以下、添付図面を参照しながら本発明による細胞観察装置、電気刺激装置、及び細胞観察方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面は説明用のために作成されたものであり、説明の対象部位を特に強調するように描かれている。そのため、図面における各部材の寸法比率は、必ずしも実際のものとは一致しない。
図1は、本発明による細胞観察装置1の一実施形態を模式的に示す構成図である。また、図2は、マイクロプレート20の構成の一例を示す斜視図である。また、図3は、図2に示したマイクロプレート20の断面構造を示す側面断面図である。本実施形態による細胞観察装置1は、試料ケースとしてマイクロプレート20を用い、マイクロプレート20によって保持された状態で測定位置Pに配置された試料Sからの蛍光を測定するための装置である。
また、試料Sは所定の細胞を含む。所定の細胞には、例えば神経細胞がある。また、本実施形態における細胞観察装置、電気刺激装置、及び細胞観察方法は、蛍光測定以外にも、例えば燐光や発光など、試料から放出された光を測定する光測定に一般に適用可能である。以下、細胞観察装置1の構成について説明する。
図1に示す細胞観察装置1は、データ取得装置10、位置制御コントローラ(位置制御部)30、撮像制御コントローラ32、及びデータ解析装置50を備えて構成されている。データ取得装置10は、蛍光観察の対象となる細胞を保持したマイクロプレート20が内部に収容される暗箱15と、暗箱15の内部に設置されて測定位置Pに配置された試料Sからの蛍光の測定に用いられる動画像取得部40とを有している。
本実施形態において試料ケースとして用いられているマイクロプレート20は、図2及び図3に示すように、複数のウェル(保持部)21が二次元アレイ状に配列された板状部材であり、その複数のウェル21のそれぞれにおいて、試料Sを保持可能な構成となっている。図2に示した構成例では、複数のウェル21として、8×12=96個の円形状のウェル21が二次元アレイ状に配置されている。ウェル21の断面形状としては、円形状、楕円形状、矩形状等が挙げられる。また、このマイクロプレート20の底面22は、試料Sに照射される蛍光測定用の励起光、及び試料Sから放出される蛍光を透過可能な材質によって形成されている。なお、一般に細胞観察装置1においては、マイクロプレート20の底面22は、測定対象となる試料Sから放出された光を透過可能な材質によって形成されていれば良い。
暗箱15内においては、マイクロプレート20は、蛍光観察用の開口を有するマイクロプレートホルダ(載置部)11に載置されている。また、これらのマイクロプレート20及びマイクロプレートホルダ11を、暗箱15内で所定の方向(図1中においては、右側から左側へと向かう方向)に搬送するマイクロプレート搬送機構12が、暗箱15内に設置されている。
搬送機構12でのマイクロプレート20の搬送方向に対して搬入側となる暗箱15の一方側には、試料Sが保持された測定前のマイクロプレート20を所定枚数(例えば、25枚)ストックしておくための搬入側マイクロプレートストッカー13が設置されている。また、マイクロプレート20の搬送方向に対して搬出側となる暗箱15の他方側には、測定後のマイクロプレート20をストックしておくための搬出側マイクロプレートストッカー14が設置されている。
このような構成において、搬入側マイクロプレートストッカー13から暗箱15内へと搬入されたマイクロプレート20は、マイクロプレートホルダ11によって保持されるとともに搬送機構12によって搬送される。そして、マイクロプレート20は測定位置Pで一旦停止させられ、この状態で、マイクロプレート20によって保持された試料Sに対して必要な光測定が行われる。測定完了後、マイクロプレート20は再び搬送機構12によって搬送され、搬出側マイクロプレートストッカー14へと搬出される。なお、図1においては、搬送機構12、及びストッカー13、14については、マイクロプレート20を搬入、搬送、搬出するための具体的な構成の図示を省略している。
蛍光測定の実行時にマイクロプレート20及び試料Sが配置される測定位置Pの上方には、マイクロプレート20のウェル21内に挿入されて試料Sに電界を発生させるための電気刺激部(電気刺激装置)16が設置されている。また、測定位置Pの下方には、ウェル21内に収容された試料Sからマイクロプレート20の底面22を介して放出される蛍光の検出に用いられる動画像取得部(光検出部)40が設置されている。
動画像取得部40は、マイクロプレート20のウェル21内に保持された試料Sから放出された光を含むマイクロプレート20の二次元の光強度分布を表す二次元光像を検出して、二次元光像の動画像データを取得する動画像取得手段である。検出される二次元光像としては、少なくとも1つのウェル21内に保持された試料Sから放出された光を含む光強度分布であればよい。この動画像取得部40は、撮像装置45と、導光光学系41と、光学フィルタ部42と、励起光源43とによって構成されている。撮像装置45は、複数の画素が二次元に配列された二次元画素構造を有し、試料Sから放出される蛍光による二次元の光検出画像である蛍光画像を検出する。この撮像装置45としては、例えば高感度のCCDカメラやCMOSイメージカメラを用いることができる。また、必要があれば、カメラの前段にイメージ増倍管、リレーレンズ等を配置して動画像取得部40を構成しても良い。なお、動画像取得部40は、静止画を取得してもよく、動画及び/又は静止画を取得する画像取得部としての機能を有する。
また、マイクロプレート20が配置される測定位置Pと、撮像装置45との間には、導光光学系41が設置されている。導光光学系41は、複数のウェル21のそれぞれに試料Sが保持されたマイクロプレート20を底面22側からみた二次元光像を撮像装置45へと導く光学系である。導光光学系41の具体的な構成については、マイクロプレート20及び撮像装置45の構成等に応じ、必要な機能(例えば集光機能、光像縮小機能等)を実現可能な光学素子によって適宜構成すれば良い。そのような光学素子としては、例えばテーパファイバがある(特開2001−188044号公報参照)。また、導光光学系41としては、凹凸を有する導光部材を有する光照射装置を用いる構成でもよい(特開2010−230397号公報および特開2010−230396号公報参照)。
また、図1においては、さらに、導光光学系41と撮像装置45との間に、必要に応じて蛍光の導光光路上への光学フィルタの配置、切換等を行うことが可能な光学フィルタ部42が設置されている。ただし、このような光学フィルタ部42については、不要であれば設けなくても良い。
励起光源43は、試料Sに対して蛍光測定用の励起光を供給するための励起光供給手段である。励起光源43の具体的な構成としては、蛍光測定の対象となる試料Sの種類、試料Sに照射する励起光の波長等に応じて適宜構成すれば良いが、例えば、光を供給する照明光源と、励起光の波長の選択、切換を行うための光学フィルタ部とによって構成することができる。また、試料Sに対して行われる光測定の種類により、励起光の供給が不要な場合には、励起光源43を設けない構成としても良い。
本実施形態においては、導光光学系41は、マイクロプレート20及び試料Sからの二次元光像を撮像装置45へと導くとともに、励起光源43からの励起光を試料Sへと導くことが可能な光学系として構成される。このような光学系は、例えば、マイクロプレート20からの蛍光を通過させるとともに、励起光源43からの励起光を反射させるダイクロイックミラー等を用いて構成することができる。なお、図1においては、導光光学系41における蛍光及び励起光の光路を、それぞれ実線及び破線によって模式的に示している。
次に、電気刺激部16の構成について詳細に説明する。図4は、電気刺激部16がマイクロプレート20に挿入された状態での電気刺激部16の一部破断断面図である。電気刺激部16は、マイクロプレート20に向けて垂直に伸びる複数の電極対17が2次元的に配列されるようにベース部18に固定された構造を有している。詳細には、電極対17は、マイクロプレート20のウェル21に対向して伸びるように、マイクロプレート20の複数のウェル21の二次元アレイ状の配列に対応して二次元状に配列されている。それぞれの電極対17は、先端が開口されて陽極17bを囲むような円筒状の形状を有する陰極17aと、陰極17aの中心軸上に配置されるように陰極17a内部に挿入された棒状(例えば、円柱状の形状)の陽極17bとによって構成され、陰極17aの外径がウェル21の内径よりも小さくされている。なお、陰極17aの円筒状の形状としては、断面が円形状であってもよいし、楕円形状であってもよい。また、電極対17は、陰極17aのウェル21側の開口の先端が陽極17bのウェル21側の先端よりも所定の長さ(例えば、1μm以上1.0mm以下の長さ)だけ伸びたような構造、すなわち、陽極17bの先端のベース部18からの距離が、陰極17aの先端のベース部18からの距離よりも所定の長さ(例えば、1μm以上1.0mm以下の長さ)だけ小さくされた形状を有する。これにより、円筒状の形状の陰極17a内に棒状の陽極17bが収まる。また、陰極17aの先端から陽極17bが突出せず、陰極17aの先端と陽極17bの先端が同じ高さとならない構成となっている。ここで、電極対17は、陰極17aと陽極17bとがそれぞれ一部材によって構成されるものには限定されず、どちらか或いは両方が複数部材によって構成されていてもよい。
また、電気刺激部16には、電極対17をベース部18を介して支持する移動機構19が設けられている。移動機構19は、電極対17をマイクロプレート20に対して接近或いは後退させるように(図1のZ方向)移動させると共に、電極対17をマイクロプレート20の底面22に沿った方向(図1のX軸Y軸を含む平面に沿った方向)に移動させる駆動機構であり、試料Sの観察時にそれぞれの電極対17を対向するウェル21内に配置させるように駆動すると共に、試料Sの観察終了時に電極対17をウェル21内から離脱させるように駆動する。
このような構成のデータ取得装置10に対し位置制御コントローラ(位置制御部)30、撮像制御コントローラ32が接続されている。位置制御コントローラ30は、移動機構19に電気的に接続され、試料Sの光測定開始時に、電極対17をマイクロプレート20のウェル21内に配置させるように移動機構19を制御する。また、位置制御コントローラ30は、電極対17にも電気的に接続され、電極対17の陰極17aと陽極17bとの間に電位差が生じるように、陰極17aと陽極17bにそれぞれ電圧を印加する。撮像制御コントローラ32は、励起光源43による励起光の照射、及び撮像装置45によるマイクロプレート20における二次元の蛍光画像の撮像を制御する。
さらに、位置制御コントローラ30及び撮像制御コントローラ32に対し、データ解析装置50が接続されている。このデータ解析装置50は、動画像取得部40によって取得された光検出画像を含む動画像データを撮像制御コントローラ32を経由して取得し、動画像データを対象にして解析処理を行う解析処理手段である。また、データ解析装置50は、位置制御コントローラ30及び撮像制御コントローラ32を介して、データ取得装置10の各部の動作を制御することによって、細胞観察装置1における試料Sに対する蛍光測定を制御する(詳細は後述する)。また、図1においては、データ解析装置50には、測定結果等を表示する表示装置61と、データの入力や蛍光測定に必要な指示の入力等に用いられる入力装置62とが接続されている。
以下、図5及び図6を参照しながら、細胞観察装置1による試料Sの光測定時の動作を説明すると共に、本実施形態にかかる細胞観察方法について詳述する。図5は、細胞観察装置1の試料Sの光測定時の動作を示すフローチャート、図6は、光測定の前に実行される位置設定用データテーブルの設定手順を示すフローチャートである。
まず、細胞の光測定の開始入力が入力装置62を介して入力されると、データ解析装置50において、処理対象の動画像データに含まれる二次元光像もしくは静止画像における解析領域が決定される(ステップS01:解析領域決定ステップ)。この解析領域としては、各ウェル21の反射像における陽極17bの直下の領域を含むような領域が事前に記憶されたデータを基に設定される。次に、マイクロプレートストッカー13内の試料Sが保持された測定対象のマイクロプレート20が、マイクロプレートホルダ11に載置された状態で、マイクロプレート搬送機構12によって暗箱15内の測定位置Pまで搬送される(ステップS02:載置ステップ)。そして、データ解析装置50によって移動機構19を利用して電気刺激部16の位置が制御されることにより、複数の電極対17の先端がマイクロプレート20の対応するウェル21にそれぞれ挿入される(ステップS03:位置制御ステップ)。このとき、データ解析装置50は、予め記憶された位置設定用データテーブルのなかから現在使用されているマイクロプレート20の種類に対応した位置データを参照し、電極対17の陰極17aの先端がマイクロプレート20の底面22に接触するように電極対17の位置を制御する。これにより、陽極17bは、その先端がウェル21の底面から陰極17aとの長さの差の分の所定距離(例えば、1μm以上1.0mm以下の距離)ほど離れた状態で配置される。
その後、データ解析装置50によって位置制御コントローラ30が制御されることによって、電極対17に電圧が供給されてマイクロプレート20のウェル21内に電界が発生される(電気刺激の付与)。電界が発生した状態で、動画像取得部40によってウェル21内に保持された試料Sから放出された蛍光を含むマイクロプレート20の二次元光像が検出され、その二次元光像を表す動画像データがデータ解析装置50によって取得される。なお、動画像取得部40のフレームレートは電圧印加の周波数よりも高く設定されている。さらに、取得された動画像データに含まれる二次元光像を対象に、データ解析装置50により、マイクロプレートホルダ11上のマイクロプレート20の電極対17に対面する領域の一部に設定された解析領域における光強度が解析されることによって、試料Sに関する解析情報が取得されて表示装置61に出力される(ステップS04:光検出ステップ、情報解析ステップ)。試料S中の細胞には膜電位感受性蛍光色素が付与されているので、電気刺激を印加したときには、細胞のイオンチャネルに開閉に伴う膜電位の変化が蛍光の強度変化として観察される。このような解析領域における光強度の解析手法としては、解析領域における画素値の変化の振幅、変化率、ピーク周期、ピーク回数、ピーク時間、立ち上がり時間、立ち下がり時間、及びピーク変動幅等を評価値として算出する手法が考えられる。
図6に移って、図5の光測定の前に実行される位置設定用データテーブルの設定手順を説明する。最初に、マイクロプレートストッカー13内にウェル21が空の状態の複数種類のマイクロプレート20が用意される(ステップS11)。次に、複数種類のマイクロプレート20のうちの一種類のマイクロプレート20が、マイクロプレートホルダ11に載置された状態で、マイクロプレート搬送機構12によって暗箱15内の測定位置Pまで搬送される(ステップS12)。その後、データ解析装置50の入力装置62を利用して、位置制御コントローラ30に対して電気刺激部16の位置を調整するための位置データが入力されることにより、複数の電極対17の先端がマイクロプレート20の対応するウェル21にそれぞれ挿入される(ステップS13)。このとき、それぞれの電極対17の陰極17aの先端が対向するウェル21の底面22に接触する位置になるように電気刺激部16の位置が調整される。その時に入力装置62によって入力された位置データが、マイクロプレート20の種類に関するデータに関連付けてデータ解析装置50内の位置設定用データテーブルに記憶される(ステップS14)。以上のステップS12〜ステップS14の処理は、全ての種類のマイクロプレート20について繰り返され(ステップS15)、位置設定用データテーブルの設定が完了する。
なお、細胞観察装置1による位置設定用データテーブルの設定は、試料Sを対象にした光測定動作の途中で実行されてもよい。図7は、このような場合の細胞観察装置1による試料Sの光測定時の動作手順を示している。
この場合、細胞の光測定の開始入力が入力装置62を介して入力されると、電気刺激部16の位置を調整するための位置設定用データテーブルの設定が実行される(ステップS21)。次に、データ解析装置50において、処理対象の動画像データに含まれる二次元光像における解析領域が決定される(ステップS22:解析領域決定ステップ)。この解析領域としては、各ウェル21の反射像における陽極17bの直下の領域を含むような領域が事前に記憶されたデータを基に設定される。次に、マイクロプレートストッカー13内の試料Sが保持された測定対象のマイクロプレート20が、マイクロプレートホルダ11に載置された状態で、マイクロプレート搬送機構12によって暗箱15内の測定位置Pまで搬送される(ステップS23:載置ステップ)。そして、データ解析装置50によって、移動機構19を利用して電気刺激部16の位置が制御されることにより、複数の電極対17の先端がマイクロプレート20の対応するウェル21にそれぞれ挿入される(ステップS24:位置制御ステップ)。このとき、データ解析装置50は、ステップS21で記憶された位置設定用データテーブルの位置データを参照し、電極対17の陰極17aの先端がマイクロプレート20の底面22に接触するように電極対17の位置を制御する。ただし、実際にはマイクロプレート20のウェル21には試料Sが保持されているため、電極対17の陰極17aの先端がマイクロプレート20の底面22に接触しないこともある。これにより、陽極17bは、その先端がウェル21の底面から陰極17aとの長さの差の分の所定距離(例えば、1μm〜1.0mm)ほど離れた状態で配置される。
その後、データ解析装置50によって位置制御コントローラ30が制御されることによって、電極対17に電圧が供給されてマイクロプレート20のウェル21内に電界が発生する(電気刺激の付与)。電界が発生した状態で、動画像取得部40によってウェル21内に保持された試料Sから放出された蛍光を含むマイクロプレート20の二次元光像が検出され、その二次元光像を表す動画像データがデータ解析装置50によって取得される。さらに、取得された動画像データに含まれる二次元光像を対象に、データ解析装置50により、マイクロプレートホルダ11上のマイクロプレート20の電極対17に対面する領域の一部に設定された解析領域における光強度が解析されることによって、試料Sに関する解析情報が取得されて表示装置61に出力される(ステップS25:光検出ステップ、情報解析ステップ)。
図8に移って、図7のステップS21で実行される位置設定用データテーブルの設定手順の詳細を説明する。最初に、マイクロプレートストッカー13内にウェル21が空の状態の測定用のマイクロプレート20と同じ種類のマイクロプレート20が用意される(ステップS31)。次に、マイクロプレート20が、マイクロプレートホルダ11に載置された状態で、マイクロプレート搬送機構12によって暗箱15内の測定位置Pまで搬送される(ステップS32)。その後、データ解析装置50の入力装置62を利用して、位置制御コントローラ30に対して電気刺激部16の位置を調整するための位置データが入力されることにより、複数の電極対17の先端がマイクロプレート20の対応するウェル21にそれぞれ挿入される(ステップS33)。このとき、それぞれの電極対17の陰極17aの先端が対向するウェル21の底面22に接触する位置になるように電気刺激部16の位置が調整される。その時に入力装置62によって入力された位置データが、ステップS24で参照されるためにデータ解析装置50内の位置設定用データテーブルに一時記憶される(ステップS34)。以上で位置設定用データテーブルの設定が完了する。
上述した細胞観察装置1による試料Sの光測定時のステップS03(図5)及びステップS24(図7)におけるデータ解析装置50による電気刺激部16の位置制御の詳細について説明する。図9(a)に示すように、ステップS03,S24では、まず、データ解析装置50によって位置設定用データテーブルが参照されることにより、複数の電極対17の先端のマイクロプレート20の底面22に沿った方向(X−Y平面に沿った方向)の位置がそれぞれのウェル21に対向する位置となるように、電気刺激部16が移動される。さらに、図9(b)に示すように、データ解析装置50により位置設定用データテーブルが参照されて、電極対17の陰極17aの先端がウェル21の底面に溜まった試料Sに接触するまで、電気刺激部16がZ軸方向に挿入される。ここで、位置設定用データテーブルに記憶されるZ軸方向の位置データは、陰極17aの先端とウェル21の底面との間に試料Sを挟む分の微小長さ分(例えば0.1以上0.2mm以下の距離)を考慮して設定される。その後、図10に示すように、データ解析装置50により、電極対17の陰極17aの先端がウェル21の底面に溜まった試料Sを押圧して底面に接触するまで、電気刺激部16がZ軸方向に挿入される。このように電極対17の位置を予め取得した位置から0.1mm以上0.2mm以下の距離程度さらに底面を押圧するように制御することにより、複数のウェル21の底面の位置が不均一な場合であっても、全てのウェル21について陰極17aの先端をその底面と接触させることができる。
以上説明した細胞観察装置1及び細胞観察装置1による細胞観察方法によれば、マイクロプレート20に複数配列されたウェル21に陽極17bと陰極17aとを含む電極対17が配置されることにより、この電極対17により細胞を含む試料Sに電界が印加可能にされる。ここで、電極対17を構成する陽極17b及び陰極17aは、陰極17aの先端が陽極17bの先端よりも伸びているので、陰極17aの先端がウェル21の底部の試料Sに接触するように電極対17をウェル21内に挿入することにより、陽極17bの先端と試料Sとの距離を所定距離(例えば、1μm以上1mm以下の距離)に安定化させることができる。これにより、簡易な位置制御機構を備えるだけで電極対17から試料Sに印加される電界を安定化することができ、試料Sに関する均一な観察結果を得ることができる。また、このような構成によれば、陰極17aが試料Sに接触するため、試料Sに適切な電位差を与えることができる。
上記の細胞観察装置1においては、データ解析装置50は、陰極17aのウェル21側の先端がウェル21の底面に接触するように位置を制御するので、陽極17bの先端と試料Sとの距離を所定距離に安定化させることができ、簡易な位置制御機構を備えるだけで電極対17から試料Sに印加される電界を安定化することができる。
また、陽極17bは、棒状電極であるので、ウェル21の底面22上の電界の強い領域を陽極17b近傍の領域に限定することができる。その結果、試料Sに関する高感度の観察結果を得ることができる。
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、電気刺激部16の電極対17の構造は同軸形状には限定されず、様々な形状を採用できる。さらに、データ解析装置50は、この電極対17の構造に対応して解析領域を設定することができる。
図11及び図12には、本実施形態の変形例にかかる電極対17の構造を示している。図11(a)〜(d)及び図12(a)〜(b)には、それぞれ、右側には電極対17のマイクロプレート20の底面に垂直な方向に沿った断面、左側には電極対17のマイクロプレート20のマイクロプレート20の底面沿った断面図をウェル21と共に示している。これらの図に示すように、電極対17は、図11(a)に示す同軸形状の他、図11(b)に示すような棒状の陽極17bとそれに対面する平板状の陰極17aの組み合わせの構造、図11(c)に示すような2本の棒状の陽極17bで平板状の陰極17aを並列して挟むような構造、図11(d)に示すような2本の棒状の陽極17bで棒状の陰極17aを並列して挟むような構造、図12(a)に示すような棒状の陽極17bとそれに並列した棒状の陰極17aの組み合わせの構造、及び図12(b)に示すような棒状の陽極17bとそれに対向する2本の棒状の陰極17aの組み合わせの構造を採用することができる。また、平板状の陽極と陰極を平行に配置した平行電極対の構造を採用してもよい。いずれの電極対17の構造であっても、陰極17aのウェル21側の先端が陽極17bのウェル21側の先端よりも所定の長さだけ伸びたような構造に設定される。
また、上記細胞観察装置1では、データ解析装置50が電気刺激部16の位置を内部に記憶されたデータを参照して電子的に制御していたが、位置制御用部材を用いて機械的に制御してもよい。図13には、本発明の変形例にかかる細胞観察装置における電気刺激部16の位置制御用の構造を示している。同図に示す電気刺激部16のベース部18には位置検出用のボタンセンサ(位置検出センサ)24がZ軸方向側の面に設けられており、そのボタンセンサ24のZ軸方向側には暗箱15(図1)に対して固定された長尺状の位置基準部材25が設けられている。この位置基準部材25には所定のZ軸方向位置にボタンセンサ24と対向するように緩衝部材25aが設けられている。このような細胞観察装置においては、データ解析装置50により、電気刺激部16の電極対17がマイクロプレート20のウェル21に挿入されるようにZ軸方向に移動されると、ボタンセンサ24の位置基準部材25の緩衝部材25aに対する当接が検出され、その検出に応じて電気刺激部16の移動が停止される。ここで、位置基準部材25の緩衝部材25aの端面の位置を、電極対17の陰極17aがウェル21の底面に接触する位置に対応したボタンセンサ24の先端の位置に設定することにより、電気刺激部16の位置が電極対17の陰極17aの先端がウェル21の底面に接触するように制御される。また、位置基準部材25に緩衝部材25aを設けることでボタンセンサ24が位置基準部材25に当接した当初の圧力を和らげることができ、陰極17aの先端がウェル21の底面に接触してもすぐにはボタンセンサ24が作動せず、所定距離(例えば、0.1mm〜0.2mm程度)下がった状態で電気刺激部16の移動が停止される。そのため、複数のウェル21の底面の位置が不均一な場合であっても、全てのウェル21について陰極17aの先端をその底面と接触させることができる。
また、上述の実施例では、マイクロプレートストッカー13内の試料Sが保持された測定対象のマイクロプレート20が、マイクロプレートホルダ11に載置された状態で、マイクロプレート搬送機構12によって暗箱15内の測定位置Pに搬送される構成としたが、マイクロプレート20を手動で暗箱15内の測定位置Pに配置する構成としてもよい。
上述した実施形態の細胞観察装置1及びそれを用いた細胞観察方法においては、試料Sとして筋肉を構成する心筋細胞(心筋を構成する細胞)や骨格筋細胞を測定対象としてもよい。心筋細胞や骨格筋細胞は、活動電位が引き金となって伸縮を行う。この際、カルシウムイオンが、細胞膜を介して細胞外から細胞内へ、又は細胞内から細胞外へ移動するため、カルシウムイオンに反応する色素で染色してその蛍光を観察することで、心筋細胞や骨格筋細胞の伸縮の様子が確認できる。通常、生体内の筋細胞は活動電位を制御するペースメーカー細胞により伸縮を行うが、iPS細胞やES細胞などの幹細胞から生まれた心筋細胞や骨格筋細胞は、ペースメーカーとなる細胞が存在しなかったり、制御がうまくできなかったりする場合がある。ただ、このような筋細胞でも、細胞観察装置1を用いて外部から電気刺激を与えることで、活動電位を制御し、細胞を伸縮させることができる。近年、心筋細胞や骨格筋細胞を用いて創薬評価を行う需要が高まっている。特に、外部からの電気刺激を行う本実施形態は、通常のペーシング(pacing)に加え、薬効が拍動数に依存する化合物の評価を可能にし、また意図的に不整脈を起こさせることもできるので、様々な化合物の評価手法として有効なものである。
ここで、筋細胞を対象にした実施例について説明する。
マイクロプレート20の96個のウェル21内に保持される試料Sとして、生後1〜4日のSDラットの心臓(心室)の心筋細胞を1ウェルあたり2×104個(cells)となるまで培養したものを用いた。このマイクロプレート20としては、ウェル21をコラーゲンIコーティングしたものを用いた。また、心筋細胞はカルシウム色素(Cal520-AM)で染色した。
位置制御ステップ(図5:S03)では、データ解析装置50により、心筋細胞が保持されたウェル21内に電極対17が配置されるように制御される。その後の光検出ステップ(図5:S04)では、データ解析装置50の制御により、電極対17に電圧が供給されてウェル21内の心筋細胞に電気刺激が付与される。詳細には、電極対17には、波高値が5Vで時間幅が5msの矩形波のパルス電圧を繰り返し周波数が1Hzで5秒間印加される。この繰り返し周波数は0.5Hz〜2Hzの範囲に設定されることが好ましい。同時に、データ解析装置50により、電極対17に電圧が印加された状態で1フレームあたり31ms、つまり、フレームレートが30フレーム/秒でマイクロプレート20の二次元光像を表す動画像データが取得される。そして、データ解析装置50により、取得された動画像データを用いて解析領域における蛍光強度が解析される。
図14及び図15には、本実施例において取得された96個の各ウェル21毎の二次元光像の解析領域における平均蛍光強度の時間変化の測定結果を示しており、図14はパルス電圧による電気刺激を行っていない場合の測定結果、図15はパルス電圧による電気刺激を行った場合の測定結果を示している。これらの測定結果においては、各ウェル21毎の測定結果を、1列〜12列及びA行〜H列の2次元で配列して示している。これらの測定結果により、パルス電圧によるペーシングを行っていない場合には、96個のウェルの中の一部のウェルにはペースメーカーとなる細胞が働いて蛍光強度の変化がみられるが、全くペースメーカーが働いていないウェルも存在することがわかる。一方、パルス電圧によるペーシングを行っている場合には、96個の全てのウェルで蛍光強度の変化が観測された。
さらに、図16には、図14及び図15の測定結果のうちのB行3列のウェルのものを抽出して示しており、(a)が電気刺激を行っていない場合、(b)が電気刺激を行った場合の結果を示している。このように、ペーシングなしの場合にはまだらなピークが観測されていたが、ペーシングを行った場合には電気刺激のタイミングT1に応じて周期的な蛍光ピークが観測され、心筋細胞のペーシング用途に上記の細胞観察装置および細胞観察方法が有効であることが確認できた。
なお、矩形波のパルス電圧を心筋細胞にランダムに印加することにより、不整脈の状態での観察にも上記の細胞観察装置および細胞観察方法は有効である。
ここで、上記の細胞観察装置においては、位置制御部は、陰極の保持部側の先端が保持部の底面に接触するように位置を制御する、ことが好適である。かかる構成を採れば、陽極の先端と試料との距離を所定距離に安定化させることができる。これにより、簡易な位置制御機構を備えるだけで電極対から試料に印加される電界を安定化することができる。
また、陽極は、棒状電極であることも好適である。かかる棒状電極を備えれば、ウェルの底面上の電界の強い領域を陽極近傍の領域に限定することができる。その結果、試料に関する高感度の観察結果を得ることができる。
さらに、陰極は、陽極を囲むような円筒状電極であってもよいし、陽極に対面する板状電極であってもよいし、陽極に並列に配置された棒状電極であってもよい。
また、陰極の先端は、陽極の先端よりも1μm以上1.0mm以下の長さだけ伸びていることが好適である。この場合、電極対から試料に印加される電界をさらに安定化することができる。
さらに、位置制御ステップでは、陰極の保持部側の先端が保持部の底面に接触するように位置を制御する、ことが好適である。こうすれば、簡易な位置制御で電極対と試料との位置関係を安定化させることができる。