JP6520025B2 - 質量分析データの処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、質量分析データの処理方法に関する。
生命科学の研究や医療、医薬品開発などの分野においては、生体試料を対象としてタンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸、糖鎖、脂肪酸、有機酸など様々な物質を網羅的に同定し定量することが重要である。このうち、比較的低分子であるアミノ酸、脂肪酸又は有機酸を測定対象として網羅的に解析する場合をメタボローム解析と称し、タンパク質やペプチドを測定対象として網羅的に解析する場合はプロテオーム解析と称している。これらの物質の網羅的解析において、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、キャピラリー電気泳動等の成分分離装置と、質量分析装置とを組合せた解析手法が非常に大きな威力を発揮している。
現在のところ、例えば、液体クロマトグラフと質量分析装置とを組合せた解析手法により医療診断や病因解析を行う場合、複数のマスクロマトグラフを比較して解析することが行われている。
液体クロマトグラフィーと質量分析装置とを組合せた解析手法により複数のマスクロマトグラフを比較して解析する方法の1つの例として、特許文献1に記載の方法がある。特許文献1にはメタボローム解析における生体物質及び代謝物の同定方法が記載されている。特許文献1に記載の方法では、質量分析データにおいてサンプルごとに精密質量及び保持時間の少なくとも一方の昇順又は降順にイオン強度を並べ替え、又はサンプルごとにイオン強度の降順に精密質量及び保持時間の少なくとも一方を並べ替え、並べ替えたデータについてサンプル間で比較して精密質量又は保持時間の少なくとも一方の一致又は不一致を検索し、一致した精密質量又は保持時間の少なくとも一方について精密質量及び保持時間に基づいて物質名を同定する。
特開2009−20037号公報
ここで、質量分析用試料に含まれる非常に多種の測定対象成分の精密質量、イオン強度及び保持時間の情報を含む、複数の質量分析データを比較する場合、同一の測定対象成分の保持時間は同一であることが、データ処理の簡便性の観点から好ましい。しかし実際は、分離操作等の条件などにより、同一の測定対象成分であっても保持時間にずれが生じる。
質量分析データの処理方法の信頼性を高める上で、測定対象物質を特定するために、異なる分析用試料間で生じるこのような保持時間のずれを補正する必要がある。しかし、試料の成分組成、分離カラムの種類、溶出液の組成、溶出液の流速等、保持時間に影響を及ぼす要素は多岐にわたる。したがって、同一の測定対象成分で生じた保持時間のずれを補正する作業は、非常に煩雑かつ困難である。
そこで本発明は、質量分析データの処理において同一の測定対象成分間で一致させることが困難な保持時間の情報によらず、複数の質量分析用試料間で質量分析データの比較及び解析を正確かつ簡便に行う、質量分析データの処理方法の提供を課題とする。
さらに本発明は、質量分析データの処理において同一の測定対象成分間で一致させることが困難な保持時間の情報によらず、複数の質量分析用試料間で質量分析データの比較及び解析を正確かつ簡便に行う、質量分析装置の提供を課題とする。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った。
具体的には、本発明者らは、相互分離した測定対象成分を高分解能質量分析装置で分析して得られた、測定対象成分の精密質量(以下、「m/z値」ともいう)、イオン強度及び保持時間の情報を含む3次元の質量分析データから測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去し、続いて、イオン強度の情報を全てm/z軸上に蓄積して、m/z値及びイオン強度の情報を含む2次元の質量分析データに変換した。そして、m/z値で測定対象成分を区別し、異なる質量分析用試料間で2次元に変換した質量分析データを比較することで、保持時間の情報によらず正確かつ簡便に複数の質量分析用試料間で質量分析データの比較及び解析が可能となることを見出した。
本発明はこの知見に基づき完成されるに至ったものである。
本発明は、質量分析データの処理方法であって、
(a)質量分析用試料に含まれる測定対象成分を分離し、
(b)高分解能質量分析装置を用いて、分離した測定対象成分それぞれをイオン化して精密質量及びイオン強度を測定し、
(c)得られた精密質量及びイオン強度のデータから、測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去し、
(d)質量分析用試料ごとに測定した全てのイオン強度の情報を精密質量ごとに蓄積して、各測定対象成分の精密質量及びイオン強度の情報を含む質量分析データを得、
(e)得られた質量分析データを少なくとも2つの質量分析用試料間で比較し、精密質量の一致又は不一致を検知し、
(f)前記少なくとも2つの質量分析用試料間で、精密質量が一致するイオン強度同士の差分又は比を算出し、質量分析データの比較及び解析を行う、
質量分析データの処理方法に関する。
また本発明は、前記質量分析データの処理方法に基づき、少なくとも2つの質量分析用試料間で、測定対象成分それぞれの量を比較する方法に関する。
さらに本発明は、
分離した測定対象成分をイオン化する、イオン化部、
前記イオン化部によりイオン化された測定対象成分の精密質量及びイオン強度を高分解能で測定し、各測定対象成分の精密質量及びイオン強度の情報を含む質量分析データを検出する、質量分析部、及び
前記質量分析部により得られた質量分析データの比較及び解析を行う、情報処理部、
を有し、
前記情報処理部が、
前記質量分析部が検出した質量分析データから測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去し、
続けて、質量分析用試料ごとに全てのイオン強度の情報を精密質量ごとに蓄積して、各測定対象成分の精密質量及びイオン強度の情報を含む質量分析データを作製し、
作製した質量分析データを少なくとも2つの質量分析用試料間で比較し、精密質量の一致又は不一致を検知し、
前記少なくとも2つの質量分析用試料間で、精密質量が一致するイオン強度同士の差分又は比を算出し、質量分析データの比較及び解析を行う、
質量分析装置に関する。
本発明の質量分析データの処理方法は、質量分析データの処理において同一の測定対象成分間で一致させることが困難な保持時間の情報によらず、複数の質量分析用試料間で質量分析データの比較及び解析を行うことができる。そのため、保持時間と、精密質量及びイオン強度との間での対応付けを回避することができ、質量分析データの処理を正確かつ簡便に行うことができる。
さらに本発明の質量分析装置は、質量分析データの処理において同一の測定対象成分間で一致させることが困難な保持時間の情報によらず、複数の質量分析用試料間で質量分析データの比較及び解析を正確かつ簡便に行うことができる。
また、偶然に保持時間が一致した異なる測定対象成分を、誤って同一の測定対象成分と認識することを防止することができる。
本発明の質量分析データの処理方法を実施する際の処理工程を概略的に示すフローチャートである。 本発明における、精密質量及びイオン強度を含む質量分析データの取得方法の1例を概略的に示す説明図である。 図3(a)は、質量分析において、精密質量の情報を取得するタイミングごとに検出されるイオン強度の1例を示すグラフを示す。図3(b)は、図3(a)に示すグラフの領域(b)の拡大図である。図3(c)は、図3(a)に示すグラフの領域(c)の拡大図である。 質量分析データにおいて、測定対象成分の主イオンと同位体イオンが出現する間隔を示したグラフである。 本発明の好ましい態様の質量分析装置の装置構成図である。 下記実施例で行った、酵母エノラーゼの酵素消化物とウシ血清アルブミンの酵素消化物との混合比が1:5と5:1の場合の各マスクロマトグラムを比較し、各ピークのイオン強度の差分を算出した結果を示す図である。
本発明における「質量分析」とは、測定対象物質の定量値を絶対値又は相対値で算出し分析することの他に、質量分析試料間で同種の測定対象物質の含有量を比較することを含む概念である。
また本発明における「質量分析用試料」は、複数の測定対象物質を含む試料であり、プロテオーム解析やメタボローム解析の対象となる生体由来の試料が好ましい。質量分析用試料の例としては、血液(血清、血漿)、尿、体液、培養液、細胞、組織抽出物などが挙げられる。また「質量分析用試料に含まれる測定対象成分」としては、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸、糖鎖、脂肪酸、有機酸などが挙げられる。このうち、タンパク質、ペプチド及びアミノ酸が好ましい。なお本明細書において、「タンパク質」、「ペプチド」及び「アミノ酸」は、タンパク質の酵素処理産物をも含む概念で用いる。
本発明の質量分析データの処理方法における処理手順について、図1に示すフローチャートに基づいて説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
[ステップS11]測定対象成分の分離
まず、質量分析用試料に含まれる測定対象成分の分離を行う。測定対象成分の分離は、質量分析に供した際に各測定対象成分のイオン化に相互に影響を及ぼさない程度まで行われていることが好ましい。さらに、各測定対象成分のイオン化による質量分析への影響が無視できる程度まで、測定対象成分を分離することが好ましい。
測定対象成分の分離は、常法により行うことができる。例えば、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ又はキャピラリー電気泳動装置等を用いて、測定対象成分を分離することができる。また、測定対象成分を分離する方法は前記方法に限られることはなく、例えば、測定対象成分の極性差、分子量差等に基づいて、測定対象成分を分離することができる。
前記液体クロマトグラフとしては、溶離液を送液する高圧グラジエントポンプ、質量分析用試料を導入するオートインジェクター、及び充填剤を充填した分離カラムを備えた液体クロマトグラフを用いることができる。充填剤は微粒子型又はモノリス型等を用いることができる。また前記ガスクロマトグラフとしては、質量分析用試料を導入する試料導入部、導入した試料を分離カラムに移動させるガスを導入するキャリアガス導入部、及び充填剤を充填した分離カラムを備えたガスクロマトグラフを用いることができる。さらに前記キャピラリー電気泳動装置としては、質量分析用試料を導入する試料導入部、及びゲルを充填したキャピラリーを備えたキャピラリー電気泳動装置を用いることができる。
[ステップS12]測定対象成分の精密質量及びイオン強度の測定
次に、ステップS11で分離した各測定対象成分のイオン化を行う。測定対象成分のイオン化方法としては通常のイオン化方法より適宜選択することができる。具体例としては、エレクトロスプレーイオン化法、大気圧化学イオン化法、大気圧光イオン化法、電子イオン化法、化学イオン化法、高速原子衝撃法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法などが挙げられる。本発明において、測定対象成分のm/z値の検出感度の観点から、エレクトロスプレーイオン化法が好ましい。
そしてイオン化された測定対象成分について、高分解能質量分析装置を用いてm/z値及びイオン強度を測定する。
ここで「高分解能質量分析装置」とは、測定対象成分のm/z値を小数点以下4桁以上のオーダーで測定できる質量分析装置をいう。小数点以下4桁以上のオーダーでm/z値を測定することで、m/z値のみに基づいて測定対象物質種を特定し同定することができる。質量分析の測定原理としては、フーリエ変換型質量分析(以下、「FT/MS」ともいう)、飛行時間型質量分析(以下、「TOF」ともいう)、イオントラップ型質量分析、磁場偏向型質量分析、四重極型質量分析、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析(以下、「FT/ICR-MS」ともいう)、加速器質量分析、タンデム型質量分析が挙げられる。本発明ではこれらの測定原理のうち、10%谷定義R10%が5,000以上のもの、及び/又は半値幅RFWHMが10,000以上のものから好適に選択することができる。
本発明で好ましく用いることができる高分解能質量分析装置の具体例としては、FT/ICR-MSタイプの分析装置、FT-Orbitrapタイプの分析装置、High-Ref-TOFタイプの分析装置が挙げられる。
[ステップS13]測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報の除去
後述するステップS14における全てのイオン強度の情報をm/z値ごとに蓄積する前に、質量分析データから、測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去する。測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去することで、測定対象物質の検出を確実に行うことができるとともに、質量分析データの処理が容易となる。
前記ステップS12において、エレクトロスプレーイオン化法などに付して測定対象成分をイオン化した場合、1価のイオンのほかに多価イオンも生成する場合がある。この場合、ステップS13で取得する質量分析データでは、多価イオンに由来するピークの情報が、1価のイオンに由来するピークに対して1/z(zはイオン価数を表す)の間隔で出現する。
そこで本発明では、全てのイオン強度の情報をm/z値ごとに蓄積する前に、観測されたピークが多価イオンに由来するピークであるかを判断することが好ましい。そして、観測されたピークが多価イオンに由来するピークである場合、その情報を測定対象成分の同位体に由来する情報として、得られた質量分析データから除去することができる。
また、前述のノイズとしては、主に高分解能質量分析装置特有の機械的なノイズが挙げられる。
機械的なノイズは、測定対象成分を含まない試料に対して前述と同様の操作を行い、質量分析データに出現したピークを機械的ノイズとして予め特定する。そして、全てのイオン強度の情報をm/z値ごとに蓄積する前に、機械的ノイズとして特定したピークの情報の除去を行うことが好ましい。
あるいは、機械的ノイズは、前述の同位体のパターンを示さない。したがって、前述した同位体を特定する際に、同位体のパターンを示さないと判断したピークを機械的ノイズとして除去することが好ましい。
[ステップS14]精密質量及びイオン強度を含む質量分析データの取得
次に、各測定対象成分の全てのイオン強度を精密質量ごとに蓄積し、各測定対象成分の精密質量及びイオン強度を含む質量分析データを取得する。このステップにより、生じたずれの補正が困難な、各測定対象成分の保持時間の情報を含まない質量分析データを得ることができる。
以下、精密質量及びイオン強度を含む質量分析データの取得方法の1例を図2に示す概略図に基づいて説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
通常の質量分析データの処理方法においては、図2に示すように、液体クロマトグラフに付して得られる各測定対象物質の保持時間と、質量分析装置により測定したm/z値及びイオン強度とを、それぞれ3軸に展開した多段マスクロマトグラムを形成する。
これに対し本発明では、前記ステップS11において各測定対象物質の保持時間を測定し図2に示すような多段マスクロマトグラムを作成する場合、全ての保持時間に渡る全ピークをm/z軸−イオン強度軸の2次元平面へ蓄積する。これにより、全てのイオン強度がm/z値ごとに蓄積され、かつ各測定対象成分のm/z値及びイオン強度の情報を含み保持時間の情報を含まない質量分析データを取得することができる。
以上、多段マスクロマトグラムから各測定対象成分のm/z値及びイオン強度を含み保持時間の情報を含まない質量分析データを取得する方法の1例について説明した。しかし、本発明では、前記ステップS11において各測定対象物質の保持時間を測定せず、前記ステップS12で測定したm/z値及びイオン強度から測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報の除去し、各測定対象成分のm/z値及びイオン強度の情報を含む質量分析データを直接作製してもよい。
また、ステップS14で取得する質量分析データは、m/z軸−イオン強度軸の2次元平面のマスクロマトグラムであってもよいし、各測定対象物質のm/z値とイオン強度とを列記したリスト形式のデータであってもよい。
[ステップS15]質量分析データの比較、及びm/z値の一致又は不一致の検知
次に、ステップS14で取得した質量分析データを質量分析用試料間で比較し、m/z値の一致又は不一致の検知を行う。
前述のように本発明では、小数点以下4桁以上のオーダーでm/z値を測定できる質量分析装置を用いて、測定対象成分のm/z値を測定する。したがって、m/z値の一致又は不一致の検知を行うことで、前述の保持時間の情報によらずm/z値に基づいて測定対象成分を他の成分と区別して特定することができる。なお本発明において、m/z値が一致するか否かの判断は、例えば、2つのm/z値の誤差が10ppm程度の範囲内であるかを確認して行うことができる。
[ステップS16]m/z値が一致するイオン強度同士の差分又は比の算出
最後に、前記ステップS15によりm/z値が一致すると判断したイオン強度同士に対して、差分又は比を算出する。
具体的には、前記質量分析データにおいてm/z値が一致するピーク同士についてそれぞれ面積を算出し、算出したピーク面積を比較する。これにより、質量分析用試料間で特定の測定対象成分の含有量を相対的に算出することができる。
本発明の質量分析データの処理方法の好ましい実施態様について説明する。
質量分析データに含まれる個々のイオン強度(ai,j)及び全イオン強度(IntensityTotal)は、下記式(1)に示すように、保持時間(Ti)とm/z値(Mi,j)の関数として表現される。
式(1)において、ai,jは、特定の時間Tiに検出された、特定のm/z値(Mi,j)に対するイオン強度を示す。Tiは、特定のイオンを検出した時間を示す。Mi,jは、特定の時間Tiに検出されたイオンaに対応するm/z値を示す。
ここで、m/z値を取得するタイミング(1Scan)ごとに検出されるイオン強度は、前記式(1)においてi=t(tは任意の定数)とする場合、下記式(2)で表されるように、質量のみの関数となる。
式(2)において、amonoは化合物由来の主イオンの強度を表し、aisoは同位体由来のイオン強度を表し、anoiseは機械的ノイズの強度を表す。
m/z値を取得するタイミングごとに検出されるイオン強度の1例を図3に示す。図3に示すように、m/z値を取得するタイミングごとに検出されるイオン強度は、化合物由来の主イオンと、同位体イオン由来のイオンと、機械的ノイズに分類される。
そこで本発明の好ましい実施態様では、m/z値を取得するタイミングごとに、主イオンと、同位体イオン及び機械的ノイズとを判別する。そして、下記式(3)に示すように、同位体イオン及び機械的ノイズを除去し主イオンのみを保存する。この段階での主イオンと同位体イオン及び機械的ノイズとの判別は容易である。したがって、この段階で質量分析データから同位体イオン及び機械的ノイズを除去することが、データ処理の簡便さの観点から好ましい。
このようにして得られた質量分析データの各イオン強度の情報をm/z軸へ蓄積することで、式(4)に示すような、補正が困難な保持時間の情報を含まない質量分析データを再構築することができる。
質量分析データから、測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去する方法の具体例について、図4を参照しながら説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
図4に示すように、同位体イオンは、主イオンの価数に応じて特定の間隔(1/z、ここでzは主イオンの価数を表す。)を持って出現する。具体的には、主イオンの価数が2価の場合、主イオンと同位体イオンの間隔は、1/(主イオンの価数:2)=0.5となる。これに対して、機械的ノイズは瞬間的に出現し、同位体イオンの出現パターンを示さない。
そこで、同位体イオンのように周期的に出現しないピークを機械的ノイズとして除去する。さらに、周期的に出現するイオンのうち、主イオンの価数を考慮して、同位体イオンを除去し、主イオンのみを選択的に取得する。このようにして、測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去することができる。
同位体イオン及び機械的ノイズの除去は、以下の指針に従って実施することができる。
前記式(2)で表わされるイオン強度とm/z値の2次元データに対して、m/z軸を降順に走査し、下記式(5)で表される0より大きいイオン強度を基準として、任意の価数(z)に応じて、1/z分だけm/z値の小さい下記式(6)で表されるイオン強度との大小関係を比較する。
式(6)においてΔは、任意の価数に応じた間隔を示す。
イオン強度の比較の結果下記式(7)を満たす場合、式(5)で表されるイオンは機械的ノイズと判定して、このイオンを除去する。
下記式(8)を満たす場合、式(5)で表されるイオンは主イオンと判定して、このイオンを保存する。
下記式(9)を満たす場合、式(5)で表されるイオンは同位体イオンとして除去し、式(6)で表されるイオンよりもさらに1/z分だけm/z値の小さいイオン強度に対して比較を行う。
以上の操作を下記式(10)を満たすまで継続する。その際、下記式(11)で表されるイオンを主イオンとして保存する。
従来の質量分析データの処理方法では前述したように、測定対象物質を特定するために測定対象物質の保持時間の情報の補正を行う必要がある。しかし保持時間の補正を行う従来の質量分析データの処理方法は、非常に煩雑である。さらに、偶然に保持時間が一致した異なる測定対象物質を同一物質と認識する危険性が存在する。
これに対し、本発明の質量分析データの処理方法は、高分解能質量分析装置を用いてm/z値を測定するので、m/z値に基づいて測定対象物質を特定することができる。したがって、測定対象物質の保持時間の情報によらない本発明の質量分析データの処理方法は、質量分析データの処理が容易であり、且つ正確である。
さらに、本発明の質量分析データの処理方法に基づいて、質量分析用試料に含まれる測定対象成分の質量分析を正確かつ簡便に行うことができる。
たとえば、2つの質量分析用試料の質量分析データを本発明の質量分析データの処理方法に付すことで、2つの質量分析用試料間で、各測定対象成分の相対的な含有量を知ることができる。
あるいは、測定対象成分の種類と含有量が既知の参照用試料について質量分析データを取得する。そして、質量分析用試料の質量分析データと、前記参照用試料の質量分析データを本発明の質量分析データの処理方法に付すことで、質量分析用試料の測定対象成分の含有量の絶対値を知ることができる。
次に、本発明の質量分析装置の好ましい態様について図5を参照して説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
図5は、本発明の好ましい態様の質量分析装置の1例を示す装置構成図である。図5に示す質量分析装置は、液体クロマトグラフ10、高分解能質量分析装置20、及び情報処理部30からなる。
図5に示す液体クロマトグラフ10は、溶離液aを送液する高圧グラジエントポンプ11、質量分析用試料bを導入するオートインジェクター12、及び質量分析用試料に含まれる測定対象成分を分離する分離カラム13を備えている。液体クロマトグラフ10はさらに、分離された測定対象成分を分取して分画するための、分取分画部を備えていてもよい。
分離カラム13の充填剤としては、この種の液体クロマトグラフに通常用いられるものから適宜選択することができる。
本発明において液体クロマトグラフ10は、極性差に基づいて各測定対象成分を分離することが好ましい。また本発明において、前記液体クロマトグラフをガスクロマトグラフやキャピラリー電気泳動装置等の分離手段に置き換え、測定対象成分を分離してもよい。
高分解能質量分析装置20は、イオン化部21と質量分析部22からなる。
液体クロマトグラフ10により相互に分離した測定対象成分はイオン化部21に導入される。そしてイオン化部21が、導入された測定対象成分をそれぞれイオン化する。測定対象成分のイオン化方法としては、通常のイオン化方法より適宜選択することができる。具体例としては、エレクトロスプレーイオン化法、大気圧化学イオン化法、大気圧光イオン化法、電子イオン化法、化学イオン化法、高速原子衝撃法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法などが挙げられる。本発明においてイオン化部21は、測定対象成分のm/z値の検出感度の観点から、エレクトロスプレーイオン化法により測定対象成分をイオン化することが好ましい。
イオン化部21によりイオン化された測定対象成分は、質量分析部22に導入される。そして、質量分析部22が測定対象成分のm/z値及びイオン強度を高分解能で測定し、各測定対象成分のm/z値及びイオン強度の情報を含む質量分析データを検出する。質量分析部22は、測定対象成分のm/z値を小数点以下4桁以上のオーダーで測定する。質量分析部22を以上のように構成することにより、m/z値のみに基づいて測定対象物質種を特定し同定することができる。質量分析部22による測定原理としては、FT/MS、TOF、イオントラップ型質量分析、磁場偏向型質量分析、四重極型質量分析、FT/ICR-MS、加速器質量分析、タンデム型質量分析が挙げられる。本発明ではこれらの測定原理のうち、10%谷定義R10%が5,000以上のもの、及び/又は半値幅RFWHMが10,000以上のものから好適に選択することができる。本発明で好ましく用いることができる質量分析部22の具体例としては、FT/ICR-MSタイプの分析計、FT-Orbitrapタイプの分析計、High-Ref-TOFタイプの分析計が挙げられる。
高分解能質量分析装置20により得られた質量分析データは情報処理部30に送信される。そして情報処理部30は、下記に示す処理を行う演算手段により、質量分析データの比較及び解析を行う。情報処理部30には、分析条件などを設定するための情報入力部や、分析結果などを表示する表示部などを設けることができる。情報処理部30は、パーソナルコンピュータなどをハードウエア資源とし、パーソナルコンピュータにインストールされた情報処理ソフトウエアを実行することにより、各機能ブロックを具現化する構成とすることができる。
情報処理部30は、質量分析部22が検出した質量分析データから測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去する。さらに情報処理部30は、精密質量の情報を取得するタイミングごとに、質量分析データから、測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去することが好ましい。測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去することで、質量分析データの処理が容易となる。
情報処理部30は続けて、質量分析用試料ごとに全てのイオン強度の情報を精密質量ごとに蓄積して、各測定対象成分の精密質量及びイオン強度の情報を含む質量分析データを作製する。これにより、生じたずれの補正が困難な、各測定対象成分の保持時間の情報を含まない質量分析データを得ることができる。
得られる質量分析データは、m/z軸−イオン強度軸の2次元平面のマスクロマトグラムであってもよいし、各測定対象物質のm/z値とイオン強度とを列記したリスト形式のデータであってもよい。
そして情報処理部30は、作製した質量分析データを少なくとも2つの質量分析用試料間で比較し、m/z値の一致又は不一致の検知を行う。本発明では高分解能質量分析装置20を用いてm/z値を測定する。したがって、m/z値の一致又は不一致の検知を行うことで、m/z値に基づいて測定対象成分を他の成分と区別して特定することができる。
さらに情報処理部30は、少なくとも2つの質量分析用試料間で、m/z値が一致するイオン強度同士の差分又は比を算出する。具体的には、前記質量分析データにおいてm/z値が一致するピーク同士についてそれぞれ面積を算出し、算出したピーク面積を比較する。これにより、質量分析用試料間で特定の測定対象成分の含有量を相対的に算出することができる。
以上の構成とする本発明の質量分析装置は、高分解能質量分析装置を用いてm/z値を測定するので、m/z値に基づいて測定対象物質を特定することができる。したがって、本発明の質量分析装置は、測定対象物質の保持時間の情報によることなく、質量分析データを容易に処理することができる。
本発明の質量分析装置において、測定対象成分の種類と含有量が既知の参照用試料の質量分析データをデータベースとして前記情報処理部30に格納してもよい。このようなデータベースを備えることで、情報処理部30が質量分析用試料の質量分析データと参照用試料の質量分析データとを比較し、質量分析用試料の測定対象成分の含有量の絶対値を算出ことができる。
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の質量分析データの処理方法、質量分析方法、及び質量分析装置を開示する。
<1>質量分析データの処理方法であって、
(a)質量分析用試料に含まれる測定対象成分を分離し、
(b)高分解能質量分析装置を用いて、分離した測定対象成分それぞれをイオン化して精密質量及びイオン強度を測定し、
(c)得られた精密質量及びイオン強度のデータから、測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去し、
(d)質量分析用試料ごとに測定した全てのイオン強度の情報を精密質量ごとに蓄積して、各測定対象成分の精密質量及びイオン強度の情報を含む質量分析データを得、
(e)得られた質量分析データを少なくとも2つの質量分析用試料間で比較し、精密質量の一致又は不一致を検知し、
(f)前記少なくとも2つの質量分析用試料間で、精密質量が一致するイオン強度同士の差分又は比を算出し、質量分析データの比較及び解析を行う、
質量分析データの処理方法。
<2>前記工程(a)において、各測定対象成分間の極性差に基づいて測定対象成分を分離する、前記<1>項に記載の質量分析データの処理方法。
<3>前記工程(a)において、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ又はキャピラリー電気泳動装置、好ましくは液体クロマトグラフ、を用いて測定対象成分を分離する、前記<1>又は<2>項に記載の質量分析データの処理方法。
<4>前記工程(b)において、分離した測定対象成分をエレクトロスプレーイオン化法に付してイオン化する、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の質量分析データの処理方法。
<5>前記高分解能質量分析装置が、測定対象成分の精密質量を小数点以下4桁以上のオーダーで測定する、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の質量分析データの処理方法。
<6>前記高分解能質量分析装置が、FT/ICR-MSタイプの分析装置、FT-Orbitrapタイプの分析装置、又はHigh-Ref-TOFタイプの分析装置である、前記<5>項に記載の質量分析データの処理方法。
<7>前記質量分析データが、m/z軸−イオン強度軸の2次元平面のマスクロマトグラムである、前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の質量分析データの処理方法。
<8>前記質量分析データが、各測定対象物質のm/z値とイオン強度とを列記したリスト形式のデータである、前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の質量分析データの処理方法。
<9>精密質量の情報を取得するタイミングごとに、質量分析データから、測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去する、前記<1>〜<8>のいずれか1項に記載の質量分析データの処理方法。
<10>前記工程(f)において、前記質量分析データにおいて精密質量が一致すると判断された測定対象成分に由来するクロマトグラフの面積を算出し、算出した面積を比較して、質量分析データの比較及び解析を行う、前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の質量分析データの処理方法。
<11>前記測定対象成分が、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸、糖鎖、脂肪酸、及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種、好ましくは、タンパク質、ペプチド、及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種、である、前記<1>〜<10>のいずれか1項に記載の質量分析データの処理方法。
<12>前記<1>〜<11>のいずれか1項に記載の質量分析データの処理方法に基づき、少なくとも2つの質量分析用試料間で、測定対象成分それぞれの量を比較する方法。
<13>分離した測定対象成分をイオン化する、イオン化部、
前記イオン化部によりイオン化された測定対象成分の精密質量及びイオン強度を高分解能で測定し、各測定対象成分の精密質量及びイオン強度の情報を含む質量分析データを検出する、質量分析部、及び
前記質量分析部により得られた質量分析データの比較及び解析を行う、情報処理部、
を有し、
前記情報処理部が、
前記質量分析部が検出した質量分析データから測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去し、
続けて、質量分析用試料ごとに全てのイオン強度の情報を精密質量ごとに蓄積して、各測定対象成分の精密質量及びイオン強度の情報を含む質量分析データを作製し、
作製した質量分析データを少なくとも2つの質量分析用試料間で比較し、精密質量の一致又は不一致を検知し、
前記少なくとも2つの質量分析用試料間で、精密質量が一致するイオン強度同士の差分又は比を算出し、質量分析データの比較及び解析を行う、
質量分析装置。
<14>前記の、分離した測定対象成分が、極性差に基づいて分離したものである、前記<13>項に記載の質量分析装置。
<15>測定対象成分を分離するための分離手段、好ましくはガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ又はキャピラリー電気泳動装置、より好ましくは液体クロマトグラフ、をさらに備える、前記<13>又は<14>項に記載の質量分析装置。
<16>前記イオン化部が、分離した測定対象成分をエレクトロスプレーイオン化法によりイオン化する、前記<13>〜<15>のいずれか1項に記載の質量分析装置。
<17>前記質量分析部が、測定対象成分の精密質量を小数点以下4桁以上のオーダーで測定する、前記<13>〜<16>のいずれか1項に記載の質量分析装置。
<18>前記質量分析部が、FT/ICR-MSタイプの分析計、FT-Orbitrapタイプの分析計、又はHigh-Ref-TOFタイプの分析計である、前記<17>項に記載の質量分析装置。
<19>前記情報処理部が、前記質量分析データとして、m/z軸−イオン強度軸の2次元平面のマスクロマトグラムを作製する、前記<13>〜<18>のいずれか1項に記載の質量分析装置。
<20>前記情報処理部が、前記質量分析データとして、各測定対象物質のm/z値とイオン強度とを列記したリスト形式のデータを作製する、前記<13>〜<18>のいずれか1項に記載の質量分析装置。
<21>精密質量の情報を取得するタイミングごとに、質量分析データから、測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去する、前記<13>〜<20>項に記載の質量分析装置。
<22>前記情報処理部が、前記質量分析データにおいて精密質量が一致すると判断された測定対象成分に由来するクロマトグラフの面積を算出し、算出した面積を比較して、質量分析データの比較及び解析を行う、前記<13>〜<21>のいずれか1項に記載の質量分析装置。
<23>前記情報処理部が、測定対象成分の種類と含有量が既知の参照用試料の質量分析データをデータベースとして備える、前記<13>〜<22>のいずれか1項に記載の質量分析装置。
<24>前記質量分析装置が、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸、糖鎖、脂肪酸、及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種、好ましくは、タンパク質、ペプチド、及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種、の質量分析装置である、前記<13>〜<23>のいずれか1項に記載の質量分析装置。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下の実施例において、ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」ともいう)の酵素消化物(Waters社製、商品番号:186002325)及び酵母エノラーゼ(以下、「Enolase」ともいう)の酵素消化物(Waters社製、商品番号:186002329)の混合物の分析には、液体クロマトグラフィー(以下、「LC」ともいう)としてnanoAcquity UPLC System with 2D Technology(商品名、Waters社製)を、質量分析計(以下、「MS」ともいう)としてLTQ Ortbitrap Velos(商品名、Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。
LC条件及びMS条件は、以下に示す通りである。
(1)LC条件
装置:nanoAcquity UPLC(Waters社製)
トラップカラム:Nano Ease Xbridge BEH130 C18(商品名)、
粒子径5μm、内径0.3mm×長さ50mm(Waters社製)
試料ロード溶液:0.1%ギ酸水溶液:0.1%ギ酸含有アセトニトリル=98:2
試料注入後、5μL/minで3分間洗浄
分離カラム:nanoAcquity UPLC BEH130 C18(商品名)、
粒子径1.7μm、内径0.1mm×長さ100mm(Waters社製)
溶離液A:0.1%ギ酸水溶液
溶離液B:0.1%ギ酸含有アセトニトリル
流速:400nL/min
グラジエント:溶離液B 5%(0〜1分)→40%(120分)→
95%(121〜130分)→5%(131〜140分)
注入量:1μL
カラム温度:35℃
(2)MS条件
イオン化法:ナノエレクトロスプレーイオン化(nano ESI)法
スプレーチップ:Pico Tip NanoSpray Emitter FS360-50-15-N(商品名)
外径360μm、先端外径50μm、内径15μm(New Objective)
極性:Positive
スプレー電圧:1,800V
キャピラリー温度:250℃
Range(FT-MS):m/z 300〜1,250
質量分解能:60,000(at m/z 400)
MS/MS(IT-MS):衝突誘起解離(CID)法
Data dependent scan:Top15
Exclusion time:180s
Range(IT-MS):m/z 100〜2,000
Collision Energy(CE):35
各タンパク質の酵素消化物の同定には、データベースとしてSwiss-Prot(http://web.expasy.org/docs/swiss-prot_guideline.html)を、データベース検索エンジンとしてMASCOT Server(Matrix Science)を、解析ソフトとしてProteome Discoverer(Thermo Fisher Scientific)を使用した。
検索条件は、以下に示すとおりである。
(3)タンパク質データベースサーチ
解析ソフトウエア:Proteome discoverer ver.1.3
検索エンジン:Mascot ver.2.3
データベース:Swiss-Prot 2012/02
Enzyme:Trypsin
Static modification:Carbamidomethyl(C)
Variable modification:Oxidation(M)
Maximum missed cleavage:1
Precursor Mass tolerance:±10ppm
Fragment Mass tolerance:±0.8Da
(4)タンパク質同定条件
FDR:5%
Peptide Rank:1
前記BSAの酵素消化物と前記Enolaseの酵素消化物2nmol相当をそれぞれ、0.1%ギ酸水溶液:0.1%ギ酸含有アセトニトリル=98:2(体積比)の混液40μLに溶解し、各酵素処理物の溶液を調製した。調製した2つの溶液を体積比で1:2、1:5、1:10、2:1、5:1、又は10:1の比で混合し、分析用試料を調製した。調製した分析用試料を前記(1)及び(2)の条件下でLC-MSへ供した。
前記分析用試料に含まれる酵素処理物(ペプチド)について、MASCOT Serverを用いて検索を行った。その結果、BSA由来のペプチドとして22種、Enolase由来のペプチドとして25種が同定された。
上記の計47種のペプチドについて、下記に示す解析を行った。
取得したLC-MSデータに対して、Thermo Fisher Scientific社独自の.raw形式から、汎用形式である.mzXMLへとファイル形式を変換した。ファイル形式の変換は、汎用ソフトウエアであるReAdWを使用した。
.mzXML形式に変換したデータは、R ver.3.0.1(http://www.r-project.org/)を用いて解析した。解析には、CRAN(The Comprehensive R Archive Network、http://cran.r-project.org/)及びBioconductor(http://www.bioconductor.org/)から配信されるパッケージを使用した(mzR,doParallel,compiler,Matrix)。
解析方法の詳細は以下に示すとおりである。
前記の.mzXMLデータから、保持時間、精密質量、及びイオン強度の3次元データを取得した。その際、各々の.mzXMLデータに対してm/zの間隔が0.0001、0.001、0.01又は0.1とした4種類の3次元データを取得した。m/zの範囲は300から1,250とした。
各々の3次元データを保持時間ごとに分割し、精密質量とイオン強度の2次元データを取得した。その2次元データを精密質量の降順に並び替えた。
前記の2次元データを順に走査して、イオン強度が0より大きい精密質量を探索した。該当する精密質量(a)にイオンが存在した場合、その精密質量よりも1/z(zはイオンの価数)±0.1(Da)だけm/z値の小さい精密質量(b)に0より大きいイオン強度が存在するか確認した。以降、精密質量(a)及び(b)のイオン強度の大小関係を比較し、質量分析データから同位体イオンおよび機械的ノイズの除去を行った。本実施例では、イオンの価数は2価および3価、4価又は5価と設定した。
精密質量(b)±0.1(Da)のイオン強度の和が0であった場合は、精密質量(a)のイオンをノイズと判定してデータから除去した。
精密質量(b)±0.1(Da)のイオン強度の和が0より大きく、かつ精密質量(a)±0.1(Da)のイオン強度の和以上であった場合は、精密質量(a)を同位体イオンと判定してデータから除去した。その後、精密質量(b)を基準に、精密質量(b)±0.1(Da)のイオン強度の和と精密質量(b)よりも1/z±0.1(Da)だけm/z値の小さい精密質量(c)のイオン強度の和を比較した。以降、1/z±0.1(Da)だけm/z値の小さい精密質量のイオン強度が、0もしくは指定の値以下になるまで同様の操作を繰り返し、その時点で基準となった精密質量を主イオンとして保存した。本実施例では、基準の精密質量±0.1(Da)のイオン強度の和に対して、基準の精密質量から1/z±0.1(Da)だけm/z値の小さい精密質量のイオン強度が、10分の1以下となった際に、以降の探索を中止し、基準の精密質量を主イオンとして保存した。
取得したm/zの範囲に渡って前記の操作を繰り返し、精密質量とイオン強度の2次元データから同位体イオンと機械的ノイズを除去した。同様の操作を各保持時間の2次元データに対して実施した。
前記の方法に従って同位体イオン及び機械的ノイズを除去した上で、各保持時間のイオン強度を対応する精密質量軸へ蓄積し、保持時間を含まない質量分析データを構築した。
次に、前記Enolaseの酵素消化物と前記BSAの酵素消化物との混合比が1:2と2:1の分析用試料との間で、2次元データの精密質量(m/z値)が±10ppmの誤差の範囲内で一致するマスクロマトグラフのイオン強度の差分を測定した。同様の操作を、前記Enolaseの酵素消化物と前記BSAの酵素消化物との混合比が1:5と5:1の分析用試料との間、及び前記Enolaseの酵素消化物と前記BSAの酵素消化物との混合比が1:10と10:1の分析用試料との間でも行った。
各マスクロマトグラフについて測定したイオン強度の差分が、前記Enolaseの酵素消化物と前記BSAの酵素消化物との混合比に従っている場合は「TRUE」と評価し、従っていない場合は「FALSE」と評価した。なお、元来存在量が少なかったペプチドに関しては、前記Enolaseの酵素消化物と前記BSAの酵素消化物との混合時に検出下限以下となることがあった。この場合については「ND」と評価した。なお、差分を計算する過程は、前記解析ソフトのプログラムにより自動化した。
その結果を表1及び2に示す。さらに、前記Enolaseの酵素消化物と前記BSAの酵素消化物との混合比が1:5と5:1の場合の各マスクロマトグラムを比較し、各ピークのイオン強度の差分を算出した結果を図6に示す。
表1及び2に示すように、高分解能質量分析を用いてm/zの間隔が0.0001で精密質量を取得した場合は、測定対象とした全てのペプチドについて正しい量的関係を捉えることができた。これに対して、m/zの間隔が0.001、0.01、又は0.1で精密質量を取得した場合、2つの溶液の混合比を正しく反映しなかった。
このように、本発明によれば、保持時間を利用せずに混合物の相対的な量関係を的確に把握できることがわかった。
10 液体クロマトグラフ
11 高圧グラジエントポンプ
12 オートインジェクター
13 分離カラム
20 高分解能質量分析装置
21 イオン化部
22 質量分析部
30 情報処理部
a 溶離液
b 質量分析用試料

Claims (7)

  1. 質量分析データの処理方法であって、
    (a)質量分析用試料に含まれる測定対象成分をガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ又はキャピラリー電気泳動装置を用いて各成分に分離し、
    (b)高分解能質量分析装置を用いて、各成分に分離した測定対象成分それぞれをイオン化して精密質量及びイオン強度を測定し、
    (c)得られた精密質量及びイオン強度のデータから、測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去し、
    (d)質量分析用試料ごとに測定した全てのイオン強度の情報を精密質量ごとに蓄積して、各測定対象成分の精密質量及びイオン強度の情報は含み、前記工程(a)の保持時間の情報は含まない質量分析データを得、
    (e)得られた質量分析データを少なくとも2つの質量分析用試料間で比較し、精密質量の一致又は不一致を検知し、
    (f)前記少なくとも2つの質量分析用試料間で、精密質量が一致するイオン強度同士の差分又は比を算出し、質量分析データの比較及び解析を行う、
    質量分析データの処理方法。
  2. 前記高分解能質量分析装置が、測定対象成分の精密質量を小数点以下4桁以上のオーダーで測定する、請求項1に記載の質量分析データの処理方法。
  3. 精密質量の情報を取得するタイミングごとに、質量分析データから、測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去する、請求項1又は2に記載の質量分析データの処理方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の質量分析データの処理方法に基づき、少なくとも2つの質量分析用試料間で、測定対象成分それぞれの量を比較する方法。
  5. 各成分をガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ又はキャピラリー電気泳動装置により分離した測定対象成分をイオン化する、イオン化部、
    前記イオン化部によりイオン化された測定対象成分の精密質量及びイオン強度を高分解能で測定し、各測定対象成分の精密質量及びイオン強度の情報を含む質量分析データを検出する、質量分析部、及び
    前記質量分析部により得られた質量分析データの比較及び解析を行う、情報処理部、
    を有し、
    前記情報処理部が、
    前記質量分析部が検出した質量分析データから測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去し、
    続けて、質量分析用試料ごとに全てのイオン強度の情報を精密質量ごとに蓄積して、各測定対象成分の精密質量及びイオン強度は含み、前記のガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ又はキャピラリー電気泳動装置による各成分の分離における保持時間の情報は含まない質量分析データを作製し、
    作製した質量分析データを少なくとも2つの質量分析用試料間で比較し、精密質量の一致又は不一致を検知し、
    前記少なくとも2つの質量分析用試料間で、精密質量が一致するイオン強度同士の差分又は比を算出し、質量分析データの比較及び解析を行う、
    質量分析装置。
  6. 前記質量分析部が、測定対象成分の精密質量を小数点以下4桁以上のオーダーで測定する、請求項5に記載の質量分析装置。
  7. 精密質量の情報を取得するタイミングごとに、質量分析データから、測定対象成分の同位体に由来する情報及びノイズに由来する情報を除去する、請求項5又は6に記載の質量分析装置。
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