上記特許文献1の図1および明細書に記載されている電磁弁は、開閉動作を任意のタイミングで確実に行えるような構成であることが前提の記載になっていて、このような電磁弁の場合、一般に、構成が複雑で高価である。
ところで、本願発明者は、上記特許文献2に示すようなエンジン冷却系のコストダウンを図るために、上記特許文献2に示すヘッド側電磁弁として、例えば図7および図8に示すような簡易かつ安価な構成の電磁弁200を用いることを考えた。しかしながら、その場合には下記するような点で改良の余地があることを知見した。
図7および図8に示す電磁弁200は、本発明の比較例であって、コイル(ソレノイド)201、弁体202、圧縮ばね203などを備えている。コイル201は、円筒形に形成されており、冷却液流路205内に設置されている。弁体202は、コイル201の中心軸線に沿って平行に変位させられることによりコイル201の一端面(弁座204)に圧接または離隔されるものである。圧縮ばね203は、弁体202をコイル201の弁座204に押し付けるように付勢するものである。
この電磁弁200の動作としては、まず、コイル201に通電することによりコイル201から発生する電磁力と圧縮ばね203の圧縮に伴う伸張復元力とでもって弁体202をコイル201の弁座204に圧接させると、閉弁状態になる。一方、コイル201への通電を停止している状態では、圧縮ばね203の伸張復元力が冷却液流路205の冷却液流通圧力よりも強いと、圧縮ばね203の伸張復元力で弁体202がコイル201の弁座204に圧接させられて、閉弁状態になるが、前記冷却液流通圧力が圧縮ばね203の伸張復元力よりも強くなるように増加すると、弁体202がコイル201の弁座204から離隔させられて、開弁状態になる。
なお、エンジン暖機中には冷却液の昇温を促進するために、ヘッド側電磁弁200およびブロック側電磁弁(図示省略)を閉弁することによりシリンダヘッドおよびシリンダブロックの冷却液流通を停止させる。また、エンジン暖機中においてシリンダヘッドの局所で冷却液が過剰昇温したときにはヘッド側電磁弁200を開弁させる。さらに、ヘッド側電磁弁200を開弁させたときの開度つまりコイル201の弁座204からの弁体202の離隔寸法(または流路面積)は、例えばエンジン高負荷時に要求される最大冷却液流量を確保するように大きく設定される。さらにまた、圧縮ばね203の伸張復元力は、エンジン暖機中においてシリンダヘッドの局所で冷却液が過剰昇温したときにヘッド側電磁弁200を開弁可能とするために、エンジン暖機中での機械式ウォータポンプ(エンジンのクランクシャフトで駆動されるタイプ)による冷却液流通圧力よりも弱く設定される。
このような電磁弁200の場合には、エンジン暖機中において一度でもコイル201への通電を停止して開弁すると、その後でコイル201に通電しても、前記冷却水流通圧力が圧縮ばね203の伸張復元力よりも弱くならない限り、弁体202を閉弁方向に変位させることができない。ここに改良の余地がある。
このような事情に鑑み、本発明は、電磁弁を簡易かつ安価な構成としたうえで、開弁時に所定以上の冷却液流量を確保するとともに開閉要求に応じて確実に開閉動作可能とすることを目的としている。
また、本発明は、ブロック内ウォータジャケットとヘッド内ウォータジャケットとに冷却液を独立して流通可能とするエンジン冷却装置において、コストダウンを可能とする構成にしながら、エンジン暖機をシリンダヘッドとシリンダブロックとの温度差を小さくした状態で可及的速やかに完了可能とすることを目的としている。
本発明は、コイルへの通電または通電停止によって発生または消滅する電磁力で弁体を変位させることで開閉される電磁弁であって、前記コイルは、流体通路の内周に設置されるような筒形とされ、このコイルにおいてその内周部を流通する流体の流通方向の下流側開口の端面が前記弁体の弁座とされ、前記弁体は、その一部が前記弁座の周方向一部に当接される状態で支持されていて、当該支持部分を支点として傾動可能とされており、この弁体は、ばねにより閉弁方向に付勢されており、前記弁体は、開弁方向に変位するときに、その前記支持部分から遠い位置ほど前記弁座から離れるような形態で変位される、ことを特徴としている。
このような構成では、前記弁体を開弁方向に変位させると、当該弁体から前記コイルまでの離隔距離が短くなる位置と長くなる位置とが生ずることになる。このように、前記離隔距離が長くなる位置を確保しているから、弁体を開いたときの流路面積を可及的に大きくすることが可能になる。これにより、電磁弁の冷却液流量を可及的に多くできるようになる。
しかも、弁体を開いた状態において前記コイルに通電すると、それに伴いコイルから発生する電磁力が前記弁体において前記離隔距離が短くなる位置に到達しやすくなるので、当該電磁力で前記弁体を吸引する作用が強くなる。これにより、前記電磁力で前記弁体を閉弁方向に変位させることが可能になる。言うまでも無いが、前記離隔距離が短いほど前記電磁力による弁体の吸引作用が強くなる。
そして、前記コイルは、流体通路の内周に設置されるような筒形とされ、このコイルにおいてその内周部を流通する流体の流通方向の下流側開口の端面が前記弁体の弁座とされ、前記弁体は、その一部が前記弁座の周方向一部に当接される状態で支持されていて、当該支持部分を支点として傾動可能とされているので、下記するような作用が得られる。
つまり、上記構成を採用した場合には、前記電磁弁を開弁させると、前記弁体が前記コイルの弁座に対して斜め姿勢に傾くことになる。つまり、前記弁体において前記傾動支点から遠い位置ほど前記弁座までの離隔距離が長くなり、その位置から前記傾動支点に近い位置ほど前記弁座からの離隔距離が短くなる。これにより、前記「発明が解決しようとする課題」の項目で提示した比較例のように弁体を弁座から平行に遠近変位させる形態の電磁弁に比べると、コイルが発生する電磁力により弁体を強く吸引することが可能になるから、一度開弁させた後でも再閉弁させることが可能になる。
また、本発明に係るエンジン冷却装置は、エンジンのブロック内ウォータジャケットの冷却液を外部に取り出してから還流させるためのブロック循環経路に設けられて前記ブロック内ウォータジャケットへの冷却液還流を許容または遮断するためのブロック側バルブと、前記エンジンのヘッド内ウォータジャケットの冷却液を外部に取り出してから還流させるためのヘッド循環経路に設けられて前記ヘッド内ウォータジャケットへの冷却液還流を許容または遮断するためのヘッド側バルブとを備え、前記ヘッド側バルブが前記した電磁弁とされる、ことを特徴としている。
このような構成であれば、エンジンを冷間始動させたときに、ブロック内ウォータジャケットおよびヘッド内ウォータジャケットに冷却液を流通させない状態にすることが可能になるから、エンジンや冷却液の昇温を促進させることが可能になる。また、エンジン暖機中においてシリンダヘッドの局所の冷却液が過剰昇温したときにはヘッド内ウォータジャケットに冷却液を流通させるようにすることが可能になるから、前記過剰昇温を解消することが可能になる。このように、エンジンが冷間始動されたときに、シリンダブロックとシリンダヘッドとに温度差を可及的に生じさせない状態で可及的速やかに昇温させることが可能になる。
しかも、ヘッド内ウォータジャケットへの冷却液流通の許容または遮断を制御するためのヘッド側バルブを比較的簡易かつ安価な構成の電磁弁にしているから、エンジン冷却装置全体のコストダウンが可能になる。
また、本発明に係るエンジン冷却装置は、一端がエンジンのブロック内ウォータジャケットと前記エンジンのヘッド内ウォータジャケットとの共通排出部に接続されかつ他端側が二股に分岐されて前記ブロック内ウォータジャケットの冷却液導入部と前記ヘッド内ウォータジャケットの冷却液導入部とに個別に接続される単一の循環路と、この循環路の前記二股分岐部分よりも冷却液流通方向上流側に設置されるウォーターポンプと、前記循環路において前記両ウォータジャケットの共通排出部寄りの位置と前記ウォータポンプの冷却液吸入側とに接続されかつ途中にラジエータが設置されるラジエータ通路と、このラジエータ通路において前記ウォータポンプの冷却液吸入側との接続部分寄りに設置されかつ冷却液の温度を感知して自動的に開閉するラジエータ用サーモスタットと、前記循環路の前記二股分岐部分のうちのブロック内ウォータジャケットに至るブロック側還流部に設置されて当該ブロック内ウォータジャケットへの冷却液還流を許容または遮断するためのブロック側バルブと、前記循環路の前記二股分岐部分のうちのヘッド内ウォータジャケットに至るヘッド側還流部に設置されて当該ヘッド内ウォータジャケットへの冷却液還流を許容または遮断するためのヘッド側バルブとを備え、前記ヘッド側バルブが前記した電磁弁とされる、ことを特徴としている。
このような構成であれば、エンジンを冷間始動させたときに、ブロック内ウォータジャケットおよびヘッド内ウォータジャケットに冷却液を流通させない状態にすることが可能になるから、エンジンや冷却液の昇温を促進させることが可能になる。また、エンジン暖機中においてシリンダヘッドの局所の冷却液が過剰昇温したときにはヘッド内ウォータジャケットに冷却液を流通させるようにすることが可能になるから、前記過剰昇温を解消することが可能になる。このように、エンジンが冷間始動されたときに、シリンダブロックとシリンダヘッドとに温度差を可及的に生じさせない状態で可及的速やかに昇温させることが可能になる。
しかも、ヘッド内ウォータジャケットへの冷却液流通を許容または遮断するためのヘッド側バルブを比較的簡易かつ安価な構成の電磁弁にしているから、エンジン冷却装置全体のコストダウンが可能になる。
さらに、前記ブロック循環経路と前記ヘッド循環経路とを単一の循環路で確保するような構成になっているから、エンジン冷却装置全体のコストダウンが可能になる。
好ましくは、前記ブロック側バルブはサーモスタットとされる。なお、サーモスタットとは、自動車関連業界において温度感知型の自動開閉弁のことを意味している。このようなサーモスタットも前記「発明が解決しようとする課題」の項目で提示した比較例のように弁体を弁座から平行に遠近変位させる形態の電磁弁に比べると、簡易かつ安価な構成となり、エンジン冷却装置全体のコストダウンが可能になる。さらに、サーモスタットを用いる場合には、温度センサや制御系が不要となり、エンジン冷却装置の設備コストの無駄な上昇を抑制することが可能になる。
好ましくは、前記エンジン冷却装置は、前記ヘッド側バルブの開閉動作を制御するための制御装置をさらに備え、かつ、前記制御装置は、前記冷却液の温度に基づいて前記ヘッド側バルブのコイルに対する通電または通電停止を間欠的に行う。この構成では、ヘッド側バルブの開弁時間を調整することにより冷却液の循環流量を制御することが可能になる。これにより、エンジンの温度調整を細かく行うことが可能になる。
本発明は、電磁弁を簡易かつ安価な構成としたうえで、開弁時に所定以上の冷却液流量を確保するとともに開閉要求に応じて確実に開閉動作させることが可能になる。
また、本発明は、ブロック内ウォータジャケットとヘッド内ウォータジャケットとに冷却液を独立して流通可能とするエンジン冷却装置において、コストダウンを可能とする構成にしながら、エンジン暖機をシリンダヘッドとシリンダブロックとの温度差を小さくした状態で可及的速やかに完了させることが可能になる。
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1から図6に、本発明の一実施形態を示している。この実施形態では直列多気筒型のエンジン1の冷却装置を例に挙げている。
エンジン1のシリンダブロック2内にはウォータジャケット4が設けられている。また、エンジン1のシリンダヘッド3内にはウォータジャケット5が設けられている。これらブロック内ウォータジャケット4およびヘッド内ウォータジャケット5がエンジン1の内部通路である。
ブロック内ウォータジャケット4の冷却液導入部4aは、シリンダブロック2において気筒配列方向の一端面(例えば前端面)の下方に設けられている。ヘッド内ウォータジャケット5の冷却液導入部5aは、シリンダヘッド3において気筒配列方向の一端面(例えば前端面)に設けられている。そして、ブロック内ウォータジャケット4の冷却液排出部とヘッド内ウォータジャケット5の冷却液排出部とは、シリンダヘッド3において気筒配列方向の他端面(例えば後端面)に設けられている共通排出部6に接続されている。
ブロック内ウォータジャケット4およびヘッド内ウォータジャケット5の共通排出部6とブロック内ウォータジャケット4の冷却液導入部4aおよびヘッド内ウォータジャケット5の冷却液導入部5aとには、両ウォータジャケット4,5の冷却液を一旦外部に取り出してから戻すための循環路7が連通連結されている。
循環路7の一端側は1本の導入部7aとされているが、循環路7の他端側は二股に分岐された還流部7b,7cとされている。そして、循環路7の導入部7aが両ウォータジャケット4,5の共通排出部6に接続されている。また、循環路7のブロック側還流部7bがブロック内ウォータジャケット4の冷却液導入部4aに接続されており、また、循環路7のヘッド側還流部7cがヘッド内ウォータジャケット5の冷却液導入部5aに接続されている。
この循環路7の途中には、ウォータポンプ8、ヒータコア9などが設けられている。ウォータポンプ8は、循環路7の前記二股分岐部分よりも冷却液流通方向上流側に設けられている。このウォータポンプ8は、機械式とされている。この機械式のウォータポンプ8は、図示していないが、エンジン1のクランクシャフトの回転動力を動力伝達装置(例えばプーリやベルトなどを含む)を介して伝達されて駆動される。
ヒータコア9は、循環路7において導入部7a寄りの位置で車両室内の所定位置に設けられている。このヒータコア9は、循環路7を流通する冷却液と前記車両室内との間で熱交換する熱交換器である。このヒータコア9から放出される熱は、ヒータブロア10でもって車両室内に供給されて、車両室内を暖房するようになる。ヒータブロア10の動作は、下記するエレクトロニックコントロールユニット(以下、単にECUとする)100により制御される。
ECU100は、例えばエンジン1の各種動作制御に必須となる既存のエンジンコントロールコンピュータとすることができる。このECU100は、詳細に図示していないが、共にCPU(中央処理装置)、ROM(プログラムメモリ)、RAM(データメモリ)、ならびにバックアップRAM(不揮発性メモリ)などを備える公知の構成とされる。
ROMは、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップなどが記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは、エンジン1の停止時にその保存すべきデータなどを記憶する不揮発性のメモリである。
さらに、循環路7においてヒータコア9の冷却液流通方向上流側と下流側とには、ラジエータ通路11が接続されている。このラジエータ通路11の途中には、ラジエータ12が設置されている。このラジエータ12は、ラジエータ通路11を流通する冷却液と大気との間で熱交換するための熱交換器である。
このラジエータ通路11は、エンジン1のブロック内ウォータジャケット4およびヘッド内ウォータジャケット5の共通排出部6から排出される冷却液をラジエータ12に通してから循環路7においてヒータコア9よりも冷却液流通方向下流側に流入させるための流路である。
なお、ラジエータ通路11において循環路7との下流側接続部寄りには、ラジエータ用サーモスタット13が設けられている。このラジエータ用サーモスタット13は、公知の構成であるので詳細な図示や説明を割愛するが、一般に、弁体と、サーモアクチュエータとを備えている。前記サーモアクチュエータは、サーモワックスが充填される感温部と、この感温部に設けられて前記弁体を開弁方向または閉弁方向に変位させるプランジャとを備えている。
ここで、ラジエータ用サーモスタット13の動作を説明する。循環路7においてラジエータ通路11との下流側接続部の冷却液温度thw3がオーバーヒート防止温度Z未満の場合に前記サーモワックスが凝固収縮してワックス圧が低くなっているので、前記プランジャが前記感温部に引き込まれて前記弁体が全閉位置に変位されている。なお、前記オーバーヒート防止温度Zは暖機完了温度(例えば85℃〜90℃、好ましくは88℃)よりも高い任意の値に設定される。そして、前記冷却液温度thw3が前記オーバーヒート防止温度Z以上になると、前記サーモワックスが溶融膨張されることによりワックス圧が高くなるので、前記プランジャが前記感温部から飛び出して前記弁体を開くようになる。これにより、ラジエータ通路11に冷却液が流通するようになる。
この実施形態では、循環路7のブロック側還流部7bにブロック側バルブ14が設けられており、循環路7のヘッド側還流部7cにヘッド側バルブ20が設けられている。
さらに、この実施形態では、ブロック側還流部7bにおいてブロック側バルブ14よりも冷却液流通方向上流側と、循環路7においてヒータコア9の冷却液流通方向上流側とに、オイルクーラ用流路15が接続されている。このオイルクーラ用流路15には、エンジン1のオイルを冷却するためのオイルクーラ16が設けられている。
ブロック側バルブ14は、サーモスタットとされており、ブロック側還流部7bの冷却液流通を許容または遮断するものである。ヘッド側バルブ20は、ノーマリークローズタイプの電磁弁とされており、ヘッド側還流部7cの冷却液流通を許容または遮断するものである。
ブロック側バルブ14としてのサーモスタットは、前記したラジエータ用サーモスタット13と基本的に同じ構成であるので詳細な図示や説明を割愛するが、弁体と、サーモアクチュエータとを備えている。前記サーモアクチュエータは、サーモワックスが充填される感温部と、この感温部に設けられて前記弁体を開弁方向または閉弁方向に変位させるプランジャとを備えている。
ここで、ブロック側バルブ14としてのサーモスタットの動作を説明する。ブロック側還流部7bにおいてブロック側バルブ14よりも冷却液流通方向上流側の冷却液温度thw1が所定の開弁温度X未満の場合に、サーモワックスが凝固収縮してワックス圧が低くなるので、弁体が自動的に閉弁して循環路7からブロック内ウォータジャケット4への冷却液の流入を停止させる状態にする。なお、前記開弁温度Xは、前記暖機完了温度よりも高くかつ前記オーバーヒート防止温度Zよりも低い任意の値に設定される。そして、前記冷却液温度thw1が前記開弁温度X以上になると、サーモワックスが溶融膨張されてワックス圧が高くなるので、弁体が自動的に開弁して循環路7からブロック内ウォータジャケット4へ冷却液を流入させる状態にする。
次に、ヘッド側バルブ20としての電磁弁は、図5および図6に示すように、コイル(ソレノイド)21、弁体22、圧縮ばね23などを備えている。
コイル21は、円筒形に形成されており、ヘッド側還流部7cの内周に設置されている。この円筒形のコイル21の中心孔が冷却液流路となる。このコイル21の冷却液流通方向の下流側端面は、弁体22の弁座24とされる。
弁体22は、磁性材製の円形板とされていて、コイル21の下流側端面(以下、弁座24とする)の鉛直方向下側位置に支軸25を介して傾動可能に取り付けられている。つまり、この弁体22は、支軸25を支点として斜め姿勢に傾動されるようになっていて、弁体22をコイル21の弁座24に圧接させてコイル21の下流側開口を閉塞すると閉弁状態になり、また、弁体22をコイル21の弁座24から離隔させてコイル21の下流側開口を開放すると開弁状態になる。
圧縮ばね23は、圧縮コイルスプリングとされており、圧縮されることに伴う伸張復元力で弁体22をコイル21の弁座24に圧接させるように付勢する。この圧縮ばね23は、弁体22を閉弁したときに圧縮した状態になるように設置され、その圧縮に伴う伸張復元力でもって弁体22を弁座24に圧接させるようになっている。
そして、弁体22については、支軸25を支点として傾動する構成にしているから、弁体22を開弁方向に傾動(変位)させると、当該弁体22からコイル21の弁座24までの離隔距離は、弁体22において支軸25寄りの位置で最も短くなり、支軸25から遠い位置になるにつれて徐々に長くなる。
このような構成では、図6に示すように、弁体22を開弁方向に変位させると、当該弁体22からコイル21までの離隔距離が短くなる位置と長くなる位置とが生ずることになる。このように、弁体22において前記離隔距離が長くなる位置を確保しているから、弁体22を開いたときの流路面積を可及的に大きくすることが可能になる。これにより、ヘッド側バルブ20の冷却液流量を可及的に多くできるようになる。
しかも、弁体22を開いた状態においてコイル21に通電すると、それに伴い発生する電磁力が弁体22において前記離隔距離が短くなる位置に到達しやすくなるので、当該電磁力で弁体22を吸引する作用が強くなる。これにより、前記電磁力で弁体22を閉弁方向に変位させることが可能になる。言うまでも無いが、前記離隔距離が短いほど前記電磁力による弁体22の吸引作用が強くなる。
ところで、ヘッド側バルブ20を開弁させたときの開度つまりコイル21の弁座24からの弁体22の最大離隔寸法(または流路面積)は、例えばエンジン高負荷時に要求される最大冷却液流量を確保するように大きく設定される。圧縮ばね23の伸張復元力は、エンジン暖機中においてシリンダヘッド3の局所で冷却液が過剰昇温したときにヘッド側バルブ20を開弁可能とするために、エンジン暖機中での機械式ウォータポンプ8による冷却液流通圧力よりも弱く設定される。
このような構成の電磁弁をヘッド側バルブ20とする場合には、前記「発明が解決しようとする課題」の項目で提示した比較例のように弁体202を弁座204に対して平行に遠近変位させる形態の電磁弁200に比べると、コイル21が発生する電磁力により弁体22を強く吸引することが可能になるから、一度開弁させた後でも再閉弁させることが可能になる。
この電磁弁からなるヘッド側バルブ20の開閉動作は、ECU100により制御される。具体的に、ECU100でヘッド側バルブ20のコイル21に通電すると弁体22が閉弁状態になり、また、コイル21に対する通電を停止しかつヘッド側還流部2cの冷却液流通圧力が圧縮ばね23の伸張復元力に打ち勝つと弁体22が開弁状態になる。
このECU100は、例えばエンジン1の温度調節をするために、エンジン水温センサ31の検出出力の入力に基づいてヘッド側バルブ20の動作を制御する。エンジン水温センサ31は、エンジン1の両ウォータジャケット4,5の共通排出部6の近傍に設置されており、当該設置場所の冷却液温度thw2(以下、単にウォータジャケット4,5の冷却液温度とする)を検出する。
以上のように、この実施形態では、エンジン1の内部通路(ウォータジャケット4,5)と、外部通路(循環路7、ラジエータ通路11)とによって適宜の閉ループの冷却液循環経路が作られており、前記内部通路と、前記外部通路と、ウォータポンプ8と、ラジエータ用サーモスタット13と、ブロック側バルブ14と、ヘッド側バルブ20と、ECU100とによってエンジン冷却装置が構成されている。
次に、動作を説明する。
例えばエンジン1を冷間始動したときには、つまりエンジン水温センサ31の検出出力(冷却液温度thw2)が所定の冷間始動判定基準値Y未満のときには、ECU100が電磁弁からなるヘッド側バルブ20のコイル21に通電することにより閉弁状態にさせる。なお、前記冷間始動判定基準値Yは、前記暖機完了温度よりも低い任意の値に設定される。このとき、ラジエータ用サーモスタット13およびサーモスタットからなるブロック側バルブ14が共に閉弁している状態だと、図1の実線矢印で示すように、エンジン1により駆動される機械式のウォータポンプ8によって循環路7内の冷却液がオイルクーラ流路15のみに流通するようになるが、両ウォータジャケット4,5と循環路7との間には冷却液が循環されなくなる。これにより、エンジン1のシリンダヘッド3の特に燃焼室から発生する熱によってエンジン1および両ウォータジャケット4,5内の冷却液の昇温が促進されるようになる。
この昇温に伴い前記冷却液温度thw2が前記冷間始動判定基準値Y以上になった後で、ヘッド内ウォータジャケット5の局所(シリンダヘッド燃焼室近傍)で冷却液が過剰昇温(沸騰)するような状況になったことをECU100が検知すると、ECU100はヘッド側バルブ20のコイル21への通電を停止させる。
なお、前記過剰昇温の検知方法の一例としては、エンジン1の始動開始から所定周期(数msec〜数十msec)毎に、ヘッド内ウォータジャケット5においてシリンダヘッド内最高温度到達領域での冷却液温度の最高値を推定することにより行うことができる。この推定方法の一例としては、エンジン1の始動開始時にエンジン水温センサ31からの検出出力に基づいてヘッド内ウォータジャケット5の冷却液温度thw2の初期値を認識する処理と、エンジン1を始動してからのエンジン1の発生熱量を算出するとともに、この発生熱量による前記シリンダヘッド内最高温度到達領域の上昇値を算出する処理と、この上昇値を前回の推定値(初回は前記初期値)に加算することにより前記シリンダヘッド内最高温度到達領域の現在の冷却液温度を推定する処理と、この推定値が所定温度(例えば96℃)を超えた場合に沸騰が発生するような状況であると判断する処理とを行う。
前記したようにヘッド側バルブ20のコイル21への通電を停止した後、ウォータポンプ8による冷却液流通圧力が圧縮ばね23の伸張復元力に打ち勝つまではヘッド側バルブ20は閉弁したままの状態を保つが、前記冷却液流通圧力が前記伸張復元力に打ち勝つと、ヘッド側バルブ20が開弁することになる。ヘッド側バルブ20が開弁すると、図2の実線矢印で示すように、循環路7とヘッド内ウォータジャケット5とオイルクーラ流路15との間で冷却液が循環されるようになる。これにより、ヘッド内ウォータジャケット5の冷却液が共通排出部6から循環路7に排出されるが、この冷却液はラジエータ通路11に流入せずにヒータコア9を通過してヘッド側還流部7cおよびヘッド側バルブ20を経てヘッド内ウォータジャケット5の導入部5aに流入させられるようになる。
このようにしてヘッド内ウォータジャケット5を冷却液が繰り返し流通する際に冷却液がシリンダヘッド3の特に燃焼室近傍の熱を吸収する。その結果、ヘッド内ウォータジャケット5の局所で冷却液が過剰昇温(沸騰)することが防止されるとともに、シリンダブロック2およびブロック内ウォータジャケット4の冷却液が徐々に昇温させられるようになる。これにより、シリンダブロック2とシリンダヘッド3との温度差を可及的に小さく保ちながら昇温が促進されるようになる。
ところで、循環路7のブロック側還流部7bにおいてブロック側バルブ14の冷却液流通方向上流側の冷却液温度thw1がブロック側バルブ14の開弁温度Xに到達するまでの上昇過程では、ブロック側バルブ14が閉弁したままであるが、前記冷却液温度thw1が前記開弁温度X以上になるとブロック側バルブ14が自動的に開弁するので、図3の実線矢印で示すように、循環路7のブロック側還流部7bからブロック内ウォータジャケット4にも冷却液が流通するようになる。これにより、循環路7とブロック内ウォータジャケット4およびヘッド内ウォータジャケット5との間で十分な量の冷却液が循環させられるようになる。
この後、循環路7においてラジエータ通路11との下流側接続部の冷却液温度thw3がオーバーヒート防止温度Z以上になると、ラジエータ用サーモスタット13が自動的に開弁するので、図4の実線矢印で示すように、ブロック内ウォータジャケット4およびヘッド内ウォータジャケット5の共通排出部6から循環路7に排出される冷却液がラジエータ通路11およびラジエータ12にも流通するようになる。これにより、ヘッド内ウォータジャケット5およびブロック内ウォータジャケット4と循環路7とラジエータ通路11とを閉ループとして冷却液が循環するようになるので、当該循環する冷却液およびエンジン1の温度が一定範囲内に調整されることになって、エンジン1のオーバーヒートが回避されて適温に保たれるようになる。
以上説明したように本発明を適用した実施形態では、エンジン1が冷間始動されたときにブロック側バルブ14およびヘッド側バルブ20でブロック内ウォータジャケット4およびヘッド内ウォータジャケット5の冷却液流通を停止することにより暖機を促進させるようにしているとともに、エンジン暖機中にシリンダヘッド3の局所での過剰昇温を抑制しつつ、シリンダブロック2とシリンダヘッド3との温度差を可及的に生じさせないようにしている。これにより、エンジン1が冷間始動されても、シリンダブロック2とシリンダヘッド3とに温度差を可及的に生じさせない状態で可及的速やかに暖機を完了させることが可能になる。
そして、ヘッド内ウォータジャケット5への冷却液流通を許容または遮断するためのヘッド側バルブ20を図5および図6に示すような比較的簡易かつ安価な構成の電磁弁にしていて、ブロック内ウォータジャケット4への冷却液流通を許容または遮断するためのヘッド側バルブ14を比較的安価に入手可能なサーモスタットにしているから、エンジン1の冷却装置全体のコストダウンが可能になる。
しかも、ヘッド側バルブ20は、比較的簡易かつ安価な構成であっても、開弁時に所定以上の冷却液流量を確保することが可能であるとともに、ECU100からの開閉要求に応じて確実に開閉動作させることが可能になっているから、開弁時の冷却液循環機能を十分に確保するとともに、開閉動作の信頼性も確保することができる。
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜に変更することが可能である。
(1)上記実施形態ではヘッド側バルブ20の弁体22を円形板にして斜め姿勢に傾動させるようにした例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではない。要するに、本発明のヘッド側バルブ20の弁体22は、当該弁体22が開弁方向に変位するときに、その一部がコイル21に当接されていて当該当接位置から遠い位置ほどコイル21から離れるような形態で変位されるように構成されているものをすべて含む。
(2)上記実施形態ではブロック内ウォータジャケット4とヘッド内ウォータジャケット5との共通排出部6をシリンダヘッド3の他端面に設け、それに合わせて循環路7の導入部7aを単一にした例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば図示していないが、ブロック内ウォータジャケット4の冷却液排出部とヘッド内ウォータジャケット5の冷却液排出部とをシリンダヘッド3の他端面に別々に設けるとともに、循環路7の導入部7aを二股に分岐させるようにし、この循環路7の二股に分岐する導入部を前記2つの冷却液排出部に接続させるようにすることが可能である。また、前記したブロック内ウォータジャケット4の冷却液排出部は、シリンダブロック2において気筒配列方向の他端面(例えば後端面)に設けるようにしてもよい。
(3)上記実施形態ではウォータポンプ8を機械式にした例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば図示していないが、電動式のウォータポンプとすることが可能である。
この場合、例えばエンジン1が冷間始動されたときにすぐに電動式のウォータポンプを作動させるのではなく、例えばECU100がヘッド側バルブ20のコイル21への通電を停止するときに電動式のウォータポンプを作動させるようにすることが可能である。このようにすれば前記電動式のウォータポンプによる冷却液流通圧力でヘッド側バルブ20の弁体22を開弁方向に強制的に変位させるタイミングを制御することが可能になる。