2温度低下処理よりも早い温度低下速度でブロック体の温度を低下させる処理である。例えば、炉の熱供給装置の出力を速いスピードで弱めながらブロック体の第1温度低下処理を行い、その後で、炉の熱供給装置の出力を穏やかなスピードで弱めながら第2温度低下処理を行うようにして温度低下制御を行うようにしてもよい。
第2温度低下処理よりも温度低下速度が早い第1温度低下処理は、ブロック体の表面温度が、融着区間が終わることで表面が昇温目標温度となっているもしくは表面が昇温目標温度から僅かに温度低下した状態、または、ブロック体の雰囲気温度が昇温目標温度となっているかもしくは僅かに温度低下した状態から開始されることが好ましい。また、この第1温度低下処理は、昇温目標温度よりも低い温度であって結晶化温度領域の上限温度よりも高い温度までブロック体の表面温度もしくはブロック体の雰囲気温度が低下する前に終えることが好ましい。この第1温度低下処理は、結晶化温度領域の上限温度以下の温度までブロック体の表面温度もしくはブロック体の雰囲気温度が低下した状態では行わないことが好ましい。
本発明において結晶化温度とは、第1温度低下処理を行う対象のブロック体を構成しているPTFEについて、図6のグラフに示すように、横軸に温度(℃)をとり、縦軸にエネルギ(mW)を取った場合の温度に対するエネルギ変化の様子を示すDSC曲線を作成した場合における、発熱ピークの頂点の温度(図6中の「Tc」で示す温度)であり、JIS−K7121に準じて測定して得られる温度とした。
また、結晶化温度領域は、図6のグラフにおいて、DSC曲線から特定される、下限温度(図6中の「Tl」で示す温度)以上であって、上限温度(図6中の「Th」で示す温度)以下の温度領域として定めた。結晶化温度領域の下限温度は、低温側のベースライン(BLL)からグラフが立ち上がりはじめた位置での接線(tX)と、結晶化ピークの低温側の勾配が最大となる点で引いた接線(tL)と、の交点の温度とした。結晶化温度領域の上限温度は、高温側のベースライン(BLH)からグラフが立ち上がりはじめた位置での接線(tY)と、結晶化ピークの高温側の負の勾配が最大となる点で引いた接線(tH)と、の交点の温度とした。
なお、上記DSC測定条件は、昇温速度:10℃/min、空気雰囲気下、サンプル量:3.000mg、基準物質は空気である。
なお、第1温度低下処理が実行されている間の温度低下速度は、一定であってもよいし、変動させてもよい。また、第1温度低下処理が実行されている間の温度低下速度を変動させる場合には、例えば、第2温度低下処理が行われている間の最も早い温度低下速度が、第1温度低下処理が行われている間の最も遅い温度低下速度よりも、遅く(穏やかに)なるように調整してもよい。また、例えば、第1温度低下処理が実行されている間の平均温度低下速度が、第2温度低下処理が実行されている間の温度低下速度よりも大きくなるように調整してもよい。
(結晶化区間における第2温度低下処理)
第1温度低下処理を終えたブロック体は、第1温度低下処理よりも穏やかな温度低下速度で徐々にブロック体の温度を低下させる第2温度低下処理が行われる。
第2温度低下処理の開始タイミングは、第1温度低下処理の後に実施する限りにおいて特に限定されず、例えば、第1温度低下処理終了直後に開始してもよいし、第1温度低下処理終了後に他の処理を行った後に開始してもよい。第2温度低下処理の開始タイミングは、ブロック体の表面温度もしくはブロック体の雰囲気温度がブロック体において結晶化が生じる結晶化温度領域の上限温度以上である時点であることが好ましい。
第2温度低下処理は、炉内の温度またはブロック体の表面温度もしくはブロック体の雰囲気温度が結晶化温度になるまで行うことが好ましい。ここで、第2温度低下処理が実行されている間の温度低下速度は、一定であってもよいし、変動させてもよい。第2温度低下処理が実行されている間の温度低下速度を変動させる場合には、第2温度低下処理が実行されている間の平均温度低下速度が、第1温度低下処理が実行されている間の温度低下速度よりも小さくなるように調整してもよい。
また、炉内の温度またはブロック体の表面温度もしくはブロック体の雰囲気温度が結晶化温度まで下がった後は、所定時間の間、炉内の温度またはブロック体の表面温度もしくはブロック体の雰囲気温度を結晶化温度で維持することが好ましい。このようにブロック体の表面温度もしくはブロック体の雰囲気温度を結晶化温度で所定時間の間維持することにより、ブロック体の表面だけでなく、ブロック体の内部についても結晶化温度に近い温度状態にさせることができ、得られるPTFE成形品の歪みを小さく抑えることができる。
(冷却区間)
第2温度低下処理を終えたブロック体は、常温下に放置する、もしくは、積極的に冷熱を供給する等によって、ブロック体を冷却する。ここでは、ブロック体が結晶化温度より低い温度になるため、ブロック体の内部の均一性に影響を与えにくいことから、第2温度低下処理における冷却速度よりも早い温度低下速度でブロック体の温度を低下させることが、時間短縮のために好ましい。あるいは、結晶化温度よりも低温である結晶化温度領域の下限温度(図6中の「Tl」で示す温度)を下回った後に温度低下速度を上げるようにしてもよい。これらの処理は、生産性や要求物性等の観点で適宜選択することができる。
(第1温度低下処理と第2温度低下処理との組み合わせ例)
図7に、熱供給装置による供給熱風によって熱量制御を行う場合における、第1温度低下処理と第2温度低下処理との組み合わせの例、および、温度低下速度が一定である場合の例を示した温度の時間変化を示す。なお、図7におけるグラフの縦軸の値は、PTFEのブロック体の雰囲気温度ではなく、炉内温度制御システムが制御を行う制御目標値としての温度を示している。
いずれの例においても、昇温区間や融着区間が終わった後の特定の温度(図7中において「Ts」で示す供給熱風温度)の状態から、結晶化温度(図7中において「Tc」で示す温度)まで温度を低下させる場合の例を示している。
図7中において実線で示す「X」は、第1温度低下処理と第2温度低下処理との区別を付けることなく供給熱風の温度を結晶化温度まで下げることを目標として、その間の温度低下速度を一定として供給熱風の温度を低下させた後、供給熱風の温度が結晶化温度で維持された状態を所定時間継続させた場合の例である。この「X」の例では、供給熱風の温度を結晶化温度領域の上限温度まで温度を低下させるのに要する時間が長くなっており、迅速な製造が困難となっている。
図7中において実線で示す「A」は、供給熱風の温度を結晶化温度領域の上限温度よりも高温にすることを目標として第1温度低下処理を行い、続いて、スタート(「Ts」の温度状態)から供給熱風温度を結晶化温度まで下げるのに要する時間が上記「X」の例と同様になるように時間を掛けて、徐々に供給熱風の温度を下げる第2温度低下処理を行う場合の例である。この「A」の例では、ブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度より高い温度状態においては温度低下が迅速に行われることで時間短縮効果が得られるとともに、ブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度よりも低い温度になった状態では、温度低下速度が穏やかに(グラフの負の勾配が小さく)なっているため、ブロック体における表面と内部との温度差を小さく抑えることが可能になっている。このようにブロック体の表面と内部との温度差を小さく抑えることができるような温度低下を、結晶化温度領域の全域にわたって行うことができているため、得られるブロック体の均一性を良好にすることができる。
図7中において粗い点線で示す「B」は、供給熱風の温度を結晶化温度領域の上限温度よりも高温にすることを目標として第1温度低下処理を行い、続いて、「X」の例と同程度の温度勾配で供給熱風の温度を結晶化温度まで下げることで第2温度低下処理を行った場合の例である。この「B」の例では、ブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度より高い温度状態においては温度低下が迅速に行われることで時間短縮効果が得られるとともに、ブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度よりも低い温度になった状態であっても、「X」の例と同様の温度低下速度になっているため、ブロック体における表面と内部との温度差も「X」の例と同程度にすることが可能になっている。この「B」の例では、結晶化温度と結晶化温度領域の上限温度との間の温度低下速度が、「X」と同様であるが、「X」よりも供給熱風の温度を結晶化温度まで下げるために要する時間を短くすることができている。このため、その後に、供給熱風の温度を結晶化温度として所定時間維持する処理をより長くすること、もしくは、より早い段階で冷却区間に移行することが可能になっている。
図7中において一点鎖線で示す「C」は、供給熱風の温度を結晶化温度領域の上限温度よりも高温であって、「A」の例と比べてさらに低い温度に下げることを目標として第1温度低下処理を行い、続いて、スタート(「Ts」の温度状態)から供給熱風温度を結晶化温度まで下げるのに要する時間が上記「X」の例と同様になるように時間を掛けて、徐々に供給熱風の温度を下げる第2温度低下処理を行う場合の例である。この「C」の例では、ブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度より高い温度状態においては温度低下がより迅速に行われることで時間短縮効果がより多く得られるとともに、ブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度よりも低い温度になった状態では、温度低下速度がより穏やかに(「A」や「B」の例よりもグラフの負の勾配がより小さく)なっているため、ブロック体における表面と内部との温度差をさらに小さく抑えることが可能になっている。このようにブロック体の表面と内部との温度差をさらに小さく抑えることができるような温度低下が、結晶化温度領域の上限温度以下の温度で行われているため、得られるブロック体の均一性をさらに良好にすることができる。
図7中において二点鎖線で示す「D」は、供給熱風の温度を結晶化温度領域の上限温度よりも高温の領域において、「A」、「B」、「C」の例よりは穏やかではあるが「X」の例よりも急な負の勾配となるように第1温度低下処理を行い、続いて、スタート(「Ts」の温度状態)から供給熱風温度を結晶化温度まで下げるのに要する時間が上記「X」の例と同様になるように時間を掛けて、徐々に供給熱風の温度を下げる第2温度低下処理を行う場合の例である。この「D」の例では、ブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度より高い温度状態においてはある程度迅速な冷却が行われることである程度の時間短縮効果が得られるとともに、ブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度よりも低い温度になった状態では、温度低下速度が「X」の例程の急な負の勾配とはならず、ブロック体における表面と内部との温度差を小さく抑えることが可能になっている。
図7中において細かい点線で示す「E」は、供給熱風の温度を結晶化温度領域の上限温度よりも高温の領域において、「X」の例よりも穏やかな負の勾配で少しの間温度を低下させ(第1温度低下処理や第2温度低下処理以外の他の処理を行い)、その後に、「X」の例よりも急な負の勾配で第1温度低下処理を行い、続いて、スタート(「Ts」の温度状態)から供給熱風温度を結晶化温度まで下げるのに要する時間が上記「X」の例と同様になるように時間を掛けて、徐々に供給熱風の温度を下げる第2温度低下処理を行う場合の例である。この「E」の例では、ブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度より高い温度状態においては、最初は穏やかな速度で温度が低下されるが、その後に急な速度で温度が低下されることである程度の時間短縮効果が得られるとともに、ブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度よりも低い温度になった状態では、温度低下速度が「X」の例程の急な負の勾配とはならず、ブロック体における表面と内部との温度差を小さく抑えることが可能になっている。
図8において、「X」の例と、「A」の例について、ブロック体の内部温度と表面温度との温度差の時間変化に関するグラフを示す。
なお、例えば、ブロック体の内部温度とは、図2に示すように、円柱形状のブロック体の外表面部分の半径長さ「ra」と内表面部分の半径長さ「rb」との差の半分(ra−rb)/2を内表面部分の半径長さ「rb」に加えて得られる長さ分だけ、ブロック体の軸から径方向に離れた位置、すなわち、厚み部分における径方向中間の位置の温度をいう。また、ブロック体の表面温度とは、円柱形状のブロック体の外表面部分または内表面部分の温度をいう。したがって、ブロック体の内部温度と表面温度との差は、これらの温度の差を意味する。
図8において、「X」の例では、時間が経過していくにつれてブロック体の表面温度と内部温度との温度差が大きくなり、ブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度以下になった時以降に、温度差が最大となってしまう。これに対して、「A」の例では、第1温度低下処理が行われている段階では「X」の例よりも温度差が大きくなっているが、これはブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度よりも高温の状態での温度差であるため、得られるブロック体の均一性には影響を与えにくく、第2温度低下処理が行われている段階では、遅くともブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度以下になった時以降は「X」の例よりも温度差を小さくすることが可能になる。
なお、「C」の例(図8においては図示を省略)では、第1温度低下処理が行われている段階では温度低下速度を大きくしているため温度差が「X」や「A」の例よりも大きくなっているが、「A」の例と同様に、得られるブロック体の均一性には影響を与えにくく、第2温度低下処理が行われている段階では、遅くともブロック体の表面温度が結晶化温度領域の上限温度以下になった時以降は「X」の例よりも温度差を小さくすることができ、第1温度低下処理における温度低下速度を大きくしているために第2温度低下処理における温度低下速度をより小さくすることができており、得られるブロック体の均一性をより向上させることができる。このようにして均一性を向上させることにより、ブロック体の内部の歪みを小さく抑えることができる。
なお、上述のようにして得られたブロック体は、軸方向と平行に延びる刃を外表面に押し当てて、回転させながら切削することにより、PTFEシートを得ることができる。このようにして内部歪みが小さく抑えられたブロック体からは、均質なPTFEシートを得ることができる。
以下に、実施例および参考例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
まず、実施例および参考例において共通する内容を説明する。
PTFE粉末は、「ポリフロン M―18」(登録商標、ダイキン工業株式会社製)を用いた。また、DSC測定によって、本PTFEの結晶化温度Tcと、結晶化温度領域の上限温度Thを特定した。
ブロック体は、金型中に上記PTFE粉末を均一に充填し、常温で、プレス装置によって200kg/cmで圧縮したものであって、内径が220mm、外径が630mm、高さが1090mmの形状を採用した。
図9に示すように、上記未焼成体としてのブロック体10を筒状体21dに入れ、炉20内に配置し、筒状体21dを約1rpmの回転速度で回転させながら、筒状体21d内のブロック体10に熱風を2m/sの流速で供給し続けることで、全体を均一に焼成させることとした。なお、本実施例では、両端に円形状の開口が設けられた筒状体21dを用いた。
参考例1の供給熱風温度(ブロック体の雰囲気温度)、ブロック体の表面温度、および、ブロック体の内部温度の時間変化の測定結果を図10に示す。図10において、点線は、供給熱風温度を示し、○印の付いた太い線はブロック体の内部温度を示し、○印の付いた細い線はブロック体の表面温度を示している。昇温区間では、供給熱風温度を段階的に融点以上で分解温度未満の温度まで昇温させ、その後、融着区間ではPTFE粉末同士の融着をより確実にするために、その温度を所定時間の間維持する。その後、結晶化区間に移行し、供給熱風温度を下げる処理を行った後、冷却区間に移行して、常温に冷却されたブロック体を得る。ここで、参考例1の結晶化区間では、最初に一定の温度低下速度で供給熱風の温度を結晶化温度まで下げる一定速温度低下処理が約40時間掛けて行われ、続いて、供給熱風の温度を結晶化温度で所定時間(約20時間)の間維持する結晶化温度維持処理が行われる。その後に、冷却区間において、常温まで急激に冷却させる処理が行われる。
図11に、参考例1および実施例1におけるブロック体の表面温度およびブロック体の内部温度の時間変化の測定結果をそれぞれ示す。また、図12に、参考例1、実施例1に対応するブロック体の内部温度と表面温度との温度差の時間変化を示す。
参考例1は、一定速温度低下処理には40時間掛けて、結晶化温度維持処理には20時間掛けた場合の例である(図11、12中の「40_20hr」で示す線に相当)。
実施例1では、参考例1で行われている一定速温度低下処理は行われず、その代わりに、第1温度低下処理と第2温度低下処理が行われている。実施例1は、供給熱風の温度を一瞬にして10℃だけ下げる第1温度低下処理を行った後、40時間掛けて結晶化温度まで温度低下させる第2温度低下処理を行い、続いて結晶化温度維持処理を20時間行った場合の例である(図11、12中の「0_40_20hr」で示す線に相当)。
結晶化温度領域では,ブロック体の表面温度と内部温度との温度差ができるだけ小さいほうが好ましい。そして、図12から分かるように、実施例1では、結晶化温度領域におけるブロック体の表面温度と内部温度との最大温度差を、参考例1の最大温度差よりも小さく抑えることができている。このため、実施例1のブロック体を切削加工して得られたPTFEシートは、参考例1のブロック体を切削加工して得られたPTFEシートよりも、内部歪みが小さく抑えられた均質なものとすることができた。
10 ブロック体
20 炉
100 炉内温度制御システム
国際公開98/041386号公報

Claims (4)

  1. ポリテトラフルオロエチレン粉末を圧縮成形して得られる円筒形状のブロック体を、融点を超える温度まで加熱した後に、第1温度低下処理を行い、
    前記第1温度低下処理の後に、前記第1温度低下処理よりも穏やかな温度低下速度で、前記ブロック体の結晶化が完了する温度である結晶化温度になるまで冷却する第2温度低下処理を行う、
    ポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法。
  2. 前記第1温度低下処理は、前記ブロック体の表面温度もしくは前記ブロック体の雰囲気温度が、前記ブロック体において結晶化が生じる結晶化温度領域よりも高温である状態でのみ行う、
    請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法。
  3. 前記ブロック体の表面温度もしくは前記ブロック体の雰囲気温度が前記結晶化温度になるまで冷却された後は、所定時間の間、前記ブロック体の表面温度もしくは前記ブロック体の雰囲気温度を前記結晶化温度で維持する、
    請求項2に記載のポリテトラフルオロエチレン成形品の製造方法。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法で得られた成形品を切削してポリテトラフルオロエチレンシートを製造する方法。
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