JP5345067B2 - 聴覚感度補正装置 - Google Patents

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Description

本発明は、聴覚感度補正装置に関し、より詳細には、オーディオ信号を帯域別にフィルタ処理した後に合成することによって、オーディオ信号にラウドネス特性を付加することが可能な聴覚感度補正装置に関する。
一般的なオーディオ再生装置には、スピーカから出力される音量を調節するための音量調節部が設けられており、ユーザは音量調節部を操作することによって、スピーカ等から出力される音量を好適に調節することが可能となっている。
しかしながら、一般的な音量調節部では、一定量(例えば、+6dB〜12dB程度)しか音量調節を行うことができず、これ以上の調節が必要な場合や、十分なラウドネス特性を備えた音質を得たい場合には、音量調節部の操作によって要求を満たすことができないという問題があった。
このような要求を満たすために、出力音の音量に対する聴覚感度の補正を行うラウドネス制御装置(聴覚感度補正装置)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。ラウドネス制御装置は、オーディオ信号を低域、中域、高域に帯域分割し、音量調節部の操作量などに連動させて低域、中域、高域のゲインを変更させつつそれぞれの帯域のオーディオ信号を合成してスピーカ等から出力させ、聴覚感度補正を行うものである。
特開2000−197182号公報(第4−5頁、第1図)
ところで、上述したラウドネス制御装置では、帯域分割したオーディオ信号を、帯域毎にゲイン変更(ゲイン補正)を行ってから合成することによってラウドネス補正(聴覚感度補正)を行うが、オーディオ信号を構成する音源は、クラシックやポップ、ロックミュージック等の様々なジャンルがあり、その中でも低域または高域のレベルがあらかじめ強調されているものが多く存在する。このため、あらかじめ帯域毎のレベルが強調された音源からなるオーディオ信号に対して、上述したようなラウドネス補正を行うと、既に低域や高域のレベルが強調されているにも拘わらず、さらに低域や高域が強調されてしまう場合がある。このようにして高域や低域が極度に強調されたオーディオ信号は、高域や低域の強調により聴感上聴き難い出力音となったり、スピーカから歪音が発生したりして、音質が著しく劣化してしまうという問題があった。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、既に高域や低域に対してラウドネス補正が行われたオーディオ信号であっても、そのオーディオ信号の音源特性に依存せずに、好適なラウドネス特性を出力音に付加することが可能な聴覚感度補正装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明に係る聴覚感度補正装置は、オーディオ信号を帯域別に分割し、分割された帯域に応じてラウドネス処理を施すラウドネス処理手段と、該ラウドネス処理手段により前記ラウドネス処理が施された帯域毎のオーディオ信号の信号レベルと、前記ラウドネス処理が施された全帯域のオーディオ信号の信号レベルとのレベル差を差分信号として前記帯域毎に算出するレベル差計算手段と、該レベル差計算手段により算出された帯域毎の前記差分信号に基づいて、前記ラウドネス処理が施された全帯域のオーディオ信号のゲインを前記帯域に応じてオフセット処理するゲインオフセット手段と、該ゲインオフセット手段によりオフセット処理された帯域毎の補正ゲインを、前記ラウドネス処理が施された帯域毎のオーディオ信号に乗算処理すると共に、乗算処理された各帯域のオーディオ信号と前記ラウドネス処理が施された全帯域のオーディオ信号とを加算するゲイン設定手段とを有することを特徴とする。
本発明に係る聴覚感度補正装置によれば、帯域毎の差分信号に基づいてオフセット処理される帯域毎の補正ゲインが、ラウドネス処理が行われた帯域別のオーディオ信号に対して乗算処理された後に、全帯域のオーディオ信号に加算処理される。このため、ラウドネス処理がなされたオーディオ信号に適用される補正用のゲイン値が、各帯域のレベル差を示す差分信号に応じて帯域毎に求められる。従って、求められた補正用のゲイン値を帯域毎に分割されたラウドネス処理後のオーディオ信号に適用することによって、帯域毎に好適となるラウドネス効果を付加することができ、最終的に出力されるオーディオ信号における音質を良好な状態にすることが可能となる。
また、上記聴覚感度補正装置は、前記ラウドネス処理手段によりラウドネス処理が施された全帯域のオーディオ信号に対して、応答速度制御を行うことにより当該オーディオ信号の信号レベル変化を滑らかに変換する第1応答速度制御手段と、該第1応答速度制御手段により変換されたオーディオ信号を前記ゲインオフセット手段においてオフセット処理が行われる帯域に応じてゲイン補正するゲイン補正手段とを有し、前記ゲインオフセット手段は、前記ゲイン補正手段によりゲイン補正がなされた信号に対して前記オフセット処理を行うものであってもよい。
このように、第1応答速度制御手段によりラウドネス処理が施された全帯域のオーディオ信号の信号レベル変化を滑らかに変換してから、各帯域に応じてゲイン補正を行うことによって、ゲインオフセット手段によるオフセット処理に適した信号へと、あらかじめゲイン補正を行うことができ、ゲインオフセット手段によるオフセット処理をより効果的なものにすることが可能となる。
さらに、上記聴覚感度補正装置は、前記レベル差計算手段により算出された帯域毎の前記差分信号に対して応答速度制御を行うことにより、前記差分信号を帯域毎に平均化する第2応答速度制御手段と、前記ゲインオフセット手段においてオフセット処理を行うためにゲインオフセット量を、前記第2応答速度制御手段により平均化された帯域毎の差分信号に基づいて、帯域毎に算出するオフセット計算手段とを有し、前記ゲインオフセット手段は、前記オフセット計算手段により算出された帯域毎のゲインオフセット量を用いて前記オフセット処理を行うものであってもよい。
このように、レベル差計算手段により算出された帯域毎の差分信号に対して応答速度制御を行うことにより帯域毎の差分信号を平均化することができるので、オフセット処理を行うためにゲインオフセット量を帯域毎に容易かつ効果的に算出することが可能となる。
本発明に係る聴覚感度補正装置を適用することによって、帯域毎の差分信号に基づいてオフセット処理される帯域毎の補正ゲインが、ラウドネス処理が行われた帯域毎のオーディオ信号に適用されるので、ラウドネス処理が施されたオーディオ信号の各帯域のレベルに応じて適切なゲイン補正を行うことができる。従って、適用されるオーディオ信号の高域または低域の音響特性に依存することなく好適なラウドネス補正をオーディオ信号に施すことができ、スピーカから歪音などが発生することがなく、良好な音質で音楽を聴取することが可能となる。
本実施の形態に係る聴覚感度補正装置の概略構成を示したブロック図である。 本実施の形態に係るラウドネスフィルタ部の概略構成を示したブロック図である。 本実施の形態に係るラウドネスフィルタ部に用いられるハイパスフィルタおよびローパスフィルタのフィルタ特性を示したグラフである。 本実施の形態に係る最大値検出および最大値ホールド部の概略構成を示したブロック図である。 (a)は、全帯域のオーディオ信号において検出された最大値および最大値ホールド値の時間変化を示したグラフであり、(b)は、低域のオーディオ信号において検出された最大値および最大値ホールド値の時間変化を示したグラフであり、(c)は、高域のオーディオ信号において検出された最大値および最大値ホールド値の時間変化を示したグラフである。 本実施の形態に係るゲイン計算部の概略構成を示したブロック図である。 本実施の形態に係る低域アタックリリースフィルタ部A、低域アタックリリースフィルタ部B、高域アタックリリースフィルタ部A、高域アタックリリースフィルタ部Bにおいて設定されるアタック時間とリリース時間とを示した表である。 (a)は、全帯域のオーディオ信号に対して、低域アタックリリースフィルタ部Aによりフィルタ処理がなされたオーディオ信号の信号レベル変化と、高域アタックリリースフィルタ部Aによりフィルタ処理がなされたオーディオ信号の信号レベル変化とを示したグラフであり、(b)は、低域アタックリリースフィルタ部Bおよび高域アタックリリースフィルタ部Bによりフィルタ処理が施される前の差分信号を示したグラフであり、(c)は、低域アタックリリースフィルタ部Bおよび高域アタックリリースフィルタ部Bによりフィルタ処理が施された後の差分信号を示している。 本実施の形態に係る低域ルックアップテーブル部および高域ルックアップテーブル部において適用されるフィルタのゲイン補正量を示したグラフである。 本実施の形態に係る低域オフセット計算部および高域オフセット計算部におけるゲインオフセット量を示したグラフである。 (a)は、低域ルックアップテーブル部および高域ルックアップテーブル部によって出力された信号の補正ゲインを示したグラフであり、(b)は、低域オフセット計算部および高域オフセット計算部において設定された低域ゲインと高域ゲインのゲインオフセット量を示しており、(c)は、(a)に示すゲイン補正が行われた信号に対して、(b)に示すゲインオフセット量に基づく補正を行った状態を示すグラフである。 本実施の形態に係るゲイン設定部の概略構成を示したブロック図である。 信号レベルを0dB、−12dB、−24dB、および−36dBとした場合におけるホワイトノイズの周波数特性変化を示しており、(a)は補正をしない場合、(b)はラウドネス補正のみを行った場合、(c)はラウドネス補正およびゲインオフセット処理を行った場合を示している。 信号レベルを0dB、−12dB、−24dB、および−36dBとした場合におけるピンクノイズの周波数特性変化を示しており、(a)は補正をしない場合、(b)はラウドネス補正のみを行った場合、(c)はラウドネス補正およびゲインオフセット処理を行った場合を示している。
符号の説明
1 …聴覚感度補正装置
2 …ラウドネスフィルタ部(ラウドネス処理手段)
3 …最大値検出および最大値ホールド部
4 …ゲイン計算部
5 …ゲイン設定部(ゲイン設定手段)
7 …(ラウドネスフィルタ部の)LPF部
8 …(ラウドネスフィルタ部の)HPF部
9、10、11 …遅延部
12、13、14 …(最大値検出および最大値ホールド部の)最大値検出部
16、17、18 …(最大値検出および最大値ホールド部の)最大値ホールド部
20、21、22 …(最大値検出および最大値ホールド部の)リミッタ部
25 …(ゲイン計算部の)低域レベル計算部(レベル差計算手段)
26 …(ゲイン計算部の)高域レベル計算部(レベル差計算手段)
28 …(ゲイン計算部の)低域アタックリリースフィルタ部A(第1応答速度制御手段)
29 …(ゲイン計算部の)低域アタックリリースフィルタ部B(第2応答速度制御手段)
30 …(ゲイン計算部の)高域アタックリリースフィルタ部A(第1応答速度制御手段)
31 …(ゲイン計算部の)高域アタックリリースフィルタ部B(第2応答速度制御手段)
33 …(ゲイン計算部の)低域ルックアップテーブル部(ゲイン補正手段)
34 …(ゲイン計算部の)高域ルックアップテーブル部(ゲイン補正手段)
36 …(ゲイン計算部の)低域オフセット計算部(オフセット計算手段)
37 …(ゲイン計算部の)高域オフセット計算部(オフセット計算手段)
39 …(ゲイン計算部の)低域ゲインオフセット部(ゲインオフセット手段)
40 …(ゲイン計算部の)高域ゲインオフセット部(ゲインオフセット手段)
41 …(ゲイン計算部の)低域ゲイン変換部
42 …(ゲイン計算部の)高域ゲイン変換部
43、44 …(ゲイン計算部の)LPF部
46、47 …(ゲイン設定部の)乗算部
48 …(ゲイン設定部の)加算部
以下に、本発明に係る聴覚感度補正装置について説明を行う。本発明に係る聴覚感度補正装置は、帯域毎(本実施の形態では低域および高域)に分割されたオーディオ信号に対して、オーディオ信号の音源特性を考慮した上でラウドネス処理を施すことにより、もととなるオーディオ信号の音源特性に左右されることなく好適な音響効果を付与する機能を備えている。
図1は、聴覚感度補正装置の概略構成を示したブロック図である。聴覚感度補正装置1は、ラウドネスフィルタ部(ラウドネス処理手段)2と、最大値検出および最大値ホールド部3と、ゲイン計算部4と、ゲイン設定部(ゲイン設定手段)5とを有している。
[ラウドネスフィルタ部]
ラウドネスフィルタ部2は、入力されたオーディオ信号を、全帯域,低域,高域の3つの音域のオーディオ信号に分離し、分離された帯域に応じてラウドネス処理を施す役割を有している。ラウドネスフィルタ部2は、図2に示すように、低域通過用のフィルタ(ローパスフィルタ)により構成されるLPF部7と、高域通過用のフィルタ(ハイパスフィルタ)により構成されるHPF部8と、3つの遅延部9,10,11を有している。
ローパスフィルタおよびハイパスフィルタには、直線位相のFIR(Finite Impulse Response : 有限インパルス応答)フィルタ、もしくは位相変化が最大でも±90度となる1次のIIR(Infinite Impulse Response:無限インパルス応答)フィルタ等が用いられる。図3は、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタとしてFIRフィルタを用いた場合におけるフィルタ特性を示した図である。図3に示すFIRフィルタにおいて、ローパスフィルタは、タップ数が192、カットオフ周波数が100Hzの場合を示しており、ハイパスフィルタは、タップ数が16、カットオフ周波数が10kHzの場合を示している。
図3に示すハイパスフィルタをHPF部8に用い、図3に示すローパスフィルタをLPF部7に用いると、全帯域のオーディオ信号と、低域においてフィルタ処理されたオーディオ信号と、高域においてフィルタ処理されたオーディオ信号とのそれぞれに、遅延差が生じてしまう。
そこで、遅延部9〜11を用いて、全帯域においては96タップ分(192/2)、ハイパスフィルタによりフィルタ処理されるHPF部8においては、88タップ分((192/2)−(16/2))、ローパスフィルタによりフィルタ処理されるLPF部7においては、0タップ分の遅延を設定することにより、ラウドネスフィルタ部2より出力される全帯域,低域,高域の3つの音域のオーディオ信号が、それぞれ同位相になるように調整されている。
また、後述するように、ゲイン設定部5において低域ゲインおよび高域ゲインを用いた補正処理が施されるため、最大値検出および最大値ホールド部3による処理やゲイン計算部4による処理により、ラウドネスフィルタ部2においてフィルタ処理が行われたオーディオ信号に対する低域ゲインおよび高域ゲインの補正タイミングに遅延差が生じてしまうおそれがある。これらの遅延差を解消するための遅延処理も、上述した遅延部9〜11において実行される。
[最大値検出および最大値ホールド部3]
最大値検出および最大値ホールド部3は、ラウドネスフィルタ部2により帯域分けされた全帯域,低域,高域のオーディオ信号のそれぞれに基づいて出力の絶対値を算出し、さらにそれぞれのオーディオ信号毎に算出された絶対値の上限値および下限値の制限処理を行う役割を有している。最大値検出および最大値ホールド部3は、図4に示すように、全帯域,低域,高域のオーディオ信号毎にされる最大値検出部12,13,14と、最大値ホールド部16,17,18と、リミッタ部20,21,22とを有している。
最大値検出部12,13,14は、オーディオ信号の絶対値を帯域毎に算出し、さらに所定区間の最大値の検出を行う。図5(a)は、全帯域のオーディオ信号の最大値検出状態を一例として示しており、図5(b)は、低域のオーディオ信号の最大値検出状態を一例として示しており、図5(c)は、高域のオーディオ信号の最大値検出状態を一例として示している。図5(a)〜(c)に示すオーディオ信号はピンクノイズであり、サンプリング周波数を48kHzとし、最大値検出時間間隔を2msecとしたものである。
また、最大値ホールド部16,17,18は、各帯域に対応する最大値検出部12,13,14において検出された最大値を所定時間だけホールドする。図5(a)は、全帯域のオーディオ信号において、最大値検出部12により検出された最大値が最大値ホールド部16により所定時間ホールドされた状態を一例として示しており、図5(b)は、低域のオーディオ信号において、最大値検出部13により検出された最大値が最大値ホールド部17により所定時間ホールドされた状態を一例として示しており、図5(c)は、高域のオーディオ信号において、最大値検出部14により検出された最大値が最大値ホールド部18により所定時間ホールドされた状態を一例として示している。図5(a)〜(c)に示す最大値のホールド時間は16msecに設定されている。
リミッタ部20,21,22は、最大値ホールド部16,17,18によりホールドされた最大値の上限値および下限値の制限設定を行う。図5(a)〜(c)に示す最大値ホールドされたオーディオ信号は、上限値として0dB、下限値として−60dB、横軸の1サンプルとして2msecが設定されている。
[ゲイン計算部4]
ゲイン計算部4は、ラウドネスフィルタ部2によりラウドネス処理が施されたオーディオ信号に対して、高域部分および低域部分におけるゲイン補正を行うための高域用ゲインおよび低域用ゲインを算出する役割を有している。
ゲイン計算部4は、図6に示すように、低域レベル計算部(レベル差計算手段)25、高域レベル計算部(レベル差計算手段)26、低域アタックリリースフィルタ部A(第1応答速度制御手段)28、低域アタックリリースフィルタ部B(第2応答速度制御手段)29、高域アタックリリースフィルタ部A(第1応答速度制御手段)30、高域アタックリリースフィルタ部B(第2応答速度制御手段)31、低域ルックアップテーブル部(ゲイン補正手段)33、高域ルックアップテーブル部(ゲイン補正手段)34、低域オフセット計算部(オフセット計算手段)36、高域オフセット計算部(オフセット計算手段)37、低域ゲインオフセット部(ゲインオフセット手段)39、高域ゲインオフセット部(ゲインオフセット手段)40、低域ゲイン変換部41、高域ゲイン変換部42、LPF部43,44とを有している。
低域レベル計算部25は、最大値検出および最大値ホールド部3より入力された全帯域の最大値ホールド信号(オーディオ信号)のレベルと低域の最大値ホールド信号(オーディオ信号)のレベルとを比較し、比較されたレベル差を差分信号として低域アタックリリースフィルタ部B29に出力する。
一方、高域レベル計算部26は、最大値検出および最大値ホールド部3より入力された全帯域のオーディオ信号のレベルと高域のオーディオ信号のレベルとを比較し、比較されたレベル差を差分信号として高域アタックリリースフィルタ部B31に出力する。
低域アタックリリースフィルタ部A28、低域アタックリリースフィルタ部B29、高域アタックリリースフィルタ部A30および高域アタックリリースフィルタ部B31は、入力されたオーディオ信号に対し、所定のアタック時間およびリリース時間を設定したフィルタを適用することによって、応答速度の制御を行う役割を有している。
ここで、アタック時間とは、フィルタが音量の変化にどれくらい早く対応するかを示す時間を意味し、リリース時間の設定とは、これをどれくらいゆっくり戻すかを示す時間を意味する。
なお、本実施の形態に係る低域アタックリリースフィルタ部A28、低域アタックリリースフィルタ部B29、高域アタックリリースフィルタ部A30および高域アタックリリースフィルタ部B31では、図7の表1に示されるアタック時間およびリリース時間が設定されている。表1に示す時間は設定時間の一例を示したものであり、アタック時間およびリリース時間の設定は必ずしも表1に示されるものには限定されない。
図8(a)は、最大値検出および最大値ホールド部3より入力された全帯域のオーディオ信号に対して、表1に示すアタック時間およびリリース時間が設定された低域アタックリリースフィルタ部A28によりフィルタ処理がなされたオーディオ信号の信号レベル変化と、高域アタックリリースフィルタ部A30によりフィルタ処理がなされたオーディオ信号の信号レベル変化とを示したグラフである。
図8(a)に示すオーディオ信号では、低域アタックリリースフィルタ部A28および高域アタックリリースフィルタ部A30によるフィルタ処理の適用により、図5(a)に示す全帯域の最大値ホールド信号に比べて信号レベルの変化状態が滑らかなものになっている。なお、低域アタックリリースフィルタ部A28および高域アタックリリースフィルタ部A30におけるアタック時間、リリース時間の設定値が表1に示すように比較的近い値に設定されているため、図8(a)に示される2つの信号の特性はほぼ同等なものとなる。
図8(b)には、低域アタックリリースフィルタ部B29および高域アタックリリースフィルタ部B31によりフィルタ処理が施される前の差分信号を示したグラフであり、低域レベル計算部25により出力されたレベル差の差分信号と、高域レベル計算部26により出力されたレベル差の差分信号とが示されている。
一方で、図8(c)は、低域アタックリリースフィルタ部B29および高域アタックリリースフィルタ部B31によりフィルタ処理が施された後の差分信号を示しており、具体的には、図7の表1に示すようにフィルタを設定して、アタック時間を比較的長くすると共に立ち上がりの応答速度を緩やかにすることによって、図8(c)に示すような平均化された高域用の差分信号と低域用の差分信号を得ることが可能となる。
低域ルックアップテーブル部33および高域ルックアップテーブル部34は、低域アタックリリースフィルタ部A28および高域アタックリリースフィルタ部A30より入力された入力信号に対してレベルの変換を行う役割を有しており、本実施の形態では、入力信号に対する出力信号をあらかじめ計算してテーブルに格納しておくことによって、レベルの変換を行う。
図9は、低域ルックアップテーブル部33および高域ルックアップテーブル部34において適用されるフィルタのゲインの補正量を示している。図9に示すように、信号レベルが0dBのときには、低域ルックアップテーブル部33および高域ルックアップテーブル部34のフィルタのゲイン量が、共に0dBとなる。一方で、信号レベルが−30dBのときには、低域ルックアップテーブル部33のゲイン量は24dB、高域ルックアップテーブル部34のゲイン量は20dBへと補正される。
なお、図9に示されるゲイン補正量のグラフは、ゲイン補正量を決定するための一例を示したものであって、必ずしも図9に示すグラフに対応させてゲイン補正量の設定を行う必要はなく、オーディオ信号の特性等に応じて適宜変更するものであってもよい。
低域オフセット計算部36および高域オフセット計算部37は、低域アタックリリースフィルタ部B29および高域アタックリリースフィルタ部B31においてフィルタ処理が施された差分信号に基づいて、低域ゲインと高域ゲインのゲインオフセット量を設定する役割を有している。
図10は、低域オフセット計算部36および高域オフセット計算部37におけるゲインオフセット量を示したグラフである。差分信号の信号レベル差が0dBのときに、低域オフセット計算部36において設定される低域ゲインのゲインオフセット量は−6dB、高域オフセット計算部37によって設定される高域ゲインのゲインオフセット量は−16dBに設定される。一方で、差分信号の信号レベル差が−40dBのときには、低域オフセット計算部36において設定される低域ゲインおよび高域オフセット計算部37によって設定される高域ゲインのオフセット量は、共に0dBとなる。
なお、図10に示されるゲインオフセット量のグラフは、ゲインオフセット量を決定するための一例を示したものであって、必ずしも図10に示すグラフに対応させてゲインオフセット量の設定を行う必要はなく、オーディオ信号の特性等に応じて適宜変更するものであってもよい。
低域ゲインオフセット部39および高域ゲインオフセット部40は、低域ルックアップテーブル部33および高域ルックアップテーブル部34においてレベル補正が行われた入力信号のゲイン量に対してオフセット量の設定を行う役割を有している。
図11(a)は、低域ルックアップテーブル部33および高域ルックアップテーブル部34によって出力される信号を示したグラフであり、低域のゲインと高域のゲインとのゲイン補正が行われた信号が示されている。一方で、図11(b)は、低域オフセット計算部36および高域オフセット計算部37において設定された低域ゲインと高域ゲインのゲインオフセット量を示している。
図11(c)は、図11(a)に示すゲイン補正が行われた信号に対して、図11(b)に示すゲインオフセット量に基づく補正を行った状態を示すグラフである。図11(c)においては、低域ゲインに対して5dB、高域ゲインに対して12dBのゲイン低減を行っている。
低域ゲイン変換部41と高域ゲイン変換部42とは、ゲイン設定部5において、オーディオ信号の高域部分および低域部分におけるゲイン補正を行うことにより、所望のゲインを得ることができるように、前もって高域ゲインおよび低域ゲイン用に変換処理を行う役割を有している。
低域ゲイン変換部41および高域ゲイン変換部42では、低域ゲインオフセット部39および高域ゲインオフセット部40においてゲイン補正がなされた入力信号に対して、以下の式に基づいてゲイン変換が行われる。
y=(10^(x/20))−1
なお、xは入力信号(単位はデシベル[dB])、yは変換後の出力信号(単位はリニア)を意味し、また、^はべき乗を示す記号である。
LPF部43,44は、低域ゲイン変換部41および高域ゲイン変換部42において出力される出力信号の平滑化を行う役割を有しており、一般的な平滑用のローパスフィルタが用いられる。
[ゲイン設定部]
ゲイン設定部5は、ラウドネスフィルタ部2においてラウドネス処理が施されたオーディオ信号の低域部分および高域部分に対して、当該オーディオ信号の信号レベルに応じてゲイン調整(信号レベルの可変処理)を行うことにより、オーディオ信号のラウドネス効果を好適な状態に修正する役割を有している。
ゲイン設定部5は、図12に示すように、乗算部46,47と加算部48とを有している。ゲイン設定部5の乗算部46では、入力されたオーディオ信号の低域信号に対して、ゲイン計算部4において出力された低域ゲインを乗算し、乗算部47では、入力されたオーディオ信号の高域信号に対して、ゲイン計算部4において出力された高域ゲインを乗算する。その後、加算部48において、ラウドネスフィルタ部2より入力された全帯域のオーディオ信号と、乗算部46において低域ゲインの乗算処理が施された低域用のオーディオ信号と、乗算部47において高域ゲインの乗算処理が施された高域用のオーディオ信号とが加算され、好適な状態にラウドネス効果の修正が行われたオーディオ信号を出力する。
図13(a)〜(c)は、信号レベルを0dB、−12dB、−24dB、および−36dBとした場合におけるホワイトノイズの周波数特性変化を示しており、図14(a)〜(c)は、信号レベルを0dB、−12dB、−24dB、および−36dBとした場合におけるピンクノイズの周波数特性変化を示している。
より詳細には、図13(a)および図14(a)は、本実施の形態に係る聴覚感度補正装置1を適用しない場合のホワイトノイズおよびピンクノイズの周波数特性を示しており、図13(b)および図14(b)は、ラウドネス補正のみを行った場合におけるホワイトノイズおよびピンクノイズの周波数特性を示しており、図13(c)および図14(c)は、本実施の形態に係る聴覚感度補正装置1を適用した場合におけるホワイトノイズおよびピンクノイズの周波数特性を示している。
図13(b)および図14(b)に示すように、それぞれのオーディオ信号において、ラウドネス補正を行うと、図13(a)および図14(a)に示す補正のない状態の信号レベルに比べて低域と高域のレベルが増強された状態になる。一方で、本実施の形態に係る聴覚感度補正装置1を適用することによって、ラウドネス補正とゲインオフセット処理とをオーディオ信号に施すことにより、図13(c)および図14(c)に示すように、低域と高域のゲインを抑えることができる。従って、本発明に係る聴覚感度補正装置1を用いることによって、ラウドネスフィルタ部2におけるラウドネス処理により低域および高域が極度に強調された場合であっても、好適なレベルに低域および高域のゲインを調整することができる。
特に、図13(c)および図14(c)から明らかなように、信号レベルが大きい場合には、より一層信号レベルを減衰させることができる。また、ピンクノイズに比べて高域のレベルが相対的に大きいホワイトノイズにおいては、高域のレベルをさらに押さえることができる。
以上説明したように、本発明に係る聴覚感度補正装置1では、ゲイン計算部4において、オーディオ信号の全帯域の信号レベルと低域および高域の信号レベルとのレベル差に基づいて、全帯域の信号レベルのゲインより低域用のゲインオフセット処理および高域用のゲインオフセット処理を行うことにより、補正を行うための低域ゲインおよび高域ゲインを算出する。そして、ゲイン設定部5において、ラウドネスフィルタ部2によりラウドネス処理がなされた低域用のオーディオ信号と高域用のオーディオ信号とに対して、低域および高域の補正処理を行う。このため、聴覚感度補正装置1を用いてラウドネス補正がなされたオーディオ信号は、高域ゲインおよび低域ゲインにより高域のレベルと低域のレベルとの修正が行われるため、あらかじめ高域または低域のレベルが強調された音源であっても適正なラウドネス効果を奏するように補正が行われることになる。
特に、ゲイン計算部4では、ラウドネス補正が行われたオーディオ信号をサンプリングすることによって、全帯域の信号レベルと低域および高域の信号レベルとのレベル差を求め、この帯域毎のレベル差に基づいて補正用の低域ゲインおよび高域ゲインを算出する。このため、低域または高域のレベルが強調された音源の強調状態(強調の程度)に応じて低域ゲインおよび高域ゲインの値が算出されるので、結果としてどのような音源であっても、その特性に対応させて(結果として、その特性に依存することなく)最適なラウドネス特性をオーディオ信号に付加することが可能となる。
このように、本発明に係る聴覚感度補正装置1を用いてラウドネス補正を行うことによって、オーディオ信号の高域または低域の音響特性に依存することなく好適なラウドネス処理をオーディオ信号に施すことができるので、スピーカから歪音などが発生することがなく、良好な音質で音楽を聴取することが可能となる。
以上、本発明に係る聴覚感度補正装置について、図面を用いて詳細に説明を行ったが、本発明に係る聴覚感度補正装置は、上述した実施の形態に示したものに限定されるものではない。当業者であれば、請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、本実施の形態においては、ラウドネスフィルタ部2においてオーディオ信号を全帯域、低域および高域の3つの帯域に分け、最大値検出および最大値ホールド部3、ゲイン計算部4およびゲイン設定部5においても、それぞれ全帯域、低域および高域の3つの帯域に対応する処理を行う構成を説明したが、本発明に係る聴覚感度補正装置は、必ずしも全帯域、低域および高域の3つの帯域に分けられる構成のみには限定されず、これらの帯域数以上に細かく分けるものであってもよく、またより少なく分けるものであってもよい。

Claims (3)

  1. 入力された全帯域のオーディオ信号を帯域別に分割してそれぞれ異なる帯域のオーディオ信号を出力すると共に、前記全帯域のオーディオ信号を出力するラウドネスフィルタ手段と、
    前記全帯域のオーディオ信号の信号レベルと前記異なる帯域のオーディオ信号の信号レベルとのレベル差を差分信号として異なる帯域毎に算出するレベル差計算手段と、
    該レベル差計算手段により算出された異なる帯域毎の前記差分信号に基づいて、前記全帯域のオーディオ信号の信号レベルをオフセット処理することにより、前記異なる帯域毎の補正ゲインを求めるゲインオフセット手段と、
    前記異なる帯域毎の補正ゲインを、前記異なる帯域毎のオーディオ信号に乗算処理すると共に、乗算処理された各帯域のオーディオ信号と前記全帯域のオーディオ信号とを加算するゲイン設定手段と
    を有することを特徴とする聴覚感度補正装置。
  2. 前記ラウドネスフィルタ手段より出力された前記全帯域のオーディオ信号に対して、応答速度制御を行うことにより当該全帯域のオーディオ信号の信号レベル変化を滑らかに変換する第1応答速度制御手段と、
    該第1応答速度制御手段により変換された前記全帯域のオーディオ信号を、前記ゲインオフセット手段においてオフセット処理が行われる帯域に応じてゲイン補正するゲイン補正手段と
    を有し、
    前記ゲインオフセット手段は、前記ゲイン補正手段によりゲイン補正がなされた信号に対して前記オフセット処理を行うこと
    を特徴とする請求項1に記載の聴覚感度補正装置。
  3. 前記レベル差計算手段により算出された異なる帯域毎の前記差分信号に対して応答速度制御を行うことにより、前記差分信号を異なる帯域毎に平均化する第2応答速度制御手段と、
    前記ゲインオフセット手段においてオフセット処理を行うためにゲインオフセット量を、前記第2応答速度制御手段により平均化された異なる帯域毎の差分信号に基づいて、異なる帯域毎に算出するオフセット計算手段と
    を有し、
    前記ゲインオフセット手段は、前記オフセット計算手段により算出された異なる帯域毎のゲインオフセット量を用いて前記オフセット処理を行うこと
    を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の聴覚感度補正装置。
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