以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。ここで、本発明の実施形態について説明するにあたり、本発明の理解を容易にするために、本発明者が上述した課題を解決すべく行った鋭意検討について、その概要を説明する。
すなわち、本発明者は、焼鈍時に鋼板の表面に形成された珪素(Si)含有酸化物層を効率よく除去する方法について検討を行った。鋼板の表面から珪素(Si)含有酸化物層を効率良く除去することができれば、化成処理性に優れた高張力鋼板を得ることが可能となる。
そして、本発明者が種々実験および検討を行った結果、鋼板に強い力で押圧させても従来の研削ブラシのように曲折することなく高張力鋼板(高強度鋼板)のような硬質の鋼板に対しても重研削可能な研削手段として、弾性砥石に着目した。弾性砥石とは、固形弾性体に砥粒を埋め込んでロール状にしたものである。また、本発明者は、主に研削の対象となる高張力鋼板に対して重研削を行う際に好ましい弾性砥石について検討を行ったところ、不織布に砥粒を絡ませてポリビニルアルコールなどの結合剤によって成形した多孔質砥石を適用するのが好ましいことを知見するに至った。弾性砥石による研削においては、弾性砥石を強い力で鋼板に押し付けても砥粒入りブラシのように曲折することがないので、硬質の材料に対しても重研削が可能で、強固でかつ厚肉な珪素(Si)含有酸化物層を除去することができる。
以上の検討後、本発明者はさらに従来技術の問題点について検討を行った。具体的に、本発明者の知見によれば、弾性砥石による研削では、高張力鋼板のような硬質な材料に対しても重研削が可能であるものの、表面にスジ状の研削痕が残存する可能性がある。このスジ状の研削痕の状態が悪いと、鋼板をプレス加工する際にプレス金型と鋼板との焼き付きまたは型かじりが発生しやすくなる。また、スジ状の研削痕の状態が悪いと、曲げ加工を施した際に曲げの外周部で割れや亀裂が生じやすくなる。そのため、スジ状の研削痕の程度を軽くして状態を改善する必要がある。
そこで、本発明者らは改めて実験および検討を行い、少なくとも異なる研削手段によって2段階で断続的に研削を行う方法を想起した。すなわち、鋼板を、弾性砥石によって研削した後に砥粒入りブラシによって研削すれば、表面に形成されるスジ状の研削痕を著しく低減できることを見出した。
また、本発明者らは、弾性砥石および砥粒入りブラシによる鋼板の研削後に行う後処理の重要性に鑑みて、さらに実験および検討を行った。そして、本発明者らは、鋼板に対して、研削後に後処理として酸洗処理を行うと、研削によって剥離強度が低下した残存酸化物層をさらに効率良く除去できることを知見するに至った。また、残存酸化物層を酸洗処理で除去すると、鋼板表面において部分的にも酸化物層が残存せずに全面にわたって均一な研削表面が得られることが確認された。本発明は、以上の鋭意検討に基づいて案出されたものである。
(第1の実施形態)
次に、以上の鋭意検討により案出された、本発明の第1の実施形態による鋼板の表面調整装置を有する製造装置について説明する。図1は、この第1の実施形態による鋼板の製造装置の概略構成図を示す。
図1に示すように、この第1の実施形態による鋼板の製造装置は、タンデム圧延機によって冷間圧延された例えば高張力鋼板である鋼板1に対して、連続焼鈍、研削、および酸洗の各処理を順次実行可能に構成されている。すなわち、この鋼板の製造装置においては、焼鈍手段としての連続焼鈍設備2と、弾性砥石を有する第1の研削手段としての上面用弾性砥石装置4および下面用弾性砥石装置5と、砥粒入りブラシを有する第2の研削手段としての砥粒入りブラシ装置6と、酸洗手段としての酸洗設備7と、調質圧延機8と、コイラー9とを備える。そして、上面用弾性砥石装置4、下面用弾性砥石装置5、砥粒入りブラシ装置6、および酸洗設備7によって鋼板の表面調整装置が構成されている。
鋼板の表面調整装置を構成する、上面用弾性砥石装置4、下面用弾性砥石装置5、砥粒入りブラシ装置6、および酸洗設備7は、連続焼鈍設備2の出側である鋼板1の搬送方向に沿った下流側に順次配置されている。調質圧延機8およびコイラー9は、酸洗設備7よりさらに下流側に配置され、鋼板1は、調質圧延機8を通過した後に最終的にコイラー9に巻き取られる。
以上のように構成された鋼板の製造装置における上面用弾性砥石装置4、および下面用弾性砥石装置5はそれぞれ、一対のロールから構成されている。これらの弾性砥石装置4,5において、上面用弾性砥石装置4の上ロールおよび下面用弾性砥石装置5の下ロールの大径ロールが弾性砥石である。一方、例えば、上面用弾性砥石装置4の下ロールや下面用弾性砥石装置5の上ロールなどの小径ロールは、鋼板1を支持するバックアップロールである。これによって、上面用弾性砥石装置4は、大径ロールが鋼板1の上面を研削可能に構成されているとともに、下面用弾性砥石装置5は、大径ロールが鋼板1の下面を研削可能に構成されている。すなわち、これらの弾性砥石装置4,5によって、鋼板1の上面および下面の両面を研削することができる。
ここで、この第1の実施形態において、上面用弾性砥石装置4および下面用弾性砥石装置5における弾性砥石の砥粒、すなわち弾性砥石装置4,5の大径ロールの砥粒としては、JIS−R6001規格(1998年)により規定される粒度が砥粒番号で#100番乃至#800番のものを採用するのが望ましい。砥粒番号で#100より粗い、いわゆる番手が#100より小さい砥粒では、砥粒の剥離が多くなって弾性砥石の消耗が大きくなる可能性がある。一方、砥粒番号で#800番より細かい、いわゆる番手が#800より大きい砥粒では、研削量が小さくなって必要な研削量を確保するために大径ロールの回転数を増加させるなど、研削動力負荷を大きくする必要が生じる場合がある。
また、弾性砥石の硬度、すなわち弾性砥石装置4,5の大径ロールの硬度としては、JIS−K6253規格(2006年)により規定される硬度が60乃至95(60以上95以下)であるものを採用するのが望ましい。なお、この弾性砥石の硬度は、デュロメータと称される硬さ計、この第1の実施形態では中硬さの測定に用いられるデュロメータのタイプAの規定を用いて測定する。ここで、弾性砥石の硬度が60未満の柔らかい弾性砥石を採用すると、研削減量によって評価される研削能力が低下する可能性がある。一方、弾性砥石の硬度が95よりも大きい硬い弾性砥石を採用すると、チャタリングと称される振動が発生しやすくなり、安定な研削状態を維持できない場合がある。これにより、弾性砥石のJIS−K6253規格により規定される硬度は60乃至95にするのが好ましい。なお、採用する弾性砥石における、砥粒番号および硬度に関する好適範囲の詳細については後述する。
また、この上面用弾性砥石装置4および下面用弾性砥石装置5の下流側に設けられる砥粒入りブラシ装置6における砥粒入りブラシの砥粒、すなわちロールの砥粒としては、JIS−R6001規格(1998年)により規定される粒度が、砥粒番号で#200番乃至#1200番のものを採用するのが望ましい。砥粒番号で#200より粗い、いわゆる番手が#200より小さい砥粒では、鋼板1にスジ状の研削痕を生じさせてしまう場合がある。一方、砥粒番号で#1200番より細かい、いわゆる番手が#1200より大きい砥粒では、十分にスジ状の研削痕を低減できない場合がある。
次に、以上のように構成された第1の実施形態による鋼板の表面調整装置を用いた鋼板の表面調整方法について説明する。図2は、この第1の実施形態による鋼板の表面調整方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、この第1の実施形態においては、まず、連続焼鈍設備2において鋼板1に対する連続焼鈍を行う(ステップST1)。ここで、この第1の実施形態においては、鋼板1として、Siを0.5質量%以上含有する高Si含有高張力鋼板を採用する。鋼板1に含有されるSi量が0.5質量%未満の場合、焼鈍時に鋼板1の表層に濃化するSi量はわずかであり、特別な前処理を要することなく充分な化成処理性を確保できる。そこで、この第1の実施形態においては、鋼板1として、従来技術では充分な化成処理性を確保するのが困難な高張力鋼板を採用する。一方、Si量の上限については特に限定されないが、鋼板1に含有されるSi量が3質量%を超えると鋼板1の加工性が劣化する傾向があることを考慮すると、好適には3質量%以下である。なお、鋼板1には、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、および、sol.Alからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素が適量添加されていてもよい。ステップST1における連続焼鈍によって、鋼板1の表面には、濃化して生成された表層酸化物として珪素(Si)含有酸化物層が形成される。
続いて、表層酸化物を除去するための重研削を行う第1の研削ステップとして、ステップST2に移行する。ステップST2においては、連続焼鈍時に形成された鋼板1の両表面に形成された珪素(Si)含有酸化物層を、弾性砥石を備えた上面用弾性砥石装置4および下面用弾性砥石装置5からなる弾性砥石装置によって研削する。これにより、主に鋼板1の研削減量を確保する重研削が行われる。ここで、上面用弾性砥石装置4および下面用弾性砥石装置5における弾性砥石である大径ロールの回転数は、鋼板1や大径ロールにおける種々の条件によって決定され、具体的には600〜1500rpmが好ましい。
その後、研削された鋼板1の表面のスジ状の研削痕を除去するための第2の研削ステップとして、ステップST3に移行する。ステップST3においては、鋼板1を、砥粒入りブラシを備えた砥粒入りブラシ装置6に搬送して、鋼板1の両表面を研削する。これにより、主に鋼板1の表面粗さを調整するための研削が行われる。ここで、砥粒入りブラシ装置6における砥粒入りブラシであるロールの回転数も、鋼板1やロールにおける種々の条件によって決定され、具体的には600〜1500rpmが好ましい。
このように弾性砥石および砥粒入りブラシによって鋼板1の両表面がともに研削された後、ステップST4に移行して、鋼板1は酸洗設備7に搬送され酸洗処理が行われる。この酸洗処理後、ステップST5に移行して、鋼板1は調質圧延機8に搬送されて調質圧延が行われる。そして、鋼板1は、最終的にステップST6においてコイラー9により巻き取られる。
以上のようにして、上面用弾性砥石装置4、下面用弾性砥石装置5、および砥粒入りブラシ装置6によって鋼板1に対する機械的研削が行われると、鋼板1の質量は減少する。このとき、鋼板1の質量の減少量が鉄(Fe)換算で4.0g/m2未満の場合、鋼板1の珪素(Si)含有酸化物層は全面にわたって均一に除去されず、化成結晶が欠損した表面状態になる可能性がある。そこで、上面用弾性砥石装置4、下面用弾性砥石装置5、および砥粒入りブラシ装置6は、鋼板1の質量の減少量がFe換算で4.0g/m2以上になるように制御される。一方、鋼板1の質量の減少量の上限は特に規定されないが、鋼板1の質量の減少量がFe換算で15.0g/m2を超えると、材料歩留まりが悪化するのみならず作業能率も悪くなる傾向がある。したがって、上面用弾性砥石装置4、下面用弾性砥石装置5、および砥粒入りブラシ装置6を、鋼板1の質量の減少量がFe換算で15.0g/m2以下になるように制御するのが好ましい。
ここで、鋼板1の質量の減少量は、以下のように求められる。すなわち、まず、同一鋼種かつ同一製造条件の鋼板1を2体準備する。そして、一方の鋼板1に対しては、研削、酸洗、および調質圧延を行う。他方の鋼板1に対しては、研削も酸洗も行うことなく調質圧延のみを行う。その後、前者の鋼板1、すなわち研削、酸洗、および調質圧延を行った一方の鋼板1から所定面積分を切り出して質量を測定する。また、後者の鋼板1、すなわち研削も酸洗も行っていない他方の鋼板1から所定面積分を切り出して質量を測定する。そして、前者の鋼板1の質量を所定面積で除することで前者の鋼板1の単位面積当たりの質量を算出するとともに、後者の鋼板1の質量を所定面積で除することで後者の鋼板1の単位面積当たりの質量を算出する。これらの算出後、前者の鋼板1の単位面積当たりの質量から、後者の鋼板1の単位面積当たりの質量を減算して差分を算出すると、鋼板1の単位面積当たりの研削および酸洗処理による質量の減少量が求められる。
図5は、Siを1.5質量%含有する高張力鋼板(引張強度980MPa)を弾性砥石装置4,5によって研削した場合の研削減量を示す。ここで、弾性砥石装置4,5における弾性砥石の硬度は80とし、回転数を1200rpmとした。図5から、弾性砥石の砥粒番号が#800以下であれば、いずれも研削減量は4.0g/m2以上であることが分かる。この場合、鋼板1の表面のSi含有酸化物層を全面にわたって均一に除去可能である。また、砥粒番号#1000の弾性砥石の場合、研削減量は4.0g/m2弱と小さいが、本発明者は、弾性砥石の回転数を1200rpmから1500rpmに増加させることによって、研削減量を5.0g/m2以上に増加できることを確認した。
図6は、この高張力鋼板(引張強度980MPa)に対して、砥粒番号を#100、#320、#800とし、その硬度を10から100までの範囲で製造した弾性砥石を用いて研削したときの研削減量を示すグラフである。図6から、研削砥石の硬度が60よりも小さくなると研削減量が低下し、安定した研削が困難になる可能性があることが分かる。また、本発明者が確認したところ、弾性砥石の硬度が95よりも大きい場合、すなわち硬い弾性砥石では、チャタリングと称されるような振動が発生しやすくなり、安定な研削状態が阻害される可能性があることが分かった。
また、図7は、研削が行われた鋼板1の通板方向である弾性砥石の回転方向に沿って生じる研削痕を示す模式図である。図7に示すように、上述した弾性砥石装置4,5の弾性砥石による機械的研削では、通板方向に沿って、スジ状の研削痕が生じやすい。このようなスジ状の研削痕を評価する指標として、スジ状の研削痕と交差する方向に沿って粗さを測定した場合のJIS−B0601(2001年)により規定された最大粗さRzを用いる。最大粗さRzが10μm以上になると、プレス加工時でのプレス金型と鋼板での焼き付き、すなわち型かじりが生じやすくなる。そこで、上述した第1の実施形態においては、弾性砥石装置4,5に対して鋼板1の搬送方向に沿った下流側に砥粒入りブラシ装置6を設け、弾性砥石装置4,5による研削に続いて砥粒入りブラシ装置6での研削を行った。砥粒入りブラシ装置6としては、砥粒番号で#220の砥粒をナイロンブラシに埋め込んだ砥粒入りブラシを採用し、ロールの回転数を1000rpmとした。
図8は、弾性砥石装置4,5による研削を行った場合、および弾性砥石装置4,5による研削後にさらに砥粒入りブラシ装置6による研削を行った場合における、鋼板1の表面の最大粗さRzを示すグラフである。図8から、弾性砥石の砥粒番号が#800以下の弾性砥石装置4,5を用いた場合、研削後の鋼板1の表面粗さRzが、いずれも10.0μmRz以上の大きな値になっていることが分かる。また、弾性砥石の砥粒番号が#1000の弾性砥石装置4,5を用いた場合、研削後の鋼板1の表面粗さRzが、10.0μmRzをやや下回る程度であることが分かる。なお、弾性砥石の砥粒番号が#1000の弾性砥石装置4,5を用いた場合には、図5に示すように、研削減量が小さく、研削減量を確保するためには弾性砥石の回転数を1500rpmと大きくする必要がある。
また、図8から、弾性砥石装置4,5による研削後にさらに砥粒入りブラシ装置6による研削を行った後の鋼板1による研削を行った場合の鋼板1の表面の最大粗さRzは、いずれも5μmRz程度で10.0μmRzより小さいことが分かる。これは、弾性砥石装置4,5による研削で生じたスジ状の研削痕が、砥粒入りブラシ装置6による研削で平滑化されたためであると考えられる。すなわち、鋼板1に対して、弾性砥石装置4,5による研削に続いて砥粒入りブラシ装置6による研削を行うことによって、その表面のスジ状の研削痕を低減して平滑化できる。これにより、鋼板1として、プレス加工時においてプレス金型と鋼板1との焼き付き(型かじり)が生じない高張力鋼板を得ることができる。
以上説明したこの第1の実施形態によれば、珪素(Si)含有量の高い高張力鋼板などの鋼板1であっても、連続焼鈍などによって生じる表層酸化物を効率的かつ適切に除去することができるので、鋼板1の全表面にわたって良好な化成被膜を形成させることが可能となる。また、プレス加工での型かじりや曲げ加工での割れ発生を招来しない平滑な表面性状を維持して、鋼板1において良好な化成処理性と成形性とを確保することができるので、高張力鋼板などの鋼板1の表面粗さに起因するプレス時のプレス金型や鋼板の焼き付き、すなわちプレス型かじりや曲げ加工での割れが生じにくい鋼板1を製造することが可能になる。
(第2の実施形態)
さて、連続焼鈍後の鋼板1の表面には、酸化鉄(FeO、Fe2O3)などからなる酸化膜が全体にわたって形成されている。そのため、焼鈍後の鋼板1の表面を弾性砥石装置4,5の弾性砥石によって研削すると、酸化膜の研削粉が弾性砥石の表面に付着して、弾性砥石の研削能力が徐々に低下する場合がある。そこで、本発明者らは、このような場合を考慮して、弾性砥石による研削の前に砥粒入りブラシによって軽研削を実行して、比較的除去が容易なFeOやFe2O3などからなる酸化膜を除去する方法を想起した。すなわち、本発明者らは、弾性砥石の研削能力の低下を抑制する観点から、鋼板1の表面に対して弾性砥石による研削前に砥粒入りブラシによる軽研削を施して、FeOやFe2O3などの酸化膜を除去することが好ましいことを想起するに至った。本発明の第2の実施形態は、以上の鋭意検討に基づいて案出されたものである。
以上の鋭意検討により案出された、本発明の第2の実施形態による鋼板の表面調整装置を有する製造装置について説明する。図3は、この第2の実施形態による鋼板の製造装置の概略構成図を示す。また、図4は、この第2の実施形態による鋼板の表面調整方法を示すフローチャートである。
図3に示すように、この第2の実施形態による鋼板の製造装置においては、第1の実施形態と異なり、鋼板1の搬送方向に沿って、連続焼鈍設備2の下流側で上面用弾性砥石装置4の上流側に、第3の研削手段としての砥粒入りブラシ装置3が備えられている。この砥粒入りブラシ装置3における砥粒入りブラシ、すなわちロールの砥粒としては、JIS−R6001規格により規定された粒度が、砥粒番号で#100番乃至#800番のものを採用するのが望ましい。また、砥粒入りブラシ装置3のロールの回転数としては、600〜1500rpmが望ましい。なお、鋼板1の表面において、砥粒入りブラシ装置3によって除去された研削粉は冷却水によって流され、砥粒入りブラシ装置3のロールの表面や鋼板1の表面から除去される。そして、砥粒入りブラシ装置3、上面用弾性砥石装置4、下面用弾性砥石装置5、砥粒入りブラシを有する砥粒入りブラシ装置6、および酸洗設備7により鋼板の表面調整装置が構成されている。その他の構成は、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
また、図4に示すように、第2の実施形態による鋼板の表面調整方法においては、まずステップST11において高張力鋼板である鋼板1に対して連続焼鈍を行った後、ステップST12に移行して、砥粒入りブラシ装置3による鋼板1の表面の研削が行われる。これにより、鋼板1の表面の酸化鉄などからなる酸化膜が除去される。そして、この表面の酸化膜が除去された鋼板1に対して、ステップST13〜ST17のそれぞれの処理が順次行われる。これらのステップST13〜ST17についてはそれぞれ、図2に示す第1の実施形態によるステップST2〜ST6と同様であるので、説明を省略する。
図9は、鋼板1の研削減量について、第1の実施形態による鋼板の表面調整装置を用いた場合と第2の実施形態による鋼板の表面調整装置を用いた場合とで、表面を研削した長さである使用距離に応じて計測した結果を示すグラフである。ここで、弾性砥石装置4,5における弾性砥石は、その砥粒番号が#320、硬度が80である。図9から、第1の実施形態による鋼板の表面調整装置を用いた場合、使用距離が増加するに従って研削減量が低下していることが分かる。これに対し、弾性砥石装置4,5の上流側に砥粒入りブラシ装置3を設けた第2の実施形態による鋼板の表面調整装置によれば、使用距離が増加しても研削減量がほとんど変化せず、連続的に安定して鋼板1の表面を研削可能であることが分かる。
以上説明した第2の実施形態によれば、鋼板の表面調整装置が、弾性砥石装置4,5および砥粒入りブラシ装置6を備えていることにより第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、上面用弾性砥石装置4の上流側に砥粒入りブラシ装置3を設けていることにより、鋼板1の表面を連続的に安定して研削することができる。
(実施例および比較例)
次に、以上説明した第1の実施形態および第2の実施形態に基づいた実施例、および実施例と比較するための比較例について説明する。
まず、図1および図3に示す鋼板の製造装置によって処理する鋼板1として、Si濃度が0.5〜1.5質量%、板厚が1.2mm、および板幅が950mmの高張力鋼板を採用する。そして、鋼板の製造装置の連続焼鈍設備2において鋼板1を90mpmのラインスピードで連続焼鈍する。その後、鋼板1に対して、弾性砥石装置4,5および砥粒入りブラシ装置6による研削と酸洗処理とを組み合わせてSi含有酸化物層を除去した後、調質圧延を行った。なお、酸洗条件としては、60℃の温度で濃度が10体積%の硫酸を用い、酸洗時間はラインスピードから換算して10秒間であった。
ここで、弾性砥石装置4,5より鋼板1の搬送方向上流側に設けられた砥粒入りブラシ装置3に関しては、砥粒番号が#100の砥粒をナイロンブラシに埋め込んだブラシを用い、回転数を1000rpmとした。また、弾性砥石装置4,5による研削においては、JIS−R6001規格による砥粒番号で#100〜#1200、JIS−K6253規格による硬度が50〜90の弾性砥石を用いた。これらの弾性砥石装置4,5の大径ロールからなる弾性砥石において、その回転方向を鋼板1の搬送方向とは逆の回転向きであるアップカットとし、回転数を1200〜2000rpmとした。また、弾性砥石装置4,5より鋼板1の搬送方向に沿って下流側に設けられた砥粒入りブラシ装置6に関しては、粒度が砥粒番号で#220〜#400である砥粒をナイロンブラシに埋め込んだブラシを用い、回転数を1200rpmとした。
また、鋼板1の化成処理性については、調質圧延機8による調質圧延を行った後の鋼板1について、コイルからサンプルを採取して以下の方法により評価した。すなわち、化成処理においては、脱脂、水洗、および表面調整工程を経た後、市販の化成処理薬剤(日本パーカライジング株式会社製パルボンド:PB−L3020)を用いて化成処理を行う。そして、鋼板1の化成処理を行った後、その表面を、走査型電子顕微鏡によって500倍の倍率で5視野の領域にわたって観察する。この観察によって、面積率が95%以上の均一な化成結晶が5視野の全てにおいて生成しているものを「〇」(良好)、面積率が5%を超えた隙間が1視野だけ認められた場合を「△」(やや良好)、面積率が5%を超えた隙間が2視野以上認められた場合を「×」(不良)と評価した。
また、鋼板1の質量の減少量は、上述した方法によって求められる。すなわち、同一鋼種、同一製造条件の鋼板1を2つ準備し、前者の鋼板1に対しては研削、酸洗、調質圧延を行い、後者の鋼板1に対しては調質圧延のみを行う。そして、これらの前者および後者の鋼板1に基づいて、研削および酸洗による鋼板1の単位面積当たりの質量の減少量を算出する。
また、鋼板1の表面の最大粗さRzも、上述した方法によって求めた。すなわち、JIS−B0601(2001年)に準拠した方法に基づき、鋼板1の長手方向で生じるスジ状の研削痕の方向に対して交差する方向に沿って、接触式の粗さ計を用いて測定した。そして、成形性に関して、最大粗さRzが10μm未満であれば「〇」(良好)、10μm以上であれば型かじりまたは曲げ加工での割れの可能性があるとして「×」(不良)と判断した。さらに、使用距離が3000kmとなった後にも同様の評価を行い、化成処理性および成形性とも当初の性能を維持している場合に良好と評価した。
以上の条件および評価方法に基づいて、第2の実施形態に基づく実施例1〜5、第1の実施形態に基づく実施例6〜10、および比較例1,2をそれぞれ行った。表1に、これらの実施例1〜10および比較例1,2における、研削する鋼板1のSi濃度、第1の砥粒入りブラシとしての砥粒入りブラシ装置3の有無、弾性砥石装置4,5の研削条件、第2の砥粒入りブラシとしての砥粒入りブラシ装置6の研削条件、研削減量、最大表面粗さRz、および化成処理性と成形性との評価結果の一覧を示す。
表1に示すように、実施例1〜10においては、弾性砥石装置4,5による研削および砥粒入りブラシ装置6による研削を行っている。そして、実施例1〜10においてはいずれも、研削減量が4.0g/m2以上であって化成処理性は「○」(良好)であった。また、実施例1〜10においてはいずれも、最大表面粗さRzが10μm未満であり、成形性も「○」(良好)であった。
また、弾性砥石装置4,5による研削前に砥粒入りブラシ装置3による研削を行った実施例1〜5は、鋼板1を3000km研削した後であっても、化成処理性および成形性において、良好な性能が維持されることが確認された。一方、比較例1,2においては、化成処理性と成形性とのうちのいずれかの性能が低下していることが分かる。
これにより、実施例1〜10においては、いずれの鋼板1においても、連続的に安定して良好な化成被膜が得られ、かつプレス加工での型かじりや曲げ加工での割れ発生を招来しない平滑な表面性状が得られ、化成処理性および成形性に優れた高張力鋼板を得られることが確認された。
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた、回転数、ラインスピード、および酸洗条件などの数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。