本発明の実施形態に係る車両用乗員拘束装置10について、図1〜図8に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP、矢印OUTは、それぞれ車両用乗員拘束装置10が適用された自動車の前方向、上方向、車幅方向の外側を示している。自動車の前方向、上方向、車幅方向は、車両用乗員拘束装置10が適用された車両用シート11の前方向、上方向、幅方向に略一致している。以下、単に前後、上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両上下方向の上下を示すものとする。
図1には、車両用乗員拘束装置10が適用された車両用シート11を含む車室内部が平面図にて示されている。この図に示される如く、車両用シート11は、乗員が前方を向いて着座するように設けられている。この車両用シート11は、着座部を成すシートクッション12と、該シートクッション12の後端部に下端部が接続されバックレストを成すシートバック14と、シートバック14の上端に設けられたヘッドレスト16とを主要部として構成されている。この実施形態における車両用シート11は、運転席とされており、車体における車幅方向の中央部に配置されたセンタコンソール18に対し該車幅方向の一方側に配置されている。なお、助手席である車両用シート11に対し車両用乗員拘束装置10が適用可能であることは言うまでもない。
(支持構造体の構成)
車両用乗員拘束装置10は、後述する前突エアバッグ装置46及びシートベルト装置55を着座乗員Pの保護可能な位置で支持する支持構造体としてのラップディバイス20を備えている。ラップディバイス20は、第1支持部材としてのアウタバー22と、第2支持部材としてのラップバー24と、第3支持部材としてのインナバー26とを主要部として構成されている。
アウタバー22は、前後方向に長手とされており、後端側においてシートクッション12の後端部にシート幅方向に沿った軸22A回りに回転可能に支持されている。この回転によりアウタバー22は、図4Aに示す格納位置と、図4B〜図4Dに示す使用位置との間を移動可能とされている。格納位置でアウタバー22は、シートクッション12の車幅方向外側の側縁部に沿って配置されている。この実施形態では、外側の側縁部に形成された格納凹部28内に格納されている。使用位置でアウタバー22は、その前端が後端(軸22A)に対し上方に位置する傾斜姿勢とされている。このように、アウタバー22は、軸22A周りに回転することで、シートクッション12の側縁部に沿った格納位置と、上記傾斜姿勢の使用位置とをとり得る構成とされている。
インナバー26は、前後方向に長手とされており、後端側においてシートクッション12の後端部にシート幅方向に沿った軸26A回りに回転可能に支持されている。この回転によりインナバー26は、図4Aに示す格納位置と、図4B〜図4Dに示す使用位置との間を移動可能とされている。格納位置でインナバー26は、シートクッション12の車幅方向内側の側縁部に沿って配置されている。この実施形態では、内側の側縁部に形成された格納凹部30内に格納されている。使用位置でインナバー26は、その前端が後端(軸26A)に対し上方に位置する傾斜姿勢とされている。このように、インナバー26は、軸26A周りに回転することで、シートクッション12の側縁部に沿った格納位置と、上記傾斜姿勢の使用位置とをとり得る構成とされている。
この実施形態では、軸22Aと軸26Aとは図示しない連動機構を介して連結されており、アウタバー22及びインナバー26の何れか一方を格納位置と使用位置との間で移動させると、他方が追従する構成とされている。また、アウタバー22とインナバー26とは、それぞれの格納位置、使用位置において、側面視で全体としてオーバラップする構成とされている。換言すれば、アウタバー22とインナバー26とは、着座乗員Pに対する左右対称性を維持するように動作するようになっている。
ラップバー24は、アウタバー22に連結されており、アウタバー22と共に格納凹部28に格納される格納姿勢(図4A参照)と、アウタバー22とインナバー26とを架け渡す使用姿勢(図4D参照)とをとり得る構成とされている。以下、具体的に説明する。
図5は、アウタバー22及びインナバー26が使用位置に位置し、ラップバー24が格納姿勢をとる状態を示す斜視図である。図6は、図5の状態からラップバー24が使用姿勢に移行する状態を示す斜視図である。これらの図に示される如く、アウタバー22は、軸22Aによる支持側である基部32と、基部32における軸22Aとは反対側に設けられたガイド部34とを有する。
基部32は、矩形筒状を成すブーツ構造とされており、後述するラップベルト56が挿通(保持)されるようになっている。ガイド部34は、格納姿勢において長手方向に直交する断面視でシート幅方向中央向きに開口する略「コ」字状を成しており、互いに対向する一対の側壁34Aと、これらを繋ぐ連結壁34Bとを主要部とする。ガイド部34の各側壁34Aには、それぞれアウタバー22の長手方向に沿ってスリット34Cが形成されている。一方、ラップバー24の長手方向一端部には、各スリット34Cに抜け止め状態で入り込まされた一対の連結ピン24Aを有する。これにより、ラップバー24は、アウタバー22に対し、連結ピン24A回りに回転可能でかつスリット34Cに沿ってスライド可能に連結されている。
そして、ラップバー24は、図5に示す状態から長手方向(図5の矢印A参照)に引き出されると、図6に想像線にて示される伸長姿勢となり、さらに連結ピン24A回りに矢印B方向に回転すると、図6に実線にて示される使用姿勢となる構成である。ラップバー24の長手方向の他端には、被結合部としてのバー側タングプレート36が設けられており、該バー側タングプレート36がインナバー26の前端側に設けられたバー側バックル38に離脱可能に結合されるようになっている。
この結合状態では、図1及び図4Dに示される如く、アウタバー22とラップバー24とインナバー26とが平面視で後向きに開口すると共に、正面視で下向きに開口する略「コ」字状を成すようになっている。この形態が、ラップディバイス20の使用形態(着座乗員Pの立場で擬似装着状態。以下、単に装着状態という場合がある)とされる。この使用形態でラップディバイス20は、着座乗員Pの腹部を3方から囲む構成とされている。
また、アウタバー22及びインナバー26には、着座乗員Pの腹部に対しラップバー24を接離させ得る装着位置調整構造としてのアジャスタ40を備えている。アウタバー22側のアジャスタ40は、基部32に設けられて各スリット34Cに入り込まされた一対のアジャストピン40Aを含んで構成されている。一方、インナバー26側のアジャスタ40は、基部42と、基部42にスライド可能に支持されたバックル保持部44とを含んで構成されている。そして、インナバー26の長手方向に沿って基部42に形成された一対のスリット42Aには、バックル保持部44に設けられたアジャストピン44Aがそれぞれ入り込まされている。
アジャストピン40Aがスリット34C内をスライドすると共に、アジャストピン44Aがスリット42A内をスライドすることで、上記の通り通着座乗員Pの腹部に対しラップバー24を接離させ得るアジャスタ40が構成されている。なお、図示しないロック機構又は摩擦ストッパ構造等によって、ラップバー24を任意の調整位置(無段階でも有限段階でも良い)で停止させることができる構造とされている。
(前突エアバッグの構成)
図1に示される如く、以上説明したラップディバイス20のラップバー24には、前面衝突(前突)に対する着座乗員Pの拘束(保護)用の前突エアバッグ装置46が配設されている。この前突エアバッグ装置46は、ラップバー24の長手方向に沿って配置されている。
具体的には、図8(A)に示される如く、少なくとも前突エアバッグ装置46の配設範囲でラップバー24は中空構造とされており、該ラップバー24の内部空間であるエアバッグ収容部48内に前突エアバッグ装置46が配置されている。前突エアバッグ装置46は、作動によりガスを発生するガス供給手段としてのインフレータ50と、インフレータ50からのガス供給を受けて膨張、展開されるエアバッグとしての前突エアバッグ52とを主要部として構成されている。
インフレータ50は、ラップバー24の幅方向中央部で、該ラップバー24のエアバッグ収容部48を囲む壁のうち着座乗員P側を向く底壁48Aに固定されている。前突エアバッグ52は、その内側にインフレータ50が収容された状態で、該インフレータ50を介して底壁48Aに固定されている。この前突エアバッグ52は、インフレータ50に対する前後両側でロール折りされると共に、図示しない保護布にて覆われて折り畳み状態が維持されている。この保護布は、バッグ膨張圧を受けると、図示しないミシン目状の切り込みにおいて破断され、前突エアバッグ52の展開を許容する構成になっている。
また、ラップバー24における底壁48Aと対向する天壁48Bには、前突エアバッグ52の膨張展開圧によって破断され開口するエアバッグドア54が形成されている。この実施形態に係るエアバッグドア54は、天壁48Bに形成した溝状のティアラインTL(図8(A)参照)において開裂されることで、側壁48Cとの角部をヒンジとして展開され、天壁48Bに開口を形成するようになっている。この開口を通じて、図2に示される如く前突エアバッグ52のラップバー24外への膨張展開が許容される構成である。
図2及び図3に示される如く、前突エアバッグ52は、着座乗員Pの前方に位置する車両構造物と着座乗員Pの上体との間で展開される構成とされている。運転席に適用された図2、図3の例では、車両構造物としてのステアリングホイールSWと着座乗員Pの上体との間で、前突エアバッグ52が展開される構成とされている。なお、図3に想像線にて示す前突エアバッグ52(符号52P)は、助手席用エアバッグの展開形状例であり、この例では車両構造物としてのインストルメントパネルIPと着座乗員Pの上体との間で、前突エアバッグ52が展開されることとなる。
インフレータ50のラップバー24への固定構造について補足すると、インフレータ50に固定され底壁48Aを貫通したスタッドボルト51Aにナット51Bが螺合されている。これにより、インフレータ50は、ラップバー24の底壁48Aに締結固定されている。また、この実施形態では、後述するベルトホルダ62が、スタッドボルト51Aにナット51Bによる共締めにて底壁48Aの外面側に固定されている。
(シートベルト装置の構成)
車両用乗員拘束装置10は、図2に示される如く、着座乗員Pの腰部を拘束するためのシートベルト装置55を備えている。シートベルト装置55は、着座乗員Pの腰部に装着されるラップベルト56と、ラップベルト56の長手方向の一端側を支持するリトラクタ58とを備えている。この実施形態に係るシートベルト装置55は、通常は図5及び図6に示される如くラップベルト56がラップディバイス20(アウタバー22及びラップバー24)に保持されるようになっている。一方、前面衝突時には、図2及び図3に示される如くラップベルト56が着座乗員Pの腰部に装着される構成とされている。以下、具体的に説明する。
ラップベルト56は、図5及び図8(A)に示される如く、ブーツ構造の基部32に挿通されてアウタバー22に保持されると共に、ベルト保持手段としてのベルトホルダ62を介してラップバー24に離脱可能に保持されている。図8(B)に示される如く、ベルトホルダ62は、ラップバー24の底壁48Aに固定される基板部62Aと、基板部62Aの幅方向両側において該基板部62Aの長手方向に離間された複数の保持爪62Bとを含んで構成されている。この実施形態では、基板部62Aと各保持爪62Bとは、連結壁62Cによって連結されている。これにより、ベルトホルダ62は、保持爪62Bの形成部位において、長手方向に直交する断面視で扁平C字状に形成されている。ベルトホルダ62は合成樹脂等で形成されており、各保持爪62Bは基板部62Aに対し接離する方向に弾性変形(撓み)可能とされている。
このベルトホルダ62は、その基板部62Aが上記したインフレータ50と共に、スタッドボルト51Aにナット51Bによって、ラップバー24の底壁48Aに共締め固定されている。この状態で、ラップベルト56は、基板部62Aと各保持爪62Bとの間に幅方向の両端側が入り込まされている。各保持爪62Bは、ラップベルト56に対しラップバー24側と反対側(着座乗員P側)から対向して該ラップベルト56の着座乗員P側への移動を規制している。これにより、ラップベルト56は、ラップバー24に対する厚み方向の移動がベルトホルダ62によって規制され、該ベルトホルダ62を介してラップバー24に保持される構成とされている。
図5に示される如く、ラップベルト56は、上記したブーツ構造の基部32に挿通されており、該基部32と軸22Aとの間に設けられたリトラクタ58に一端側が引き出し可能に巻き取られている。これにより、アウタバー22に対するラップバー24の伸長姿勢への変位やアジャスタ40によるラップバー24の位置調整の際にラップベルト56が弛むことなく出し入れされるようになっている。このリトラクタ58には、作動によってラップベルト56を強制的に巻き取る張力付与手段としてのプリテンショナ機構58Aが設けられている。プリテンショナ機構58Aは、一般的なリトラクタに設けられているもの(例えばガスジェネレータからのガスにより巻取軸を強制回転させるもの)と同様に構成されているので、詳細な説明は省略する。
一方、ラップベルト56の他端部には、ベルト結合手段を構成するベルト側タングプレート60が設けられている。ベルト側タングプレート60は、該ベルト側タングプレート60がバー側バックル38と隣接してインナバー26に設けられたベルト側バックル63に離脱可能に結合されるようになっている。
この実施形態では、ベルト側バックル63には、インナ側のラップベルト64の一端側が連結されており、ラップベルト64の他端側は、インナバー26の基部42と軸26Aとの間に設けられたリトラクタ66に引き出し可能に巻き取られている。これにより、アジャスタ40によるラップバー24の位置調整の際にラップベルト64が弛むことなく出し入れされるようになっている。図示は省略するが、リトラクタ66には、リトラクタ58のものと同様のプリテンショナ機構が設けられている。
そして、ベルト側バックル63は、バー側バックル38に対して、所要の外力を受けると離脱されるように保持されている。具体的には、リトラクタ58及びリトラクタ66のプリテンショナが作動すると、ベルト側バックル63は、バー側バックル38から脱落され、ラップベルト56、64、ベルト側タングプレート60と共に着座乗員Pの腰部に装着されるようになっている。したがって、この実施形態に係るシートベルト装置55は、ベルト側タングプレート60及びベルト側バックル63により結合されたままのラップベルト56、64がラップディバイス20から離脱されて着座乗員Pに装着される構成とされている。ラップベルト56の離脱構造について補足する。ラップベルト56は、張力を受けつつ短縮しようとすることでベルトホルダ62の各保持爪62Bを着座乗員P側に弾性変形させ、該各保持爪62Bによる保持から解放され、ベルトホルダ62すなわちラップバー24から離脱されるようになっている。一方、上記外力による離脱可能なバー側バックル38に対するベルト側バックル63の保持構造としては、各種構造を採用することができる。例えば、接着、上記の外力により破断や変形して保持を解除する係合構造、磁力や面状ファスナによる保持構造等を採用することができる。
(バックル構造)
バー側タングプレート36とベルト側タングプレート60とは、共通の結合動作(ワンアクション)でバー側バックル38、ベルト側バックル63に結合されるようになっている。すなわち、上記した通りバー側バックル38に保持されているベルト側バックル63に対して、バー側タングプレート36に保持されたベルト側タングプレート60が、共通の動作にて結合されるようになっている。
また、バー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60は、ラップバー24が格納姿勢をとる場合にラップバー24の長手方向に沿って位置し、使用姿勢に移行するのに伴ってバー側バックル38、ベルト側バックル63側を向く構成とされている。具体的には、バー側タングプレート36は、図7(A)に示される如くラップバー24に対し軸36A回りに回転可能に支持されている。また、ベルト側タングプレート60は、プレートホルダ68を介してバー側タングプレート36に離脱可能に保持されている。これにより、ベルト側タングプレート60は、通常はバー側タングプレート36と共に軸36A回りに回転可能とされている。プレートホルダ68は、保持片68Aによりベルト側タングプレート60を保持しており、リトラクタ58及びリトラクタ66のプリテンショナが作動すると、保持片68Aが弾性変形又は塑性変形することでバー側タングプレート36から離脱されるようになっている。
そして、バー側タングプレート36は、ラップバー24の格納姿勢においては図7(A)に示される如くラップバー24の長手方向に沿って位置する格納用姿勢に保持されている。一方、ラップバー24を伸長姿勢にすると、ラップベルト56が引き出されてリトラクタ58(の巻き取りばね)の巻取力が増すので、ベルト側タングプレート60に作用するリトラクタ58の巻取力が増す。このため、図7(B)に示される如く、バー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60が、リトラクタ58の巻取力によって矢印C側に倒れる結合準備姿勢に移行するようになっている。
これにより、ラップバー24が格納姿勢から使用姿勢に移行するのに伴って、バー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60がバー側バックル38及びベルト側バックル63を向く構成とされている。なお、ラップバー24を使用姿勢から格納姿勢に戻す際には、着座乗員Pによる手動で又は図示しないリターンスプリングの付勢力によってバー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60が格納用姿勢に復帰される構成とすることができる。リターンスプリングを用いる構成では、その付勢力はラップバー24の格納姿勢でのリトラクタ58の巻取力よりも強く、ラップバー24伸長姿勢でのリトラクタ58の巻取力よりも弱く設定される。また、バー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60は、手動で格納用姿勢に復帰する構成においては、摩擦力などでラップバー24の格納姿勢でのリトラクタ58の巻取力に抗して格納用姿勢に保持される。
(乗員保護ECUの構成)
図示は省略するが、車両用乗員拘束装置10は、制御装置としての乗員保護ECU(図示省略)を備えている。乗員保護ECUは、前突エアバッグ装置46のインフレータ50、リトラクタ58のプリテンショナ機構58A、及びリトラクタ66のプリテンショナ機構のそれぞれに電気的に接続されている。また、乗員保護ECUは、車両用乗員拘束装置10が適用された自動車の前面衝突を検知する前突検知センサ、バー側タングプレート36とバー側バックル38との結合を検知するバックルセンサに電気的に接続されている。バックルセンサは、ベルト側タングプレート60とベルト側バックル63との結合を検出するものであっても良い。乗員保護ECUは、前突検知センサから衝突検知信号が入力されると、前突エアバッグ装置46のインフレータ50、リトラクタ58、66の各プリテンショナ機構58A等を作動するようになっている。すなわち、前面衝突を検知した場合に、インフレータ50及び各プリテンショナ機構58A等を作動させるようになっている。これにより、本実施形態の作用の説明において後述するように、前突エアバッグ52及びラップベルト56、64によって着座乗員Pの前方への移動が拘束される構成とされている。
次に、実施形態の作用を説明する。
上記構成の車両用乗員拘束装置10では、乗員の乗降の際には、ラップディバイス20が格納位置に位置される。具体的には、アウタバー22及びラップバー24がシートクッション12の車幅方向外側の格納凹部28に格納され、インナバー26がシートクッション12の車幅方向内側の格納凹部30に格納される。このため、ラップディバイス20が着座乗員Pの乗降の妨げになることはない。
乗車して車両用シート11に着座した乗員は、格納位置にあるアウタバー22(及びラップバー24)、又はインナバー26を使用位置まで引き上げる。すると、連動機構により、アウタバー22及びインナバー26の非操作側のバーも共に使用位置に移行する。次いで着座乗員Pは、ラップバー24をアウタバー22に対し前方にスライドして伸長姿勢とし、さらに連結ピン24A回りに矢印B方向に回転させて使用姿勢とする。この動作に伴って、バー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60は、格納用姿勢(図7(A)参照)から結合準備姿勢(図7(B)参照)に移行する。これらバー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60をバー側バックル38及びベルト側バックル63に結合させると、着座乗員Pは、腹部がラップディバイス20にて前方側の3方から囲まれた状態となる。
さらに、着座乗員Pは、好みに応じてラップバー24の前後位置を調整する。ラップディバイス20による圧迫感を避ける場合は、該ラップバー24と腹部との間に隙間を維持しておくこととなる。一方、装着感(密着感)、拘束感(安心感)を優先する場合には、ラップバー24を腹部に近づけ、必要に応じて腹部に接触させることとなる。上記の通りバー側タングプレート36がバー側バックル38に結合されると、乗員保護ECUは、ラップディバイス20が使用位置に位置することを認識する。
この状態から乗員保護ECUは、前突検知センサから信号に基づいて前面衝突を検知すると、前突エアバッグ装置46のインフレータ50及びリトラクタ58、66の各プリテンショナ機構58A等を作動させる。すると、ラップベルト56及びラップベルト64は、リトラクタ58、66によって所定値以上の張力で引き込まれる。これにより、ベルト側バックル63がバー側バックル38から離脱されると共に、ラップベルト56がベルトホルダ62から離脱されて、ベルト側タングプレート60とベルト側バックル63とで連結されたラップベルト56、64が着座乗員Pの腰部に装着される。前方への慣性力が作用する着座乗員Pは、ラップベルト56、64によって前方への移動が抑制される(車両用シート11に拘束される)。
また、前突エアバッグ52が、その膨張展開圧にて保護布を破断すると共にティアラインTLを開裂させてエアバッグドア54を展開させる。これにより、前突エアバッグ52は、ラップバー24の外側で膨張する。前突エアバッグ52は、インフレータ50(ラップディバイス20)にて反力を支持されつつ、ステアリングホイールSW(インストルメントパネルIP)と着座乗員Pの上体との間で展開される。これにより、着座乗員Pの上体の前方移動が展開された前突エアバッグ52にて拘束される。
一方、自動車の衝突に至らず、着座乗員Pが降車する場合には、図示しない解除ボタンの操作によりバー側タングプレート36、ベルト側タングプレート60をバー側バックル38、ベルト側バックル63から離脱させる。共通の動作で上記2つの結合を解除可能とするように、解除ボタンが共通化されることが望ましい。この解除後は、装着時とは逆に、ラップバー24を使用姿勢から伸長姿勢を経て、格納姿勢に復帰させれば良い。格納姿勢への復帰に伴って、バー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60は、ラップバー24の長手方向に沿った姿勢に復帰する又は復帰される。この状態からアウタバー22又はインナバー26を格納位置に移動すると、左右のバーは連動して格納位置に至る。したがって、ラップディバイス20を構成するアウタバー22、ラップバー24が格納凹部28に格納されると共に、インナバー26が格納凹部30に格納される。着座乗員Pは、乗降口側に位置するラップバー24等に妨げられることなく、スムースに降車することができる。
ここで、車両用乗員拘束装置10では、不使用時には、アウタバー22及びラップバー24がシートクッション12の側縁部に沿う格納凹部28に格納されると共に、インナバー26がシートクッション12の側縁部に沿う形成された格納凹部30に格納される。このため、ラップディバイス20はコンパクトに格納され、不使用時にエアバッグを保持する可動体の格納スペースが小さく抑えられる。
特に、ラップディバイス20は、ラップバー24がアウタバー22及びインナバー26を介してシートクッション12に支持される両端支持構造であるため、片持ち構造の可動体を採用する比較例と比較して、ラップバー24に要求される剛性、強度が小さい。しかも、ラップバー24が保持する前突エアバッグ装置46の前突エアバッグ52は、ステアリングホイールSW(インストルメントパネルIP)にて反力が支持されるので、ラップバー24には前突エアバッグ52の反力を支持する強度、剛性が要求されない。また、ラップベルト56は、前突時には着座乗員Pに直接的に装着され、ラップバー24に乗員拘束荷重を支持させる必要がない。これらにより、上記比較例と比較してラップバー24をコンパクトに形成することができる。さらに、ラップバー24には前突エアバッグ装置46及びラップベルト56が保持されているので、前後両側に展開する2つのエアバッグ装置を保持する可動体を採用する比較例と比較して、ラップバー24を一層コンパクトに構成することができる。以上のようにコンパクトに構成されるラップバー24は、該ラップバー24を含むラップディバイス20の格納スペースを小型化することに寄与する。
またここで、車両用乗員拘束装置10では、上記の通り通常は、着座乗員Pの腰部を拘束するためのラップベルト56が、ラップディバイス20のラップバー24に保持されている。このため、通常時にラップディバイス20、ラップベルト56が着座乗員Pに対し直接的(肉体的)な圧迫(拘束)感を与えることがない。また、ラップディバイス20は、アジャスタ40によって、着座乗員Pの腹部に対するラップバー24の位置(距離)を調整し得る。このため、着座乗員Pは、好みに応じて、ラップディバイス20による圧迫感の回避を優先してラップバー24を非接触としたり、ラップディバイス20による装着感や拘束感を優先してラップバー24を腹部に接触させたりする選択が可能である。
さらに、バー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60は、格納姿勢のラップバー24に対し該ラップバー24の長手方向に沿って位置するので、ストレートな格納凹部28にラップバー24及びアウタバー22をコンパクトに格納することができる。また、ラップバー24の格納姿勢から使用姿勢への移行に伴ってバー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60が結合準備姿勢に至るため、ラップバー24のインナバー26への結合動作が容易である。
またさらに、通常の3点式シートベルト装置のバックルに相当するインナバー26が、該バックルと同様に車幅方向内側に配置されているため、着座乗員Pは違和感なくラップバー24等を操作して該ラップバー24をインナバー26に装着させることができる。そして、インナバー26に対して大型部品であるラップバー24をアウタバー22と共に格納凹部28内にコンパクトに格納する構成によって、換言すれば、ラップバー24が乗降を妨げない構成によって、上記インナバー26の配置が得られた。
さらにここで、車両用乗員拘束装置10では、リトラクタ58、66の作動により着座乗員Pの腰部に装着されるラップベルト56にて、該着座乗員Pの腰部を拘束する構成とされている。このため、例えばラップバー24から腰部に向けて展開されるエアバッグにて着座乗員Pの腰部を拘束する比較例と比較して、前面衝突の検知から短時間で乗員への装着状態とすることができる。これにより、車両用乗員拘束装置10では、通常時に着座乗員Pに与える圧迫感を抑え得る構成において、前面衝突時の初期拘束性能を向上することができる。
また、前突エアバッグ52は、ラップバー24からステアリングホイールSW(インストルメントパネルIP)と乗員Pとの間に展開される構成であるため、ウインドシールドガラスにて反力が支持される構成とする必要がない。このため、前突エアバッグ52の容量を小容量化することができる。特に、上下方向に扁平とされた薄型のインストルメントパネルを採用する自動車の場合、該インストルメントパネルに前突用エアバッグを配設する構成では、通常のインストルメントパネルを採用する自動車の場合と比較して、該エアバッグの容量が大きくなる。
これに対して車両用乗員拘束装置10では、上記の通り前突エアバッグ52にはウインドシールドガラスによる反力の支持が要求されないので、薄型のインストルメントパネルを採用した構成においても、前突エアバッグ52の容量が小さく抑えられる。また。前突時における着座乗員Pの移動方向と前突エアバッグ52の展開方向とが共に車両前方であるため、前突エアバッグ52による着座乗員Pへの負荷が小さい。
また、車両用乗員拘束装置10では、ラップベルト56を所定値以上の張力で引き込むことで、ラップベルト56がベルトホルダ62から離脱されると共にベルト側バックル63がバー側バックル38から離脱される。すなわち、シートベルト装置55がラップディバイス20から離脱されてラップベルト56、64が着座乗員Pの腰部に直接的に装着される。
なお、上記した実施形態では、ラップバー24が乗降側に配置されたアウタバー22と共に格納凹部28に格納される例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ラップバー24が車幅方向内側に配置されたインナバー26と共に格納凹部30に格納される構成としても良い。
また、上記した実施形態では、ラップベルト64、リトラクタ66がインナバー26側に設けられた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、一端にベルト側バックル63が連結されると共に他端がアンカによりシートクッション12に固定された可撓性のステーを設けた構成としても良い。この構成では、リトラクタ58のプリテンショナ機構58Aからの張力によって、ベルト側バックル63がベルト側タングプレート60から離脱すると、上記ステーがラップベルト56と共に着座乗員Pの腰部に装着されることとなる。
さらに、上記した実施形態では、ベルトホルダ62がラップベルト56を離脱可能にラップバー24に保持する例を示したが、本発明はこれに限定されない。ベルト保持手段は、ラップベルト56を離脱可能にラップバー24に保持するものであれば足り、例えば、マグネットや面状ファスナ等の他の構成を採用することができる。また、マグネットや面状ファスナ等を採用することで、衝突予測後に衝突に至らなかったケースにおいて、ラップベルト56をラップバー24に再保持させることが可能になる。
またさらに、上記した実施形態では、バー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60がリトラクタ58の巻取力で格納用姿勢から結合準備姿勢に移行する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ガイド部34に対するラップバー24の姿勢変化(回転やスライド)に連動するリンク機構等によってバー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60が格納用姿勢から結合準備姿勢に移行する構成としても良い。また、アクチュエータの動力でバー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60が格納用姿勢から結合準備姿勢に移行する構成としても良い。さらに、バー側タングプレート36及びベルト側タングプレート60を格納用姿勢から結合準備姿勢に移行させる構造を有しない構成としても良い。
また、上記した実施形態では、車両用乗員拘束装置10が運転席又は助手席に適用された例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、複数列のシートを有する車両の2列目以降のシートに車両用乗員拘束装置10を適用しても良い。
さらに、上記した実施形態では、格納位置にあるアウタバー22(及びラップバー24)又はインナバー26を乗員によって使用位置まで引き上げる例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、乗員の着座を検出して電気モータを作動させて、アウタバー22及びインナバー26を格納位置から使用位置へ自動的に移動させる構成としても良い。