JP5678667B2 - 脂肪族ポリエステルの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、脂肪族ポリエステルの製造方法に関する。詳しくは、副生物や揮発分の少ない高分子量脂肪族ポリエステルの効率的かつ安定的な連続的製造方法に関する。
近年、化石燃料の枯渇や大気中の二酸化炭素増加などの環境問題に対する意識が高まってきており、プラスチック業界においても製品の製造から廃棄までのライフサイクルを考慮した環境問題への対策が急務となっている。
こうした背景のもと、環境に優しいプラスチックとして、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールから得られる脂肪族ポリエステルが注目されている。脂肪族ポリエステルは、原料の脂肪族ジカルボン酸(例えばコハク酸やアジピン酸)を、植物由来のグルコースから発酵法を用いて製造することができ、脂肪族ジオール(例えばエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール)も植物由来原料から製造することができるので、化石燃料の省資源化を図ることができる。同時に、植物の育成により大気中の二酸化炭素が吸収されるため、二酸化炭素排出削減に大きく貢献することができる。更に、優れた生分解性を示すことも知られており、脂肪族ポリエステルは、環境に三重に優しいプラスチックであるといえる。
脂肪族ポリエステルは、通常、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとをエステル化反応させた後、溶融重縮合反応を行うことによって得られる。これらの反応は通常、回分法、連続法、あるいは回分法と連続法とを組み合わせた方法で行われる。これらの中で工業的に大量生産する場合は、生産性、品質安定性、経済性などの面から連続法が有利であり、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど大量生産されているものでは連続法によるものが圧倒的に多い。
脂肪族ポリエステルの連続製造方法については、特許文献1に開示されている。該文献には、エステル化工程の脂肪族ジカルボン酸成分に対する脂肪族ジオール成分のモル比を規定された範囲で行うことが開示されているが、具体的に開示された技術では、脂肪族ポリエステルを所定の分子量まで高めようとするには高真空下で重縮合反応を実施する必要があり、また、脂肪族ジオールが1,4-ブタンジオールの場合、重縮合反応工程における末端基の環化反応によるテトラヒドロフラン(THFと表すことがある)の副生量が多いため、高真空度を達成するためには過大な真空設備を必要とし、工業的に不利なものであった。さらに付随する問題として、環状2量体やその他オリゴマーなど低分子量成分の揮発分が多量に発生するため、コンデンサー等での閉塞がしばしば起こり、脂肪族ポリエステルを連続的に長期安定的に製造するには必ずしも十分とはいえなかった。
また、特許文献2には、反応時の分解反応を抑制する目的で、エステル化、溶融重縮合の反応温度を規定された温度以下で行うことが開示されているが、具体的に開示された技術では、重合反応速度が必ずしも十分でないため、重縮合工程を高真空下で反応させる必要があり、その結果、低分子量成分の揮発分が多く発生し、真空系での閉塞を引き起こすなど必ずしも満足できるものではなかった。
また、特許文献3には、脂肪族ポリエステル中の環状オリゴマー量を低減する目的で重縮合工程の最終段の重縮合反応槽に供給される重縮合反応物の総末端基量に対する末端カルボキシル基量の比(R)が0.15以上である脂肪族ポリエステルの製造方法が開示されているが、具体的に開示された技術では、最終段における副生THF量は低減できるものの、THFの副生反応が著しい最終段以外の重縮合反応槽におけるTHF副生量が多いため、必ずしも満足できるものではなかった。
また、特許文献4には、1.0mmHg超〜5.0mmHgの反応圧力下で脂肪族ポリエステルを製造する方法が開示されているが、具体的に開示された技術では、重合反応速度が遅いばかりか、所定の分子量に到達しない問題があった。
特開2009−155556号公報 特開2006−265503号公報 特開2010−209268号公報 特許第2968466号公報
本発明は上記問題点に鑑み、過大な真空設備を必要とすることなく、また、溶融重縮合反応速度が大きく、かつ重縮合工程におけるTHFの副生や低分子量成分の揮発の少ない、脂肪族ポリエステルの連続的製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題に関して検討を行った結果、脂肪族ポリエステルの連続製造において、エステル化反応槽及び重縮合反応槽における溶融重合体の末端基品質が特定の割合となるように、エステル化工程及び重縮合工程における温度、圧力、滞留時間、脂肪族ジカルボン酸成分に対する1,4−ブタンジオールのモル比等の条件を最適化することにより、過大な真空設備を必要とすることなしに、溶融重縮合反応速度が大きく、また、重縮合工程におけるTHF副生量や低分子量成分の揮発を低減して、脂肪族ポリエステルを効率的に製造することができることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法は、脂肪族ジカルボン酸成分及び1,4−ブタンジオールを原料として、エステル化反応槽内でエステル化反応を行ってエステル化反応物を得るエステル化工程と、該エステル化反応物を、複数段の重縮合反応槽で連続的に溶融重縮合反応を行って脂肪族ポリエステルを得る重縮合工程とを有する脂肪族ポリエステルの製造方法において、該エステル化反応槽及び重縮合反応槽における溶融重合体の総末端基量に対する末端酸価の割合(R)を0.40以上0.80以下に制御し、かつ、該重縮合工程における反応圧力のうち、最も圧力の低い重縮合反応槽の圧力をPminとするとき、Pmin≧0.20kPaとすることを特徴とする。
また、本発明において、エステル化反応槽に供給されるジカルボン酸成分に対するジオール成分のモル比は0.8以上1.3以下であることが好ましい。
また、本発明において、Pminは、Pmin≧0.25kPaであることが好ましい。
また、本発明において、重縮合工程における反応温度のうち、最も温度の高い重縮合反応槽の温度をTmaxとするとき、Tmax≦260℃であることが好ましい。
また、本発明において、重縮合工程における少なくとも1つの重縮合反応槽に1,4−ブタンジオールを添加して、溶融重合体の総末端基量に対する末端酸価の割合(R)を制御することが好ましい。
また、本発明において、重縮合反応触媒としてチタン化合物を用いることが好ましい。
本発明によれば、溶融重縮合反応速度が大きく、重縮合工程におけるTHF副生量や低分子量成分の揮発量の低減された脂肪族ポリエステルの連続的製造方法を提供することができる。しかも、本発明の方法によれば、過大な真空設備を必要とすることなく、長期にわたって効率的かつ安定的に脂肪族ポリエステルを連続生産できるため、品質の安定した脂肪族ポリエステルを提供することができ、ひいてはバイオマス由来のポリエステルの用途拡大に資することができる。
本発明におけるエステル化工程の一例を示す系統図である。 本発明における重縮合工程の一例を示す系統図である。
以下に本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
本発明は、脂肪族ジカルボン酸成分及び1,4−ブタンジオールを含むジオール成分を原料として用いて、エステル化反応、溶融重縮合反応を経てポリエステルを得る、脂肪族ポリエステルの連続製造方法に関するものである。
本発明において、「脂肪族ジカルボン酸成分」とは、全ジカルボン酸成分の85モル%以上が脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体であるものをいう。
以下、脂肪族ポリエステルの原料及び本発明の製造方法について、詳細に説明する。
(1)脂肪族ポリエステルの原料
脂肪族ポリエステルの原料である脂肪族ジカルボン酸成分に含まれる脂肪族ジカルボン酸としては、具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸、ダイマー酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などが挙げられる。これら脂肪族ジカルボン酸のうち、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸などは植物原料由来のものを使用することができる。また、上記の脂肪族ジカルボン酸の誘導体として酸無水物を用いてもよく、具体的には、無水コハク酸が挙げられる。これら脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体は、単独で用いても2種以上併用してもよい。これらの中でも、得られるポリエステルの物性の面から、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸が好ましく、特にはコハク酸が好ましい。
また、上記脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体の他に、芳香族ジカルボン酸及びその誘導体を併用してもよく、芳香族ジカルボン酸の具体的な例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸及びその誘導体も、単独で用いても2種以上用いてもよい。
本発明において、コハク酸は、得られる脂肪族ポリエステルの融点(耐熱性)、生分解性、力学特性の観点から脂肪族ジカルボン酸成分中に50モル%以上含まれていることが好ましく、70モル%以上含まれていることが好ましく、特に90モル%以上含まれていることが好ましい。
脂肪族ポリエステルの他の原料であるジオール成分として、本発明では1,4−ブタンジオールを用いるが、1,4−ブタンジオール以外の他のジオール成分を共重合させても良い。
他のジオール成分としては、具体的には、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどの脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどの芳香族ジオール、イソソルビド、イソマンニド、イソイデット、エリトリタンなどの植物原料由来のジオール等を挙げることができる。
1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオールなども植物原料由来のものを使用することができる。
また、これらのジオール成分は単独で用いても2種以上併用してもよい。
本発明において、1,4−ブタンジオールは、得られる脂肪族ポリエステルの融点(耐熱性)、生分解性、力学特性の観点から全ジオール成分に対して50モル%以上含まれていることが好ましく、70モル%以上含まれていることがより好ましく、特に90モル%以上含まれていることが好ましい。
本発明において、脂肪族ポリエステルの原料には、上記の脂肪族ジカルボン酸成分及びジオール成分以外の他の構成成分を含有させてもよい。その他の構成成分となる共重合成分としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、リンゴ酸、クエン酸、及びこれらオキシカルボン酸のエステル、ラクトン、オキシカルボン酸重合体などのオキシカルボン酸類;マレイン酸やフマル酸等の不飽和カルボン酸;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3官能以上の多価アルコール;プロパントリカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸及びこれらの無水物などの3官能以上の多価カルボン酸又はその無水物等が挙げられる。
特に、3官能以上のオキシカルボン酸、3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸などの多官能化合物は、共重合成分として少量加えることにより、高粘度のポリエステルが得られるため好ましい。中でも、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸が好ましく、特にはリンゴ酸が好ましく用いられる。
原料中にこれら3官能以上の多官能化合物を加える場合、その量は、原料中の全ジカルボン酸成分に対して、0.001〜5モル%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5モル%である。この範囲の上限超過ではゲル(未溶融物)が生成しやすく、下限未満では粘度上昇の効果が得にくい傾向がある。
(2)触媒
本発明の製造方法においては、反応の促進のために、エステル化反応や重縮合反応で反応触媒を添加することもできる。ただし、エステル化反応時にエステル化反応触媒が存在すると、エステル化反応によって生じる水によって触媒が反応物に不溶の析出物を生じ、得られるポリエステルの透明性を損なう(即ちヘーズが高くなる)ことがあり、また異物化することがある。エステル化反応においてはエステル化反応触媒がなくても十分な反応速度を得ることができるため、エステル化反応中には反応触媒は使用しないことが好ましい。エステル化反応触媒を添加する場合、触媒をエステル化反応槽の気相部に添加するとヘーズが高くなることがあり、また触媒が異物化することがあるので、反応液中に添加することが好ましい。
一方、重縮合反応においては無触媒では反応が進みにくいため、触媒を用いることが好ましい。重縮合反応触媒としては、一般には、周期表1〜14族の金属元素のうち少なくとも1種を含む化合物が用いられる。該金属元素としては、具体的には、スカンジウム、イットリウム、サマリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウム及びカリウム等が挙げられる。その中では、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、亜鉛、鉄、ゲルマニウムが好ましく、特に、チタン、ジルコニウム、タングステン、鉄、ゲルマニウムが好ましい。更に、得られる脂肪族ポリエステルの熱安定性に影響を与えるポリエステル末端濃度を低減させるためには、上記金属元素の中では、ルイス酸性を示す周期表3〜6族の金属元素が好ましい。具体的には、スカンジウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、モリブデン、タングステンであり、中でも、入手のし易さからチタン、ジルコニウムが好ましく、特には反応活性の点からチタンが好ましい。
本発明においては、触媒として、これらの金属元素を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩又はβ−ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属元素の酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物及びそれらの混合物が好ましく用いられる。
触媒としてのチタン化合物としては、テトラアルキルチタネート及びその加水分解物が好ましく、具体的には、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート及びこれらの混合チタネート、及びこれらの加水分解物が挙げられる。また、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタン(ジイソプロポキシド)アセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、チタンビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、チタン(トリエタノールアミネート)イソプロポキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ブチルチタネートダイマー等も好んで用いられる。また、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物も用いられる。これらの中では、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート及びテトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー及び、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物、が好ましく、テトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー及び、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物がより好ましく、特に、テトラ−n−ブチルチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート及び、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物が好ましい。
ジルコニウム化合物としては、具体的には、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニルジアセテイト、シュウ酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシド、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネートならびにそれらの混合物が例示される。これらの中では、ジルコニルジアセテイト、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシドが好ましく、ジルコニルジアセテイト、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドがより好ましく、特にジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレートが着色のない高重合度のポリエステルが容易に得られることから好ましい。
ゲルマニウム化合物としては、具体的には、酸化ゲルマニウムや塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物が挙げられる。価格や入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム及びテトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、特に、酸化ゲルマニウムが好ましい。
その他の金属含有化合物としては、炭酸スカンジウム、スカンジウムアセテート、スカンジウムクロリド、スカンジウムアセチルアセトネート等のスカンジウム化合物、炭酸イットリウム、イットリウムクロリド、イットリウムアセテート、イットリウムアセチルアセトネート等のイットリウム化合物、バナジウムクロリド、三塩化バナジウムオキシド、バナジウムアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネートオキシド等のバナジウム化合物、モリブデンクロリド、モリブデンアセテート等のモリブデン化合物、タングステンクロリド、タングステンアセテート、タングステン酸等のタングステン化合物、セリウムクロリド、サマリウムクロリド、イッテルビウムクロリド等のランタノイド化合物等が挙げられる。
また、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)等に記載される公知の層状珪酸塩を単独であるいは上記金属化合物と組み合わせた触媒を使用すると、重縮合反応速度が向上する場合があるため、このような触媒系もまた好ましく用いられる。
層状珪酸塩としては、具体的には、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト、メタハロイサイト、ハロイサイト等のカオリン族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族、バーミキュライト等のバーミキュライト族、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク及び緑泥石群等が挙げられる。
本発明においては、触媒は、重縮合反応時に溶融あるいは溶解した状態であると重合速度が高くなる理由から、重縮合反応時に液状であるか、エステル低重合体やポリエステルに溶解する化合物が好ましい。また、重縮合反応は無溶媒で行うことが好ましいが、これとは別に、触媒を溶解させるために少量の溶媒を使用してもよい。この触媒溶解用の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオールなどの前述のジオール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ヘプタン、トルエン等の炭化水素化合物、水ならびにそれらの混合物等が挙げられる。中でも、触媒溶解用の溶媒として、製造する脂肪族ポリエステルの原料主成分である脂肪族ジオール、即ち、本発明においては1,4−ブタンジオールを用いると、実質的に無溶媒で重縮合反応を行うことができるため好ましい。触媒溶解用の溶媒は、触媒濃度が、通常0.0001質量%以上、99質量%以下となるように使用する。
また、重縮合触媒として金属化合物を用いる場合の触媒添加量は、生成する脂肪族ポリエステルに対する金属量として、下限値が通常、0.1ppm以上、好ましくは0.5ppm以上、より好ましくは1ppm以上であり、上限値が通常、3000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは250ppm以下、特に好ましくは130ppm以下である。使用する触媒量が多すぎると、経済的に不利であるばかりでなく、理由は未だ詳らかではないが、得られる脂肪族ポリエステル中のカルボキシル基末端濃度が多くなる場合があるため、カルボキシル基末端量ならびに残留触媒濃度の増大により脂肪族ポリエステルの熱安定性や耐加水分解性が低下する場合がある。逆に触媒が少なすぎると重合活性が低くなり、それに伴い脂肪族ポリエステル製造中に脂肪族ポリエステルの熱分解が誘発され、実用上有用な物性を示す脂肪族ポリエステルが得られにくくなる。
触媒の反応系への添加位置は、重縮合工程において触媒が存在すれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよいが、水が多く存在もしくは発生している状況下で触媒が共存すると触媒が失活し、異物が析出する原因となり、製品の品質を損なう場合があるため、エステル化工程より後に添加するのが好ましい。特に好ましい触媒の添加形態はエステル化反応終了後から重縮合反応終了前までの間に、エステル化反応又は重縮合反応の反応液の液相に連続的に添加するものである。
(3)脂肪族ポリエステルの製造方法
以下に、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸、多官能化合物としてリンゴ酸を原料とした、本発明にかかる脂肪族ポリエステルの製造方法の好ましい実施態様について、添付図面の参照符号を付記しつつ説明するが、本発明は図示の形態に限定されるものではない。なお、以下において、1,4−ブタンジオールを含むジオール成分を単に「1,4−ブタンジオール」と記載する。
図1は、本発明におけるエステル化工程の一実施形態を示す系統図、図2は、本発明における重縮合工程の一実施形態を示す系統図である。
図1において、原料のコハク酸、リンゴ酸は、通常、原料混合槽(図示せず)で1,4−ブタンジオール(BGと表すことがある。)と混合され、原料供給ライン(1)からスラリー又は液体の形態でエステル化反応槽(A)に供給される。また、エステル化反応時に触媒を添加する場合は、触媒は、触媒調整槽(図示せず)で1,4−ブタンジオールの溶液とした後、エステル化反応槽触媒供給ライン(16)から供給される。
ここで、エステル化反応槽(A)に供給される脂肪族ジカルボン酸成分に対する1,4−ブタンジオールのモル比は、下限が通常0.6であり、好ましくは0.8、特に好ましくは0.9である。このモル比の上限は通常1.6、好ましくは1.3、特に好ましくは1.2である。このモル比が上記下限より少ないとエステル化反応が不十分になりやすく、後工程の反応である重縮合反応が進みにくくなって高重合度の脂肪族ポリエステルが得にくい。一方、このモル比が上記上限より多いと1,4−ブタンジオール及び脂肪族ジカルボン酸成分の分解量が多くなり、好ましくない。
本発明における「エステル化反応槽に供給される脂肪族ジカルボン酸成分に対する1,4−ブタンジオールのモル比」について以下説明する。
エステル化反応槽(A)に供給される1,4−ブタンジオールとは、原料供給ライン(1)からスラリー又は液体として供給される1,4−ブタンジオール及び、エステル化反応槽(A)に接続された図1に示されるようなBG再循環ライン(2)から供給される1,4−ブタンジオールを指し、エステル化反応槽(A)に供給される脂肪族ジカルボン酸成分とは、原料供給ライン(1)からスラリー又は液体として供給される脂肪族ジカルボン酸のことを指す。BG再循環ライン(2)から1,4−ブタンジオールを供給するに際しては、モル比を好ましい範囲に保つために、エステル化反応槽(A)より留出分離した1,4−ブタンジオールをそのまま供給することもできるし、BG再循環ライン(2)にBG供給ライン(3)を連結し、両者を混合した後、エステル化反応槽(A)に供給することもできる。
エステル化反応温度は、下限が通常200℃以上、好ましくは210℃以上、更に好ましくは215℃以上であり、上限が通常240℃以下、好ましくは235℃以下、より好ましくは233℃以下である。エステル化反応温度が上記下限より低いとエステル化反応速度が遅くなって反応時間を長時間必要とし、1,4−ブタンジオールの脱水分解など好ましくない反応が起こりやすくなる。一方、エステル化反応温度が上記上限を超えると、1,4−ブタンジオールや脂肪族ジカルボン酸成分の分解が多くなり、また反応槽内に飛散物が増加して異物発生の原因となりやすく、その結果、エステル化反応物に濁り(ヘーズ)を生じやすくなる。エステル化反応温度は、エステル化率を安定させるために一定温度であることが好ましい。一定温度とは、通常設定温度の±5℃の範囲をいい、好ましくは±2℃の範囲内である。
エステル化反応圧力は、下限が通常50kPaであり、好ましくは60kPa、更に好ましくは70kPa、上限が通常200kPa以下であり、好ましくは130kPa、更に好ましくは110kPaである。エステル化反応圧力が上記下限よりも低いと、エステル化反応槽内に飛散物が増加してエステル化反応物のヘーズが高くなり、異物増加の原因となりやすい。また、1,4−ブタンジオールの反応系外への留出が多くなって重縮合反応速度の低下を招きやすい。一方、エステル化反応圧力が上記上限よりも高いと、1,4−ブタンジオールの脱水分解が多くなり、重縮合反応速度の低下を招きやすい。
エステル化反応の反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。また、反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは6時間以下である。
エステル化反応槽(A)における溶融重合体の総末端基量に対する末端酸価の割合(R:以下「末端酸価率R」と称す場合がある。)は、下限が通常0.40以上、特に好ましくは0.45以上であり、上限が通常0.80以下、特に好ましくは0.70以下である。末端酸価率Rが上記下限よりも低いと、溶融重合体のヒドロキシル末端の環化反応が促進され、THFが副生しやすい傾向にある。また、重合反応が、主としてエステル交換反応による反応形態をとることから、高温、高真空領域の条件を必要とし、結果としてTHFの副生や低分子量成分の揮発を助長することになる。
ここで、エステル化反応槽(A)における末端酸価率Rに影響を及ぼす因子として、エステル化反応槽(A)に供給される脂肪族ジカルボン酸成分に対する1,4−ブタンジオールのモル比、反応温度、反応圧力、滞留時間が挙げられる。エステル化反応槽(A)に供給される脂肪族ジカルボン酸成分に対する1,4−ブタンジオールのモル比に対し、最適な反応温度、反応圧力、滞留時間を選定することで、末端酸価率Rを好ましい範囲に制御することができる。中でも滞留時間で末端酸価率Rを調整する方法が最も簡便である。
本発明に用いるエステル化反応槽(A)としては、公知のものが使用でき、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽等、いずれの型式のものであってもよい。中でも攪拌装置を有する反応槽が好ましく、攪拌装置としては、動力部及び軸受、軸、攪拌翼からなる通常のタイプの他、タービンステーター型高速回転式攪拌機、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機等の高速回転するタイプも用いることができる。また、図示の態様では、エステル化反応は1つのエステル化反応槽(A)で行われているが、図示のように単数槽としても、同種又は異種の槽を直列に連結させた複数槽で構成してもよい。
エステル化反応槽(A)における攪拌の形態にも制限はなく、エステル化反応槽(A)中の反応液をエステル化反応槽(A)の上部、下部、横部等から直接攪拌する通常の攪拌方法の他、反応液の一部をエステル化反応槽(A)の外部に配管等で抜き出してラインミキサー等で攪拌し、反応液を反応槽に循環させる方法もとることができる。また、攪拌翼の種類も公知のものが選択でき、具体的にはプロペラ翼、スクリュー翼、タービン翼、ファンタービン翼、ディスクタービン翼、ファウドラー翼、フルゾーン翼、マックスブレンド翼等が挙げられる。
エステル化反応において、エステル化反応槽(A)から留出するガスは、留出ライン(5)を経て精留塔(C)で高沸成分と低沸成分とに分離される。通常、高沸成分の主成分は1,4−ブタンジオールであり、低沸成分の主成分は、水及びテトラヒドロフランである。
精留塔(C)で分離された高沸成分は、抜出ライン(6)から抜き出され、ポンプ(D)を経て、一部はBG再循環ライン(2)からからエステル化反応槽(A)に循環され、一部は循環ライン(7)から精留塔(C)に戻される。また、余剰分は抜出ライン(8)から外部に抜き出される。一方、精留塔(C)で分離された軽沸成分はガス抜出ライン(9)から抜き出され、コンデンサ(G)で凝縮され、凝縮液ライン(10)を経てタンク(F)に一時溜められる。タンク(F)に集められた軽沸成分の一部は、抜出ライン(11)、ポンプ(E)及び循環ライン(12)を経て精留塔(C)に戻され、残部は、抜出ライン(13)を経て外部に抜き出される。コンデンサ(G)はベントライン(14)を経て排気装置(図示せず)に接続されている。エステル化反応槽(A)内で生成したエステル化反応物は、抜出ポンプ(B)及びエステル化反応物の抜出ライン(4)を経て、図2に示す第1重縮合反応槽(a)に供給される。
図1に示す工程においては、BG再循環ライン(2)にBG供給ライン(3)が連結されているが、両者は独立していてもよい。また、原料供給ライン(1)はエステル化反応槽(A)の液相部に接続されていてもよい。また、重縮合反応前のエステル化反応物に触媒を添加する場合は、触媒調製槽(図示せず)で触媒を所定濃度に調製した後、図2における触媒供給ライン(17)を経て、図1に示すエステル化反応槽(A)からのエステル化反応物の抜出ライン(4)に供給される。
本発明においては、上記エステル化工程において、好ましくはエステル化率80%以上にエステル化反応させたエステル化反応物を、次の重縮合反応に供する。ここで、エステル化率とはエステル化反応物試料中の全酸成分に対するエステル化された酸成分の割合を示すものであり、次式で表される。
エステル化率(%)=((ケン化価−酸価)/ケン化価)×100
エステル化反応物のエステル化率は、通常80%以上であり、好ましくは82%以上、更に好ましくは85%以上である。エステル化率が上記下限より低いと後工程の重縮合反応の反応性が悪くなる。また、重縮合反応時の飛散物が増えて壁面に付着して固化し、更にこの飛散物が反応物内に落下し、得られる脂肪族ポリエステルのヘーズの悪化(異物発生)の要因となる。エステル化率の上限は後工程の重縮合反応のためには高いほうがよいが、通常99%である。
また、エステル化反応物の末端カルボキシル基濃度は500〜2500当量/トンが好ましい。エステル化反応物の末端カルボキシル基濃度の下限は更に好ましくは800当量/トン、特に好ましくは1000当量/トンであり、上限は更に好ましくは2200当量/トン、特に好ましくは2000当量/トンである。エステル化反応物の末端カルボキシル基濃度が上記下限より低いと1,4−ブタンジオールの分解が多くなり、上記上限より高いと後工程の重縮合反応の反応性が悪くなる。また、重縮合反応時の飛散物が増えて壁面に付着して固化し、更にこの飛散物が反応物内に落下し、得られる脂肪族ポリエステルのヘーズの悪化(異物発生)の要因となる。
エステル化反応物の末端カルボキシル基濃度は、後述の実施例の項に記載される方法で求められる。
エステル化反応における脂肪族ジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールとのモル比、反応温度、反応圧力及びエステル化率を上記範囲にして連続反応を行い、連続的にエステル化反応物を重縮合反応に供することにより、ヘーズが低く異物が少ない高品質の脂肪族ポリエステルを効率的に得ることができる。
エステル化反応槽(A)から、エステル化反応物の抜出ライン(4)より抜き出され、フィルター(g)を経たエステル化反応物は、図2に示される第1重縮合反応槽(a)に供給され、減圧下に重縮合されてポリエステル低重合体となる。第1重縮合反応槽(a)で重縮合されたポリエステル低重合体は、その後、抜出用ギヤポンプ(d)及び出口流路である抜出ライン(24)、フィルター(h)を経て第2重縮合反応槽(b)に供給される。第2重縮合反応槽(b)では、通常、第1重縮合反応槽(a)よりも低い圧力で更に重縮合反応が進められる。得られた重縮合物は、抜出用ギヤポンプ(e)及び出口流路である抜出ライン(25)、フィルター(i)を経て第3重縮合反応槽(c)に供給され、ここで更に重縮合反応が進められる。
本発明に用いられる重縮合反応槽の型式に特に制限はなく、例えば、縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽などを挙げることができる。重縮合反応槽は、1基とすることも、図示のように同種又は異種の複数基の槽を直列に連結した複数槽構成とすることもできるが、本発明では複数槽構成として連続的に重縮合反応を行う。
また、この複数槽の重縮合反応槽のうち、反応液の粘度が上昇する後段の重縮合反応槽は、界面更新性とプラグフロー性、セルフクリーニング性に優れた薄膜蒸発機能を有した横型攪拌重合機を選定することが好ましい。例えば本実施態様において、第3重縮合反応槽(c)は、複数個の攪拌翼ブロックで構成され、2軸のセルフクリーニングタイプの攪拌翼を具備した横型の反応槽であることが好ましい。
重縮合反応は、通常、減圧下で行われる。
本発明においては、重縮合工程における反応圧力のうち、最も圧力の低い重縮合反応槽の圧力をPminとするとき、Pmin≧0.20kPaとする。この最も圧力の低い重縮合反応槽の圧力Pminを低くして、超高真空重縮合設備を用いて製造する手法は重縮合反応速度を向上させる観点からは好ましい態様であるが、極めて高額な設備投資が必要であったり、真空系への低分子量成分の揮発量が増え、コンデンサー内で閉塞が発生したりするなど、長期の安定運転に困難を伴うとともに、総末端基量に対する末端酸価の割合の制御が困難となる傾向があるため、好ましくない。
Pminは好ましくは0.25kPa以上、より好ましくは0.30kPa以上である。この最も圧力の低い重縮合反応槽の圧力Pminの上限については、通常1.4kPa以下、好ましくは1.0kPa以下である。重縮合反応時の圧力が高過ぎると、重縮合時間が長くなり、それに伴いポリエステルの熱分解による分子量低下や着色が引き起こされ、実用上充分な特性を示すポリエステルの製造が難しくなる傾向がある。
なお、重縮合工程において、最も圧力の低い重縮合反応槽とは、通常、最終段の重縮合反応槽(図2においては第3重縮合反応槽(C))である。
その他の重縮合反応槽についても、反応圧力の下限は、通常0.35kPa以上、好ましくは0.45kPa以上、更に好ましくは0.60kPa以上であり、上限は通常1.4kPa以下、好ましくは1.0kPa以下である。上述のように、重縮合反応時の圧力が高過ぎると、重縮合時間が長くなり、それに伴いポリエステルの熱分解による分子量低下や着色が引き起こされ、実用上充分な特性を示すポリエステルの製造が難しくなる傾向がある。一方、反応圧力が低過ぎると、高額な設備投資が必要であったり、真空系への低分子量成分の揮発量が増え、コンデンサー内で閉塞が発生したりするなど、長期の安定運転に困難を伴うとともに、総端末基量に対する末端酸価の割合の制御が困難となる傾向がある。
また、本発明においては、重縮合工程における反応温度のうち、最も温度の高い重縮合反応槽の温度をTmaxとするとき、Tmax≦260℃であることが好ましい。
なお、重縮合工程において、最も温度の高い重縮合反応槽とは、通常、最終段の重縮合反応槽であるが、重縮合反応速度を高め、短時間に高重合度のポリエステルを製造することを可能とするばかりでなく、ポリエステルの溶融粘度を下げて製造する際に必要な撹拌動力を低減することができるため、すべての重縮合反応槽をほぼ同一の反応温度とすることが好ましい。
最も温度の高い重縮合反応槽の温度Tmaxが高すぎると製造時の脂肪族ポリエステルの熱分解が引き起こされやすく、高重合度の脂肪族ポリエステルの製造や、重縮合工程の各反応槽における末端酸価率Rの制御が困難となる傾向がある。Tmaxはより好ましくは250℃未満、更に好ましくは245℃未満であり、その下限は通常220℃以上である。この温度が低すぎると、重縮合反応速度が遅く、高重合度のポリエステルの製造に長時間を要するばかりでなく、高動力の撹拌機も必要となるため、経済的に不利である。
その他の重縮合反応槽についても、上記と同様な理由から、重縮合反応温度は250℃未満、特に245℃未満で、220℃以上であることが好ましい。
重縮合反応の反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
また、重縮合反応時間は、下限が通常1時間以上であり、上限が通常15時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下である。重縮合反応時間が短すぎると反応が不充分で高重合度の脂肪族ポリエステルが得にくく、その成形品の機械物性が劣る傾向となる。一方、重縮合反応時間が長すぎると、脂肪族ポリエステルの熱分解による分子量低下が顕著となり、その成形品の機械物性が劣る傾向となるばかりでなく、脂肪族ポリエステルの耐久性に悪影響を与えるカルボキシル基末端量が熱分解により増加し、重縮合工程の各重縮合反応槽における末端酸価率Rの制御が困難となる傾向がある。
本発明において、重縮合反応槽における溶融重合体の総末端基量に対する末端酸価の割合、即ち末端酸価率Rは、下限が通常0.40以上、好ましくは0.45以上であり、上限が0.80以下、好ましくは0.70以下である。末端酸価率Rが上記下限より低いと、エステル交換反応を主体として重合を進行させる必要があるため、反応温度を高く、反応圧力をより低く設定する必要があり、脂肪族ポリエステルの熱分解によるTHFの副生や低分子量成分の揮発が発生しやすく、真空装置を大型にする必要があるなど、経済的に不利であるし、長期の安定運転が困難となる傾向がある。一方、末端酸価率Rが上記上限より高すぎると、カルボキシル末端からの無水コハク酸等の酸無水物の留去を行う必要があり、重合反応速度が低下するとともに、真空系への無水コハク酸の留去、低分子量成分の揮発が著しいため、コンデンサー等での閉塞が発生しやすく、これもまた長期の安定運転が困難となる傾向がある。
第3重縮合反応槽(c)で重縮合反応を終えた脂肪族ポリエステルは、抜出用ギヤポンプ(f)、出口流路である抜出ライン(26)及びフィルター(j)を経てダイスヘッド(k)から溶融したストランドの形態で抜き出され、水などで冷却された後、回転式カッター(l)で切断されてポリエステルペレットとなる。
(21)、(22)、(23)は、それぞれ、第1重縮合反応槽(a)、第2重縮合反応槽(b)、第3重縮合反応槽(c)のベントラインである。
図2において、各重縮合反応槽(a)〜(c)の前後に設置されているフィルター(g)、(h)、(i)、(j)は、反応物中の異物を除去するためのものであり、必ずしも全部設置する必要はなく、異物除去効果と運転安定性とを考慮して適宜設置すればよい。
重縮合工程で副生するTHFの量(後述の実施例における「THF化率」)は、原料として供給されるジカルボン酸成分量に対するモル%で表され、通常15モル%以下、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、更に好ましくは3モル%以下、特に好ましくは2モル%以下である。重縮合工程で副生するTHF量は少ないほど好ましく、真空装置への負荷が小さくなることから、過大な真空装置を設置する必要がないので、工業的に有利である。一方、副生するTHF量が多いと、真空装置への負荷が大きいため、目標真空度を達成できないため、反応速度が著しく低下し、所定の粘度に到達しないなど高分子量の脂肪族ポリエステルを得ることができない。また、高真空度を達成しようとすると過大な真空装置を導入する必要があり、工業的に不利である。
図2において各重縮合反応槽(a)〜(c)及び各重縮合反応槽(a)〜(c)前に設置されている重縮合反応槽供給ライン(18)、(19)、(20)は、各反応槽出口の溶融重合体の総末端基量に対する末端酸価の割合である末端酸価率Rを好ましい範囲に制御するためのものであり、末端酸価の割合に応じて適宜1,4−ブタンジオールを添加することができる。
(4)脂肪族ポリエステル
上記本発明の製造方法により得られる脂肪族ポリエステル(以下「本発明の脂肪族ポリエステル」と称す場合がある。)の粘度を表す指標として、メルトインデックスの一つである溶融流動体積(以下、適宜「MVR」と言う。)を用いることが出来る。本発明の脂肪族ポリエステルのMVRは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、190℃、荷重2.16kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積MVRの値は、下限が通常0.1cm/10分以上、好ましくは0.5cm/10分以上、より好ましくは1.0cm/10分以上、特に好ましくは1.5cm/10分以上であり、上限が通常100cm/10分以下、好ましくは60cm/10分以下、より好ましくは25cm/10分以下、更に好ましくは15cm/10分以下、特に好ましくは10cm/10分以下、とりわけ好ましくは6.0cm/10分以下である。脂肪族ポリエステルのMVRが小さすぎる場合、溶融張力が高くなりすぎ、成形性が悪くなったり、粘稠性が高くなり脂肪族ポリエステルのゲル化を促進したりする場合があり、大きすぎる場合、成形品にしたとき十分な機械強度が得にくい。
脂肪族ポリエステルのMVRは、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
また、本発明の脂肪族ポリエステルの末端カルボキシル基濃度(当量/トン)は、下限が5以上であることが好ましく、より好ましくは7以上であり、更に好ましくは10以上であり、特に好ましくは13以上であり、上限は50以下であることが好ましく、より好ましくは45以下であり、更に好ましくは40以下である。脂肪族ポリエステルの末端カルボキシル基濃度は低いほど熱安定性、耐加水分解性がよいが、低すぎると触媒量を下げる、あるいは重合温度を下げる必要があり、これは重縮合反応速度の低下をもたらし、実用的な速度で分子量が上昇しない。また、脂肪族ポリエステルの末端カルボキシル基濃度高すぎると熱安定性が悪く成形時などに熱分解が多くなる。
脂肪族ポリエステルの末端カルボキシル基濃度は、後述の実施例の項に記載される方法で求められる。
また、本発明の脂肪族ポリエステルのペレットのハンター色座標におけるカラーb値は、下限が−3.0以上であることが好ましく、更に好ましくは−1.0以上であり、特に好ましくは0.0以上であり、上限は3.0以下であることが好ましく、更に好ましくは2.5以下であり、特に好ましくは2.0以下である。カラーb値が小さすぎると、成形品にしたとき青味があり好ましくないことがあり、また大きすぎると成形品にしたとき黄色味があり好ましくないことがある。
また、本発明の脂肪族ポリエステルの溶液ヘーズは、0.01〜2.5%であることが好ましい。溶液ヘーズの下限は低いほど透明な製品が得られて好ましいが、通常0.01%以上である。溶液ヘーズの上限はより好ましくは2.0%以下であり、更に好ましくは1.5%以下であり、特に好ましくは1.0%以下である。
脂肪族ポリエステルの溶液ヘーズが大きすぎると成形品に濁りが生じ、また、異物が多くなり好ましくない。ここで、溶液ヘーズとは、フェノール/テトラクロロエタン=3/2(質量比)の混合液を溶媒として、試料濃度10質量%の溶液の光路長10mmにおける濁度をいい、%で表す。
本発明の脂肪族ポリエステルには、芳香族−脂肪族共重合ポリエステルや脂肪族オキシカルボン酸等を配合して脂肪族ポリエステル組成物としてもよい。また、必要に応じて用いられるカルボジイミド化合物、充填材、可塑剤、その他、本発明の効果を阻害しない範囲で他の生分解性樹脂、例えば、ポリカプロラクトン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロースエステル等や、澱粉、セルロース、紙、木粉、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、クルミ殻粉末等の動物/植物物質微粉末、あるいはこれらの混合物を配合して脂肪族ポリエステル組成物とすることもできる。更に、成形品の物性や加工性を調整する目的で、熱安定剤、可塑剤、滑剤、ブロッキング防止剤、核剤、無機フィラー、着色剤、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤、改質剤、架橋剤等を含有させてもよい。
脂肪族ポリエステル組成物の製造方法は、特に限定されないが、ブレンドした脂肪族ポリエステルの原料チップを同一の押出機で溶融混合する方法、各々別々の押出機で溶融させた後に混合する方法、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブレンダー等の通常の混練機を用いて混練することによって混合する方法等が挙げられる。また、各々の原料チップを直接成形機に供給して組成物を調製すると同時に、その成形体を得ることも可能である。
本発明の脂肪族ポリエステル及びこれを用いた樹脂組成物は、熱安定性、引張強度、引張伸び等の実用物性を有するので、射出成形法、中空成形法、及び押出成形法等の汎用プラスチック成形法等により、フィルム、ラミネートフィルム、シート、板、延伸シート、モノフィラメント、マルチフィラメント、不織布、フラットヤーン、ステープル、捲縮繊維、筋付きテープ、スプリットヤーン、複合繊維、ブローボトル、発泡体等の成形品に利用可能である。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。尚、以下の諸例で採用した物性及び評価項目の測定方法は次の通りである。
[エステル化反応物の末端カルボキシル基濃度(AV):当量/トン]
試料0.3gをベンジルアルコール40mLに入れ、180℃で20分間加熱し、10分間冷却した後、0.1NのKOH/メタノール溶液で滴定して求めた値を当量/トンで表した。
[エステル化率:%]
以下の計算式(1)によって酸価及びケン化価から算出した。酸価は、エステル化反応物試料0.3gをベンジルアルコール40mLに入れ、180℃で20分間加熱し、10分間冷却した後、0.1NのKOH/メタノール溶液で滴定して求めた。ケン化価は0.5NのKOH/エタノール溶液でオリゴマーを加水分解し、0.5Nの塩酸で滴定して求めた。
エステル化率=((ケン化価−酸価)/ケン化価)×100 …式(1)
[重合体の末端カルボキシル基濃度(AV):当量/トン]
試料を粉砕した後、熱風乾燥機にて140℃で15分間乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した試料から、0.1gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール3mlを加えて、乾燥窒素ガスを吹き込みながら195℃、3分間で溶解させ、次いで、クロロホルム5mlを徐々に加えて室温まで冷却した。この溶液にフェノールレッド指示薬を1〜2滴加え、乾燥窒素ガスを吹き込みながら撹拌下に、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で滴定し、黄色から赤色に変じた時点で終了とした。また、ブランクとして、ポリエステル樹脂試料を溶解させずに同様の操作を実施し、以下の式(2)によって末端カルボキシル基量(酸価)を算出した。
末端カルボキシル量(当量/トン)=(a−b)×0.1×f/w …式(2)
(ここで、aは、滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μl)、bは、ブランクでの滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μl)、wは、ポリエステル樹脂の試料の量(g)、fは、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価である。)
なお、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価fは以下の方法で求めた。試験管にメタノール5mlを採取し、フェノールレッドのエタノール溶液の指示薬として1〜2滴加え、0.lNの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液0.4mlで変色点まで滴定し、次いで力価既知の0.1Nの塩酸水溶液を標準液として0.2ml採取して加え、再度、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で変色点まで滴定した(以上の操作は、乾燥窒素ガス吹き込み下で行った。)。以下の式(3)によって力価fを算出した。
力価f=0.1Nの塩酸水溶液の力価×0.1Nの塩酸水溶液の採取量(μl)/0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の滴定量(μl) …式(3)
[総末端基量に対する末端酸価の割合R(末端酸価率R)]
H−NMRを用いて、以下の方法で試料中の末端ヒドロキシル基量、上記の末端ビニル基量を定量し、末端酸価(カルボキシル基)濃度を加えた総和の値を各反応槽の試料の総末端基量とし、総末端基量に対する末端酸価の割合を算出した。
H−NMRによる末端基濃度]
0.6mlの重クロロホルムに20mgの試料を溶解させた溶液を測定サンプルとし、ブルカー・バイオスピン社製Avance400分光計を用い室温でH−NMRスペクトルを測定して定量した。フリップ角は45度、データの取り込み時間は4秒、待ち時間は6秒、積算回数は256回である。ウィンドウ関数にLB(Line Broadening)=0.1Hzの指数関数を用い、フーリエ変換処理をした。
<末端ヒドロキシル基濃度>
脂肪族ポリエステルの末端に存在するヒドロキシル基(即ち、末端ヒドロキシル基)は、H−NMRを用いて、3.66ppm付近に出現する末端ヒドロキシル基が直接結合する炭素原子上のメチレンプロトンのピークにより定量した。
<末端ビニル基濃度>
脂肪族ポリエステルの末端に存在するビニル基(即ち、末端ビニル基)の量は、H−NMRを用いて、5.15ppm付近、又は、5.78ppm付近に出現する脂肪族ポリエステルの末端に存在する二重結合を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量した。
[重縮合工程におけるTHF化率:モル%]
重縮合工程の各反応槽に設置されている真空ポンプ排気側に容量300mLのステンレス製ボンベを接続し、ガス採取を行った。ボンベを氷水で30分間冷却後、15分間以上N脱気した純水をシリンジを使用して20mL加え、3分間緩やかに振とうして純水中にTHFガスを十分溶解させ、全量採取、重量を記録した後、ガスクロマトグラフ法による定量分析を行った。定量分析の方法としては、予めTHF水溶液で検量線を作成しておき、GC測定時のArea値よりステンレス製ボンベ中のTHF濃度を求め、先に記録した重量値を用いて、ボンベ中のTHF量を算出した。
次に、真空ポンプの排気ガス流量より、SUSボンベ内の滞留時間を求め、単位時間当たりのTHF発生量(モル/hr)を算出し、以下(4)式よりTHF化率(モル%)を導いた。
THF化率=THF発生量(モル/hr)/単位時間当たりのジカルボン酸仕込量(モル/hr)×100 …式(4)
[溶融流動体積(MVR)の測定]
溶融流動体積であるMVRは、タカラ工業製メルトインデクサーを用い、JIS−K7210の方法に従って測定した。具体的には、80℃で12時間乾燥した脂肪族ポリエステルをメルトインデクサーに供することにより、MVRを測定した。メルトインデクサーの条件としては、190℃で荷重2.16kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(cm/10分)をMVRとした。
[実施例1]
<重合用触媒の調製>
撹拌装置付きのガラス製ナス型フラスコに、酢酸マグネシウム・4水和物を100質量部入れ、更に1500質量部の無水エタノール(純度99質量%以上)を加えた。更にエチルアシッドホスフェート(モノエステル体とジエステル体の混合質量比は45:55)を65.3質量部加え、23℃で撹拌を行った。15分後に酢酸マグネシウムが完全に溶解したことを確認後、テトラ−n−ブチルチタネートを122質量部添加した。更に10分間撹拌を継続し、均一混合溶液を得た。この混合溶液を、ナス型フラスコに移し、60℃のオイルバス中でエバポレーターによって減圧下で濃縮を行った。1時間後に殆どのエタノールが留去され、半透明の粘稠な液体を得た。オイルバスの温度を更に80℃まで上昇させ、5Torrの減圧下で更に濃縮を行い粘稠な液体を得た。この液体状の触媒を、1,4−ブタンジオールに溶解させ、チタン原子含有量が3.5質量%となるようにして触媒溶液を調製した。
<脂肪族ポリエステルの製造方法>
図1に示すエステル化工程と図2に示す重縮合工程により、次の要領で脂肪族ポリエステルの製造を行った。
先ず、リンゴ酸を0.18質量%含有したコハク酸1.00モルに対して、1,4−ブタンジオールを1.10モル及びリンゴ酸を総量0.0028モルの割合となるように混合した50℃のスラリーを、スラリー調製槽(図示せず)から原料供給ライン(1)を通じ、予め、窒素雰囲気下エステル化率99質量%の脂肪族ポリエステル低分子量体(エステル化反応物)を充填した攪拌機を有するエステル化反応槽(A)に、54.4kg/hとなるように連続的に供給した。
エステル化反応槽(A)の内温は230℃、圧力は101kPaとし、生成する水とテトラヒドロフラン及び余剰の1,4−ブタンジオールを、留出ライン(5)から留出させ、精留塔(C)で高沸成分と低沸成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸成分は精留塔(C)の液面が一定になるように、抜出ライン(8)を通じて、その一部を外部に抜き出した。一方、水とTHFを主体とする低沸成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサ(G)で凝縮させ、タンク(F)の液面が一定になるように、抜出ライン(13)より外部に抜き出した。同時に、BG再循環ライン(2)より100℃の精留塔(C)の塔底成分(98質量%以上が1,4−ブタンジオール)全量を供給し、エステル化反応槽(A)に供給されるコハク酸に対する1,4−ブタンジオールのモル比が1.16となるように調整した。供給量は、1.4kg/hであった。
エステル化反応槽(A)で生成したエステル化反応物は、抜出ポンプ(B)を使用し、エステル化反応物の抜出ライン(4)から連続的に抜き出し、エステル化反応槽(A)内液のコハク酸ユニット換算での平均滞留時間が4.3時間になるように液面を制御した。抜出ライン(4)から抜き出したエステル化反応物は、第1重縮合反応槽(a)に連続的に供給した。系が安定した後、エステル化反応槽(A)の出口で採取したエステル化反応物のエステル化率は88.8%であり、末端カルボキシル濃度は1309当量/トンであった。
予め前述手法で調製した触媒溶液を、触媒調製槽において、チタン原子としての濃度が0.1質量%となるように1,4−ブタンジオールで希釈した触媒溶液を調製した後、触媒供給ライン(17)を通じて、2.2kg/hで連続的にエステル化反応物の抜出ライン(4)に供給した(触媒は反応液の液相に添加された)。供給量は運転期間中安定していた。
第1重縮合反応槽(a)の内温を240℃、圧力を2.67kPaとし、滞留時間が2時間になるように液面制御を行った。コンデンサー、減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(21)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。得られたポリエステルは、抜出用ギヤポンプ(d)により抜出ライン(24)を経由し、第2重縮合反応器(b)に連続的に供給した。
第2重縮合反応槽(b)の内温を240℃、圧力を0.66kPaとし、滞留時間が2時間になるように液面制御を行い、コンデンサー、減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(22)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。得られたポリエステルは、抜出用ギヤポンプ(e)により抜出ライン(25)を経由し、第3重縮合反応器(c)に連続的に供給した。
第3重縮合反応槽(c)の内温は240℃、圧力は0.27Pa、滞留時間は2時間になるように液面制御を行い、コンデンサー、減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(23)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。得られたポリエステルは、抜出用ギヤポンプ(f)により抜出ライン(26)を経由し、更にダイスヘッド(k)からストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッター(l)でカッティングしてペレットとした。
この結果、重縮合工程内のコンデンサーで閉塞は発生することなく、連続7日間安定に運転できた。重縮合工程におけるTHF化率は1.9モル%であった。
表1に、各反応槽出口の溶融重合体の末端酸価率R、重縮合工程で副生したTHF化率と得られた脂肪族ポリエステルのMVR、重縮合工程のPmin及びTmaxを示す。なお、上記の各反応槽の滞留時間は実液のホールドアップ量より求めた値である。以下においても同様である。
[実施例2]
BG再循環ライン(2)及び、BG供給ライン(3)からの1,4−ブタンジオールの供給を行わなかった以外は、実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。重縮合工程内のコンデンサーで閉塞は発生することなく、連続7日間安定に運転できた。重縮合工程におけるTHF化率は1.7モル%であった。
各測定結果を表1に示す。
[実施例3]
エステル化反応槽(A)へのスラリーの供給量を68.3kg/hと変更し、各反応槽の滞留時間を、エステル化反応槽(A)が3.6時間、第1重縮合反応槽(a)が1.6時間、第2重縮合反応槽(b)が1.5時間、第3重縮合反応槽(c)が1.5時間となるように液面制御を行い、BG再循環ライン(2)及びBG供給ライン(3)からの1,4−ブタンジオールの供給を行わず、触媒溶液を2.7kg/hで連続的にエステル化反応物の抜出ライン(4)に供給した以外は、実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。重縮合工程内のコンデンサーで閉塞は発生することなく、連続7日間安定に運転できた。重縮合工程におけるTHF化率は2.1モル%であった。
各測定結果を表1に示す。
[実施例4]
第3重縮合反応槽(c)の圧力を0.40kPaとした以外は、実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。重縮合工程内のコンデンサーで閉塞は発生することなく、連続7日間安定に運転できた。重合工程におけるTHF化率は1.5モル%であった。
各測定結果を表1に示す。
[比較例1]
コハク酸1.00モルに対して、1,4−ブタンジオールを1.30モル及びリンゴ酸を総量0.0028モルの割合となるように混合したスラリーを、エステル化反応槽に供給し、エステル化反応槽に供給されるコハク酸に対する1,4−ブタンジオールのモル比が1.50となるように、BG再循環ライン(2)より100℃の精留塔(C)の塔底成分の一部をエステル化反応槽に供給した。供給量は、4.6kg/hであった。また、第2重縮合反応槽の(b)の圧力を0.40kPaとし、第3重縮合反応槽(c)の圧力を0.13kPaとした以外は、実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。連続運転開始から5日目に第1重縮合反応槽(a)、第2重縮合反応槽(b)に連結されたコンデンサーの循環流量が低下し、圧力指示値が不安定となり、運転が安定しなかった。重縮合工程におけるTHF化率は5.2モル%と多かった。
各測定結果を表1に示す。
[比較例2]
エステル化反応槽(A)内液のコハク酸ユニット換算での平均滞留時間が3時間になるように液面を制御し、第3重縮合反応槽(c)の圧力を0.66kPaとした以外は、比較例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。重縮合工程内のコンデンサーで閉塞は発生することなく、連続7日間安定に運転できたが、分解反応が進行し、高分子量のポリマーを得ることができなかった。重縮合工程におけるTHF化率は7.2モル%と多かった。
各測定結果を表1に示す。
[比較例3]
エステル化反応槽(A)の滞留時間を3時間になるように液面を制御し、第2重縮合反応槽の(b)の圧力を0.40kPa、第3重縮合反応槽(c)の圧力を0.13kPaとした以外は、実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。連続運転開始から6日目に第1重縮合反応槽(a)、第2重縮合反応槽(b)に連結されたコンデンサーの循環流量が低下し、圧力指示値が不安定となり、運転が安定しなかった。重縮合工程におけるTHF化率は3.8モル%であった。
各測定結果を表1に示す。
Figure 0005678667
本発明によれば、エステル化反応槽及び重縮合反応槽出口の溶融重合体の末端基品質が特定の割合となるように、エステル化工程、重縮合工程における温度、圧力、滞留時間、脂肪族ジカルボン酸成分に対する1,4−ブタンジオールのモル比等の条件を最適化することにより、過大な真空設備を必要とすることなしに、工業的に有利にかつ効率的な製造方法で、溶融重縮合反応速度が大きく、重縮合工程におけるTHF副生量や低分子量成分の揮発量の低減された脂肪族ポリエステルを製造することができる。
1 原料供給ライン
2 BG再循環ライン
3 BG供給ライン
4 エステル化反応物の抜出ライン
5 留出ライン
6 抜出ライン
7 循環ライン
8 抜出ライン
9 ガス抜出ライン
10 凝縮液ライン
11 抜出ライン
12 循環ライン
13 抜出ライン
14 ベントライン
15 供給ライン
16 供給ライン
17 触媒供給ライン
18、19、20 BG供給ライン
21、22、23 ベントライン
24、25、26 重縮合反応物抜出ライン
A エステル化反応槽
B 抜出ポンプ
C 精留塔
D、E ポンプ
F タンク
G コンデンサ
a 第1重縮合反応槽
b 第2重縮合反応槽
c 第3重縮合反応槽
d、e、f 抜出用ギヤポンプ
g、h、i、j フィルター
k ダイスヘッド
l 回転式カッター

Claims (7)

  1. 脂肪族ジカルボン酸成分及び1,4−ブタンジオールを原料として、エステル化反応槽内でエステル化反応を行ってエステル化反応物を得るエステル化工程と、該エステル化反応物を、複数段の重縮合反応槽で連続的に溶融重縮合反応を行って脂肪族ポリエステルを得る重縮合工程とを有する脂肪族ポリエステルの製造方法において、
    該エステル化反応槽及び重縮合反応槽における溶融重合体の総末端基量に対する末端酸価の割合(R)を0.40以上0.80以下に制御し、かつ、該重縮合工程における反応圧力のうち、最も圧力の低い重縮合反応槽の圧力をPminとするとき、Pmin≧0.20kPaとすることを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
  2. 前記エステル化反応槽に供給される脂肪族ジカルボン酸成分に対する1,4−ブタンジオールのモル比が0.8以上1.3以下であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
  3. 前記Pminが、Pmin≧0.25kPaであることを特徴とする請求項1又は2に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
  4. 前記重縮合工程における反応温度のうち、最も温度の高い重縮合反応槽の温度をTmaxとするとき、Tmax≦260℃であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
  5. 前記重縮合工程における少なくとも1つの重縮合反応槽に1,4−ブタンジオールを添加することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
  6. 前記重縮合工程を重縮合反応触媒存在下で行うことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
  7. 前記重縮合工程の重縮合反応触媒としてチタン化合物を用いることを特徴とする請求項に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
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