以下、本発明に係る音質補正装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る音質補正装置を備えた車載用オーディオ装置2を示したブロック図である。本実施の形態では、図1に示すように、音質補正装置1が、車載用オーディオ装置2に内蔵される構成について説明するが、音質補正装置1は、必ずしも車載用オーディオ装置2に内蔵される構成には限定されず、音質補正装置1が車載用オーディオ装置2に対して別体に構成されて接続されるものであってもよい。
音質補正装置1は、ダイナミック周波数補正部(ダイナミック周波数補正装置)3と、固定周波数補正部(固定周波数補正装置)4とを有しており、音量設定部5を介して、音源部6に接続されている。
音源部6は、ユーザの操作に伴って様々なソースより所望のオーディオ信号を出力することが可能となっている。具体的に、音源部6では、CD,DVD,MD,ハードディスクなどの記録メディアからオーディオ信号を読み出すことによって、あるいは、ラジオなどで放送されるオーディオ信号を受信することによって、音量設定部5を介して音質補正装置1へオーディオ信号を出力する。
音量設定部5は、車載用オーディオ装置2のフロントパネルなどに設けられているボリュームボタン(あるいはボリュームつまみ。図示省略)と、ボリュームボタンの操作に応じて、音源部6より出力されたオーディオ信号の音量調整を行う音量調整部(図示省略)とを有している。ユーザによりボリュームボタンが操作されると、操作量に応じて音量調整部で音量の増減処理が行われ、音量の増減処理が行われたオーディオ信号がダイナミック周波数補正部3へと出力される。
ダイナミック周波数補正部3は、音量設定部5においてオーディオ信号が増加処理された場合において、プラス側(音量が増加処理された側)の信号レベルに応じてオーディオ信号の周波数特性をダイナミックに補正する役割を有している。ここで、ダイナミックに補正するとは、増加量に応じて補正量を適切に変化させることを意味し、固定周波数補正部4において周波数特性が一定に(補正値が固定された状態で)補正される点で、補正方法が異なっている。
図2は、ダイナミック周波数補正部3の概略構成を示したブロック図である。ダイナミック周波数補正部3は、n個のフィルタ部7(第1フィルタ部7−1〜第nフィルタ部7−n。本発明に係る帯域分割手段の一例に該当する。)と、ゲイン制御部8と、重み付け合成部9とを有している。
第1フィルタ部7−1〜第nフィルタ部7−nは、オーディオ信号を帯域別に分割するためのフィルタであり、本実施の形態に係る音質補正装置1では、2次のピーキングフィルタを適用する。各フィルタ部7は、それぞれ周波数毎にそのピーク周波数が段階的に異なる値に規定されている。このように各フィルタ部7のピーキング周波数を変化させることにより、オーディオ信号を所定の周波数帯域毎に分割して(出力1〜出力nに分割する。この出力1〜出力nは、本発明に係る帯域別信号の一例に該当する。)、ゲイン制御部8および重み付け合成部9へ出力する。
なお、本実施の形態に示す具体的なフィルタ部7の設定値などについては、後述する。また、ダイナミック周波数補正部3に入力された全帯域のオーディオ信号は、n+1番目の出力(出力n+1。この出力n+1は、本発明に係る全帯域信号の一例に該当する。)として、ゲイン制御部8および重み付け合成部9へ出力される。
図3は、ゲイン制御部8の概略構成を示した図である。ゲイン制御部8は、n+1個のレベル検出部11(第1レベル検出部11−1〜第n+1レベル検出部11−n+1)と、n+1個のアタックリリースフィルタ部12(以下ARフィルタ部とする。第1ARフィルタ部12−1〜第n+1ARフィルタ部12−n+1)と、n+1個のゲイン計算部13(第1ゲイン計算部13−1〜第n+1ゲイン計算部13−n+1。第1ゲイン計算部13−1〜第nゲイン計算部13−nは、本発明に係る第1補正値算出手段の一例に該当する。第n+1ゲイン計算部13−n+1は、本発明に係る全帯域補正値算出手段の一例に該当する。)と、n個のオフセット部14(第1オフセット部14−1〜第nオフセット部14−n。第1オフセット部14−1〜第nオフセット部14−nは、本発明に係る第2補正値算出手段および第2補正値変更手段の一例に該当する。)とを有している。
レベル検出部11(第1レベル検出部11−1〜第n+1レベル検出部11−n+1)は、音量設定部5において音量調整されたオーディオ信号を絶対値化した後に、所定時間区間における最大値を検出し、検出された最大値を一定時間だけ保持して1サンプル毎のレベル検出信号を求めて、ARフィルタ部12へ出力する。
ARフィルタ部12(第1ARフィルタ部12−1〜第n+1ARフィルタ部12−n+1)は、あらかじめ設定されたアタック時間とリリース時間とに基づいて、レベル検出部11より出力されたオーディオ信号の応答速度調整を行う。具体的には、オーディオ信号の信号レベルが上昇する場合(アタックの場合)には、上昇した信号レベルが、アタック時間だけ維持されるように調整(フィルタ処理)を行い、オーディオ信号の信号レベルが下降する場合(リリースの場合)には、下降した信号レベルが、リリース時間だけ維持されるように調整(フィルタ処理)を行う。このようにアタック時間およびリリース時間に基づいて応答速度調整を行うことになって、ARフィルタ部12でフィルタ処理されたレベル検出信号の平滑化を行うことが可能となる。なお、ARフィルタ部12における応答速度調整処理によって、レベル検出部11よりARフィルタ部12に対して出力されたオーディオ信号は、デシベル変換されたレベル検出信号(帯域別信号)となる。
次に、ゲイン計算部13では、ARフィルタ部12においてデシベル変換されたレベル検出信号に、次述する式(1)を適用して制御信号Cを帯域別に生成する処理を行う。
C=−Gs×(V−Gi)+Go ・・・式(1)
ただし、Cは制御信号[dB](本発明に係る第1補正値の一例に該当する。)、Gsはゲイン係数(第1ゲイン計算部13−1のGs〜第nゲイン計算部13−nのGsは、本発明に係る第1補正値を算出する場合に用いる係数値の絶対値の一例に該当し、第n+1ゲイン計算部13−n+1のGsは、本発明に係る全帯域の補正値を算出する場合に用いる係数値の絶対値の一例に該当する。)、Vはレベル検出信号[dB]、Giは、制御開始時の信号レベル[dB]、Goは、制御開始時のゲインオフセット[dB](本発明に係る所定下限値に該当する。)を示している。
これらのうち、ゲイン係数を示すGsと、制御開始時の信号レベル[dB]を示すGiと、制御開始時のゲインオフセット[dB]を示すGoとは、初期値として一定の値があらかじめ設定される。これらの値の設定については後述する。
また、式(1)に示すように、ゲイン係数Gsの係数が−1であるため、制御信号C(第1補正値)の信号レベルは、レベル検出信号V(帯域別信号)の信号レベルに反比例させた値として求められる。従って、レベル検出信号Vの信号レベル、つまり帯域別に分割されたオーディオ信号の信号レベルが大きい場合には、制御信号Cの値が低い値となり、後述する重み付け合成部9で合成された信号の信号レベルを効果的に小さくすることができる。一方で、レベル検出信号Vの信号レベルが小さい場合には、制御信号Cの値が高い値となり、重み付け合成部9で合成された信号の信号レベルを効果的に大きくすることができる。
このように、オーディオ信号の信号レベルを帯域別に判断し、信号レベルが大きい帯域では、信号レベルを低減させることにより、帯域毎に最適な信号レベル補正を行うことが可能となる。また、信号レベルが小さい帯域においては、信号レベルを増大させることにより、オーディオ信号に対する迫力感・重厚感などを効果的に付加することが可能となる。
オフセット部14は、全帯域の信号レベルに応じて、各帯域の制御信号Cをオフセットさせる処理を行う。全帯域の信号レベルに応じて、各帯域の制御信号Cをオフセットさせることにより、全帯域の信号レベルが大きい場合に生じ得るスピーカの歪音を低減させることが可能となる。具体的に、オフセット部14は、次述する式(2)に基づいて、各帯域の制御信号CをCo(本発明に係る第2補正値に該当する。)で示される制御信号に修正する。
Co=C+C' ・・・式(2)
ただし、Co>Gmx の場合には、 Co=Gmx
Co<Go の場合には、 Co=Go
なお、Cは、ゲイン計算部13(第1ゲイン計算部13−1〜第nゲイン計算部13−n)で帯域別に求められる制御信号[dB]を示している。また、C'は、第n+1ゲイン計算部13−n+1で求められる全帯域の制御信号[dB]を示しており、この信号をオフセット信号(全帯域の補正値)という。Gmxは、制御信号Coとして認められ得る最大ゲインを示している。制御信号Coが最大ゲインGmxよりも大きい値を示す場合には、制御信号Coの値が最大ゲインGmxの値に変更(制御信号Coが最大ゲインGmxを上限値として修正)される。この最大ゲインGmxもあらかじめ設定される値(本発明に係る所定上限値に該当する。)である。この最大ゲインGmxは、スピーカの出力特性に基づいて設定され、より詳細には、スピーカで歪音を生じない信号レベルとなるように、その上限値が決定(設定)される。
このように、制御信号Coが最大ゲインGmxより大きい場合に、制御信号Coが最大ゲインGmxの値に変更されるため、補正後のオーディオ信号がスピーカの出力許容量を超えた信号レベルで出力され、歪音を発生させてしまうことを防止することができる。さらに、スピーカの出力許容量を超えないぎりぎりの範囲で補正が行われるように最大ゲインGmxの設定を行うことにより、最も効果的な音質補正を行うことが可能となる。
また、Goは、既に説明したように、制御開始時のゲインオフセット[dB]を示しており、制御信号CoがGoよりも小さい場合には、制御信号Coの値がGoの値に変更(制御信号CoがGoを下限値として修正)される。このように、制御信号CoがGoより小さい場合に、制御信号CoがGoの値に変更されるため、レベル検出信号Vの信号レベルに反比例する制御信号Cがあまりにも小さな値に低減されてしまい、該当する帯域の制御信号Coの信号レベルが、全帯域の信号レベルとのバランスを損なうほど小さな信号レベルとなってしまうことを防止することができる。
また、制御信号Coは、全帯域の信号レベルに応じてリニアにオフセット処理が行われる(値がリニアに変化する)。このように信号レベルに応じて制御信号Coの値が変化して、帯域毎のゲイン調節が行われる。制御信号Coは、帯域別にフィルタゲイン1〜wとして出力されることになる。
さらに、制御信号Coは、帯域別に求められる制御信号Cだけでなく、全帯域の制御信号C'(オフセット信号)が加えられた値であるため、帯域別の信号レベルだけでなく、全帯域の信号レベルをも考慮した補正を、オーディオ信号に付加することができる。従って、制御信号Coに基づいて音質補正されたオーディオ信号は、帯域毎の信号レベルを効果的に補正しつつも、全体的なバランスをも考慮した信号レベル補正を行うことが可能となる。
重み付け合成部9は、各フィルタ部7(第1フィルタ部7−1〜第nフィルタ部7−n)の出力(出力1〜出力n)と、ゲイン制御部8の各オフセット部14(第1オフセット部14−1〜第nオフセット部14−n)の出力(フィルタゲイン1〜w)とを、それぞれ対応する帯域毎に乗算する役割を有している。そして、重み付け合成部9は、乗算された値と、フィルタ部7を介さない出力n+1とを合成部で合成する。
図4は、重み付け合成部9の概略構成を示したブロック図である。重み付け合成部9は、図4に示すように、n個の乗算部16(第1乗算部16−1〜第n乗算部16−n。本発明に係る重み付け手段の一例に該当する。)と、合成部(合成手段)17とを有している。上述したように、各乗算部16(第1乗算部16−1〜第n乗算部16−n)は、各フィルタ部7(第1フィルタ部7−1〜第nフィルタ部7−n)の出力(出力1〜出力n)を、各フィルタ部7の帯域に対応する各オフセット部14(第1オフセット部14−1〜第nオフセット部14−n)の出力(フィルタゲイン1〜w)に乗算する。そして、乗算された各帯域の乗算値と、フィルタ部7を介していない出力n+1とが、合成部17においてそれぞれ合成される。合成部17で合成された信号は、全帯域の音響特性を反映させたオーディオ信号(補正後のオーディオ信号)となり、ダイナミック周波数補正部3から固定周波数補正部4へと出力される。
固定周波数補正部4は、マイナス側(音量が低減処理された側)の信号レベルに応じてオーディオ信号の周波数特性を固定的に補正する役割を有している。上述したように、ダイナミック周波数補正部3が、増加量に応じてダイナミックにオーディオ信号の補正を行うのに対して、固定周波数補正部4は、周波数補正における周波数特性が一定に(補正量が固定された状態で)補正される点で相違する。
図5は、固定周波数補正部4の概略構成を示したブロック図である。固定周波数補正部4は、カスケード接続されたm個のパラメトリックイコライザ部20(以下、PEQ部とする。第1PEQ部20−1〜第mPEQ部20−m。本発明に係るパラメトリックイコライザの一例に該当する。)と、ハイパスフィルタ部21(以下、HPF部21とする。)とを有している。本実施の形態に係る固定周波数補正部4では、HPF部21としてバタワースハイパスフィルタが用いられる。PEQ部20およびHPF部21は、いずれも、マイナス側のゲイン補正を行う。
固定周波数補正部4によりマイナス側のゲイン補正が行われたオーディオ信号は、図示を省略したスピーカへと出力され、音質補正装置1で補正されたオーディオ信号が、このスピーカより出力される。
このように、ダイナミック周波数補正部3は、オーディオ信号における出力ゲインのプラス側のゲイン補正を、信号レベルに応じて帯域別に変化させることにより、周波数特性をダイナミックに補正する。また、固定周波数補正部4は、オーディオ信号における出力ゲインのマイナス側のゲインを所定の値に設定して、周波数特性の補正を行う。
次に、具体的な設定値を示して、本実施の形態に係る音質補正装置1で、オーディオ信号の音質補正を行う処理について説明する。
図6(a)は、本実施の形態に係るダイナミック周波数補正部3の第1フィルタ部、第2フィルタ部および第3フィルタ部を構成するピーキングフィルタの設定値を示した表である。本実施の形態に係る音質補正装置1では、ダイナミック周波数補正部3に3個のフィルタ部(3バンドのピーキングフィルタ)が設けられている。図6(a)に示すように、第1フィルタ部は、中心周波数が70Hzに設定され、その選択度Qが2.5に設定されている。第2フィルタ部は、中心周波数が700Hzに設定され、その選択度Qが4.0に設定されている。さらに、第3フィルタ部は、中心周波数が8,000Hzに設定され、その選択度Qが1.5に設定されている。
図6(b)は、上述した第1フィルタ部〜第3フィルタ部のそれぞれのフィルタ特性を示した図である。図6(b)に示すように、第1フィルタ部のピークは70Hzとなり、第2フィルタ部のピークは700Hzとなり、第3フィルタ部のピークは8,000Hzとなっている。
さらに、図6(a)に示す表には、第1フィルタ部〜第3フィルタ部の最大ゲインGmxの設定値が示されている。具体的には、図6(a)に示すように、第1フィルタ部の最大ゲインGmxは14dB、第2フィルタ部の最大ゲインGmxは6dB、第3フィルタ部の最大ゲインGmxは12dBに設定されている。この最大ゲインGmxは、上述した式(2)において用いられる値であって、第1フィルタ部〜第3フィルタ部によって、帯域分割された各帯域の信号レベルが、最大ゲインGmxよりも大きなゲインとなった場合に、各帯域の信号レベルが、最大ゲインGmxを上限として制限されることになる。
一方で、本実施の形態に係る音質補正装置1では、固定周波数補正部4に3個のPEQ部(3バンドのパラメトリックイコライザ)が設けられている。図7(a)は、本実施の形態に係る固定周波数補正部4の第1PEQ部、第2PEQ部および第3PEQ部におけるパラメトリックイコライザの設定値を示した表である。図7(a)に示すように、第1PEQ部は、中心周波数が150Hzに設定され、その選択度Qが2.0に設定されている。第2PEQ部は、中心周波数が1,400Hzに設定され、その選択度Qが3.0に設定されている。さらに、第3PEQ部は、中心周波数が2,500Hzに設定され、その選択度Qが3.0に設定されている。
また、図7(a)に示すように、第1PEQ部〜第3PEQ部には、最大ゲインGmx2が設定されている。最大ゲインGmx2は、第1PEQ部〜第3PEQ部において、帯域毎の信号レベルをマイナス側に低減させるゲインを示している。具体的に、第1PEQ部では、最大ゲインGmx2として−6dB、第2PEQ部では、最大ゲインGmx2として−8dB、第3PEQ部では、最大ゲインGmx2として−6dBが設定されている。
図7(b)は、上述した第1PEQ部〜第3PEQ部のそれぞれのパラメトリックイコライザにおけるフィルタ特性を示した図である。図7(b)に示すように、第1PEQ部の中心周波数は150Hzとなり、第2PEQ部の中心周波数は1,400Hzとなり、第3PEQ部の中心周波数は2,500Hzとなっている。
また、本実施の形態に係る固定周波数補正部4のHPF部21には、3次のバタワースハイパスフィルタが用いられており、図7(b)に示すように、カットオフ周波数が40Hzに設定されている。
一方、図8(a)は、本実施の形態に係る第1レベル検出部〜第4レベル検出部における最大値検出区間の設定値と、最大値オーバーラップ区間の設定値が示されている。なお、図8(a)に示す設定値は、ダイナミック周波数補正部3に入力されるオーディオ信号のサンプリング周波数が、44.1kHzのホワイトノイズである場合を示している。
図8(a)に示すように、第1レベル検出部〜第4レベル検出部の全ての最大値検出区間および最大値オーバーラップ区間が64サンプルに設定されると、図9(a)に示すように、各レベル検出部において、オーディオ信号の信号レベルが64サンプル区間ずつ同一の値に保持される。ここで、図9(a)に示されるオーディオ信号も、上述したホワイトノイズであって、音量設定部5において大きめの音量が設定された場合を示している。
第4レベル検出部には、図2に示す出力n+1のように、フィルタ部7を経ることなくダイナミック周波数補正部3へ伝達されたオーディオ信号が入力される。このため、第4レベル検出部では全帯域の信号レベルがそのまま反映されることになり、オーディオ信号において所定の帯域の検出を行う第1レベル検出部〜第3レベル検出部の信号レベルよりも高い信号レベルの値を示す。
本実施の形態に係る第1レベル検出部〜第4レベル検出部では、オーディオ信号としてホワイトノイズを用いているため、図9(a)に示すように、第1レベル検出部の信号レベルが最も低く、次いで、第2レベル検出部、第3レベル検出部そして第4レベル検出部と、信号レベルの値が順番に高くなっている。なお、オーディオ信号が一般的な音楽である場合には、低域になるほど信号レベルが大きくなる傾向があるため、図9(a)と異なり、第1レベル検出部の信号レベルの方が、他のレベル検出部よりも信号レベルが大きくなる。
図8(b)は、本実施の形態に係る第1ARフィルタ部〜第4ARフィルタ部において設定されるアタック時間およびリリース時間の設定値を示した表である。第1ARフィルタ部〜第3ARフィルタ部におけるアタック時間の設定値はいずれも共通して0.01secに設定され、信号レベルが上昇した際に迅速に信号レベル変化に対応するように値が設定されている。一方で、第1ARフィルタ部〜第3ARフィルタ部におけるリリース時間は、第1ARフィルタ部が4sec、第2ARフィルタ部が2sec、第3ARフィルタ部が1secに設定され、高帯域のオーディオ信号ほど、リリース時間が長くなるように設定されている。
具体的には、図9(b)に示すように、第3ARフィルタ部における信号レベル変化は、リリース時間が、第1ARフィルタ部および第2ARフィルタ部のリリース時間よりも短いため、高い応答性を示している。また、第3ARフィルタ部の信号レベル変化よりも、第2ARフィルタ部の信号変化の方が、リリース時間が長いため緩やかになり、さらに、第2ARフィルタ部の信号レベル変化よりも、第1ARフィルタ部の信号変化の方が、緩やかになる。
なお、第4ARフィルタ部のアタック時間は、第1ARフィルタ部〜第3ARフィルタ部において設定されるアタック時間の設定値よりも長い1secに設定され、リリース時間は、第2ARフィルタ部と同様に、2secに設定される。これは、第4ARフィルタ部より出力されるオーディオ信号が、各オフセット部14におけるオフセット信号として適用されるため、第1ARフィルタ部〜第3ARフィルタ部に比べて、平滑度を大きくしたからである。図9(b)に示す第4ARフィルタ部の信号レベル変化から明らかなように、本実施の形態に係る第4ARフィルタ部を通過したオーディオ信号は、信号レベルがほぼ一様な状態を示す信号となる。
図10には、本実施の形態に係るゲイン計算部のGs,Gi,Goの設定値が示されている。本実施の形態に係るダイナミック周波数補正部3には、第1ゲイン計算部〜第4ゲイン計算部の4個のゲイン計算部と、第1オフセット部〜第3オフセット部の3個のオフセット部とが設けられている。第1ゲイン計算部〜第4ゲイン計算部では、図10で示されたGs,Gi,Goの設定値に基づいて、式(1)で示した制御信号C[dB]がリニアに求められる。
さらに、第1オフセット部〜第3オフセット部は、第4ゲイン計算部において求められた制御信号C'をオフセット信号とし、第1ゲイン計算部〜第3ゲイン計算部で求められた制御信号C[dB]と、図6(a)に示した最大ゲインGmxの設定値とに基づいて式(2)により、フィルタゲインを算出する。
図11(a)は、第1オフセット部で算出されたフィルタゲイン1と、第2オフセット部で算出されたフィルタゲイン2と、第3オフセット部で算出されたフィルタゲイン3と、オフセット信号とのゲイン変化を、入力信号の信号レベルに応じて示したグラフである。
図11(a)に示すように、フィルタゲイン1〜3は、各帯域内において入力信号の信号レベルが小さくなると、信号レベルに反比例するようにゲインが大きくなるが、各フィルタゲインにおける最大値は、図6(a)において設定された最大ゲインGmxの設定値が上限となる。具体的に、フィルタゲイン1の最大値は、図6(a)の第1フィルタ部に規定される最大ゲインGmxの値である14dBに対応して、図11(a)においても14dBとなる。同様に、フィルタゲイン2の最大値は、図6(a)の第2フィルタ部に規定される最大ゲインGmxの値である6dBに対応して、図11(a)においても6dBとなり、フィルタゲイン3の最大値は、図6(a)の第3フィルタ部に規定される最大ゲインGmxの値である12dBに対応して、図11(a)においても12dBとなっている。
また、図10において規定されるGoは、制御開始時のゲインオフセット[dB]を示しており、第1ゲイン計算部〜第3ゲイン計算部の全てにおいて0dBに設定されている。このGoは、式(2)において示されるように、Co<Goの場合に、Co=Goに設定されるため、フィルタゲイン1〜フィルタゲイン3の全ての値は、Go、つまり0dBよりも低い値になることはない。図11(a)においても、入力されるオーディオ信号(入力信号)の信号レベルが大きくなっても、フィルタゲイン1〜フィルタゲイン3のフィルタゲインの値は、0dBより低い値になっていない。
さらに、図10において規定されるGiは、制御開始時の信号レベル[dB]を示しており、第1ゲイン計算部では−6dB、第2ゲイン計算部では−3dB、第3ゲイン計算部では0dBに設定されている。前述したように、フィルタゲイン1〜3は、入力信号の信号レベルが小さくなると、信号レベルに反比例するようにゲインが大きくなるが、この反比例に応じたゲインの増加処理を開始する入力信号の信号レベルがGiによって規定されることになる。
図11(a)において、フィルタゲイン1の値が、0dB(Goで設定された値)から14dB(Gmxで設定された値)へと増大を開始する起点は、入力信号の信号レベルが−6dBの時点であり、この起点である−6dBが、図10に示すGiの値に該当する。同様に、フィルタゲイン2の値が、0dB(Goで設定された値)からGmxで示された6dB(Gmxで設定された値)へと増大される起点は、Giの値である−3dBであり、フィルタゲイン3の値が、0dB(Goで設定された値)から12dB(Gmxで設定された値)へと増大される起点は、Giの値である0dBである。
また、図10において規定されるGsは、ゲイン係数を示しており、より詳細には、入力信号の信号レベルに反比例して信号レベルのゲインが大きくなるときの増加量(フィルタゲインの傾き)の絶対値を示している。図10に示すように、第1ゲイン計算部のGsと第2ゲイン計算部のGs(本発明に係る第1補正値を算出する場合に用いる係数値の絶対値の一例に該当する。)とは、値が0.9に設定されており、図11(a)に示すように、フィルタゲイン1およびフィルタゲイン2の傾きは同じ傾斜角を描いている。一方で、第3ゲイン計算部のGs(本発明に係る第1補正値を算出する場合に用いる係数値の絶対値の一例に該当する。)は、図10に示すように、値が0.8に設定されており、図11(a)に示すように、フィルタゲイン3の傾きは、フィルタゲイン1およびフィルタゲイン2の傾きよりも傾斜角が急になっている。
なお、図11(a)に示されるオフセット信号も、上述したフィルタゲイン1〜3と同様に、図10で設定されるGs,Gi,Goと式(1)とに基づいて求められる。図11(a)に示すように、オフセット信号においても、入力信号の信号レベルが図10の第4ゲイン計算部のGiで示される値、つまり0dBのときに、図10の第4ゲイン計算部のGsで示される値、つまり−6dBを起点として、図10の第4ゲイン計算部のGsにおいて示される増加量(本発明に係る全帯域の補正値を算出する場合に用いる係数値の絶対値の一例に該当する。)、つまり0.5の傾きで、入力信号の信号レベルに反比例するようにして信号レベルのゲインが増大される。
図11(a)に示すようにオフセット信号のゲインが変化するので、全帯域の信号レベルが大きい場合には、オフセット量がマイナス側へ大きく変化されることになり、このような変化によって、式(2)において求められる制御信号Coがマイナス側にオフセットされ、結果として、求められるフィルタゲインの値が小さくなる。
なお、図10に示すように、第4ゲイン計算部のGsの設定値は、第1ゲイン計算部〜第3ゲイン計算部のGsの設定値よりも低い値に設定されている。このように第4ゲイン計算部のGsの設定値を低く設定することにより、入力信号の信号レベル変化に伴って変動されるフィルタゲイン1〜フィルタゲイン3の変化量に比べて、入力信号の信号レベル変化に伴って変動されるオフセット信号の変化量を緩やかにすることが可能となる。
図11(b)は、入力信号の信号レベルに対してオフセットゲインを用いた場合に求められるフィルタ特性を、入力信号のフィルタ処理に応じて場合分けした図である。図11(b)では、第3オフセット部により出力されるフィルタゲイン3のフィルタ特性を、一例として示している。第3オフセット部においてフィルタゲイン3が求められる場合には、式(1)に基づいて第3ゲイン計算部で入力信号の信号レベルに応じた重み付け処理が行われており、さらに、第3オフセット部において、全帯域の信号レベルに基づくオフセット信号が合成されるため、入力信号の信号レベルに応じて柔軟にゲインの値が変化することになる。
図11(b)では、入力信号の信号レベルを0dBから−40dBまで3dBステップずつ変化させた場合のフィルタ特性を示している。図11(b)に示すように、入力信号の信号レベルに応じてフィルタ特性は変化しており、入力信号の信号レベルが小さな値であるほど、ダイナミック周波数補正部3では、高音域を増幅させる処理を行う。図11(b)においては、第3フィルタ部の中心周波数が、図6(a)に示すように8,000Hzに設定されているので、8,000Hzを中心として高音域の増幅が行われる。
さらに、図12(a)は、オーディオ信号としてホワイトノイズを用いた場合であって、信号レベルが小さい場合のフィルタゲイン1〜3およびオフセット信号の変化を示している。また、図12(b)は、同じホワイトノイズであって信号レベルが大きい場合のフィルタゲイン1〜3およびオフセット信号の変化を示している。
フィルタゲイン1〜フィルタゲイン3およびオフセット信号のゲインは、各帯域の信号レベルに応じて値が変化する。図12(a)に示すように、オーディオ信号(入力信号)の信号レベルが小さい場合には、フィルタゲイン1のゲインが、図6(a)に示した最大ゲインGmxの値である14dBとなり、フィルタゲイン2のゲインが、最大ゲインGmxの値である6dBとなり、フィルタゲイン3のゲインが、最大ゲインGmxの値である12dBに維持されることになる。また、オーディオ信号の信号レベルが小さい場合には、オフセット信号のゲインが0dBとなる。
本実施の形態に係る音質補正装置1においては、図12(a)に示すように、各帯域の入力信号の信号レベルが小さい場合に、それぞれの帯域における信号レベルが最大ゲインGmxの値まで補正(変更)されるので、オーディオ信号の信号特性を向上させることができる。また、補正された信号レベルを最大ゲインGmxに変更することによって、スピーカにおける歪音の発生を防止することが可能となる。なお、入力信号の信号レベルが小さい場合には、オフセット信号が0dBに維持されることから、積極的なフィルタゲインのオフセットは生じていない。
一方で、図12(b)に示すように、オーディオ信号(入力信号)の信号レベルが大きい場合には、フィルタゲイン3のゲインが、図12(a)に示す場合に比べて低減される。また、オーディオ信号の信号レベルが小さい場合には、オフセット信号のゲインが−5dBとなる。
本実施の形態に係る音質補正装置1においては、図12(b)に示すように、フィルタゲイン3に対応する帯域の入力信号の信号レベルが大きい場合に、フィルタゲイン3の信号レベルが低減されるので、スピーカにおける歪音の発生を防止することができる。また、オフセット信号が、図12(b)に示すように、−5dBに設定されることから、全体的にフィルタゲインの値が低減されることになる。
特に、オフセット信号は、図8および図9に示すように、第4レベル検出部および第4ARフィルタ部により信号の平滑度が大きく、さらに、入力信号の信号レベル変化に伴って変動される変化量が、図11および図12に示すように、フィルタゲイン1〜フィルタゲイン3よりも緩やかになるので、オフセット信号により全体的に低減されるフィルタゲインの値は、全帯域信号の信号レベル変化に緩やかに対応した補正を行うことができる。
図13は、ダイナミック周波数補正部3および固定周波数補正部4を備えた音質補正装置1の全帯域のフィルタ特性Aと、固定周波数補正部4だけ備え、ダイナミック周波数補正部3を有しない音質補正装置の全帯域のフィルタ特性Bとを比較して示した図である。ここで、入力されるオーディオ信号として、信号レベルが小さいものが使用されている。フィルタ特性Aでは、ダイナミック周波数補正部3における補正を最大限行った場合のフィルタ特性が示されている。一方で、フィルタ特性Bでは、固定周波数補正部4において、図7(a)に示した全てのパラメトリックイコライザ(第1PEQ部〜第3PEQ部)を用いて補正を行った場合のフィルタ特性が示されている。
図13に示すフィルタ特性Aとフィルタ特性Bとを比較すると、双方の周波数特性はほぼ同等なものとなっている。従って、ダイナミック周波数補正部3と固定周波数補正部4とを組み合わせた場合のフィルタ特性Aは、固定周波数補正部4だけで補正を行う従来の補正方式のフィルタ特性Bと極めて高い整合性を備えており、ダイナミック周波数補正部3を用いた音質補正によって従来の音響特性に比べて違和感を生ずるような補正が行われてしまうことを防止することができる。さらに、従来の音響特性との整合性が高いため、従来の音響特性に対応させて音響チューニングが行われた場合であっても、音響チューニングの整合性を保ちつつ効果的な音響効果を付加することが可能となる。
一方で、ダイナミック周波数補正部3と固定周波数補正部4とを組み合わせた場合のフィルタ特性Aでは、オーディオ信号の周波数特性に応じて、帯域別に信号レベルを補正することができるので、スピーカの歪音を低減しつつ、良好な音質となるようにオーディオ信号の補正を行うことができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る音質補正装置について、実施の形態を一例として示して詳細に説明したが、本発明に係る音質補正装置は、実施の形態に示した例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。