本発明の第1の実施形態に係る車両用乗員拘束装置10について、図1〜図11に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP、矢印OUTは、それぞれ車両用乗員拘束装置10が適用された自動車の前方向、上方向、車幅方向の外側を示している。自動車の前方向、上方向、車幅方向は、車両用乗員拘束装置10が適用された車両用シート11の前方向、上方向、幅方向に略一致している。以下、単に前後、上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両上下方向の上下を示すものとする。
図1には、車両用乗員拘束装置10が適用された車室内部が平面図にて示されている。この図に示される如く、車両用シート11は、乗員が前方を向いて着座するように設けられている。この車両用シート11は、着座部を成すシートクッション12と、該シートクッション12の後端部に下端部が接続されバックレストを成すシートバック14と、シートバック14の上端に設けられたヘッドレスト16とを主要部として構成されている。図示例では、車両用シート11は運転席とされており、車体における車幅方向の中央部に配置されたセンタコンソール18に対し該車幅方向の一方側に配置されている。なお、図示は省略するが、助手席である車両用シート11に対しても車両用乗員拘束装置10が設けられている。
(支持構造体の構成)
車両用乗員拘束装置10は、後述する前突エアバッグ装置34及びラップベルト56を着座乗員Pの保護可能な位置で支持するラップディバイス20を備えている。ラップディバイス20は、図1に実線にて示す使用位置と、同図に想像線にて示す格納位置とをとり得るベース部としてのラップバー22を備えている。図7はラップバー22の使用位置(ラップディバイス20の使用形態)を示す斜視図(着座乗員Pの図示は省略)、図6はラップバー22の格納位置(ラップディバイス20の乗降許容形態形態)を示す斜視図である。
これらの図にも示される如く、使用位置に位置するラップバー22は、車両用シート11の着座乗員P(以下、単に「着座乗員P」という)の腹部の前方に離間しつつ、該腹部に対向するようになっている。一方、格納位置に位置するラップバー22は、平面視で、車両用シート11(シートクッション12)の車幅方向内側の側縁部12A、すなわちセンタコンソール18に沿って前後に延びる姿勢をとるようになっている。
ラップバー22の車幅方向内端部は、図6、図7及び格納位置の車室内側から見た側面図である図3に示される如く、下端がシートクッション12の後部に支持された支持部としてのインナバー24の上端に連結されている。ラップバー22とインナバー24とは、インナバー24の長手方向との直交面に略沿った連結部位において、該長手方向に沿った軸25(図3(A)参照)周りに相対回転可能とされている。主に軸25周りの相対回転によって、ラップバー22は、格納位置と使用位置とが切り換えられる構成とされている。すなわち、ラップディバイス20の格納位置及び使用位置は、インナバー24に対するラップバー22の移動(姿勢変化)によって切り換えられるようになっている。なお、ラップディバイス20は、インナバー24に対する軸25周りの回転によって使用位置の近傍に至り、その状態から後述するバックル機構60を結合する動作を経て使用位置に至る構成とされている。バックル機構60を結合する動作の動作代は、ラップバー22自体の撓み、ラップバー22とインナバー24との連結部の遊び等によって設定されている。
このラップバー22は、その両端を除く中間部が、図3に示す格納位置において上向きに凸を成し、図1及び図7に示す使用位置において前上向きに凸を成す湾曲形状とされている。より具体的には、ラップバー22は、平面視で弓状を成す中間部22Aの長手方向両端から、それぞれ略ストレートな接続部22Bが使用位置における略後下方に延設された構成とされている。これにより、ラップバー22は、曲げたり伸ばしたりすることなく、主に上記したインナバー24との相対回転動作に伴って、格納位置から使用位置へ移動(姿勢変化)する形状に形成されている。格納位置でラップバー22のインナバー24側とは反対側の端部は、着座乗員Pの膝近傍に位置する構成とされている。なお、ラップバー22のアウタバー30への連結については、ラップバー22の使用位置への位置出しと捉えても良く、ラップバー22の使用位置での保持(ロック)と捉えても良い。
また、インナバー24の下端は、図3に示される如く、シートクッション12の後部に対し車幅方向に沿った軸26周りに相対回転可能に支持されている。これにより、インナバー24は、ラップディバイス20(ラップバー22)の使用位置と格納位置との切り換えの際等に軸26周りに適宜回転されるようになっている。インナバー24は、ラップバー22が格納位置に位置する場合は、図3(A)に示される如く、インナバー24は使用位置よりも鉛直に近づくように立ち上がった回転位置に位置する構成とされている。また、図示は省略するが、ラップバー22の使用位置と格納位置との切り換えの際には、ステアリングホイール48はチルト機能により該ラップバー22の動作範囲から外れて位置するようになっている。
一方、シートクッション12に対する車幅方向外側には、ラップバー22の車幅方向外端が着脱される被連結部としてのアウタバー30が配置されている。アウタバー30は、下端側において軸26と同軸の図示しない軸31(図6、7参照)周りに回転可能にシートクッション12に支持されている。このアウタバー30の上端部とラップバー22の車幅方向外端との間には、これらが解除可能に連結されるバー連結構造32が設けられている。この実施形態におけるバー連結構造32は、後述するシートベルト装置54のバックル機構60が兼ねている。
(前突エアバッグの構成)
図1に示される如く、以上説明したラップディバイス20のラップバー22には、前面衝突(前突)に対する着座乗員Pの拘束(保護)用の前突エアバッグ装置34が配設されている。前突エアバッグ装置34は、使用位置のラップバー22における着座乗員Pの前方に位置する部分(湾曲部分)に、該ラップバー22の長手方向に沿って配置されている。
具体的には、図8(A)に示される如く、少なくとも前突エアバッグ装置34の配設範囲でラップバー22は中空構造とされており、該ラップバー22の内部空間であるエアバッグ収容部36内に前突エアバッグ装置34が配置されている。前突エアバッグ装置34は、作動によりガスを発生する前突ガス供給手段としてのインフレータ38と、インフレータ38からのガス供給を受けて膨張、展開されるエアバッグとしての前突エアバッグ40とを主要部として構成されている。
インフレータ38は、ラップバー22の幅方向中央部で、該ラップバー22における着座乗員P側を向く底壁22Cに固定されている。前突エアバッグ40は、その内側にインフレータ38が収容された状態で、該インフレータ38を介して底壁22Cに固定されている。この前突エアバッグ40は、インフレータ38に対する前後両側でロール折りされると共に、図示しない保護布にて覆われて折り畳み状態が維持されている。この保護布は、バッグ膨張圧を受けると、図示しないミシン目状の切り込みにおいて破断され、前突エアバッグ40の展開を許容する構成になっている。
また、ラップバー22における底壁22Cと対向する天壁22Dには、前突エアバッグ40の膨張展開圧によって破断され開口するエアバッグドア44が形成されている。この実施形態に係るエアバッグドア44は、天壁22Dに形成した溝状のティアラインTL(図8参照)において開裂されることで、側壁22Eとの角部をヒンジとして展開され、天壁22Dに開口を形成するようになっている。この開口を通じて、図5に示される如く前突エアバッグ40のラップバー22外への膨張展開が許容される構成である。
図2及び図5に示される如く、前突エアバッグ40は、着座乗員Pの前方に位置する車両構造物と着座乗員Pの上体との間で展開される構成とされている。運転席に適用された図2の例では、車両構造物としてのステアリングホイール48と着座乗員Pの上体との間で、前突エアバッグ40が展開される構成とされている。なお、図5に想像線にて示す前突エアバッグ40(符号40P)は、助手席用エアバッグの展開形状例であり、この例では車両構造物としてのインストルメントパネル46と着座乗員Pの上体との間で、前突エアバッグ40が展開されることとなる。助手席用の車両用乗員拘束装置10は、前突エアバッグ40(インフレータ38の容量)以外は、運転席用の車両用乗員拘束装置10と同様に(略左右対称に)構成されている。
インフレータ38のラップバー22への固定構造について補足すると、インフレータ38に固定され底壁22Cを貫通したスタッドボルト50にナット52が螺合されている。これにより、インフレータ38は、ラップバー22の底壁22Cに締結固定されている。また、この実施形態では、後述するベルトホルダ62が、スタッドボルト50及びナット52による共締めにて底壁22Cの外面側に固定されている。
(シートベルト装置の構成)
車両用乗員拘束装置10は、図2に示される如く、着座乗員Pの腰部を拘束するためのシートベルト装置54を備えている。シートベルト装置54は、着座乗員Pの腰部に装着されるラップベルト56と、ラップベルト56の長手方向の一端側を支持するプリテンショナ装置58と、ラップベルト56の他端側をアウタバー30に対し着脱するバックル機構60とを備えている。この実施形態に係るシートベルト装置54は、通常は図4に示される如くラップベルト56がラップディバイス20(ラップバー22)に保持され、前面衝突時に図2及び図5に示される如くラップベルト56が着座乗員Pの腰部に装着される構成とされている。以下、具体的に説明する。
ラップベルト56は、図8(A)に示される如く、ベルト保持手段としてのベルトホルダ62を介してラップバー22に保持されている。図8(B)に示される如く、ベルトホルダ62は、ラップバー22の底壁22Cに固定される基板部62Aと、基板部62Aの幅方向両側において該基板部62Aの長手方向に離間された複数の保持爪62Bとを含んで構成されている。この実施形態では、基板部62Aと各保持爪62Bとは、連結壁62Cによって連結されている。これにより、ベルトホルダ62は、保持爪62Bの形成部位において、長手方向に直交する断面視で扁平C字状に形成されている。ベルトホルダ62は合成樹脂等で形成されており、各保持爪62Bは基板部62Aに対し接離する方向に弾性変形(撓み)可能とされている。
このベルトホルダ62は、その基板部62Aが上記したインフレータ38と共に、スタッドボルト50及びナット52によって、ラップバー22の底壁22Cに共締め固定されている。この状態で、ラップベルト56は、基板部62Aと各保持爪62Bとの間に幅方向の両端側が入り込まされている。各保持爪62Bは、ラップベルト56に対しラップバー22側と反対側(着座乗員P側)から対向して該ラップベルト56の着座乗員P側への移動を規制しており、本発明の保持部材、保持片に相当する。これにより、ラップベルト56は、ラップバー22に対する厚み方向の移動がベルトホルダ62によって規制され、該ベルトホルダ62を介してラップバー22に保持される構成とされている。
また、ベルトホルダ62の各保持爪62Bは、ラップベルト56が後述するプリテンショナ装置58の作動により所定値以上の張力を受けつつ引き込まれると、該ラップベルト56から受ける厚み方向で着座乗員P側への荷重によって撓むようになっている。すなわち、ベルトホルダ62の各保持爪62Bは、上記張力を受けつつ引き込まれるラップベルト56からの荷重によって、弾性的に曲げ変形され、ラップベルト56のベルトホルダ62すなわちラップバー22からの離脱を許容する構成とされている。なお、ベルトホルダ62は、長手方向に複数に分割された構成としても良い。
図3(A)及び図5に示される如く、ラップベルト56の一端は、インナバー24を通じて車両用シート11後部の車幅方向外側(シートクッション12下方でも良い)に配置されたプリテンショナ装置58に引き込み可能に接続されている。すなわち、ラップベルト56は、プリテンショナ装置58を介して車両用シート11に支持されている。
図3(B)に示される如く、プリテンショナ装置58は、巻き軸58Aと、フレーム58Bと、ガスジェネレータ58Cとを含んで構成されている。フレーム58Bに回転可能に支持された巻き軸58Aには、ラップベルト56の端部が巻き回されている。フレーム58Bに取り付けられたガスジェネレータ58Cは、作動により巻き軸58Aを巻き取り方向に駆動する。このプリテンショナ装置58は、ラップベルト56をガスジェネレータ58Cの作動により、所定値以上の張力(後述)で引き込む機能を果たす構成とされている。
この実施形態では、プリテンショナ装置58のフレーム58Bはインナバー24の下端側に固定されると共に、軸26周りに回転可能に支持されている。換言すれば、インナバー24はプリテンショナ装置58を介して軸26周りに回転可能に支持されている。なお、図3(B)には、ラップベルト56を直接巻き取るリトラクタタイプのプリテンショナ装置58を用いた例を示したが、プリテンショナ装置58としてはラップベルト56に連結されたワイヤを引き込むタイプのものを用いても良い。このワイヤ引き込みタイプのプリテンショナ装置58については、軸26周りに回転可能とはせず、シートクッション12に固定しても良い。
一方、図3(A)及び図6に示される如く、ラップベルト56の他端には、バックル機構60を構成する結合部としてのタングプレート60Aが取り付けられている。バックル機構60は、タングプレート60Aが着脱される被結合部としてのバックル部60Bを有する。バックル部60Bは、ラップディバイス20を構成するアウタバー30に一体化されており、タングプレート60Aが結合されることで、ラップベルト56のアンカとして機能する構成とされている。また、この実施形態では、バックル機構60は、ラップディバイス20とアウタバー30とのバー連結構造32を兼ねている。すなわち、タングプレート60Aがラップバー22の使用位置における車幅方向端部に固定されると共に、バックル部60Bがアウタバー30の上端部に一体化(固定)されている。
(側突エアバッグの構成)
また、図6及び図7に示される如く、車両用乗員拘束装置10は、側突エアバッグ装置72を備えている。側突エアバッグ装置72は、着座乗員Pの胸部及び頭部の車幅方向外側への移動を拘束する上部サイドエアバッグ装置74と、着座乗員Pの腰部の車幅方向外側への移動を拘束する下部サイドエアバッグ装置76とを含んで構成されている。
上部サイドエアバッグ装置74は、車両用シート11のシートバック14内に設けられている。上部サイドエアバッグ装置74は、側突ガス供給手段としてのインフレータ74Aの作動によって、図9に示される如く、側突エアバッグとしてのサイドエアバッグアッパ74Bが着座乗員Pの頭部及び胸部に対する車幅方向外側で展開される構成とされている。上部サイドエアバッグ装置74は、公知のシートバック付けサイドエアバッグ装置と同様の構成を採用しているので、詳細説明は省略する。
下部サイドエアバッグ装置76は、アウタバー30内に設けられている。下部サイドエアバッグ装置76は、側突ガス供給手段としてのインフレータ76Aの作動によって側突エアバッグ又は下部サイドエアバッグとしてのサイドエアバッグロア76Bが着座乗員Pの腰部に対する車幅方向外側で展開される構成とされている。具体的には、図10に示される如く、少なくとも前突エアバッグ装置34の配設範囲でアウタバー30は中空構造とされており、該アウタバー30の内部空間であるエアバッグ収容部78内に下部サイドエアバッグ装置76が配置されている。サイドエアバッグロア76Bは、その内側にインフレータ76Aが収容された状態で、エアバッグ収容部78内でロール折りされると共に、図示しない保護布にて覆われて折り畳み状態が維持されている。この保護布は、バッグ膨張圧を受けると、図示しないミシン目状の切り込みにおいて破断され、サイドエアバッグロア76Bの展開を許容する構成になっている。
また、アウタバー30における車幅方向内側を向く内側壁30Aには、サイドエアバッグロア76Bの膨張展開圧によって破断され開口するエアバッグドア79が形成されている。この実施形態に係るエアバッグドア79は、内側壁30Aに形成した溝状のティアラインTLにおいて開裂されることで、サイドエアバッグロア76Bのアウタバー30外への膨張展開を許容する構成とされている。
(乗員保護ECUの構成)
図11にブロック図にて示される如く、車両用乗員拘束装置10は、制御装置としての乗員保護ECU66を備えている。乗員保護ECU66は、前突エアバッグ装置34のインフレータ38、プリテンショナ装置58のガスジェネレータ58Cのそれぞれに電気的に接続されている。また、乗員保護ECU66は、車両用乗員拘束装置10が適用された自動車の前面衝突を検知する前突検知センサ64、バックル機構60のタングプレート60Aとバックル部60Bとの結合を検知するバックルセンサ68に電気的に接続されている。バックルセンサ68は、ラップディバイス20のラップバー22とアウタバー30との連結(ラップバー22の装着)を検知するセンサとしても捉えることができる。
乗員保護ECU66は、前突検知センサ64から衝突検知信号が入力されると(前突検知センサ64からの信号に基づき衝突を検知すると)、プリテンショナ装置58及び前突エアバッグ装置34を作動するようになっている。すなわち、前面衝突を検知した場合に、インフレータ38及びガスジェネレータ58Cを作動させるようになっている。これにより、本実施形態の作用の説明において後述するように、前突エアバッグ40及びラップベルト56によって着座乗員Pの前方への移動が拘束される構成とされている。
この実施形態では、乗員保護ECU66は、さらに側突検知センサ65、及び側突エアバッグ装置72を構成するインフレータ74A、76Aのそれぞれに電気的に接続されている。そして、側突検知センサ65から衝突検知信号が入力されると(側突検知センサ65からの信号に基づき衝突を検知すると)、インフレータ74A、76Aを作動するようになっている。これにより、着座乗員Pの車幅方向外側でサイドエアバッグアッパ74B及びサイドエアバッグロア76Bによって着座乗員Pの車幅方向外側への移動が拘束される構成とされている。なお、側面衝突の際の上部サイドエアバッグ装置74、下部サイドエアバッグ装置76の作動については、公知のシートバック付けサイドエアバッグ装置と同様であるため、その作用の説明は省略する。
さらに、乗員保護ECU66は、前突検知センサ64から衝突検知信号が入力された場合に、側突エアバッグ装置72のインフレータ76Aを作動させる構成とされている。すなわち、乗員保護ECU66は、衝突相手方車両との車幅方向ラップ量が微小なオフセット前面衝突(以下、「微小ラップ前面衝突」という)を含む前面衝突の全態様において、インフレータ76Aを作動させるようになっている。
より具体的には、乗員保護ECU66は、前突検知センサ64から衝突検知信号が入力された場合に、インフレータ38を作動させてから所定時間の経過後にインフレータ76Aを作動させる構成とされている。所定時間は、前突エアバッグ40による着座乗員Pの拘束により該着座乗員Pの車幅方向外側への移動(この作用は後述)が開始されると予測される時間に基づいて設定されており、一定時間としても良く、衝突時の車速等に応じて変化されるようにしても良い。この実施形態では、乗員保護ECU66は、上記した如く前面衝突の際に、インフレータ38と共にインフレータ76Aも作動させるようになっている。
次に、第1の実施形態の作用を説明する。
上記構成の車両用乗員拘束装置10では、乗員の乗降の際には、ラップバー22が格納位置に位置される。格納位置が車両用シート11に対する車幅方向内側とされているので、ラップバー22が乗降を阻害することがなく、乗員はスムースに乗降する。乗車して車両用シート11に着座した乗員は、格納位置にあるラップバー22を軸25周りに回転することで該ラップバー22を使用位置近傍に移動させる。次いで、着座乗員Pがタングプレート60Aをバックル部60Bに結合することで、ラップバー22が通常使用位置に至る。この通常使用位置では、前突エアバッグ装置34及びラップベルト56を保持したラップバー22を含むラップディバイス20の各部が、着座乗員Pの腹部から前方(前側方)に離間して位置している。この場合、バックルセンサ68からのバックル結合信号が乗員保護ECU66に入力されており、乗員保護ECU66は、ラップバー22が使用位置に位置することを認識している。
この状態から乗員保護ECU66は、前突検知センサ64から衝突検知信号が入力されると、インフレータ38及びガスジェネレータ58Cを作動させる。すると、ラップベルト56は、プリテンショナ装置58によって所定値以上の張力で引き込まれることで、各保持爪62Bを撓ませつつベルトホルダ62すなわちラップバー22から離脱される。これにより、ラップベルト56は、着座乗員Pの腰部に装着され、該着座乗員Pの腰部の前方移動を拘束する。
また、前突エアバッグ40が、その膨張展開圧にて保護布を破断すると共にティアラインTLを開裂させてエアバッグドア44を展開させる。これにより、前突エアバッグ40は、ラップバー22の外側で膨張する。前突エアバッグ40は、インフレータ38(ラップディバイス20)にて反力を支持されつつ、ステアリングホイール48(インストルメントパネル46)と着座乗員Pの上体との間で展開される。これにより、着座乗員Pの上体の前方移動が展開された前突エアバッグ40にて拘束される。
ところで、上記の前面衝突が微小ラップ衝突である場合、着座乗員Pには前方への慣性力の他に衝突側への慣性力が作用する。したがって、微小ラップ衝突の衝突側に着座している着座乗員Pは、車幅方向外向き成分を含む斜め前方に(例えばフロントピラーに向けて)移動され、この移動が前突エアバッグ40にて拘束される。この場合、前突エアバッグ40の後面が曲面であるため、該前突エアバッグ40からの反発で着座乗員Pの車幅方向外向きの移動が助長される懸念がある。
ここで、車両用乗員拘束装置10では、乗員保護ECU66は、前突検知センサ64から衝突検知信号が入力されると、上記したインフレータ38の作動から所定時間経過後に、インフレータ76Aを作動させる。すると、図2に示される如く、着座乗員Pの車幅方向外側でサイドエアバッグロア76Bが膨張、展開される。このため、上記の前面衝突が微小ラップ衝突であっても、衝突側の着座乗員Pの車幅方向外向側への移動がサイドエアバッグロア76Bによって抑制される。
例えばインフレータ38の作動と同時にインフレータ76A等を作動させる比較例では、前突エアバッグ40に対し容量の小さいサイドエアバッグロア76B等が先行して展開される。この場合、着座乗員Pの車幅方向外側への移動が助長されようとするタイミングでサイドエアバッグロア76B等の内圧が低下してしまい、着座乗員Pの車幅方向外側への移動を十分に抑制できない可能性がある。これに対して車両用乗員拘束装置10では、上記の通りインフレータ76Aの作動をインフレータ38の作動に対し所定時間だけ遅らせる。これにより、着座乗員Pの車幅方向外側への移動が助長されようとするタイミングで、サイドエアバッグロア76B等により着座乗員Pの車幅方向外側へ移動を拘束することができる。
特に、サイドエアバッグロア76Bは、着座乗員Pの腰部に対する車幅方向外側で展開されるため、該着座乗員Pの車幅方向外向きの移動を腰部において効果的に抑制(拘束)することができる。また特に、サイドエアバッグロア76Bがラップディバイス20を構成するアウタバー30から展開されるため、サイドエアバッグロア76Bは、アウタバー30にてしっかりと反力を支持されつつ着座乗員Pの車幅方向外向きの移動を効果的に抑制する。
このように、第1の実施形態に係る車両用乗員拘束装置10では、微小ラップ前面衝突の際に、車両用シート11の着座乗員Pが車幅方向外側に移動されることが抑制される。
またここで、車両用乗員拘束装置10では、上記の通り通常は、着座乗員Pの腰部を拘束するためのラップベルト56が、該着座乗員Pの腹部に対し非接触とされているラップディバイス20のラップバー22に保持されている。このため、通常時にラップディバイス20、ラップベルト56が着座乗員Pに対し直接的(肉体的)な圧迫(拘束)感を与えることがない。
そして、車両用乗員拘束装置10では、プリテンショナ装置58の作動により着座乗員Pの腰部に装着されるラップベルト56にて、該着座乗員Pの腰部を拘束する構成とされている。このため、例えばラップバー22から腰部に向けて展開されるエアバッグにて着座乗員Pの腰部を拘束する比較例と比較して、前面衝突の検知から短時間で乗員への装着状態とすることができる。したがって、通常時に着座乗員Pに与える圧迫感を抑えつつ、前面衝突時の初期拘束性能を向上することができる。
また、前突エアバッグ40は、ラップバー22からステアリングホイール48(インストルメントパネル46)と乗員Pとの間に展開される構成であるため、ウインドシールドガラスにて反力が支持される構成とする必要がない。このため、前突エアバッグ40の容量を小容量化することができる。特に、上下方向に扁平とされた薄型のインストルメントパネルを採用する自動車の場合、該インストルメントパネルに前突用エアバッグを配設する構成では、通常のインストルメントパネルを採用する自動車の場合と比較して、該エアバッグの容量が大きくなる。
これに対して車両用乗員拘束装置10では、上記の通り前突エアバッグ40にはウインドシールドガラスによる反力の支持が要求されないので、薄型のインストルメントパネルを採用した構成においても、前突エアバッグ40の容量が小さく抑えられる。
また、車両用乗員拘束装置10では、ラップベルト56を所定値以上の張力で引き込むことで、ベルトホルダ62の各保持爪62Bにて保持されていたラップベルト56は、該各保持爪62Bを着座乗員P側に撓ませながらラップバー22から離脱される。このように簡単な構造で、ラップベルト56を離脱可能にラップバー22に保持するベルト保持手段が構成される(ベルト保持機能が実現される)。さらに、各保持爪62Bは、ラップベルト56のラップバー22からの離脱後には自らの弾性で復元するので、例えば塑性変形によりラップベルト56の離脱を許容する構成と比較して、衝突後のベルトホルダ62の処理が容易である。
さらに、前突エアバッグ装置34を着座乗員Pの前方で支持するラップバー22にラップベルト56が保持され、ラップバー22をアウタバー30に連結する動作に伴ってラップベルト56側のタングプレート60Aとバックル部60Bとが結合される。すなわち、ラップバー22をアウタバー30に連結する1アクションで、ラップベルト56の結合も果たされ、装着性が良好である。特に、バックル機構60がラップバー22のアウタバー30への連結機能、ラップベルト56のアウタバー30(アンカ)への連結機能を兼ねるので構造が簡単である。
またさらに、ラップディバイス20を構成し使用位置で乗員の腹部を前方から囲むように湾曲されたラップバー22が、格納位置においても湾曲形状とされている。このため、ラップディバイス20は、バックル機構60の結合、解除のための微動作を除いて、ラップバー22をインナバー24に対し軸25周りに回転させる動作によって、ラップバー22の使用位置と格納位置とを切り換えることができ、装着性が良好である。
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る車両用乗員拘束装置80について、図12〜図15に基づいて説明する。なお、上記第1の形態の構成と基本的に同様の構成については、上記第1の形態の構成と同一の符号を付して、その説明、図示を省略する場合がある。
図12には、図1に対応する平面図が示されており、図13には、図2に対応する平面図が示されている(図13では、展開したサイドエアバッグロア76Bを一部切り欠いて図示している)。これらの図に示される如く、車両用乗員拘束装置80は、バックル機構60が兼ねるバー連結構造32に代えて、バー連結構造82及びバックル機構84を備える点で、第1の実施形態に係る10とは異なる。
具体的には、図15に示される如く、バー連結構造82は、ラップバー22に固定されたタングプレート82Aと、アウタバー30に設けられタングプレート82Aが着脱されるバックル部82Bとを主要部として構成されている。一方、バックル機構84は、ラップベルト56に設けられた結合部としてのタングプレート84Aと、タングプレート84Aが着脱される被結合部としてのバックル部84B及びバックルステー84Cとを主要部として構成されている。
バックルステー84Cは、バックル部84Bが固定された一端側とは反対の端部が、アウタバー30と共に軸31周りに回転可能に支持されており、該支持部がラップベルト56のアンカとされる。このバックルステー84Cは、可撓性を有する長尺平板状を成しており、バックル機構84の結合状態では長手方向及び厚み方向がラップベルト56の長手方向及び厚み方向に略一致される配置とされている。バックルステー84Cは、プリテンショナ装置58の作動により作用するラップベルト56の張力によって、厚み方向に撓ませられるようになっている。
このバックルステー84Cは、ベルトホルダ62と似た構造を有するステーホルダ86を介してアウタバー30に保持されている。ステーホルダ86は、アウタバー30に固定される基板部86Aと、基板部86Aの幅方向両側において該基板部86Aの長手方向に離間された複数の保持爪86Bと、各保持爪86Bと基板部86Aとを繋ぐ連結壁86Cとを有する。これにより、ステーホルダ86は、保持爪86Bの形成部位において、長手方向に直交する断面視で扁平C字状に形成されている。ステーホルダ86は合成樹脂等で形成されており、各保持爪86Bは基板部86Aに対し接離する方向に弾性変形(撓み)可能とされている。
バックルステー84Cは、基板部86Aと各保持爪86Bとの間に幅方向の両端側が入り込まされている。すなわち、各保持爪86Bは、バックルステー84Cに対しアウタバー30側と反対側から対向して該バックルステー84Cの車幅方向内側(着座乗員P側)への移動を規制する保持部材、保持片と捉えることができる。これにより、バックルステー84Cは、アウタバー30に対する厚み方向の移動がステーホルダ86によって規制され、該ステーホルダ86を介してラップバー22に保持される構成とされている。
また、ステーホルダ86の各保持爪86Bは、ラップベルト56がプリテンショナ装置58の作動により所定値以上の張力を受けつつ引き込まれると、上記の通り車幅方向内側に撓むバックルステー84Cから受ける厚み方向の荷重によって撓むようになっている。これにより、ラップベルト56に所定値以上の張力が作用した場合にバックルステー84Cは、ステーホルダ86すなわちアウタバー30から着座乗員P側への離脱が許容される構成とされている。なお、ステーホルダ86は、長手方向に複数に分割された構成としても良い。
ベルトホルダ62及びステーホルダ86は、タングプレート84A及びバックル部84Bのガタつきが許容範囲に納まるように、ラップベルト56、バックルステー84Cとの遊びが設定されている。この許容範囲は、タングプレート82Aをバックル部82Bに結合する動作に伴って、タングプレート84Aがバックル部84Bに結合(誘導)される範囲とされている。
以上説明したように車両用乗員拘束装置80では、バックル機構84での結合によりラップベルト56と連結されたバックルステー84Cがラップベルト56と共に着座乗員Pに近接する構成とされている。このため、ラップベルト56のアンカとして機能するバックル機構60を用いた場合と比較して、バックル機構84を前方に配置することができる。
本実施形態では、図12及び図13に示される如く、第1の実施形態におけるアウタバー30よりもラップバー22の連結端が前上方に位置する構成、すなわち第1の実施形態よりも長尺のアウタバー30を用いた構成とされている。また、図14に示される如く、本実施形態では、第1の実施形態におけるインナバー24よりもラップバー22の連結端が前上方に位置する構成、すなわち第1の実施形態よりも長尺のインナバー24を用いた構成とされている。これに伴って車両用乗員拘束装置80を構成するラップバー22は、第1の実施形態よりも、両端の略ストレートな接続部22Bが短い構成とされている。
また、アウタバー30の車幅方向内側にステーホルダ86、バックルステー84Cが配置された構成における下部サイドエアバッグ装置76について補足する。図16に示される如く、アウタバー30は、そのエアバッグ収容部78内に下部サイドエアバッグ装置76を収容している。そして、アウタバー30におけるエアバッグ収容部78を形成する内側壁30Aには、該エアバッグ収容部78の略全長に亘るスリット88が形成されている。換言すれば、スリット88の両側に位置する内側壁30Aは、下部サイドエアバッグ装置76のエアバッグドア79とされている。この内側壁30Aは、ステーホルダ86が固定されることで、エアバッグドア閉止状態に保持されている。また、ステーホルダ86におけるスリット88と一致する部分には、ティアラインTLが形成されており、サイドエアバッグロア76Bの膨張展開圧にて開裂されるようになっている。
乗員保護ECU66は、側突検知センサ65から衝突検知信号が入力されると、インフレータ76Aの作動に先立って、プリテンショナ装置58を作動する構成とされている。これにより、バックルステー84Cが離脱(離脱開始)された後にインフレータ76Aが作動されてステーホルダ86のティアラインTLが開裂され、サイドエアバッグロア76Bがアウタバー30から着座乗員P側に膨張、展開される構成である。なお、サイドエアバッグロア76Bの展開圧でバックルステー84Cがステーホルダ86から離脱される構成としても良い。
車両用乗員拘束装置80の他の構成は、図示しない部分を含め、車両用乗員拘束装置10の対応する構成と同様に構成されている。以下、第2の実施形態に係る車両用乗員拘束装置80の作用について、主に第1の実施形態に係る車両用乗員拘束装置10の作用とは異なる部分を説明する。
上記構成の車両用乗員拘束装置80では、車両用シート11に着座した乗員は、格納位置にあるラップバー22を軸25周りに回転することで該ラップバー22を使用位置近傍に移動させる。次いで、着座乗員Pがタングプレート82Aをバックル部82Bに結合する。これにより、ラップバー22がアウタバー30に連結されると共に、該動作に伴ってタングプレート84Aがバックル部84Bに結合される。
乗員保護ECU66は、前突検知センサ64から衝突検知信号が入力されると、プリテンショナ装置58のガスジェネレータ58Cを作動させる。すると、ラップベルト56は、プリテンショナ装置58によって所定値以上の張力で引き込まれることで、各保持爪62Bを撓ませつつベルトホルダ62すなわちラップバー22から離脱して、着座乗員Pの腰部に装着される。同様に、バックルステー84Cは、各保持爪86Bを撓ませつつステーホルダ86すなわちアウタバー30から離脱して、着座乗員Pの腰部側に移動(装着又は近接)される。この後の作用効果は、第1の実施形態に係る車両用乗員拘束装置10の対応する作用効果と同様である。
ここで、車両用乗員拘束装置80では、タングプレート84Aとバックル部84Bとの結合状態で、アウタバー30に対しバックルステー84Cが離脱可能であるため、ラップベルト56のアンカをバックル機構60と比較して後方に設定することができる。このため、車両用乗員拘束装置80では、車両用乗員拘束装置10との比較においてアウタバー30及びインナバー24を長くすることができ、可動体であるラップバー22の小型化に寄与する。これにより、着座乗員Pによるラップバー22の格納位置と使用位置との間の切り換え動作が容易になる。換言すれば、ラップバー22の着座乗員Pへの干渉が防止又は効果的に抑制される。
また、アウタバー30を長く形成することで、下部サイドエアバッグ装置76の配置や寸法形状の選択自由度が高い。すなわち、サイドエアバッグロア76Bを側突時、微小ラップ前面衝突時の適切な展開位置で展開させる設定が容易になる。
なお、上記した各実施形態では、格納位置でラップバー22がセンタコンソール18に沿って位置する例を示したが、本発明はこれに限定されない。ラップバー22の格納位置は、例えば、シートバック14の側縁に沿って起立する位置等、乗員Pの乗降を阻害しない位置であれば良い。
また、上記した各実施形態では、プリテンショナ装置58がラップベルト56の一端側である車幅方向内側端に設けられた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、プリテンショナ装置58等はラップベルト56の両端に配置しても良く、ラップベルト56の車幅方向外側端にのみ設けられても良い。
さらに、上記した各実施形態では、全態様の前面衝突時に上部サイドエアバッグ装置74を作動させず、下部サイドエアバッグ装置76だけを作動させる例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、前面衝突時に下部サイドエアバッグ装置76と共に上部サイドエアバッグ装置74を作動させるようにしても良い。また、オフセット前面衝突を検出し得る検出手段を備えた車両においては、フルラップ前面衝突時には側突エアバッグ装置72を作動させず、オフセット前面衝突時には、衝突側の側突エアバッグ装置72を選択的に作動させるようにしても良い。この場合、衝突側の側突エアバッグ装置72のうち、下部サイドエアバッグ装置76だけを作動させるようにしても良く、前面衝突時に下部サイドエアバッグ装置76と共に上部サイドエアバッグ装置74を作動させるようにしても良い。
またさらに、上記した実施形態では、車両用乗員拘束装置10、80が運転席又は助手席に適用された例を示したが、本発明本発明はこれに限定されない。例えば、複数列のシートを有する車両の2列目以降のシートに車両用乗員拘束装置10、80を適用しても良い。この場合、例えば前方の座席のシートバックを車両構造物として、該シートバックと着座乗員Pの上体との間で前突エアバッグ40が展開されることとなる。
また、上記した各実施形態では、ベルトホルダ62がラップベルト56を離脱可能にラップバー22に保持する例を示したが、本発明はこれに限定されない。ベルト保持手段は、ラップベルト56を離脱可能にラップバー22に保持するものであれば足り、例えば、マグネットや面状ファスナ等の他の構成を採用することができる。また、マグネットや面状ファスナ等を採用することで、衝突予測時に電気モータによってラップベルトを引き込むように構成した場合、衝突予測後に衝突に至らなかったケースにおいて、ラップベルト56をラップバー22に再保持させることが可能になる。