JP5615750B2 - 被覆金属体及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、長期にわたる防食性及び高温かつ湿潤環境下における長期耐久性に優れる被覆金属体及びその製造方法、並びに被覆金属体からなる被覆金属パイプに関する。
石油、ガス、上下水道などの各種配管や土木用建材に用いられる金属体(パイプライン)は、防食処理を施すことなく大気中や地中、海水中に暴露させると腐食することが知られている。このような金属の腐食を防止するために、金属体外面をポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンで被覆してなる被覆金属体が用いられている。
一般にポリオレフィンは金属体との接着強度に劣り、直接接着が困難である。そのためポリオレフィン被覆金属体は、金属体とポリオレフィン被覆層との間に変性ポリオレフィン等の接着性樹脂を介在させることで、ポリオレフィンの金属体からの剥離を防いでいる。しかし接着性樹脂を介在させただけのポリオレフィン被覆金属体を、地中や海中、海底等の湿潤環境下で使用すると、水の浸入により接着強度が低下し、被覆層が金属体から剥離し、金属体の腐食が起きる場合がある。そこで、これらの問題を解決すべく、被覆防食金属体と接着性ポリオレフィンとの間に、さらにクロメート系化成処理を施す方法(特許文献1および2参照)や、熱硬化型エポキシプライマーを介在させる方法(特許文献3および4参照)が提案されている。
しかし近年、エネルギー需要の増大により、石油、天然ガス等の資源開発が注目されるのに伴い、パイプラインに用いられるポリオレフィン被覆金属パイプの高温かつ湿潤環境下での長期耐久性が問題になっている。常温付近での接着性に優れるエポキシプライマーを用いたポリオレフィン被覆金属体においても、60℃以上の熱水浸漬後には接着強度が低下し、被覆層が金属体から剥離するために、腐食が起き、長期耐久性が充分ではない。
また、金属の被覆層に用いたポリオレフィンやエポキシプライマー自体の酸素透過度が高いために、長期の高温かつ湿潤環境下においては、被覆層を透過した酸素や水分により、金属体の酸化が徐々に進行することで金属が腐食し、そこを起点に被覆層の剥離が起きることがある。これに対しては、被覆層を厚くするとなどの対応をとっているが、経済性に劣るという問題があった。この問題を解決するため、酸素バリア性に優れるエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」と略記することがある)を粉体塗装法により金属体の被覆層に用いる方法が提案されている(特許文献5および6参照)。しかしながら、高温かつ湿潤環境下においては、依然として金属体とEVOH層との接着強度が充分でないという問題があった。
特開昭52−143934号公報 特開昭54−120681号公報 特公昭61−12516号公報 特開昭59−222275号公報 特開平3−115472号公報 特開平9−241537号公報
本発明は上記の問題を解決するものであり、長期にわたる防食性、及び高温かつ湿潤環境下における長期耐久性に優れた被覆金属体を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意研究した結果、ある特定の表面形状有する金属体(M)上にEVOH樹脂(A)を直接被覆することにより、上記課題を解決し、長期にわたる防食性、及び高温かつ湿潤環境下における長期耐久性に優れる被覆金属体が得られることを見出した。
すなわち本発明は、
[1]算術平均表面粗さ(Ra)が10〜50μmである金属体(M)上に、エチレン含量が20〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)が直接被覆されてなり、
65℃、24時間熱水浸漬後のエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)の剥離強度が1000g/15mm以上である被覆金属体
[2]前記エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)上に接着性樹脂層、ポリオレフィン層がこの順に積層されている、上記[1]の被覆金属体
[3]前記金属体(M)が溶射処理を施されている上記[1]または[2]の被覆金属体
[4]前記溶射処理層の厚みが300μm以下である、上記[3]の被覆金属体
[5]前記溶射処理に用いられる金属がアモルファス合金である、上記[3]または[4]の被覆金属体
[6]前記金属体(M)の表面がブラスト処理されてなる、上記[1]または[2]の被覆金属体
[7]前記エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)が、炭素−炭素二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られる、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A’)である、上記[1]〜[6]のいずれか1つの被覆金属体
[8]前記エポキシ化合物(B)による変性量が、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)のモノマー単位の全モル数に対して0.1〜10モル%である、上記[7]の被覆金属体
[9]上記[1]〜[8]のいずれか1つの被覆金属体において、金属体(M)が最内面を構成する被覆金属パイプ
[10]算術平均表面粗さ(Ra)が10〜50μmである金属体(M)上に、直接、エチレン含量が20〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)の被覆を行う被覆金属体の製造方法
[11]表面が溶射処理されている金属体(M)上に、熱プレス法、溶融押出コート法および粉体塗装法からなる群より選ばれる少なくとも1つの方法によってエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)の被覆を行う上記[10]の被覆金属体の製造方法
に関する。




本発明によれば、金属体の被覆樹脂として優れた酸素バリア性を有するEVOH樹脂を用いることで金属体の酸化が抑制され、長期にわたる防食性に優れる被覆金属体を提供することができる。さらに、ある特定の表面形状を有する金属体表面上に被覆樹脂が浸透することによるアンカー効果で、水の浸入による被覆樹脂の剥離が抑制でき、高温かつ湿潤環境下における長期耐久性に優れる被覆金属体を提供することできる。
金属体(M)の断面図の一例である。
以下、本発明について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現するものとして具体的な材料を例示する場合があるが、本発明はこれに限定されない。また、例示される材料は、特に記載がない限り、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
[金属体(M)]
本発明に使用される金属体(M)の算術平均表面粗さ(Ra)はJIS B 0601:1994年に準じて10〜50μmであることが重要であり、10〜30μmであることが好ましく、10〜20μmであることがさらに好ましい。算術平均表面粗さ(Ra)が10μm未満の場合には、被膜の密着性が極端に低下するおそれがあり、一方、50μmを超える場合にも、密着性の低下が起きるとともに、樹脂被膜形成後にも金属体(M)の表面が露出するおそれがある。
このような金属体(M)を得るためには、例えば後述する方法、すなわち前駆体となる金属体(M’)の表面にブラスト処理及び/又は金属(m)を用いた溶射処理を施す方法が挙げられるが、これらの方法に限定されない。
上記金属体(M’)を構成する金属としては特に限定されないが、鉄、鋼、鋳鉄、高級鋳鉄、鋳鋼、ステンレス鋼、銅合金、ニッケル合金、コバルト合金などが挙げられる。金属体(M’)の形状は特に限定されず、板状、管や管継手等の管状体などが挙げられ、これらの中でも産業上、管状体が好ましい。また、金属体(M’)の厚みも特に限定されないが、強度の観点から、0.5〜20mmであることが好ましく、1〜15mmであることがより好ましく、1.5〜10mmであることがさらに好ましい。
(金属体(M)の表面処理)
金属体(M)とEVOH樹脂(A)との密着力を確保するためには、前駆体となる金属体(M’)の表面の汚れを除去したり、粗面化することが好ましい。その方法としては、特に限定されないが、例えば、グリットブラスト、ショットブラスト、サンドブラスト等のブラスト処理が挙げられる。ブラスト処理に用いられる研掃材の材質としては、炭素鋼、アルミニウム、ステンレスなどの合金鋼が挙げられる。このような研掃材の粒子径は特に限定されないが、ブラスト処理後の金属体(M’)の算術平均表面粗さ(Ra)が10μm以上となることが好ましい。
さらに、金属体(M)とEVOH樹脂(A)との密着力をより一層向上させるためには、金属体(M)の表面が金属により溶射処理されていることが好ましい。具体的には、まず前駆体である金属体(M’)の表面をブラスト処理し、ブラスト処理後の金属体(M’)の算術平均表面粗さ(Ra)を10〜200μmとした後に、溶射処理を施すことで金属体(M)を得ることができる。ブラスト処理後であって、溶射処理前の金属体(M’)の算術平均表面粗さ(Ra)が10μmに満たない場合には、後述の溶射処理において、塗着効率が低くなり易く、溶射処理層の密着性が極端に低下する傾向にあり、好ましくない。一方、算術平均表面粗さ(Ra)が200μmを超えると、金属溶射処理層の表面が粗くなり、最終的に得られる被覆金属体の外観が悪化するおそれがある。
本発明において、金属による溶射処理を行う際の溶射方法としては特に限定されないが、例えば、ガスフレーム溶射法、アーク溶射法、プラズマ溶射法などが挙げられる。また、溶射処理を行うタイミングは特に限定されないが、ブラスト処理後の金属体(M’)と溶射金属との密着力を向上させる観点から、ブラスト処理後より96時間以内に行うことが好ましく、24時間以内に行うことがより好ましい。
上記溶射処理に使用される金属(m)としては特に限定されないが、例えば、鉄、鉄合金、銅、銅合金、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウム、アルミニウム合金をはじめ、2Si・30Cr・2.2Mn・3.9Br・BalFe合金、2.7Cu・6.5Ni・2.2Si・21Cr・1.5Mn・3.5Br・3.5Mo・0.2C・BalFe合金などのアモルファス合金などが挙げられる。特に耐熱水密着性、及び高温かつ湿潤環境下における長期耐久性が良好となる観点から、鉄、鉄合金、亜鉛、アルミニウム、2Si・30Cr・2.2Mn・3.9Br・BalFe合金及び2.7Cu・6.5Ni・2.2Si・21Cr・1.5Mn・3.5Br・3.5Mo・0.2C・BalFe合金が好ましく、2Si・30Cr・2.2Mn・3.9Br・BalFe合金や2.7Cu・6.5Ni・2.2Si・21Cr・1.5Mn・3.5Br・3.5Mo・0.2C・BalFe合金がより好ましい。なお、上記アモルファス合金は結晶構造を持たない非晶質合金であり、その粒子径や硬度のために被覆樹脂のアンカー効果が強くなる。
金属(m)の形状としては線状、粉末状、溶融状態のいずれの形状でもよいが、金属製の管、管継手に溶射する場合は、線状または粉末状のものを使用するのが装置や経済性の面から好適である。
上記溶射処理により形成される溶射処理層の厚みは特に限定されないが、300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。溶射処理層の厚みが300μmを超える場合は、被膜中に残留応力が生じてクラック、剥離等の発生原因となるとともにコスト高となるおそれがあり、被覆樹脂の密着性の観点から溶射処理層の厚みは200μm以下であることが特に好ましい。一方、溶射処理層の厚みの下限は特に限定されないが、薄くしすぎると全体に均一な被膜を形成するのが困難であり、部分的に被膜の形成されない部分が生じるおそれがあるため、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。
本明細書において、溶射処理層の厚みは、図1に示す金属体1の断面図において、ブラスト処理が施された金属体2のブラスト処理側の最も突出した部分における、溶射処理層3の厚み4とする。
[EVOH樹脂(A)]
本発明に用いられるEVOH樹脂(A)におけるEVOHは、例えば、エチレンとビニルエステルからなる共重合体をアルカリ触媒等を用いてケン化して得られる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)も使用できる。また、EVOHは、共重合成分としてビニルシラン化合物0.0002〜0.2モル%を含有することができる。ここで、ビニルシラン系化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルメトキシシランが挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。さらに、本発明の目的が阻害されない範囲で、他の共単量体、例えば、プロピレン、ブチレン、あるいは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、もしくは(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸又はそのエステル、及びN−ビニルピロリドンなどのビニルピロリドンを共重合することもできる。
EVOHのエチレン含量は20〜60モル%であることが好ましく、25〜55モル%であることがより好ましく、30〜50モル%であることがさらに好ましい。エチレン含量が5モル%未満では、溶融成形性が悪化し、好適な被膜が得られないおそれがある。エチレン含量が60モル%を超えると酸素バリア性が低くなり、長期にわたる防食性が低下するおそれがある。
また、EVOHのケン化度は特に限定されるものではないが、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。ケン化度を上記の範囲とすることが、得られる被膜の酸素バリア性を維持する観点から好ましい。
本発明に用いられるEVOH樹脂(A)の溶融粘度は、融点が190℃以下のものに関しては、190℃、2160荷重下におけるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜50g/10分であることが好ましく、0.5〜30g/10分であることがより好ましい。また、融点が190℃を超えるものに関しては、210℃、2160g荷重下におけるMFRが、0.2〜100g/10分であることが好ましく、1〜60g/10分であることがより好ましい。
このようなEVOH樹脂(A)は、単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
(添加剤)
本発明に用いられるEVOH樹脂(A)は、熱安定性や粘度調整の観点で種々の酸や金属塩等の化合物を含有していることが好ましい。この化合物としては、アルカリ金属塩、カルボン酸、リン酸化合物及びホウ素化合物などであり、具体的な例としては次のようなものが挙げられる。
アルカリ金属塩:酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等。
カルボン酸:シュウ酸、コハク酸、安息香酸、クエン酸、酢酸、乳酸等。
リン酸化合物:リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等。
ホウ素化合物:ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等。
また、本発明のEVOH樹脂(A)には、必要に応じて上記以外の各種添加剤が配合されていてもよい。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤あるいは他の高分子化合物を挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲でブレンドすることができる。添加剤の具体的な例としては次のようなものが挙げられる。
酸化防止剤:2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’, 5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)等。
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等。
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等。
帯電防止剤:ペンタエリスリトールモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド等。
滑剤:エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート。
また本発明の目的を阻害しない範囲であれば、EVOH樹脂(A)は、EVOH以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を配合していてもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ポリスチレンなどが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、これら樹脂の変性物の単品又は混合物などが挙げられる。
(変性EVOH樹脂(A’))
本発明においてEVOH樹脂(A)として、EVOHを炭素−炭素二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A’)(以下、「変性EVOH樹脂(A’)」と略記することがある。)を用いてもよい。変性EVOH樹脂(A’)は、炭素−炭素二重結合由来の疎水性及び低い結晶化度により、得られる被覆金属体の耐熱水密着性、及び高温かつ湿潤下における長期耐久性が向上するため好ましい。
変性EVOH樹脂(A’)は、上記EVOH樹脂(A)におけるEVOHを炭素−炭素二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られるものであり、例えば、EVOHの水酸基にエポキシ化合物(B)が反応したものが挙げられる。
このような変性EVOH樹脂(A’)は、後述するように、EVOH樹脂(A)と炭素−炭素二重結合を有するエポキシ化合物(B)とを押出機内で反応させることによって得ることができるが、その際にEVOH樹脂(A)が過剰にアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含有していると、得られる変性EVOH樹脂(A’)が着色したり、粘度低下によって成形性が低下するおそれがある。また、後述するように、上記反応を触媒を用いて行う場合には、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が当該触媒を失活させることがある。そのため、EVOH樹脂(A)におけるアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の含有量はできるだけ少ないことが好ましい。
上記エポキシ化合物(B)としては、分子中にエポキシ基を1個有し、かつ分子内に炭素−炭素二重結合を1個又は複数個有する一価のエポキシ化合物を好ましく使用することができる。エポキシ化合物(B)の分子量は500以下であることが好ましい。分子内にエポキシ基を2個以上有する二価以上のエポキシ化合物は、EVOHと反応する際に架橋反応を引き起こす場合がある。上記炭素−炭素二重結合の種類としては、反応性の観点から、1置換オレフィンであるビニル基、2置換オレフィンであるビニレン基もしくはビニリデン基、または3置換オレフィンであることが好ましく、ビニル基、ビニレン基、またはビニリデン基であることがより好ましく、ビニル基であることがさらに好ましい。
また、エポキシ化合物(B)は、変性の際に過剰に添加したものを、得られた変性EVOH樹脂(A’)から容易に除去できることが好ましい。このような除去方法の1つとしては、押出機のベントからエポキシ化合物(B)を揮発させる方法が挙げられるため、エポキシ化合物(B)の沸点は250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。また、エポキシ化合物(B)の炭素数は4〜10であることが好ましい。このようなエポキシ化合物(B)の具体例としては、1,2−エポキシ−3−ブテン、1,2−エポキシ−4−ペンテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテル、エチレングリコールアリルグリシジルエーテルなどが挙げられ、アリルグリシジルエーテルが好ましい。さらに、上記の除去方法の別の方法としては、押出機のベントから水洗除去する方法が挙げられ、この場合、エポキシ化合物(B)は水に可溶であることが好ましい。
EVOH樹脂(A)とエポキシ化合物(B)との反応の条件は特に制限されないが、国際公開第02/092643号に記載された方法と同様に、押出機内で行うことが好ましい。このとき、触媒を添加することが好ましく、その場合には、反応後にカルボン酸塩等の触媒失活剤を添加することが好ましい。押出機内で溶融状態にあるEVOH樹脂(A)に対してエポキシ化合物(B)を添加すると、エポキシ化合物(B)の揮散を防止することができるとともに反応量を制御しやすくなることから好ましい。
変性EVOH樹脂(A’)におけるエポキシ化合物(B)の変性量は、EVOHのモノマー単位の全モル数に対して0.1〜10モル%であることが好ましく、0.3〜5モル%であることがより好ましく、0.5〜3モル%であることがさらに好ましい。変性量が0.1モル%未満である場合は変性による効果が得られないおそれがあり、一方、10モル%を超える場合は熱安定性及び耐熱水密着性が低下するおそれがある。
変性EVOH樹脂(A’)の溶融粘度は、190℃、2160荷重下におけるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜100g/10分であることが好ましく、0.3〜30g/10分であることがより好ましく、0.5〜20g/10分であることがさらに好ましい。
[被覆金属体]
本発明の被覆金属体は、特定の表面形状を有する金属体(M)に、EVOH樹脂(A)が直接被覆されてなり、65℃、24時間熱水浸漬試験後のEVOH樹脂(A)の剥離強度が1000g/15mm以上である。ここで、特定の表面形状とは、金属体(M)の算術平均粗さ(Ra)が10〜50μmであることを意味し、このような表面形状は上述の通り、例えば、金属表面をブラスト処理及び/又は金属溶射処理を施すことで形成することができる。また、本発明の被覆金属体においては、酸素バリア性を有するEVOH樹脂(A)が金属体(M)に直接被覆されているため、金属体(M)の長期にわたる優れた防食性が保たれる。
本発明における熱水浸漬試験後の剥離強度とは、被覆金属体を65℃、24時間熱水に浸漬させた後、被覆に用いたEVOH樹脂(A)を15mm幅に切り、一部を剥離させた後に、精密万能試験機(株式会社島津製作所製 オートグラフAGS−100kN)を用い180°で剥離させた時の測定値である。
本発明の被覆金属体における高温かつ湿潤条件下での長期耐久性向上の観点から、上記EVOH樹脂(A)の熱水浸漬試験後の剥離強度は1500g/15mm以上であることが好ましく、2000g/15mm以上であることがより好ましく、3000g/15mm以上であることがさらに好ましい。なお、剥離強度の上限は何ら限定されないが、10,000g/15mm以下でなければ、実際の工程上は作製することは非常に困難である。
(層構成)
本発明の被覆金属体においては、EVOH樹脂(A)上に接着性樹脂層、ポリオレフィン層をこの順に積層することが、高温かつ湿潤環境下における長期耐久性及び耐衝撃性向上の観点から好ましい。金属体(M)を被覆するEVOH樹脂(A)層の厚みは特に限定されないが、10〜1000μmであることが好ましく、20〜500μmであることがより好ましく、30〜300μmであることがより好ましい。ここで、EVOH樹脂(A)上とは、金属体(M)と接していない方のEVOH樹脂(A)の表面を意味する。
(接着性樹脂層)
接着性樹脂層に用いられる接着性樹脂としては、EVOH(A)との接着性およびポリオレフィン層との融着性が優れたものであれば特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンを無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト重合した変性ポリオレフィンなどが挙げられる。また、接着性樹脂層の厚みは特に限定されないが、10〜1000μmが好ましく、20〜500μmがより好ましい。
(ポリオレフィン層)
ポリオレフィン層に用いられるポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレンと炭素数4以上のα−オレフィンとの共重合体、ポリオレフィンと無水マレイン酸との共重合体、エチレン−ビニルエステル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。また、用途に応じて当該ポリオレフィン層には、カーボンブラック、着色顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤等を混合してもよい。また、ポリオレフィン層の厚みは特に限定されないが、100〜10000μmが好ましく、300〜5000μmがより好ましい。
[被覆金属パイプ]
本発明の被覆金属パイプは、上記被覆金属体において、金属体(M)が最内面を構成する被覆金属パイプである。本発明の被覆金属パイプは、少なくとも、EVOH樹脂(A)により直接被覆された金属体(M)を有するため、防食性に優れており、長期間の使用でも、腐食が発生しにくい。このような特性を活かして、本発明の被覆金属パイプは石油、天然ガス用のパイプラインとして好適に使用される。
被覆金属パイプの層構成としては、上記被覆金属体の層構成を採用することができる。被覆金属パイプが石油、天然ガス用のパイプラインとして用いられる場合には、パイプラインの腐食防止のため、上記金属体(M)を最内面に配してなる構成が一般的に採用される。
[被覆金属体の製造方法]
本発明において、表面処理された金属体(M)上に直接EVOH樹脂(A)の被覆を行う、すなわちEVOH樹脂(A)の被膜を形成する方法としては熱プレス法、溶液コート法、溶融押出コート法、粉体塗装法などが挙げられる。これらの中でも産業上、溶融押出コート法、粉体塗装法が好適である。
溶融押出コート法としては、例えば、金属体(M)を被覆する樹脂の種類に対応する数の押出機を使用し、ダイを通してEVOH樹脂(A)を押し出すと共に、これを溶融状態で金属体(M)上にコートして、熱接着させる。押出コート法による場合は、EVOH樹脂(A)を製膜することなく、直接金属体(M)上に積層することができるため、生産性向上の観点からも好ましい。EVOH樹脂(A)を押し出す際のダイ温度は特に限定されないが、190〜250℃であることが好ましい。
粉体塗装法としては、流動浸漬法、静電塗装法、溶射法等が挙げられる。塗装温度条件は、塗装方法や用いられるEVOH樹脂(A)の融点等により異なるが、150〜300℃程度が好ましい。
また粉体塗装法に用いるEVOH樹脂(A)の粉体としては、粒子径20〜100メッシユ(すなわち20メッシュ節を通過するもので、100メッシュ節を通過しないもの)を80重量%以上含むものが好ましく、さらに好ましくは30〜100メッシユを80重量%以上含むものである。20メッシユ節を通過しない粉径の大きいものを大量に使用すると、例えば溶射法ではノズル部が閉塞したり、被膜平面が凹凸になりやすく、平滑な面が得られないおそれがある。一方、100メッシユ節を通過する粒径の小さいものを大量に使用すると、溶射時の火炎によって燃焼しやすくなり、かつ微粉体化に要するコストが高くなる。
金属体(M)を直接被覆しているEVOH樹脂(A)上に接着性樹脂層及びポリオレフィン層をこの順で積層する方法としては、熱プレス法、溶融押出コート法が好適である。この時、Tダイを用いて接着性樹脂がEVOH樹脂(A)表面に接する下層、ポリオレフィンが上層になるように二層一体で押し出して、接着性樹脂層とポリオレフィン層を同時に形成させることもできる。
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
EVOHのエチレン含有量およびケン化度
DMSO−dを溶媒としたH−NMR測定(日本電子株式会社製「JNM−GX−500型」を使用)により求めた。
変性EVOH樹脂(A’)の変性度
測定に用いる試料を粉砕し、アセトンにより低分子量成分を抽出した後、120℃で、12時間乾燥させた。乾燥後の試料をDMSO−dを溶媒として、H−NMR測定(日本電子株式会社製「JNM−GX−500型」を使用)を行い、得られたスペクトルの内、変性EVOHが有する、二重結合を有するエポキシ化合物に由来する二重結合のメチンプロトンのピーク(5.9ppm)又は二重結合のメチレンプロトンのピーク(5.2ppm)と、EVOHの骨格(主鎖)を形成するメチレン部位に由来するピーク(1.4ppm)との面積比、及び使用したEVOHのエチレン含有量から、使用したEVOHのモノマー単位のモル数に対する変性に使用された二重結合を有するエポキシ化合物のモル数として変性度を算出した。
EVOH樹脂(A)及び変性EVOH樹脂(A’)のメルトフローレート(MFR)
メルトインデクサ(宝工業株式会社製「L244」)を用い、温度190℃、荷重2160g又は温度210℃、荷重2160gの条件下で、試料の流出速度(g/10分)を測定し求めた。
金属体(M)の算術平均表面粗さ(Ra)
表面粗さ計(株式会社ミツトヨ製「サーフテストSJ−400」)を用い、JIS B 0601:1994年に従い、算術平均表面粗さ(Ra)を測定した。測定は、ガウシアンフィルタを使用し、カットオフ値λc=8mm、λs=25μmとし、測定速度0.5mm/sで行った。
熱水浸漬試験後の剥離強度
被覆金属体を65℃の熱水に24時間浸漬させた後、金属体を室温まで冷却し、EVOH樹脂の被膜を15mm幅にカットし剥離させた。この時の180°剥離強度を精密万能試験機(株式会社島津製作所製 オートグラフAGS−100kN)を用いて測定した。
被覆金属体の長期にわたる防食性、及び高温かつ湿潤環境下における長期耐久性について、以下に示す中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験により評価した。
中性塩水噴霧試験
JIS K 5600−7−1に従い、被覆金属体の半分の面に対角状に交差する切込み傷(クロスカット)をつけたのち、塩水噴霧試験機(スガ試験機株式会社製「STP−90V」)を用い、35℃の雰囲気下、5%塩化ナトリウム水溶液を720時間噴霧した。試験後、試験片の平面部及びクロスカット部を目視により以下の通り評価を行った。
<基準>
(平面部)
A:被覆に変化はなく、錆も発生していない。
B:被覆に膨れがあり、一部に錆が発生している。
C:被覆に膨れがあり、大部分に錆が発生している。
(クロスカット部)
A:被覆に変化はなく、錆も発生していない。
B:切込みからわずかに被覆が剥がれ、錆が発生している。
C:切り込みから大部分の被覆が剥がれ、錆が発生している。
サイクル腐食試験
JIS K 5600−7−9に従い、塩乾湿複合サイクル試験機(スガ試験機株式会社製「CYP−90」)を用い、被覆金属体の半分の面に対角状に交差する切込み傷(クロスカット)をつけたのち、「5%塩水噴霧(35℃、2時間)、温風乾燥試験(60℃、4時間)、湿潤試験(50℃、95%RH、2時間)」の順で行った試験を1サイクルとし、この試験を90サイクル行った。試験後、試験片の平面部及びクロスカット部を目視により以下の通り評価を行った。
<基準>
(平面部)
A:被覆に変化はなく、錆も発生していない。
B:被覆に膨れがあり、部分的に錆が発生している。
C:被覆に膨れがあり、大部分に錆が発生している。
(クロスカット部)
A:被覆に変化はなく、錆も発生していない。
B:切込みからわずかに被覆が剥がれ、錆が発生している。
C:切り込みから大部分の被覆が剥がれ、錆が発生している。
(製造例1:変性EVOH樹脂(A’))
亜鉛アセチルアセトナート一水和物28質量部を1,2−ジメトキシエタン957質量部と混合し、混合液を得た。この混合液に、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15質量部を添加し、触媒溶液を得た。
また、押出機(東芝機械株式会社製「TEM−35BS」、37mmφ、L/D=52.5)を使用し、スクリュー、3つのベントおよび3つの圧入口を設置した。樹脂フィード口を水冷し、スクリュー回転部分の温度を200℃に設定し、スクリュー回転数300rpmで運転した。樹脂フィード口からEVOH(エチレン含有量32モル%、MFR6.0g/10分ケン化度99モル%以上)を20.0kg/hrで入れ、第1圧入口からアリルグリシジルエーテル(AGE)を2.93kg/hrの割合で、および上記触媒溶液を0.5kg/hrの割合で添加した。また、第2圧入口から酢酸ナトリウム0.82質量%水溶液を0.6kg/hrの割合で添加した。第1ベントから減圧で過剰のAGEを除去し、第3圧入口から水を1kg/hrの割合で添加し、第2および第3のベントから減圧で水およびAGEを除去した。これによりAGE変性量1.7モル%、MFR2.0g/10分(190℃、2160g荷重)、融点166℃の変性EVOH樹脂(以下、変性EVOH樹脂(A’−1)とする。)を得た。
(実施例1)
ISO21809−1に適合するグリットブラスト処理を施した、150mm×100mm×3mmの鋼板(Fe360B、算術平均表面粗さ(Ra)16.4μm)の表面に、アモルファス合金(ARMACOR M:2Si・30Cr・2.2Mn・3.9Br・BalFe)を厚みが100μmとなるようにアーク溶射した。アーク溶射処理後の鋼板(M1)の算術平均表面粗さ(Ra)は19.4μmであった。
次に、300mm×300mmの鋼板上に鋼板(M1)を乗せ、その上に100μmのスペーサーとEVOH樹脂(A−1)(エチレン含有量44モル%、MFR5.5g/10分(190℃、2160g荷重)、ケン化度99モル%以上)からなるペレット5gを置き、さらに「テフロン」シートを被せた。続いて、熱プレス機(株式会社神藤金属工業所製「卓上テストプレス」)を用いて、230℃、80kgf/cmの条件で1分間熱プレスすることでEVOH樹脂(A−1)により被覆された実施例1の被覆金属体(1)を作製した。なお、EVOH樹脂(A−1)層の厚みは約100μmであった。
この被覆金属体(1)について、上述の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例2)
EVOH樹脂(A−1)に代えて、エチレン含有量が32モル%であるEVOH樹脂(A−2)(MFR1.8g/10分(190℃、2160g荷重)、ケン化度99モル%以上)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、被覆金属体(2)を作製した。得られた被覆金属体(2)を用いて、実施例1と同様の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例3)
EVOH樹脂(A−1)に代えて、エチレン含有量が27モル%であるEVOH(A−3)(MFR4.0g/10分(210℃、2160g荷重)、ケン化度99モル%以上)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、被覆金属体(3)を作製した。得られた被覆金属体(3)を用いて、実施例1と同様の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例1の被覆金属体(1)を室温に冷却後、予め共押出により作製しておいた接着性樹脂(Ad)(三井化学株式会社製 Admer NF500、MFR1.8g/10分(190℃、2160g荷重))/高密度ポリエチレン(HDPE)(MPB社製 Luxene2050、MFR0.45g/10分(190℃、2160g荷重))=40μm/400μmの多層フィルムを、EVOH(A−1)被膜上に150℃、80kgf/cmの条件で1分間熱プレスし、外側からHDPE層/Ad層/EVOH(A−1)層の順に被覆された実施例4の被覆金属体(4)を作製した。
この被覆金属体(4)を用いて、実施例1と同様の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例5)
EVOH樹脂(A−1)に代えて、製造例1で得られた変性EVOH樹脂(A’−1)(AGE変性量1.7モル%、MFR2.0g/10分(190℃、2160g荷重))を用いたこと以外は実施例1と同様にして、被覆金属体(5)を作製した。得られた被覆金属体(5)を用いて、実施例1と同様の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例6)
ISO21809−1に適合するグリットブラスト処理を施した150mm×100mm×3mmの鋼板(Fe360B、算術平均表面粗さ(Ra)16.4μm)の表面に、純鉄を厚みが100μmとなるようにアーク溶射した。アーク溶射処理後の鋼板(M2)の算術表面平均粗さ(Ra)は14.6μmであった。
次に、鋼板(M2)を用いて実施例1と同様の方法によりEVOH樹脂(A−1)に被覆された、被覆金属体(6)を作製した。
得られた被覆金属体(6)を用いて、実施例1と同様の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例7)
実施例6において、鋼板のアーク処理層の厚みを200μmとし、算術平均表面粗さ(Ra)が19.0μmである鋼板(M3)を用いたこと以外は実施例6と同様にして、被覆金属体(7)を作製した。得られた被覆金属体(7)を用いて、実施例1と同様の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例8)
実施例6において、鋼板のアーク処理層の厚みを300μmとし、算術平均表面粗さ(Ra)が24.1μmである鋼板(M4)を用いたこと以外は実施例6と同様にして、被覆金属体(8)を作製した。得られた被覆金属体(8)を用いて、実施例1と同様の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例9)
実施例6の被覆金属体(6)について、実施例4と同様の方法により、外側からHDPE層/Ad層/EVOH層の順に被覆された実施例9の被覆金属体(9)を作製した。この被覆金属体(9)について、上述の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例10)
ISO21809−1に適合するグリットブラスト処理を施した150mm×100mm×3mmの鋼板(Fe360B、算術平均粗さ(Ra)16.4μm)の表面上に製造例1で得られた変性EVOH樹脂(A’−1)(AGE変性量1.7モル%、MFR2.0g/10分(190℃、2160g荷重))を230℃、80kgf/cmの条件で1分間熱プレスし、変性EVOH樹脂(A’−1)により被覆された実施例10の被覆金属体(10)を作製した。得られた被覆金属体(10)を用いて、実施例1と同様の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(比較例1)
ブラスト処理及び溶射処理を施していない鋼板(Fe360B、算術平均表面粗さ(Ra)2.1μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、被覆金属体(11)を作製した。得られた被覆金属体(11)を用いて、実施例1と同様の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(比較例2)
アモルファス合金を用いたアーク溶射を施していない鋼板(Fe360B、算術平均表面粗さ(Ra)16.4μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、被覆金属体(12)を作製した。得られた被覆金属体(12)を用いて、実施例1と同様の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(比較例3)
実施例6において、アーク溶射処理時の圧縮空気圧を調整し、溶射層厚み100μm、算術平均表面粗さ(Ra)が51.3μmである鋼板(M5)を得た。鋼板(M2)に代えて鋼板(M5)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、被覆金属体(13)を作製した。得られた被覆金属体(13)を用いて、実施例1と同様の方法により、熱水浸漬試験後の剥離強度、中性塩水噴霧試験及びサイクル腐食試験に対する耐久性を評価した。結果を表1に示す。
Figure 0005615750
本発明の被覆金属体は、長期にわたる防食性、及び高温かつ湿潤環境下における長期耐久性に優れている。このような特性を活かして本発明の被覆金属パイプは、石油、天然ガス用のパイプラインとして好適に用いられる。
1 金属体
2 ブラスト処理後の金属体
3 溶射処理層
4 溶射処理層の厚み

Claims (11)

  1. 算術平均表面粗さ(Ra)が10〜50μmである金属体(M)上に、エチレン含量が20〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)が直接被覆されてなり、
    65℃、24時間熱水浸漬後のエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)の剥離強度が1000g/15mm以上である被覆金属体。
  2. 前記エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)上に接着性樹脂層、ポリオレフィン層がこの順に積層されている請求項1に記載の被覆金属体。
  3. 前記金属体(M)が溶射処理を施されている請求項1または2に記載の被覆金属体。
  4. 前記溶射処理層の厚みが300μm以下である請求項3に記載の被覆金属体。
  5. 前記溶射処理に用いられる金属がアモルファス合金である請求項3または4に記載の被覆
    金属体。
  6. 前記金属体(M)の表面がブラスト処理されてなる請求項1または2に記載の被覆金属体。
  7. 前記エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)が、炭素−炭素二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られる、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A’)である請求項1〜6のいずれか1項に記載の被覆金属体。
  8. 前記エポキシ化合物(B)による変性量が、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)のモノマー単位の全モル数に対して0.1〜10モル%である請求項7に記載の被覆金属体。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の被覆金属体において、金属体(M)が最内面を構成する被覆金属パイプ。
  10. 算術平均表面粗さ(Ra)が10〜50μmである金属体(M)上に、直接、エチレン含量が20〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)の被覆を行う被覆金属体の製造方法。
  11. 表面が溶射処理されている金属体(M)上に、熱プレス法、溶融押出コート法および粉体塗装法からなる群より選ばれる少なくとも1つの方法によってエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A)の被覆を行う請求項10に記載の被覆金属体の製造方法。
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