JP5762549B2 - ダイナミックレンジ制御装置 - Google Patents
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Description
この波形の歪みは奇数次高調波として現れる。図6に、従来のダイナミックレンジ制御によって発生する奇数次高調波の一例を示す。図6(a)は、AGC装置への入力信号である1kHzの正弦波の周波数特性、図6(b)は、この入力信号をダイナミックレンジ制御したときの出力信号の周波数特性を表し、それぞれの縦軸は音量レベル[dB]、横軸は周波数[kHz]である。図6(b)の通り、ダイナミックレンジ制御によって3,5,7kHzなどの奇数次高調波が発生してしまう様子が分かる。このような奇数次高調波の発生は音質劣化に繋がるため、従来のダイナミックレンジ制御技術では音質面で課題があった。
ダイナミックレンジ制御とは、入力信号(この例では1kHz正弦波)の振幅値に応じて出力振幅値を変化させる信号処理である。そして、例えば大振幅値の振幅を元の入力信号の振幅よりも小さく(または大きく)しようとすると、入力信号のピーク値の位置と等しい位置にピーク値の絶対値のくる奇数次高調波を加算することで、等価的な処理を行うことができる。ちなみに、偶数次高調波は、入力信号のピーク値の位置と異なる位置にピーク値がくるため、等価的な処理を行うことはできない。
一方、図7の破線で示すように、正弦波では、ピークとゼロを除いた任意の振幅値と同じ絶対値の振幅となる箇所は、入力信号の1周期で4箇所あり、該4箇所の位置では奇数次高調波もそれぞれ同じ振幅値になる。よって、奇数次高調波を加算(または減算)する信号処理を行うことで、等価的に、ピークとゼロを除く任意の振幅を入力信号よりも大きく(または小さく)するダイナミックレンジ制御を行うことになる。
以上より、ダイナミックレンジ制御により、入力信号の振幅値に応じて出力振幅値を変化させると、等価的に奇数次高調波が発生することとなる。
実施の形態1.
図1に示すように、本実施の形態1に係るダイナミックレンジ制御装置は、音量レベル算出部101と、ゲイン算出部103と、第1のフィルタ群105と、N(>1)個の乗算器108−1〜108−Nと、第2のフィルタ群110と、信号合成部113とから構成されている。第1のフィルタ群105は、N個のフィルタ106−1〜106−Nから構成され、第2のフィルタ群110も、N個のフィルタ111−1〜111−Nから構成されている。
音量レベル算出部101は、例えば、所定の時定数によって入力信号100を平滑化して単一の音量レベル値を得て、これを音量レベル値102としてもよい。
また例えば、複数の異なる時定数によって入力信号100をそれぞれ平滑化して複数の音量レベル値を得て、これらを音量レベル値102としてもよい。
また例えば、複数の異なる時定数によって入力信号100をそれぞれ平滑化して複数の音量レベル値を得て、これらのうちの最大値を音量レベル値102としてもよいし、これらを重みづけ演算して求めた値を音量レベル値102としてもよい。
また例えば、入力信号100の瞬時振幅値を検出して音量レベル値102としてもよいし、瞬時振幅値の絶対値を音量レベル値102としてもよい。
さらに、以上の算出方法に限定されるものではなく、これらの他、任意の方法で算出された値を音量レベル値102としてもよい。
ゲイン算出部103は、例えば、所定の変換テーブルを用いて、音量レベル値102からゲイン係数値104を算出してもよい。
また例えば、所定の連続または不連続関数によって、音量レベル値102からゲイン係数値104を算出してもよい。
さらに、以上の算出方法に限定されるものではなく、これらの他、任意の方法でゲイン係数値104を算出してもよい。
このように、ゲイン算出部103では、音量レベル値102に応じてゲイン係数値104を算出し、算出したゲイン係数値104をN個の乗算器108−1〜108−Nへ向けてそれぞれ出力する。
ここで、本実施の形態1では、入力信号100から抽出する帯域幅が2オクターブ以内となるように、一部のフィルタまたは全部のフィルタの特性を設定する。
具体的には、所定の周波数fを設定し、
1番目のフィルタ106−1の特性を、周波数f以下を通過帯域とした低域通過フィルタ(Low Pass Filter:LPF)とし、
2番目のフィルタ106−2の特性を、周波数f〜3f(2オクターブ以内の周波数帯域2f)を通過帯域とした帯域通過フィルタ(Band Pass Filter:BPF)とし、
3番目のフィルタ106−3の特性を、周波数3f〜9f(2オクターブ以内の周波数帯域6f)を通過帯域としたBPFとし、
4番目のフィルタ106−4の特性を、周波数9f〜27f(2オクターブ以内の周波数帯域18f)を通過帯域としたBPFとする。
このように、N番目のフィルタ106−Nまでそれぞれフィルタ特性を設定する。なお、この例では、1番目のフィルタ106−1のみ通過帯域が2オクターブ以内となっていない。2番目から4番目のフィルタ106−2〜106−4は、通過帯域が2オクターブ以内となっている。
ただし、入力信号100を時間領域から周波数領域に変換したときのDC成分を含む非常に低い周波数fL以下を通過させないフィルタ特性にすることで、全てのフィルタ106−1〜106−Nの通過帯域を2オクターブ以内に設定することもできる。すなわち、
1番目のフィルタ106−1の特性を、周波数fL〜3fLを通過帯域としたBPFとし、
2番目のフィルタ106−2の特性を、周波数3fL〜9fLを通過帯域としたBPFとし、
3番目のフィルタ106−3の特性を、周波数9fL〜27fLを通過帯域としたBPFとし、
4番目のフィルタ106−4の特性を、周波数27fL〜81fLを通過帯域としたBPFとする。
このように、N番目のフィルタ106−Nまでそれぞれフィルタ特性を設定することで、全てのフィルタ106−1〜106−Nの通過帯域を2オクターブ以内に設定することができる。
通常、人間の聴覚において20Hz以下の音域は聞こえないため、周波数fLを20Hz付近に設定することで、低音の減少なく、全てのフィルタ106−1〜106−Nの通過帯域を2オクターブ以内に抑えることができる。
図3では(1)フィルタ特性の設定例1の構成例として、
1番目のフィルタ106−1の特性は、300Hz以下を通過帯域としたLPF、
2番目のフィルタ106−2の特性は、300Hz〜900Hzを通過帯域としたBPF、
3番目のフィルタ106−3の特性は、900Hz〜2700Hzを通過帯域としたBPF、
4番目のフィルタ106−4の特性は、2700Hz〜8000Hzを通過帯域としたBPF、
5番目のフィルタ106−5の特性は、8000Hz以上を通過帯域としたHPF(High Pass Filter)とする。
上記5つのフィルタ106−1〜106−5を用いることにより、1番目のフィルタ106−1を除く各フィルタ106−2〜106−5の通過帯域を2オクターブ以内に収めることができる。
なお、後述する通り、各フィルタ106−1〜106−5のカットオフ周波数(隣り合う帯域の境となる周波数)における減衰量を−3dBとして設計すると好ましい。
すなわち、乗算器108−1〜108−Nでは共通のゲイン係数値104を用いてゲイン調整(ダイナミックレンジ制御)を行うことになる。
ここで、第2のフィルタ群110を構成するフィルタ111−1〜111−Nの特性は、第1のフィルタ群105を構成するフィルタ106−1〜106−Nの特性と同一の特性に設定されている。このような特性に設定する効果については後述する。
図4Aおよび図4Bは、本実施の形態1に係るダイナミックレンジ制御装置にて処理される信号の周波数特性の変化例を示すグラフである。この例では、入力信号100を周波数fa,fbの2つの周波数から構成される信号とする。また、帯域分割数N=5とし、1番目のフィルタ106−1,111−1を除く各フィルタ106−2〜106−5,111−2〜111−5の通過帯域がそれぞれ2オクターブ以内に設定されているものとする。また、周波数faは2番目のフィルタ106−2,111−2の通過帯域内(例えば300Hz〜900Hz)にあり、周波数fbは3番目のフィルタ106−3,111−3の通過帯域内(例えば900Hz〜2700Hz)にあるものとする。なお、これらの数値は一例であり、入力信号100が任意の周波数の信号成分を含んでいても以下に説明する効果が得られる。
すなわち、1番目のフィルタ106−1の通過帯域内には入力信号100の信号成分が存在しないため、1番目の帯域制限信号107−1はゼロ信号となる。
2番目のフィルタ106−2の通過帯域内には入力信号100の周波数fa成分のみが存在するため、2番目の帯域制限信号107−2はfa成分のみの信号となる。
3番目のフィルタ106−3の通過帯域内には入力信号100の周波数fb成分のみが存在するため、3番目の帯域制限信号107−3はfb成分のみの信号となる。
4番目と5番目のフィルタ106−4,106−5の通過帯域内には入力信号100の信号成分が存在しないため、4番目と5番目の帯域制限信号107−4,107−5はゼロ信号となる。
また、図4A(d)において、3番目の帯域制限信号107−3は、乗算器108−3によってゲイン係数値104が乗じられてゲイン調整される。ゲイン調整された3番目のゲイン調整信号109−3にも、奇数次高調波(3×fb,5×fb,・・・)が発生する。
また、図4B(f)において、3番目のゲイン調整信号109−3は、第2のフィルタ群110の3番目のフィルタ111−3にて、再び帯域制限される(例えば900Hz〜2700Hz)。
この出力信号114には、周波数fa,fbの信号成分しか存在せず、新たに発生する奇数次高調波は存在しないこととなる。
このため、信号合成部113において、各高調波除去信号112−1〜112−Nを加算することにより、カットオフ周波数の信号成分が6dB増加して、元の信号成分の強度を回復することができる。もし、隣り合う帯域のカットオフ周波数の位相特性が揃っていない場合には、信号合成部113の前段で全域通過フィルタ(All Pass Filter:APF)を用いることで位相を揃えることができる。位相が揃っている信号同士を加算することにより、信号強度は6dB増加されることとなる。
一方、上記(1)フィルタ特性の設定例1のように、全フィルタのうち、カットオフ周波数が最も低い周波数fC[Hz]になる1番目のフィルタ106−1,フィルタ111−1をLPFにした場合、0〜fC/3[Hz]の帯域内にある信号はフィルタ111−1でフィルタリング処理しても奇数次高調波歪みが残る。このように、ゲイン調整によって発生する奇数次高調波の一部が除去しきれないことになるが、低音の高調波は音質劣化と知覚されにくいため、実使用上は問題にならない。
図5は、この発明の実施の形態2に係るダイナミックレンジ制御装置の、主要構成部分を示すブロック図である。なお、図5において図1と同一または相当の部分については同一の符号を付し説明を省略する。
本実施の形態2のダイナミックレンジ制御装置において、上記実施の形態1との違いは、1個の音量レベル算出部101とゲイン算出部103とに代えて、N個の音量レベル算出部201−1〜201−Nとゲイン算出部203−1〜203−Nとを設けた点である。
ただし、上記実施の形態1では入力信号100の全帯域の信号成分に基づいた音量レベル値102が算出されることになるが、一方、本実施の形態2では入力信号100のうちの2オクターブ以内の各信号成分に基づいた音量レベル値202−1〜202−Nが算出されることになる。
2番目の音量レベル算出部201−2は、入力された周波数f〜3fの帯域制限信号107−2の音量レベル値を算出し、算出した音量レベル値202−2を2番目のゲイン算出部203−2に向けて出力する。2番目のゲイン算出部203−2は、入力された音量レベル値202−2に基づいて現時刻のゲイン係数値204−2を算出し、2番目の乗算器108−2に向けて出力する。
同様にして、N番目の音量レベル算出部201−Nは、入力された2オクターブ以内の帯域制限信号107−Nの音量レベル値を算出し、算出した音量レベル値202−NをN番目のゲイン算出部203−Nに向けて出力する。N番目のゲイン算出部203−Nは、入力された音量レベル値202−Nに基づいて現時刻のゲイン係数値204−Nを算出し、N番目の乗算器108−Nに向けて出力する。
そして、第2のフィルタ群110のN個のフィルタ111−1〜111−Nが、ゲイン調整信号109−1〜109−Nからそれぞれ奇数次高調波を除去し、除去後の高調波除去信号112−1〜112−Nを信号合成部113へ向けて出力する。信号合成部113は、入力された高調波除去信号112−1〜112−Nを合成して出力信号114にする。
その場合には、例えば、ゲイン算出部203−1〜203−Nが音量レベル−ゲイン係数の変換に用いる変換テーブルを、ゲイン算出部203−1〜203−Nの処理対象となる帯域毎に個別に調整しておけばよい。
さらに、各ゲイン算出部203−1〜203−Nに複数種類の変換テーブルを設定しておいて外部からの指示に応じて変換テーブルを使い分けるようにして、1つのダイナミックレンジ制御装置において、例えば音声帯域を強調するダイナミックレンジ制御と低音域を強調するダイナミックレンジ制御とを使い分け可能な構成にしてもよい。
従って、実施の形態2によれば、高品質かつ多彩なダイナミックレンジ制御を行うことができる。
Claims (4)
- 入力された音信号の音量レベルに概略比例する音量レベル値を算出する音量レベル算出部と、
前記音量レベル算出部で算出した前記音量レベル値に応じたゲイン係数値を算出するゲイン算出部と、
前記音信号をN(>1)個の周波数帯域に分割してN個の帯域制限信号を出力する、N個のフィルタから構成される第1のフィルタ群と、
前記第1のフィルタ群から出力された前記N個の帯域制限信号に対して、前記ゲイン算出部で算出した前記ゲイン係数値をそれぞれ乗算してゲイン調整するN個の乗算器と、
前記N個の乗算器から出力された前記N個の帯域制限信号について、それぞれ所定の周波数帯域を抽出する、N個のフィルタから構成される第2のフィルタ群と、
前記第2のフィルタ群から出力された前記N個の帯域制限信号を1つの信号に合成する信号合成部とを備えるダイナミックレンジ制御装置。 - 入力された音信号をN(>1)個の周波数帯域に分割してN個の帯域制限信号を出力する、N個のフィルタから構成される第1のフィルタ群と、
前記第1のフィルタ群から出力された前記N個の帯域制限信号の音量レベルに概略比例するN個の音量レベル値を算出するN個の音量レベル算出部と、
前記N個の音量レベル算出部で算出した前記N個の音量レベル値に応じたN個のゲイン係数値を算出するN個のゲイン算出部と、
前記第1のフィルタ群から出力された前記N個の帯域制限信号に対して、前記N個のゲイン算出部で算出した前記N個のゲイン係数値を乗算してゲイン調整するN個の乗算器と、
前記N個の乗算器から出力された前記N個の帯域制限信号について、それぞれ所定の周波数帯域を抽出する、N個のフィルタから構成される第2のフィルタ群と、
前記第2のフィルタ群から出力された前記N個の帯域制限信号を1つの信号に合成する信号合成部とを備えるダイナミックレンジ制御装置。 - 第2のフィルタ群を構成するN個のフィルタは、第1のフィルタ群を構成するN個のフィルタと概略同一の特性に設定されていることを特徴とする請求項1記載のダイナミックレンジ制御装置。
- 第2のフィルタ群を構成するN個のフィルタは、第1のフィルタ群を構成するN個のフィルタと概略同一の特性に設定されていることを特徴とする請求項2記載のダイナミックレンジ制御装置。
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