JP5327388B2 - 分析データ処理方法及び装置 - Google Patents

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Description

本発明は分析装置により収集されたデータを処理するデータ処理方法及び装置に関し、さらに詳しくは、液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフ、キャピラリ電気泳動など、時間を分離要素とする1次元方向に試料中の成分を分離する手法と、質量分析、赤外分光測定、紫外可視分光測定など、試料に対して時間以外の分離要素により1次元以上の方向に分離した信号強度を取得する測定手法と、を組み合わせた分析装置により収集されたデータを処理するデータ処理方法及び装置に関する。
液体クロマトグラフ(LC)、ガスクロマトグラフ(GC)、キャピラリ電気泳動(CE)などの成分分離手法と、質量分析(MS)手法とを組み合わせた、LC/MS、GC/MS、CE/MSなどによる分析では、試料に含まれる多数の成分を時間的に分離した上でその成分毎に質量分析データを取得することができる。そのため、多種多様な化合物が混じっている試料を効率良く分析することができ、近年、幅広い分野で利用されている。その反面、測定によって得られるデータの量はかなり多くなる。特に、多数の類似した試料の分析結果を比較するような評価を行う場合、試料毎に大量の質量分析データが得られるため、処理対象全体のデータ量は膨大なものとなり、網羅的な解析は困難である。この困難さを解決する解析手法の1つとして、従来、大量のデータを比較的簡便に解析可能な、判別分析、主成分分析、クラスター分析などの多変量解析が利用されている。
例えば非特許文献1、特許文献1などには、複数のサンプルについて得られたマススペクトルデータを主成分分析し、その結果をスコアプロット及びローディングプロットで示した例が開示されている。また、上記のように質量分析データを多変量解析するための汎用的なソフトウエアとしては、例えばスウェーデンのユーメトリクス(Umetrics)社製のSIMCA-P+、米国インフォメトリクス(Infometrix)社製のPirouette、などがよく知られており、これらは容易に入手可能である。ただし、測定データを上記のような多変量解析用のソフトウエアに読み込んで処理を行うためには、解析対象の測定データ(LC/MSであればマススペクトルデータ、クロマトグラムデータ)を予めテーブル形式、つまり1次元又は2次元(縦×横)配置の数値データにまとめる必要がある。
従来一般的に、赤外分光測定装置(IR)や核磁気共鳴装置(NMR)などを用いた分析では、多数の試料から収集されるデータを多変量解析して評価することがよく行われている。これは、IRやNMRではLC/MSやGC/MSと比較し、試料に対する測定によって得られるデータが単純であるからである。即ち、IRやNMRで得られる簡単な分析結果は1枚のグラフ、つまり、或る物理量(IRであれば波長、NMRであればケミカルシフト)に対する信号強度という1次元上の数値データとして表すことができる。したがって、複数の試料の分析結果を比較する場合、各試料に割り当てられた連番などの数値を1つの次元方向の変数とし、上記物理量を他の次元方向の変数として、その2次元テーブルの中に信号強度を数値で記載する形式で、測定データを1つのテーブルにまとめることが可能である。
これに対し、LC/MSやGC/MSなどで得られる測定データは、時間と質量電荷比(m/z)という2つの独立した分離要素の方向にそれぞれ分離された信号強度であり、それ自体が2次元上のデータである。したがって、複数の試料の分析結果を比較する場合には、上記の2次元上のデータを1次元化し、複数の試料に対する測定データを1つのテーブルにまとめる必要がある。
時間方向と質量電荷比方向という2次元上のデータを1次元化するために最も単純な方法は、複数の質量電荷比の中から特定の1つの質量電荷比を選択する、或いは、質量電荷比方向に全ての信号強度を積算する、といった方法である。これは、質量電荷比方向の変数を実質的に1つに固定する、つまり質量電荷比方向という次元を除くことを意味する。また、複数の質量電荷比の中から特定の1つの質量電荷比を選択することは、LC/MS(又はGC/MS)のデータの中から1枚の抽出イオンクロマトグラム(Extracted Ion Chromatogram=XIC)を選択することに相当し、全質量電荷比範囲に亘って質量電荷比方向に信号強度を積算することは、LC/MSのデータから1枚の全イオン電流クロマトグラム(Total Ion Current Chromatogram=TIC)を求めることに相当する。こうした方法では、後述するような1次元化のためのデータ処理演算における内部パラメータに依存する不確かさを軽減することができ、処理も簡単であるためハードウエアの負荷が軽く、処理に要する時間も短くて済むためにスループットが高い。
しかしながら、TICでは質量電荷比方向の情報は全て失われており、XICでは1つの質量電荷比情報は保存されているが他の質量電荷比に対する情報は全て失われており、いずれも質量電荷比方向の1次元の情報は実質的に欠損していると言える。このように2次元上のデータの一方の次元方向の情報が欠落した場合、その欠落した情報に複数の試料間の差異を特徴付ける重要な情報が含まれていると、多変量解析を行っても複数の試料の類似性や相違性を評価するために適切な結果が得られず、試料の比較を正確に行うことができないという問題がある。
これに対し、非特許文献2、3には、LC/MSにより収集されたデータに対し、ピーク検出・選択、ノイズ除去、強度計算(ノーマライズなど)等の複雑なデータ処理演算を実行して不要なデータを削除したり統合したりすることにより、2次元上のデータを1次元化し、複数の試料に対しそれぞれ得られた測定データを2次元テーブルに落とし込み、これを主成分分析する例が開示されている。また、カナダのフェノメノム・ディスカバリーズ社(Phenomenome Discoveries Inc.)が提供しているメタボロミクス解析ソフトウエアであるプロファイラ(ProfilerTM)には、ピークピッキング、スムージング、キャリブレイションなどを含むデータ変換処理を行うことにより、MSn分析が可能であるLC/MSで収集されたデータを2次元テーブルの形式にまとめる機能が搭載されている。
しかしながら、このように複雑なデータ処理演算を行おうとするとハードウエアの負荷が重くなるため、高性能のCPUや大容量のRAMを用意する必要があり、処理のスループットも下がる。また、上記のようなデータ処理演算を行う際には予め用意された演算パラメータが使用されるが、そのパラメータによって多変量解析結果に大きな差異が生じる場合がある。また、ピークピッキングなどを行った場合、その処理の過程で元の情報の欠落が生じるため、それにより試料の差異が多変量解析結果に正確に反映されないことがある。そうしたことから、煩雑なデータ処理を行ったにも拘わらず、試料の比較を正確に行うことができない場合がある。
特開2009−25056号公報
米久保、ほか2名、「最新の飛行時間型質量分析計LCT PremierTMの特徴と食品メタボロームへの応用」、クロマトグラフィー(Chromatography)、クロマトグラフィー科学会、第27巻、第2号(2006年) サンスター(Tim P. Sangster)、ほか4名、「インベスティゲイション・オブ・アナリティカル・バリエイション・イン・メタボノミック・アナリシス・ユージング・リキッド・クロマトグラフィ/マス・スペクトロメトリー(Investigation of analytical variation in metabonomic analysis using liquid chromatography/mass spectrometry)」、ラピッド・コミュニケイション・イン・マス・スペクトロメトリー(Rapid Commun. Mass Spectrom.)、第21巻、 p.2965−2970(2007年) シャヤン(Li Xiayan)、他1名、「アドバンシズ・イン・セパレイション・サイエンス・アプライド・トゥー・メタボノミクス(Advances in separation science applied to metabonomics)」、エレクトロフォレシス(Electrophoresis)、第29巻、p.3724−3736(2008年)
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その主な目的は、LC/MSやGC/MSなどの分析装置を用い多数の試料に対して収集された測定データが持つ情報を有効に利用しつつ、網羅的な解析を行って試料間の比較、つまり類似性や相違性などに関する正確な情報を得ることができる分析データ処理方法及び装置を提供することにある。
上記課題を解決するために成された第1発明は、試料に含まれる複数の成分を時間を分離要素とする1つの次元方向に分離する分離手段と、該分離手段により時間方向に成分分離された試料に対して時間以外の他の1つ又はそれ以上の分離要素の次元方向に分離してそれぞれ信号強度を取得する分析手段と、を具備する分析装置を用い、複数の試料に対してそれぞれ2次元以上の分離要素の下で収集された信号強度データを処理する分析データ処理方法であって、
a)前記複数の試料のそれぞれについて、前記分析手段における分離要素に基づく第1の変数が固定された条件の下で前記分離手段における分離要素に基づく第2の変数を変えたときの、該第2の変数の各値に対応してそれぞれ得られた信号強度値そのものをその第2の変数の数値の並び方向に配置した1次元的なテーブルを作成するという処理を、第1の変数を変えつつ実行して試料毎に複数の1次元的なテーブルを作成する第1処理ステップと、
b)前記第1処理ステップで作成された同一試料に対する複数の1次元的なテーブルを、第2の変数の数値の並び方向に連結することにより、第1の変数が同一である信号強度値が連なった、試料毎の1次元的なテーブルを作成する第2処理ステップと、
c)前記第2処理ステップで作成されたそれぞれ異なる試料に対する1次元的なテーブルを該次元と直交する方向に配置することにより、2次元的なテーブルを作成する第3処理ステップと、
を有することを特徴としている。
また上記課題を解決するために成された第2発明は、上記第1発明に係る分析データ処理方法を実施するためのデータ処理装置であり、試料に含まれる複数の成分を時間を分離要素とする1つの次元方向に分離する分離手段と、該分離手段により時間方向に成分分離された試料に対して時間以外の他の1つ又はそれ以上の分離要素の次元方向に分離してそれぞれ信号強度を取得する分析手段と、を具備する分析装置を用い、複数の試料に対してそれぞれ2次元以上の分離要素の下で収集された信号強度データを処理する分析データ処理装置であって、
a)前記複数の試料のそれぞれについて、前記分析手段における分離要素に基づく第1の変数が固定された条件の下で前記分離手段における分離要素に基づく第2の変数を変えたときの、該第2の変数の各値に対応してそれぞれ得られた信号強度値そのものをその第2の変数の数値の並び方向に配置した1次元的なテーブルを作成するという処理を、第1の変数を変えつつ実行して試料毎に複数の1次元的なテーブルを作成する第1処理手段と、
b)前記第1処理手段で作成された同一試料に対する複数の1次元的なテーブルを、第2の変数の数値の並び方向に連結することにより、第1の変数が同一である信号強度値が連なった、試料毎の1次元的なテーブルを作成する第2処理手段と、
c)前記第2処理手段で作成されたそれぞれ異なる試料に対する1次元的なテーブルを該次元と直交する方向に配置することにより、2次元的なテーブルを作成する第3処理手段と、
を備えることを特徴としている。
第1及び第2発明において、分離手段は例えば液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフ、キャピラリ電気泳動などであり、分離手段における分離要素は時間である。したがって、上記「前記分析手段における分離要素に基づく第1の変数が固定された条件の下で前記分離手段における分離要素に基づく第2の変数を変えたときの、該第2の変数の各値に対応してそれぞれ得られた信号強度値そのもの」とは、時間の経過に伴って信号強度が変化する広義のクロマトグラムである。
一方、分析手段は、試料に対し、時間以外の何らかの1つ又はそれ以上の分離要素の次元方向に分離した信号強度を取得することが可能であれば、特にその種類は限定されない。典型的には、分析手段は質量電荷比を分離要素とする質量分析装置であるが、そのほかに、波長を分離要素とする紫外可視分光光度計、フォトダイオードアレイ分光光度計、赤外分光測定装置、ケミカルシフトを分離要素とする核磁気共鳴装置などでもよい。
また、第1の変数は上記の分離要素の値そのものでなくてもよい。例えば分析手段が質量分析手段である場合に、第1の変数は質量電荷比の値そのものでもよいが、例えば、複数の質量電荷比又は質量電荷比範囲の加算、減算などの組み合わせなど、その分離要素に関する情報が残る状態で各種変換や処理を加えたものを第1の変数とすることができる。第1の変数が質量電荷比の値そのものであれば上記「広義のクロマトグラム」は抽出イオンクロマトグラムであるが、それ以外に、全イオン電流クロマトグラムを加えたり、ベースピーククロマトグラム(Base Peak Chromatogram)、マスデフェクトクロマトグラム(Mass Defect Chromatogram)、アイソトピックフィルタードクロマトグラム(Isotopic Filterd Chromatogram)、ニュートラルロスクロマトグラム(Neutral-loss Chromatogram)なども含むようにしてもよい。
例えば上記分析装置がLC/MSである場合、質量電荷比、時間(保持時間)という2つの分離要素に対する信号強度値が測定データとして得られる。質量電荷比は試料に含まれる物質(化合物)由来のイオンそのものの物理量であるから、物質固有の情報であり、分析環境(装置の種類など)や分析条件に依存しない。他方、時間は分析環境や分析条件によって変動するものであって、同一分析環境・分析条件の下では物質に依存するから異なる試料間の比較には利用可能であるものの、物質固有の情報ではない。
第1発明に係る分析データ処理方法において、第1処理ステップでは、或る1つの試料について、物質固有の情報である例えば質量電荷比が或る値であるときの信号強度値の時間変化、つまりは抽出イオンクロマトグラム等のクロマトグラムデータを取得し、その時間値の並び方向に信号強度値を順に配置することで1次元的なテーブルを作成する。このような1次元的なテーブルを複数の質量電荷比のそれぞれについて作成し、さらに、複数の試料のそれぞれについても同様に時間の経過に伴って信号強度値を並べた1次元的なテーブルを作成する。第2処理ステップでは、同一試料に対する複数の1次元的なテーブルを時間値の並び方向に連結して細長いテーブルを作成し、さらに第3処理ステップでは、比較すべき異なる試料に対する1次元的なテーブルを他の次元方向に並べることにより2次元化する。
以上の処理により、分析装置がLC/MSやGC/MSである場合には、複数の試料に対するマススペクトルデータ、クロマトグラムデータが、2次元テーブルの形式に変換されることになる。このように2次元テーブルにまとめられた数値を多変量解析ソフトウエアに読み込ませてデータ処理を行うことにより、時間方向の情報と質量電荷比方向の情報とを共に反映した網羅的な解析結果を得ることができる。もちろん、一般的な多変量解析ソフトウエアで実現される機能を本発明に取り込むことにより、2次元テーブルへのデータ変換処理から多変量解析処理までを連続的に行うことができる。即ち、第1発明に係る分析データ処理方法において、好ましくは、第3処理ステップで作成された2次元テーブルに記載された数値を読み込んで多変量解析を実行する多変量解析ステップ、をさらに有するものとするとよい。
また、本発明に係る分析データ方法及び装置では、数値データをテーブル中に反映させる過程でピークピッキングなどの煩雑なデータ処理を行わないので、そうしたデータ処理演算に際して用いられる内部パラメータに起因する情報の不適切な丸めや強調などがなくなる。これにより、複数の試料間の類似性や相違性をより正確に且つ的確に評価することが可能となる。
また上記のように作成される2次元テーブルでは、例えば、縦方向の1列のデータ(信号強度値)が同一試料由来のデータであり、横方向の1行のデータ(信号強度値)は或る1つの質量電荷比又は複数の質量電荷比に基づく値で或る1つの保持時間における各試料由来のデータである。このテーブル中では、1枚のクロマトグラムを構成するクロマトグラムデータは縦方向にかたまって(つまり隣接するセル中に)配置され、異なる試料における同一の質量電荷比又はそれに基づく値に対するクロマトグラムに含まれるクロマトグラムデータは横方向にかたまって配置される。異なる試料に含まれる成分の同一性を判断するのに、同一の質量電荷比又はそれに基づく値に対するクロマトグラムのピークパターン形状を比較することが一般的によく行われる。上記のようにデータが配置されていると、分析者はこのテーブル中の信号強度値からクロマトグラムのピークパターン形状を把握し易く、複数の試料のピークパターン形状の比較を直感的に行うことができるという利点もある。
なお、各データ値つまり信号強度値は分析装置で得られた値をそのまま用いてもよいが、そうすると、多変量解析結果への絶対強度の影響が大きくなりすぎて正確な比較評価に支障をきたす場合がある。そこで、異なる試料間における同一の第1の変数に対するクロマトグラム上の強度値の差異を緩和するような簡単なデータ処理を行うようにしてもよい。こうしたデータ処理としては、例えば、強度の最大値、分散、標準偏差などを用いて同一クロマトグラム上の各強度値をノーマライズする処理などが考えられる。
本発明に係る分析データ処理装置を備えるLC−MS分析システムの一実施例の概略ブロック構成図。 本実施例のLC−MS分析システムにおいて収集されるクロマトグラムデータの説明図。 本実施例のLC−MS分析システムにおける特徴的なデータ処理の手順を示すフローチャート。 図3に示したデータ処理の具体例を示す模式図。
本発明に係る分析データ処理方法及び該方法が実施される分析データ処理装置の一形態について、その分析データ処理装置を備えるLC−MS分析システムを例に挙げて説明する。図1はこのLC−MS分析システムの概略ブロック構成図である。
図1において、試料チェンジャ1は予め用意された複数の試料を、制御部4による制御の下に順次選択して液体クロマトグラフ(LC)部2に導入する。LC部2は分離用のカラムを含み、試料チェンジャ1から与えられた試料をカラムに導入し、カラムを通過する間に試料中の各種成分を時間的に分離させて順次、質量分析(MS)部3に送り込む。
図示しないが、MS部3は例えば、エレクトロスプレイイオン源等の大気圧イオン源と、イオントラップと、飛行時間型質量分析器と、イオン検出器とを備えるイオントラップ飛行時間型質量分析装置(IT−TOFMS)である。このMS部3において、LC部2から導入された溶出液中の試料成分はイオン化され、生成されたイオンは一旦イオントラップに保持される。保持されたイオンはイオントラップにおいて一定の運動エネルギーを付与されて飛行時間型質量分析器に送り込まれ、飛行空間を飛行する間に質量電荷比に応じてイオンは分離され、イオン検出器において順に検出される。
MS部3で得られた検出信号はデータ処理部7に入力されてデジタルデータに変換され、データ記憶部を含むデータ収集部71に全て保存される。その後、制御部4の指示の下に、データ収集部71から所定のデータが読み出されてクロマトグラム作成部72において抽出イオンクロマトグラム(以下「XIC」と略す)等の各種クロマトグラムが作成され、データ変換処理部73において処理されることで、複数の試料に対して取得されたマススペクトルデータ、クロマトグラムデータが1枚のテーブル(2次元上のデータ)にまとめられる。このテーブルが制御部4を介して表示部6の表示画面上に表示されるとともに、多変量解析処理部74に取り込まれて主成分分析等のデータ処理が実行されてスコアプロット等の多変量解析結果が得られ、この結果が制御部4を介して表示部6の表示画面上に表示される。
制御部4は試料チェンジャ1、LC部2、MS部3、及びデータ処理部7の動作を制御するとともに、ユーザインターフェイスとしての操作部5や表示部6を介して、分析者の操作を受け付ける一方、上述したスコアプロット等の分析結果を出力する。なお、制御部4及びデータ処理部7の機能の大部分は、所定の制御/処理ソフトウエアを搭載したパーソナルコンピュータにより具現化することができる。また、多変量解析処理部74の機能は、上述したSIMCA-P+等の汎用の多変量解析ソフトウエアを利用することができる。
本実施例のLC−MSシステムにおいて、測定対象である複数の試料はほぼ同じ成分を含んだ類似した試料である。また、含まれる成分の種類は基本的に既知である。質量電荷比は分析条件などに影響を受けない物質固有の情報であるから、含有成分の種類が既知であることは、観測対象の質量電荷比も既知であることを意味する。そこで、分析者は予め複数の測定対象の質量電荷比を測定条件の1つとして操作部5から入力した上で、測定実行を指示する。ここでは、測定対象の質量電荷比として、m/z100,101,120,130,…が設定されたものとする。これにより、制御部4の制御の下にMS部3では、m/z100,101,120,130,…のSIM(選択イオンモニタリング)測定が繰り返し実行される。
測定が開始されると、試料チェンジャ1は決められた順序で試料を選択し、該試料をLC部2に送り込む。LC部2は試料中の成分を時間的に分離し、MS部3は上記設定された複数の質量電荷比に対するSIM測定を繰り返す。1つの試料に対するLC/MS測定が終了したならば、試料チェンジャ1は次の試料を選択してLC部2に送り込み、LC部2及びMS部3は上記と同様に測定を実行する。こうして複数の試料の全てについてLC/MS測定を実行し、データ収集部71はそれらデータを一旦格納する(ステップS1)。
次に、クロマトグラム作成部72は、試料毎に、観測対象の質量電荷比に対するXICを作成する(ステップS2)。例えば、観測対象の質量電荷比の数が8であれば、1つの試料当たり8枚のXICが作成される(図2参照)。また、クロマトグラム作成部72は異なる試料に対する同一質量電荷比のXICに現れるピーク波形を比較し、その類似性から同一成分の由来のピークを識別する。そして、同一成分由来のピークの時間差、つまり、試料間の保持時間ずれを算出し、このずれを修正するようにXICを修正する(ステップS3)。この保持時間ずれは、LC部2における移動相の流速のばらつき、カラムの温度のばらつき、など成分分離特性に影響を与える要因のばらつきにより生じるものである。
続いて、各試料の複数のXICに対し、測定目的等に応じた波形処理を実行する。例えばXICのベースラインを求めて該ベースラインを除去したり、XIC上の信号強度をノーマライズしたりする(ステップS4)。ノーマライズする場合には、例えば各XICにおいて信号強度の最大値や分散、標準偏差などを求め、それを基準として各信号強度値をノーマライズ(規格化)すればよい。
続いて、データ変換処理部73は、複数の試料についてのXICデータを2次元テーブル形式にまとめる。具体的には次の手順で処理を行う。
図4(a)に示したような、或る1つの試料における1つの質量電荷比に対するXICを構成するデータは、時間軸上の各時間(保持時間)毎の信号強度値を示すデータである。そこで、1つの試料において各XIC毎に、時間の変化に対して信号強度値を1次元方向に並べた1次元のテーブルを作成する。図4(b)はm/z100のXICについて1次元のテーブルを作成した例である。
他の質量電荷比(m/z101,120,130,…)のXICについても同様の1次元のテーブルが作成されるから、これら複数の1次元テーブルを質量電荷比の小さい順(又は大きい順)でテーブル中の信号強度値の並びの方向に連結する(ステップS5)。図4(c)は試料1についての異なる質量電荷比に対する1次元のテーブルを連結した例である。このとき、1次元方向(図4(c)の縦方向)において、信号強度値は測定条件等によって変動し得る情報である保持時間ではなく、物質に固有の情報である質量電荷比毎に集約されている。
同様に、試料毎にそれぞれ複数のXICを構成する信号強度値が1次元方向に配置された1次元のテーブルを作成する。そして、全ての試料について、試料に付された番号の順に、上記の1次元のテーブルを他方の次元方向に並べることで、図4(d)に示したような2次元テーブルの形式にまとめる。即ち、図4(d)に示した2次元テーブルは、縦方向の1つの列が、1つの試料における全てのXICの信号強度データである。また、その1つの列の中では、同じ質量電荷比に対する信号強度値が隣接してかためられている。一方、横方向の1つの行は、或る1つの質量電荷比で且つ或る1つの時間における全試料の信号強度データである。
データ変換処理部73において上記のような2次元テーブル形式にまとめられた信号強度データが多変量解析処理部74に入力されると、多変量解析処理部74は予め決められた多変量解析処理を実行し、試料の類似性や相違性を示す結果を表示部6に出力する(ステップS7)。多変量解析処理部74が主成分分析を行うものである場合には、読み込んだ信号強度データに基づいて試料毎にスコアとローディングとを求め、それぞれの分散図を作成してこれを出力する。これにより、分析者は複数の試料の類似性や相違性の評価を行うことができる。
なお、上記実施例では、図4(b)に示したクロマトグラムデータは或る1つの質量電荷比に対するXICの信号強度データで、多数の質量電荷比に対するXICの信号強度データを用いることで図4(c)に示す1次元テーブルを作成するようにしていたが、そのクロマトグラムの一部又は全部をXICではない他の態様のクロマトグラムに置き換えることができる。例えば、複数の質量電荷比に対するXICの差分をとった差分クロマトグラム、複数の質量電荷比に対するXICを加算した又は所定の質量電荷比範囲に亘る全てのXICを加算した加算クロマトグラムなどとしてもよい。例えば、図4(c)の例においてm/z100、m/z101の2つのXICを示すデータに代えて、両方のXICを加算した、つまりm/z=100+101に対するクロマトグラムを示すデータとしてもよい。このような変換を行っても、質量電荷比という次元の情報は欠損しない。
また、質量分析装置において作成されるクロマトグラムとしてはTICやXICが一般的であるが、そのほかに、様々な態様のクロマトグラムが作成されるから、そうしたクロマトグラムを構成するデータを図4(c)に示した1次元テーブルに含むようにしてもよい。こうしたクロマトグラムとして、例えばイオン量が最大のピークを集めたベースピーククロマトグラム、マスデフェクトクロマトグラム、アイソトピックフィルタードクロマトグラム、ニュートラルロスクロマトグラムなどが含まれる。なお、これらクロマトグラムの一部は、MS部3においてイオンを開裂させることで生成されるプリカーサイオンの質量分析を行うことにより収集されるデータに基づくものであることは当然である。
また上記実施例は本発明をLC−MS分析システムに適用したものであるが、LCの代わりに、同様に時間方向に成分分離が可能なGC、CEを用いてもよいことは明らかである。また、試料に対する測定データを取得する分析手段としてMS以外の様々な分析装置をもちいてもよいことも明らかである。例えば、紫外可視分光光度計を用いた場合には、複数の波長毎に信号強度の時間的変化を測定することができるから、波長毎にクロマトグラムを作成することができ、複数の試料に対する複数の波長のクロマトグラムデータを上記と同様の方法で2次元テーブル化することができる。
また、上記実施例は本発明の一例にすぎず、上記記載以外でも、本発明の趣旨の範囲で適宜に変更、修正、追加を行っても本願請求の範囲に包含されることは当然である。
1…試料チェンジャ
2…LC部
3…MS部
4…制御部
5…操作部
6…表示部
7…データ処理部
71…データ収集部
72…クロマトグラム作成部
73…データ変換処理部
74…多変量解析処理部

Claims (6)

  1. 試料に含まれる複数の成分を時間を分離要素とする1つの次元方向に分離する分離手段と、該分離手段により時間方向に成分分離された試料に対して時間以外の他の1つ又はそれ以上の分離要素の次元方向に分離してそれぞれ信号強度を取得する分析手段と、を具備する分析装置を用い、複数の試料に対してそれぞれ2次元以上の分離要素の下で収集された信号強度データを処理する分析データ処理方法であって、
    a)前記複数の試料のそれぞれについて、前記分析手段における分離要素に基づく第1の変数が固定された条件の下で前記分離手段における分離要素に基づく第2の変数を順次変えたときの、該第2の変数の各値に対応してそれぞれ得られた信号強度値そのものをその第2の変数の数値の並び方向に配置した1次元的なテーブルを作成するという処理を、第1の変数を変えつつ実行して試料毎に複数の1次元的なテーブルを作成する第1処理ステップと、
    b)前記第1処理ステップで作成された同一試料に対する複数の1次元的なテーブルを、第2の変数の数値の並び方向に連結することにより、第1の変数が同一である信号強度値が連なった、試料毎の1次元的なテーブルを作成する第2処理ステップと、
    c)前記第2処理ステップで作成されたそれぞれ異なる試料に対する1次元的なテーブルを該次元と直交する方向に配置することにより、2次元的なテーブルを作成する第3処理ステップと、
    を有することを特徴とする分析データ処理方法。
  2. 請求項1に記載の分析データ処理方法であって、
    前記第3処理ステップで作成された2次元的なテーブルに記載された数値を読み込んで多変量解析を実行する多変量解析ステップ、をさらに有することを特徴とする分析データ処理方法。
  3. 請求項1又は2に記載の分析データ処理方法であって、
    前記分析手段は分離要素を質量電荷比とする質量分析手段であることを特徴とする分析データ処理方法。
  4. 試料に含まれる複数の成分を時間を分離要素とする1つの次元方向に分離する分離手段と、該分離手段により時間方向に成分分離された試料に対して時間以外の他の1つ又はそれ以上の分離要素の次元方向に分離してそれぞれ信号強度を取得する分析手段と、を具備する分析装置を用い、複数の試料に対してそれぞれ2次元以上の分離要素の下で収集された信号強度データを処理する分析データ処理装置であって、
    a)前記複数の試料のそれぞれについて、前記分析手段における分離要素に基づく第1の変数が固定された条件の下で前記分離手段における分離要素に基づく第2の変数を変えたときの、該第2の変数の各値に対応してそれぞれ得られた信号強度値そのものをその第2の変数の数値の並び方向に配置した1次元的なテーブルを作成するという処理を、第1の変数を変えつつ実行して試料毎に複数の1次元的なテーブルを作成する第1処理手段と、
    b)前記第1処理手段で作成された同一試料に対する複数の1次元的なテーブルを、第2の変数の数値の並び方向に連結することにより、第1の変数が同一である信号強度値が連なった、試料毎の1次元的なテーブルを作成する第2処理手段と、
    c)前記第2処理手段で作成されたそれぞれ異なる試料に対する1次元的なテーブルを該次元と直交する方向に配置することにより、2次元的なテーブルを作成する第3処理手段と、
    を備えることを特徴とする分析データ処理装置。
  5. 請求項4に記載の分析データ処理装置であって、
    前記第3処理手段で作成された2次元的なテーブルに記載された数値を読み込んで多変量解析を実行する多変量解析手段、をさらに備えることを特徴とする分析データ処理装置。
  6. 請求項4又は5に記載の分析データ処理装置であって、
    前記分析手段は分離要素を質量電荷比とする質量分析手段であることを特徴とする分析データ処理装置。
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