JP4999995B1 - 解析装置、解析方法、及びプログラム - Google Patents

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Abstract

【課題】より正確に炭素原子数を推定すること。
【解決手段】質量分析計から取得されたデータを解析して、イオン化された試料から解離したフラグメントイオンの炭素原子数を推定する解析装置であって、前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比に基づいて前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する第1の炭素原子数推定手段と、前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比と、前記試料に炭素原子数が既知の物質を付与し、又は前記試料から炭素数が既知の物質を脱離させたラベル化試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比と、の相違程度に基づいて前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する第2の炭素原子数推定手段と、を備える解析装置。
【選択図】図10

Description

本発明は、タンデム質量分析計(Tandem Mass Spectrometer)等の質量分析計を用いて得られたスペクトルデータを解析し、試料の分子構造を推定する解析装置、及び解析方法、並びにこれらの装置や方法を実現するためのコンピュータ読み込み可能なプログラムに関する。
従来、タンデム質量分析計等の質量分析計を用いて、イオン化された試料(Precursor Ion;以下、プリカーサイオンと表記する)、及びこれを解離させて得られるフラグメントイオンについて、質量電価比(m/z)毎に検出された強度(Intensity)を検知可能なスペクトルデータを取得し、これを解析することにより試料やフラグメントイオンの炭素原子数を推定する技術が知られている。
この種の質量分析計では、炭素原子12Cの同位体(Isotope)13Cを含むプリカーサイオンと、含まないプリカーサイオンとを電気的・磁気的な作用等により分離し、それぞれの強度を取得して出力する。これらの強度比から、試料に含まれる炭素原子数が推定される。
更に、質量分析計は、分離したそれぞれのプリカーサイオンを解離させてフラグメントイオンを生成し、各フラグメントイオンについてのスペクトルデータを取得する。プリカーサイオンを解離させる際には、例えば、ターゲットガス(例えばXe)をプリカーサイオンに複数回衝突させ、衝突誘起解離を生じさせる工程が採用される(CID:Collision-Induced Dissociation)。
そして、各フラグメントイオンにおける質量電荷比の分布、及び上記推定された炭素原子数から各フラグメントイオンが同定され、推定された炭素原子数と同定されたフラグメントイオンを総合的に判断することによって、元の試料の分子構造が推定される。
質量分析計の構造や機能については、例えば特許文献1及び2に記載されている。
また、非特許文献1には、同位体選択MS/MS法のデータ解析を自動化できるアルゴリズムを含み,MS/MSスペクトル中のフラグメントイオンの推定炭素原子数を、簡便な操作で算出できるソフトウエアの概要について記載されている。
特開2011−028926号公報 特開2005−283593号公報
「金子恒顕・本山晃、『API(Application Programming Interface)を利用した質量分析・データ解析支援ツールの開発』、株式会社資生堂フロンティアサイエンス事業部、同リサーチセンター」、第58回質量分析総合討論会(日本質量分析学会主催)、2010/6/15−18、つくば
しかしながら、スペクトルデータは、炭素以外の元素の同位体の存在により変動する場合もある。従来の解析手法では、隣接ピークの高さ比に基づく推定原理によって推定を行っていたため、炭素以外の元素の同位体を考慮することができず、炭素原子数を正確に解析することができない場合があった。
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、より正確に炭素原子数を推定することが可能な解析装置等を提供することを、主たる目的とする。
上記目的を達成するための一態様は、
質量分析計から取得されたデータを解析して、イオン化された試料から解離したフラグメントイオンの炭素原子数を推定する解析装置であって、
前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比に基づいて前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する第1の炭素原子数推定手段と、
前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比と、前記試料に炭素原子数が既知の物質を付与し、又は前記試料から炭素原子数が既知の物質を脱離させたラベル化試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比と、の相違量に基づいて前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する第2の炭素原子数推定手段と、
を備える解析装置である。
本発明の一態様によれば、より正確に炭素原子数を推定することができる。
本発明の一態様において、
前記第2の炭素原子数推定手段は、
前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークと、前記ラベル化試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークとの間で、左右いずれかのピークの高さが一致するように、前記試料から得られるMS/MSスペクトル、又は前記ラベル化試料から得られるMS/MSスペクトルに補正係数を乗算し、
該乗算の結果、ピークの高さが一致しなかった左右いずれかのピーク間の高さの差を、前記既知の物質に含まれる炭素原子に相当する高さと推定し、
該推定した炭素原子に相当する高さで前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおけるピークの高さを除算することによって、前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する手段であるものとしてもよい。
本発明によれば、より正確に炭素原子数を推定することが可能な解析装置等を提供することができる。
本発明の一実施例に係る解析装置1のシステム構成例である。 本発明の一実施例に係る解析装置1の他のシステム構成例である。 タンデム質量分析計100の機能構成を模式的に示す図である。 本実施例の解析装置1の機能構成例である。 当該試料をイオン化して取得されるスペクトルデータを示す図である。 ピンドロールから生成されるプリカーサイオン及びフラグメントイオンのスペクトルデータを示す図である。 同位体13Cを含むピンドロール(同位体13Cの位置は不明)から生成されるフラグメントイオン又は脱離基において、同位体13Cが存在しうる位置を列挙した図である。 アルギニン[C15]に対してメチル、及びエチルを付加したものを試料とした場合に取得されるスペクトルデータを示す図である。 ラベル化データの「A+1」においてフラグメントイオンのm/zが増加する場合としない場合を模式的に示す図である。 フラグメントイオンがノンシフトの場合における正規化、及び炭素原子数推定原理を説明するための説明図である。 フラグメントイオンがシフトの場合における正規化、及び炭素原子数推定原理を説明するための説明図である。 本実施例の解析装置1により実行される処理の流れを示すフローチャートである。 表示装置24により表示される設定入力画面24Aの一例である。 表示装置24により表示されるピーク選択画面24Bの一例である。 第1の炭素原子数推定部32による炭素原子数推定に係るフローチャートである。 表示装置24により表示される第1の結果出力画面24Cの一例である。 表示装置24により表示される設定入力画面24Dの一例である。 表示装置24により表示されるピーク選択画面24Eの一例である。 表示装置24により表示される第2の結果出力画面24Fの一例である。 比較表示部24Faの表示内容の他の例である。 FIT1、FIT2の値と、その解離の原因の関係等を示す図である
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
以下、図面を参照し、本発明の一実施例に係る解析装置1について説明する。
[基本構成]
図1は、本発明の一実施例に係る解析装置1のシステム構成例である。図示するように、解析装置1は、例えばタンデム質量分析計100に接続され、ユーザ200によって種々の設定入力等が行われるコンピュータである。
また、解析装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)10と、ドライブ装置12と、補助記憶装置16と、メモリ装置18と、インタフェース装置20と、入力装置22と、表示装置24と、を備える。これらの構成要素は、バスやシリアル回線等を介して接続されている。
CPU10は、例えば、プログラムカウンタや命令デコーダ、各種演算器、LSU(Load Store Unit)、汎用レジスタ等を有するプロセッサである。ドライブ装置12は、記憶媒体14からプログラムやデータを読み込み可能な装置である。プログラムを記録した記録媒体14がドライブ装置12に装着されると、プログラムが記録媒体14からドライブ装置12を介して補助記憶装置16にインストールされる。記録媒体14は、例えば、CD−ROM、DVDディスク、USBメモリ等の可搬型の記録媒体である。また、補助記憶装置16は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリである。
プログラムのインストールは、上記のように記憶媒体14を用いる他、インタフェース装置20がネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードし、補助記憶装置16にインストールすることによって行うこともできる。また、情報処理装置の出荷時に、予め補助記憶装置16やROM(Read Only Memory)等に格納されていてもよい。このようにしてインストール又は予め格納されたプログラムをCPU10が実行することにより、図1に示す態様の情報処理装置が、本実施例の解析装置1として機能することができる。
メモリ装置18は、例えば、RAM(Random Access Memory)やEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)である。インタフェース装置20は、上記ネットワークとの接続等を制御する。入力装置22は、例えば、キーボードやマウス、タッチパッド、タッチパネル、マイク等である。また、表示装置24は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)等の表示装置である。
なお、図2は、本発明の一実施例に係る解析装置1の他のシステム構成例である。図示するように、解析装置1は、ユーザ200によって設定入力が行われる一以上のクライアントコンピュータ50に接続されたサーバ装置であってもよい。
図3は、タンデム質量分析計100の機能構成を模式的に示す図である。タンデム質量分析計100は、例えば、試料導入・イオン化室101と、第1計測部・フィルター部102と、衝突室103と、フィルター部・第2計測部104と、記録部105と、を有する。
試料導入・イオン化室101では、分子構造を解析する対象となる試料が真空中又は気体中に導入され、EI(Electron Ionization)、化学イオン化(CI)法、電界脱離(FD)法、高速原子衝突(FAB)法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法等の手法によりイオン化される。
第1計測部102では、イオン化された試料、すなわちプリカーサイオンを質量電価比(m/z)に対応付けて検出すると共に、プリカーサイオンをm/z毎に分離して選択的に衝突室103に放出する。検出した結果は、記録部105に提供される。ここで、プリカーサイオンを分離するとは、主に、同位体を含まないプリカーサイオンと、同位体を含むことによりm/zが1以上大きいプリカーサイオンとを電気的・磁気的な作用等により分離することを意味する。同位体を含まないプリカーサイオンの放出と、同位体を含むプリカーサイオンの放出は、例えば交互に繰り返し行われる。
衝突室103では、m/zに応じて分離されたそれぞれのプリカーサイオンにターゲットガス(例えばXe)を複数回衝突させ、衝突誘起解離を生じさせてフラグメントイオンとする(CID:Collision-Induced Dissociation)。
第2計測部104では、衝突室103で発生したフラグメントイオンをm/z毎に検出して記録部105に提供する。
記録部105では、第1計測部102から提供されるプリカーサイオンの検出データ、及び第2計測部104から提供されるフラグメントイオンの検出データを時系列で格納する。各検出データは、検出された強度とm/zが対応付けられたデータ、すなわちm/zを軸とした強度の分布を検知可能なスペクトルデータである。以下、第1計測部102から提供されるプリカーサイオンの検出データをマススペクトルと称し、第2計測部104から提供されるフラグメントイオンの検出データをMS/MSスペクトルと称する。
なお、記録部105の動作は、例えば、(1)プリカーサイオンの検出データを格納、(2)同位体を含まないプリカーサイオンから生じたフラグメントイオンの検出データを格納、(3)同位体を含むプリカーサイオンから生じたフラグメントイオンの検出データを格納という順で、一定期間繰り返し行われる。
以下、必要に応じて、同位体を含まないプリカーサイオンから生じたフラグメントイオンのMS/MSスペクトルを「A」、同位体を含むプリカーサイオンから生じたフラグメントイオンのMS/MSスペクトルを「A+1」と模式的に表現する。
記録部105は、このように一定期間の間に格納されたスペクトルデータを、解析装置1に出力する。解析装置1では、入力されたスペクトルデータをメモリ装置18や補助記憶装置16に格納する。
なお、本発明の適用上、プリカーサイオンとフラグメントイオンのスペクトルデータを取得可能なものであれば、タンデム質量分析計に限らず、他の種類の質量分析計が用いられても構わない。
[解析原理、及び解析装置の機能構成]
図4は、本実施例の解析装置1の機能構成例である。解析装置1は、マスター制御部30と、第1の炭素原子数推定部32と、第2の炭素原子数推定部34と、評価部36と、を備える。これらの機能ブロックは、補助記憶装置16等に格納されたプログラム・ソフトウエアをCPU10が実行することにより機能する。なお、各機能ブロックが明確に別のプログラムにより実現される必要はなく、いずれかの機能ブロックが、サブルーチン等で他の機能ブロックにより呼び出されるものであっても構わない。また、このようなソフトウエアブロックに限らず、IC(Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウエアによってこれらの機能ブロックが実現されてもよい。各機能ブロックの機能については、後述する。
ここで、解析装置1による炭素原子数の推定原理について説明する。
−隣接ピークの高さ比に基づく推定原理−
まず、隣接ピークの高さ比に基づく推定原理について説明する。
ここでは、対象となる試料のプリカーサイオンの分子式が主に[12 ]で表されるものとする。炭素原子12Cには一定割合で中性子の数が1多い同位体13Cが含まれ、その割合は1.1[%]であることが知られている。従って、当該試料をイオン化すると、「炭素原子数×1.1[%]」の割合で、分子式が[12x−1 13 ]で表されるプリカーサイオンが現れる。なお、いずれの場合も、炭素原子の数はxとカウントする。
図5は、当該試料をイオン化して取得されるスペクトルデータを示す図である。なお、本図は最大高さ(強度)を100に正規化している。図示するように、プリカーサイオン[12 ]のm/zは249であり、プリカーサイオン[12x−1 13 ]のm/zは250であるものとする。図中、「h」は、イオン[12 ]とイオン[12x−1 13 ]の強度比([%])であり、上記より、次式(1)が成立する。このようにして当該試料の炭素原子数の推定値xが得られる。
=h/1.1 …(1)
次に、フラグメントイオンのスペクトルデータについて説明する。ここでは、試料として化学式(1)で表されるピンドロール[121420]を例にとって説明する。
Figure 0004999995
図6は、ピンドロールから生成されるプリカーサイオン及びフラグメントイオンのスペクトルデータを示す図である。図6の上段は、既に図5で示した通り、ピンドロールから生成されるプリカーサイオンのマススペクトルを示している。また、図6の中段は、同位体13Cを含まないピンドロールから生成されるフラグメントイオンのMS/MSスペクトル(図中、Regular MS/MSと表記)「A」を示しており、図6の下段は、同位体13Cを含むピンドロールから生成されるフラグメントイオンのMS/MSスペクトル(図中、Isotope-selective MS/MSと表記)「A+1」を示している。縦軸の相対強度は、プリカーサイオンのスペクトルデータの最大値を100とした場合の相対値である。これらのMS/MSスペクトルは、前述のようにタンデム質量分析計100の機能によって取得可能である。
図6の中段に示すように、MS/MSスペクトル「A」におけるピークは単峰状となる。一方、図6の下段に示すように、MS/MSスペクトル「A+1」におけるピークは基本的に双峰状(又は多峰状)となる。同位体13Cを含むピンドロールから生成されるフラグメントイオンは、同位体13Cを含むものと、含まないものに分かれるからである。
隣接する双峰状のフラグメントイオンのピークは、その強度比が、[8:6]、[5:9]、[3:11]等となって現れる。この強度比は、同位体13Cが、フラグメントイオンと中性の脱離基とのいずれに含まれるかを示す分配比である。例えば、強度比が[3:11]であるm/zが172又は173のピークに相当するフラグメントイオンのうち、11/14は、同位体13Cを含むフラグメントイオンである。図7は、同位体13Cを含むピンドロール(同位体13Cの位置は不明)から生成されるフラグメントイオン又は脱離基において、同位体13Cが存在しうる位置を列挙した図である。図示するように、同位体13Cがフラグメントイオン側に存在するパターンは、全14パターンのうち11パターンとなる。この結果、フラグメントイオンのピークの強度比が[3:11]となる。フラグメントイオン[C1110NO]に13Cが含まれる場合と、脱離基2−アミノプロパン[CN]に13Cが含まれる場合の比は、それぞれの炭素原子数に比例するからである。
このような原理により、ピンドロールから生成されるフラグメントイオンにおいて、m/zが172又は173のピークの強度比は、[3:11]と計測されることになる。他の強度比についても、同様の原理が成立する。
係る原理に基づき、強度比が[8:6]、[5:9]、[3:11]と得られると、これに元の試料の炭素原子数xの推定値を加味して、それぞれのピークに相当するフラグメントイオンの炭素原子数を、6、9、11と推定することができる。強度比が[α、β]である場合のフラグメントイオンの炭素原子数(理論値)xは、例えば次式(2)に基づいて推定することができる。
=x×{β/(α+β)} …(2)
なお、試料やフラグメントイオンの炭素原子数を取得するだけでなく、試料の分子構成を推定する際には、炭素原子の同位体を含まないものと炭素原子の同位体を含むものとがフラグメントイオンにおいて[8:6]、[5:9]、[3:11]等の割合で現れる既知の物質を探せばよい。この既知の物質の同定には、前述した炭素原子数の推定値xと、フラグメントイオンの炭素原子数(理論値)xが総合的に考慮される。
以上が、「隣接ピークの高さ比に基づく推定原理」の概要である。
−ラベル化データを用いた推定原理−
ところで、同位体が存在する可能性が比較的高く、且つ多くの物質に含まれる元素としては、炭素の他に窒素が挙げられる。炭素原子中に出現する同位体の割合は1.1[%]であるのに対し、窒素原子中に出現する同位体15Nの割合は0.37[%]であることが知られており、無視できない割合となっている。この結果、窒素原子の同位体が存在することによって、専ら炭素原子に着目した推定原理のみでは、炭素原子数の推定を正確に行うことができない場合がある。
これを解決するために、以下の推定原理を採用する。まず、同一の試料に対して、メチル[CH]やエチル[CHCH]等の炭素原子数が判明している既知の物質(以下、ラベル物質と称する)を何らかの手法により付与したもの、又は炭素原子数が判明している既知の物質を脱離させたもの(ラベル化試料)に関するマススペクトル及びMS/MSスペクトル「A」・「A+1」をタンデム質量分析計100から取得する(以下、ラベル化データと称する)。また、上記説明したラベル物質を付与し又は脱離させていない元の試料から得られるデータ(以下、ノンラベルデータと称する)を併せて利用する。ここで、試料からラベル物質を脱離させる例としては、エステルを酸とアルコールに分解するケースが挙げられる。
なお、タンデム質量分析計100の説明においては言及しなかったが、ノンラベルデータとラベル化データは、ある試料が選択された際に、まずノンラベルデータが取得され、次にラベル化データが取得されるという手順で、併せて取得されるものとする。
図8は、化学式(2)で表されるアルギニン[C15]に対してメチル、及びエチルを付与した試料から得られるマススペクトルを示す図である。図8の上段は、アルギニンを試料とした場合のマススペクトルであり、図8の中段は、アルギニンに対してメチルを付与した場合のマススペクトルであり、図8の下段は、アルギニンに対してエチルを付与した場合のマススペクトルである。
Figure 0004999995
アルギニンに対してメチルを付与した場合、元々の[H]が[CH]に置き換わるため、m/zが14増加することになる。また、アルギニンに対してメチルを付与した場合、元々の[H]が[CHCH]に置き換わるため、m/zが28増加することになる。
また、ラベル物質を試料に付与して質量分析を行うと、衝突誘起解離を生じさせた際に、ラベル物質がフラグメントイオン側に付随する場合と、脱離基側に付随する場合に分かれる。ラベル物質(メチル)がフラグメントイオン側に付随する場合、ラベル化データの「A+1」において、フラグメントイオンのm/zは14増加する。一方、ラベル物質(メチル)が脱離基側に付随する場合、ラベル化データの「A+1」において、フラグメントイオンのm/zは変化しない。
図9は、ラベル化データの「A+1」においてフラグメントイオンのm/zが増加する場合としない場合を模式的に示す図である。
図9に示すように、フラグメントイオンのm/zが増加する場合としない場合のいずれにおいても、隣接するm/zが1異なるピークの高さ比をノンラベルデータとラベル化データで正規化した上で比較すると、炭素原子1個分に相当する変化が生じる。正規化とは、隣接するピークのうち左側又は右側がノンラベルデータとラベル化データで同じ高さとなるように、ノンラベルデータとラベル化データの一方に係数を乗じることをいう。図中、係る高さの変化分をCと表記した。なお、ラベル物質がエチルであれば、Cは炭素原子2個分に相当する高さとなり、ラベル物質が更に炭素原子数の多いものであれば、Cは更に高いものとなる。
ラベル物質(メチル)がフラグメントイオン側に付随する場合のピークに関しては、右側のピークが炭素原子1個分高くなり、ラベル物質(メチル)が脱離基側に付随する場合のピークに関しては、左側のピークが炭素原子1個分高くなる。
本推定原理では、このノンラベルデータとラベル化データの間で生じた高さ比の変化を利用して、フラグメントイオンの炭素原子数を推定する。具体的には、例えばノンラベルデータとラベル化データの左右のピークのいずれかの高さを揃えるように正規化し、その上で得られたCが炭素原子1個分の強度であると認識する。そして、左右のいずれかのピークの高さをCで除算することにより、フラグメントイオンの炭素原子数を推定する。
より具体的には、ラベル化データにおいてm/zが増加しないフラグメントイオン(以下、ノンシフトと称する)の場合は、隣接ピークのうち左側のピークの高さを、ノンラベルデータの左側のピークの高さに揃えるように正規化する。図10は、フラグメントイオンがノンシフトの場合の正規化、及び炭素原子数推定原理を説明するための説明図である。ここでは、ノンラベルデータの左側のピークをh1、右側のピークをh2、ラベル化データの左側のピークをh1*、右側のピークをh2*とする。正規化の対象となるのはラベル化データの各ピークであり、正規化されたラベル化データのピークh1**、h2**は、次式(3)、(4)で表される。なお、本図では、プリカーサイオンが[C]、フラグメントイオンが[C]である。
h1**=h1*×(h2/h2*) …(3)
h2**=h2*×(h2/h2*)=h2 …(4)
こうして正規化が行われると、正規化されたラベル化データの左側のピークh1**と、ノンラベルデータの左側のピークh1の差分が、ラベル物質の炭素原子数に相当する絶対強度、すなわちCとなる。
が算出されると、元の試料の炭素原子数の推定値xを用いて、次式(5)によりノンラベルデータの左右のピークの合計から窒素原子数の推定値yを算出する。式中、「0.327」は、窒素原子中に出現する同位体15Nの割合(0.37[%])を、炭素原子中に出現する同位体の割合(1.1[%])で除した値である。このような値を用いるのは、ノンラベルデータの右側のピークでは、炭素原子の同位体13Cと窒素原子の同位体15Nが混在しており、左右のピークの和から(C×x)を差し引いた残差に影響を与えた同位体の比は、[炭素:窒素]で[1:0.327]となるからである。
={(h1+h2)−(C×x)}/(0.327×C) …(5)
窒素原子数の推定値yを算出すると、次式(6)、(7)に示すように、窒素原子数の推定値yが2以下の場合と、3以上の場合に分けて、フラグメントイオンの炭素原子数xを推定する。式(7)においていずれの値を採用するかは、他の条件(ピークが異なるフラグメントイオンの炭素原子数等)を加味して総合的に判断されるので、ここでは、二通り以上の解を出力するものとする。窒素原子数が三個であるか、炭素原子数が一個であるかは質量分析計の精度が十分でなければ判別が困難だからである。
=h2/C(余りを切り捨て) …(6)
=h2/C(余りを切り捨て) or h2/C(余りを切り捨て)−n* …(7) 但し、n*は、yを3で除した値(余りを切り捨て)。
図11は、フラグメントイオンがシフトの場合の正規化、及び炭素原子数推定原理を説明するための説明図である。ここでも、図10と同様に、ノンラベルデータの左側のピークをh1、右側のピークをh2、ラベル化データの左側のピークをh1*、右側のピークをh2*とする。図中、「b」は、「a」からラベル物質のm/z分シフトさせた値である。正規化の対象となるのはラベル化データの各ピークであり、正規化されたラベル化データのピークh1**、h2**は、次式(8)、(9)で表される。
h1**=h1*×(h1/h1*)=h1 …(8)
h2**=h2*×(h1/h1*) …(9)
こうして正規化が行われると、正規化されたラベル化データの右側のピークh2**と、ノンラベルデータの右側のピークh2の差分が、ラベル物質の炭素原子数に相当する絶対強度、すなわちCとなる。
が算出されると、元の試料の炭素原子数の推定値xを用いて、上式(5)によりノンラベルデータの左右のピークの合計から窒素原子数の推定値yを算出する。窒素原子数の推定値yを算出すると、上式(6)、(7)に示すように、窒素原子数の推定値yが2以下の場合と、3以上の場合に分けて、フラグメントイオンの炭素原子数xを推定する。
このように、ラベル化物質の炭素原子数に相当する高さを絶対値Cとして把握し、これを用いて、除算を行った余りを窒素原子に相当する高さであると推定することにより、「隣接ピークの高さ比に基づく推定原理」よりも精緻な推定を行うことができる。
以上が、「ラベル化データを用いた推定原理」の概要である。
本実施例の解析装置1では、第1の炭素原子数推定部32は、上記説明した「隣接ピークの高さ比に基づく推定原理」に基づいて推定を行い、第2の炭素原子数推定部34は、上記説明した「ラベル化データを用いた推定原理」に基づいて推定を行う。
(処理の流れ)
以下、ユーザによる設定入力や表示画面の推移等と併せて、本実施例の解析装置1による処理の流れについて説明する。
図12は、本実施例の解析装置1により実行される処理の流れを示すフローチャートである。
解析装置1のマスター制御部30は、まず、タンデム質量分析計100から複数の試料に関する測定データを取得する(S300)。取得されるデータは、ノンラベルデータ(マススペクトル及びMS/MSスペクトル「A」、「A+1」)、及びラベル化データ(同)である。
次に、マスター制御部30は、図13で示す設定入力画面24Aを表示装置24に表示させる(S302)。図13は、表示装置24により表示される設定入力画面24Aの一例である。
ユーザ200は、設定入力画面24Aの第1選択部24Aaをマウス等により操作して、測定データを選択する。また、ユーザ200は、設定入力画面24Aの第2選択部24Abをマウスやキーボードにより操作して、ピーク範囲Ar1を指定する。
また、ユーザ200は、設定入力画面24Aの第3選択部24Acをマウスやキーボードにより操作して、差分領域Ar2の指定を行う。ここで、差分領域Ar2は、定常的に測定される低周波値を除外するために指定されるものであり、例えばピーク範囲Ar1が終了してから十分に時間が経過した後の領域が指定される。ユーザ200が「Next」ボタンをクリックすると、設定入力が完了する。
設定入力が完了するまでの間、設定入力画面24Aでは、表示部24Adにおいて測定強度の変化が時系列で表示される。また、表示部24Aeにおいてピーク範囲Ar1におけるマススペクトルが表示される。
マスター制御部30は、ユーザ200が「Next」ボタンをクリックすると(S304)、ピーク選択画面24Bを表示装置24に表示させる(S306)。図14は、表示装置24により表示されるピーク選択画面24Bの一例である。
ユーザ200は、ピーク選択画面24Bのスペクトル指定部24Ba〜24Bcをマウス等により操作して、マススペクトル・MS/MSスペクトルを指定する。マスター制御部30は、表示部24Bdにおいてマススペクトル・MS/MSスペクトル(「A」、「A+1」)を上から順に表示するように指示する(S308)。
また、ユーザ200は、ピーク閾値選択部24Bfに数値(ピーク閾値P1)を入力することによって、最大ピークに対して何パーセントまでのピークをリストアップするかを指定する。これらの指定は、ユーザ200が「Get [A] Peak List」ボタンをクリックすると完了する。
ユーザ200が「Get [A] Peak List」ボタンをクリックすると(S310)、マスター制御部30は、ピークリストを作成すると共に、これをピークリスト表示部24Bfに表示するように指示する(S312)。
ピークリストの作成は、以下の手順で行われる。
(a)まず、MS/MSスペクトル「A」における最大強度を示すピーク(Pmax)を基準として、(Pmax×P1)以上の強度を示すピークを、MS/MSスペクトル「A」から抽出する。
(b)次に、抽出したピークのうち、MS/MSスペクトル「A+1」において同一m/z、及びm/z+1(「A」における当該ピークに相当するm/zよりも、m/zが1大きい横軸上の位置を意味する)の双方にピーク*が存在するものを抽出する。ここでのピーク*とは、例えば、「上記Pmaxに対して0.01%〜数%程度以上の強度を示すもの」と定義できる。
係る手順によって、MS/MSスペクトル「A」におけるm/z、MS/MSスペクトル「A+1」におけるm/z、m/z+1の全てにピークが存在するピークが選択され、ピークリスト表示部24Bfに表示される。ユーザは、ピークリスト表示部24Bf内のチェックリストの一部又は全部をチェックすることにより、所望のピークを選択することができる。
ユーザ200は、更に、炭素原子数xを炭素原子数入力部24Bgに入力することができる。マスター制御部30は、炭素原子数xの初期値を算出し、算出した値を炭素原子数入力部24Bfにセットする(S314)。炭素原子数xの初期値は、上式(2)に基づいて算出される炭素原子数の推定値xである。なお、マスター制御部30は、更に、マススペクトルのピークのm/zと炭素原子数の推定値xから窒素の推定数を算出し、これを併せて表示部24Bhに表示する。ユーザ200によりピークが選択され、炭素原子数の推定値xがセットされた状態でユーザ200が「Next」ボタンをクリックすると、第1の結果出力画面24Cに移行する。
マスター制御部30は、ユーザ200が「Next」ボタンをクリックすると(S316)、第1の炭素原子数推定部32による炭素原子数推定を行わせる(S318;図15のS400〜S416)。
図15は、第1の炭素原子数推定部32による炭素原子数推定に係るフローチャートである。第1の炭素原子数推定部32は、まず、ピーク選択画面24Bにおいて選択された隣接ピークの組を一つ取り出し(S400)、強度比を算出する(S402)。
次に、上式(2)に基づいて、当該隣接ピークの組に相当するフラグメントイオンの炭素原子数(理論値)xを算出する(S404)。
次に、変数tに0を設定する(S406)。そして、(t/炭素原子数の推定値x)とxの差分Dを算出してメモリ装置18等に格納する処理を、変数tを1ずつ増加させながら、t=xとなるまで実行し(S408〜S412)、最も差分Dが小さくなったときの変数tを、フラグメントイオンの炭素原子数(推定値)xfeに決定する(S414)。なお、全ての変数Dをメモリ装置18等に格納するのではなく、より小さい値が算出されたときに変数Dを上書き記憶するルーチンであってもよい。
そして、S402〜S414の処理を、全ての隣接ピークの組について行う(S416)。
マスター制御部30は、第1の炭素原子数推定部32による炭素原子数推定が終了すると、更に、算出されたフラグメントイオンの炭素原子数(推定値)xfeのそれぞれについて、理論値との解離を評価部36に算出させ(後述)、第1の結果出力画面24Cを表示装置24に表示させる(S320)。
図16は、表示装置24により表示される第1の結果出力画面24Cの一例である。第1の結果出力画面24Cでは、表示部24Caにおいてマススペクトル・MS/MSスペクトル(「A」、「A+1」)が表示される(ピーク選択画面24Bと同じデータ)。また、表示部24Cbにおいて、評価部36の算出した評価値である「Fit Rate」が、ピーク選択画面24Bにおいて選択されたピーク毎に表示される。図中、「Target Mass」が、選択されたピークのm/zに相当する。
第1の結果出力画面24Cでは、更に、表示部24Ccにおいて、仮定となったプリカーサイオンの炭素原子数毎の「Fit Rate」のトレンドラインが表示される。「Fit Rate」すなわち評価部36により算出される理論値との解離は、例えば次式(10)に基づく。各パラメータは、図15のフローにおいて用いられたものである。「Fit Rate」が100に近ければ、フラグメントイオンの炭素原子数(推定値)xfeの信頼性は高く、100から遠くなるほど、信頼性は低くなる。ユーザは、これらの「Fit Rate」を視認することにより、「ラベル化データを用いた推定原理」を用いた推定が必要かどうかを判断することができる。
「Fit Rate」={1+(差分D/フラグメントイオンの炭素原子数(推定値)xfe)}×100 …(10)
マスター制御部30は、ユーザがチェックボックス「Extended Analysis」にチェックを入れ、更に「Next」ボタンをクリックすると(S322)、「ラベル化データを用いた推定原理」を用いた推定モードに移行する(S330〜S344)。なお、S330以下で扱うデータは、ノンラベルデータ、ラベル化データ共に、MS/MSスペクトル「A+1」のみである。
マスター制御部30は、まず、図17で示す設定入力画面24Dを表示装置24に表示させる(S330)。図17は、表示装置24により表示される設定入力画面24Dの一例である。
ユーザ200は、設定入力画面24Dの第1選択部24Daをマウス等により操作して、ラベル化した測定データを選択する。また、ユーザ200は、設定入力画面24Dの第2選択部24Dbをマウスやキーボードにより操作して、ラベル化内容(シフト値、炭素原子数等)を指定する。また、ユーザ200は、設定入力画面24Aと同様に、設定入力画面24Dの第3選択部24Dc及び第4選択部24Ddをマウスやキーボードにより操作して、ピーク範囲Ar3及び差分領域Ar4の指定を行う。
設定入力が完了するまでの間、設定入力画面24Dでは、表示部24Deにおいて測定強度の変化が時系列で表示される。
更に、ユーザ200は、設定入力画面24Dのスペクトル指定部24Da〜24Bcをマウス等により操作して、マススペクトル・MS/MSスペクトルを指定する。
マスター制御部30は、ユーザ200が「Next」ボタンをクリックすると(S332)、ピーク選択画面24Eを表示装置24に表示させる(S334)。図18は、表示装置24により表示されるピーク選択画面24Eの一例である。
ピーク選択画面24Eにおいて、ユーザ200が「Get [A+1] Peak List」ボタンをクリックすると(S336)、マスター制御部30は、ピークリストを作成すると共に、これをピークリスト表示部24Eaに表示するように指示する(S338)。
ピークリストの作成は、以下の手順で行われる。なお、ここでの「ピーク」とは、ノンラベルデータの最大ピークの高さに対して閾値入力部24Ebに入力された割合(%)以上の高さを有するものと定義する。また、ピーク選択画面24Eでは、表示部24Ecにおいてノンラベルデータ(上段)とラベル化データ(下段)のMS/MSスペクトル「A+1」が表示されている。
まず、以下の条件(c)、(d)を満たすノンラベルデータ上のピーク(m/z)を抽出する。条件(c)、(d)を満たすものは、図9で説明した、ラベル化データにおいてm/zが増加しないフラグメントイオン(ノンシフト;NS)を示している。
(c)ノンラベルデータにおいてピーク(m/z+1)が存在する。
(d)ラベル化データにおいてピーク(m/z)、及びピーク(m/z+1)が存在する。
次に、以下の条件(e)、(f)を満たすノンラベルデータ上のピーク(m/z)を抽出する。条件(e)、(f)を満たすものは、図9で説明した、ラベル化データにおいてm/zが増加するフラグメントイオン(シフト;S)を示している。
(e)ノンラベルデータにおいてピーク(m/z+1)が存在する。
(f)ラベル化データにおいてピーク(m/z+shift)、及びピーク(m/z+shift+1)が存在する。
マスター制御部30は、上記(c)、(d)又は(e)、(f)を満たすものをピークリストに掲載する。そして、(c)、(d)を満たすものに「NS」の識別子を、(e)、(f)を満たすものに「S」の識別子を、それぞれ付与してピークリスト表示部24Eaに表示する。
ユーザ200は、ピークリスト表示部24Ea内のチェックリストの一部又は全部をチェックすることにより、所望のピークを選択することができる。また、「NS」、「S」の識別子が表示されているため、ノンシフトとシフトのいずれか所望のもの(又は双方)を用いて炭素原子数の推定をするように、選択することができる。
ユーザ200がピークリスト表示部24Ea内のチェックリストの一部又は全部をチェックし、更にプリカーサイオンの炭素原子数を炭素原子数入力部24Edに入力した上で、「Next」ボタンをクリックすると、第2の結果出力画面24Fに移行する。
マスター制御部30は、ユーザ200が「Next」ボタンをクリックすると(S340)、第2の炭素原子数推定部34による炭素原子数推定を行わせる(S342)。第2の炭素原子数推定部34は、前述した「ラベル化データを用いた推定原理」に基づき、フラグメントイオンの炭素原子数を推定する。
マスター制御部30は、第2の炭素原子数推定部34による炭素原子数推定が終了すると、第2の結果出力画面24Fを表示装置24に表示させる(S344)。
図19は、表示装置24により表示される第2の結果出力画面24Fの一例である。図示するように、第2の結果出力画面24Fの比較表示部24Faでは、ノンラベルデータのMS/MSスペクトル「A+1」と、ラベル化データのMS/MSスペクトル「A+1」が比較表示される。ラベル化データのMS/MSスペクトル「A+1」は、隣接ピークのうちいずれかが、ノンラベルデータのピークと一致するように、全体に補正係数が乗算されて正規化されている。
第2の結果出力画面24Fの推定結果表示部24Fbでは、元データにおけるピークのm/z(図中、「Base Mass」)、そのピークに該当するフラグメントイオンの炭素原子数の推定値(図中、「Carbon」)、及びその推定値の評価部36による評価値(図中、「Fit Rate」)が並べて表示される。
ここで、第2の結果出力画面24Fにおける評価値は、例えば次式(11)により算出される。式中、yは既知の窒素原子数、又はマススペクトルのA+1のイオン強度から推定される窒素原子数であり、yは窒素原子数の推定値である。
「Fit Rate」={1+(y−y)/y}×100 …(11)
比較表示部24Faの表示内容は、推定結果表示部24Fbのうちユーザ200が選択した行に記述されたピークの内容を反映したものとなる。
なお、図19は、ノンシフトのデータが選択された場合の表示画面を示しているが、シフトのデータが選択された場合の比較表示部24Faは、図20のようになる。図20は、比較表示部24Faの表示内容の他の例である。
以上説明した本実施例の解析装置1によれば、第1の炭素原子数推定部32と第2の炭素原子数推定部34を備え、「隣接ピークの高さ比に基づく推定原理」と、「ラベル化データを用いた推定原理」の双方に基づいて炭素原子数の推定を行うことができるため、より正確に炭素原子数を推定することができる。
[自動進行(半自動進行)について]
解析装置1のマスター制御部30は、図12におけるS322の処理に代えて、評価部36に全てのフラグメントイオンの炭素原子数(推定値)xfeを総合的に評価した評価値FIT1、FIT2を、例えば次式(12)(13)により算出させ、FIT1又はFIT2が所定値を超える場合に(すなわち理論値と実測値との一致程度が低い場合に)、自動的にS330に進む処理を行ってもよい。式中、rは(「Fit Rate」−100)すなわち理論値と推定値の解離であり、nは炭素原子数(推定値)xfeが算出されたフラグメントイオンの識別子(ナンバー)である。
FIT1=Σ(r)/n …(12)
FIT2=Σ(r/n …(13)
図21は、FIT1、FIT2の値と、その解離の原因の関係等を示す図である。図中、斜線部分は、第2の炭素原子数推定部34による推定が必要な場合である。図示するように、FIT1は小さいがFIT2が大きい場合は、窒素が局在して含まれる場合、或いはピークの重なりが原因で推定値が解離した場合であり、第2の炭素原子数推定部34による推定が必要であると考えられる。又、FIT1とFIT2の双方が大きい場合は、推定炭素数が誤っていた場合、或いは窒素が局在せずに含まれる場合であり、第2の炭素原子数推定部34による推定が必要であると考えられる。評価部36は、図21における中段及び下段の場合に、第2の炭素原子数推定部34による推定が必要である旨をマスター制御部30に通知する。マスター制御部30は、これを受信すると、第2の炭素原子数推定部34を起動させ、図12におけるS330以下の処理を自動的に実行する。
また、このように自動的に進行するのではなく、例えばFIT1及び/又はFIT2が所定値を超える場合に「Extended Analysis」のチェックボックスが出現する(或いはチェック可能となる)ように制御し、FIT1及び/又はFIT2が所定値を超える場合に「第2の炭素原子数推定部34を起動可能とする」ものであってもよい。
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
1 解析装置
10 CPU
12 ドライブ装置
16 補助記憶装置
18 メモリ装置
20 インタフェース装置
22 入力装置
24 表示装置
24A 設定入力画面
24B ピーク選択画面
24C 第1の結果出力画面
24D 設定入力画面
24E ピーク選択画面
24F 第2の結果出力画面
30 マスター制御部
32 第1の炭素原子数推定部
34 第2の炭素原子数推定部
36 評価部
100 タンデム質量分析計
200 ユーザ

Claims (8)

  1. 質量分析計から取得されたデータを解析して、イオン化された試料から解離したフラグメントイオンの炭素原子数を推定する解析装置であって、
    前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比に基づいて前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する第1の炭素原子数推定手段と、
    前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比と、前記試料に炭素原子数が既知の物質を付与し、又は前記試料から炭素原子数が既知の物質を脱離させたラベル化試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比と、の相違量に基づいて前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する第2の炭素原子数推定手段と、
    を備える解析装置。
  2. 請求項1に記載の解析装置であって、
    前記第2の炭素原子数推定手段は、
    前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークと、前記ラベル化試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークとの間で、左右いずれかのピークの高さが一致するように、前記試料から得られるMS/MSスペクトル又は前記ラベル化試料から得られるMS/MSスペクトルに補正係数を乗算し、
    該乗算の結果、ピークの高さが一致しなかった左右いずれかのピーク間の高さの差を、前記既知の物質に含まれる炭素原子に相当する高さと推定し、
    該推定した炭素原子に相当する高さで前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおけるピークの高さを除算することによって、前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する手段である、
    解析装置。
  3. 請求項1又は2に記載の解析装置であって、
    ユーザ操作を受け付ける受付手段と、
    前記第1の炭素原子数推定手段による推定結果を評価した評価値を出力する評価手段と、を備え、
    先ず前記第1の炭素原子数推定手段が起動され、前記第1の炭素原子数推定手段による推定結果が前記評価値と共にユーザに提示され、
    その後、前記受付手段に対して所定のユーザ操作がなされたときに、前記第2の炭素原子数推定手段が起動され、前記第2の炭素原子数推定手段による推定結果がユーザに提示される、
    解析装置。
  4. 請求項1又は2に記載の解析装置であって、
    前記第1の推定手段による推定結果を評価した評価値を出力する評価手段を備え、
    先ず前記第1の炭素原子数推定手段が起動され、前記第1の炭素原子数推定手段による推定結果が前記評価値と共にユーザに提示され、
    その後、前記評価値が、前記第1の炭素原子数推定手段による推定結果から導出される隣接ピークの高さ比の理論値と実測値の一致程度が低いことを示す所定条件を満たす場合に、前記第2の炭素原子数推定手段が自動的に起動され、前記第2の炭素原子数推定手段による推定結果がユーザに提示される、
    解析装置。
  5. 請求項1又は2に記載の解析装置であって、
    ユーザ操作を受け付ける受付手段と、
    前記第1の炭素原子数推定手段による推定結果を評価した評価値を出力する評価手段と、を備え、
    先ず前記第1の炭素原子数推定手段が起動され、前記第1の炭素原子数推定手段による推定結果が前記評価値と共にユーザに提示され、
    その後、前記評価値が、前記第1の炭素原子数推定手段による推定結果から導出される隣接ピークの高さ比の理論値と実測値の一致程度が低いことを示す所定条件を満たす場合に、前記第2の炭素原子数推定手段を起動するためのユーザ操作を前記受付手段が受け付け可能となる、
    解析装置。
  6. 請求項1ないし5のいずれか1項に記載の解析装置であって、
    前記第1の炭素原子数推定手段、及び/又は前記第2の炭素原子数推定手段は、ピークの高さと質量電荷比に関する所定条件を満たす前記隣接ピークをユーザに提示し、該提示した隣接ピークのうちユーザが選択した隣接ピークに基づいて前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する手段である、
    解析装置。
  7. 質量分析計から取得されたデータを解析して、イオン化された試料から解離したフラグメントイオンの炭素原子数を推定する解析方法であって、
    前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比に基づいて前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する第1の炭素原子数推定処理と、
    前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比と、前記試料に炭素原子数が既知の物質を付与し、又は前記試料から炭素原子数が既知の物質を脱離させたラベル化試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比と、の変化量に基づいて前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する第2の炭素原子数推定処理と、
    をコンピュータが実行する解析方法。
  8. 質量分析計から取得されたデータを解析して、イオン化された試料から解離したフラグメントイオンの炭素原子数を推定する解析方法であって、
    前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比に基づいて前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する第1の炭素原子数推定処理と、
    前記試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比と、前記試料に炭素原子数が既知の物質を付与し、又は前記試料から炭素原子数が既知の物質を脱離させたラベル化試料から得られるMS/MSスペクトルにおける質量電荷比が1異なる隣接ピークの高さ比と、の変化量に基づいて前記フラグメントイオンの炭素原子数を推定する第2の炭素原子数推定処理と、
    をコンピュータに実行させるプログラム。
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