JP5658893B2 - 耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、耐熱性、特に熱疲労特性が必要な排気系部材などの使用に最適な耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板に関するものである。
自動車のエキゾーストマニホールドなどの排気系部材は、エンジンから排出される高温の排気ガスを通すため、排気部材を構成する材料には高温強度、耐酸化性、熱疲労特性など多様な特性が要求され、耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼が用いられている。
排ガス温度は、車種によって異なるが、近年では750〜850℃程度が多く、エンジンから排出される高温の排気ガスを通すエキゾーストマニホールドの温度は同程度の高温となる。しかし、近年の環境問題の高まりから、さらなる排ガス規制の強化、燃費向上が進められており、排ガス温度はさらに1000℃近くまで高温化するものと考えられている。
近年使用されているフェライト系ステンレス鋼には、SUS429(Nb−Si添加鋼)、SUS444(Nb−Mo添加鋼)があり、Nb添加を基本に、Si、Moの添加によって高温強度を向上させるものである。この中で、SUS444は2%程度のMoを添加するため、最も高強度である。しかし、排ガス温度の850℃超の高温化にSUS444では対応不可であり、SUS444以上の耐熱性を有するフェライト系ステンレス鋼が要望されている。
このような要望に対して、様々な排気系部材の材料が開発されている。例えば、特許文献1には、熱疲労特性向上のために長径0.5μm以上のCu相が10個/25μm2以下、かつ長径0.5μm以上のNb化合物相が10個/25μm2以下に制御する方法が検討されているが、ラーベス(Laves)相やε−Cu相の粗大析出物のみが規定されており、その他の微細析出物に関しては開示がない。特許文献2,3には、析出物量を規定することでNb,Moの固溶強化の他にCuの固溶強化、Cuの析出物(ε−Cu相)による析出強化により、SUS444以上の高温強度にする方法が開示されているが、析出物のサイズと高温強度との関係は開示されていない。特許文献4,5には、Nb,Mo,Cu添加以外にW添加を行う技術が開示されている。特許文献4では、析出物としてLaves相やε−Cu相と高温強度との関係が開示されているが、炭窒化物との関係については開示がない。特許文献5ではさらにBが添加されているが、加工性の向上のためであり、析出物への制御や耐熱性の観点からではない。
発明者らは、直近、特許文献6において、Nb−Mo−Cu−Ti−Bの複合添加により、Laves相およびε−Cu相を微細分散させ、850℃で優れた高温強度を得る技術を開示している。
以上より、排気系部材の耐熱性向上のための析出物制御に関する従来知見は、主にLaves相やε−Cu相に関するものであり、Nb炭窒化物の析出物制御の知見の開示はない。一方、非特許文献1にあるように、Nb−Mo鋼にTiを添加した場合、炭窒化物およびLaves相の析出形態が変化することが知られている。
特開2008−189974号公報 特開2009−120893号公報 特開2009−120894号公報 特開2009−197307号公報 特開2009−197306号公報 特開2009−215648号公報
ISIJ Internatioal,43(2003),1999.
従来のフェライト系ステンレス鋼においては、850℃よりも高い温度域で使用する場合、例えば従来技術の特許文献6の技術であっても、充分な耐熱性、特に熱疲労特性を安定的に得られない場合があることがわかった。
そこで、本発明者らはLaves相の他にNb炭窒化物の析出物形態に着目して、鋭意検討した結果、解決すべき課題として以下の新知見を得るに至った。
Laves相は一般的にFe2(Nb,Mo)として析出し、固溶Nb,Mo量の低減をもたらす。特許文献6ではBの効果で微細析出し、析出強化に寄与すると記載されている。本発明者らは、粗大なNb炭窒化物が存在する場合に、Nb炭窒化物を起点としてLaves相が多数析出することを知見した。粗大なNb炭窒化物がNbおよびMoの固溶量を減少させるだけではなく、Nb炭窒化物を起点とした粗大なLaves相となり、析出強化にも寄与しないことが原因であることを突き止めるに至った。
本発明は、このような知見に鑑みてなされたものであって、Nb炭窒化物の析出物形態を制御することにより、従来技術より高い850℃超の耐熱性を有するフェライト系ステンレス鋼を提供することを課題とするものである。
上記課題を解決するために、本発明者らは、エキゾーストマニホールドでの使用温度域を考慮し、750〜950℃の温度域では、析出物が多量に析出、成長することから、Nb、Mo系析出物であるLaves相およびNbを主相とした炭窒化物を従来技術よりも精密に制御することにより、固溶および析出強化の効果を最大限に用いることを狙いとして、種々の検討を行った。その結果、Nb−Mo−Cu−Ti−Bの複合添加鋼において、Nbを主相とした炭窒化物の微細析出が固溶強化の維持に有効であることを見出した。ここで、Nbを主相とした炭窒化物とは、Nbを主相とした(Nb,X)(C,N)のことであり、以後Nb炭窒化物と呼ぶ。Xには他元素(Tiなど)が入る。また、Nbを主相としたとは、NbおよびXの質量の割合を比較したとき、Nbの質量が50%超であるという意味である。具体的には、TEM付属のEDS装置(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)にてFe、Nb、Mo、Tiを定量化し、炭窒化物にFeおよびMoがそれぞれ5mass%未満である場合は、Nbを主相とした炭窒化物であると判断できる。
図1は16.7%Cr−0.007%C−0.38%Si−0.70%Mn−1.7%Mo−1.3%Cu−0.64%Nb−0.15%Ti−0.010%N−0.0003%B鋼を用いて、950℃で5分時効熱処理した場合のNb炭窒化物の粒子径とNb炭窒化物上に析出したLaves相の割合を示す。粒子径が大きくなると、Nb炭窒化物上に析出するLaves相の割合が大きくなり、粒子径が0.2μmを越えると急激に増えていることがわかる。また図2は、19.2%Cr−0.004%C−0.15%Si−0.33%Mn−2.1%Mo−1.2%Cu−0.40%Nb−0.11%Ti−0.012%N−0.0026%B鋼の最終焼鈍温度である1050℃から750℃までの平均冷却速度を変化させた場合の、Nb炭窒化物のうち0.2μm以下のものの存在確率(個数比)との関係を示した結果である。冷却速度が7℃/sec以上で、Nb炭窒化物のうち、粒子径が0.2μm以下のものが個数比率で95%以上になることがわかる。さらに図3では、19.2%Cr−0.004%C−0.15%Si−0.33%Mn−2.1%Mo−1.2%Cu−0.40%Nb−0.11%Ti−0.012%N−0.0026%B鋼の0.2μm以下のNb炭窒化物の存在確率と最高温度が950℃の熱疲労寿命(拘束率20%)の関係を示した結果である。Nb炭窒化物のうち、粒子径が0.2μm以下のものが個数比率で95%以上であると、熱疲労寿命が顕著に向上していることがわかる。
ある大きさ以上のNb炭窒化物を起点としてLaves相が多数析出する機構は明確ではないが、Nb炭窒化物の粗大化により界面が非整合化し、界面エネルギーが増加することによりLaves相の核生成サイトになりやすくなると推察される。
また、Nb−Mo−Cu−Ti−B複合添加鋼において0.2μm超のNb炭窒化物を析出させないためには、通常のステンレス鋼の製造方法において、最終焼鈍温度を1000〜1200℃とし、最終焼鈍温度から750℃までの冷却速度を7℃/sec以上に制御することにより、Nb炭窒化物の析出および粗大化を抑制できることを見出した。
これらの結果から、最終焼鈍時の冷却速度を制御し、Nb炭窒化物の粒子径が0.2μm以下の組織を有することによって、NbおよびMoの固溶強化能を維持させることができる。さらにLaves相およびε−Cu相の析出に対しては、特許文献6で開示したBによる微細析出の効果を850℃超のより高温でも発現させることができることを見出した。
以上のとおり本発明は、Nb炭窒化物を微細析出させる効果において、従来発明とは異なる作用効果を見出し、熱疲労寿命を向上する本発明に至ったものである。そして、最終焼鈍温度から750℃までの冷却速度を制御することによりNb炭窒化物を微細化させることによってLaves相の析出を微細化させ、固溶強化および析出強化を最大限に発揮させた耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供するものである。
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)質量%にて、C:0.015%以下、N:0.020%以下、Si:0.10超〜0.40%、Mn:0.10〜1.00%、Cr:16.5〜25.0%、Nb:0.30〜0.80%、Mo:1.00〜4.00%、Ti:0.05〜0.50%、B:0.0003〜0.0030%、Cu:1.0〜2.5%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、鋼中のNbを含む炭窒化物であって金属元素中に占めるNbの比率が50質量%超であるもののうち、粒子径が0.2μm以下のものが個数比率で95%以上である組織を有する耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(2)質量%にて、W:3.00%以下を含有することを特徴とする請求項1記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(3)質量%にて、Al:3.00%以下、Sn:1.00%以下の1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(4)質量%にて、Zr:1.00%以下、Hf:1.00%以下、Ta:3.00%以下、Mg:0.0100%以下の1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(5)最終焼鈍温度を1000〜1200℃とし、最終焼鈍温度から750℃までの冷却速度が7℃/sec以上28℃/sec以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
ここで、下限の規定がないものについては、不可避的不純物レベルまで含むことを示す。
本発明によればSUS444以上の高温特性が得られ、即ち950℃における熱疲労特性がSUS444と同等以上のフェライト系ステンレス鋼を提供できる。特に自動車などの排気系部材に適用することにより、排ガス温度の850℃超すなわち950℃の高温化に対応することが可能となる。
950℃×5min時効材のNb炭窒化物の粒子径とNb炭窒化物上に析出したLaves相の割合を示した結果 1050〜750℃までの平均冷却速度と0.2μm以下のNb炭窒化物の存在確率の関係を示した結果 0.2μm以下のNb炭窒化物の存在確率と最高温度が950℃の熱疲労寿命(拘束率20%)の関係を示した結果
以下、本発明について詳細に説明する。まず、本発明の限定理由について説明する。
Cは、成形性と耐食性を劣化させ、Nb炭窒化物の析出を促進させて高温強度の低下をもたらすため、その含有量は少ないほど良いため、0.015%以下とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため、0.003%〜0.015%を好ましい範囲とする。
NはCと同様、成形性と耐食性を劣化させ、Nb炭窒化物の析出を促進させて高温強度の低下をもたらすため、その含有量は少ないほど良いため、0.020%以下とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため、0.005〜0.020%を好ましい範囲とする。
Siは、脱酸剤としても有用な元素であるが、耐酸化性を改善するために非常に重要な元素である。しかし、高温強度に関して、Siは高温でLaves相と呼ばれるFeとNb,Moを主体とする金属間化合物の析出を促進する。また、耐酸化性に関して、Si添加量が0.10%以下の場合、異常酸化が起こりやすい傾向となり、0.40%超ではスケール剥離が起こりやすい傾向となるので、0.10%超〜0.40%とした。ただし、表面疵の発生等耐酸化性を劣化させる要因が加わることを想定すると、耐酸化性に余裕があることが好ましく、この場合、0.10%超〜0.30%が望ましい。
Mnは、脱酸剤として添加される元素であるが、長時間使用中にMn系酸化物を表層部に形成し、スケール密着性や異常酸化抑制に寄与する。その効果は0.10%以上で発現する。一方、1.00%超の過度な添加は、常温の均一伸びを低下させる他、MnSを形成して耐食性を低下させたり、耐酸化性の劣化をもたらす。これらの観点から、上限を1.00%とした。更に、高温延性やスケール密着性を考慮すると、0.10〜0.70%が望ましい。
Crは、本発明において、耐酸化性確保のために必須な元素である。16.5%未満では、その効果は発現せず、25.0%超では加工性を低下させたり、靭性の劣化をもたらすため、16.5〜25.0%とした。更に、高温延性、製造コストを考慮すると17.0〜19.0%が望ましい。
Nbは、固溶強化およびLaves相の微細析出による析出強化(Nb炭窒化物の微細化によって効果が顕著に発揮する)による高温強度向上のために必要な元素である。また、CやNを炭窒化物として固定し、製品板の耐食性やr値に影響する再結晶集合組織の発達に寄与する役割もある。本発明のNb−Mo−Ti−B添加鋼においては、B添加による固溶Nb増および析出強化が、0.30%以上のNb添加で得られることから、下限を0.30%とした。また、0.80%超の過度な添加はLaves相の粗大化を促進して高温強度および熱疲労寿命には寄与せず、かつコスト増になることから、上限を0.80%とした。更に、製造性およびコストを考慮すると、0.40〜0.70%が望ましい。
Moは、耐食性を向上させるとともに、高温酸化を抑制、Laves相の微細析出による析出強化および固溶強化による高温強度向上に対して有効である。しかし、過度な添加はLaves相の粗大析出を促進し、析出強化能を低下させ、また加工性を劣化させる。本発明ではNb−Mo−B添加鋼においては、B添加による固溶Mo増が1.00%以上のMo添加で得られることから、下限を1.00%とした。4.00%超の過度な添加はLaves相の粗大化を促進して高温強度および熱疲労寿命には寄与せず、かつコスト増になることから、上限を4.00%とした。更に、製造性およびコストを考慮すると、1.50〜3.00%が望ましい。
Tiは、Nb−Mo−Ti−B鋼において、適量添加することによりNb、Moの冷延焼鈍板時の固溶量増加、高温強度の向上および高温延性の向上をもたらし、熱疲労特性を向上させる重要な元素である。この効果は、0.05%以上から発現するが、0.50%超の添加により、固溶Ti量が増加して均一伸びを低下させる他、粗大なTi系析出物を形成し、加工時及び熱疲労試験時の割れの起点になり、加工性及び熱疲労特性を劣化させてしまうので、上限を0.50%とした。更に、表面疵の発生や靭性を考慮すると0.08〜0.15%が望ましい。
Bは、本発明では先述したNb−Mo−Ti−B添加で、Nb,Mo系析出物量の低減をもたらし、高温強度および熱疲労寿命の安定性に寄与する重要な元素である。さらに、製品のプレス加工時の2次加工性を向上させる元素でもある。これらの効果は、0.0003%以上で発現するが、過度な添加は硬質化や粒界腐食性を劣化させる他、溶接割れが生じ、熱疲労特性が劣化するため、0.0003〜0.0030%とした。更に、成型性や製造コストを考慮すると、0.0003〜0.0020%が望ましい。
Cuは、高温強度向上に有効な元素である。これは、ε−Cuが析出することによる析出硬化作用であり、1.0%以上の添加により著しく発揮する。一方、過度な添加は、均一伸びの低下や常温耐力が高くなりすぎてプレス成型性に支障が生じる。また、2.5%以上添加すると高温域でオーステナイト相が形成されて表面に異常酸化が生じ、さらに熱疲労特性を劣化させるため上限を2.5%とした。製造性やスケール密着性を考慮すると、1.2〜2.0%が望ましい。
Nb炭窒化物は、粒子径が0.2μm超になるとNb炭窒化物界面にLaves相が多数析出し、NbおよびMoの固溶強化量の低下、Laves相の析出強化量の低下の原因となるので、Nb炭窒化物のうち、粒子径が0.2μm以下のものが個数比率で95%以上である必要がある。この状態では、粒内のLaves相は主にNb炭窒化物以外の場所から析出し、析出強化として寄与する。Nb炭窒化物の粒子径は、TEM付属のEDS装置(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)にてFe、Nb、Mo、Tiを定量化し、炭窒化物にFeおよびMoがそれぞれ5mass%未満である場合はNb炭窒化物であると判断し、300個のNb炭窒化物を画像解析により面積を求め、面積から円相当径として計算して求めることができる。
また、高温強度等諸特性をさらに向上させるため、以下の元素を添加してもよい。
Wは、Moと同様な効果を有し、高温強度を向上させる元素である。この効果は0.10%以上から安定して発現するが、過度に添加するとLaves相中に固溶し、析出物を粗大化させてしまうとともに製造性および加工性を劣化させるため、0.10〜3.00%が好ましい。更に、コストや耐酸化性等を考慮すると、1.00〜1.80%が望ましい。
Alは、脱酸元素として添加される他、耐酸化性を向上させる元素である。また、固溶強化元素としての強度向上に有用である。その作用は0.10%から安定して発現するが、過度の添加は硬質化して均一伸びを著しく低下させる他、靭性が著しく低下するため、上限を3.00%とした。更に、表面疵の発生や溶接性、製造性を考慮すると、0.10〜2.00%が望ましい。なお、脱酸の目的でAlを添加する場合、鋼中に0.10%未満のAlが不可避的不純物として残存する。
Snは、原子半径が大きく固溶強化に有効な元素であり、常温の機械的特性を大きく劣化させない。高温強度への寄与は0.05%以上で安定して発現するが、1.00%超添加すると製造性および加工性が著しく劣化するため、1.00%以下とした。更に、耐酸化性等を考慮すると、0.05〜0.50%が望ましい。
Vは、Nbと複合して微細な炭窒化物を形成し、析出強化作用が生じて高温強度向上に寄与する。この効果は0.10%以上の添加で安定して発現するが、1.00%超添加するとNb炭窒化物である(Nb,V)(C,N)が粗大化して高温強度が低下し、熱疲労寿命および加工性が低下してしまうため、上限を1.00%とした。更に、製造コストや製造性を考慮すると、0.10〜0.50%が望ましい。
Zrは耐酸化性を改善する元素であり、0.05%以上の添加により安定して効果を発揮する。しかしながら、1.00%超の添加により粗大なLaves相が析出し、製造性および加工性の劣化が著しくなるため、1.00%以下とした。更に、コストや表面品位を考慮すると、0.05〜0.50%が望ましい。
HfはZrと同様、耐酸化性を改善する元素であり、0.05%以上の添加により安定して効果を発揮する。しかしながら、1.00%超の添加により粗大なLaves相が析出し、製造性および加工性の劣化が著しくなるため、1.00%以下とした。更に、コストや表面品位を考慮すると、0.05〜0.50%が望ましい。
TaはZrおよびHfと同様、耐酸化性を改善する元素であり、0.05%以上の添加により安定して効果を発揮する。しかしながら、3.00%超の添加により粗大なLaves相が析出し、製造性および加工性の劣化が著しくなるため、3.0%以下とした。更に、コストや表面品位を考慮すると、0.05〜1.00%が望ましい。
Mgは、2次加工性を改善させる元素であり、0.0003%以上の添加により安定して効果を発揮する。しかしながら、0.0100%超の添加をすると加工性が著しく劣化するため、0.0003〜0.0100%が好ましい。更に、コストや表面品位を考慮すると、0.0003〜0.0020%が望ましい。
溶解にて鋼塊を作製後、熱延にて熱延板を作製して酸洗し、冷延・焼鈍を行う通常のフェライト系ステンレス鋼の製造方法において、Nb炭窒化物のうち、粒子径が0.2μm以下のものが個数比率で95%以上である組織を得るには、最終焼鈍温度を1000〜1200℃として均熱0〜20分で加熱した後に、最終焼鈍温度から750℃までの平均冷却速度を、7℃/sec以上に制御する必要がある。ここでNb炭窒化物の粒子径は、TEMによる観察写真から、300個の粒内炭窒化物を画像解析により面積を求め、面積から円相当径として計算して求める。上記平均冷却速度を7℃/sec以上に制御すれば、Nb炭窒化物のうち粒子径が0.2μm以下のものが個数比率で95%以上となり、NbおよびMoの固溶強化の維持、またLavesが析出してもLavesの微細析出による析出強化が作用し、熱疲労寿命が向上する。冷却速度は大きいほどNb炭窒化物の粒子径は小さくなるが、表面品位、鋼板形状や製造コストを考慮すると冷却速度は7〜25℃/secが望ましい。
また、最終焼鈍温度が高い程Nb炭窒化物の固溶を促進するため、冷延焼鈍板におけるNb炭窒化物の析出量および粒子径を低減することができる。ただし、焼鈍温度が1200℃超であると結晶粒が粗大化し、靭性劣化の原因となるので、1200℃を最終焼鈍温度の上限とする。表面品位、鋼板形状や製造コストを考慮すると最終焼鈍温度は1000〜1150℃が望ましい。
なお、鋼板の製造方法については、冷延板の最終焼鈍温度を1000〜1200℃とし、最終焼鈍温度から750℃の冷却速度を7℃/sec以上にすること以外は特に規定しないが、熱延条件、熱延板厚、熱延板焼鈍の有無、冷延条件、熱延板および焼鈍温度、雰囲気などは適宜選択すれば良い。また、冷延・焼鈍を複数回繰り返したり、冷延・焼鈍後に調質圧延やテンションレベラーを付与しても構わない。更に、製品板厚についても、要求部材厚に応じて選択すれば良い。
<サンプル作成方法>
表1、表2に示す成分組成の鋼を溶製してスラブに鋳造し、スラブを熱間圧延して5mm厚の熱延コイルとした。その後、熱延コイルを1000〜1200℃で焼鈍した後に酸洗を施し、2mm厚まで冷間圧延し、焼鈍・酸洗を施して製品板とした。冷延板の焼鈍温度は、1000〜1200℃とした。表1のNo.1〜21は本発明例、表2のNo.22〜50は比較例である。
<熱疲労試験方法>
このようにして得られた製品板から板をパイプ状に巻き、板の端をTIG溶接で溶接して、30mmφのパイプを作製した。さらに、このパイプを300mmの長さに切断し、評点間20mmの熱疲労試験片を作製した。この試験片を、サーボパルサ型熱疲労試験装置(加熱方法は高周波誘導加熱装置)を用いて、大気中で拘束率20%、「200℃〜950℃まで150secで昇温→950℃で120sec保持→950℃〜200℃までを150secで降温」を1サイクルとするパターンを繰り返し、熱疲労寿命の評価を行った。なお、亀裂が板厚貫通したときの繰り返し数を熱疲労寿命と定義した。貫通は目視で確認した。評価は、1500サイクル以上を合格として○、1500サイクル未満を不合格として×とした。
<Nb炭窒化物の測定方法>
冷延焼鈍板のサンプルの厚さ1/2の部分を、抽出レプリカ法により圧延面の法線方向が観察できるように析出物を採取し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った。50000倍で任意の箇所をTEM観察し、粒内析出したNb炭窒化物のうち300個計測できるように数十枚撮影した。その写真をスキャナで取り込み、モノクロに画像処理をした後に、Scion Corporation製の画像解析ソフト「Scion Image」を用いて各粒子の面積を求め、面積から円相当径に換算して、Nb炭窒化物の粒子径を測定した。析出物の種類は、TEM付属のEDS装置(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)にてFe、Nb、Mo、Tiを定量化することで分類した。Nb炭窒化物にFeおよびMoはほとんど含有しないので、FeおよびMoがそれぞれ5mass%未満である場合をNb炭窒化物とした。Nb炭窒化物の評価は、Nb炭窒化物のうち、粒子径が0.2μm以下のものが個数比率で95%以上を合格として○、95%未満を不合格として×とした。
<耐酸化性試験>
製品板から20mm×20mm、板厚ままの酸化試験片を作製し、大気中950℃で200時間の連続酸化試験を行い、異常酸化とスケール剥離の発生有無を評価した(JIS Z 2281に準拠)。酸化増量が10mg/cm2未満かつスケール剥離量が5mg未満であれば、異常酸化なしとして○、それ以外を異常酸化ありとして×とした。
<常温の加工性評価方法>
圧延方向と平行方向を長手方向とするJIS13B号試験片を作製し、引張試験を行い、破断伸びを測定した。ここで、常温での破断伸びは30%以上あれば、一般的な排気部品への加工が可能なため、30%以上の破断伸びを有した場合は○、30%未満の場合は×とした。
Figure 0005658893
Figure 0005658893
<評価結果>
表1、表2から明らかなように、最終焼鈍温度から750℃までの冷却速度を7℃/sec以上で製造し、本発明で規定する成分組成を有する鋼のNb炭窒化物のうち粒子径が0.2μm以下のものを個数比率で95%以上にした本発明例は、比較例に比べて950℃における熱疲労寿命が高く、異常酸化やスケール剥離も無く耐酸化性にも優れていることがわかる。また、常温での機械的性質において破断延性が良好となり、比較例と同等以上の加工性を有することがわかる。No.22,23鋼では、それぞれC,Nが上限を外れているため、Nb炭窒化物のサイズが上限を外れ、950℃の熱疲労寿命および耐酸化性が本発明例に比べて低い。No.24および26鋼は、それぞれSiおよびMnが下限を外れており、耐酸化性が本発明例に比べて低い。No.25鋼は、Siが上限を外れており、耐酸化性及び熱疲労寿命が本発明例に比べて低い。No.27鋼はMnが過剰に添加されて耐酸化性が劣るとともに、常温における延性が低い。No.28および32鋼は、それぞれCrおよびMoが下限を外れており、熱疲労寿命および耐酸化性が本発明例に比べて低い。No.29鋼はCrが上限を外れており、熱疲労寿命および耐酸化性が高いものの、常温延性が低い。No.30および34鋼は、それぞれNbおよびCuが下限を外れており、950℃の熱疲労寿命が低い。No.31および33鋼は、それぞれNbおよびMoが上限を外れており、熱疲労寿命が高いもののおよび常温延性が低い。No.35鋼は、Cuが上限を外れており、熱疲労寿命および常温延性が低く、耐酸化性も劣っている。No.36鋼はTiが下限を外れており、常温延性は本発明例と同等であるが、950℃の熱疲労寿命が低い。No.37鋼はTiが上限を外れており、950℃の熱疲労寿命が低く、常温延性は本発明例に比べて低い。No.38および39鋼は、Bがそれぞれ下限および上限を外れており、熱疲労寿命が本発明例に比べて低い。
No.40および41鋼は、それぞれWおよびAlが上限を外れており、熱疲労寿命が高いものの常温延性が低い。No.42,44〜47鋼は、それぞれ、Sn,Zr,Hf,Ta,Mgが上限を外れており、熱疲労寿命が高いものの常温延性が低い。No.43鋼はVが上限を外れているため、Nb炭窒化物のサイズが上限を外れ、950℃の熱疲労寿命および常温延性が本発明例に比べて低い。
No.48,49鋼では、本発明で規定する成分組成を有する鋼であるが、Nb炭窒化物のうち、粒子径が0.2μm以下のものが個数比率で95%未満となり、本発明例と比較して熱疲労寿命および破断伸びが低くなっている。最終焼鈍温度から750℃までの冷却速度を7℃/sec未満で製造したため、Nb炭窒化物の粗大化が起こってしまったためである。No.50鋼はSUS444で、Cuが下限を外れており熱疲労寿命が低い。
本発明のフェライト系ステンレス鋼は耐熱性に優れるため、自動車排気系部材以外にも発電プラントの排気ガス経路部材としても用いることができる。さらに、耐食性の向上に有効であるMoを添加しているので、耐食性が必要である用途にも用いることができる。

Claims (5)

  1. 質量%にて、C:0.015%以下、N:0.020%以下、Si:0.10超〜0.40%、Mn:0.10〜1.00%、Cr:16.5〜25.0%、Nb:0.30〜0.80%、Mo:1.00〜4.00%、Ti:0.05〜0.50%、B:0.0003〜0.0030%、Cu:1.0〜2.5%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、鋼中のNbを含む炭窒化物であって金属元素中に占めるNbの比率が50質量%超であるもののうち、粒子径が0.2μm以下のものが個数比率で95%以上である組織を有する耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
  2. 質量%にて、W:3.00%以下を含有することと特徴とする請求項1記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
  3. 質量%にて、Al:3.00%以下、Sn:1.00%以下の1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
  4. 質量%にて、Zr:1.00%以下、Hf:1.00%以下、Ta:3.00%以下、Mg:0.0100%以下の1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
  5. 最終焼鈍温度を1000〜1200℃とし、最終焼鈍温度から750℃までの冷却速度が7℃/sec以上28℃/sec以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
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