まず、本発明の実施形態の説明をする前に、本発明に適用する磁気冷凍の原理を図面に基づいて詳細に説明する。
(磁気冷凍の原理)
図1は、本発明に適用する磁気冷凍の原理図である。磁性体10A−10Fには、発現される磁気熱量効果の種類が同じ同一材料の磁性体として正の磁性体を用いている。磁性体10A、10Bで磁性体ブロック100Aを形成し、磁性体10C、10Dで磁性体ブロック100Bを形成し、磁性体10E、10Fで磁性体ブロック100Cを形成する。また、磁性体ブロック100A−100Cで磁性体ユニット200を形成する。
磁気回路20A、20B、磁気回路20C、20D、磁気回路20E、20Fは、磁性体10A−10Fの間で往復移動する。つまり、図1Aの状態から、磁気回路20A、20Bが磁性体10Aから10Bに、磁気回路20C、20Dが磁性体10Cから10Dに、磁気回路20E、20Fが磁性体10Eから10Fに、一斉に移動して、図1Bの状態になる。次に、図1Bの状態から、磁気回路20A、20Bが磁性体10Bから10Aに、磁気回路20C、20Dが磁性体10Dから10Cに、磁気回路20E、20Fが磁性体10Fから10Eに、一斉に移動して、磁気回路と磁性体の位置関係が図1の状態に戻る。したがって、磁気回路が往復移動すると、図1Aと図1Bの状態が交互に繰り返される。
ここで、同一材料から成る複数の磁性体10A−10Fには、磁気回路20A、20B−磁気回路20E、20Fで磁気を印加すると発熱し除去すると吸熱する正の磁性体を用いるか、磁気回路20A、20B−磁気回路20E、20Fで磁気を印加すると吸熱し除去すると発熱する負の磁性体のいずれか一方のみを用いる。正の磁性体と負の磁性体とでは、発現される磁気熱量効果が正反対であり、磁気熱量効果の種類が異なる。図1の場合、負の磁性体に比較して安価な正の磁性体を用いる。負の磁性体は希少な磁性材料から製造しなければならないのでコスト高になるし、負の磁性体の磁気熱量効果の大きさが正の磁性体の磁気熱量効果の大きさよりも小さいからである。
磁気回路20A、20B−20E、20Fには永久磁石(図示せず)が備えられている。磁気回路20A、20B、磁気回路20C、20D、磁気回路20E、20Fそれぞれが一体となって、図示左右方向に往復移動することで、磁性体10A−10Fに個別に磁気を印加する。
熱伝導部材30A−30Gは、磁性体10A−10Fが磁気熱量効果により発生した熱を低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに向けて伝導する。熱伝導部材30A−30Gは、熱的異方性を有し、磁性体10A−10Fが並ぶ一方向に向けて効率的に熱を伝達させることができる。熱伝導部材30Aは、低温側熱交換部40Aとこれと隣り合う磁性体10Aとの間で挿脱されて両者を機械的に接続する。熱伝導部材30Bは、磁性体10Aと10Bとの間で挿脱されて両者を機械的に接続する。同様に、熱伝導部材30C、30D、30E、30Fは、磁性体10Bと10Cとの間、磁性体10Cと10Dとの間、磁性体10Dと10Eとの間、磁性体10Eと10Fとの間で挿脱されて両者を機械的に接続する。熱伝導部材30Gは、磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間で挿脱されて両者を機械的に接続する。熱伝導部材30B、30D、30Fは、同じタイミングで、磁性体10Aと10Bとの間、磁性体10Cと10Dとの間、磁性体10Eと10Fとの間で挿脱されて両者を機械的に接続する。また、熱伝導部材30A、30C、30E、30Gも、同じタイミングで、低温側熱交換部40Aと磁性体10Aとの間、磁性体10Bと10Cとの間、磁性体10Dと10Eとの間、磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間で挿脱されて両者を機械的に接続する。熱伝導部材30B、30D、30Fと熱伝導部材30A、30C、30E、30Gは交互に挿脱が繰り返される。
図1Aに示すように、磁気回路20A、20Bが磁性体ブロック100Aの磁性体10Aに、磁気回路20C、20Dが磁性体ブロック100Bの磁性体10Cに、磁気回路20E、20Fが磁性体ブロック100Cの磁性体10Eに、それぞれ位置する。このときには、磁性体10A、10C、10Eに対して磁気が印加され、磁性体10B、10D、10Fには磁気が印加されておらず磁気が除去されている。したがって、磁性体10A、10C、10Eは発熱する。そして同時に、熱伝導部材30Bが磁性体10Aと10Bとの間に、熱伝導部材30Dが磁性体10Cと10Dとの間に、熱伝導部材30Fが磁性体10Eと10Fとの間に、それぞれ挿入される。したがって、各磁性体ブロック内の隣り合う磁性体間で熱が伝導される。すなわち、磁性体10A、10C、10Eが磁気熱量効果により発生した熱を磁性体10B、10D、10Fにそれぞれ移動する。また、このときには、熱伝導部材30Aと30Gは低温側熱交換部40Aと磁性体10Aとの間及び高温側熱交換部40Bと磁性体10Fとの間には挿入されない。また、磁性体ブロック間の熱伝導を行う熱伝導部材30C、30Eも磁性体10B、10Cとの間及び磁性体10D、10Eとの間には挿入されない。
次に、図1Bに示すように、磁気回路20A、20Bが磁性体ブロック100Aの磁性体10Bに、磁気回路20C、20Dが磁性体ブロック100Bの磁性体10Dに、磁気回路20E、20Fが磁性体ブロック100Cの磁性体10Fに、それぞれ位置する。このときには、磁性体10B、10D、10Fに対して磁気が印加され、磁性体10A、10C、10Eには磁気が印加されておらず磁気が除去されている。したがって、磁性体10B、10D、10Fは発熱する。また、熱伝導部材30Aが低温側熱交換部40Aと磁性体10Aとの間に、熱伝導部材30Cが磁性体10Bと10Cとの間に、熱伝導部材30Eが磁性体10Dと10Eとの間に、熱伝導部材30Gが磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間に、それぞれ挿入される。このときには、低温側熱交換部40A、高温側熱交換部40Bと磁性体ユニット200の両端に位置する磁性体10A、10Fとの間、及び、隣り合う磁性体ブロックの隣り合う磁性体との間で熱が伝導される。すなわち、磁性体10A、10C、10Eが磁気熱量効果により吸熱され、磁性体10B、10D、10Fが磁気熱量効果により発熱する。したがって、低温側熱交換部40Aから磁性体10Aに、磁性体10Bから磁性体10Cに、磁性体10Dから磁性体10Eに、磁性体10Fから高温側熱交換部40Bに熱が移動する。また、このときには、磁性体ブロック内の熱伝導を行う熱伝導部材30B、30D、30Fは磁性体10A、10Bとの間、磁性体10C、10Dとの間、磁性体10E、10Fとの間には挿入されない。
以上のように、各磁性体ブロック100A−100Cに対応させて設けた磁気回路を図示左右方向に連動して往復移動させることによって、各磁性体ブロック100A−100Cの両端に位置する磁性体は交互に磁気の印加と除去を繰り返す。さらに、磁気回路の移動に連動させて、熱伝導部材30A−30Gの低温側熱交換部40A、磁性体10A−10F、高温側熱交換部40Bそれぞれの間への挿脱を繰り返す。このことによって、磁気熱量効果により得られた熱が低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに移動する。
図2は、本発明の磁気冷凍の効果を示すグラフである。このグラフに示すように、磁気冷凍機が動作を開始した後の比較的初期時には、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差は小さい。時間が経過するにしたがって低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差が次第に大きくなっていき、最終的には、長時間経過後の直線で示すように、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差が最大になる。この状態で、低温側熱交換部40Aの熱を利用して、たとえば室内の温度を下げることができ、高温側熱交換部40Bの熱を利用して、たとえば室内の温度を上げることができる。
次に、図1のように、各磁性体ブロックに対応して設けた磁気回路を図示左右方向に連動して往復移動させたときに熱が移動していく様子を図3の模式図に基づいて説明する。
まず前提として、磁性体ユニット200を形成する全ての磁性体は同一材料で形成されており、全ての磁性体の磁気熱量効果が同一の種類であって、温度変化量が5℃のものを用いた場合を想定する。具体的には、全ての磁性体は、磁気を印加されると5℃温度が上昇し、磁気が除去されると5℃温度が下降する特性を持っていると想定する。
まず、図3の(1)に示すように、初期の状態では全ての磁性体が室温の20℃になっている。
次に、図3の(2)に示すように、この状態で磁気回路を右側に移動させ、各磁性体ブロックの100A−100Cの一端に位置する磁性体から磁気を除去し、他端に位置する磁性体に磁気を印加する。これと同時に、隣り合う磁性体ブロック100A−100Cの隣り合う磁性体との間、磁性体ユニット200の一端に位置する磁性体と低温側熱交換部40Aとの間及び磁性体ユニット200の他端に位置する磁性体と高温側熱交換部40Bとの間の熱伝導が可能となるように熱伝導部材を挿入する。
図3の(2)の状態では、磁気が除去された磁性体の温度が15℃に低下し、磁気が印加された磁性体の温度が25℃に上昇する。このため、図に示すように、熱伝導部材を介して温度の高い方から温度の低いほうに熱が移動する。
この熱の移動によって、図3の(2)´に示すように、磁性体ユニット200の一端に位置する磁性体と低温側熱交換部40Aの温度が18℃になり、磁性体ユニット200の他端に位置する磁性体と高温側熱交換部40Bの温度が22℃になる。
次に、図3の(3)に示すように、この状態で磁気回路を左側に移動させ、各磁性体ブロック100A−100Cの他端に位置する磁性体から磁気を除去し、一端に位置する磁性体に磁気を印加する。これと同時に、各磁性体ブロック内100A−100Cの隣り合う磁性体との間の熱伝導が可能となるように熱伝導部材を挿入する。
図3の(3)の状態では、磁気が印加された磁性体の温度が図3の(2)´の状態の温度から5℃上昇し、磁気が除去された磁性体の温度が図3の(2)´の状態の温度から5℃低下する。このため、図に示すように、各磁性体ブロック内100A−100Cで熱伝導部材を介して温度の高い方から温度の低いほうに熱が移動する。
この熱の移動によって、図3の(3)´に示すように、低温側熱交換部40Aの温度が18℃になり、磁性体ブロック100Aの磁性体の温度が19℃になる。また、磁性体ブロック100Bの磁性体の温度が20℃になり、磁性体ブロック100Cの磁性体の温度が21℃になる。そして、高温側熱交換部40Bの温度が22℃になる。
以上のように、磁気回路を磁性体に沿って左右に往復移動させ、磁気回路の移動に同期させて熱伝導部材の挿脱を行うことによって、低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに熱が移動していく。時間が経過するにしたがって低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差が大きくなっていく。最終的には、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差が一定になる。この状態で、低温側熱交換部40Aの熱を利用して、たとえば室内の温度を下げることができ、高温側熱交換部40Bの熱を利用して、たとえば室内の温度を上げることができる。
なお、図1及び図3の説明は、発現される磁気熱量効果の種類が同じ同一材料の磁性体として正の磁性体を用いた場合に当てはまる。発現される磁気熱量効果の種類が同じ同一材料の磁性体として負の磁性体を用いた場合には、熱の移動方向は図3に示した方向とは逆になる。したがって、負の磁性体を用いた場合低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bの位置が図1及び図3とは逆になる。
以上が、本発明に適用する磁気冷凍の原理である。以上では、2つの磁性体で磁性体ブロックを形成し、この磁性体ブロックをさらに3つ一列に配列して磁性体ユニットを形成する形態について述べた。
しかし、本発明は、この形態には限られず、さらに多くの磁性体を一列に配列して磁性体ブロックを形成し、さらに多くの磁性体ブロックを一列に配列して磁性体ユニットを形成する形態にも適用できる。この形態の場合にも、磁性体ブロックごとに磁気回路を設けるのは、上記の形態の場合と同一である。
また、以上のように多くの磁性体を一列に配列した磁性体ユニットを、磁性体の配列方向に対して直交方向に複数配列したり、環状に複数配列したりして、磁性体板を形成する形態にも適用できる。
この形態の場合には、図4に示すように、磁性体板15の磁性体10Aa−10Af、10Ba−10Bf、10Ca−10Cfに対して、図5に示すように、磁気回路板25に、磁気回路20Aa−20Ae、20Bb−20Bf、20Ca−20Ceを市松模様のように飛び飛びに設ける。その磁気回路20Aa−20Ae、20Bb−20Bf、20Ca−20Ceに熱伝導部材30Ab−30Af、30Ba−30Bgを取り付ける。磁性体板15に磁気回路板25を対向させ、磁性体板15に対して磁性体ユニットの並び方向(図4の矢印方向)に磁気回路板25を相対的に移動する。磁性体に正の磁性体を用いたときには、磁気回路板の移動により磁気回路が位置する磁性体が磁気熱量効果によって発熱する。また、熱伝導部材が、磁気回路板25の移動に伴って、磁性体板15の磁性体と磁性体との間に挿入される。したがって、磁気回路板の移動により複数の磁性体ユニットで得られた熱が低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに移動する。なお、磁性体の磁気熱量効果によって低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに熱が伝達される原理は、各磁性体ユニット内においては、図3に示したものと同一である。
本実施形態に係る熱的異方性を備えた熱伝導部材は、上記のように、磁気回路板25を磁性体板15に対して磁性体ユニットの並び方向に相対的に移動する形態において、磁性体ユニット内において効率的に熱を伝導させるものである。
(熱伝導部材に熱的異方性を持たせる必要性)
図6及び図7は、本実施形態に係る熱的異方性を備えた熱伝導部材の必要性を説明するための図である。
磁性体板15に対して磁性体ユニットの並び方向に磁気回路板25を相対的に移動する(図6の矢印方向)。磁気回路板25を移動させたときに、磁気回路20Aa、20Ac、20Ae(図5参照)が磁性体10Aa、10Ac、10Aeに対向する位置にあり、熱伝導部材30Ab、30Ad、30Afが磁性体10Aa―10Ab、磁性体10Ac―10Ad、磁性体10Ae―10Af間にある。また、磁気回路20Bb、20Bd、20Bf(図5参照)が磁性体10Bb、10Bd、10Bfに対向する位置にあり、熱伝導部材30Baが低温側熱交換部40A―磁性体10Ba間、熱伝導部材30Bc、30Beが磁性体10Bb―10Bc、磁性体10Bd―10Be間、熱伝導部材30Bgが磁性体10Bf―高温側熱交換部40B間にある。
このとき、磁性体10Aaを含む磁性体ユニットでは図1Aの状態にあり、磁性体10Baを含む磁性体ユニットでは図1Bの状態にある。次に、磁気回路板25を磁気回路1つ分磁性体ユニットの並び方向に移動させると、今度は、磁性体10Aaを含む磁性体ユニットが図1Bの状態になり、磁性体10Baを含む磁性体ユニットが図1Aの状態になる。磁気回路板25を磁気回路1つ分磁性体ユニットの並び方向に移動させる度に、各磁気ユニット内において図1Aの状態と図1Bの状態が繰り返される。したがって、磁気回路板25を磁性体板15に対して相対的に移動させることで、図3で説明した原理によって、低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに熱が伝達される。
ところが、図7に示すように、磁気回路板25を磁性体板15に対して相対的に移動させるときに、熱伝導部材が、隣り合う磁性体ユニットの磁性体にまたがって位置される瞬間がある。
図7に示すように、磁気回路板25を移動させたときに、熱伝導部材30Ab、30Ad、30Afが磁性体10Aa―10Ab、磁性体10Ac―10Ad、磁性体10Ae―10Af間だけではなく、磁性体10Ba―10Bb、磁性体10Bc―10Bd、磁性体10Be―10Bf間にも位置されるときがある。
また、熱伝導部材30Baが低温側熱交換部40A―磁性体10Ba間、熱伝導部材30Bc、30Beが磁性体10Bb―10Bc、磁性体10Bd―10Be間、熱伝導部材30Bgが磁性体10Bf―高温側熱交換部40B間だけではなく、磁性体10Ca間、磁性体10Cb―10Cc、磁性体10Cd―10Ce間、磁性体10Cf―高温側熱交換部40B間にも位置されるときがある。
熱伝導部材30Ab−30Bgは、熱伝達が効率的に行なえるように熱伝導率が大きな材料で構成される。したがって、図7に示すように、熱伝導部材30Ab−30Bgが隣り合う磁性体ユニットの磁性体にまたがって位置されると、本来は1つの磁性体ユニット間でのみ熱を伝達させたいのに、隣の磁性体ユニットに熱が漏れてしまう。これでは、熱輸送能力及び熱輸送効率の低下を招く。本実施形態に係る熱的異方性を備えた熱伝導部材はこの問題を熱伝達率に異方性を付与することによって解決する。
(熱伝導部材の構成)
本実施形態に係る熱的異方性を備えた熱伝導部材は、磁気熱量効果を発現する磁性体を通じて熱を伝導させる熱伝導部材であり、熱伝導部材を構成する基材の熱伝導率は、磁性体が並ぶ一方向の熱伝導率に比較して、磁性体が並ぶ当該一方向と交差する方向の熱伝導率を小さくしてある。
図8は本実施形態に係る熱的異方性を備えた熱伝導部材の断面図である。この図において、熱伝導部材30は、熱伝導部材の核となる基材32と、基材の表面を覆うナノ構造体34とで構成される。
熱伝導部材30構成する基材32の熱伝導率は、基材32の幅方向の熱伝導率λvよりも基材32の長手方向の熱伝導率λLが小さくなっている。ここで、基材32の幅方向とは、図8の左から右に向かう基材32の厚み方向であり、磁性体ユニットを構成する磁性体が並ぶ方向(一方向)である。さらに具体的には、図6及び図7において、磁性体10Aa-10Afが並んでいる方向である。また、基材32の長手方向とは、図8の上から下に向かう基材32の長さ方向であり、これは磁性体が並ぶ一方向と交差する方向である。さらに具体的には、図6及び図7において、磁性体10Aa-10Afの磁性体ユニット、磁性体10Ba-10Bfの磁性体ユニット、磁性体10Ca-10Cfの磁性体ユニットが並んでいる方向である。
基材32の表面を覆うナノ構造体34は少なくとも磁性体と対峙する面に設ける。例えば、図6及び図7において、ナノ構造体34は磁性体10Aaと10Abに対峙する面に設ける。図8に示すように、ナノ構造体34は、基材32の幅方向に厚みをつけて基材32の長さ方向に向けて形成する。ナノ構造体34を設けることによって、熱伝導部材30の幅方向の熱伝達率を上げることができる。なお、基材32にナノ構造体を配列する技術は公知の技術(例えば特表2009−537339号公報参照)を用いる。
熱伝導部材30を以上のような構成とすると、例えば、図7、図9に示すように、熱伝導部材30Abが磁性体10Aa―10Ab間と磁性体10Ba―10Bb間に位置されても、磁性体10Aaと10Abと間、磁性体10Baと10Bbと間でほとんどの熱の伝達が行われる。一方、磁性体10Aaと10Baとの間、磁性体10Aaと10Bbとの間では、ほとんど熱の伝達が行われない。
これは、熱伝導部材30の幅方向の熱伝導率λvが長手方向の熱伝導率λLよりも圧倒的に大きくなっているからである。したがって、本実施形態の熱伝達部材によれば、低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに向かう熱の熱輸送能力及び熱輸送効率の低下を防止することができる。なお、実験によれば、熱伝導部材30の長手方向の熱伝導率λLが熱伝導部材30の幅方向の熱伝導率λvの1/10になると、冷凍能力が20%向上する。
低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに向かう熱の熱輸送能力及び熱輸送効率の低下を防止する効果は、基材32の表面にナノ構造体34を形成している熱伝導部材30を用いることによって、一層大きくすることができる。ナノ構造体34を設けることによって、熱伝導部材30の幅方向の熱伝達率が上がるからである。
(基材の構成)
熱伝導部材30を構成する基材32は、熱的異方性を持たせるために、次のような構成とする。
図10は繊維状の材料によって形成した基材32の拡大図である。基材32は、繊維状の複数の熱伝導材料を、熱伝導材料の断面を磁性体の並び方向に向けて、磁性体の並び方向と交差する方向に束ねて形成する。
具体的には、図10に示すように、基材32を形成する繊維状の材料として、繊維の長さ方向に熱伝導率が大きい円筒状の繊維33を用いる。繊維33の形状は円筒状に限らず四角形、三角形、楕円形などさまざまな形状とすることができる。繊維33の径方向の熱伝導率は長さ方向の熱伝導率よりも小さい。
この繊維33を、磁性体と接する面に繊維33の円形の断面が配置されるようにして、基材32の厚み方向及び長手方向に束ねる。なお、図示はしていないが、繊維33の隙間に熱伝導率の小さい材料を埋め込んでも良い。熱伝導率の小さい材料を埋め込むことによって、繊維33の径方向の熱伝導率を長さ方向の熱伝導率よりもさらに小さくすることができる。
このように繊維33で基材32を形成すると基材32の長手方向の熱伝導率が小さくなる。したがって、図8に示したように、磁性体が並ぶ一方向の熱伝導率λvは大きく、これ以外の方向の熱伝導率λLは小さくすることができ、熱伝導部材30に熱的異方性を持たせることができる。
図11は熱伝導率の異なる複数の熱伝導材料を積層して形成した基材32の拡大図である。図11Aは基材32を図6及び図7のように上から見た平面図であり、図11Bは基材32の斜視図である。
図11に示すように、基材32は、熱伝導率の大きな熱伝導材料34Aと熱伝導率の小さな熱伝導材料34Bを、磁性体の並び方向と交差する方向に交互に配列し積層して形成する。なお、熱伝導率の大きな熱伝導材料としては銅、アルミニウム、炭化珪素などの金属を用い、熱伝導率の小さな熱伝導材料としてはガラスなどの金属以外の材料を用いる。
熱伝導率の大きな熱伝導材料34Aの厚み(基材32の長手方向の厚み)は熱伝導率の小さな熱伝導材料34Bの厚みよりも大きくする。このようにしないと、基材32の幅方向の熱伝導率が高くなってしまい、熱的異方性を大きくできないからである。このため、図11に示すように、熱伝導率の大きな熱伝導材料34Aの厚みを伝導率の小さな熱伝導材料34Bの厚みの4倍から10倍程度とすることが好ましい。
熱伝導材料34Aと熱伝導材料34Bの厚みの比率をこのようにすると基材32の長手方向の熱伝導率が小さくなる。したがって、図8に示したように、磁性体が並ぶ一方向の熱伝導率λvは大きく、磁性体が並ぶ当該一方向と交差する方向の熱伝導率λLは小さくすることができ、熱伝導部材30に熱的異方性を持たせることができる。
図12は熱伝導率の異なる複数の熱伝導材料を配合し配向することによって形成した基材32の拡大図である。
図12に示すように、基材32は、ポリマーなどの熱伝導率の小さな熱伝導材料36に、カーボンナノチューブやグラフェンなどの熱伝導率の大きな熱伝導材料37を配合し、磁性体の並び方向の熱伝導率に比較して、磁性体の並び方向と交差する方向の熱伝導率の方が小さくなるように配向して形成する。具体的には、図12に示すように、熱伝導率の小さな熱伝導材料36内にカーボンナノチューブやグラフェンを混入し、カーボンナノチューブやグラフェンの長軸が基材32の幅方向に向かうように並べる。
カーボンナノチューブやグラフェンの長軸を基材32の幅方向に向かうように並べると、並べたカーボンナノチューブやグラフェンが相互にネットワークを形成する。このため基材32の長手方向の熱伝導率が小さくなる。したがって、図8に示したように、磁性体が並ぶ一方向の熱伝導率λvは大きく、磁性体が並ぶ当該一方向と交差する方向の熱伝導率λLは小さくすることができ、熱伝導部材30に熱的異方性を持たせることができる。
図13は、基材32の形状を示す図である。以上の実施形態では、矩形状の基材32を例示して説明した。基材の形状はこの形状以外にも、図13Aに示すように矩形の角部が面取りされた形状、図13Bに示すように矩形の両端が三角形状に形成された形状、図13Cに示すように矩形の一端が三角形状に形成された形状、図13Dに示すように流線形化された楕円形状など、さまざまな形状とすることができる。
熱伝導部材30は、磁性体と磁性体との間を移動しながら挿入されることになるので、基材32の形状を熱伝導部材30の移動方向に向かって尖った形状とすることで、磁性体と磁性体との間での挿入がスムースに行われるようになり、挿入抵抗を低減させることができる。特に、図13B、図13C、図13Dに示すような形状を採用することが好ましい。
(ナノ構造体の構成)
図14は、基材32の磁性体と対峙する面にナノチューブを配列してナノ構造体を形成した熱伝導部材を示す図である。
図8に示した基材32の表面を覆うナノ構造体34は、図14に示すように基材32の表面から磁性体が並ぶ一方向に向かって伸びるカーボンナノチューブ34Cを配列することによって形成する。図14Aの場合、矩形状の基材32の厚み方向に向けて、すなわち図14の左から右に向かう方向であり磁性体ユニットを構成する磁性体が並ぶ方向に向けて、カーボンナノチューブ34Cを成長させ、これを基材32の長手方向に均一の密度で配列させる。このように、ナノ構造体34をカーボンナノチューブ34Cで形成することによって、熱伝導部材30の幅方向の熱伝達率を上げることができる。
図14Bの場合、一端が三角形状となっている矩形状の基材32の厚み方向に向けてカーボンナノチューブ334Cを成長させている。カーボンナノチューブ34Cの配列の密度は、基材32の三角形状となっている部分(先端部分)を他の部分よりも粗くしている。これは、熱伝導部材30が磁性体と磁性体との間に挿入されるときの挿入抵抗を低減するためである。
図14Cの場合、流線形化された楕円形状の基材32の厚み方向に向けてカーボンナノチューブ34Cを成長させている。カーボンナノチューブ34Cの配列の密度は、基材32両端部分を他の部分よりも粗くしている。これは、熱伝導部材30が磁性体と磁性体との間に挿入されるときの挿入抵抗を低減するためである。この熱伝導部材30の場合、熱伝導部材30の両端でカーボンナノチューブ34Cの配列の密度を粗くしてあるので、熱伝導部材30をその長手方向に沿う両方向の移動に対して挿入抵抗が低減できる。
図14Dの場合、図14Cと同様に、流線形化された楕円形状の基材32の厚み方向に向けてカーボンナノチューブ34Cを成長させている。カーボンナノチューブ34Cの配列の密度は基材32の長手方向に均一である。また、カーボンナノチューブ34Cの長さは基材32の中央部分が短く、基材32の両端に向かって長くなるようにしてある。
図8に示した基材32の表面を覆うナノ構造体34は、繊維状のナノチューブを縦横に絡めたスポンジ構造とすることができる。スポンジ構造は、カーボンナノチューブを多数ランダムに成長させ繊維状に絡めることで形成することができる。このように、ナノ構造体34をスポンジ構造とすることによって、熱伝導部材30の幅方向の熱伝達率を上げることができ、同時に、磁性体との接触に対する耐摩耗性を備えさせることができる。したがって、熱伝導部材30の耐久性を高めることができる。
さらに、スポンジ構造のナノ構造体34内に熱伝導率の大きな微粒子を含有する潤滑剤を含ませることもできる。熱伝導率の大きな微粒子としてはナノダイアモンド(粉末状のダイアモンド)を例示することができる。ナノダイアモンドを含有する潤滑剤をナノ構造体34内に含ませると、ナノ構造体34が磁性体と接触するときに柔軟に変形し磁性体との間の熱の伝達が良好になる。また、ナノダイアモンドを含有しているので、磁性体との摩擦に対し熱伝導部材30の耐久性を高めることができる。
以上が本実施形態に係る熱的異方性を備えた熱伝導部材の構成である。次に、この熱伝導部材を用いた磁気冷凍機について説明する。
(磁気冷凍機の構成、動作)
図15は、本実施形態に係る磁気冷凍機の概略構成を示す上面図であり、磁性体、磁気回路を形成する永久磁石及び熱伝導部材の位置関係が理解できるように上面から透視した状態を示した図である。図16A−図16Cは、図15に示した磁気冷凍機を構成する、熱交換部支持盤、磁性体配置板、磁石/熱伝導部配置板の上面図である。図17は、図15に示した磁気冷凍機の分解断面図である。図18は、本実施形態に係る磁気冷凍機の磁石/熱伝導部配置板を回転させたときに熱が移動していく様子を説明するための模式図である。図19は、本実施形態に係る磁気冷凍機の動作説明に供する図である。なお、図18は発明の理解を容易にするために図17に示した駆動部の記載を省略した。
本実施形態に係る磁気冷凍機は、図1に示した磁気冷凍と同一の原理を用いる。この原理を用いて磁気冷凍が行えるように、次のように構成してある。
図15から図18に示すように、本実施形態に係る磁気冷凍機500は、円形の熱交換部支持盤600(特に図16A参照)、中心部が開口した中空円板状の磁性体配置板700(特に図16B参照)、中心部が開口した中空円板状の磁石/熱伝導部配置板800(特に図16C参照)を有する。熱交換部支持盤600はその中心部に低温側熱交換部40Aを有し、その外周部に高温側熱交換部40Bを有する。磁石/熱伝導部配置板800は、隙間を設けて配置した、上側の円板800Aと下側の円板800Bの2つの円板を有する(特に図17参照)。磁気冷凍機500は、熱交換部支持盤600、磁性体配置板700、磁石/熱伝導部配置板800を同心状に配置している(特に図15、図17、図18参照)。磁性体配置板700は、磁石/熱伝導部配置板800の上側の円板800Aと下側の円板800Bとの間に挿入される(特に図17、図18参照)。低温側熱交換部40Aは、磁性体配置板700と磁石/熱伝導部配置板800の中心部の中空部内に配置される。高温側熱交換部40Bは、磁性体配置板700と磁石/熱伝導部配置板800の外周部に配置される(特に図15、図17、図18参照)。なお、本実施形態では、磁性体配置板700に正の磁性体を配置することを想定しているので、熱交換部支持盤600には、その中心部に低温側熱交換部40Aを配置し、その外周部に高温側熱交換部40Bを配置している。磁性体配置板700に負の磁性体を配置した場合には、熱交換部支持盤600の中心部に高温側熱交換部40Bを配置し、その外周部に低温側熱交換部40Aを配置する。低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bの配置は、磁性体配置板700に正負いずれの磁性体を用いるかによって異なる。
図16Aに示すように、磁気冷凍機500の熱交換部支持盤600の中心部には、磁石/熱伝導部配置板800の固定軸ともなる円柱状の低温側熱交換部40Aが立設してある。また、熱交換部支持盤600の外周部には、磁性体配置板700を固定する円筒状の高温側熱交換部40Bが熱交換部支持盤600の外周に沿って立設してある。
図16Bに示すように、磁性体配置板700は、その中心部が開口した中空円板であり、その中心部の開口径は円柱状の低温側熱交換部40Aの直径よりも若干大きくしてある。また、磁性体配置板700の直径は円筒状の高温側熱交換部40Bの内周の寸法と同一にしてある。図17及び図18に示すように、磁性体配置板700は高温側熱交換部40Bに固定してある。磁性体配置板700と高温側熱交換部40Bとの間には、磁性体配置板700と高温側熱交換部40B相互間で熱が移動しないように、図示しない断熱材を介在させることが好ましい。
磁性体配置板700の片面(円板800Aの対向面)には、図16Bに示すように、環状かつ放射状に複数の磁性体を互いに間隔を設けて形成してある。本実施形態では、中心角を30°として分割した磁性体配置板700上の領域に、周方向に隣り合わせて、12個の磁性体ユニット200A、200B、200C、…、200G、…、200Lを形成している。それぞれの磁性体ユニット200A、200B、200C、…、200G、…、200Lは、磁性体配置板700の中心部から外周部に向けて6つの磁性体を配置している。例えば、磁性体ユニット200Aは、磁性体10Aa、10Ab、10Ac、10Ad、10Ae、10Afを、磁性体ユニット200Bは、磁性体10Ba、10Bb、10Bc、10Bd、10Be、10Bfをそれぞれ配置する。各磁性体ユニットでは、2つの磁性体が1組になって磁性体ブロックを形成する。例えば、磁性体ユニット200Aでは、磁性体10Aa、10Abで磁性体ブロック100Aaを、磁性体10Ac、10Adで磁性体ブロック100Abを、磁性体10Ae、10Afで磁性体ブロック100Acを形成する。また、磁性体ユニット200Bでは、磁性体10Ba、10Bbで磁性体ブロック100Baを、磁性体10Bc、10Bdで磁性体ブロック100Bbを、磁性体10Be、10Bfで磁性体ブロック100Bcを形成する。
したがって、本実施形態の磁性体配置板700は、磁性体ユニット200A、200B、200C、…、200G、…、200Lのそれぞれが3つの磁性体ブロック100Aa−100Ab−100Ac、100Ba−100Bb−100Bc、…で形成される。また、磁性体ブロック100Aa、100Ab、100Ac、100Ba、100Bb、100Bc、…のそれぞれは2つの磁性体、10Aa−10Ab、10Ac−10Ad、10Ae−10Af、10Ba−10Bb、10Bc−10Bd、10Be−10Bf、…で形成される。本実施形態の磁性体配置板700の1つの磁性体ユニット200Aに注目すると、磁性体ユニット200Aは、6つの磁性体10Aa、10Ab、10Ac、10Ad、10Ae、10Afから形成される。これらの磁性体は3つの磁性体ブロック100Aa、100Ab、100Acを有する。これらの磁性体ブロックは2つの磁性体10Aa−10Ab、10Ac−10Ad、10Ae−10Afの組から形成される。磁性体ユニット200Bから200Lも磁性体ユニット200Aと同じように形成される。このため、本実施形態の磁性体配置板700は、図1Aに示した磁性体ユニット200を12列並列に並べたものと等価な構成となる。
本実施形態では、図20に示すように、磁性体配置板700に配置した磁性体10Aa−10Bf…の表面にDLC(ダイアモンドライクカーボン)膜15を形成する。DLC膜15は、後述する熱伝導部材と対峙する面に設ける。磁性体の全面に設けることもできるが、DLC膜15が磁気抵抗となってしまうので、できるだけ対峙する面のみに形成することが好ましい。熱伝導部材と対峙する面にDLC膜15を形成すると、磁性体の表面を保護することができ、熱伝導部材に対する耐摩耗性を向上させることができる。
本実施形態で用いる磁性体10Aa、…は、磁性体配置板700上に直接形成しても良いが、磁気熱量効果を有効に利用できるようにするためには、磁性体配置板700は熱抵抗の大きな材料で構成することが望ましい。熱抵抗が小さいと、磁性体10Aa、…で発生した熱が磁性体配置板700を伝って放熱されてしまうからである。また、熱抵抗を大きくするために、磁性体10Aa、…は、磁性体配置板700上に直接形成するのではなく、磁性体10Aa、…と磁性体配置板700との間に熱絶縁性フィルムや熱絶縁層を設けても良い。
また、磁性体10Aa、…は、熱絶縁性フィルムや熱絶縁層を介して磁性体ユニット200A、…として磁性体配置板700上で一体的に形成しても良い。また、熱絶縁性フィルムや熱絶縁層を介して磁性体ブロック100Aa、…ごとに分割して形成し、これを磁性体配置板700上で配列するようにしても良い。
磁性体10Aa、…は、本実施形態では同一材料で形成しており、同一材料として正の磁性体を用いる。正の磁性体は、磁気を印加していないときには常磁性状態(磁気スピンが無秩序の状態)となり、磁気を印加すると強磁性状態(磁気スピンが一方向に揃う状態)となる、常磁性状態と強磁性状態が可逆的に生じる材料を用いて製造する。
正の磁性体の材料としては、GdやGdをベースとした合金である、Gd−Y系、Gd−Dy系、Gd−Er系、Gd−Ho系、La(Fe,Si)13やLa(Fe,Al)13などの磁性材料を用いることができる。
一方、本実施形態では用いていないが、磁性体10Aa、…に同一材料として負の磁性材料を用いることもできる。負の磁気材料は、磁気を印加していないときと磁気を印加したときとでそれぞれが別の秩序状態となる。かつ、負の磁気材料は、磁気を印加していないときの方が磁気を印加したときよりも秩序度が高い状態となる。負の磁気材料は、このような2つの秩序状態の間で、磁気の印加/除去に伴って秩序−秩序転移を生じるような物質を用いる。また、負の磁性体は、磁気を印加していないときには反強磁性状態(隣り合うスピンがそれぞれ反対方向を向いて整列する状態)となり、磁気を印加すると強磁性状態(隣り合うスピンが一方向に揃う状態)となる。負の磁性体は、材料の磁気モーメント自体が大きく変化すると反強磁性状態と強磁性状態が可逆的に生じる材料を用いても製造される。
負の磁性体の材料としては、FeRh合金、CoMnSiGe系、NiMnSn系などの磁性材料を用いることができる。
一般的に、正の磁性体と負の磁性体は、磁気の印加に対して、熱発生が、発熱するか、吸熱するか反対なので、正の磁性体と負の磁性体の磁気熱量効果による温度変化の大きさは相違する。したがって、本実施形態のように、正か負のどちらか一方の磁性体を用いた場合には、全ての磁性体の磁気熱量効果による温度変化の大きさが同一になる。したがって、磁気冷凍機全体として安定した熱伝達特性が得られ熱輸送効率が向上する。また、正の磁性体の磁気熱量効果に比較して負の磁性体の磁気熱量効果の方が小さいので、熱輸送効率を考慮すると、正の磁性体を用いて磁性体配置板700を構成することが好ましい。さらに、負の磁性体の材料は正の磁性体の材料に比較して希少な材料を用いることになるので、コストの面でも正の磁性体を用いて磁性体配置板700を構成することが好ましい。
本実施形態では、磁性体10Aa、…の形状を、図15、図16B、図19に示したような、扇を径方向に一定の幅で切り取ったような形状としたが、これ以外の形状、例えば、球状、楕円体状、立方体状、円柱状、楕円柱状などの形状を採用しても良い。
以上のように、磁性体配置板700は、同一材料の磁性体10Aa…を複数列状に間隔を設けて径方向に配置した磁性体ブロック100Aa、…を有する。さらに、磁性体ブロック100Aa…を磁性体10Aa、…の配置方向に間隔を設けて複数列状に配置した磁性体ユニット200Aを有する。磁性体配置板700は、磁性体ユニット200Aをさらに磁性体10Aa、…の配置方向と交差する円周方向に間隔を設けて複数隣り合わせて環状に配置している。
磁性体配置板700は以上のように構成してあるので、低温側熱交換部40Aは、磁性体配置板700に形成されている磁性体ユニット200A、200B、200C、…、200G、…、200Lの一端に位置する磁性体10Aa、10Bb、…と間隔を設けて隣り合う。また、高温側熱交換部40Bは、磁性体配置板700に形成されている磁性体ユニット200A、200B、200C、…、200G、…、200Lの他端に位置する磁性体10Af、10Bf、…と間隔を設けて隣り合う。
図16Cに示すように、磁石/熱伝導部配置板800は、その中心部が開口した中空円板であり、その中心部の開口径は熱交換部支持盤600が有する円柱状の低温側熱交換部40Aの直径よりも若干大きくしてある。また、磁石/熱伝導部配置板800の直径は熱交換部支持盤600が有する円筒状の高温側熱交換部40Bの内周の寸法よりも若干小さくしてある。磁石/熱伝導部配置板800が低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間で回転できるようにするためである。磁石/熱伝導部配置板800は、図17及び図18に示すように、隙間を設けて磁性体配置板700を挟む磁気的に接続された、上側及び下側の2枚の円板800A、800Bで構成される。
上側及び下側の2枚の円板800A、800Bは、低温側熱交換部40Aを中心に別々に回転できるように、低温側熱交換部40Aに備える軸受けと、上側及び下側の2枚の円板800A、800Bの外周端に備える軸受けで支持してある。図17に示すように、上側の円板800Aは軸受け520Aa、520Abによって回転自在に支持され、下側の円板800Bは軸受け520Ba、520Bbによって回転自在に支持される。したがって、上側の円板800Aは下側の円板800Bと別々に回転できる。
磁石/熱伝導部配置板800を取り囲むように支持盤530が配置される。支持盤530は、上側及び下側の2枚の円板800A、800Bを別々に回転させるためのサーボモータ540A、540Bを固定する。支持盤530の上側の円板800Aに対向する部分にサーボモータ540Aを、支持盤530の下側の円板800Bに対向する部分にサーボモータ540Bをそれぞれ固定する。サーボモータ540A、540Bのそれぞれの回転軸にはギア550A、550Bが取り付けてある。上側の円板800Aの外周部には、ギア550Aと噛み合うリングギア560Aが取り付けてある。また、下側の円板800Bの外周部には、ギア550Bと噛み合うリングギア560Bが取り付けてある。なお、サーボモータ540A、540B、ギア550A、550B及びリングギア560A、560Bによって駆動部を構成する。
サーボモータ540Aが回転すると、ギア550Aと噛み合うリングギア560Aが自転して上側の円板800Aが回転する。また、サーボモータ540Bが回転すると、ギア550Bと噛み合うリングギア560Bが自転して下側の円板800Bが回転する。サーボモータ540A、540Bを同期して回転させると、上側及び下側の2枚の円板800A、800Bが一体となって回転する。
本実施形態では、サーボモータ540A、540Bを同期して回転させる。したがって、磁石/熱伝導部配置板800は低温側熱交換部40Aを中心に、上側及び下側の2枚の円板800A、800Bで磁性体配置板700挟むようにして、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間で回転する。
磁石/熱伝導部配置板800を形成する上側の円板800Aの片面(図17及び図18に示す円板800Aの図示下側)には図16Cに示すように、環状かつ放射状に複数の永久磁石と複数の熱伝導部材を配置してある。ここに配置している熱伝導部材の構成は、図8から図14に示したものである。すなわち、磁性体に対峙する面にナノ構造体が形成されているものである。
永久磁石は、図16Bに示した磁性体配置板700の磁性体ユニット200A、200B、200C、…、200G、…、200Lのそれぞれの磁性体ブロック100Aa、100Ab、100Ac、100Ba、100Bb、100Bc、…に対して永久磁石が1つずつ対峙されるように配置している。永久磁石は、磁石/熱伝導部配置板800が30°回転して、隣の磁性体ユニットに移行する度に、隣り合う磁性体ユニット200A、200B、200C、…、200G、…、200Lの磁性体ブロック100Aa、100Ab、100Ac、100Ba、100Bb、100Bc、…において径方向に往復移動する。
例えば、図15、図16B、図16C、図18に示すように、図面上、磁石/熱伝導部配置板800の上側の円板800Aにおいて、磁性体ユニット200Aの対応位置にある永久磁石20Aa、20Ac、20Aeは、磁性体配置板700の磁性体ユニット200Aの磁性体10Aa、10Ac、10Aeとそれぞれ対峙する位置にある。また、磁性体ユニット200Bの対応位置にある永久磁石20Ba、20Bc、20Beは、磁性体ユニット200Bの磁性体10Bb、10Bd、10Bfとそれぞれ対峙する位置にある。この状態で、磁石/熱伝導部配置板800が30°時計方向に回転すると、磁性体ユニット200Aの対応位置にある永久磁石20Aa、20Ac、20Aeは、磁性体ユニット200Bの磁性体10Ba、10Bc、10Beとそれぞれ対峙する位置となる。また、磁性体ユニット200Lの対応位置にある永久磁石は、磁性体ユニット200Aの磁性体10Ab、10Ad、10Afとそれぞれ対峙する位置となる。つまり、磁石/熱伝導部配置板800が30°時計方向に回転する度に、各磁性体ユニット200A、200B、200C、…、200G、…、200Lにおいて、磁性体ブロックごとに永久磁石が往復移動する。この永久磁石と磁性体との位置関係は、磁石/熱伝導部配置板800が30°回転する度に図1Aの位置関係と図1Bの位置関係を繰り返すのと同一の位置関係である。
したがって、磁石/熱伝導部配置板800を磁性体ユニット200A、200B、200C、…、200G、…、200Lの並び方向に移動させると、永久磁石と磁性体との位置関係は次のように移行する。
まず、図15、図18Aに示すように、永久磁石20Aa、20Ac、20Aeは、隣り合う一方の磁性体ユニット200Aの各磁性体ブロック100Aa、100Ab、100Acの一端に位置する磁性体10Aa、10Ac、10Aeに同時に磁気を印加する。また、図15、図18Bに示すように、永久磁石20Ba、20Bc、20Beは、隣り合う他方の磁性体ユニット200Bの各磁性体ブロック100Ba、100Bb、100Bcの他端に位置する磁性体10Bb、10Bd、10Bfに同時に磁気を印加する。他の磁性体ユニット200C−200Lにおいても、隣り合う2つの磁性体ユニット間の永久磁石と磁性体との位置関係は磁性体ユニット200A、200Bの場合と同一である。隣り合う2つの磁性体ユニット間の以上のような永久磁石と磁性体との位置関係を状態1という。
次に、磁石/熱伝導部配置板800を30°時計方向に回転させると、永久磁石20Aa、20Ac、20Aeは、隣り合う他方の磁性体ユニット200Bの各磁性体ブロック100Ba、100Bb、100Bcの一端に位置する磁性体10Ba、10Bc、10Beに同時に磁気を印加する。この状態は、図18Bに示す永久磁石20Ba、20Bc、20Beが、左側の磁性体磁性体10Ba、10Bc、10Beに移動することに等しい。一方、磁性体ユニット200Lの対応位置に存在する永久磁石は、隣り合う一方の磁性体ユニット200Aの各磁性体ブロック100Aa、100Ab、100Acの他端に位置する磁性体10Ab、10Ad、10Afに同時に磁気を印加する。この状態は、図18Aに示す永久磁石20Aa、20Ac、20Aeが、右側の磁性体10Ab、10Ad、10Afに移動することに等しい。他の磁性体ユニット200C−200Lにおいても、隣り合う2つの磁性体ユニット間の永久磁石と磁性体との位置関係は磁性体ユニット200A、200Bの場合と同じように遷移する。隣り合う2つの磁性体ユニット間の以上のような永久磁石と磁性体との位置関係を状態2という。
このように、磁石/熱伝導部配置板800が30°回転する度に、全ての磁性体ユニット200A、200B、200C、…、200G、…、200Lにおいて、上記の状態1と状態2が繰り返される。つまり、それぞれの磁性体ユニット200A、200B、200C、…、200G、…、200Lにおいて、図1Aと図1Bの状態が繰り返されることになる。
磁石/熱伝導部配置板800を形成する下側の円板800Bの片面(図17及び図18に示す円板800Bの図示上側)には磁気突起が形成される。磁気突起は上側の円板800Aの片面に配置している永久磁石の配置と対応させて配置する。例えば、図17及び図18に示すように、永久磁石20Aaに対応させて磁気突起20Abが、永久磁石20Acに対応させて磁気突起20Adが、永久磁石20Aeに対応させて磁気突起20Afがそれぞれ配置されている。また、永久磁石20Baに対応させて磁気突起20Bbが、永久磁石20Bcに対応させて磁気突起20Bdが、永久磁石20Beに対応させて磁気突起20Bfがそれぞれ配置されている。それぞれの永久磁石からの磁力線を対峙する磁気突起で受け止めて、永久磁石と磁気突起との間の磁気抵抗を極力小さくするためと、永久磁石からの磁力線が磁性体を漏れなく通過できるようにするためである。
熱伝導部材配置板800は隙間を設けて磁性体配置板700を挟む磁気的に接続された2枚の平板で構成される。上側の円板800Aに配置されている永久磁石と下側の円板800Bに配置されている磁気突起は、上側の円板800Aと下側の円板800Bとの間で磁気回路を形成する。この磁気回路は磁気印加部を構成する。本実施形態では、磁気印加部に磁気を発生させる手段として永久磁石を用いた。しかし、永久磁石の使用に代えて、超伝導磁石や電磁石を使用することもできる。磁気回路を電磁石によって構成すると、磁性体に印加する磁気の大きさをある範囲で変更することができるので、磁気印加部に汎用性を持たせることができる。しかし、省エネルギーや実用性の観点からは、永久磁石の使用が望ましい。
なお、本実施形態では、上側の円板800Aに永久磁石を配置し、下側の円板800Bに磁気突起を配置しているが、これとは逆に、上側の円板800Aに磁気突起を配置し、下側の円板800Bに永久磁石を配置させることも可能である。また、本実施形態では、両円板を一体として回転させているが、両円板は磁気的に接続されていれば別々に設けても良い。上側の円板800Aと下側の円板800Bが磁気的に接続され、永久磁石と磁気突起が対峙して設けてあるので、永久磁石からの磁束を有効に活用でき、永久磁石の小型化、軽量化が可能である。
磁石/熱伝導部配置板800が備える全ての永久磁石には、図15、図16C、図17、図18に示すように、それぞれの外周側に熱伝導部材が取り付けられる。熱伝導部材は、磁性体と磁性体との間、磁性体と低温側熱交換部との間、磁性体と高温側熱交換部との間で、磁石/熱伝導部配置板800の回転方向に挿脱される。熱伝導部材が磁性体と磁性体との間に挿入されると磁性体間で熱が伝導する。また、熱伝導部材が磁性体と低温側熱交換部との間に挿入されると磁性体と低温側熱交換部との間で熱が伝導する。さらに、熱伝導部材が磁性体と高温側熱交換部との間に挿入されると磁性体と高温側熱交換部との間で熱が伝導する。
図16Cに示すように、熱伝導部材は、磁石/熱伝導部配置板800を形成する上側の円板800Aの片面(図17及び図18に示す円板800Aの図示下側)に、磁性体ユニット200A、200B、200C、…、200G、…、200Lのそれぞれに対し4箇所または3箇所に設けられる。図16Cに示すように、磁性体ユニット200Aの対応位置には、3つの熱伝達部材30Ab、30Ad、30Afが永久磁石20Aa、20Ac、20Aeの外周側に設けられる。磁性体ユニット200Bの対応位置には、4つの熱伝達部材30Ba、30Bc、30Be、30Bgが設けられる。熱伝達部材30Baは低温側熱交換部40Aに接する位置に設けられる。また、熱伝達部材30Bc、30Be、30Bgは永久磁石20Ba、20Bc、20Beの外周側に設けられる。
全ての熱伝導部材30Ab、30Ad、30Af、30Ba、30Bc、30Be、30Bg、…は、上記のように、熱的異方性を備えた固体の熱伝導材料で構成する。また、熱伝導部材30Ab、…が磁性体10Aa、…、低温側熱交換部40A、高温側熱交換部40Bと接触して摺動する部分は、図14に示したように、カーボンナノチューブ34Cを配列してある。したがって、図21に示すように、熱伝導部材30Abが磁性体10Aa―10Ab間と磁性体10Ba―10Bb間に位置されても、磁性体10Aaと10Abと間、磁性体10Baと10Bbと間でほとんどの熱の伝達が行われる。一方、磁性体10Aaと10Baとの間、磁性体10Aaと10Bbとの間では、ほとんど熱の伝達が行われない。これは、熱伝導部材30の幅方向の熱伝導率λvが長手方向の熱伝導率λLよりも圧倒的に大きくなっているからである。磁性体10Aa、…の熱伝導部材30と接する面にはDLC膜15が形成してあるので、磁性体10Aa、…の耐摩耗性が向上する。
熱伝導部材の径方向の厚みは、磁性体と磁性体との間、磁性体と低温側熱交換部40Aとの間、磁性体と高温側熱交換部40Bとの間の隙間にぴったりと収まる寸法か若干大きめに形成する。例えば、熱伝導部材30Ab、30Ad、30Af、30Ba、30Bc、30Be、30Bg、…の径方向の厚みは、磁性体10Aa−10Ab、10Ac−10Ad、10Ae−10Af、低温側熱交換部40A−磁性体10Ba、磁性体10Bb−10Bc、10Bd−10Be、磁性体10Bf−高温側熱交換部40B間のそれぞれの隙間に挿入されつつこれらの間で熱の伝導が可能な寸法である。また、熱伝導部材30Ab、30Ad、30Af、30Ba、30Bc、30Be、30Bg、…の形状は、磁性体10Aa−10Ab、10Ac−10Ad、10Ae−10Af、低温側熱交換部40A−磁性体10Ba、磁性体10Bb−10Bc、10Bd−10Be、磁性体10Bf−高温側熱交換部40B間のそれぞれの間の隙間の形状と一致した形状とすることが望ましい。
以上のように、本実施形態の磁気冷凍機は、間隔を設けて複数の磁性体を配置した磁性体配置板700、磁性体配置板700の一端に位置する磁性体と間隔を設けて隣り合う低温側熱交換部40A、磁性体配置板700の他端に位置する磁性体と間隔を設けて隣り合う高温側熱交換部40Bを有する。また、磁性体配置板700の各磁性体に対して磁気を印加する磁気印加部、磁性体配置板700の複数の磁性体との間、磁性体配置板700の一端に位置する磁性体と低温側熱交換部40Aとの間、磁性体配置板の他端に位置する磁性体と高温側熱交換部40Bとの間に挿脱し熱を伝導させる熱伝導部材を有する。熱伝導部材は、図8から図14に示したいずれかの構造を有する。
以上のような構成を有する磁石/熱伝導部配置板800が磁性体配置板700に対して回転すると、熱伝導部材30Ab、…は次のようにして熱を伝達させる。
まず、永久磁石と磁性体との位置関係が、図15及び図19に示す状態1にあるとき、磁性体ユニット200Aの対応位置では、熱伝導部材と磁性体との位置関係は図18Aに示すようになっている。
状態1の場合、図18Aに示すように、永久磁石20Aaが磁性体10Aaに、永久磁石20Acが磁性体10Acに、永久磁石20Aeが磁性体10Aeに、それぞれ位置する。このときには、磁性体10Aa、10Ac、10Aeに対して磁気が印加され、磁性体10Ab、10Ad、10Afには磁気が印加されておらず磁気が除去されている。このとき、磁性体10Aa、10Ac、10Aeは発熱する。そして同時に、熱伝導部材30Abが磁性体10Aaと10Abとの間に、熱伝導部材30Adが磁性体10Acと10Adとの間に、熱伝導部材30Afが磁性体10Aeと10Afとの間に、それぞれ挿入される。このため、各磁性体ブロック内の隣り合う磁性体との間の熱伝導が行われる。すなわち、磁性体10Aa、10Ac、10Aeが磁気熱量効果により発生した熱を磁性体10Ab、10Ad、10Afにそれぞれ移動する。また、このときには、低温側熱交換部40Aと磁性体10Aaとの間及び高温側熱交換部40Bと磁性体10Afとの間の熱の伝導は行わない。また、磁性体ブロック間の熱の伝導も行わない。
また、磁性体ユニット200Bの対応位置では、熱伝導部材と磁性体との位置関係は図18Bに示すようになっている。
図18Bに示すように、永久磁石20Baが磁性体10Bbに、永久磁石20Bcが磁性体10Bdに、永久磁石20Beが磁性体10Afに、それぞれ位置する。このときには、磁性体10Bb、10Bd、10Bfに対して磁気が印加され、磁性体10Ba、10Bc、10Beには磁気が印加されておらず磁気が除去されている。このとき、磁性体10Bb、10Bd、10Bfは発熱する。そして同時に、熱伝導部材30Baが低温側熱交換部40Aと磁性体10Baとの間に、熱伝導部材30Bcが磁性体10Bbと10Bcとの間に、熱伝導部材30Beが磁性体10Bdと10Beとの間に、熱伝導部材30Bgが磁性体10Bfと高温側熱交換部40Bとの間に、それぞれ挿入される。このため、隣り合う磁性体ブロック100Ba、100Bb、100Bcの隣り合う磁性体10Bb−10Bc、10Bd−10Be間の熱伝導が行われる。また、磁性体ユニット200Bの一端に位置する磁性体10Baと低温側熱交換部40Aとの間及び磁性体ユニット200Bの他端に位置する磁性体10Bfと高温側熱交換部40Bとの間で熱伝導が行われる。すなわち、10Ba、10Bc、10Beが磁気熱量効果により吸熱され、磁性体10Bb、10Bd、10Bf磁気熱量効果により発熱する。このため、低温側熱交換部40Aから磁性体10Baに、磁性体10Bbから磁性体10Bcに、磁性体10Bdから磁性体10Beに、磁性体10Bfから高温側熱交換部40Bに熱が移動する。
以上のように、磁石/熱伝導部材配置板800に配置されている複数の磁気印加部は、磁石/熱伝導部材配置板800と磁性体配置板700との相対移動によって、磁性体配置板700に配置されている複数の磁性体に近接離反して磁気熱量効果を発現させる。また、磁石/熱伝導部材配置板800に配置されている複数の熱伝導部材は、磁石/熱伝導部材配置板800と磁性体配置板700との相対移動によって、磁性体配置板700に配置されている磁性体と磁性体との間、低温側熱交換部40Aと磁性体との間、高温側熱交換部40Bと磁性体との間を挿脱されて、磁気熱量効果により発生した熱を伝導させる。
上記の状態1は図19Aに示す通りである。磁性体ユニット200Aの対応位置では、各磁性体ブロック内の隣り合う磁性体との間で熱を伝導させ、磁性体ユニット200Bの対応位置では、隣り合う磁性体ブロックの隣り合う磁性体との間並びに磁性体ユニット200Bの一端に位置する磁性体と低温側熱交換部40Aとの間及び磁性体ユニット200Bの他端に位置する磁性体と高温側熱交換部40Bとの間で熱を伝導させる。
永久磁石と磁性体との位置関係が、図19Aに示す状態1にあるとき、磁性体ユニット200Aの対応位置では、熱伝導部材と磁性体との位置関係は図18Aに示すものと等価になっている。同時に、磁性体ユニット200Bの対応位置では、熱伝導部材と磁性体との位置関係は図18Bに示すものと等価になっている。
次に、磁石/熱伝導部配置板800を30°時計方向に回転し、永久磁石と磁性体との位置関係が、図19に示す状態2にあるとき、磁性体ユニット200Aの対応位置では、熱伝導部材と磁性体との位置関係は図18Bに示すものと等価になっている。同時に、磁性体ユニット200Bの対応位置では、熱伝導部材と磁性体との位置関係は図18Aに示すものと等価になっている。状態2における永久磁石と磁性体との位置関係は、状態1における永久磁石と磁性体との位置関係を、隣り合う磁気ユニット間で逆にしたものである。
上記の状態2は図19Bに示す通りである。磁性体ユニット200Aの対応位置では、隣り合う磁性体ブロックの隣り合う磁性体との間並びに磁性体ユニット200Aの一端に位置する磁性体と低温側熱交換部40Aとの間及び磁性体ユニット200Aの他端に位置する磁性体と高温側熱交換部40Bとの間で熱を伝導させ、磁性体ユニット200Bの対応位置では、各磁性体ブロック内の隣り合う磁性体との間で熱を伝導させる。
以上のように、磁石/熱伝導部材配置板800の熱伝導部材は、状態1のときには、隣り合う一方の磁性体ユニットの各磁性体ブロック内の隣り合う磁性体との間で熱を伝導させ、他方の磁性体ユニットの隣り合う磁性体ブロックの隣り合う磁性体との間並びに前記他方の磁性体ユニットの一端に位置する磁性体と前記低温側熱交換部との間及び前記他方の磁性体ユニットの他端に位置する磁性体と前記高温側熱交換部との間で熱を伝導させる。また、状態2のときには、前記隣り合う他方の磁性体ユニットの各磁性体ブロック内の隣り合う磁性体との間で熱を伝導させ、一方の磁性体ユニットの隣り合う磁性体ブロックの隣り合う磁性体との間並びに前記一方の磁性体ユニットの一端に位置する磁性体と前記低温側熱交換部との間及び前記一方の磁性体ユニットの他端に位置する磁性体と前記高温側熱交換部との間で熱を伝導させる。
そして、状態1から状態2に遷移するときには、熱伝導部材の熱的異方性により、隣り合う磁性体ユニットには熱が逃げず、磁性体ユニット内で効率的に熱を伝達させる。
低温側熱交換部40A及び高温側熱交換部40Bは、例えば室内の空気などの外部環境との熱交換ができる機構を備えている。例えば、外部から冷媒を供給し、その冷媒を介して外部環境との熱交換ができるようにした機構を採用しても良い。
以上のように構成されている本実施形態に係る磁気冷凍機500は次のようにして磁気冷凍を行う。
まず、駆動部900を作動させて磁石/熱伝導部材配置板800を時計または反時計方向に回転させると、30°回転するごとに、それぞれの磁性体ユニットにおいて、図1Aと図1Bの状態、すなわち図18Aと図18Bの状態を繰り返すことになる。つまり、状態1と状態2を繰り返す。この繰り返しによって、それぞれの磁気ユニットにおいて、低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに熱が移動する。最終的には、図2に示すグラフのように、低温側熱交換部40Aの温度を下げ、高温側熱交換部40Bの温度を上げることができ、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間に温度差を生じさせることができる。なお、以上の状態1と状態2を繰り返す動作によって、低温側熱交換部40Aと高温側熱交換部40Bとの間の温度差が拡大していく原理は、図3に基づいて説明した原理と同一である。
本実施形態の磁気冷凍機は、室内の空調を行うエアコン、冷蔵庫、車室内の空調を行うエアコン、車両の冷凍装置などに適用させることができる。
さらに、本実施形態では、磁性体配置板700と磁石/熱伝導部材配置板800を円盤状にして両板を相対的に回転させるものを例示したが、磁性体配置板700と磁石/熱伝導部材配置板800を平板状にして両板を相対的に直線的に往復移動させるものであっても良い。
以上のように磁気冷凍機を構成すると、磁性体配置板700と磁石/熱伝導部材配置板800を磁性体ユニットの配置方向に相対的に移動させだけで、磁気冷凍を行うことができるので、磁気冷凍機の構成を単純化でき、小型化、軽量化、低コスト化が実現できる。
(他の実施形態に係る磁気冷凍機の構成、動作)
以上の実施形態では、磁性体配置板700と磁石/熱伝導部材配置板800を円盤状にして両板を相対的に回転させるものを例示した。次に説明する実施形態は、磁性体を一列に配置し、その磁性体間に熱伝導部材を進退させて挿脱し、磁性体ユニットの熱を移動させる磁気冷凍機である。つまり、図1の原理を用いた磁気冷凍機である。
図22は、他の実施形態に係る磁気冷凍機の概略構成図である。この実施形態に係る磁気冷凍機は、熱伝導部材の挿脱の構成に特徴があるので、発明の理解を容易にするためこの構成を中心に説明する。
この実施形態に係る磁気冷凍機は、図示するように、6つの磁性体10A、10B、10C、10D、10E、10Fを一列に配置する。磁性体10Aに隣接して低温側熱交換部40Aを配置する。磁性体10Fに隣接して高温側熱交換部40Bを配置する。
低温側熱交換部40Aと磁性体10Aとの間には熱伝導部材30Aを、磁性体10Bと10Cとの間には熱伝導部材30Cを、磁性体10Dと10Eとの間には熱伝導部材3Eを、磁性体10Fと高温側熱交換部40Bとの間には熱伝導部材30Gをそれぞれ挿脱自在に配置する。熱伝導部材30A、30C、30E、30Gはロッド50Aに取り付けてある。ロッド50Aはリニアモータ60Aに取り付けてある。リニアモータ60Aはロッド50Aを図示のように往復移動させる。ロッド50Aの往復移動によって熱伝導部材30A、30C、30E、30Gが磁性体などの間を挿脱される。
磁性体10Aと10Bとの間には熱伝導部材30Bを、磁性体10Cと10Dとの間には熱伝導部材30Dを、磁性体10Eと10Fとの間には熱伝導部材30Fをそれぞれ挿脱自在に配置する。熱伝導部材30B、30D、30Fはロッド50Bに取り付けてある。ロッド50Aはリニアモータ60Bに取り付けてある。リニアモータ60Bはロッド50Bを図示のように往復移動させる。ロッド50Bの往復移動によって熱伝導部材30B、30D、30Fが磁性体の間を挿脱される。
磁気冷凍機の動作中はリニアモータ60Aと60Bが交互に動作する。つまり、図に示すように、リニアモータ60Aが動作したときにはリニアモータ60Bは動作せず、逆に、リニアモータ60Bが動作したときにはリニアモータ60Aが動作しない。したがって、熱伝導部材30A、30C、30E、30Gと熱伝導部材30B、30D、30Fは交互に磁性体などの間を挿脱される。
熱伝導部材30A−30Gの構成は図8から図14に示した通りである。また、磁性体10A−10Fは正の磁性体で構成し、その熱伝導部材との摺動面には図20に示したようにDLC膜15を形成する。熱伝導部材及び磁性体をこのように構成することによって熱伝達特性を高めることができ、同時に耐摩耗性も高めることができる。
この磁気冷凍機が動作することで、低温側熱交換部40Aから高温側熱交換部40Bに向かって熱を伝達させることができる。熱が伝達する原理は図1から図3に説明したとおりである。