JP5957964B2 - 音響処理装置および音響処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、音響信号を調整する技術に関する。
音響信号の増幅のゲインを音響信号の強度に応じて可変に制御する技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、音響信号のうち特定帯域内の強度の変動範囲を圧縮(コンプレッション)するダイナミックイコライザが開示されている。
特許第2966846号公報
特許文献1の技術のもとでは、公知のコンプレッサと同様にアタック時間やリリース時間を利用者が手動で調整する構成が想定される。しかし、特許文献1の技術では、音響信号のうち特定帯域内の強度に対して選択的にコンプレッサが作用するから、利用者が再生音からアタック時間やリリース時間の変動を把握し難く、利用者が再生音を聴取しながらアタック時間やリリース時間を好適な時間に手動で調整することが困難であるという問題がある。以上の事情を考慮して、本発明は、アタック時間およびリリース時間を調整する利用者の負担を軽減することを目的とする。
本発明の音響処理装置は、選択帯域を設定する帯域設定手段と、音響信号のうち選択帯域内の成分を可変のゲインで調整(増幅または減衰)する信号処理手段と、音響信号の選択帯域内の強度を検出する強度検出手段と、選択帯域の周波数に応じてアタック時間およびリリース時間の少なくとも一方を設定する設定手段と、強度検出手段が検出した強度の増加に対してアタック時間に応じた変化速度で信号処理手段のゲインを変化させ、当該強度の減少に対してリリース時間に応じた変化速度で信号処理手段のゲインを変化させる制御手段とを具備する。以上の構成では、アタック時間およびリリース時間の少なくとも一方が選択帯域の周波数に応じて可変に設定されるから、利用者によるアタック時間またはリリース時間の調整の負担を軽減することが可能である。
なお、利用者がアタック時間やリリース時間を調整する負担を軽減できるとは言っても、利用者が例えば手動でアタック時間およびリリース時間を調整できる構成が本発明の範囲から除外されるわけではない。例えば、本発明の構成のもとで選択帯域の周波数に応じて設定されたアタック時間およびリリース時間の少なくとも一方を利用者からの指示に応じて調整する構成も採用され得る。
本発明の好適な態様において、設定手段は、選択帯域の周波数が高いほどアタック時間およびリリース時間を小さい数値に設定する。以上の態様では、低音域および高音域の耳障りな音響成分を抑圧することが可能である。したがって、発声者と収音機器との過度な接近に起因した低音域の耳障りな音響成分や、数kHz程度の高音域の耳障りな音響成分が発生し易い音声(例えば歌唱音や会話音)の音響信号の処理に好適である。
本発明の好適な態様において、設定手段は、選択帯域の周波数が高いほどアタック時間を大きい数値に設定するとともにリリース時間を小さい数値に設定する。以上の態様では、低音域および高音域の音響成分の強度を均一化することが可能であるから、低音域のベースの音響や高音域の打楽器の演奏音等の楽音の音響信号の処理に好適である。
本発明の好適な態様において、設定手段は、第1動作モードおよび第2動作モードで動作し、第1動作モードでは、選択帯域の周波数が高いほどアタック時間およびリリース時間を小さい数値に設定する一方、第2動作モードでは、選択帯域の周波数が高いほどアタック時間を大きい数値に設定するとともにリリース時間を小さい数値に設定する。以上の態様では、周波数とアタック時間およびリリース時間との関係が相違する第1動作モードと第2動作モードとが選択され得るから、処理対象(例えば音声/楽音)に応じた適切なアタック時間およびリリース時間を設定できるという利点がある。
本発明の好適な態様において、第1動作モードは、第1個別モードと第2個別モードとを含み、選択帯域の周波数の変化に対するアタック時間およびリリース時間の変化量は、第2個別モードと比較して第1個別モードのほうが大きい。以上の態様では、周波数とアタック時間およびリリース時間との関係が相違する第1個別モードと第2個別モードとに第1動作モードが細分化されるから、処理対象に応じた適切なアタック時間およびリリース時間を設定できるという前述の効果は格別に顕著である。なお、以上の説明では第1動作モードが第1個別モードと第2個別モードとを含む場合を例示したが、周波数とアタック時間およびリリース時間との関係が相違する複数の個別モードを第2動作モードが含む構成も採用され得る。
以上の各態様に係る音響処理装置は、DSP(Digital Signal Processor)等の専用の電子回路で実現されるほか、CPU(Central Processing Unit)などの汎用の演算処理装置とプログラムとの協働でも実現される。本発明のプログラムは、選択帯域を設定する帯域設定処理と、音響信号のうち選択帯域内の成分を可変のゲインで調整(増幅または減衰)する信号処理と、音響信号の選択帯域内の強度を検出する強度検出処理と、選択帯域の周波数に応じてアタック時間およびリリース時間の少なくとも一方を設定する設定処理と、強度検出処理で検出した強度の増加に対してアタック時間に応じた変化速度で信号処理のゲインを変化させ、当該強度の減少に対してリリース時間に応じた変化速度で信号処理のゲインを変化させる制御処理とをコンピュータに実行させる。以上のプログラムによれば、本発明の音響処理装置と同様の効果が実現される。なお、本発明のプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に格納された形態で提供されてコンピュータにインストールされるほか、通信網を介した配信の形態で提供されてコンピュータにインストールされる。
本発明の第1実施形態に係る音響処理装置のブロック図である。 アタック時間およびリリース時間とゲインとの関係の説明図である。 調整画面の模式図である。 周波数とアタック時間およびリリース時間との関係を示すグラフである。 強度検出部のブロック図である。 第2実施形態における周波数とアタック時間およびリリース時間との関係を示すグラフである。 第3実施形態に係る音響処理装置のブロック図である。 第3実施形態における調整画面の模式図である。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る音響処理装置100のブロック図である。音響処理装置100には信号供給装置200が接続される。信号供給装置200は、音声や楽音等の音響の時間波形を示す音響信号SAを音響処理装置100に供給する。例えば、周囲の音響を収音して音響信号SAを生成する収音機器や、可搬型または内蔵型の記録媒体から音響信号SAを取得する再生装置や、通信網から音響信号SAを受信する通信装置が信号供給装置200として採用され得る。
音響処理装置100は、音響信号SAから音響信号SBを生成する信号処理装置である。第1実施形態の音響処理装置100は、音響信号SAのうち特定の周波数帯域(以下「選択帯域」という)B内の成分を可変のゲインで選択的に調整(増幅または減衰)することで音響信号SBを生成するダイナミックイコライザである。図1に示すように、音響処理装置100は、演算処理装置10と記憶装置12と表示装置14と入力装置16と放音装置18とを具備するコンピュータシステムで実現される。
表示装置14(例えば液晶表示パネル)は、演算処理装置10からの指示に応じて各種の画像を表示する。入力装置16は、音響処理装置100に対する利用者からの指示を受付ける機器であり、例えば利用者が操作する複数の操作子を含んで構成される。なお、表示装置14と一体に構成されたタッチパネルを入力装置16として利用することも可能である。放音装置18(スピーカやヘッドホン)は、音響信号SBに応じた音波を再生する。なお、音響信号SBをデジタルからアナログに変換するD/A変換器の図示は便宜的に省略した。
記憶装置12は、演算処理装置10が実行するプログラムPGMや演算処理装置10が使用する各種のデータを記憶する。半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の記録媒体または複数種の記録媒体の組合せが記憶装置12として任意に採用される。なお、音響信号SAを記憶装置12に格納した構成(したがって信号供給装置200は省略される)も採用され得る。
演算処理装置10は、記憶装置12に記憶されたプログラムPGMを実行することで、音響信号SAから音響信号SBを生成するための複数の機能(信号処理部22,表示制御部24,帯域設定部26,設定部28,強度検出部32,制御部34)を実現する。なお、演算処理装置10の各機能を複数の装置の分散した構成や、専用の電子回路(DSP)が各機能を実現する構成も採用され得る。
信号処理部22は、信号供給装置200から供給される音響信号SAのうち選択帯域B内の成分を可変のゲイン(調整値)Gで調整して音響信号SBを生成する。例えば、ゲインGに応じた係数を音響信号SAのうち選択帯域B内の成分に乗算する乗算回路が信号処理部22として好適に採用される。信号処理部22による処理後の音響信号SBが放音装置18から再生される。
信号処理部22による信号処理(以下「帯域調整処理」という)は、複数種の変数(選択帯域B,閾値TH,圧縮比R,アタック時間τA,リリース時間τR)に応じて制御される。選択帯域Bは、音響信号SAのうち帯域調整処理の対象となる周波数帯域である。音響信号SAのうち選択帯域B内の強度(音量)Xが閾値THを上回る場合に、音響信号SAに対する音響信号SBの強度比(入出力比)が圧縮比Rとなるように帯域調整処理が制御される。具体的には、音響信号SAの強度Xが閾値THを上回る範囲内で増加するほどゲインGは圧縮比Rに応じて小さい数値に設定される。なお、選択帯域B内の強度の変動幅(ダイナミックレンジ)を縮小するコンプレッサとして信号処理部22を機能させる場合には圧縮比Rは1未満の数値に設定されるが、圧縮比Rを1以上の数値に設定することで、選択帯域B内の強度Xの変動幅を拡張するエキスパンダーとして信号処理部22を機能させることも可能である。
アタック時間τAは、音響信号SAの選択帯域B内の強度Xの増加に対するゲインGの変化速度(強度Xに対する追従度)を意味し、リリース時間τRは、音響信号SAの強度Xの減少に対するゲインGの変化速度(強度Xに対する追従度)を意味する。図2は、選択帯域B内の強度XとゲインGとの関係を例示した模式図である。図2の部分(A)には音響信号SAのうち選択帯域B内の強度Xの時間変化が図示され、アタック時間τAおよびリリース時間τRが大きい場合(破線)と小さい場合(実線)との各々についてゲインGの時間変化が図2には図示されている。
図2に示すように、強度Xが増加して閾値THを上回った時点P1からアタック時間τAに応じた変化率でゲインGは減少する。具体的には、アタック時間τAが小さいほど、ゲインGの変化速度(単位時間毎の減少量)は大きい。また、図2に示すように、強度Xが減少して閾値THを下回った時点P2からリリース時間τRに応じた変化率でゲインGは増加する。具体的には、リリース時間τRが小さいほど、ゲインGの変化速度(単位時間毎の増加量)は大きい。以上に説明した通り、アタック時間τAが小さいほど、強度Xが閾値THを上回った時点P1からゲインGが迅速に強度Xの変化に追従し、リリース時間τRが小さいほど、強度Xが閾値THを下回った時点P2からゲインGが迅速に強度Xの変化に追従する。したがって、アタック時間τAは、音響信号SAの強度Xが増加して閾値THを上回った時点P1から強度Xの圧縮が実質的に開始されるまでの遅延時間とも換言され、リリース時間τRは、音響信号SAの強度Xが減少して閾値THを下回った時点P2から強度Xの圧縮が実質的に解除されるまでの遅延時間とも換言され得る。
図1の表示制御部24は、帯域調整処理の各変数を利用者が確認および調整するための図3の画像(以下「調整画面」という)40を表示装置14に表示させる。調整画面40は、利用者からの指示を受付ける操作領域42と、帯域調整処理の特性を利用者に提示する特性領域44とを含んで構成される。
操作領域42には、利用者が入力装置16を使用して操作可能な複数の操作子(421〜425)が配置される。利用者は、操作子421および操作子422を操作することで選択帯域Bを調整することが可能である。具体的には、利用者は、操作子421の操作で選択帯域Bの周波数(中心周波数)Fを指示し、操作子422の操作で選択帯域Bに対する増幅特性のQ値を指示する。また、利用者は、操作子423を操作することで閾値THを調整するとともに操作子424を操作することで圧縮比Rを調整することが可能である。
第1実施形態の音響処理装置100は、アタック時間τAおよびリリース時間τRの設定条件が相違する第1動作モード(図2の“MODE 1”)または第2動作モード(図2の“MODE 2”)で動作する。利用者は、操作子425を操作することで動作モード(第1動作モード/第2動作モード)を選択することが可能である。各動作モードにおけるアタック時間τAおよびリリース時間τRの設定については後述する。
特性領域44には、帯域調整処理の条件が表示される。図3の特性画像441は、選択帯域Bおよび圧縮比Rの設定値を表現する。すなわち、表示制御部24は、選択帯域BのQ値に応じた形状で極値(極小値)が圧縮比Rに応じて設定された特性画像441を、周波数軸のうち選択帯域Bの周波数Fに応じた位置に配置する。図3の特性画像443は、信号処理部22による帯域調整処理に実際に適用される周波数毎のゲインGを表現する。したがって、音響信号SAの選択帯域B内の強度Xに応じて特性画像443は実時間的に変化する。
図1の帯域設定部26は、選択帯域Bを可変に設定する。第1実施形態の帯域設定部26は、操作領域42内の操作子421および操作子422に対する利用者からの指示(周波数FおよびQ値の設定値)に応じて選択帯域Bを設定する。すなわち、選択帯域Bの周波数軸上の位置が周波数Fに応じて設定され、選択帯域Bの帯域幅がQ値に応じて設定される。具体的には、利用者が指示したQ値が小さいほど選択帯域Bの帯域幅は拡大する。
図1の設定部28は、アタック時間τAおよびリリース時間τRを可変に設定する。アタック時間τAやリリース時間τRの好適な数値が選択帯域Bの周波数Fに依存するという概略的な傾向を考慮して、第1実施形態の設定部28は、帯域設定部26が設定する選択帯域Bの周波数(中心周波数)Fに応じてアタック時間τAおよびリリース時間τRの各々を可変に設定する。例えば設定部28は、周波数Fの各数値とアタック時間τAおよびリリース時間τRの各数値とが対応づけられたテーブルを参照することで周波数Fに応じたアタック時間τAおよびリリース時間τRを決定する。
図4の部分(A)は周波数Fとアタック時間τAとの関係を示すグラフであり、図4の部分(B)は周波数Fとリリース時間τRとの関係を示すグラフである。図4の部分(A)および部分(B)から理解されるように、周波数Fとアタック時間τAおよびリリース時間τRの各々との関係は、操作子425に対する操作で利用者が選択した動作モード(第1動作モード/第2動作モード)に応じて変化する。
図4から把握される通り、設定部28は、第1動作モードでは、選択帯域Bの周波数Fが高いほどアタック時間τAおよびリリース時間τRの双方を小さい数値(短い時間)に設定し、第2動作モードでは、選択帯域Bの周波数Fが高いほどアタック時間τAを大きい数値(長い時間)に設定するとともにリリース時間τRを小さい数値に設定する。第1動作モードではアタック時間τAが比較的に小さい数値に維持され、第2動作モードでは、第1動作モードと比較すると、周波数Fの変化に対してアタック時間τAが広い範囲で変化する。すなわち、周波数Fの変化に対するアタック時間τAの変化量(直線の傾き)は、第1動作モードと比較して第2動作モードのほうが大きい。したがって、周波数Fが所定値F1を下回る範囲内では第1動作モードのアタック時間τAが第2動作モードのアタック時間τAを上回り、周波数Fが所定値F1を上回る範囲内では第2動作モードのアタック時間τAが第1動作モードのアタック時間τAを上回る。同様に、周波数Fの変化に対するリリース時間τRの変化量は、第1動作モードと比較して第2動作モードのほうが大きい。したがって、周波数Fが所定値F2を下回る範囲内では第2動作モードのリリース時間τRが第1動作モードのリリース時間τRを上回り、周波数Fが所定値F2を上回る範囲内では第1動作モードのリリース時間τRが第2動作モードのリリース時間τRを上回る。
図1の強度検出部32は、音響信号SAのうち帯域設定部26が設定した選択帯域B内の強度Xを検出する。強度Xの検出は例えば所定の周期で順次に実行される。図5に示すように、第1実施形態の強度検出部32は、帯域選択部52と検出処理部54とを含んで構成される。帯域選択部52は、音響信号SAのうち選択帯域B内の成分を抽出する。例えば選択帯域B内の成分を通過させるフィルタ(サイドチェインフィルタ)が帯域選択部52として採用される。検出処理部54は、音響信号SAのうち帯域選択部52が抽出した成分の強度(音量)Xを順次に算定する。
図1の制御部34は、設定部28が設定したアタック時間τAおよびリリース時間τRと強度検出部32が検出した強度Xとに応じて信号処理部22による帯域調整処理のゲインGを設定する。具体的には、制御部34は、選択帯域B内の強度Xの増加に対してアタック時間τAに応じた追従度でゲインGを変化させ、強度Xの減少に対してリリース時間τRに応じた追従度でゲインGを変化させる。
音響信号SAが、歌唱音や会話音等の音声を収音機器で収録した信号である場合、発声者と収音機器との過度な接近(近接効果)に起因して低音域の耳障りな音響成分(ブーミング)が強調される可能性がある。低音域の音響成分は強度の変動(立上がりや立下がり)が緩慢であるという傾向を考慮すると、低音域の耳障りな音響成分を抑圧する観点からは大きいアタック時間τAおよびリリース時間τRが好適である。第1動作モードでは、図4に例示した通り、選択帯域Bの周波数Fが低いほどアタック時間τAおよびリリース時間τRが大きい数値に設定される(ゲインGの変化速度が低い)から、音声の音響信号SAのうち低音域の耳障りな音響成分が有効に抑圧される。
また、音声の音響信号SAでは、数kHz程度の高音域に耳障りな甲高い音響成分が観測され得る。高音域の音響成分は強度の変動が急峻であるという傾向を考慮すると、高音域の耳障りな音響成分を抑圧する観点からは小さいアタック時間τAおよびリリース時間τRが好適である。第1動作モードでは、図4に例示した通り、選択帯域Bの周波数Fが高いほどアタック時間τAおよびリリース時間τRが小さい数値に設定される(ゲインGの変化速度が高い)から、音声の音響信号SAのうち高音域の耳障りな音響成分が有効に抑圧される。以上の説明から理解されるように、第1動作モードは、音声を収録した音響信号SAを調整する場合(低音域や高音域の耳障りな音響成分を抑圧する場合)に格別に好適である。
他方、楽器の演奏音(楽音)を収録した音響信号SAについて各音響の強度を均一化する(いわゆる音の粒を揃える)場合、アタック時間τAおよびリリース時間τRの好適な数値は楽器の種類(音域)に依存するという傾向がある。例えば低音域のベースの楽音の強度を均一化する場合、楽音の発生の時点に高い強度で存在する不揃いな音響成分が有効に抑圧されるように小さいアタック時間τAと大きいリリース時間τRとが好適である。第2動作モードでは、図4に例示した通り、選択帯域Bの周波数Fが低いほどアタック時間τAが小さい数値に設定されるとともにリリース時間τRが大きい数値に設定されるから、低音域のベース等の楽音の強度を有効に均一化することが可能である。
他方、例えば高音域の打楽器(例えばハイハットドラム)の楽音を均一化する場合には、楽音の立上がりを維持したまま各楽音の強度を均一化し得る大きいアタック時間τAが好適である。また、打楽器音は短い間隔で周期的に発音される場合が多いから、リリース時間τRを大きい数値に設定すると、1個の楽音の発生時に低下したゲインGが完全に復帰する以前に直後の楽音が発生し、結果的に、各楽音の強度が不揃いとなる可能性がある。したがって、高音域の打楽器音については短いリリース時間τRが好適である。第2動作モードでは、図4に例示した通り、選択帯域Bの周波数Fが高いほどアタック時間τAが大きい数値に設定されるとともにリリース時間τRが小さい数値に設定されるから、高音域の打楽器等の楽音の強度を有効に均一化することが可能である。以上の説明から理解されるように、第2動作モードは、楽音を収録した音響信号SAを調整する場合(低音域および高音域の双方の各楽音の強度を均一化する場合)に格別に好適である。
以上に説明したように、第1実施形態では、アタック時間τAおよびリリース時間τRが選択帯域Bの周波数Fに応じて可変に設定されるから、アタック時間τAやリリース時間τRを利用者が手動で調整する負担を軽減することが可能である。また、音響信号SAの特性とアタック時間τAやリリース時間τRの好適な数値との知識を必要とせずにアタック時間τAやリリース時間τRを好適な数値に設定できるという利点もある。しかも、選択帯域Bの周波数Fとアタック時間τAおよびリリース時間τRとの関係が相違する第1動作モードと第2動作モードとが選択されるから、処理対象(音声/楽音)に応じて適切なアタック時間τAおよびリリース時間τRを設定することが可能である。
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各形態において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、第1実施形態の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
第1実施形態では第1動作モードと第2動作モードとを例示した。第2実施形態では、第1動作モードが第1個別モードと第2個別モードとに区別される。すなわち、利用者は、入力装置16を適宜に操作することで、第1個別モードと第2個別モードと第2動作モードとの何れかを選択することが可能である。
図6の部分(A)は、第2実施形態の各動作モード(第1個別モード,第2個別モード,第2動作モード)における選択帯域Bの周波数Fと設定部28が設定するアタック時間τAとの関係を示すグラフであり、図6の部分(B)は、各動作モードにおける周波数Fとリリース時間τRとの関係を示すグラフである。第1個別モードおよび第2個別モードにおける周波数Fとアタック時間τAおよびリリース時間τRとの関係の概略的な傾向は第1実施形態の第1動作モードと同様である。ただし、選択帯域Bの周波数Fとアタック時間τAおよびリリース時間τRとの関係は第1個別モードと第2個別モードとで相違する。具体的には、周波数Fの変化に対するアタック時間τAおよびリリース時間τRの変化量(直線の傾き)は、第2個別モードと比較して第1個別モードのほうが大きい。
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態では、アタック時間τAおよびリリース時間τRの設定条件が相違する第1個別モードと第2個別モードとに第1動作モードが細分化されるから、第1実施形態と比較して帯域調整処理が多様化される。したがって、利用者の意図に沿った音響信号SBを生成できる可能性が高いという利点がある。
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態における音響処理装置100のブロック図である。図7に示すように、第3実施形態の演算処理装置10はN個の単位処理部U[1]〜U[N]として機能する(Nは2以上の自然数)。各単位処理部U[n](n=1〜N)は、第1実施形態で例示した各要素(信号処理部22,帯域設定部26,設定部28,強度検出部32,制御部34)として機能する。第1段目の単位処理部U[1]には信号供給装置200から音響信号SAが供給され、第2段目以降の各単位処理部U[n]には前段の単位処理部U[n-1]の処理後の音響信号SBが音響信号SAとして供給される。第N段目の単位処理部U[N]が生成した音響信号SBが放音装置18に供給される。選択帯域Bとアタック時間τAおよびリリース時間τR(さらにゲインG)とは単位処理部U[n]毎に個別に設定される。
第3実施形態の表示制御部24は、図8の調整画面40を表示装置14に表示させる。調整画面40は、相異なる単位処理部に対応するN個(図8ではN=2)の操作領域42[1]〜44[N]と、各単位処理部U[n]による帯域調整処理の特性を表現する特性領域44とを含んで構成される。利用者は、各操作領域42[n]を操作することで、信号処理部22による帯域調整処理の変数(選択帯域B,閾値TH,圧縮比R,動作モード)を単位処理部U[n]毎に個別に指定することが可能である。各単位処理部U[n]の選択帯域Bは相互に重複し得る。また、特性領域44には、各単位処理部[n]に対応するN組の特性画像441および特性画像443が単一の周波数軸上に配置される。
第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第3実施形態の音響処理装置100は、選択帯域Bやアタック時間τAやリリース時間τRを個別に設定可能なN個の単位処理部U[1]〜U[N]を具備するから、第1実施形態と比較して多様な特性の音響信号SBを生成できるという利点がある。なお、第1個別モードと第2個別モードとを選択可能な第2実施形態の構成を第3実施形態の各単位処理部U[n]に適用することも可能である。
<変形例>
以上の各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
(1)前述の各形態では、利用者が指定した周波数(中心周波数)FとQ値とに応じて帯域設定部26が選択帯域Bを設定したが、選択帯域Bの設定方法は以上の例示に限定されない。例えば、利用者が指定した下限周波数と上限周波数との間の帯域を帯域設定部26が選択帯域Bとして設定することも可能である。選択帯域Bの周波数Fは、選択帯域Bの周波数軸上の位置に対応した周波数として包括され、選択帯域Bの中心周波数や下限周波数や上限周波数が周波数Fの典型例として列挙され得る。
(2)前述の各形態では、利用者が選択した動作モードに応じて周波数Fに対応するアタック時間τAおよびリリース時間τRを設定部28が設定したが、周波数Fに応じたアタック時間τAおよびリリース時間τRの設定方法は任意である。例えば、利用者からの指示(例えば表示装置14に表示された操作子に対する操作)に応じて第1変数Q1と第2変数Q2とを可変に設定し、選択帯域Bの周波数Fに応じて変化する係数を第1変数Q1に作用させる(例えば乗算する)ことでアタック時間τAを算定し、周波数Fに応じて変化する係数を第2変数Q2に作用させることでリリース時間τRを算定することも可能である。また、アタック時間τAおよびリリース時間τRの一方のみを周波数Fに応じて設定し、他方については周波数Fに依存させない構成も採用され得る。以上の説明から理解されるように、設定部28は、選択帯域Bの周波数Fに応じてアタック時間τAおよびリリース時間τRの少なくとも一方を設定する要素として包括される。
(3)選択帯域Bの周波数Fとアタック時間τAおよびリリース時間τRとの関係は図4または図6の例示に限定されない。例えば、周波数Fが高いほどリリース時間τRを大きい数値に設定することも可能である。
(4)前述の各形態では第1動作モードおよび第2動作モードを例示したが、選択帯域Bの周波数Fとアタック時間τAまたはリリース時間τRとの関係が相違する3種類以上の動作モードを選択可能な構成も採用され得る。また、前述の各形態では第1動作モードを第1個別モードと第2個別モードとに区分したが、第1動作モード(または第2動作モード)を3種類以上の個別モードに区分することも可能である。
(5)前述の各形態では、信号供給装置200から供給される音響信号SAを処理対象としたが、各種の信号処理後の音響信号を処理対象とすることも可能である。例えば、相異なる音源に対応する複数の音響成分の混合音を収録した音響信号SAの音源分離処理で各音源に対応する複数の分離信号を生成し、前述の各形態で例示した処理を各分離信号に対して個別に実行することも可能である。各分離信号の音源にとって適切な動作モードが分離信号毎に個別に選択され得る。例えば、音声(歌唱音)と楽音(演奏音)とが混合された音響信号SAを音声の分離信号と楽音の分離信号とに分離し、音声の分離信号については第1動作モードを適用するとともに楽音の分離信号については第2動作モードを適用する構成が好適である。
100……音響処理装置、200……信号供給装置、10……演算処理装置、12……記憶装置、14……表示装置、16……入力装置、18……放音装置、22……信号処理部、24……表示制御部、26……帯域設定部、28……設定部、32……強度検出部、34……制御部、40……調整画面、42……操作領域、421〜425……操作子、44……特性領域、441,443……特性画像、52……帯域選択部、54……検出処理部。

Claims (2)

  1. 選択帯域を設定する帯域設定手段と、
    音響信号のうち前記選択帯域内の成分を可変のゲインで調整する信号処理手段と、
    前記音響信号の前記選択帯域内の強度を検出する強度検出手段と、
    前記選択帯域の周波数に応じてアタック時間およびリリース時間の少なくとも一方を設定する設定手段と、
    前記強度検出手段が検出した強度の増加に対して前記アタック時間に応じた変化速度で前記信号処理手段のゲインを変化させ、当該強度の減少に対して前記リリース時間に応じた変化速度で前記信号処理手段のゲインを変化させる制御手段とを具備し、
    前記設定手段は、第1動作モードおよび第2動作モードで動作し、前記第1動作モードでは、前記選択帯域の周波数が高いほど前記アタック時間および前記リリース時間を小さい数値に設定する一方、前記第2動作モードでは、前記選択帯域の周波数が高いほど前記アタック時間を大きい数値に設定するとともに前記リリース時間を小さい数値に設定し、
    前記第1動作モードは、第1個別モードと第2個別モードとを含み、
    前記選択帯域の周波数の変化に対する前記アタック時間および前記リリース時間の変化量は、前記第2個別モードと比較して前記第1個別モードのほうが大きい
    音響処理装置。
  2. コンピュータシステムが、
    選択帯域を設定し、
    音響信号のうち前記選択帯域内の成分を可変のゲインで調整し、
    前記音響信号の前記選択帯域内の強度を検出し、
    第1動作モードでは、前記選択帯域の周波数が高いほどアタック時間およびリリース時間を小さい数値に設定する一方、第2動作モードでは、前記選択帯域の周波数が高いほど前記アタック時間を大きい数値に設定するとともに前記リリース時間を小さい数値に設定し、
    前記検出した強度の増加に対して前記アタック時間に応じた変化速度で前記ゲインを変化させ、当該強度の減少に対して前記リリース時間に応じた変化速度で前記ゲインを変化させ、
    前記第1動作モードは、第1個別モードと第2個別モードとを含み、
    前記選択帯域の周波数の変化に対する前記アタック時間および前記リリース時間の変化量は、前記第2個別モードと比較して前記第1個別モードのほうが大きい
    音響処理方法。
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