JP5630004B2 - 引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
このような要求を受けて、自動車車体の軽量化と高強度化を同時に満たすには、部品素材を高強度化し、剛性に問題とならない範囲で板厚を減ずることによる軽量化が効果的であると言われており、最近では、1180MPa級の高強度鋼板も自動車部品に一般的にも使用され始めている。さらに近年では、1500MPaを超えるより高強度な鋼板への要望も強まっている。しかし、このような1500MPaを超える高強度材では、延性や張り出し性などが低下し、冷間プレスによる成形が難しい。そのため、熱間プレスによる成形や曲げ加工主体の成形が適用されることが多い。さらに、1500MPaを超える高強度鋼板では、従来、薄鋼板では問題とされなかった遅れ破壊の問題も懸念され始めている。
一方、超高強度材として、よく知られている材料にピアノ線と呼ばれる鋼線材料がある。これは、フルパーライト組織である共析鋼を伸線加工により強加工することで、4000MPa級以上の超高強度鋼線を実現しているものである。そして、これまで、線材の分野ではその組織に関するさまざまな検討がなされている。
例えば、特許文献1には、化学成分を規定し、伸線加工前のパテンティングと呼ばれるパーライト組織を得るための熱処理で初析セメンタイトの生成を抑制し、かつパーライトの平均ラメラ間隔を0.15μm以下と微細にすることにより伸線加工性に優れる高強度鋼線材を提案している。
また、共析鋼を伸線加工ではなく、圧延加工により高強度化を試みた報告として、非特許文献1では、共析鋼を用いた冷間圧延板の機械的特性の評価を行った結果を報告している。
その結果、フェライトと炭化物が層をなした組織を主相とし、前記炭化物のアスペクト比が10以上で、かつ、その層間隔が50nm以下である層状組織を組織全体に対する体積率で55%以上とする鋼板を得ることに成功した。そしてこのようにして得られた鋼板は、引張強さが1500MPa以上の高強度を有する鋼板であることを見出した。
さらには、炭化物のうちアスペクト比が10以上の伸展した炭化物であって圧延方向に対して45°以内の角度を有する炭化物の分率が面積率で30%以上60%以下であるときに、上記特性に加え、曲げ性および耐遅れ破壊特性にも優れることも見出した。
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]成分組成は、mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含み、Cr:0.2%以上4.0%以下、Mo:0.2%以上4.0%以下、Ni:0.2%以上4.0%以下のうちいずれか一種または二種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、主相組織は、フェライトと炭化物が層をなしており、さらに、炭化物のアスペクト比が10以上で、かつ、前記層の間隔が50nm以下である層状組織が組織全体に対する体積率で55%以上であり、さらに、炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して45°以内の角度を有している炭化物の分率が面積率で30%以上60%以下であることを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板。
[2]mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含み、Cr:0.2%以上4.0%以下、Mo:0.2%以上4.0%以下、Ni:0.2%以上4.0%以下のうちいずれか一種または二種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、パーライト組織を主相とし、残部組織におけるフェライト組織が組織全体に対する体積率で20%以下(0%含む)であり、前記パーライト組織のラメラ間隔が500nm以下である鋼板に対して、圧延方向を90°回転させて圧延を繰り返し行うクロス圧延にて、圧延率:70%以上で冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
[3]mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含み、Cr:0.2%以上4.0%以下,Mo:0.2%以上4.0%以下,Ni:0.2%以上4.0%以下のうちいずれか一種または二種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを1100℃以上に加熱し、次いで、仕上圧延出側温度:850℃以上で熱間圧延を施した後、冷却速度:15℃/s以上で冷却し、巻取温度:550〜650℃で巻取り、次いで、圧延方向を90°回転させて圧延を繰り返し行うクロス圧延にて、圧延率:70%以上で冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
[4]mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含み、Cr:0.2%以上4.0%以下,Mo:0.2%以上4.0%以下,Ni:0.2%以上4.0%以下のうちいずれか一種または二種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する熱延板を、加熱温度:820℃以上で加熱し、冷却速度:10℃/s以上で550℃〜650℃まで冷却し、550℃〜650℃で保持した後、室温まで冷却し、次いで、圧延方向を90°回転させて圧延を繰り返し行うクロス圧延にて、圧延率:70%以上で冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
[5]前記[2]〜[4]のいずれかにおいて、前記冷間圧延後、さらに、溶融亜鉛めっき処理または合金化溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべてmass%である。また、本発明の高強度鋼板とは、引張強さが1500MPa以上の、冷間圧延鋼板および鋼板上に亜鉛を主体とするめっき皮膜が形成された鋼板(例えば、電気亜鉛系めっき鋼板、溶融亜鉛系めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板)である。
まず、化学成分(成分組成)およびミクロ組織と、機械的特性との関係を詳細に調査した。
従来のパーライト鋼板はフェライトとセメンタイトのラメラ組織のため、他の低温変態相と比べると低強度であった。そこで、パーライト鋼板の高強度化について検討した。その結果、組織を、冷間圧延により強加工されたフェライトと炭化物の層をなした組織(以下、層状組織と称することもある)とすることで高強度化が達成できることを見出した。そして、上記組織を有する鋼板は、冷間圧延前の鋼板として、成分組成はCr、Mo、Niのうち1種または2種以上を必須成分として含有し、組織はパーライト組織を主相とし、残部組織におけるフェライト組織が20%以下であり、パーライト組織のラメラ間隔が500nm以下である鋼板を用い、冷間圧延することで得られることも見出した。
従来は、パーライト鋼板を冷間圧延する際には加工性が問題となり、圧延時に割れが発生しやすく、試料作製が困難であった。これに対し、本発明では、冷間圧延前の鋼板を特定の成分および特定の組織からなる鋼板とすることで、強加工によりパーライト組織由来の高強度鋼板を得ることに成功した。これは本発明における特徴であり、重要な要件である。
以上述べたように、本発明は、従来では安定して得ることができなかったパーライト組織を有する鋼板での高強度化を、化学成分と組織、すなわち、フェライトと炭化物からなる層状組織とし層状組織内の炭化物のアスペクト比と層の間隔を制御することにより、達成し、発明を完成するに至ったものである。
以上より、主相組織は、フェライトと炭化物が層をなしており、さらに、炭化物のアスペクト比が10以上で、かつ、前記層の間隔が50nm以下である層状組織が組織全体に対する体積率で55%以上であり、さらに、炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して45°以内の角度を有している炭化物の分率が面積率で30%以上60%以下とする。
以下、本発明の実施に際し、組織的な限定範囲やその限定理由を記す。
上述したように、所定のパーライト組織を有する鋼板を冷間圧延して、フェライトと炭化物が、圧延方向に対して、層をなして伸展した組織を形成することにより、これまでのパーライト組織にない強度を達成できることを確認した。
なお、この層状組織は、概ね冷間圧延前のパーライト組織由来である。すなわち、層状組織は冷間圧延前のパーライト組織を基とし冷間加工により得られる。ゆえに、全組織に対する層状組織率は、冷間圧延前のパーライト組織の分率により決まり、冷間圧延前のパーライト組織が全組織に対して75%以上であれば、層状組織も75%以上となり、本発明の高強度鋼板の主相組織を形成し、冷間圧延前のパーライト組織が全組織に対して80%以上であれば、層状組織も80%以上となり、本発明の高強度鋼板の主相組織を形成する。
そして、目的とする強度(引張強さ1500MPa以上)を得るためには、層状組織を次のようにする必要がある。
炭化物のアスペクト比が小さい、つまり粒状の炭化物が多数存在する組織では、炭化物と接するフェライトとの界面がボイドの発生起点となり、所望の特性が得られなくなると考えられる。そして、アスペクト比が10未満では、伸展していない炭化物となり、その炭化物と接するフェライトとの界面からボイドが発生し、延性の低下を招くことになる。よって、炭化物のアスペクト比は10以上とする。
また、層間隔は微細になるほど強度上昇に効果があり、目的とする引張強さを得るために、層間隔は50nm以下とする。層間隔が50nm超えでは、目標とする強度(引張強さ1500MPa以上)が得られない。
以上から、層状組織内の炭化物は、アスペクト比は10以上であり、かつ、炭化物とフェライトとの層間隔は50nm以下であることが好ましい。このような層状組織が組織全体に対する体積率で55%以上であれば、1500MPa以上の高強度が得られるので、本発明においては、炭化物のアスペクト比が10以上で、かつ、前記層の間隔が50nm以下である層状組織が組織全体に対する体積率で55%以上とする。
すなわち、層間隔=線分長さ÷(線分により切断される組数×2)により算出される。
また、層間隔が50nm以下、かつ、炭化物のアスペク比10以上である層状組織の体積率は、以下のようにして求めることができる。
例えば、圧延方向に平行な断面の組織の体積率を求める場合は、5,000倍以上のSEM写真(圧延方向断面)で圧延方向に垂直な線分を引き、その線分が切断する層状組織のうち、炭化物のアスペクト比が10以上かつ層間隔が50nm以下の層構造を有する部分の分率(線分長さ)を求める。5視野以上について、前記分率を求め、その平均値を体積率とする。線分の例を図1に示す。
炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して45°以内の角度を有している炭化物の分率が面積率で30%以上60%以下
曲げ加工では、フェライト/セメンタイト界面がボイドの発生起点となりやすい。そこで、圧延方向を曲げサンプルの長手方向とすると、圧延方向に炭化物が伸展した組織では、曲げ方向(曲げサンプルの長手方向)に対し、炭化物の長径方向が45°以内となる炭化物が面積率で30%以上60%以下で存在することにより圧延方向および圧延直角方向の曲げ加工性が向上し、耐遅れ破壊特性も向上する。より好ましくは、35%以上55%以下である。すなわち、炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して45°以内の角度を有している炭化物の分率を、面積率で30%以上とすることにより、圧延方向の曲げ加工性が向上する。一方、上記面積率が60%を超えると、圧延直角方向に対して45°以内の角度を有している炭化物の分率を十分に確保することができないため、圧延直角方向の曲げ加工性が低下する。このため、炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して45°以内の角度を有している炭化物の分率を面積率で30%以上60%以下とする。
また、このような炭化物の伸展方向については、次のような方法で測定することができる。圧延方向に垂直な板面をナイタールエッチングし、走査顕微鏡(SEM)を用いて、3,000倍以上で5視野以上撮影し、画像解析などの手法により以下のように測定することができる。アスペクト比10以上の炭化物について、炭化物の長径に対し平行に直線を引き、該直線が圧延方向となす角度が45°以内となる炭化物の炭化物全体に対する分率を面積率で求める。5視野以上について、前記分率を求め、その平均値を炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して45°以内の角度を有している炭化物の分率とする。
C:0.3〜1.0%
Cは、強度確保のために必要不可欠な成分であり、目的とする強度(引張強さ1500MPa以上)を得るために必要なパーライト組織を生成させるためには、0.3%以上含有する必要がある。C量が0.3%未満では、十分な量のパーライト組織を得ることが困難である。好ましくは0.4%以上である。一方、1.0%を超えるCの含有は、延性の低下を招き、加工性を低下させる。以上より、C量は0.3%以上1.0%以下とする。好ましくは、0.4%以上1.0%以下である。
Siは、固溶強化に有効な元素であるため、0.01%以上含有することが好ましい。しかし、Si量が2.0%を超えると、熱間圧延時に赤スケールと称される表面欠陥が発生する。また、溶融亜鉛めっき(合金化を含む)を施す場合には、めっきの濡れ性を悪くしてめっきむらの発生を招き、表面外観を悪くする。よって、Si量は2.0%以下とする。また、めっき処理性の観点から好ましくは1.5%以下、表面性状やめっき性向上の観点からより好ましくは0.5%以下である。
Mnは、固溶強化の観点から、0.01%以上含有することが好ましい。しかし、Mn量が2.0%を超えると偏析が生じ、加工性が低下する。よって、Mn量は2.0%以下とする。
Pは、固溶強化に対して効果がある元素である。しかしながら、P量が0.005%未満では、その効果が現れないため、0.005%以上、好ましくは0.01%以上含有する。一方、0.1%を超える過剰なPの含有は、Pが粒界に偏析し、脆化を引き起こし、耐衝撃性を劣化させる。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする際には、合金化速度を大幅に遅延させる。よって、P量は0.1%以下とする。
Sは、MnSなどの介在物となって、耐衝撃性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となるので極力低い方がよいが、製造コストの面から0.05%以下とする。
Alは、鋼の固溶強化元素、脱酸元素として有用である。また、不純物として存在する固溶Nを固定して耐常温時効性を向上させる作用がある。このような作用を発揮させるためには、Al量は0.005%以上とする。一方、Al量が0.1%を超えると高合金コストを招き、さらに表面欠陥を誘発する原因となる。以上よりAl量は0.005%以上0.1%以下とする。
Nは、耐常温時効性を劣化させる元素である。また、N量が多くなると、固溶Nを固定するために多量のTiやAl添加が必要となる。よって、これらの点からできるだけ低減することが好ましいが、0.01%程度までは許容できるため、N量は0.01%以下とする。
これらは、本発明において重要な添加元素であり、パーライト組織内の炭化物の加工性を向上させる。この効果を得るためには、Cr、Mo、Niのうち少なくとも1種以上を各々0.2%以上添加する。この効果を十分に得るために、好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.9%以上である。一方、4.0%超えの添加は効果が飽和するとともに、延性の低下も招くため、Cr、Mo、Niの各々は4.0%以下とする。
本発明の高強度鋼板は、上記化学成分範囲に調整され、パーライト組織を主相とし、フェライト組織が20%以下であり、かつパーライト組織のラメラ間隔が500nm以下である鋼板に対して、クロス圧延にて圧延率70%以上(好適には85%以上)の冷間圧延を施すことにより得られる。
冷間圧延後に前記したフェライトと炭化物の層状組織を得るためには、冷間圧延前の組織としては、パーライト組織を主相とし、残部組織におけるフェライト組織を組織全体に対する体積率で20%以下とすることが必要である。なお、パーライト組織を主相とするとは、パーライト組織の組織全体に対する体積率が75%以上であることを意味する。
フェライト組織は分率が大きいほど冷間加工性は向上するが、冷間圧延後の強度を確保するためには、20%以下(0%含む)とする必要がある。すなわち、冷間圧延後に前記層状組織とするためには、パーライト組織からなることが好ましいが、フェライト組織を20%以下含んでいてもよい。フェライト組織が20%より多いと、クロス圧延にて圧延率70%以上の冷間圧延を施しても1500MPa以上の強度が得られない。なお、パーライト組織およびフェライト組織以外には炭化物、マルテンサイトなどが不可避的に存在する場合もあるが、体積率で5%以下であれば本発明の効果を得る上で問題はない。
さらに、パーライトのラメラ間隔は500nm以下であることが必要である。500nmより大きいと、その後の冷間圧延時に横割れが発生し、十分な冷間加工性が得られない。また、圧延後の組織も粗大となってしまうため、強度も確保できない。好ましくは300nm以下である。
ここで、パーライトのラメラ間隔は、ラメラを構成する隣り合うフェライト層と炭化物層各々の厚さ方向の中心点間の平均距離を意味する。前記平均距離は、例えば、フェライト層1層と炭化物層1層を一組の層としてとらえ、組織観察において層の展伸方向に対して垂直方向の所定長さの線分により何組の層が切断されるかを測定して求めればよい。なお、線分の両端で線分により完全には切断されない層は、計測しない。
すなわち、ラメラ間隔=線分長さ÷(線分により切断される組数×2)により算出される。
なお、上記組織は、圧延方向に平行な断面をナイタールによりエッチングし、走査顕微鏡(SEM)を用いて、3,000倍以上で3視野以上撮影し、画像解析などの手法により測定することができる。また、簡便には、フェライトと炭化物が交互に並んでいるため、(線分により切断される組数)を(炭化物数)として求めてもよい。
1)熱延プロセスを規定することにより上記冷間圧延前組織を有する鋼板を製造する。
上記化学成分範囲に調整された鋼スラブを1100℃以上に加熱し、次いで、仕上圧延出側温度:850℃以上とする熱間圧延を施した後、冷却速度:15℃/s以上で冷却し、巻取温度:550〜650℃で巻取り熱延板とする。次いで、圧延方向を90°回転させて圧延を繰り返し行うクロス圧延にて、圧延率:70%以上で冷間圧延を施す。
スラブ加熱温度が1100℃未満では、圧延加重が増大し、熱間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大する。よって、スラブ加熱温度は1100℃以上にする。なお、酸化重量の増加に伴うスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度の上限は1300℃とすることが好ましい。
上記条件で加熱された鋼スラブに粗圧延および仕上圧延を行う熱間圧延を施す。ここで、鋼スラブは粗圧延によりシートバーとされる。なお、粗圧延の条件は特に規定する必要はなく、通常の条件で行えばよい。
次いで、シートバーを仕上圧延して熱延板とする。このとき、仕上圧延出側温度(以下、FTと称することもある)は850℃以上とする。 FTが850℃未満では、熱間圧延時の負荷が高くなる。よって、FTは850℃以上とする。
仕上圧延後、コイル巻取温度(以下、CTと称することもある)までの冷却速度は15℃/s以上とする。冷却速度が15℃/sより小さいと、CT以上でパーライト変態が進行し、ラメラ間隔の大きなパーライトとなり、冷間圧延しても目的とする特性が得られない。よって、冷却速度は15℃/s以上とする。
コイル巻取温度(CT)は、550℃〜650℃とする。650℃より高温では、パーライトのラメラ間隔が粗大となってしまう他、粒状の炭化物が生成してしまうため、冷間加工時の加工性の低下を招いてしまう。また、550℃より低温ではパーライト変態の進行が遅くなり、変態が完了しないことが考えられる。よって、CTは550℃以上650℃以下とする。
以上により得られた鋼板に対して、圧延方向を90°回転させて圧延を繰り返し行うクロス圧延にて、圧延率:70%以上で冷間圧延を施し、目的とする強度(引張強さが1500MPa以上)を得る。圧延率が70%よりも小さいと1500MPa以上の引張強度を得ることが困難な場合がある。なお、クロス圧延についての詳細は後述する。また、本発明において、圧延率とは圧下率を意味し、下式により定義される。
圧延率(%)=(t0−t)/t0×100
t0:初期板厚(mm)、t:仕上板厚(圧延後板厚)(mm)
2)熱延板を熱処理することにより上記圧延前組織を有する鋼板を製造する。
別の方法としては、上記化学成分範囲に調整された鋼に対して熱間圧延まで施し、得られた熱延板に対して、加熱温度:820℃以上で加熱し、冷却速度:10℃/s以上で550℃〜650℃まで冷却し、550℃〜650℃で保持した後、室温まで冷却する。次いで、圧延方向を90°回転させて圧延を繰り返し行うクロス圧延にて、圧延率:70%以上で冷間圧延を施す。
粗圧延および仕上圧延を行う熱間圧延の条件については、特に規定する必要はなく、通常の条件で行い、熱延板とする。
熱延板を820℃以上に加熱する。820℃未満では、フェライト相(フェライト組織)が多く、目的とする強度が得られない。安定して均一な組織を得るために、好ましくは850℃以上とする。
その後、パーライト変態を抑制できる10℃/s以上の冷却速度で550℃〜650℃まで冷却し、550℃〜650℃の温度範囲で保持することによりパーライト組織を得る。冷却速度が10℃/sより小さいと、保持温度以上でパーライト変態が進行し、ラメラ間隔の大きなパーライトとなり、冷間圧延しても目的とする特性が得られない。パーライト変態について、保持温度が650℃より高温では、パーライトのラメラ間隔が粗大となってしまう他、粒状の炭化物が生成してしまうため、冷間加工時の加工性の低下を招いてしまう。また、保持温度が550℃より低温ではパーライト変態の進行が遅くなり、変態が完了しないことが考えられるため、550℃以上とする。なお、保持時間は、パーライト変態が十分に進行する時間保持すればよく、15秒以上が好ましい。
次いで、室温まで冷却後、冷間圧延を施す。室温までの冷却は特に規定しない。冷間圧延は、圧延パス毎に圧延方向を90°回転させて圧延を繰り返し行うクロス圧延にて、圧延率:70%以上で行い、目的とする強度(引張強さが1500MPa以上)を得る。圧延率が70%よりも小さいと1500MPa以上の引張強度を得ることが困難な場合がある。
なお、本発明におけるクロス圧延とは、圧延パス毎に圧延方向を90°回転させて圧延を繰り返し行う方法を基本とするが、圧延方向および圧延直角方向、共に所望の圧延率が得られれば、圧延方向と圧延直角方向に交互に圧延する方法でなくてもよい。例えば、圧延方向に、2〜3パス連続して圧延を行った後に圧延直角方向に圧延することもできる。また、圧延方向と圧延直角方向に交互に圧延を行う場合、一組の圧延方向と圧延直角方向の圧下率は同程度とすることが好ましい。さらに、トータルの圧下率のうち、圧延方向での圧延と圧延直角方向での圧延のそれぞれの圧下率は30%以上70%以下とすることが好ましい。
以上により、引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板が得られる。さらに、前記冷間圧延後、溶融亜鉛めっき処理または合金化溶融亜鉛めっき処理を施すこともできる。また、常法に従い、電気亜鉛めっき等の電気めっき処理を施すこともできる。
溶融亜鉛めっきを施す場合は、めっき浴の浴温420〜480℃で鋼板をめっき浴中に浸入させて行い、ガスワイピングなどで付着量を調整する。
さらに合金化処理を施す場合には430〜550℃以下で処理することが望ましい。550℃超えでは、冷間圧延による加工組織が再結晶を開始し、目標とする特性、組織が得られない場合がある。また、パウダリング性も劣化する。430℃未満では合金化が進行しない。
また、めっき付着量は片面当たり20〜150g/m2が好ましい。20g/m2未満は耐食性が劣化する。150 g/m2越えはコストアップし、かつ耐食効果が飽和する。
合金化度は7〜15%が好ましい。7%未満では合金化ムラが生じ外観性が劣化し、いわゆるζ相が生成し摺動性が劣化する。15%越えは硬質で脆いΓ相が多量に形成しめっき密着性が劣化する。
また、上記スラブを1250℃に加熱後、仕上圧延温度880℃で熱間圧延し、冷却後、600℃で巻き取りを行い得られた熱延板に対して、1000℃で1時間の加熱後、表3に示す条件で、冷却、保持し室温まで冷却して鋼板No.8〜16を得た。なお、保持時間は60sとした。
以上により得られた鋼板に対して、冷間圧延を行う前の鋼板組織観察として、パーライト体積率、フェライト体積率、パーライトラメラ間隔の測定を行った。なお、各々の組織の体積率は、各々の面積率を測定しこれを体積率とした。
引き続き、上記鋼板No1〜16に対して、表2および表3に示す冷間圧延率で冷間圧延を行い、冷間加工性を評価した。また、加工性に優れるものは、冷間圧延後の組織観察、引張特性、曲げ加工性および耐遅れ破壊特性の調査を行った。
各調査方法の詳細は下記の通りである。
また、一部については、冷間圧延後、合金化溶融亜鉛めっき処理を行い、めっき処理鋼板とした。めっき処理は、浴温463℃のめっき浴にて行い、500℃で合金化処理を施した。
パーライト体積率およびフェライト体積率は、各冷間圧延前の鋼板から試験片を採取し、圧延方向に平行な板厚断面(L断面)をナイタールエッチングし、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、1,000倍で3視野以上撮像し、画像解析などの手法により測定した。
また、パーライトのラメラ間隔(S0)は、SEMを用い、3,000倍以上で3視野以上撮像し、前述の方法に則り次式で求めた。なお、ここで、フェライトと炭化物は交互に並んでいるため、(線分により切断される組数)を炭化物数(n)として用いた。
S0=L/2 (1)
L:任意長さl中の炭化物数nで割った平均切片間隔
なお、任意長さlは、n≧20となる長さとした。
冷間加工性の評価は、横割れが発生せずに圧延できる圧延率を限界圧延率とし、70%以上割れが発生せずに圧延できるか否かを評価した。すなわち、冷間圧延率が70%以上で横割れが発生せずに圧延できたものを○とした。
フェライトと炭化物からなる層状組織内の炭化物のアスペクト比は、各冷間圧延後の鋼板から試験片を採取し、圧延方向に平行な板厚断面(L断面)および圧延方向に直角な板厚断面(C断面)をナイタールエッチングし、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、5,000倍以上で5視野以上撮像し、画像解析の手法により測定した。なお、ここで、圧延方向とは、熱間圧延時の圧延方向を意味する。
アスペクト比は「炭化物の長径(長さ(最大径))/短径(厚さ(最小径))」で定義され、明らかに10倍以上のものは、詳細な測定を省略した。
また、層間隔および層状組織の体積率は前記の方法にて求めた。なお、線分長さは層の数N≧20となるようにした。
また、アスペクト比10以上を満たす炭化物の長径と圧延方向のなす角度については、以下のように測定した。圧延方向に垂直な板面(板表面から1/4深さ位置)をナイタールエッチングし、走査顕微鏡(SEM)を用いて、3,000倍以上で5視野以上撮影し、画像解析の手法により測定した。アスペクト比10以上の炭化物の長径に対し平行に直線を引き、該直線が圧延方向に対して45°以内となる炭化物について、観察される炭化物全体に対する分率(面積率)を求め、その平均値を求めた。なお、観察する圧延方向は、熱間圧延時の圧延方向を基本とするが、これと直交する方向でも同様の結果を得ることを確認している。
得られた各冷間圧延焼鈍板から圧延方向に対して0°方向(L方向)および90°方向(C方向)にJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠してクロスヘッド速度10mm/minで引張試験を行い、引張強さ(TS(MPa))、降伏強度(YS(MPa))、全伸び(El(%))を求めた。
曲げ加工性は、圧延方向に対して0°方向(L方向) を長手方向とする試験片および90°方向(C方向)を長手方向とする試験片を採取し、V曲げ試験により評価した。なお、試験片形状は、幅30mm、長さ100mm、厚さ1mmとした。割れなく成形可能な曲げ半径が板厚の5倍以下(R/t≦5、R:曲げ半径(mm)、t:板厚(mm))の場合を良好と判断した。
耐遅れ破壊特性は、圧延方向に対して0°方向(L方向) および90°方向(C方向)に試験片を採取し、U曲げ(R=10mm)後にボルト締結をしたサンプルをpH=3の塩酸に浸漬し、48時間以上未破壊のものを良好と判断した。なお、試験片形状は、幅30mm、長さ100mm、厚さ1mmとした。
Claims (5)
- 成分組成は、mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含み、Cr:0.5%以上4.0%以下、Mo:0.2%以上4.0%以下、Ni:0.2%以上4.0%以下のうちいずれか一種または二種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、主相組織は、フェライトと炭化物が層をなしており、さらに、炭化物のアスペクト比が10以上で、かつ、前記層の間隔が50nm以下である層状組織が組織全体に対する体積率で55%以上であり、さらに、炭化物のうちアスペクト比が10以上かつ圧延方向に対して45°以内の角度を有している炭化物の分率が面積率で30%以上60%以下であることを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板。
- 請求項1に記載の高強度鋼板の製造方法であって、
mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含み、Cr:0.5%以上4.0%以下、Mo:0.2%以上4.0%以下、Ni:0.2%以上4.0%以下のうちいずれか一種または二種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、パーライト組織を主相とし、残部組織におけるフェライト組織が組織全体に対する体積率で20%以下(0%含む)であり、前記パーライト組織のラメラ間隔が500nm以下である鋼板に対して、圧延方向を90°回転させて圧延を繰り返し行うクロス圧延にて、圧延率:70%以上で冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。 - 請求項1に記載の高強度鋼板の製造方法であって、
mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含み、Cr:0.5%以上4.0%以下,Mo:0.2%以上4.0%以下,Ni:0.2%以上4.0%以下のうちいずれか一種または二種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを1100℃以上に加熱し、次いで、仕上圧延出側温度:850℃以上で熱間圧延を施した後、冷却速度:15℃/s以上で冷却し、巻取温度:550〜650℃で巻取り、次いで、圧延方向を90°回転させて圧延を繰り返し行うクロス圧延にて、圧延率:70%以上で冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。 - 請求項1に記載の高強度鋼板の製造方法であって、
mass%で、C:0.3〜1.0%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.005〜0.1%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含み、Cr:0.5%以上4.0%以下,Mo:0.2%以上4.0%以下,Ni:0.2%以上4.0%以下のうちいずれか一種または二種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する熱延板を、加熱温度:820℃以上で加熱し、冷却速度:10℃/s以上で550℃〜650℃まで冷却し、550℃〜650℃で保持した後、室温まで冷却し、次いで、圧延方向を90°回転させて圧延を繰り返し行うクロス圧延にて、圧延率:70%以上で冷間圧延を施すことを特徴とする引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。 - 前記冷間圧延後、さらに、溶融亜鉛めっき処理または合金化溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の引張強さが1500MPa以上の高強度鋼板の製造方法。
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