JP6119807B2 - 連続鋳造スラブの表面欠陥判定方法及び装置、該表面欠陥判定方法を用いた鋼鋳片の製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1や2では、鋳型の湯面近傍に3段(行)の熱電対を設置し、凝固シェル厚が10mm程度になる鋳型範囲における温度測定値から鋳型内の溶鋼流動を予測し、表面欠陥の起因となる介在物や気泡の存在有無を判定する方法が開示されている。
また、特許文献3や4では、同様に鋳型に熱電対を設置して、温度測定値からスラブの縦割れを検知する方法が開示されている。
さらに、特許文献5では、多数(多種類)の操業データを少数(少種類)の変数(特徴量と称する)で表現できるように変換し、その代表値となる特徴量と品質データとの対応についての実績データベースを用いて製品品質を予測する技術が開示されている。
特許文献1や2に開示された方法では、鋳型に設置された熱電対から間接的にスラブ温度を測定しても、溶鋼内部温度を予測し、さらには溶鋼流動を予測することは実際には難しい。また、たとえうまく予測できたとしても、実際のスラブ表面欠陥は、気泡や介在物など溶鋼流動の異常によるものだけでなく、例えばフラックスの巻込み(噛込み)や流れ落ちといった不均一流入、オシレーション割れ、或いは鋳型直下の冷却異常による冷却斑などに起因するものも多いのが事実であり、これらの発生をスラブ温度測定から予測するのは困難である。
鋳型長辺に埋設する前記測温素子の配置を、鋳造方向については、最上段の前記測温素子の位置を湯面制御レベルから下方に200mm以内、最下段の前記測温素子の位置を湯面制御レベルから下方に500mm以上離れた位置、隣り合う前記測温素子間の間隔を250mm以下、段数を4段以上とし、鋳型幅方向については、両短辺に最も近い箇所に設置された前記測温素子の位置を測定対象のスラブ辺の短辺面と長辺面の交線の位置から、鋳型幅中央に向かう方向に沿って250mm以内、隣り合う前記測温素子間の間隔を200mm以下、列数を8列以上とし、
上記のように配置された前記測温素子によって測定された鋳型銅板の測温データを取得する測温データ取得工程と、該取得された測温データは、隣り合う2列以上の前記測温素子から取得される前記測温データを1つのグループとして鋳型幅方向に2以上のグループにグループ化し、該グループ毎の前記測温データを主成分分析して主成分スコアを算出する主成分分析工程と、該算出された主成分スコアに基づいてスラブ表面における欠陥発生の有無を前記グループ毎に判定する主成分スコア判定工程を備えたことを特徴とするものである。
鋳型長辺に埋設する前記測温素子の配置を、鋳造方向については、最上段の前記測温素子の位置を湯面制御レベルから下方に200mm以内、最下段の前記測温素子の位置を湯面制御レベルから下方に500mm以上離れた位置、隣り合う前記測温素子間の間隔を250mm以下、段数を4段以上とし、鋳型幅方向については、両短辺に最も近い箇所に設置された前記測温素子の位置を測定対象のスラブ辺の短辺面と長辺面の交線の位置から、鋳型幅中央に向かう方向に沿って250mm以内、隣り合う前記測温素子間の間隔を200mm以下、列数を8列以上とし、
上記のように配置された前記測温素子によって測定された鋳型銅板の測温データを取得する測温データ取得手段と、
該取得された測温データは、隣り合う2列以上の前記測温素子から取得される前記測温データを1つのグループとして鋳型幅方向に2以上のグループにグループ化し、該グループ毎の前記測温データを主成分分析して主成分スコアを算出する主成分分析手段と、
該算出された主成分スコアに基づいてスラブ表面における欠陥発生の有無を前記グループ毎に判定する主成分スコア判定手段を備えたことを特徴とするものである。
前記主成分スコア判定工程において欠陥発生有りと判定された前記グループに対応する鋳型幅方向における鋳型内相対位置を特定する鋳型内相対位置特定工程と、
該鋳型内相対位置特定工程で特定された鋳型内相対位置から鋳型内における溶鋼流動異常を推定し、該推定された溶鋼流動異常を解消するように溶鋼流動を制御する溶鋼流動制御工程とを備えたことを特徴とするものである。
これにより、鋳造後のスラブに対する表面手入れの要否や引当てグレードの変更を効率良く行うことが可能となると共に、溶鋼流動の異常発生位置をおおよそ特定することが出来るため、適切な溶鋼流動をするための具体策を的確に且つ速やかに施すことができ、表面欠陥が低減された鋼鋳片を製造することが可能となる。
本発明の実施の形態1に係る連続鋳造スラブの表面欠陥判定方法及び装置を詳細に説明する前に、まず本発明に至った経緯について説明する。
本発明者らは、スラブ連続鋳造機での種々の鋳造条件下において、鋳型内鋳造方向及び鋳型幅方向の鋳型長辺面銅板温度のプロファイルを調査した。その場合に、相対する鋳型長辺銅板には、向かい合ったほぼ同一の箇所に、測温素子として熱電対5を埋め込み(図1参照)、それぞれの位置での鋳型長辺銅板温度を測定した。
鋳造方向については、図2に示すように、湯面制御レベルからの距離が50mmの点を始点として120mm〜170mm間隔で、第1段から第7段までの合計7段となるように熱電対5を埋設した。湯面制御レベルとは、タンディッシュから溶鋼を鋳型に注入する際、注入量自動制御の目標とする湯面レベルのことである。なお、鋳型銅板上面から湯面制御レベルまでの距離は50mmである。
このような熱電対5を埋設した鋳型3を用いて種々の鋳造条件において銅板温度プロファイルの測定を行いつつ、スラブを製造した。製造したスラブを圧延し、オンライン表面欠陥計にて表面欠陥を連続的に測定し、製品における表面欠陥発生位置と鋳型銅板温度の測定結果を対比調査した。
しかしながら、図3に示すとおり、ヘゲの発生時間帯に3−C〜7−C位置の温度挙動に特徴的な変化が見られるものの、同様の温度挙動の変化はヘゲの発生がなかった時間帯(例えば4:38〜4:39頃)においても見られる。このことは、欠陥が発生した位置に限って温度挙動の変化を見ても欠陥発生を精度良く判定することが困難であることを示唆する。
また、埋設された多数の熱電対5により取得された温度挙動の変化を見極めるのはデータ処理の観点からも容易ではない。
1秒毎に100本の熱電対5から測温データが取得できるとした場合、t秒間分の温度の時系列データXは下式(1)で表される。式(1)においてTは温度を表し、下付き数字は熱電対番号、上付き数字は時間を表している。
式(1)で表される温度の時系列データXは、基底1〜基底3(y1、y2、y3)と基底係数ai jを用いて下式(3)で近似できる。
以降の説明において、基底1〜基底3を「第1主成分」〜「第3主成分」、基底係数を「主成分スコア(主成分得点)」と表記する。
図4において、縦軸は主成分スコアを表し、横軸は鋳造時刻を表している。上述したとおり、主成分スコア(主成分得点)とは、第1主成分〜第5主成分のそれぞれの重みに相当し、多数の測定データを特徴付ける新たな変数であり、この値が大きいほど平均的な測定データに対して特異性があることを示している。なお、以下の説明において、第1主成分の主成分スコアを第1主成分スコアといい、他の主成分についても同様に表記する。
また、図4には、圧延した製品に欠陥が発覚した該当スラブの欠陥位置(鋳型幅方向位置を熱電対5の配置列により表記)及び鋳型内の通過時間帯を併記している。
尚、本例では主成分の数は5としたが、任意に設定することができる。
このように、熱電対5により得られた全測温データをそのまま単純に主成分分析して統計評価するだけでは、わずかな温度挙動の変化を抽出して欠陥発生の有無を判定することは実際には難しい場合があることを示唆している。
例えば、熱電対5を鋳型幅方向に対して3グループにグループ化する場合、A列〜E列、F列〜K列、L列〜P列の3グループとすることができる(図5参照)。
図6(b)では、H列―I列付近に対応する位置に欠陥が発生したスラブが鋳造された時間帯(4:42頃)に主成分スコアの特異的な変化が見られる。
図6(c)では、O列付近に対応する位置に欠陥が発生したスラブが鋳造された時間帯(4:39頃)及びN列付近に対応する位置に欠陥が発生したスラブが鋳造された時間帯(5:08頃)に主成分スコアの特異的な変化が見られる。
図7(b)及び(c)では、H列―I列付近に対応する位置に欠陥が発生したスラブが鋳造された時間帯(4:43頃)に主成分スコアの特異的な変化が見られる。
図8(d)では、O列付近に対応する位置に欠陥が発生したスラブが鋳造された時間帯(4:39頃)、及びN列付近に対応する位置に欠陥が発生したスラブが鋳造された時間帯(5:09頃)に主成分スコアの特異的な変化が見られる。
熱電対5の鋳造方向の配置に関して設置範囲及び熱電対間隔について検討し、以下の知見が得られた(知見i、知見ii及び知見iii)。
なお、以下の説明において「位置」とは、湯面制御レベルを基点とした鋳造方向の位置を表している。
湯面制御レベルから200mmまでの範囲では表面欠陥が発生しやすく、熱電対5の最上段の位置が湯面制御レベルから200mmの範囲外にある場合、スラブのごく表層における鋳造欠陥の発生を見落とすケースが見られた。従って熱電対5の最上段は湯面制御レベルから200mmの範囲内とすることが望ましい(知見i-1)
湯面制御レベルから900mm以上の位置においては既に凝固シェルが十分に形成されており、この位置で表面欠陥の起因となるモールドパウダーや脱酸生成物を補足しても銅板温度に反映されにくいこと、及び湯面制御レベルから900mmより下方の位置で捉えられたモールドパウダーや脱酸生成物は比較的スラブ内部にあるので、圧延されても表面欠陥となりにくいことが考えられる。
従って、熱電対5の最下段位置の下限は900mmとすることが望ましい。つまり、湯面制御レベルから鋳造方向900mmの範囲に熱電対5を埋設すれば足り、それより下方に熱電対5を埋設することは、欠陥発生よりもむしろ鋳型直下の冷却異常を検知するのに有効な場合があるものの、表面欠陥の検知という面からは必ずしも必要ではなく、埋設しても熱電対コストの増加及びデータ処理の負荷増加を招く。
上記の知見(i-1)〜知見(i-3)より、熱電対5の鋳造方向の配置は、最上段を湯面制御レベルから200mmまでの範囲内、最下段を500mmから900mmの範囲内とすることが望ましい(知見i)。
≪熱電対の鋳造方向の間隔に関する知見≫
上述した湯面制御レベルを始点として鋳造方向に50mmから900mmの範囲内で隣り合う熱電対間隔が250mm以下であれば、表面欠陥を十分に判定できることが明らかとなった(知見ii)。鋳造方向の熱電対間隔が250mmより大きくなると、ヘゲ発生の挙動を見落とすケースが見られた。
≪熱電対の鋳造方向の段数に関する知見≫
熱電対5の鋳造方向の段数については、熱電対5により得られた測温データを主成分分析するにあたって、解析対象データ数を確保する観点から、4段以上とすることが望ましい(知見iii)。
上記の熱電対5の鋳造方向の配置と同様に、熱電対5の鋳型幅方向の配置に関しても配置範囲、間隔及び列数について検討し、以下の知見(知見iv、知見v及び知見vi)が得られたので、順に説明する。
≪熱電対の鋳型幅方向の設置位置に関する知見≫
鋳型幅方向で両短辺に近い箇所に設置された熱電対5が、短辺面と長辺面の交線から鋳型幅方向に250mm以下の範囲にあることが望ましい(知見iv)。前記の範囲に熱電対5がないと、鋳型短辺近傍での鋳造欠陥発生の挙動を見落とすケースが見られたためである。
連続鋳造においては製品の要求寸法に応じて鋳造幅が変化する。今回調査した条件における鋳造幅は概ね700mmから2100mmであったが、この場合、鋳型幅方向での隣り合う熱電対間隔が200mm以下であれば、表面欠陥を十分に判定できることが分かった(知見v)。鋳型幅方向の熱電対間隔が200mmより大きくなると、ヘゲ発生の挙動を見落とすケースが見られた。
≪熱電対の鋳型幅方向の列数に関する知見≫
鋳型幅方向の列数に関しては、8列より少なくなると鋳型幅方向に2以上のグループにグループ化して主成分分析を行う際に、解析対象データの元となる測温データを十分に提供できなくなる(知見vi)。
なお、上記の知見i〜知見viについては、後述の実施例で実証している。
主成分数に関しては、これまで行った検討から、少なくとも第3主成分以上の主成分スコアを以って判断することが望ましく、第5主成分まで判定に用いることが望ましいことが分かった。
また、閾値に関しては、一般的に、表面欠陥にも重大なものと軽微なものがあり、鋼板製品を扱う需要家によっては軽微な表面欠陥であれば使用可能な場合があるため、製造する品種によって表面欠陥判定の閾値を設定し、その閾値を超えた場合に欠陥発生の判定を行うことで鋼板製品の歩留まりを高めることができる。
今回の調査においては、時系列データである測温データを一度標準化した場合には、図6、図7又は図8で示したように第1主成分スコア〜第5主成分スコアのいずれかの絶対値が閾値3を超したときに欠陥ありと判定すれば、本チャージで発生した欠陥の中でも、スラブの手入れによって救済可能な比較的軽微な欠陥や、製品として出荷が困難な重篤な欠陥までを全て網羅して検出できることが分かった。
表面欠陥判定装置1は、図1に示すように、鋳型3に埋設する測温素子としての熱電対5と、熱電対5による測温データに基づいて表面欠陥を判定するための演算装置7を備えている。
以下、熱電対5の配置と演算装置7の構成について詳細に説明する。
熱電対5の鋳造方向の配置については、上述したとおり、最上段が湯面制御レベルから200mmまでの範囲内、最下段が湯面制御レベルから500mm以上離れた位置、望ましくは500mm〜900mmの範囲内とし(知見i)、鋳造方向の隣り合う熱電対5の間隔が250mm以下(知見ii)、段数は4段以上(知見iii)とした。
また、熱電対5の鋳型幅方向の配置についても、上述したとおり、両短辺に最も近い箇所に設置された熱電対5の位置が測定対象のスラブ幅の短辺面と長辺面の交線の位置から、鋳型幅中央に向かう方向に沿って250mm以内(知見iv)、隣り合う熱電対5の間隔が200mm以下(知見v)、列数は8列以上とした。
つまり、鋳造方向については、湯面制御レベルから200mmまでの範囲には少なくとも一段の熱電対5が配置され、同様に500mmより下方の位置に熱電対5の最下段が配置され、また、鋳型幅方向については、鋳型短辺から250mmの範囲には少なくとも一列の熱電対5が配置される。
このように配置した熱電対5によって鋳型銅板温度を測定することで、鋳型3全体の銅板温度プロファイルを測定することができる。
なお、鋳造方向及び鋳型幅方向の熱電対5の間隔は上記の範囲内であればよく、等間隔配置してもよく、必ずしも等間隔でなくてもよく、鋳型3の構造や大きさ等に応じて適宜調整してもよい。
なお、上記の説明では、測温素子として熱電対5を用いた例を示したが、例えば光ファイバー方式のセンサーなど、銅板温度を正確に測定できる手法であればどのような測温素子であっても構わない。
演算装置7は、コンピュータによって構成され、熱電対5によって測定された鋳型銅板の測温データを取得する測温データ取得手段9と、該取得された測温データに基づいて主成分分析を行って主成分スコアを算出する主成分分析手段11と、該算出された主成分スコアに基づいて鋳片表面の欠陥発生の有無を判定する主成分スコア判定手段13とを備えている。
所定時間間隔は、1秒以上10秒以下の間隔であることが望ましい。この理由は次の通りである。温度変動を検知するには、1秒以上10秒以下でも十分であり、1秒よりも短い間隔で温度を取得する場合には、鋳型振動などの外乱影響を拾いやすくなる。また、10秒を超える間隔での測定では異常発生による温度変動を見落とすリスクが高まる。
また、鋳型内の溶鋼流動の周期的な変化(例えば、浸漬ノズルから左右の吐出口からの溶鋼吐出流速が交互に周期的に揺らぐことなど)の周期を実測すると、およそ10秒から30秒の周期となっており、この周期の最小値である10秒よりも短い測定時間間隔で測定することで、溶鋼流動の周期的な変化に起因する温度変化を捉えることができ、この点からも測定時間間隔を10秒以下とすることが好ましい。
主成分スコア判定手段13における判定方法としては、例えば、所定の閾値を設定しておき、主成分スコアが該閾値を超えた場合に、欠陥発生有りと判定するようにする。
主成分スコア判定手段から出力された判断結果はメモリなどの記憶装置に格納されるとともに、モニター、ディスプレイ又はプリンタ等の記録・出力装置を介して出力される。この出力された判定によって、スラブは検品され、必要とあれば手入れ等の処置が施され、次工程、例えば圧延工程へと搬送される。
従って、この判定の出力結果に基づいて、鋳造後のスラブに対する手入れの要否や引当てグレードの変更を効率良く行うことが可能となる。また、欠陥の発生したチャージに対しては、鋳造条件の変更を施すフィードバック制御を行うことにより、欠陥発生有りと判定された以降に製造された鋳造スラブに欠陥が発生するのを未然に防止することも可能となる。
なお、この点に関する具体的な方法の一例については、後述の実施の形態2において説明する。
一方、主成分スコアが閾値未満で欠陥発生がないと判定されたスラブはこのような手入れをせずに次工程へと搬送することが可能となる。
本発明の実施の形態に係る連続鋳造スラブの表面欠陥判定方法は、図9に示すように、熱電対5によって測定された鋳型銅板温度を取得する測温データ取得工程(S1)と、該取得された測温データのグループ毎に主成分分析を行って主成分スコアを算出する主成分分析工程(S3)と、該算出された主成分スコアに基づいて鋳片表面の欠陥発生の有無及び位置を判定する主成分スコア判定工程(S5)と、判定結果に基づくスラブ処置(S7)と、圧延工程(S9)とを備えている。
各工程について以下に説明する。
まず、測温データ取得工程において、熱電対5によって測定された鋳型銅板の測温データを、測温データ取得手段9を用いて取得する(S1)。
測温データは、鋳型3に埋設された熱電対5から1秒以上10秒以下の間隔で取得される(図3参照)。
次に、測温データ取得工程で取得された鋳型銅板温度に基づいて、主成分分析手段11を用いて主成分分析を行って主成分スコアを算出する(S3)。
主成分分析に用いる測温データに関しては、まず、以下の処置を行う。鋳型3内に埋設された熱電対群を鋳型幅方向に対して列単位に2以上のグループにグループ化する。ここで、1グループには隣り合う2列以上の熱電対5が含まれるものとする。各グループの熱電対5による測温データに対して、主成分分析を行って主成分スコアを算出する。
上述したとおり、主成分の数は任意に設定する事が可能であるが、変数が増加するだけで傾向に大差が無いこともあるため、本例では主成分の数を3〜5までとした。
次に、主成分分析工程で算出された主成分スコアに基づいて、主成分スコア判定手段13を用いて鋳片表面の欠陥発生の有無及びその位置を判定する(S5)。
判定方法としては、例えば、閾値を設定し、第1〜第5主成分スコアのいずれかの絶対値が該閾値を超えた場合に、欠陥発生有りと判定するものとする。一例として、閾値を3として、図6に示した主成分スコアについて判定を行うと次のようになる。
図6(a)において、熱電対5のB列に対応する位置に欠陥が発生した時間帯である4:31頃において、A〜E列の測温データの主成分スコアを見ると、第1、第2及び第3主成分スコアはその絶対値が閾値3を超えなかったものの、第4及び第5主成分スコアはその絶対値が3を超える特異的な変動が見られる。また、同時間帯においてF〜K列及びL〜P列の測温データの主成分スコアはいずれも閾値が3を超えるような特異的な変動は見られない。したがって、この例においては、熱電対5のA〜E列に対応する位置において欠陥が発生すると判定される。
ここでスラブ処置としては、例えば、鋳型幅方向のグループにおいて欠陥発生「有」と判定された場合、そのグループの熱電対5の位置に対応するスラブ部位の表面をスカーフやグラインダーなどで手入れして表面欠陥を除去してからスラブを圧延工程へ搬送し、一方、欠陥発生「無」と判定された場合、表面手入れせずに圧延工程へ搬送することが挙げられる。
本発明の他の実施の形態に係る鋼鋳片の製造方法は、本発明に係る実施の形態1で述べた鋼の連続鋳造時における連続鋳造スラブの表面欠陥判定方法を用いて判定された鋳片表面の欠陥発生の有無及び位置に基づいて、連続鋳造時における鋳型3内の溶鋼流動を制御するものであって、図10に示すように、熱電対5によって測定された鋳型銅板温度を取得する測温データ取得工程(S1)と、該取得された測温データのグループ毎に主成分分析を行って主成分スコアを算出する主成分分析工程(S3)と、該グループ毎に算出された主成分スコアに基づいて鋳片表面の欠陥発生の有無を判定する主成分スコア判定工程(S5)と、欠陥発生有りと判定された前記グループに対応する鋳型内相対位置を特定する鋳型内相対位置特定工程(S11)と、前記鋳型内相対位置に基づいて溶鋼流動を制御する溶鋼流動制御工程(S13)とを備えたものである。
鋳型内相対位置特定工程(S11)は、本実施の形態1に係る表面欠陥判定方法の主成分スコア判定工程(S5)において欠陥発生有りと判定された測温データのグループに対応する鋳型幅方向における鋳型内相対位置を特定する工程である。
具体的には、欠陥発生有りと判定された前記測温データのグループが鋳型3の鋳型幅方向の端部(鋳型3の短辺面付近)又は中央部付近に対応する位置のどちらに相当するかを特定する。
鋳型3の鋳型幅方向の端部に相当する測温データのグループは、鋳型3の短辺面に最も近い1つ又は2つのグループ(鋳型3の両短辺面に対して2又は4つのグループ)とする。
一方、鋳型3の鋳型幅方向の中央部付近に相当する測温データのグループは、奇数個のグループにグループ分けをした場合、3グループ分けでは鋳型幅方向において中央の1グループ、5グループ分け以上では前記中央の1グループ又は該中央の1グループの両隣のグループを含む3つのグループとし、偶数個のグループにグループ分けした場合、鋳型幅方向において鋳型長辺面の中心線の両側にある2又は4つのグループとする。
溶鋼流動制御工程(S13)は、鋳型内相対位置特定工程(S11)で特定された鋳型内相対位置から鋳型3内における溶鋼流動異常を推定し、該推定された溶鋼流動異常を解消するように溶鋼流動を制御する工程である。
溶鋼流動不足の場合、鋳型3内において浸漬ノズル(図示なし)から吹き込まれる不活性ガスの気泡がスラブの凝固シェルに取り込まれて表面欠陥となり、溶鋼流動不足に起因する表面欠陥は鋳型幅方向の端部に発生しやすい。
これに対し、溶鋼流動過剰の場合、鋳型3内の湯面に浮遊するパウダーがスラブに巻き込まれて表面欠陥となり、溶鋼流動過剰に起因する表面欠陥は鋳型幅方向の中央部付近に発生しやすい。
実験は、図1に示す表面欠陥判定装置1を用いて、熱電対5の配置を変えて表面欠陥判定を行い、実際の表面欠陥的中率を評価するというものである。
熱電対5は、本発明例1〜本発明例9のいずれも上記実施の形態で説明した知見(i)〜知見(vi)を満たすように配置した。具体的な配置については後述する。
このように熱電対5を設置した垂直曲げ形連続鋳造機を用いて、アルミキルド溶鋼を連続鋳造した。鋳造条件は、鋳造厚み220〜300mm、鋳造幅1800〜2100mm、溶鋼スループットを3.0〜7.5ton/minとした。溶鋼は浸漬ノズルによりタンディッシュから鋳型3内へと供給されるが、その浸漬ノズルにおける溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度は下向き15°以上45°以下とし、浸漬深さは湯面制御レベルから溶鋼吐出孔上端までの距離として180mm〜300mmの範囲とした。浸漬ノズルからの吹き込み不活性ガスにはArガスを使用した。鋳型内溶鋼には、磁場発生装置から相対する鋳型長辺面銅板に沿ってそれぞれ相反する向きの移動磁場を印加することにより、鋳型3内の溶鋼が凝固シェル界面に沿って水平方向に旋回する流動を付与した。
なお、主成分分析の解析には、JUSE-StatWorks/V4.88を用い、温度の時系列データは標準化(温度測定点全点について、平均0、分散1となるよう変換)した。ここでは第1主成分スコア〜第5主成分スコアのいずれか1つでもその絶対値が3以上となる変動があった場合を表面欠陥「有」と判定した。表面欠陥「有」と判定した箇所数を、この判定箇所にと実際に圧延したスラブ表面に検知された欠陥とが一致した箇所数で除したものを表面欠陥検知率(的中)率として評価した。また、欠陥を検知しなかったのに実際に欠陥が出た場合の箇所数を、実際に圧延したスラブ表面に検知された全欠陥数で除したものを非検知率(見逃し率)として評価した。なお、発明例及び比較例ともに、それぞれおよそ300チャージ(1チャージあたり約300トン前後)の鋳造量を対象として評価した。
比較例1は、熱電対を本発明例7と同じ段数及び列で配置するが、知見(i)の範囲外となるように、最上段の熱電対を湯面制御レベルから200mmの範囲外となる210mmの位置に設置したものである。
比較例2は、熱電対を本発明例7と同じ段数及び列で配置するが、知見(i)の範囲外となるように、最下段の熱電対を、湯面制御レベルから500〜900mmの範囲外となる、480mmの位置に設置したものである。
比較例3は、知見(iii)の範囲外となるように、熱電対の段数を4段よりも少なくしたものである。
比較例4は、知見(v)の範囲外となるように、鋳型幅方向の熱電対間隔を250mmより大きくしたものである。
□比較例5は、知見(vi)の範囲外となるように、熱電対の列数を8列よりも少なくしたものである。
比較例6は、測温データをグループ化せず、全測温データに対して主成分分析を行ったものである。
なお、本発明例1〜本発明例9、及び比較例1〜比較例6のいずれの場合においても、配置した熱電対5による測定時間間隔は5秒とした。
本発明例1〜本発明例9、及び比較例1〜比較例6の熱電対5の配置と表面欠陥検知率(%)及び表面欠陥非検知率(%)をまとめたものを表1に示す。
本発明例1〜本発明例5を比べると、測温データのグループ数の増加に伴い検知率が向上するものの、グループ数4以上では検知率がほぼ90%で飽和している。これに対し、非検知率は低下していることから、測温データのグループ数を増やすことによって表面欠陥の見逃しを低減する効果が得られている。
本発明例3と本発明例6を比べると、熱電対の配列段数を5段から7段に増加しても検知率、非検知率ともほぼ同等であり、本発明例6は熱電対コストが増加する点において不利である。
本発明例7と本発明例8を比べると、熱電対配置の列数を10列から22列に増加することにより、若干、非検知率は48%から42%へと減少するが、検知率にはほぼ変化が見られず、列数を増加する効果は小さい。
熱電対配置の段数が4段よりも少ない比較例3では、検知率は43%と低く、非検知率71%と高い値であった。
鋳型幅方向の熱電対間隔が250mmより大きい比較例4は、検知率が58%と低く、非検知率70%と高い値であった。
熱電対の配置列数が8列よりも少ない比較例5は、鋳造方向における熱電対設置範囲、熱電対間の間隔ならびに鋳型幅方向の熱電対間間隔の等しく熱電対配置列数の多い本発明例9を比べると、検知率は低位であった。
主成分分析を行う際に測温データのグループ化を行っていない比較例6では、検知率が52%と低位であった。
熱電対設置位置が範囲外である比較例1及び比較例2、熱電対の配置段数の少ない比較例3、鋳型幅方向の熱電対間隔が大きい比較例4、熱電対の配置列数が少ない比較例5、主成分分析を行う際に測温データのグループ化を行っていない比較例6では、いずれも検知率が43〜68%であり、本発明例と比較すると低位であった。
実験は、スラブの鋳造からその後の圧延等の処理を経て製品出荷されるまでの所要日数を、本発明を適用した場合と適用しない場合とで比較した。
鋳造条件は上記実施例1と同様とした。本発明を適用した場合、表1の本発明例7に相当する熱電対配置の表面欠陥判定装置を用い、判定結果に基づいて適切なスラブ処置を施した後圧延を行った。
3 鋳型
5 熱電対
7 演算装置
9 測温データ取得手段
11 主成分分析手段
13 主成分スコア判定手段
Claims (7)
- 鋳型長辺に埋設した測温素子によって鋳型銅板の測温データを取得し、該測温データに基づいてスラブ表面欠陥の判定を行う連続鋳造スラブの表面欠陥判定方法であって、
鋳型長辺に埋設する前記測温素子の配置を、
鋳造方向については、最上段の前記測温素子の位置を湯面制御レベルから下方に200mm以内、最下段の前記測温素子の位置を湯面制御レベルから下方に500mm以上離れた位置、隣り合う前記測温素子間の間隔を250mm以下、段数を4段以上とし、
鋳型幅方向については、両短辺に最も近い箇所に設置された前記測温素子の位置を測定対象のスラブ辺の短辺面と長辺面の交線の位置から、鋳型幅中央に向かう方向に沿って250mm以内、隣り合う前記測温素子間の間隔を200mm以下、列数を8列以上とし、
上記のように配置された前記測温素子によって測定された鋳型銅板の測温データを取得する測温データ取得工程と、
該取得された測温データは、隣り合う2列以上の前記測温素子から取得される前記測温データを1つのグループとして鋳型幅方向に2以上のグループにグループ化し、該グループ毎の前記測温データを主成分分析して主成分スコアを算出する主成分分析工程と、
該算出された主成分スコアに基づいてスラブ表面における欠陥発生の有無を前記グループ毎に判定する主成分スコア判定工程を備えたことを特徴とする連続鋳造スラブの表面欠陥判定方法。 - 最下段の前記測温素子を湯面制御レベルから鋳造方向に900mm以内に設置することを特徴とする請求項1記載の連続鋳造スラブの表面欠陥判定方法。
- 前記主成分スコア判定工程は、前記主成分スコアが所定の閾値を超えた場合に欠陥発生有りと判定し、鋳型幅方向の前記グループ毎に欠陥の有無を判定することを特徴とする請求項1又は2記載の連続鋳造スラブの表面欠陥判定方法。
- 鋳型長辺に埋設した測温素子によって鋳型銅板の測温データを取得し、該測温データを用いて連続鋳造スラブ表面欠陥を判定する連続鋳造スラブの表面欠陥判定装置であって、
鋳型長辺に埋設する前記測温素子の配置を、
鋳造方向については、最上段の前記測温素子の位置を湯面制御レベルから下方に200mm以内、最下段の前記測温素子の位置を湯面制御レベルから下方に500mm以上離れた位置、隣り合う前記測温素子間の間隔を250mm以下、段数を4段以上とし、
鋳型幅方向については、両短辺に最も近い箇所に設置された前記測温素子の位置を測定対象のスラブ辺の短辺面と長辺面の交線の位置から、鋳型幅中央に向かう方向に沿って250mm以内、隣り合う前記測温素子間の間隔を200mm以下、列数を8列以上とし、
上記のように配置された前記測温素子によって測定された鋳型銅板の測温データを取得する測温データ取得手段と、
該取得された測温データは、隣り合う2列以上の前記測温素子から取得される前記測温データを1つのグループとして鋳型幅方向に2以上のグループにグループ化し、該グループ毎の前記測温データを主成分分析して主成分スコアを算出する主成分分析手段と、
該算出された主成分スコアに基づいてスラブ表面における欠陥発生の有無を前記グループ毎に判定する主成分スコア判定手段を備えたことを特徴とする連続鋳造スラブの表面欠陥判定装置。 - 最下段の前記測温素子を湯面制御レベルから鋳造方向に900mm以内に設置することを特徴とする請求項4記載の連続鋳造スラブの表面欠陥判定装置。
- 前記主成分スコア判定手段が、前記主成分スコアが所定の閾値を超えた場合に、欠陥発生有りと判定し、鋳型幅方向の前記グループ毎に欠陥の有無を判定することを特徴とする請求項4又は5記載の連続鋳造スラブの表面欠陥判定装置。
- 請求項1乃至3記載のいずれかに記載の連続鋳造スラブの表面欠陥判定方法を用いた鋼鋳片の製造方法であって、
前記主成分スコア判定工程において欠陥発生有りと判定された前記グループに対応する鋳型幅方向における鋳型内相対位置を特定する鋳型内相対位置特定工程と、
該鋳型内相対位置特定工程で特定された鋳型内相対位置から鋳型内における溶鋼流動異常を推定し、該推定された溶鋼流動異常を解消するように溶鋼流動を制御する溶鋼流動制御工程とを備えたことを特徴とする鋼鋳片の製造方法。
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