JP5632659B2 - 熱処理歪みの少ない肌焼鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車用無段変速機(CVT)のプーリーや軸付き歯車など、浸炭処理や浸炭窒化処理等の表面硬化処理を施して使用される部品の素材となる肌焼鋼に関するものであり、特に表面硬化処理後の焼入れ時における熱処理歪みの少ない肌焼鋼に関するものである。
自動車用無段変速機(CVT)のプーリーや軸付き歯車等の機械構造用部品は、鍛造等の加工を施した後、切削加工を施すことによって最終形状に仕上げられるのが一般的である。この切削加工に要するコストは製作費に占める割合が大きいことから、上記機械構造部品を構成する鋼材は被削性が良好であることが要求される。
上記のような機械構造用部品では、最終形状にされた後、浸炭や浸炭窒化処理等の表面硬化処理を施され、その後焼入れ(通常油焼き入れ)−焼戻しや高周波焼入れ等がされて所定の強度が確保されるのであるが、こうした機械構造用部品では疲労強度に優れている必要がある。
疲労強度に優れている機械構造用部品を得るための肌焼鋼(若しくは軸受鋼)としては、特許文献1、2のような技術も提案されている。これらの技術のように、化学成分組成を適切に調整することによって鋼材の疲労強度を向上させた例があるが、表面硬化処理後の焼入れ時に発生する歪み(熱処理歪み)の問題については示唆されていない。また、自動車用無段変速機(CVT)のプーリー(以下、「CVTプーリー」と呼ぶことがある)や軸付き歯車の部品は、高い加工精度が要求される部品であるが、フランジ部(若しくはフランジ部に相当する部分)で特に熱処理歪みが大きくなる傾向があり、熱処理歪みを低減できる鋼材が要望されている。
機械構造用部品の製造プロセスでは、最終形状にされた後、浸炭や浸炭窒化処理等の表面硬化処理を行い、再度研磨加工するのが一般的である。上記のような熱処理歪みの発生が大きくなると、研磨加工だけでは修正しきれず、部品の寸法精度が悪くなることがあり、最悪の場合には製品としての価値が無くなってしまうことがある。
熱処理歪みを低減する技術として、例えば特許文献3のような技術も提案されている。この技術では、化学成分組成を適切に調整することによって、表面硬化処理時の異常粒成長を防止し、熱処理歪みを小さくすると共に、高強度・高靭性を達成するものである。この技術は、化学成分組成を適切に調整することによって、NbCやTiCの粒子を鋼材中に分散させ、1150℃以上の高温の表面硬化処理においても、結晶粒の異常粒成長を防止して、異常粒の発生に伴う熱処理歪みの増大(悪化)を防止するものである。しかしながら、この技術では結晶粒の異常粒成長が問題となる高温での熱処理歪み低減に有効であるが、異常粒成長が問題とならない一般的な表面硬化処理(例えば、ガス浸炭焼入れは約900〜950℃)において、熱処理歪みの低減効果は期待できない。
特開平02−61032号公報 特開2005−42188号公報 特開2000−282170号公報
本発明は前記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、浸炭や浸炭窒化処理等の表面硬化処理後の焼入れ(以下、「浸炭焼入れ」で代表することがある)を行っても、熱処理歪みを小さくすることができ、CVTプーリーや軸付き歯車等の機械構造用部品の素材として有用な肌焼鋼を提供することにある。
上記目的を達成することのできた本発明の肌焼鋼とは、C:0.2〜0.3%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.6%以下(0%を含まない)、Mn:0.95〜2.2%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.03%以下(0%を含まない)、Cr:0.1〜1.8%、Al:0.06%以下(0%を含まない)、N:0.02%以下(0%を含まない)およびO:0.003%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部が鉄および不可避不純物からなり、且つ下記(1)式で表される変態開始温度T(℃)が540℃以下であると共に、下記(2)式で表される変態開始時間t(秒)が15秒以上である点に要旨を有するものである。
T(℃)=−163×[C]+43.1×[Si]−55.2×[Mn]+32.6×[Cu]−30.0×[Ni]−47.8×[Cr]+104×[Mo]+412×[V]+677 …(1)
t(秒)=40.4×[C]+1.31×[Si]+18.7×[Mn]+8.37×[Cu]+5.33×[Ni]+5.57×[Cr]+11.8×[Mo]−51.1×[V]−17.8 …(2)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo]および[V]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,MoおよびVの含有量(質量%)を示す。
本発明の肌焼鋼においては、必要によって、更に(a)Cu:0.3%以下(0%を含まない)、(b)Ni:0.25%以下(0%を含まない)、(c)Mo:0.15%未満(0%を含まない)、(d)V:0.30%以下(0%を含まない)、Nb:0.08%以下(0%を含まない)およびTi:0.08%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上、(e)B:0.005%以下(0%を含まない)等を含有することも有効であり、含有される元素の種類に応じて鋼材の特性が更に改善される。
本発明によれば、化学成分組成を調整すると共に、各元素の関係式で表される変態開始温度T(℃)および変態開始時間t(秒)を適切に制御することによって、熱処理歪みを極めて小さくした肌焼鋼が実現でき、このような肌焼鋼は、CVTプーリーや軸付き歯車等の機械構造用部品の素材として極めて有用である。
熱処理歪みの測定に用いた試験片の外観形状を示す説明図である。 浸炭焼入れ、焼戻しの熱処理パターンを示すグラフである。 試験片における熱処理歪みの測定位置を示す説明図である。 フランジ部の反り量の推定値と実績値の関係を示すグラフである。
本発明者らは、熱処理歪みの小さい肌焼鋼を実現するべく、様々な角度から検討した。そして、まず次のような知見が得られた。CVTプーリーや軸付き歯車で、浸炭焼入れ後に熱処理歪みが発生する大きな原因としては、フランジ部の表面側・裏面側の夫々で、冷却速度が大きく異なることが分かった。
CVTプーリーでは、シーブに相当する面(フランジ部の表面側)を下方(下面)にして冷却されるが、このフランジ部の下面は、冷却媒体(焼入れ油)が対流や焼入れ層下部からの攪拌によって冷却されやすく、冷却速度が速くなっている。逆に、フランジ部の裏面側(上面)は、冷却媒体(焼入れ油)による抜熱が比較的少なく冷却速度が遅くなる。
本発明者らが検討したところでは、冷却開始約15秒後で下面と上面の温度差は100〜150℃にもなることが判明した。この温度差が、熱処理歪みの発生に大きく影響を及ぼしていると考えられた。そして、更に検討を重ねたところ、冷却速度の遅い上面では下面よりも先にベイナイト変態(若しくはパーライト変態)が起こり易く、また変態の起こり易い鋼材ほど熱処理歪み(フランジ部の反り量)が大きくなっていることが分かった。
こうした現象が生じる理由については、次のように考えることができた。即ち、変態が起こると結晶構造の変化に伴い体積膨張するが、上・下面で変態膨張量の差が生じるためにその差が熱処理歪みとして焼入れ後も残存するからであると推測される。このことから、熱処理歪みを少なくするための鋼材としては変態を開始するまでの時間をできるだけ遅くすると共に、変態を開始する温度をできるだけ低くすれば良いとの着想が得られた。
浸炭熱処理後の焼入れ時に部品に発生する熱処理歪みに及ぼす因子としては、鋼材のベイナイト生成(変態開始)の他、部品形状や焼入れ時の冷却速度等も考えられるが、本発明者らは、これらのうち特に鋼材のベイナイト生成に着目した。即ち、焼入れ時に早期にベイナイト生成が発生すると、オーステナイト相からベイナイト相に変態に伴う膨張に起因して、熱処理歪みが顕著に生じると考えられた。
どのような機械構造用部品においても、部品内に速く冷却される部位と遅く冷却される部位が存在するのが一般的であるが、遅く冷却される部位ほどベイナイト生成による膨張が大きくなるため、極力、ベイナイトの生成が開始する時間(変態開始時間)を遅くする必要がある。そのためにはベイナイト生成を遅延させる元素(特に、C,Mn,Mo,Cr,Ni,Cu等)の添加が有効である。また併せて、ベイナイト生成が開始する温度(変態開始温度)も低温である方が熱処理歪を小さく抑えられることが分かった。これは低温であるほど、素材硬さが高くなるために変態膨張による変形が生じ難くなるものと考えられる。
変態開始温度に関しては、それを低下させる元素(C,Mn,Cr,Ni等)の含有量を増大し、上昇させる元素(Si,Cu,Mo,V等)を極力低減する必要がある。こうした着想の下で鋼材の化学成分組成の設定を行なう必要があるが、変態時間に関するパラメータをt(秒)、変態温度に関するパラメータをT(℃)とし、実験から下記の式[(1)式、(2)式]を導き出した。
T(℃)=−163×[C]+43.1×[Si]−55.2×[Mn]+32.6×[Cu]−30.0×[Ni]−47.8×[Cr]+104×[Mo]+412×[V]+677 …(1)
t(秒)=40.4×[C]+1.31×[Si]+18.7×[Mn]+8.37×[Cu]+5.33×[Ni]+5.57×[Cr]+11.8×[Mo]−51.1×[V]−17.8 …(2)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo]および[V]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,MoおよびVの含有量(質量%)を示す。
尚、上記(1)式、(2)式には、C,Si,Cr等の基本成分の他、必要によって含有される元素(Cu,Ni,Mo,V等)も含まれるものとなるが、これらの元素を含まないときには、その項目がないものとして変態開始温度T(℃)、変態開始時間t(秒)の値を計算し、これらの元素を含むときには、上記(1)式、(2)式からこれらの値を計算すれば良い。
上記(1)式および(2)式を導出した手順は次の通りである。まず各種鋼材(後記実施例に記載の各種鋼材)、および従来材等から試験片(後記図1)を作製し、自動変態記録装置(フォーマスタ)にて試験片を加熱すると共に、種々の冷却速度で冷却し、連続冷却変態曲線(CCT曲線)を採取した。このときの加熱は、900℃×5分で実施し、冷却速度は10〜1400℃/分の範囲で実施した。採取したCCT曲線から各素材の変態開始温度T(℃)と変態開始時間t(秒)を読み取り、変態開始温度T(℃)を目的(従属)変数、化学成分を独立変数として重回帰分析を行い、パラメータ式[前記(1)式]を導出した。また、変態開始時間t(秒)についてのパラメータ式[前記(2)式]もこれと同様の方法で導出した。
そして、変態開始温度T(℃)は極力低いことが好ましいとの観点から検討したところ、上記(1)式で表される変態開始温度T(℃)が540℃以下であれば、量産工程で問題が生じないレベルの歪み量が得られた。より好ましくは530℃以下である。
また変態開始時間t(秒)については、できるだけ遅い方が熱処理歪を少なくできるとの観点から検討したところ、変態開始時間t(秒)が15秒以上であれば熱処理歪みが低減できたのである。この変態開始時間t(秒)は、好ましくは20秒以上である。
本発明の肌焼鋼では、肌焼鋼としての基本的な特性を発揮させるためには、その化学成分組成を適切に調整する必要がある。本発明で規定する化学成分組成の範囲限定理由は次の通りである。
[C:0.2〜0.3%]
Cは鋼材のベイナイト変態開始温度を低下させ、変態開始時間を遅くするため、可能な限り多く含有させるのが良い。こうした観点から、JIS SCr420H、JIS SCM420H等の一般的な肌焼鋼として用いられる鋼材のC含有量:0.2%(規格は0.17〜0.23%)よりも増大させる。しかしながら、C含有量が過剰になると、切削加工性、冷間鍛造性が低下するため0.3%以下とする必要がある。尚、C含有量の好ましい下限は0.23%以上(より好ましくは0.24%以上)であり、好ましい上限は0.28%以下(より好ましくは0.27%以下)である。
[Si:0.6%以下(0%を含まない)]
Siは、鋼材のベイナイト変態開始時間を遅くする効果のある元素であるが、Mn,Cu,Ni,Moほど効果はなく、また、ベイナイト変態開始温度を大きく上昇させてしまう元素であるため極力低減することが好ましい。ベイナイト変態開始温度を上昇させないという観点から、0.6%以下とする必要がある。また、Siは、鉄中に固溶して材料の変形抵抗を増大させて冷間鍛造性を低下させることからも、0.6%以下とする必要がある。尚、Si含有量の好ましい上限は0.35%以下(より好ましくは0.15%以下)である。
[Mn:0.95〜2.2%]
Mnはベイナイト変態開始温度を低下させ、変態開始時間を遅くするために有効な元素であるため、可能な限り多く含有させる。こうした観点から、JIS SCr420H、JIS SCM420H等の肌焼鋼の規格上限(0.95%)をMn含有量の下限とした。しかしながら、Mn含有量が過剰になると、縞状の偏析が顕著となり、材質のバラツキが大きくなる結果、変形能(割れ発生)にも悪影響を与えるので2.2%を上限とした。尚、Mn含有量の好ましい下限は1.2%以上(より好ましくは1.3%以上)であり、好ましい上限は2.0%以下(より好ましくは1.8%以下)である。
[P:0.03%以下(0%を含まない)]
Pは、鋼材中に不可避的に含まれる不純物であり、結晶粒界に偏析して部品の衝撃特性を低下させる元素であるため、できるだけ低減するのが良い。そのため上限を0.03%とした。P含有量の好ましい上限は0.02%以下(より好ましくは0.015%以下)である。尚、Pは、その含有量を0%とすることは工業的に困難である。
[S:0.03%以下(0%を含まない)]
Sは、鋼材中に不可避的に含まれる不純物であり、結晶粒界に偏析して部品の衝撃特性を低下させる元素であるため、なるべく低減するのが良い。しかしながら、SはMnSを形成して鋼材の切削性を向上させる元素でもあるため、適量を含有させてもよい。但し、部品強度に悪影響を与えないためにもその上限は0.03%以下にする必要がある。好ましくは0.02%以下であり、より好ましくは0.015%以下である。尚、Sは、鋼に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%とすることは工業的に困難である。
[Cr:0.1〜1.8%]
CrはMnと同様にベイナイト変態開始温度を低下させ、変態開始時間を遅くする元素であるため可能な限り多く含有させる。こうした観点から、Cr含有量は0.1%以上とした。但し、Mnに比べ高価な合金元素であるためその含有量は控えることが好ましい。また、Cr含有量が過剰になると、浸炭時にCr炭化物の析出が過剰になり、目的とする浸炭硬化層深さが得られない等の不具合が生じる場合があるため、その上限を1.8%とした。尚、Cr含有量の好ましい下限は0.5%以上(より好ましくは0.7%以上)であり、好ましい上限は1.6%以下(より好ましくは1.3%以下)である。
[Al:0.06%以下(0%を含まない)]
Alは脱酸剤として作用し、酸化物系介在物量を低減して鋼材の内部品質を高める作用を発揮するため適量含有させることが好ましい。しかしながら、Al含有量が過剰になると粗大で硬い非金属介在物(Al23)が生成し、疲労特性を低下させるので0.06%以下とする必要がある。尚、Al含有量の好ましい下限は0.005%以上(より好ましくは0.01%以上)であり、好ましい上限は0.05%以下(より好ましくは0.03%以下)である。
[N:0.02%以下(0%を含まない)]
Nは鋼中に不可避的に含まれる不純物元素であるが、N含有量が多いと鋼材の変形能を低下させるAlN等の窒化物が生成するためできるだけ少なくするほうが好ましい。そのため、N含有量は0.02%以下とする必要がある。尚、N含有量の好ましい上限は0.018%以下(より好ましくは0.015%以下)である。
[O:0.003%以下(0%を含まない)]
O含有量が過剰になると、粗大な酸化物系介在物が生成して、被削性や延性・靭性、鋼の熱間加工性および延性に悪影響を及ぼす。そこでO含有量の上限を、0.003%(好ましくは0.002%)と定めた。
本発明の肌焼鋼の基本成分組成は上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。但し原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物(上記P,S,N,O以外にCa,Mg,Zr等)が鋼中に含まれることは許容される。また本発明の肌焼鋼には、必要に応じて、以下の選択元素を含有していても良い。含有される元素の種類に応じて、鋼材の特性が更に改善される。
[Cu:0.3%以下(0%を含まない)]
Cuは、ベイナイト変態開始時間を遅くするのに有効な元素であるが、変態開始温度を上昇させる元素でもあるため、なるべく低減することが好ましい。そのため、その上限を0.3%(JIS規格と同等)とした。尚、Cu含有量のより好ましい上限は0.1%以下(更に好ましくは0.05%以下)である。
[Ni:0.25%以下(0%を含まない)]
NiはMnと同様に、ベイナイト変態開始温度を低下させ、変態開始時間を遅くするために有効な元素であるため、可能な限り多く含有させる。しかしながら、効果のわりには高価な合金元素であるため極力添加を控えることが好ましい。こうした観点から、その上限を0.25%以下(JIS規格と同等)とした。Ni含有量のより好ましい上限は0.1%以下(更に好ましくは0.05%以下)である。
[Mo:0.15%未満(0%を含まない)]
Moはベイナイト変態開始時間を遅くするのに効果的な元素であるが、変態開始温度を上昇させるため過剰の含有は望ましくない。こうした観点から、その上限をJIS SCM420H等の肌焼鋼の規格下限を考慮し、0.15%未満とする。Mo含有量のより好ましい上限は0.10%以下(更に好ましくは0.05%以下)である。
[V:0.30%以下(0%を含まない)、Nb:0.08%以下(0%を含まない)およびTi:0.08%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上]
V,NbおよびTiは、いずれも微細な析出物を生成することで結晶粒粗大化防止特性を発揮させるのに有効な元素である。このうちVは、炭素ならびに窒素と活性な元素であり、微細な析出物を生成することで結晶粒粗大化防止特性を向上させることができるので添加しても良いが、フェライト中に固溶して素材硬さを増大させ、素材の切削性を低下させることがあるのでその上限は0.30%とした。V含有量のより好ましい上限は0.20%以下(更に好ましくは0.10%以下)である。尚、上記の効果を発揮させるための好ましいV含有量は0.05%以上(より好ましくは0.035%以上)である。
Nbは浸炭時の結晶粒粗大化を抑制するために添加してもよい。Nb含有量が増大するに従い、結晶粒粗大化防止に有効なNb炭化物(NbC)の量が増えるが、0.08%を超えるとその効果は飽和する。そのため、Nb含有量は0.08%以下とすることが好ましい。Nb含有量のより好ましい上限は0.07%以下(更に好ましくは0.65%以下)である。尚、上記の効果を発揮させるための好ましいNb含有量は0.03%以上(より好ましくは0.035%以上)である。
Tiは浸炭時の結晶粒粗大化を抑制するのに有効な元素である。Ti含有量が増大するに従い、結晶粒粗大化防止に有効なTi炭化物(TiC)の量が増えるが、0.08%を超えると、その効果は飽和する。そのため、Ti含有量は0.08%以下とした。Ti含有量のより好ましい上限は0.07%以下(更に好ましくは0.65%以下)である。尚、上記の効果を発揮させるための好ましいTi含有量は0.03%以上(より好ましくは0.035%以上)である。
[B:0.005%以下(0%を含まない)]
Bは、微量で鋼材の焼入れ性を大幅に向上させる効果があるため必要によって含有してもよい。上記効果は、B含有量が0.0005%以上で有効に発揮されるが、0.005%を超えて過剰に含有されると、冷間および熱間の変形能が悪くなり、割れ等が生じ易くなる。尚、Bを含有させるときのより好ましい下限は0.0008%以上(更に好ましくは0.0010%以上)であり、より好ましい上限は0.003%以下(更に好ましくは0.0020%以下)である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記表1、2に示す化学成分組成の鋼材(試験No.1〜60)を、真空誘導溶製炉によって溶製し、実機の分塊圧延を模擬して断面が155mm×155mmの鋼塊に鍛造した。次に、この鋼塊を圧延により直径80mmφの棒材とした。得られた棒材を適当な長さに切断し、熱間鍛造を行い、試験片の粗形状を作製した。熱間鍛造は、切断した棒材を高周波誘導加熱によって約1200℃に加熱した後、鍛造した。その後、室温まで空冷し、900℃で2時間の焼ならしを行った。
Figure 0005632659
Figure 0005632659
これを旋盤加工で表面切削し、図1(外観形状を示す説明図)に示すような熱処理歪み測定用試験片とした。試験片形状は、CVTプーリーや軸付き歯車の熱処理歪みを測定するため、その形状を模擬したものである。この試験片を所定の治具にセットし、ガス浸炭・焼入れ炉に装入し、浸炭焼入れ・焼戻しを行った。ガス浸炭焼入れ・焼戻しの熱処理パターンは図2に示す通りである。
浸炭は930℃で行い(カーボンポテンシャルCp:0.85%狙い)、試験片の有効硬化層深さが1.0mmとなるように浸炭時間t0を調節した。このときの浸炭時間t0は、およそ4時間である。浸炭後、860℃で30分保持後、50℃のコールド油中で油焼入れを行った。その後、170℃×2時間の焼戻し処理を行った。
浸炭焼入れ・焼戻し後の試験片について、熱処理歪みの測定を行なった。熱処理歪みの測定は、図3[図3(a)]に示すように、浸炭処理前に予め熱処理歪みの測定位置(測定点)を設定しておき、浸炭処理後に同様の測定を行うことにより形状の変化を定量化した。フランジ部の反り量については、図3中に示したX点について、円周方向に各8点(A〜H)測定し[図3(b)]、その平均値にて評価を行った。この平均値が0.12mm以下のときに、熱処理歪みが少ないと評価できるものである。その結果を、変態開始温度T(℃)および変態開始時間t(秒)と共に、下記表3、4に示す。尚、変態開始温度T(℃)および変態開始時間t(秒)の夫々の判定は、本発明で規定する範囲を満足するときに「○」、満足しないときに「×」とした。
Figure 0005632659
Figure 0005632659
これらの結果から、次のように考察できる。まず、試験No.1〜29、52、53、55〜60のものは、本発明で規定する要件の全てを満足する実施例である。いずれも化学成分組成は、本発明で規定する範囲内となっており、また変態開始温度T(℃)が540℃以下であるとあると共に、変態開始時間t(秒)が15秒以上となっている例である。いずれも、フランジ部の反り量は小さくなっており、良好な結果が得られていることが分かる。
これに対して、試験No.30〜51、54のものは、本発明で規定するいずれかの要件を満たさない例であり、いずれかの特性が劣化している。このうち、試験No.30,31は、浸炭用鋼としてごく一般的に使用されているJIS SCr420HおよびSCM420Hに相当する鋼材を使用したものであり、変態開始温度T(℃)および変態開始時間t(秒)のいずれも本発明で規定する要件を満足しておらず、フランジ部の反り量が大きくなっている。また試験No.32は、JIS SCM425Hを使用した例であるが、本発明で規定する成分範囲、および変態開始温度T(℃)を満たしておらず、フランジ部の反り量が大きくなっている。
試験No.33,34のものは、本発明で規定する化学成分組成を満足しているものの、変態開始温度T(℃)が本発明で規定する範囲を満足しておらず、フランジ部の反り量が大きくなっている。
試験No.35〜51のものは、化学成分組成が本発明で規定する範囲を外れる例である。このうち、試験No.35は、C含有量が過剰になっている例であるが、変態開始温度T(℃)および変態開始時間t(秒)の要件を満足している。しかし、このようにC含有量が過剰な材料は切削加工性が著しく低下し実用に適さないものであった。
また、試験No.38のものは、Mn含有量が過剰になっている例であり、変態開始温度T(℃)および変態開始時間t(秒)の要件を満足しているが、Mn含有量が過剰となっているので、鋼材の変形抵抗を増大させ、またMnの偏析に起因した切削加工性の低下が起こる。従って、実用には適さないものである。
その他、試験No.40〜44、47〜51のものについても上記と同様であり、変態開始温度T(℃)および変態開始時間t(秒)の要件を満足し、良好なフランジ部の反り量が得られているが、化学成分組成(基本成分または選択成分)が本発明で規定する範囲を外れているので、鋼材としての基本的特性を満足しないものである。
試験No.39,45,46のものは、化学成分組成と共に、変態開始温度T(℃)および変態開始時間t(秒)の少なくともいずれかの要件を満足しないものであり、フランジ部の反り量が得られていないのは勿論のこと、鋼材としての基本的特性を満足しないものである。
試験No.54は、本発明で規定する化学成分組成を満足しているものの、変態開始温度T(℃)および変態開始時間t(秒)のいずれも本発明で規定する要件を満足しておらず、フランジ部の反り量が大きくなっている。
フランジ部の反り量が変態開始温度T(℃)と変態開始時間t(秒)で整理できるかを検証するため、反り量を目的変数、変態開始温度T(℃)および変態開始時間t(秒)を独立変数(推定値)として重回帰分析を行った。このときの回帰分析は、本発明で規定する化学成分組成を満足する試験No.1〜34、52〜60のデータを用いた。その結果、実績値との関係で、フランジ部の反り量yは、y=0.000827×T(℃)−0.00436×t(秒)−0.265の回帰式が得られ、重相関係数R2:0.99と非常に高い相関があることが確認された。従って、この式を用いれば鋼材成分からフランジ部の反り量が高精度で推定できることが分かる。フランジ部の反り量の推定値と実績値の関係を図4に示す。

Claims (5)

  1. C:0.21〜0.3%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.6%以下(0%を含まない)、Mn:0.95〜2.2%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.03%以下(0%を含まない)、Cr:0.1〜1.8%、Al:0.06%以下(0%を含まない)、N:0.02%以下(0%を含まない)、Mo:0.15%未満(0%を含まない)およびO:0.003%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部が鉄および不可避不純物からなり、且つ下記(1)式で表される変態開始温度T(℃)が540℃以下であると共に、下記(2)式で表される変態開始時間t(秒)が15秒以上であることを特徴とする熱処理歪みの少ない肌焼鋼。
    T(℃)=−163×[C]+43.1×[Si]−55.2×[Mn]+32.6×[Cu]−30.0×[Ni]−47.8×[Cr]+104×[Mo]+412×[V]+677 …(1)
    t(秒)=40.4×[C]+1.31×[Si]+18.7×[Mn]+8.37×[Cu]+5.33×[Ni]+5.57×[Cr]+11.8×[Mo]−51.1×[V]−17.8 …(2)
    但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo]および[V]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,MoおよびVの含有量(質量%)を示す。
  2. 更に、Cu:0.3%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1に記載の肌焼鋼。
  3. 更に、Ni:0.25%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の肌焼鋼。
  4. 更に、V:0.30%以下(0%を含まない)、Nb:0.08%以下(0%を含まない)およびTi:0.08%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1〜のいずれかに記載の肌焼鋼。
  5. 更に、B:0.005%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜のいずれかに記載の肌焼鋼。
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