以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。
本発明のポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略記する)とは、テレフタル酸単位および1,4−ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有し、ジカルボン酸単位の70モル%以上がテレフタル酸単位から成り、ジオール成分の70モル%以上が1,4−ブタンジオール単位から成る高分子を言う。全ジカルボン酸単位中のテレフタル酸単位の割合は、好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上であり、全ジオール単位中の1,4−ブタンジオール単位の割合は、好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上である。テレフタル酸単位または1,4−ブタンジオール単位が70モル%より少ない場合は、PBTの結晶化速度が低下し、成形性の悪化を招く。
本発明において、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分には特に制限はなく、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを挙げることが出来る。
本発明において、1,4−ブタンジオール以外のジオール成分には特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等を挙げることが出来る。
本発明においては、更に、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分などを共重合成分として使用することが出来る。
本発明のPBTは、チタン触媒と周期表第1族または第2族化合物から成る助触媒とを使用して得られる。
チタン触媒としては通常チタン化合物が使用され、その具体例としては、酸化チタン、四塩化チタン等の無機チタン化合物、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート、チタンアルコラートやチタンフェノラートの加水分解物などが挙げられる。これらの中ではテトラアルキルチタネートが好ましく、その中ではテトラブチルチタネートが好ましい。
本発明における周期表第1族金属化合物の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの各種化合物が挙げられ、周期表第2族金属化合物の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの各種化合物が挙げられるが、取り扱いや入手の容易さ及び触媒効果の点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム又はカルシウムの化合物が好ましく、中でも、触媒効果に優れるリチウム又はマグネシウム化合物が好ましく、特にはマグネシウム化合物が好ましい。マグネシウム化合物の具体例としては、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等が挙げられ、これらの中では酢酸マグネシウムが好ましい。なお、これらの周期表第1族または第2族金属化合物は1種のみ使用してもよく、また、2種以上を併用することも出来る。
前記のチタン化合物や周期表第1族または第2族金属化合物とは別に、スズが触媒として使用されていてもよい。スズは、通常、スズ化合物として使用され、その具体例としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などが挙げられる。
スズはPBTの色調を悪化させるため、その添加量はスズ原子として、通常200ppm以下、好ましくは100ppm以下、更に好ましくは10ppm以下、中でも添加しないことが好ましい。
また、本発明のPBTは、後述する様に、チタン触媒および原料を特定の態様で供給してエステル化反応を経て得られる。そのため、チタン触媒の失活量を著しく低減でき、チタン触媒の使用量を低減させることが出来、テレフタル酸中の不純物に起因する色調の悪化が抑制される。
本発明のPBTは、チタン及び周期表第1族または第2族金属を含有し、チタンの濃度がチタン原子として90ppm以下であり、周期表第1族または第2族金属の濃度が金属原子として90ppm以下であることを特徴とする。上記のチタン濃度および周期表第1族または第2族金属の値はPBTに対する原子の重量比である。本発明において、チタンの含有量の下限は、好ましくは10ppm、更に好ましくは20ppm、特に好ましくは25ppm、最適には30ppmであり、上限は、好ましくは70ppm、更に好ましくは50ppm、特に好ましくは40ppmである。一方、周期表第1族または第2族金属の含有量の下限は、好ましくは3ppm、更に好ましくは5ppm、特に好ましくは8ppm、最適には10ppmであり、上限は、好ましくは70ppm、更に好ましくは40ppm、特に好ましくは20ppm、一層好ましくは15ppmである。チタン及び周期表第1族または第2族金属の含有量が上記の範囲より多過ぎる場合は、色調、耐加水分解性などが悪化し、上記の範囲より少な過ぎる場合は重合性が悪化する。
周期表第1族または第2族金属の金属の量は、チタンの量に対し、通常0.1〜2.5倍モル、好ましくは0.2〜1.0倍モルである。
本発明の第1の要旨に係るPBTは、コバルトの濃度がコバルト原子として0.06〜4ppmであることを特徴とする。コバルトの含有量が多過ぎる場合は、色調が悪化し、少なくしようとすると原料であるテレフタル酸の精製を強化する必要があるため、工程が複雑になり、エネルギー的にもコスト的にも不利になる。そして、好ましい態様においては、マンガンの濃度がマンガン原子として0.06〜4ppmであり、また、アルデヒド基の含有量が0.1μeq/g以上である。上記のコバルト及びマンガンの濃度はPBTに対する原子の重量比である。
本発明の第2の要旨に係るPBTは、マンガンの濃度がマンガン原子として0.06〜4ppmであることを特徴とする。マンガンの含有量が多過ぎる場合は、色調が悪化し、少なくしようとすると原料であるテレフタル酸の精製を強化する必要があるため、工程が複雑になり、エネルギー的にもコスト的にも不利になる。そして、好ましい態様においては、アルデヒド基の含有量が0.1μeq/g以上である。上記のマンガンの濃度はPBTに対する原子の重量比である。
本発明の第3の要旨に係るPBTは、アルデヒド基の含有量が0.1μeq/g以上であることを特徴とする。アルデヒド基の含有量を少なくしようとすると、原料であるテレフタル酸の精製を強化したり、重合条件を厳しくしたりする必要があるため、工程が複雑になり、エネルギー的にもコスト的にも不利になる。
本発明において、上記のコバルト含有量の下限は、好ましくは0.08ppm、更に好ましくは0.1ppm、特に好ましくは0.12ppm、最適には0.15ppmである。また、上限は、好ましくは3ppm、更に好ましくは2ppm、特に好ましくは1ppm、最適には0.5ppmである。
本発明において、上記のマンガン含有量の下限は、好ましくは0.08ppm、更に好ましくは0.1ppm、特に好ましくは0.12ppm、最適には0.15ppmである。また、上限は、好ましくは3ppm、更に好ましくは2ppm、特に好ましくは1ppm、最適には0.5ppmである。
本発明において、上記のアルデヒド基の含有量の下限は、好ましくは0.15μeq/g、更に好ましくは0.2μeq/g、最適には0.3μeq/gである。また、上限は、好ましくは1μeq/g、更に好ましくは0.8μeq/g、特に好ましくは0.6μeq/gである。アルデヒド基の含有量が多過ぎる場合は、色調が悪化する。
金属原子の含有量は、乾式灰化や湿式灰化などの方法でポリマー中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductivery Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。アルデヒド基の含有量は1H−NMR等の方法で測定することが出来る。
本発明のPBTの末端カルボキシル基濃度は、通常0.1〜50μeq/g、好ましくは1〜30μeq/g、更に好ましくは1〜20μeq/g、特に好ましくは1〜15μeq/gである。末端カルボキシル基濃度が高過ぎる場合はPBTの耐加水分解性が悪化する。
末端カルボキシル基濃度は、分子量が小さくて加水分解による分子量低下の影響を受け易い低分子量領域になる程に低くすることが好ましい。すなわち、以下の式(1−1)を満たすことが推奨される。好ましくは式(1−2)、更に好ましくは(1−3)、特に好ましくは式(1−4)である。
一方、PBTの末端カルボキシル基濃度を下げても、混練時や成形時の熱により増加すると、結果的に製品の耐加水分解性を悪化させるだけでなく、THF等のガスの発生を招く。従って、本発明のPBTの、不活性ガス雰囲気下に245℃で40分間熱処理した際の加水分解反応による末端カルボキシル基濃度の増加を除く末端カルボキシル基濃度の増加は、通常20μeq/g以下、好ましくは15μeq/g以下、更に好ましくは10μeq/g以下、特に好ましくは8μeq/g以下である。
加水分解反応は、PBT中に含まれる水分を減少させる操作、具体的には乾燥を十分行えば防止することが可能であり、成形時などに問題となるTHFの発生も伴わないが、加水分解以外の分解反応による末端カルボキシル基濃度の増加を乾燥操作で防ぐことは不可能である。一般的には、分子量が低い方が、また、PBT中のチタン触媒の濃度が高い方が、加水分解以外の熱分解による末端カルボキシル基濃度の増加が大きい傾向がある。
上記の評価法において温度と時間を規定したのは、温度が低すぎたり時間が短すぎたりすると末端カルボキシル基濃度の増加速度が小さすぎ、逆の場合は大きすぎて評価が不正確になるためである。また、極端に高い温度で評価すると、末端カルボキシル基が生成する以外の副反応が併発し、評価が不正確になることも理由の一つである。
前記の熱処理条件では、PBTに含まれる水分が引き起こす加水分解反応以外の反応による数平均分子量の低下を無視することが可能であり、加水分解反応による末端カルボキシル基濃度の増加分は、熱処理前後の末端グリコール基濃度の増加分とほぼ同じと見做すことが出来るため、混練時や成形時に問題となる加水分解反応以外の熱分解反応による末端カルボキシル基濃度の増加分は以下の式(2)で求めることが出来る。
熱分解反応評価の信頼性の観点からは、加水分解反応が少ない方が好ましいため、評価に使用するPBTは予め真空乾燥機などで乾燥し、含水量100ppm以下にしておくことが好ましい。熱処理前後の末端グリコール基濃度は、1H−NMRによって定量することが出来る。この際、溶媒シグナルとの重なりを防ぐため、重ピリジン等の塩基性成分などを少量添加してもよい。
PBTの末端カルボキシル基濃度は、PBTを有機溶媒などに溶解し、水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ溶液を使用し滴定することにより求めることが出来る。
また、本発明のPBTの末端ビニル基濃度は、通常15μeq/g以下、好ましくは10μeq/g以下、更に好ましくは8μeq/g以下である。末端ビニル基濃度が高すぎる場合は、色調悪化や固相重合性悪化の原因となる。生産性を低下させることなく、分子量の大きいPBTや触媒濃度の低いPBTを製造する場合、一般的に重合温度を上げたり、反応時間を長くしたりすることが求められるため、末端ビニル基濃度は増加する傾向にある。
末端ビニル濃度は、重クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール=7/3(体積比)の混合溶媒にPBTを溶解させ、1H−NMRを測定することによって定量することが出来る。
本発明のPBTの固有粘度([η])は、通常0.60〜2.00dL/g、好ましくは0.65〜1.60dL/g、更に好ましくは0.70〜1.30dL/g、特に好ましくは0.80〜1.00dL/gである。固有粘度が0.60dL/g未満の場合は成形品の機械的強度が不十分となり、2.00dL/gを超える場合は溶融粘度が高くなり、流動性が悪化して、成形性が悪化する傾向にある。上記の固有粘度は、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合液を溶媒として使用し、30℃で測定した値である。
本発明のPBTの降温結晶化温度は、通常170〜190℃、好ましくは172〜185℃、更に好ましくは175〜180℃である。本発明における降温結晶化温度とは、示差走査熱量計を使用して樹脂が溶融した状態から降温速度20℃/minで冷却した際に現れる結晶化による発熱ピークの温度である。降温結晶化温度は、結晶化速度と対応し、降温結晶化温度が高いほど結晶化速度が速いため、射出成形に際して冷却時間を短縮し、生産性を高めることが出来る。降温結晶化温度が低い場合は、射出成形に際して結晶化に時間が掛かり、射出成形後の冷却時間を長くせざるを得なくなり、成形サイクルが伸びて生産性が低下する傾向にある。
本発明のPBTの溶液ヘイズは、特に制限されないが、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒(重量比3/2)20mLにPBT2.7gを溶解させて測定した際の溶液ヘイズとして、通常5%以下、好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下である。溶液ヘイズが高い場合は、透明性が悪化し、異物も増加する傾向があるため、フィルム、モノフィラメント、繊維など、特に透明性が要求される用途においては、商品価値を著しく落とす。溶液ヘイズは、チタン触媒の失活が大きい場合に増加する傾向がある。
次に、本発明のPBTの製造方法について説明する。テレフタル酸を原料とするPBTの製造方法は、原料供給またはポリマーの払い出し形態から回分法と連続法に大別される。初期のエステル化反応を連続操作で行って、それに続く重縮合を回分操作で行ったり、逆に、初期のエステル化反応を回分操作で行って、それに続く重縮合を連続操作で行う方法もある。本発明においては、生産性や製品品質の安定性、本発明による改良効果の観点から、連続的に原料を供給し、連続的にエステル化反応を行う方法が好ましく、エステル化反応に続く重縮合反応も連続的に行ういわゆる連続法が好ましい。
本発明に係るPBTの製造方法は、チタン触媒を使用してテレフタル酸と1,4−ブタンジオールとからポリブチレンテレフタレートを製造するに際し、所定の中純度テレフタル酸を使用し、生成するポリブチレンテレフタレート中の濃度がチタン原子として90ppm以下となる相当量のチタン触媒を使用することを特徴とする。そして、本発明の好ましい態様においては、生成するポリブチレンテレフタレート中の濃度がチタン原子として70ppm以下となる相当量のチタン触媒を使用する。
第1の要旨に係るPBTは、コバルトの濃度がコバルト原子として0.08〜5ppmである中純度テレフタル酸を使用する方法によって製造することが出来る。コバルトの含有量が多過ぎるとPBTの色調が悪化し、少なくしようとするとテレフタル酸の精製を強化する必要があるため、工程が複雑になり、エネルギー的にもコスト的にも不利になる。この場合の好ましい態様は、中純度テレフタル酸中のマンガンの濃度がマンガン原子として0.08〜5ppmであり、4−カルボキシベンズアルデヒドの含有量が30〜1000ppmである。
第2の要旨に係るPBTは、マンガンの濃度がマンガン原子として0.08〜5ppmである中純度テレフタル酸を使用する方法によって製造することが出来る。マンガンの含有量が多過ぎるとPBTの色調が悪化し、少なくしようとするとテレフタル酸の精製を強化する必要があるため、工程が複雑になり、エネルギー的にもコスト的にも不利になる。この場合の好ましい態様においては、中純度テレフタル酸中の4−カルボキシベンズアルデヒドの含有量が30〜1000ppmである。
第3の要旨に係るPBTは、4−カルボキシベンズアルデヒド(4−CBA)の含有量が30〜1000ppmである中純度テレフタル酸を使用する方法によって製造することが出来る。4−CBAの含有量が多過ぎるとPBTの色調が悪化し、少なくしようとするとテレフタル酸の精製を強化する必要があるため、工程が複雑になり、エネルギー的にもコスト的にも不利になる。
上記の各製造方法において、コバルトの濃度は、好ましくは0.1〜1ppm、更に好ましくは0.15〜1ppm、特に好ましくは0.2〜0.5ppmであり、マンガンの濃度は、好ましくは0.1〜2ppm、更に好ましくは0.15〜1ppm、特に好ましくは0.2〜0.5ppmであり、4−CBAの濃度は、好ましくは50〜500ppm、更に好ましくは100〜400ppmである。
テレフタル酸中には製法によっては不純物の酢酸を含有する場合がある。本発明のPBTを製造する際に使用されるテレフタル酸中の酢酸の含有量は、通常10〜5000ppm、好ましくは100〜3000ppm、更に好ましくは500〜2000ppmである。酢酸の含有量が多過ぎる場合は、PBTの重合が阻害され、結果的に高温での反応が要求されるために色調が悪化する傾向があり、極端に少なくしようとすると、テレフタル酸の精製を強化する必要があるため、エネルギー的にもコスト的にも不利になる。
本発明においては、エステル化反応槽にて、チタン触媒の存在下、少なくとも一部の1,4−ブタンジオールをテレフタル酸とは独立にエステル化反応槽に供給しながら、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとを連続的にエステル化する工程が好ましく採用される。すなわち、本発明においては、触媒に由来するヘイズや異物を低減し、触媒活性を低下させないため、原料スラリー又は溶液として、テレフタル酸と共に供給される1,4−ブタンジオールとは別に、しかも、テレフタル酸とは独立に1,4−ブタンジオールをエステル化反応槽に供給する。以後、当該1,4−ブタンジオールを「別供給1,4−ブタンジオール」と称することがある。
上記の「別供給1,4−ブタンジオール」には、プロセスとは無関係の新鮮な1,4−ブタンジオールを当てることが出来る。また、「別供給1,4−ブタンジオール」は、エステル化反応槽から留出した1,4−ブタンジオールをコンデンサ等で捕集し、そのまま、または、一時タンク等へ保持して反応槽に還流させたり、不純物を分離、精製して純度を高めた1,4−ブタンジオールとして供給することも出来る。以後、コンデンサ等で捕集された1,4−ブタンジオールから構成される「別供給1,4−ブタンジオール」を「再循環1,4−ブタンジオール」と称することがある。資源の有効活用、設備の単純さの観点からは、「再循環1,4−ブタンジオール」を「別供給1,4−ブタンジオール」に当てることが好ましい。
また、通常、エステル化反応槽より留出した1,4−ブタンジオールは、1,4−ブタンジオール成分以外に、水、THF、ジヒドロフラン、アルコール等の成分を含んでいる。従って、上記の留出物した1,4−ブタンジオールは、コンデンサ等で捕集した後、または、捕集しながら、水、テトラヒドロフラン等の成分と分離、精製し、反応槽に戻すことが好ましい。
そして、本発明においては、「別供給1,4−ブタンジオール」の内、10重量%以上を反応液液相部に直接戻すことが好ましい。ここで、反応液液相部とは、エステル化反応槽の気液界面の液相側を示し、反応液液相部に直接戻すとは、配管などを使用して「別供給1,4−ブタンジオール」が気相部を経由せずに直接液相部分に供給されることを表す。反応液液相部に直接戻す割合は、好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。反応液液相部に直接戻す「別供給1,4−ブタンジオール」が少ない場合は、チタン触媒が失活する傾向にある。
また、反応器に戻す際の「別供給1,4−ブタンジオール」の温度は、通常50〜220℃、好ましくは100〜200℃、更に好ましくは150〜190℃である。「別供給1,4−ブタンジオール」の温度が高過ぎる場合はTHFの副生量が多くなる傾向にあり、低過ぎる場合は熱負荷が増すためエネルギーロスを招く傾向がある。
また、本発明においては、触媒の失活を防ぐため、エステル化反応に使用されるチタン触媒の内、10重量%以上をテレフタル酸とは独立に反応液液相部に直接供給することが好ましい。ここで、反応液液相部とは、エステル化反応槽の気液界面の液相側を示し、反応液液相部に直接供給するとは、配管などを使用し、チタン触媒が反応器の気相部を経由せずに直接液相部分に供給されることを表す。反応液液相部に直接添加するチタン触媒の割合は、好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
上記のチタン触媒は、溶媒などに溶解させずに直接エステル化反応槽の反応液液相部に供給することも出来るが、供給量を安定化させ、反応器の熱媒ジャケット等からの熱による変性などの悪影響を軽減するためには、1,4−ブタンジオール等の溶媒で希釈することが好ましい。この際の濃度は、溶液全体に対するチタン触媒の濃度として、通常0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%、更に好ましくは0.08〜8重量%である。また、異物低減の観点から、溶液中の水分濃度は、通常0.05〜1.0重量%である。溶液調製の際の温度は、失活や凝集を防ぐ観点から、通常20〜150℃、好ましくは30〜100℃、更に好ましくは40〜80℃である。また、触媒溶液は、劣化防止、析出防止、失活防止の点から、別供給1,4−ブタンジオールと配管などで混合してエステル化反応槽に供給することが好ましい。
一方、周期表第1族または第2族金属化合物(助触媒)は、エステル化反応槽に供給してもよく、エステル化反応槽に続く重縮合反応槽へのオリゴマー配管や重縮合反応槽に添加することも出来る。助触媒の供給位置は、特に制限はなく、これら反応槽の反応液気相部から反応液上面へ供給してもよいし、反応液液相部に直接供給してもよい。また、この場合、テレフタル酸やチタン触媒と共に供給してもよいし、独立して供給してもよいが、助触媒の安定性の観点からはテレフタル酸やチタン触媒とは独立に、反応液気相部から反応液上面に供給することが好ましい。
通常、周期表第1族または第2族金属化合物は、固体であり、そのまま供給することも出来るが、供給量を安定化させ、熱による変性などの悪影響を軽減するため、1,4―ブタンジオール等の溶媒で希釈して供給することが好ましい。この際の濃度は、溶液全体に対する助触媒の濃度として、通常0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜15重量%、更に好ましくは0.08〜10重量%である。この溶液には、析出防止、熱安定性の向上などの目的で水を添加してもよく、その割合は、通常0.01〜25重量%である。
本発明の連続法の一例は、次の通りである。すなわち、テレフタル酸を主成分とする前記ジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールを主成分とする前記ジオール成分とを原料混合槽で混合してスラリーとし、単数または複数のエステル化反応槽内で、チタン触媒および助触媒の存在下に、通常180〜260℃、好ましくは200〜245℃、更に好ましくは210〜235℃の温度、また、通常10〜133kPa(絶対圧力、以下同じ)、好ましくは13〜101kPa、更に好ましくは60〜90kPaの圧力下で、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間で、連続的にエステル化反応させ、得られたエステル化反応生成物としてのオリゴマーを重縮合反応槽に移送し、単数または複数の重縮合反応槽内で、重縮合触媒の存在下に、好ましくは連続的に、通常210〜280℃、好ましくは220〜265℃、特に好ましくは230〜245℃の温度、通常27kPa以下、好ましくは20kPa以下、更に好ましくは13kPa以下の減圧下で、攪拌下に、通常2〜15時間、好ましくは3〜10時間で重縮合反応させる。この際、重縮合段階で新たに触媒の添加をしてもよいし、エステル化反応で使用した触媒をそのまま重縮合触媒として使用することとして新たに触媒の添加を行わなくてもよい。重縮合反応により得られたポリマーは、通常、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら又は水冷後、カッターで切断され、ペレット状、チップ状などの粒状体とされる。
本発明において、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとのモル比は、以下の式(3)を満たすことが好ましい。
上記の「エステル化反応槽に外部から供給される1,4−ブタンジオール」とは、原料スラリー又は溶液として、テレフタル酸と共に供給される1,4−ブタンジオールの他、これらとは独立に供給する1,4−ブタンジオール、触媒の溶媒として使用される1,4−ブタンジオール等、反応槽外部から反応槽内に入る1,4−ブタンジオールの総和である。
上記のB/TPAの値が1.1より小さい場合は、転化率の低下や触媒失活を招き、5.0より大きい場合は、熱効率が低下するだけでなく、テトラヒドロフラン等の副生物が増大する傾向にある。B/TPAの値は、好ましくは1.5〜4.5、更に好ましくは2.0〜4.0、特に好ましくは3.1〜3.8である。
本発明において、エステル化反応は、反応時間短縮のため、1,4−ブタンジオールの沸点以上の温度で行うことが好ましい。1,4−ブタンジオールの沸点は反応の圧力に依存するが、101.1kPa(大気圧)では230℃、50kPaでは205℃である。
エステル化反応槽としては、公知のものが使用でき、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽などの何れの型式であってもよく、また、単数槽としても、同種もしくは異種の槽を直列または並列させた複数槽としてもよい。中でも、攪拌装置を有する反応槽が好ましく、攪拌装置としては、動力部、軸受、軸、攪拌翼から成る通常のタイプの他、タービンステーター型高速回転式攪拌機、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機などの高速回転するタイプも使用することが出来る。
攪拌の形態は、特に制限されず、反応槽中の反応液を反応槽の上部、下部、横部などから直接攪拌する通常の攪拌方法の他、配管などで反応液の一部を反応器の外部に持ち出してラインミキサー等で攪拌し、反応液を循環させる方法も採ることが出来る。
攪拌翼の種類は、公知のものが選択でき、具体的には、プロペラ翼、スクリュー翼、タービン翼、ファンタービン翼、デイスクタービン翼、ファウドラー翼、フルゾーン翼、マックスブレンド翼などが挙げられる。
PBTの製造においては、通常、複数の反応槽を使用し、好ましくは2〜5の反応槽を使用し、順次に分子量を上昇させていく。通常、初期のエステル化反応に引き続き、重縮合反応が行われる。
PBTの重縮合反応工程は、単数の反応槽を使用しても、複数の反応槽を使用してもよいが、好ましくは複数段の反応槽を使用する。反応槽の形態は、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽などの何れの型式であってもよく、また、これらを組み合わせることも出来る。中でも、攪拌装置を有する反応槽が好ましく、攪拌装置としては、動力部、軸受、軸、攪拌翼から成る通常のタイプの他、タービンステーター型高速回転式攪拌機、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機などの高速回転するタイプも使用することが出来る。
攪拌の形態は、特に制限されず、反応槽中の反応液を反応槽の上部、下部、横部などから直接攪拌する通常の攪拌方法の他、配管などで反応液の一部を反応器の外部に持ち出してラインミキサー等で攪拌し、反応液を循環させる方法も採ることが出来る。中でも、少なくとも重縮合反応槽の1つは、水平方向に回転軸を有する表面更新とセルフクリーニング性に優れた横型の反応器を使用することが推奨される。
また、着色や劣化を抑え、ビニル基などの末端の増加を抑制するため、少なくとも1つの反応槽において、通常1.3kPa以下、好ましくは0.5kPa以下、更に好ましくは0.3kPa以下の高真空下で、通常225〜255℃、好ましくは230〜250℃、更に好ましくは233〜245℃の温度で行うのがよい。
更に、PBTの重縮合反応工程は、一旦、溶融重縮合で比較的分子量の小さい、例えば、固有粘度0.1〜1.0程度のPBTを製造した後、引き続き、PBTの融点以下の温度で固相重縮合(固相重合)させることも出来る。
本発明のPBTは、触媒由来の異物が飛躍的に低減されているため、当該異物を除去しなくてもよいが、ポリマー前駆体やポリマーの流路にフィルターを設置することにより、更に品質の優れたポリマーが得られる。本発明においては、上述の理由により、従来のPBTの製造設備で使用されているものと同じ目開きのフィルターを使用した場合は、その交換までの寿命を長くすることが可能である。また、交換までの寿命を同じに設定するならば、更に目開きの小さいフィルターを設置することが可能になる。
フィルターの設置位置が製造プロセスの余りにも上流側の場合は、下流側で発生する異物の除去が行えず、下流側の粘度が高い所ではフィルターの圧力損失が大きくなり、流量を維持するためには、フィルターの目開きを大きくしたり、フィルターの濾過面積や配管などの設備を過大にする必要があったり、また、流体通過時に高剪断を受けるため、剪断発熱によるPBTの劣化が不可避となる。従って、フィルターの設置位置は、PBT又はその前駆体の固有粘度が通常0.1〜1.2、好ましくは0.2〜1.0、更に好ましくは0.5〜0.9の位置が選択される。
フィルターを構成する濾材としては、金属ワインド、積層金属メッシュ、金属不織布、多孔質金属板などの何れでもよいが、濾過精度の観点から、積層金属メッシュ又は金属不織布が好ましく、特に、その目開きが焼結処理により固定されているものが好ましい。フィルターの形状としては、バスケットタイプ、ディスクタイプ、リーフディスクタイプ、チューブタイプ、フラット型円筒タイプ、プリーツ型円筒タイプ等の何れの型式であってもよい。また、プラントの運転に影響を与えない様にするため、複数のフィルターを設置し、切り替えて使用できる構造にしたり、オートスクリーンチェンジャーを設置することが好ましい。
フィルターの絶対濾過精度は、特に制限されないが、通常0.5〜200μm、好ましくは1〜100μm、更に好ましくは5〜50μm、特に好ましくは10〜30μmである。絶対濾過精度が大き過ぎる場合は製品中の異物低減効果がなくなり、小さ過ぎる場合は生産性の低下やフィルター交換頻度の増大を招く。絶対濾過精度とは、粒径が既知でかつ揃ったガラスビーズ等の標準粒径品を使用し濾過テストを行った場合に、完全に濾別除去される場合の最低粒径を示す。
以下、添付図面に基づき、PBTの製造方法の好ましい実施態様を説明する。図1は、本発明で採用するエステル化反応工程の一例の説明図、図2は、本発明で採用する重縮合工程の一例の説明図、図3〜5は、本発明で採用する重縮合工程の他の例の説明図である。
図1において、原料のテレフタル酸は、通常、原料混合槽(図示せず)で1,4−ブタンジオールと混合され、原料供給ライン(1)からスラリーの形態で反応槽(A)に供給される。一方、チタン触媒は、好ましくは触媒調整槽(図示せず)で1,4−ブタンジオールの溶液とした後、触媒供給ライン(3)から供給される。図1では再循環1,4−ブタンジオールの再循環ライン(2)に触媒供給ライン(3)を連結し、両者を混合した後、反応槽(A)の液相部に供給する態様を示した。また、助触媒(周期表第1族または第2族金属化合物)は、好ましくは助触媒調製槽(図示せず)で1,4―ブタンジオールの溶液とした後、助触媒供給ライン(15)から供給される。
反応槽(A)から留出するガスは、留出ライン(5)を経て精留塔(C)で高沸点成分と低沸点成分とに分離される。通常、高沸点成分の主成分は1,4−ブタンジオールであり、低沸点成分の主成分は、水およびTHFである。
精留塔(C)で分離された高沸点成分は抜出ライン(6)から抜き出され、ポンプ(D)を経て、一部は再循環ライン(2)から反応槽(A)に循環され、一部は循環ライン(7)から精留塔(C)に戻される。また、余剰分は抜出ライン(8)から外部に抜き出される。一方、精留塔(C)で分離された低沸点成分はガス抜出ライン(9)から抜き出され、コンデンサ(G)で凝縮され、凝縮液ライン(10)を経てタンク(F)に一時溜められる。タンク(F)に集められた低沸点成分の一部は、抜出ライン(11)、ポンプ(E)及び循環ライン(12)を経て精留塔(C)に戻され、残部は、抜出ライン(13)を経て外部に抜き出される。コンデンサ(G)はベントライン(14)を経て排気装置(図示せず)に接続されている。反応槽(A)内で生成したオリゴマーは、抜出ポンプ(B)及び抜出ライン(4)を経て抜き出される。
図1に示す工程においては、再循環ライン(2)に触媒供給ライン(3)が連結されているが、両者は独立していてもよい。また、原料供給ライン(1)や助触媒供給ライン(15)は反応槽(A)の液相部に接続されていてもよい。
図2において、前述の図1に示す抜出ライン(4)から供給されたオリゴマーは、第1重縮合反応槽(a)で減圧下に重縮合されてプレポリマーとなった後、抜出用ギヤポンプ(c)及び抜出ライン(L1)を経て第2重縮合反応槽(d)に供給される。第2重縮合反応槽(d)では、通常、第1重縮合反応槽(a)よりも低い圧力で更に重縮合が進みポリマーとなる。得られたポリマーは、抜出用ギヤポンプ(e)及び抜出ライン(L3)を経てダイスヘッド(g)から溶融したストランドの形態で抜き出され、水などで冷却された後、回転式カッター(h)で切断されてペレットとなる。符号(L2)は第1重縮合反応槽(a)のベントライン、符号(L4)は第2重縮合反応槽(d)のベントラインである。
図3に示す工程は、図2に示す工程に比し、抜出ライン(L3)の流路にフィルター(f)が装備されている点が異なる。
図4に示す工程は、図2に示す工程に比し、第2重縮合反応槽(d)の後に第3重縮合反応槽(k)が設けられている点が異なる。第3重縮合反応槽(k)は、複数個の攪拌翼ブロックで構成され、2軸のセルフクリーニングタイプの攪拌翼を具備した横型の反応槽である。抜出ライン(L3)を通じて第2重縮合反応槽(d)から第3重縮合反応槽(k)に導入されたポリマーは、ここで更に重縮合が進められた後、抜出用ギヤポンプ(m)及び抜出ライン(L5)を経てダイスヘッド(g)から溶融したストランドの形態で抜き出され、水などで冷却された後、回転式カッター(h)で切断されてペレットとなる。符号(L6)は第3重縮合反応槽(k)のベントラインである。
図5に示す工程は、図4に示す工程に比し、第2重縮合反応槽(d)と第3重縮合反応槽(k)との間の抜出ライン(L3)の途中にフィルター(f)が装備されている点が異なる。
本発明のPBTには、2,6−ジ−t−ブチル−4−オクチルフェノール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3',5'−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のフェノール化合物、ジラウリル−3,3'−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−ラウリルチオジプロピオネート)等のチオエーテル化合物、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等の燐化合物などの抗酸化剤、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタン酸やモンタン酸エステルに代表される長鎖脂肪酸およびそのエステル、シリコーンオイル等の離型剤などを添加してもよい。
本発明のPBTには、強化充填材を配合することが出来る。強化充填材としては、特に制限されないが、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維などの無機繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維などの有機繊維などが挙げられる。これらの強化充填材は、2種以上を組み合わせて使用することが出来る。上記の強化充填材の中では、無機充填材、特にガラス繊維が好適に使用される。
強化充填材が無機繊維または有機繊維である場合、その平均繊維径は、特に制限されないが、通常1〜100μm、好ましくは2〜50μm、更に好ましくは3〜30μm、特に好ましくは5〜20μmである。また、平均繊維長は、特に制限されないが、通常0.1〜20mm、好ましくは1〜10mmである。
強化充填材は、PBTとの界面密着性を向上させるため、収束剤または表面処理剤で表面処理して使用することが好ましい。収束剤または表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物などの官能性化合物が挙げられる。強化充填材は、収束剤または表面処理剤により予め表面処理しておくことが出来、または、PBT組成物の調製の際に、収束剤または表面処理剤を添加して表面処理することも出来る。強化充填材の添加量は、PBT樹脂100重量部に対し、通常150重量部以下、好ましくは5〜100重量部である。
本発明のPBTには、強化充填材と共に他の充填材を配合することが出来る。配合する他の充填材としては、例えば、板状無機充填材、セラミックビーズ、アスベスト、ワラストナイト、タルク、クレー、マイカ、ゼオライト、カオリン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。板状無機充填材を配合することにより、成形品の異方性およびソリを低減することが出来る。板状無機充填材としては、例えば、ガラスフレーク、雲母、金属箔どを挙げることが出来る。これらの中ではガラスフレークが好適に使用される。
本発明のPBTには、難燃性を付与するために難燃剤を配合することが出来る。難燃剤としては、特に制限されず、例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、その他の有機難燃剤、無機難燃剤などが挙げられる。有機ハロゲン化合物としては、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、ポリペンタブロモベンジルアクリレート等が挙げられる。アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等が挙げられる。リン化合物としては、例えば、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等が挙げられる。その他の有機難燃剤としては、例えば、メラミン、シアヌール酸などの窒素化合物などが挙げられる。その他の無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、ホウ素化合物などが挙げられる。
本発明のPBTには、必要に応じ、慣用の添加剤などを配合することが出来る。斯かる添加剤としては、特に制限されず、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤などの安定剤の他、滑剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤、結晶化促進剤などが挙げられる。これらの添加剤は、重合途中または重合後に添加することが出来る。更に、PBTに、所望の性能を付与するため、紫外線吸収剤、耐候安定剤などの安定剤、染顔料などの着色剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤などを配合することが出来る。
本発明のPBTには、必要に応じて、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸エステル、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を配合することが出来る。これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
前記の種々の添加剤や樹脂の配合方法は、特に制限されないが、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸または2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。各成分は、付加的成分を含めて、混練機に一括して供給することが出来、あるいは、順次供給することも出来る。また、付加的成分を含めて、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合しておくことも出来る。
本発明のPBTの成形加工方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押し出し成形、プレス成形などの成形法を適用することが出来る。
本発明のPBTは、色調、耐加水分解性、熱安定性、透明性、成形性に優れているため、電気、電子部品、自動車用部品などの射出成形部品として好適であるが、特に、異物が少なく、透明性に優れているため、フィルム、モノフィラメント、繊維などの用途において改良効果が顕著である。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の諸例で採用した物性および評価項目の測定方法は次の通りである。
(1)エステル化率:
以下の計算式(4)によって酸価およびケン化価から算出した。酸価は、ジメチルホルムアミドにオリゴマーを溶解させ、0.1NのKOH/メタノール溶液を使用して滴定により求めた。ケン化価は0.5NのKOH/エタノール溶液でオリゴマーを加水分解し、0.5Nの塩酸で滴定し求めた。
(2)末端カルボキシル基濃度:
ベンジルアルコール25mLにPBT又はオリゴマー0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定した。
(3)固有粘度([η]):
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合液を溶媒として使用し、30℃において、濃度1.0g/dLのポリマー溶液および溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式(5)より求めた。
(4)コバルト(Co)及びマンガン(Mn)含有量:
白金るつぼ中にテレフタル酸またはPBT試料1.0gを秤量し、電子工業用高純度硫酸を5mL添加後、加熱により炭化物を生成させた。この際、完全に炭化物を生成するまで硫酸の添加を繰り返した。生成した炭化物を800℃で灰化させた後、電子工業用高純度硝酸2mLで希釈した。この溶液中の金属元素をグラファイトファーネス原子吸光光度計(バリアンテクノロジーズジャパンリミテッド製「GF−AAS」)により定量し、テレフタル酸またはPBT当たりの量(ppm)に換算した。
(5)チタン(Ti)及び周期表第1族または第2族金属含有量:
ケルダールフラスコにPBT2.0gを秤量し、電子工業用高純度硫酸12mLと過酸化水素を添加(過酸化水素は適宜添加する)し、完全に溶解するまで湿式分解を行った後、超純水で所定濃度に希釈した。この溶液中の金属元素をICP(JOBIN YVON社製「JY46P」)により定量し、PBT当たりの量(ppm)に換算した。
(6)4−CBA含有量:
試料を2N−アンモニア水溶液に溶解させ、超純水にて所定濃度に希釈後、ODSカラムを装着した高速液体クロマトグラフィーで測定した。
(7)酢酸含有量:
試料を2N−水酸化カリウム水溶液に溶解させ、リン酸水溶液で酸析後、濾紙で濾過し、濾液中に含まれる酢酸を、DB−FFAPキャピラリーカラムを装着したガスクロマトグラフィーを使用し定量した。内部標準物質としてはプロピオン酸水溶液を使用した。
(8)末端ビニル基濃度および末端水酸基濃度:
重クロロホルム/重ヘキサフルオロイソプロパノール=7/3(体積比)の混合液1mLにPBT約100mgを溶解させ、重ピリジン36μLを添加し、50℃で1H−NMRを測定し求めた。NMR装置には日本電子(株)製「α−400」又は「AL−400」を使用した。
(9)アルデヒド基含有量:
重クロロホルム/重ヘキサフルオロイソプロパノール=7/3(体積比)の混合液1mLにPBT約100mgを溶解させ、20℃で1H−NMRを測定し求めた。NMR装置にはバリアン(株)製「Varian Unity Plus 400」を使用した。
(10)フィシュアイ数:
オプティカルコントロールシステムズ社製「Film Quality Testing System」(型式FS−5)を使用し、厚さ50μmのフィルムを成形し、1m2当たりの25μm以上のフィッシュアイ数を測定した。
(11)降温結晶化温度(Tc):
示差走査熱量計[パーキンエルマー社、型式DSC7]を使用し、昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温した後、降温速度20℃/minで80℃まで降温し、発熱ピークの温度を降温結晶化温度とした。Tcが高いほど結晶化速度が速く、成形サイクルを短くすることが出来る。
(12)溶液Haze:
フェノール/テトラクロロエタン=3/2(重量比)の混合液20mLにPBT2.70gを110℃で30分間溶解させた後、30℃の恒温水槽で15分間冷却し、日本電色(株)製濁度計(NDH−300A)を使用し、セル長10mmで測定した濁度を溶液Hazeとした。値が低いほど透明性が良好であることを示す。
(13)ペレット色調(b値):
日本電色(株)製色差計(Z−300A型)を使用し、Lab表色系におけるハンターの色差式の色座標b値を測定した。値が低いほど黄ばみが少なく色調が良好であることを示す。
(14)加水分解反応を除いた反応による末端基カルボキシル基濃度の増加(ΔCOOH):
東洋精機(株)製キャピログラフを使用し、内径10mmのシリンダー内に、120℃下で12時間乾燥させ水分100ppm以下としたPBTを充填し、245℃下で40分間溶融保持した後、ピストンで押し出した。抜き出したポリマーの固有粘度、末端カルボキシル基濃度および水酸基濃度を測定し、加水分解反応を除く末端カルボキシル基の増加(ΔCOOH)を、前述の式(2)より算出した。
実施例1:
図1に示すエステル化工程と図2に示す重縮合工程を通し、次の要領でPBTの製造を行った。コバルト濃度0.31ppm、マンガン濃度0.21ppm、4−CBA濃度225ppm、酢酸含有量1010ppmである中純度テレフタル酸(TPA)1.00モルに対して、1,4−ブタンジオール1.80モルの割合で混合した60℃のスラリーをスラリー調製槽から原料供給ライン(1)を通じ、予め、エステル化率99%のPBTオリゴマーを充填したスクリュー型攪拌機を有するエステル化のための反応槽(A)に、41kg/hとなる様に連続的に供給した。同時に、再循環ライン(2)から185℃の精留塔(C)の塔底成分(98重量%以上が1,4−ブタンジオール)を19kg/hで供給し、触媒供給ライン(3)から触媒として65℃のテトラブチルチタネートの6.0重量%1,4−ブタンジオール溶液を114g/hで供給した(理論ポリマー収量に対しTiとして35ppm)。この触媒溶液中の水分は0.20重量%であった。一方、ライン(15)から、周期表第1族または第2族金属化合物として、65℃の酢酸マグネシウム・4水塩の10.0重量%1,4―ブタンジオール溶液を24g/hで供給した(理論ポリマー収量に対しMgとして10ppm)。この溶液中の水分は10.0重量%であった。
反応槽(A)の内温は230℃、圧力は78kPaとし、生成する水とTHF及び余剰の1,4―ブタンジオールを、留出ライン(5)から留出させ、精留塔(C)で高沸点成分と低沸点成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸点成分は、98重量%以上が1,4―ブタンジオールであり、精留塔(C)の液面が一定になる様に、抜出ライン(8)を通じてその一部を外部に抜き出した。一方、低沸点成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサ(G)で凝縮させ、タンク(F)の液面が一定になる様に、抜出ライン(13)より外部に抜き出した。
反応槽(A)で生成したオリゴマーの定量は、ポンプ(B)を使用し、抜出ライン(4)から抜き出し、反応槽(A)内液の平均滞留時間が3.2hrになる様に液面を制御した。抜出ライン(4)から抜き出したオリゴマーは、第1重縮合反応槽(a)に連続的に供給した。系が安定した後、反応槽(A)の出口で採取したオリゴマーのエステル化率は97.0%であった。
第1重縮合反応槽(a)の内温は240℃、圧力2.1kPaとし、滞留時間が120分になる様に液面制御を行った。減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(L2)から、水、THF、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。抜き出した反応液は第2重縮合反応槽(d)に連続的に供給した。
第2重縮合反応槽(d)の内温は240℃、圧力130Paとし、滞留時間が80分になる様に液面制御を行い、減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(L4)から、水、THF、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。得られたポリマーは、抜出用ギヤポンプ(e)により抜出ライン(L3)を経由し、ダイスヘッド(g)からストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッター(h)でカッティングした。
得られたポリマーの固有粘度は0.85、末端カルボキシル基濃度は11.0μeq/g、b値は−0.9であった。他の分析値はまとめて表1に示した。異物が少なく、色調に優れ、透明性が良好なPBTが得られた。
実施例2:
実施例1において、図3に示す重縮合工程を採用した以外は、実施例1と同様に行った。図3に示す重縮合工程のフィルター(f)としては、金属不織布から成る絶対濾過精度20μmのプリーツ型工程タイプのフィルターを使用した。実施例1より更に異物の低減されたPBTが得られた。分析値はまとめて表1に示した。
実施例3:
実施例1において、中純度テレフタル酸/高純度テレフタル酸=3/7で使用した以外は、実施例1と同様に行った。高純度テレフタル酸とは、中純度テレフタル酸より精製工程を強化したテレフタル酸であり、コバルト濃度は0.02ppm、マンガン濃度は0.02ppm、4−CBA濃度は4ppm、酢酸濃度は10ppm未満であった。分析値はまとめて表1に示した。
実施例4:
実施例1において、酢酸マグネシウム・4水塩の供給量を変えて表1の通りにし、第2重縮合反応槽(d)の内温を239℃とした以外は、実施例1と同様に行った。分析値はまとめて表1に示した。
実施例5:
実施例1において、テトラブチルチタネートの供給量を変えて表1の通りにし、第2重縮合反応槽(d)の内温を239℃、滞留時間を65分とした以外は、実施例1と同様に行った。分析値はまとめて表1に示した。
実施例6:
実施例1において、酢酸マグネシウム・4水塩の代わりに酢酸カルシウム・1水塩を表1に示す量となる様に供給し、第2重縮合反応槽(d)の滞留時間を90分とした以外は、実施例1と同様に行った。分析値はまとめて表1に示した。
実施例7:
実施例1において、テトラブチルチタネートの供給量を変えて表1の通りにし、酢酸マグネシウム・4水塩の代わりに酢酸リチウム・2水塩を表1に示す量となる様に供給し、第2重縮合反応槽(d)の内温を239℃とした以外は、実施例1と同様に行った。分析値はまとめて表2に示した。
比較例1:
第2重縮合反応槽(d)の内温を243℃、滞留時間を70分とし、酢酸マグネシウム・4水塩を使用しなかった以外は、実施例5と同様に行った。ペレット色調が悪化し、異物も多かった。分析値はまとめて表2に示した。
比較例2:
実施例1において、テトラブチルチタネートの供給量を変えて表1の通りにし、第2重縮合反応槽(d)の内温を239℃、滞留時間を65分とした以外は、実施例1と同様に行った。末端カルボキシル基濃度が増加し、ペレット色調や溶液ヘイズが悪化し、異物も多かった。分析値はまとめて表2に示した。
参考例1:
実施例1において、中純度テレフタル酸の代わりに、実施例3で使用した高純度テレフタル酸を使用した以外は、実施例1と同様に行った。実施例1よりも色調に優れたPBTが得られたが、テレフタル酸の精製工程が複雑になった。分析値はまとめて表2に示した。
参考例2:
比較例2において、中純度テレフタル酸の代わりに、実施例3で使用した高純度テレフタル酸を使用した以外は、比較例2と同様に行った。実施例1よりも色調に優れたPBTが得られたが、テレフタル酸の精製工程が複雑になった。分析値はまとめて表2に示した。