JP5627338B2 - 質量分析方法 - Google Patents
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Description
ガスクロマトグラフ−質量分析装置のイオン化法として、一般的に用いられているイオン化法として電子衝撃イオン化法(EI法)がある。このEI法は高エネルギーを用いるため、多数のフラグメントが生成されることから、マススペクトルの解析評価が困難となり易く、従ってクロマトグラフ等の分離手段と組み合わされて使用することが必要である。
一方、イオン付着イオン化法、ペニングイオン化法、光イオン化法等のソフトイオン化法を備えた質量分析装置では、フラグメントイオンを抑制できることから、クロマトグラフによる分離手段を省略することが可能となり、よって分析時間の短縮、分離手段における被測定物の変性やロスの回避、被測定物の経時変化のリアルモニタリング化を可能にする等のメリットがある。
1つには、ガスクロマトグラフ等の分離手段を使用しないので、測定対象物の構成成分が複雑、多数の場合には、共雑成分のシグナルと対象成分のシグナルが重なり、良好な識別が困難となる場合がある。
特に、測定対象物が樹脂や接着剤等の高分子材料、油、生物試料等において基地成分(以下、マトリックスと称する)中に含まれる微量成分を検出する場合の影響が大きい。また有機化学物質の場合は、同位体シグナルによる重なりが成分識別の深刻な妨害となる場合がある。このような問題を回避するには、質量分解能を大きく上げ、或いはMS/MS化による識別精度向上を図る必要があるが、装置の大型化、高額化の問題が生じる。
もう1つの問題は、ガスクロマトグラフ等の分離手段を用いないため、大きなシグナルの変化に隠れた微細なシグナルの変化を見落とす問題である。ガスクロマトグラフを使用する場合には、個々の微量成分が明瞭に分離され、シャープな濃縮バンドを持つため、トータルイオンクロマトグラムの各成分のピークがシャープになり、個々の成分の確認は比較的容易である。しかしガスクロマトグラフを用いないソフトイオン化質量分析装置では、主要な成分はトータルイオンクロマトグラム上でモニタリングできるが、微量成分のシグナル変化は個々のマスクロマトグラムを確認せずには判別することは困難である。
該マススペクトルデータ抽出工程で抽出されたマススペクトルデータを予め作成されるデータベースと同じデータ条件に加工するマススペクトルデータ加工工程と、
該マススペクトルデータ加工工程で得られた加工マススペクトルデータ(Su)を、多変量解析手段を用いて、前記データベースと照合することで、加工マススペクトルデータ(Su)に含まれる1乃至複数のマトリックスの成分を特定すると共にその成分の混合比率を特定するマトリックス特定工程と、
該マトリックス特定工程で特定されたマトリックスの成分及び混合比率とから、その成分及び混合比率に対応したマススペクトルデータを、標準マススペクトルデータ(Sr)として、データベースのマススペクトルデータから合成する標準マススペクトルデータ(Sr)合成工程と、
前記加工マススペクトルデータ(Su)から前記標準マススペクトルデータ(Sr)を減算することで、加工マススペクトルデータ(Su)からマトリックス成分及びマトリックス由来成分によるシグナル値の重複を除去するノイズ除去工程と、を有し
前記マススペクトルデータ抽出工程では、ソフトイオン化質量分析装置での時間、質量電荷比(m/z)及びシグナル強度からなる三次元の測定データに対して、一定の時間帯における各質量電荷比(m/z)毎のシグナル強度の平均値若しくは総和値を得て、質量電荷比(m/z)とシグナル強度とからなる二次元のマススペクトルデータを得、
前記一定の時間帯の採用は、三次元の測定データの各質量電荷比(m/z)毎に各サンプリング時間のシグナル強度を変量とした主成分分析を行い、得られた第1〜第n主成分のローディングデータと時間とからなる二次元データと、該二次元データから抽出される1乃至複数の変曲点とに基づいて、一定の時間帯を採用することを第1の特徴としている。
また本発明の質量分析方法は、上記第1又は第2の特徴に加えて、マススペクトルデータ加工工程では、抽出されたマススペクトルデータの規格化とスケーリング処理の少なくとも1つを行うことで、予め作成されるデータベースと同じデータ条件のマススペクトルデータに加工することを第3の特徴としている。
また本発明の質量分析方法は、上記第1〜第3の何れかの特徴に加えて、マトリックス特定工程では、多変量解析手段として少なくとも改重回帰分析手段を用いて、加工マススペクトルデータ(Su)とデータベースのマススペクトルデータとの照合を行うことで、マトリックスの成分とその混合比率の特定を行うことを第4の特徴としている。
また本発明の質量分析方法は、上記第1〜第4の何れかの特徴に加えて、標準マススペクトルデータ(Sr)合成工程では、マトリックス特定工程で特定された1乃至複数のマトリックス成分の各マススペクトルデータをデータベースから採用すると共に、この採用したデータベースからの各マススペクトルデータを、前記1乃至複数のマトリックス成分の混合比率に対応して組み合わせることで標準マススペクトルデータ(Sr)を合成することを第5の特徴としている。
請求項1に記載の質量分析方法によれば、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフ等の分離手段を組み合わせる必要なく、ソフトイオン化質量分析装置で得られる測定データから、被測定物のマトリックス成分の同定と混合比率、更には微量成分に対するマトリックス成分によるノイズを除去して、微量成分の同定をも効果的に行うことが可能となる。よってガスクロマトグラフや液体クロマトグラフ等の分離手段設備を備えることによる分析時間の増加、分離手段における被測定物の変性やロス、被測定物の経時変化のリアルモニタリングができなくなる等の問題を十分に軽減しつつ、被測定物の質量分析を良好に行うことができる。
加えて、ソフトイオン化質量分析装置での時間、質量電荷比(m/z)及びシグナル強度からなる三次元の測定データに対して、一定の時間帯における各質量電荷比(m/z)毎のシグナル強度の平均値若しくは総和値を得て、質量電荷比(m/z)とシグナル強度とからなる二次元のマススペクトルデータを得ることとしているので、
ソフトイオン化質量分析装置で得られる全時間帯での3次元の全測定データに対して、成分の分析がより明確に行える一定の時間帯でのマススペクトルデータを得ることが可能となると共に、マススペクトルデータにおける各質量電荷比(m/z)のシグナル強度も、これをシグナル強度の平均値若しくは総和値とすることで、各質量電荷比(m/z)間でのシグナル強度の比較をより信頼のあるものとすることができる。
加えて、前記一定の時間帯の採用は、三次元の測定データの各質量電荷比(m/z)毎に各サンプリング時間のシグナル強度を変量とした主成分分析を行い、得られた第1〜第n主成分のローディングデータと時間とからなる二次元データと、該二次元データから抽出される1乃至複数の変曲点とに基づいて、一定の時間帯を採用することとしているので、
被測定物に含まれる成分の特徴がよく現れた時間帯でのマススペクトルデータを得ることが可能となる。よって、より明瞭な変曲点を抽出することが可能となり、より明確な成分分析を行うことが可能となる。
トータルイオンクロマトグラム上では確認が容易ではないマススペクトルパターンの変化の傾向を測定者に知らしめ、注意を喚起することができる。
多変量解析手段による解析とそれに伴うデータベースとの比較、照合を、同じ条件下でのデータに基づき、確実、容易に行うことができる。
また請求項4に記載の質量分析方法によれば、上記請求項1〜3の何れかに記載の構成による作用効果に加えて、マトリックス特定工程では、多変量解析手段として少なくとも改重回帰分析手段を用いて、加工マススペクトルデータ(Su)とデータベースのマススペクトルデータとの照合を行うことで、マトリックスの成分とその混合比率の特定を行うこととしているので、
条件をデータベースと同じにした加工マススペクトルデータ(Su)の改重回帰分析により、現に加工マススペクトルデータ(Su)に含まれる1乃至複数のマトリックスの成分と混合比率を特定することができる。
また請求項5に記載の質量分析方法によれば、上記請求項1〜4の何れかに記載の構成による作用効果に加えて、標準マススペクトルデータ(Sr)合成工程では、マトリックス特定工程で特定された1乃至複数のマトリックス成分の各マススペクトルデータをデータベースから採用すると共に、この採用したデータベースからの各マススペクトルデータを、前記1乃至複数のマトリックス成分の混合比率に対応して組み合わせることで標準マススペクトルデータ(Sr)を合成することとしているので、
特定された1乃至複数のマトリックス成分が特定された混合比率で混合している場合に生じるであろう、標準となるべきマススペクトルデータをデータベースから作成することができ、従って標準マススペクトルデータ(Sr)を用いて、被測定物の加工マススペクトルデータ(Su)に含まれるマトリックスの影響を取り除くことが可能となる。
図1のフロー図を参照して、本発明の質量分析方法は、マススペクトルデータ抽出工程Aと、マススペクトルデータ加工工程Bと、マトリックス特定工程Cと、標準マススペクトルデータ(Sr)合成工程Dと、ノイズ除去工程Eとを有している。
図2のフロー図を参照して、マススペクトルデータ抽出工程Aでは、ソフトイオン化質量分析装置で得られる時間、質量電荷比(m/z)及びシグナル強度からなる三次元の測定データから、被測定物のマススペクトルデータを抽出する。
前記ソフトイオン化質量分析装置は、イオン付着イオン化法、ペニングイオン化法、光イオン化法、電界イオン化法、電界脱離イオン化法、エレクトロスプレーイオン化法、ナノエレクトロスプレーイオン化法、探針エレクトロスプレーイオン化法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法等、被測定物のフラグメントイオンの生成を抑制し、分子イオンにして検出することができる、いわゆるソフトイオン化法の手段を備えた質量分析装置を言うものとする。
ソフトイオン化質量分析装置によって得られる被測定物の測定データは、三次元データである。この測定データから特徴的なマススペクトルパターンを示す一定の時間帯を採用する(ステップA1)。
前記採用された一定の時間帯での各質量電荷比(m/z)毎に、シグナル強度の平均値(平均シグナル強度)を演算する(ステップA2)。
そして各質量電荷比(m/z)と平均シグナル強度とからなる二次元のマススペクトルデータを得る(ステップA3)。
ステップA4により得られた第1〜第n主成分のローディングデータと時間とからなる二次元データを用いて、そのそれぞれの二次元データの変曲点を抽出する(ステップA5)。
前記一定の時間帯は、前記得られた第1〜第n主成分のローディングデータと時間とからなる二次元のマススペクトルデータと、該二次元のマススペクトルデータから抽出される1乃至複数の変曲点とに基づいて、被測定物の特徴がよく現れていると判断できる一定の時間帯を全測定時間の中から選んで、採用することになる。
より詳しくは、測定データは、それぞれの時間帯での環境状態(例えば温度、水分量、ガス種、ガス流量など)に依存した被測定試料からの発生ガス成分の質量データが記録されている。このため、個々の変曲点或いは各変曲点間の平均マススペクトルデータは、各時間帯における環境状態及び被測定試料に起因して、例えば、時間帯イでは高揮発性有機化合物の気化成分が、時間帯ロでは中揮発性有機化合物の気化成分が、時間帯ハでは難揮発性或いは不揮発性有機化合物の熱分解成分が、時間帯ニでは分析装置内の残留成分がというように、各時間帯における状態を端的に反映したものとなる。このため、個々の時間帯での特徴的な平均マススペクトルデータから、被測定試料の性状を端的に表す時間帯として、例えば時間帯ロとハを採用するといったことが、容易且つ正確に行うことが可能となる。
そしてまた前記付属的作業として、図4(A)に示すように、前記得られた変曲点をトータルイオンクロマトグラム上に表示する(ステップA6)。
トータルイオンクロマトグラムは時間軸と総シグナル強度軸からなり、質量分析装置で得られた測定データ(三次元データ)から各サンプル時間毎の総シグナル強度を演算することで、容易に図に示すことができる。
そして、図4(A)に示すように、トータルイオンクロマトグラム上に前記の変曲点を表示(三角印で表示)することで、トータルイオンクロマトグラムが示す全体の大きな変化の中で、測定者が注意すべき特定のポイントを知らせることができる。
マススペクトルデータ加工工程Bでは、上述したマススペクトルデータ抽出工程Aで抽出された二次元のマススペクトルデータを、予め作成されるデータベースと同じデータ条件に加工する。
マススペクトルデータの加工は、データの規格化とスケーリング処理の少なくとも1つを行う。これによってデータベースのデータ形式に合わせるのである。
データベースは、マトリックス成分として期待される複数の成分について、予めそれらの成分についてのマススペクトルデータを得て、これをデータベースとするものである。このデータベースについては、普遍性を付与するため、少なくともデータの規格化(正規化)とスケーリング処理の少なくとも1つが施されることになる。このため、前記マススペクトルデータ抽出工程で抽出されたマススペクトルデータについても、規格化、スケーリング処理の少なくとも1つを施し、データベースのデータ形式に合わせた加工マススペクトルデータ(Su)とするのである。前記規格化では最大値を1、最小値を0とした規格化を行う。スケーリング処理では、オートスケーリング、分散スケーリング、レンジスケーリング等の何れか1つ以上を用いる。
勿論、本工程の目的は、データベースとマススペクトルデータ抽出工程Aで抽出されたマススペクトルデータとのデータ条件を同じにすることであるので、具体的なデータの加工の内容は必ずしも上記規格化とスケーリング処理に限定されるものではない。
前記データベースは本発明の方法を使用する者が自ら作成する場合もあれば、既存するデータベースを採用して使用する場合もある。
マトリックス特定工程Cでは、加工マススペクトルデータ(Su)を、多変量解析手段を用いて、前記データベースと照合することで、加工マススペクトルデータ(Su)に含まれる1乃至複数のマトリックスの成分を特定する。
多変量解析手段として、少なくとも改重回帰分析手段を用いる。二次元の加工マススペクトルデータ(Su)を用いて、改重回帰分析を行うことで、被測定物のマトリックス成分がデータベースと照合されて、特定することができる。また2種類以上のマトリックス成分が混合されている場合においても、その2種類以上のマトリックス成分をそれらの混合比率を含めて特定が可能となる。
改重回帰分析手段を用いることで、例えばデータベースに登録されている複数(例えば9種)のマトリックス成分の全ての組み合わせパターンと、加工マススペクトルデータ(Su)との相関関係を解析することで、データベースに登録されている複数のマトリックス成分の存在比に係わる係数と、解析精度を示す重相関係数と重決定係数、その他を得る。ここで、比較対象である加工マススペクトルデータ(Su)とデータベースの両データは、何れも規格化がなされていることでシグナル強度の項が除外されているため、前記の係数から被測定物のマトリックス成分の見かけの混合比率を得ることができる。
なお、マトリックス成分が1つである場合には、多変量解析手段として主成分分析やクラスター分析を行うことで、マトリックス成分をデータベースに登録された成分との一致、不一致を視覚的に照合、判断して、マトリックスを特定することができる。その一方、マトリックス成分が2種類以上ある場合は、前記主成分分析やクラスター分析ではマトリックス成分の特定が十分には行うことができない。
また改重回帰分析を用いてマトリックスの成分と混合比率を特定する場合において、改重回帰分析の解析精度は被測定物や測定条件によって影響を受け、一定濃度未満の成分の特定は困難となる場合がある。従って改重回帰分析によりマトリックスの成分と混合比率を特定する場合に、一定濃度未満、例えば濃度が5%未満等、数%未満の混合比率として解析されたマトリックス成分については、これをマトリックス成分としては採用しないようにしてもよい。マトリックス成分として採用されなかった成分は、次に説明する標準マススペクトルデータ(Sr)の合成工程においても、マトリックス成分として用いられることはない。
標準マススペクトルデータ(Sr)合成工程Dでは、マトリックス特定工程Cで特定されたマトリックスの成分及び混合比率とから、その成分及び混合比率に対応したマススペクトルデータを、標準マススペクトルデータ(Sr)として、データベースのマススペクトルデータから合成する。
マトリックス特定工程Cで特定された1乃至複数のマトリックスに対応する標準マススペクトルデータ(Sr)は、データベースから採用することができる。
一方、例えば2種類のマトリックスのデータをその混合比率に対応して組み合わせて合成することは、各マトリックス成分におけるシグナルの出方が一様ではないことから、単純には行えない。このため、予め、その組み合わせる2種類のマトリックスが50%、50%で混合しているものについてのマススペクトルデータ(より詳細には、これらマススペクトルデータを改重回帰分析して得られる両マトリックスのシグナル強度の強度比)をデータベースに登録しておく必要がある。そしてその登録している混合データにおける両マトリックスのシグナル強度の強度比を用いてデータの合成を行う必要がある。
従ってデータベースとしては、予め予想される複数のマトリックス成分(例えばa、b、c、d、eの5種類)について、その全ての2つの組み合わせ(ab、ac、ad、ae、bc、bd、be、cd、ce、de)について、50%、50%で混合しているもののマススペクトルデータをデータベースとして登録しておく。
勿論、マトリックス特定工程Cにおいてマトリックス成分が判明した後に、それら判明した複数のマトリックス成分について、それらの全ての2つの組み合わせについての50%、50%混合のマススペクトルデータを採取し、各マトリックス成分間でのシグナル強度の強度比を得るようにすることも可能である。50%、50%混合としたのは、同量を入れたときの2成分間でのマススペクトルの強度比を得るためである。勿論、2成分間の強度比を得るのには50%、50%混合のものを用いる必要は必ずしもなく、他の混合比のものを用いてもシグナル強度の比を得ることはできる。
データベースとしては、マトリックスの全ての2つの組み合わせについてのシグナル強度の強度比が判っておれば十分である。例えマトリックス特定工程Cで特定されたマトリックスが3種類以上であっても、それら複数種類のマトリックス間のシグナル強度比は明らかにできるからである。
データベースに示されるオリーブ油のマススペクトルデータ(シグナル強度データ)がL、データベースに示される大豆油のマススペクトルデータ(シグナル強度データ)がM、データベースに示されるオリーブ油と大豆油のシグナル強度の比率が2対1であると、オリーブ油と大豆油とをマトリックスとする合成マススペクトルデータ(S)は次のようにして合成される。
S=L×(8/10)÷(2/3)+M×(2/10)÷(1/3)
ここで、S:合成マススペクトルデータ
L:オリーブ油のマススペクトルデータ(データベース)
M:大豆油のマススペクトルデータ(データベース)
このようにして得られた合成マススペクトルデータはデータベースのマススペクトルのデータ条件と同じにするため、例えば最大値を1、最小値を0として規格化を行うことで、標準マススペクトルデータ(Sr)となる。
またTOFMS等の精密質量が測定できる質量分析装置を使用する場合において、標準マススペクトルデータ(Sr)を用いることで、加工マススペクトルデータ(Su)にマトリックス成分の影響が無いことが確認できれば、それによって質量分析装置による質量分離のみで各成分を十分に分離できていると判断することができるので、ガスクロマトグラフ等の分離手段を用いて分離した成分の精密質量を評価するのと同等の精度で、各成分の質量を評価することが可能となる。
ノイズ除去工程Eでは、前記標準マススペクトルデータ(Sr)合成工程Dにおいて合成された標準マススペクトルデータ(Sr)を用いて、前記加工マススペクトルデータ(Su)から標準マススペクトルデータ(Sr)を減算することで、加工マススペクトルデータ(Su)からマトリックス成分及びマトリッククス由来成分によるシグナル値の重複を除去する。
標準マススペクトルデータ(Sr)は、特定されたマトリックス成分だけが含まれたマススペクトルデータである。一方、加工マススペクトルデータ(Su)は、前記特定されたマトリックス成分とそれ以外の成分が含まれたマススペクトルデータである。
従って加工マススペクトルデータ(Su)から標準マススペクトルデータ(Sr)を減算することで、マススペクトルデータに大きな影響を与えていたマトリックス由来のシグナルを除去することができる。
これによって、特定されたマトリックス成分以外の成分のシグナルをより明瞭に分析し、その成分の特定、更には含有量の特定が可能となる。
そしてマススペクトルデータ抽出工程Aでは、前記測定データを用いて、各サンプリング時間毎に各質量電荷比(m/z)でのシグナル強度を変量とした主成分分析を行った。そして主成分分析により得られる第1〜第n主成分のローディングデータと時間との2次元のクロマトグラムの変曲点を参考にして、被測定物Xの特徴的なマススペクトルパターンを示す測定時間0分〜8分30秒の時間帯を一定の時間帯として選択、採用し、この測定時間0分〜8分30秒の間の平均マススペクトルデータを抽出した。
そしてマススペクトルデータ加工工程Bでは、前記抽出したマススペクトルデータを最大値を1、最小値を0として規格化し、データベースの条件と同じ条件からなる加工マススペクトルデータ(Su)とした。
被測定物Xの加工マススペクトルデータ(Su)を図5(A)、(B)に示す。横軸はm/z、縦軸は規格化したシグナル強度である。(B)は、(A)の規格化したシグナル強度のスケールを拡大したものである。図5(A)に示すデータは全般的にオリーブ油のシグナルを示しており、ココナッツ油のシグナルは見られない。図(B)に示す拡大したデータでは、矢印で示すように、ココナツ油のシグナルが僅かに出ているが、現実的には他のシグナルの中に埋没した状態である。
図6の解析結果では、被測定物Xのマトリックスはオリーブ油が100%という結果となっている。実際には上記したように0.5%のココナッツ油を混入させているが、濃度が前記数パーセント未満と低いため、誤差範囲内として、マトリックス成分としては採用されなかった。
図7に被測定物Xの標準マススペクトルデータを示す。このデータはデータベースにあるオリーブ油のマススペクトルデータに他ならない。
図8に残差データ[(Su)−(Sr)]を示す。図8によれば、白矢印で示されるオリーブ油の他、黒矢印で示されるココナッツ油のシグナルも視認される程度になっている。即ち、ココナッツ油が被測定物Xに含まれていることが視認できる程度となる。
図9に被測定物Yの加工マススペクトルデータ(Su)を示す。横軸はm/z、縦軸は規格化したシグナル強度である。図9に示すデータは全般的にオリーブ油と大豆油のシグナルを示している。他の成分が混入しているか否かは、この加工マススペクトルデータからは定かでない。
図10の解析結果では、被測定物Yのマトリックスはオリーブ油が19.4%、大豆油が80.6%という結果となっている。実際には上記したように20%のオリーブ油と80%の大豆油を混入させている。
図11に被測定物Yの標準マススペクトルデータ(Sr)を示す。
図12に被測定物Yの残差データ[(Su)−(Sr)]を示す。図12によれば、残差データにおいて、オリーブ油と大豆油によるシグナル以外のシグナルは小さく、他の成分は含まれていないと判断することが可能である。
Claims (5)
- ソフトイオン化質量分析装置で得られる時間、質量電荷比(m/z)及びシグナル強度からなる三次元の測定データから、被測定物についての質量電荷比(m/z)とシグナル強度とからなる二次元のマススペクトルデータを抽出するマススペクトルデータ抽出工程と、
該マススペクトルデータ抽出工程で抽出されたマススペクトルデータを予め作成されるデータベースと同じデータ条件に加工するマススペクトルデータ加工工程と、
該マススペクトルデータ加工工程で得られた加工マススペクトルデータ(Su)を、多変量解析手段を用いて、前記データベースと照合することで、加工マススペクトルデータ(Su)に含まれる1乃至複数のマトリックスの成分を特定すると共にその成分の混合比率を特定するマトリックス特定工程と、
該マトリックス特定工程で特定されたマトリックスの成分及び混合比率とから、その成分及び混合比率に対応したマススペクトルデータを、標準マススペクトルデータ(Sr)として、データベースのマススペクトルデータから合成する標準マススペクトルデータ(Sr)合成工程と、
前記加工マススペクトルデータ(Su)から前記標準マススペクトルデータ(Sr)を減算することで、加工マススペクトルデータ(Su)からマトリックス成分及びマトリックス由来成分によるシグナル値の重複を除去するノイズ除去工程と、を有し、
前記マススペクトルデータ抽出工程では、ソフトイオン化質量分析装置での時間、質量電荷比(m/z)及びシグナル強度からなる三次元の測定データに対して、一定の時間帯における各質量電荷比(m/z)毎のシグナル強度の平均値若しくは総和値を得て、質量電荷比(m/z)とシグナル強度とからなる二次元のマススペクトルデータを得、
前記一定の時間帯の採用は、三次元の測定データの各質量電荷比(m/z)毎に各サンプリング時間のシグナル強度を変量とした主成分分析を行い、得られた第1〜第n主成分のローディングデータと時間とからなる二次元データと、該二次元データから抽出される1乃至複数の変曲点とに基づいて、一定の時間帯を採用することを特徴とする質量分析方法。 - マススペクトルデータ抽出工程で得た二次元データの変曲点を、三次元測定データから得られるトータルイオンクロマトグラム上に表示することを特徴とする請求項1に記載の質量分析方法。
- マススペクトルデータ加工工程では、抽出されたマススペクトルデータの規格化とスケーリング処理の少なくとも1つを行うことで、予め作成されるデータベースと同じデータ条件のマススペクトルデータに加工することを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析方法。
- マトリックス特定工程では、多変量解析手段として少なくとも改重回帰分析手段を用いて、加工マススペクトルデータ(Su)とデータベースのマススペクトルデータとの照合を行うことで、マトリックスの成分とその混合比率の特定を行うことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の質量分析方法。
- 標準マススペクトルデータ(Sr)合成工程では、マトリックス特定工程で特定された1乃至複数のマトリックス成分の各マススペクトルデータをデータベースから採用すると共に、この採用したデータベースからの各マススペクトルデータを、前記1乃至複数のマトリックス成分の混合比率に対応して組み合わせることで標準マススペクトルデータ(Sr)を合成することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の質量分析方法。
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