以下、図面を参照して実施形態を詳細に説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
{1. 第1実施形態}
図1は、第1実施形態に係る基板検査装置100の構成を示す図である。基板検査装置100は、シリコン基板などの半導体ウエハ(以下、基板)Wに三次元回路を構成するために、基板Wの表面に垂直方向に積層された二次元集積回路に設けられている凹部形状の貫通ビアWH(図3参照)の深度(深さ)を検査するように構成されている。なお、基板検査装置100において、検査対象となる基板Wは、半導体ウエハに限定されるものではない。例えば、液晶表示装置などの表示装置用パネル向けの基板や、太陽電池パネル向けの基板などの検査に適用してもよい。
基板検査装置100は、テラヘルツ波パルス(以下、単にテラヘルツ波とも称する。)を利用した、テラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS)により、基板Wを検査する。テラヘルツ波は、0.01THz以上100THz以下(特に0.1THz以上30THz以下)の範囲の任意の周波数帯の成分を有する電磁波である。一般に、電磁波は、その波長よりも小さい凹凸であっても、透過した際に、近似的な屈折率差に位相のずれが生じる。テラヘルツ波(周波数が1THzの場合、波長は0.3mm。)の場合も、透過する基板Wの領域における貫通ビアWHの有り無しによって、透過波に位相のずれが生じる。基板検査装置100では、この位相のずれを検出することで、基板Wに形成されている貫通ビア9Hの深度を検査する。
図1に示したように、基板検査装置100は、レーザ光源11、照射部12、検出部13、遅延部14、移動機構15および制御部16を備えている。
レーザ光源11は、パルス光(パルス光LP1)を放射する。レーザ光源11としては、例えば、フェムト秒パルスレーザが用いられる。パルス光は、例えば、中心波長が近赤外領域のうちの780〜830nm程度、周期が数kHzから数百MHz、パルス幅が10〜150fs程度の直線偏光のパルス光とされる。フェムト秒パルスレーザが用いられる場合、1〜1.5μm程度の波長とされる。
パルス光は、ビームスプリッタB1により2つに分割される。一方は、ミラーM1を経由してポンプ光(ポンプ光LP11)として照射部12に入射する。照射部12は、光スイッチ素子を備えている。該光スイッチ素子にポンプ光が照射されることにより、テラヘルツ波(テラヘルツ波LT1)が発生する。発生したテラヘルツ波は曲面鏡M2,M3で集光され、基板Wに照射される。つまり、照射部12は、ポンプ光の照射に応じて、基板Wに向けてテラヘルツ波を照射する。基板Wを透過したテラヘルツ波は、曲面鏡M4,M5で集光され、ミラー6を経由して検出部13に入射する。
ビームスプリッタB1により2つに分割されたパルス光のうち他方のパルス光は、プローブ光(プローブ光LP12)として遅延部14およびミラー7を経由し、検出部13に入射する。検出部13は、光スイッチ素子を備えている。光スイッチ素子に基板Wを透過したテラヘルツ波が照射された状態で、プローブ光が光スイッチ素子に照射されると、光スイッチ素子に瞬間的にテラヘルツ波の電場強度に応じた電流が生じる。この電場強度に応じた電流は、I/V変換回路、A/D変換回路などを介してデジタル量に変換される。このようにして、検出部13は、プローブ光の照射に応じて、基板Wを透過したテラヘルツ波の電場強度を検出する。なお、本実施形態では、照射部12または検出部13において光スイッチ素子を利用しているが、その他の素子、例えば非線形光学結晶を利用してもよい。
遅延部14は、ビームスプリッタB1から検出部13までのプローブ光の到達時間を連続的に変更するための光学素子である。遅延部14は、プローブ光の入射方向に移動する移動ステージ(図示せず)に固定されている。遅延部14は、プローブ光を入射方向に沿って折り返させる折り返しミラー10Mを備えている。遅延部14は、制御部16の制御に基づいて移動ステージを駆動して折り返しミラー10Mを移動させることにより、プローブ光の光路長を精密に変更する。これにより、遅延部14は、テラヘルツ波が検出部13に到達する時間と、プローブ光が検出部13へ到達する時間との時間差を変更する。したがって、遅延部14により、プローブ光LP12の光路長を変化させることによって、検出部13によりテラヘルツ波を検出するタイミング(検出タイミング)を遅延させることができる。
なお、遅延部14は、その他の方法でテラヘルツ波とプローブ光の検出部13への到達時間を変更するようにしてもよい。例えば、電気光学効果を利用してもよい。すなわち、印加する電圧を変化させることで屈折率が変化する電気光学素子を、遅延素子として用いてもよい。具体的には、特開2009-175127号公報に開示されている電気光学素子を利用してもよい。
移動機構15は、図示を省略するX−Yテーブルを備えている。移動機構15は、このX−Yテーブルにより、基板Wを保持した状態で、照射部12に対して基板Wを相対移動させることができる。基板検査装置100は、移動機構15により、基板Wを2次元平面内で任意の位置に移動させることができる。基板検査装置100は、移動機構15により、基板Wの広い範囲にテラヘルツ波を照射して、検査することができる。なお、基板Wを移動させる代わりに、または、基板Wを移動させると共に、照射部12、曲面鏡M2〜M5および検出部13を2次元平面内で移動できるようにしてもよい。これらの場合でも、基板Wの広い範囲について、テラヘルツ波を照射する検査を行うことが可能となる。
制御部16は、レーザ光源11、照射部12、検出部13、遅延部14および移動機構15に接続されており、これらの動作を制御したり、これらからデータを受け取ったりする。特に制御部16は、検出部13からテラヘルツ波の電場強度に関するデータを受け取る。また、制御部16は、遅延部14の移動ステージに対して移動を指示したり、移動ステージに設けられたリニアスケールなどから移動距離などの遅延部14の位置に関連するデータを受け取ったりする。
また、制御部16は、時間波形構築部21、屈折率取得部22、関数取得部23、位相差取得部24、開口率取得部25、ビア深度算出部26および画像生成部27に接続されており、これらの部に各種演算処理を行わせる。
時間波形構築部21は、基板Wを透過したテラヘルツ波について、検出部13により検出される複数の電場強度を元に、テラヘルツ波の時間波形を構築する。相互に異なる複数の検出タイミングで電場強度が検出されることにより、時間波形が構築される。
屈折率取得部22は、テラヘルツ波の時間波形に基づいて、検査対象物である基板Wに関する屈折率を取得する。詳細には、屈折率取得部22は、基板Wが存在しない状態でのテラヘルツ波の時間波形と、基板Wを透過したテラヘルツ波の時間波形とをそれぞれフーリエ変換することにより、周波数に関する振幅強度スペクトル、および、位相スペクトルを取得する。屈折率取得部22は、これらのスペクトル解析結果から、複素屈折率を算出し、その実部を基板Wの屈折率として取得する。なお、屈折率を算出する詳細な演算手法については、従来技術やそれに類似する技術を適宜利用することができる。
関数取得部23は、時間波形構築部21により構築された時間波形に近似した曲線を表す関数(曲線関数)を取得する機能を備えている。関数取得部23は、時間波形を構築する場合と同様に、検出タイミングを遅延させながら検出部13にて検出されるテラヘルツ波の複数の電場強度を時間軸に沿ってプロットする。そして関数取得部23は、プロットされた点を曲線で接続する。この過程で、関数取得部23は、時間波形に近似した曲線を表す関数を取得する。なお、曲線で接続する際、ブレンディング関数を利用したベジェ曲線となるように接続することができる。これにより、プロットされた点を滑らかな曲線で接続することができる。なお、カーブフィッティングによって、時間波形に近似した曲線を表す関数を求めることも可能である。具体的には、最小二乗法を適用することによって、プロットされた複数の点に応じた曲線を示す関数を得ることが可能である。さらに関数取得部23は、検出された複数の電場強度を単に直線で接続して得られる関数を、曲線関数としてもよい。
位相差取得部24は、基板Wの基準領域(第1領域)を透過したテラヘルツ波(第1テラヘルツ波、第1電磁波パルス)と、基板Wの測定対象領域(第2領域)を透過するテラヘルツ波(第2テラヘルツ波、第2電磁波パルス)の位相差を算出する。位相差取得部24による位相差の具体的な算出方法については後述する。なお、本実施形態における「位相差」とは、2つの周期的な波の位相のずれをいう。なお、位相は、一般的に、角度(単位は「度」または「ラジアン」)で表現される。しかしながら、2つの波の周期が同じである場合、位相のズレは、時間差(単位は「秒」など)として扱うことができる。したがって、本実施形態おいては、位相差は、特に断らない限り、時間差をいうものとする。
開口率取得部25は、基板Wに形成されている貫通ビアの開口部の面積(開口面積)に基づいて、単位面積当たりの開口面積比(以下、開口率と称する。)を取得する。開口率は、例えば図示しない可視光顕微鏡を用いて、実際の基板Wの観察像から画像解析により算出することができる。また、開口率は、CADデータなどの設計図から得られる設計値に基づいて取得するようにしてもよい。
ビア深度算出部26は、位相差、開口率および屈折率から、基板Wに形成されている真空ビアの深さを算出する。貫通ビアの深度の具体的な算出方法については後述する。
画像生成部27は、基板Wの一部分または全体における、貫通ビアの深度の分布を視覚的に表現した画像を生成する。画像生成部27により生成された画像は、表示部33に表示される。
また、制御部16には、各種データを保存する記憶部31、基板検査装置100に対して操作者がデータを入力するための入力部32、および、各種画像を表示する表示部33が接続されている。
以上が、基板検査装置100の構成についての説明である。次に、基板検査装置100を使って、基板Wを検査するときの基板検査装置100の具体的な動作について説明する。
図2は、基板検査装置100による基板Wの基板検査工程を示す流れ図である。また、図3は、検査対象物である基板Wを概念的に示す概略斜視図である。なお、以下に説明する基板検査装置100の動作は、特に断らない限り、制御部16により制御されるものとする。また、図2に示した流れ図は、一例である。したがって、動作内容によっては、複数の工程を並列に実行するようにしたり、もしくは、複数の工程の実行順序を適宜変更したりすることも可能である。
検査対象物である基板Wの表面には、貫通ビアWHが形成されていない平坦領域91Rと、貫通ビアWHが形成されているビア形成領域92Rとが含まれている。貫通ビアWHは、基板Wの垂直方向(厚さ方向)に凹んだ凹部となっている。
テラヘルツ波は、波長が比較的長いため、分解能はそれほど高くない。しかしながら、本実施形態では、単一の貫通ビアWHを検査するのではなく、ある程度の広さを持つ範囲にテラヘルツ波を照射し、その範囲に含まれる貫通ビアWHの影響を、テラヘルツ波の位相速度の変化(換言すると、近似的な屈折率の変化)を検出する。
より具体的には、ビア形成領域92Rは、貫通ビアWHが形成されている分、その厚さの平均が平坦領域91Rのものよりも薄い。基板検査装置100では、この薄くなっている分を、テラヘルツ波の検出部13への到達時間の差(位相差)として検出することにより、平坦領域91Rとビア形成領域92Rとの厚みの違いを検出する。つまり、平坦領域91Rの厚みを基準として、ビア形成領域92Rの厚み(貫通ビアWHの深さを考慮した厚みの平均)の相違を検出する。さらに、基板検査装置100は、貫通ビアWHの開口部の大きさ(後述する開口率)から、貫通ビアWHの深さを定量的に算出する。
なお、ビア形成領域92Rは、貫通ビアWHが形成されている点以外は、形状(貫通ビアWH以外の平坦部分の厚さなど)および構成素材などの点で、平坦領域91Rと略一致していることが望ましい。このような平坦領域91Rを選択することによって、貫通ビアWHに起因するテラヘルツ波の位相差を良好に抽出することができる。
基板検査装置100は、基板Wの検査を開始すると、まずは、基板Wがセットされていない状態で、照射部12からテラヘルツ波が照射されて、検出部13にて該テラヘルツ波が検出される(ステップS11)。つまり、この状態では、空気中(もしくは真空中)を通過したテラヘルツ波が検出部13によって検出されることとなる。そして、基板Wがない状態でのテラヘルツ波の時間波形が時間波形構築部21により構築される。この時間波形は、基板Wの屈折率を算出するために取得される。
次に、基板Wが基板検査装置100にセットされる(ステップS12)。基板Wは、図示しない基板搬送装置やオペレータによって搬送されてセットされる。なお、ステップS11の時点では、移動機構15により所定の退避位置に基板Wを退避させておき、ステップS12の時点で、基板Wを移動機構15により所定位置に移動させるようにしてもよい。ステップS12における基板Wの配置位置は、照射部12から照射されるテラヘルツ波が、貫通ビアWHが形成されていない平坦領域91Rを透過する位置とされる。平坦領域91Rの位置については、例えば、入力部32などを介してあらかじめ指定される。
基板Wがセットされると、照射部12からテラヘルツ波が基板Wに照射される。基板Wの平坦領域91Rを透過したテラヘルツ波が検出部13にて検出される(ステップS13)。
図4は、時間波形構築部21により構築されたテラヘルツ波の時間波形41を示す図である。図4中、横軸は時間で、縦軸は電場強度を示している。また、下段には、遅延部14によって、検出部13に到達するタイミング(検出タイミングt1〜t8)の異なる複数のプローブ光LP1が概念的に示されている。検出部13には、所定の周期で繰り返し、図4に示したようなテラヘルツ波が到来する。例えば、検出部13に対して、検出タイミングt1でプローブ光が到達するように遅延部14を調整すると、検出部13では、値E1の電場強度が検出される。また、遅延部14を調整することによって、検出タイミングをt2〜t8にそれぞれ遅延させると、それぞれ値E2〜E8の電場強度が検出部13において検出される。このように、検出タイミングを細かく変更しながらテラヘルツ波の電場強度を測定し、これらの電場強度の値を時間軸に沿ってプロットしていくことによって、テラヘルツ波の時間波形41が構築される。なお、以降の説明においては、図4に示した時間波形41を、平坦領域91Rを透過したテラヘルツ波に相当するものとして説明する。
図2に戻って、次に基板検査装置100は、屈折率取得部22によって屈折率を算出する(ステップS14)。具体的には、ステップS11,S13のテラヘルツ波の検出結果から構築された時間波形に基づき、屈折率取得部22にてスペクトル解析が行われる。また、基板Wの厚みも適宜に設定される。これにより、基板Wの屈折率n1が取得される。
基板検査装置100は、屈折率n1を取得するととともに、関数取得部23によって、時間波形に近似した曲線の関数を取得する(ステップS15)。具体的には、図4に示したような時間波形に近似した曲線の関数を取得する場合、各検出タイミング(t1〜t8)で検出された電場強度の値(E1〜E8)をプロットしたものをベジェ曲線で接続する。これにより、時間を変数とする関数f(t)が取得される。この関数f(t)に時間を代入することにより、テラヘルツ波の電場強度(ただし、近似値)が算出できる。
図2に戻って、基板検査装置100は、遅延部14を所定位置に固定する(ステップS16)。具体的には、ステップS13において検出部13が検出する電場強度が略最大となる検出タイミングに対応する位置に、遅延部14が固定される。例えば、ステップS13において図4に示した時間波形41が検出された場合、電場強度が最大となる検出タイミング(t3)でテラヘルツ波が検出されるように、遅延部14の位置が調整され、固定される。
ステップS16が完了すると、基板検査装置100は、移動機構15を駆動することによって、基板Wを検査位置に移動させる(ステップS17)。この検査位置は、検査すべき領域(検査領域)に、テラヘルツ波が照射できる位置に相当する。なお、あらかじめオペレータによって貫通ビア形成領域92Rが検査領域として指定されてもよいし、基板Wの任意の位置が検査領域として指定されてもよい。
基板検査装置100は、照射部12からテラヘルツ波を基板Wの検査領域に向けて照射する。そして、基板検査装置100は、基板Wを透過したテラヘルツ波を検出部13にて検出する(ステップS18)。そして、ステップS13で取得されたテラヘルツ波と、ステップS18で検出された電場強度とから、基準領域である平坦領域91Rを透過したテラヘルツ波と、検査領域(例えば、ビア形成領域92R)を透過したテラヘルツ波の位相差を取得する(ステップS19)。
図5は、位相差を取得する原理を説明するための図である。上述したように、ビア形成領域92Rを透過するテラヘルツ波は、基板Wに貫通ビアWHが形成されている分、平坦領域91Rを透過するテラヘルツ波よりも検出部13に到達する時間が早まる。つまり、図5に示したように、ビア形成領域92Rを透過したテラヘルツ波の時間波形42は、平坦領域91Rを透過した時間波形41よりも、位相差ΔTの分、早く検出される。したがって、時間波形41の電場強度Iは、I=f(t)で表すことができる。また、時間波形42の電場強度Iaは、Ia=f(t−ΔT)で表すことができる。
ステップS18では、検出タイミングt3でテラヘルツ波の電場強度が検出されるように遅延部14が設定されている。そのため、ステップS18では、テラヘルツ波の電場強度として、値E3aが取得される。
位相差取得部24は、この値E3aが、時間波形41においてはどの検出タイミングtxで検出されるかが算出される。具体的には、ステップS15にて取得された関数f(t)から、対応する検出タイミングtxが算出される。位相差取得部24は、この検出タイミングtxと検出タイミングt3との時間差を求めることによって、位相差ΔTを取得する。以上のようにして、位相差取得部24は、基準領域(第1領域、平坦領域91R)基準領域を透過したテラヘルツ波(第1テラヘルツ波)と、検査領域(第2領域)を透過したテラヘルツ波(第2テラヘルツ波)の位相差を演算により取得する。
なお、上記方法で位相差ΔTを正確に特定するためには、検出部13に到達する到達時間が、図5に示した時間波形43よりも遅いことが要求される。この時間波形43は、検出タイミングt3において、電場強度が最小となるテラヘルツ波形の時間波形である。この時間波形43よりも検出部13への到達時間が早い時間波形44の場合、検出タイミングt3で検出される電場強度は、時間波形43のものよりも大きい(値E3b)。しかしながら、電場強度としてこの値E3bが検出される時間波形は、時間波形44以外にも、時間波形43よりも到達時間の遅い時間波形45が存在し得る。このように、時間波形43よりも到達時間の早い時間波形44については、位相差ΔTを特定することが困難となる。このため、位相差ΔTを正確に特定するためには、検出部13に到達する到達時間が、図5に示した時間波形43よりも遅いことが要求される。
ここで、本実施形態では、平坦領域91Rを透過したテラヘルツ波(時間波形41に相当する。)の電場強度が最大となる検出タイミングt3で、ビア形成領域92Rを透過するテラヘルツ波の電場強度を測定している。これによれば、平坦領域91Rを透過したテラヘルツ波(=時間波形41)と、位相差ΔTを特定することができるテラヘルツ波(=時間波形43)との間の時間差の範囲を最大にすることができる。つまり、特定することができる位相差の範囲を最も大きくすることができる。ただし、ビア形成領域92Rを透過するテラヘルツ波を検出する検出タイミングは、必ずしも電場強度が最大となる検出タイミングに設定しなければならないものではない。例えば、電場強度が最大となる検出タイミング(t3)から電場強度が最小となる検出タイミング(t6)の間の検出タイミングであれば、位相差を特定することが可能である。
図2に戻って、位相差が取得されると、基板検査装置100は、基板Wの検査すべき全範囲について検査を完了したかどうか判定する(ステップS20)。なお、この判定は、あらかじめ入力部32を介して指定された基板Wの検査範囲の全てについて、位相差のデータが収集されているかどうかに基づいて判断される。
未検査の領域がある場合(ステップS20においてNO)、基板検査装置100は、ステップS17に戻る。そして、基板検査装置100は、移動機構15を駆動して、基板Wを移動させ、次の検査領域について検査を行う。なお、基板Wの全面を走査して検査するような場合、所定の距離(例えば、5mm)ずつ主走査方向、副走査方向に基板Wを移動させながら、検査が行われる。一方、全ての範囲の検査が終了した場合(ステップS20においてYES)、基板検査装置100は、取得した位相差の補正を行う(ステップS21)。この補正については、図6および図7を参照しつつ説明する。
図6は、電場強度と位相差の対応を示した図である。また、図7は、位相差を補正するために構築された時間波形46,47を示す図である。図6に示した電場強度と位相差の対応表は、検出部13にて検出された電場強度に応じて、関数f(t)に基づき、位相差が計算により取得されたものである。平坦領域91Rを透過したテラヘルツ波(=時間波形41)の最大強度が1000となっている。そして、検出される電場強度が小さくなるにつれて、位相差が次第に大きくなっている。
基板検査装置100は、ステップS18において、テラヘルツ波の最大値(=1000)とは異なる電場強度が観測された検査領域に改めてテラヘルツ波を照射し、その領域での時間波形を構築する。具体的には、例えば図6に示した、電場強度が「920」、「840」であった検査領域(第3領域)にテラヘルツ波を照射するよう、基板検査装置100は、移動機構15を駆動する。そして照射部12からテラヘルツ波を照射する。このとき、時間波形46,47を構築するために、図4で説明したように、遅延部14により検出タイミングを変えながら、テラヘルツ波の電場強度の値が収集される。これにより、図7に示したようなテラヘルツ波(第3テラヘルツ波、第3電磁波パルス)の時間波形46,47が構築される。
なお、上記説明では、補正のために、2つの電場強度に対応する位相差を実測している。しかしながら、1つだけ、または、3つ以上電場強度に対応する位相差を実測して、取得された位相差を補正基準とするようにしてもよい。
時間波形46,47が構築されると、基板検査装置100は、時間波形41とこれらの時間波形46,47の位相差を実測する。この実測された位相差(ここでは、18fs(フェムト秒)、30fs)は、関数f(t)に基づく計算により算出された位相差(20fs、40fs)よりも精度の高い。そこで基板検査装置100は、この実測の位相差を補正基準として、その他の演算で求められた位相差について補正を行う(図6下段参照)。
ステップS19の計算に基づいて取得された位相差と電場強度の対応関係は、図6の対応表(上段、補正前)の通りである。この対応表を元に、例えば電場強度920〜840の範囲について、電場強度と位相差の対応関係を示す線を構築する。具体的には、図6に示すように、横軸を電場強度、縦軸を位相差とするx−yグラフ(縦横逆でもよい。)上に、対応表の値に基づく複数の点(ここでは5点)をプロットする。そして、プロットした点を直線または曲線(ベジェ曲線など)で接続する。もちろん、プロットした点について、最小二乗法を適用して回帰曲線を構築するようにしてもよい。このようにして構築した線(曲線または折れ線)を、電場強度920のときに位相差18fs、電場強度840のときに位相差30fsに相当する点(またはその近傍)を通るように平行移動させる。これにより、電場強度と補正後の位相差との対応を示す補正線を取得することができる。この補正線から、各電場強度に対応する位相差を取得してもよい。電場強度1000〜920の範囲の位相差についても、同様の要領で補正線を構築することができる。以上のように補正線を取得することで、検出された電場強度毎に、より精度の高い位相差を取得することが可能となる。このようにして取得された補正済みの位相差のデータは、記憶部31に適宜保存される。
なお、実測に基づいて取得される、(電場強度920,位相差18fs)、(電場強度840,位相差30fs)および(電場強度1000,位相差0fs)という3つの対応関係に基づき、電場強度と位相差の対応を示す曲線(以下、対応曲線という。)を生成してもよい。具体的には、横軸を電場強度、縦軸を位相差とするx−yグラフ(縦横逆でもよい。)上に、実測に基づく複数の点(ここでは3点)をプロットする。このプロットされた複数点に基づき、電場強度と位相差の対応関係を示す対応曲線を構築する。この対応曲線は、プロットした点をベジェ曲線で接続したり、または、プロットした点に対して最小二乗法を適用したりすることで取得することができる。このような対応曲線を利用すれば、上述の関数f(t)を使って電場強度から位相差を取得する工程(ステップS19)を省略することが可能である。つまり、各検査領域について、特定の検出タイミングでテラヘルツ波の電場強度を検出しておき、該検出した電場強度を上記の要領で得た対応曲線に適用することで、対応する位相差を取得することができる。
また、本実施形態では、ステップS18において電場強度を取得し、さらにステップS19において位相差を取得している。しかしながら、必ずしも、全ての検査領域において、位相差を演算により算出する必要はない。例えば、時間波形の関数が取得された時点で(ステップS15)、代表的な複数の電場強度について、それぞれに対応する位相差を算出し、図6に示すようなテーブルを作成してもよい。これによれば、電場強度が取得された時点で、そのテーブルを参照することで、位相差を取得することができる。この場合、異なる検査領域で同じ電場強度が得られときに、重複して演算する必要がなくなるため、さらに高速に基板Wを検査することができる。
図2に戻って、基板検査装置100は、ビア深度算出部26によって、取得された位相差から、各検査領域に形成されている貫通ビアWHの深度を算出する(ステップS22)。貫通ビアWHの深度の算出方法については、図8〜10を参照しつつ説明する。
図8は、基板Wの表面のビア形成領域92Rに形成されている貫通ビアWHを概念的に示す上面図である。図8に示した例では、半径rを有する貫通ビアWHが、横方向に長さLのピッチで、縦方向Yに長さmのピッチで格子状になど間隔に配置されている。そのため、このビア形成領域92Rにおける開口率ORは、次式(1)で表される。
なお、ビア形成領域92Rに貫通ビアWHが規則的に設けられていない場合でも、開口率ORを求めることはできる。例えば、所定の大きさの区域を適当に規定し、その区域内にある貫通ビアWHの開口面積を該区域の面積で除算することにより、開口率ORが取得される。ここで、区域の最適な大きさは、基板検査装置100の光学系の装置構成によって異なり得る。このため、予備的な実験に基づいて、適切な区域の大きさが決定されることが望ましい。
図9は、貫通ビアWHが形成されたビア形成領域92Rを示す概略斜視図である。図9に示した貫通ビアWHは、半径がr、深さがxで表される略円柱状の凹部空間として形成されている。また図9では、貫通ビアWHが形成されている基板W自体の厚みをyとしている。
図9に示したビア形成領域92Rの体積は、l・m・yで求められ、貫通ビアWHの体積(空洞体積)は、π・r2・xで求められる。したがって、ビア形成領域92Rにおける単位体積当たりの空洞体積比(以下、空洞率と称する。)HRは、開口率ORを用いて、次式(2)で表される。
図10は、平坦領域91Rおよびビア形成領域92Rのそれぞれを透過するテラヘルツ波を示す概念図である。ここで、ビア形成領域92Rにおける基板Wの屈折率は、貫通ビアWHが形成されていることにより、平坦領域91Rにおける基板Wの屈折率とは異なるものとして扱うことができる。そこで、平坦領域91Rにおける基板Wの屈折率をn1とし、ビア形成領域92Rの近似的に屈折率n2とする。すると、平坦領域91Rを透過するテラヘルツ波の速度(位相速度)V1は、c/n1と表され、ビア形成領域92Rを透過するテラヘルツ波の速度はc/n2と表される(cは光速)。また、ステップS18〜ステップS21で取得された位相差ΔTは、屈折率n1,n2を用いて、次式(3)で表すことができる。
ここで、ビア形成領域92Rの近似的な屈折率n2が、平坦領域91Rの屈折率n1と異なるのは、貫通ビアWHにより空洞空間が形成されていることに起因する。ここで、空洞空間が、屈折率nhの物質で充填されているとすると、屈折率n2は、次式(4−1)で表される。特に、貫通ビアWH内の空洞空間が、ほぼ空気で充填されている場合、基板Wの屈折率が空気の屈折率に比べて十分に大きいとすると、この空洞空間の屈折率は真空の屈折率(=1)に近似される。この場合の屈折率n2は、次式(4−2)で表される。
ここで、式(4−1)(または式(4−2))を式(3)に代入すると、位相差ΔTは、次式(5−1)(または式(5−2))で表される。
さらに式(5−1)(または式(5−2))を変形することにより、貫通ビアWHの深さxは、それぞれ次式(6−1)(または式(6−2))で表される。
式(6−1)(または式(6−2))に、ステップSにて取得された屈折率n1と、ステップS16にて取得された開口率ORを代入することによって、貫通ビアWHの深さxを算出することができる。以上のようにして、基板検査装置100は、取得した貫通ビアWHの深さxを取得し、記憶部31に保存する。
式(6−1)(または式(6−2))から求められるxの値は、そのまま貫通ビアWHの深さとなる。しかしながら、これらの式から求められる貫通ビアWHの深さは、ビア形成領域92Rに形成されている貫通ビアWHの数に関わらず、開口率ORに基づいて貫通ビアWHの深度が算出される。したがって、ビア形成領域92Rに複数の貫通ビアWHが含まれる場合、式(6−1)(または式(6−2))で求められる深さxは、これら複数の貫通ビアWHの深さを平均化した値となる。
図2に戻って、検査領域毎に、貫通ビアWHの深さが取得されると、基板検査装置100は、画像生成部27によって、基板Wにおける貫通ビアWHの深さの分布を表現した画像を生成する。
図11は、表示部33に表示される検査結果の表示例を示す図である。図11では、所定の間隔(例えば、5mm間隔)で基板Wを走査して、基板Wの複数の検査領域における貫通ビアWHの深さを測定した結果を示している。
図11に示した表示画像33Iは、検査によって取得された貫通ビアWHの深さに応じて、各検査領域に相当する各領域を複数の色で塗り分けた、深度分布図となっている。なお、領域毎の貫通ビアWHの深さの違いは、グレースケールカラー、フルカラー、または網点による疑似カラーで表現することができる。また、貫通ビアWHの深さの違いは、検査領域に相当する各領域にアルファベットなどの文字、記号または図形などがラベル付けされることにより、識別可能に表現されていてもよい。また、領域毎に、貫通ビアWHの深さを示す数値が表示されるようにしてもよい。このような表示画像33Iを表示部33に表示することによって、基板Wの広い範囲に渡って、貫通ビアWHの深さの分布を視覚的に把握することができる。したがって、貫通ビアWHの形成不良となっている基板W上の位置を即座に特定することができる。
以上が、基板検査装置100による、基板Wの基板検査工程の説明である。
本実施形態では、検査領域に対しては、特定の検出タイミングでテラヘルツ波の電場強度を検出することで、基準領域を透過したテラヘルツ波との位相差が取得される。このため、非破壊、非接触で、かつ短時間のうちに、基板Wに形成された貫通ビアWの深度を検査することが可能となっている。特に、半導体3次元デバイスなどでは、半導体ウエハを利用する。そのため、貫通ビアWHの深さについては、半導体ウエハ全体でおおよその深さの分布を調べる必要がある。ここで、全ての検査領域について、テラヘルツ波の時間波形を構築し、基準となるテラヘルツ波の時間波形との位相差を算出すると、多大な時間が必要となる。これに対して、本実施形態では、検査領域を透過したテラヘルツ波の特定の検出タイミングで電場強度を検出することで位相差を取得することができる。したがって、極めて高速に半導体ウエハの全域を検査することができる。
{2. 第2実施形態}
上記実施形態において説明した方法では、貫通ビアWHを円柱状として扱っている。しかしながら、円柱状でない貫通ビアであっても、基板検査装置100によってその深度を検査することは可能である。
図12は、第2実施形態に係る貫通ビアWHaを示す断面図である。貫通ビアWHaは、上面が半径r1、下面が半径r2、深さhの円錐台となっている。また、貫通ビアWHaは、図8に示した貫通ビアWHと同様に、横方向にピッチl、縦方向Yにピッチmの間隔で並んでいるものとする。ここで、円錐台の体積をSとすると、貫通ビアWHaを含むビア形成領域92Rの空洞率HRaは、S/(m・l・y)となる。この空洞率HRaを式(4−1)(または式(4−2))中の空洞率HRに代入して屈折率n2を求め、さらにこの屈折率n2を式(3)に代入することによって、次式(7−1)(または次式(7−2))が導きだされる。
また、図12に示した貫通ビアWHaの体積Sは、次式(8)で表すことができる。
式(8)と、式(7−1)(または式(7−2))とから、貫通ビアWHaの深度hは、次式(9−1)(または次式(9−2))のように表される。
式(9−1)(または式(9−2))に、各測定値を代入することによって、深度hを取得することができる。なお、式(9−1)(または式(9−2))において、半径r1については可視光顕微鏡などを用いて、比較的容易に取得することができる。これに対して、半径r2については、取得困難な場合がある。このような場合は、半径r1の値からあらかじめ用意された円錐台モデルを適用して、半径r2を推定するようにしてもよい。この円錘台モデルは、例えばCADデータなどの設計値に基づいて構築することができる。また、半径r2の値として、CADデータなどの設計図から取得される半径r2の設計値を仮の値として式(9−1)または式(9−2)に代入し、深さhを算出するようにしてもよい。このとき、算出された深さhが設計値から外れている場合、貫通ビアWHaが設計通りに形成されていないことを把握することができる。
{3. 変形例}
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
例えば、第1実施形態では、式(8−1)に基づき、各検査領域での貫通ビアWHの深さxが定量的な長さとして算出されている。しかしながら、基板検査装置100が、検査結果である貫通ビアWHの深さを、ある基準値に対する相対的な値として取得することも可能である。例えば、式(6−1)中の屈折率n1は、平坦領域91Rにおける基板Wの固有の値であるため、各検査領域での貫通ビアWHの深さは、位相差ΔTと開口率ORで決まる。そこで、屈折率n1の取得を省略したとしても、位相差ΔTと開口率ORとに基づいて、各検査領域における貫通ビアWHの深さを、ある基準値に対する相対的な値として取得することが可能である。
また、上記実施形態では、円柱状の貫通ビアWH、または、円錐台状の貫通ビアWHaの深さを求める場合を例に挙げて説明した。しかしながら、深さを特定できる凹部はこのような形状のものに限定されない。本願発明は凹部の形状が、多角柱、多角錐台、円錐または多角錐など他、様々な立体形状である場合にも有効である。
また、上記実施形態では、基板Wの表面の貫通ビアWHの深度を測定する例を挙げているが、基板検査装置100の検査対象は、これに限定されるものではない。微小電気機械素子(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)に形成される凹部の深度を検査することができる。なお、具体的なMEMSとしては、例えば、デジタルミラーデバイスや加速度センサや圧力センサ、インクジェットプリンタなどのヘッドといったものが挙げられる。
図13は、MEMSが形成された基板WB表面の断面を拡大して示す断面斜視図である。図13に示した例では、基板WBの表面に、相互に並行に延びる溝状の凹部WHbが複数形成されている。基板検査装置100によると、このような凹部WHbが形成された基板WB表面の開口率を取得することによって、凹部WHbの深度を取得することができる。なお、基板WBの開口率は、基板WBの観察像から直接取得するようにしてもよいし、または、隣接する凹部WBの形成間隔(ピッチ)を用いた演算に基づいて取得するようにしてもよい。
また、上記実施形態に係る基板検査装置100では、基板Wに設けられた貫通ビアWH,WHaといった微小な凹部の深度について検査している。しかしながら、本願発明は、基板Wの厚さを検査する場合にも有効である。例えば、検査領域の基板の厚みが基準領域における基板の厚みよりも薄い場合、検査領域は、基準領域に対して凹んでいる(つまり凹部を形成している。)と捉えることができる。そして、この場合の検査領域の凹部の開口率を「1」とすることにより、上述した数式を利用して、この凹部の深度を定量的に算出することが可能である。また、基板検査装置100は、基板の厚みの均一性を検査することにも適用できる。このような基板全体についての検査結果を、図11に示したような画像を表示部33に表示することによって、基板の厚みが不均一な部分を容易に特定することができる。
また、制御部16、時間波形構築部21、屈折率取得部22、関数取得部23、位相差取得部24、開口率取得部25、ビア深度算出部26、および、画像生成部27の処理部は、専用の回路などでハードウェア的に実現してもよいし、これら処理部の機能の一部または全部を、コンピュータを利用して、ソフトウェア的に実現してもよい。
なお、上記各実施形態および各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせることができる。