JP2904061B2 - 液体クロマトグラフ質量分析装置 - Google Patents

液体クロマトグラフ質量分析装置

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は液体クロマトグラフ(L
C)によって試料中の物質を分離した後、質量分析法
(MS)を用いて分離された物質の分析を行なう液体ク
ロマトグラフ質量分析装置に関し、特に、該分析装置に
おける3次元多価イオン解析の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】液体クロマトグラフ質量分析装置は、カ
ラム中に液体試料を通すことにより液体試料に含まれて
いる物質を時間軸上で分離する液体クロマトグラフ(L
C:Liquid Chromatography)と、分離された物質をイ
オン化して該イオンの質量数(質量/荷電比:m/z)に
応じて分離し、その生成数に従って質量スペクトルを作
成する質量分析計(MS:Mass Spectrometer)とから
構成される。図1はLC−MS分析装置の基本構成を示
すブロック構成図である。LC部10は溶離液槽11、
ポンプ12、試料注入部13、カラム14から構成さ
れ、MS部20は揮散部21、イオン化部22、質量分
離部23、検出器24、増幅器25、データ処理部2
6、記録部27から構成される。
【0003】試料注入部13へは、ポンプ12にて溶離
液槽11から吸引された溶離液が供給される。試料注入
部13へ注入された液体試料は、この溶離液の流れによ
ってカラム14内へ導かれる。微細粒子の分離基材が充
填されたカラム14内を試料を含む溶離液が通過するに
従い試料中の各物質は分離され、各物質に特有の保持時
間だけカラム14中に留まった後カラム14から排出さ
れる。LC部10にて分離された各物質は、揮散部21
にて気相状態に揮散され、イオン化部22へ蒸気の状態
で導入される。イオン化部22では、例えば電子衝撃に
より、導入された物質のイオンが生成される。このイオ
ンの荷電は、分子から飛び出す電子の個数によって決ま
る。すなわち、分子からn個の電子が飛び出したものが
n価の(n重荷電)イオンであり、このnを価数とい
う。
【0004】質量分離部23では、イオン化部22で生
成されたイオンが質量数に応じて分離される。このイオ
ン分離の方法としては、高周波四重極電場を用いた収束
による方法、磁場の強さによって質量数が相違するイオ
ンを分離する方法など種々の方法が用いられる。検出器
24では、質量数毎に分離されたイオンの生成数が検出
される。この検出信号は増幅器25で増幅された後、デ
ータ処理部26へ入力される。データ処理部26では、
イオンの生成数すなわち相対強度と質量数との関係を示
す質量スペクトルが作成される。この質量スペクトル
は、LC部10からMS部20へ供給される試料に対し
て所定時間間隔毎に測定されるため、最終的な質量スペ
クトルは、時間軸、質量数、及び相対強度の3次元的な
ものとなる。そして、この3次元質量スペクトルに基づ
いて試料中の分子の分子量の推定や分子の同定が行なわ
れ、その結果が記録部27により記録される。
【0005】多価イオン解析においては、特に、イオン
化部22にて、一つの分子から価数が相違する複数の多
価イオンが生成され、この多価イオンによって質量スペ
クトル上に現われる複数の強度ピークを解析することに
より分子量の推定等が行なわれる。
【0006】以上のように液体クロマトグラフ質量分析
では3次元質量スペクトルが得られるが、実際には質量
分析による質量スペクトルのS/N比はあまり良好では
ない。このため、データ処理部26においては、LC部
10にて分離された一つの物質がMS部20に導入され
ている時間の範囲内で、3次元質量スペクトルを時間方
向に積算して2次元化することが一般に行なわれる。こ
れにより、所望の強度ピークが急峻になり、ピーク位置
の判別が容易となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】試料に含まれる各物質
が液体クロマトグラフにより時間方向に完全に分離され
ている場合には、上記の如き2次元化処理を実行すれば
S/N比が良い2次元質量スペクトルが得られるため、
分子量の推定や物質の同定を精度良く行なうことができ
る。ところが、液体クロマトグラフで完全に分離できな
かった物質に対して上記のような2次元化処理を実行す
ると、二つ以上の物質の質量スペクトルが重なってしま
い正確なピーク位置の検出が困難になる。
【0008】このことを具体的な例を挙げて以下に説明
する。分子量Xの物質の質量スペクトルにおいて、強度
ピークが現われる質量数piは次の(1)式で表わされる。 pi=(X+i)/i …(1) ここで、iはイオンの価数である。すなわち、イオンの
価数が相違すれば荷電が相違するため、質量数(質量/
荷電比)も相違する。従って、多価イオン解析では、一
つの分子から、ピーク位置が相違する複数の強度ピーク
(以下「ピークセット」という)が得られる。このピー
クセットの位置から分子量が推定される。
【0009】いま、それぞれ単独で測定した場合に、次
のような結果が得られる二つの物質があると仮定する。 〔物質A〕 ・LCによる分離結果:時刻T1を中心にTW1の時間幅
のピークを有する ・分子量:6700 ・測定される価数:5〜9 ・強度ピークが発生する質量数:1341、1117.67、958.1
4、838.5、745.44 〔物質B〕 ・LCによる分離結果:時刻T2を中心にTW2の時間幅
のピークを有する ・分子量:1117 ・測定される価数:1〜2 ・強度ピークが発生する質量数:1118、559.5
【0010】試料が物質Aと物質Bとの混合したもので
あり、時刻T1=10、時刻T2=15.5であるときの液体ク
ロマトグラフ分離結果すなわちクロマトグラムを図4に
示す。また、このときの3次元質量スペクトルを、質量
数1113.333〜1120、時間0〜29の範囲について図5に示
す。更に、図5の3次元質量スペクトルを時間0〜20の
範囲で時間方向に積算して2次元化した2次元質量スペ
クトルを図6に示す。図4に示すように、二つの物質A
及びBが完全には分離されていない場合には、物質Aの
6価の強度ピークの位置と物質Bの1価の強度ピークの
位置とは時間−質量数の平面上で極めて近くに現われる
(図4参照)。このため、この3次元質量スペクトルを
時間方向に積算すると、図6の如く二つのピークは融合
して一つのピークとして認識される。このとき、ピーク
の発生する質量数は1117.8となり、この値は物質Aの6
価の質量数とは相違するにも拘らず、この誤った値をピ
ークセットの一つとして分子量を推定するため、結果と
して推定分子量に誤差を生じさせることになる。
【0011】また、質量スペクトル中の多価イオンによ
るピークセットに基づいて元の物質を同定する場合、上
記のようなピーク位置のずれにより、偶然他の物質のピ
ークセットの一つであると誤認される位置、すなわち他
の分子の多価イオンによる位置に一致してしまうと、誤
った分子として同定されてしまうことさえ有り得る。
【0012】本発明はこのような課題を解決するために
成されたものであり、その目的とするところは、液体ク
ロマトグラフによる複数物質の分離が悪い場合であって
も、分子量の推定を精度良く行なうとともに、分子の同
定を正確に行なえる液体クロマトグラフ質量分析装置を
提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
に成された本発明は、試料に含まれる複数の物質を液体
クロマトグラフによって分離したあと質量分析計によっ
て分析する液体クロマトグラフ質量分析装置であって、
3次元多価イオン解析により該物質の同定や分子量推定
を行なう分析装置において、 a)質量分析結果である3次元質量スペクトルにおいて、
目的とする物質が現われる保持時間の近傍で該3次元質
量スペクトルを時間方向に積算することにより2次元質
量スペクトルを求める積算手段と、 b)前記2次元質量スペクトルにおいて、前記目的とする
物質により発生したと推定される複数の強度ピークを求
める推定手段と、 c)前記複数の強度ピークのそれぞれについて該強度ピー
クの生じている質量数に着目し、前記3次元質量スペク
トルの時間方向における強度の変動の類似性を判断する
判断手段と、 d)前記判断手段の結果に基づき前記複数の強度ピークか
ら前記目的とする物質の同定又は分子量推定を行なう処
理手段と、 を備えることを特徴としている。
【0014】
【作用】本発明に係る液体クロマトグラフ質量分析装置
における3次元多価イオン解析では、まず、試料の分析
結果として3次元質量スペクトルを得たあと、積算手段
で、目的とする物質が現われる保持時間の前後に所定の
時間幅が設定され、該時間幅内の3次元質量スペクトル
を時間方向に積算することにより2次元質量スペクトル
が作成される。次いで、推定手段では、この2次元質量
スペクトル中の多数の強度ピークから、或る一つの物質
による多価イオンによって生じ得るような強度ピークの
組(ピークセット)が抽出される。
【0015】続いて、このピークセットを構成する複数
の強度ピークの位置の信頼性を調べるため、判断手段で
は、その複数の強度ピークの質量数に着目し、3次元質
量スペクトルからそれぞれの質量数における時間−相対
強度のクロマトグラムを切り出して、これらを比較し類
似性を判断する。すなわち、これにより、ピークセット
の中で、目的とする物質のみによる強度ピークと、他の
物質の影響を受けた強度ピークとが峻別される。更に、
処理手段では、類似性の判断結果に基づきピークセット
から分子量の推定や分子の同定がなされる。このとき、
クロマトグラムの類似性が乏しいためピーク位置の信頼
性が低いと判断されるものをピークセットから除外する
ようにしても良いし、また、クロマトグラムの類似性に
応じて各強度ピークの信頼度に重み付けを持たせるよう
にした上で分子量を算出するようにしても良い。
【発明の効果】
【0016】この結果、本発明によれば、液体クロマト
グラフでの各物質の分離が充分でない場合でも、質量ス
ペクトルにおけるピークセットの信頼性が向上するた
め、分子量を精度良く求めることができるとともに、物
質の同定も正確に行なえる。
【0017】
【実施例】以下、本発明の実施例を図を参照しつつ説明
する。図2は本発明に係る分析装置における3次元多価
イオン解析の処理手順を示すフローチャート、図3はピ
ーク位置の信頼性の判断方法を説明するための図であ
る。
【0018】本発明に係る液体クロマトグラフ質量分析
装置では、多価イオン解析のデータ処理を実行するため
のデータ処理部26の動作が従来のものと大きく相違す
る。図2のフローチャートに沿って、前述の如く物質A
と物質Bとが完全には分離されない場合における本発明
による3次元多価イオン解析の処理を順次説明する。
【0019】まず、従来の3次元多価イオン解析と同様
に、3次元質量スペクトルが作成される(ステップS
1)。このときの質量スペクトルは図5のようになる。
次に、この3次元質量数スペクトルから、目的とする物
質が現われる時間付近の2次元質量数スペクトルを求め
る(ステップS2)。すなわち、目的とする物質が物質
Aであるとき、時間t=3からt=20までの間で時間方向に
相対強度が積算される。この結果、図6のような2次元
質量スペクトルが得られる。勿論、図6は物質Aの6価
イオンのピーク近傍のみの質量スペクトルであって、6
価を除く5〜9価イオンによる強度ピークも、それぞれ
の位置(質量数)に現われる。
【0020】次に、2次元質量スペクトルに現われてい
る複数の強度ピークを調べ、ピークセットを求める(ス
テップS3)。すなわち、2次元質量スペクトルに現わ
れているすべての強度ピークの位置と価数との組合わせ
を順次計算し、一つの物質の多価イオンによって生じて
いる可能性が最も高いと推定されるピークセットが抽出
される。本実施例では、ピーク位置が、1341、1117.8、
958.14、838.5、745.44である5本の強度ピークが、或
る一つの物質によるピークセットである可能性が高いと
判断される。
【0021】続いて、上記の如く求めたピークセットの
各ピーク位置の信頼性を調べるために、まず、各強度ピ
ークが生じている質量数における相対強度の時間依存性
が調べられる。すなわち、ピークセットを構成する各強
度ピークが或る一つの物質により生じているものである
ときには、その強度ピークの質量数における時間方向の
クロマトグラムはいずれも同じような変動をすると考え
られる。そこで、まず、3次元質量スペクトルから、各
強度ピークが生じている質量数における相対強度と時間
との関係を示すクロマトグラムを切出す(ステップS
4)。例えば、図3中に実線で示すクロマトグラムは、
図5の3次元質量スペクトルから質量数1117.8における
相対強度と時間との関係を切り出したものであり、破線
で示すクロマトグラムは、質量数1341における相対強度
と時間との関係を切り出したものである。
【0022】また、同じピークセット中の他の強度ピー
クの質量数における相対強度と時間との関係も、図3中
の破線で示すクロマトグラムと類似の変動傾向を示す。
すなわち、質量数1117.8における強度ピークは物質Aと
物質Bの両方によるものであるため、そのクロマトグラ
ムは、当然、物質Aによるクロマトグラムと物質Bによ
るクロマトグラムとが合成された形状を呈する。一方、
他の強度ピークの質量数におけるクロマトグラムは、物
質Bの影響がないため、物質Aのみによる比較的単調な
形状を呈する。従って、このクロマトグラムの類似性又
は相違性を判断することにより、各強度ピークが単独の
物質のイオンによるものか否かを識別することができる
(ステップS5)。
【0023】クロマトグラムの類似性の具体的な判断方
法としては、例えば、各クロマトグラムを所定時間間隔
毎に微分することにより変動量(各時間におけるクロマ
トグラムの傾き)を算出し、その結果を比較することに
より類似性を求めることができる。また、その他の方法
でも可能である。
【0024】そして、クロマトグラムの類似性の判断結
果から各強度ピークの信頼性を判定し(ステップS
6)、この信頼性を勘案して分子量を推定する(ステッ
プS7)。クロマトグラムの類似性から各強度ピークの
信頼性を判定する際には、種々の方法を取り得る。例え
ば、類似性を、類似しているか否かの二者択一で判断
し、類似していないと判断された強度ピークは目的の物
質でない他の物質の影響を受けた強度ピークであると判
定し、分子量の推定の際に除外するようにする。上記の
例では、6価のピーク位置のクロマトグラムのみ類似性
がないと判断され、分子量は5、7、8、9価の4個の
ピーク位置から推定される。
【0025】また、類似性を多段階的に判断し、その類
似性に応じて各強度ピークの信頼度を重み付けして、こ
の信頼度を利用して分子量を推定するようにしても良
い。例えば、上記の例では、6価のピーク位置のクロマ
トグラムのみ類似性が低いため信頼度を0.5とし、他の
ピーク位置の信頼度は1.0とする。一般には、(1)式よ
り、分子量Xは、 X=i・Pi−i …(2) で算出できるが、この場合には物質Aの分子量は信頼度
を勘案した次の(3)式により算出される。 X={Σ(i=5〜9)[i・Pi−i]・Ri}/Σ(i=5〜9)Ri …(3) ここで、Riはi価のイオンによるピーク位置の信頼度
で、Ri=0〜1とする。これによれば、分子量の推定
にピーク位置の信頼度が反映される。
【0026】また、分子量を推定するのみでなく、ピー
クセットから物質を同定する場合にも上記説明のように
ピーク位置の信頼性の低いものを除外してすることによ
り、誤ったピークセットが構成されることがなくなるた
め、物質の同定の確度が増すことになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 液体クロマトグラフ質量分析装置のブロック
構成図。
【図2】 本発明に係る液体クロマトグラフ質量分析装
置における3次元多価イオン解析の処理手順を示すフロ
ーチャート。
【図3】 ピーク位置の信頼性の判断方法を説明するた
めの図。
【図4】 液体クロマトグラフで物質が分離されないと
きのクロマトグラムを例示する図。
【図5】 液体クロマトグラフで物質が分離されないと
きの3次元質量スペクトルを例示する図。
【図6】 図5の3次元質量スペクトルを2次元化処理
したときの2次元質量スペクトルを示す図。
【符号の説明】
10…LC部 13…試料注入部 14…カラム 20…MS部 21…揮散部 22…イオン化部 23…質量分離部 24…検出器 26…データ処理部

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 試料に含まれる複数の物質を液体クロマ
    トグラフによって分離したあと質量分析計によって分析
    する液体クロマトグラフ質量分析装置であって、3次元
    多価イオン解析により該物質の同定や分子量推定を行な
    う分析装置において、 a)質量分析結果である3次元質量スペクトルにおいて、
    目的とする物質が現われる保持時間の近傍で該3次元質
    量スペクトルを時間方向に積算することにより2次元質
    量スペクトルを求める積算手段と、 b)前記2次元質量スペクトルにおいて、前記目的とする
    物質により発生したと推定される複数の強度ピークを求
    める推定手段と、 c)前記複数の強度ピークのそれぞれについて該強度ピー
    クの生じている質量数に着目し、前記3次元質量スペク
    トルの時間方向における強度の変動の類似性を判断する
    判断手段と、 d)前記判断手段の結果に基づき前記複数の強度ピークか
    ら前記目的とする物質の同定又は分子量推定を行なう処
    理手段と、を備えることを特徴とする液体クロマトグラ
    フ質量分析装置。
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