JP5641487B2 - グリース組成物 - Google Patents

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本発明は、低摩擦係数特性に優れたグリース組成物に関するものである。
機械部品には転がりだけでなく滑りを伴う摺動部品によって構成されるものが多い。滑りを伴う摺動部品は、摩擦係数特性に優れたグリースを使用しないと、エネルギーロス、振動、異音、発熱が発生し、早期に機械部品が破損する場合が多い。
たとえば、このような滑りを伴う等速ジョイントに用いられている潤滑グリースとしては、従来カルシウム石けんを増ちょう剤とするグリースや、リチウム石けんを増ちょう剤とし、硫黄・リン系極圧剤を含有したグリースが使用されていた(非特許文献1)。
近年、更なる摩擦係数特性の向上が望まれ、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェートなどの有機モリブデン化合物を使用したグリース組成物が検討されている(特許文献1)。
この有機モリブデン化合物が優れた低摩擦特性を示すには、潤滑部反応膜に有機モリブデン由来の二硫化モリブデンをはじめとするモリブデン化合物を有効に生成する必要があると報告されている(非特許文献2)。
二硫化モリブデンをはじめとするモリブデン化合物を有効に生成するためには、下地となる反応皮膜を生成させる事が重要である事が報告され、下地となる反応皮膜を有効に生成させる化合物として、Caスルホネート、亜鉛ジチオホスフェートが知られている(非特許文献3および4)。
近年、優れた低摩擦特性に対する要求は更に厳しくなってきた。下地となる反応皮膜を有効に生成させる化合物として、Caスルホネート、Mgスルホネート、亜鉛ジチオホスフェートが知られているが、低摩擦係数を示すのに十分ではなかった。
特公平4−34590
日本トライボロジー学会グリース研究会編:「潤滑グリースの基礎と応用」、養賢堂、2007年発行、p.77、p.199 村木正芳ら:トライボロジスト、「ZnDTP共存下における有機モリブデン化合物のすべり摩擦特性(第1報)」、1993年発行、p.919 村木正芳ら:トライボロジスト、「ZnDTP共存下における有機モリブデン化合物のすべり摩擦特性(第2報)」、1994年発行、p.800 H.Osawa etc.:「The synergistic effect of calcium sulfonate and MoDTC additives in urea grease」、Synopses of ITC. Kobe (2005)、p136
本発明の目的は、低摩擦特性に優れたグリース組成物を提供することである。特に、機械部品の摺動部材について効率よく潤滑し、有効に摩擦を低減してエネルギーロス、振動の発生を防止し得る低摩擦係数特性に優れたグリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、このグリース組成物を含む機械部品を提供することである。
本発明は、下記のグリース組成物及びこれを含む機械部品を提供するものである。
1.下記の成分(a)〜(e)を含むグリース組成物。
(a)基油、
(b)増ちょう剤、
(c)モリブデンジチオカーバメート、
(d)亜鉛スルホネート、及び
(e)硫黄系極圧剤及び硫黄・リン系極圧剤からなる群から選ばれる少なくとも1種。
2.成分(e)が硫黄系極圧剤であり、該硫黄系極圧剤が、硫化油脂、硫化オレフィン、チアジアゾール、ポリサルファイド、亜鉛ジチオカーバメート及び金属を含まないジチオカーバメート系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1記載のグリース組成物。
3.成分(e)が硫黄・リン系極圧剤であり、該硫黄・リン系極圧剤が、(1)硫化油脂、硫化オレフィン及びポリサルファイドからなる群から選ばれる少なくとも1種とホスフェート系及びホスファイド系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の混合物、(2)亜鉛ジチオホスフェート、(3)金属を含まないチオホスフェート及び(4)フォスフォロチオネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1記載のグリース組成物。
4.上記1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物を使用した機械部品。
本発明のグリース組成物は、低摩擦特性に優れており、特に機械部品の摺動部材について効率よく潤滑し、有効に摩擦を低減してエネルギーロス、振動の発生を軽減ないし防止することができる。
本発明者は、摺動部品用に優れた低摩擦特性を示すグリース組成物の開発研究を種々行い、さまざまな摺動部品で使用するグリースの性能評価を、滑り条件下で摩擦係数を測定できる振動摩擦摩耗試験機として知られるTE77試験機を用いて行った。
その結果、(a)基油、(b)増ちょう剤、(c)モリブデンジチオカーバメート、(d)亜鉛スルホネート、及び(e)硫黄系極圧剤及び/又は硫黄・リン系極圧剤を含有するグリース組成物が、望ましい潤滑特性を示すことを見いだし、本発明を完成したものである。
本発明に使用する(a)成分の基油としては、グリース組成物の基油として使用されているものであれば特に制限されない。例えば、鉱物油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油等の普通に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明に使用する(b)成分の増ちょう剤としては、全ての増ちょう剤が可能である。例えば、Li石けんやLiコンプレックス石けんに代表される石けん系増ちょう剤、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、有機化クレイやシリカに代表される無機系増ちょう剤、PTFEに代表される有機系増ちょう剤などが挙げられる。特に好ましいのはウレア系増ちょう剤とLi石けんである。これらは、耐熱性にすぐれ、欠点が少なく、かつ高価でなく、実用性がある増ちょう剤である。
増ちょう剤の含量は目的とするグリース組成物のちょう度により異なるが、通常は、グリース組成物全体に対して好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは3〜15質量%である。
本発明に使用する(c)成分はモリブデンジチオカーバメートである。このモリブデンジチオカーバメートの好ましい例としては、下記の式(1)で表されるものが挙げられる。
(R12N−CS−S)2−Mo2mn (1)
(式中R1およびR2は、独立して、炭素数1〜24、好ましくは3〜18のアルキル基を表し、mは0〜3、nは1〜4であり、m+n=4である。)
モリブデンジチオカーバメートの含量は、グリース組成物全体に対して好ましくは0.05〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。
本発明に使用する(d)成分の亜鉛スルホネートは、エンジン油等の潤滑油に用いられる金属系清浄分散剤や防錆剤として知られている。例えば、潤滑油留分中の芳香族炭化水素成分のスルホン化によって得られる石油スルホン酸の亜鉛塩、ジノニルナフタレンスルホン酸やアルキルベンゼンスルホン酸のようなアルキル芳香族スルホン酸のような合成スルホン酸の亜鉛塩、酸化ワックスの亜鉛塩が挙げられる。特に好ましいのは、ジノニルナフタレンスルホン酸亜鉛塩、アルキル芳香族スルホン酸亜鉛塩である。
亜鉛スルホネートの含量は、グリース組成物全体に対して好ましくは0.05〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。
成分(e)の硫黄系極圧剤としては、硫化油脂、硫化オレフィン、チアジアゾール、ポリサルファイド、亜鉛ジチオカーバメート及び金属を含まないジチオカーバメート系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
また、成分(e)の硫黄・リン系極圧剤としては、(1)硫化油脂、硫化オレフィン及びポリサルファイドからなる群から選ばれる少なくとも1種とホスフェート系及びホスファイド系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の混合物、(2)亜鉛ジチオホスフェート、(3)金属を含まないチオホスフェート及び(4)フォスフォロチオネートからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
成分(e)の硫黄系極圧剤及び/又は硫黄・リン系極圧剤の含量は、グリース組成物全体に対して好ましくは0.01〜10質量%、さらに好ましくは0.05〜5質量%である。
本発明の低摩擦係数特性に優れたグリース組成物には、上記成分に加えて、酸化防止剤、防錆剤、防食剤等を合有させることができる。
本発明のグリース組成物の用途は、特に限定されない。好ましいものは、グリースが塗布されている機械部品が摺動する機構を持つものであり、例えば、転がり軸受、各種ギヤ、カム、等速ジョイント、ジャーナル軸受、ピストン、ネジ、ロープ、チェーンなどが挙げられる。
実施例1〜3および比較例1〜8
増ちょう剤および基油を含むベースグリースに、表1または表2に示す割合になるように、各成分を加え、適宜基油を加えながら、三段ロールミルにて、ちょう度No.1グレードに調整した。
上記実施例および比較例において、いずれもグリースの基油としては以下の性質を有する鉱油を使用した。
粘度 40℃ 100mm2/s
100℃ 10.5mm2/s
粘度指数 97
また、Caスルホネート、モリブデンジチオカーバメートを合有する市販ウレアグリースを比較例8のグリースとした。
これらのグリースにつき以下に示す試験方法で物性の評価を行い、得られた結果を表に併記した。摩擦係数は好ましくは0.055以下であり、さらに好ましくは0.045以下である。
<ちょう度> JIS K 22205.3による
<滴点> JIS K 22205.4による
<TE77試験>
テストピース ボール径:10mm
プレート材質:SUJ2
試験条件 荷重:200N
振幅:1.0mm
周波数:20Hz
試験温度:40℃
Figure 0005641487
Figure 0005641487
実施例及び比較例で使用した化合物は以下のとおりである。
亜鉛スルホネート :NA−SUL Zs−HT(KING INDUSTRIES社製)
硫黄系極圧剤 :ANGLAMOL33(Lubrizol社製)
硫黄・リン系極圧剤 :ANGLAMOL99(Lubrizol社製)
マグネシウムスルホネート:BRYTON M401(WITOCO社製)
カルシウムスルホネート :NA−SUL729(KING INDUSTRIES社製)
成分(a)〜(e)のすべてを含む実施例1〜3のグリース組成物は、摩擦係数がいずれも0.05以下であり比較例に比べ改善が認められる。この改善は、ウレア系増ちょう剤(実施例1及び3)、Li系増ちょう剤(実施例2)の両者に認められる。
成分(e)を含まない比較例1、成分(d)を含まない比較例2、成分(c)を含まない比較例3、成分(d)及び(e)を含まずマグネシウムスルホネートを使用した比較例4、成分(d)を含まずマグネシウムスルホネートを使用した比較例5、成分(d)を含まずカルシウムスルホネートを使用した比較例6、成分(a)〜(e)のいずれも含まない比較例7、Caスルホネート、モリブデンジチオカーバメートを合有する市販品の比較例8のグリース組成物では、いずれも摩擦係数が0.05より大幅に高い。特に実施例1において亜鉛スルホネートの代わりにマグネシウムスルホネート又はカルシウムスルホネートを使用した比較例5及び6では摩擦係数の低下が少ないことから、亜鉛スルホネートを使用する事により、優れた低摩擦特性を有するグリース組成物が得られることがわかる。

Claims (5)

  1. 下記の成分(a)〜(e)を含むグリース組成物。
    (a)基油、
    (b)ウレア系増ちょう剤、
    (c)モリブデンジチオカーバメート、
    (d)亜鉛スルホネート、及び
    (e)(1)硫化油脂、硫化オレフィン及びポリサルファイドからなる群から選ばれる少なくとも1種とホスフェート系及びホスファイド系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の混合物である硫黄・リン系極圧剤。
  2. 前記亜鉛スルホネートの含有量が、グリース組成物全体に対し、2.5〜10質量%である請求項1記載のグリース組成物
  3. 前記硫黄・リン系極圧剤の含量が、グリース組成物全体に対して0.01〜10質量%である請求項1又は2記載のグリース組成物。
  4. 前記亜鉛スルホネートが、ジノニルナフタレンスルホン酸亜鉛塩又はアルキル芳香族スルホン酸亜鉛塩である請求項1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物を使用した機械部品。
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