JP6705275B2 - 熱延鋼板及び熱延鋼板の製造方法 - Google Patents
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高炭素鋼に対する球状化焼鈍においては、γ(オーステナイト)+α(フェライト)の二相域で焼鈍する二相域焼鈍を行って、組織中に、球状化したセメンタイトが分散した組織を作ることによって鋼板を軟質化させ、加工性を向上させる技術が知られている。
しかしながら、この二相域焼鈍に関しては、二相域焼鈍した際に、セメンタイトが完全に溶解してしまう問題がある。
セメンタイトが完全に溶解すると、二相域焼鈍後の徐冷によって、球状化焼鈍後の組織がパーライトになり、セメンタイトが球状化した組織が得られないため、鋼板を軟質化させられずに、加工性が劣化してしまう。
セメンタイトを球状化させるために、熱間圧延後の鋼板に対しては、二相域焼鈍を含む球状化焼鈍が行われている。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、二相域焼鈍を含む球状化処理前の組織を規定した発明である。
本発明の目的とするところは、球状化焼鈍プロセスにおいて、二相域での保持時間を長くしても、セメンタイトが完全に溶解されない組織とし、その結果、球状化焼鈍によって、加工性が従来よりも優れた鋼板と成すことが可能な、新規かつ改良された熱延鋼板とその製造方法を提供することにある。
即ち、高温環境下で、フェライト中におけるセメンタイト相の溶解速度と、オーステナイト中におけるセメンタイト相の溶解速度が異なることに着目し、球状化焼鈍前の組織等を最適化することにより、球状化焼鈍によって、焼鈍後の組織が大径化されたフェライト中に、球状化したセメンタイト相が残留する組織となることで、加工性に優れる鋼板を得ることができることを見出し、本発明に至ったものである。
(1)質量%で、C:0.40〜1.0%、Si:0.01〜0.35%、Mn:0.3〜2.0%、Cr:0.050〜0.60%、P:0.005〜0.03%、S:0.0001〜0.01%、Al:0.005〜0.10%、及び、N:0.001〜0.01%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
パーライトのみで構成される組織、又は、パーライトの面積率が40%以上であり、且つ、面積率の90%以上がパーライト及びフェライトで構成される組織を有し、
金属組織を構成するパーライトの平均粒径が25μm以上200μm以下であることを特徴とする熱延鋼板。
前記加熱工程で加熱した鋼片を、1000℃以上の温度で熱間圧延することによって、熱延鋼板を製造する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程で製造した熱延鋼板を、1000℃から750℃まで、50s以上かけて冷却し、750℃からから冷却速度10℃/s以下で冷却する冷却工程と、
前記冷却工程で冷却された熱延鋼板を650℃以下の温度域で巻き取る工程を有することを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
<球状化焼鈍前の組織>
本発明に係る鋼板は熱延鋼板であり、成形加工性を向上させるために球状化焼鈍を施す前の鋼板である。
本発明に係る鋼板の組織は、全てパーライトからなるか、あるいは、パーライトの面積率が40%以上であり、且つ、パーライトとフェライトの合計面積率が90%以上である必要がある。即ち、パーライトやフェライト以外の、マルテンサイトやベイナイト組織は、結晶粒内の転位密度が高く、焼鈍時の加熱によって、容易にα→γ変態が進行し、粒内のセメンタイト相も消失し易いため、パーライトとフェライト以外の組織の面積率を10%以下に規定した。
上述した組織の鋼板を、焼鈍を目的として二相域で保持する際、保持時間によって、最終的なフェライト粒径が変化するため、焼鈍後の鋼板が必要とする軟質化の程度に応じた時間での熱処理が必要である。
二相域でのセメンタイト相の溶解挙動は、高温現象であり、その詳細は、現在まで十分に理解されていなかった。そこで、本発明者らは、数値計算により詳細を検討し、球状化焼鈍前の組織において、パーライト粒径を大きくすることによって、二相域での保持時間を長くしても、セメンタイト相が完全に溶解しない可能性が高まることを見出した。
α(フェライト)相中、及びγ(オーステナイト)相中のセメンタイト相(θ)の溶解速度について以下のことが判った。
(1)α相中でのセメンタイト相の溶解速度と比較して、γ相中でのセメンタイト相の溶解速度は著しく大きい。従って、通常の製造方法を採用する限り、γ相中でセメンタイトを残存させることは困難である。
(2)α相中のセメンタイト相は、α相の粒径が大きくなるほど溶解完了時間が長くなる。具体的には、溶解完了時間は、ほぼα相の粒径に比例して増加していくが、200μm以上では、粒径の影響が小さくなる(図1)。
(3)α相の粒径が大きくなるほど溶解完了時間が延長されるメカニズムは以下のように考えられる。
Mn、Cr等の合金元素を添加した場合では、炭素の拡散によって、セメンタイトの溶解速度が律速される場合と、合金元素の拡散によって律速される場合が想定されるが、後者の場合では、合金元素の拡散速度が遅いため、セメンタイトは残存しやすい。このため、セメンタイトの溶解完了時間を延長するためには、炭素の挙動を制御する必要がある。
炭素の挙動は、α相中でのC濃度勾配が小さいほど、拡散によるCの移動速度は小さくなる。従って、セメンタイト相表面におけるC濃度勾配が小さいほど、セメンタイト相の溶解速度は小さくなる。図2に示すように、界面では局所平衡が保たれているため、セメンタイト相とγ相とにおける界面での炭素濃度は決まっているので、セメンタイト相とγ相との距離が大きいほど、セメンタイト相表面におけるC濃度勾配が小さくなる。
従って、多くのセメンタイト相を残存し易くするためには、γ相と離れた位置に存在するセメンタイト相の数を多くすれば良い。γ相の最も頻度の高い優先核形成サイトは、粒界上のセメンタイト相である。そのため、α相粒界からγ相が成長していく(図3)。
一方、α相の結晶粒内のセメンタイトは、γ相の成長と相互作用しながら、α相中で溶解するが、α相の粒径を大きくすれば、相対的にγ相と離れた位置に存在するセメンタイト相の数が多くなり、多くのセメンタイト相が残存し易くなる。
本発明では、前述したように、球状化焼鈍前の組織は、ベイナイトやマルテンサイトの割合が低い組織にする必要がある。その理由は、ベイナイト相やマルテンサイト相では、転位等の欠陥の影響で、結晶粒内からも容易にγ相が核生成・成長する可能性が大きいからである。そのため、γ相と離れた位置に存在するセメンタイト相の数を多くすることが出来ず、ベイナイト相やマルテンサイト相では、前述のメカニズムによって、セメンタイト相を残存させることが難しくなる。
パーライトの面積率が40%より少ないと、たとえ、パーライトとフェライトの合計面積率が90%以上であっても、球状化処理した際に、セメンタイトの分布が不均一になり、加工性が悪化する可能性がある。
二相域焼鈍時の残存するセメンタイト相の数を保持すると共に、均一に分布させるためには、できれば、ベイナイトやマルテンサイトを一切含まないことが望ましい。
パーライトの平均粒径が25μm以下であると、後述する球状化焼鈍プロセスにおいて、セメンタイト相が消失してしまう可能性が高くなるので、下限値は25μm以上としたが、40μm以上であれば、さらに好ましい結果が得られる可能性が高まる。
平均粒径の上限は、セメンタイト相の溶解挙動が飽和することから200μmに定めた。
本発明に係る鋼板の組成は以下のとおりである。含有量を示す%は、質量%である。
Cは最終製品時(例えば、自動車部品としたとき)における強度を確保するために、必要である。パーライト相の面積率が40%以上となるように、C濃度の下限は0.40%とした。0.40%未満では強度が不十分であり、1.0%超では、球状化処理後の硬度が高くなって、加工性が悪化する。
Siは、固溶強化により、最終製品(例えば、自動車部品としたとき)の強度を増加させることや、脱酸の目的で添加される。0.01%未満では製品強度や脱酸作用が不十分であり、0.35%を越えると、球状化処理後の硬度が高くなって、加工性が悪化する。
Mnは、焼き入れ性向上のために添加される。0.3%未満では、焼き入れ性の向上効果が不十分であり、2.0%を越えると、球状化処理後の硬度が高くなって、加工性が悪化する。
Crは、焼き入れ性向上のために添加される。0.05%未満では、焼き入れ性の向上効果が不十分であり、0.60%超では、球状化処理後の硬度が高くなって、加工性が悪化する。
Pは、不可避的に含有される不純物元素であり、0.03%を越えると、加工性及び延性が悪化するので、含有量は少ないほどよいが、低減コストが嵩むため、下限値は0.005%とした。
Sは、不可避的に含有される不純物元素であり、0.01%を越えると、延性が悪化するので、少ないほどよいが、低減コストが嵩むため、下限値は0.0001%とした。
Alは、鋼の溶製過程で脱酸剤として添加される。0.005%未満では、脱酸効果が不十分であり、0.10%を越えると、清浄度が低下して、表面性状も悪化する。
Nは、鋼中に不可避的に含有される不純物元素である。0.01%を越えると、Alと結び付いてAlNを形成し、フェライト粒径の大径化を阻害するので、球状化処理後の鋼板の加工性が悪化する。
熱延後の冷却中の結晶粒の成長速度などの値から、所望のパーライト粒径が得られるような条件を検討し、決定した。
<加熱工程>
鋼片を1100℃以上1300℃以下の範囲に加熱する。
加熱工程は、生産設備上、上限は1300℃程度であり、次の熱延工程での温度を達成するには、1100℃以上が望ましい。
<熱間圧延工程>
1000℃以上で、熱間圧延することで、等軸でγ粒を形成させる。初期のγ粒からパーライト変態が生じるため、扁平化したγ粒では、その後のパーライト結晶粒の形も扁平になり、二相域焼鈍時に形成されるγ相とセメンタイト相間の距離が短くなって、セメンタイト相の溶解速度が低下しにくくなる。また、扁平化したγ粒では、核形成サイトも多くなるため、初期γ粒が微細化され、パーライトも微細化してしまう。熱間圧延は,1100℃以上であれば,より等軸のγ粒が形成されやすく,望ましくは,1100℃以上で熱間圧延を行う。
<冷却工程>
熱延終了後、1000℃までの冷却条件は特に定めないが、1000℃から750℃までは、50s以上かけて冷却しなければ、大径のγ粒を形成させられない。
初期のγ粒から初析フェライトが析出した後、共析変態によってパーライト相が生じるため、初期のγ粒の粒径が大径になると、パーライト相の結晶粒径も大径になりやすく、本発明で規定するパーライト相の平均粒径25〜200μmを達成することができる。
この間に温度保持時間を設けても良い。
冷却後、650℃以下の温度で巻き取ることで、ベイナイト相及びマルテンサイト相が形成されにくくなる。
650℃以上で巻き取ると、パーライト変態が未完了となり、ベイナイト相やマルテンサイト相が生じる虞がある。下限値は、特に定めるものでないが、生産性を考えると、550℃以上が好ましい。
以上、熱延のための加熱過程から、巻き取りまでの温度経過を図4に示した。
熱延鋼板の組織は、前述したように、全体がパーライト、若しくは、パーライトを40%以上含み、且つ、パーライトとフェライトの面積率が90%以上を占める組織からなる。
A1点直下まで加熱して保持することで、パーライト中の層状セメンタイト相は、その長さを減じて球状化が開始される。A1点直下で保持を行わず、二相域まで加熱しても良いが、A1点直下で保持することで、セメンタイト相が安定化し、溶解しにくくなる。
更に、A1点直上の二相域(α+γ)で保持することで、セメンタイト相をさらに微細化すると共に、α相粒の成長を図る。前述したように、γ相内や、α相中でも、粒界近辺のセメンタイト相は、溶解・消失するものもあるが、成長した大径のα相内に存在し、粒界から十分に離れた位置にある球状化したセメンタイト相粒は、微細化して残存し、引続く徐冷過程においてα相内で成長・球状化し、鋼板は、セメンタイト相の球状化とα相の大径化により、軟質化して、各種加工に適する硬度となる。
試料番号1、3、4、7、8、11、12、15及び16は、鋼種、熱処理条件とも本発明の規定する条件を満たしている結果、その後の球状化処理によって、加工時には、Hvが170以下の値に低下しており、良好な加工性を示すと共に、製品形状に加工した後熱処理によって、高い硬度(Hv:600以上)を確保できることが理解される。
一方、その他の試料番号の比較例においては、鋼種或いは熱処理条件の何れか1つ以上の条件において、本発明で規定する範囲を充足しておらず、球状化処理後の硬度が高いままで加工性に劣るか、あるいは、製品完成後の熱処理によっても十分な硬度が得られていない。
試料番号21〜25、33〜35及び37は、発明例であり、球状化処理後の鋼板硬度が低く、製品時に熱処理を施した後の硬度は十分な値となっていることが理解されるが、比較例である26〜32及び36においては、球状化処理前の鋼板において、パーライト面積率(本発明では40%以上)、パーライトとフェライトの合計面積率(同90%以上)、あるいは、パーライトの平均粒径(同25〜200μm)の何れか1つ以上が充足されていないため、α+γの二相域保持15時間後の組織において、セメンタイト相が消失してしまった結果、セメンタイト相の球状化が達成されず、徐冷後の組織がパーライト相等になり、鋼板の軟質化等が不可能となってしまった。
なお、表4及び表5に示した実験例において、各試料の評価は以下の方法で行った。
[面積率]
ナイタールエッチィングした組織を光学顕微鏡によって倍率500倍で5視野以上撮影し、その組織写真を画像解析し、パーライト+フェライトの面積率及びパーライトの面積率を求めた。
[パーライトの平均粒径]
鋼板表面から板厚1 / 4 深さの部位の領域で、EBSD法により1mm×1mmの領域を10視野以上撮影し、方位差9°以上の境界で囲まれた領域をパーライトブロックとみなし、Johnson−Saltykovの測定方法を用いて解析することで、パーライトブロック粒径の平均値を求めた。
[二相域保持15h後のセメンタイトの存在]
15h二相域保持を行い、そのまま急冷を行い、走査型電子顕微鏡によって組織観察し、セメンタイトの存在状態を調べた。その際、ピクリン酸アルコールで組織をエッチングし、走査型電子顕微鏡により倍率3000倍で20視野を撮影し、画像解析により、3視野以上でセメンタイトの存在を確認できたものについて、○とし、2視野以下で確認若しくはまったく確認できなかったものについて×を付した。従来の熱延鋼板では、7.5h程度の750℃での二相域保持によってセメンタイトが完全に溶解することから、本発明の効果を確認する方法として採用した。
[球状化処理後・製品時の特性]
15h二相域保持によってセメンタイトが完全に溶解しなかった試料について、球状化処理後と、さらに熱処理によりマルテンサイト化させた製品時の特性の評価として、ビッカース硬さを測定した。その際、荷重1kgfで5点測定した平均値を求めた。製品時の特性は、各試料から3cm×3cmの試料を打抜き、この試料を800℃で30分間均熱した後、60℃の油中へ焼入れを行い、その後150℃で30分間焼戻す熱処理を行ったものについて、ビッカース硬さを測定した。
Claims (3)
- 質量%で、
C:0.40〜1.0%、
Si:0.01〜0.35%、
Mn:0.3〜2.0%、
Cr:0.050〜0.60%、
P:0.005〜0.03%、
S:0.0001〜0.01%、
Al:0.005〜0.10%、
及び、N:0.001〜0.01%を含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなり、
パーライトのみで構成される組織、又は、パーライトの面積率が40%以上であり、且つ、面積率の90%以上がパーライト及びフェライトで構成される組織を有し、
金属組織を構成するパーライトの平均粒径が25μm以上200μm以下であることを特徴とする熱延鋼板。 - 質量%で、
C:0.40〜1.0%、
Si:0.01〜0.35%、
Mn:0.3〜2.0%、
Cr:0.050〜0.60%、
P:0.005〜0.03%、
S:0.0001〜0.01%、
Al:0.005〜0.10%、
及び、N:0.001〜0.01%を含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼片を、1100℃以上1300℃以下の範囲に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程で加熱した鋼片を、1000℃以上の温度で熱間圧延することによって、熱延鋼板を製造する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程で製造した熱延鋼板を1000℃から750℃まで、50s以上かけて冷却し、750℃から冷却速度10℃/s以下で冷却する冷却工程と、
前記冷却工程で冷却された熱延鋼板を650℃以下の温度域で巻き取る工程をこの順に有することを特徴とする請求項1に記載された熱延鋼板の製造方法。 - 前記冷却工程での熱延鋼板の冷却速度を5℃/s以下とすることを特徴とする請求項2に記載の熱延鋼板の製造方法。
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