JP5712787B2 - 調光フィルムの硬化率の測定方法、調光フィルムの製造方法、及び調光フィルム - Google Patents

調光フィルムの硬化率の測定方法、調光フィルムの製造方法、及び調光フィルム Download PDF

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本発明は、 調光フィルムの硬化率の測定方法、調光フィルムの製造方法、及び調光フィルムに関する。
光調整懸濁液を含む調光硝子は、エドウィン・ランド(Edwin.Land)により最初に発明されたもので、その形態は、狭い間隔を有する2枚の透明導電性樹脂基材の間に、液体状態の光調整懸濁液を注入した構造になっている(例えば、特許文献1参照)。
エドウィン・ランドの発明によると、2枚の透明導電性樹脂基材の間に注入されている液状の光調整懸濁液は、電界を印加していない状態では懸濁液中に分散されている光調整粒子のブラウン運動により、入射光の大部分が光調整粒子により反射、散乱又は吸収され、ごく一部分だけが透過することになる。また該調光ガラスに電界を印加すると、透明導電性基板を通じて光調整懸濁液に電場が形成され、光調整機能を表す光調整粒子が分極を起こし、電場に対して平行に配列され、光調整粒子と光調整粒子の間を光が透過し、最終的に調光硝子は透明になる。
即ち、光調整懸濁液に分散されている光調整粒子の形状、性質、濃度及び照射される光エネルギーの量により、透過、反射、散乱又は吸収の程度が決められる。
しかし、このような初期の調光装置は、実用上、光調整懸濁液内での光調整粒子の凝集、自重による沈降、熱による色相変化、光学密度の変化、紫外線照射による劣化、基材の間隔維持及びその間隔内への光調整懸濁液の注入が困難等であるために、実用化が困難であった。
ロバート・エル・サックス(Robert.L.Saxe)、エフ・シー・ローウェル(F.C.Lowell)、及びアール・アイ・トンプソン(R.I.Thompson)は、調光窓の初期問題点、即ち、光調整粒子の凝集及び沈降、光学密度の変化等を補完した調光硝子を用いた調光窓を開示している(例えば、特許文献2参照)。この特許等では、針状の光調整粒子、光調整粒子分散用の懸濁剤、分散調整剤及び安定剤等からなる液体状態の光調整懸濁液において、光調整粒子と懸濁剤の密度を殆ど同様に合わせて光調整粒子の沈降を防止しながら、分散調整剤を添加して光調整粒子の分散性を高めることにより光調整粒子の凝集を防止し、初期の問題点を解決している。
しかし、これらの調光硝子もやはり従来の調光硝子のように、2枚の透明導電性樹脂基材の間隙に液状の光調整懸濁液を封入した構造になっているため、調光硝子を大型化して製品を製造する場合、2枚の透明導電性樹脂基材の間隙への均一な懸濁液の封入が困難で、製品上下間の水圧差による下部の膨張現象が起こりやすくなる。また、外部環境、例えば、風圧によって基材の間隔が変化することにより、その結果、光学密度が変化して色相が不均質になり、又は透明導電性樹脂基材の間に液体を溜めるための周辺の密封材が破壊され、光調整材料が漏れる問題がある。また、紫外線による劣化、透明導電性樹脂基材の周辺部と中央部間の電圧降下により、応答時間にむらが発生する。
これを改善する方法として、液状の光調整懸濁液を硬化性の高分子樹脂の溶液と混合し、重合による相分離法、溶媒揮発による相分離法、又は温度による相分離法等を利用してフィルムを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
米国特許第1,955,923号明細書 米国特許第3,756,700号明細書 特開2002−189123号公報
2枚の透明導電性樹脂基材の間隙に封入される硬化性の高分子媒体は、最終的な製品形態では硬化した状態で用いられる。例えば、硬化性の高分子媒体を紫外線により硬化する場合には、その硬化率は紫外線の照射量、硬化雰囲気の気体の種類、流量、硬化温度など様々な因子に依存する。従って、硬化性の高分子媒体を硬化する際、これらの因子をそれぞれ最適化する必要がある。しかしながら、これまでは、調光フィルム中の高分子媒体の硬化率を適切に測定することができず、信頼性評価の指標を定めるのが困難であった。
そこで、本発明の課題は、迅速性、簡便性に優れた、調光フィルムにおける樹脂マトリックスの硬化率の測定方法、この測定方法を用いた調光フィルムの製造方法、及び調光フィルムを提供することにある。
調光フィルムは、一般にロール・トゥ・ロール(Roll to Roll)の方法で作製されるため、調光層が2枚の透明導電性樹脂基材で挟持された状態で得られる。よって、透明導電性樹脂基材が付設された状態のまま、高分子媒体の硬化率を正確に測定することが望ましい。なお、透明導電性樹脂基材と調光層との密着性を高めることが望まれていることから、透明導電性樹脂基材を剥すことは困難であり、透明導電性樹脂基材を剥してから樹脂マトリックスの硬化率を測定する方法は迅速性、簡便性に劣る。
ここで、2枚の透明導電性樹脂基材に前記調光層が挟持された状態のまま、調光層に含まれる樹脂マトリックスの硬化率を測定する方法としては、赤外分光法による硬化率測定法が考えられる。しかしながら、400cm−1から4000cm−1の赤外領域では、調光フィルムを構成する多くの材料の吸収ピークが、アクリル基由来の吸収ピークと重なってしまい、未硬化に由来するアクリル基(重合性基)の吸収ピークを測定することが困難である。
また、ラマン分光法による硬化率測定法も考えられるが、調光層に含まれる調光粒子による散乱が大きく、スペクトル全体が特徴の無いブロードなものになってしまうため、この硬化率測定も困難である。
更に、前記2つの透明導電性樹脂基材に前記調光層が挟持された状態で硬化率を測定すると、透明導電性樹脂基材によって入射光の干渉が起こり、測定スペクトルにその干渉縞が重なるため、重合性基に由来する吸収ピークの増減が判別できなくなってしまうことが明らかとなった。
以上の状況を踏まえ、発明者等が鋭意検討を重ねた結果、近赤外分光法を利用することにより上記課題を解決できることを見出した。特に、近赤外光が照射される領域の透明導電性樹脂基材の表面粗さを特定の範囲とすることで、干渉縞を抑えることができ、適切に樹脂マトリックスの硬化率を測定することができることを見出した。
したがって、本発明は以下のとおりである。
<1> 高分子媒体の硬化物である樹脂マトリックスと前記樹脂マトリックス中に分散された光調整懸濁液とを含む調光層を2枚の透明導電性樹脂基材で挟持してなる調光フィルムにおける、前記樹脂マトリックスの硬化率を、近赤外分光スペクトルにより測定する方法であり、
近赤外光を調光フィルムに透過させたときに干渉縞が生ずる場合、下記式(I)を満たす前記透明導電性樹脂基材を2枚備えた第二の調光フィルムを用いて近赤外分光スペクトルを測定する、調光フィルム中の樹脂マトリックスの硬化率の測定方法。
式(I):
前記近赤外光の照射領域における表面粗さの最大高さ(Ry)≧前記干渉縞の波長λ×1/2
<2> 前記透明導電性樹脂基材を溶解可能な溶剤によって、前記近赤外光が照射される領域の前記2枚の透明導電性樹脂基材の表面を溶解して、前記式(I)を満たすように前記透明導電性樹脂基材の表面を加工する前記<1>に記載の調光フィルムの硬化率の測定方法。
<3> 前記2枚の透明導電性樹脂基材がポリエチレンテレフタレートで構成される場合、前記溶剤がヘキサフルオロイソプロパノールである前記<2>に記載の調光フィルムの硬化率の測定方法。
<4> 前記近赤外光を、前記調光フィルムの面に対して30〜60°で入射する前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の調光フィルムの硬化率の測定方法。
<5> 高分子媒体の硬化物である樹脂マトリックスと前記樹脂マトリックス中に分散された光調整懸濁液とを含む調光層を、2枚の透明導電性樹脂基材で挟持する第一の調光フィルムを作製する工程と、
前記第一の調光フィルムに近赤外光を透過したときに干渉縞が発生する場合、下記式(I)を満たす前記透明導電性樹脂基材を2枚備えた第二の調光フィルムを作製する工程と、
前記第二の調光フィルムに近赤外光を透過させて近赤外分光スペクトルを測定し、前記第二の調光フィルム中の前記樹脂マトリックスの硬化率を測定する工程と、
前記測定により得られた前記硬化率を、予め求めておいた前記高分子媒体の硬化条件と硬化率との関係に当てはめて、予め定めた硬化率の範囲内となる前記高分子媒体の硬化条件を導き出す工程と、
前記導き出された硬化条件で前記高分子媒体を硬化した樹脂マトリックスと、前記樹脂マトリックス中に分散された光調整懸濁液と、を含む調光層を、2枚の透明導電性樹脂基材で挟持した第三の調光フィルムを作製する工程と、
を有する調光フィルムの製造方法。
式(I):
前記近赤外光の照射領域における表面粗さの最大高さ(Ry)≧前記干渉縞の波長λ×1/2
<6> 前記第二の調光フィルムを作製する工程において、前記透明導電性樹脂基材を溶解可能な溶剤により、前記第一の調光フィルムの2枚の透明導電性樹脂基材の表面における前記近赤外光が照射される領域を溶解して、前記式(I)を満たすように前記透明導電性樹脂基材の表面を加工する前記<5>に記載の調光フィルムの製造方法。
<7> 前記2枚の透明導電性樹脂基材がポリエチレンテレフタレートで構成される場合、前記溶剤がヘキサフルオロイソプロパノールである前記<6>に記載の調光フィルムの製造方法。
<8> 前記硬化率を測定する工程において、前記近赤外光を前記第二の調光フィルムの面に対して30〜60°で入射する前記<5>〜<7>のいずれか1項に記載の調光フィルムの製造方法。
<9> 前記予め定めた硬化率が、75〜100%である前記<5>〜<8>のいずれか1項に記載の調光フィルムの製造方法。
<10> 前記高分子媒体が(メタ)アクリロイル基を有するポリシロキサン構造を有し、前記(メタ)アクリロイル基を有する繰り返し単位数が、繰り返し単位数全体の1.3〜5.0質量%である前記<5>〜<9>のいずれか1項に記載の調光フィルムの製造方法。
<11> 前記高分子媒体の重量平均分子量が35,000〜60,000である前記<5>〜<10>のいずれか1項に記載の調光フィルムの製造方法。
本発明によれば、迅速性、簡便性に優れた、調光フィルムにおける樹脂マトリックスの硬化率の測定方法を提供することができる。また、この硬化率の測定方法を用いることで、製造管理に優れた調光フィルムの製造方法を提供することができる。更に、この硬化率の測定方法を用いることで、耐熱性に優れた調光フィルムを提供することができる。
本発明にかかる調光フィルムの一態様を示す概略断面図である。 図2(a)は、図1の調光フィルムの電界が印加されていない場合の作動を説明するための概略断面図であり、図2(b)は、電界が印加されていないときの液状の光調整懸濁液の液滴3の様子を示す図である。 図3(a)は、図1の調光フィルムの電界が印加されている場合の作動を説明するための概略断面図であり、図3(b)は、電界が印加されているときの液状の光調整懸濁液の液滴3の様子を示す図である。 本発明にかかる調光フィルムの端部の状態の一例を説明するための概略断面図である。 表面粗さの指標の一つである最大高さRyを説明する図である。 本発明の調光フィルムの製造方法の一例の手順を示すフローチャートである。 実施例2、5〜8、及び比較例3、4における紫外線の照射量と、本発明の方法で測定された硬化率の関係を示すグラフである。
本発明において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また本明細書において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
更に本明細書において、(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくとも一方を意味し、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味し、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。
本発明は、高分子媒体の硬化物である樹脂マトリックスと前記樹脂マトリックス中に分散された光調整懸濁液とを含む調光層を、2枚の透明導電性樹脂基材で挟持してなる調光フィルムにおける、前記樹脂マトリックスの硬化率を測定する方法に関する。
まず始めに、測定対象である調光フィルムについて説明し、次に、調光フィルムの調光層における樹脂マトリックスの硬化率の測定方法を説明する。そして、この硬化率の測定方法を用いた調光フィルムの製造方法について説明する。
<調光フィルム>
本発明の調光フィルムは、2枚の透明導電性樹脂基材(以下「基材」と称する場合がある)と、前記2枚の基材に挟持された調光層と、を有する。前記調光層は、樹脂マトリックスと、前記樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液と、を含む。
前記調光層は、一般に調光材料を用いて形成することが可能である。調光材料は、エネルギー線を照射することにより硬化する高分子媒体と、光調整粒子が流動可能な状態で分散媒中に分散した光調整懸濁液とを含有する。光調整懸濁液に含まれる光調整粒子は、棒状又は針状であることが好ましい。
前記2枚の透明導電性樹脂基材の間に前記調光材料を付与した後に、調光材料中の高分子媒体を硬化させることにより、この高分子媒体が硬化した樹脂マトリックス中に光調整懸濁液が分散した調光層が形成される。
このように、調光フィルムの調光層では、液状の光調整懸濁液が、高分子媒体が硬化した固体状の樹脂マトリックス内に微細な液滴の形態で分散されている。したがって、前記光調整懸濁液中の前記高分子媒体は、高分子媒体及びその硬化物と相分離しうるものであることが好ましい。
ここで、図1に、本発明の調光フィルムの一態様を構造概略図として示す。図1に示す調光フィルムでは、透明導電膜5aがコーティングされた透明樹脂基材5bからなる透明導電性樹脂基材4の2枚の間に、調光層1が挟持されている。調光層1と透明導電性樹脂基材4の間にはプライマー層6が設けられている。
調光層1は、高分子媒体を硬化させたフィルム状の樹脂マトリックス2と、樹脂マトリックス2内に液滴3の形態で分散されている液状の光調整懸濁液と、を含む。光調整懸濁液の液滴3には、光調整粒子10が分散媒9の中に分散されている(図2(b)等参照)。
調光フィルムは、スイッチ8の切り換えにより、電源7と2枚の透明導電膜5aの接続、非接続を行う。
図2(a)は、図1に示した調光フィルムの作動を説明するための概略断面図であり、スイッチ8が切られ、電界が印加されていない状態を示す。この状態では、液滴3中に分散している光調整粒子10は、図2(b)に示すようにブラウン運動により、それぞれランダムな方向を向いている。そのため、入射光11は光調整粒子10に吸収、散乱又は反射され、透過できない。
一方、図3(a)は、図1の調光フィルムの電界が印加されている状態の作動を説明するための概略断面図である。図3(a)に示すように、スイッチ8を接続して電界を印加すると、電気的双極子モーメントをもつ光調整粒子10が、印加された電界によって形成される電場と平行に配列する。そのため入射光11は配列した光調整粒子10間を通過するようになる。このようにして、液滴3が入射光に対して透明な状態に転換され、視野角度による散乱、又は透明性低下が殆どない状態で入射光を透過させる。透明な状態における光透過率の増進と、着色された状態における鮮明度の増進のためには、液滴3の形態で分散されている液状の光調整懸濁液の屈折率と、樹脂マトリックス2の屈折率を一致させることが好ましい。
以下、本発明の調光フィルムの各層構成について説明する。
〔透明導電性樹脂基材〕
透明導電性樹脂基材としては、一般的に、透明樹脂基材に、光透過率が80%以上の透明導電膜(ITO、SnO、In、有機導電膜等の膜)がコーティングされている表面抵抗値が3〜3000Ωの透明導電性樹脂基材を使用することができる。なお、透明樹脂基材の光透過率はJIS K7105の全光線透過率の測定法に準拠して測定することができる。また、透明樹脂基材としては、例えば、高分子フィルム等を使用することができる。
上記高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系フィルム、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂系のフィルム、ポリエーテルサルフォンフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等の樹脂フィルムが挙げられるが、ポリエチレンテレフタレートフィルムが、透明性に優れ、成形性、接着性、加工性等に優れるので好ましい。
透明樹脂基材にコーティングされる透明導電膜の厚みは、10〜5,000nmであることが好ましく、透明樹脂基材の厚みは特に制限はない。例えば、高分子フィルムの場合には10〜200μmが好ましい。
透明樹脂基材の間隔が狭く、異物質の混入等により発生する短絡現象を防止するために、透明導電膜の上に数nm〜1μm程度の厚さの透明絶縁層が形成されている透明樹脂導電性樹脂基材を使用してもよい。また、本発明の調光フィルムを反射型の調光窓に利用する場合(例えば、自動車用リアビューミラー等)は、反射体であるアルミニウム、金、又は銀のような導電性金属の薄膜を電極として直接用いてもよい。
〔プライマー層〕
本発明の調光フィルムは、調光層と基材との密着性を向上させるためのプライマー層を備えていてもよい。プライマー層は、調光層に対向する基材の表面に設けられる。プライマー層は一方の基材のみに設けられていても、2枚の基材ともに設けられていてもよい。
上記プライマー層は、ペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレートを含有する材料、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレートを含有する材料、金属酸化物微粒子を有機バインダー樹脂に分散させた材料、分子内に1つ以上の重合性基を有するリン酸エステル、アミノ基を有するシランカップリング剤等からなる薄膜で形成されるのが好ましい。
本発明における透明導電性樹脂基材のプライマー処理(プライマー層の形成)は、例えば、プライマー層を形成する材料を、バーコーター法、マイヤーバーコーター法、アプリケーター法、ドクターブレード法、ロールコーター法、ダイコーター法、コンマコーター法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法等を単独又は組み合わせて用いて、透明導電性樹脂基材に塗布することにより行うことができる。
なお、塗布する際は必要に応じて適当な溶剤で希釈し、プライマー層を形成する材料の溶液を用いてもよい。溶剤を用いた場合には、透明導電性樹脂基材上に塗布した後乾燥を要する。尚、プライマー層となる塗膜は必要に応じて透明導電性樹脂基材の片面のみ(透明導電膜側)に形成してもよいし、含浸法やディップコート法によって両面に形成してもよい。
プライマー層形成に用いる溶剤としては、プライマー層を形成する材料を溶解あるいは分散し、プライマー層形成後に乾燥等により除去できるものであればよく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエタノール、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、アニソール、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、エチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチルジグリコール、ジメチルジグリコール、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル等を用いることができ、これらの混合溶媒でもよい。
〔調光層〕
本発明における調光層は、樹脂マトリックスと該樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液とを含む調光材料を用いて形成される。なお、樹脂マトリックスは高分子媒体の硬化物であり、光調整懸濁液は光調整粒子が流動可能な状態で分散媒中に分散したものである。高分子媒体及び分散媒(光調整懸濁液中の分散媒)としては、高分子媒体及びその硬化物と分散媒とが、少なくともフィルム化したときに互いに相分離しうるものを用いる。互いに非相溶又は部分相溶性の高分子媒体と分散媒とを組み合わせて用いることが好ましい。
(高分子媒体)
本発明において用いられる高分子媒体は、(A)エチレン性不飽和結合を有する置換基を持つ樹脂及び(B)光重合開始剤を含み、紫外線、可視光線、電子線等のエネルギー線を照射することにより硬化するものが挙げられる。高分子媒体はエネルギー線が照射されることにより硬化し、樹脂マトリックスを形成する。
(A)エチレン性不飽和結合を有する樹脂としては、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂等が、合成容易性、調光性能、耐久性等の点から好ましい。これらの樹脂は、置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を有することが、調光性能、耐久性等の点から好ましい。
前記シリコーン系樹脂の具体例としては、例えば、特公昭53−36515号公報、特公昭57−52371号公報、特公昭58−53656号公報、特公昭61−17863号公報等に記載の樹脂を挙げることができる。
前記シリコーン系樹脂は、例えば、両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン、両末端シラノール基含有ポリジフェニルシロキサン、両末端シラノール基含有ポリジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー、両末端シラノール基含有ポリメチルフェニルシロキサン等の両末端シラノール基含有シロキサンポリマー;トリメチルエトキシシラン等のトリアルキルアルコキシシラン;(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン等のエチレン性不飽和結合含有シラン化合物等を、2−エチルヘキサン錫等の有機錫系触媒の存在下で、脱水素縮合反応及び脱アルコール反応させて合成される。シリコーン系樹脂の形態としては、無溶剤型が好ましく用いられる。すなわち、シリコーン系樹脂の合成に溶剤を用いた場合には、合成反応後に溶剤を除去することが好ましい。
前記高分子媒体が(メタ)アクリロイル基を有するポリシロキサン構造を有するシリコーン系樹脂の場合、前記(メタ)アクリロイル基を有する繰り返し単位数は、繰り返し単位数全体の1.3〜5.0質量%であることが好ましく、1.5〜4.5質量%であることがより好ましい。(メタ)アクリロイル基を有する繰り返し単位数が、1.3質量%以上の場合には、硬化後の樹脂マトリックスを含有する調光フィルムの耐構熱性に優れ、5.0質量%以下の場合にも硬化後の樹脂マトリックスを含有する調光フィルムの耐構熱性に優れる。
(メタ)アクリロイル基を有するポリシロキサン構造を形成するためのモノマーとしては、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−メタクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−アクリロキシシプロピル)メチルジエトキシシラン、(3−メタクリロキシプロピル)メチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
前記アクリル系樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、(メタ)アクリル酸ベンジル、スチレン等の主鎖形成モノマーと、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸イソシアナトエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエチレン性不飽和結合導入用官能基含有モノマー等を共重合して、プレポリマーを一旦合成し、次いで、このプレポリマーの官能基と反応させるべく(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸イソシアナトエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸等のモノマーを前記プレポリマーに付加反応させることにより得ることができる。
また、前記ポリエステル樹脂は、特に制限はなく、公知の方法で容易に製造できるものが挙げられる。
(A)エチレン性不飽和結合を有する樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって得られるポリスチレン換算の重量平均分子量は、35,000〜60,000であることが好ましく、37,000〜58,000であることがさらに好ましく、40,000〜55,000であることがより好ましい。重量平均分子量が35,000以上の場合には、硬化後の樹脂マトリックスを含有する調光フィルムの耐構熱性に優れ、60,000以下の場合には、硬化前の樹脂マトリックスの流動性に優れる。
エチレン性不飽和結合を有する樹脂のエチレン性不飽和結合を含有する繰り返し単位数は、繰り返し単位数全体の1.3〜5.0質量%であることが好ましく、1.5〜4.5質量%であることがさらに好ましい。エチレン性不飽和結合を含有する繰り返し単位数が上記範囲内にあると、硬化後の樹脂マトリックスを含有する調光フィルムの耐熱性に優れる。
(A)エチレン性不飽和結合を有する樹脂のエチレン性不飽和結合の含有率は、NMRの水素の積分強度比から求められる。また、仕込み原料の樹脂への転化率がわかる場合は計算によっても求められる。
高分子媒体に用いる、(B)光重合開始剤としては、光照射により分解してラジカルを発生して重合性化合物の重合を開始し得るものであればよい。(B)光重合開始剤としては例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
光重合開始剤の市販品としては、イルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア500、イルガキュア2959、イルガキュア127、イルガキュア754、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア379EG、イルガキュア1300、イルガキュア819、イルガキュア819DW、イルガキュア1800、イルガキュア1870、イルガキュア784、イルガキュアOXE01、イルガキュアOXE02、イルガキュア250、イルガキュアPAG103、イルガキュアPAG108、イルガキュアPAG121、イルガキュアPAG203、ダロキュア1173、ダロキュアMBF、ダロキュアTPO、ダロキュア4265、ダロキュアEDB、ダロキュアEHA(以上、BASFジャパン(株)製)、C0014、B1225、D1640、D2375、D2963、M1245、B0103、C1105、C0292、E0063、P0211、I0678、P1410、P1377、M1209、F0362、B0139、B1275、B0481、D1621、B1267、B1164、C0136、C1485、I0591、F0021、A0061、B0050、B0221、B0079、B0222、B1019、B1015、B0942、B0869、B0083、B2380、B2381、D1801、D3358、D2248、D2238、D2253、B1231、M0792、A1028、B0486、T0157、T2041、T2042、T1188、T1608(以上、東京化成工業(株)製)が挙げられる。
(B)光重合開始剤の使用量は、上記(A)樹脂100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましく、0.2〜10質量部であることがより好ましい。
また、上記(A)エチレン性不飽和結合を有する置換基をもつ樹脂の他に、有機溶剤可溶型樹脂又は熱可塑性樹脂、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜100,000のポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等も高分子媒体の構成材料として併用することができる。
また、高分子媒体中には、ジブチル錫ジラウレート等の着色防止剤等の添加物を必要に応じて添加してもよい。さらに、高分子媒体には溶剤が含まれていてもよく、溶剤としては、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、エチルアセテート、エタノール、メタノール、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル等を用いることができる。
(光調整懸濁液)
本発明に係る光調整懸濁液は、分散媒9中に光調整粒子10が流動可能に分散されてなる。
−分散媒−
光調整懸濁液中の分散媒としては、上記高分子媒体及びその硬化物である樹脂マトリックスと相分離するものが用いられる。好ましくは、光調整粒子を流動可能な状態で分散させる役割を果たし、また、光調整粒子に選択的に付着被覆し、高分子媒体との相分離の際に光調整粒子が相分離された液滴相に移動するように作用する分散媒が好ましい。また、電気導電性がなく、高分子媒体とは親和性がなく、調光フィルムとした際に高分子媒体から形成される樹脂マトリックスとの屈折率が近似した分散媒が好ましい。このような性質を有する分散媒として、液状共重合体を使用する。
分散媒としては、例えば、フルオロ基及び/又は水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーが好ましく、フルオロ基及び水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーがより好ましい。このような共重合体を使用すると、フルオロ基、水酸基のどちらか1つのモノマー単位は光調整粒子に親和性があり、残りのモノマー単位は高分子媒体中で光調整懸濁液が液滴として安定に維持するために働くことから、光調整懸濁液内に光調整粒子が分散しやすく、相分離の際に光調整粒子が相分離される液滴内に誘導されやすい。
このようなフルオロ基及び/又は水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーとしては、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸3,5,5−トリメチルヘキシル/アクリル酸2−ヒドロキシプロピル/フマール酸共重合体、アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ブチル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ヘキシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸オクチル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸デシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ウンデシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ドデシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸トリデシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸テトラデシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ヘキサデシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、及びメタクリル酸オクタデシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体等が挙げられる。
これらの(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が、1,000〜20,000であることが好ましく、2,000〜10,000であることがより好ましい。
これらの(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーの原料となるフルオロ基含有モノマーの使用量は、原料であるモノマー総量の6〜12質量%であることが好ましく、より効果的には7〜8質量%である。フルオロ基含有モノマーの使用量が12質量%以下の場合には、屈折率の上昇が抑えられ、光透過率に優れる傾向がある。
また、これらの(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーの原料となる、水酸基含有モノマーの使用量は0.5〜22.0質量%であることが好ましく、より効果的には1〜8質量%である。水酸基含有モノマーの使用量が22.0質量%以下の場合には、屈折率の上昇が抑えられ、光透過率に優れる傾向がある。
分散媒の屈折率は、前記高分子媒体から形成される樹脂マトリックスの屈折率と近似していることが好ましく、具体的には、1.467〜1.477であることが好ましく、1.469〜1.475であることがより好ましく、1.470〜1.474であることが更に好ましい。
−光調整粒子−
光調整粒子としては、例えば、光調整粒子の前駆体であるピラジン−2,3−ジカルボン酸・2水和物、ピラジン−2,5−ジカルボン酸・2水和物、ピリジン−2,5−ジカルボン酸・1水和物からなる群の中から選ばれた1つの物質とヨウ素とヨウ化物とを反応させて作ったポリヨウ化物の針状小結晶が好ましく用いられる。光調整粒子は、高分子媒体、又は高分子媒体中の樹脂成分(即ち上記の(A)エチレン性不飽和結合を有する置換基をもつ樹脂等)と親和力がなく、また光調整粒子の分散性を高めることができる高分子分散剤の存在下で調製される。使用しうる高分子分散剤としては、例えば、ニトロセルロース等が挙げられる。ヨウ化物としては、ヨウ化カルシウム等が挙げられる。
このようにして得られるポリヨウ化物としては、例えば、下記一般式
CaI(C)・XHO (X:1〜2)
CaI(C・cHO (a:3〜7、b:1〜2、c:1〜3)
で表されるものが挙げられる。これらのポリヨウ化物は針状結晶であることが好ましい。
また、調光フィルム用光調整懸濁液に用いる光調整粒子として米国特許第2,041,138号明細書(E.H.Land)、米国特許第2,306,108号明細書(Landら)、米国特許第2,375,963号明細書(Thomas)、米国特許第4,270,841号明細書(R.L.Saxe)及び英国特許第433,455号明細書に開示されている光調整粒子も、使用することができる。これらの特許によって公知とされたポリヨウ化物の結晶は、ピラジンカルボン酸、又はピリジンカルボン酸の1つを選択して、ヨウ素、塩素又は臭素と反応させることにより、ポリヨウ化物、ポリ塩化物又はポリ臭化物等のポリハロゲン化物とすることによって作製されている。これらのポリハロゲン化物は、ハロゲン原子が無機質又は有機質と反応した錯化合物で、これらの詳しい製法は、例えば、サックスの米国特許第4,422,963号明細書に開示されている。
サックスが開示しているように、光調整粒子を合成する過程において、均一な大きさの光調整粒子を形成させるため、及び、特定の懸濁媒体内での光調整粒子の分散性を向上させるため、上述したように高分子分散剤としてニトロセルロースのような高分子物質を使用することが好ましい。しかしながら、ニトロセルロースを用いると、ニトロセルロースで被覆された結晶が得られ、このような結晶を光調整粒子として用いる場合、光調整粒子は相分離の時に分離される液滴内に浮遊せず、樹脂マトリックス内に残存することがある。
これを防ぐためには、高分子媒体の(A)エチレン性不飽和結合を有する置換基をもつ樹脂として、シリコーン系樹脂を用いることが好ましく、シリコーン系樹脂を用いた場合には、調光フィルム製造の際に光調整粒子が相分離により形成された微細な液滴内へ容易に分散、浮遊し、その結果、より優れた可変能力を得ることができる。
光調整粒子の粒子サイズは、調光フィルムとしたときの印加電圧に対する応答時間と、光調整懸濁液中の凝集及び沈殿との関係から、以下のサイズが好ましい。
光調整粒子の平均長径は、225〜625nmが好ましく、250〜550nmがより好ましく、300〜500nmがさらに好ましい。
光調整粒子の短径に対する長径の比率、すなわちアスペクト比の平均値は3〜8が好ましく、3.3〜7がより好ましく、3.6〜6が更に好ましい。
本発明における光調整粒子の長径と短径は、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡で光調整粒子を撮影し、撮影した画像より任意に50個の光調整粒子を抽出し、各光調整粒子の長径と短径を平均値として算出することができる。ここで、長径とは、上記撮影した画像により二次元視野内に投影された光調整粒子について、最も長い部分の長さとする。また、短径とは、上記長径に直交する最も長い部分の長さとする。
また、本発明における光調整粒子の粒子径を評価する方法として、光子相関法や動的光散乱法の原理を用いた粒度分布計を用いることができる。この方法では直接粒子の大きさや形状を計測するのではなく、粒子を球状と仮定して相当径を評価することになり、SEM観察とは異なる値となる。特に、シスメックス株式会社製ゼータサイザーナノシリーズを用い、Z averageとして出力される相当径を粒子径とした場合に、光調整粒子の平均粒子径(以下、「粒度分布測定により求められる平均粒子径」ともいう)は135〜220nmが好ましく、140〜210nmがより好ましく、145〜205nmが更に好ましい。
このZ average値は例えば光相関法や動的光散乱法に基づいた、違う粒度分布計の測定値、具体的には上述の透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡で測定される光調整粒子の長径、短径とよい相関を示すことが知られおり、粒子径を評価する指標として適当である。
本発明における光調整粒子は、光調整懸濁液の全質量に対し、1〜15質量%含有することが好ましく、2〜10質量%含有することがより好ましい。1質量%以上の場合には、調光フィルムとした際の遮光効果が大きくなり好適である。また、15質量%以下の場合には、調光フィルム製造の際にエネルギー線によるシロキサン樹脂の硬化の阻害が抑えられる。
また、本発明における分散媒は、光調整懸濁液の全質量に対し、30〜99質量%含有することが好ましく、50〜96質量%含有することがより好ましい。30質量%以上の場合には遮光効果が大きくなり、99質量%以下の場合には、シロキサン樹脂の硬化の阻害が抑制される。
また、調光材料は、光調整懸濁液を、高分子媒体100質量部に対して、1〜100質量部含有することが好ましく、4〜70質量部含有することがより好ましく、6〜60質量部含有することがさらに好ましく、8〜50質量部含有することが特に好ましい。光調整懸濁液の含有量が1質量%以上の場合には、遮光効果に優れ、100質量%以下の場合にはシロキサン樹脂の硬化の阻害が抑えられる。
本発明における高分子媒体の屈折率と分散媒の屈折率は近似していることが好ましい。具体的には、本発明における高分子媒体と分散媒との屈折率の差は、好ましくは0.005以下、より好ましくは0.003以下である。高分子媒体の屈折率と分散媒の屈折率との差が0.005以下の場合には、調光フィルムの濁度が低くなり、透明性に優れた調光フィルムとなる。
<硬化率の測定方法>
本発明は、高分子媒体の硬化物である樹脂マトリックスと前記樹脂マトリックス中に分散された光調整懸濁液とを含む調光層を、2枚の透明導電性樹脂基材(以下「基材」と称する場合がある)で挟持してなる調光フィルムにおける、前記樹脂マトリックスの硬化率を測定する方法に関する。
本発明において前記樹脂マトリックスの硬化率は、前記調光フィルムに近赤外光を透過させ、その近赤外分光スペクトルにより測定する。測定に用いる調光フィルムは、この測定のために別途作製したサンプルであってもよく、製品である調光フィルムを直に用いてもよい。両者を併せて以下では、近赤外分光スペクトルを測定するのに用いる試料を「測定試料」と称する。
硬化率の測定は、近赤外分光スペクトルの6170cm−1付近に現れる炭素−炭素二重結合に結合する炭素−水素結合の伸縮振動の第一倍音の吸収ピークの増減を確認することによって行う。前記測定試料に前記近赤外光を透過させたときに干渉縞が現れると、この6170cm−1付近の吸収ピークが確認しにくくなり、硬化率を正確に算出するのが難しくなる。
そこで本発明では、近赤外分光スペクトルの測定の際に干渉縞が発生する場合には、下記式(I)を満たす前記透明導電性樹脂基材を2枚備えた調光フィルムを用いて近赤外分光スペクトルを測定する。
式(I):前記近赤外光の照射領域における表面粗さの最大高さ(Ry)≧前記干渉縞の波長λ×1/2
以下、近赤外光の照射領域における表面粗さの最大高さ(Ry)が干渉縞の波長λ×1/2以上となっている透明導電性樹脂基材を「基材Ry」と称する。
また、干渉縞の波長を測定するための測定試料を「第一の測定試料」と称し、2枚の基材Ryを備える測定試料を「第二の測定試料」と称する。
2枚の基材Ryを備える第二の測定試料を用いることにより、硬化率の測定を阻害する干渉縞の発生が抑えられる。この理由は以下のように考えられる。
測定試料の一方の基板から近赤外光を入射すると、他方の基板からそのまま透過する光や、基板表面で1往復反射してから透過する光、数往復の反射を繰り返してから透過する光など、透過光には異なる位相を有する複数の波が含まれる。この複数の波の位相差が0の場合に最も増加的干渉が起こり、干渉縞が著しく発生する。他方、前記位相差が180°の場合には互いに打ち消しあって、干渉縞の発生が抑えられる。つまり、干渉縞の発生を抑えるには、複数の波の波形が山と谷で重なるよう、光路長をずらせばよい。本発明においては、測定試料の測定部位の基板の厚み差、すなわち基板の表面粗さによって、光路長を調整する。特に、本発明では、基板の表面粗さの指標のなかでも最大高さRyを用いて基板表面を調整する。
前記基板の厚み差が、干渉縞の波長λの0.5倍、1.5倍、2.5倍のように、(x+0.5)倍(xは0又は1以上の整数)の場合に、複数の波の位相は打ち消しあって干渉縞の発生が抑えられる。他方、前記基板の厚み差が、干渉縞の波長λの1倍、2倍、3倍のように、x倍(xは1以上の整数)の場合には、むしろ増加的干渉が起こって干渉縞が著しく発生する。
したがって、前記基板の厚み差を正確に制御できるのであれば、前記基板の厚み差が干渉縞の波長λの(x+0.5)倍となるように調節することが干渉縞の抑制に効果的である。しかしながら、基板表面には通常凹凸があり、このような方法は現実的ではない。
ここで、表面粗さの最大高さRyについて説明する。図5に示すように最大高さRyは、粗さ曲線における高さの差の最大値を示す。よって、表面粗さの最大高さRyがAμmである前記基板の厚み差は、最大でAμmとなり、Aμmよりも小さい厚み差が基板に複合的に存在することになる。したがって、基板の表面粗さの最大高さRyが干渉縞の波長λの1/2以上であれば、透過光の位相が複合的に相殺され、干渉縞の発生が抑えられるものと考えられる。より好ましくは、基板の表面粗さの最大高さRyが干渉縞の波長λの1倍以上であり、2倍以上であることが更に好ましく、5倍以上であることが更に好ましく、8倍以上であることが更に好ましい。
具体的には、透明導電性樹脂基材がPETフィルムであり、厚さが50μm〜200μm程度、調光層の厚さが50μm〜150μm程度、調光層の散乱時の屈折率1.465〜1.480程度の調光フィルムの場合には、近赤外光の照射領域におけるPETフィルムの表面粗さの最大高さRyは、0.2μm〜4.0μmに調整されることが好ましく、0.5μm〜3.7μmに調整されることがより好ましく、1.0μm〜3.5μmに調整されることが更に好ましい。
以上から、本発明の調光フィルムの硬化率の測定方法によれば、基材を剥離せずに、基材を備えたまま、調光フィルムの調光層における樹脂マトリックスの硬化率を確実に測定することができる。よって、信頼性評価の指標として、本発明の硬化率の測定方法を用いることができ、その測定方法は迅速性、簡便性に優れる。
以下、本発明の調光フィルムの硬化率の測定方法を詳細に説明する。
〔測定試料の作製〕
まず、高分子媒体の硬化物である樹脂マトリックスと前記樹脂マトリックス中に分散された光調整懸濁液とを含む調光層を、2枚の透明導電性樹脂基材で挟持した調光フィルムである第一の測定試料を作製する。調光フィルムの作製方法の詳細については後述する。基材には上述のプライマーを備えていてもよい。
第一の測定試料に近赤外分光スペクトルを測定するための近赤外光を照射する。その際に、瞬間分光光度計F−20(フィルメトリクス(株)製)など用いて干渉縞が観測されるかを確認する。第一の測定試料において干渉縞が確認されなければ、引き続いて近赤外分光スペクトルを測定する。なお、基材の厚さや屈折率、調光層の厚さや屈折率、これらの組み合わせ等によっては、干渉縞が観察されない場合もある。
第一の測定試料において干渉縞が観測される場合には、その干渉縞の波長を測定する。そして、得られた干渉縞の波長λから、近赤外光の照射部位における表面粗さの最大高さがλ/2以上となる2枚の基材Ryで調光層を挟持した第二の測定試料を作製する。
第二の測定試料の作製方法は、近赤外光が照射される領域の表面粗さが上記式(I)を満たすことができれば特に限定されない。例えば、第一の測定試料における両方の基材を溶解可能な溶剤によって溶解する方法がある。具体的には、例えば前記溶剤を染み込ませた綿棒や布で、2枚の基材の測定領域を擦るなどの方法が挙げられる。
他の方法としては例えば、第一の測定試料から干渉縞の波長を測定しλ/2が算出されたら、別途、λ/2以上の最大高さRyを有する基材Ryを調達して、2枚の前記基材Ryで挟持された調光層を備える第二の測定試料を作製する方法が挙げられる。基材Ryの調達は、調光層を挟持する前に予め基材Ryを溶剤などで溶解したものであってもよいし、最大高さRyを有する基材Ryを購入して入手してもよい。
測定試料の廃棄量の削減や、基材Ryの調達の煩雑さを鑑みると、測定試料の基材の表面を溶剤で溶解して前記式(I)を満たすように調整する方法が望ましい。
前記溶剤としては、前記2枚の基材がポリエチレンテレフタレート(PET)で構成される場合には、例えばトリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸/ジクロロエタン混合溶媒、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール混合溶媒、テレフタル酸ジメチル又はヘキサフルオロイソプロパノールを挙げることができ、入手の容易性や基材の溶解性を考慮すると、ヘキサフルオロイソプロパノールが好適である。
なお、一般に調光フィルムは、ロール・トゥ・ロール(Roll to Roll)の方法で連続した一枚のフィルムとして作製されるため、溶剤で表面を溶かした第二の測定試料が、製品である連続した調光フィルムの一部であってもよい。製品の一部を硬化率測定のための第二の測定試料として用いる場合には、製品の硬化率を確実に把握することができ、信頼性評価の指標として極めて優れたものとなる。
〔近赤外光の照射による分光の測定〕
上記作製した測定試料に近赤外光を入射して分光スペクトルを測定する。硬化率の測定は6170cm−1付近に現れる炭素−炭素二重結合に結合する炭素−水素結合の伸縮振動の第一倍音の吸収ピークの増減から行うのが好ましい。近赤外分光スペクトルの測定には、例えば、FT/IR−6000(日本分光(株)製、InGaAs検出器、分解能4cm−1)などを用いることができる。
近赤外分光スペクトルにおいて、6050cm−1付近に観測されるピークは硬化前後で変化しない成分に由来するピークであるため、このピークを内部標準とし、6170cm−1付近に観測されるC=C結合由来の第一倍音の吸収ピーク面積と内部標準ピーク面積の比から硬化率を算出する。
未硬化のC=C結合由来の第1倍音吸収ピーク面積を(A)、硬化後の面積を(A)とし、未硬化時の内部標準ピーク面積を(B)、硬化後の面積を(B)とすると、完全に硬化したときはA=0となるので、硬化率(%)は次式から算出される。
硬化率(%)=[1−(A/B)/(A/B)]×100
近赤外分光スペクトルの測定に際し、測定試料の面に対して近赤外光の入射角度を20〜70°とすることが好ましく、30〜60°とすることがより好ましい。近赤外光の入射角度を30°以上60°以下とすると、干渉縞がより抑制されて好適である。
<調光フィルムの製造方法>
前記本発明の硬化率の測定方法を用いることで、製造管理に優れた調光フィルムの製造方法を提供することができる。更に、この硬化率の測定方法を用いることで、耐熱性に優れた調光フィルムを提供することができる。
調光フィルムを得るためには、まず、液状の光調整懸濁液を、高分子媒体と均質に混合し、光調整懸濁液が高分子媒体中に液滴状態で分散した混合液からなる調光材料を調製する。
具体的には、以下のようにして調光材料を調製する。光調整粒子を溶媒に分散した液と光調整懸濁液の分散媒とを混合し、ロータリーエバポレーター等で溶媒を留去し、光調整懸濁液を作製する。
次いで、光調整懸濁液及び高分子媒体を混合し、光調整懸濁液が高分子媒体中に液滴状態で分散した混合液(調光材料)とする。調光材料は、前記高分子媒体100質量部に対して、前記光調整懸濁液を通常1〜100質量部、好ましくは6〜70質量部、より好ましくは6〜60質量部含有する。
この調光材料を、前記透明導電性樹脂基材の透明導電層上に一定な厚さで塗布し、調光層を形成する。調光材料の塗布には、例えば、バーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ロールコーター、ダイコーター、コンマコーター等の公知の塗工手段を用いることができる。調光材料を、基材上に設けたプライマー層面に塗布し、又は、一方にプライマー層を有さない基材を用いる場合には、基材に直接塗布することもできる。なお、塗布する際は、必要に応じて、適当な溶剤で希釈してもよい。溶剤を用いた場合には、透明導電性樹脂基材上に塗布した後に乾燥を要する。
調光材料の塗布に用いる溶剤としては、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、エチルアセテート、エタノール、メタノール、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル等を用いることができる。液状の光調整懸濁液が、固体の樹脂マトリックス中に微細な液滴形態で分散されているフィルムを形成するためには、調光材料をホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等で混合して高分子媒体中に光調整懸濁液を微細に分散させる方法、高分子媒体中の樹脂成分の重合による相分離法、溶媒揮発による相分離法、又は温度による相分離法等を利用することができる。
調光材料を塗布した後、又は必要に応じて調光材料に含有される溶剤を乾燥除去した後、高圧水銀灯等を用いて紫外線を照射し高分子媒体を硬化させる。その結果、硬化した高分子媒体からなる樹脂マトリックス中に、光調整懸濁液が液滴状に分散されている調光層が形成される。高分子媒体と光調整懸濁液の混合比率を様々に変えることにより、調光層の光透過率を調節することができる。
樹脂マトリックス中に分散されている光調整懸濁液の液滴の大きさ(平均液滴径)は、通常0.5〜100μm、好ましくは0.5〜20μm、より好ましいくは1〜5μmである。液滴の大きさは、光調整懸濁液を構成している各成分の濃度、光調整懸濁液及び高分子媒体の粘度、光調整懸濁液中の分散媒の高分子媒体に対する相溶性等により決められる。
平均液滴径は、例えば、SEMを用いて、調光フィルムの一方の面方向から写真等の画像を撮影し、任意に選択した複数の液滴直径を測定し、その平均値として算出することができる。また、調光フィルムの光学顕微鏡での視野画像をデジタルデータとしてコンピュータに取り込み、画像処理インテグレーションソフトウェアを使用し算出することも可能である。
このようにして形成された調光層の上に、もう一方の透明導電性樹脂基材を密着させることにより、調光フィルムが得られる。
または、前記調光材料を、基材上に一定な厚さで塗布し、必要に応じて調光材料中の溶剤を乾燥除去した後、もう一方の基材でラミネートした後に、紫外線を照射して高分子媒体を硬化させてもよい。
更には、2枚の透明導電性樹脂基材の両方の透明導電層上に調光層を形成し、その調光層同士が密着するようにして積層してもよい。
調光層の厚みは、5〜1,000μmが好ましく、20〜100μmがより好ましい。
本発明の調光フィルムの製造方法では、上記の方法で作製した調光フィルム中の、又は上記同様の方法で別途作製した測定試料中の樹脂マトリックスの硬化率を測定した後、この硬化率を基に、予め定めた硬化率となる硬化条件を求めて、その硬化条件で硬化した調光フィルムを作製する。このように硬化条件のフィードバックを行うことで、製品ロッド間での硬化率のばらつきを極めて低減することができる。
樹脂マトリックスの硬化率の測定は、表面粗さが上記式(I)を満たす2枚の基材に前記調光層が挟持された第二の測定試料に、近赤外光を照射して行う。第二の測定試料の作製方法は上述の通りである。また、第二の測定試料中の樹脂マトリックスの硬化率の測定方法は、上述の通りである。
硬化率の測定により得られた前記硬化率は、予め求めておいた前記高分子媒体の硬化条件と硬化率との関係に当てはめて、予め定めた硬化率となる前記高分子媒体の硬化条件を導き出す。
前記予め定めた硬化率は、耐熱性及び耐光性などの観点から、75〜100%であることが好ましく、85〜100%であることがより好ましく、90〜100%であることが更に好ましい。特に、硬化により樹脂マトリックスを形成する前記高分子媒体における、硬化に供するエチレン性不飽和結合を有する繰り返し単位数が、繰り返し単位数全体の1.3〜5.0質量%のときに、前記硬化率を75〜100%とすることが好ましい。エチレン性不飽和結合を有する繰り返し単位数の占める割合と、その硬化率を上記範囲内とすることで、耐熱性に優れた調光フィルムとなる。その理由は明らかではないが、硬化率が75%以下の場合、加熱により調光フィルムの未硬化部分の粘度が小さくなり液滴どうしの結合などが生じるためではないかと推測される。
硬化率に関係する高分子媒体の硬化条件としては、硬化のための紫外線の照射量、硬化雰囲気の気体の種類、流量、及び硬化温度などが挙げられる。これら硬化率に関係する因子と硬化率の関係を予め検量する。この中でも硬化率に直接的に関係するのが紫外線の照射量であるため、少なくとも、紫外線の照射量と硬化率との関係は予め検量しておくことが好ましい。
このように予め検量しておいた高分子媒体の硬化条件と硬化率との関係に、近赤外分光スペクトルの測定により得た前記硬化率を当てはめる。そして、予め定めた硬化率(例えば、75〜100%)の範囲内となる硬化条件を校正し直して導き出す。具体的には、例えば、近赤外分光スペクトルの測定により得た硬化率が50%であり、目標の75〜100%の硬化率の範囲から外れていた場合、硬化率を75〜100%にするための硬化条件(例えば、紫外線の照射量)を予め作成した検量線から求める。
そして、前記導き出された硬化条件に変えて高分子媒体を硬化した樹脂マトリックスを含有する調光フィルムを作製する。この調光フィルムについて、上記同様の硬化率の測定を行い、目標の硬化率の範囲内に入っているかを確認する。目標の硬化率から外れている場合には、予め検量しておいた硬化条件と硬化率との関係から、再度、目標の硬化率の範囲内となる硬化条件を求め、その硬化条件で硬化した調光フィルムを作製する。
以降、近赤外分光スペクトルによる調光フィルムの硬化率の測定工程、硬化条件の導出工程、及び導出した硬化条件での調光フィルムの作製工程は、目標の硬化率の範囲内となるまで繰り返す。或いは、樹脂マトリックスの硬化率の測定は1回のみ行い、その硬化率を基に所望の硬化率となる硬化条件を導き出し、その硬化条件で製品を製造してもよい。
図6に、本発明の調光フィルムの作製の一例の手順をフローチャートで示す。
図6において、ステップ11では、上記方法により近赤外分光スペクトルにより硬化率を測定するための第二の測定試料を作製する。第二の測定試料は、近赤外分光の照射領域における両方の基材の表面粗さ(最大高さRy)が上記式(I)を満たすものである。表面粗さの最大高さRyは、干渉縞が観察される第一の測定試料から求める。なお、第一の測定試料において干渉縞が観察されない場合には、第一の測定試料を用いて近赤外分光スペクトルを測定する。
第一及び第二の測定試料、更に製品である調光フィルムにおける調光層の硬化は、基材で挟み込む前に硬化してもよいし、未硬化の調光層を基材で挟持した後、調光層を硬化してもよい。しかしながら、製品である調光フィルムの硬化率の正確を期すために、第一及び第二の測定試料の硬化時期は、製品である調光フィルムの硬化時期に合わせる。
ステップ13では、上記方法に基づき、第二の測定試料における樹脂マトリックスの硬化率を、近赤外分光スペクトルにより測定する。
ステップ15では、近赤外分光スペクトルの測定により得た硬化率が、目標の硬化率の範囲内であるかを判定する。目標の硬化率の範囲内であるならば本操作を終了する。目標の硬化率の範囲外であるならばステップ17へ進む。
ステップ17では、予め検量しておいた硬化条件と硬化率との関係から、再度、目標の硬化率の範囲内となる硬化条件を求める。そして、ステップ11に戻り、求めた硬化条件に変えて硬化した第二の測定試料を作製する。
ステップ11からステップ17までは、近赤外分光スペクトルの測定により得た硬化率が、目標の硬化率の範囲内となるまで繰り返される。目標の硬化率の範囲内となったところで、本操作を終了する。
なお、図6のフローチャートでは、目標の硬化率の範囲内となるまでステップ11からステップ17を繰り返すとして説明したが、硬化率の測定は1回のみ行い、その後は、その硬化率から求めた硬化条件で調光フィルムを製造してもよい。
本発明の調光フィルムの製造方法によれば、基材を剥離するなどの煩雑な操作を必要とせず、基材を付設したままの状態で測定した硬化率を基に、一定水準の硬化率を有する調光フィルムを作製することができる。また、紫外線の照射量や硬化雰囲気などの要因を個別に勘案することなく一定値として硬化率の値が得られるため、本発明の調光フィルムの製造方法は、製造管理が容易であるという効果を奏する。更に、本発明の製造方法で用いる硬化率は、炭素−炭素二重結合に起因する吸収ピークから算出されるものであり、よって、炭素−炭素二重結合の量を直接的に表した値である。したがって、正確な硬化率に基づき調光フィルムを製造することができるため、信頼性に優れた調光フィルムを製造することができる。
<調光フィルムによる調光>
本発明の調光フィルムの製造方法により得られる調光フィルムは、電場の形成により任意に光透過率を調節できる。この調光フィルムは、電場が形成されていない場合にも、光の散乱のない鮮明な着色状態を維持し、電場が形成されると透明な状態に転換される。この能力は、20万回以上の可逆的反復特性を示す。
調光フィルムを作動させるための使用電源は交流で、10〜100ボルト(実効値)、30Hz〜500kHzの周波数範囲とすることができる。本発明の調光フィルムは、電界に対する応答時間を、消色時には1〜50秒以内、着色時には1〜100秒以内とすることができる。
また、紫外線耐久性は、750W紫外線等を利用した紫外線照射試験の結果、250時間が経過した後にも安定な可変特性を示し、−50℃〜90℃で長時間放置した場合にも、初期の可変特性を維持することが可能である。
従来技術である液晶を使用した調光フィルムの製造において、水を用いたエマルジョンによる方法を使用すると、液晶が水分と反応して光調整特性を失うことが多く、同一の特性のフィルムを製造しにくいという課題がある。
しかし、本発明においては、液晶ではなく、光調整粒子が光調整懸濁液内に分散されている液状の光調整懸濁液を使用するため、液晶を利用した調光フィルムとは異なり、電界が印加されていない場合にも光が散乱せず、鮮明度が優れて視野角の制限のない着色状態を表す。そして、光調整粒子の含量、液滴形態や層厚を調節したり、又は電界強度を調節したりすることにより、光可変度を任意に調節できる。
また、本発明の調光フィルムは、液晶を用いないことから、紫外線露光による可変能力の低下、大型製品特有の透明導電性樹脂基材の周辺部と中央部間に生ずる電圧降下に伴う応答時間差も解消される。
図2に示すように、本発明による調光フィルムに電界が印加されていないときには、光調整懸濁液内の光調整粒子のブラウン運動のため、光調整粒子の光吸収、2色性効果による鮮明な着色状態を示す。しかし、図3に示すように、電界が印加されると、液滴又は液滴連結体の中の光調整粒子が電場に平行に配列され、透明な状態に転換される。
また、本発明の調光フィルムはフィルム状態であるので、液状の光調整懸濁液をそのまま使用する従来技術による調光硝子の問題点が解消される。即ち、2枚の透明導電性樹脂基材の間への液状の懸濁液の注入の困難性、製品の上下間の水圧差による下部の膨張現象、風圧等の外部環境による基材間隔の変化による局部的な色相変化、透明導電性樹脂基材の間の密封材の破壊による調光材料の漏洩が解決される。
また、液晶を利用した従来技術による調光窓の場合には、液晶が紫外線により容易に劣化し、またネマチック液晶の熱的特性によりその使用温度の範囲も狭い。更に、光学特性面においても、電界が印加されていない場合には光散乱による乳白色の半透明な状態を示し、電界が印加される場合にも、完全には鮮明化せず、乳濁状態が残存する課題がある。従って、このような調光窓では、既存の液晶表示素子で動作原理として利用されている光の遮断及び透過による表示機能が不可能である。しかし、本発明による調光フィルムを使用すれば、このような課題が解決できる。
本発明の調光フィルムは、例えば、室内外の仕切り(パーティッション)、建築物用の窓硝子/天窓、電子産業及び映像機器に使用される各種平面表示素子、各種計器板と既存の液晶表示素子の代替品、光シャッター、各種室内外広告及び案内標示板、航空機/鉄道車両/船舶用の窓硝子、自動車用の窓硝子/バックミラー/サンルーフ、眼鏡、サングラス、サンバイザー等の用途に好適に使用することができる。
適用法としては、本発明の調光フィルムを直接使用することも可能であるが、用途によっては、例えば、本発明の調光フィルムを2枚の基材に挟持させて使用したり、基材の片面に貼り付けて使用したりしてもよい。前記基材としては、例えば、ガラスや、上記透明樹脂基材と同様の高分子フィルム等を使用することができる。
以下、本発明の実施例及びその比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(光調整粒子の製造例)
ヨウ素(JIS試薬特級、和光純薬工業(株)製)と酢酸イソペンチル(試薬特級、和光純薬工業(株)製)から8.5質量%ヨウ素の酢酸イソペンチル溶液(以下「ヨウ素溶液」と称する)を調製した。またニトロセルロース1/4LIG(商品名:ベルジュラックNC社製)と酢酸イソペンチルから20.0質量%硝酸セルロースの酢酸イソペンチル溶液(以下「硝酸セルロース溶液」と称する)を調製した。更に、ヨウ化カルシウム水和物(化学用、和光純薬工業(株)製)を加熱乾燥して無水化した後、酢酸イソペンチルに溶解させ、20.9質量%ヨウ化カルシウム溶液を調整した。
300mlの四口フラスコに撹拌機と冷却管を備え、前記ヨウ素溶液の65.6g、前記硝酸セルロース溶液の82.93gを加え、水浴温度を35〜40℃としてフラスコを加熱した。フラスコ内容物の温度が35〜40℃となった後、脱水メタノール(試薬特級、和光純薬工業(株)製)を7.41g、精製水(和光純薬工業(株)製)を0.525g加えて撹拌した。そこに、ヨウ化カルシウム溶液を15.6g、次いでピラジン−2,5−ジカルボン酸(日化テクノサービス(株)製)を3.70g加えた。水浴温度を42〜44℃として4時間撹拌した後、放冷し、光調整粒子を含む合成液を得た。
得られた光調整粒子は、粒度分布測定(サブミクロン粒子アナライザ(製品名:N4MD、ベックマン・コールタ社製)で測定)で求められる平均粒子径が185nm、SEM観察による平均長径は310nm、平均アスペクト比は4.4であった。なお、SEMによる観察では、100個の光調整粒子から、長径及びアスペクト比の平均値を求めた。
また、得られた合成液を9260Gで5時間遠心分離後、傾斜して上澄み液を除き、底部に残存した沈殿にこの沈殿の質量の5倍の酢酸イソペンチルを加え、超音波で沈殿を分散し、液全体の質量を測定した。この分散した液を1g金属プレートに秤量し、120℃1時間で乾燥後、再び質量を測定し、不揮発分比率を求めた。この不揮発分比と液全体の質量から全不揮発分量、すなわち沈殿収量4.15gを求めた。
(光調整懸濁液の製造例)
前記の「光調整粒子の製造例」で得た光調整粒子45.5gを、光調整懸濁液の分散媒としてのアクリル酸ブチル(和光特級、和光純薬工業(株)製)/メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル(工業用、共栄社化学工業(株)製)/アクリル酸2−ヒドロキシエチル(和光1級、和光純薬工業(株)製)の共重合体(モノマーモル比:18/1.5/0.5、重量平均分子量:3,800、屈折率1.4719)50gに加え、撹拌機により30分間混合した。次いで酢酸イソアミルを、ロータリーエバポレーターを用いて133Paの真空で80℃、3時間減圧除去し、光調整粒子の沈降及び凝集現象のない安定な液状の光調整懸濁液を製造した。
(エネルギー線硬化型ポリシロキサン系樹脂の製造例)
ディーンスタークトラップ、冷却管、撹拌機、加熱装置を備えた四つ口フラスコに、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン(商品名:KBM−5102、信越化学工業(株)製)15.0g、蒸留水1.9g、酢酸(和光純薬工業(株)製)0.04g、質量比でエタノール/メタノール=9/1の混合溶媒8.9gを仕込み、65℃に昇温して5時間反応させた。反応溶液を40℃以下まで冷却した後、100Paに減圧して70℃まで昇温して2時間、脱溶工程を行った。その後、室温まで冷却してアルコキシシランの一部をシラノールへ変換した化合物14.0gを得た。また、シラノールへの変換率は54.5%であった。
アルコキシシランのシラノールへの変換率は、赤外分光測定における水酸基由来のピーク(3435cm−1付近)の強度(A)とアルコキシ基由来のピーク(2835cm−1付近)の強度(B)から変換率=A/(A+B)×100により求められる。ジメトキシシランをシラノールに変換後の赤外分光測定より、(A)がAbs=0.250、(B)がAbs=0.211であったことから、変換率は54.5%と算出した。
ディーンスタークトラップ、冷却管、撹拌機、加熱装置を備えた四つ口フラスコに、両末端シラノールポリジメチルシロキサン(商品名:X−21−3114、信越化学工業(株)製)48.0g、両末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(商品名:X−21−3193B、信越化学工業(株)製)170.0g、前記KBM−5102のメトキシ基をシラノールに変換したもの9.0g、ビス(2−エチルヘキサン酸)錫(商品名:KCS−405T、城北化学工業(株)製)0.01gを仕込み、ヘプタン中100℃で5時間還流し、反応を行った。温度を50℃まで冷却し、トリメチルエトキシシラン(商品名:KBM−31、信越化学工業(株)製)109.0gを添加し、再び85℃において2時間還流してエンドキャップ反応させた。
次いで温度を75℃に冷却してリン酸ジエチル(別名:エチルアシッドホスフェート)(商品名:JP−502、城北化学工業(株)製)0.01g(脱水縮合触媒ビス(2−エチルヘキサン酸)錫と同質量)を添加し20分攪拌した後、30℃まで冷却した。次いでメタノールを210g、エタノールを90g添加し20分攪拌した。12時間静置した後アルコール層を除去し、100Paに減圧して115℃に昇温し5時間、脱溶を行い、重量平均分子量46,700、粘度16,000、屈折率1.4744のポリシロキサン樹脂148.8gを得た。
このとき、ポリシロキサンの繰り返し単位の原料シロキサン及びシラン化合物総量に対するKBM−5102のメトキシ基をシラノールに変換したものの割合は、4.2質量%であった。
また、NMRの水素積分比から、この樹脂の3−アクリロキシプロピルメチルシロキサン繰り返し単位数は、1.9質量%であった。なお、エチレン性不飽和結合濃度は下記の方法により測定した。
−エチレン性不飽和結合濃度の測定方法−
3−アクリロキシプロピルメチルシロキサン繰り返し単位数を、NMRの水素積分比から算出した。NMRチャートにおいて、エチレン性不飽和結合の水素の6ppm近傍の積分値、フェニル基の水素の7.5ppm近傍の積分値、及びメチル基の水素の0.1ppm近傍の積分値を使用した。測定溶媒はCDClとした。
上記で製造した樹脂において、NMRの水素積分比から算出した(ジフェニルシロキサンのメチル基由来H):(ジメチルシロキサンのフェニル基由来H):(3−アクリロキシプロピルメチルシロキサンのビニル基に結合するH)=10.00:27.89:0.61、であった。各繰り返し単位に含まれる水素数は、ジフェニルシロキサンが10個、ジメチルシロキサンが6個、3−アクリロキシプロピルメチルシロキサンのビニル基に結合する水素が3個であるから、全体の中の3−アクリロキシプロピルメチルシロキサン繰り返し単位数は1.9質量%と算出した。
(調光材料の製造例)
上記「エネルギー線硬化型シリコーン系樹脂の製造例」で得たエネルギー線硬化型ポリシロキサン系樹脂7.0g、光重合開始剤としてのビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(商品名:イルガキュア819、BASFジャパン(株)製)0.2g、前記「光調整懸濁液の製造例」で得た光調整懸濁液3.0gを添加し、1分間機械的に混合し、調光材料を製造した。
(調光フィルムの製造例)
ITO(インジウム錫の酸化物)の透明導電膜(厚み300Å)がコーティングされているPETフィルム(300R、東洋紡績(株)製、厚み125μm、表面電気抵抗値200〜700Ω)からなる透明導電性樹脂基材を2枚準備した。2枚の透明導電性樹脂基材の上には、それぞれプライマー層を形成した。プライマー層は、以下の方法により形成した。
AY42−151(商品名、東レ・ダウコーニング(株))をイソプロピルアルコール:1−メトキシ−2−プロパノール=3:7混合溶媒に1.0質量%となるように溶解しし、プライマー層形成用塗布液を調製した。AY42−151には光重合開始剤(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)が含有されている。
前記ITO付き透明導電性樹脂基材の透明導電膜上に、前記プライマー層形成用塗布液を、マイクログラビア法(メッシュ#150)を用いて、全面塗布してプライマー層を形成し、50℃/30s、60℃/30s、70℃/1min乾燥後、UV照射1000mJ/cm(メタルハライドランプ)で光硬化してプライマー層を形成した。
得られたプライマー層の厚みは、73nmであった。プライマー層の膜厚は、瞬間分光光度計F−20(フィルメトリクス(株)製)を用いて測定した。
上記、プライマー層を形成した透明導電性樹脂基材の上に、上記で得られた調光材料を全面塗布し、塗布層を形成した。次いでその上にもう1枚のプライマー層付き透明導電性樹脂基材における透明導電膜が、前記塗布層に対向するようにして積層して密着させた後、メタルハライドランプを用いて4000mJ/cmの紫外線を前記積層した透明導電性樹脂基材のPETフィルム側から照射した。これにより、紫外線硬化した樹脂マトリックス内に、光調整懸濁液が球形の液滴として分散形成された調光フィルムを得た。調光フィルムにおける調光層の厚みは90μmであり、調光フィルムの総厚は340μmであった。
得られた調光フィルムの一方の面方向からSEM写真を撮影し、任意に選択した複数の光調整懸濁液の液滴の直径を測定し、その平均値として算出した。光調整懸濁液の液滴の平均径は3μmであった。
[比較例0]
<干渉縞の波長の測定>
上記得られた調光フィルムに対して入射角が0°となるようにして近赤外光を入射し、8000〜4000cm−1の領域の近赤外分光スペクトルを観察した。測定はFT/IR−6000(日本分光(株)製、InGaAs検出器、分解能4cm−1)を用いた。しかしながら、干渉縞が発生し、内部標準である6050cm−1付近に観測されるピーク、及び6170cm−1付近に観測されるC=C結合由来の第一倍音の吸収ピークを確認することができなかった。干渉縞の波長は、0.26μmであった。
[実施例1]
<硬化率の測定>
上記得られた調光フィルムのPETフィルムの表面を、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)の染み込んだ綿棒に200gの荷重を掛けて10往復させてPETフィルムを溶解させた。溶解させた部分の表面粗さの最大高さ(Ry)を、触針式段差・表面形状測定装置(AMBiOS社製、XP−2)を用いて測定したところ、2.5μmであった。
調光フィルムの法線に対して入射角が0°となるようにして、この溶解させた部分に近赤外光を入射し、8000〜4000cm−1の領域の近赤外分光スペクトルを測定した。
また、上記と同様にHFIPの染み込んだ綿棒で表面を溶解させたPETフィルムで未硬化の調光材料を挟んで、同様に近赤外分光スペクトルを測定した。
6050cm−1付近に観測されるピークは硬化前後で変化しない成分に由来するピークであるであるため、このピークを内部標準とし、6170cm−1付近に観測されるC=C結合由来の第一倍音の吸収ピーク面積と内部標準ピーク面積の比から、下記式により硬化率を算出した。上記で作製した調光フィルムの硬化率は94.3%であった。
硬化率(%)=[1−(A/B)/(A/B)]×100
は未硬化時(調光材料)のC=C結合由来の第1倍音吸収ピーク面積を表し、Aは硬化後の面積を表し、Bは未硬化時の内部標準ピーク面積を表し、Bは硬化後の面積を表す。完全に硬化した時はA=0となる。
<光透過率の評価>
次いで、電圧印加用の通電をとるため、この調光フィルムの端部から調光層の一部を除去し、端部の透明導電膜を露出させた(図4参照)。この調光フィルムに交流電圧を印加して、分光式色差計SZ−Σ90(日本電色工業(株)製)を使用し、A光源、視野角2度で測定したY値(%)を光透過率として測定した。
調光フィルムの光透過率は、交流電圧を印加しない場合(未印加時:Toff)は1.0%であった。また、50Hzの交流電圧100V(実効値)の印加時の調光フィルムの光透過率(Ton)は49%であり、電界印加時と電界未印加時の光透過率の差(ΔT=Ton−Toff)が48と大きく、良好であった。
<耐熱性の評価>
さらに、110℃で2時間保管した後後の調光フィルムについて、上記光透過率の測定と同様の方法で光透過率を測定し、耐熱性(%)を次式から求めた。その結果、本調光フィルムの耐熱性は95.4%と良好であった。
耐熱性=(耐熱試験後のΔT)/(耐熱試験前のΔT)×100
[実施例2]
実施例1と同様に作製した調光フィルムのPETフィルムの表面を、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)の染み込んだ綿棒に200gの荷重を掛けて10往復させてPETフィルムを溶解させた。調光フィルムの法線に対して近赤外光の入射角が30°となるようにして、この溶解させた部分に近赤外光を入射し、近赤外分光スペクトルを測定した。このときの各ピーク面積から、上記方法により算出した硬化率は、94.4%であり、耐熱性は95.4%であった。
った。
なお、近赤外光の入射角を30°とした実施例2の方が、入射角0°の実施例1に比べて、干渉縞の発生が抑えられていた。これは、入射角を傾けることにより基材フィルム表面で1往復あるいは数往復の反射を繰り返した光が検出器に入る確率が減るためではないかと考えられる。
[実施例3]
調光フィルムの法線に対する赤外線の入射角度を45°としたことを除いては、実施例2と同様にして硬化率と耐熱性を測定した。このときの硬化率は94.4%であり、耐熱性は95.4%であった。また、近赤外光の入射角を45°とした実施例3の方が、入射角0°の実施例1に比べて、干渉縞の発生が抑えられていた。
[実施例4]
調光フィルムの法線に対する赤外線の入射角度を60°としたことを除いては、実施例2と同様にして硬化率と耐熱性を測定した。このときの硬化率は94.3%であり、耐熱性は95.4%であった。
また、近赤外光の入射角を60°とした実施例4の方が、入射角0°の実施例1に比べて、干渉縞の発生が抑えられていた。
実施例1〜4に示されるように、本発明の調光フィルムの硬化率の測定方法によれば、再現性良く硬化率が測定されることが分かる。また、本発明の調光フィルムの硬化率の測定方法によって得られた硬化率が75〜100%の実施例1〜4の調光フィルムは耐熱性に優れていることが分かる。
[実施例5]
調光フィルム硬化のための紫外線の照射量を5000mJ/cmとしたことを除いては、実施例2と同様にして硬化率と耐熱性を測定した。このときのRyは2.4μmであり、硬化率は95.4%であり、耐熱性は97.3%であった。
[実施例6]
調光フィルム硬化のための紫外線の照射量を3500mJ/cmとしたことを除いては、実施例2と同様にして硬化率と耐熱性を測定した。このときのRyは2.7μmであり、硬化率は89.4%であり、耐熱性は93.5%であった。
[実施例7]
調光フィルム硬化のための紫外線の照射量を3000mJ/cmとしたことを除いては、実施例2と同様にして硬化率と耐熱性を測定した。このときRyは2.3μmであり、硬化率は85.1%であり、耐熱性は91.8%であった。
[実施例8]
調光フィルム硬化のための紫外線の照射量を2500mJ/cmとしたことを除いては、実施例2と同様にして硬化率と耐熱性を測定した。このときのRyは2.5μmであり、硬化率は82.9%であり、耐熱性は91.8%であった。
実施例5〜8に示されるように、本発明の硬化率の測定方法によれば、紫外線の照射率に対応した硬化率となっている。以上から、本発明の硬化率の測定方法によれば、調光フィルムの硬化率が精度良く測定されることが分かる。
また、本発明の調光フィルムの硬化率の測定方法によって得られた硬化率が75〜100%の実施例5〜8の調光フィルムは、耐熱性に優れていることが分かる。
[比較例1]
2枚のKBr板で上記調光材料を挟み、4000〜400cm−1の領域の赤外分光スペクトルを測定した。測定はFTS−6000(BIORAD製、MCT検出器、分解能4cm−1)を用いた。また、上記で製造した調光フィルムを透明導電性樹脂基材から剥がし、2枚のKBr板で挟んで、同様に赤外分光スペクトルを測定した。C=C伸縮振動の指紋領域である1618cm−1及び1636cm−1付近には硬化前後で明瞭なピークは観測されず、硬化率の算出は不可能であった。
[比較例2]
ガラス製マイクロチューブに調光材料を入れ、3500cm−1〜50cm−1の領域でラマン分光スペクトルを測定した。測定はRFS100(BRUKER製、Nd・YAGレーザー(1064nm))を用いて、レーザー出力300mW、積算回数512回で行った。ほぼ全波数領域でわたって特徴の少ないブロードな散乱ピークが観測されたのみで、硬化率の算出は不可能であった。
[調光フィルムの比較例3]
調光フィルム硬化のための紫外線の照射量を2000mJ/cmとしたことを除いては、実施例2と同様にして硬化率と耐熱性を測定した。このときのRyは2.5μmであり、硬化率は73.3%であり、耐熱性は86.4%であった。
[調光フィルムの比較例4]
調光フィルム硬化のための紫外線の照射量を1500mJ/cmとしたことを除いては、実施例2と同様にして硬化率と耐熱性を測定した。このときのRyは2.7μmであり、硬化率は68.8%であり、耐熱性は81.2%であった。
実施例1〜8と比較例3及び4との対比により、本発明の調光フィルムの硬化率の測定方法によって得られた硬化率が75%未満の調光フィルムは、耐熱性が急激に低下していることが分かる。
図7に、実施例2、5〜8、及び比較例3、4における紫外線の照射量と、本発明の方法で測定された硬化率の関係をグラフに示す。図7に示されるように、紫外線の照射量が多くなるにつれ硬化率が大きくなっており、且つ近似曲線からの誤差も少ないことから、本発明の硬化率の測定方法は、迅速性及び簡便性に優れながら、信頼性にも優れる方法であることが分かる。
[調光フィルムの比較例5]
KBM−5102のメトキシ基をシラノールに変換せずにそのままシロキサン樹脂合成に用いたことを除いては、実施例1と同様にしてポリシロキサン樹脂を合成し、3−アクリロキシプロピルメチルシロキサン繰り返し単位数が0.8質量%、重量平均分子量45,000、粘度13,500のポリシロキサン樹脂180.5gを得た。このポリシロキサン樹脂を用いて作製した調光フィルムの硬化率は93.4%であったが、耐熱性は75.2%であった。また、このときのRyは2.3μmであった。
[調光フィルムの比較例6]
仕込み原料を、X−21−3114を48.0g、X−21−3193Bを171.0g、KBM−5102のメトキシ基をシラノールに変換したもの6.0g、KBM−31を109.0gとしたことを除いては実施例1と同様にしてポリシロキサン樹脂を合成し、重量平均分子量66,600、粘度27,600のポリシロキサン樹脂159.4gを得た。
このときの、ポリシロキサンの繰り返し単位の原料シロキサン及びシラン化合物総量に対するKBM−5102のメトキシ基をシラノールに変換したものの割合は、2.3質量%であった。また、NMRの水素積分比からこの樹脂の3−アクリロキシプロピルメチルシロキサン繰り返し単位数は、1.2質量%であった。
また、このポリシロキサン樹脂を用いて作製した調光フィルムの硬化率は92.9%であったが、耐熱性は83.4%であった。また、このときのRyは2.6μmであった。
[調光フィルムの比較例7]
仕込み原料を、X−21−3114を46.0g、X−21−3193Bを164.0g、KBM−5102のメトキシ基をシラノールに変換したもの47.0g、KBM−31を105.0gとしたことを除いては実施例1と同様にしてポリシロキサン樹脂を合成し、重量平均分子量48,700、粘度9,100のポリシロキサン樹脂169.7gを得た。
このときの、ポリシロキサンの繰り返し単位の原料シロキサン及びシラン化合物総量に対するKBM−5102のメトキシ基をシラノールに変換したものの割合は、18.4質量%であった。また、NMRの水素積分比からこの樹脂の3−アクリロキシプロピルメチルシロキサン繰り返し単位数は、7.6質量%であった。
また、このポリシロキサン樹脂を用いて作製した調光フィルムの硬化率は94.4%であったが、耐熱性は21.2%であった。また、このときのRyは2.4μmであった。
実施例1〜8と比較例5〜7との対比により、本発明の調光フィルムの硬化率の測定方法によって得られた硬化率が75〜100%の調光フィルムであっても、前記高分子媒体における(メタ)アクリロイル基を有する繰り返し単位数が、繰り返し単位数全体の1.3〜5.0質量%の範囲外の場合には、耐熱性が急激に低下していることが分かる。
1 調光層
2 樹脂マトリックス
3 液滴
4 透明導電性樹脂基材
5a 透明導電膜
5b 透明樹脂基材
6 プライマー層
7 電源
8 スイッチ
9 分散媒
10 光調整粒子
11 入射光
12 調光層を除去して露出した透明導電膜の表面
13 透明導電膜に電圧印加する導線

Claims (11)

  1. 高分子媒体の硬化物である樹脂マトリックスと前記樹脂マトリックス中に分散された光調整懸濁液とを含む調光層を2枚の透明導電性樹脂基材で挟持してなる調光フィルムにおける、前記樹脂マトリックスの硬化率を、近赤外分光スペクトルにより測定する方法であり、
    近赤外光を調光フィルムに透過させたときに干渉縞が生ずる場合、下記式(I)を満たす前記透明導電性樹脂基材を2枚備えた第二の調光フィルムを用いて近赤外分光スペクトルを測定する、調光フィルム中の樹脂マトリックスの硬化率の測定方法。
    式(I):
    前記近赤外光の照射領域における表面粗さの最大高さ(Ry)≧前記干渉縞の波長λ×1/2
  2. 前記透明導電性樹脂基材を溶解可能な溶剤によって、前記近赤外光が照射される領域の前記2枚の透明導電性樹脂基材の表面を溶解して、前記式(I)を満たすように前記透明導電性樹脂基材の表面を加工する請求項1に記載の調光フィルムの硬化率の測定方法。
  3. 前記2枚の透明導電性樹脂基材がポリエチレンテレフタレートで構成される場合、前記溶剤がヘキサフルオロイソプロパノールである請求項2に記載の調光フィルムの硬化率の測定方法。
  4. 前記近赤外光を、前記調光フィルムの面に対して30〜60°で入射する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の調光フィルムの硬化率の測定方法。
  5. 高分子媒体の硬化物である樹脂マトリックスと前記樹脂マトリックス中に分散された光調整懸濁液とを含む調光層を、2枚の透明導電性樹脂基材で挟持する第一の調光フィルムを作製する工程と、
    前記第一の調光フィルムに近赤外光を透過したときに干渉縞が発生する場合、下記式(I)を満たす前記透明導電性樹脂基材を2枚備えた第二の調光フィルムを作製する工程と、
    前記第二の調光フィルムに近赤外光を透過させて近赤外分光スペクトルを測定し、前記第二の調光フィルム中の前記樹脂マトリックスの硬化率を測定する工程と、
    前記測定により得られた前記硬化率を、予め求めておいた前記高分子媒体の硬化条件と硬化率との関係に当てはめて、予め定めた硬化率の範囲内となる前記高分子媒体の硬化条件を導き出す工程と、
    前記導き出された硬化条件で前記高分子媒体を硬化した樹脂マトリックスと、前記樹脂マトリックス中に分散された光調整懸濁液と、を含む調光層を、2枚の透明導電性樹脂基材で挟持した第三の調光フィルムを作製する工程と、
    を有する調光フィルムの製造方法。
    式(I):
    前記近赤外光の照射領域における表面粗さの最大高さ(Ry)≧前記干渉縞の波長λ×1/2
  6. 前記第二の調光フィルムを作製する工程において、前記透明導電性樹脂基材を溶解可能な溶剤により、前記第一の調光フィルムの2枚の透明導電性樹脂基材の表面における前記近赤外光が照射される領域を溶解して、前記式(I)を満たすように前記透明導電性樹脂基材の表面を加工する請求項5に記載の調光フィルムの製造方法。
  7. 前記2枚の透明導電性樹脂基材がポリエチレンテレフタレートで構成される場合、前記溶剤がヘキサフルオロイソプロパノールである請求項6に記載の調光フィルムの製造方法。
  8. 前記硬化率を測定する工程において、前記近赤外光を前記第二の調光フィルムの面に対して30〜60°で入射する請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載の調光フィルムの製造方法。
  9. 前記予め定めた硬化率が、75〜100%である請求項5〜請求項8のいずれか1項に記載の調光フィルムの製造方法。
  10. 前記高分子媒体が(メタ)アクリロイル基を有するポリシロキサン構造を有し、前記(メタ)アクリロイル基を有する繰り返し単位数が、繰り返し単位数全体の1.3〜5.0質量%である請求項5〜請求項9のいずれか1項に記載の調光フィルムの製造方法。
  11. 前記高分子媒体の重量平均分子量が35,000〜60,000である請求項5〜請求項10のいずれか1項に記載の調光フィルムの製造方法。
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