JP3785392B2 - 耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材とその製造方法 - Google Patents

耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材とその製造方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は耐疲労き裂伝播特性が必要とされる溶接構造部材に用いられる、引張強さが400MPa級以上の厚鋼材とその製造方法に関するものである。本発明厚鋼材は、例えば、海洋構造物、圧力容器、造船、橋梁、建築物、ラインパイプなどの溶接鋼構造物一般に用いることができるが、特に耐疲労き裂伝播特性を必要とする海洋構造物、造船、橋梁、建設構造物、等の構造物用鋼板として有用である。また、その他、構造部材として用いられ、耐疲労き裂伝播特性が要求される鋼管素材、あるいは形鋼にも適用可能である。
【0002】
【従来の技術】
溶接構造物の大型化と環境保全の要求の高まりに伴い、構造物部材に対して従来にも増した信頼性が要求されるようになってきている。現在の構造物は溶接構造が一般的であり、溶接構造物で想定される破壊形態としては、疲労破壊、脆性破壊、延性破壊などがあるが、これらの内、最も頻度が高い破壊形態は、初期欠陥からの脆性破壊あるいは疲労破壊、さらには疲労破壊の後に続く脆性破壊である。また、これらの破壊形態は、構造物の設計上の配慮だけでは防止が困難であり、また、突然の構造物の崩壊の原因となることが多く、構造物の安全確保の観点からはその防止が最も必要とされる破壊形態である。
【0003】
脆性破壊については、化学組成的にNiの添加や、変態組織の最適化、等の冶金的改善手段があり、その達成には制御圧延や加工熱処理が利用可能である。一方、疲労特性の場合、平滑部材に関しては強度向上等により改善することは可能であるが、溶接構造では溶接部の止端部形状に疲労強度が支配されるために、強度向上や組織改善による冶金的手段での耐疲労き裂伝播特性(継手疲労強度)向上は不可能であると考えられていた。すなわち、疲労強度が問題となる構造物では、高張力鋼を用いても設計強度を高めることができず、高張力鋼使用の利点が得られなかった。従って、従来このような溶接構造物においては、応力集中部となっている溶接止端部の形状を改善するための、いわゆる止端処理によって継手疲労強度の改善が図られてきた。例えば、グラインダーによって止端を削って止端半径を大きくする方法、TIG溶接によって止端部を再溶融させて止端形状を滑らかにする方法(例えば、特許文献1)、ショットピーニングによって止端部に圧縮応力を発生される方法、等である。
【0004】
しかし、これらの止端処理は非常に手間がかかるものであるため、コスト低減、生産性改善のために、止端処理によらない、鋼材自体の継手疲労強度改善手段が待たれていた。
【0005】
最近、このような要求に応えて、いくつかの継手疲労強度の良好な鋼材が提案されている。例えば、溶接熱影響部(HAZ)の組織をフェライト(α)とすることによってHAZの疲労強度を向上できる技術がある(例えば、特許文献2)。しかし、本技術はHAZ組織をフェライト組織とする必要性から、製造できる鋼材の強度レベルに限界があり、引張強さが780MPaを超えるような高強度鋼材を製造することはできない。
【0006】
引張強度が590MPa以上の高強度鋼の継手疲労強度を改善する手段もいくつか提案されており、HAZのベイナイト組織の疲労き裂の発生・伝播特性改善に高Si化(例えば、特許文献3)、高Nb化(例えば、特許文献4)が有効との報告がある。しかし、Si、Nbとも多量に添加すると、靱性を大幅に劣化する元素であり、また、鋼片の割れを生じる等、製造上の問題を生じる懸念もある。
【0007】
上記従来技術はいずれもHAZ組織の疲労き裂の発生及びHAZ中の疲労き裂伝播を改善する手段であるが、HAZは止端部の応力集中の影響を大きく受けるため、止端形状によっては効果が生じなかったり、小さかったりする場合がある。
【0008】
止端形状によらずに継手疲労強度を改善するためには、止端部から発生した疲労き裂の母材での伝播を遅延させることが有効である。このような考え方に基づいて、平均フェライト粒径が20μm以下の細粒組織中に、粗大フェライトを分散させた母材組織とすることによって、母材の疲労き裂進展特性を向上させる技術がある(例えば、特許文献5)。しかし、この場合も、フェライト主体組織とする必要性から、引張強度で580MPa級程度の鋼材までしか製造できない。
【0009】
さらに、母材の疲労き裂伝播を抑制することによって疲労強度を高める技術として、フェライトと硬質第二相からなる組織において、フェライトの硬さと硬質第二相の硬さとの間に一定の関係を規定した上で、第二相の形態(アスペクト比、間隔)、あるいは/及び、集合組織を規定した技術がある(例えば、特許文献6)。本技術は現在示されている技術の中では、疲労き裂伝播抑制に最も優れた手段の一つであるが、組織形成、集合組織発達のために、二相域〜フェライト域での累積圧下率を大きくすることが必要であるため、生産性の劣化、鋼板形状の悪化、等の課題を有している。さらに材質上の問題として、加工組織であるが故に、疲労特性をはじめとして材質の異方性が大きい問題も有する。疲労特性は疲労き裂の進行方向に存在する硬質第二相の割合が最も多くなる表面から板厚方向に疲労き裂が進展する場合が最も良好であるが、その他の方向にき裂が進展する場合は疲労特性が大きく劣化する。従って、本技術は、き裂の進展方向が板厚方向に限定できる場合は有効であるが、疲労き裂の進展方向が限定されない場合には、き裂進展方向によっては効果が発揮されない恐れがあり、そのようなき裂進展挙動を示す部位への適用には問題がある。
【0010】
【特許文献1】
特公昭54−30386号公報
【特許文献2】
特開平8−73983号公報
【特許文献3】
特開平8−209295号公報
【特許文献4】
特開平10−1743号公報
【特許文献5】
特開平7−90481号公報
【特許文献6】
特開平11−1742号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、溶接構造部材に用いられる引張強さが400MPa級以上の、硬質第二相によって母材の耐疲労き裂伝播特性を向上させた厚鋼材において、耐疲労き裂伝播特性が疲労き裂の進展方向によって大きく変化しない、すなわち、疲労特性の異方性が小さく、かつ、いずれの方向の耐疲労き裂進特性にも優れた厚鋼材を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
欠陥部や応力集中部から発生した疲労き裂が伝播する場合、フェライトと適正な形態及び特性を有する硬質第二相との混合組織においては、両組織の界面または界面近傍で、疲労き裂の、停滞、折れ曲がり、分岐等を生じる場合が多く、また、硬質第二相にき裂が進展する場合には硬質第二相内での疲労き裂の進展が著しく抑制される。これらの総合的な効果によって、母材中のマクロな疲労き裂進展速度は大幅に低減する。従って、耐疲労き裂伝播特性に対しては、硬質第二相の特性と形態、分布状態が大きな影響を及ぼす。
【0013】
一方向の耐疲労き裂伝播特性を向上させる目的であれば、後述する適正な特性を有する硬質第二相を進展中の疲労き裂前縁に極力多く存在せしめるようにすればよい。図1の鋼板と疲労き裂の進展方向との関係の模式図に示すように、例えば、疲労き裂が鋼板表面から板厚方向1に進展する場合(Z方向:図1参照)であれば、板厚断面で見た場合に板表面に平行に伸張した硬質第二相を板厚方向に密に存在させれば、同じ硬質第二相分率で比較して最も効率的に疲労特性を向上させることが可能となる。ただしこのような硬質第二相の状態を有する鋼板において、疲労き裂が鋼板表面からでなく、鋼板表面に直角な断面から圧延方向2(L方向:図1参照)や圧延方向2に直角な方向(C方向:図1参照)に進展する場合は、疲労き裂前縁に存在する硬質第二相の割合はZ方向に疲労き裂が進展する場合に比べて減少するため、耐疲労き裂伝播特性が大幅に低下する。
【0014】
耐疲労き裂伝播特性の異方性を少なくするには、各断面から観察した硬質第二相の割合、形態の差が小さくすればよい。ただし、単に、硬質第二相の割合、形態、分布だけを等方的にしただけでは、疲労特性の異方性は解消できても、良好な疲労特性を維持することは保証されない。
【0015】
本発明者らは、耐疲労き裂伝播特性の異方性を軽減しつつ、いずれの方向とも良好な耐疲労き裂伝播特性を保持できる硬質第二相の形態、分布状態を詳細に検討し、等方的な形態の硬質第二相を島状に分散させた場合は、疲労特性の異方性は軽減されるものの、疲労特性の向上がいずれの方向とも、層状に伸張硬質第二相を分布させて表面からき裂が進展したときの疲労特性に遠く及ばないこと、一方、等方的な変態組織において、硬質第二相を変態組織の結晶粒界に沿って網目状に存在させることにより、硬質第二相の割合を増加させずに、効率的にあらゆる方向の耐疲労き裂伝播特性を層状に伸張硬質第二相を分布させて表面からき裂が進展したときと同等以上に向上できることを新しく見いだした。さらに、本発明者らは、上記、母材の耐疲労き裂伝播特性に好ましい組織形態を形成せしめるための、工業的に最も好ましい手段を詳細な実験に基づいて確立した。
【0016】
本発明は、以上の知見に基づいて発明したものであり、要旨は以下の通りである。
【0017】
(1) 質量%で、
C :0.04〜0.3%、
Si:0.01〜2%、
Mn:0.1〜3%、
Al:0.001〜0.1%、
N :0.001〜0.01%、
P:0.02%以下、
S :0.01%以下を含有し、
残部が鉄及び不可避不純物からなり、軟質相と該軟質相を網目状に囲む硬質第二相からなる二相組織を有し、該軟質相と硬質第二相とが以下の条件を全て満足する耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材。
▲1▼軟質相がフェライト、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上から構成され、かつ平均ビッカース硬さが150以下であること。
▲2▼硬質第二相がベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上から構成され、かつ平均ビッカース硬さが250以上であること。
▲3▼下記(1)式で示される、硬質第二相の粒界占有率が0.5以上であること。
Figure 0003785392
(2)さらに、質量%で、
Ni:0.01〜6%、
Cu:0.01〜1.5%、
Cr:0.01〜2%、
Mo:0.01〜2%、
W :0.01〜2%、
Ti:0.003〜0.1%、
V :0.005〜0.5%、
Nb:0.003〜0.2%、
Zr:0.003〜0.1%、
Ta:0.005〜0.2%、
B :0.0002〜0.005%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)項に記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材。
【0018】
(3)さらに、質量%で、
Mg:0.0001〜0.01%、
Ca:0.0005〜0.01%、
Y:0.0001〜0.1%、
La:0.005〜0.1%、
Ce:0.005〜0.1%、
のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする、前記(1)または(2)項に記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材。
【0019】
(4)硬質第二相の平均間隔が50μm以下であることを特徴とする、前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材。
【0020】
(5)前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の成分を有する熱間圧延前の鋼片に、加熱温度が1200〜1350℃、該温度範囲での保持時間が2〜100hの拡散熱処理を施した後、加熱温度がAC3変態点〜1250℃で、圧延後にAr3変態点以上から400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する熱間圧延を施し、さらに加熱温度が(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−10℃)で、かつ、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する二相域熱処理を施すことを特徴とする耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材の製造方法。
【0021】
(6)前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の鋼片に熱間圧延を施した後、加熱温度が1150〜1250℃、該温度範囲での保持時間が2〜100hで、かつ、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する拡散熱処理を施し、さらに、加熱温度が(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−10℃)で、かつ、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する二相域熱処理を施すことを特徴とする耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材の製造方法。
【0022】
(7)前記加熱温度がAC3変態点〜1250℃で、圧延後にAr3変態点以上から400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する熱間圧延を施すことを特徴とする前記(6)項に記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材の製造方法。
【0023】
(8)二相域熱処理前に、加熱温度がAC3変態点〜1050℃で、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する、焼入処理を施すことを特徴とする前記(5)〜(7)項のいずれかに記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材の製造方法。
【0024】
(9)二相域熱処理に際して、400℃〜加熱温度までの平均昇温速度が0.5〜50℃/sであることを特徴とする、前記(5)〜(8)項のいずれかに記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材の製造方法。
【0025】
(10)250〜600℃で焼戻すことを特徴とする、前記(5)〜(9)項のいずれかに記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材の製造方法。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明は硬質第二相の特性と分布状態を制御することにより、該硬質第二相に起因した機構により、疲労き裂の伝播をき裂の進展方向によらず抑制させて、疲労特性を等方的に向上させることを目的としたものである。その最も重要な要件は、母材組織が、「軟質相と該軟質相を網目状に囲む硬質第二相からなる二相組織を有し、軟質相がフェライト、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上から構成され、かつ平均ビッカース硬さが150以下であること、硬質第二相がベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上から構成され、かつ平均ビッカース硬さが250以上であること、(1)式で示される、硬質第二相の粒界占有率が0.5以上であること」、にある。
【0027】
母材の疲労き裂進展速度を抑制することによって疲労強度を高める技術として、フェライトと硬質第二相からなる組織において、フェライトの硬さと硬質第二相の硬さとの間に一定の関係を規定した上で、第二相の形態(アスペクト比、間隔)、あるいは/及び、集合組織を規定した技術が、特許文献6の特開平11−1742号公報に開示されている。本発明も軟質相と硬質第二相からなる組織によって疲労き裂伝播を抑制する点では、同様であるが、疲労特性の異方性を軽減し、実質的に異方性による悪影響をなくすことを目的としている本発明では、前記、特許文献6等で示されている軟質相と硬質第二相との組織形態と全く異なる要件とする必要がある。
【0028】
すなわち、本発明者らは様々な軟質相と硬質第二相の組み合わせで、かつ、その比率と、第二相の形態を様々に変化させて、疲労き裂の伝播挙動との関連性を調べた結果、後述する要件を備えた軟質相と硬質第二相において、軟質相を硬質第二相が網目状に取り囲むことが、疲労特性の異方性を実質的になくし、かつ、いずれの方向の疲労特性も画期的に向上させるために必須であり、硬質第二相の組織形態が本発明で言うところの「網目状」となって効果を発揮するためには、図2に模式的に示すように、硬質第二相を含まないと仮定したときの変態組織の全粒界長さのうち、50%以上(粒界占有率≧0.5)が硬質第二相によって占められことが必要であることを知見した。なお、本発明で言うところの全粒界長さとは硬質第二相が生成していない軟質相の粒界長さ(フェライト粒界長さと、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイト組織における旧オーステナイト粒界長さとの和)と硬質第二相が覆っている部分の粒界長さとの総和である。
【0029】
硬質第二相の粒界占有率が0.5以上であれば、組織が完全に等方的でなく、配向性を有していても、疲労き裂の進展方向によらず、き裂前縁に一定割合以上の硬質第二相を存在させることができ、極めて良好な耐疲労き裂伝播抑制効果が等方的に発揮される。硬質第二相の粒界占有率が0.5未満であると、組織の配向性に応じて疲労特性に異方性が生じる。また、組織が等方的であっても硬質第二相によるき裂進展遅延効果が十分でなく、いずれの方向の疲労特性も十分向上することができない場合が生じる。0.5以上であれば、硬質第二相の粒界占有率は大きければ大きいほど疲労特性には好ましいが、硬質第二相の粒界占有率が1、すなわち粒界全部が硬質第二相に覆われてしまうと、靭性の劣化が懸念されるようになるため、硬質第二相による靭性劣化が懸念されるような場合は、硬質第二相の粒界占有率の上限を0.95に限定することが好ましい。よって、下記(1)式で示される硬質第二相の粒界占有率を0.5以上とした。
Figure 0003785392
【0030】
硬質第二相が軟質相を取り囲む組織形態において、硬質第二相の粒界占有率が0.5以上であっても、疲労特性に対する該組織形態の効果が発現されるためには、各相についてもその種類、特性を限定する必要がある。
【0031】
先ず、軟質相はフェライト、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上から構成され、かつ平均ビッカース硬さが150以下である必要がある。軟質相の種類としてはフェライト、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイト、各々単独か、混合相で構わない。焼戻しを受けないベイナイト、マルテンサイトは平均ビッカース硬さを安定的に150以下にできないため、また、靭性が著しく劣る可能性があるため好ましくない。また、パーライトは硬さによらず疲労特性を劣化させるため、好ましくない。なお、本発明で言うところの焼戻しベイナイトあるいは焼戻しマルテンサイトとは、実際に熱処理としての焼戻しを受けたもの、すなわち、加工熱処理や再加熱焼入、さらには二相域熱処理の後に熱処理としての焼戻し熱処理を施された場合のベイナイトやマルテンサイトは当然焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトと称するが、加えて、二相域熱処理時にオーステナイトへ逆変態せず、焼戻し効果のみを受けたベイナイトやマルテンサイトも焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトと称する。なお、冷却中にベイナイトやマルテンサイトに変態した後、引き続く冷却中にセメンタイトや炭窒化物が析出する、いわゆるself tempering(自己焼戻し)を受けた場合も厳密には焼戻し効果を受けたとも解されるが、self temperingのみのベイナイトやマルテンサイトは疲労特性に対しては焼入ままのベイナイト、マルテンサイトとほぼ同様の効果を有することから、本発明では、焼入ままのベイナイト、マルテンサイトに含む。
【0032】
フェライト、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上から構成される軟質相の平均ビッカース硬さを150以下に限定するのは、耐疲労き裂伝播特性の向上のためであり、硬質第二相との硬さの差が十分大きい場合に初めて、軟質相と硬質第二相の界面または界面近傍で、疲労き裂の、停滞、折れ曲がり、分岐等を生じたり、硬質第二相にき裂が伝播する場合に硬質第二相内での疲労き裂の進展が著しく抑制される。硬質第二相の硬さは、実用的な化学組成の範囲内では中では限界があるため、また、他の特性から必ずしも硬質第二相をの硬さを自由に大きくできないため、本発明では軟質相の平均ビッカース硬さの上限を規定する。軟質相の平均ビッカース硬さが150以下であれば、硬質第二相の平均ビッカース硬さが250以上で、疲労特性向上効果を発現することが確実となる。一方、軟質相の平均ビッカース硬さが150超であると、硬質第二相との硬さの差が十分でなく、疲労特性の向上が不十分となる。また、特に軟質相がフェライトである場合には、平均ビッカース硬さが150超であると靭性劣化の懸念も増加するため、好ましくない。
【0033】
本発明で言うところの硬質第二相と軟質相との区別は、Cの濃化により明らかに固溶C量が多く、あるいはセメンタイト等の析出物を密に析出させていて、光学顕微鏡腐食組織において軟質相に比べて明らかに暗色の色調を示す相を示す。ただし、セメンタイトが層状に生成しているパーライトは除外する。硬質第二相とパーライト以外の硬質第二相より軟質な変態組織を軟質相と呼ぶ。以上の定義の下、本発明では硬質第二相の平均硬さは軟質相とパーライトを除く組織でかつ旧オーステナイト粒界に沿って形成される網目状の硬質第二相を構成する組織を種類を区別せずに測定したときの平均硬さとする。一方、軟質相の平均硬さは、硬質第二相とパーライト除く組織を種類を区別せずに測定したときの平均硬さとする。光学顕微鏡で確認できる介在物や粗大な析出物は粒界占有率や硬さの測定からは除外する。
【0034】
硬質第二相は、ベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上から構成され、かつ平均ビッカース硬さが250以上であることが必須要件となる。平均ビッカース硬さが250以上であれば、硬質第二相は、フェライトやパーライト以外のベイナイト、マルテンサイトの各々単独あるいは混合相から構成されていればよい。また、該ベイナイト、マルテンサイトは焼戻し処理が施されたもの、self temperingされたものだけでなく、完全に焼入ままでself temperingにより析出した炭化物を伴わないベイナイト、マルテンサイトも含まれていて構わない。
【0035】
硬質第二相としてパーライトが好ましくないのは、パーライトが軟質なフェライトとセメンタイトとの層状組織であるため、硬質第二相としての機能を果たさないためである。ベイナイト、マルテンサイトは疲労き裂の進展に対してはほぼ均一な組織として機能するため、硬さが本発明を満足している限りは安定的に疲労特性向上に寄与し得る。ただし、焼戻しが過剰となって、ベイナイトやマルテンサイト中のセメンタイトが凝集球状化するようになるのは好ましくない。
【0036】
なお、耐疲労き裂伝播特性は、ほぼ組織全体の平均的なき裂進展に対する抵抗力で決定されるため、本発明の組織要件を満足していれば、パーライトは存在していても疲労特性をほとんど劣化させない。
【0037】
硬質第二相の平均ビッカース硬さを250以上とする必要があるのは、軟質相の硬さを150以下にした場合に、確実に疲労特性を向上させるためである。硬質第二相の平均ビッカース硬さが250未満であると、軟質相の硬さが上限の場合に両相の硬さの差が過小で、疲労き裂の伝播抑制が十分でなくなる。疲労特性の観点からは、硬質第二相は硬いほど好ましい。ただし、硬質第二相が過剰に硬いと靭性の劣化を招く場合があるため、低温靭性を考慮する必要がある場合には、硬質第二相の平均ビッカース硬さは1000以下に制限することが好ましい。
【0038】
等方的に疲労特性を向上させるための基本的組織要件は以上であるが、疲労特性をさらに向上させるためには、これに加えて硬質相の平均間隔を50μm以下とすることが好ましい。硬質相の間隔が小さいほど進展中の疲労き裂は軟質相と硬質第二相の界面を多数回通過することになり、それに応じて疲労き裂の進展がが抑制されることになる。硬質相の平均間隔が50μm超であると、その効果が小さい。なお、軟質相と硬質第二相とからなる組織における、粒界占有率と硬質第二相間隔の定義を説明するための模式図の図2に示すように、本発明における硬質第二相の間隔5とは、軟質相3と硬質第2相4とが存在するが、圧延方向(L方向)、圧延直角方向(C方向)、板厚方向(Z方向)の3方向、各々の方向で、隣接する個々の硬質第二相間の最大間隔の平均値を指し、いずれの方向においても50μm以下とすることを本発明の要件とする。
【0039】
以上が本発明の組織要件の説明であり、本発明においては、その達成手段に関わらず、該組織要件を満足していれば、母材の耐疲労き裂伝播特性がほぼ等方的で、いずれの方向から疲労き裂が進展した場合でも極めて良好な耐疲労き裂伝播特性を達成することができる。
【0040】
本発明においては、さらに加えて、本発明の組織要件を達成するための手段も合わせて発明した。すなわち、化学組成が本発明を満足する鋼片を用いて、大別して下記に示す▲1▼〜▲3▼の製造方法を採用することにより、本発明の組織要件を満足した、疲労特性の優れた厚鋼材を得ることが可能である。
▲1▼あらかじめ鋼片に加熱温度が1200〜1350℃、該温度範囲での保持時間が2〜100hの拡散熱処理を施した後、鋼片に、加熱温度がAC3変態点〜1250℃で、圧延後にAr3変態点以上から400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する熱間圧延を施し、さらに加熱温度が(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−10℃)で、かつ、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する二相域熱処理を施す。
▲2▼鋼片に熱間圧延を施した後、加熱温度が1150〜1250℃、該温度範囲での保持時間が2〜100hで、かつ、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する拡散熱処理を施し、さらに、加熱温度が(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−10℃)で、かつ、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する二相域熱処理を施す。
▲3▼上記▲1▼または▲2▼の製造方法の中で、二相域熱処理前に、加熱温度がAC3変態点〜1050℃で、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する、焼入処理を施す。
【0041】
以上が製造方法に関する基本要件であるが、さらに安定的に網目状組織を形成させるためには、必要に応じて、▲1▼〜▲3▼の製造手段のいずれにおいても、二相域熱処理に際して、400〜加熱温度までの平均昇温速度が0.5〜50℃/sとすることができる。また、全ての製造方法において、残留応力の軽減、強度・靭性の調整、等のために、必要に応じて250〜600℃で焼戻すことが可能である。
【0042】
先ず▲1▼の方法について以下にその限定理由を示す。
【0043】
▲1▼の方法は、鋼片に対して熱間圧延前に、加熱温度が1200〜1350℃、該温度範囲での保持時間が2〜100hの拡散熱処理を施した上で、鋼片に、加熱温度がAC3変態点〜1250℃で、圧延後にAr3変態点以上から400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する熱間圧延を施し、さらに加熱温度が(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−10℃)で、かつ、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する二相域熱処理を施す。先ず、拡散熱処理の必要性について述べる。
【0044】
硬質第二相が網目状でなく、特定方向に伸張したバンド状、層状に存在すると、疲労特性が劣り、また、疲労特性の異方性も拡大するため、好ましくない。そして、鋼片のミクロ偏析が強い、すなわち、ミクロ偏析部と非偏析部との成分濃度の差が大きいと、熱間圧延によりミクロ偏析が圧延方向に伸張するため、鋼材製造工程の種々の段階でバンド組織の形成が助長される。従って、鋼片のミクロ偏析自体を低減することは本発明の目的とする硬質第二相の等方的な網目状組織を形成する上で有効である。本発明の拡散熱処理を施せば、鋼片の偏析状態に依存せず、確実に網目状の硬質第二相の分布を得ることが可能となる。本発明において、拡散熱処理条件は、加熱温度は1200〜1350℃、保持時間は2〜100hとする。加熱温度が1200℃未満ではミクロ偏析を十分軽減するためには保持時間を極めて長時間とする必要があり、工業的に採用し難い。一方、加熱温度が1350℃超になると、組織が極端に粗大化して、その後の圧延や熱処理でも十分微細化することができず、また、表面性状も悪化するため、好ましくない。加熱温度を1200〜1350℃に限定したときには保持時間が2h未満であると、合金元素が十分拡散できないため、好ましくない。保持時間は長いほどミクロ偏析軽減には有利であるが、100hを超える保持は、効果が飽和する上、経済的でないため、本発明では保持時間の上限を100hとする。1200〜1350℃に2〜100h加熱・保持後の冷却は特に限定しないが、冷却工程での拡散も期待する場合は空冷以下の徐冷が好ましい。また、本発明の要件を満足する限りは、拡散熱処理において、加熱・保持後の冷却過程で、形状調整、板厚調整のために熱間圧延を施すことは、疲労特性や他の材質、品質に悪影響を及ぼすものではないので、特に妨げない。
【0045】
上記拡散処理を鋼片に施した後、熱間圧延を施すが、熱間圧延に際して、鋼片加熱温度と圧延終了後の冷却条件を規定する必要がある。鋼片加熱温度はAC3変態点〜1250℃に限定する必要がある。これは、鋼片加熱温度がAC3変態点未満であると、オーステナイト単相化せず、最終的な材質不均一が生じるため、好ましくないためである。また、鋼片加熱時にバンド組織が形成されやすく、これが最終熱処理後も残存し、本発明の必須要件である網目状の硬質第二相の形成も妨げられるため、疲労特性の異方性が拡大するため、避ける必要があるためでもある。一方、鋼片加熱温度が1250℃超であると、加熱オーステナイト粒径が粗大となり、二相域熱処理後の組織も粗大となって、靭性が著しく劣化し、また、変態組織が粗大なため、硬質相の平均間隔を50μm以下とする場合には、特に避けなければならない。
【0046】
▲1▼の方法においては、熱間圧延条件、すなわち、圧延温度や圧下率は、本発明の組織要件を満足させる上で、必須要件として制限を設ける必要はない。これは硬質第二相の網目状組織形成はほぼ圧延後の冷却と、さらにそれに引き続く熱処理によってほぼ決定づけられるためである。ただし、靭性を特に考慮する場合、硬質第二相の平均間隔を50μm以下とする場合には、加熱温度の適正化に加えて、開始温度が900℃以下、終了温度がAr3変態点以上で累積圧下率が30%以上の圧延を含むことがより好ましい。逆にAr3変態点未満での累積圧下率が30%以上となるような圧延は好ましくない。これは、過度に二相域圧延を行うと圧延後の変態組織が圧延方向に伸張したものとなり、特に、硬質第二相の粒界占有率が本発明の下限(0.5)に近いと、疲労特性の異方性が無視できないほど大きくなる可能性があるためである。
【0047】
圧延後の冷却を制御することは本発明の組織要件を達成する上で重要である。すなわち、二相域熱処理によって変態組織の粒界に網目状の硬質第二相を均一かつ十分に存在せしめるためには、二相域熱処理前の熱間圧延後の組織形態において、C濃度の高い第二相(パーライト、ベイナイト、マルテンサイト)のバンド状あるいは伸張組織(以降バンド組織)を極力形成させないことが必要であり、そのために、熱間圧延に引き続き、Ar3変態点以上から400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する必要がある。加速冷却をAr3変態点以上から行うのは、加速冷却がAr3変態点未満であると、空冷中に変態が開始されることによってバンド組織の形成が抑制できないためである。加速冷却の冷却速度を5〜100℃/sとするのは、冷却速度が5℃/s未満であるとバンド組織の形成を確実に抑制できないためであり、100℃/s超では効果が飽和するのと、鋼板形状や残留応力、等の他の特性、品質への悪影響が生じる可能性があるためである。該加速冷却は400℃以下まで行う必要がある。これは、加速冷却終了温度が400℃超であると、化学組成によっては変態が十分進行しておらず、加速冷却終了後の空冷または徐冷時にバンド組織が形成される恐れがあるためである。
【0048】
以上の熱間圧延、加速冷却工程によって、バンド組織を抑制した変態組織を得た上で、硬質第二相を変態組織の粒界に、粒界占有率で0.5以上形成させるために、加熱温度が(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−10℃)で、かつ、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する二相域熱処理を施す。二相域熱処理の加熱時に鋼中のオーステナイト化した領域が冷却変態時に、硬質第二相になり得るが、加熱温度が(AC1変態点+30℃)未満であると、オーステナイト化領域が少なく、硬質第二相の粒界占有率を安定的に0.5以上確保することが困難となるため、好ましくない。一方、加熱温度が(AC3変態点−10℃)を超えると、鋼中のオーステナイトの割合が過大となるため、オーステナイト中のC濃化が十分でなく、十分な硬さの硬質第二相が形成されない恐れがあり、また、加熱温度が過大であると、加熱前組織がバンド組織を呈していなくとも、二相域熱処理後にバンド組織となる懸念もあり、疲労特性に好ましくない。(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−10℃)の範囲の温度に加熱し、加熱時形成されたオーステナイトを確実にベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上から構成され、かつ平均ビッカース硬さが250以上の硬質第二相に変態させるために、冷却過程は、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する必要がある。加速冷却の冷却速度の下限を5℃/sとするのは、冷却速度が5℃/s未満であると本発明の要件を満足した種類と硬さの硬質第二相がされないため、好ましくなく、一方、冷却速度は大きいほど硬質第二相形成には有利であるが、100℃/s超では効果が飽和するのと、鋼板形状や残留応力、等の他の特性、品質への悪影響が生じる可能性があるため、本発明では上限を100℃/sとする。
【0049】
該加速冷却の冷却速度は加速冷却開始から終了までの平均冷却速度である。加速冷却は400℃以下まで行う必要があるが、これは、硬質第二相の種類と硬さがほぼ400℃までで決定されるためで、加速冷却終了温度が400℃超であると、化学組成によっては変態が十分進行しておらず、加速冷却終了後の空冷または徐冷時にオーステナイトから変態する第二相が本発明の要件を満足しない恐れがあるためである。なお、加速冷却は加熱温度から開始することを原則とする。実際には加速冷却開始までに若干の温度低下が生じるのは避けられないが、加熱時に形成されたオーステナイトが実質的に変態を開始しない温度までは低下しても構わない。目安としては、加熱温度から50℃までの低下は許容できる。
【0050】
次に、▲2▼の方法について説明する。
【0051】
▲1▼の方法が熱間圧延前の鋼片に拡散熱処理を施すことによって、疲労特性に好ましくないバンド組織の形成を抑制することを目的としているのに対して、▲2▼の方法は熱間圧延後の鋼板に拡散熱処理を施して▲1▼の方法における熱間圧延前の拡散熱処理と同じ効果を得るものである。▲2▼の方法では最終の二相域熱処理の直前に拡散熱処理を施すことになるため、熱間圧延条件は、▲1▼の方法の範囲内であっても、▲1▼の方法と条件が異なっていても全く問題はない。▲2▼の方法における拡散熱処理は、加熱温度が1150〜1250℃、該温度範囲での保持時間が2〜100hで、かつ、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する。鋼板のミクロ偏析帯は熱間圧延によってその厚さが鋼片に比べて薄くなっているため、拡散熱処理による偏析の低減度合いが鋼片に比べて大きくなる。そのため、加熱温度は▲2▼の方法におけるよりも低温化できる。本発明においては、熱間圧延後に拡散熱処理を施す場合の条件として、保持時間はそのままとし、加熱温度を1150〜1250℃とする。加熱温度の下限を1150℃としたのは、鋼板に拡散熱処理を施す場合でも加熱温度が1150℃未満であると、合金元素の拡散が不十分となる恐れがあるためである。一方、加熱温度の上限を1250℃としたのは、1250℃以下でも拡散熱処理の効果が明確であるためであるが、本拡散熱処理の後に二相域熱処理を行うと、本拡散熱処理後の組織の微細さが直接最終組織に影響を及ぼすため、▲1▼の方法に比べて組織の微細化を確実に図る必要があるためでもある。拡散熱処理の加熱温度を1150〜1250℃に限定した場合、保持時間が2h未満であると、合金元素が十分拡散できないため、好ましくない。保持時間は長いほどミクロ偏析軽減には有利であるが、100hを超える保持は、効果が飽和する上、経済的でないため、本発明では保持時間の上限を100hとする。
【0052】
▲2▼の方法における拡散熱処理の後の二相域熱処理は、他の方法と同じ理由により、加熱温度が(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−10℃)で加熱し、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却することを要件とする。
【0053】
次に、▲3▼の方法について説明する。
【0054】
▲3▼の方法は、前記▲1▼または▲2▼の製造方法の中で、▲1▼の方法では熱間圧延前、▲2▼の方法では熱間圧延後に行う拡散熱処理によって一旦粗大化した変態組織を二相域熱処理前に微細化して靭性を確保するために有効な方法で、二相域熱処理前に、加熱温度がAC3変態点〜1050℃で、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する、焼入処理を施す。該焼入処理によって、二相域熱処理前の組織を微細化でき、かつ、バンド組織の形成も抑制される。加熱温度をAC3変態点〜1050℃とするのは、加熱温度がAC3変態点未満であると、該熱処理以前に形成された変態組織が完全に解消されず、粗大な組織が残存して靭性に悪影響を及ぼしたり、バンド組織が残存して疲労特性の等方性を阻害する恐れがあり、加熱温度が1050℃超であると、熱処理後の変態組織の微細化が十分でなく、該熱処理の目的である所の、拡散熱処理によって生じた粗大組織を解消することと相反することになるためである。AC3変態点〜1050℃に加熱後、水冷等によって加速冷却する焼入処理を施すが、その際の冷却は、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却することを要件とする必要がある。加速冷却の目的は、本発明において好ましくない組織である、バンド組織を回避し、かつ、変態組織を極力微細化することにあるが、冷却速度が5℃/s未満であったり、該加速冷却の停止温度が400℃超であったりすると、この目的を確実に達成することが困難になる。加速冷却の冷却速度は大きいほど、バンド組織形成回避には有利となるが、過度に急冷しても効果が飽和する一方で、鋼板形状の悪化や、残留応力の増大、等、他の品質・特性への悪影響が生じる恐れもあるため、本発明は、バンド組織の生成抑制、組織が微細化が飽和する100℃/sを該熱処理における加速冷却の冷却速度の上限とする。
【0055】
以上が本発明の組織要件を得るための製造方法に関する基本要件であるが、本発明においては、▲1▼〜▲3▼いずれの方法でも、靭性の一層の向上を図りたい場合には、二相域熱処理に際して、昇温工程のうち、400℃〜加熱温度までを平均昇温速度で0.5〜50℃/sとする。昇温速度の制御を400℃〜加熱温度とするのは、400℃未満では昇温速度の違いによる組織の変化がごく微小であるため、制御の必要がないためである。勿論、400℃未満も本発明の昇温速度で昇温しても全く問題はない。400℃〜加熱温度までの平均昇温速度は0.5〜50℃/sとする。昇温速度を0.5℃/s以上に急速に昇温することで、変態組織からのオーステナイト核生成頻度が高まり、二相域熱処理後の組織の微細化が図られる。昇温速度は大きいほど組織微細化には有利となるが、50℃/sを超えて過大に昇温速度を大きくしても、効果が飽和する一方で、加熱温度のばらつきの増加や温度分布の不均一性が増すなどの問題も生じるため、好ましくない。
【0056】
なお本発明においては、鋼材の強度・靱性の調整、残留応力の低減のために、二相域熱処理後にさらに、焼戻しを施すこともできる。焼戻しを施す場合、焼戻し温度は250℃以上、600℃以下とする。これは、焼戻し温度が250℃未満では焼戻しによる明確な材質変化が生ぜず、焼戻しを施す意味がなくなるためであり、600℃超では硬質第二相の硬さが過度に低下して、疲労特性の大きな低下が生じる可能性が大きいためである。
【0057】
以上が本発明における組織要件とそれを達成するための製造方法に関する要件の限定理由である。組織要件を満足するためには、また、溶接性の確保、溶接構造物用鋼として必要な強度・靱性確保のためには、さらに下記に示すように化学組成についても個々に適正化する必要がある。
【0058】
先ずCは、強度元素として必須であり、特に疲労特性向上に必須の平均ビッカース硬さが250以上の硬質第二相を、必要量確保するためには少なくとも0.04%含有する必要がある。一方、Cは靭性、溶接性を最も阻害する元素であり、許容できる量として、その上限は0.3%とする。なお、Cが過剰に含有されると靭性が顕著に劣化するために、疲労き裂伝播中でも脆性破壊が生じて疲労特性も劣化させる。
【0059】
Siは、脱酸元素として、また、母材の強度確保に有効な元素であるが、0.01%未満の含有では脱酸が不十分となり、また強度確保に不利である。Siは多いほど、二相域熱処理時にオーステナイト中へのCの濃化を促進するため、硬質第二相の形成には有利であるが、2%を超える過剰の含有は粗大な酸化物を形成して延性や靭性の劣化を招く。また、溶接性も阻害する。そこで、Siの範囲は0.01〜2%とした。
【0060】
Mnは母材の強度、靭性の確保に必要な元素であり、最低限0.1%以上含有する必要があるが、過剰に含有すると、硬質相の生成や粒界脆化等により母材靱性や溶接部の靭性、さらに溶接性も劣化させるため、材質上許容できる範囲で上限を3%とした。
【0061】
Alは脱酸に有用な元素であり、またAlNにより母材の加熱オーステナイト粒径微細化に有効な元素であるが、効果を発揮するためには0.001%以上含有する必要がある。一方、0.1%を超えて過剰に含有すると、粗大な酸化物を形成して延性を劣化させるため、0.001%〜0.1%の範囲に限定する必要がある。
【0062】
Nは固溶状態では延性、靭性に悪影響を及ぼすため、好ましくないが、V、AlやTiと結びついてオーステナイト粒微細化や析出強化に有効に働くため、微量であれば機械的特性向上に有効である。また、工業的に鋼中のNを完全に除去することは不可能であり、必要以上に低減することは製造工程に過大な負荷をかけるため好ましくない。そのため、延性、靭性への悪影響が許容できる範囲で、かつ、工業的に制御が可能で、製造工程への負荷が許容できる範囲として下限を0.001%とする。過剰に含有すると、固溶Nが増加し、延性や靭性に悪影響を及ぼす可能性があるため、許容できる範囲として上限を0.01%とする。
【0063】
Pは不純物元素として、母材、HAZともに靭性に悪影響を及ぼすので、極力低減するべきであり、本発明では上限を0.02%とした。
【0064】
Sは硫化物を形成して延性を大きく劣化させる元素であるため、極力低減する必要があり、本発明では上限を0.01%とした。
【0065】
以上が、本発明において重要な元素及び不純物元素の限定理由であるが、本発明においては、強度・靭性の調整のために、必要に応じて、さらにNi、Cu、Cr、Mo、W、Ti、V、Nb、Zr、Ta、Bの1種または2種以上を含有することができる。
【0066】
Niは母材の強度と靭性を同時に向上でき、非常に有効な元素であるが、効果を発揮するためには0.01%以上の添加が必要である。Ni量は増加するほど母材の強度・靭性を向上させるが、6%を超えるような過剰な添加では、効果が飽和する一方で、軟質相の平均ビッカース硬さを150以下に制御することが困難となって好ましくない。さらには、高価な元素であるため、経済性も考慮して、本発明においてはNiの上限を6%とする。
【0067】
CuもNiとほぼ同様の効果を有する元素であるが、効果を発揮するるためには0.01%以上の添加が必要であり、1.5%超の添加では熱間加工性やHAZ靭性に問題を生じるため、本発明においては、0.01〜1.5%の範囲に限定する。
【0068】
Crは焼入性の向上、固溶強化により強度向上に有効な元素であり、効果を生じるためには0.01%以上必要であるが、Crは過剰に添加すると硬さの増加、粗大析出物の形成等を通して、母材やHAZの靭性に悪影響をおよぼすため、許容できる範囲として、上限を2%に限定する。
【0069】
Mo、Wはともに、焼入性の向上、析出強化により強度向上に有効な元素であり、効果を生じるためには0.01%以上必要であるが、過剰に添加すると硬さの増加等を通して、母材やHAZの靭性、溶接性に悪影響をおよぼすため、許容できる範囲として、上限を2%に限定する。
【0070】
Tiは、Alと同様に、窒化物を形成して母材やHAZの加熱オーステナイト粒径微細化により靱性を向上するため、好ましい元素である。これらの効果を発揮するためには0.003%以上必要である。一方、0.1%を超えると粗大なTiNや酸化物を形成して靱性を逆に劣化させる恐れがあるため、本発明においてはTiは0.003〜0.1%に限定する。
【0071】
Vは、主として析出強化により鋼の強度向上に効果を発揮するが、効果を生じるためには0.005%以上含有させる必要がある。一方、0.5%を超えて過剰に含有させると、増加、粗大析出物の形成等を通して、母材やHAZの靭性、溶接性に悪影響をおよぼす。従って、本発明においては、Vを含有させる場合は0.005〜0.5%の範囲に限定する。
【0072】
Nbは、主として変態強化により微量で高強度化に寄与する。また、オーステナイトの加工・再結晶挙動に大きな影響を及ぼすため、母材靭性向上にも有効である。効果を発揮するためには、0.003%以上は必要である。ただし、0.2%を超えて過剰に添加すると、靭性を極端に劣化させるため、本発明においては、0.003〜0.2%の範囲に限定する。
【0073】
Zrも強度向上に有効な元素であるが、効果を発揮するためには0.003%以上必要である。一方、0.1%を超えて過剰に添加すると粗大な析出物を形成して靭性に悪影響をおよぼすため、上限を0.1%とする。
【0074】
TaもNbと同様の効果を有し、適正量の添加により強度、靭性の向上に寄与するが、0.005%未満では効果が明瞭には生ぜず、0.2%を超える過剰な添加では粗大な析出物に起因した靭性劣化が顕著となるため0.005〜0.2%としたが、好適範囲は0.01〜0.2%である。
【0075】
Bは極微量で焼入性を高める元素であり、高強度化に有効な元素である。Bは固溶状態でオーステナイト粒界に偏析することによって焼入性を高めるため、極微量でも有効であるが,0.0002%未満では粒界への偏析量を十分に確保できないため、焼入性向上効果が不十分となったり、効果にばらつきが生じたりしやすくなるため好ましくない。一方,0.005%を超えて添加すると、鋼片製造時や再加熱段階で粗大な析出物を形成する場合が多いため、焼入性向上効果が不十分となったり、鋼片の割れや析出物に起因した靭性劣化を生じる危険性も増加する。そのため、本発明においては、Bの範囲を0.0002〜0.005%とする。
【0076】
さらに本発明においては、HAZ靱性、延性の改善の目的で、必要に応じて、Mg、Ca、Y、La、Ceの1種または2種以上を含有することができる。
【0077】
Mg、Ca、Y、La、Ceはいずれも硫化物の熱間圧延中の展伸を抑制して延性特性向上に有効である。これらの元素からなる介在物により加熱オーステナイト粒径微細化、粒内変態を生じることによりHAZ靭性の向上にも有効に働く。その効果を発揮するための下限の含有量は、MgとYは0.0001%、Caは0.0005%、La、Ceは0.005%である。一方、過剰に含有すると、硫化物や酸化物の粗大化を生じ、延性、靭性の劣化を招くため、上限を各々、Mg、Caは0.01%、Y、La、Ceは0.1%とする。
【0078】
【実施例】
以上が、本発明の要件についての説明であるが、さらに、実施例に基づいて本発明の効果を示す。
【0079】
実施例に用いた供試鋼の化学組成を表1、2に示す。各供試鋼は造塊後、分塊圧延により、あるいは連続鋳造により鋼片となしたものである。表1、2の内、鋼片番号1〜10は本発明の化学組成範囲であり、鋼片番号11〜14は本発明の化学組成を満足していない。表1には合わせて加熱変態点(AC1、AC3)を示すが、これは、昇温速度が5℃/min.のときの実測値であるが、表3、4に示す、鋼板の鋼片加熱あるいは熱処理時における実際の昇温条件での変態点とほぼ合致している。
【0080】
表1、2の化学組成の鋼片を、表3、4に示す条件の拡散熱処理、熱間圧延、熱処理、焼戻しを施して、鋼板に製造し、引張特性、2mmVノッチシャルピー衝撃特性、さらに疲労特性を調査した。引張試験片及びシャルピー衝撃試験片は板厚中心部から圧延方向に直角(C方向)に採取した。引張特性は室温で測定し、シャルピー衝撃特性は50%破面遷移温度(vTrs)で評価した。
【0081】
疲労試験は、図3に示す10mm×10mm×70mmの形状で、長さ2.5mm、先端半径0.15mmの切欠きを導入した3点曲げ試験片により、き裂進展速度(da/dN)を求めた。疲労試験片は板厚中心部から採取したが、種々の方向に進展する場合の疲労き裂伝播挙動を調査するため、図4に示すような4種類の方向、切欠き位置とした。すなわち、タイプA試験片は、試験片長手方向が圧延方向に平行で(L方向)、切欠きはき裂が表面から板厚方向に進展するよう、鋼板表面側から板厚方向に導入したものであり(表面切欠き)、タイプB試験片は、切欠きは同じ表面切欠きであるが、試験片長手方向が圧延方向に直角(C方向)となるように採取したものである。タイプC、D試験片はき裂の進展方向が板厚断面に沿って進行する向きに切欠きを導入した(断面切欠き)もので、試験片の方向がタイプCはL方向、タイプDがC方向となっている。
【0082】
疲労試験は、3点曲げにより、応力比0.1、荷重繰り返し周波数20Hzで、負荷加重を調整することによって疲労き裂を発生させ、き裂発生後は荷重を徐々に低下させていき、き裂進展速度が1nm/cycle(10-6m/cycle)以下に減少したときの荷重を試験荷重としてき裂伝播試験を開始した。そして、その後のき裂長さ(a)と荷重繰繰り返し数(N)の関係から、ΔK(応力拡大形数範囲)とき裂進展速度(da/dN)との関係を求め、ΔK=30MPam1/2のときのda/dNで疲労き裂伝播特性を評価した。なお、き裂長さの測定は直流電位差法に拠った。
【0083】
表5には、機械的性質とともに組織調査結果も合わせて示す。組織の種類は光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡観察により同定した。硬さ、粒界占有率、硬質第二相間隔の測定は、鋼板の表面下2mm、1/4厚、板厚中心部の3カ所について行い、全体の平均を表5に示した。
【0084】
軟質相及び硬質第二相の硬さはマイクロビッカース硬さ試験機を用いて、組織の大きさに合わせて荷重を5〜10gfとして、両相とも各板厚位置各々で10〜20点づつ測定し、全体の平均を求めた。硬さの測定はJIS Z2244のビッカース硬さ試験法に準拠して実施した。
【0085】
粒界占有率、硬質第二相間隔の測定は、上記各板厚位置で、L断面、C断面、Z断面について撮影した光学顕微鏡組織写真を用いて、画像解析装置により、図2に示す定義で測定した。すなわち、粒界占有率は、硬質第二相を含まないと仮定したときの変態組織の全粒界長さ(硬質第二相が生成していない軟質相の粒界長さ(フェライト粒界長さと、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイト組織における旧オーステナイト粒界長さとの和)と硬質第二相が覆っている部分の粒界長さとの総和。パーライトが旧オーステナイト粒界上に存在する場合は、パーライトが覆っている粒界長さも加える。)に対する硬質第二相が覆っている部分の粒界長さの比であり、硬質第二相間隔は、隣接する個々の硬質第二相間の最大間隔の平均値であり、各板厚位置の各断面ごとに測定し、それらを全て平均した値で評価した。
【0086】
表2、3のうちの鋼板番号A1〜A13は、本発明の化学組成と組織に関する要件を全て満足している鋼板であり、いずれも構造用鋼として必要な強度、靱性(2mmVノッチシャルピー衝撃特性)を有しているだけでなく、極めて良好な疲労特性(耐疲労き裂伝播特性)も有していることが明らかである。特に疲労特性に関しては、き裂進展方向によらず、全て10nm/cycle以下となっており、疲労特性にほとんど異方性がなく、かつ、そのき裂進展速度も通常の鋼材のレベル、例えばフェライトとパーライトとの層状組織となっている、比較例の鋼板番号B5の1/10以下となっており、非常に良好な耐疲労き裂伝播特性となっている。
【0087】
一方、鋼板番号B1〜B9は、本発明のいずれかの要件を満足していない、比較の鋼板であり、同程度の組成、強度レベルの本発明の鋼板に比べて、疲労特性や靭性が劣っていることが明白である。
【0088】
鋼板番号B1〜B4は、化学組成が本発明を満足していないために、本発明の組織要件を満足できないか、あるいは本発明の組織要件を満足しているにも関わらず、良好な特性を達成できなかった例である。
【0089】
すなわち、鋼板番号B1は、C量が過大であるため、靱性が劣るのは勿論、靱性が極端に劣るために、疲労試験においてさえもミクロな脆性破壊が生じる影響で、本発明に比べて、疲労特性が劣る。
【0090】
鋼板番号B2は、逆にC量が過少なため、硬質第二相の硬さが十分でなく、本発明に比べて疲労き裂進展速度が10倍以上となっており、疲労特性の劣化が明らかである。
【0091】
鋼板番号B3は、Mn量が過大なため、靭性の劣化が著しい。疲労特性も本発明に比べて若干劣る。
【0092】
鋼板番号B4は、P量が過大なため、靭性の劣化が著しい。疲労特性も本発明に比べて若干劣る。
【0093】
鋼板番号B5〜B9は、化学組成は本発明を満足しているものの、組織要件が本発明を満足していないために、継手疲労特性が劣っている例である。
【0094】
鋼板番号B5は、通常の熱間圧延により製造しており、そのため、フェライト、パーライトからなるバンド組織を呈しており、本発明で言うと硬質第二相を全く含まないため、疲労特性が本発明に比べて著しく劣る。また、パーライトが圧延方向に伸張したバンド組織を呈しているため、疲労特性に大きな異方性が認められ、疲労き裂が板厚方向に進展する場合(試験片タイプA、B)に比べて、疲労き裂が板厚断面に沿って進展する場合(試験片タイプC、D)の疲労特性が大幅に低下する。
【0095】
鋼板番号B6は、二相域熱処理によって硬質第二相は本発明の要件を満足しているものの、硬質第二相が伸張したバンド組織となっており、その結果、粒界占有率が過少であるため、疲労特性に大きな異方性を生じ、疲労き裂が板厚方向に進展する場合(試験片タイプA、B)のき裂進展速度は本発明鋼程度に抑制されているものの、疲労き裂が板厚断面に沿って進展する場合(試験片タイプC、D)の疲労き裂進展速度はほとんど改善されない。
【0096】
鋼板番号B7は、二相域熱処理は行っているものの、二相域熱処理における冷却が空冷であるために、硬さが本発明を満足する硬質第二相が形成されず、いずれの試験方向の疲労特性とも本発明に比べて大きく劣化する。
【0097】
鋼板番号B8は、再加熱焼入・焼戻し処理によって製造されているために、軟質相と硬質第二相とからなる組織形態を有せず、疲労特性が向上していない。
【0098】
鋼板番号B9は、硬質第二相の粒界占有率が過少なため、疲労特性が同一組成の本発明後(鋼板番号A6、A12、A13)に比べて疲労き裂進展速度が5倍以上大きく、疲労特性が劣っている。
【0099】
以上の実施例から、本発明によれば、構造用鋼として十分高い靭性を確保しながら、優れた疲労特性を、き裂進展方向の如何を問わず得られることが明白である。
【0100】
【表1】
Figure 0003785392
【0101】
【表2】
Figure 0003785392
【0102】
【表3】
Figure 0003785392
【0103】
【表4】
Figure 0003785392
【0104】
【表5】
Figure 0003785392
【0105】
【発明の効果】
本発明によれば、疲労強度が必要とされる溶接構造部材に用いられる厚鋼材において、母材の疲労き裂進展速度をいずれのき裂進展方向においても顕著に抑制でき、産業上の有用性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼板と疲労き裂の進展方向との関係を示す模式図である。
【図2】軟質相と硬質第二相とからなる組織における、粒界占有率と硬質第二相間隔の定義を説明するための模式図である。
【図3】疲労試験片の形状と3点曲げ試験方法を示す図である。
【図4】鋼板と疲労試験片の方向、ノッチ位置との関係を示す模式図である。
【符号の説明】
1 板厚方向
2 圧延方向
3 軟質相
4 硬質第二相
5 硬質第二相の間隔

Claims (10)

  1. 質量%で、
    C :0.04〜0.3%、
    Si:0.01〜2%、
    Mn:0.1〜3%、
    Al:0.001〜0.1%、
    N :0.001〜0.01%、
    P:0.02%以下、
    S :0.01%以下を含有し、
    残部が鉄及び不可避不純物からなり、軟質相と該軟質相を網目状に囲む硬質第二相からなる二相組織を有し、該軟質相と硬質第二相とが以下の条件を全て満足する耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材。
    ▲1▼軟質相がフェライト、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上から構成され、かつ平均ビッカース硬さが150以下であること。
    ▲2▼硬質第二相がベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上から構成され、かつ平均ビッカース硬さが250以上であること。
    ▲3▼下記(1)式で示される、硬質第二相の粒界占有率が0.5以上であること。
    Figure 0003785392
  2. さらに、質量%で、
    Ni:0.01〜6%、
    Cu:0.01〜1.5%、
    Cr:0.01〜2%、
    Mo:0.01〜2%、
    W :0.01〜2%、
    Ti:0.003〜0.1%、
    V :0.005〜0.5%、
    Nb:0.003〜0.2%、
    Zr:0.003〜0.1%、
    Ta:0.005〜0.2%、
    B :0.0002〜0.005%、
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材。
  3. さらに、質量%で、
    Mg:0.0001〜0.01%、
    Ca:0.0005〜0.01%、
    Y:0.0001〜0.1%、
    La:0.005〜0.1%、
    Ce:0.005〜0.1%、
    のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材。
  4. 硬質第二相の平均間隔が50μm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材。
  5. 請求項1〜3のずれかに記載の成分を有する熱間圧延前の鋼片に、加熱温度が1200〜1350℃、該温度範囲での保持時間が2〜100hの拡散熱処理を施した後、加熱温度がAC3変態点〜1250℃で、圧延後にAr3変態点以上から400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する熱間圧延を施し、さらに加熱温度が(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−10℃)で、かつ、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する二相域熱処理を施すことを特徴とする耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材の製造方法。
  6. 請求項1〜3のずれかに記載の成分を有する鋼片に熱間圧延を施した後、加熱温度が1150〜1250℃、該温度範囲での保持時間が2〜100hで、かつ、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する拡散熱処理を施し、さらに、加熱温度が(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−10℃)で、かつ、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する二相域熱処理を施すことを特徴とする耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材の製造方法。
  7. 加熱温度がAC3変態点〜1250℃で、圧延後にAr3変態点以上から400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する熱間圧延を施すことを特徴とする請求項6に記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材の製造方法。
  8. 二相域熱処理前に、加熱温度がAC3変態点〜1050℃で、400℃以下まで5〜100℃/sで加速冷却する、焼入処理を施すことを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材の製造方法。
  9. 二相域熱処理に際して、400℃〜加熱温度までの平均昇温速度が0.5〜50℃/sであることを特徴とする、請求項5〜8のいずれかに記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材の製造方法。
  10. 250〜600℃で焼戻すことを特徴とする、請求項5〜9のいずれかに記載の耐疲労き裂伝播特性に優れた厚鋼材の製造方法。
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