JP5671402B2 - 電子機器用プレコートアルミニウム板 - Google Patents
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Description
特許文献1によれば、アルミニウム板の耐指紋性および耐疵付き性がある程度向上されるものの、絶縁物たる樹脂皮膜がコーティングされたアルミニウム板の表面は絶縁性を呈するようになるため、前記電子機器のケースまたは構造部材からアースをとる場合には、前記樹脂皮膜の一部を削り取ってアルミニウム板の金属部分を露出させた導通部を設ける等の後工程が必要となる。
図1に示すように、本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10は、所定の表面粗さのアルミニウム素板11と、このアルミニウム素板11の表面に所定の付着量で形成された複合皮膜12とを有する。複合皮膜12は、アルミニウム素板11の片面に形成されてもよいし、両面に形成されてもよい(図示省略)。また、図3に示す本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板の別の実施形態のように、アルミニウム素板11と複合皮膜12の間に、リン酸クロメート皮膜に代表される下地処理皮膜13が形成されてもよい(詳細は後記する)。
また、無機成分と有機樹脂成分を含有する複合皮膜12は、前記無機成分としてジルコニウム成分およびケイ素成分を含有し、ジルコニウム成分の付着量(面積あたりの質量)はZrO2に換算して5〜500mg/m2、ケイ素成分の付着量はSiO2に換算して2〜600mg/m2である。また、複合皮膜12は、前記有機樹脂成分としてウレタン樹脂、アクリル樹脂の少なくとも一種を含有し、当該有機樹脂成分の付着量が5〜650mg/m2である。そして、複合皮膜12における前記各成分の付着量の合計は70〜700mg/m2である。以下、この付着量の合計、すなわち複合皮膜12に含有されるジルコニウム成分のZrO2に換算した付着量、ケイ素成分のSiO2に換算した付着量、有機樹脂成分の付着量の合計を、当該複合皮膜12の付着量と称する。
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10は、このように、所定の表面粗さのアルミニウム素板11に、成分および付着量が規定された複合皮膜12が形成されているため、先端部が半径10mmの球状端子23(図2参照)を、複合皮膜12を形成した側の表面に対して0.4Nの荷重で押し付けたときにおける、球状端子23とアルミニウム素板11との間の抵抗値を1Ω以下とすることが可能である。
本発明で用いることのできるアルミニウム素板11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものであり、適用できる合金品種は特に制限されるものではなく、製品形状や成形方法、使用時に求められる強度等に基づいて任意に選択することができる。一般的には、非熱処理型のアルミニウム板、すなわち、1000系の工業用純アルミニウム板、3000系のAl−Mn系合金板、5000系のAl−Mg系合金板を好適に使用することができる。特に、しごき加工を伴う深い容器形状のケースを製作する場合には、JISH4000に規定されるA1050、A1100、A3003、A3004等のアルミニウム板が推奨される。また、比較的浅い容器形状のケースを製作する場合や、曲げ加工主体のケースを製作する場合には、JISH4000に規定されるA5052、A5182等のアルミニウム板が推奨される。調質、板厚についても、目的に応じて種々のものを選定して使用することができる。
アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaは、後記する複合皮膜12の付着量とともに、本発明の電子機器用プレコートアルミニウム板10における導電性、耐食性、耐指紋性、耐疵付き性等の各種特性の発現に寄与する重要なパラメータである。
一方、アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaが0.5μmを超えると、アルミニウム素板11の凸部の高さが高くなり過ぎるため、凸部の頂上が複合皮膜12から露出し易くなる。その結果、露出したアルミニウム素板11の表面が金型によって磨耗を受けるため、プレス加工時の耐疵付き性が低下するとともに潤滑性も低下する。また、凸部が複合皮膜12から露出すると、そこを起点に腐食が発生して周囲に広がるため、耐食性が低下する。
つまり、アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaを0.3μm以上0.5μm以下の範囲に規定することによって、優れた導電性、耐指紋性、耐疵付き性および耐食性を備えさせることができる。
(複合皮膜の構成成分:無機成分と有機樹脂成分)
(有機樹脂成分の構成成分:アクリル樹脂、ウレタン樹脂の少なくとも一種)
(無機成分の構成成分:ジルコニウム成分とケイ素成分)
前記したように、本発明の電子機器用プレコートアルミニウム板10に用いられる複合皮膜12は、構成成分として無機成分と有機樹脂成分を含有し、無機成分としてはジルコニウム成分とケイ素成分を含有し、有機樹脂成分としてはアクリル樹脂、ウレタン樹脂から選択される少なくとも一種を含有することを必要とする。
本発明の電子機器用プレコートアルミニウム板10は、複合皮膜12の付着量が70〜700mg/m2となるように形成される。このように規定することにより、導電性、耐疵付き性、加工密着性、耐食性のバランスに優れた電子機器用プレコートアルミニウム板10を得ることが可能となる。
複合皮膜12の付着量が70mg/m2未満になると、アルミニウム素板11の表面の特に凸部を十分に覆うことができなくなるために耐食性と耐疵付き性が低下する。また、複合皮膜12の付着量が700mg/m2を超えると、膜厚が厚くなり過ぎるために導電性が低下する。
特に優れた導電性を確保するためにも、複合皮膜12の付着量は350mg/m2以下とすることが好ましい。
ジルコニウム成分は、皮膜の耐食性を向上させる。したがって、複合皮膜12にジルコニウム成分を一定量以上含有させることにより、有機樹脂成分だけでは得られない程の耐食性を電子機器用プレコートアルミニウム板10に備えさせることが可能となる。
ジルコニウム成分をZrO2に換算した付着量(以下、ジルコニウム成分の付着量)が5mg/m2未満になると耐食性が低下し、リン酸クロメート皮膜等の下地処理皮膜(耐食性皮膜43)を適用した従来の電子機器用プレコートアルミニウム板40(図5参照)と比較して耐食性が劣化する。またジルコニウム成分の付着量が500mg/m2を超えると、複合皮膜が硬くなって、加工密着性が低下する。したがって、ジルコニウム成分の付着量は5mg/m2以上500mg/m2以下とし、複合皮膜の全体(ジルコニウム成分、ケイ素成分、有機樹脂成分の合計)における質量比率で1/70以上50/70以下とすることが好ましい。なお、ジルコニウム成分のZrO2に換算した付着量は、例えば、複合皮膜12の単位面積あたりに含有する全てのZr元素の質量に(ZrO2の分子量)/(Zrの原子量)を乗じて換算して得られる。
また、複合皮膜12の付着量が350mg/m2以下である場合は、塗装時の樹脂の流動性等を考慮すると、ジルコニウム成分の付着量は250mg/m2以下とすることが好ましい。
ケイ素成分は、皮膜の硬さを向上させる。したがって、複合皮膜12にケイ素成分を一定量以上含有させることにより、有機樹脂成分だけでは得られない程の耐疵付き性を電子機器用プレコートアルミニウム板10に備えさせることが可能となる。
ケイ素成分をSiO2に換算した付着量(以下、ケイ素成分の付着量)が2mg/m2未満になると耐疵付き性が低下する。またケイ素成分の付着量が600mg/m2を超えると、複合皮膜が硬くなり過ぎて加工密着性が低下する。したがって、ケイ素成分の付着量は2mg/m2以上600mg/m2以下とし、複合皮膜の全体(ジルコニウム成分、ケイ素成分、有機樹脂成分の合計)における質量比率で0.4/70以上60/70以下とすることが好ましい。なお、ケイ素成分のSiO2に換算した付着量は、例えば、複合皮膜12の単位面積あたりに含有する全てのSi元素の質量に(SiO2の分子量)/(Siの原子量)を乗じて換算して得られる。
また、複合皮膜12の付着量が350mg/m2以下である場合は、塗装時の樹脂の流動性等を考慮すると、ケイ素成分の付着量は300mg/m2以下とすることが好ましい。
無機成分(ジルコニウム成分とケイ素成分との合計)におけるケイ素成分の比率は、質量比([SiO2]/[ZrO2+SiO2])が0.2以上0.95以下であることが好ましい。なお、ジルコニウム成分とケイ素成分の質量は、それぞれ付着量と同様に、ZrO2,SiO2に換算した値であり、[ZrO2]、[SiO2]で表す。
このように規定すると、耐食性と耐疵付き性のバランスが優れた複合皮膜12が得られ易い。([SiO2]/[ZrO2+SiO2])が0.2未満であると耐疵付き性がやや劣る複合皮膜12となり、0.95を超えると耐食性がやや劣る複合皮膜12となる。
有機樹脂成分は、複合皮膜12の加工密着性を確保する役割がある。複合皮膜12に有機樹脂成分を一定量含有させることにより、無機成分だけでは得られない加工密着性を電子機器用プレコートアルミニウム板10に備えさせることが可能となる。
有機樹脂成分の付着量が5mg/m2未満であると加工密着性が低下する。また有機樹脂成分の付着量が650mg/m2を超えると、複合皮膜が柔らかくなって耐疵付き性が低下し、また複合皮膜の膜厚が厚くなるため導電性が低下する。したがって、有機樹脂成分の付着量は5mg/m2以上650mg/m2以下とし、複合皮膜の全体(ジルコニウム成分、ケイ素成分、有機樹脂成分の合計)における質量比率で2/70以上65/70以下とすることが好ましい。
また、複合皮膜12の付着量が350mg/m2以下である場合は、特に優れた耐疵付き性を確保するためにも、有機樹脂成分の付着量は325mg/m2以下とすることが好ましい。
複合皮膜12における無機成分(ジルコニウム成分とケイ素成分との合計)と有機樹脂成分との比は、ジルコニウム成分とケイ素成分との質量の合計[ZrO2+SiO2]が有機樹脂成分の質量の0.2倍以上10倍以下であることが好ましい。
このように規定すると、耐食性と耐疵付き性に加えて加工密着性のバランスが優れた皮膜が得られ易い。[ZrO2+SiO2]が有機樹脂成分の付着量の0.2倍未満であると、耐疵付き性および耐食性にやや劣る皮膜となり、10倍を超えると加工密着性がやや劣る皮膜となる。
複合皮膜12は、潤滑成分を含有することが好ましい。潤滑成分は、その名の通り複合皮膜12の潤滑性を高めて成形性を向上させる役割を担う。潤滑成分としては、融点70〜130℃のワックスの少なくとも一種以上を使用することが好ましく、具体的にはポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、マイクロクリスタリンワックスが挙げられる。融点が70℃以上で潤滑性が得られ、融点が130℃以下とすると硬過ぎることがなく潤滑性が得られる。ワックスは乳化剤で水に安定に分散したエマルジョンが好ましく、粒径が0.08〜3.0μmのものが好ましい。粒径が0.08μm未満では乳化剤の使用量が増えるため耐食性が低下する。一方、3.0μmを超える粒径とすると複合皮膜12から突出する部分が大きくなり該複合皮膜12から脱離してしまい、潤滑性が得られなくなる場合がある。
複合皮膜12における潤滑成分の含有量は、当該潤滑成分を除いた複合皮膜12(ジルコニウム成分の付着量、ケイ素成分の付着量、有機樹脂成分の付着量の合計)に対して質量比5%以上50%未満であることが好ましい。
潤滑成分の質量比が5%未満であると潤滑効果が得られ難くなり、50%以上であると複合皮膜が軟らかくなり、耐疵付き性が低下する。
複合皮膜12に潤滑成分を含有させる場合は、複合皮膜形成用薬剤の調整の際に、前記のワックスを当該複合皮膜形成用薬剤の固形分に対して所望の質量比となるように混合すればよい。
かかる複合皮膜12は、例えば、本発明で規定する複合皮膜12の成分を含有する液体状の複合皮膜形成用薬剤をロールコート法によりコイル状のアルミニウム素板11の片面または両面に連続して塗布した後、オーブンが単数あるいは複数連なって形成された連続式オーブン内を通過させて焼付けすることで形成することができる。このようにすれば、電子機器用プレコートアルミニウム板10を連続的にかつ速やかに製造することができるため生産性の点で好適である。
また、前記の形成方法において、複合皮膜12は、アルミニウム素板11の表面上に塗布された当初は液体状であるため、アルミニウム素板11の表面の凸部を薄く被覆する一方、凹部に優先的に充填され、凹部を厚く被覆する。そして、引き続き行われる焼付け処理によって凸部上に薄い膜厚で硬質な複合皮膜12を形成させるとともに、凹部に厚い膜厚で硬質な複合皮膜12を形成させることができる。
一般的なプレコートアルミニウム板に形成される下地処理皮膜は、樹脂皮膜(複合皮膜)とアルミニウム素板との密着性を向上させると同時に耐食性を向上させる効果を有し、そのために多くの場合、Cr、Zr、またはTiを含有する無機単独皮膜あるいは無機有機複合皮膜が適用される。本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10Aにおいても、これらの下地処理皮膜が形成されることにより同様の効果が得られる。下地処理皮膜13としては、例えばリン酸クロメート皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜が挙げられ、特に3価クロム系のリン酸クロメート皮膜が好ましい。
(抵抗値:1Ω以下)
近年の電気機器の高性能化に伴い、電子機器の信頼性確保に対する要求は年々高まっており、導電性もその一つとなっている。本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10(10A)では、後記するような方法で測定される抵抗値を1Ω以下とすることが必要である。かかる抵抗値を1Ω以下とすれば、電子機器用プレコートアルミニウム板10の複合皮膜12の上から直接アースをとることが可能となる。また、電磁波ノイズを十分に除去することができる。したがって、電子機器が光ディスクドライブ等のドライブ装置であって、当該ドライブ装置のケースおよびシャーシといった構造部材に本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10を用いた場合には、書き込みまたは再生エラーが誘発され難くなる。また、電子機器が液晶パネルであって、当該液晶パネルの固定用フレームおよび背面カバーといった構造部材に本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10を用いた場合には、画像ノイズが発生し難くなる。
これに対し、抵抗値が1Ωを超えると、複合皮膜12の上から直接アースをとることも、電磁波ノイズを十分に除去することもできなくなる。
したがって、本発明では、後記する特定の方法で測定される抵抗値が1Ω以下であることを要件としている。なお、抵抗値はより低い方が望ましいことはいうまでもなく、0.5Ω以下であることが好ましい。
すなわち本発明における抵抗値の測定方法は、テスター20の一方の端子21を、電子機器用プレコートアルミニウム板のアルミニウム素板に直接に接触させ、テスター20の他方の端子22を、先端部が半径10mmの略球形状に形成された真鍮製の球状端子23を介して、電子機器用プレコートアルミニウム板の複合皮膜の上から0.4Nの荷重で押し付けて接触させることにて行う、一点接触方式とする。なお、電子機器用プレコートアルミニウム板は、テスター20の端子21をアルミニウム素板に直接接触させるために、予めサンドペーパー等により複合皮膜を研磨除去してアルミニウム素板を露出させておく。また、端子21および球状端子23の表面の自然酸化膜が抵抗値の測定値をばらつかせる原因となるため、抵抗値の測定の前に端子21および球状端子23の表面をサンドペーパー等で研磨して自然酸化膜を十分に除去しておくことが望ましい。さらに、抵抗値の測定時におけるテスター20の内部抵抗の影響を排除すべく、端子21の先端部と球状端子23の先端部とを接触させた状態でゼロ点補正を行ってから電子機器用プレコートアルミニウム板の抵抗値を測定し、その測定値の領域においてテスター20の最も精度の高いレンジを選択し、テスター20に表示される測定値が安定したときの値を採用することが望ましい。そして、抵抗値の信頼性を十分に確保するために、この抵抗値の測定を、1枚の電子機器用プレコートアルミニウム板につき、ランダムな位置で少なくとも10ヶ所、可能であれば50ヶ所測定し、その平均値を本発明で規定する抵抗値として採用することが望ましい。
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10は、表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上0.5μm以下であるアルミニウム素板11の少なくとも片面に複合皮膜12が形成された電子機器用プレコートアルミニウム板であって、アルミニウム素板11と複合皮膜12の間には下地処理皮膜(図5における耐食性皮膜43が相当する)が形成されておらず、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも一種の有機樹脂成分、ジルコニウム成分、ケイ素成分を含有し、ジルコニウム成分の付着量はZrO2に換算して5〜500mg/m2、ケイ素成分の付着量はSiO2に換算して2〜600mg/m2、有機樹脂成分の付着量が5〜650mg/m2であり、複合皮膜12としての付着量が70〜700mg/m2であり、先端部が半径10mmの球状端子23(図2参照)を、複合皮膜12を形成した側の表面に対して0.4Nの荷重で押し付けたときにおける球状端子23とアルミニウム素板11との間の抵抗値が1Ω以下である(図1参照)。
なお、アルミニウム素板11と複合皮膜12の間に、下地処理皮膜13を設けることもできる(図3参照)。
(1)本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10によれば、アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaおよび複合皮膜12の付着量を特定の範囲に規定し、さらに複合皮膜12に含有される有機樹脂成分の樹脂の種類および付着量、ならびにジルコニウム成分とケイ素成分の各付着量を規定した。これにより、微細な凹凸を有するアルミニウム素板11の凸部が複合皮膜12の平均的な高さよりも高く飛び出した形態となり、この凸部を覆う複合皮膜12の膜厚は従来技術の塗装下地処理皮膜(耐食性皮膜43(図5参照))とほぼ同程度となり、導電性、耐食性および耐疵付き性を従来技術よりもいっそう優れた性能を確保することができる。
さらに、本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10は、優れた潤滑性を有しているため、成形性に優れており、電子機器用成形品を製造する工程でプレス成形における品質不良の発生率を低減化し、製品の歩留りを向上させることができる。これにより、本発明は、電子機器用成形品の全体的なコストを低減することができ、その結果、電子機器製品のコストダウンに大きく寄与するものである。
実施例、参考例、および比較例の電子機器用プレコートアルミニウム板を次のようにして作製した。
まず、JISH4000に規定されているA5182の組成を有するアルミニウム地金を溶解し、合金成分を調整した後、鋳造により圧延用のスラブを製作した。スラブ表面の偏析層を面削し、均質化処理の工程を経た後、熱間圧延、冷間圧延および熱処理の各工程を経て、アルミニウム素板(板厚:0.5mm、合金種:A5182−H34)を作製した。なお、前記冷間圧延の最終(仕上げ)工程では、圧延ロールの表面粗さを適宜に変更することにより、表1および表2に示す各種の表面粗さ(算術平均粗さRa)を有するアルミニウム素板を製造した。
作製した実施例/参考例1〜26および比較例1〜13について、潤滑性(摩擦係数)、耐指紋性(色差(ΔE))、曲げ加工時の耐疵付き性(加工疵)、梱包材で摺動させた場合の耐疵付き性(梱包材疵)、耐食性(レイティングナンバ(RT No.))を評価した。これらは以下のように測定して評価した。
潤滑性は、バウデンレーベン法(鋼球φ16分の3インチ(4.7625mm)、荷重2N(200gf)、すべり速度200mm/min)により、各電子機器用プレコートアルミニウム板の表面でランダムに選んだ3ヶ所の摩擦係数を測定し、その平均値を算出した。
摩擦係数の平均値が0.2以下であれば、各種の電子機器で通常行われる成形加工では特に問題がなく、0.1以下であれば特に良好であると評価することができるので、これらを合格とし、0.2を超える場合を不合格とした。摩擦係数の平均値を表1および表2に示す。
耐指紋性は、実施例/参考例1〜26および比較例1〜13の表面を素手で触ることにより指紋が付着する前後の色差(ΔE)を、コニカミノルタ社製分光測色計(CM−600d)を使用して測定した。
色差△E値が0.5以下であれば、表面に付着した指紋を肉眼で殆ど確認することができなかったので合格とし、0.5を超えると表面に付着した指紋を肉眼で確認することができたので不合格とした。色差△E値を表1および表2に示す。
耐疵付き性(加工疵)は、剪断曲げ試験法により評価した。すなわち、図4(a)、(b)に示すように、上金型31と下金型32により実施例/参考例1〜26および比較例1〜13の試験片を挟持し、試験片の複合皮膜を形成した面をポンチ33が摺動するようにして曲げ加工を行うことで、プレスによる成形加工時に発生する加工疵の再現を試みた。下金型32とポンチ33との間に生じる間隔(金型間隔)dは、用いた試験片の板厚に10%のクリアランスを加算した間隔とした。
曲げ加工を行った試験片(図4(c)参照)の摺動面を目視観察し、状態に応じて、5点:異常が全く見られない、4点:複合皮膜に辛うじて視認される軽度な削れが見られる、3点:複合皮膜に明らかな削れが見られる、2点:複合皮膜の削れが著しい、1点:異物によるアルミニウム素板表面のかじりが見られる、0点:異物によるアルミニウム素板表面のかじりが著しい、の点数を付けて数値化し、耐疵付き性の評価を行った。電子機器用プレコートアルミニウム板の各仕様について5枚の試験片で評価し、平均値が2点以上のものを合格とし、平均値が2点未満のものを不合格とした。点数の平均値を表1および表2に示す。
耐疵付き性(梱包材疵)は、小型電子機器の梱包資材として実際に使用される気泡緩衝材(気泡径10mm、気泡高さ4mm、電子部品用非耐電グレード)を試験片の複合皮膜を形成した面に当てて、気泡がつぶれない程度の強さで圧力を加えながら、50往復摺動させた。
気泡緩衝材を摺動させた試験片の摺動面を目視観察し、試験片の複合皮膜に対する疵の付き具合に応じて、3点:疵が見られない、2点:軽微な疵が見られる、1点:顕著な疵が見られる、の点数を付けて数値化し、耐疵付き性の評価を行った。点数が2点以上のものを合格とし、点数が2点未満のものを不合格とした。点数を表1および表2に示す。
耐食性は、JIS Z2371に規定された中性塩水噴霧試験に準じて試験を行い、評価した。すなわち、ストレッチ試験サンプルに噴霧する噴霧液として5質量%の塩化ナトリウム水溶液を用い、噴霧環境温度は35℃、噴霧量は面積80cm2で1時間毎に1.5ミリリットルとした。また試験時間は最大100時間とした。
腐食面積率によって腐食の程度を定量化するレイティングナンバ法に準拠して、試験を行ったストレッチ試験サンプルに生じた腐食の数値化を行い、レイティングナンバ(RT No.)が9.0以上のものを合格とし、レイティングナンバが9.0未満のものは不合格とした。レイティングナンバを表1および表2に示す。
表1および表2に示される内容から、以下のことが明らかになった。
(アルミニウム素板の表面粗さ(算術平均粗さRa)の影響)
比較例1は、算術平均粗さRaが本発明で規定する範囲の下限値未満であり、さらに複合皮膜の付着量が本発明で規定する範囲の上限値であるため、抵抗値について本発明で規定する要件を満たすことができなかった。また、比較例2は、算術平均粗さRaが本発明で規制する上限値を超えていて、さらに複合皮膜の付着量が本発明で規定する範囲の下限値であるため、潤滑性、耐指紋性、耐疵付き性(加工疵)、および耐食性が合格基準を満たさない結果となった。
比較例3は、複合皮膜の付着量が本発明で規定する範囲の上限値を超えるため、抵抗値について本発明で規定する要件を満たすことができなかった。また、比較例4は、複合皮膜の付着量が本発明で規定する範囲の下限値未満であるため、耐指紋性、耐疵付き性(梱包材疵)、および耐食性が合格基準を満たさない結果となった。
比較例5は、複合皮膜に含まれる有機樹脂成分の付着量が本発明で規定する範囲の下限値未満(なし)であるため、加工密着性が低下して潤滑性が合格基準を満たさない結果となった。また、比較例8は、複合皮膜に含まれる有機樹脂成分の付着量が本発明で規定する範囲の上限値を超えるため、抵抗値について本発明で規定する要件を満たすことができなかった。
比較例6は、複合皮膜に含まれるジルコニウム成分の付着量が本発明で規定する範囲の下限値未満(なし)であるため、耐食性が合格基準を満たさない結果となった。また、比較例9は、複合皮膜に含まれるジルコニウム成分の付着量が本発明で規定する範囲の上限値を超えるため、加工密着性が低下して潤滑性が合格基準を満たさない結果となった。
比較例7は、複合皮膜に含まれるケイ素成分の付着量が本発明で規定する範囲の下限値未満(なし)であるため、耐疵付き性(梱包材疵)が合格基準を満たさない結果となった。また、比較例10は、複合皮膜に含まれるケイ素成分の付着量が本発明で規定する範囲の上限値を超えるため、加工密着性が低下して潤滑性が合格基準を満たさない結果となった。
有機樹脂成分として、比較例12はポリエステル樹脂のみを使用しているため、比較例13はエポキシ樹脂のみを使用しているため、いずれも耐疵付き性(梱包材疵)が合格基準を満たさない結果となった。
11 アルミニウム素板
12 複合皮膜
13 下地処理皮膜
Claims (5)
- アルミニウム素板と、前記アルミニウム素板の少なくとも片面に形成された無機成分および有機樹脂成分を含有する複合皮膜と、を備え、前記複合皮膜を形成した側の表面に対して先端部が半径10mmの球状端子を0.4Nの荷重で押し付けたときにおける、前記球状端子と前記アルミニウム素板との間の抵抗値が0.8Ω以下である電子機器用プレコートアルミニウム板であって、
前記アルミニウム素板は、前記複合皮膜が形成される側の表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上0.4μm以下であり、
前記複合皮膜は、前記無機成分としてジルコニウム成分およびケイ素成分を含有し、前記有機樹脂成分としてウレタン樹脂、アクリル樹脂の少なくとも一種を含有し、前記ジルコニウム成分のZrO2に換算した付着量が5〜500mg/m2、前記ケイ素成分のSiO2に換算した付着量が2〜600mg/m2、前記有機樹脂成分の付着量が50〜650mg/m2であって、前記ジルコニウム成分の付着量、前記ケイ素成分の付着量、前記有機樹脂成分の付着量の合計が70〜700mg/m2であり、前記ジルコニウム成分の付着量と前記ケイ素成分の付着量との合計に対する前記ケイ素成分の付着量の質量比([SiO 2 ]/[ZrO 2 +SiO 2 ])が、0.2以上0.95以下であり、前記ジルコニウム成分の付着量と前記ケイ素成分の付着量との合計が、前記有機樹脂成分の付着量の0.2倍以上であることを特徴とする電子機器用プレコートアルミニウム板。 - 前記複合皮膜は、ZrO2に換算した前記ジルコニウム成分とSiO2に換算した前記ケイ素成分との質量の合計が、前記有機樹脂成分の質量の0.2倍以上10倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子機器用プレコートアルミニウム板。
- 前記複合皮膜は、当該複合皮膜に対して質量比5%以上50%未満の潤滑成分をさらに含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の電子機器用プレコートアルミニウム板。
- 前記アルミニウム素板と前記複合皮膜との間に、クロム、ジルコニウム、チタンから選択される金属を含有する無機単独皮膜または無機有機複合皮膜からなる下地処理皮膜がさらに形成され、前記下地処理皮膜の付着量が前記金属換算で5mg/m2以上50mg/m2以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電子機器用プレコートアルミニウム板。
- 前記複合皮膜は、前記ジルコニウム成分のZrO2に換算した付着量が5〜250mg/m2、前記ケイ素成分のSiO2に換算した付着量が2〜300mg/m2、前記有機樹脂成分の付着量が50〜325mg/m2であって、前記ジルコニウム成分の付着量、前記ケイ素成分の付着量、前記有機樹脂成分の付着量の合計が70〜350mg/m2であり、
先端部が半径10mmの球状端子を、前記複合皮膜を形成した側の表面に対して0.4Nの荷重で押し付けたときにおける、前記球状端子と前記アルミニウム素板との間の抵抗値が0.5Ω以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電子機器用プレコートアルミニウム板。
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