ところで、インジェクション回路を有するヒートポンプ装置において、コストと効率を考慮して、圧縮機を同軸の1段目及び2段目のロータリ式圧縮機構を備えた2段圧縮機とした場合を考える。(一般的にロータリ式圧縮機はコストと効率に優れる。)ここで、1段目の圧力比は1段目と2段目の排除容積比(1段目の排除容積比に対する2段目の排除容積の比)、吸入圧、ポリトロープ指数で決まるが、様々な運転条件でバランスの良い圧力比が得られる排除容積比として、通常、0.6〜0.8程度に設定される。
しかしながら、このような様々な運転条件でバランスの良い圧力比が得られる条件であっても、特に、冷房低負荷や低外気温冷房といった、全体の圧力比(即ち、1段目吸入圧に対する2段目吐出圧の比)が小さくなる条件においては、1段目の圧縮機構で殆どの圧縮を行ってしまい全体の圧力比が1段目の圧力比に近いものとなるため、結果として、ロータリ式2段圧縮機が1シリンダロータリ圧縮機に近い運転状況となり、トルク変動が大きくなるため、低速時に振動が大きくなってしまうという問題があった。
すなわち、多段圧縮機の場合、特にロータリ式の多段圧縮機では、低速回転の低圧力比運転時に多段圧縮機の振動が大きくなり、その結果、冷媒配管に大きな振動が発生して配管が破損するおそれがあった。また、これを回避するために、低負荷での運転ができなくなるという問題もあった。
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであって、多段圧縮機における適切な圧力比バランスを維持して、低速運転時の振動を抑制し得るインジェクション回路と多段圧縮機を有したヒートポンプ装置を提供することを目的としている。
上記課題を解決するために、本発明に係るヒートポンプ装置は、冷媒に熱を吸収させる蒸発器と、中間圧にインジェクション可能な多段圧縮機と、冷媒の熱を放熱させる凝縮器と、冷媒の圧力を下げる第1膨張弁と、が冷媒を循環させるように接続された主冷媒回路と、主冷媒回路の前記凝縮機と前記蒸発器の間と前記多段圧縮機の中間圧部とをつなぐバイパス経路と、前記バイパス経路に設けられ、前記バイパス経路を流れる冷媒の圧力を下げる第2膨張弁とから構成されたインジェクション回路と、を備えるヒートポンプ装置であって、前記第1膨張弁及び前記第2膨張弁の開度を制御する制御手段を有し、前記多段圧縮機の吸入圧に対する吐出圧の圧力比が所定値以下となった場合、前記制御手段が前記第2膨張弁を開くように制御することで、前記凝縮器から第1膨張弁で減圧後、前記蒸発器に向かって流れる冷媒に、前記蒸発器を経て前記多段圧縮機に吸入されて中間圧に圧縮された冷媒の一部を合流させることを特徴とする。
また、上記発明において、前記多段圧縮機に吸入される冷媒の圧力と四方弁及び凝縮器に吐出される冷媒の圧力が所定の圧力になった場合、あるいは所定の外気温度における圧縮機が所定の回転数以下となった場合のうち少なくとも一つの場合を満たしている場合でも、前記制御手段が前記第2膨張弁を開くように制御することで、前記凝縮器から第1膨張弁で減圧後、前記蒸発器に向かって流れる冷媒に、前記蒸発器を経て前記多段圧縮機に吸入されて中間圧に圧縮された冷媒の一部を合流させることを特徴とする。
また、上記発明において、前記主冷媒回路と前記インジェクション回路が接続される接続箇所と前記蒸発器の間に第3膨張弁を備えることを特徴とする。
また、上記発明において、前記主冷媒回路及び前記バイパス経路に設けられ、前記第1膨張弁で減圧後の冷媒を液相冷媒と気相冷媒とに分離する気液分離器、分離した液相冷媒を減圧する第3膨張弁、を備え、インジェクション回路の第3膨張弁が、分離した気相冷媒の多段圧縮機の中間圧部へインジェクション量を制御することを特徴とする。
さらに、上記発明において、前記主冷媒回路及び前記第2膨張弁と前記中間圧部の間の前記バイパス経路に設けられ、前記凝縮器から前記蒸発器に向かって流れる冷媒と、前記バイパス経路を流れ、前記第2膨張弁に流入する前の冷媒とを熱交換させる内部熱交換器、をさらに備え、冷房運転時に前記内部熱交換器による熱交換を行わないことを特徴とする。
本発明に係るヒートポンプ装置によれば、多段圧縮機における適切な圧力比バランスを維持して、特にコストと効率に優れるロータリ式多段圧縮機の低速運転時の振動を抑制し、低コストで運転範囲の広い多段圧縮機を用いたインジェクション可能なヒートポンプ装置を提供することができる。
以下、本発明に係る好適な実施の形態について、実施例1、実施例2、実施例3、変形例の順に図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施例1に係るヒートポンプ装置の構成を説明する冷媒回路図である。同図において、本実施例のヒートポンプ装置は、冷房運転の状態であり、主冷媒回路として、2段圧縮機31、四方弁35、凝縮器、メイン膨張弁42(第1膨張弁)及び蒸発器が、冷媒を循環させるように接続されている。なお、凝縮器は、冷房運転時には室外熱交換器11が、暖房運転時には室内熱交換器21がそれぞれ該当する。また、蒸発器は、冷房運転時には室内熱交換器21が、暖房運転時には室外熱交換器11がそれぞれ該当する。また、蒸発器は、四方弁及びアキュムレータ32を経由して2段圧縮機31の吸入側に接続されている。さらに、2段圧縮機31は、同軸の1段目圧縮機構31a及び2段目圧縮機構31bを備えており、図中の31dが中間圧の箇所となる。
また、本実施例のヒートポンプ装置は、インジェクション回路として、バイパス経路、可逆で減圧可能なインジェクション膨張弁43(第2膨張弁)及び内部熱交換器41を備えている。ここで、バイパス経路は、冷房運転時に、室外熱交換器11からメイン膨張弁42(第1膨張弁)で減圧されて、室内熱交換器21に向かって流れる冷媒に、室内熱交換器21を経て2段圧縮機31に吸入されて中間圧に圧縮された冷媒の一部をインジェクション回路を利用してバイパスし、インジェクション膨張弁43(第2膨張弁)で減圧して合流させる経路であり、また暖房運転時に、室内熱交換器21(凝縮器)から室外熱交換器11(蒸発器)に向かって流れる冷媒の一部を分岐して2段圧縮機31の中間圧の箇所31dにインジェクションさせる経路である。すなわち、バイパス経路は、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dから主冷媒回路との接続点43dまでの経路が該当する。
また、インジェクション膨張弁43(第2膨張弁)は、バイパス経路に設けられて、該バイパス経路を流れる冷媒の圧力を下げる。(可逆に減圧可能)また、内部熱交換器41は、主冷媒回路及びバイパス経路に設けられ、冷房運転時にインジェクション膨張弁43(第2膨張弁)を開く制御をした場合、実質的に熱交換器として作用しない。これは、室外熱交換器11(凝縮器)からメイン膨張弁43(第1膨張弁)で減圧され室内熱交換器21(蒸発器)に向かって流れる冷媒は、バイパス経路を流れる冷媒に熱を与えられるが、熱を与えた側の冷媒(バイパス流)と合流し、エンタルピーが元の状態に戻るためである。なお、内部熱交換器41は、暖房運転時にインジェクション膨張弁43(第2膨張弁)を開く制御をした場合、すなわち、インジェクションを行った暖房運転時には、過冷却熱交換器として作用する。この時、凝縮器(室内熱交換器21)の出口41b〜41aの間の主冷媒は、43dから多段圧縮機の中間圧部31dに向かって流れるインジェクション膨張弁43で減圧されたバイパス冷媒により過冷却される。熱を与えられたバイパス冷媒は多段圧縮機の中間圧部31dへインジェクションされ、凝縮器(室内熱交換器21)を流れる冷媒流量が増加する。
さらに、本実施例のヒートポンプ装置は、メイン膨張弁42及びインジェクション膨張弁43の開度を制御する制御手段(図示せず)を備えている。この制御手段は、2段圧縮機31の回転数制御等を行う制御器に組み込まれるものであり、冷房運転時に、多段圧縮機において、一段目の圧力比と二段目の圧力比が近くなった状態、特に二段目の圧力比が一段目の圧力比以下となる場合に、インジェクション膨張弁43を開くように制御する。
ここで一段目の圧力比と二段目の圧力比が近くなった状態とは、2段圧縮機31に吸入される冷媒の圧力と四方弁35及び凝縮器に吐出される冷媒の圧力が、予め決められた所定の圧力になった場合、あるいは全体の圧力比が予め決められた所定値以下となった場合、あるいは所定の外気温度における圧縮機が予め決められた所定の回転数以下となった場合(あるいは、これらを組み合わせたもの)であって、その場合に圧縮機の振動が大きくならないよう、インジェクション膨張弁43を開くように制御する。この時、インジェクション回路の冷媒は31dから43dに流れる。なお、2段圧縮機31の吸入圧力及び吐出圧力の検出は、室外熱交換器11及び室内熱交換器21の中間部に温度センサを設置して該温度センサの検出温度に基づき推定するか、或いは、該当箇所に圧力センサを設置して直接検知する。
ここで、前記所定値について排除容積比0.7の2段圧縮機31の場合で具体的に例示すると、所定の全体の圧力比とは、一段目の圧力比が1.4、二段目の圧力比が1.3となる場合である。また、外気20〜35℃の場合、所定の圧縮機回転数とは、25rps以下である。
次に、上記構成を備えたヒートポンプ装置の基本動作について、図1及び図2を参照して説明する。ここで、図2は本実施例のヒートポンプ装置におけるモリエル線図である。また、図1中に付記されている矢印は、冷房運転時において冷媒が流れる方向を示しており、暖房運転時にはその矢印とは逆の方向に流れることとなる。
冷房運転時には、四方弁35は図1に示す接続関係にあり、冷房運転時に、2段圧縮機31に吸入される冷媒の圧力と四方弁及び凝縮器に吐出される冷媒の圧力が所定の圧力になった場合には、あるいは全体の圧力比が所定値以下となった場合には、あるいは所定の外気温度における圧縮機が所定の回転数以下となった場合には、(あるいは、それらを組み合わせたもの)、インジェクション膨張弁43が開制御され、まず、主冷媒回路では、2段圧縮機31で圧縮された(図2においてA1−C1)冷媒が吐出され、室外熱交換器11で凝縮され(図2:C1−D1)、メイン膨張弁42で膨張され(図2:D1−F1)、内部熱交換器41による熱交換の後、インジェクション回路のバイパス冷媒が合流し(31d→43d)、室内熱交換器21で蒸発され(図2:F1−A1)、四方弁35及びアキュムレータ32を経て2段圧縮機31の吸入側に戻る。この時、内部熱交換器41による熱交換において、室外熱交換器11(凝縮器)からメイン膨張弁43(第1膨張弁)で減圧され室内熱交換器21(蒸発器)に向かって流れる主冷媒は、バイパス経路を流れる冷媒に熱を与えられるが、熱を与えた側の冷媒(バイパス流)と合流し、エンタルピーが元の状態に戻るため、実質的に熱交換はなされていない。
他方、インジェクション回路では、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dと主冷媒回路との接続点43dとの圧力差から、バイパス経路が形成される。バイパス経路では、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dから中間圧に圧縮された(図2においてA1−B1)冷媒の一部がバイパス経路に吐出され、内部熱交換器41による熱交換(図2においてB1−E1)の後、インジェクション膨張弁43で膨張され(図2:E1−F1)、接続点43dで主冷媒回路に合流する。
また、暖房運転時には、四方弁35は図1とは逆の接続関係(図示せず)にあり、インジェクション膨張弁43が開制御されているとき、まず、主冷媒回路では、2段圧縮機31で圧縮された冷媒が吐出され、室内熱交換器21で凝縮され、内部熱交換器41による熱交換の後(41b〜41a)、過冷却された主冷媒は、メイン膨張弁42で膨張され、室外熱交換器11で蒸発され、四方弁35及びアキュムレータ32を経て2段圧縮機31の吸入側に戻り、2段圧縮機31で圧縮される。
他方、インジェクション回路では、室内熱交換器21で凝縮された冷媒は、接続点43dでインジェクション回路に分岐する。すなわち、インジェクション膨張弁43で膨張され、内部熱交換器41の熱交換により主冷媒を過冷却し、インジェクション冷媒は加熱されて二相またはガス状態で、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dにインジェクションされる。
以上説明したように、本実施例のヒートポンプ装置では、冷房運転時に、2段圧縮機31に吸入される冷媒の圧力と四方弁及び凝縮器に吐出される冷媒の圧力が所定の圧力になった場合には、あるいは全体の圧力比が所定値以下となった場合には、あるいは所定の外気温度における圧縮機の回転数が所定の回転数以下となった場合には、(あるいは、それらを組み合わせたもの)、即ち冷房低圧力比運転時には、インジェクション膨張弁43が開制御され、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dから主冷媒回路との接続点43dまでのバイパス経路が形成されるので、2段圧縮機31における適切な圧力比バランスを維持して、低速運転時の振動を抑制し、低コストで運転範囲の広い多段圧縮機を用いたインジェクション可能なヒートポンプ装置を提供することができる。
ここで、図3にインジェクション回路を介したバイパスを行わない場合(従来)のモリエル線図を例示して、本実施例と対比して説明する。バイパスを行わない場合には、上述したように、冷房低負荷や低外気温冷房といった、全体の圧力比が小さくなる冷房低圧力比運転時には、1段目圧縮機構31aで殆どの圧縮を行ってしまい(図3においてA5−B5)、2段目圧縮機構31bでの圧縮は殆どなされない(図3においてB5−C5)。これに対して本実施例では、図2に示したように、1段目圧縮機構31aの吐出圧力が低下して、2段目圧縮機構31bの圧力比を確保することができ、2段圧縮機31における適切な圧力比バランスを維持して、2段圧縮機31の低速運転時の振動を低減することができる。
また、従来では、冷房低圧力比運転時における振動により低負荷運転が制限されるおそれがあったが、本実施例では、2段圧縮機31による低速運転または低負荷運転が可能となり、運転範囲を拡大することができる。さらに、本実施例の特徴であるバイパス経路は、従来備えていたインジェクション回路をそのまま流用するものであるので、振動対策に新たな構成要素を必要とせず、コストの増加を伴うことなく、低コストで運転範囲の広い多段圧縮機を用いたインジェクション可能なヒートポンプ装置を実現することができる。
次に、図4は本発明の実施例2に係るヒートポンプ装置の構成を説明する冷媒回路図である。本実施例のヒートポンプ装置は、冷房運転の状態であり、実施例1のヒートポンプ装置の構成(図1参照)において、第1膨張弁をサブ膨張弁42aとし、室内熱交換器21(蒸発器)及びサブ膨張弁42a(第1膨張弁)間を流れる冷媒の圧力を下げるメイン膨張弁44(第3膨張弁)を追加した構成である。これ以外の構成要素については、実施例1と同等であるので説明を省略する。
次に、このような構成を備えたヒートポンプ装置の基本動作について、図4及び図5を参照して説明する。ここで、図5は本実施例のヒートポンプ装置におけるモリエル線図である。また、図4中に付記されている矢印は、冷房運転時において冷媒が流れる方向を示しており、暖房運転時にはその矢印とは逆の方向に流れることとなる。
冷房運転時には、四方弁35は図4に示す接続関係にあり、冷房運転時に、2段圧縮機31に吸入される冷媒の圧力と四方弁及び凝縮器に吐出される冷媒の圧力が所定の圧力になった場合には、あるいは全体の圧力比が所定値以下となった場合には、あるいは所定の外気温度における圧縮機が所定の回転数以下となった場合には、(あるいは、それらを組み合わせたもの)、インジェクション膨張弁43が開制御され、まず、主冷媒回路では、2段圧縮機31で圧縮された(図5においてA2−C2)冷媒が吐出され、室外熱交換器11で凝縮され(図5:C2−D2)、サブ膨張弁42aで膨張され(図5:D2−E2)、内部熱交換器41による熱交換の後にメイン膨張弁44で膨張され(図5:E2−F2)、室内熱交換器21で蒸発され(図5:F2−A2)、アキュムレータ32を経て2段圧縮機31の吸入側に戻る。この時、内部熱交換器41による熱交換において、室外熱交換器11(凝縮器)からメイン膨張弁43(第1膨張弁)で減圧され室内熱交換器21(蒸発器)に向かって流れる主冷媒は、バイパス経路を流れる冷媒に熱を与えられるが、熱を与えた側の冷媒(バイパス流)と合流し、エンタルピーが元の状態に戻るため、実質的に熱交換はなされていない。
他方、インジェクション回路では、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dと主冷媒回路との接続点43dとの圧力差から、バイパス経路が形成される。この時、図5のE2の圧力はB2の圧力より低くなるようにサブ膨張弁42aは制御される。ここで、サブ膨張弁42aの制御は、内部熱交換器41の中間温度の検出(図4の41a〜41bの中間、あるいは41c〜41dの中間箇所)、あるいはサブ膨張弁42の膨張後の温度(図4の42a〜41aの間)による圧力E2の推算、あるいは凝縮温度と凝縮出口の温度検出も考慮した圧力E2の推算、あるいは圧力センサによる検出などにより行う。さらに、推算あるいは検出した吸入圧力及び吸入温度と吐出圧力及び吸入温度と排除容積比と実験的に求めたポリトロープ指数を用いて推算したバイパス前の圧縮中間圧を考慮しても良い。
また、メイン膨張弁44を全開にすることで、サブ膨張弁42aの制御を実施例1のメイン膨張弁42と同様な制御としても良い。以上、サブ膨張弁42aの制御による圧力E2の制御によって実施例1より微細なバイパス制御が可能となる。そして、バイパス経路では、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dから中間圧に圧縮された(図5においてA2−B2)冷媒が吐出され、吐出された冷媒の一部が内部熱交換器41による熱交換(図4において41c−41d、図5においてB2−E2)の後、インジェクション膨張弁43で膨張され、接続点43dで主冷媒回路に合流する。この時、内部熱交換器41による熱交換において、室外熱交換器11(凝縮器)からサブ膨張弁42aで減圧されメイン膨張弁44に向かって流れる主冷媒は、バイパス経路を流れる冷媒に熱を与えられるが、熱を与えた側の冷媒(バイパス流)と合流し、エンタルピーが元の状態に戻るため、実質的に熱交換はなされていない。
また、暖房運転時には、四方弁35は図4とは逆の接続関係(図示せず)にあり、インジェクション膨張弁43が開制御されているとき、まず、主冷媒回路では、2段圧縮機31で圧縮された冷媒が吐出され、室内熱交換器21で凝縮され、メイン膨張弁44で膨張され、内部熱交換器41による熱交換の後、過冷却された主冷媒はサブ膨張弁42aで膨張され、室外熱交換器11で蒸発され、四方弁35及びアキュムレータ32を経て2段圧縮機31の吸入側に戻り、2段圧縮機31で圧縮される。
他方、インジェクション回路では、室内熱交換器21で凝縮された冷媒は、メイン膨張弁44で膨張された後、接続点43dでインジェクション回路に分岐する。すなわち、インジェクション膨張弁43で膨張され、内部熱交換器41の熱交換により主冷媒を過冷却し、インジェクション冷媒は加熱されて二相またはガス状態で2段圧縮機31の中間圧の箇所31dにインジェクションされる。
さらに、暖房運転時に2段圧縮機31に吸入される冷媒の圧力と四方弁及び凝縮器に吐出される冷媒の圧力が所定の圧力になって、あるいは全体の圧力比が所定値以下となって、あるいは所定の外気温度における圧縮機が所定の回転数以下となって、(あるいは、それらを組み合わせたもの)、制御手段により暖房低圧力比運転と判断されたときには、メイン膨張弁44による減圧調整により、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dと主冷媒回路との接続点43dとの圧力差から、バイパス経路が形成される。この時、前述([0033])の冷房運転時と同様な制御を行う。すなわち、図5のE2の圧力はB2の圧力より低くなるようにメイン膨張弁44制御される。メイン膨張弁44の制御は、内部熱交換器41の中間温度の検出(図4の41a〜41bの中間、あるいは41c〜41dの中間箇所)、あるいはメイン膨張弁44の膨張後の温度(図4の44〜41bの間)による圧力E2の推算、あるいは圧力センサによる検出などにより行う。また、サブ膨張弁42aを全開にすることで、メイン膨張弁44の制御を実施例1のメイン膨張弁42と同様な制御としても良い。以上、メイン膨張弁44の制御による圧力E2の制御によって実施例1より微細なバイパス制御が可能となる。そして、バイパス経路では、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dから中間圧に圧縮された冷媒が吐出され、内部熱交換器41による熱交換の後、インジェクション膨張弁43で膨張され、接続点43dで主冷媒回路に合流する。この時、前述([0033])の冷房運転時と同様に、実質的に内部熱交換器41による熱交換がなされていない。すなわち、室内熱交換器21(凝縮器)からメイン膨張弁44で減圧されサブ膨張弁42aに向かって流れる主冷媒は、バイパス経路を流れる冷媒に熱を与えられるが(この時、熱交換の温度差が小さいため、実施例1より熱交換量は小さい)、熱を与えた側の冷媒(バイパス流)と合流し、エンタルピーが元の状態に戻るため、実質的に熱交換はなされていない。
以上説明したように、本実施例のヒートポンプ装置では、冷房低圧力比運転時には、インジェクション膨張弁43が開制御され、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dから主冷媒回路との接続点43dまでのバイパス経路が形成される。また、暖房低圧力比運転時にも、メイン膨張弁44による減圧調整により、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dから主冷媒回路との接続点43dまでのバイパス経路が形成される。これにより、2段圧縮機31における適切な圧力比バランスを維持して、低速運転時の振動を抑制し、低コスト且つ低騒音のヒートポンプ装置を提供することができる。また、低速運転または低負荷運転が可能となり、運転範囲を拡大し得るヒートポンプ装置を実現することができる。また、実施例1と比較して、実質的にメイン膨張弁44のみが追加された構成であるため、コストの増加を抑えることができ、比較的低コストで、冷房運転のみならず暖房運転においても運転範囲の広い多段圧縮機を用いたインジェクション可能なヒートポンプ装置を実現することができる。
次に、図6は本発明の実施例3に係るヒートポンプ装置の構成を説明する冷媒回路図である。(冷房運転状態)同図において、本実施例のヒートポンプ装置は、主冷媒回路として、2段圧縮機81、四方弁85、凝縮器、サブ膨張弁92a(第1膨張弁)、気液分離器91、メイン膨張弁94(第3膨張弁)及び蒸発器が、冷媒を循環させるように接続されている。なお、凝縮器は、冷房運転時には室外熱交換器61が、暖房運転時には室内熱交換器71がそれぞれ該当する。また、蒸発器は、冷房運転時には室内熱交換器71が、暖房運転時には室外熱交換器61がそれぞれ該当する。また、蒸発器は、四方弁85及びアキュムレータ82を経由して2段圧縮機81の吸入側に接続されている。さらに、2段圧縮機81は、同軸の1段目圧縮機構81a及び2段目圧縮機構81bを備えており、図中の81dが中間圧の箇所となる。また、凝縮器を出た冷媒は、冷房運転時にはサブ膨張弁92aで、暖房運転時にはメイン膨張弁94で中間圧に一次減圧され、気液分離器を通過後、冷房運転時にはメイン膨張弁94で、暖房運転時にはサブ膨張弁92aで蒸発圧近くまで二次減圧される。
本実施例のヒートポンプ装置は、実施例2のヒートポンプ装置の構成(図4参照)において、インジェクション回路に気液分離器91を用いた構成である。ここでは、インジェクション回路についてのみ詳細に説明し、それ以外の構成要素については、実施例2と同等であるので詳細な説明を省略する。
本実施例のヒートポンプ装置は、インジェクション回路として、バイパス経路、インジェクション膨張弁93及び気液分離器91を備えている。ここで、バイパス経路は、凝縮後の膨張弁(サブ膨張弁92a、メイン膨張弁94)の一次減圧調整によって、冷房運転及び暖房運転時の両方において、多段圧縮機81で中間圧に圧縮された冷媒の一部を分岐しインジェクション膨張弁93(第2膨張弁)で減圧した後、凝縮器から蒸発器に向かって流れる一次減圧後の気液分離器91内の主冷媒に合流させる経路である。また、前記一次減圧の調整によって、冷房運転及び暖房運転時の両方において、気液分離器91内の気相冷媒を多段圧縮機81の中間圧部81dにインジェクションが可能である。すなわち、凝縮器から蒸発器に向かって流れる一次減圧後の主冷媒について分離された気相冷媒の一部または全部を分岐して2段圧縮機81の中間圧の箇所81dにインジェクションさせる経路である。
また、インジェクション膨張弁93(第2膨張弁)は、バイパス経路に設けられて、該バイパス経路を流れる冷媒の圧力を下げる。(可逆的に減圧可能)また、気液分離器91は、主冷媒回路及びバイパス経路に設けられ、室外熱交換器61及び室内熱交換器71間を流れる冷媒を液相冷媒と気相冷媒とに分離する。なお、気液分離器91は、低圧力比運転で、前述の多段圧縮機81の中間圧の一部の冷媒を気液分離器91に向かってバイパスを行うときには気液分離器として機能しない。
次に、このような構成を備えたヒートポンプ装置の基本動作について説明する。ここで、図6中に付記されている矢印は、冷房運転時において冷媒が流れる方向を示しており、暖房運転時にはその矢印とは逆の方向に流れることとなる。
冷房運転時には、四方弁85は図6に示す接続関係にあり、冷房運転時に、2段圧縮機81に吸入される冷媒の圧力と四方弁及び凝縮器に吐出される冷媒の圧力が所定の圧力になって、あるいは全体の圧力比が所定値以下となって、あるいは所定の外気温度における圧縮機が所定の回転数以下となって、(あるいは、それらを組み合わせたもの)、制御手段により冷房低圧力比運転と判断されたときには、まず、主冷媒回路では、2段圧縮機81で圧縮された冷媒が吐出され、室外熱交換器61で凝縮され、サブ膨張弁92aで膨張され(一次減圧)、気液分離器91でインジェクション回路からのバイパス冷媒が合流した後に、メイン膨張弁94で膨張され(二次減圧)、室内熱交換器71で蒸発され、四方弁85及びアキュムレータ82を経て2段圧縮機81の吸入側に戻る。他方、インジェクション回路では、インジェクション膨張弁93が開制御されてバイパス経路が形成される。この時、([0033])と同様な、サブ膨張弁92aの制御がなされ、一次減圧後の温度の検出(気液分離器91の器内あるいは表面温度、サブ膨張弁92aの膨張後の温度など)による、あるいは凝縮温度と凝縮出口の温度検出も考慮した一次減圧後の圧力推算、あるいは圧力センサによる検出などにより制御を行う。また、メイン膨張弁94を全開にすることで、サブ膨張弁92aの制御を実施例1のメイン膨張弁42と同様な制御としても良い。そして、バイパス経路では、2段圧縮機81の中間圧の箇所81dから中間圧に圧縮された冷媒が吐出され、吐出された冷媒の一部がインジェクション膨張弁93で膨張された後、気液分離器91で主冷媒回路に合流する。
また、暖房運転時には、四方弁85は図6とは逆の接続関係(図示せず)にあり、インジェクション膨張弁93が開制御されているとき、まず、主冷媒回路では、2段圧縮機81で圧縮された冷媒が吐出され、室内熱交換器71で凝縮され、メイン膨張弁94で膨張され(一次減圧)、気液分離器91で液相冷媒と気相冷媒とに分離された後、液相冷媒はサブ膨張弁42aで膨張され(二次減圧)、室外熱交換器61で蒸発され、四方弁85及びアキュムレータ82を経て2段圧縮機81の吸入側に戻り、2段圧縮機81で圧縮される。他方、インジェクション回路では、気液分離器91で分離された気相冷媒は、インジェクション膨張弁93で流量制御され、2段圧縮機81の中間圧の箇所81dにインジェクションされる。
さらに、暖房運転時に、2段圧縮機81に吸入される冷媒の圧力と四方弁及び凝縮器に吐出される冷媒の圧力が所定の圧力になって、あるいは全体の圧力比が所定値以下となって、あるいは所定の外気温度における圧縮機が所定の回転数以下となって、(あるいは、それらを組み合わせたもの)、制御手段により暖房低圧力比運転と判断されたときには、メイン膨張弁94による減圧調整により、気液分離器91における2段圧縮機81の中間圧の箇所81dと主冷媒回路との圧力差から、バイパス経路が形成される。この時、一次減圧された気液分離器91の圧力は、2段圧縮機81の圧縮中間圧力(81dの圧力)より低くなるようにメイン膨張弁94は、([0043])と同様な制御がなされる。そして、バイパス経路では、2段圧縮機81の中間圧の箇所81dから中間圧に圧縮された冷媒が吐出され、吐出された冷媒の一部がインジェクション膨張弁93で膨張された後、気液分離器91で主冷媒回路に合流する。
以上説明したように、本実施例のヒートポンプ装置では、冷房低圧力比運転時には、インジェクション膨張弁93が開制御され、サブ膨張弁92aによる減圧調整により、2段圧縮機81の中間圧の箇所81dから主冷媒回路までのバイパス経路が形成される。また、暖房低圧力比運転時にも、メイン膨張弁94による減圧調整により、2段圧縮機81の中間圧の箇所81dから主冷媒回路までのバイパス経路が形成される。これにより、冷房運転のみならず暖房運転においても2段圧縮機81における適切な圧力比バランスを維持して、低速運転時の振動を抑制し、低コスト且つ低騒音のヒートポンプ装置を提供することができる。また、低速運転または低負荷運転が可能となり、運転範囲を拡大し得るヒートポンプ装置を実現することができる。
〔変形例〕
次に、図7は、本発明の変形例に係るヒートポンプ装置の構成を説明する冷媒回路図である。本実施例のヒートポンプ装置は、実施例1のヒートポンプ装置の構成(図1参照)において、インジェクション回路に逆止弁45及び46を追加した構成である。
この構成により、暖房運転のインジェクション時には、接続点43dで分岐した冷媒は、インジェクション膨張弁43で膨張され、内部熱交換器41による熱交換の後、逆止弁46を通り、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dにインジェクションされる。他方、冷房低圧力比運転時には(図7の矢印の流れ)、2段圧縮機31の中間圧の箇所31dから吐出された中間圧の冷媒の一部は、逆止弁45を介したバイパスによって内部熱交換器41による熱交換を行うことなく、インジェクション膨張弁43で膨張された後、接続点43dで主冷媒回路に合流する。これにより、例えば、熱交換によってバイパス冷媒と主冷媒の乾き度が大きく異なってしまう場合や、流動様相が大きく変化してしまう場合などの合流損失が大きくなってしまう場合において、冷房低圧力比運転時のバイパス経路における不要な熱交換を行わずに済むので、より効率的な運転制御が期待できる。
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明に係るヒートポンプ装置は、上述した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。例えば、実施例では2段圧縮機を用いたが、2段に限定されることなく、2以上の段数を持つ多段圧縮機構であれば良い。また、実施例では圧縮機構としてロータリ式のものを想定して説明したが、これに限定されることなく、スクロール式やレシプロ式などの他の圧縮機構であっても良い。また、膨張弁についても一般的な可逆で膨張可能な電子膨張弁などを想定したが、これに限定されることなく、一方向膨張弁(例えば、CO2冷媒用の膨張弁)を逆止弁ブリッジ回路と組み合わせたり、その他、電磁弁及びキャピラリーと一方向電磁弁の並列や直列の組み合わせであったりしても良い。さらに、また、空調機を想定した実施例で説明したが、室内熱交換器を、冷媒−水熱交換器としてヒートポンプ給湯機であっても良く、また、冷媒についても限定されるものでなく、フロン系冷媒の他、CO2、HFO系冷媒であっても良い。