以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
本発明におけるポリブチレンテレフタレートとは、テレフタル酸単位および1,4−ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有し、ジカルボン酸単位の50モル%以上がテレフタル酸単位から成り、ジオール成分の50モル%以上が1,4−ブタンジオール単位から成るポリエステルを言う。全ジカルボン酸単位中のテレフタル酸単位の割合は、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最適には98%以上であり、全ジオール単位中の1,4ブタンジオール単位の割合は、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最適には98モル%以上である。テレフタル酸単位または1,4−ブタンジオール単位が50モル%より少ない場合は、PBTの結晶化速度が低下し、成形性の悪化を招くことがある。
本発明において、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分には特に制限はなく、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを挙げることが出来る。これらのジカルボン酸成分は、ジカルボン酸として、または、ジカルボン酸エステル、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料として、ポリエステル骨格に導入できる。
本発明において、1,4−ブタンジオール以外のジオール成分には特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール;キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等を挙げることが出来る。
本発明においては、更に、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸;アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分等を共重合成分として使用することが出来る。
本発明のポリブチレンテレフタレートの製造方法は、テレフタル酸を主成分として含むジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールを主成分として含むジオール成分とを、エステル化反応槽にてエステル化するエステル化反応工程、エステル化反応工程で得られる反応物を、重縮合反応槽にて重縮合する重縮合反応工程を経て連続的にポリエステルを得るポリブチレンテレフタレートの製造方法において、エステル化反応触媒としてキレート配位子を持つチタン化合物を用い、該チタン化合物をエステル化反応槽の液相部に直接添加することに特徴を有するものである。
先ず、エステル化反応工程において、ポリブチレンテレフタレートの原料として用いられるジカルボン酸成分、ジオール成分、他の共重合成分は、上記と同様である。また、触媒として用いるキレート配位子を持つチタン化合物は、チタンアルコキシドとキレート配位子とからなるものであり、例えば、これら化合物を混合することにより調製することができる。
上記チタンアルコキシドとしては、例えば、チタン酸のメチルエステル、テトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ−tert−ブチルエステル、シクロヘキシルエステルなどのテトラアルキルチタネート;チタン酸のフェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステルなどのテトラアリールチタネート;又はこれらの混合エステルなどが挙げられる。中でも、テトラアルキルチタネートが好ましく、チタン酸のテトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステルおよびテトライソプロピルエステルなどが特に好ましい。
上記キレート配位子としては、例えば、β−ジケトン化合物、ケトエステル化合物、ヒドロキシカルボン酸化合物またはその塩、ケトアルコール化合物、エノール性活性水素化合物、多価脂肪族カルボン酸化合物、多価アルコール化合物、多価フェノール化合物および多価アミン化合物、有機ホスホン酸化合物、複素環式化合物などが挙げられる。中でも、ヒドロキシカルボン酸化合物またはその塩、多価カルボン酸化合物、多価アミン化合物および多価アルコール化合物が好ましい。
具体的には、例えば、2,4−ペンタンジオン、2,4−ヘプタンジオン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ジピバロイルメタン、乳酸、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸アンモニウム塩、サリチル酸、サリチル酸メチル、クエン酸、リンゴ酸、リンゴ酸エチル、酒石酸、酒石酸エチル、シュウ酸、シュウ酸アンモニウム塩、マロン酸ジエチルエステル、サリチルアルデヒド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−4−メチルヘプタノン、4−ヒドロキシ−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ヘプタノン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルモノエタノールアミン、N−エチルモノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、メチロールアクリルアミド、メチロールメラミン、メチロール尿素、ペンタエリスリトール、1,1,1−トリメチロールエタン、カテコール、1,1’−ビ−ナフトール、1,1−エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチル、エチレンジアミン三酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、2,2’−ビピリジンおよび1,10−フェナントロリンなどが挙げられる。
この中でも、アセチルアセトン、乳酸、乳酸アンモニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンが特に好ましい。
上記キレート配位子は、一つのチタン原子に一つ以上配位していることが好ましく、二つ以上配位していると更に好ましい。また、チタン原子にはキレート配位子の他に、一価のアルコールや一価のカルボン酸などが配位していてもよく、上記配位子を複数組み合わせて使用しても良い。
また、キレート配位子を持つチタン化合物としては、例えば、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンジブトキシビス(アセチルアセトネート)、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタニウムジ−2−エチルヘキソキシビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、チタントリイソプロポキシ(トリエタノールアミネート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタントリブトキシ(トリエタノールアミネート)チタンジブトキシビス(トリエタノールアミネート)などが挙がられる。中でも、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンラクテート、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)が特に好ましい。
キレート配位子を持つチタン化合物は、上記チタンアルコキシドとキレート配位子とを、好ましくは有機溶媒中及び/または水中で混合することにより調製することができる。
有機溶媒としては、例えば、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサン、トルエン、クロロベンゼンなどが挙げられる。中でも、イソプロパノール、n−ブタノールが好ましい。
調製方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、上記溶媒中でチタンアルコキシドとキレート配位子を混合する方法によって合成することができる。調製温度としては室温から溶媒の沸点の間で行うことが好ましく、調製時間としては30分以上が好ましい。また、調製後に蒸留を行い、溶媒を留去させ、キレートチタン化合物の濃縮を行うこともできる。
本発明において、キレート配位子を持つチタン化合物は、チタン化合物に対する1,4−ブタンジオールのモル比が12であるチタン化合物含有1,4−ブタンジオール溶液を、密閉下、80℃で1時間加熱したときの、1,4ブタンジオール溶液中のチタン化合物モル数(T)に対する1,4−ブタンジオールの減少量のモル数(ΔBG)の比(ΔBG/T)が3.0未満であることを満たすものがより好ましい。
ΔBG/Tは、下限が0以上、上限が3.0未満であり、好ましくは2.5以下であり、更に好ましくは2.0以下、特に好ましくは1.0以下である。ΔBG/Tが3未満であるキレート配位子を持つチタン化合物を触媒として用いることにより、特に色調が良好でヘーズの低いPBTを得ることができる。ΔBG/Tが3.0以上のものを用いると、得られるPBTの色調が悪化する傾向にある。
ΔBG/Tの値は、キレート配位子を持つチタン化合物の配位子の安定性を示すものである。配位子と1,4−ブタンジオールの置換反応が起こりやすいチタン化合物は、エステル化反応で発生する水で失活し、不溶性の異物を生成しやすくなる。ΔBG/Tが3.0未満のキレート配位子を持つチタン化合物は、配位子の安定性が特に良好であり、かかるチタン化合物を触媒として用いることにより上記効果を奏するものと考えられる。
ΔBG/Tが3未満であるキレート配位子を持つチタン化合物は、例えば、チタン化合物に対し、当量以上のキレート配位子を混合させること、テトライソプロピルチタネートにトリエタノールアミン、乳酸等を組み合わせることにより調製することができる。
本発明において、キレート配位子を持つチタン化合物(以下これを「キレートチタン化合物」と称することがある。)の添加量は、生成するPBT100重量部に対して0.005〜0.2重量部が好ましく、0.01〜0.1重量部が更に好ましい。
キレートチタン化合物は、溶媒などに溶解させたり希釈させたりせずに直接エステル化反応槽の液相部に添加することも出来るが、供給量を安定化させ、反応槽の熱媒ジャケット等からの熱による変性、失活による異物発生などの悪影響を軽減するためには、1,4−ブタンジオール等の溶媒で希釈して添加することが好ましい。
この際の濃度は適宜決められるが、キレートチタン化合物の触媒溶液の濃度は、下限が通常0.05wt%以上、好ましくは0.1wt%以上、更に好ましくは0.2wt%以上、特に好ましくは0.5wt%以上である。上限は、通常10wt%以下、好ましくは8wt%以下、更に好ましくは6wt%以下、特に好ましくは4wt%以下である。下限より低いと、1,4−ブタンジオールの使用量が多くなり、テトラヒドロフランの副生物が増大する傾向にある。上限を超過すると触媒が析出しやすく、異物の増加やヘーズが上昇する傾向があり、また、色調も悪化する傾向がある。
また、本発明において、キレートチタン化合物は、エステル化反応槽の液相部に直接添加することを特徴とするが「液相部に直接添加する」とは、配管などを使用し、触媒が反応槽の気相部を経由せずに直接液相部分に供給することを意味する。液相部に直接添加することにより、反応中に異物の発生が少なくヘーズの低いPBTを得ることが出来るだけでなく、色調に優れたPBTを得ることができる。上記のとおりキレートチタン化合物は溶液の状態として添加するのが好ましく、溶媒として1,4−ブタンジオールを使用することが好ましい。
キレートチタン化合物をエステル化反応槽の液相部分に添加する場合、エステル化反応槽が、反応によって留出するガスを軽沸分と高沸分に分離するための精留塔及び高沸分をエステル化反応槽の液相部分に戻す再循環ラインを有するものであって、該再循環ラインに、すなわち再循環ライン中の高沸分にキレートチタン化合物の1,4−ブタンジオール溶液を添加するのがより好ましい。
この場合、再循環ラインの高沸分に添加するキレートチタン化合物の触媒溶液の濃度は、下限が通常0.05wt%以上、好ましくは0.1wt%以上、更に好ましくは0.2wt%以上、特に好ましくは0.5wt%以上である。上限は通常10wt%以下、好ましくは8wt%以下、更に好ましくは6wt%以下、特に好ましくは4wt%以下である。下限より低いと、1,4−ブタンジオールの使用量が多くなり、テトラヒドロフランの副生物が増大する傾向がある。上限を超過すると触媒が析出しやすく、異物の増加やヘーズが上昇する傾向があり、また、色調も悪化の傾向がある。
キレートチタン化合物の1,4−ブタンジオール溶液を添加するときの再循環ラインの高沸分の温度は、下限が通常20℃以上、好ましくは60℃以上、更に好ましくは100℃以上、特に好ましくは150℃以上である。上限は通常240℃以下、好ましくは230℃以下、更に好ましくは220℃以下、特に好ましくは200℃以下である。下限より低いと、冷却に要するエネルギーが無駄となる。上限を超過すると、触媒が分解して異物化しやすくなる傾向がある。
中でも、異物低減の観点から、キレートチタン化合物溶液中の水分濃度は0.05〜1.0重量%であることが好ましい。また、キレートチタン化合物は、劣化防止、析出防止、異物抑制の点から、反応槽に供給する前に原料となるジカルボン酸と混合せずに、少なくとも主成分のテレフタル酸とは独立に供給することが好ましい。
また、本発明のポリブチレンテレフタレートの製造方法は、キレートチタン化合物の存在下にエステル化反応を行うことを必須とするが、エステル化反応の後重縮合反応前または重縮合反応中にキレートチタン化合物を更に添加することも可能である。このような場合も、最終的に得られるポリブチレンテレフタレート中のチタン含有量の下限は、チタン原子として通常10ppm以上、好ましくは15ppm以上、更に好ましくは20ppm以上、特に好ましくは25ppm以上、最も好ましくは30ppm以上である。チタン含有量の上限は、チタン原子として通常150ppm以下、好ましくは100ppm以下、更に好ましくは80ppm以下、特に好ましくは60ppm以下、最も好ましくは50ppm以下である。チタン触媒の含有量が上記の上限を超えると、得られるポリブチレンテレフタレートの色調、耐加水分解性が悪化する傾向があり、チタン触媒の失活物由来の異物が増加する傾向がある。下限より少ないと、反応性が低下し、エステル化反応及び、重合時間が遅延化する傾向がある。
本発明においては、キレートチタン化合物の他に、それ自体既知の触媒、例えばスズ等を併用してもよい。スズは、通常、スズ化合物として使用され、その具体例としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などが挙げられる。
スズはポリブチレンテレフタレートの色調を悪化させるため、その添加量はスズ原子として、通常200ppm以下、好ましくは100ppm以下、更に好ましくは10ppm以下であり、中でも添加しないことが最も好ましい。
次いで、本発明の方法においては、上記エステル化反応工程で得られる反応物を、重縮合反応槽にて重縮合する重縮合反応工程を経て連続的にポリエステルを得る。重縮合反応工程において、金属原子として周期表1族および2族の金属から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物の存在下に、エステル化反応工程で得られる反応物を連続的に重縮合反応させることもできる。
重縮合反応時に存在する周期表1族および2族の金属から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物量の下限は通常0.1ppm以上、好ましくは0.5ppm以上、更に好ましくは1ppm以上、特に好ましくは3ppm以上である。上限は通常100ppm以下、好ましくは60ppm以下、更に好ましくは40ppm以下、特に好ましくは30ppm以下である。これら金属の化合物量が上記の上限を超えると、重縮合反応が進むにつれて重縮合反応速度が低下する傾向となり、得られるポリブチレンテレフタレートの色調や耐加水分解性が悪化する場合がある。下限より少ないと、効果が出難くなる傾向がある。なお、上記の値は金属種が複数含まれている場合にはその合計量を指す。
周期表1族金属の化合物の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの各種化合物が挙げられる。周期表2族金属の化合物の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの各種化合物が挙げられる。中でも、取り扱いや入手の容易さ、触媒効果の点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムの化合物が好ましく、触媒効果に優れるマグネシウム又はリチウムの化合物が更に好ましく、マグネシウムの化合物が特に好ましい。マグネシウムの化合物の具体例としては、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等が挙げられる。これらの中では酢酸マグネシウムが好ましい。
本発明におけるPBTの末端カルボキシル基濃度の上限は、通常30μeq/g以下、好ましくは25μeq/g以下、更に好ましくは20μeq/g以下、特に好ましくは18μeq/g以下、最も好ましくは16以下であり、下限は、通常0.1μeq/g以上、好ましくは1μeq/g以上、更に好ましくは3μeq/g以上、特に好ましくは5μeq/g以上である。末端カルボキシル基濃度が高すぎる場合はPBTの耐加水分解性が悪化する傾向にある。
ところで、PBTの末端カルボキシル基濃度を下げても、混練時や成形時の熱により再び上昇すると、結果的に製品の耐加水分解性を悪化させるだけでなく、テトラヒドロフラン(THF)等のガスの発生を招くことがある。従って、本発明におけるPBTにおいて、不活性ガス雰囲気下、245℃で40分間、熱処理した際の加水分解反応を除く末端カルボキシル基濃度の上昇は、通常0.1〜20μeq/g、好ましくは0.1〜15μeq/g、更に好ましくは0.1〜12μeq/gである。一般的には、分子量が低い方が、また、PBT中のチタン濃度が高い方が、加水分解以外の熱分解による末端カルボキシル基濃度の上昇が大きい傾向がある。
本発明におけるPBTの固有粘度は特に制限されないが、低すぎると機械的物性が低下し、高すぎると流動性が低下し、成形性が悪化するため、その下限は、通常0.50dL/g、好ましくは0.60dL/g、更に好ましくは0.65dL/gである。また、その上限は、通常2.50dL/g、好ましくは2.00dL/g、更に好ましくは1.50dL/gである。上記の固有粘度は、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃で測定した値である。
本発明におけるPBTの降温結晶化温度は、通常160〜200℃、好ましくは170〜195℃、更に好ましくは175〜190℃である。本発明における降温結晶化温度とは、示差走査熱量計を使用して樹脂が溶融した状態から降温速度20℃/minで冷却した際に現れる結晶化による発熱ピークの温度である。降温結晶化温度は、結晶化速度と対応し、降温結晶化温度が高いほど結晶化速度が速いため、射出成形に際して冷却時間を短縮し、生産性を高めることが出来る。降温結晶化温度が低い場合は、射出成形に際して結晶化に時間が掛かり、射出成形後の冷却時間を長くせざるを得なくなり、成形サイクルが伸びて生産性が低下する傾向にある。
本発明におけるPBTの環状2量体の含有量は、PBTに対する重量比として、通常5000ppm以下、好ましくは4000ppm以下、更に好ましくは2000ppm以下、特に好ましくは1500ppm以下であり、最も好ましくは800ppm以下であり、その下限値は通常10ppmである。また、環状3量体の含有量は、通常4000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、更に好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは800ppm以下であり、最も好ましくは500ppm以下であり、その下限値は通常10ppmである。環状2量体および環状3量体の含有量が上記の範囲を超える場合は、金型汚れやロール汚れが惹起され、フィルム表面にブリードアウトし、食品包装などの用途ではその溶出が問題となる。
本発明におけるPBTの溶液ヘーズは、特に制限されないが、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒(重量比3/2)20mLにPBT2.7gを溶解させて測定した際の溶液ヘーズとして、通常10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。溶液ヘーズが高い場合は、透明性が悪化し、異物も増加する傾向があるため、フィルム、モノフィラメント、繊維など、特に透明性が要求される用途においては、商品価値を著しく落とす。溶液ヘーズは、チタン触媒の失活が大きい場合に上昇する傾向がある。
次に、本発明のPBTの製造方法についてより詳細に説明する。
先ず、本発明においては、エステル化反応槽にて、触媒としてキレートチタン化合物を使用して、少なくとも一部の1,4−ブタンジオールを主成分とするジオールを、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸とは独立にエステル化反応槽に供給しながら、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオールとを連続的にエステル化する工程が好ましく採用される。以後、テレフタル酸とは独立にエステル化反応槽に供給する1,4−ブタンジオールを「別供給1,4−ブタンジオール」と称することがある。
通常、エステル化反応槽より留出した1,4−ブタンジオールは、1,4−ブタンジオール成分以外に、水、THF、アルコール、ジヒドロフラン等の成分を含んでいる。従って、エステル化反応槽から留出した成分は、精留塔で捕集した後、または、捕集しながら、水、アルコール、テトラヒドロフラン等の成分と1,4−ブタンジオールを分離、精製し、反応槽に戻すことが好ましい。
また、本発明においては、触媒の失活を防ぐため、エステル化反応に使用するキレートチタン化合物の内、10重量%以上をテレフタル酸とは独立にエステル化反応槽の液相部(反応液の液相部)に直接添加することが好ましい。ここで、反応液の液相部とは、エステル化反応槽の気液界面の液相側を示し、反応液の液相部に直接添加するとは、配管などを使用し、反応槽の気相部を経由せずに直接液相部分に触媒を供給することを表す。エステル化反応に使用するキレートチタン化合物の内、反応液の液相部に直接添加する触媒の割合は、好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
キレートチタン化合物は、供給量を安定化させ、反応槽の熱媒ジャケット等からの熱による変性などの悪影響を軽減するために、1,4−ブタンジオール等の溶媒で希釈することが好ましい。溶液調製の際の温度は、失活や凝集を防ぐ観点から、通常20〜150℃、好ましくは30〜100℃、更に好ましくは40〜80℃である。また、触媒溶液は、劣化防止、析出防止、失活防止の点から、別供給1,4−ブタンジオールと配管などで混合してエステル化反応槽に供給することが好ましい。
連続エステル化法の一例は次の通りである。すなわち、テレフタル酸を主成分とする前記ジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールを主成分とする前記ジオール成分とを原料混合槽で混合してスラリーとし、単数または複数段のエステル化反応槽内において、キレートチタン化合物を用いて連続的にエステル化反応させる。反応温度は、通常180〜260℃、好ましくは200〜245℃、更に好ましくは210〜235℃、反応圧力は、通常20〜133kPa、好ましくは30〜101kPa、更に好ましくは50〜90kPa、反応時間は、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間である。
テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとのモル比は、以下の式(1)を満たすことが好ましい。
BM/TM=1.1〜5.0(mol/mol) (1)
(式(1)中、BMは単位時間当たりにエステル化反応槽に外部から供給される1,4−ブタンジオールのモル数、TMは単位時間当たりにエステル化反応槽に外部から供給されるテレフタル酸のモル数を表す。)
上記の「エステル化反応槽に外部から供給される1,4−ブタンジオール」とは、原料スラリー又は溶液として、テレフタル酸と共に供給される1,4−ブタンジオールの他、これらとは独立に供給する1,4−ブタンジオール(別供給1,4−ブタンジオール)、キレートチタン化合物の溶媒として使用される1,4−ブタンジオール等、反応槽外部から反応槽内に入る1,4−ブタンジオールの総和である。
上記のBM/TMの値が1.1より小さい場合は、転化率の低下や触媒失活を招き易い傾向があり、5.0より大きい場合は、熱効率が低下するだけでなく、テトラヒドロフラン等の副生物が増大する傾向にある。BM/TMの値は、好ましくは1.5〜4.5、更に好ましくは2.0〜4.0、特に好ましくは2.5〜3.8である。
本発明において、エステル化反応は、反応時間短縮のため、1,4−ブタンジオールの沸点以上の温度で行うことが好ましい。1,4−ブタンジオールの沸点は反応の圧力に依存するが、101.1kPa(大気圧)では230℃、50kPaでは205℃である。
エステル化反応槽としては、公知のものが使用でき、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽などの何れの型式であってもよく、また、単数槽としても、同種もしくは異種の槽を直列または並列させた複数槽としてもよい。中でも、攪拌装置を有する反応槽が好ましく、攪拌装置としては、動力部、軸受、軸、攪拌翼から成る通常のタイプの他、タービンステーター型高速回転式攪拌機、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機などの高速回転するタイプも使用することが出来る。
攪拌の形態は、特に制限されず、反応槽中の反応液を反応槽の上部、下部、横部などから直接攪拌する通常の攪拌方法の他、配管などで反応液の一部を反応槽の外部に持ち出してラインミキサー等で攪拌し、反応液を循環させる方法も採ることが出来る。
攪拌翼の種類は、公知のものが選択でき、具体的には、プロペラ翼、スクリュー翼、タービン翼、ファンタービン翼、デイスクタービン翼、ファウドラー翼、フルゾーン翼、マックスブレンド翼などが挙げられる。
次いで、上記で得られたエステル化反応生成物またはエステル交換反応生成物としてのオリゴマーは、重縮合反応槽に移される。この際のオリゴマーの数平均分子量は、通常300〜3000であり、好ましくは500〜1500である。
本発明のPBTの製造においては、通常、複数段、好ましくは2〜5段、特に好ましくは2〜3段の反応条件の異なる重縮合反応槽を使用し、順次分子量を上昇させていく。重縮合反応槽の形態は、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽などの何れの型式であってもよく、また、これらを組み合わせることも出来る。中でも、少なくとも1つの重縮合反応槽においては攪拌装置を有するタイプであることが好ましく、攪拌装置としては、動力部、軸受、軸、攪拌翼から成る通常のタイプの他、タービンステーター型高速回転式攪拌機、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機などの高速回転するタイプも使用することが出来る。
攪拌の形態は特に制限されず、反応槽中の反応液を反応槽の上部、下部、横部などから直接攪拌する通常の攪拌方法の他、配管などで反応液の一部を反応槽の外部に持ち出してラインミキサー等で攪拌し、反応液を循環させる方法も採ることが出来る。中でも、少なくとも重縮合反応槽の1つは、水平方向に回転軸を有する表面更新とセルフクリーニング性に優れた横型の反応槽を使用することが推奨される。
本発明においては、エステル化率が90%以上の時点で、周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物を添加することが必要である。特に、エステル化反応槽でエステル化率90%以上のオリゴマーを得た後、当該オリゴマーを絶対圧力20kPa未満で重縮合反応させる反応槽へ供給する配管へ、溶媒で希釈した上記の金属化合物を添加することが好ましい。
重縮合反応は好ましくは撹拌下に行われる。そして、反応温度は、通常210〜280℃、好ましくは220〜250℃、更に好ましくは230〜245℃、特に好ましくは少なくとも一つの反応槽においては230〜240℃である。反応時間は、通常1〜12時間、好ましくは3〜10時間であり、反応圧力は、通常20kPa未満、好ましくは10kPa未満、特に好ましくは5kPa以下である。着色や劣化を抑え、ビニル基生成などの副反応の増加を抑制するため、少なくとも1つの反応槽において、通常1.3kPa以下、好ましくは0.5kPa以下、更に好ましくは0.3kPa以下の高真空下で行うのが好ましい。
重縮合反応により得られたPBTは、ポリマーフィルターを通過後、重縮合反応槽からポリマー(PBT)抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら又は水冷後、カッターで切断され、ペレット状、チップ状などの粒状体とされる。
更に、PBTの重縮合反応工程では、一旦、溶融重縮合で比較的分子量の小さい、例えば、固有粘度0.1〜0.9程度のPBTを製造した後、引き続き、PBTの融点未満の温度で固相重縮合(固相重合)させることも出来る。
以下、添付図面に基づき、本発明のPBTの製造方法の好ましい実施態様を説明する。図1は、本発明で採用するエステル化反応工程の一例の説明図、図2は、本発明で採用する重縮合反応工程の一例の説明図である。
図1において、原料のテレフタル酸は、通常、原料混合槽(図示せず)で1,4−ブタンジオールと混合され、原料供給ライン(1)からスラリーの形態で反応槽(A)に供給される。また、キレートチタン化合物は、好ましくは触媒調整槽(図示せず)で1,4−ブタンジオールの溶液とした後、触媒供給ライン(3)から供給される。図1では再循環1,4−ブタンジオールの再循環ライン(2)に触媒供給ライン(3)を連結し、両者を混合した後、反応槽(A)の液相部に供給する態様を示した。
反応槽(A)から留出するガスは、留出ライン(5)を経て精留塔(C)で高沸成分と低沸成分とに分離される。通常、高沸成分の主成分は1,4−ブタンジオールであり、低沸成分の主成分は、水およびTHFである。
精留塔(C)で分離された高沸成分は抜出ライン(6)から抜き出され、ポンプ(D)を経て、一部は再循環ライン(2)から反応槽(A)に循環され、一部は循環ライン(7)から精留塔(C)に戻される。また、余剰分は抜出ライン(8)から外部に抜き出される。一方、精留塔(C)で分離された軽沸成分はガス抜出ライン(9)から抜き出され、コンデンサ(G)で凝縮され、凝縮液ライン(10)を経てタンク(F)に一時溜められる。タンク(F)に集められた軽沸成分の一部は、抜出ライン(11)、ポンプ(E)及び循環ライン(12)を経て精留塔(C)に戻され、残部は、抜出ライン(13)を経て外部に抜き出される。コンデンサ(G)はベントライン(14)を経て排気装置(図示せず)に接続されている。反応槽(A)内で生成したオリゴマーは、抜出ポンプ(B)及びオリゴマーの抜出ライン(4)を経て抜き出される。
図1に示す工程においては、再循環ライン(2)に触媒供給ライン(3)が連結されているが、両者は独立していてもよい。また、原料供給ライン(1)は反応槽(A)の液相部に接続されていてもよい。
周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物は、調製槽(図示せず)で所定濃度に調製した後、図2におけるライン(L7)を経て、1,4−ブタンジオールの供給ライン(L8)に連結され、1,4−ブタンジオールで更に希釈された後、前述の図1に示すオリゴマーの抜出ライン(4)に供給される。
次に、第1重縮合反応槽(a)に供給されたオリゴマーは、減圧下に重縮合されてプレポリマーとなった後、抜出用ギヤポンプ(c)及び抜出ライン(L1)を経て第2重縮合反応槽(d)に供給される。第2重縮合反応槽(d)では、通常、第1重縮合反応槽(a)よりも低い圧力で更に重縮合が進みポリマーとなる。得られたポリマーは、抜出用ギヤポンプ(e)及び抜出ライン(L3)を経て、第3重縮合槽(k)に供給される。第3重縮合反応槽(k)は、複数個の攪拌翼ブロックで構成され、2軸のセルフクリーニングタイプの攪拌翼を具備した横型の反応槽である。抜出ライン(L3)を通じて第2重縮合反応槽(d)から第3重縮合反応槽(k)に導入されたポリマーは、ここで更に重縮合が進められた後、抜出用ギヤポンプ(m)及び抜出ライン(L5)を経てダイスヘッド(g)から溶融したストランドの形態で抜き出され、水などで冷却された後、回転式カッター(h)で切断されてペレットとなる。符号(L2)、(L4)、(L6)は、それぞれ、第1重縮合反応槽(a)、第2重縮合反応槽(d)、第3重縮合反応槽(k)のベントラインである。フィルターR、S、T、Uは必ずしも全部設置する必要はなく、異物除去効果と運転安定性を考慮して適宜設置することができる。
本発明の製造方法においては、キレートチタン化合物の失活による色調の悪化や異物の増加を抑止できるだけでなく、重縮合反応の速度を大きくすることが可能である。
本発明におけるPBTには、2,6−ジ−t−ブチル−4−オクチルフェノール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3’,5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のフェノール化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−ラウリルチオジプロピオネート)等のチオエーテル化合物、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等の燐化合物などの抗酸化剤、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタン酸やモンタン酸エステルに代表される長鎖脂肪酸およびそのエステル、シリコーンオイル等の離型剤などを添加してもよい。
本発明におけるPBTには、強化充填材を配合することが出来る。強化充填材としては、特に制限されないが、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維などの無機繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維などの有機繊維、ガラスフレーク、雲母、金属箔等の板状無機充填材、セラミックビーズ、アスベスト、ワラストナイト、タルク、クレー、マイカ、ゼオライト、カオリン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらの強化充填材は、2種以上を組み合わせて使用することが出来る。
本発明におけるPBTには、難燃性を付与するために難燃剤を配合することが出来る。難燃剤としては、特に制限されず、例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、その他の有機難燃剤、無機難燃剤などが挙げられる。有機ハロゲン化合物としては、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、ポリペンタブロモベンジルアクリレート等が挙げられる。アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等が挙げられる。リン化合物としては、例えば、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等が挙げられる。その他の有機難燃剤としては、例えば、メラミン、シアヌール酸などの窒素化合物などが挙げられる。その他の無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、ホウ素化合物などが挙げられる。
本発明におけるPBTには、必要に応じ、慣用の添加剤などを配合することが出来る。斯かる添加剤としては、特に制限されず、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤などの安定剤の他、滑剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤、結晶化促進剤などが挙げられる。これらの添加剤は、重合途中または重合後に添加することが出来る。更に、PBTに、所望の性能を付与するため、紫外線吸収剤、耐候安定剤などの安定剤、染顔料などの着色剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤などを配合することが出来る。
本発明におけるPBTには、必要に応じて、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸エステル、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を配合することが出来る。これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
前記の種々の添加剤や樹脂の配合方法は、特に制限されないが、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸または2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。各成分は、付加的成分を含めて、混練機に一括して供給することが出来、あるいは、順次供給することも出来る。また、付加的成分を含めて、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合しておくことも出来る。
本発明におけるPBTの成形加工方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押し出し成形、プレス成形などの成形法を適用することが出来る。
本発明におけるPBTは、色調、耐加水分解性、熱安定性、透明性、成形性に優れているため、電気、電子部品、自動車用部品などの射出成形部品として好適であるが、特に、異物が少なく、透明性や成形性に優れているため、フィルム、モノフィラメント、繊維などの用途において改良効果が顕著である。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における諸種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。また、以下の諸例で採用した物性および評価項目の測定方法は次の通りである。
(i)エステル化率:
以下の計算式(2)によって酸価およびケン化価から算出した。酸価は、エステル化反応物試料0.3gをベンジルアルコール40mLに入れ、180℃で20分間加熱し、10分間冷却した後、0.1NのKOH/メタノール溶液で滴定して求めた。ケン化価は0.5NのKOH/エタノール溶液でオリゴマーを加水分解し、0.5Nの塩酸で滴定して求めた。
エステル化率=(ケン化価−酸価)/ケン化価)×100 (2)
(ii)PBT中の金属原子の濃度:
電子工業用高純度硫酸および硝酸でPBTを湿式分解し、高分解能ICP(Inductively Coupled Plasma)−MS(Mass Spectrometer)(サーモクエスト社製)を使用して測定した。
(iii)固有粘度(IV):
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度1.0g/dLのポリマー溶液および溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式(3)より求めた。
IV=((1+4KHηsp)0.5−1)/(2KHC) (3)
(但し、ηSP=η/η0−1であり、ηはポリマー溶液落下秒数、η0は溶媒の落下秒数、Cはポリマー溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。)
(iv)末端カルボキシル基(AV)量:
試料を粉砕した後、熱風乾燥機にて140℃で15分間乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した試料から、0.1gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール3mlを加えて、乾燥窒素ガスを吹き込みながら195℃、3分間で溶解させ、次いで、クロロホルム5mlを徐々に加えて室温まで冷却した。この溶液にフェノールレッド指示薬を1〜2滴加え、乾燥窒素ガスを吹き込みながら撹拌下に、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で滴定し、黄色から赤色に変じた時点で終了とした。また、ブランクとして、ポリエステル樹脂試料を溶解させずに同様の操作を実施し、以下の式(4)によって末端カルボキシル基量(酸価)を算出した。
末端カルボキシル量(当量/トン)=(a−b)×0.1×f/w (4)
(ここで、aは、滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μl)、bは、ブランクでの滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μl)、wはポリエステル樹脂の試料の量(g)、fは、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価である。)
なお、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価(f)は以下の方法で求めた。
試験管にメタノール5mlを採取し、フェノールレッドのエタノール溶液の指示薬として1〜2滴加え、0.lNの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液0.4mlで変色点まで滴定し、次いで力価既知の0.1Nの塩酸水溶液を標準液として0.2ml採取して加え、再度、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で変色点まで滴定した。以上の操作は、乾燥窒素ガス吹き込み下で行った。
以下の式(5)によって力価(f)を算出した。
力価(f)=0.1Nの塩酸水溶液の力価×0.1Nの塩酸水溶液の採取量(μl)/0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の滴定量(μl) (5)
(v)ペレット色調(Co−b):
ペレット状ポリエステルを内径30mm、深さ12mmの円柱状の粉体測定用セルに充填し、測色色差計Z300A(日本電色工業社製)を使用して、JIS Z8730の参考例1に記載されるLab表示系におけるハンターの色差式の色座標によるb値を、反射法により、測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
(vi)溶液ヘーズ:
フェノール/テトラクロロエタン=3/2(重量比)の混合溶媒20mLにPBT2.70gを110℃で30分間溶解させた後、30℃の恒温水槽で15分間冷却し、日本電色社製濁度計(NDH−300A)を使用し、セル長10mmで測定した。値が低いほど透明性が良好であることを示す。
(vii)フィシュアイ(FE)数:
Film Quality Testing System[オプティカルコントロールシステムズ社製 形式FS−5]を使用し、厚さ50μmのフィルムを成形し、1m2当たりの200μm以上のフィッシュアイ数を測定した。
(viii)ΔBG/T:
チタン化合物に対する1,4−ブタンジオールのモル比が12であるチタン化合物含有1,4−ブタンジオール溶液を30ml調製し、密閉下、80℃で1時間加熱処理を行った後、島津製作所社製ガスクロマトグラフ(GC−14B)を用いて、1,4−ブタンジオール成分の定量分析を行い、ΔBG/Tを算出した。
(ここで、ΔBG(モル)は、1,4−ブタンジオールの減少量、Tは1,4ブタンジオール溶液中のチタン化合物モル数である。)
実施例1:
図1に示すエステル化反応工程と図2に示す重縮合反応工程を通し、次の要領でPBTの製造を行った。
先ず、テレフタル酸1.00モルに対して、1,4−ブタンジオール1.80モルの割合で混合した60℃のスラリーをスラリー調製槽から原料供給ライン(1)を通じ、予め、エステル化率99%のPBTオリゴマーを充填したスクリュー型攪拌機を有するエステル化反応槽(A)に、40kg/hとなる様に連続的に供給した。同時に、再循環ライン(2)から185℃の精留塔(C)の塔底成分(98重量%以上が1,4−ブタンジオール)を13.2kg/hで供給し、再循環ライン(2)に連結されている触媒供給ライン(3)から3.0重量%1,4−ブタンジオール溶液に調製された60℃の触媒溶液を345g/hで供給した。触媒には、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)(マツモトファインケミカル社製オルガチックスTC−400)を用いた。
反応槽(A)の内温は230℃、圧力は101.3kPaとし、生成する水とテトラヒドロフラン及び余剰の1,4−ブタンジオールを、留出ライン(5)から留出させ、精留塔(C)で高沸成分と低沸成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸成分は、98重量%以上が1,4−ブタンジオールであり、精留塔(C)の液面が一定になる様に、抜出ライン(8)を通じてその一部を外部に抜き出した。一方、水とTHFを主体とする低沸成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサ(G)で凝縮させ、タンク(F)の液面が一定になる様に、抜出ライン(13)より外部に抜き出した。
反応槽(A)で生成したオリゴマーの一定量は、ポンプ(B)を使用し、オリゴマーの抜出ライン(4)から抜き出し、反応槽(A)内液のテレフタル酸ユニット換算での平均滞留時間が3hrになる様に液面を制御した。抜出ライン4から抜き出したオリゴマーは、第1重縮合反応槽(a)に連続的に供給した。系が安定した後、反応槽(A)の出口で採取したオリゴマーのエステル化率は97.5%であった。
第1重縮合反応槽(a)の内温は246℃、圧力2.4kPaとし、滞留時間が120分になる様に液面制御を行った。減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(L2)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。抜き出した反応液は第2重縮合反応槽(d)に連続的に供給した。
第2重縮合反応槽(d)の内温は239℃、圧力150Paとし、滞留時間が90分になる様に液面制御を行い、減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(L4)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。得られたポリマーは、抜出用ギヤポンプ(e)により抜出ライン(L3)を経由し、第3重縮合反応槽(k)に連続的に供給した。第3重縮合反応槽(k)の内温は238℃、圧力は130Pa、滞留時間は60分とし、更に、重縮合反応を進めた。得られたポリマーは、フィルター(U)を経由して、ダイスヘッド(g)からストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッター(h)でカッティングした。得られたポリブチレンテレフタレートの固有粘度は1.22dL/g、末端カルボキシル基濃度は14μeq/g、溶液ヘーズは0.1%、色調Co−bは0.4、フィルムFE数は1010個/m2であり、色調および透明性に優れ、異物が少なかった。結果をまとめて表1に示した。
実施例2:
触媒供給ライン(3)より、チタンラクテート(マツモトファインケミカル社製オルガチックスTC−315)の3.0重量%1,4−ブタンジオール溶液を194g/hで供給した以外は実施例1と同様に行った。系が安定した後、反応槽(A)の出口で採取したオリゴマーのエステル化率は96.0%であった。得られたポリブチレンテレフタレートの分析値を表1に示した。色調および透明性に優れ、異物が少なかった。
実施例3:
触媒供給ライン(3)より、チタンアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル社製オルガチックスTC−401)の3.0重量%1,4−ブタンジオール溶液を337g/hで供給した以外は実施例1と同様に行った。系が安定した後、反応槽(A)の出口で採取したオリゴマーのエステル化率は97.3%であった。得られたポリブチレンテレフタレートの分析値を表1に示した。色調および透明性に優れ、異物が少なかった。
実施例4:
触媒供給ライン(3)より、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)(マツモトファインケミカル社製オルガチックスTC−400)の3.0重量%1,4−ブタンジオール溶液を517g/hで供給した以外は実施例1と同様に行った。系が安定した後、反応槽(A)の出口で採取したオリゴマーのエステル化率は97.9%であった。得られたポリブチレンテレフタレートの分析値を表1に示した。色調および透明性に優れ、異物が少なかった。
実施例5:
触媒供給ライン(3)より供給する触媒溶液の濃度を6.0重量%1,4−ブタンジオール溶液として172g/hで添加した以外は実施例1と同様に行った。系が安定した後、反応槽(A)の出口で採取したオリゴマーのエステル化率は97.3%であった。得られたポリブチレンテレフタレートの分析値を表1に示した。色調および透明性に優れ、異物が少なかった。
比較例1:
触媒溶液をスラリー調製槽へ添加し、触媒を含んだスラリーを原料供給ライン(1)よりエステル化反応槽(A)へ添加した以外は実施例1と同様に行った。系が安定した後、反応槽(A)の出口で採取したオリゴマーのエステル化率は95.5%であった。得られたポリブチレンテレフタレートの分析値を表1に示した。色調やヘーズが高く、異物が見られた。
比較例2:
触媒溶液を触媒供給ライン(16)より直接エステル化反応槽(A)の気相部へ添加した以外は実施例1と同様に行った。系が安定した後、反応槽(A)の出口で採取したオリゴマーのエステル化率は95.1%であった。得られたポリブチレンテレフタレートの分析値を表1に示した。色調やヘーズが高く、異物が見られた。
比較例3:
触媒供給ライン(16)より、チタンラクテート(マツモトファインケミカル社製オルガチックスTC−315)の3.0重量%1,4−ブタンジオール溶液を、直接エステル化反応槽(A)の気相部へ添加した以外は実施例1と同様に行った。系が安定した後、反応槽(A)の出口で採取したオリゴマーのエステル化率は94.2%であった。得られたポリブチレンテレフタレートの分析値を表1に示した。色調やヘーズが高く、異物が見られた。