JP5673100B2 - ブレイクアウト予知方法 - Google Patents

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本発明は、連続鋳造プロセスにおけるブレイクアウト予知方法に関する。
連続鋳造プロセスとは、溶鋼を鋳型内に注入し、注入された溶鋼を鋳型により徐冷して表面を凝固させ、半凝固状態の鋳片を鋳型下部より引抜きロールにより引抜き、最終的にスプレー冷却により完全に凝固した鋳片を製造する連続的プロセスである。
連続鋳造プロセスにおける鋳型内では、溶鋼の表面が鋳型により徐冷されるため、凝固シェルと呼ばれる溶鋼を包む殻が形成される。この凝固シェルに包まれた状態の溶鋼が鋳型を出るときに、この凝固シェルの成長が不十分であると、凝固シェルの不良部分から未凝固の溶鋼が噴出してしまうことがある。これがブレイクアウトと呼ばれる現象である。
このブレイクアウトが発生すると、連続鋳造設備の周辺に溶鋼が降りかかるため、復旧には多大な時間とコストを要する。そのため、ブレイクアウトの予兆をいち早く検出し、鋳込み速度を減じるなどの処置をし、ブレイクアウトを未然に防止する必要がある。
従来、ブレイクアウトは凝固シェルの成長不良に起因するので、鋳型内に埋設した温度計の検出値の変化からブレイクアウトの予兆を捉える手法が一般に採用されている。例えば特許文献1には、温度計ごとに検出温度の時系列データにおける変化量(=現在温度−移動平均温度)および温度変化率を求め、これらの量が予め設定した閾値を越えた場合にブレイクアウトが発生する可能性があると判断する方法が開示されている。また、特許文献2には、ある1つの温度計における検出温度について平均温度より一旦上昇してから下降する温度変化パターンを検出した場合、同様の温度変化パターンを隣接する他の温度計における検出温度についても検出できるかを監視することによりブレイクアウト発生を予知する方法が開示されている。
特公平05−056222号公報 特公昭63−047545号公報
しかしながら、特許文献1記載の技術は、検出温度の時系列データに対して変化量および温度変化率を求める構成であるため、鋳造速度の変化などのブレイクアウトの予兆以外の要因によって検出温度が変化したのにも係わらず、ブレイクアウトが発生する可能性があると判断する可能性がある。また、特許文献2記載の技術は、温度変化パターンをロジックによって検出するために、ロジックを構成するパラメータが適切に設定されていない場合、ブレイクアウトを誤検知する可能性がある。このように、従来のブレイクアウト予知方法によれば、ブレイクアウトの予兆以外の要因によってブレイクアウトを誤検知する可能性がある。このため、ブレイクアウトの予兆以外の要因に左右されることなく、ブレイクアウトを精度高く予知可能な技術の提供が期待されていた。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ブレイクアウトを精度高く予知可能なブレイクアウト予知方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるブレイクアウト予知方法は、連続鋳造設備の鋳型に埋設され、かつ感度係数を求めた複数の温度計により前記鋳型の温度を検出するステップと、前記複数の温度計の各々の感度係数を成分とするベクトルを感度係数ベクトルとし、前記複数の温度計の各々の検出値を成分とするベクトルを検出温度ベクトルと定義するステップと、前記感度係数ベクトルに垂直な検出温度ベクトルの成分を逸脱度として算出するステップと、前記逸脱度の成分が閾値を超えた温度計に対して第1のスコアを与えるステップと、前記第1のスコアを温度計別の得点として、前記複数の温度計の各々の得点の有無を成分とする温度計別得点ベクトルを定義するステップと、前記温度計別得点ベクトルにおいて、前記各温度計と該各温度計に隣接する温度計とに得点が与えられている場合に、中心となる温度計に第2のスコアを与えるステップと、前記第2のスコアによりブレイクアウトの前兆の発生を検知するステップとを含むことを特徴とする。
本発明にかかるブレイクアウト予知方法によれば、ブレイクアウトを精度高く予知することができる。
図1は、本発明の実施形態に係る連続鋳造装置の模式図である。 図2は、鋳型および鋳型に埋設された熱電対の概略構成例を示す部分斜視図である。 図3は、ブレイクアウト発生時における鋳型内の溶鋼および凝固シェル状況を説明する図である。 図4は、ブレイクアウト発生時における熱電対の検出温度の時系列データを示すグラフである。 図5は、湯面レベルに変動が生じた場合の熱電対の検出温度の時系列データを示すグラフである。 図6は、一時的に発生した破断部がブレイクアウトまでには至らなかった場合の熱電対の検出温度の時系列データを示すグラフである。 図7は、本発明の実施形態に係るブレイクアウト予知方法のフローチャートである。 図8は、正常時における、熱電対の検出温度の相関を示す図である。 図9は、ブレイクアウト発生時における、熱電対の検出温度の相関を示す図である。 図10は、正常時における熱電対の検出温度の挙動を示した2つの事例の時系列データを示すグラフである。 図11は、評価時刻に対する過去の基準区間を説明する図である。 図12は、標準偏差を用いて設定した逸脱度の閾値を示す図である。 図13は、鋳型に埋設される熱電対が1段構成の場合の隣接性判定の例を示す図である。 図14は、鋳型に埋設される熱電対が2段構成の場合の隣接性判定の例を示す図である。 図15は、本発明の実施形態に係るブレイクアウト予知方法により、ブレイクアウトを予知した事例の時系列検出データを示すグラフである。
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
図1は、本発明の実施形態に係る連続鋳造装置1の概略構成例を示す模式図である。図1に示すように、本発明の実施形態による連続鋳造機1は、溶鋼2が注入されているタンディッシュ3と、タンディッシュ3から浸漬ノズル4を介して注がれた溶鋼2を徐冷する銅製の鋳型5と、鋳型5から引き抜かれた半凝固状態の鋳片6を搬送する複数の鋳片支持ロール7と、鋳型5に埋設された温度計としての熱電対8,9の検出温度からブレイクアウトの予兆現象を判定する判定部Aとを備える。
ここで図2に、上記連続鋳造装置1における鋳型5および鋳型5に埋設された熱電対8〜8,9〜9の概略構成例を示す部分斜視図を示す。図2に示すように、熱電対8〜8,9〜9は、鋳型5の側面から所定の深さに配置されている。本実施形態は、熱電対8〜8,9〜9を2段構成とし、第1段の熱電対8〜8と第2段の熱電対9〜9とに分けて、それぞれ同一平面上に埋設する。なお、図2に示される熱電対の配置は、本発明の説明のための一例に過ぎず、鋳型5の一側面のみならず鋳型5の全側面に熱電対を配置することが好ましく、熱電対をより多くの多段配列にすることも1段配列にすることも可能である。
次に、図3および図4を参照して、ブレイクアウトの発生現象について説明する。図3は、ブレイクアウト発生時における鋳型5内の溶鋼2および凝固シェル10の状況を説明する図であり、図4は、ブレイクアウト発生時における熱電対8〜8の時系列検出データを示すグラフである。
図3に示されるように、ブレイクアウトの前兆現象では、何らかの要因で鋳型5と溶鋼2とが接触し焼付きが発生し、凝固シェル10が鋳型5に拘束される。一方、溶鋼2は下部より引き抜かれるため、焼付きの直下に凝固シェル10の破断部11が生じる。そして、凝固シェル10の破断部11では、鋳型5と溶鋼2が接触し、さらなる焼付きが発生する。以上の現象を繰り返しながら凝固シェル10の破断部11は下方へ移動する。最終的に、この破断部11が鋳型5の下端部に達し、破断部11から溶鋼2が噴出してしまうのがブレイクアウトである。
ブレイクアウトの発生過程は上記のような経過を経るので、下方へ移動する破断部11が熱電対8〜8の配置位置を通過するときに、熱電対8〜8の検出温度が高温になる。その後、破断部11より上の凝固シェル10は鋳型5に拘束されて冷却され続けるので、熱電対8〜8の検出温度は単調的に減少する。一方、凝固シェル10の破断部11は下方向のみならず横方向へも伝播するため、図3で示すようにV字型をなして破断部11が拡大する。なお、凝固シェル10の破断部11が熱電対位置8〜8よりも下部で発生した場合は、熱電対8〜8の位置で破断部11の通過が発生しないので、熱電対8〜8の検出温度の低下のみが観測される。
図4は、ブレイクアウト発生時における熱電対8〜8の検出温度の時系列データを示すグラフである。図4に示されるグラフから、熱電対8iが起点となり、少し遅れて熱電対8i-1や熱電対8i+1へ温度変化が伝播していることが読み取れる。ただし、図4に示される事例は、シェル破断が熱電対位置8〜8よりも下部で発生したため温度低下のみが観測された事例である。
次に、ブレイクアウト以外の原因による熱電対8〜8の検出温度の変化について検討する。
図5は、何らかの理由により溶鋼2の湯面レベルに変動が生じた場合における、熱電対8〜8の検出温度の時系列データを示すグラフである。図5に示されるグラフから、溶鋼2の湯面レベルの変動にあわせて全ての熱電対8〜8の検出温度が連動して温度変動をしていることが読み取れる。
図6は、一時的に発生した凝固シェル10の破断部11が修復されブレイクアウトまでには至らなかった場合における、熱電対8〜8の検出温度の時系列データを示すグラフである。同図に示されるグラフは、ある熱電対8が検出温度低下の起点となり、少し遅れて隣の熱電対8j+1へ温度変化が伝播したものの、しばらくして検出温度が元に戻るとともに、他の熱電対8〜8では大きな変化がなかった状況を示している。
以上のように、温度低下の現象は、鋳造速度の低下、湯面レベルの変動、および一時的な凝固シェルの破断などによっても生じ得る。しかしながら、鋳造速度の低下または湯面レベルの上昇の場合は、全ての熱電対8〜8が連動し、また一時的なシェル破断の場合は、周囲の熱電対8〜8に伝播しない。これに対して、ブレイクアウトに起因する温度変化の場合は、シェル破断の発生位置に近い熱電対8iで温度低下が生じ、少し遅れて両隣の熱電対8i-1や熱電対8i+1で温度低下が生じる。
したがって、本発明の実施形態にかかるブレイクアウト予知方法は、各熱電対8〜8の非連動性の評価値を算出した上で、その評価値が予め設定した閾値を超える熱電対8〜8に対して温度変化の隣接性の判定をすることで、ブレイクアウトの予知精度を格段に向上させる。以下では、この技術思想によるブレイクアウト予知について詳しく説明する。
図7は、本発明の実施形態に係るブレイクアウト予知方法のフローチャートである。このフローチャートに示されるブレイクアウト予知方法は、図1に示した判定部Aにより実行される。本発明の実施形態に係るブレイクアウト予知方法では、予め正常時の熱電対8〜8についての感度係数を算出しておく(ステップS1)。なお、この感度係数については後に詳述することとし、ここでは詳細な説明を省略する。そして、熱電対8〜8を用いて、ブレイクアウト予知のための通常の温度検出を経時的に実行する(ステップS2)。そして、熱電対8〜8の検出温度から、上記感度係数を用いて、逸脱度を算出する(ステップS3)。感度係数を成分とするベクトルとは、いわば熱電対8〜8平均的な挙動を示す方向を表すものであり、検出温度における感度係数を成分とするベクトルの方向と平行な成分が、平均的挙動の成分を示し、感度係数を成分とするベクトルの方向と垂直な成分が平均的な挙動からの逸脱度の成分である。
次に、算出した逸脱度を所定の閾値と比較することにより、逸脱度を超えた熱電対8〜8に第1のスコアを付与する(ステップS4)。その後、この逸脱度に関する第1のスコアから逸脱度を超えた熱電対8〜8の隣接性に関する第2のスコアを算出する(ステップS5)。最後に、隣接性に関する第2のスコアによりブレイクアウトが起こるか否かの判定を行う(ステップS6)。
次に、上記ブレイクアウト予知方法で用いた感度係数、平均的挙動の成分、および逸脱度の成分について説明する。
図8は、正常時(つまりブレイクアウトが発生しない状態)における、熱電対8〜8の検出温度の相関を示す図である。一方、図9は、ブレイクアウト発生時における、熱電対8〜8の検出温度の相関を示す図である。両図は、簡単のため2個の熱電対8,8の場合について表示したものである。
図8に示されるように、正常時における熱電対8,8の検出温度は、感度係数を成分とするベクトルの方向を示す破線(図8に示した例では右斜め45度のライン)に近い範囲に分布する。すなわち、熱電対8で検出される検出温度tmp(i)が上昇すれば、他の熱電対8で検出される検出温度tmp(j)も上昇する。一方、熱電対8で検出される検出温度tmp(i)が低下すれば、他の熱電対8で検出される検出温度tmp(j)も低下する。
上記のように、正常時における熱電対8,8が相関をもつ理由は以下による。例えば、連続鋳造装置1の鋳造速度が上昇した場合、凝固シェル10が十分に成長しないうちに鋳片6が引き抜かれるので、凝固シェル10が薄くなる。その結果、溶鋼2の温度が熱電対8,8に伝わりやすくなる。一方、鋳造速度が低下した場合、凝固シェル10が十分に成長してから引き抜かれるので、凝固シェル10が厚くなり、溶鋼2の温度が熱電対8,8に伝わり難くなる。これらの傾向はすべての熱電対8〜8に共通して成立するので、正常時における熱電対8〜8の検出温度は感度係数を成分とするベクトルの方向を示す破線に近い範囲に分布するのである。ただし、熱電対8〜8毎に溶鋼2の温度の伝わりやすさが異なるので、熱電対8〜8の感度係数は一般に一定ではない。したがって、図8に例示した感度係数を成分とするベクトルは右斜め45度となっているが、熱電対8〜8の設置場所や施工のばらつき等によりこの角度は変わり得る。
また、上記感度係数を求める一つの方法として、主成分分析を用いる方法が考えられる。その他の方法として、例えば、湯面の変動等で全体の温度が変わるときの個々の熱電対8〜8における溶鋼2の温度の伝わりやすさを実験的に求める方法が考えられる。
一方、ブレイクアウト発生時における熱電対8,8の検出温度は、図9に示されるように、感度係数を成分とするベクトルの方向を示す破線(図9に示した例では右斜め45度のライン)から離れた位置に分布する。ブレイクアウトが発生する場合、先述のように、凝固シェル10の破断部11の位置に近い熱電対8iで検出温度の低下が生じ、少し遅れて両隣の熱電対8i-1,8i+1で検出温度の低下が生じるからである。
以上の考察から、熱電対8〜8の検出温度が、感度係数を成分とするベクトルの方向を示す破線からどれほどはなれるかによって、ブレイクアウトの発生を判定することができることが解る。具体的には、熱電対8〜8の検出温度は、感度係数を成分とするベクトルに平行な成分と垂直な成分とに分解することができるので、感度係数を成分とするベクトル(図中wgt=(wgt(i),wgt(j)))に平行な成分を平均的挙動の成分(図中prdct)と定義し、感度係数を成分とするベクトルに垂直な成分を逸脱度の成分(図中Qcmp)と定義する。そして、本発明の実施形態にかかるブレイクアウト予知方法は、この逸脱度の成分を監視することにより、ブレイクアウトの発生の予知をする。
なお、上記逸脱度の判定に用いる閾値は、以下のように統計的手法により定めることが好ましい。
図10は、鋳型5に埋設された熱電対8〜8の検出温度の正常時における挙動を示した2つの事例の時系列検出データのグラフである。図10上図は、比較的温度が安定している事例であり、図10下図は、変動がやや大きい事例である。両図に示されるように、ブレイクアウトが発生しない場合であっても、熱電対8〜8の検出温度の挙動には、大きなばらつきが存在する。したがって、熱電対8〜8の検出温度の絶対値のみを用いて逸脱度の評価をすると誤検知をしてしまう可能性が高くなる。
そこで、本発明の実施形態にかかるブレイクアウト予知方法は、逸脱度の評価時点から遡った基準区間を設け、この基準区間における検出温度の変化を基準として、熱電対8〜8の検出温度の逸脱度が統計的に逸脱した場合、ブレイクアウトの予兆現象であると判定する。図11は、評価時刻に対する過去の基準区間を説明する図である。図11に示されるように、評価時刻の周辺の検出温度は、基準区間における検出温度のばらつきよりも大きく変化している。したがって、基準区間における検出温度の統計的分布を基準とすることにより、ブレイクアウト予知の誤検知を防ぐことができる。
本発明の実施形態にかかるブレイクアウト予知方法は、当該基準区間における検出温度のばらつきを統計的に算出する方法として、次式で示す対数尤度を利用することができる。
そして、本発明の実施形態にかかるブレイクアウト予知方法は、この平均値μと標準偏差σを用いて逸脱度の閾値を設定する(図12を参照)。
次に、上述のように、感度係数を成分としたベクトルから算出した逸脱度が予め設定した(統計的)閾値を超える場合に、この閾値を超えた熱電対8〜8の隣接性を判定するための方法を説明する。
図13は、鋳型5に埋設される熱電対8〜8が1段構成の場合の隣接性における、判定方法の例を示す図である。本例の隣接性判定方法は、まず、上述のように設定した閾値を超えた熱電対8〜8に対して、第1のスコアである熱電対別得点として1点を付与し、閾値を超えない熱電対8〜8に対して、熱電対別得点として0点を付与する。そして、この熱電対別得点のベクトルに対して、熱電対別得点を1つ前の熱電対8〜8にずらしたものを前方シフトベクトルとし、1つ後にずらしたものを後方シフトベクトルと定める。そして、前方シフトベクトル及び後方シフトベクトルの各要素を掛け合わせたものを隣接3点積ベクトルと定める。このように定めた隣接3点積ベクトルを算出すると、閾値を越えた熱電対が隣接して3つ存在する場合に、その中心の熱電対の得点は1点となり、それ以外の熱電対の得点が0点となるので、この得点を第2のスコアと定める。
図13に示される例を用いて具体的に説明すると、熱電対8,8,8が設定した閾値を超えているので、まず各熱電対8,8,8に熱電対別得点(第1のスコア)として1点が付与される。そして、前方シフトベクトルは(0,1,1,1,0,0,・・・)であり、後方シフトベクトルは(0,0,0,1,1,1,・・・)である。前方シフトベクトル及び後方シフトベクトルの各要素を掛け合わせた隣接3点積ベクトルは、(0,0,0,1,0,0,・・・)となり、閾値を越えた熱電対が隣接して3つ存在する場合に、その中心の熱電対8の得点(第2のスコア)は1点となり、それ以外の熱電対の得点が0点となることが解る。
したがって、上記の判定方法によれば、隣接3点積ベクトルの何れかの成分が1となれば、ブレイクアウトの前兆が発生していることを判定することができる。
さらに、鋳型5に埋設される熱電対8〜8,9〜9が2段構成の場合の場合にも、上記隣接性の判定方法を拡張することができる。図14は、熱電対8〜8,9〜9の配置が縦方向に2段であり、上段の熱電対8〜8にて隣接3点、かつ下段の熱電対9〜9にて上段の隣接3点のうち1点に対応する熱電対8で得点を獲得している場合に隣接性の条件を満たすとする判定方法を示した図である。
本方法では、まず上段の熱電対8〜8の検出温度が閾値を超えているか否かを示す第1のスコア(熱電対別得点)を用いて、上段の熱電対8〜8における隣接性を判定し、上記隣接3点積ベクトルを算出する。図14に示される例では、上段の熱電対8,8,8が設定した閾値を超えた場合の例であり、隣接3点積ベクトルは(0,0,0,1,0,0,・・・)である。なお、この判定方法は、図13を用いて説明した方法と同じであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
そして、下段の熱電対9〜9に関しては、熱電対別得点ベクトル、前方シフトベクトル及び後方シフトベクトルの各要素の和をとり、どれか1つでも得点があれば、その熱電対9〜9の得点を1点とする。これらの得点を配列したものを隣接3点和ベクトルとし、上段の隣接3点積ベクトルと下段の隣接3点和ベクトルの各要素を掛け合わせたものを上下隣接4点積ベクトルとする。最終的に、上下隣接4点積ベクトルの要素のどれかに得点(第2のスコア)があれば、隣接性が成立すると判定する。図14に示される例では、下段の熱電対9が設定した閾値を超えた場合の例であり、隣接3点積ベクトルは(0,1,1,1,0,0,・・・)である。そして、上下隣接4点積ベクトルは(0,0,0,1,0,0,・・・)であり、第2のスコアを得点しているので隣接性が成立していると判定することができる。
なお、上記本発明の実施形態の説明では、熱電対8〜8,9〜9の鋳型5における配置位置について考慮しなかったが、鋳型5の長手面と短手面とに配置される熱電対8〜8,9〜9で、それぞれ別々に隣接状況に基づいて第2のスコアを演算することにより、より高精度な判別を実施することができる。
次に、以上に説明した本発明の実施形態に係るブレイクアウト予知方法の効果について検討する。
図15は、以上に説明した本発明の実施形態に係るブレイクアウト予知方法により、ブレイクアウトを予知した事例の時系列検出データのグラフである。図15に示されるように、本発明の実施形態に係るブレイクアウト予知方法によれば、ブレイクアウト検知限界時刻(図中t秒)よりも早くブレイクアウトを検知する(図中t秒)ことができている。
以下に掲げる表は、本発明の実施形態に係るブレイクアウト予知方法を過去のブレイクアウト事例に適用した場合の結果を示している。
<ブレイクアウト事例>
従来法 本発明の方法
事例1 未検知 検知
事例2 未検知 検知
事例3 検知 検知
事例4 検知 検知
事例5 検知 検知
<正常事例(2ヶ月間)>
従来法 本発明の方法
誤報 2件 0件
上記表から理解できるように、本発明の実施形態に係るブレイクアウト予知方法によれば、ブレイクアウトが発生した過去の事例について、すべて検知することができ、かつ、従来方法で誤報となっていた正常事例においても誤報を発しなくなった。
以上より、発明の実施形態に係るブレイクアウト予知方法によれば、連続鋳造設備1の鋳型5に埋設され、かつ感度係数を求めた複数の熱電対8〜8により鋳型5の温度検出をするステップと、複数の熱電対8〜8の検出値を成分とするベクトルから、感度係数を成分とするベクトルに平行な成分である平均的挙動の成分と、感度係数を成分とするベクトルに垂直な成分である逸脱度の成分とを各温度計8〜8について算出するステップと、逸脱度の成分が閾値を超えた熱電対8〜8に対して第1のスコアを与えるステップと、第1のスコアを与えた熱電対8〜8の隣接状況に基づいて、第1のスコアから第2のスコアを演算するステップと、第2のスコアに基づいてブレイクアウトを予知するステップとを含むので、ブレイクアウトの予兆以外の要因で鋳型5の温度が変化したときでも、ブレイクアウトの発生を誤報することなくブレイクアウト予知が可能である。
さらに、発明の実施形態に係るブレイクアウト予知方法によれば、複数の熱電対8〜8の過去の検出温度のデータから統計的手法で逸脱度の成分についての閾値を算出するので、正常状態における検出温度のばらつきに依存しないブレイクアウト予知が可能である。このとき、過去の検出温度のデータの標準偏差を用いて逸脱度の成分についての閾値を定めることが好ましい。
1 連続鋳造装置
2 溶鋼
3 タンディッシュ
4 浸漬ノズル
5 鋳型
6 鋳片
7 鋳片支持ロール
8 熱電対
9 熱電対
10 凝固シェル
11 破断部
A 判定部

Claims (4)

  1. 連続鋳造設備の鋳型に埋設され、かつ感度係数を求めた複数の温度計により前記鋳型の温度を検出するステップと、
    前記複数の温度計の各々の感度係数を成分とするベクトルを感度係数ベクトルとし、前記複数の温度計の各々の検出値を成分とするベクトルを検出温度ベクトルと定義するステップと、
    前記感度係数ベクトルに垂直な検出温度ベクトルの成分を逸脱度として算出するステップと、
    前記逸脱度の成分が閾値を超えた温度計に対して第1のスコアを与えるステップと、
    前記第1のスコアを温度計別の得点として、前記複数の温度計の各々の得点の有無を成分とする温度計別得点ベクトルを定義するステップと、
    前記温度計別得点ベクトルにおいて、前記各温度計と該各温度計に隣接する温度計とに得点が与えられている場合に、中心となる温度計に第2のスコアを与えるステップと
    前記第2のスコアによりブレイクアウトの前兆の発生を検知するステップと、
    を含むことを特徴とするブレイクアウト予知方法。
  2. 前記複数の温度計の過去の検出温度のデータから統計的手法で前記逸脱度の前記閾値を算出することを特徴とする請求項1に記載のブレイクアウト予知方法。
  3. 前記複数の温度計は、前記鋳型の長手面と短手面とに配置された温度計を含み、長手面と短手面とに配置された温度計に対してそれぞれ別々に隣接状況に基づいて第2のスコアを演算するステップを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のブレイクアウト予知方法。
  4. 前記複数の温度計は、前記鋳型に上下に複数段整列して埋設され、上下に整列する各温度計についての前記第2のスコアに基づいて、ブレイクアウトの前兆の発生を検知するステップを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のブレイクアウト予知方法。
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