JP3964246B2 - 亀裂伝播抵抗に優れたスチールベルト用鋼板およびその製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素鋼を素材としたスチールベルト用の鋼板であって、特に亀裂伝播抵抗を改善したスチールベルト用鋼板およびその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
スチールベルトには、ステンレス鋼を素材とした「ステンレススチールベルト」と炭素鋼を素材とした「カーボンスチールベルト」がある。本発明は後者のカーボンスチールベルトを対象とするものである。カーボンスチールベルトの代表的な用途としては、クッキーなどを焼成するオーブンのベルトコンベアが挙げられる。以下、本明細書においてスチールベルトとは「カーボンスチールベルト」を意味する。
【0003】
スチールベルトには以下の特性が要求される。
(a)「強度(硬さ)−延性・靱性」バランス
スチールベルトは、コンベアの用途に応じて適度な張力を負荷して使用されるので、負荷される張力下で変形しないだけの強度が必要である。また、使用中に「扱い疵」がつかない程度の表面硬さが要求される。一方、スチールベルト製造時には鋼材に引張変形を加えることにより形状修正が行われる。その際、強度が高すぎると延性(塑性変形能)が不足し形状修正ができない。また、使用中の靱性を確保するためにも適度な延性が必要である。
(b)疲労強度
ベルトコンベアは使用中に繰り返し曲げ応力が負荷されるので、疲労強度が高いことが必要である。
(c)溶接性
鋼板をエンドレスのベルト形状にする際、溶接が施される。また、スチールベルトの補修時にも溶接が施されることがある。したがって、良好な溶接性を有することが必要である。
【0004】
このような特性を獲得する手法について、従来、種々の研究がなされ、例えば、中炭素鋼に焼入れ・焼戻し処理と調質圧延を付与する方法や、特開昭47−38616号あるいは特開昭57−101615号に示されるように、本来鋼線の分野で利用されていたパテンティング,ブルーイングといった処理を鋼板に適用する方法などが開発されている。そして、今日においては、その大半が以下のいずれかの方法により製造されている。
i) (約0.65%C鋼の熱延または冷延鋼板)→焼入れ・焼戻し
ii)(約0.65%C鋼の熱延または冷延鋼板)→パテンティング→冷延→ブルーイング
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
現在使用されているスチールベルトは、上記(a)〜(c)の特性に関し、ほぼ実用的に問題のないレベルの基本性能を有している。ところが昨今、耐久性(寿命)についての改善要求が高まっている。
【0006】
スチールベルトの耐久性を劣化させる要因の一つに疲労破壊がある。疲労破壊は、ベルトの端面(エッジ面)に存在する疵や使用中に生じた疵などを起点として形成される微小亀裂が、繰返し応力によって周囲に伝播することによって起こる。亀裂が伝播し易い性質の材料、すなわち「亀裂伝播抵抗」の小さい材料は、繰返し応力を受けることにより微小亀裂がいわゆる疲労亀裂に進展し易い。疲労亀裂がある大きさまで成長すると、繰返し応力下において突然、材料が破断する。これが疲労破壊である。したがって、スチールベルトの耐久性・信頼性を向上させるには、亀裂伝播抵抗を高めることが重要である。
【0007】
亀裂伝播抵抗は、材料の金属組織に大きく影響されると考えられる。しかし、スチールベルト用鋼板においては、前述のように、パテンティングなどの熱処理を利用した組織制御が実用化されてはいるものの、亀裂伝播抵抗に着目してこれを改善する方法を開示したものは見当たらない。単に金属組織を微細化するだけでは亀裂伝播抵抗を大幅にかつ安定して向上させることは困難であり、このことがスチールベルトの耐久性向上技術の進捗を阻んでいる一因になっていると考えられる。そこで本発明は、亀裂伝播抵抗の安定的な向上に有効な金属組織を明らかにし、スチールベルト用鋼板の亀裂伝播抵抗を顕著に向上させることを第1の目的とする。
【0008】
また、現行のスチールベルト用鋼板は前記のように手間のかかる熱処理を経て製造されている。特にパテンティングは恒温変態処理であるから、製造コストの上昇を招いている。そこで本発明では、亀裂伝播抵抗の高い鋼板をできるだけ簡易な工程で製造することを第2の目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
スチールベルトに適した「強度−延・靱性」のバランスを高レベルで発揮する金属組織としては、実用的にはパーライト主体の組織が最適であると考えられる。そこで発明者らは、パーライト主体の組織を有する鋼板において、亀裂伝播抵抗の改善に効果的な組織状態はどのようなものであるのか、種々研究を重ねてきた。特に、パーライトを構成するフェライト・ラメラとセメンタイト・ラメラについての微視的な観察を加え、詳細な検討を行った。その結果、以下の知見を得るに至った。
【0010】
▲1▼.初析フェライト+パーライトの組織を有する鋼板を加工した場合、加工硬化した初析フェライト相と加工硬化したパーライト組織とでは、パーライト組織の方が亀裂伝播抵抗が大きい。耐久性の高いスチールベルトを得るには鋼板中にパーライト組織が50体積%以上必要である。
▲2▼.冷延工程においてパーライト組織中にはミクロな割れが導入され、これが、疲労亀裂の起点になりうる。そのミクロな割れはセメンタイト・ラメラに発生する。
▲3▼.パーライト組織中のセメンタイト・ラメラが薄いほど冷延でのミクロな割れは生じにくい。特に、セメンタイト・ラメラとフェライト・ラメラの相対的な厚さの比が重要であり、その比が1:9以下(すなわち、パーライト組織中のセメンタイトの体積率が10%以下)であるとき、セメンタイト・ラメラは急に割れにくくなり、鋼板の亀裂伝播抵抗は大幅に向上する。
▲4▼.スチールベルトとして使用される状態の鋼板において、初析フェライト相の板厚方向の厚さが5μm以下のとき、高い亀裂伝播抵抗が得られる。
本発明は、これらの知見に基づき完成したものである。
【0011】
すなわち、上記目的は、質量%で、C:0.30〜0.60%,Si:1.0%以下,Mn:0.10〜1.0%,P:0.020%以下,S:0.010%以下、残部がF e および不可避的不純物である炭素鋼からなる時効処理された鋼板であって、金属組織中に占めるパーライト組織の体積率が50%以上であり、そのパーライト組織中に占めるセメンタイト・ラメラの体積率が10%以下であり、初析フェライト相の板厚方向の厚さが5μm以下であるとともに、圧延方向における室温での引張強さが1000MPa以上、全伸びが6%以上であり、かつ下記〔A〕に定義する亀裂伝播抵抗が600MPa以上であるスチールベルト用鋼板によって達成される。
〔A〕図1に示す試験片の長手方向(鋼板の圧延方向に一致)に、室温で引張速度0.3mm/minの引張試験を行って、荷重−伸び曲線から最大荷重を求め、その最大荷重を初期断面積(45mm×板厚)で除した値(単位:MPa)を亀裂伝播抵抗とする。
【0012】
その鋼板において、化学組成が特に、質量%で、C:0.30〜0.60%,Si:1.0%以下,Mn:0.10〜1.0%,P:0.020%以下,S:0.010%以下,Cr:0(無添加)〜1.0%好ましくは0.1〜1.0%,V:0(無添加)〜0.5%,Ti:0(無添加)〜0.1%,Nb:0(無添加)〜0.1%,B:0(無添加)〜0.01%で、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼からなるものを提供する。
ここで、Cr,V,Ti,Nb,Bの下限を0%(無添加)としたのは、これらの元素はSi等とは異なり、通常の製鋼プロセスにおいては添加しない限り含有量はゼロ(測定限界以下)となるので、無添加の場合を含む点を明確にするためである。
【0014】
ここで、図1(a)は、試験片の全体形状を示す平面図である。試験片の長手方向が鋼板の圧延方向に一致する。図1(b)は、(a)の中央部に示される穴の部分の拡大図であり、穴と、その周囲に形成されたノッチおよび疲労予亀裂の形状・寸法を示すものである。
試験片中央部の直径4.0mmの穴の板幅方向両側には、幅約2.5mmのノッチが形成され、さらにそのノッチの先端には長さ3.5±0.1mmの疲労予亀裂が形成されている。疲労予亀裂は、穴の両側にノッチを形成した後、予め、試験片の長手方向に繰返し応力を負荷する部分片振り疲労試験を行うことによって形成することができる。
【0015】
また、本発明では、これらの鋼板の製造法として、仕上熱延温度:800〜900℃,仕上熱延後、巻取まで平均冷却速度:20℃/sec以上,巻取温度:450〜650℃の条件で熱間圧延を行った後、熱処理を行わずに冷間圧延(例えば冷間圧延率30〜80%)を施し、次いで200〜500℃で20〜30時間保持する時効処理を施す方法を提供する。さらに、必要に応じて時効処理後に圧延率10%以下の調質圧延を施す方法を提供する。
ここで、仕上熱延温度とは、熱延最終パスのスタンドにおける出側での鋼板表面温度をいう。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明のスチールベルト用鋼板は、成分元素と金属組織、さらに必要に応じて機械的性質によって特徴付けられる。以下、本発明を特定するための事項について説明する。
【0017】
〔成分元素〕
Cは、パーライト主体の金属組織を得るために重要な元素である。すなわち、C含有量は、パーライトの生成量および形態に大きな影響を及ぼす。
C量が0.3質量%未満では、熱延鋼板中におけるパーライト組織の体積率が減少し、スチールベルトに使用される状態の鋼板において50体積%以上のパーライト組織を確保することが困難になる。また、初析フェライトが増加することにより冷間圧延での加工硬化能が低下するので、目標の強度レベルを得るには冷延率が過大となる恐れがある。さらに、初析フェライト相の加工歪が過大となることに加え、延・靱性に有利なパーライト組織が少ないため、延・靱性の大幅な低下を招く。このため、C含有量は0.3質量%以上を確保しなければならない。
【0018】
一方、C量が増加すると、パーライト組織中のセメンタイト比率が高まる。特に、0.6質量%を超えると、パーライト組織中のセメンタイト・ラメラの体積率を10%以下にするのが困難になり、亀裂伝播抵抗の安定的な向上が図れない。また、溶接部の硬さが上昇し、靱性が低下する。以上のことから、本発明ではC含有量を0.3〜0.6質量%の範囲に厳密にコントロールする必要がある。
【0019】
Siは、溶鋼の脱酸元素として有効である。ただし、1.0質量%を超えると熱延板,冷延板がともに硬質となり、製造性が低下する。
【0020】
Mnは、パーライト組織中のラメラ間隔を微細化する。Mn量が0.10質量%未満では層状のパーライト組織が形成されず、粒状セメンタイトが分散した擬似パーライト組織になりやすい。そうなると本来の優れた「強度−延・靱性」バランスが得られない。一方、1.0質量%を超えると鋼板が硬質化するすることにより靱性が劣化する。
【0021】
Pは、オーステナイト粒界に偏析して鋼板の靱性を劣化させる。実質的に問題にならない範囲として、本発明では0.02質量%までのP含有を許容する。
Sは、鋼中でMnSを形成し亀裂の起点となりやすく、疲労特性の低下を招く。実質的に問題にならない範囲として、本発明では0.01質量%までのS含有を許容する。
【0022】
Crは、パーライト組織中のラメラ間隔を微細化するので、強度向上を狙う場合には添加が有利である。また、パーライト変態特性(TTT曲線におけるノーズの位置)を制御するために添加することができる。ラメラ間隔を微細化する効果を十分に得るには0.1%質量以上のCr添加が望ましい。ただし、1.0質量%を超えるとセメンタイトが硬質化し、亀裂伝播抵抗が低下する。
【0023】
V,Ti,Nbは、いずれも旧オーステナイト粒径を微細化する効果を有し、亀裂伝播抵抗の向上に寄与するので、これらを単独または複合で添加することができる。ただし、あまり多量に添加してもその効果は飽和するので、Vは0.5質量%以下、Ti,Nbは0.1質量%以下とすることが望ましい。
【0024】
Bは、旧オーステナイト粒界を強化する効果により、亀裂伝播抵抗の向上に寄与する。ただし、あまり多量に添加してもその効果は飽和するので、Bを添加する場合は0.01質量%以下とすることが望ましい。なお、上記効果を顕著に発揮させるためには0.001質量%以上のB添加が好ましい。
【0025】
〔金属組織〕
本発明では、スチールベルトとして使用される状態の鋼板において、金属組織中に占めるパーライト組織の体積率が50%以上であることを要件とする。パーライト以外の残部は実質的に初析フェライト相からなる。
パーライトを含む金属組織の熱延鋼板を冷間圧延すると、パーライト組織のラメラが冷延方向に配向しながら、ラメラ間隔が微細化する。そして、圧延方向に揃った微細ラメラが形成されることによってパーライト組織は加工硬化する。ラメラが圧延方向に揃った微細なパーライト組織は、強度が高いにもかかわらず靱性低下が小さい。また、さらに時効処理を行うと高強度を保ったままで延・靱性が一層改善される。
【0026】
パーライト組織の量が少ない場合、スチールベルトとして求められる強度レベル(引張強さ1000MPa以上)を得るには、加工硬化能の小さい初析フェライト相が多い分、冷延率を高めざるを得ない。加工硬化した初析フェライト相と加工硬化したパーライト組織を比較すると、後者の方が亀裂伝播抵抗が大きいので、パーライトが少ないと、鋼板の亀裂伝播抵抗を向上させるうえで非常に不利である。種々検討の結果、引張強さ1000MPa以上の高強度を維持しながら、亀裂伝播抵抗を顕著に向上させるには、鋼板の金属組織中に占めるパーライト組織の体積率は少なくとも50%以上とすべきであることが判明した。
【0027】
次に、本発明では、パーライト組織中に占めるセメンタイト・ラメラの体積率が10%以下であることを規定する。
発明者らの微視的な観察によると、パーライト組織中のフェライト・ラメラの厚さに対するセメンタイト・ラメラの相対的な厚さが大きくなると、冷間圧延した際にセメンタイト・ラメラに割れが頻発するようになることがわかった。また、その割れの生じ易さは、パーライト組織のラメラ間隔が大きいほど助長されることがわかった。セメンタイト・ラメラが割れた部分はボイドとなり、初期亀裂として作用する。特に、外的要因(外部からの疵など)から生じた微視亀裂の先端付近に位置するセメンタイト・ラメラに初期亀裂が発生すると、亀裂伝播抵抗は大きく低下する。
【0028】
セメンタイト・ラメラを割れにくくするには、以下の手段が考えられる。
i) パーライト変態温度を低くしてラメラ間隔を小さくする。
ii) 母相オーステナイト中の炭素濃度を低くしてパーライト組織中のセメンタイト・ラメラの厚さを相対的に薄くする。
このうち、i)の手段を試みたところ、パーライト組織の硬さが上昇してしまい、効果的に亀裂伝播抵抗を高めることはできなかった。これは、パーライト組織の硬さは主としてフェライト・ラメラの厚さに依存していることによると考えられる。
【0029】
一方、ii)の手段は非常に効果的であった。金属組織中に占めるパーライト組織の体積率が50%以上である冷延後の鋼板について、セメンタイト・ラメラの割れ発生状況を詳細に調査した結果、パーライト組織中において、相隣り合うセメンタイト・ラメラとフェライト・ラメラの相対的な厚さの比が1:9以下になると、セメンタイト・ラメラは急に割れにくくなることが判明した。その結果、亀裂伝播抵抗は著しく向上する。すなわち発明者らは、スチールベルトとして使用される状態の鋼板(通常、冷延工程を経ている)において、パーライト組織中のセメンタイト・ラメラの体積率が10%以下であることが、高い亀裂伝播抵抗を呈するために重要であることを見出した。
【0030】
パーライト組織中のセメンタイト・ラメラの体積率を10%以下にするには、基本的には鋼板のC含有量を低減する必要がある。ただし、C含有量によってセメンタイト・ラメラの体積率が一義的に決まるわけではない。すなわち、熱延組織が初析フェライト+パーライト組織になるとき、C含有量が低い鋼板では、初析フェライト相が生成し易い。初析フェライト相が多くなれば必然的にパーライト組織中のセメンタイト体積率は増大することになる。
【0031】
種々検討の結果、この問題は、熱間圧延において、仕上熱延後の冷却速度を大きくすることで解消できた。冷却速度を大きくするとパーライト変態に対する過冷度が大きくなり、初析フェライト相の生成が抑制され、その結果、パーライト組織中のセメンタイト・ラメラの体積率を10%以下に低減できる。
【0032】
さらに、本発明では、スチールベルトに使用される状態の鋼板において、初析フェライト相の板厚方向の厚さが5μm以下であることを規定する。
フェライト相は延性に富んだ相であるが、強冷延後の「強度−延・靱性」バランスはパーライト組織に比べ劣っている。熱延組織中の初析フェライト相は冷延によって圧延方向に展伸されるが、冷延後の初析フェライト相の板厚方向厚さが5μmを超えていると、パーライト組織の延・靱性を損ない、亀裂伝播抵抗は低下する。
【0033】
〔機械的性質〕
本発明では、好ましい鋼板の機械的性質として、圧延方向における室温での引張強さが1000MPa以上,全伸びが6%以上であり、かつ、前記〔A〕に定義した亀裂伝播抵抗が600MPa以上であることを規定する。特に、この亀裂伝播抵抗が600MPa以上であるものは、スチールベルトの使用において優れた耐久性・信頼性を有するものである。
【0034】
以上説明した金属組織を有するスチールベルト用鋼板は、以下の方法で製造することができる。
〔熱間圧延〕
熱間圧延では、パーライト変態の過冷度を大きくするために、仕上熱延後の冷却速度を大きくすることが望ましい。具体的には、先に説明した成分組成を有する鋼を用いた場合、仕上熱延温度を800〜900℃とし、その後、巻取までの間の平均冷却速度が20℃/sec以上となるように急冷し、450〜650℃で巻き取る方法が好適に採用できる。
【0035】
〔冷間圧延〕
本発明では、上述のように「強度−延・靱性」バランスと耐久性を高レベルで実現できる金属組織を明らかにした。製造工程についても種々検討したところ、このような金属組織を呈する鋼板は、従来のような恒温変態処理を行わず、熱延鋼板を直接冷間圧延する方法により製造できることが確認できた。冷間圧延率は30〜80%にするのが好ましい。具体的には、前記の熱延を行った熱延鋼板を酸洗した後、そのまま冷間圧延ラインにて冷延することができる。また、酸洗ラインなどに付属のインライン・ミルを用いて冷延する場合は、時効処理に供するまでのトータル冷間圧延率が前記の範囲になるようにすればよい。いずれの場合も、熱延と冷延の間で熱処理を施す必要はない。
【0036】
〔時効処理〕
冷間圧延後には、200〜500℃で20〜30時間保持する時効処理を施す。
【0037】
〔調質圧延〕
調質圧延は必要に応じて施すことができる。時効処理後、調質圧延を施す場合には、10%以下の圧下率で行うことが望ましい。
【0038】
【実施例】
表1に示す成分組成の鋼を溶製し、以下の条件で熱間圧延→冷間圧延→時効処理→調質圧延を行い、板厚1.0mmの鋼板を製造した。
熱間圧延は、仕上熱延温度:800〜900℃,巻取温度:450〜650℃であり、仕上熱延後、巻取までの平均冷却速度は、後述表2のNo.4,8は約10℃/sec、No.5,7は約60℃/sec、それ以外は30℃/sec以上とした。熱延鋼板の板厚は、次工程以下の冷延,時効処理,調質圧延を経て最終的に引張強さ1000MPa以上の強度が得られるように、2.0〜5.0mmの範囲で調整した。
冷間圧延は、熱延鋼板を酸洗したのち、板厚1.0mmまで圧延した。
時効処理は、400℃×20時間の条件で行った。
調質圧延は、最終板厚が1.0mmになるように行った。
【0039】
【表1】
【0040】
得られた板厚1.0mmの鋼板について、以下の要領で金属組織観察および機械試験を行った。
〔パーライト組織の観察〕
鋼板の圧延方向と板厚方向を含む断面を電解研磨したのちエッチングしたサンプルを用意した。光学顕微鏡を用いて撮影したサンプル表面の画像をもとに画像処理装置にてパーライト組織の体積率を求めた。また、原子間力顕微鏡を用いて、その観察方向にほぼ平行なラメラを有する20個のパーライト・コロニーについて、倍率20000倍の写真を撮影し、その写真画像をもとに画像処理装置にてセメンタイト・ラメラの体積率を求め、その平均値を「パーライト中のセメンタイト体積率」とした。
【0041】
〔初析フェライト相の観察〕
上記と同様のサンプルについて、走査電子顕微鏡を用いて、圧延方向に伸びた10個の初析フェライト相の板厚方向の最大厚さを測定し、その平均値を「初析フェライト相の板厚方向の厚さ」とした。
【0042】
〔硬さ試験〕
鋼板の圧延方向と板厚方向を含む断面におけるビッカース硬さを測定した。スチールベルトとして好適な310HV以上のものを良好と判定した。
【0043】
〔引張試験〕
圧延方向に平行なJIS 5号引張試験片を用い、室温にて引張速度10mm/minで引張試験を行った。引張強さは1000MPa以上、全伸びは6%以上を良好と判定した。
【0044】
〔亀裂伝播抵抗の測定試験〕
図1に示す試験片を用いて、前記〔A〕で定義した方法にて亀裂伝播抵抗を求めた。その値が600MPa以上のものを良好と判定した。
これらの結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
本発明で規定する成分組成および金属組織を呈するNo.2,3,11〜15は、硬さ,引張強さ,全伸びが高い値であるとともに、亀裂伝播抵抗は600MPa以上の大きな値を示し、スチールベルトとして非常に優れた耐久性を有することが確認できた。
【0047】
これに対し、No.1は、C含有量が少ないので、金属組織中の初析フェライト相の量が多く、引張強さ1000MPaを得るための冷延率が過大(約80%)となり、全伸びが低い。No.4,8は、仕上熱延後の冷却速度が10℃/secと小さかったため、初析フェライト相の体積率が多めになり、パーライト組織中のセメンタイトの体積率が10%を超えた。これにより、引張強さと伸びは良好であったが亀裂伝播抵抗が劣化した。No.5,7は、熱延組織がベイナイト主体の組織となったため、亀裂伝播抵抗が低かった。No.9,10は、C含有量が多く、パーライト組織中のセメンタイト体積率が高くなったため亀裂伝播抵抗が劣化した。
【0048】
【発明の効果】
以上のように、本発明では、スチールベルト用鋼板の亀裂伝播抵抗を顕著に、かつ安定して改善する手段を提供した。この手段は、金属組織を特定の形態に調整する点に特徴があり、その金属組織は、従来行われていたパテンティング処理などの煩雑な熱処理を行うことなく、熱間圧延→冷間圧延→時効処理という簡単な工程で実現できることが確認された。したがって本発明は、スチールベルト用鋼板の耐久性・信頼性を大幅に向上させるとともに、製造コストについても従来より低減することを可能にしたものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は亀裂伝播抵抗測定用試験片の形状を表す平面図、(b)はその中央部の拡大図である。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.30〜0.60%,Si:1.0%以下,Mn:0.10〜1.0%,P:0.020%以下,S:0.010%以下、残部がF e および不可避的不純物である炭素鋼からなる時効処理された鋼板であって、金属組織中に占めるパーライト組織の体積率が50%以上であり、そのパーライト組織中に占めるセメンタイト・ラメラの体積率が10%以下であり、初析フェライト相の板厚方向の厚さが5μm以下であるとともに、圧延方向における室温での引張強さが1000MPa以上、全伸びが6%以上であり、かつ下記〔A〕に定義する亀裂伝播抵抗が600MPa以上であるスチールベルト用鋼板。
〔A〕図1に示す試験片の長手方向(鋼板の圧延方向に一致)に、室温で引張速度0.3mm/minの引張試験を行って、荷重−伸び曲線から最大荷重を求め、その最大荷重を初期断面積(45mm×板厚)で除した値(単位:MPa)を亀裂伝播抵抗とする。 - 質量%で、C:0.30〜0.60%,Si:1.0%以下,Mn:0.10〜1.0%,P:0.020%以下,S:0.010%以下,Cr:0(無添加)〜1.0%,V:0(無添加)〜0.5%,Ti:0(無添加)〜0.1%,Nb:0(無添加)〜0.1%,B:0(無添加)〜0.01%で、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼からなる時効処理された鋼板であって、金属組織中に占めるパーライト組織の体積率が50%以上であり、そのパーライト組織中に占めるセメンタイト・ラメラの体積率が10%以下であり、初析フェライト相の板厚方向の厚さが5μm以下であるとともに、圧延方向における室温での引張強さが1000MPa以上、全伸びが6%以上であり、かつ下記〔A〕に定義する亀裂伝播抵抗が600MPa以上であるスチールベルト用鋼板。
〔A〕図1に示す試験片の長手方向(鋼板の圧延方向に一致)に、室温で引張速度0.3mm/minの引張試験を行って、荷重−伸び曲線から最大荷重を求め、その最大荷重を初期断面積(45mm×板厚)で除した値(単位:MPa)を亀裂伝播抵抗とする。 - Cr含有量が0.1〜1.0質量%である請求項2に記載の鋼板。
- 仕上熱延温度:800〜900℃,仕上熱延後、巻取までの平均冷却速度:20℃/sec以上,巻取温度:450〜650℃の条件で熱間圧延を行った後、熱処理を行わずに冷間圧延を施し、次いで200〜500℃で20〜30時間保持する時効処理を施す請求項1〜3のいずれかに記載の鋼板の製造法。
- 冷間圧延率を30〜80%とする請求項4に記載の製造法。
- 時効処理後に圧延率10%以下の調質圧延を施す請求項4または5に記載の製造法。
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