IP立体ディスプレイは、被写体から発せられる光線空間を再現する方式であるため、輻輳と調節の矛盾を改善できる可能性がある。しかし、IP立体ディスプレイには、大要、以下の(A1)〜(A3)に示す問題がある。
(A1)解像度の問題
例えば、非特許文献1に開示された従来のIP立体ディスプレイでは、解像度がまだ実用域のレベルになっておらず、輻輳点とピント調節点との一致を確認できるまでに至っていない。輻輳点とピント調節点との一致を確認できるようにするために、今後、解像度を高める必要がある。IP立体ディスプレイは、立体画像の表示部分に多数の要素レンズ(光学レンズ)を並置したレンズ板を重ね合わせた構造になっているため、解像度の上限がレンズピッチで規定されている。したがって、解像度を高めるためには、レンズピッチを小さくする必要がある。
(A2)立体像の奥行き再現範囲の問題
IP立体ディスプレイでは、ディスプレイの奥行き方向の所定地点で解像度を高めることができたとしても、その所定地点の前後の解像度が低いために前後の画像がボケてしまうという問題もある。IP立体ディスプレイでは、詳細は後記するが、生成される再生像の解像度(再生像の空間周波数)が、光学レンズを並置したレンズ板付近で最大であって、レンズ板から離れるにしたがって低下する。よって、IP立体ディスプレイに精細度の高い立体像を表示させると、近景および遠景の表示画像の解像度が低下する。つまり、高精細な立体像の近景の画像と遠景の画像がボケてしまう。
(A3)視域の問題
IP立体ディスプレイでは、上下左右いずれの方向においても、観察者の位置に応じた立体像を見ることができる。ただし、観察者が移動してディスプレイを視認できる範囲(視域)は、ある1つの要素画像からの光が、それに対応する1つの要素レンズにより放射される領域に限られる。IP立体ディスプレイでは、表示された立体画像の視域が例えば液晶ディスプレイ等の通常のFPD(flat panel display)に比べて狭いという問題がある。例えば非特許文献1に開示された従来のIP立体ディスプレイの視域角は設計仕様として28°、実測値として24°であり、通常のFPD(例えば50〜170°)に比べて格段に小さい。
これら(A1)〜(A3)の各問題が発生する要因について以下に数式を用いて詳細に説明する。まず、主として、(A1)解像度の問題が発生する要因について図10を参照して説明する。図10のグラフにおいて、横軸は再生像の奥行き位置(レンズ板と再生像の距離)を表すZ軸、縦軸は後記する再生像の空間周波数γをcpr(cycle per radian)を単位として表すγ軸をそれぞれ示す。Z軸においてZ=0の位置に、図示しないレンズ板があるものとする。また、観察者(瞳で示す)が立体像を観察する観察位置は、Z軸においてZ=Lの位置であるものとする。つまり、レンズ板から観察者までの距離(以下、観視距離という)はLである。
一般に、IP立体ディスプレイの再生像が表示される最大の空間周波数(ナイキスト周波数)βは、要素レンズのピッチ(以下、単にレンズピッチという)Pと観視距離Lとを用いて式(1)で与えられる。
β=L/2P … 式(1)
立体像の解像度は、レンズピッチPだけでなく、要素レンズによって投影される要素画像の空間周波数特性にも依存する。要素レンズによって投影される要素画像の空間周波数がαであるとすると、この投影された像は、見る人の位置からは、異なる空間周波数βの像として見える。ここではαを投影空間周波数、βを観視空間周波数と表記する。αとβの関係は、次の式(2)で表わされる。
β=α(L−z)/|z| … 式(2)
ここで、zは、図10のZ軸上の任意の値であって、再生像の奥行き位置(レンズ板と再生像の距離)を表し、図10のZ軸において図示しないレンズ板の位置(Z=0)に対して右側が正、左側が負の値を取るものとする。
図10に示すライン801は、式(2)のzが正の値をとるときの観視空間周波数に相当し、ライン802は、式(2)のzが負の値をとるときの観視空間周波数に相当し、ライン803は、式(1)のβ(ナイキスト周波数)に相当している。図10においてライン801〜803を繋げた実線で示すように、再生像の空間周波数は、図示しないレンズ板付近(Z=0近傍)で最大となり、レンズ板から離れるにしたがって低下する。なお、再生像をレンズ板から離していくときに、同じ距離ならば、zが負の値をとるときよりも正の値をとるときの方が観視空間周波数がより低くなっていることが分かる。
また、式(2)によれば、ある一定の観視空間周波数βに対しては、立体像がレンズ板から離れるほど、投影空間周波数αは高くなることが分かる。投影空間周波数αは、表示素子の画素ピッチと、要素レンズの回折および収差とに依存する。
要素レンズの回折の限界については、Abbeの回折限界によって理論的に予見される。Abbeの回折限界は、次の式(3)で表すように、光学レンズを利用した場合に収束できる光のスポットサイズSの下限値を示したもので、光学レンズを用いた場合に原理的に収束可能な限界値を示すものである。
ここで、λは光学レンズに入射する光の波長、nは光学レンズの焦点と光学レンズの間の媒質の屈折率(レンズの屈折率ではない)である。また、角度(回折角)θについては、光学レンズの口径rと光学レンズの焦点距離dとを用いて以下の式(4)から算出される。
非特許文献1に開示された従来のIP立体ディスプレイの場合のスポットサイズを求めるために、非特許文献1に記載された装置仕様を、前記式(3)および式(4)に代入して、青色光(λ=450nm)の条件で計算すると、スポットサイズは1.082μmと求まる。一方、この従来のIP立体ディスプレイの投射スクリーン上の要素画素の画素ピッチは、約70μm程度である。
この従来のIP立体ディスプレイにおいて、さらなる高精細化(レンズピッチPをさらに細かくすること)を実現するためには、画素ピッチの低減(狭ピッチ化)が不可欠となる。ただし、画素ピッチを70μmより小さくした場合に、スポットサイズも同様に低減することについては、前記式(3)によって難しくなっている。その理由は、高精細化に伴いレンズピッチPをさらに細かくする場合、光学レンズの口径rが小さくなりそれによってスポットサイズSが増大してしまっては高精細な画像を得られないからである。よって、高精細化する前に例えば1.082μmであったスポットサイズSを、その値を増大させることなく高精細化するためには、高精細化の前後で、式(3)および式(4)のθの値を変えないことが要求される。そのため、式(4)によって、要素レンズとして用いている光学レンズの口径rを小さくする際には、その口径rのサイズの減少に比例して光学レンズの焦点距離dも小さくする必要がある。
一方、表示素子の画素ピッチがp、レンズ板から表示素子までの距離がgである場合、要素レンズによって投影される要素画像の最大の空間周波数αpは、次の式(5)で表わされる。
αp=|g|/2p … 式(5)
ここで、gは、図10に示すZ軸上では図示しないレンズ板に対して右側が正、左側が負の値を取るものとする。ただし、式(5)においてgの値は、実際的には各要素レンズの焦点距離dの値と等しく、gの値は理想的にはディスプレイの表示画面全体に渡って一定値である。しかしながら、大型ディスプレイの場合、gの値を表示画面全体に渡って一定値に保持することは極めて難しい。よって、表示スクリーン面とレンズ板との間を一定値に保持できずに、g値が焦点距離dの値からずれてしまうと、表示される立体画像はボケてしまうことになる。これは、前記した(A2)立体像の奥行き再現範囲の問題が発生する要因となっている。
前記した式(5)で表わされる要素画像の最大の空間周波数αpとは別に、要素レンズの回折限界の空間周波数をαd、要素レンズの収差を考慮した場合の限界の空間周波数をαeと定義する。このとき、要素レンズによって投影される要素画像の限界の空間周波数、つまり、前記式(2)に示す投影空間周波数αは、正確には、次の式(6)で表わされるように、3つの空間周波数のうちの最小値で規定される。
α=min[αp,αd,αe] … 式(6)
このようにして決まる投影空間周波数で投影された要素画像が集積されて、立体像が生成される。式(6)で規定される投影空間周波数αは、前記した式(2)によって観視空間周波数βと関係付けられている。
以上のことから、任意の奥行に生成される立体像の最高空間周波数γは、次の式(7)に示すように、レンズピッチPのみで決まる最大空間周波数βnと、前記した式(2)で計算される観視空間周波数βとを比較した結果の低い方に制限されることになる。
γ=min[βn,β] … 式(7)
この式(7)で表わされる空間周波数γを上限空間周波数γと表記する(図10参照)。上限空間周波数γの決定要因であって、IP立体ディスプレイの高精細化を阻害する要因としては、式(2)および式(3)で規定した要素レンズの回折による限界が顕著となっている。
次に、主として、(A3)視域の問題が発生する要因として視域の広がりについて図11を参照して説明する。図11は、従来のIP立体ディスプレイ(図1(a)参照)において、要素画像と要素レンズにより形成される視域の一例として、ディスプレイの鉛直方向の切断面を示している。図11において、横軸は、図10と同様に、再生像の奥行き位置(レンズ板と再生像の距離)を表すZ軸を示し、観察者の観察位置は、Z軸においてZ=Lの位置であるものとする。図11において、角度Ωは、視域の広がりを示しており、以下では視域角Ωと表記し、次の式(8)で表わす。
Ω≒2tan−1(P/2|g|) … 式(8)
ここで、Pはレンズピッチを示し、gはレンズ板から表示素子までの距離(要素レンズの焦点距離)を示す。なお、図11において、1つの要素レンズが投影する、表示パネル202上の要素画像表示領域の高さの値と距離gと視域角Ωとの幾何関係を表したものが式(8)であり、式(8)において、要素画像表示領域の高さは、近似的にPの値で表されている。
前記した式(1)〜式(8)で表される関係と、IP立体ディスプレイにおける前記した(A1)〜(A3)の各問題とを対比して整理する。
前記(A1)の問題として挙げたIP立体ディスプレイの解像度を改善するためには、前記式(1)によって、要素レンズのレンズピッチPを小さくする必要がある。これは、式(1)において、Lが一定値のときにPが小さくなると、再生像が表示される最大の空間周波数βが大きくなるからである。
一方、前記(A3)の問題として挙げた視域を拡大するためには、前記式(8)によって、レンズピッチPを大きくする必要がある。つまり、解像度の改善と視域の拡大とは、トレードオフの関係にある。
また、別の観点からは、前記(A3)の問題として挙げた視域を拡大させるためには、前記式(8)によって、レンズ板から表示素子までの距離(要素レンズの焦点距離)gを小さくする必要がある。一方、前記(A2)の問題として挙げた立体画像の奥行き再現範囲を拡大するためには、前記式(5)によって、レンズ板から表示素子までの距離(要素レンズの焦点距離)gを大きくする必要がある。つまり、視域の拡大と立体画像の奥行き再現範囲の拡大とは、トレードオフの関係にある。
したがって、IP立体ディスプレイにおいて、解像度の向上と視域の拡大との両立を図ることは難しく、また、視域の拡大と立体画像の奥行き再現範囲の拡大との両立を図ることも難しい。
以下に、前記(A1)〜(A3)の各問題に対する現実的な具体例として、IP立体ディスプレイの技術の今後の発展により想定される技術と、従来技術とを対比させて整理する。非特許文献1に開示された従来のIP立体ディスプレイは、前記したように、対角24型、要素レンズの個数は400(H)×250(V)であり、画素ピッチは70μm程度である。これよりも高精細かつ大型なIP立体ディスプレイの目標値として、例えば、以下の仕様をもつディスプレイを想定する。すなわち、例えば、対角50型、要素レンズの個数を、ハイビジョンの画素数である1920(H)×1080(V)にまで拡大し、視域30°、要素レンズで投影する要素画像を構成する要素画素数を60×60ピクセルとした構造を有した将来型のIP立体ディスプレイを想定する。この場合、表1に示すように、要素画素の画素ピッチは、3〜9μm(この画素ピッチの値は要素レンズや各要素画素の形状および配列に依存する)にまで小さくする必要がある。実際には、この画素ピッチの中に、赤、青、緑(RGB)の各要素画素を形成することになる。
前記したように、非特許文献1に開示された従来のIP立体ディスプレイのスポットサイズ(青色光、λ=450nm)は1.082μmとなる。よって、将来型のIP立体ディスプレイの画素ピッチ(3〜9μm)は、従来のIP立体ディスプレイのスポットサイズの大きさ(1.082μm)に近いと言える。さらに、実際の画素を構成するRGBの各画素は、この画素ピッチ(3〜9μm)の中に形成する必要があるため、各画素のサイズは、スポットサイズと同等である。そのため、上記のように想定した将来型のIP立体ディスプレイにおいては、光の回折限界によって、光学レンズによる高精細化には限界があると考えられる。つまり、前記(A1)の問題が発生する。
このような理由から、式(6)に示す投影空間周波数αにおいて、要素レンズの回折限界の空間周波数αdの寄与が大きくなる。そのため、光学レンズの回折の寄与によって、生成される再生像の解像度(空間周波数)が、図10においてライン801〜803を繋げた実線で示すように、「光学レンズを並置したレンズ板付近で最大となり、レンズ板から離れるにしたがって低下する」現象が顕在化し、奥行き方向の再現範囲が低下する。すなわち、光学レンズの回折の効果に由来して、立体像の近景および遠景の表示画像の解像度の低下問題(立体像の近景と遠景の画像がボケる問題)が生じるようになる。つまり、前記(A1)の問題に連動して(A2)の問題が発生する。
一方、前記(A1)の問題へ対処するディスプレイの高精細化への要件として、眼の瞳に対して、立体像の結像点を通過する光線を少なくとも2本(複数本)入れるだけの高精細化が実現できないと、輻輳と調節の矛盾を発生し易く、観察者の眼の負担が増加するという問題もある。このため、IP立体ディスプレイを高精細化するにあたっては、レンズピッチを小さくすることによって要素レンズの個数を増やすことに加えて、単位要素レンズ当たりの要素画素数の増加(立体表示画面数の増加)が求められている(非特許文献2参照)。レンズピッチの低減(要素レンズの個数の増加)は要素レンズのレンズ径の縮小化につながるので、単位要素レンズ当たりの要素画素数の増加とは、トレードオフの関係にある。
なお、レンズ径の縮小化に関しては、IP立体ディスプレイとは直接関係ないものの、発光素子の分野では、微細化技術が精力的に進められている。特に柱状構造を持つ、LED(Light Emitting Diode)素子の開発は目覚ましく、各種光源を目指した研究が進められているのが現状である(例えば、特許文献1や非特許文献3参照)。
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、表示する画像の精細度を高めると共に、視域および奥行き再現範囲を拡大できるIP立体ディスプレイを提供することを課題とする。
前記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載のIP立体ディスプレイは、
インテグラル・フォトグラフィー(IP)方式により、撮像側にて被写体を光学レンズが並置された撮像側レンズ板を介して撮像した各要素画像から前記被写体の立体像を再生するIP立体ディスプレイであって、前記各要素画像から前記被写体の立体像を再生するための、撮像側レンズ板に対応した光学レンズを並置したレンズ板を設けることなく、基板上に前記要素画像を構成する要素画素としての発光素子を前記要素画像毎に複数設けてなり、前記要素画素となる前記発光素子は、当該素子で発生する光の干渉によって指向性を持った光線を出射するLED素子又はEL素子からなり、前記複数の発光素子が設けられた表示素子面の前に仮想的なレンズ板が配置され、前記要素画像を構成する各要素画素が発生するそれぞれの光線の方向を、前記仮想的なレンズ板に並置された仮想的な光学レンズのレンズ中心を通過する光軸によって規定される方向と同様になるように前記要素画素毎に設定したことを特徴とする。
かかる構成によれば、IP立体ディスプレイは、撮像側にて光学レンズを並置したレンズ板の当該光学レンズで撮像された要素画像を入力して立体像を再生することを前提にしながらも、立体像を再生するときには、原理的に高精細化が難しいレンズ板を使用することはない。このIP立体ディスプレイには、要素画像を構成する要素画素として発光素子が設けられており、画素毎に、発光素子からの光線の射出方向を設定することとした。従来は表示パネルに表示された各要素画像を対応する要素レンズでそれぞれ投影して立体像を再生していた。このとき、要素画像を構成する要素画素は要素レンズにより投影されていた。これに対して、本発明のIP立体ディスプレイは、要素画像を構成する要素画素を構成する発光素子において、射出する光線の方向が、各要素画像から被写体の立体像を再生するための要素レンズ(光学レンズ)のレンズ中心を通過する光軸によって規定される方向と同様になるように画素毎に設定されているので、実際には光学レンズが配置されていないにも関わらずあたかも光学レンズに投影されたかのように要素画素(発光素子)からの光が特定の方位を向いた光線となる。要するに、要素画素を形成する発光素子自体が、発光の方向に指向性を持っている。そのため、本発明のIP立体ディスプレイは、光学レンズで投影される光線の方向と同様の方向を、各要素画素を構成する発光素子にそれぞれ設定しておくことで、同様に立体像を再生することができる。
また、請求項2に記載のIP立体ディスプレイは、請求項1に記載のIP立体ディスプレイにおいて、前記発光素子は、少なくとも一部が柱状に形成されて柱頭の射出面から光線を射出するLED素子であることとした。
かかる構成によれば、IP立体ディスプレイは、発光素子としてLED素子を備え、このLED素子の少なくとも一部が柱状に形成されているので、発光素子で形成する画素を微小化し、画素ピッチを小さくすることができる。また、半導体の微細化プロセスによって半導体結晶を成長させることで、LED素子の柱状の部分を形成し、太さや高さを制御した柱の柱頭を射出面にすることができる。ここで、LED素子の材料は、GaN、AlN、GaAlN、ZnO、GaAs、GaP、GaAlAs、GaAlAsPからなる群から選択された1つであることが好ましい。
また、請求項3に記載のIP立体ディスプレイは、請求項1または請求項2に記載のIP立体ディスプレイにおいて、前記発光素子は、平坦な基板上に画素毎に設けられた半導体発光層を含む基部と、前記基部の上面に設けられた複数の半導体柱状部とを備え、前記複数の半導体柱状部は、柱頭の射出面からの光を互いに干渉させて合成した光線の方向が、当該画素から射出する光線の方向となるようにそれぞれの大きさが設定されていることとした。
かかる構成によれば、IP立体ディスプレイは、半導体発光層を含む基部と、基部の上面に設けられた大きさの異なる複数の半導体柱状部とを有した発光素子を備えている。したがって、発光素子の基部で発生した光は、半導体柱状部を光導波路として、複数の異なる光導波路を伝搬し、各半導体柱状部の端面の柱頭から放射される。画素において、異なる光導波路を経由して各半導体柱状部から放射されたそれぞれの光は、当該発光素子の半導体発光層を1つの光源として発生した光なので干渉し、合成された光線となって予め設定された方向に射出される。一方、画素毎に合成された光線が、異なる画素からそれぞれ射出されるが、画素毎に半導体発光層は異なっており、光源が異なるため干渉することはない。これにより、IP立体ディスプレイは、立体像を再生することができる。
また、請求項4に記載のIP立体ディスプレイは、請求項3に記載のIP立体ディスプレイにおいて、前記発光素子は、前記基部の上面に、2つの半導体柱状部を備え、前記画素から射出する光線の方向が、当該画素において前記半導体発光層で発光し前記2つの半導体柱状部を異なる光導波路として伝搬して各射出面における光の位相差に応じた干渉によって合成された光線の方向となるように、当該2つの半導体柱状部の高さおよび位置が設定されていることとした。
かかる構成によれば、IP立体ディスプレイは、半導体発光層を含む基部と、基部の上面に設けられた2つの半導体柱状部とを有した発光素子を備えている。2つの半導体柱状部のうち長い方から順番に第1柱状部、第2柱状部とすると、第1柱状部と第2柱状部との高さの差は、第1および第2柱状部を伝搬する光についての光路長の差となる。また、半導体柱状部の外側に、半導体柱状部よりも屈折率が低い部材や空気が充填されているとき、界面を挟んで媒質中の光の速度が異なるので、合成された光線は、半導体柱状部内の光路長がより短い第2柱状部の側に傾斜した方向に進行することとなる。もしくは、光路長がより長い第1柱状部の側に傾斜した方向に進行することとなる。この射出される方向については、2つの柱状部の高さおよび柱状部間の距離によって決まる。よって、合成された光線が予め設定された方向に射出するように第1柱状部と第2柱状部との高さと位置が決定される。
また、請求項5に記載のIP立体ディスプレイは、請求項3または請求項4に記載のIP立体ディスプレイにおいて、前記発光素子は、前記半導体柱状部の柱の横断面における幅が前記半導体発光層の発光波長以上の長さに形成されていることとした。
かかる構成によれば、IP立体ディスプレイは、各画素において、発光素子の半導体発光層で発生した光は、直接または反射によって間接的に半導体柱状部の側に伝搬するが、半導体柱状部の水平方向の幅を発光波長よりも広くなるように形成したので、半導体柱状部の基端側で反射する割合を低減し、発光素子の基部から半導体柱状部へと光を効率よく伝播させることができる。したがって、IP立体ディスプレイにおける光出力の低減を防止することができる。
また、請求項6に記載のIP立体ディスプレイは、請求項1または請求項2に記載のIP立体ディスプレイにおいて、前記要素画像毎にそれぞれ設けられた複数の凸形状の突起部を有して前記仮想的なレンズ板と同様の形状をもつ基板と、半導体発光層を含み前記基板の前記突起部上に柱状に形成された前記発光素子と、を備え、前記発光素子は、前記要素画像を構成する要素画素毎に前記基板の前記突起部の表面の法線方向に立設するように設けられていることとした。
かかる構成によれば、IP立体ディスプレイは、基板に要素画像毎の突起部を備えると共に、半導体発光層を含み柱状に形成された発光素子を基板の突起部の表面の法線方向に立設するように備えている。したがって、各画素において、発光素子の半導体発光層で発生した光が柱状の発光素子自体を光導波路として伝搬して端面の柱頭から放射されると、突起部に形成された異なる画素から異なる角度でそれぞれ射出された光により要素画像が形成され、さらに、各要素画像から立体像を再生することができる。
請求項1に記載の発明によれば、IP立体ディスプレイは、光学レンズを備えずに立体像を再生することができる。したがって、IP立体ディスプレイは、従来よりも、表示する画像の精細度を高めることができると共に、視域および奥行き再現範囲を拡大することができる。
請求項2に記載の発明によれば、IP立体ディスプレイは、画素として、指向性の高い柱状部を有するLED素子を備え、画素ピッチを小さくすることができるので、解像度を高め、高精細な立体像を再生することができる。
請求項3に記載の発明によれば、IP立体ディスプレイは、画素を形成する発光素子が、異なる光導波路を伝搬した光を干渉させて合成された光線を射出するので、画素毎に光線の射出方向を設定することができる。
請求項4に記載の発明によれば、IP立体ディスプレイは、画素を形成する発光素子の2つの半導体柱状部の高さおよび位置に応じた方向に対して、当該画素からの光線を射出するので、画素毎に光線の射出方向を容易に設定することができる。
請求項5に記載の発明によれば、IP立体ディスプレイは、画素を形成する発光素子において基部から半導体柱状部へと光を効率よく伝播させることができるので、ディスプレイの光出力の低減を防止することができる。
請求項6に記載の発明によれば、IP立体ディスプレイは、基板の突起部の表面に画素として形成されたそれぞれの発光素子からの光が1単位の要素画素群として要素画像を形成し、各要素画像から立体像を再生することができる。
以下、本発明のIP立体ディスプレイを実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面に示される部材等のサイズや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
[IP立体ディスプレイの概要]
まず、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイについて従来技術と対比させながら図1および図2を参照して説明する。図1(a)に従来型のIP立体表示装置201を示し、図1(b)に本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1を示す。
図1(a)に示すIP立体表示装置201の構成については、本発明の背景技術として既に説明したので、詳細な説明を省略する。このIP立体表示装置201の断面構造を図2(a)に模式的に示す。なお、図2(a)では、要素レンズ206からスクリーン面204までの距離gを要素レンズの焦点距離の値とした。このIP立体表示装置201は、光学レンズを要素レンズ206として用いることによって画像表示面(スクリーン面204)に表示された映像について、表示面から周囲に射出された光線を平行光に変えて、光線の方位(方向)を制御していた。
これに対して、図1(b)に示すIP立体ディスプレイ1は、従来型のIP立体表示装置201とは異なり、要素レンズアレイ203を備えずに、IP方式により、要素画像から立体像を再生する方式のIP立体ディスプレイである。このIP立体ディスプレイ1の断面構造を図2(b)に模式的に示す。IP立体ディスプレイ1は、基板2上に画像表示面(FPD面4)の画素5としての光線指向型発光素子10(図2(b)参照)を備えている。IP立体ディスプレイ1は、FPD面4において水平および垂直方向に所定数のマトリクス状に配置された画素5を備えており、各画素5は、図示しない行ドライバおよび列ドライバにより、図示しない走査ラインおよびデータラインを介して駆動される。
光線指向型発光素子10は、発散光ではなく、指向性の高い光を発光する素子であり、特定の方向に光線を射出する。この光線指向型発光素子10としては、例えば、図2(b)に示すように、少なくとも一部が複数の柱状に形成されて柱頭の射出面から光線を射出するLED素子を用いることができる。LED素子の材料は、例えば、GaN、AlN、GaAlN、ZnO、GaAs、GaP、GaAlAs、GaAlAsPからなる群から選択された1つであることが好ましい。光線指向型発光素子10の構造の詳細については後記する。本実施形態では、光線指向型発光素子10は、後記する式(10)および式(11)において規定する特定の角度の方向(α1,θ1)には光線を射出するが、その他の方向には射出しないような指向性を有することとした。
図1(b)に示すIP立体ディスプレイ1は、光線指向型発光素子10から射出する光線の方向が画素5毎に設定されている。図示は省略するが、従来のIP立体表示装置201に対応したIP立体撮影装置が、要素レンズアレイ203と同様のレンズ板を介して被写体(例えば円柱等)を撮影しておくことが、IP立体ディスプレイ1にて立体を表示(再生)するための前提となる。FPD面4に設けられた各光線指向型発光素子10から射出する光線は、あたかもレンズで投影されたかのように集まって、IP立体表示装置201と同様の原理で、被写体の再生像(立体像)として、例えば円柱901,903や立方体902が表示される。
IP立体ディスプレイ1は、光線指向型発光素子10からの発光の射出方向を限定することで、光学レンズを不要としたものである。以下、発光素子からの発光の射出方向について従来技術と対比させつつ、数式を用いて適宜図1および図2を参照しながら説明する。ここでは、まず、数式を用いるためにいくつかの前提を以下に示す。
発光素子の射出面を例えばxy平面として、xy平面の原点に置かれた発光素子と、xy平面を底面とする半球の3次元空間を仮定する。また、射出面に対して垂直な例えばzx平面において、射出面に対する法線方向である+z軸から射出面への回転角度をθ(−90°≦θ≦90°)で表す。この場合、+z軸がθ=0°を示し、+x軸の方向がθ=90°、−x軸の方向がθ=−90°となる。
また、射出面(xy平面)からの仰角をθ’とすると、θ’=90°−θの関係が成り立つ。また、z軸の周りの回転角(方位角)をα(−180°<α≦180°)で表すと、角度θおよび方位角αを用いて半球面上の位置を特定できる。
従来の典型的なIP立体ディスプレイ(IP立体表示装置201)において、表示パネル202の表示素子(例えば発光素子)から放射される光線は、画素205の周囲に等方的なランバーシアン(Lambertian)分布の状態を示す。具体的には、射出面に対する法線方向(θ=0)の光強度をI0として、方位角をαとした場合、ランベルトの余弦則を示すランバーシアンの光強度分布I(α,θ)は、次の式(9)により表すことができる。
I(α,θ)=I0×cosθ … 式(9)
すなわち、通常の発光素子から放出される発光の強度は、一般的に方位角αには依存せず、射出面に対する法線方向からの角度θ(あるいは仰角θ’)のみに依存している。
一方、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1では、ある特定の方向のみに限定して発光を射出する画素5として、光線指向型発光素子10を備える。すなわち、光線指向型発光素子10は、次の式(10)に示すように、方位角αの値がα1であって、かつ、射出面に対する法線方向からの角度θの値がθ1をとるとき(あるいは仰角θ’の値θ1′が90°−θ1をとるとき)に光を射出する。式(10)では、このときの光強度の値をImaxとした。また、光線指向型発光素子10は、次の式(11)に示すように、方位角αの値がα1であっても角度θの値がθ1以外のときには光を射出しないものである。なお、α≠α1のときにも光を射出しない。
I(α1,θ1)=Imax … 式(10)
I(α,θ)=0 (α=α1,θ≠θ1)) … 式(11)
式(10)および式(11)において規定した特定の方向(α1,θ1)については、例えば、従来の要素レンズ206によって規定されていた方向と同様の方向とする。これにより、光線指向型発光素子10による発光は、従来の要素レンズ206によって規定されていた方向にのみ射出させることができる。このことについて、図2(a)および図2(b)を参照して詳細に説明する。
図2(a)において、IP立体表示装置201の表示パネル202の例えば図中左から7番目の画素205から放射される光は、画素205の周囲に等方的なランバーシアン分布の状態を示し、要素レンズ206によって平行光となる。このときの平行光は、当該7番目の画素205と要素レンズ206の中心とを結ぶ光軸に平行なものとなっている。同様に、図中左から4番目の画素205から放射される光が、要素レンズ206によって平行光となるとき、この平行光は、当該4番目の画素205と要素レンズ206の中心とを結ぶ光軸に平行なものとなっている。
また、図2(b)において、IP立体ディスプレイ1の基板2のFPD面4に配置された例えば図中左から7番目の画素5を形成する光線指向型発光素子10は、FPD面4の法線方向に光線を射出している。この7番目の画素5を形成する光線指向型発光素子10が射出する光線の方向と、図2(a)においてIP立体表示装置201の7番目の画素205から放射される光の、要素レンズ206による平行光の光軸の方向とは同じである。同様に、図2(b)においてIP立体ディスプレイ1の図中左から4番目の画素5を形成する光線指向型発光素子10が射出する光線の方向と、図2(a)においてIP立体表示装置201の4番目の画素205から放射される光の、要素レンズ206による平行光の光軸の方向とは同じである。図示を省略するが、他の対応する画素5と画素205との対応関係も同様である。これら本発明と従来技術との対応関係は、前記式(10)および式(11)において規定した特定の方向(α1,θ1)について、例えば、従来の要素レンズ206によって規定されていた方向と全く同じ方向としたことを意味する。
ただし、図2に示した例は、あくまでも光線指向型発光素子10による光の射出方向の説明を簡単にするために示したものであるので、IP立体ディスプレイ1が再生する立体像と、IP立体表示装置201が再生する立体像とが同一となる。そこで、IP立体ディスプレイ1が再生する立体像を、IP立体表示装置201が再生する立体像よりも高精細化するためには、以下の(B1)〜(B4)を実行すればよい。
(B1)図2(a)においてIP立体表示装置201の表示パネル202の画素ピッチpを小さくする。なお、図2(b)においては、この小さくした画素ピッチpにて光線指向型発光素子10を配置することとする。
(B2)図2(a)においてIP立体表示装置201のレンズピッチを小さくするように縮小化した別の要素レンズを仮定し、その焦点距離に合わせて表示パネル202から離間させて配置した要素レンズアレイを想定する。
(B3)図2(a)において想定したレンズアレイの各要素レンズの中心と、表示パネル202の各画素とを繋ぐ光軸の方向をそれぞれ求める。
(B4)図2(a)において上記(B3)で画素毎に求めた光軸の方向を、図2(b)において、当該画素に対応した光線指向型発光素子10の光線の射出方向と一致させるように設定する。
前記したように、IP立体ディスプレイ1は、原理的に高精細化が難しい光学レンズ(要素レンズ)を使用することなく、光線指向型発光素子10からの発光の射出方向を限定することで、立体像を再生することとした。これにより、IP立体ディスプレイ1では、従来の典型的なIP立体ディスプレイであるIP立体表示装置201にまつわる前記(A1)解像度の問題、(A2)立体像の奥行き再現範囲の問題、(A3)視域の問題を、従来技術に比べて改善することができる。以下では、これらの点について、図面を参照して説明する。
まず、主として、(A1)従来は解像度が低かったという問題について図3を参照して説明する。図3のグラフにおいて、横軸は再生像の奥行き位置を表すZ軸、縦軸は前記した任意の奥行に生成される立体像の最高空間周波数γを表すγ軸をそれぞれ示す。図3のグラフでは、Z軸においてZ=0の位置に図示しないFPD面4(図1参照)があるものとする。図3のグラフは、図10を参照して説明したレンズ板をFPD面に代えて示している。なお、図3では、図10において実線で示したライン801〜803を破線で示し、さらに、ライン301,302を付加している。
図3において破線で示すライン801は、従来技術として説明したように、前記式(2)のzが正の値をとるときの観視空間周波数に相当する。従来技術によれば、前記式(2)に示す投影空間周波数αは、前記式(6)で表わされる。前記式(6)の右辺に示す要素画像の限界の空間周波数αd、αeはレンズの存在自体で決まる要因である。また、前記表1に示すようにレンズ板を用いた将来型のIP立体ディスプレイでは要素レンズの回折限界の空間周波数αdの寄与が大きいと考えられる。よって、従来技術において、レンズアレイを不要とした場合、前記式(6)の右辺に示す要素画像の限界の空間周波数αd、αeを考慮する必要はなく、前記式(6)の右辺に示す要素画像の最大の空間周波数αpの寄与だけを考えればよい。この要素画像の最大の空間周波数αpは前記式(5)で定義されるので、画素ピッチpに反比例し、レンズ板から表示素子までの距離(従来技術では要素レンズの焦点距離)gに比例する。よって、レンズアレイを不要とした場合、実際には存在しない仮想的なレンズ板を想定し、この仮想的なレンズ板からFPD面(表示素子)までの距離gの値として、現状の焦点距離よりも小さな距離を任意に設定することができる。この場合に、画素ピッチpも合わせて小さな値に設定することができる。
ここで、画素ピッチpを小さな値に設定することについて言及する。前記表1を用いて行った従来技術と想定された将来技術との対比における検討結果「前記式(6)においてαdの寄与が大きくなる」とは、要素画像の最大の空間周波数αpの値が、要素レンズの回折限界の空間周波数αdの値よりも大きくなることを意味する。したがって、想定された将来技術のように、要素画像の最大の空間周波数αpの値が、要素レンズの回折限界の空間周波数αdの値よりも大きくなる範囲については、前記式(2)において投影空間周波数αに対して、レンズアレイを用いることを前提としたαdの値の代わりに、レンズアレイを不要とすることを前提としたαpの値を代入することができる。このようにした場合、観視空間周波数βは大きくなる。その結果、図3において破線で示すライン801は、実線で示すライン301の位置にまで上昇させることが可能である。
同様に、図3において破線で示すライン802は、実線で示すライン302の位置にまで上昇させることが可能である。すなわち、IP立体ディスプレイ1は、任意の奥行に生成される立体像の最高空間周波数γを高めることで、解像度を従来よりも高めることができる。
次に、(A2)従来は立体像の奥行き再現範囲が狭かったという問題についても、図3のグラフにより説明することができる。図3に示すライン803は、前記式(1)のβ(ナイキスト周波数)に相当している。Z軸においてZ=0の位置に想定しているFPD面4(図1参照)における立体像の最高空間周波数γは、レンズアレイの有無にかかわらず不変である。しかしながら、図3に実線で示すように、レンズアレイを不要とした場合には、図10のグラフと比べたときに、任意の奥行に生成される立体像の最高空間周波数γが最大値を示すような再生像の奥行き位置の範囲はZ軸を挟んで左右にそれぞれ拡大していることが分かる。すなわち、IP立体ディスプレイ1は、立体像の奥行き再現範囲を従来よりも拡大することができる。
次に、主として、(A3)従来は視域が狭かったという問題について図4を参照して説明する。図4(a)は、従来型のIP立体表示装置201の説明で参照した図11と同様な図面であって、主として視域角Ωを形式的にΩ0に変更した点が異なっている。したがって、同様な符号を付して詳細な説明を省略する。図4(b)は、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1についての視域の説明図を図4(a)と同様な形式で表したものである。
図4(b)に示すIP立体ディスプレイ1は、レンズアレイを不要としたので、前記したように、実際には存在しない仮想的なレンズ板を想定し、この仮想的なレンズ板からFPD面(表示素子)までの距離gの値として、表1に示した現状の焦点距離よりも小さな距離を任意に設定することができる。
具体的には、従来型のIP立体表示装置201は、視域角Ω0が、表示パネル202に表示される要素画像を構成する要素画素から放射されて、要素レンズアレイ203の図4(a)において中央に位置する要素レンズのレンズ中心を通過する2本の光軸のなす角で規定されている。
一方、IP立体ディスプレイ1は、視域角Ω1が、FPD面に表示される要素画像を構成する要素画素から射出されて、図4(a)に示す焦点距離gよりも小さな距離にて交差する2本の光線のなす角で規定されている。これにより、視域角Ω1が視域角Ω0よりも大きくなる。すなわち、IP立体ディスプレイ1は、視域を従来よりも拡大することができる。
なお、図4(b)においてFPD面に表示される要素画像を構成する要素画素から射出されている2本の光線の端点間の距離を、図4(a)に示した要素画像を構成する要素画素から射出されている2本の光軸の端点間の距離よりも小さく表示したのは、画素ピッチも小さな値に設定したことを示している。
[IP立体ディスプレイの構造の例]
IP立体ディスプレイ1の各要素画素(画素5)において、特定の方向だけに発光を射出させる方法については、様々な方法が考えられるが、ここでは、一例として、発光素子に段差を設けて、段差の高低差を利用して発光の射出方向を特定する方法を用いた構造を例示する。
図5は、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイに用いる光線指向型発光素子10の構造の一例とその配置例を模式的に示す概念図である。図5においては、説明のために、IP立体ディスプレイ1Aとして、基板2上に2行2列で所定間隔をあけて4つの光線指向型発光素子10a,10b,10c,10dを画素として配置して示した。なお、以下では、特に区別しない場合には、光線指向型発光素子10と表記する。実際には、発光素子の個数は、通常のIP立体ディスプレイの要素画素数に相当する個数(縦横とも数百〜数千程度の個数)である。一方、この要素画素の単位集団を要素画素群として定義した場合、通常のIP立体ディスプレイの要素レンズに相当する領域に要素画素群(1つの単位構造)が並置される構造となる。この要素画素群を、前記要素レンズの個数分、タイル状に並置すると、光線指向型発光素子10によってなるIP立体ディスプレイ1が作製できる。また、図5において、半導体柱状部の外側に、半導体柱状部よりも屈折率が低い部材や空気が充填されているとき、界面を挟んで媒質中の光の速度が異なるので、合成された光線は、半導体柱状部内の光路長がより短い第2柱状部の側に傾斜した方向に進行することとなる。もしくは、光路長がより長い第1柱状部の側に傾斜した方向に進行することとなる。この射出される方向については、2つの柱状部の高さおよび柱状部間の距離によって決まる。よって、合成された光線が予め設定された方向に射出するように第1柱状部と第2柱状部との高さと位置が決定される。
光線指向型発光素子10の典型的な構造を図6に示す。図6(a)は、光線指向型発光素子10を上からみた平面図、(b)は(a)のA−A線矢視における断面図である。
光線指向型発光素子10は、図5および図6に示すように、基部20と、基部20の上にそれぞれ設けられた複数(図では2つ)の半導体柱状部31,32とを備えている。
基部20は、平坦な基板2上に画素毎に独立して設けられている。この基部20は、図6(b)に示すように半導体発光層21を含んでいる。半導体発光層21の下側には、n型半導体層22が設けられ、半導体発光層21の上側には、p型半導体層23が設けられている。
光線指向型発光素子10が青色発光素子である場合、半導体発光層21は、例えば、InGaNの量子井戸層として形成される。
また、この場合、n型半導体層22は、基板2側から順に、例えば、n型GaN層と、n型GaN/InGaN障壁層とが積層された構造とすることができる。
また、p型半導体層23は、半導体発光層21側から順に、例えば、p型GaN/InGaN障壁層と、p型GaN層と、が積層された構造とすることができる。
なお、この基部20において図示を省略したが、一般的なLED素子と同様に、n型半導体層22およびp型半導体層23との間に段差を設けて、当該段差から引き出された部分にオーミックコンタクトを形成する形で電極を形成できれば、電極の構造は特に限定されるものではない。例えばp電極を、基部20の上面において半導体柱状部31,32のない部分に設け、n電極をn型半導体層22の基板2側の面に設けてもよい。また、電極材料としては一般的な金属電極が使用できる。
基部20は、図6に示すように、例えば円柱状に形成されている。基部20の寸法は、従来のIP立体ディスプレイにおける要素画素の寸法より小さく形成できれば、従来のIP立体ディスプレイよりも画素数が増えるため高精細化が可能となる。この場合、円柱の直径Bは、2μm以下であることが好ましい。2μm以下であれば、前記表1の将来型のIP立体ディスプレイにおける画素ピッチ(3〜9μm)の実現に好適だからである。なお、前記表1に示すように、このときの対角サイズや要素レンズの個数が、将来普及するときの目標値と考えられるので、円柱の直径Bの下限は、自ずと定まり、極端に小さくなることはなく、同程度のオーダー、例えば、1μm以上であれば充分である。
基部20の厚み(膜厚)Cは、少なくとも半導体発光層21とそれを挟む障壁層の厚みとの合計以上の厚みを有し、半導体柱状部31,32の高さとのバランスや使用材料の量を考慮して例えば数十〜100nm程度であることが好ましく、50nm程度であることが特に好ましい。
半導体柱状部31,32は、柱頭の射出面31a,32aから射出する光を互いに干渉させて合成した光線の方向が、当該画素から射出する光線の方向となるようにそれぞれの大きさが設定されている。
半導体柱状部31,32は、基部20と同様な半導体材料で構成されている。青色発光素子である場合、半導体柱状部31,32は、例えば、p型GaN層等で構成されている。なお、単層構造である必要は無く、多層構造であってもよい。
本実施形態では、2つの半導体柱状部31,32は、例えば円柱状に形成されている。図6に示すように、半導体柱状部31の上底面(射出面)の直径φ1と、半導体柱状部32の上底面(射出面)の直径φ2は、半導体発光層21の発光波長以上の長さに形成されていると、基部20から半導体柱状部31,32へと光を効率よく伝播させることができるので、このように構成することが好ましい。
半導体柱状部31の高さh1と、半導体柱状部32の高さh2とは、発光波長程度、あるいは、その数倍程度が好ましい。半導体柱状部31の高さh1と、半導体柱状部32の高さh2との差Dは、画素毎に決定されており、詳細は後記するが、当該画素から射出する光線の方向を規定するように設定されている。なお、画素の位置によっては高さを等しくすべき位置もある。
半導体柱状部31と、半導体柱状部32との距離Eは、それぞれの柱頭の射出面31a,32aから射出する光を互いに干渉させることができる距離であればよい。この距離Eは、発光波長以下、例えば1/4〜1波長程度であることが好ましい。
光線指向型発光素子10を製造する方法としては、公知の種々の微細加工技術を用いることができ、特に限定されない。例えば、微細加工技術によって光線指向型発光素子10の全体構造を予め作成してから基板2の上に張り合わせる方法(以下、張り合わせ法という)や、基板2上に基部20を先に形成しておき、半導体柱状部31,32を成長させる方法(以下、柱成長法という)、ナノインプリント(nanoimprint)技術等を用いることができる。
このうち、例えば張り合わせ法では、個々の通常のLED素子を微細化加工し、要素レンズ相当の前記要素画素群を1単位として、別工程によって事前に他のLEDウエハを用いて、例えば集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)等の機械的な微細加工技術または、フェムト秒レーザ等を使った光学的な微細加工技術によって、光線指向型発光素子10の構造を作製しておく。そして、個々の微細素子を、前記要素画素群を1単位としてタイル状に基板2の上に分子間力によって直接張り合わせることで光線指向型発光素子10を製造する。
また、例えば柱成長法では、光線指向型発光素子10の基部20を先に形成する。次に、この基部20上に、金属を蒸着した後、金属パターンをFIBまたはフェムト秒レーザまたは電子ビームリソグラフィーで円形状にマスク形成する。すると、円形のマスク形状を踏襲する形で、柱状構造からなる円柱を成長させることができる。その際、円柱の高さは、円柱の口径と相関があることが既に知られているので、この知見により、円柱の口径を少しずつ変えることで、自律的にその上に成長する円柱の高さ(高低)を制御することができる。
また、例えば、ナノインプリント技術を使うことで、発光層を有していない導波路部分(半導体柱状部31,32)のみを、発光素子(基部20)の上から形成することもできる。
図5に戻って、IP立体ディスプレイ1Aにおける光線指向型発光素子10の発光について説明する。光線指向型発光素子10は図示しない電極を介して、図示しない行ドライバおよび列ドライバにより駆動される。これにより、例えば光線指向型発光素子10aにおいて、2つの半導体柱状部の射出面から射出した各光線が干渉して合成されて、合成された光線が、半導体柱状部の高さおよび柱状部間の距離に基づいて規定される方向(矢印501で示す方向)に射出し、当該画素から放射される光線となる。同様に、光線指向型発光素子10b,10c,10dでは、それぞれ、合成された光線が、高さおよび柱状部間の距離に基づく方向(矢印502,503,504で示す方向)に射出する。なお、以下では、簡便のため、合成された光線が、一例として高さ(高さの差)に基づく方向に射出されるものとして説明する。
図5の例では、4つの画素について、2つの半導体柱状部の高さの差が大きい順番に並べると、光線指向型発光素子10a、光線指向型発光素子10d、光線指向型発光素子10b、光線指向型発光素子10cとなる。また、図5の例において、射出面の法線方向(θ=0°)から射出面に平行な方向への回転角を光線の射出方向の角度θとして定義すると、画素毎の光線の射出方向の角度θが大きい順番(矢印501,504,502,503の順番)は、2つの半導体柱状部の高さの差が大きい順番と同じである。
以下では、光線指向型発光素子10における光線の射出方向を制御できる原理について、図5および図6を参照しつつ詳細に説明する。
一般に、半導体の誘電率は真空中(空気中)より高いため、半導体中を伝搬する際の光の速度は、空気中を伝搬する速度に比べて遅くなる。具体的には、大気中または真空中の光の速度をc、半導体の屈折率をnとすると、半導体中の速度は、c/nで与えられる(例えばGaNであればn=2.6)。このため、半導体素子中で発生した光(発光)を2つに分岐して、一方をそのまま大気中(もしくは真空中)に射出し、かつ、もう一方を半導体中で伝搬させてから射出した場合、それら2つの光が射出された後に出会うと、光路が異なるため、光の位相は異なるようになる。すなわち、半導体中を伝搬する光は、大気中(もしくは真空中)に比べて遅延するため、両者が混合されると、それら2つの光の波面とは全く異なる波面をもつ波が生成(合成)される。
図5において、柱状構造を有する半導体内部で、同一波源(半導体発光層21:図6(b)参照)から発生した平面波からなる波面を有する発光が伝搬されるとし、この平面波からなる波面が半導体中を伝搬していった場合、光が射出される位置(射出面31a,32a:図6(b)参照)を波源とする2つの光源が存在する。なお、ここでは、放出される光(電磁波)についての波の性質について言及する文脈では「波源」と呼び、放出(射出)される光そのものやその方向、表示について言及する文脈では「光源」と呼ぶこととする。これら2つの光源が新たな波源となって合成される。すなわち、これら2つの波源から放出される光の波面は互いに干渉し、これら2つの波源間の相対的な位置によって決定される方位(方向)に、光が射出されることになる。
一方、発光源(半導体発光層21:図6(b)参照)が異なる波が複数個あったしても、それらの波の間には干渉性は生じないため、互いに波面の間は影響し合わない。本実施形態では、各画素を構成する光線指向型発光素子10が、個別に、射出される方向(方位)が決定されていることによって、光学レンズを介することなく、各光線指向型発光素子10から特定の方向(方位)への指向性をもった光を射出することができる。すなわち、発光する要素画素(10a,10b,10c,10d:図5参照)間では、全くの相関関係(コヒーレンス)を持たないために、互いに出射光の指向性をみたすことはない。
一方、個別の画素を取り上げてみると、光線指向型発光素子10の上部に、複数の光路を分岐する半導体柱状部31,32を備えており、分岐された光路長に違いがあると、位相差が生じることになって、光線指向型発光素子10から放出される光は、ある特定の方位にのみ強い指向性を有するようになる。
この指向性を発現するためには、各画素内の構造の中で発生する光(射出面31a,32aから射出する光)が、図2(a)のように全方位に向けて発光するのではなく、時間的もしくは空間的にコヒーレンスをもつ必要がある。
このコヒーレンスをもった光が複数本(例えば2本)、半導体柱状部31,32の射出面31a,32aから発光されて、それらが重畳されたときに、干渉性を有する場合には、ある特定の方位に光が射出されるようになる。このときに、光の進行方向を規定する条件としては、発光の波面が揃っているか、または、射出された光が幾つかのルートを辿ったにせよ、合成されることが必要となる。
本実施形態では、各画素を構成する光線指向型発光素子10の内部のpn接合部分(半導体発光層21:図6(b)参照)から、ある一定の方向(例えば基部20の膜厚方向)に、例えば発光波長の数波長分の距離をもって導波路として、光が進行できるように半導体柱状部31,32を構成した。その導波路の役目を果たすのが、半導体結晶(基部20+半導体柱状部31,32)である。
柱状構造(半導体柱状部31,32)を有する半導体結晶の内部(半導体発光層21)で放出された光は、その多くが、半導体結晶の高い屈折率(GaNはn=2.6)を反映して、柱状結晶(半導体柱状部31,32)の内部を全反射しながら伝搬する。
その際、図6(b)に示したように、複数個の(例えば、2か所)の光路に分かれた場合に、半導体結晶中では、光の伝搬速度が、c/nとなり、一方の空気中を伝搬した光は、cとなる。具体的には、一方である半導体柱状部32の光路を通る光は、高さh2の半導体結晶中では光の伝搬速度がc/nとなり、その後、空気中を速度cで伝搬する。他方である半導体柱状部31の光路を通る光は、高さh1の半導体結晶中では光の伝搬速度がc/nとなり、その後、空気中を速度cで伝搬する。つまり、高さの差Dの部分に着目すると、一方の経路と他方の経路とでは、光の伝搬速度が異なっている。
そのため、その両者が合成されて波面を形成した場合には、その合成された光の進行方向は曲げられることになる。実際に、曲げられる角度は、高さの差Dの部分について、空気中を伝搬する光(一方の経路)と、半導体結晶中を伝搬した光(他方の経路)との位相の差で与えられる。
本実施形態では、各画素を構成する光線指向型発光素子10において、基部20の半導体発光層21で光を発生した後、導波路的に柱状構造(基部20の半導体発光層21の上のp型半導体層23)を光が伝搬した後に、半導体柱状部31,32によって光を分岐している。よって、光の波面は、半導体中で、比較的揃っている(コヒーレンスが保たれている)ため、一定の方向性を維持している。つまり、光が強く向く方向としては、発光素子から光が射出された後では、その光は、基本的には、当該光の波面とは垂直の方向に対して強く伝搬する。このため、各画素から放出される光は、半導体柱状部31,32の高さが等しければ、光線指向型発光素子10から垂直の方位に強く指向性をもつ光となる。
一方、半導体柱状部31,32の高さが異なる場合、2つに分岐した光に、遅延効果が加わり、その2つの光の間には、波(光波)の位相差が生じるため、主面(合成された光の波面)は、2つの射出面を波源とする方位を持つ方向に曲げられる。なお、詳細な説明は後記する。
このような微細構造を有する光線指向型発光素子10を多数個並べた表示素子(FPD)は、従来技術においてレンズ板(要素レンズアレイ203:図1(a)参照)と発光面(表示パネル202:図1(a)参照)とを接合させた装置と同じ働きを有するようになる。そのため、IP方式により、要素画像から立体像を再生する通常のIP立体ディスプレイと同一の機能を持ちながら、光学レンズを用いることなく、高精細表示と視域の両立とを図ることが可能なディスプレイになる。
以下、光線指向型発光素子10において、2つの射出面を波源とする方位を持つ方向に光線が曲げられる現象を数式を用いて説明する。
位置r1にある波源と、位置r2にある波源とからそれぞれ射出された光によって、時刻tにおいて合成される光の強度I(r)は、次の式(12)で与えられる。
式(12)において、光の干渉を表す第3項が存在するために、発光部(基部20の半導体発光層21)から射出された光が、2つの波源からそれぞれ射出された後に重畳されて、波面を変える(波の進行方向を変える)ことが可能となる。よって、画素構造の中の2つの波源からそれぞれ射出された光によって、当該画素において強度変調が可能となる。一方、画素間においては、発光強度の点では相関性を持たないため、合成される光の強度は、2つの画素から射出されたそれぞれの光の強度の単なる加算となる。つまり、画素間において合成される光の強度は、2つの画素を2つの波源とみなしたときに、前記式(12)の第1項と第2項に相当する演算で求められることとなる。
前記式(12)の第3項で実部を利用するγは、前記式(13)で表され、0から1までの値をとり、2つの波源から射出された光が時間的・空間的にどのくらい相関を持っているのかを示している。よって、γは、次の式(14)〜式(16)のように場合分けすることができる。
式(14)の場合を完全コヒーレント、式(15)の場合をインコヒーレント、式(16)の場合を部分的なコヒーレントと呼ぶ。本実施形態では、光線指向型発光素子10として、LEDの光源を使用しているため、部分的なコヒーレントになっている。したがって、光線指向型発光素子10においては、光の強度において、前記式(12)の第3項の寄与が大きいため、光の進行方向を大きく曲げられる。
特に、光線指向型発光素子10としてのLED素子の材料である半導体の光学的な屈折率nが1より大きいために、2つの波源から射出された光は、射出後、大きく曲がることになる。具体的には、半導体中では、pn接合部分を波源とする平面波が発生するが、それらが柱状構造からなる半導体から射出されて、2つの光源から射出されて、それら光源が新たな波源となって機能する場合には、それら2つの光源は、いわゆる2つの波源として働く。それら2つの波源から射出される光は、それら波源がつくる面に垂直な方向を主方位とし、これら柱状構造物に応じて、発光の方位を任意の方位に決定することが可能となる。上記のメカニズムによって、従来、光学レンズが担ってきた光の方位の制御を、2つの波源から構成される2つの光源に代用させることにより、高精細化に対応した光の放出源を形成することが可能となる。
光線指向型発光素子10としては、GaNなどを発光材料とするLED素子を使用することが好適である。LED素子の内部では、pnの接合部分(Inの含有部分)から発光して、素子内部を伝搬し、LEDのテラスの部分(射出面31a,32a)を発光させる。なお、図5においては、発光状態のLEDのテラスの部分を塗りつぶしで示した。
一方、2つのテラスから発光した光は、LEDの上方に光を射出するため、相互作用しあい、それら2つのテラスの位置に応じて、2つの波源からの光の相関を取る形式で、放出される光(合成された光)の方位が決定される。その際、放出される光の方位は、2つのテラスの間の距離E(図6(b)参照)と、高さの違いD(図6(b)参照)を反映したものとなる。
2つのテラスの間の距離E(図6(b)参照)や高さの違いD(図6(b)参照)を変えて、放出される光の方位を確かめるシミュレーション実験を行った。このシミュレーション実験の主な条件を表2に示し、結果の一例を図7に示す。
図7(b)のグラフは、当該グラフの下側に図示したように2つのテラスの高さの違いがあるLEDにおいて、ZX面内にて、LEDから放射された光の軌跡(波面)を図示したものである。図7(b)に示すように、Z軸に平行に上方へ向かう方向から逸脱する方位に実際に光が射出される。この光が射出される角度は、2つのテラスの間の距離E(図6(b)参照)や高さの違いD(図6(b)参照)を反映している。
図7(a)のグラフは、Z軸に平行に上方に光が射出される場合を示している。この結果が得られたときには、当該グラフの下側に図示したように、2つのテラスの高さ方向の位置が、全く同一な場合(D=0)であって、光は曲がることなくLED上方に放出される。
図7(b)のグラフの結果となったときには、青色光の波長の条件(λ=436nm)のほか、半導体材料をGaNであるものとしてその屈折率n=2.6を条件として、光の位相差Ψがπ/4となるように、半導体柱状部31,32の高さの差Dを下記式(17)により求め、D=34.1nmとした。なお、同様な条件で光の位相差ΨがΨ=π/2となるときの半導体柱状部31,32の高さの差Dは68.1nmである。
D=λ÷(n−1)÷(2π/Ψ) …式(17)
よって、光線指向型発光素子10が薄膜(基部20)と円柱(半導体柱状部31,32)の組み合わせで構成されて画素内部に2つの射出面を波源として備える構造の場合、円柱の高さの差D、または、2つの波源から射出する光の位相差Ψを設定することで、光線を所望の方位に射出することができる。
以上説明したように、本実施形態のIP立体ディスプレイ1によれば、要素画素として、自発光型素子であって予め発光の指向性を持たせた光線指向型発光素子10を使用することで、その光線指向型発光素子10からの発光の射出方向を、光学レンズを用いることなく、光線指向型発光素子10自体で決定することができる。したがって、従来、光学レンズの使用に付随して問題となっていたAbbeの回折限界に縛られることなく、空間像再生型の映像表示が可能となる。すなわち、高解像度化によってボケのない立体映像を観察者に提供することが可能となる。
また、本実施形態のIP立体ディスプレイ1によれば、光学レンズを用いないので、従来のレンズ板から表示素子までの距離gの制約(前記式(5))を考慮せずに要素画素の画素数(要素画像を構成する画素の個数)を増大できるため、奥行き方向の再現範囲も拡大することが可能となる。すなわち、高精細な立体映像信号をIP立体ディスプレイ1に入力した場合に、図3を参照して説明したように、近景から遠景までの奥行き方向での立体再現範囲を拡大することが可能となる。
また、本実施形態のIP立体ディスプレイ1によれば、視域についても、従来の光学レンズの制限要因であった光学レンズの焦点距離gに無関係になるため、図4を参照して説明したように、視域の拡大が可能となる。
これらの効果をまとめると、本実施形態のIP立体ディスプレイ1によれば、要素画素の画素数を、視域を確保した上で、奥行き方向の再現範囲と共に拡大することが可能となる。すなわち、視域の拡大と、近景から遠景までの奥行き方向での立体再現範囲の拡大との両立を図ることが可能となる。
以上、実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、IP立体ディスプレイ1が備える光線指向型発光素子10の基部20や半導体柱状部31,32は、図示した円柱形状に限らず、上面の形状が楕円、正方形、その他の多角形であってもよいし、円錐台や角錐台等の傾斜面を有する形状であってもよい。また、半導体柱状部の個数を2つとしたが、3つ以上であってもよい。
また、本実施形態では、光線指向型発光素子10によって特定の方向だけに発光を射出させる方法について、発光素子に設けた段差の高低差を利用したが、他の方法を用いることも可能である。例えば、特許文献1に開示された全体の形状が柱状に構成されたLED等の発光素子を、平坦な基板上に立設するように成長させるのではなく、凸形状やドーム形状の突起部を有した基板上に成長させることで、柱状の発光素子自体を特定の方向に傾斜させるようにしてもよい。この場合のIP立体ディスプレイの構成を図8に模式的に示す。図8に示したように、IP立体ディスプレイ1Bは、レンズ板の形状をもつ多数の突起部3を有する基板2Bの上に、画素5としての光線指向型発光素子10Bを並置している。図8において領域40を拡大して示す図9にて突起部3の構造を示す。図9(a)は突起部の平面図、図9(b)は図9(a)のX−X線矢視における断面図である。ここでは、突起部3毎に一例として17個の光線指向型発光素子10B(画素5)を設けた。なお、図9(a)には、光線指向型発光素子10B(画素5)と比較するため従来のIP立体表示装置201における画素205の配置を破線で示す。
基板2Bは、従来のレンズ板と同等の形状を有するガラスや石英の基板等、表面に結晶の方位等の異方性を有していないことが好ましい。すなわち、方位依存性のないアモルファス形状のガラスや石英の基板材料を用いることによって、各光線指向型発光素子10Bの特性ばらつきを抑えることが可能となる。従来の無機系発光素子は、結晶基板上に発光素子を成長することで、基板と結晶方位の揃った発光素子を形成していたが、この実施形態では、基板2Bに例えばアモルファス状態のガラス基板を用いることによって、基板の結晶方位に縛られることなく微細な発光素子を成長させることが可能となる。なお、基板2Bは、結晶性基板であっても構わない。
基板2Bは、図8に示すように要素画像毎に並置された突起部3を有する。突起部3は、例えば図9(b)に示すような半円球形状、またはドーム形状、あるいは断面視で扇型形状に形成されている。例えば、基板2Bをガラス基板とした場合、このガラス基板上に突起部3を形成する方法は、例えば公知のガラスのレンズの作製法を用いることができる。
光線指向型発光素子10Bは、柱状の形状であって微細な口径の半導体の自発光素子からなる表示素子である。光線指向型発光素子10Bは、図8に示すように円柱状に形成されている。なお、この円柱は、図示を省略するが、下からn型半導体層、半導体発光層、p型半導体層が積層された構造であり、例えば円柱の側面にp型電極、円柱の底面部にn型電極を備える。
光線指向型発光素子10Bの材質については、例えばGaNやZnO等の無機系のLED素子が好適であるが、有機EL材料などの有機系発光材料の適用も可能である。なお、微細な素子を別工程で作製する際には、LED素子の場合にはLEDウエハ上に作るが、有機EL材料の場合にはガラスの上に作る。
この光線指向型発光素子10Bは、図9(b)に示すように、画素毎に基板2Bの突起部3の表面の法線方向に立設している。つまり、個々の光線指向型発光素子10Bは、その発光が取り出される射出口部分を、要素画像毎に並置された突起部3の表面から外部に向けた形で並置されている。
突起部3の外表面(凸面)に光線指向型発光素子10Bを形成したので、図9(a)に示すように、素子が突起部3の外周(下周縁)に近づくにつれて密度が粗になる。一方、図示を省略するが仮に凹面に素子を形成すると、素子が凹面の外周(上周縁)に近づくにつれて密度が密になり、円柱間が近接してしまうため、分離が難しくなる。つまり、突起部3の外表面(凸面)に光線指向型発光素子10Bを形成すると、製造し易くなるという利点がある。
光線指向型発光素子10Bを製造する方法としては、公知の種々の微細加工技術を用いることができ、特に限定されない。例えば、基板2Bをガラス基板とした場合、このガラス基板上に半球状の突起部3を形成しておく。この突起部3上に発光素子を形成した場合には、ガラスは結晶基板と異なって方位無依存なので、ガラス面と垂直な方向に配位した電極や発光層が形成される。このような電極や発光層を、例えば集束イオンビーム(FIB)またはフェムト秒レーザ等の機械的な微細加工技術によって、形状加工することができる。この場合の発光素子の方位は、半球状の表面に垂直方向に向くため、半球形状の形状が担保されていれば、所定の角度の形成が可能である。
また、別の製造方法としては、半球状のガラス基板上に、別工程で作製した円柱の発光素子を機械的に並置することもできる。その場合、導電性のペーストなどによる化学的方法を用いて突起部3の表面に常に垂直方向になるように張り合わせる。また、ナノインプリントを使うことで、半導体発光層よりも上側の非発光の円柱部分(導波路部分)のみを各発光素子の上から形成することもできる。なお、突起部3の表面に、光線指向型発光素子10を配置していく順番は特に限定されず、ナノインプリントの場合には、一括形成が可能である。
このように光線指向型発光素子10Bを基板2Bの突起部3上に配置していくことによって、光線指向型発光素子10Bについて、特性ばらつきを招くことなく並置して配置することが可能となる。また、これによって、従来のIPディスプレイでは、観察者の観察できる角度範囲(視域)と立体ディスプレイで表示する再生像の空間周波数(解像度)の両立を図ることが難しかったのに対して、IP立体ディスプレイ1Bによれば、微細な光線指向型発光素子10Bの数(画素数)に比例した形で再生像の空間周波数(解像度)を増加させることができるのに加えて、視域についても突起部3の形に見合う範囲で確保することが可能となる。