JP5632722B2 - 熱処理歪みの少ない肌焼鋼 - Google Patents
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T(℃)=561−474×[C]−33×[Mn]−17×[Ni]−17×[Cr]−21×[Mo] …(1)
t(秒)=39.3×[C]+2.51×[Si]+22.5×[Mn]+16.1×[Cu]+6.25×[Ni]+6.49×[Cr]+15.3×[Mo]−69.8×[V]+3.5×B(f)−22.3 …(2)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo]および[V]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,MoおよびVの含有量(質量%)を示し、B(f)はBを添加するときは「1」として計算し、無添加のときは「0」として計算する。
(1)第1ステージ:オーステナイト相の熱収縮(歪みは増加)
(2)第2ステージ:歯内部のマルテンサイト変態により体積膨張(歪みは減少)
(3)第3ステージ:本体部でのマルテンサイト変態による体積膨張(歪みは増加)
(4)第4ステージ:浸炭相のマルテンサイト変態による体積膨張(歪みは減少)
(a)比較的早期にオーステナイト相からマルテンサイト相への変態を起こさせる。そのためには、鋼材のC含有量を低減する等してマルテンサイト変態開始温度(Ms点)を上昇させることが有効である。
(b)冷却途中でベイナイト変態を起こさせないようにする。即ち、ベイナイト変態が起こると、冷却条件の影響を受けやすくなり、歪みの絶対量やバラツキも大きくなる。ベイナイト変態を抑制するためには、合金元素を増量して、ベイナイト変態開始時間を遅らせることが有効である。
T(℃)=561−474×[C]−33×[Mn]−17×[Ni]−17×[Cr]−21×[Mo] …(1)
但し、[C],[Mn],[Ni],[Cr]および[Mo]は、夫々C,Mn,Ni,CrおよびMoの含有量(質量%)を示す。
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo]および[V]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,MoおよびVの含有量(質量%)を示し、B(f)はBを添加するときは「1」として計算し、無添加のときは「0」として計算する。
Cは、鋼材のベイナイト変態開始時間tを遅延するのに有効であるが、同時にマルテンサイト変態開始温度Tを著しく低下させるために、低減するのが好ましい。こうした観点から、JIS SCr420H、JIS SCM420H等の一般的な肌焼鋼として用いられる鋼材のC含有量:0.20%(規格は0.17〜0.23%)よりも減量し、0.15%以下とする。しかしながら、C含有量が少なくなり過ぎると、部品の内部硬さが低く、静的強度が確保できないため、0.05%以上とする必要がある。尚、C含有量の好ましい下限は0.06%以上(より好ましくは0.08%以上)であり、好ましい上限は0.14%以下(より好ましくは0.12%以下)である。
Siは、鋼材のベイナイト変態開始時間tを遅延させるのに有効な元素であるが、同時に材料の変形抵抗を増大させて冷間鍛造性を低下させることから、その量を制限する。そのため、Si含有量は2.0%以下とする必要がある。尚、Si含有量の好ましい上限は0.6%以下(より好ましくは0.25%以下)である。
Mnは、鋼材のベイナイト変態開始時間tを遅延させるのに有効な元素であるため増量する。こうした観点から、JIS SCr420H、JIS SCM420H等の一般的な肌焼鋼の規格上限(0.95%)をMn含有量の下限とした。しかしながら、Mnを過剰に含有させると、縞状の偏析が顕著となり、材質のバラツキが大きくなる結果、変形能(割れ発生)にも悪影響を与えるので2.2%を上限とした。尚、Mn含有量の好ましい下限は1.2%以上(より好ましくは1.3%以上)であり、好ましい上限は2.0%以下(より好ましくは1.8%以下)である。
Pは、鋼材中に不可避的に含まれる不純物であり、結晶粒界に偏析して部品の衝撃特性を低下させる元素であるため、できるだけ低減するのが良い。そのため上限を0.03%とした。P含有量の好ましい上限は0.02%以下(より好ましくは0.015%以下)である。尚、Pは、その含有量を0%とすることは工業的に困難である。
Sは、鋼材中に不可避的に含まれる不純物であり、結晶粒界に偏析して部品の衝撃特性を低下させる元素であるため、なるべく低減するのが良い。しかしながら、SはMnSを形成して鋼材の切削性を向上させる元素でもあるため、適量を含有させてもよい。但し、部品強度に悪影響を与えないためにもその上限は0.03%以下にする必要がある。好ましくは0.02%以下であり、より好ましくは0.015%以下である。尚、Sは、鋼に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%とすることは工業的に困難である。
Crは、ベイナイト変態開始時間tを遅延させるのに有効な元素であるため増量する。但し、Mnに比べて高価な合金元素であるため、その含有量は控えることが好ましい。また、Cr含有量が過剰になると、浸炭時にCr炭化物の析出が過剰になり、目的とする浸炭硬化層深さが得られない等の不具合が生じる場合があるため、その上限を1.8%とした。また、Crが少ないと浸炭性が悪くなり、部品強度を確保するために必要な硬化層深さが得られないことがあるため、その下限を0.2%とした。尚、Cr含有量の好ましい下限は0.5%以上(より好ましくは0.7%以上)であり、好ましい上限は1.5%以下(より好ましくは1.3%以下)である。
Alは、脱酸剤として作用し、酸化物系介在物量を低減して鋼材の内部品質を高める作用を発揮するため適量含有させることが好ましい。しかしながら、Al含有量が過剰になると粗大で硬い非金属介在物(Al2O3)が生成し、疲労特性を低下させるので0.3%以下とする必要がある。尚、Al含有量の好ましい上限は0.2%以下(より好ましくは0.1%以下)である。
Nは、鋼中に不可避的に含まれる不純物元素であるが、N含有量が多いと鋼材の変形能を低下させるAlN等の窒化物が生成するため、できるだけ少なくするほうが好ましい。そのため、N含有量は0.02%以下とする必要がある。尚、N含有量の好ましい上限は0.018%以下(より好ましくは0.015%以下)である。
Bは、微量でベイナイト変態を遅延させる効果があり、また鋼材の焼入れ性を大幅に向上させる効果があるため含有させる。これらの効果は、B含有量が0.0005%以上で有効に発揮されるが、0.0050%を超えて過剰に含有されると、冷間および熱間の変形能が悪くなり、割れ等が生じ易くなる。尚、B含有量の好ましい下限は0.0008%以上(更に好ましくは0.0010%以上)であり、好ましい上限は0.0030%以下(更に好ましくは0.0020%以下)である。
Oは、鋼中に不可避的に含まれる不純物であるが、O含有量が過剰になると、酸化物系介在物が多数生成し、鋼材の衝撃特性や疲労特性に悪影響を及ぼすため、極力低減することが好ましい。そのため、O含有量の上限を、0.003%と定めた。好ましくは0.002%以下、より好ましくは0.001%以下である。
Cu、NiおよびMoは、いずれもベイナイト変態開始時間tを遅延させるのに有効な元素であり、必要によって1種以上を含有させる。このうち、Cuはその含有量が過剰になると、熱間延性を低下させるので、0.5%以下とすることが好ましい。尚、Cu含有量のより好ましい上限は0.3%以下(更に好ましくは0.2%以下)である。
NbおよびTiは、いずれも微細な析出物を生成することで浸炭時の結晶粒粗大化防止特性を発揮させるのに有効な元素である。このうちNb含有量が増大するに従い、結晶粒粗大化防止に有効なNb炭化物(NbC)の量が増えるが、0.08%を超えるとその効果は飽和する。そのため、Nb含有量は0.08%以下とすることが好ましい。Nb含有量のより好ましい上限は0.07%以下(更に好ましくは0.065%以下)である。尚、上記の効果を発揮させるための好ましいNb含有量は0.03%以上(より好ましくは0.035%以上)である。
Vは、フェライト生成を促進する元素であり、またベイナイト生成時間も早めるために添加は好ましくない。しかし、鋼の軟化抵抗性を向上させえて摺動部材の疲労強度を向上させる効果や微細なV析出物を分散させて遅れ破壊特性を向上させるため、適量含有させても良い。V含有量が過剰になると、鋼の被削性が著しく低下するため0.3%以下とすることが好ましい(より好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.1%以下)。尚、上記の効果を発揮させるための好ましいV含有量は0.05%以上(より好ましくは0.08%以上)である。
Claims (4)
- C:0.05〜0.15%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.6%以下(0%を含まない)、Mn:1.2〜2.2%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.03%以下(0%を含まない)、Cr:0.7〜1.8%、Al:0.3%以下(0%を含まない)、N:0.02%以下(0%を含まない)、B:0.0005〜0.0050%およびO:0.003%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部が鉄および不可避不純物からなり、且つ下記(1)式で表されるマルテンサイト変態開始温度T(℃)が400℃以上であると共に、下記(2)式で表されるベイナイト変態開始時間t(秒)が15秒以上であることを特徴とする熱処理歪みの少ない肌焼鋼。
T(℃)=561−474×[C]−33×[Mn]−17×[Ni]−17×[Cr]−21×[Mo] …(1)
t(秒)=39.3×[C]+2.51×[Si]+22.5×[Mn]+16.1×[Cu]+6.25×[Ni]+6.49×[Cr]+15.3×[Mo]−69.8×[V]+3.5×B(f)−22.3 …(2)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo]および[V]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,MoおよびVの含有量(質量%)を示し、B(f)はBを添加するときは「1」として計算し、無添加のときは「0」として計算する。 - 更に、Cu:0.5%以下(0%を含まない)、Ni:0.5%以下(0%を含まない)およびMo:0.20%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1に記載の肌焼鋼。
- 更に、Nb:0.08%以下(0%を含まない)および/またはTi:0.08%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の肌焼鋼。
- 更に、V:0.3%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の肌焼鋼。
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