JP2014227581A - オイルテンパー線、及びオイルテンパー線の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】疲労特性に優れるオイルテンパー線、及び疲労特性に優れるオイルテンパー線を製造することができるオイルテンパー線の製造方法を提供する。【解決手段】オイルテンパー線は、質量%で、Cを0.63%以上、Siを1.80%以上含有する鋼から構成され、残留γ量が2体積%以下であるか、あるいは、Cを0.55%超、Siを1.20%以上含有する鋼から構成され、残留γ量が1体積%未満である。オイルテンパー線の製造方法は、質量%で、Cを0.55質量%超、Siを1.20%以上含有する鋼に焼き入れ焼き戻しを行う工程を備える。前記焼き戻しは、複数回行い、前記複数回のうち、最初の1回目は、焼き戻し温度を200℃以上600℃以下、焼き戻し時間を10秒以下とする。【選択図】なし
Description
本発明は、オイルテンパー線及びオイルテンパー線の製造方法に関するものである。特に、疲労特性に優れるオイルテンパー線、及び疲労特性に優れるオイルテンパー線を製造することができるオイルテンパー線の製造方法に関するものである。
自動車のエンジンやトランスミッションなどの構成部材に、弁ばねや懸架ばねなどの種々のばねがある。これらのばね材料には、オイルテンパー線が汎用されている。
オイルテンパー線は、代表的には、炭素(C)及び珪素(Si)を含む鋼を伸線後、焼き入れ焼き戻しを行うことで製造される。特許文献1では、焼き戻しまでに線材を−50℃以下に冷却すること、又は焼き入れ焼き戻し後に第二の焼き戻しを行うことで、高強度で高靭性なオイルテンパー線が得られることを開示している。強度が高いことで疲労限も高くなり、このオイルテンパー線は、疲労特性に優れる。
疲労特性により優れるオイルテンパー線の開発が望まれている。
近年、自動車の低燃費化の要求に対応して、エンジンやトランスミッションなどの小型・軽量化が進められている。それに伴って、上述のばねなどに負荷される応力も増大している。そのため、疲労強度に優れているとされている鋼種、代表的にはSWOSC−V(JIS G 3561、1994)から構成されるオイルテンパー線でも、疲労特性の更なる向上が望まれる。
また、従来のオイルテンパー線では、体積比で数%の残留オーステナイト(以下、残留γと記載する)が存在する(特許文献1の明細書の段落[0003])。従来、この残留γ自体の延性を利用して、オイルテンパー線の靭性を高めることが行われている(特許文献1の明細書の段落[0004])。しかし、本発明者らが検討した結果、組成によっては、残留γが上述のように多く存在すると、介在物に起因する折損が生じ易い、との知見を得た。介在物に起因する折損によって、破壊靭性が低下すると、ひいては疲労特性の低下を招く。
特許文献1に記載される上述の製造方法を利用することで、残留γの含有量(以下、残留γ量と呼ぶ)をある程度低減できる。また、CやSiの含有量が少なければ、残留γ量が少なくなり易い。しかし、CやSiの含有量が多くなると、特にCの含有量が0.63質量%以上、Siの含有量が1.80質量%以上になると、残留γ量が多くなり易く、5体積%以上、更に10体積%程度になる。特許文献1に記載される製造方法でも、Cの含有量が0.63質量%、Siの含有量が1.80質量%以上であれば、残留γ量を2体積%以下とすることができない。従って、CやSiを多く含有していても、残留γ量が少ないオイルテンパー線、即ち介在物に起因する折損が発生し難く、疲労特性に優れるオイルテンパー線を製造することができるオイルテンパー線の製造方法の開発が望まれる。
そこで、本発明の目的の一つは、疲労特性に優れるオイルテンパー線を提供することにある。
本発明の他の目的は、疲労特性に優れるオイルテンパー線を製造することができるオイルテンパー線の製造方法を提供することにある。
本発明のオイルテンパー線は、質量%で、Cを0.63%以上、Siを1.80%以上含有する鋼から構成され、残留γ量が2体積%以下である。
本発明のオイルテンパー線は、質量%で、Cを0.55%超、Siを1.20%以上含有する鋼から構成され、残留γ量が1体積%未満である。
本発明のオイルテンパー線の製造方法は、質量%で、Cを0.55質量%超、Siを1.20%以上含有する鋼に焼き入れ焼き戻しを行う工程を備える。前記焼き戻しは、複数回行う。前記複数回のうち、最初の1回目は、焼き戻し温度を200℃以上600℃以下、焼き戻し時間を10秒以下とする。
本発明のオイルテンパー線は、上記本発明のオイルテンパー線の製造方法によって製造されたものである。
本発明のオイルテンパー線は、疲労特性に優れる。本発明のオイルテンパー線の製造方法は、疲労特性に優れるオイルテンパー線を製造できる。
[本発明の実施の形態の説明]
本発明者らは、焼き入れ焼き戻しを特定の条件で行う、具体的には焼き戻しを複数回行うと共に、特定の条件の焼き戻しを特定の時期に行うことで、介在物に起因する折損が少なく、疲労特性に優れるオイルテンパー線が得られる、との知見を得た。また、この特定の製造条件で得られたオイルテンパー線を調べたところ、残留γ量が少ない、との知見を得た。特に、CやSiの含有量が多い鋼、即ち残留γが生成され易い鋼でも、残留γを低減できる、との知見を得た。これらの知見から、組成によっては、残留γ量が少ない方が疲労特性に優れるといえる。本発明は、これらの知見に基づくものである。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本発明者らは、焼き入れ焼き戻しを特定の条件で行う、具体的には焼き戻しを複数回行うと共に、特定の条件の焼き戻しを特定の時期に行うことで、介在物に起因する折損が少なく、疲労特性に優れるオイルテンパー線が得られる、との知見を得た。また、この特定の製造条件で得られたオイルテンパー線を調べたところ、残留γ量が少ない、との知見を得た。特に、CやSiの含有量が多い鋼、即ち残留γが生成され易い鋼でも、残留γを低減できる、との知見を得た。これらの知見から、組成によっては、残留γ量が少ない方が疲労特性に優れるといえる。本発明は、これらの知見に基づくものである。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1) 実施形態に係るオイルテンパー線は、質量%で、Cを0.63%以上、Siを1.80%以上含有する鋼から構成され、残留γ量が2体積%以下である。
実施形態のオイルテンパー線は、疲労特性に優れる。CやSiを上述のように比較的多めに含有していながらも、残留γ量が2体積%以下と少ないことで、破壊折損のうち、特に介在物に起因する折損を低減できる。このように介在物に対する感受性を低減できる結果、靭性、特に破壊靭性に優れるからである。また、C及びSiの双方を比較的多めに含有していることで鋼自体の強度が高く、高い疲労限を有するからである。
(2) 別の実施形態に係るオイルテンパー線は、質量%で、Cを0.55%超、Siを1.20%以上含有する鋼から構成され、残留γ量が1体積%未満である。
実施形態のオイルテンパー線は、疲労特性に優れる。残留γが1体積%未満と少ないことで、破壊折損のうち、特に介在物に起因する折損を低減できる。このように介在物に対する感受性を低減できる結果、靭性、特に破壊靭性に優れるからである。また、従来、疲労強度に優れるとされるSWOSC−V相当のC及びSiを含有していることで、疲労強度に優れるからである。
(3) 実施形態のオイルテンパー線の一例として、上記鋼が更に、質量%で、バナジウム(V)を0.02%以上0.50%以下含む形態が挙げられる。
上記形態は、Vを上述の特定の範囲で含有することで、疲労限の向上と靭性の確保とを図ることができ、疲労特性に優れる。
(4) 実施形態のオイルテンパー線の一例として、上記鋼が更に、質量%で、コバルト(Co)を0.02%以上1.00%以下含む形態が挙げられる。
上記形態は、Coを上述の特定の範囲で含有することで、耐熱性に優れる。また、耐熱性に優れることで、オイルテンパー線や、オイルテンパー線を用いたばねを製造するときの熱処理によって軟化することを防止できる。その結果、上記形態は、種々の熱処理を受けても高い強度を維持できて疲労限の低下を抑制でき、ひいては疲労特性に優れる。上述のVとCoとの双方を含有する形態とすると、疲労特性により優れる。
(5) 実施形態のオイルテンパー線の一例として、回転曲げ試験を行ったときの介在物に起因する折損の出現率が5%未満である形態が挙げられる。
上記形態は、介在物に起因する折損の出現率が低く、破壊靭性に優れることから、疲労特性に優れる。
(6) 実施形態に係るオイルテンパー線の製造方法は、質量%で、Cを0.55質量%超、Siを1.20%以上含有する鋼に焼き入れ焼き戻しを行う工程を備える。上記焼き戻しは、複数回行う。そして、上記複数回のうち、最初の1回目は、焼き戻し温度を200℃以上600℃以下、焼き戻し時間を10秒以下とする。
実施形態のオイルテンパー線の製造方法は、疲労特性に優れるオイルテンパー線を製造することができる。定性的には、実施形態のオイルテンパー線の製造方法は、介在物に起因する折損が少なく、破壊靭性に優れることで疲労特性に優れるオイルテンパー線を製造できる。定量的には、実施形態のオイルテンパー線の製造方法は、CやSiの含有量が多い場合でも、残留γ量が2体積%以下であるオイルテンパー線や、CやSiの含有量が上述の範囲の下限程度をとる場合では、残留γ量が1体積%未満であるオイルテンパー線を製造することができる。
(7) 別の実施形態に係るオイルテンパー線は、上記実施形態のオイルテンパー線の製造方法によって製造されたものである。
この実施形態のオイルテンパー線は、疲労特性に優れる。上述のように介在物に起因する折損が生じ難く、破壊靭性に優れているからである。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態に係るオイルテンパー線、及びオイルテンパー線の製造方法を説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、後述する試験例において、線材の組成や線径、製造条件(特に、焼き戻し条件)を適宜変更することができる。以下の説明では、元素の含有量は全て「質量%」である。
以下、本発明の実施形態に係るオイルテンパー線、及びオイルテンパー線の製造方法を説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、後述する試験例において、線材の組成や線径、製造条件(特に、焼き戻し条件)を適宜変更することができる。以下の説明では、元素の含有量は全て「質量%」である。
[オイルテンパー線]
(組成)
実施形態のオイルテンパー線は、C及びSiを特定の範囲で含有する鋼によって構成される。C及びSi以外の添加元素には、マンガン(Mn)、クロム(Cr)が挙げられる。更に、V及びCoの少なくとも一方を含有することができる。実施形態のオイルテンパー線を構成する鋼は、代表的には、以下が挙げられる。
(組成)
実施形態のオイルテンパー線は、C及びSiを特定の範囲で含有する鋼によって構成される。C及びSi以外の添加元素には、マンガン(Mn)、クロム(Cr)が挙げられる。更に、V及びCoの少なくとも一方を含有することができる。実施形態のオイルテンパー線を構成する鋼は、代表的には、以下が挙げられる。
(1) C,Si,Mn,及びCrを含有し、残部がFe及び不可避不純物
この組成として、例えば、Cを0.55%超0.59%以下、Siを1.20%以上1.60%以下、Mnを0.50%以上0.80%以下、Crを0.50%以上0.80%以下含有する鋼が挙げられる。この鋼種は、SWOSC−V(JIS G 3561、1994)を満たす。
例えば、Cを0.63%以上0.68%以下、Siを1.30%以上1.60%以下、Mnを0.60%以上0.80%以下、Crを0.50%以上0.80%以下含有する鋼が挙げられる。この鋼種をここではSWOSC−VHと呼ぶ。
(2) C,Si,Mn,Cr,及びVを含有し、残部がFe及び不可避不純物
この組成として、例えば、Cを0.63%以上0.68%以下、Siを1.20%以上1.60%以下、Mnを0.50%以上0.80%以下、Crを0.50%以上0.80%以下、Vを0.10%以上0.20%以下含有する鋼が挙げられる。この鋼種をここではSWOSC−VHVと呼ぶ。
例えば、Cを0.63%以上0.68%以下、Siを1.80%以上2.20%以下、Mnを0.70%以上0.90%以下、Crを0.50%以上0.80%以下、Vを0.05%以上0.15%以下含有する鋼が挙げられる。この鋼種をここではSWOSC−VHSと呼ぶ。
(3) C,Si,Mn,Cr,及びCoを含有し、残部がFe及び不可避不純物
この組成として、例えば、Cを0.63%以上0.68%以下、Siを2.10%以上2.30%以下、Mnを0.50%以上0.70%以下、Crを1.10%以上1.30%以下、Coを0.10%以上0.30%以下含有する鋼が挙げられる。
(4) C,Si,Mn,Cr,V,及びCoを含有し、残部がFe及び不可避不純物
この組成として、例えば、Cを0.63%以上0.68%以下、Siを2.10%以上2.30%以下、Mnを0.50%以上0.70%以下、Crを1.10%以上1.30%以下、Vを0.10%以上0.20%以下、Coを0.10%以上0.30%以下含有する鋼が挙げられる。この鋼種をここではSWOSC−VHRと呼ぶ。
不可避不純物は、P(りん)、S(硫黄)などが挙げられる。以下、各元素の含有量、各元素の含有する効果を説明する。
この組成として、例えば、Cを0.55%超0.59%以下、Siを1.20%以上1.60%以下、Mnを0.50%以上0.80%以下、Crを0.50%以上0.80%以下含有する鋼が挙げられる。この鋼種は、SWOSC−V(JIS G 3561、1994)を満たす。
例えば、Cを0.63%以上0.68%以下、Siを1.30%以上1.60%以下、Mnを0.60%以上0.80%以下、Crを0.50%以上0.80%以下含有する鋼が挙げられる。この鋼種をここではSWOSC−VHと呼ぶ。
(2) C,Si,Mn,Cr,及びVを含有し、残部がFe及び不可避不純物
この組成として、例えば、Cを0.63%以上0.68%以下、Siを1.20%以上1.60%以下、Mnを0.50%以上0.80%以下、Crを0.50%以上0.80%以下、Vを0.10%以上0.20%以下含有する鋼が挙げられる。この鋼種をここではSWOSC−VHVと呼ぶ。
例えば、Cを0.63%以上0.68%以下、Siを1.80%以上2.20%以下、Mnを0.70%以上0.90%以下、Crを0.50%以上0.80%以下、Vを0.05%以上0.15%以下含有する鋼が挙げられる。この鋼種をここではSWOSC−VHSと呼ぶ。
(3) C,Si,Mn,Cr,及びCoを含有し、残部がFe及び不可避不純物
この組成として、例えば、Cを0.63%以上0.68%以下、Siを2.10%以上2.30%以下、Mnを0.50%以上0.70%以下、Crを1.10%以上1.30%以下、Coを0.10%以上0.30%以下含有する鋼が挙げられる。
(4) C,Si,Mn,Cr,V,及びCoを含有し、残部がFe及び不可避不純物
この組成として、例えば、Cを0.63%以上0.68%以下、Siを2.10%以上2.30%以下、Mnを0.50%以上0.70%以下、Crを1.10%以上1.30%以下、Vを0.10%以上0.20%以下、Coを0.10%以上0.30%以下含有する鋼が挙げられる。この鋼種をここではSWOSC−VHRと呼ぶ。
不可避不純物は、P(りん)、S(硫黄)などが挙げられる。以下、各元素の含有量、各元素の含有する効果を説明する。
・炭素(C)
Cは、鋼の強化元素である。Cの含有量が0.55%超であることで、十分な強度を有する鋼とすることができる。Cの含有量が多いほど、鋼の強度を高められ、0.60%以上、更に0.63%以上であると、強度により優れる鋼となる。このような強度により優れる鋼から構成されることで、疲労限が高く、疲労特性に優れるオイルテンパー線とすることができる。但し、Cの含有量が多いほど、残留γ量が多くなり易い。そして、残留γ量の増加は靭性(特に破壊靭性)の低下を招くことから、Cの含有量は、0.70%以下が好ましく、0.68%以下がより好ましい。
Cは、鋼の強化元素である。Cの含有量が0.55%超であることで、十分な強度を有する鋼とすることができる。Cの含有量が多いほど、鋼の強度を高められ、0.60%以上、更に0.63%以上であると、強度により優れる鋼となる。このような強度により優れる鋼から構成されることで、疲労限が高く、疲労特性に優れるオイルテンパー線とすることができる。但し、Cの含有量が多いほど、残留γ量が多くなり易い。そして、残留γ量の増加は靭性(特に破壊靭性)の低下を招くことから、Cの含有量は、0.70%以下が好ましく、0.68%以下がより好ましい。
・珪素(Si)
Siは、鋼の固溶強化、鋼の耐熱性の向上に寄与する元素である。また、Siは、溶解精錬時の脱酸剤に利用される。Siの含有量が1.20%以上であることで、これらの効果を得られる。また、Siの含有量が多いほど、具体的には1.30%以上、更に1.80%以上、2.00%以上、2.10%以上であると耐熱性により優れる上に強度により優れる。そのため、オイルテンパー線の製造時の熱処理(特に焼き戻し)や、オイルテンパー線を用いてばねを製造するときの熱処理(歪み取り焼鈍、窒化処理など)の加熱によって、鋼の強度や硬度が低下すること(軟化すること)を防止できる。このような耐熱性及び強度により優れる鋼から構成されることで、高強度で疲労限が高く、疲労特性に優れるオイルテンパー線とすることができる。但し、Siの含有量が多いほど、残留γ量が多くなり易い。そして、残留γ量の増加は靭性(特に破壊靭性)の低下を招くことから、Siの含有量は2.40%以下が好ましく、2.30%以下がより好ましい。
Siは、鋼の固溶強化、鋼の耐熱性の向上に寄与する元素である。また、Siは、溶解精錬時の脱酸剤に利用される。Siの含有量が1.20%以上であることで、これらの効果を得られる。また、Siの含有量が多いほど、具体的には1.30%以上、更に1.80%以上、2.00%以上、2.10%以上であると耐熱性により優れる上に強度により優れる。そのため、オイルテンパー線の製造時の熱処理(特に焼き戻し)や、オイルテンパー線を用いてばねを製造するときの熱処理(歪み取り焼鈍、窒化処理など)の加熱によって、鋼の強度や硬度が低下すること(軟化すること)を防止できる。このような耐熱性及び強度により優れる鋼から構成されることで、高強度で疲労限が高く、疲労特性に優れるオイルテンパー線とすることができる。但し、Siの含有量が多いほど、残留γ量が多くなり易い。そして、残留γ量の増加は靭性(特に破壊靭性)の低下を招くことから、Siの含有量は2.40%以下が好ましく、2.30%以下がより好ましい。
・マンガン(Mn)
Mnは鋼の焼き入れ性を向上させる。また、Mnは、Siと同様に溶解精錬時の脱酸剤として利用される。更に、Mnは、鋼の強度の向上効果もある。Mnの含有量が0.3%以上であるとこれらの効果が得られる。Mnの含有量が多いほど、これらの効果が高められるものの、多過ぎると靭性の低下を生じ得ることから、1.0%以下が好ましい。Mnの含有量は、更に0.5%以上0.9%以下が好ましい。
Mnは鋼の焼き入れ性を向上させる。また、Mnは、Siと同様に溶解精錬時の脱酸剤として利用される。更に、Mnは、鋼の強度の向上効果もある。Mnの含有量が0.3%以上であるとこれらの効果が得られる。Mnの含有量が多いほど、これらの効果が高められるものの、多過ぎると靭性の低下を生じ得ることから、1.0%以下が好ましい。Mnの含有量は、更に0.5%以上0.9%以下が好ましい。
・クロム(Cr)
Crは鋼の焼き入れ性を向上させ、焼き入れ焼き戻し後の鋼の軟化抵抗を増加させる。軟化抵抗の増大によって、上述のようにオイルテンパー線の製造時の熱処理やばねの製造時の熱処理での鋼の軟化防止に効果がある。また、Crの含有量が多いほど、炭化物を析出し易く、鋼の強度が高められる。このような強度が高い鋼から構成されることで、高強度で疲労限が高く、疲労特性に優れるオイルテンパー線とすることができる。Crの含有量が0.5%以上であると、これらの効果を十分に得られ、1.9%以下であると、靭性の低下を抑制できて好ましい。Crの含有量は、更に0.5%以上1.3%以下が好ましい。
Crは鋼の焼き入れ性を向上させ、焼き入れ焼き戻し後の鋼の軟化抵抗を増加させる。軟化抵抗の増大によって、上述のようにオイルテンパー線の製造時の熱処理やばねの製造時の熱処理での鋼の軟化防止に効果がある。また、Crの含有量が多いほど、炭化物を析出し易く、鋼の強度が高められる。このような強度が高い鋼から構成されることで、高強度で疲労限が高く、疲労特性に優れるオイルテンパー線とすることができる。Crの含有量が0.5%以上であると、これらの効果を十分に得られ、1.9%以下であると、靭性の低下を抑制できて好ましい。Crの含有量は、更に0.5%以上1.3%以下が好ましい。
・バナジウム(V)
Vは、焼き戻し時に炭化物を生成し、鋼の軟化抵抗を増加させる効果がある。軟化抵抗の増大によって、上述のようにオイルテンパー線の製造時の熱処理やばねの製造時の熱処理での鋼の軟化防止に効果がある。従って、C及びSiに加えてVを含む鋼から構成されるオイルテンパー線は、高強度で疲労限が高く、疲労特性により優れる。Vの含有量が0.02%以上であると、上述の効果を十分に得られ、0.50%以下であると、適正な靭性を確保できる。Vの含有量は、更に0.05%以上0.20%以下が好ましい。
Vは、焼き戻し時に炭化物を生成し、鋼の軟化抵抗を増加させる効果がある。軟化抵抗の増大によって、上述のようにオイルテンパー線の製造時の熱処理やばねの製造時の熱処理での鋼の軟化防止に効果がある。従って、C及びSiに加えてVを含む鋼から構成されるオイルテンパー線は、高強度で疲労限が高く、疲労特性により優れる。Vの含有量が0.02%以上であると、上述の効果を十分に得られ、0.50%以下であると、適正な靭性を確保できる。Vの含有量は、更に0.05%以上0.20%以下が好ましい。
・コバルト(Co)
Coは、少量の含有により鋼の耐熱性を向上させる効果がある。耐熱性の向上によって、上述のようにオイルテンパー線の製造時の熱処理やばねの製造時の熱処理での鋼の軟化防止に効果がある。従って、C及びSiに加えてCoを含む鋼から構成されるオイルテンパー線は、高強度で疲労限が高く、疲労特性により優れる。Coの含有量が0.02%以上であると、上述の効果を十分に得られ、1.00%程度で上述の効果が飽和するため、Coの含有量の上限を1.00%とする。Coの含有量は、更に0.10%以上0.30%以下が好ましい。Co及びVの双方を上述の範囲で含有すると、疲労特性に更に優れるオイルテンパー線となる。
Coは、少量の含有により鋼の耐熱性を向上させる効果がある。耐熱性の向上によって、上述のようにオイルテンパー線の製造時の熱処理やばねの製造時の熱処理での鋼の軟化防止に効果がある。従って、C及びSiに加えてCoを含む鋼から構成されるオイルテンパー線は、高強度で疲労限が高く、疲労特性により優れる。Coの含有量が0.02%以上であると、上述の効果を十分に得られ、1.00%程度で上述の効果が飽和するため、Coの含有量の上限を1.00%とする。Coの含有量は、更に0.10%以上0.30%以下が好ましい。Co及びVの双方を上述の範囲で含有すると、疲労特性に更に優れるオイルテンパー線となる。
(組織)
実施形態のオイルテンパー線は、残留γ量が非常に少ない組織である。具体的には、残留γ量は、2体積%以下である。Cを0.63%以上、Siを1.80%以上含有する鋼、即ちC及びSiの双方を比較的多く含有する鋼(以下、高Si鋼と呼ぶことがある)から構成される形態であっても、残留γ量が2体積%以下である。また、後述する特定の製造方法で製造することで、上記高Si鋼から構成されるオイルテンパー線であっても、残留γ量が、1.5体積%以下、更に1体積%以下、特に1体積%未満、さらには0.5体積%以下という実質的に存在しないレベルにすることができる。Cを0.55%超、Siを1.20%以上含有する鋼(以下、中Si鋼と呼ぶことがある)、即ち上記高Si鋼よりもC及びSiの含有量が少ない形態では、残留γ量が更に少なく、1体積%未満、更に0.5体積%以下という実質的に存在しないレベルにすることができる。残留γ量が2体積%以下、更には1体積%未満であることで、実施形態のオイルテンパー線は、後述する試験例に示すように介在物に起因する折損を効果的に低減できて破壊靭性に優れ、ひいては疲労特性に優れる。残留γ量の具体的な測定方法は後述する。
実施形態のオイルテンパー線は、残留γ量が非常に少ない組織である。具体的には、残留γ量は、2体積%以下である。Cを0.63%以上、Siを1.80%以上含有する鋼、即ちC及びSiの双方を比較的多く含有する鋼(以下、高Si鋼と呼ぶことがある)から構成される形態であっても、残留γ量が2体積%以下である。また、後述する特定の製造方法で製造することで、上記高Si鋼から構成されるオイルテンパー線であっても、残留γ量が、1.5体積%以下、更に1体積%以下、特に1体積%未満、さらには0.5体積%以下という実質的に存在しないレベルにすることができる。Cを0.55%超、Siを1.20%以上含有する鋼(以下、中Si鋼と呼ぶことがある)、即ち上記高Si鋼よりもC及びSiの含有量が少ない形態では、残留γ量が更に少なく、1体積%未満、更に0.5体積%以下という実質的に存在しないレベルにすることができる。残留γ量が2体積%以下、更には1体積%未満であることで、実施形態のオイルテンパー線は、後述する試験例に示すように介在物に起因する折損を効果的に低減できて破壊靭性に優れ、ひいては疲労特性に優れる。残留γ量の具体的な測定方法は後述する。
(機械的特性)
実施形態のオイルテンパー線が上述のように介在物に起因する折損が少ないことを示す一つの指標として、回転曲げ試験を行ったときの介在物に起因する折損の出現率が5%未満であることが挙げられる。上記介在物に起因する折損の出現率が低いほど、破壊靭性に優れるといえ、3%以下、更に1%以下が好ましい。上記介在物に起因する折損の出現率と上記残留γ量とはある程度相関があり、残留γ量が少ないほど、上記出現率が低くなる傾向にある。逆に、残留γ量が多いと、上記介在物に起因する出現率が多くなる理由として、以下が考えられる。延性に優れるものの強度が低い残留γが多いと、残留γ以外の相が鋼の強度を確保するために相対的に靭性に劣る相になる結果、このような靱性に劣る相では、介在物を起点とする破壊が進展し易いため、と考えられる。上記介在物に起因する折損の出現率の具体的な測定方法は、後述する。
実施形態のオイルテンパー線が上述のように介在物に起因する折損が少ないことを示す一つの指標として、回転曲げ試験を行ったときの介在物に起因する折損の出現率が5%未満であることが挙げられる。上記介在物に起因する折損の出現率が低いほど、破壊靭性に優れるといえ、3%以下、更に1%以下が好ましい。上記介在物に起因する折損の出現率と上記残留γ量とはある程度相関があり、残留γ量が少ないほど、上記出現率が低くなる傾向にある。逆に、残留γ量が多いと、上記介在物に起因する出現率が多くなる理由として、以下が考えられる。延性に優れるものの強度が低い残留γが多いと、残留γ以外の相が鋼の強度を確保するために相対的に靭性に劣る相になる結果、このような靱性に劣る相では、介在物を起点とする破壊が進展し易いため、と考えられる。上記介在物に起因する折損の出現率の具体的な測定方法は、後述する。
(形状、大きさ)
実施形態のオイルテンパー線は、種々の形状を取り得る。代表的には、横断面形状が円形の丸線が挙げられる。その他、横断面形状が矩形状の平角線、多角形状や楕円状などの種々の異形線とすることができる。実施形態のオイルテンパー線は、種々の大きさ(断面積、線径など)を取り得る。例えば、丸線では、線径が0.7mm以上6.0mm以下程度、が挙げられる。断面積や線径は、伸線加工の加工度によって変化できる。断面積や線径が小さいほど、伸線加工の加工硬化による強度向上効果が得られ、強度に優れる傾向にある。従って、細径のオイルオイルテンパー線とすることで、疲労特性により優れる場合がある。
実施形態のオイルテンパー線は、種々の形状を取り得る。代表的には、横断面形状が円形の丸線が挙げられる。その他、横断面形状が矩形状の平角線、多角形状や楕円状などの種々の異形線とすることができる。実施形態のオイルテンパー線は、種々の大きさ(断面積、線径など)を取り得る。例えば、丸線では、線径が0.7mm以上6.0mm以下程度、が挙げられる。断面積や線径は、伸線加工の加工度によって変化できる。断面積や線径が小さいほど、伸線加工の加工硬化による強度向上効果が得られ、強度に優れる傾向にある。従って、細径のオイルオイルテンパー線とすることで、疲労特性により優れる場合がある。
[オイルテンパー線の製造方法]
上述のような疲労特性に優れる実施形態のオイルテンパー線は、例えば、以下の製造工程を経て製造することができる。具体的な工程は、上述の組成を有する原料鋼を溶製→熱間鍛造→熱間圧延→パテンチング→皮剥ぎ→焼鈍→伸線加工→焼き入れ焼き戻し、である。特に、実施形態のオイルテンパー線を製造できる実施形態のオイルテンパー線の製造方法では、焼き戻しを複数回行い、複数回のうちの最初の1回目の焼き戻し(以下、焼き戻し1st.と呼ぶ)を特定の条件で行う。上記焼き入れ焼き戻しまでの各工程の条件は、公知の条件を利用できる。以下、焼き入れ焼き戻し工程を詳細に述べる。
上述のような疲労特性に優れる実施形態のオイルテンパー線は、例えば、以下の製造工程を経て製造することができる。具体的な工程は、上述の組成を有する原料鋼を溶製→熱間鍛造→熱間圧延→パテンチング→皮剥ぎ→焼鈍→伸線加工→焼き入れ焼き戻し、である。特に、実施形態のオイルテンパー線を製造できる実施形態のオイルテンパー線の製造方法では、焼き戻しを複数回行い、複数回のうちの最初の1回目の焼き戻し(以下、焼き戻し1st.と呼ぶ)を特定の条件で行う。上記焼き入れ焼き戻しまでの各工程の条件は、公知の条件を利用できる。以下、焼き入れ焼き戻し工程を詳細に述べる。
(焼き入れ焼き戻し)
・焼き入れ
焼き入れ条件は、上述のように適宜選択できる。例えば、焼き入れ温度が−50°以上80℃以下、焼き入れ時間が30秒以下、が挙げられる。焼き入れ温度を特に20℃以上50℃以下程度とすると、焼き入れに用いる媒体の温度の安定化という意味において、加熱状態の線材からの入熱と媒体からの抜熱とをバランスさせ易く、焼き入れ作業性に優れる。焼き入れ時間を20秒以下、更に10秒以下、特に5秒以下と短くすると、より細かい炭化物をより均一的に析出させることができ、かつ、焼き戻しによる強度の低下を抑え易い。その結果、目標とする強度範囲に調整する場合に複数回の焼き戻しを施すことが容易となり、製造性に優れる。
・焼き入れ
焼き入れ条件は、上述のように適宜選択できる。例えば、焼き入れ温度が−50°以上80℃以下、焼き入れ時間が30秒以下、が挙げられる。焼き入れ温度を特に20℃以上50℃以下程度とすると、焼き入れに用いる媒体の温度の安定化という意味において、加熱状態の線材からの入熱と媒体からの抜熱とをバランスさせ易く、焼き入れ作業性に優れる。焼き入れ時間を20秒以下、更に10秒以下、特に5秒以下と短くすると、より細かい炭化物をより均一的に析出させることができ、かつ、焼き戻しによる強度の低下を抑え易い。その結果、目標とする強度範囲に調整する場合に複数回の焼き戻しを施すことが容易となり、製造性に優れる。
・焼き戻し
従来、焼き戻しは、通常、1回だけ行う。1回の焼き戻しで炭化物などの析出物を十分に析出させようとすると、焼き戻し時間を長くする必要がある。そのため、焼き戻し時間は、1分から数分程度が代表的である。特許文献1では、5分(300秒)としている。しかし、焼き戻し時間を長くすると、鋼の軟化による強度の低下を招いて、疲労特性が低下し易くなる。そこで、本発明者らは、後述する試験例に示すように焼き戻し時間を30秒といった比較的短時間にすることを検討した。しかし、このような焼き戻しを1回だけ行ったオイルテンパー線では、介在物(析出物)に起因する折損が発生し易かった。また、このオイルテンパー線を調べたところ、残留γ量が多かった。特に、上述のC及びSiを多く含有する高Si鋼では、残留γ量が体積比で数%程度であった。そこで、焼き戻し時間がより短い焼き戻しを1回行った後、別途、焼き戻しを行ったところ、析出物に起因する折損が少なく、疲労特性に優れるオイルテンパー線が得られた。そして、このオイルテンパー線を調べたところ、上記高Si鋼であっても残留γ量が少なく、2体積%以下であり、上記中Si鋼では1体積%未満であった。この知見から、焼き戻しを複数回行うこと、及び、複数回のうち1回、好ましくは最初の1回目の焼き戻し時間を短くすることを提案する。
従来、焼き戻しは、通常、1回だけ行う。1回の焼き戻しで炭化物などの析出物を十分に析出させようとすると、焼き戻し時間を長くする必要がある。そのため、焼き戻し時間は、1分から数分程度が代表的である。特許文献1では、5分(300秒)としている。しかし、焼き戻し時間を長くすると、鋼の軟化による強度の低下を招いて、疲労特性が低下し易くなる。そこで、本発明者らは、後述する試験例に示すように焼き戻し時間を30秒といった比較的短時間にすることを検討した。しかし、このような焼き戻しを1回だけ行ったオイルテンパー線では、介在物(析出物)に起因する折損が発生し易かった。また、このオイルテンパー線を調べたところ、残留γ量が多かった。特に、上述のC及びSiを多く含有する高Si鋼では、残留γ量が体積比で数%程度であった。そこで、焼き戻し時間がより短い焼き戻しを1回行った後、別途、焼き戻しを行ったところ、析出物に起因する折損が少なく、疲労特性に優れるオイルテンパー線が得られた。そして、このオイルテンパー線を調べたところ、上記高Si鋼であっても残留γ量が少なく、2体積%以下であり、上記中Si鋼では1体積%未満であった。この知見から、焼き戻しを複数回行うこと、及び、複数回のうち1回、好ましくは最初の1回目の焼き戻し時間を短くすることを提案する。
上記焼き戻し時間を短くする焼き戻しは、複数回の焼き戻しの中で、最初の1回目、又は2回目以降の任意のときに行える。特に、上記焼き戻し時間を短くする焼き戻しは、複数回の焼き戻しのうち、最初の1回目に行うと、残留γ量の低減に効果的である。この理由は、以下のように考えられる。最初の1回目の焼き戻し(焼き戻し1st.)は、焼き入れによる過飽和固溶体から析出物を析出させる操作であるから、焼き戻し1st.を短時間とすると、析出物を微細に、かつ均一的に粒内に析出させることが最も効果的に行える、と考えられる。そして、微細な析出物が粒内に均一的に分散した組織に次段の焼き戻しを施すことで、次段の焼き戻し時に残留γを分解させ易くなって、残留γ量を低減できる、と考えられる。そこで、実施形態のオイルテンパー線の製造方法では、最初の1回目の焼き戻し(焼き戻し1st.)の焼き戻し時間を短くすること、具体的には10秒以下とすることを規定する。
焼き戻し1st.の条件は、焼き戻し温度が200℃以上600℃以下、焼き戻し時間が10秒以下、が挙げられる。焼き戻し温度は、300℃以上、更に350℃以上と高くすると、析出物を微細にかつ均一的に粒内に析出させ易い。特に、400℃以上とすると、析出物を微細にかつより均一的に粒内に析出させることができて好ましい。焼き戻し温度を580℃以下、更に570℃以下とすると、鋼の軟化を防止し易い。焼き戻し時間が短いほど、析出物の成長を防止して微細にできたり、鋼の軟化を防止したりできる。そのため、焼き戻し時間は、8秒以下、更に5秒以下、特に1秒以下が好ましい。組成にもよるが焼き戻し時間が0.5秒以下、更に0.1秒以上0.3秒以下程度といった非常に短時間でも、更には0.1秒未満、例えば0.01秒といった極短時間でも、析出物を微細にかつ均一的に粒内に析出させることができる。焼き戻し1st.は、このような短時間の加熱を行うことから、バッチ処理よりも、連続処理が利用し易い。連続処理では、連続加熱炉に導入する素材の線速などを調整することで焼き戻し時間を容易に調整できる上に、焼き戻し1st.の焼き戻し材を生産性よく製造できる。
焼き戻し1st.の以外の焼き戻し(以下、焼き戻しotherと呼ぶ)の条件は、例えば、焼き戻し温度が300℃以上700℃以下、焼き戻し時間が10秒以上5分(300秒)以下、が挙げられる。即ち、焼き戻しotherには、特許文献1に記載される条件など、公知の焼き戻し条件を利用できる。焼き戻しotherの焼き戻し時間を焼き戻し1st.の焼き戻し時間よりも長くしたり、焼き戻しotherの焼き戻し温度を焼き戻し1st.の焼き戻し温度よりも高くしたりすると、残留γを分解し易く、残留γ量を低減できる傾向にある。例えば、焼き戻しotherの焼き戻し温度を400℃以上560℃以下とすることができる。焼き戻しotherには、バッチ処理、連続処理のいずれも利用できる。バッチ処理とすると、焼き戻し時間が比較的長い場合でも条件の制御を行い易い。なお、焼き戻しotherに、上述の焼き戻し1st.の条件の焼き戻しを含むことができる。また、複数回の焼き戻しの全てを上述の焼き戻し1st.の条件で行うこともできる。
焼き戻しの回数は、2回(焼き戻し1st.を1回、焼き戻しotherを1回の合計2回)、又は焼き戻し1st.を1回含む3回以上とすることができる。2回とすれば、工程数が少なく、生産性に優れる。回数を増やすと、後述する試験例に示すように残留γ量をより低減できる場合がある。回数を増やす場合には、焼き戻しotherの焼き戻し時間を短めにすることが好ましい。
C及びSiを多く含有する鋼、例えばCを0.63%以上、Siを1.80%以上含有する鋼に従来の焼き入れ焼き戻しを行った場合、残留γ量は、少なくとも10体積%程度になる。一方、上述のように多段に焼き戻しを行う実施形態のオイルテンパー線の製造方法では、上述のC及びSiの含有量が多い高Si鋼であっても、残留γ量を2体積%以下、条件によっては1体積%以下、更に1体積%未満とすることができ、上述の中Si鋼であれば、1体積%未満とすることができる。即ち、実施形態のオイルテンパー線の製造方法では、焼き戻し前に−50℃以下、特に−196℃といった極低温に冷却する工程を行わなくても、残留γ量が非常に少ないオイルテンパー線を製造できる。
・その他の条件
パテンチング時のオーステナイト化の温度を高めにすると、添加元素を十分に固溶でき、焼き戻し1st.時に、析出物を微細にかつ均一的に粒内に析出できて好ましい。具体的には、オーステナイト化の温度は、930℃以上が挙げられる。特に、上述の中Si鋼では930℃以上、上述のC及びSiの含有量が多い高Si鋼では、950℃以上が好ましい。オーステナイト化の温度の上限は1100℃、更に1050℃程度が挙げられる。
パテンチング時のオーステナイト化の温度を高めにすると、添加元素を十分に固溶でき、焼き戻し1st.時に、析出物を微細にかつ均一的に粒内に析出できて好ましい。具体的には、オーステナイト化の温度は、930℃以上が挙げられる。特に、上述の中Si鋼では930℃以上、上述のC及びSiの含有量が多い高Si鋼では、950℃以上が好ましい。オーステナイト化の温度の上限は1100℃、更に1050℃程度が挙げられる。
[ばね]
実施形態のオイルテンパー線は、ばね素材に好適に利用することができる。ばねは、実施形態のオイルテンパー線にばね加工を施すことで得られる。ばね加工後に、公知の条件にて歪取り焼鈍を行ったり、窒化処理を行って表層に窒化層を形成したりすることができる。
実施形態のオイルテンパー線は、ばね素材に好適に利用することができる。ばねは、実施形態のオイルテンパー線にばね加工を施すことで得られる。ばね加工後に、公知の条件にて歪取り焼鈍を行ったり、窒化処理を行って表層に窒化層を形成したりすることができる。
[試験例1]
種々の組成のオイルテンパー線を種々の条件で作製して、介在物に起因する折損の状態を調べた。
種々の組成のオイルテンパー線を種々の条件で作製して、介在物に起因する折損の状態を調べた。
原料鋼を真空溶解炉で溶製し、熱間鍛造、熱間圧延を順に行って、線径φ6.5mmの圧延材を作製した。この圧延材に順に、パテンチング→皮剥ぎ→焼鈍→伸線加工→焼き入れ焼き戻しを施して、線径φ3.0mmのオイルテンパー線を得た。表1に鋼の成分を示す。表1の各鋼種における元素の含有量は質量%を示す。各鋼種の残部はFe及び不可避不純物である。各試料の鋼種、パテンチング時のオーステナイト化温度、焼き入れ焼き戻し工程の条件を表2に示す。
得られた各試料のオイルテンパー線について、残留γ量を以下のように調べた。その結果を表4に示す。残留γ量は、オイルテンパー線の縦断面についてX線回折を行って、以下に記載する結晶の各格子面のピーク強度を測定し、オーステナイト相(γ相)と、フェライト相(α相)とを相対的に比較して規定する。γ相(fcc)は、(200)面、(220)面、及び(311)面の合計3個の格子面についてピーク強度を測定する。α相(bcc)は、(200)面、及び(211)面の合計2個の格子面についてピーク強度を測定する。そして、下記(1)〜(6)に示すように、γ相とα相とのピーク強度の比率(%)を求める(表3及び下記参照)。そして、これら6個のピーク強度比(1)〜(6)の平均を残留γ量(体積%)とする。
(1) α相の(200)面のピーク強度に対するγ相の(200)面のピーク強度の比率=γ(200)/α(200)
(2) α相の(211)面のピーク強度に対するγ相の(200)面のピーク強度の比率=γ(200)/α(211)
(3) α相の(200)面のピーク強度に対するγ相の(220)面のピーク強度の比率=γ(220)/α(200)
(4) α相の(211)面のピーク強度に対するγ相の(220)面のピーク強度の比率=γ(220)/α(211)
(5) α相の(200)面のピーク強度に対するγ相の(311)面のピーク強度の比率=γ(311)/α(200)
(6) α相の(211)面のピーク強度に対するγ相の(311)面のピーク強度の比率=γ(311)/α(211)
(1) α相の(200)面のピーク強度に対するγ相の(200)面のピーク強度の比率=γ(200)/α(200)
(2) α相の(211)面のピーク強度に対するγ相の(200)面のピーク強度の比率=γ(200)/α(211)
(3) α相の(200)面のピーク強度に対するγ相の(220)面のピーク強度の比率=γ(220)/α(200)
(4) α相の(211)面のピーク強度に対するγ相の(220)面のピーク強度の比率=γ(220)/α(211)
(5) α相の(200)面のピーク強度に対するγ相の(311)面のピーク強度の比率=γ(311)/α(200)
(6) α相の(211)面のピーク強度に対するγ相の(311)面のピーク強度の比率=γ(311)/α(211)
得られた各試料について回転曲げ疲労試験(疲労試験)を行い、以下のようにして介在物に起因する折損の出現率(%)を調べた。その結果を表4に示す。回転曲げ疲労試験機による負荷応力を調整して、20本以上の線材が破断するように回転曲げ疲労試験を行う。破断した20本以上の線材についてそれぞれ、破断面を観察し、破断の起点部における介在物の有無を確認する。破断の起点部に介在物が存在する場合、この線材は介在物に起因して折損した線材と認定する。そして、(介在物に起因して折損した線材の合計本数/破断した線材の合計本数)×100を介在物に起因する折損の出現率(%)とする。ここでは、40本について調べた。
表4に示すように残留γ量(体積%)が少ない試料No.1−1〜No.1−7のオイルテンパー線は、介在物に起因する折損の出現率が5%未満であり、低いことが分かる。ここでは、試料No.1−1〜No.1−7のいずれも、上記出現率が0%である。一方、残留γ量が多い(この試験では5体積%以上)である試料No.1−100,No.1−110,No.1−120のオイルテンパー線は、介在物に起因する折損の出現率が5%以上であり、高いことが分かる。これらの結果から、上記の鋼種では、残留γ量を低減することで、介在物に起因する折損を効果的に低減でき、破壊靭性を向上できること、ひいては疲労特性を向上できるといえる。
上述のように介在物に起因する折損が生じ難く、疲労特性に優れる試料No.1−1〜No.1−7のオイルテンパー線はいずれも、最初の1回目の焼き戻しを200℃以上600℃以下かつ10秒未満という焼き戻し時間が短いものとし、このような焼き戻し時間が短い焼き戻しを含む多段の焼き戻しを行うことで製造できることが分かる。特に、Cを0.63質量%以上、Siを1.80質量%以上含有する鋼であっても、上述の特定の多段の焼き戻しを行うことで、残留γ量が少ない、具体的には2体積%以下(ここでは1体積%以下)のオイルテンパー線が得られることが分かる。Cを0.55質量%超、Siを1.20質量%以上含有する鋼では、残留γ量が非常に少ない、具体的には1体積%未満(ここでは0.5体積%以下)のオイルテンパー線が得られることが分かる。
更に、この試験結果からは、(1)焼き戻し回数が多いほど、残留γ量が少なる傾向にあること(試料No.1−100,No.1−1〜No.1−3を比較参照)、(2)最初の1回目に焼き戻し時間が短い焼き戻しを行うことで、後段では、焼き戻し時間を10秒以上としても、残留γ量を低減できること(試料No.1−3と試料No.1−100とを比較参照)、(3)多段の焼き戻しを行う場合でも、焼き戻し時間の合計が短ければ(ここでは50秒以下)、残留γ量を低減できること(試料No.1−2,No.1−3,No.1−6を参照)、が分かる。
本発明のオイルテンパー線は、各種のばね材料、例えば、自動車用の各種のばねのばね材料などに好適に利用することができる。より具体的には、本発明のオイルテンパー線は、エンジンの弁ばね、トランスミッション用のばねなどのばね材料に好適に利用することができる。本発明のオイルテンパー線の製造方法は、疲労特性に優れるオイルテンパー線の製造に好適に利用することができる。
Claims (7)
- 質量%で、Cを0.63%以上、Siを1.80%以上含有する鋼から構成され、
残留γ量が2体積%以下であるオイルテンパー線。 - 質量%で、Cを0.55%超、Siを1.20%以上含有する鋼から構成され、
残留γ量が1体積%未満であるオイルテンパー線。 - 前記鋼は、更に、質量%で、Vを0.02%以上0.50%以下含む請求項1又は請求項2に記載のオイルテンパー線。
- 前記鋼は、更に、質量%で、Coを0.02%以上1.00%以下含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のオイルテンパー線。
- 回転曲げ試験を行ったときの介在物に起因する折損の出現率が5%未満である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のオイルテンパー線。
- 質量%で、Cを0.55質量%超、Siを1.20%以上含有する鋼に焼き入れ焼き戻しを行う工程を備え、
前記焼き戻しは、複数回行い、前記複数回のうち、最初の1回目は、焼き戻し温度を200℃以上600℃以下、焼き戻し時間を10秒以下とするオイルテンパー線の製造方法。 - 請求項6に記載のオイルテンパー線の製造方法によって製造されたオイルテンパー線。
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