JP5770097B2 - 予備成形体又は成形断熱材の製造方法、及び予備成形体又は成形断熱材 - Google Patents
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Description
本発明は、このような知見に基づくものである。
本発明による予備成形体の製造方法の好ましい態様においては、前記吸引成形工程が、成型された予備成形体の加熱処理を更に含む。
また、本発明による予備成形体の製造方法好ましい態様においては、前記フェノール樹脂の融点が64℃以上である。
本発明は、前記の予備成形体の製造方法によって得ることのできる予備成形体にも関する。
本発明による成形断熱材の製造方法の好ましい態様においては、前記吸引成形工程が、成型された予備成形体の加熱処理を更に含む。
また、本発明による成形断熱材の製造方法の好ましい態様においては、前記フェノール樹脂の融点が64℃以上である。
本発明は、前記の成形断熱材の製造方法によって得ることのできる成形断熱材にも関する。
また、本発明は、成型断熱材の製造のための、フェノール樹脂の使用であって、前記成型断熱材の製造が、炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、そして溶媒を吸引するスラリー法を用いるものであり、前記フェノール樹脂中の遊離フェノールの含有量が1重量%以下であることを特徴とする前記使用に関する。
本明細書において、「スラリー法」とは、少なくとも炭素繊維とバインダーとを含むスラリーを吸引成形することによって、予備成形体を成形する工程を含む、予備成形体又は成形断熱材の製造方法を意味する。
また、本発明の成形断熱材用の予備成形体の製造方法は、(a)炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、スラリーを調製する工程であって、スラリーに含まれる遊離フェノールが150ppm以下である前記工程、及び(b)前記スラリーから溶媒を吸引除去し、炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を含む予備成形体を成形する工程(以下、吸引成形工程と称する)、を含み、前記方法により、成形断熱材用の予備成形体を提供することができる。本明細書においては、前記成形断熱材の製造方法及び前記成形断熱材用の予備成形体の製造方法を会わせて、本発明の製造方法と称することがある。
《糸浮遊現象の発生》
本発明が解決しようとする課題である「糸浮遊現象」の発生について、本発明の製造方法の1つの実施態様に基づき、図1、図2及び図3を用いて説明する。
本発明の製造方法におけるスラリー調製工程(a)は、炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、スラリーを調製する工程である。具体的には、例えばフェノール樹脂を分散槽(1)を用いて、水に分散させ、フェノール樹脂分散液(12)を作成する。また、フェノール樹脂とは別に、炭素繊維を混合槽(2)を用いて、溶媒に分散させ炭素繊維分散液を調製し、この炭素繊維分散液に分散槽からフェノール樹脂分散液を混合することによって、フェノール樹脂及び炭素繊維が分散したスラリー(23)を調製することができる。混合槽(2)におけるスラリーを調製するための攪拌は、例えばエアレーション手段(21)によって行うことができる。
得られたスラリーは、成形槽(33)に移送され、吸引成形工程(b)において、スラリーから溶媒を吸引除去することにより、2次元ランダム配向を有する炭素繊維中にフェノール樹脂の混在した予備成形体として、成形される。そして、スチーム加熱によりフェノール樹脂を溶かして繊維間をわたらせこれを冷却することで結合させ、硬化した予備成形体を得ることができる。得られたスチーム処理予備成形体は、乾燥機(4)に移動し、十分乾燥させる。そして、乾燥したスチーム処理予備成形体を、焼成炉(5)に移動し、黒鉛化焼成を行い、成形断熱材が得られる。
糸浮遊現象は、炭素繊維とフェノール樹脂とが気泡を巻き込んで成形槽の上部に浮遊する状態であり、一年を通じて発生しているが、水温の低い冬季においては全く発生しないことも多く、水温の上昇にしたがって発生が増加する。また、糸浮遊現象における浮遊層の厚さも水温の上昇につれて厚くなる傾向がある。例えば、図3(A)は、薄い糸浮遊層(37)が発生した場合を示しているが、このように薄い糸浮遊層であれば、或る程度容易に解消することができ、正常な2次元配向を有する良好な予備成形体を得ることができる。一方、図3(B)に示すように、厚い糸浮遊層(38)が発生すると解繊作業が困難になり、結果的に予備成形体の上部が不良成形部となり製品収率が低下する。
一方、「糸浮遊現象」は、水温の高くなる夏季に頻発し、水温の低下とともに発生が減少する。従って、前記分散槽、混合槽、及び成形槽の温度を低温、例えば10℃に保つことによって、糸浮遊現象の発生を抑制することが可能である。しかしながら、この解決方法は夏季においては、水を冷却するための費用が掛かるため、実用的ではなかった。
本発明者らは、糸浮遊現象を解消するため、フェノール樹脂に着目し、従来スラリー法において使用されていたノボラック型フェノール樹脂、又はレゾール型フェノール樹脂とは物性の異なるフェノール樹脂を用いることを試みた。その結果、後述の実施例に示すように、フェノール樹脂A(ベルパールS890:エア・ウォーター社)及びフェノール樹脂B(ベルパールS899:エア・ウォーター社)を用いた場合、糸浮遊現象の発生をほぼ完全に抑制することができた。更に、従来スラリー法に使用していなかったタイプのノボラック型フェノール樹脂Cを用いた場合においても、糸浮遊現象の発生を抑制することができることを見出した。
表1のノボラック型フェノール樹脂Cを用いた場合から明らかなように、スラリー中の遊離フェノールが160ppmでは、糸浮遊現象は解消されない。また、後述の実施例6から明らかなように、スラリー中の遊離フェノールが24ppmにおいて、気泡の発生を抑えることが可能である。
本発明者らは、更にフェノール樹脂の融点に着目し、糸浮遊現象が抑制されたフェノール樹脂A、フェノール樹脂B、及びノボラック型フェノール樹脂C、並びに糸浮遊現象が発生したノボラック型フェノール樹脂Dの融点を測定した。その結果、ノボラック型フェノール樹脂Dと比較して、フェノール樹脂A、フェノール樹脂B、及びノボラック型フェノール樹脂Cの融点が高いことが判明した。更に、後述の実施例6に示すように、フェノール樹脂Aと、ノボラック型フェノール樹脂Dとを、10℃、20℃、及び30℃の条件で水に分散させ、気泡を発生させることより、フェノール樹脂の溶解及び気泡へのフェノール樹脂の巻き込みを調べた。温度が上昇するにつれて、ノボラック型フェノール樹脂Dでは、フェノール樹脂の溶解がおきるが、フェノール樹脂Aでは、フェノール樹脂の溶解は観察されなかった。表2に、それぞれのフェノール樹脂の融点と、水への溶解性についてまとめた。
〔a〕スラリー調製工程
スラリー調製工程(a)においては、炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維(以下、炭素繊維等と称することがある)、並びにフェノール樹脂、更に必要により、フェノール樹脂以外のバインダー及び/又はその他の材料を同時に溶媒に分散させ、スラリーを調製することも可能である。しかしながら、フェノール樹脂の分散と、炭素繊維等の分散とを別の槽、例えばそれぞれ分散槽(1)及び混合槽(2)で行い、混合することができる。別の槽でそれぞれの分散液を調製し、混合することによって、より均一なスラリーを調製することが可能である。前記フェノール樹脂以外のバインダー及びその他の材料についても、更に別の槽において分散させ、混合することも可能である。しかし、フェノール樹脂及び炭素繊維等と比較すると添加する量が少ないため、フェノール樹脂を分散させる分散槽、又は炭素繊維等を分散させる混合槽に加えて分散させることも可能である。
黒鉛化糸と炭素化糸等との組み合わせを用いる場合、黒鉛化糸と、炭素化糸等との比率は、特に限定されるものではないが、25:75〜100:0(重量%)が好ましい。炭素化糸等が75重量%を超えると、焼成時に歪が生じ割れ易くなるからである。
以下に、スラリー調製工程(a)の1つの態様を具体的に説明するが、スラリー調製工程(a)は、この態様に限定されるものではない。
吸引成形工程(b)においては、前記スラリー調製工程において得られたスラリー中の溶媒を吸引除去するにより、予備成形体を吸引成形する。吸引成形の方法は、少なくとも炭素繊維及びフェノール樹脂が分散されたスラリーを、吸引により成形する方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、前記特許文献2(特開平2−208264号公報)に記載のように、スラリーが充填されたスラリー槽に、中心部が中空の円筒形の吸引成形型を挿入し、吸引ポンプで吸引することによって、円筒形の吸引成形型の外面に炭素繊維及びフェノールを堆積させることによって、中空筒状の予備成形体を得ることができる。
なお、本明細書において、「予備成形体」は、特に断らない限り、水蒸気によるスチーミング(スチーム加熱)を行う前のもの、及び水蒸気によるスチーミング(スチーム加熱)を行った後のものの両方を意味するが、特に水蒸気によるスチーミング(スチーム加熱)を行った後の予備成形体を意味する場合「スチーム処理予備成形体」と称し、水蒸気によるスチーミングを行った前の予備成形体を意味する場合「未処理予備成形体」と称する。すなわち、本発明の予備成形体の製造方法によって製造される「予備成形体」は、「未処理予備成形体」及び「スチーム処理予備成形体」の両方を含む。
加熱処理の温度としては、フェノール樹脂が溶融し、繊維間に浸潤することができ、且つ硬化することのできる温度であれば、限定されない。熱処理の温度の下限は、フェノール樹脂の軟化温度以上である必要がある。熱媒体(例えば、スチーム又は熱風)の温度は、70℃以上であり、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは110℃以上であり、更に好ましくは130℃以上である。温度が上昇するほど、加熱を短時間で行うことができる。従って、加熱処理の温度の上限は、特に限定されるものではない。
以下に、吸引成形工程(b)の1つの態様を具体的に説明するが、吸引成形工程(b)は、この態様に限定されるものではない。
更に、得られたスチーム処理予備成形体を、乾燥し、そして焼成することによって、成形断熱材を得ることができる。
前記スチーム処理予備成形体は、焼成の前に充分乾燥させることが好ましい。例えば、乾燥は、乾燥機を用いて窒素雰囲気下で、80〜180℃の範囲の適当な温度で行うことができる。乾燥時間は、特に限定されるものではないが、溶媒の蒸発によるスチーム処理予備成形体の重量減少が見られなくなるまで続けることが好ましい。
《炭素繊維》
本発明の製造方法において使用する炭素繊維、又は炭素繊維化可能な繊維としては、断熱材の製造に用いることのできるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、炭素繊維化可能な繊維としては、石油ピッチ繊維、石炭ピッチ繊維、レーヨン、ポリアクリロニトリル繊維、又はフェノール樹脂繊維を挙げることができ、炭素繊維としては、これらの出発材料から得られたピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、又はフェノール樹脂系炭素繊維を挙げることができる。
本発明の予備成形体又は成形断熱材の製造方法においては、用いるフェノール樹脂の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、重量平均分子量が、300以上であり、1,000〜10,000が好ましく、2,000〜10,000がより好ましく、4,000〜10,000が最も好ましい。重量平均分子量が300未満であると分散液中で溶融し、繊維成分と凝集が生じ、密度むらが多くなることがあり、10,000を超えるとスチーミングを行った場合に硬化し難くなることがある。
遊離フェノールの含有量が1重量%以下であるフェノール樹脂は、前記スラリー調製工程〔a〕及び吸引成形工程〔b〕を含む成型断熱材用の予備成形体の製造のために使用することができる。すなわち、焼成することにより成型断熱材となる予備成形体の製造方法であって、(a)炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、スラリーを調製する工程、及び(b)前記スラリーから溶媒を吸引除去し、そして得られた成形体にスチーム加熱を行う、吸引成形工程を含み、前記スラリー調製工程において調製したスラリーに含まれる遊離フェノールの濃度が150ppm以下であることを特徴とする、予備成形体の製造のために使用することが可能である。
また、遊離フェノールの含有量が1重量%以下であるフェノール樹脂は、前記スラリー調製工程〔a〕、吸引成形工程〔b〕及び焼成工程〔c〕を含む成型断熱材の製造のために使用することができる。すなわち、炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を含む予備成形体を焼成することにより得られる成型断熱材の製造方法であって、(a)炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、スラリーを調製する工程、(b)前記スラリーから溶媒を吸引除去し、そして得られた成形体にスチーム加熱を行う、吸引成形工程、及び(c)前記吸引成形工程において得られた予備成形体を焼成する工程、を含み、前記スラリー調製工程において調製したスラリーに含まれる遊離フェノールの濃度が150ppm以下であることを特徴とする、成形断熱材の製造に使用することができる。
本発明の製造方法においては、フェノール樹脂以外にバインダーとして、フラン樹脂、キシレン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、熱硬化性アクリル樹脂、ポリイミド、ビニルエステル樹脂、熱硬化性アクリル系樹脂、又はシリコーン系樹脂などの熱硬化性樹脂を添加することもできる。
更に前記炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂以外に、その他の材料を添加することもできる。その他の材料としては、有機繊維、カチオン系樹脂、界面活性剤(高分子凝集剤)、分散剤、安定剤、粘度調整剤、又は充填剤を挙げることができる。更に、有機繊維としては、例えば、木材パルプ、麻等の天然繊維、レーヨン等の半合成繊維、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリアミド等の合成繊維を挙げることができる。
30mLの三角フラスコに流動パラフィン5mLを量り取る。次いで混合した試料の袋の3ヶ所からランダムにミクロスパチュラで試料を取り、該三角フラスコに加えた後、混合して流動パラフィンに分散させた。該三角フラスコからマイクロピペットで300μLの分散液を取り、1枚目のスライドガラスに付け2枚目のスライドガラスを重ねて圧着させた。圧着した該スライドガラスを画像解析装置株式会社ニレコ製ルーゼックスIIIUに取付けて測定本数100本各々単繊維の繊維径を測定後、該画像解析装置から出力されたヒストグラフ及び繊維径が印字されたチャートから繊維径を求めた。
《比重液の調製》
塩化亜鉛と1%塩酸の所定量をビーカーに量り取った後、混合した。これを500mLのメスシリンダーに移しかえ、20±1.0℃の低温恒温水槽に浸し、20±1.0℃に調整後、比重計を浮かべて比重を測定した。塩化亜鉛と1%塩酸の相対量を適宜変えて10種類の比重液を調製した。
《試料の比重測定》
20mLのメスシリンダーに、前記10種類の比重液を各々2mLずつ、比重の高いものから静かに管壁を伝わらせながら注ぎ入れ、密度勾配管を作った。次いで、この密度勾配管を20±1.0℃の低温恒温水槽に浸し、30分経過後、乳鉢で摺り潰して目開き150μmの標準ふるいを通過した炭素繊維試料約0.1gを少量のエタノールに分散させ、密度勾配管に静かに入れ、12時間以上静置した。12時間以上経過後、密度勾配管の中の試料の位置を読み取り、比重換算表より、試料の比重を求めた。
乳鉢で粉砕した試料をスクリューバイアル瓶に約2g入れ、120±5℃の乾燥機で2時間乾燥後デシケーターで放冷する。
ガスバーナーで焼成した白金ボートをボート冷却台にのせて、硝子鐘中で室温まで冷却後、標準試薬として有機元素分析用アントラセン2mg(キシダ化学株会社製)をミクロ天びんで4個の白金ボートに1μgの桁まで量り取った。
乾燥試料約2mgをミクロ天びんで1検体当たり3個の白金ボートに1μgの桁まで量り取った。
試料及び標準試薬が入った白金ボートを元素分析計のオートサンプラーの試料台にセットし元素分析計をスタートさせ、試料中の炭素含有率(%)について繰返し数n=3の平均値をチャートに出力させ、少数点以下の値を整数に丸めた。
測定には、元素分析計はCHNコーダーMT−5(ヤナコ分析工業社製)、ミクロ天びんはスーパーミクロ天秤(ザルトリウス社製;秤量範囲〜4000mg読取限度1μg)を使用した。
(4)重量平均分子量
重量平均分子量はJIS K 6910 5.22.1に準拠して測定した。高速液体クロマトグラフィはGL−7400シリーズ(ジーエルサイエンス社製)を使用し、カラムはKF−806M+KF−802+KF−801(昭和電工製)を使用しカラム温度40℃で測定した。GPC解析ソフトはG−7000G形GPCソフトウェア(日立製作所製)を用いた。
標準物質はピークトップ分子量が7450000、3850000、2060000、1190000、736000、205000、52400、30300、13900、33700、1310、1050、580のポリスチレン標準13種(昭和電工製)を使用した。
融点は、DSC−15(Mettler社)を用い、試料10mgを窒素気流下で−50℃から250℃まで昇温速度10℃/minで測定した。
恒温乾燥機で1時間乾燥後、デシケーターで1時間放冷した試料約0.5gを落とし蓋付き磁性ルツボ(以下、磁性ルツボと称する)に0.1mgの桁まで計り取った。磁性ルツボに30mmの深さまでコークスを充填した磁製B型ルツボ(以下B型ルツボ)の中心に固定版を押込みB型ルツボと磁性ルツボの隙間にコークスを詰めB型ルツボの上蓋をした。窒素で置換された電気炉の温度が800℃になっていることを確認してから、B型ルツボを電気炉に挿入し、窒素を導入しながら30分間加熱後、B型ルツボを取出し、ルツボ放冷板に約20分間置き放冷する。B型ルツボから磁性ルツボを取出し、毛筆でルツボの外側に付着しているコークスを払い落とした後、デシケーターで20分間放冷し0.1mgの桁まで量る。
次式により試料の残炭率(%)を小数点以下1桁を四捨五入し整数とした。
A=(B−C)/S×100
A:残炭率(%)
B:加熱前の乾燥試料入り落し蓋付き磁製ルツボの質量(g)
C:加熱放冷後の乾燥試料入り落し蓋付き磁製ルツボの質量(g)
S:乾燥試料の質量
レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(日機装社製、MT3300EX)を用いて粒度分布を測定した。得られた粒度分布の測定結果から平均粒径は求めた。
(8)遊離フェノールの濃度
遊離フェノールの濃度はJIS K 6910 5.16に準拠して測定した。ガスクロマトグラフはG−6000(日立サイエンスシステムズ社製)を使用して、カラムはJ&W DB−5(アジレント・テクノロジー社製)を使用し昇温法で測定した。
(1)スラリーの調製
分散槽に150Lの水を満たし、攪拌機により攪拌を開始した。この分散槽に、フェノール樹脂A(ベルパールS890;エア・ウォーター社)41.8kgを投入し、分散させた。
混合槽に2300Lの水を満たし、炭素化糸40.8kg、及び黒鉛化糸43.0kgを投入した。エアレーション(Air量:80Nm3/h)を開始し、20分以上エアレーションを続け、炭素化糸及び黒鉛化糸を均一に分散させた。25分後にエアレーションの空気量を50Nm3/hに落とし、分散槽からフェノール樹脂分散液を移送し、更に約5分間エアレーションを継続し、スラリーを得た。分散槽、及び混合槽の水温は、16℃であった。用いた炭素化糸及び黒鉛化糸の各物性を表3に示す。また、分散槽における水とフェノール樹脂の量、及び混合槽における水と炭素繊維の量を表4に示す。またスラリー中のフェノール樹脂、及び炭素繊維の重量%を表5に示す。
成形槽の架台と枠(幅106cm×奥行き162cm×深さ60cm)の間に、濾布(ポリエチレンテレフタレート製の目開き150Me)を敷き、クランプで枠と架台とを固定した。成形槽に1000Lの水を満たし、濾布下に溜まった空気を抜いた。
成形槽の下部から、−45kPaで吸引を開始し、混合槽からスラリーの移送を開始した。成形槽の液面が満水のレベルとなるようにスラリーの移送量を調製しながら吸引と移送を続けた。混合槽のスラリーがすべて成形槽に移送された後、そのまま15〜20分間吸引を続け、余分な水分を排水した。成形槽の水温は、16℃であった。吸引終了後、成形枠の上部に蓋をかぶせ、90分間スチーミングを行った。成形枠を取りはずし、一晩放置し、スチーム処理予備成形体を得た。
得られたスチーム処理予備成形体が、硬化していることを確認し乾燥機に搬入した。窒素雰囲気下、110℃で、水分蒸発により重量減少が見られなくなるまで、約6日間乾燥させた。乾燥機からスチーム処理予備成形体を取り出し、バッチ式焼成炉を用いて黒鉛化焼成を行い、成形断熱材を得た。
前記成形槽において糸浮遊は、全く発生せず、糸浮遊層の厚さは0mmであった。従って、本実施例では、解繊作業は行っていない。結果を図4及び表6に示す。
分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、16℃から22℃に変更したことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、成形断熱材を得た。糸浮遊層の厚さは0mmであった。結果を図4及び表6に示す。
フェノール樹脂Aを、フェノール樹脂B(ベルパールS899:エア・ウォーター社)に変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、16℃から18℃に変更したことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、成形断熱材を得た。糸浮遊層の厚さは0mmであった。結果を図4及び表6に示す。
フェノール樹脂Aを、フェノール樹脂Bに変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、16℃から23℃に変更したことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、成形断熱材を得た。糸浮遊層の厚さは0mmであった。結果を図4及び表6に示す。
フェノール樹脂Aを、フェノール樹脂D(RD−319A:ヘキシオン社)に変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、9℃に変更したことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。70mmの浮遊層が発生した。結果を図4及び表6に示す。
分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を10℃に変更したことを除いては、比較例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。60mmの浮遊層が発生した。結果を図4及び表6に示す。
分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を18℃に変更し、解繊作業を行ったことを除いては、比較例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。水温が上昇したため、解繊作業を行ったにもかかわらず、75mmの浮遊層が発生した。結果を図4及び表6に示す。
分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を19℃に変更し、解繊作業を行ったことを除いては、比較例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。水温が上昇したため、解繊作業を行ったにもかかわらず、100mmの浮遊層が発生した。結果を図4及び表6に示す。
分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を22℃に変更し、解繊作業を行ったことを除いては、比較例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。水温が上昇したため、解繊作業を行ったにもかかわらず、180mmの浮遊層が発生した。結果を図4及び表6に示す。
分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を23℃に変更し、攪拌をエアレーションから攪拌機にし、解繊作業を行ったことを除いては、比較例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。水温が上昇したため、解繊作業を行ったにもかかわらず、90mmの浮遊層が発生した。結果を図4及び表6に示す。
フェノール樹脂Aをノボラック型フェノール樹脂Dに変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、9℃に変更したこと、並びに解繊作業を行ったことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。水温を低くし、解繊作業を行ったことにより、糸浮遊層の厚さは0mmであった。結果を図4及び表6に示す。
フェノール樹脂Aをノボラック型フェノール樹脂Dに変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、11℃に変更したこと、並びに解繊作業を行ったことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。水温を低くし、解繊作業を行ったことにより、糸浮遊層の厚さは0mmであった。結果を図4及び表6に示す。
フェノール樹脂Aをノボラック型フェノール樹脂Dに変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、15℃に変更したこと、並びに解繊作業を行ったことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。解繊作業を行ったことにより、糸浮遊層の厚さは25mmと改善された。結果を図4及び表6に示す。
フェノール樹脂Aをノボラック型フェノール樹脂Dに変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、21℃に変更したこと、攪拌をエアレーションから攪拌機にしたこと、並びに解繊作業を行ったことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。攪拌をエアレーションから攪拌機にしたこと、及び解繊作業を行ったことにより、糸浮遊層の厚さは30mmと改善された。結果を図4及び表6に示す。
本実施例では、糸浮遊現象の発生しないフェノール樹脂Aを用いたスラリーに、遊離フェノールを添加し、気泡の発生を調べた。
溶媒の水に、フェノール樹脂A、遊離フェノール、及び炭素化糸を溶解又は分散させ、エアーストンを用いてエアレーションを行い、気泡の発生と、発生した気泡の破泡の様子を観察した。フェノール樹脂A、遊離フェノール、及び炭素化糸の組み合わせを、表8に示す。コントロールとしてフェノール樹脂に含まれる可能性のある化合物の1種であるヘキサミンを添加した場合に、気泡の発生が起こるかも検討した。
以上のことから、遊離フェノールが存在すると微細な気泡の発生が増加し、更にフェノール樹脂が加わると、微細な気泡の破泡性が悪くなることがわかった。このことは、スラリー中の遊離フェノール濃度が高くなることにより、糸浮遊現象の発生が増加し、逆に遊離フェノール濃度を低下させることにより、糸浮遊現象の発生を抑制することが可能であることを示している。
本比較例では、ノボラック型フェノール樹脂Dを用いた場合に発生した、糸浮遊物の走査電子顕微鏡写真を撮影し、解析した。
成形槽から採取した糸浮遊物を、メンブランフィルター(セルロース、目開き1μm)に乗せた。減圧乾燥機にて、常温、−0.080MPa、及び窒素雰囲気下(常時10L/minチャージ)の条件で、3時間放置した。その後、減圧乾燥機を、大気圧に戻し、窒素をチャージしたまま一晩放置した。試料が乾燥していることを確認し、スパッタリング装置にて金蒸着を実施した後、走査電子顕微鏡で観察を行った。図5に示したように、糸浮遊物は、炭素繊維の周囲に融解したフェノール樹脂が付着し、炭素繊維同士を接着させている(図5A、B、C、及びD)。一方、使用前のフェノール樹脂を走査電子顕微鏡で観察したところ、溶解した状態は見られなかった(図5E及びF)。従って、融解したフェノール樹脂により炭素繊維が接着し、解繊を困難にしていると考えられる。
更に、本発明者は、糸浮遊現象が発生した場合に、水面に存在している破泡しない灰色の泡を、走査電子顕微鏡で観察した。図6に示すように、この灰色の泡は、炭素繊維と融解したフェノール樹脂によって膜が構成されたものである。従って、糸浮遊物においてもフェノール樹脂が、気泡表面に膜を形成することで破泡性を悪化させていると考えられる。
本実施例では、糸浮遊現象の発生するノボラック型フェノール樹脂Dと糸浮遊現象の発生しないフェノール樹脂Aとについて、分散量及び温度を変化させて、溶媒への溶解の程度、及び気泡の発生の程度について検討した。
水温を10℃、20℃、又は30℃に調整した水に、それぞれのフェノール樹脂を2.0、1.5、1.0、0.5、又は0.1wt%となるように分散させた。手動による振とう撹拌を30cm間隔で上下に150回行い、静置し、10分後及び60分後に観察を行った。10分後の観察結果を表9に示す。
しかしながら、ノボラック型フェノール樹脂Dにおいて、0.5wt%では、若干の気泡の発生が見られたが、0.1wt%では、気泡の発生が見られなかった。この条件(0.1wt%)における分散液中の遊離フェノールの量は24ppmであり、スラリー中の遊離フェノールが、24ppmの場合は、ほぼ完全に気泡の発生が抑えられると思われる。
本解析例ではフェノール樹脂A、フェノール樹脂B、ノボラック型フェノール樹脂C及びノボラック型フェノール樹脂Dの融点を測定した。試料10mgを窒素気流下で−50℃から250℃まで昇温速度10℃/minで測定した。
表8に示すように、フェノール樹脂Aの融点は69.5℃、フェノール樹脂Bの融点は68.8℃、ノボラック型フェノール樹脂Cの融点は71.1℃、及びノボラック型フェノール樹脂Dの融点は63℃であった。糸浮遊現象が発生するノボラック型フェノール樹脂Dの融点が低いことが判明した。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
11・・・攪拌機;
12・・・フェノール樹脂分散液;
13・・・パイプ;
14・・・ポンプ;
15・・・パイプ;
2・・・混合槽;
21・・・エアレーション手段;
22・・・攪拌機;
23・・・スラリー;
24・・・パイプ;
3・・・成形器;
31・・・枠;
32・・・架台;
33・・・成形槽;
34・・・濾布;
35・・・吸引ポンプ;
36・・・ラッパ管;
37・・・薄い浮遊層;
38・・・厚い浮遊層;
39・・・スラリー;
40・・・未処理予備成形体;
41・・・スチーム供給手段。
Claims (10)
- (a)炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、スラリーを調製する工程、及び
(b)前記スラリーから溶媒を吸引除去し、予備成形体を成型する、吸引成形工程、
を含み、
前記スラリー調製工程において調製するスラリーに含まれる遊離フェノールの濃度が150ppm以下であることを特徴とする、成形断熱材用の予備成形体の製造方法。 - 前記吸引成形工程が、成型された予備成形体の加熱処理を更に含む、請求項1に記載の予備成形体の製造方法。
- 前記フェノール樹脂の融点が64℃以上である、請求項1又は2に記載の予備成形体の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載の予備成形体の製造方法によって得ることのできる予備成形体。
- 炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を含む予備成形体を焼成することにより得られる成型断熱材の製造方法であって、
(a)炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、スラリーを調製する工程、
(b)前記スラリーから溶媒を吸引除去し、予備成形体を成型する、吸引成形工程、及び
(c)前記予備成形体を焼成する工程、
を含み、
前記スラリー調製工程において調製するスラリーに含まれる遊離フェノールの濃度が150ppm以下であることを特徴とする、成形断熱材の製造方法。 - 前記吸引成形工程が、成型された予備成形体の加熱処理を更に含む、請求項5に記載の予備成形体の製造方法。
- 前記フェノール樹脂の融点が64℃以上である、請求項5又は6に記載の製造方法。
- 請求項5〜7のいずれか一項に記載の成形断熱材の製造方法によって得ることのできる成形断熱材。
- 成型断熱材用の予備成形体の製造のための、フェノール樹脂の使用であって、
前記予備成形体の製造が、炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、そして溶媒を吸引するスラリー法を用いるものであり、
前記フェノール樹脂中の遊離フェノールの含有量が1重量%以下であることを特徴とする前記使用。 - 成型断熱材の製造のための、フェノール樹脂の使用であって、
前記成型断熱材の製造が、炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、そして溶媒を吸引するスラリー法を用い、予備成形体を製造し、そして前記予備成形体を焼成するものであり、
前記フェノール樹脂中の遊離フェノールの含有量が1重量%以下であることを特徴とする前記使用。
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