以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。また、実施形態とともに、該実施形態の参考となる参考形態についても記載する。
(参考形態)
本参考形態では、防水用筐体として車両のエンジンECU(Electric Control Unit)に用いられる防水用筐体の例を示し、防水装置として車両のエンジンECUとして用いられる防水構造の電子制御装置の例を示す。
なお、本参考形態では、図2や図5などに示すように、通気用の貫通孔の貫通方向を単に貫通方向と示し、この貫通方向に垂直な方向を単に垂直方向とする。
図1及び図2に示す電子制御装置100は、要部として、基板11に電子部品12が実装された回路基板10と、該回路基板10を収容する防水用筐体20と、防水用筐体20に貼りつけられた呼吸用のフィルタ24と、を備えている。また上記要素以外にも、本参考形態ではシール材30を備えている。なお、フィルタ24は、防水用筐体20に貼り付けられた状態で、防水用筐体20と一体化するため、以下においては、防水用筐体20とともに説明する。
回路基板10は、電極としてのランドを含む配線や、配線間を接続するビアホール等が形成されてなる基板11に、マイコン、パワートランジスタ、抵抗、コンデンサ等の電子部品12が実装されて回路が構成されたものである。本参考形態では、電子部品12として大気圧センサを含んでいる。
この基板11には、回路基板10に構成された回路と外部機器などとを電気的に中継するコネクタ13も実装されている。なお、コネクタ13のうち、図2に示す符号13aは、電気絶縁材料からなるハウジングを示し、符号13bは導電材料からなり、ハウジング13aに一部が保持された端子を示している。図2では、コネクタ13の端子13bが基板11に挿入実装されているが、実装構造としては上記例に限定されるものではなく、表面実装構造を採用することもできる。なお、図2では、基板11において、端子13bが挿入される貫通孔、ランドについては省略し、ランドと端子13bとを接続するはんだについても省略している。
防水用筐体20は、アルミニウム、鉄等の金属材料や樹脂材料からなり、その内部に回路基板10を収容して、これらを保護するものである。防水用筐体20の構成部材の個数は特に限定されるものではなく、1つの部材から構成されても良いし、複数の部材から構成されても良い。
本参考形態では、図2に示すように、一面が開口された箱状のケース21と、ケース21の開口部を閉塞する底の浅いベース22との2つの部材によって構成されている。そして、ケース21とベース22とを組み付けることで、回路基板10を収容する内部空間を備えた防水用筐体20が構成されている。防水用筐体20を構成するケース21とベース22の分割方向は特に限定されるものではないが、本参考形態では図2に示すように、貫通方向において防水用筐体20が2分割され、ケース21とベース22となっている。
また、防水用筐体20には、図3に示すように貫通孔23が形成されるとともに、貫通孔23を覆う防水用のフィルタ24が貼り付けられている。
貫通孔23は、防水用筐体20の内部と外部とを通気させるための通気孔であり、その形成位置は特に限定されるものではない。この貫通孔23により、防水用筐体20の内部又は筐体外部の温度が変化して内部又は筐体外部の気圧が変化した場合でも、防水用筐体20の内部の気圧と筐体外部の気圧とが同程度となって、ケース21及びベース22の変形が抑制される。
また、貫通孔23により、防水用筐体20の内部の気圧が筐体外部の気圧(大気圧)と同程度となるので、基板11に実装された電子部品12として大気圧センサが正常に作動することができる。
このような貫通孔23は、プレス成形、アルミダイカストなどの鋳造、樹脂の射出成形などによって防水用筐体20を成形する際に形成することもできるし、成形後にドリルやレーザなど後加工することで形成することもできる。
一方、フィルタ24は、気圧を調整するための貫通孔23による防水用筐体20の防水性の低下を抑制するためのものである。このフィルタ24は、水等の液体の通過を阻止し、気体のみを通過させるべく、撥水性の繊維材を用いてシート状に構成されたものであり、洗車機などの高圧水流に耐えられる程度の耐水性強度を有する。本参考形態では、電子制御装置100が車両のエンジンルームに設けられるため、撥水、通気の機能以外にも、撥油機能を有している。
本参考形態では、図3に示すように、防水用筐体20のケース21において、外面21aから内面21bにわたり、ケース21の厚み方向に沿って貫通孔23が形成されている。より詳しくは、箱状のケース21の底部に貫通孔23が1つ形成されている。そして、貫通孔23を塞ぐようにケース21の内面21bに、図示しない粘着テープによりフィルタ24が貼着されている。
防水用筐体20を構成するケース21及びベース22には、コネクタ13のハウジング13aに対応したコネクタ用切り欠き部(図示略)が設けられており、電子部品12を含む基板11、コネクタ13の端子13bにおける基板11との接続側を含む一部位が防水用筐体20内に収容され、コネクタ13の端子13bにおける外部コネクタとの接続側を含む残りの部分が防水用筐体20外に露出されている。
また、図示しないが、ケース21とベース22を組み付けた状態で、基板11の一部がケース21とベース22によって直接的、若しくは、間接的に挟持されており、これにより、回路基板10が防水用筐体20内の所定位置に保持されている。本参考形態では、回路基板10の保持状態で、回路基板10を構成する基板11の厚み方向と、貫通方向が一致している。
また、ケース21の周縁部位とベース22の周縁部位のうち、互いに対向する部位間に、防水用のシール材30が配置されている。このシール材30は、コネクタ13のハウジング13aと防水用筐体20(ケース21及びベース22)との対向部位間にも配置されている。
次に、本参考形態の特徴部分である、貫通孔23を構成するケース21の壁面部25とフィルタ24の固定構造について説明する。
図4及び図5に示すように、ケース21は、貫通孔23を構成する部位、すなわち貫通孔23の壁面をなす部位として、壁面部25を有している。
この壁面部25は、垂直方向に対する壁面の傾斜が互いに異なる部位として、第1斜面部25aと直線部25bを有している。
第1斜面部25aは、壁面部25のうち、貫通方向において、フィルタ24から遠ざかるほど貫通孔23の開口面積が大きい傾斜を有する部位である。一方、直線部25bは、貫通孔23の開口面積が貫通方向において一定とされた部位である。なお、貫通孔23の開口面積とは、垂直方向に沿う断面積である。
本参考形態では、壁面部25により、垂直方向に沿う断面が円形状の貫通孔23が構成されている。壁面部25のうち、第1斜面部25aは、貫通方向において開口面積の変化量が一定の傾斜となっている。すなわち、垂直方向に対する傾斜角θ1が一定となっている。このように、傾斜角θ1が一定とされた第1斜面部25aは、他の傾斜(後述の変形例参照)に比べて、成形や、成形後の加工などにより、第1斜面部を得やすいという利点がある。
また、貫通方向において、第1斜面部25aの一端が貫通孔23の外面側開口端を構成する外面側開口部25cとなっており、他端が直線部25bとの連結部25dとなっている。第1斜面部25aは、断面円形の貫通孔23の中心軸23cに対して回転対称構造となっており、外面側開口部25cと該外面側開口部25cよりも垂直方向に沿う直径の小さな連結部25dとは、中心軸23cに対して同心円の関係となっている。
直線部25bは、貫通方向における一端が連結部25dとなっており、他端が貫通孔23の内面側開口端を構成する内面側開口部25eとなっている。なお、図5において、符号t0は、貫通孔23の貫通長さ、すなわちケース21における貫通孔形成部位の厚さを示し、符号t1は、直線部25bの貫通方向に沿う長さt1を示している。このように、ケース21の内面21b側から、貫通方向の長さt1の直線部25b、貫通方向の長さ(t0−t1)の第1斜面部25aの順に設けられている。
そして、フィルタ24は、貫通孔23を覆うように、詳しくは、貫通孔23の内面側開口端、すなわち壁面部25の内面側開口部25eを塞ぐように、ケース21の内面21bに貼着されている。このように、防水用筐体20の内面21bにおける内面側開口部25eの周囲部分が、フィルタ24の貼り付け部26となっている。
本参考形態では、図4に示すように、フィルタ24の垂直方向に沿う形状も円形となっている。なお、図4及び図5において、符号24aはフィルタ24のうち、貫通孔23に面する露出部位を示し、符号24bはフィルタ24の垂直方向における外周端を示している。フィルタ24の中心が貫通孔23の中心軸23cと一致するようにフィルタ24をケース21の貼り付け部26に貼り付けると、フィルタ24の外周端24bが、壁面部25の外面側開口部25c、連結部25dと同心円の関係となる。
このように本参考形態では、防水用筐体20をなすケース21の内面21bに貼り付け部26が設けられ、フィルタ24がケース21の内面21bに貼着されている。したがって、洗車時において、洗車機などによる高圧水流(例えば8〜10MPa程度の水流)が、フィルタ24におけるケース21への貼着部分に直接当たらない。以上から、フィルタ24がケース21の外面21aに貼着され、貼着部分に高圧水流が直接当たる構成に比べて、高圧水流によるシート状のフィルタ24の剥がれを抑制できるようになっている。
ところで、フィルタ24がケース21の内面21bに貼着された構成では、ケース21の厚みt0の分、垂直方向に対する入射角度α1(図6参照)の小さい高圧水流がフィルタ24の露出部位24aに直接当たりにくくなる。換言すれば、入射角度α1の大きい高圧水流のほうが、フィルタ24の露出部位24aに直接当たりやすい。
これに対し本参考形態では、ケース21が、貫通孔23の壁面部25として、フィルタ24から遠ざかるほど貫通孔23の開口面積が大きい傾斜の第1斜面部25aを有している。したがって、例えば図6に示すように、高圧水流110,111が大きい入射角度α1(図6ではα1=90度)でケース21に噴射されるとすると、第1斜面部25aに噴射された高圧水流110の一部が第1斜面部25aで跳ね返り、跳ね返った水流112と高圧水流111が、フィルタ24の露出部位24aの上方(前方)でぶつかる。これにより、フィルタに直接当たろうとする高圧水流111の勢いが弱まり、圧力の弱まった水流113となる。
特に本参考形態では、第1斜面部25aが、傾斜角θ1を一定とし、中心軸23cを中心とする回転対称構造となっている。したがって、貫通方向において貫通孔23の開口面積の変化量が一定でありながら非対称構造の第1斜面部25aに比べて、第1斜面部25aで跳ね返った水流112が、貫通方向において狭い範囲に集中する。これにより、高圧水流111の勢いを効果的に弱めることができる。
また、本参考形態では、ケース21の内面21bに設けた貼り付け部26にフィルタ24を貼り付けている。したがって、高圧水流110,111を噴射すると、噴射初期において、少なくとも高圧水流110,111の勢いにより、フィルタ24の露出部位24aを端面として、貫通孔23内に水114が溜まる。この溜まった水114は、クッションとして機能するため、入射角度α1によらず、すなわち入射角度α1の小さい高圧水流110,111においても、フィルタ24の露出部位24aに高圧水流110,111(水流113)が直接当たるのを抑制することもできる。
特に本参考形態では、壁面部25が、第1斜面部25aと内面側開口部25eとを繋ぐ繋ぎ部として直線部25bを有しており、第1斜面部25aが貫通孔23の内面側開口端から離れて設けられた構成となっている。このような構成を採用すると、貫通孔23の内面側開口端での開口面積が同じ(換言すれば、ケース21に対するフィルタ24の貼着構造が同じ)で、且つ、フィルタ24を端面として貫通孔23内に溜まった水114の量が同じとした場合、第1斜面部25aの一端が、壁面部25における内面側開口部25eをなす構成に比べて、フィルタ24を端面として貫通孔23内に溜まる水114の深さを深くすることができる。これにより、クッション効果を高めて、フィルタ24の剥がれを効果的に抑制することができる。
以上から、本参考形態に係る防水用筐体20、ひいては電子制御装置100は、従来よりも、高圧水流110,111によるフィルタ24の剥がれが抑制された構成となっている。
なお、フィルタ24を端面として貫通孔23内に水114が溜まったままだと、貫通孔23が水114で塞がれた状態であるので、防水用筐体20の内部の気圧が筐体外部の気圧に対して負圧となって、水114がフィルタ24に浸み込んだり、防水用筐体20の内部に吸い込まれる恐れがある。したがって、上記した防水用筐体20、ひいては電子制御装置100は、車両の所定位置に電子制御装置100を取り付けた状態で、高圧水流110,111の噴射を停止した際に、水114が自重により壁面部25の外へ流れ出るような取り付け構造とすることが好ましい。
上記した形態の壁面部25の場合、例えば図7に示すように、貫通孔23の中心軸23cが水平方向に沿うような電子制御装置100の取り付け構造を採用しても良い。すなわち、フィルタ24によって蓋された貫通孔23が水平方向側に開口するような電子制御装置100の取り付け構造を採用しても良い。このような取り付け構造では、高圧水流110,111の噴射時に、水流の勢いにより、フィルタ24の露出部位24aを端面として水114(図6参照)が溜まり、噴射を停止すると、溜まった水114が自重により壁面部25の外へ流れ出る。なお、水平方向とは鉛直方向に垂直な方向である。
なお、図7に示す例以外にも、例えば、中心軸23cが鉛直方向に沿いつつ、貫通孔23の外面側開口端が内面側開口端よりも鉛直下方に位置するような電子制御装置100の取り付け構造を採用しても良い。すなわち、フィルタ24によって蓋された貫通孔23が鉛直下方に開口するような電子制御装置100の取り付け構造を採用しても良い。
(第1実施形態)
図8に示す防水用筐体20、ひいては電子制御装置100では、ケース21に設けた第1斜面部25aが、貫通方向においてフィルタ24に近いほど開口面積の変化量が大きい傾斜を有している。それ以外の構成については、上記図5に示した構成と同じである。また、図8に示す構成では、第1斜面部25aが単一Rの傾斜面となっている。
上記構成を採用すると、図5に示した構成の効果に加えて、さらに下記効果を奏することができる。
図8に示す第1斜面部25aを採用すると、図9(a)に示すように、特に入射角度α1が大きい高圧水流110(図9では90度)が第1斜面部25aで跳ね返ってなる水流112の、フィルタ24の露出部位24aの上方(前方)において集中する範囲112aを、図9(b)に示す上記図5に示した第1斜面部25aを有するものよりも、貫通方向において狭くすることができる。
この結果、水流112により、フィルタ24の露出部位24aに直接当たろうとする高圧水流111(図9では図示略)の勢いをより効果的に弱めることができる。
特に図8に示す構成では、図5に示した構成同様、第1斜面部25aが、断面円形の貫通孔23の中心軸23cを中心とする回転対称構造となっている。したがって、貫通方向においてフィルタ24に近いほど開口面積の変化量が大きい傾斜を有しながら単一Rでない構成に比べて、第1斜面部25aで跳ね返った水流112を、貫通方向においてより狭い範囲に集中させることができる。
(参考形態)
図10に示す防水用筐体20、ひいては電子制御装置100では、ケース21に設けた第1斜面部25aが、貫通方向においてフィルタ24に近いほど開口面積の変化量が小さい傾斜を有している。それ以外の構成については、上記図5に示した構成と同じである。また、図10に示す構成では、第1斜面部25aが単一Rの傾斜面となっている。
上記構成を採用すると、図5に示した構成の効果に加えて、さらに下記効果を奏することができる。
図10に示す第1斜面部25aを採用すると、図11に示すように、特に入射角度α1が大きい高圧水流110(図11では90度)が第1斜面部25aで跳ね返ってなる水流112の、フィルタ24の露出部位24aの上方(前方)において集中する範囲112aが、上記図5に示した第1斜面部25aを有するものよりも、貫通方向において広くなる。
換言すれば、他の第1斜面部25a(図5、図8参照)に比べて、図12に示すように、様々な入射角度α1の高圧水流110に対し、フィルタ24の露出部位24aの上方に水流112を跳ね返すことができる。このように、フィルタ24の露出部位24aの上方に水流112を跳ね返すことができる入射角度α1の範囲が、他の第1斜面部25a(図5、図8参照)に比べて広い。
これにより、図10に示す構成は、図5、図8に示した構成よりも、例えば車両への電子制御装置100の搭載条件(配置位置)の自由度が高い構成となっている。
(参考形態及び第2実施形態)
図13〜図15に示す防水用筐体20、ひいては電子制御装置100では、第1斜面部25aと内面側開口部25eとを繋ぐ繋ぎ部として、壁面部25が、貫通方向において内面21b(フィルタ24)に近づくほど貫通孔23の開口面積が大きい傾斜を有した第2斜面部25fを有している。なお、図13が、図5に対し、第2斜面部25fを適用した構成(参考形態)、図14が、図10に対し、第2斜面部25fを適用した構成(参考形態)、図15が、図8に対し、第2斜面部25fを適用した構成(第2実施形態)となっている。
上記構成を採用すると、図5、図8、図10に示した構成の効果に加えて、さらに下記効果を奏することができる。
上記構成を採用すると、第1斜面部25aと繋ぎ部である第2斜面部25fとの連結部25dの開口面積を、内面側開口部25eの開口面積よりも狭くすることができる。したがって、断面円形の貫通孔23から露出するフィルタ24の露出部位24aの直径を同じとする、すなわち、貼り付け部26に対するフィルタ24の貼着構造を同一とした場合、高圧水流111(水流113)を、フィルタ24に直接当たりにくくすることができる。
また、フィルタ24を端面として貫通孔23内に溜まる水114の深さを、直線部25bよりも深くすることができる。したがって、水114によるクッション効果をさらに高めることができる。
(試験結果)
次に、本発明者が上記図5、図8、図10、図13、図15に示した構成のサンプルを作成し、サンプルに対して高圧水流を噴射して、フィルタの剥離テストを行った結果について説明する。
この試験では、各サンプルにおいて、ケース21の厚みt0を1.4mm、断面円形の貫通孔23から露出するフィルタ24の露出部位24aの直径D3を4mmとした。
サンプルA1〜A6は、図5に示した傾斜角θ1が一定であり、且つ、繋ぎ部として直線部25bを有するもの、サンプルA7,A8は、図13に示した傾斜角θ1が一定であり、且つ、繋ぎ部として第2斜面部25fを有するものである。なお、図17では、傾斜角θ1一定のサンプルの代表図として、繋ぎ部として直線部25b示すものを例示しているが、寸法や角度の規定については、繋ぎ部として第2斜面部25fを採用した場合も同じである。
サンプルA1〜A3は、直線部25bの長さt1を0.5mmで同一とし、傾斜角θ1を、それぞれ10°、20°、30°と異ならせている。サンプルA4〜A6は、直線部25bの長さt1を1.0mmで同一とし、傾斜角θ1を、それぞれ10°、20°、30°と異ならせている。サンプルA7は、傾斜角θ1を10°、第2斜面部25fの長さt1を0.5mmとし、サンプルA8は、傾斜角θ1を10°、第2斜面部25fの長さt1を1.0mmとしている。
ここで、繋ぎ部(直線部25b又は第2斜面部25f)と第1斜面部25aとの連結部25dの直径をD1とする。なお、図16に示すように、繋ぎ部として直線部25bを有するサンプルA1〜A6では、直径D1を直径D3と同じ4mm、繋ぎ部として第2斜面部25fを有するサンプルA7,A8では、直径をD1を直径D3よりも小さい2.5mmとした。
また、ケース21の内面21bと貫通方向において同一位置にある仮想面と第1斜面部25aの延長線(図17の二点鎖線)との交点から、繋ぎ部(直線部25b又は第2斜面部25f)と第1斜面部25aとの連結部25dにおける上記延長線の始点部位までの、垂直方向に沿う長さをD2とすると、長さD2は下記式で示すことができる。なお、第1斜面部25aの延長線とは、第1斜面部25aの接線である。
(数1)D2={t12/(1−cos2θ1)}1/2×cosθ1
図16に示す各サンプルA1〜A8の長さD2は、上記数式1によって算出された結果を示している。図16に示すように、サンプルA1,A4,A5,A7,A8では、長さD2が下記式の関係を満たしている。
(数2)D2>1/2×D1
また、サンプルA4は、長さD2がさらに下記式の関係を満たしている。
(数3)D2>D1
すなわち、図16に示すように、サンプルA4は、第1斜面部25aの延長線が、対応する繋ぎ部の壁面(サンプルA4は直線部25b、サンプルA8は第2斜面部25f)と交わるように、構成されている。
なお、フィルタ24の露出部位24aの直径D3が4mmであるため、図16に示すように、サンプルA8も、第1斜面部25aの延長線が、対応する繋ぎ部の壁面(サンプルA4は直線部25b、サンプルA8は第2斜面部25f)と交わるように、構成されている。
また、第1斜面部25aの延長線が、貫通方向において内面21bと同一位置の仮想面と、貫通孔23の内面側開口部25e内で交わる構成、すなわち、第1斜面部25aの延長線が、対応する繋ぎ部の壁面に当たらないサンプル(図16に示す、サンプルA1〜A3、A5〜A7)において、仮想面と第1斜面部25aの延長線との交点から、貫通孔23の内面側開口部25eまでの最短距離をD4(図17参照)とする。図16に示すように、サンプルA1〜A3、A5〜A7のうち、サンプルA1,A2,A5,A6は、最短距離D4が1mm以上とされ、サンプルA3,A7は、最短距離D4が1mm未満、特にサンプルA7は、最短距離D4が0.5mm未満となっている。
サンプルBは、図10に示した、貫通方向においてフィルタ24に近いほど開口面積の変化量が小さい第1斜面部25aと、繋ぎ部としての直線部25bを有するものである。このサンプルBでは、図18に示すように、R0.7、直線部25bの長さt1を0.7mmとした。
サンプルC1は、図8に示した、貫通方向においてフィルタ24に近いほど開口面積の変化量が大きい第1斜面部25aと、繋ぎ部としての直線部25bを有するものである。サンプルC2,C3は、図15に示した、貫通方向においてフィルタ24に近いほど開口面積の変化量が大きい第1斜面部25aと、繋ぎ部としての第2斜面部25fを有するものである。サンプルC1では、図18に示すように、R0.7、直線部25bの長さt1を0.7mmとした。また、図18に示すように、サンプルC2では、R0.9、第2斜面部25fの長さt1を0.5mm、サンプルC3では、R0.4、第2斜面部25fの長さt1を1.0mmとした。さらに、第2斜面部25fを有するサンプルC2,C3では、第2斜面部25fと第1斜面部25aとの連結部25dの直径をD1を2.5mmとした。
さらに、各サンプルA1〜A8,B,C1〜C3の比較対象として、t0が1.4mm、直径D3が4mmであり、貫通方向のどの位置においても円形断面の直径がD3とされた貫通孔を有するサンプルを準備した。
上記した各サンプルA1〜A8,B,C1〜C3及び比較サンプルでは、フィルタ24を、内径8.89mm、外径19.05mmの円環状の接着テープによって、ケース21の内面21bにおける貼り付け部26に貼り付けた。すなわち、貼り付け部26の面積(フィルタ24の接着面積)を222.95mm2とした。
そして、高圧水流の圧力は8MPaとし、入射角度α1=90度、すなわち貫通孔23の貫通方向に沿って高圧水流をサンプルに噴射し、各サンプルの剥離面積を測定した。なお、各サンプルは3枚ずつ準備し、図19には、各サンプルの平均値をそれぞれ示している。
先ず、傾斜角θ1が一定のサンプルA1〜A8について考察する。
図19に示すように、同じt1をもつサンプルA1〜A3での比較、サンプルA4〜A6での比較から、傾斜角度θ1が小さいほど、剥離面積が小さくなることが明らかとなった。
これは、1)第1斜面部25aにて跳ね返らず、第1斜面部25aに沿って流れる高圧水流110が、フィルタ24の露出部位24aに当たりにくくなるため、2)傾斜角度θ1が小さいほど、第1斜面部25aの面積が増えるため、第1斜面部25aが跳ね返った水流112(図6参照)による高圧水流111の勢いを低減する効果が高まるため、であると考えられる。
また、同じ傾斜角度θ1をもつサンプルA1,A4の比較、サンプルA2,A5の比較、サンプルA3,A6の比較から、直線部25bの長さt1が長いほど剥離面積が小さくなることが明らかとなった。同様に、同じ傾斜角度θ1をもつサンプルA7,A8の比較から、第2斜面部25fの長さt1が長いほど、剥離面積が小さくなることが明らかとなった。
これは、1)繋ぎ部(直線部25b又は第2斜面部25f)の長さt1が長いほど、フィルタ24を端面として貫通孔23内に溜まる水114の量を同じとした場合、水114の深さをより深くすることができ、これによりクッション効果を高まるため、2)繋ぎ部の長さt1が長いほど、第1斜面部25aに沿って流れる水流が、ケース21の内面21bにおける貼り付け部26に貼り付けられたフィルタ24の露出部位24aに直接当たりにくくなるため、であると考えられる。
なお、剥離面積が小さいサンプルA4〜A6,A8は、繋ぎ部(直線部25b又は第2斜面部25f)の長さt1が1.0mmであり、サンプルA1〜A3、A7は、長さt1が0.5mmである。
以上から、繋ぎ部(直線部25b又は第2斜面部25f)の長さt1を、防水用筐体20(ケース21)の厚みt0の1/2以上の長さとすると、t1<(t0/2)の構成にくらべて、高圧水流によるシート状のフィルタ24の剥がれを抑制できることが明らかである。
また、上記数式2の関係を満たす3つのサンプルA1,A4,A5,A7,A8のうち、サンプルA1,A4,A5,A8では、比較サンプルに対して剥離面積が大幅に小さくなることが明らかとなった。
これは、1)高圧水流110のうち、第1斜面部25aの表面で跳ね返らずに、フィルタ24の露出部位24aを取り囲むように設けられた第1斜面部25aに沿って流れる水流が、フィルタ24の露出部位24aに当たる前に互いにぶつかり合い、フィルタ24に当たる前に勢いが弱まるため、2)第1斜面部25aに沿って流れる水流により、フィルタ24に直接当たろうとする高圧水流111(水流113)の勢いが弱まるため、であると考えられる。
なかでも、第1斜面部25aの延長線が、対応する繋ぎ部の壁面と交わるように構成されたサンプルA4,A8では、比較サンプルに対して剥離面積が格段に小さくなることが明らかとなった。
これは、高圧水流110のうち、第1斜面部25aに沿って流れる水流が、フィルタ24に当たる前に繋ぎ部(直線部25b又は第2斜面部25f)の壁面に当たり、フィルタ24に当たる前に勢いがさらに弱まるためであると考えられる。
また、傾斜角θ1が同じ10°でありながら、直線部25bを有するサンプルA4よりも、第2斜面部25fを有するサンプルA8のほうが、フィルタ24の剥離面積が小さかった。
これは、第2斜面部25fを採用すると、1)第1斜面部25aと繋ぎ部の連結部25dの開口面積が、貫通孔23の内面側開口部25eの開口面積よりも狭く、フィルタ24に直接当たる高圧水流111(水流113)が低減されるため、2)フィルタ24を端面として貫通孔23内に溜まる水114の深さをより深くすることができ、クッション効果をさらに高めることができるため、であると考えられる。
一方、傾斜角θ1が同じ10°でありながら、直線部25bを有するサンプルA4よりも、第2斜面部25fを有するサンプルA7のほうが、フィルタ24の剥離面積が大きく、比較サンプルとほぼ同じであった。
図16に示すように、サンプルA7では、貫通方向において内面21bと同一位置の仮想面と第1斜面部25aの延長線との交点から、貫通孔23の内面側開口部25eまでの最短距離D4が0.41mmとなっている。このため、第1斜面部25aに沿って流れる水流が、フィルタ24の露出部位24aのうち、貼着部分(ケース21の貼り付け部26)の近くに当たることとなる。この結果、第2斜面部25fを採用することの効果が打ち消されて、フィルタ24の剥離面積が、サンプルA4よりも大きくなったものと考えられる。
このように、第1斜面部25aに沿って流れる水流が、フィルタ24の露出部位24aのうち、貼着部分(ケース21の貼り付け部26)の近くに当たることで、剥離面積が増加するとの考えは、図16に示すように、最短距離D4が0.87mmであるサンプルA3の結果からも明らかである。
以上から、第1斜面部25aの延長線が、貫通方向において内面21bと同一位置の仮想面と、貫通孔23の内面側開口部25e内で交わる構成においては、上記した最短距離D4が1mm以上となるようにすることが好ましい。このような構成とすると、第1斜面部25aに沿って流れる水流が、フィルタ24の貼着部分から離れた部分に当たることとなるので、高圧水流110によるシート状のフィルタ24の剥がれを抑制できる。
以上の結果から、図5、図13に示したように、断面円形の貫通孔23の貫通方向が、ケース21の内面21b及び外面21aに対して垂直とされ、壁面部25が、傾斜角θ1が一定の第1斜面部25aと繋ぎ部(直線部25b又は第2斜面部25f)を有するとともに、貫通孔23の中心軸23cを中心とする回転対称形状とされた構成では、数式2の関係を満たすように壁面部25を構成すると良い。より好ましくは、第1斜面部25aの延長線が、繋ぎ部(直線部25b又は第2斜面部25f)の壁面と交わるように、壁面部25が構成されると良い。
また、繋ぎ部の長さt1が、ケース21の厚みt0の1/2以上の長さとされた構成とすると良い。さらには、第1斜面部25aの延長線と貫通方向において内面21bと同一位置の仮想面との交点から、貫通孔23の内面側開口部25eまでの最短距離D4が1mm以上となるように、壁面部25が構成されると良い。
一方、サンプルBについては、図19に示す比較サンプルとの比較から、従来よりも剥離面積を小さくできることが明らかである。
また、サンプルC1〜C3についても、図19に示す比較サンプルとの比較から、従来よりも剥離面積を小さくできることが明らかである。
また、直線部25bを有し、厚さt1が等しいサンプルB,C1の比較から、貫通方向においてフィルタ24に近いほど開口面積の変化量が大きい第1斜面部25aを有するサンプルC1の方が、入射角度α1の大きい高圧水流に対しては、フィルタ24の剥離抑制に効果的であることが明らかである。
さらには、サンプルC1〜C3の比較から、繋ぎ部として、直線部25bを有する構成よりも、第2斜面部25fを有する構成のほうが、高圧水流110によるシート状のフィルタ24の剥がれを抑制できることが明らかである。
また、サンプルC2,C3の比較から、繋ぎ部の長さt1が、ケース21の厚みt0の1/2以上の長さとされた構成とすると、フィルタ24の剥がれをより抑制できることが明らかである。
サンプルC1〜C3の場合、第1斜面部25aが、貫通方向においてフィルタ24に近いほど開口面積の変化量が大きいため、第1斜面部25aに沿って流れる水流がフィルタ24の露出部位24aに直接当たりにくい構成となっている。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
上記した参考形態及び実施形態では、防水用筐体として車両のエンジンECUに用いられる防水用筐体20の例を示し、防水装置として車両のエンジンECUとして用いられる防水構造の電子制御装置100の例を示した。また、防水用筐体内に収容される電気部品として、回路基板10の例を示した。しかしながら、電気部品としては回路基板に限定されるものではなく、防水用筐体や防水装置の用途も上記例に限定されるものではない。例えば、車両のヘッドライトを構成するカバーに本実施形態に示す防水用筐体を適用しても良い。この場合、ランプなどが電気部品に相当することとなる。
上記した参考形態及び実施形態では、防水用筐体20(ケース21)の壁面部25が、繋ぎ部として、直線部25b又は第2斜面部25fを含む例を示した。しかしながら、図20に例示するように、繋ぎ部として、直線部25b及び第2斜面部25fを含む構成を採用することもできる。このような構成においても、数式2の関係を満たすように壁面部25を構成すると良い。より好ましくは、第1斜面部25aの延長線が、繋ぎ部(直線部25b及び第2斜面部25f)の壁面と交わるように、壁面部25が構成されると良い。また、繋ぎ部の長さt1が、ケース21の厚みt0の1/2以上の長さとされた構成とすると良い。さらには、第1斜面部25aの延長線と貫通方向において内面21bと同一位置の仮想面との交点から、貫通孔23の内面側開口部25eまでの最短距離D4が1mm以上となるように、壁面部25が構成されると良い。
また、壁面部25が繋ぎ部を含まない構成としても良い。図21に示す例では、壁面部25が、第1斜面部25a(図21では、図5に示した形態を例示)のみを含んでいる。しかしながら、直線部25bや第2斜面部25fなどの繋ぎ部を含むと、上記したようにフィルタ24を端面として溜まった水114のクッション効果を高めることができる。
上記した参考形態及び実施形態では、内面21bに、フィルタ24の貼り付け部26が設けられる例を示した。しかしながら、第1斜面部25aよりも内面21bに近い位置に、貼り付け部26が設けられ、フィルタ24が貼り付け部26に貼り付けられた状態で、貫通孔23がフィルタ24によって覆われる構成となれば良い。例えば、図22に示すように、壁面部25が、第1斜面部25aと内面側開口部25eとの間に、貫通方向に垂直な貼付面を有した貼り付け部26を含む構成を採用することもできる。
図22に示す例では、壁面部25が、外面側開口部25c側から、第1斜面部25a、第1直線部25g、垂直部25h、及び第2直線部25iを有している。第1直線部25gは、一端が第1斜面部25aに連結され、貫通方向において開口面積が一定の部位である。垂直部25hは、第1直線部25gから貫通孔23の中心軸23cに向けて突出し、貫通方向に対して垂直な面を有している。この垂直部25hの一部が、貼り付け部26となっている。そして、第2直線部25iは、貫通方向において開口面積が一定の部位であり、垂直部25hから内面側開口部25eまでを繋いでいる。
なお、図22に示す例では、貫通方向において、第1直線部25gの長さが、フィルタ24の厚さよりも長くなっている。すなわち、貼り付け部26にフィルタ24を貼り付けた状態で、貫通方向において、フィルタ24の表面(外面側)から連結部25dまでの長さt2が所定の長さを有するようになっている。この構成は、内面21bの貼り付け部26にフィルタ24が貼り付けられた上記構成の長さt1を、上記した長さt2に置き換え、第1斜面部25aの延長線が交わる仮想面を、フィルタ24の表面(外面側)と貫通方向において同一位置とすれば、参考形態に示した構成(図5)と非常に似通っている。したがって、図5に示す構成において好ましい形態を図22において適用すれば、図5に示す構成が奏する効果に準ずる効果を奏することができる。
上記した参考形態及び実施形態では、第1斜面部25aが、壁面部25における外面側開口部25cをなす例を示した。しかしながら、例えば図23に示すように、壁面部25が、外面側開口部25cと第1斜面部25aとを繋ぐ直線部25jを含む構成を採用することもできる。この直線部25jは、第1斜面部25aにおける外面側端部の開口面積と同一の開口面積で貫通方向に延びた部位である。
上記した参考形態及び実施形態では、壁面部25が、貫通孔23の中心軸23cを中心とする回転対称形状とされる例を示したが、非回転対称形状を採用することもできる。しかしながら、回転対称形状を採用したほうが好ましいのは、上記したとおりである。
上記した参考形態及び実施形態では、貫通孔23の断面形状が円形である例を示したが、円形に限定されるものではない。矩形などの多角形状を採用することもできる。