以下に、本発明の実施形態に係る車両制御装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
(第1実施形態)
図1から図7を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、車両制御装置に関する。図1は、第1実施形態の制動力制御のフローチャート、図2は、第1実施形態に係る車両の概略構成を示す図、図3は、ブレーキ装置およびECBの説明図である。
本実施形態の車両制御装置は、減速エコラン時のエンジン停止による制動力の変化をブレーキ制動力の制御によって抑制する。これにより、本実施形態によれば、運転者の狙い通りの制動距離を実現することができる。また、実際の制動距離が狙いからずれることが抑制されることにより、車両位置調整のためのエンジン始動回数が低減され、燃費の向上が可能となる。
本実施形態は、以下の構成要素を有する車両を前提としている。
(1)内燃機関
(2)内燃機関制御装置
(3)自動変速機
(4)変速機制御装置
(5)動力伝達装置
(6)動力伝達制御装置
(7)ブレーキペダル
(8)ブレーキスイッチ
(9)ECB(ブレーキペダル操作量センサ、スキッドコントロールコンピュータ、ブレーキ油圧制御装置)
図2に示すように、車両1には、動力源としてのエンジン11が設けられている。エンジン11には、トルクコンバータ12を介して自動変速機13が連結されている。トルクコンバータ12は、エンジン11の動力を駆動輪16に伝達する流体伝達装置である。エンジン11の駆動力は、トルクコンバータ12を介して自動変速機13に入力され、デファレンシャルギヤ14及びドライブシャフト15を介して駆動輪16に伝達される。トルクコンバータ12は、ロックアップクラッチを有している。トルクコンバータ12は、ロックアップクラッチを開放することで、エンジン11の動力を作動流体を介して自動変速機13に伝達することができる。また、トルクコンバータ12は、ロックアップクラッチを係合した場合、作動流体を介さずにエンジン11の動力を直接自動変速機13に伝達することができる。
自動変速機13は、A/T油圧制御装置17により車両1の運転状態に応じて変速比が自動的に制御される。自動変速機13は、入力軸2、発進クラッチ3および出力軸4を有する。入力軸2は、トルクコンバータ12を介してエンジン11の回転が入力される回転軸である。自動変速機13では、入力軸2に入力されるエンジン11の回転が変速されて出力軸4に出力される。出力軸4に出力された回転は、デファレンシャルギヤ14に伝達される。
発進クラッチ3は、入力軸2と出力軸4との間に設けられ、入力軸2と出力軸4との動力の伝達を接続あるいは遮断するクラッチである。すなわち、発進クラッチ3は、エンジン11と駆動輪16との間に配置されたものである。発進クラッチ3は、入力軸2に接続された入力側係合部材3aと、出力軸4側に接続された出力側係合部材3bとを有する。出力側係合部材3bは、複数のクラッチあるいはブレーキを介して出力軸4に接続されている。これら複数のクラッチあるいはブレーキをそれぞれ係合あるいは開放することによって、自動変速機13において互いに変速比が異なる複数の変速段を選択的に形成することができる。
発進クラッチ3は、所謂C1クラッチとしての機能を有する。発進クラッチ3は、自動変速機13において動力の伝達がなされる場合に係合され、動力の伝達がなされない場合に開放される。つまり、自動変速機13においていずれかの変速段が形成されているときに発進クラッチ3が係合されることで、自動変速機13において動力の伝達を行うことができ、発進クラッチ3が開放されていると、エンジン11と駆動輪16との動力の伝達が遮断される。
発進クラッチ3は、A/T油圧制御装置17によって供給される係合圧によって制御される。A/T油圧制御装置17は、エンジン11の回転によって駆動されてオイルを吐出するエンジンポンプと、供給される電力によって駆動されてオイルを吐出する電動ポンプとを有する。A/T油圧制御装置17は、エンジン11の運転時には、エンジンポンプから吐出されるオイルを調圧して自動変速機13に供給する。一方、A/T油圧制御装置17は、エコラン制御中は電動ポンプを駆動し、電動ポンプから吐出されるオイルを調圧して自動変速機13に供給する。
ブレーキ装置50は、車両1の各車輪に設けられている。ブレーキ装置50は、制御可能な制動装置である。図3に示すように、ブレーキ装置50は、ブレーキペダル51、ブースター52、マスターシリンダ53および油圧ブレーキ54を有する。ブースター52は、エンジン11の吸気負圧を利用することによって、ブレーキペダル51に入力された踏力を倍力してマスターシリンダ53に伝達する。マスターシリンダ53は、後述するブレーキ油圧制御装置43を介して油圧ブレーキ54と接続されている。油圧ブレーキ54は、供給される油圧に応じた制動トルクを各車輪に作用させる。制動トルクが作用した車輪における路面との間の摩擦力は、車両1を制動する制動力となる。すなわち、ブレーキ装置50は、各車輪の油圧ブレーキ54に供給する油圧を調節することによって車両1に発生する制動力を制御することができる。
図2および図3に示すように、車両1は、電子制御式ブレーキ装置(ECB)40を備える。ECB40は、ブレーキペダル操作量センサ41、スキッドコントロールコンピュータ42およびブレーキ油圧制御装置43を有する。ブレーキペダル操作量センサ41は、ブレーキペダル51に対する操作量を検出するものである。ブレーキペダル操作量センサ41は、例えば、ブレーキペダル51のペダルストロークやブレーキペダル51に入力される踏力をブレーキペダル操作量として検出する。また、車両1には、ブレーキスイッチが設けられている。ブレーキスイッチは、ブレーキペダル51が踏み込まれているか否かを検出することができる。ブレーキスイッチは、ブレーキペダル51が踏み込まれている場合、ブレーキONの信号を出力し、ブレーキペダル51が踏み込まれていない場合、ブレーキOFFの信号を出力する。
スキッドコントロールコンピュータ42は、ブレーキ装置50が発生させる制動力を制御する制動力制御装置としての機能を有する。スキッドコントロールコンピュータ42は、例えば、ABS制御やブレーキアシスト制御等を実行することができる。スキッドコントロールコンピュータ42は、ブレーキ油圧制御装置43によって各車輪の油圧ブレーキ54に対して供給する油圧を制御することができる。ブレーキ油圧制御装置43は、マスターシリンダ53の油圧(マスターシリンダ圧)を調圧することなく油圧ブレーキ54に供給すること、および油圧ブレーキ54に供給する油圧をマスターシリンダ圧とは異なる油圧に制御することがそれぞれ可能である。ブレーキ油圧制御装置43は、油圧ポンプおよび減圧バルブ、保持バルブ等の油圧制御弁を有しており、油圧ブレーキ54に供給する油圧を任意の油圧に制御することができる。
図2に戻り、車両1には、エンジン11や自動変速機13などを制御する電子制御ユニット(ECU)20が設けられている。ECU20は、エンジン11、自動変速機13(A/T油圧制御装置17)の総合的な制御を行う。ECU20は、スキッドコントロールコンピュータ42と接続されており、スキッドコントロールコンピュータ42と協働して車両1の挙動を制御することができる。本実施形態の車両制御装置1−1は、エンジン11、発進クラッチ3、ECU20、ECB40およびブレーキ装置50を備える。
車両1には、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセルポジションセンサ21が設けられている。アクセルポジションセンサ21により検出されたアクセル開度を示す信号は、ECU20に出力される。エンジン11の吸気管22に設けられたスロットルコントロールバルブ23は、スロットルアクチュエータ24により開閉可能とされている。
エンジン11には、エンジン回転数(エンジン回転速度)を検出するエンジン回転数センサ28が設けられている。車速センサ29は、車両1の車速を検出する。シフトポジションセンサ30は、運転者が操作するシフトレバーの位置(シフトポジション)を検出する。勾配センサ32は、車両1が走行する道路の勾配を検出する。入力軸回転数センサ33は、自動変速機13の入力軸2の回転数を検出する。出力軸回転数センサ34は、自動変速機13の出力軸4の回転数を検出する。各センサ28,29,30,32,33,34の検出結果を示す信号は、ECU20に出力される。
ECU20は、変速マップを有しており、スロットル開度、車速などに基づいて、自動変速機13の変速段を決定し、この決定された変速段を成立させるようにA/T油圧制御装置17を制御することができる。
ECU20は、エンジン11に対する燃料の供給を停止して惰性により車両1を走行させる所定制御を実行可能である。以下、所定制御を「エコラン制御」とも記載する。エコラン制御は、例えば、車両1の走行中にアクセルオフされた場合に実行されるものである。エコラン制御中は、燃料が消費されないため、エコラン制御を実行することで燃費の向上を図ることができる。
ECU20は、例えば、アクセルポジションセンサ21の検出結果に基づき、アクセルオフと判定するとエコラン制御を実行する。エコラン制御を実行する場合、ECU20は、エンジン11に対する燃料の供給を停止してエンジン11の運転を停止する。ここで、エンジン11の運転とは、エンジン11に対して燃料が供給されて、エンジン11が自立的に回転する作動状態を示す。エンジン11の運転が停止されると、エンジン11は被駆動状態あるいは回転が停止した動作停止状態となる。燃料の供給が停止されたエンジン11は、駆動輪16との間で動力が伝達される状態であれば駆動輪16の回転によって駆動される被駆動状態となり、駆動輪16との間で動力が伝達されない状態であれば、回転を停止する。
ECU20は、エコラン制御時において、発進クラッチ3を開放し、エンジン11の回転を停止させて車両1を走行させることができる。このようにエコラン制御時に発進クラッチ3を開放すると、車両1は、エンジン11と駆動輪16との動力の伝達経路が遮断され、エンジンブレーキが作用しないフリーラン状態となる。フリーラン状態では、走行抵抗が小さくなり、燃費の向上が可能となる。
本実施形態の車両制御装置1−1は、ブレーキONの状態であることをエコラン制御実行の条件とする。ブレーキONで開始されるエコラン制御を本明細書では「減速エコラン制御」と記載する。車両制御装置1−1は、エンジン11を停止する条件が成立し、かつブレーキONであると減速エコラン制御を開始する。
ここで、減速エコラン制御において、エンジン11を停止し、かつ発進クラッチ3を開放するときには減速度の変化が生じる。これにより、以下に説明するように、停車時に狙った位置よりも手前で停車してしまうことがある。エンジンアイドル状態で低速走行しているときは、エンジン11の動力が車両1を前方に駆動するクリープ力として作用する。この状態から減速エコラン制御が実行されると、エンジン11が停止し、かつ発進クラッチ3が開放されることによって、クリープ力が得られなくなる。これにより、図4を参照して説明するように、減速度が増加してしまう。
図4は、減速エコラン実行時の制動力変化の説明図である。図4において、横軸は時間、縦軸は制動力を示す。図4において、Freqは、運転者の要求制動力を示し、F0は車両1の実際の制動力を示す。時刻t0において制動が開始される。この制動は、例えば、車両1を停止させるために行われるものである。制動操作に応じて、時刻t1において減速エコラン制御が実行される。減速エコラン制御でエンジン11が停止され、同時に発進クラッチ3が開放されると、クリープ力が消失した分だけ制動力F0が増加する。これにより、実際の制動力F0と要求制動力Freqとに乖離が生じる。実際の制動力F0が要求制動力Freqを上回ることにより、運転者が望んだ以上に車両1が減速する。よって、例えば、運転者が極低速でクリープ力を見越したブレーキ操作を行っているときに、減速エコラン制御が実行されると、減速度の増加により急な制動となり、狙っていたよりも手前で車両1が停止してしまうこととなる。
停止線でちょうど止まろうとしていたときなどに、狙いよりも手前で停車してしまった場合や狙いよりも手前で停車しそうな場合、運転者は停車位置を調節しようとする。このときに、ブレーキペダル51が離されると、減速エコラン制御が終了してエンジン11が始動してしまう。一度ブレーキペダル51を離してしまうと、車速条件やブレーキ条件などの減速エコラン制御の実行条件が満たされなくなり、エンジン11が停止しなくなることで、燃費の低下を招く虞がある。
本実施形態の車両制御装置1−1は、減速時にエンジン11を停止し、かつ発進クラッチ3を開放するときに、ブレーキ装置50が発生する制動力を減少させる。このときの制動力を減少させる減少量は、エンジン11の出力によるクリープ力に基づく値、例えば、エンジン11の出力によるクリープ力の消失分に見合うものとされる。図5は、本実施形態の制動力制御の説明図である。図5において、F1は車両1の実際の制動力、Fbrkはブレーキ装置50が発生させる制動力(以下、単に「ブレーキ制動力」と記載する。)をそれぞれ示す。
本実施形態の車両制御装置1−1は、減速エコラン制御によってエンジン11が停止され、発進クラッチ3が開放されると、クリープ力消失による制動力の増加分だけブレーキ制動力Fbrkを減少させる。これにより、エンジン11が停止される時刻t1以降に要求制動力Freqに対して実際の制動力F1が乖離してしまうことが抑制される。車両制御装置1−1は、ECB40による制動力制御によってブレーキ制動力Fbrkを減少させる。ECB40による制動力制御は、例えば、エンジン停止指示開始をトリガーとして開始される。制動力制御において、ECB40は、エンジン11が停止しないまま走行する場合に発生するクリープ力が作用する場合と制動距離が同等となるブレーキ制動力Fbrkを算出する。ECB40は、算出されたブレーキ制動力Fbrkを実現するためにブレーキ油圧を制御する。これにより、エンジン作動時と同等の制動距離で車両1を停止させることが可能となる。
ECB40による制動力制御によって実際の制動力F1と要求制動力Freqとの乖離が抑制されることで、エンジン11が停止していても運転者が狙った位置に車両1を停止させることができ、停止時のドライバビリティが向上する。また、狙った位置に車両1が停車することで、停車位置の調節のためにエンジン11を再始動する必要がなくなる。よって、エンジン11の始動回数が減少することで、燃費の向上が実現される。
ここで、車両制御装置1−1のブロック図について説明する。図6は、車両制御装置1−1のブロック図である。ECU20は、エンジン停止判断手段20Aを有する。エンジン停止判断手段20Aは、アクセルポジションセンサ21、車速センサ29、勾配センサ32およびブレーキペダル操作量センサ41のそれぞれの検出結果に基づいてエンジン11を停止するか否かを判断する。エンジン停止判断手段20Aは、例えば、アクセル開度が0である条件、車速が所定車速以下で走行している条件、路面の勾配が所定範囲内である条件およびブレーキペダル51が踏み込まれている条件を含むエンジン停止許可条件を有している。エンジン停止判断手段20Aは、このエンジン停止許可条件が成立する場合、エンジン11を停止して減速エコラン制御を実行すると判断する。
また、ECU20は、エンジン11の目標トルクを決定し、目標トルクに基づいてエンジン制御量を決定する。例えば、エンジン停止判断手段20Aがエンジン11を停止しないと判断した場合、ECU20は、アクセル開度や車速等に基づいて目標トルクを決定する。ECU20は、目標トルクを実現するようにエンジン11の燃料噴射制御や点火制御等の制御量を決定し、エンジン制御量に基づいてエンジン11を制御する。
また、ECU20は、目標クラッチ油圧に基づいて、自動変速機13の動力伝達クラッチとしての発進クラッチ3を制御する。例えば、エンジン停止判断手段20Aによってエンジン11を停止すると判断された場合、ECU20は、エンジン11を停止すると共に、発進クラッチ3を開放する。発進クラッチ3を開放する場合、ECU20は、発進クラッチ3の目標クラッチ油圧を漸減させる。A/T油圧制御装置17は、目標クラッチ油圧の減少に応じて発進クラッチ3に対する供給油圧を減少させて発進クラッチ3を開放させる。
ECB40は、制動力判断手段42Aを有する。本実施形態では、スキッドコントロールコンピュータ42が制動力判断手段42Aとしての機能を有する。制動力判断手段42Aには、ブレーキペダル操作量センサ41および出力軸回転数センサ34の検出結果を示す信号が出力される。制動力判断手段42Aは、入力された情報に基づいて目標制動力を決定する。ECB40は、目標制動力に基づいて油圧ブレーキ54に対して供給するブレーキ油圧の制御量を決定する。また、ECB40は、目標クラッチ油圧に基づいて目標制動力を補正する。具体的には、減速エコラン制御が実行されて発進クラッチ3が開放されるときに、目標クラッチ油圧の減少に応じて目標制動力を減少させる補正がなされる。これにより、発進クラッチ3開放時のクリープ力の消失による制動力の変化に対する補償がなされ、要求制動力Freqに対して実際の制動力F1が乖離することが抑制される。
図1および図7を参照して、本実施形態の制動力制御について説明する。図7は、本実施形態の制動力制御に係るタイムチャートである。図7には、エンジン回転数、発進クラッチ3のクラッチ圧、車両加速度、車速、ブレーキストローク、ブレーキ油圧、ブレーキ制動力がそれぞれ示されている。符号A0、V0、P0およびFbrk0は、それぞれ従来の車両加速度、車速、ブレーキ油圧およびブレーキ制動力を示す。また、符号A1、V1、P1およびFbrk1は、それぞれ本実施形態の制動力制御における車両加速度、車速、ブレーキ油圧およびブレーキ制動力を示す。図1に示す制御フローは、例えば、エンジン11の運転状態で車両1が走行しているときに所定の間隔で繰り返し実行される。
まず、ステップS1では、ECU20により、エンジン停止条件が成立しているか否かが判定される。ECU20は、予め定められたエンジン停止条件が成立しているか否かを判定する。エンジン停止条件は、たとえば、アクセル操作の有無、車速、勾配、バッテリ充電状態等に関して定められている。ステップS1の判定の結果、エンジン停止条件が成立していると判定された場合(ステップS1−Y)にはステップS2に進み、そうでない場合(ステップS1−N)にはステップS9に進む。
ステップS2では、ECU20により、ブレーキONであるか否かが判定される。ECU20は、例えば、ブレーキスイッチの検出結果に基づいてステップS2の判定を行う。その判定の結果、ブレーキONであると判定された場合(ステップS2−Y)にはステップS3に進み、そうでない場合(ステップS2−N)にはステップS9に進む。図7では、時刻t10にブレーキONとなり、ステップS2において肯定判定がなされる状態となる。
ステップS3では、ECU20により、動力伝達クラッチとしての発進クラッチ3が開放される。ECU20は、発進クラッチ3の目標クラッチ油圧を減少させることにより発進クラッチ3を開放させる。ステップS3が実行されると、ステップS4に進む。図7では、時刻t11において発進クラッチ3のクラッチ圧が低下し始めている。
ステップS4では、ECU20により、エンジン11が停止される。ECU20は、エンジン11に対する燃料の供給を停止してエンジン11を停止させる。なお、発進クラッチ3の開放とエンジン11の停止とは並行して実行されてもよい。ステップS4が実行されると、ステップS5に進む。図7では、時刻t11においてエンジン停止操作によるエンジン回転数の低下が始まる。
ここで、従来であれば、エンジン停止や発進クラッチ3の開放(クラッチ圧の低下)によってクリープ力が消失することによって、符号A01で示すように車両加速度A0が低下する。これにより、時刻t11以前に対して時刻t11以降の車速V0の低下が大きくなり、狙いよりも手前の地点で車両1が停止してしまっていた。
ステップS5では、ECU20により、ブレーキ制動力制御が開始される。ECU20は、ECB40に対してブレーキ制動力制御の実行を指令する。
次に、ステップS6では、ECB40により、ブレーキ油圧の制御がなされる。ECB40は、クリープ力消失分の制動力増加を打ち消すように油圧ブレーキ54に供給する油圧を減少させる。図7に矢印Y1で示すように、本実施形態のブレーキ油圧P1は、ブレーキストロークに応じた従来のブレーキ油圧P0に対して低減された値とされる。これにより、矢印Y2で示すように、本実施形態のブレーキ制動力Fbrk1は、従来のブレーキ制動力Fbrk0に対して低減している。
このブレーキ制動力の低減量Y2は、エンジン停止および発進クラッチ3の開放によるクリープ力の低下に伴う制動力の増加分に対応している。ブレーキ制動力の低減量Y2の大きさは、エンジン回転数の低下およびクラッチ圧の低下に応じて増加する。つまり、車両制御装置1−1は、エンジン11の停止および発進クラッチ3の開放によるクリープ力の減少に応じてブレーキ制動力Fbrkを減少させる。また、車両制御装置1−1は、エンジン回転数およびクラッチ圧の低下が終了すると、ブレーキ制動力の低減量Y2の変化を終了させる。
よって、本実施形態の制動力制御がなされた場合、エンジン停止および発進クラッチ3の開放がなされる前後で車両加速度A1の変動が抑制される。その結果、本実施形態の車速V1の低下速度は、エンジン停止等がなされる時刻t11の前後で変化することが抑制される。例えば、ブレーキ踏力やブレーキストロークが一定の場合、車速V1が一定の低下速度で変化する。よって、運転者は狙った位置で車両1を停車させることができる。
次に、ステップS7では、車両1が停止する。図7では、時刻t12に車両1が停止する。車両1が停止すると、ステップS8に進む。
ステップS8では、ECU20により、ブレーキ制動力制御が停止される。ECU20は、ECB40に対して、クラッチ圧に基づくブレーキ油圧の補正を終了させる。ステップS8が実行されると、本制御フローは終了する。
なお、ステップS1あるいはステップS2で否定判定がなされてステップS9に進むと、ステップS9では、通常制御がなされる。ECU20は、減速エコラン制御を実行することなく、エンジン11の運転状態で車両1を走行させる。ステップS9が実行されると、本制御フローは終了する。
このように、本実施形態によれば、車両1の減速時に自動的にエンジン11の停止および発進クラッチ3の開放を行うときに、ブレーキ装置50が発生する制動力を減少させる。よって、本実施形態の車両制御装置1−1は、クリープ力の消失に伴う車両制動力の変動を抑制して減速エコラン制御実行時のドライバビリティを向上させることができる。
なお、本実施形態では、ブレーキ制動力制御におけるブレーキ制動力の補正量は、クリープ力の消失分に見合う値とされたが、これに限定されるものではない。エンジン停止および発進クラッチ3の開放に対してブレーキ制動力を減少させる補正を行うことで、クリープ力の消失に応じた制動力の変動を抑制するようにすれば、減速エコラン制御実行時のドライバビリティを向上させることができる。
本実施形態の減速エコラン制御は、ブレーキON、言い換えると運転者による制動操作に応じて開始されたが、これに限定されるものではない。減速エコラン制御は、減速中に他の条件に基づいて開始されるものであってもよい。例えば、減速エコラン制御は、アクセルOFFに基づいて開始されてもよい。
本実施形態では、エンジン停止および発進クラッチ3の開放による車両1の制動力の変動を抑制する方法としてブレーキ装置50による制動力が調節されたが、ブレーキ制動力Fbrkに加えて、あるいはブレーキ制動力Fbrkに代えて、他の制動力が調節されてもよい。例えば、オルタネータによる制動力等が調節されてもよい。
なお、図1に示す制動力制御は、エンジン11が駆動輪16を駆動するエンジン駆動時に限り実行し、エンジン11が駆動輪16から伝達される動力によって駆動されるエンジン被駆動時には実行しないようにしてもよい。言い換えると、車両制御装置1−1は、減速時に駆動輪16を駆動していたエンジン11を停止し、かつ発進クラッチ3を開放するときに、ブレーキ制動力Fbrkを減少させるようにしてもよい。エンジン被駆動時にも制動力制御を実行する場合、エンジン停止および発進クラッチ3の開放によって車両制動力が減少することから、制動力制御においてブレーキ制動力Fbrkを増加させるようにしてもよい。
図1に示す制動力制御は、運転者によって制動操作がなされているときに限り実行し、制動操作がなされていないときは実行しないようにしてもよい。つまり、減速時にエンジン11を停止し、かつ発進クラッチ3を開放するときであって、かつ制動操作がなされているときに、ブレーキ制動力Fbrkを減少させるようにしてもよい。
(第2実施形態)
図8から図11を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。本実施形態において、上記第1実施形態と異なる点は、ブースター52の負圧室の圧力を調節することによりブレーキ装置50による制動力を調節する点である。ブレーキ操作中にエンジン11が停止しても負圧を調節して制動力を変化させないことで、制動時のショックを抑制し、運転者が狙った位置に車両1を停止させることができる。
本実施形態は、以下の構成要素を有する車両を前提としている。(1)内燃機関およびその制御装置、(2)自動変速機およびその制御装置、(3)変速機制御装置、(4)動力伝達装置およびその制御装置、(5)ブレーキペダル、(6)ブレーキスイッチ、(7)ブレーキブースター、(8)制動力判断手段、(9)負圧量可変制御弁、(10)ブレーキ負圧センサ。
図8は、本実施形態に係るブレーキ装置の概略構成を示す図、図9は、本実施形態の車両制御装置1−2のブロック図、図10は、本実施形態の制動力制御のフローチャート、図11は、本実施形態の制動力制御に係るタイムチャートである。
図8に示すように、本実施形態のブレーキ装置50は、負圧量可変制御弁55を有する。負圧量可変制御弁55は、ブースター52の負圧室52Aの負圧を制御することができる。ブースター52は、ピストンによって仕切られた負圧室52Aと空気室52Bとを有する。負圧室52Aは、エンジン11の吸気通路と連通されており、吸気通路の負圧が負圧室52Aに導入される。ブレーキペダル51が踏み込まれると、空気室52Bに大気が導入され、空気室52Bと負圧室52Aとの差圧によって、ブレーキペダル51に入力される踏力が倍力される。
負圧量可変制御弁55は、例えば、負圧室52Aと吸気通路とを連通する負圧配管の流路抵抗を制御するものとすることができる。この場合、負圧配管の流路抵抗を増加させることによって、負圧室52Aに導入される負圧量を減少させ、油圧ブレーキ54に供給する油圧を低減させることができる。また、ブレーキ装置50には、負圧室52Aの圧力を検出する負圧センサが配置されている。
図9に示すように、本実施形態のECB40は、負圧室内圧を制御する。ECB40は、目標制動力に基づいて、負圧室内圧制御量を決定する。具体的には、ECB40は、減速エコラン制御において発進クラッチ3が開放されるときの目標クラッチ油圧に基づいて、目標制動力の補正量を算出し、この補正量に基づいて負圧室内圧制御量を決定する。ここで、負圧室内圧制御量は、例えば、負圧室52Aの負圧の減少量(絶対圧の増加量)、すなわち、負圧量可変制御弁55による負圧制御がなされることによる負圧室52Aの負圧の減少量とすることができる。ECB40は、負圧室内圧制御量に基づいて、例えば負圧量可変制御弁55の開度を調節する。ECB40は、負圧センサの検出結果に基づいて負圧量可変制御弁55を制御することで、負圧室内圧を所望の圧力に調節することができる。
図10および図11を参照して、本実施形態の制動力制御について説明する。図11において、符号A2、V2、P2およびFbrk2は、従来の車両加速度、車速、負圧室内圧、およびブレーキ制動力を示す。また、符号A3、V3、P3およびFbrk3は、本実施形態の制動力制御における車両加速度、車速、負圧室内圧、およびブレーキ制動力を示す。図11では、時刻t20においてブレーキ操作が開始され、時刻t21においてエンジン11の停止および発進クラッチ3の開放がなされ、時刻t22において車両1が停止する。図10に示す制御フローは、例えば、エンジン11の運転状態で車両1が走行しているときに所定の間隔で繰り返し実行される。
ステップS11からステップS15までは、上記第1実施形態(図1)のステップS1からステップS5までと同様とすることができる。すなわち、ECU20は、エンジン停止条件が成立(S11−Y)しており、ブレーキON(ステップS12−Y)であると、発進クラッチ3を開放し(ステップS13)、かつエンジン11を停止(ステップS14)して、ブレーキ制動力制御を開始(ステップS15)する。
本実施形態では、ECB40は、ECU20からブレーキ制動力制御の開始を指令されると、ステップS16において、エンジン停止および発進クラッチ3の開放による制動力の変動を抑制するように負圧室52Aの負圧を制御する。ECB40は、エンジン停止および発進クラッチ3の開放によるクリープ力の消失に起因する制動力増加を打ち消すように目標制動力を減少させる。ECB40は、目標制動力を実現するように、負圧室52Aの負圧を減少させることでブレーキ制動力を減少させる。制動力制御の開始タイミングや目標制動力は、例えば、上記第1実施形態の制動力制御の開始タイミングや目標制動力と同様とすることができる。
エンジン停止および発進クラッチ3の開放がなされることに応じて、本実施形態の負圧室内圧P3は、図11に矢印Y3で示すように、圧力制御がなされない従来の負圧室内圧P2よりも高圧とされる。これにより、矢印Y4で示すように、本実施形態のブレーキ制動力Fbrk3は、従来のブレーキ制動力Fbrk2に対して低減している。このブレーキ制動力Fbrkの低減量Y4は、エンジン停止および発進クラッチ3の開放によるクリープ力の低下に伴う制動力の増加分に対応している。
よって、上記第1実施形態と同様に、本実施形態の制動力制御がなされた場合、エンジン停止および発進クラッチ3の開放がなされる前後で車両加速度A3に変動が生じることおよび車速V3の低下速度に変動が生じることがそれぞれ抑制される。
ステップS16が実行された後、車両1が停止(ステップS17)すると、ブレーキ制動力制御が停止される(ステップS18)。ステップS18が実行されると、本制御フローは終了する。なお、ステップS11あるいはステップS12で否定判定がなされた場合、ステップS19において通常制御が実行される。
本実施形態の車両制御装置1−2は、負圧量可変制御弁55によって負圧室52Aの圧力を調整することで、同一踏力に対するブレーキ制動力を調整する。よって、ECB40を備えない車両において上記第1実施形態の効果と同様の効果を得ることができ、コスト低減を実現可能である。
上記の各実施形態に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。