本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1及び図2を用いて説明する。このX線回折測定システムは、測定対象物OBの残留応力を評価するために、X線を測定対象物OBに照射するとともに、同照射による測定対象物OBからの回折X線により形成される回折環の形状を検出する。測定対象物OBは、例えば、ショットピーニングを終えた平板状の鉄材である。
X線回折測定装置は、X線を出射するX線出射器10と、回折X線による回折環が形成されるイメージングプレート21を取り付けるためのテーブル20と、テーブル20を回転及び移動させるテーブル駆動機構30と、イメージングプレート21に形成された回折環を測定するためのレーザ検出装置40と、X線出射器10、テーブル20、テーブル駆動機構30、レーザ検出装置40、発光素子(LED)55及び受光器(フォトディテクタ)56を収容するケース60とを備えている。また、ケース60内には、X線出射器10、テーブル駆動機構30、レーザ検出装置40、発光素子55、受光器56などに接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1においてケース60外に示された2点鎖線で示された各種回路は、ケース60内の2点鎖線内に納められている。なお、図1及び図2においては、回路基板、電線、固定具、空冷ファンなどは省略されている。
ケース60は、平面状の前面壁61、後面壁62、上面壁63、下面壁64、左側面壁65及び右側面壁66(図示省略)を有する直方体状に形成されるとともに、前面壁61と下面壁64の角部を斜めに切断するように傾斜面壁67が設けられている。傾斜面壁6は、下面壁64に対して、詳しくは後述する傾斜角Ψだけ傾いている。下面壁64と傾斜面壁67とが交差する交差線部分であって左側面壁65と右側面壁66との中央部分には、前記交差線上を中心とする円形の貫通孔(開口)64aが下面壁64と傾斜面壁67の交差線部分を跨いで設けられて、貫通孔64aを介して、回折環を形成するためのX線(X線出射器10から出射されたX線)を通過させるようになっている。そして、この傾斜面壁67及び下面壁64を測定対象物OBの表面(上面)にそれぞれ密着すなわち面接触させて、測定対象物OBにX線をそれぞれ照射し、イメージングプレート21に回折環をそれぞれ形成するようになっている。
左右側面壁65,66には、支持脚68a,68b(ただし、支持脚68bは図示省略)の上端部が回転可能に組み付けられている。これらの支持脚68a,68bは、このX線回折測定装置の保管時及び搬送時には、下面壁64に平行になるように折り畳まれて左右側面壁65,66に密着させて収納されており、このX線回折測定装置の傾斜面壁67を測定対象物OBの上面に面接触させるときには、回転させて下面壁64に対して垂直方向に引き延ばし、下端部を測定対象物OB上に密着させて、傾斜面壁67を測定対象物OBの表面に密着すなわち面接触させて維持するようにする。なお、この支持脚68a,68bは、ケース60を図2の状態に維持できれば、何れか一方だけでもよい。また、ケース60の上面壁63には、取っ手69が取り付けられており、ユーザが手で取っ手69を持って、このX線回折測定装置を持ち運びできるようになっている。なお、このX線回折測定装置の搬送時に同時に搬送する装置は、後述するコンピュータ装置90及び高電圧電源95のみである。
X線出射器10は、長尺状に形成され、ケース60内の上部にて前後方向に延設されてケース60に固定されており、高電圧電源95からの高電圧の供給を受け、X線制御回路71により制御されて、X線を下方に向けて出射する。X線出射器10から出射されたX線の光軸は、ケース60の上面壁63及び下面壁64に対して垂直となり、かつケース60の前面壁61、後面壁62及び左右側面壁65,66に対して平行になるように、X線出射器10の出射口11の向きが設定されている。したがって、X線の光軸は、傾斜面壁67の法線に対して傾斜角Ψをなすとともに、下面壁64の法線に対して平行である。この傾斜角Ψは、例えば30度乃至45度の範囲内の所定角度である。
X線制御回路71は、後述するコンピュータ装置90を構成するコントローラ91によって制御され、X線出射器10から一定の強度のX線が出射されるように、X線出射器10に供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。これにより、X線出射器10の温度が一定に保たれる。
テーブル駆動機構30は、X線出射器10の下方にて、移動ステージ31を備えている。移動ステージ31は、フィードモータ32及びスクリューロッド33により、X線出射器10から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内であって、前記X線の光軸に垂直な方向に移動可能となっている。フィードモータ32は、テーブル駆動機構30内に固定されていてケース60に対して移動不能となっている。スクリューロッド33は、X線出射器10から出射されたX線の光軸に垂直な方向に延設されていて、その一端部がフィードモータ32の出力軸に連結されている。スクリューロッド33の他端部は、テーブル駆動機構30内に設けた軸受部34に回転可能に支持されている。また、移動ステージ31は、それぞれテーブル駆動機構30内にて固定された、対向する1対の板状のガイド35,35により挟まれていて、スクリューロッド33の軸線方向に沿って移動可能となっている。すなわち、フィードモータ32を正転又は逆転駆動すると、フィードモータ32の回転運動が移動ステージ31の直線運動に変換される。フィードモータ32内には、エンコーダ32aが組み込まれている。エンコーダ32aは、フィードモータ32が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。
位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73は、コントローラ91からの指令により作動開始する。測定開始直後において、フィードモータ制御回路73は、フィードモータ32を駆動して移動ステージ31をフィードモータ32側へ移動させる。位置検出回路72は、エンコーダ32aから出力されるパルス信号が入力されなくなると、移動ステージ31が移動限界位置に達したことを表す信号をフィードモータ制御回路73に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路73は、位置検出回路72から移動限界位置に達したことを表す信号を入力すると、フィードモータ32への駆動信号の出力を停止する。上記の移動限界位置を移動ステージ31の原点位置とする。したがって、位置検出回路72は、移動ステージ31が図1及び図2にて左上方向に移動して移動限界位置に達したとき「0」を表す位置信号を出力し、移動ステージ31が移動限界位置から右下方向へ移動するとき、移動限界位置からの移動距離xを表す信号を位置信号として出力する。
フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ31の移動先の位置を表す設定値を入力すると、その設定値に応じてフィードモータ32を正転又は逆転駆動する。位置検出回路72は、エンコーダ32aが出力するパルス信号のパルス数をカウントする。そして、位置検出回路72は、カウントしたパルス数を用いて移動ステージ31の現在の位置(移動限界位置からの移動距離x)を計算し、コントローラ91及びフィードモータ制御回路73に出力する。フィードモータ制御回路73は、位置検出回路72から入力した移動ステージ31の現在の位置が、コントローラ91から入力した移動先の位置と一致するまでフィードモータ32を駆動する。
また、フィードモータ制御回路73は、移動ステージ31の移動速度を表す設定値をコントローラ91から入力する。そして、エンコーダ32aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ31の移動速度を計算し、前記計算した移動ステージ31の移動速度がコントローラ91から入力した移動速度になるようにフィードモータ32を駆動する。
一対のガイド35,35の上端は、板状の上壁36によって連結されている。上壁36には、貫通孔36aが設けられていて、貫通孔36aには、X線出射器10の出射口11の先端部が挿入されている。なお、X線出射器10の出射口11の先端が移動ステージ31に当接しないように、X線出射器10及び移動ステージ31の位置が設定されている。
また、移動ステージ31には、スピンドルモータ37が組み付けられている。スピンドルモータ37内には、エンコーダ32aと同様のエンコーダ37aが組み込まれている。すなわち、エンコーダ37aは、スピンドルモータ37が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75へ出力する。さらに、エンコーダ37aは、スピンドルモータ37が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラ91及び回転角度検出回路75へ出力する。
スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75は、コントローラ91からの指令により作動開始する。スピンドルモータ制御回路74は、コントローラ91から、スピンドルモータ37の回転速度を表す設定値を入力する。そして、エンコーダ37aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いてスピンドルモータ37の回転速度を計算し、計算した回転速度がコントローラ91から入力した回転速度になるように、駆動信号をスピンドルモータ37に供給する。回転角度検出回路75は、エンコーダ37aから出力されたパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値を用いてスピンドルモータ37の回転角度すなわちイメージングプレート21の回転角度θpを計算して、コントローラ91に出力する。そして、回転角度検出回路75は、エンコーダ37aから出力されたインデックス信号を入力すると、カウント値を「0」に設定する。すなわち、インデックス信号を入力した位置が回転角度0度の基準位置である。
テーブル20は、円形状に形成され、スピンドルモータ37の出力軸の先端部に固定されている。テーブル20の中心軸と、スピンドルモータ37の出力軸の中心軸とは一致している。テーブル20は、下面中央部から下方へ突出した突出部22を有していて、突出部22の外周面には、ねじ山が形成されている。突出部22の中心軸は、スピンドルモータ37の出力軸の中心軸と一致している。テーブル20の下面には、イメージングプレート21が取付けられている。イメージングプレート21は、表面に蛍光体が塗布された円形のプラスチックフィルムである。イメージングプレート21の中心部には、貫通孔21aが設けられていて、この貫通孔21aに突出部22を通し、突出部22にナット状の固定具23をねじ込むことにより、イメージングプレート21が、固定具23とテーブル20の間に挟まれて固定される。固定具23は、円筒状の部材で、内周面に、突出部22のねじ山に対応するねじ山が形成されている。
イメージングプレート21は、フィードモータ32によって駆動されて、移動ステージ31、スピンドルモータ37及びテーブル20と共に原点位置から回折環を撮像する回折環撮像位置へ移動する。また、イメージングプレート21は、スピンドルモータ37によって駆動されて回転しながら、フィードモータ32によって駆動されて、移動ステージ31、スピンドルモータ37及びテーブル20と共に撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域内、及び回折環を消去する回折環消去領域内を移動する。なお、この場合のイメージングプレート21の移動においては、イメージングプレート21の中心軸が、X線出射器10から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内に保たれた状態で、前記X線の光軸に垂直な方向に移動する。
また、移動ステージ31、スピンドルモータ37の出力軸、テーブル20、イメージングプレート21及び固定具23には、X線出射器10から出射されたX線を通過させる貫通孔がそれぞれ設けられている。これらの貫通孔の中心軸と、テーブル20の回転軸は一致している。すなわち、これらの貫通孔の中心軸と、X線出射器10から出射されるX線の光軸とが一致するとき、X線が測定対象物OBに照射されるようになっている。このように、X線を測定対象物OBに照射するときのイメージングプレート21の位置が、回折環撮像位置である。
フィードモータ32の下方には、測定対象物OBにて反射したX線を受光する複数の受光素子からなる受光センサ25(例えば、X線CCD)が組み付けられている。受光センサ25は、測定対象物OB及びイメージングプレート21からフィードモータ32側に充分離れている。これにより、傾斜面壁67を測定対象物OBの上面に面接触させ、かつイメージングプレート21が回折環撮像位置にあるとき、受光センサ25は、測定対象物OBにて反射したX線を直接受光できる。この状態では、受光センサ25の受光面は、測定対象物OBの表面と平行である。受光センサ25の受光面におけるX線の受光位置は、測定対象物OBの高さに対応している。言い換えれば、イメージングプレート21と測定対象物OBとの距離に対応している。受光センサ25は、それぞれの受光素子が受光した受光信号をセンサ信号取出回路76へ出力する。
センサ信号取出回路76は、コントローラ91からの指令により作動開始し、受光センサ25から入力した受光信号を用いて、受光センサ25の受光面における受光信号のピーク位置を算出して受光位置を表す受光位置信号としてコントローラ91へ出力する。
レーザ検出装置40は、回折環を撮像したイメージングプレート21にレーザ光を照射して、イメージングプレート21から入射した光の強度を検出する。レーザ検出装置40は、測定対象物OB及び回折環撮像位置にあるイメージングプレート21からフィードモータ32側に充分離れている。すなわち、イメージングプレート21が回折環撮像位置にあるとき、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置40によって遮られないようになっている。レーザ検出装置40は、レーザ光源41、コリメートレンズ42、反射鏡43、偏光ビームスプリッタ44、1/4波長板45及び対物レンズ46を備えている。
レーザ光源41は、レーザ駆動回路77によって制御されて、イメージングプレート21に照射するレーザ光を出射する。レーザ駆動回路77は、コントローラ91によって制御され、レーザ光源41から所定の強度のレーザ光が出射されるように、駆動信号を制御して供給する。レーザ駆動回路77は、後述する受光器(フォトディテクタ)52から出力された受光信号を入力して、受光信号の強度が所定の強度になるようにレーザ光源41に出力する駆動信号を制御する。これにより、イメージングプレート21に照射されるレーザ光の強度が一定に維持される。
コリメートレンズ42は、レーザ光源41から出射されたレーザ光を平行光に変換する。反射鏡43は、コリメートレンズ42にて平行光に変換されたレーザ光を、偏光ビームスプリッタ44に向けて反射する。偏光ビームスプリッタ44は、反射鏡43から入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。1/4波長板45は、偏光ビームスプリッタ44から入射したレーザ光を直線偏光から円偏光に変換する。対物レンズ46は、1/4波長板45から入射したレーザ光をイメージングプレート21の表面に集光させる。この対物レンズ46から出射されるレーザ光の光軸は、X線出射器10から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内であって、前記X線の光軸に平行な方向、すなわち移動ステージ31の移動方向に対して垂直な方向である。
対物レンズ46には、フォーカスアクチュエータ47が組み付けられている。フォーカスアクチュエータ47は、対物レンズ46をレーザ光の光軸方向に移動させるアクチュエータである。なお、対物レンズ46は、フォーカスアクチュエータ47が通電されていないときに、その可動範囲の中心に位置する。
対物レンズ46によって集光されたレーザ光を、イメージングプレート21の表面であって、回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じる。すなわち、回折環を撮像した後、イメージングプレート21にレーザ光を照射すると、イメージングプレート21の蛍光体が回折X線の強度に応じた光であって、レーザ光の波長よりも波長が短い光を発する。イメージングプレート21に照射されて反射したレーザ光及び蛍光体から発せられた光は、対物レンズ46及び1/4波長板45を通過して、偏光ビームスプリッタ44にて反射する。偏光ビームスプリッタ44の反射方向には、集光レンズ48、シリンドリカルレンズ49及び受光器(フォトディテクタ)50が設けられている。集光レンズ48は、偏光ビームスプリッタ44から入射した光を、シリンドリカルレンズ49に集光する。シリンドリカルレンズ49は、透過した光に非点収差を生じさせる。受光器50は、分割線で区切られた4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子によって構成されており、時計回りに配置された受光領域A,B,C,Dに入射した光の強度に比例した大きさの検出信号を受光信号(a,b,c,d)として、増幅回路78に出力する。
増幅回路78は、受光器50から出力された受光信号(a,b,c,d)をそれぞれ同じ増幅率で増幅して受光信号(a’,b’,c’,d’)を生成し、フォーカスエラー信号生成回路79及びSUM信号生成回路80へ出力する。本実施形態においては、非点収差法によるフォーカスサーボ制御を用いる。フォーカスエラー信号生成回路79は、増幅された受光信号(a’,b’,c’,d’)を用いて、演算によりフォーカスエラー信号を生成する。すなわち、フォーカスエラー信号生成回路79は、(a’+c’)−(b’+d’)の演算を行い、この演算結果をフォーカスエラー信号としてフォーカスサーボ回路81へ出力する。フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)は、レーザ光の焦点位置のイメージングプレート21の表面からのずれ量を表している。
フォーカスサーボ回路81は、コントローラ91により制御され、フォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路82に出力する。ドライブ回路82は、このフォーカスサーボ信号に応じてフォーカスアクチュエータ47を駆動して、対物レンズ46をレーザ光の光軸方向に変位させる。この場合、フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)の値が常に一定値(例えば、ゼロ)となるようにフォーカスサーボ信号を生成することにより、イメージングプレート21の表面にレーザ光を集光させ続けることができる。
SUM信号生成回路80は、受光信号(a’,b’,c’,d’)を合算してSUM信号(a’+b’+c’+d’)を生成し、A/D変換回路83に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート21にて反射したレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート21にて反射したレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、イメージングプレート21に入射した回折X線の強度に相当する。A/D変換回路83は、コントローラ91によって制御され、SUM信号生成回路80からSUM信号を入力し、入力したSUM信号の瞬時値をディジタルデータに変換してコントローラ91に出力する。
レーザ検出装置40は、集光レンズ51及び受光器(フォトディテクタ)52も備えている。集光レンズ51は、レーザ光源41から出射されたレーザ光の一部であって、偏光ビームスプリッタ44を透過せずに反射したレーザ光を受光器52の受光面に集光する。受光器52は、受光面に集光された光の強度に応じた受光信号を出力する受光素子である。従って、受光器52は、レーザ光源41が出射したレーザ光の強度に対応した受光信号をレーザ駆動回路77へ出力する。
また、対物レンズ46に隣接して、発光素子(LED)53が設けられている。発光素子53は、発光素子駆動回路84によって制御されて、可視光を出射して、イメージングプレート21に撮像された回折環を消去する。発光素子駆動回路84は、コントローラ91によって制御され、発光素子53に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
発光素子55は、X線回折測定装置の下面壁64が測定対象物OBの上面に面接触していることを検出するためのもので、コントローラ91によって制御される発光素子駆動回路85により駆動されて、下面壁64に対して斜め方向から光を照射する。この発光素子55による下面壁64の照射位置には、貫通孔64bが設けられている。したがって、X線回折測定装置の下面壁64が測定対象物OBの上面に面接触している状態では、発光素子55から出射された光は、貫通孔64aを介して、測定対象物OBに照射され、測定対象物OBにて反射した光が貫通孔64aを介して再びケース60内に入射する。受光器56は、このケース60内に入射した光を受光する位置に配置されており、前記ケース60内に入射した光を受光して、受光強度に応じた受光信号を発光信号検出回路86に出力する。なお、X線回折測定装置の傾斜面壁67が測定対象物OBの上面に面接触している状態では、発光素子55から出射された光が、測定対象物OBの上面で反射してケース60内に戻ることはない。発光信号検出回路86は、受光器56から入力した受光信号の強度が設定された強度以上であるときは、受光検出を意味する信号をコントローラ91に出力し、設定された強度未満であるときは、前記信号を出力しない。
コンピュータ装置90は、コントローラ91、入力装置92及び表示装置93からなる。コントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された図3乃至図7の各種プログラムを実行する。入力装置92は、コントローラ91に接続されて、作業者により、各種パラメータ、作業指示などの入力のために利用される。表示装置93は、作業者に対して各種の設定状況、作動状況、測定結果などを視覚的に知らせる。高電圧電源95は、X線出射器10にX線出射のための高電圧を供給する。
また、上述したX線回折測定装置には、図11に示すように、三角柱状に形成された遮光部材97が付属品として用意されている。この遮光部材97は、1対の側面が傾斜面壁67の下面壁64に対する傾斜角Ψで交差しており、その交差部分の幅方向(図示左右方向)の中央部分には切欠き97aが設けられている。そして、X線回折測定装置を測定対象物OBの上面に載置してX線を測定対象物OBの上面に照射する際に、測定対象物OBの上面と接触していない下面壁64又は傾斜面壁67の下方に配置されて、X線の外部への放出を防止するものである、
以下に、上記のように構成したX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBの上面の残留応力を求める具体的方法について説明する。上記のように構成したX線回折装置においては、その保管状態及び搬送状態では、図12Aに示すように、支持脚68a,68bは、下面壁64にほぼ平行になるように折り畳まれて左右側面壁65,66に密着して収納されている。
このような状態にあるX線回折測定装置を取っ手69を持って持ち運び、測定対象物OBの上面に載せる。この場合、図2及び図12Bに示すように、支持脚68a,68bを下面壁64に対して垂直方向に回転させて、下端部を測定対象物OB上に密着させ、傾斜面壁67を測定対象物OBの表面に密着すなわち面接触させて、X線回折測定装置を測定対象物OBの表面上に維持するようにする。また、この場合、X線回折測定装置を、測定対象物OBの測定位置が貫通孔64aの位置に来るようにする。この状態では、X線出射器10から出射されたX線の光軸と傾斜面壁67の法線とが傾斜角Ψをなすように設定されているので、X線の光軸と測定対象物OBの表面の法線とがなす角度は、前記傾斜角Ψに設定される。これにより、測定対象物OBにX線が照射されれば、測定対象物OBから回折X線が出射され、イメージングプレート21上には回折環が形成される。また、このX線の照射前には、図2及び図12Bに示すように、遮光部材97を、測定対象物OBの上面と下面壁64の間に、傾斜面壁67に向かって挿入して、X線の外部への放射を防止する。
その後、コンピュータ装置90及び高電圧電源95を上記の構成のX線回折測定装置に接続する。そして、作業者が、入力装置92を用いて、測定対象物OBの材質(例えば、鉄)を入力し、残留応力の測定開始を指示する。これにより、コントローラ91は、図3に示す回折環撮像プログラムの実行を開始する。
この回折環撮像プログラムは図3のステップS100にて開始され、コントローラ91は、ステップS102にて、スピンドルモータ制御回路74を制御して、イメージングプレート21を低速回転させ、エンコーダ37aからインデックス信号を入力した時点で、イメージングプレート21の回転を停止させる。これにより、測定開始時において、イメージングプレート21の回転角度が0度に設定される。次に、コントローラ91は、ステップS104にて位置検出回路72の作動を開始させ、ステップS106にて、フィードモータ制御回路73を制御し、フィードモータ32の作動を開始させるとともに、位置検出回路72との協働によりフィードモータ32の作動を停止させて、イメージングプレート21を回折環撮像位置まで移動させる。
次に、コントローラ91は、ステップS108にて受光信号検出回路86の作動を開始させ、ステップS110にて発光素子駆動回路85を制御して発光素子55に発光を開始させる。そして、コントローラ91は、ステップS112にて、受光信号検出回路86からの受光検出信号の有無を判定する。すなわち、下面壁64が測定対象物OBの上面に面接触しているか否かを判定する。この場合、発光素子55は光を貫通孔64aを介してケース60外へ出射し始めるが、X線回折測定装置はその傾斜面壁67を測定対象物OBの上面に面接触するように載置されているので、受光器56は、前記出射された光の測定対象物OBによる反射光を受光しない。したがって、受光信号検出回路86は受光検出信号を出力せず、コントローラ91は、ステップS112にて「No」と判定し、ステップS114にて受光信号検出回路86の作動を停止させ、ステップS116にて発光素子駆動回路85を制御して発光素子55による光の出射を停止させる。
前記ステップS116の処理後、コントローラ91は、ステップS118にてセンサ信号取出回路76の作動を開始させ、ステップS120にてX線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を開始させる。これにより、X線が測定対象物OBに照射され、測定対象物OBの表面にて反射したX線が受光センサ25に受光される。次に、コントローラ91は、ステップS122にてセンサ信号取出回路76から受光位置信号を入力し、前記入力した受光位置信号を用いてイメージングプレート21と測定対象物OBとの距離Lを算出する。なお、この算出した距離Lは、後述する処理によって利用されるので、メモリに記憶しておく。そして、コントローラ91は、ステップS124にて、前記算出した距離Lが所定の基準範囲内にあるか否か判定する。距離Lが基準範囲内になければ、「No」と判定して、ステップS126にて、X線制御回路71を制御して測定対象物OBへのX線の照射を停止させる。
次に、コントローラ91は、ステップS128にて、表示装置93に、X線回折測定装置のセットが不適切である旨を表示する。そして、ステップS144にて、回折環撮像プログラムの実行を終了する。この場合、作業者は、X線回折測定装置を再度セットし直した後、入力装置92を用いて、再度、測定開始を指示する。上記のステップS120〜S126までの所要時間は僅かなので、イメージングプレート21には回折環が撮像されない。また、受光センサ25が測定対象物OBにて反射したX線を受光しない場合も、ステップS128にて、X線回折測定装置のセットが不適切である旨が表示される。この場合も、作業者は、X線回折測定装置をセットし直す。そして、前記測定開始の指示により、前述したステップS102〜S124の処理が再度実行され、距離Lが所定の基準範囲内になるまで前記処理が繰り返される。ただし、このようにステップS102〜S124の処理が繰り返し実行される場合には、ステップS102〜S118の処理は、実質的には不要である。
一方、ステップS124の判定処理時に、距離Lが所定の基準範囲内である場合には、コントローラ91は、ステップS124にて「Yes」と判定して、ステップS130に処理を進め、センサ信号取出回路76の作動を停止させる。そして、コントローラ91は、ステップS132にて時間計測を開始し、ステップS134にてイメージングプレート21にX線による回折環を形成するための所定の設定時間が経過したか否かを判定する。時間計測開始から所定の設定時間を経過していなければ、ステップS134にて「No」と判定して判定処理を実行し続ける。すなわち、コントローラ91は、時間計測開始から所定の設定時間を経過するまで待機する。そして、時間計測開始から所定の設定時間を経過すると、コントローラ91は、ステップS134にて「Yes」と判定して、ステップS136にてX線制御回路71を制御してX線出射器10によるX線の照射を停止させ、ステップS144にて回折環撮像プログラムの実行を終了する。
これにより、この状態では、測定対象物OBからの回折X線による回折環がイメージングプレート21に撮像されている。
前記回折環撮像プログラムの実行後、コントローラ91は、図4A及び図4Bの回折環読取りプログラムの実行を開始する。この場合、コントローラ91は、この回折環読取りプログラムの実行に並行して、図5の回折環形状検出プログラムの実行をも開始する。回折環読取りプログラムの実行は図4AのステップS200にて開始され、コントローラ91は、ステップS202にて回折環基準半径R0を計算する。回折環基準半径R0は、測定対象物OBの残留応力が「0」である場合の回折環の半径である。回折環基準半径R0は、測定対象物OBの材質及びイメージングプレート21から測定対象物OBまでの距離Lに依存する。すなわち、残留応力が「0」であるので、回折角θxは材質(本実施形態では、鉄である)によって決定される。距離Lと回折環基準半径R0とは比例関係にあるので、予め材質ごとに、回折角θxを記憶しておけば、回折環基準半径R0を、R0=L・tan(θx)の演算によって算出できる。この計算された回折環基準半径R0はメモリに記憶される。
前記ステップS202の処理後、コントローラ91は、ステップS204にて、フィードモータ制御回路73に、イメージングプレート21を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させることを指示する。フィードモータ制御回路73は、位置検出回路72と協働してフィードモータ32を駆動制御して、イメージングプレート21を読取り開始位置へ移動させる。このイメージングプレート21が読取り開始位置にある状態では、対物レンズ46の中心すなわちレーザ光の照射位置が前記計算した回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ小さい位置に位置する。なお、所定距離αは、撮像した回折環の半径が回折環基準半径R0からずれる可能性のある距離よりもやや大きい距離である。これにより、後述の処理により、回折環の測定が充分に内側から開始されて、回折環が確実に検出される。このときのX線回折測定装置は、図12Cに示された状態にある。
ここで、移動ステージ31の移動限界位置から図1及び図2の右下方向への移動距離xを表す位置検出回路72からの位置信号と、イメージングプレート21の中心からレーザ光の照射位置(対物レンズ46の中心位置)までの距離(すなわちレーザ光の照射位置の半径r)との関係について説明しておく。移動ステージ31すなわちイメージングプレート21が移動限界位置にある状態においては、図8(A)に示すように、イメージングプレート21の中心から対物レンズ46の中心位置までの距離をRxとする。なお、この場合、対物レンズ46は前記イメージングプレート21の中心位置から図1及び図2にて左上方向にあり、また前記距離Rxは予め測定されてコントローラ91に記憶されている。一方、図8(B)に示すように、イメージングプレート21を移動限界位置から図1及び図2の右下方向へ距離xだけ移動させると、レーザ光の照射位置の半径rは、r=x+Rxで表される。この場合、距離xは、前述のように位置検出回路72から出力される位置信号によって示されるので、今後の処理において、レーザ光の照射位置の半径rは、位置検出回路72から出力される位置信号によって表された距離xに予め記憶されている値Rxを加算することになる。
そして、前記のように、イメージングプレート21を読取り開始位置へ移動させる場合には、図8(C)に示すように、レーザ光の照射位置は、回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ内側に位置するので、この場合の半径rは距離R0−αに等しくなるはずである。したがって、イメージングプレート21を駆動限界位置から図1及び図2の右下方向へ移動させる距離xは、x=R0−α−Rxに等しくなる。すなわち、前記ステップS204における読取り開始位置への移動処理においては、位置検出回路72から出力される位置信号により表される距離x(=R0−α−Rx)だけ、テーブル20を図1及び図2の右下方向へ移動させればよい。
次に、コントローラ91は、ステップS206にて、スピンドルモータ制御回路74に対して、所定の一定回転速度でイメージングプレート21を回転させることを指示する。スピンドルモータ制御回路74は、エンコーダ37aからのパルス信号を用いて回転速度を計算しながら、前記指示された一定回転速度でイメージングプレート21が回転するようにスピンドルモータ37の回転を制御する。したがって、イメージングプレート21は前記所定の一定回転速度で回転し始める。次に、コントローラ91は、ステップS208にて、レーザ駆動回路77を制御してレーザ光源41によるレーザ光のイメージングプレート21に対する照射を開始させる。
次に、コントローラ91は、ステップS210にて、フォーカスサーボ回路81に対して、フォーカスサーボ制御の開始を指示する。これにより、フォーカスサーボ回路81は、増幅回路78及びフォーカスエラー信号生成回路79からのフォーカスエラー信号を用いて、ドライブ回路82を介してフォーカスアクチュエータ47を駆動制御することにより、フォーカスサーボ制御を開始する。その結果、対物レンズ46が、レーザ光の焦点がイメージングプレート21の表面に合うように光軸方向に駆動制御される。ステップS210の処理後、コントローラ91は、ステップS212にて、回転角度検出回路75及びA/D変換回路83の作動を開始させる。これにより、回転角度検出回路75は、スピンドルモータ37(イメージングプレート21)の基準位置からの回転角度θpをコントローラ91に出力し始め、A/D変換回路83は、SUM信号の瞬時値のディジタルデータをコントローラ91に出力し始める。
次に、コントローラ91は、ステップS214にて、フィードモータ制御回路73に対して、イメージングプレート21の移動開始及び移動速度を指示する。フィードモータ制御回路73は、フィードモータ32を駆動制御して、イメージングプレート21を読取り開始位置から軸受部34側(図1及び図2の右下方向)へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置が、イメージングプレート21において、回折環基準半径R0から所定距離αだけ内側から外側方向に一定速度で相対移動し始める。なお、この状態では、レーザ光の照射位置は、前記ステップS206,S214の処理により、相対的にイメージングプレート21上を螺旋状に回転している。
前記ステップS214の処理後、コントローラ91は、ステップS216にて、周方向番号n及び半径方向番号mの値をそれぞれ「1」に初期設定する。周方向番号nは、イメージングプレート21における1回転をN個(所定の大きな値)で等分した周方向位置をそれぞれ表す「1」から最大値Nまで変化する整数である。半径方向番号mは、イメージングプレート21の内側から外側に向かう径方向位置をそれぞれ表し、イメージングプレート21が1回転するごとに「1」から「1」ずつ増加する値である。そして、これらの周方向番号n及び半径方向番号mにより、図9に示すように、イメージングプレート21上を螺旋状に移動する読取りポイントP(n,m)が示される。
次に、コントローラ91は、ステップS218にて、回転角度検出回路75がエンコーダ37aからのインデックス信号を入力したか否かを判定する。回転角度検出回路75がインデックス信号を入力していなければ、コントローラ91はステップS218にて「No」と判定して、ステップS218の判定処理を繰り返し実行し続ける。回転角度検出回路75がインデックス信号を入力すると、コントローラ91は、ステップS218にて「Yes」と判定して、ステップS220にて、回転角度検出回路75からイメージングプレート21の現在の回転角度θpを取り込む。
そして、コントローラ91は、ステップS222にて、現在の回転角度θpと変数nによって指定される回転角度(n−1)・θo(この場合、n=1であるので「0」)との差の絶対値|θp−(n−1)・θo|が所定の許容値未満であるか否か判定する。この場合、θoは、360度を周方向番号nの最大値Nで除した予め記憶されている所定値である。前記絶対値|θp−(n−1)・θo|が所定の許容値未満でなければ、コントローラ91は、ステップS222にて「No」と判定してステップS220,S222の処理を繰り返し実行する。すなわち、コントローラ91は、現在の回転角度θpが所定の回転角度(n−1)・θoにほぼ一致するまで待機する。そして、現在の回転角度θpが所定の回転角度(n−1)・θoにほぼ一致すると、コントローラ91は、ステップS222にて「Yes」すなわち前記絶対値|θp−(n−1)・θo|が所定の許容値未満であると判定して、ステップS224に進む。
ステップS224においては、コントローラ91は、A/D変換回路83からSUM信号を取り込んで、読取りポイントP(n,m)の信号強度S(n,m)としてメモリにそれぞれ記憶する。また、このステップS224においては、位置検出回路72からの位置信号を取り込んで、位置信号によって表される距離xに所定距離Rxを加算して半径rを計算して、読取りポイントP(n,m)の半径r(n,m)として前記信号強度S(n,m)に対応させてメモリに記憶する。これにより、イメージングプレート21の読取りポイントP(n,m)からの輝尽発光の強度すなわち読取りポイントP(n,m)に対するX線回折光の強度を表す信号強度S(n,m)が、読取りポイントP(n,m)の半径を表す半径r(n,m)と共にメモリに記憶される。
次に、コントローラ91は、ステップS226にて、前記記憶した信号強度S(n,m)が、所定の基準値以上であるか否か判定する。信号強度S(n,m)が所定の基準値以上であれば、コントローラ91は、ステップS226にて「Yes」と判定して、ステップS230に進む。一方、信号強度S(n,m)が、所定の基準値より小さければ、コントローラ91は、ステップS226にて「No」と判定して、ステップS228にて、前記記憶した信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)を消去した後、ステップS230に進む。この信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)の消去は、所定の基準値より小さな信号強度S(n,m)が回折X線強度の回折環半径方向のピーク位置の検出に不要であるからである。
ステップS230においては、コントローラ91は、周方向番号nに「1」を加算する。そして、コントローラ91は、ステップS232にて、変数nが1周当たりの読取りポイントP(n,m)の数を表す値Nより大きいか、すなわちイメージングプレート21が1回転したか否かを判定する。この場合、n=2であり、周方向番号nは値N以下であるので、コントローラ91は、ステップS232にて「No」と判定して、ステップS220に戻る。
そして、前述したステップS220〜S232の処理を、周方向番号nが値Nよりも大きくなるまで繰り返す。このステップS220〜S232の繰り返し処理により、回転角度0,θo,2・θo・・・(N−1) ・θoにそれぞれ対応した所定角度θoごとの信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)がメモリに記憶される。ただし、この場合も、ステップS226,S228の処理により、信号強度S(n,m)が所定の基準値より小さければ、メモリに記憶された信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)は消去される。
このようなステップS220〜S232の循環処理により、周方向番号nが値Nよりも大きくなると、コントローラ91は、ステップS232にて「Yes」と判定して、ステップS234にて、後述の回折環形状検出プログラムによる終了指令の有無を判定する。未だ終了指令がないときは、コントローラ91は、ステップS234にて「No」と判定し、ステップS236にて半径方向番号mに「1」を加算し(この場合、m=2になる)、ステップS228にて周方向番号nを「1」に戻す。そして、コントローラ91は、前述したステップS218〜S232の処理を実行して、次の半径方向位置の回転角度0,θo,2・θo・・・(N−1) ・θoに対応した読取りポイントP(n,m)に関する信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)をメモリに記憶する。
そして、終了指令の指示があるまで、このようなステップS218〜S238の処理により、「1」ずつ順次大きくなる半径方向番号m(=1,2,3・・)と、各半径方向番号mごとに回転角度0,θo,2・θo・・・(N−1) ・θoにそれぞれ対応した周方向番号n(=1〜N)とにより指定される読取りポイントP(n,m)に対応する信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)がメモリに順次記憶される。なお、この場合も、信号強度S(n,m)が所定の基準値より小さければ、メモリに記憶された信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)は消去される。
そして、前記回折環形状検出プログラムによる終了指令の指示があると、コントローラ91は、ステップS234にて「Yes」と判定し、図4BのステップS240に進む。ここで、この回折環読取りプログラムと並行して実行されている回折環形状検出プログラムについて説明する。
回折環形状検出プログラムの実行は図5のステップS300にて開始され、コントローラ91は、ステップS302にて周方向番号nを「1」に初期設定する。なお、この周方向番号nは、回折環読取りプログラムの場合と同様に所定角度θoごとの周方向位置を示すものであるが、回折環読取りプログラムで用いられる周方向番号nとは独立したものである。
前記ステップS302の処理後、コントローラ91は、ステップS304にて、詳しくは後述するピーク半径rp(n)が存在するか、すなわちピーク半径rp(n)が検出済みであるかを判定する。この場合、ピーク半径rp(n)においては、検出されたピーク半径の回転角度が周方向番号nによって表される。ピーク半径rp(n)が検出済みであれば、コントローラ91は、ステップS304にて「Yes」と判定して、ステップS306にて周方向番号nに「1」を加算し、ステップS308にて周方向番号nが所定数より大きいか否かを判定する。この場合の所定数も、1周の測定位置数を表す値Nである。周方向番号nが所定数以下であれば、コントローラ91は、ステップS308にて「No」と判定してステップS304に戻る。
一方、ピーク半径rp(n)が未検出であれば、コントローラ91は、ステップS304にて「No」と判定して、ステップS310にて前記図4AのステップS224の処理によって記憶した信号強度S(n,m)の数が所定数以上であるか否か判定する。信号強度S(n,m)の数が所定数以上でなければ、コントローラ91は、ステップS310にて「No」と判定して、前述したステップS306,S308の処理を実行してステップS304又はステップS302に戻る。このステップS310の判定処理は、信号強度S(n,m)の数が少ない場合には後述するピーク検出処理を実行しても無駄であるからである。なお、前記図4AのステップS228の処理によって消去された信号強度S(n,m)は、記憶した信号強度S(n,m)としてカウントされない。
一方、前記記憶した信号強度S(n,m)の数が所定数以上であるときは、コントローラ91は、ステップS310にて「Yes」と判定して、ステップS312にて、ピークの有無を判定する。すなわち、周方向番号nによって指定される周方向位置の全ての半径r(n,m)及び信号強度S(n,m)を用いて、SUM信号の値のピークの有無を判定する。具体的には、図10に示すように、周方向番号nによって指定される周方向位置の全ての半径r(n,m)を横軸に取り、その半径r(n,m)に対応させて信号強度S(n,m)を縦軸に取った受光曲線において、信号強度S(n,m)にピークが存在するか、すなわち信号強度S(n,m)が増加した後に減少したかを判定するとよい。そして、ピークが存在しなければ、コントローラ91は、ステップS312にて「No」と判定して、前述したステップS306,S308の処理を実行してステップS304又はステップS302に戻る。
このように、ステップS302〜S312を繰り返し実行している間に、並行して実行されている回折環読取りプログラムの処理により、さらに半径r(n,m)及び信号強度S(n,m)が取り込まれてメモリに次々に記憶されていく。このため、ステップS312にてピークが検出されるようになり、検出されると、コントローラ91は、ステップS312にて「Yes」と判定して、ステップS314にて、ピークの半径r(n,m)をピーク半径rp(n)としてメモリに記憶する。次に、コントローラ91は、ステップS316にて、取得したピーク半径rp(n)の数が所定数以上であるか否かを判定する。この場合の所定数も、1周の測定位置数を表す値Nである。そして、取得したピーク半径rp(n)の数が所定数より小さければ、コントローラ91は、ステップS316にて「No」と判定し、前述したステップS306,S308の処理を実行してステップS304又はステップS302に戻る。
このようにステップS302〜S316の処理を繰り返すことで、取得したピーク半径rp(n)の数が増えていき所定数に達すると、すなわち周方向の全ての読取りポイントP(n,m)にてピーク半径rp(n)が取得されると、コントローラ91は、ステップS316にて「Yes」と判定し、ステップS318にて回折環形状検出の終了を示す終了指令を出力する。そして、コントローラ91は、ステップS320にて回折環形状検出プログラムの実行を終了する。このような周方向の全ての読取りポイントP(n,m)におけるピーク半径rp(n)の検出により、回折環の形状が検出されたことになる。なお、これらの回折環の形状に関する全ての読取りポイントP(n,m)におけるピーク半径rp(n)を表すデータは、X線回折測定装置をその傾斜面壁67を測定対象物OBの上面に面接触させた状態で測定した第1測定値として、コントローラ91に記憶される。
ここで、図4A及び図4Bの回折環読取りプログラムの説明に再び戻る。前述のように終了指令が出力されると、コントローラ91は、図4AのステップS234にて「Yes」と判定し、図4BのステップS240にて、フォーカスサーボ回路81に対してフォーカスサーボ制御の停止を指示することにより、フォーカスサーボ制御を停止させる。次に、コントローラ91は、ステップS242にて、レーザ駆動回路77を制御して、レーザ光源41によるレーザ光の照射を停止させる。さらに、コントローラ91は、ステップS244にて、A/D変換回路83及び回転角度検出回路75の作動を停止させ、ステップS246にて、フィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ32の作動を停止させることにより、イメージングプレート21を停止させて、ステップS248にて回折環形状検出プログラムの実行を終了する。なお、この状態では、位置検出回路72の作動及びイメージングプレート21の回転は、以前と同様のまま継続されている。
次に、コントローラ91は、図6の回折環消去プログラムを実行する。回折環消去プログラムの実行は、ステップS400にて開始され、コントローラ91は、ステップS402にて、フィードモータ制御回路73に、イメージングプレート21を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させることを指示する。フィードモータ制御回路73は、位置検出回路72と協働してフィードモータ32を駆動制御して、イメージングプレート21を消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート21が消去開始位置にある状態では、発光素子53から出力される可視光の中心が前記計算した回折環基準半径R0よりも所定距離γだけ小さい位置に位置する。具体的には、この位置は、イメージングプレート21が駆動限界位置にある状態において、イメージングプレート21の中心から光の中心までの距離をRy’とすると、位置検出回路72から出力される位置がR0−γ−Ry’になる位置である。なお、所定距離γは、前記所定距離αよりも若干大きく、前記撮像された回折環の半径よりは余裕をもってずれた位置である。これにより、後述の処理により、前記撮像された回折環が確実に消去される。
次に、コントローラ91は、ステップS404にて、発光素子駆動回路84を制御して発光素子53による可視光のイメージングプレート21に対する照射を開始させる。次に、コントローラ91は、ステップS406にて、フィードモータ制御回路73に対して、イメージングプレート21の移動開始及び移動速度を指示する。フィードモータ制御回路73は、フィードモータ32を駆動制御して、イメージングプレート21を消去開始位置から軸受部34側(図1及び図2の右下方向)に一定速度で移動させる。これにより、発光素子53による可視光が、イメージングプレート21において、回転しながら、回折環基準半径R0から所定距離γ(γ>α)だけ内側から外側方向に一定速度で移動し始める。
前記ステップS406の処理後、コントローラ91は、ステップS408にて位置検出回路72からイメージングプレート21の位置を表す位置信号を入力し、ステップS410にて、イメージングプレート21の現在の位置が消去終了位置を超えているか否かを判定する。この終了位置は、回折環基準半径R0よりも所定距離γだけ大きな位置である。具体的には、位置検出回路72から出力される位置がR0+γ−Ry’になる位置である。そして、イメージングプレート21の現在の位置が消去終了位置を超えるまで、コントローラ91は、ステップS410にて「No」と判定して、ステップS408,S410の処理を繰り返し実行する。これにより、回転するイメージングプレート21に対し、前記回折環基準半径R0から所定距離γだけ内側から所定距離γだけ外側まで、発光素子53による可視光が照射されるので、前記回折X線によって形成された回折環は内側から徐々に消去されていく。
そして、イメージングプレート21の現在の位置が消去終了位置を超えると、コントローラ91は、ステップS410にて「Yes」と判定して、ステップS412にてフィードモータ制御回路73にイメージングプレート21の移動停止を指示し、ステップS414にて発光素子駆動回路84に発光素子53による可視光の照射停止を指示する。これにより、フィードモータ制御回路73は、フィードモータ32の作動を停止させることによりイメージングプレート21の移動を停止させる。発光素子駆動回路84は、発光素子53による可視光の照射を停止させる。この状態では、前記撮像された回折環は完全に消去されている。
前記ステップS414の処理後、コントローラ91は、ステップS416にて位置検出回路72の作動を停止させ、ステップS418にてスピンドルモータ制御回路74に対してイメージングプレート21の回転停止を指示する。この指示に応答して、スピンドルモータ制御回路74は、スピンドルモータ37の作動を停止させて、イメージングプレート21の回転を停止させる。前記イメージングプレート21の回転停止後、コントローラ91は、ステップS420にて回折環消去プログラムの実行を終了する。
このようなX線回折測定装置をその傾斜面壁67を測定対象物OBの上面に面接触させた状態での回折環形成と回折環形状測定である第1回目の測定と、第1回目の測定における回折環の消去が終了した後、第2回目の測定を開始する。この場合、作業者は、X線回折測定装置を、その傾斜面壁67を測定対象物OBの上面に接触させた状態に保ったまま、X線回折測定装置を、測定対象物OBの上面上で90度回転させる。したがって、この状態でも、上記第1回目の測定の場合と同様に、X線の光軸と測定対象物OBの上面の法線とがなす角度は傾斜角Ψに設定される。なお、この場合の測定対象物OBの測定位置、すなわちX線が照射される測定対象物OBの上面の位置は、上記第1回目の測定位置と同じである。また、X線の照射前には、図2及び図12Bに示すように、X線の外部への放射を防止するために、遮光部材97を測定対象物OBの上面と下面壁64の間に、傾斜面壁67に向かって挿入しておく。
そして、上記第1回目の測定と同様に、作業者は、入力装置92を用いて、残留応力の測定開始を指示する。なお、この場合には、測定対象物OBの材質(例えば、鉄)の入力は省略される。前記測定開始の指示により、コントローラ91は、図3に示す回折環撮像プログラムの実行を再び開始する。この場合も、X線回折測定装置はその傾斜面壁67を測定対象物OBの上面に面接触するように載置されているので、受光器56は発光素子55から出射される光の測定対象物OBによる反射光を受光せず、図3のステップS112においては、「No」と判定される。したがって、この第2回目の測定においても、上述したステップS102〜S136の処理により、上記第1回目の測定の場合と同様に、測定対象物OBに対するX線の照射により、イメージングプレート21には回折環が撮像される。なお、この場合には、イメージングプレート21と測定対象物OBとの距離Lを上記第1回目の測定で得ており、また、通常、X線回折測定装置のセットが適切であるので、ステップS118,S122〜S130の処理を省略してもよい。
この回折環撮像プログラムの実行後、コントローラ91は、上記第1回目の測定の場合と同様に、図4A及び図4Bの回折環読取りプログラムの実行により、前記撮像された回折環の形状を測定する。なお、前記のように、この第2回目の図3の回折環撮像プログラムの実行時にステップS122の距離Lの計算処理を省略した場合には、図4Aの回折環読取りプログラムのステップS202の回折環基準半径の計算において、第1回目の図3の回折環撮像プログラムのステップS122の処理により計算した距離Lを用いる。そして、この場合には、回折環の形状に関する全ての読取りポイントP(n,m)におけるピーク半径rp(n)を表すデータは、X線回折測定装置をその傾斜面壁67を測定対象物OBの上面に面接触させた状態で測定した第2測定値として、コントローラ91に記憶される。その後、上記第1回目の測定の場合と同様に、図6の回折環消去プログラムの実行により、イメージングプレート21に撮像された回折環が消去される。
このようなX線回折測定装置をその傾斜面壁67を測定対象物OBの上面に面接触させた状態での回折環形成と回折環形状測定である第2回目の測定と、第2回目の測定における回折環の消去が終了した後、第3回目の測定を開始する。この場合、作業者は、X線回折測定装置の支持脚68a,68bを下面壁64に平行になるように折り畳んで左右側面壁65,66に密着させて収納する。そして、測定対象物OBの測定位置すなわちX線が照射される測定対象物OBの上面の位置を上記第1回目及び第2回目の測定位置と同じに保ったまま、X線回折測定装置を、その下面壁64が測定対象物OBの上面に面接触するように載置する。したがって、この場合には、X線の光軸は下面壁64の法線に対して平行に設定されているので、上記第1回目及び第2回目の測定の場合とは異なり、X線の光軸は測定対象物OBの表面に対して垂直となる。なお、この場合には、X線の照射前には、図12Dに示すように、X線の外部への放射を防止するために、遮光部材97を測定対象物OBの上面と傾斜面壁67の間に、下面壁64に向かって挿入しておく。
そして、上記第1回目及び第2回目の測定と同様に、作業者は、入力装置92を用いて、残留応力の測定開始を指示する。なお、この場合も、測定対象物OBの材質(例えば、鉄)の入力は省略される。前記測定開始の指示により、コントローラ91は、図3に示す回折環撮像プログラムの実行を再び開始する。この場合には、X線回折測定装置はその下面壁64を測定対象物OBの上面に面接触するように載置されているので、受光器56は、発光素子55から出射された光の測定対象物OBによる反射光を受光する。したがって、コントローラ91は、図3のステップS102〜S110の処理後のステップS112にて「Yes」と判定して、ステップS138以降に進む。
コントローラ91は、上述したステップS114,S116,S120と同様なステップS138,S140,S142の処理により、受光信号検出回路86の作動を停止させ、発光素子55による光の出射を停止し、X線出射器10によるX線の出射を開始させる。そして、コントローラ91は、上述したステップS132〜S136の処理により、測定対象物OBに対するX線の照射によってイメージングプレート21に回折環を撮像し、ステップS144にてこの回折環撮像プログラムの実行を終了する。なお、この場合、イメージングプレート21と測定対象物OBとの距離Lを上記第1回目の測定で得ており、また、通常、X線回折測定装置のセットが適切であるので、上述したステップS118,S122〜S130の処理は省略される。
この回折環撮像プログラムの実行後、コントローラ91は、上記第1回目の測定の場合と同様に、図4A及び図4Bの回折環読取りプログラムの実行により、前記撮像された回折環の形状を測定する。図12Eは、この第3回目の測定におけるX線回折測定装置の回折環読取り状態を示している。なお、この場合には、図4Aの回折環読取りプログラムのステップS202の回折環基準半径R0の計算においては、第1回目の測定において図3の回折環撮像プログラムのステップS122の処理により計算した距離Lを用いる。そして、この場合には、回折環の形状に関する全ての読取りポイントP(n,m)におけるピーク半径rp(n)を表すデータは、X線回折測定装置をその下面壁64を測定対象物OBの上面に面接触させた状態で測定した第3測定値として、コントローラ91に記憶される。その後、上記第1回目の測定の場合と同様に、図6の回折環消去プログラムの実行により、イメージングプレート21に撮像された回折環が消去される。
次に、応力計算工程について説明する。作業者は、入力装置92を用いて応力計算プログラムの実行をコントローラ91に指示する。応力計算プログラムは図7に示されており、コントローラ91は、この応力計算プログラムの実行をステップS500にて開始する。この応力計算プログラムの実行開始後、コントローラ91は、ステップS502にて、応力の具体的な計算の前に、上記第1回目の測定から第3回目の測定で検出した第1乃至第3測定値(回折環の形状)を用いて、それぞれの回折環ごとに回折環の基準位置からの回転角度α(以下、中心角αという)ごとのブラッグ角θを計算する。このブラッグ角θは、中心角αごとの回折環半径Rと、前述したステップS122の処理によって計算した距離Lとを用いて、下記数1の演算を実行する。
次に、コントローラ91は、ステップS504にて、cosα法を用いて、X,Y,Z方向の残留垂直応力σx,σy,σz及びX−Y,X−Z,Y−Z平面における残量せん断応力τxy,τxz,τyzを計算する。
ここで、残留垂直応力σx,σy,σz及び残量せん断応力τxy,τxz,τyzの計算方法について説明しておく。この計算方法は、前記特許文献2として示した特開2011−27550号公報に説明されている公知の方法であるので、同公報の記載内容を引用して簡単にその内容を説明しておく。
図13に示すように、測定対象物OBのX線の照射位置を原点とするX,Y,Z座標を想定する。そして、前述した第1測定値はX−Z平面に属して入射角Ψo(前述した傾斜角Ψに等しい)でX線を測定対象物OBに照射した状態で測定した回折環の形状データであり、前述した第2測定値はY−Z平面に属して入射角ΨoでX線を測定対象物OBに照射した状態で測定した回折環の形状データであり、第3測定値はX−Y平面に対して垂直(Z軸に等しい)にX線を測定対象物OBに照射した状態で測定した回折環の形状データである。そして、測定対象物OBの残留応力をテンソルσ
ijで表すと、テンソルσ
ijは下記数2のように表される。
また、エリアディテクタ方式の3軸応力想定法の基礎式に従い、回折環の基準位置からの回転角度α(以下、中心角αという)方向のひずみε
αは下記数3のように表される(図13参照)。
この場合、Eは縦弾性定数、vはポアソン比であり、いずれも回折弾性定数である。
前記数3中のn
1〜n
3は、測定座標系に対するひずみε
αの方向余弦であり、それぞれ下記数4で表される。
ここで、ηは中心角αにおけるブラッグ角θの補角[(π/2)−θ]であり、Ψoは測定対象物OBの上面の法線とX線の光軸とがなす角度(X線の入射角)であり、φoは測定対象物OBの上面(X−Y平面)におけるX軸とX線の光軸とがなす角度である。
任意の角度φoに対する回折環(図13参照)において、中心角α方向のひずみε
α、中心角α方向からπだけ異なる方向のひずみε
π+α、中心角−α方向のひずみε
−α、及び中心角−α方向からπだけ異なる方向のひずみε
π−αについて想定し、これらを用いて下記数5で示されるa
1(φo),a
2(φo)を想定する。
前記数5に前記数3,4を代入するとともに、φo=0とすると、a
1(0),a
2(0)は下記数6のようになる。
前記数6より、a
1(0),a
2(0)は、それぞれcosα,sinαに関して直線的であり、各直線の傾きは下記数7で表される。
ここで、X線を測定対象物OBの上面に対して垂直に照射する場合、すなわちΨo=0の場合、前記数7から下記数8が導かれる。このことは、前述した第3回目の回折環の測定結果すなわち第3測定値から求めた中心角αごとのブラッグ角θを用いた下記数8の演算の実行により、残留せん断応力τxz,τyzを求めることができることを意味する。
そして、前記数7の1番目の式から、下記数9が導かれ、残留せん断応力τxzは前記数8の1番目の式で求められているので、下記数9の演算の実行により、残留垂直応力σx−σzを求めることができる。なお、ΨoはX線の入射角であるので、Ψo=0では下記数9は成り立たない。また、下記数9では、a
1(0)、すなわちφo=0とされている。すなわち、X線を測定対象物OBの上面に対して斜めにX方向から入射させたときの回折環の形状から残留垂直応力σx−σzを求めることができる。このことは、第1回目の回折環の測定結果すなわち第1測定値から求めた中心角αごとのブラッグ角θを用いた下記数9の演算の実行により、残留垂直応力σx−σzを求めることができることを意味する。
また、φo=90°とすることにより、前記数7に対応する下記数10が成立する。
そして、前記数10の1番目の式から、下記数11が導かれ、残留せん断応力τyzは前記数8の2番目の式で求められているので、下記数11の演算の実行により、残留垂直応力σy−σzを求めることができる。なお、この場合も、ΨoはX線の入射角であるので、Ψo=0では下記数11は成り立たない。また、下記数11では、a
1(90)、すなわちφo=90°とされている。すなわち、X線を測定対象物OBの上面に対して斜めにY方向から入射させたときの回折環の形状から残留垂直応力σy−σzを求めることができる。このことは、第2回目の回折環の測定結果すなわち第2測定値から求めた中心角αごとのブラッグ角θを用いた下記数11の演算の実行により、残留垂直応力σy−σzを求めることができることを意味する。
また、前記数7の2番目の式と前記数10の2番目の式を変形することにより、下記数12が導かれ、残留せん断応力τxzは前記数8の1番目の式で求められているとともに、残留せん断応力τyzは前記数8の2番目の式で求められているので、下記数12の演算の実行により、残留せん断応力τxyを求めることができる。なお、この場合も、ΨoはX線の入射角であるので、Ψo=0では下記数12は成り立たない。また、下記数12の1番目の式ではa
2(0)すなわちφo=0とされ、2番目の式ではa
2(90)すなわちφo=90°とされている。すなわち、X線を測定対象物OBの上面に対して斜めにX方向とY方向から入射させたときの回折環の形状から残留せん断応力τxyを求めることができる。このことは、第1及び第2回目の回折環の測定結果すなわち第1及び第2測定値から求めた中心角αごとのブラッグ角θを用いた下記数12の演算の実行により、回折環の形状から残留せん断応力τxyを求めることができることを意味する。
また、前記数3を変形することにより、下記数13、14が導かれ、残留垂直応力σx−σz,σy−σzは前記数9,11で求められているとともに、残留せん断応力τxz,τyz,τxyは前記数8,12で求められているので、下記数13,14の演算の実行により、残留垂直応力σzを求めることができる。なお、この場合も、Ψo=0では下記数13,14は成り立たない。したがって、X線を測定対象物OBの上面に対して斜めにX方向とY方向から入射させたときの回折環の形状から残留せん断応力τxyを求めることができ、また残留垂直応力σzは回折環のそれぞれの中心角αごとに計算できるので、中心角αごとに残留垂直応力σzを計算してそれらの平均値を求めるようにする。このことは、第1及び第2回目の回折環の測定結果すなわち第1及び第2測定値から求めた中心角αごとのブラッグ角θを用いた下記数13,14の演算の実行により、回折環の形状から残留垂直応力σzを求めることができることを意味する。
そして、前記のように、残留垂直応力σzを求めれば、前記数9,11により残留垂直応力σx−σz,σy−σzは求められているので、残留垂直応力σx,σyを求めることができる。前述のような演算の実行により、残留垂直応力σx,σy,σz及び残量せん断応力τxy,τxz,τyzが計算される。
再び、図7の応力計算プログラムの説明に戻ると、前記ステップS504の残留応力の計算後、コントローラ91は、ステップS506にて前記計算した残留垂直応力σx,σy,σz及び残量せん断応力τxy,τxz,τyzを表示装置93に表示する。そして、コントローラ91は、ステップS508にてこの応力計算プログラムの実行を終了する。
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、X線回折測定装置をケース60内に収容するように構成したので、作業者は、X線回折測定装置を簡単に搬送できるようになる。そして、このX線回折測定装置の搬送後、傾斜面壁67を測定対象物OB上に面接触させた第1測定及び第2測定を行うことにより、測定対象物OBの表面に垂直かつ互いに直交する2平面(X−Z平面及びY−Z平面)内であって、測定対象物OBの表面に対して所定角度をもって、測定対象物OBの表面にX線を照射したときの回折環の形状を測定できる。また、下面壁64を測定対象物OB上に面接触させた第3測定を行うことにより、測定対象物OBの表面に垂直方向からX線を照射したときの回折環の形状を測定できる。そして、これらの第1乃至第3測定により測定値に基づいて、図7の応力計算プログラムを実行することにより、X軸、Y軸及びZ軸からなる3軸の残留応力(残留垂直応力σx,σy,σz及び残量せん断応力τxy,τxz,τyz)を得ることができる。その結果、上記実施形態によれば、測定対象物OBの所まで簡単に搬送できるとともに、測定位置で簡単にX線の向きを変更でき、測定対象物が大型であったり、固定されていたりしても、3軸の残留応力を簡単に測定することが可能なX線回折測定装置が実現される。
また、上記実施形態においては、ケース60に傾斜面壁67を測定対象物OB上に面接触させた状態に維持するための支持脚68a,68bが設けられている。これにより、簡単な構成で、傾斜面壁67を測定対象物OB上に面接触させて、X線回折測定装置を測定対象物OB上に載置させた状態を確実に維持できる。
また、上記実施形態においては、ケース60に、搬送用の取っ手69が設けられている。これにより、取っ手を持つことによりX線回折測定装置を搬送できるので、X線回折測定装置の搬送がより容易になる。
また、上記実施形態においては、発光素子55及び受光器56により、下面壁64の貫通孔64bを介して出射した光の反射光を検出し、図3のステップS112の処理により反射光の強度に基づいて下面壁64と測定対象物OBの表面との面接触の有無を判定し、S118〜S130の処理を実行したり、実行しないようにしたりするようにした。これにより、下面壁64が測定対象物の表面に面接触している場合と、傾斜面壁67が測定対象物OBの表面に面接触している場合とで、処理内容を変更することができ、プログラム処理の効率化を図ることができる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記実施形態の第3回目の測定の説明及び第2回目の測定の変形例の説明では、図4Aの回折環読取りプログラムのステップS202の回折環基準半径R0の計算において、第1回目の測定における図3の回折環撮像プログラムのステップS122の処理により計算した距離Lを用いるようにした。また、図7の応力計算プログラムのステップS502のブラッグ角θの計算においても、前記計算した距離Lを用いるようにした。しかし、X線回折測定装置を測定対象物OBの上面に載置した状態で、下面壁64及び傾斜面壁67と測定対象物OBとの間には隙間がないことを条件に、前記距離Lを予め記憶しておいて、記憶しておいた距離Lを用いて回折環基準半径R0及びブラッグ角θを計算するようにしてもよい。また、第1回目の測定でも、図3の回折環撮像プログラムのステップS124における距離Lが設定範囲内にあるかの判定処理が不要な場合、すなわちX線回折測定装置の傾斜面壁67が測定対象物OBの上面に面接触していることが他の方法によって確認可能な場合、又は確認が不要な場合には、前記ステップS124の処理が不要となり、第1回目の測定においても、距離Lの測定をしなくても、予め記憶しておいた距離Lを用いて、図4Aの回折環読取りプログラムのステップS202の処理により回折環基準半径R0を計算するとともに、図7の応力計算プログラムのステップS502の処理によりブラッグ角θを計算するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、下面壁64の内側に、斜め方向に光を出射する発光素子55と、測定対象物OBの上面からの反射光を受光する受光器56とを設けて、図3のステップS112にて測定対象物OBの上面と下面壁64との面接触の有無を検出するようにした。しかし、これに代えて、発光素子55及び受光器56と同様な発光素子及び受光器を傾斜面壁67の内側に設けて、測定対象物OBの上面と傾斜面壁67との面接触の有無を検出するようにしてもよい。この場合、ステップS112においては、測定対象物OBの上面と傾斜面壁67との面接触無しの検出時に、測定対象物OBの上面と下面壁64とが面接触していると判定するようにすればよい。
また、上記実施形態のように発光素子55及び受光器56を下面壁64の内側に設けるのに加えて、発光素子55及び受光器56と同様な発光素子及び受光器を傾斜面壁67の内側に設けるようにしてもよい。この場合、ステップS112においては、測定対象物OBの上面と下面壁64との面接触と、測定対象物OBの上面と傾斜面壁67との面接触との両方を検出するようにする。これによれば、測定対象物OBの上面が下面壁64及び傾斜面壁67の両方に面接触していない状態も検出することができ、測定対象物OBの上面と下面壁64及び傾斜面壁67との各面接触を確実に検出できるようになる。そして、この場合、下面壁64及び傾斜面壁67の両方とも、測定対象物OBの表面に面接触していない状態を検出することができ、それをもとにX線出射器10によるX線の出射を停止することもできるようになる。
また、上記実施形態においては、ケース60の左右側面壁65,66に密着させて収納状態にある折り畳み式の支持脚68a,68bを90度回転させて、X線回折測定装置を図2の姿勢に維持させるようにしたが、この図2の姿勢と同じ姿勢を維持することができれば、どのような構造の支持部材を設けるようにしてもよい。例えば、X線回折測定装置の下面壁64に対して垂直方向に伸縮可能な支持脚を設け、この支持脚を下面壁64の下方に突出させて、X線回折測定装置を図2の姿勢に維持させるようにしてもよい。
また、上記折り畳み式の支持脚68a,68bをなくし、図11に示した三角柱状の遮光部材97を大型にすることにより、X線回折測定装置を図2と同じ姿勢に維持させるようにしてもよい。なお、この場合、X線回折測定装置の搬送時には、大型の遮光部材を搬送する必要も生じる。
また、上記実施形態においては、測定対象物OBが大きくて、図2に示すように、X線回折測定装置を測定対象物OB上に載置し、測定対象物OBの残留応力を測定するために、イメージングプレート21に回折X線による回折環を撮像して、撮像した回折環の形状を測定することについて説明した。しかし、このX線回折測定装置は、測定対象物OBが小さいときの残留応力の測定にも対応させることもできる。この場合、X線回折測定装置を固定支持する固定治具を用意して、設置面上に固定治具を置き、X線回折測定装置のケース60の左右側面壁65,66を固定治具に固定することにより、傾斜面壁67が水平になるようにX線回折測定装置を固定支持したり、下面壁64が水平になるようにX線回折測定装置を固定支持したりする。
そして、設置面上には、測定対象物OBを載置する昇降ステージを備えた昇降機を置き、小さな測定対象物OBの検査位置が貫通孔64aの位置に対向するように、測定対象物OBを昇降ステージ上に載置した後、測定対象物OBが下面壁65及び傾斜面壁67に接触する高さ位置まで、昇降ステージを上昇させる。その後、上記実施形態と同様に、測定対象物OBにX線を照射してイメージングプレート21に回折環を撮像するとともに、撮像した回折環の形状を測定して、残留応力を計算すれば、小さな測定対象物OBであっても、その残留応力を測定できる。ただし、この場合には、測定対象物OBの上面と下面壁64又は傾斜面壁67と面接触の有無を検出する上記実施形態の発光素子55及び受光器56を貫通孔64aの近傍に設けるようにする必要がある。
また、上記実施形態においては、回折環の形状を測定するために、イメージングプレート21の回転角度が所定の回転角度になるごとに、信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)を記憶するようにした。しかし、これに代えて、所定の時間間隔で、イメージングプレート21の回転角度θ(n,m)、信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)を取得して記憶してもよい。
また、上記実施形態においては、受光センサ25の受光位置を用いて、撮像した回折環の半径が回折環基準半径R0からずれる可能性のある領域を想定して、読取り開始位置を決定するようにした。しかし、回折環基準半径R0を用いることなく、常に一定の領域にレーザ光を照射するようにしてもよい。例えば、イメージングプレート21の全領域にレーザ光を照射するようにしてもよい。また、発光素子53による可視光の照射についても同様に、常に一定の領域に発光素子53から発せられた可視光を照射するようにしてもよい。例えば、イメージングプレート21の全領域に発光素子53からの可視光を照射するようにしてもよい。ただし、この場合、上記実施形態よりも測定時間が長くなる。
また、上記実施形態においては、レーザ検出装置40は、フォーカスサーボ制御されるようにしたが、イメージングプレート21を回転させた際のイメージングプレート21の受光面と対物レンズ46との距離の変動が微小であれば、フォーカスサーボ制御は不要である。
また、上記実施形態においては、イメージングプレート21に照射されるレーザ光は、一定強度のレーザ光としたが、これに代えて、予め設定されたハイレベルの強度と、予め設定されたローレベルの強度が繰り返されるパルス状のレーザ光とし、ハイレベルの強度になるタイミングでSUM信号の瞬時値を取得するようにしてもよい。この場合、イメージングプレート21のSUM信号の瞬時値を取得するポイントに瞬間的にハイレベルの強度のレーザ光を照射する。すなわち、SUM信号の瞬時値を取得するポイントにレーザ光が向かう状態では、レーザ光の強度はローレベルであり、輝尽発光により発生する光はほとんど無い。そして、SUM信号の瞬時値を取得するポイントに近づいたとき、レーザ光の強度がハイレベルになって輝尽発光による光が発生する。常にハイレベルの強度のレーザ光を照射した場合は、輝尽発光による光が生じ続けることで光の強度が減少するが、上記のように構成すれば、輝尽発光によって生じる大きな強度の光を利用して、SUM信号の瞬時値を取得することができる。