JP5606110B2 - セルロースアシレートフィルム、位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置 - Google Patents

セルロースアシレートフィルム、位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置 Download PDF

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Description

本発明は、セルロースアシレートフィルム、位相差フィルム、該セルロースアシレートフィルムを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。
液晶表示装置は、消費電力の小さい省スペースの画像表示装置として年々その用途が広がっている。従来、液晶表示装置は表示画像の視野角依存性が大きいことが大きな欠点であったが、VAモード等の広視野角液晶モードが実用化されており、これによってテレビ等の高品位の画像が要求される市場でも液晶表示装置の需要が急速に拡大しつつある。
液晶表示装置の基本的な構成は液晶セルの両側に偏光板を設けたものである。前記偏光板は一定方向の偏波面の光だけを通す役割を担っており、偏光板の性能によって液晶表示装置の性能が大きく左右される。偏光板は、一般にヨウ素や染料を吸着配向させたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子の表裏両側に透明な保護フィルムを貼り合わせた構成となっている。セルロースアセテートに代表されるセルロースアシレートフィルムは透明性が高く、偏光子に使用されるポリビニルアルコールとの密着性を容易に確保できることから偏光板保護フィルムとして広く使用されてきた。
また、液晶表示装置の偏光板と液晶セルとの間に、光学的に2軸性の位相差フィルムを配置することで、より広い視野角が実現できること、すなわち表示特性を向上できることが知られている。このような位相差フィルムとしても、優れた光学性能、具体的には位相差フィルムの面内レターデーションRe(nm)および厚み方向のレターデーションRth(nm)を発現させることができるセルロースアシレートフィルムが注目されており、セルロースアシレートフィルムは位相差フィルムとしても液晶表示装置に用いられている。
一方、セルロースアシレートフィルムは他の合成ポリマーと比べて、水を吸いやすく、このため環境湿度変化に伴いフィルム性能が変化しやすいという問題を有している。これに対して、疎水的な化合物をセルロースアシレートフィルムに添加することにより、フィルムの含水を抑制する方法が検討されている。添加剤としては、多価アルコール誘導体、多価カルボン酸誘導体等、極性基部と疎水性基部を併せ持つ構造を中心に提案されている。また、特許文献1には、フラノース構造あるいはピラノース構造を有する化合物を添加することにより、セルロースアシレートフィルムの環境湿度変化に伴う光学特性変化を低減させる方法が開示されている。さらにセルロースアシレートフィルムに炭水化物誘導体を添加する方法については、特許文献2にも開示されている。
近年、液晶表示装置の用途拡大につれ、テレビ等の大サイズかつ高品位用途が拡大してきており、偏光板、位相差フィルムおよび偏光板保護フィルムの品質に対する要求も一段と高まっている。特に、大サイズかつ高品位用途の液晶表示装置は、従来に比べて様々な過酷な環境下での使用も求められる。このような観点から、液晶表示装置に用いるセルロースアシレートフィルムには、湿度に対する耐性の向上(さらに含水率を低減させること、高温高湿下で経時させた場合に偏光子を十分に保護すること)と、光学特性(レターデーション、ヘイズ)の両立が望まれてきている。
国際公開特許2007−125764号 国際公開特許2009−011229号
本発明者らが上記特許文献1および2に記載の化合物を検討したところ、これらの文献に記載の化合物を添加してもフィルムの含水率低減、所望の光学特性発現性の付与、ヘイズの低減、高温高湿下で経時させた場合の偏光子性能維持の全てを同時に達成することは難しく、さらなる改善が求められることがわかった。特に、高温高湿下で経時させた場合に偏光子性能維持については、近年求められている60℃、相対湿度95%の環境下で7日間経時させたときの波長410nmにおける直交透過率変化が0.05%以下というレベルを十分満足できてはいないことがわかった。
本発明の目的は、含水率が低く、偏光板に貼り合わせて高温高湿下で経時させた場合に偏光子の劣化を抑制でき、光学特性の発現性が良好であり、ヘイズが低いセルロースアシレートフィルムを提供することにある。また、該セルロースアシレートフィルムを用いた位相差フィルム、および偏光板、およびこれを使用した液晶表示装置を提供することにある。
本発明者らが上記課題を解決することを目的として鋭意研究したところ、特許文献1または2に記載の化合物の改良を様々な観点から試みた。その結果、炭水化物誘導体の置換基の種類と置換度を高度に制御して得られた、特定の構造と特定の物性を有する炭水化物誘導体を添加することで、含水率、偏光子耐久性、所望の範囲の光学特性発現性およびヘイズの全てを同時に改善したフィルムを得ることができることを見出すに至った。具体的には、ヒドロキシル基が2種類以上の置換基で置換されており、かつ前記置換基のうち少なくとも1種が少なくとも一つの芳香環を有し、ClogP値が0〜5.5、230nm〜700nmの波長範囲のモル吸光係数の最大値が50×103以下という条件を全て満たす炭水化物誘導体が、上記課題を解決できることを見出すに至った。特に、従来含水率を低減するためにはClogP値を高い範囲、すなわち疎水的な範囲に設計する必要があると一般に考えられていたところ、上記のようにClogP値を0〜5.5とある程度低い範囲、すなわちある程度親水的な範囲となるように設計した化合物がセルロースアシレートフィルムの含水率を十分低減できることは予想外であった。そのため、このような範囲のClogP値の化合物を用いて、含水率、偏光子耐久性、所望の範囲の光学特性発現性およびヘイズの全てを同時に改善したフィルムを得ることができることは、従来の知見からは予測ができないものであった。
さらに、このような特定の構造と特定の物性を有する炭水化物誘導体は従来知られていなかった。また、上記の条件のうちいずれか一つの条件が満たされていない炭水化物誘導体では上記課題を解決することはできないこともわかった。具体的には、例えば、置換基として芳香環を含む置換基とその他の置換基の2種を含むものの、ClogP値が5.5を超えている特許文献2の例示化合物A−25、A−26、A−28およびA−29は、上記課題を全て解決することはできないことがわかった。また、ClogP値が0〜5.5の範囲を満たし、芳香環を含む置換基を含むものの、置換基が該芳香環を含む置換基1種のみである特許文献2の例示化合物A−5〜A−7は、同様に上記課題を全て解決することができないことがわかった。
すなわち、上記課題は、以下の構成の本発明によって解決される。
[1] セルロースアシレートと、下記の条件(a)および(b)を満たし、ヒドロキシル基が2種類以上の置換基で置換されており、かつ前記置換基のうち少なくとも1種が少なくとも一つの芳香環を有する炭水化物誘導体とを含み、前記セルロースアシレート100質量部に対して前記炭水化物誘導体を1質量部〜30質量部含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
条件(a)ClogP値が0〜5.5。
条件(b)230nm〜700nmの波長範囲のモル吸光係数の最大値が50×103以下。
[2] 前記炭水化物誘導体中に含まれるヒドロキシル基が、該炭水化物誘導体の単糖ユニットあたり1個以下であることを特徴とする[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[3] 前記炭水化物誘導体が、下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
一般式(1)
(OH)p−G−(L1−R1q(L2−R2r
(一般式(1)中、Gは単糖残基または、多糖類残基を表し、L1およびL2はそれぞれ独立に−O−、−CO−、−NR3−のいずれか一つを表し、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に水素原子または一価の置換基を表し、R1およびR2の少なくとも一方は芳香環を有する。pは0以上の整数を表し、qおよびrはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しい。)
[4] 前記炭水化物誘導体中のヒドロキシル基の置換基が、置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、置換または無置換のアミノ基の中から選択されることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[5] 前記炭水化物誘導体中のヒドロキシル基の置換基が、芳香環を含まない置換基を少なくとも一つ含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[6] 前記炭水化物誘導体中のヒドロキシル基の芳香環を含まない置換基が、少なくとも一つのアセチル基を含むことを特徴とする[5]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[7] 前記炭水化物誘導体中のヒドロキシル基の置換基が、少なくとも一つのベンジル基を含むことを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[8] 前記炭水化物誘導体中のヒドロキシル基の置換基が、少なくとも一つのフェニルアセチル基を含むことを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[9] 置換基の導入比率が異なる少なくとも2種類以上の前記炭水化物誘導体を含有することを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[10] [1]〜[9]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを含むことを特徴とする位相差フィルム。
[11] [1]〜[9]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは[10]に記載の位相差フィルムを含んでなる偏光板。
[12] [1]〜[9]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、[10]に記載の位相差フィルムまたは[11]に記載の偏光板を含んでなる液晶表示装置。
本発明によれば、含水率が低く、偏光板に貼り合わせて高温高湿下で経時させた場合に偏光子の劣化を抑制でき、光学特性の発現性が良好であり、ヘイズが低いセルロースアシレートフィルムを提供することができる。また、該セルロースアシレートフィルムを用いた位相差フィルム、および偏光板、およびこれを使用した液晶表示装置を提供することができる。
本発明の液晶表示装置の例を示す概略図である。
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、セルロースアシレートと、下記の条件(a)および(b)を満たし、ヒドロキシル基が2種類以上の置換基で置換されており、かつ前記置換基のうち少なくとも1種が少なくとも一つの芳香環を有する炭水化物誘導体とを含み、前記セルロースアシレート100質量部に対して前記炭水化物誘導体を1質量部〜30質量部含むことを特徴とする。
条件(a)ClogP値が0〜5.5。
条件(b)230nm〜700nmの波長範囲のモル吸光係数の最大値が50×103以下。
前記炭水化物誘導体をセルロースアシレートフィルムに添加することにより、光学特性の発現性を損なわず、かつヘイズを上昇させることなく、フィルムの含水率を大幅に低減できる。
さらに、該セルロースアシレートフィルムを偏光板保護フィルムとして用いることにより、高温高湿下での偏光子の性能劣化を大幅に改良できる。
以下に、前記炭水化物誘導体、セルロースアシレートフィルムの製造方法の順に詳しく説明する。なお、本明細書中、「本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体」とは、条件(a)および(b)を満たし、ヒドロキシル基が2種類以上の置換基で置換されており、かつ前記置換基のうち少なくとも1種が少なくとも一つの芳香環を有する炭水化物誘導体のことを言う。また、「本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体以外のその他の炭水化物誘導体」とは、条件(a)を満たさない炭水化物誘導体、条件(b)を満たさない炭水化物誘導体、ヒドロキシル基が2種類以上の置換基で置換されていない炭水化物誘導体、またはヒドロキシル基を置換している置換基がいずれも芳香環を有さない炭水化物誘導体のことを言う。
<炭水化物誘導体>
本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記炭水化物誘導体を含むことを特徴とする。以下、本発明に用いられる炭水化物誘導体の構造の詳細について、説明する。
(炭水化物誘導体の親疎水性)
いかなる理論に拘泥するものでもないが、添加剤によるセルロースアシレートフィルムの含水率の低下のためには、添加剤がセルロースアシレートの近傍に存在し、一定の疎水場を形成することが重要である。このため添加剤の親疎水性は特定範囲に制御されていることが好ましい。すなわち、添加剤が疎水的過ぎるとセルロースアシレートとの相溶性が不足し、セルロースアシレートに近傍に存在しうる添加剤の割合が少なくなってしまう。一方、添加剤が親水的過ぎると、添加剤自体が水と相互作用しやすくなるためフィルムの含水率をかえって上昇させてしまう。
−条件(a):ClogP値−
オクタノール−水分配係数(logP値)の測定は、一般にJIS日本工業規格Z7260−107(2000)に記載のフラスコ浸とう法により実施することができる。また、オクタノール−水分配係数(logP値)は実測に代わって、計算化学的手法あるいは経験的方法により見積もることも可能である。計算方法としては、Crippen’s fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,27,21(1987))、Viswanadhan’s fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,29,163(1989))、Broto’s fragmentation法(Eur.J.Med.Chem.−Chim.Theor.,19,71(1984))などを用いることが知られている。本発明では、Crippen’s fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,27,21(1987))を用いる。
ClogP値とは、1−オクタノールと水への分配係数Pの常用対数logPを計算によって求めた値である。ClogP値の計算に用いる方法やソフトウェアについては公知の物を用いることができるが、本発明ではDaylight Chemical Information Systems社のシステム:PCModelsに組み込まれたCLOGPプログラムを用いた。
また、ある化合物のlogPの値が、測定方法あるいは計算方法により異なる場合に、該化合物が本発明の範囲内であるかどうかは、Crippen’s fragmentation法により判断することとなる。
炭水化物誘導体の親疎水性は、オクタノール−水分配係数(以下logPと称することがある)により表すことができる。本発明に用いられる炭水化物誘導体の親疎水性が、オクタノール−水分配係数の中でも前記ClogP値として0〜5.5の範囲になるように制御されていることを特徴とする。本発明に用いられる炭水化物誘導体のClogP値は、さらに好ましくは1.0〜5.0であり、最も好ましくは2.0〜4.5である。
本発明のフィルムは炭水化物誘導体を2種以上含んでいてもよい。すなわち、本発明のフィルムが本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体(すなわち、前記条件(a)および前記条件(b)をともに満たし、ヒドロキシル基が2種類以上の置換基で置換されており、かつ前記置換基のうち少なくとも1種が少なくとも一つの芳香環を有する炭水化物誘導体)を1〜30質量部含んでいる場合、本発明のフィルムは本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体以外のその他の炭水化物誘導体を、本発明の趣旨に反しない限りにおいて含んでいてもよい。すなわち、本発明のフィルムは、後述する表1〜表4において、比較例用と記載されている炭水化物誘導体を含んでいてもよい。
また、本発明のフィルムが炭水化物誘導体を2種以上含む場合、置換基の導入比率が異なる少なくとも2種類以上の炭水化物誘導体を含有することが、光学特性の発現性を損なわず、かつヘイズを上昇させることなく、フィルムの含水率を大幅に低減できる観点から好ましい。また、該セルロースアシレートフィルムを偏光板保護フィルムとして用いることにより、高温高湿下での偏光子の性能劣化を大幅に改良できる観点からも好ましい。
上述したとおり本発明に単独で用いられる前記炭水化物誘導体は、条件(a)および(b)を満たし、ヒドロキシル基が2種類以上の置換基で置換されており、かつ前記置換基のうち少なくとも1種が少なくとも一つの芳香環を有する。このような本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体において、「置換基の導入比率が異なる」とは、炭水化物誘導体の構成糖のヒドロキシル基を置換している2種以上の置換基の種類が全て同じであって、かつ、各置換基の数が互いに異なることをいう。例えば、炭水化物誘導体の構成糖のヒドロキシル基がベンゾイル基とアセチル基の2種類の置換基で置換されている場合、ベンゾイル基で置換されているヒドロキシル基の数と、アセチル基で置換されているヒドロキシル基の数が異なっており、かつベンゾイル基およびアセチル基以外のその他置換基を有さないことを意味する(但し、無置換のヒドロキシル基は有していてもよい)。
また、本発明のフィルムは、「本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体」1種類と、「本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体以外のその他の炭水化物誘導体」1種類とを併用する場合も本発明の効果を奏する。
しかし、その場合よりも、本発明のフィルムが「本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体」を少なくとも2種類以上含有することがより好ましい。ここで、「本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体」を少なくとも2種類以上含有している場合において、前記「本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体以外のその他の炭水化物誘導体」は併用しても、併用しなくてもよい。その中でも、「本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体以外のその他の炭水化物誘導体」を併用しないことがヘイズおよび波長分散の観点から好ましい。
置換基の導入比率の異なり方については、特に制限はない。例えば、炭水化物誘導体の5官能構成糖のヒドロキシル基がベンゾイル基とアセチル基の2種類の置換基で置換されている場合、ベンゾイル基の数とアセチル基の数がそれぞれ0〜5、5〜0の任意の数である炭水化物誘導体を、2種以上用いることができる。置換基の導入比率の異なり方の好ましい範囲については、以下の態様が好ましい。
ベンゾイル基の数が2および3のものの比率が最も高く、ベンゾイル基数2>ベンゾイル基数1>ベンゾイル基数0の順、およびベンゾイル基数3>ベンゾイル基数4>ベンゾイル基数5の順に比率が減少する様態が好ましい。
本発明のフィルムが炭水化物誘導体を2種以上含む場合、偏光子耐久性およびヘイズの観点から本発明のフィルム中に含まれる全ての炭水化物誘導体のClogP値の平均値は1.0〜5.5であることが好ましく、1.5〜5.0であることがより好ましく、2.0〜4.5であることが特に好ましい。すなわち、本発明のフィルムが炭水化物誘導体を2種以上含む場合の置換基の導入比率の異なり方は、このようなClogP値の平均値の範囲になるような導入比率にすることが好ましい。
本明細書中、前記平均ClogPは下記式により算出した。
平均ClogP=ΣClogPi・Wi
(式中、ClogPiはi番目の炭水化物誘導体のClogP値を表し、Wiはi番目の炭水化物誘導体添加量の、全炭水化物誘導体添加量に対する重量比率を表す。)
(炭水化物誘導体の吸収特性)
VA、IPS等の液晶表示装置に用いられる位相差フィルムにおいては、一般にReが逆波長分散(短波長側ほどReが小さくなる波長分散)を有している方がコントラスト、色味ともに優れた表示性能が得られることが知られている。セルロースアシレートは波長分散が逆分散性を有しており、この点で好ましい。一方、200nm以上の紫外領域に吸収を有する添加剤をセルロースアシレートフィルムに添加するとフィルムの波長分散が順分散(短波長ほどReが多くなる)方向に変化することが知られている。また、いかなる理論に拘泥するものでもないが、炭水化物誘導体の230nm〜700nmのモル吸光係数を特定の範囲以下とすることで、偏光板に貼り合わせて高温高湿下で経時させた場合に偏光子の劣化を抑制できることを本発明者らは見出した。
−条件(b):波長230nm〜700nmのモル吸光係数の最大値−
このため、本発明に用いられる炭水化物誘導体は、波長230nm〜700nmのモル吸光係数(以下、εとも言う)の最大値が50×103以下である。
本発明に用いられる炭水化物誘導体の波長230nm〜700nmのモル吸光係数の最大値は好ましくは30×103以下であり、さらに好ましくは20×103以下であり、最も好ましくは10×103以下である。
(分子量)
また、本発明に用いられる炭水化物誘導体の分子量は300〜1500が好ましく350〜1200がさらに好ましく、400〜1000が最も好ましい。前記範囲の分子量を有する炭水化物誘導体を使用することにより、フィルム製造工程における炭水化物誘導体の揮散を抑制でき、かつセルロースアシレートとの相溶性を確保しやすくなり好ましい。また、本発明のフィルム中に含まれる、本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体以外のその他の炭水化物誘導体の分子量の好ましい範囲についても、本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体の分子量の好ましい範囲と同様である。
(炭水化物誘導体の構造)
本発明に用いられる炭水化物誘導体は、本発明に用いられる炭水化物誘導体は、前記条件(a)および条件(b)を満たすための構造を有する。さらに、本発明に用いられる炭水化物誘導体は、ヒドロキシル基が2種類以上の置換基で置換されており、かつ前記置換基のうち少なくとも1種が少なくとも一つの芳香環を有する構造を有する。以下、本発明に用いられる炭水化物誘導体の構造の構造について順に説明する。
−条件(a)を満たすための構造−
本発明に用いられる炭水化物誘導体において、ClogP値を上昇させるための構造としては、芳香環あるいはシクロアルキル環等の環状構造が好ましく、芳香環が特に好ましい。そのため、本発明に用いられる炭水化物誘導体は、その置換基のうち少なくとも1種が少なくとも一つの芳香環を有することを特徴とする。その他、ClogP値を本発明の範囲に制御するにあたり、必須の構造はなく、前記少なくとも1つの芳香環を有する置換基と、その他の任意の置換基を適当な比率で導入することにより、ClogP値を本発明の範囲に制御してよい。
−条件(b)を満たすための構造−
上記吸収特性、すなわち波長230nm〜700nmのモル吸光係数の最大値を30×103以下にするための炭水化物誘導体の構造としては、特に制限はないが、例えば、以下の構造であることが好ましい。
本発明に用いられる炭水化物誘導体が上記吸収特性を満たすための好ましい第1の構造としては、2重結合を有する官能基(カルボニル基等)との間で共役していない芳香環を有する置換基を含む炭水化物誘導体を挙げることができる。前記第1の構造における、2重結合を有する官能基との間で共役していない芳香環を有する置換基の好ましい具体例としてはベンジル基、フェニルアセチル基等があげられる。
一方、本発明に用いられる炭水化物誘導体が上記吸収特性を満たすための好ましい第2の構造としては、2重結合を有する官能基との間で共役している芳香環を有する置換基の置換度を、一定以下に制御した炭水化物誘導体を挙げることができる。前記第2の構造における、2重結合を有する官能基との間で共役している芳香環を有する置換基の好ましい具体例としては、例えば、ベンゾイル基を挙げることができる。ベンゾイル基を置換基として有する本発明に用いられる炭水化物誘導体の場合、該炭水化物誘導体の単糖ユニットあたりのベンゾイル基の置換度は3以下であることが好ましく、2以下であることがさらに好ましい。
前記第1の構造と前記第2の構造の中でも、本発明に用いられる炭水化物誘導体は、前記第1の構造を有することが好ましい。
−炭水化物誘導体に用いられる置換基−
本発明に用いられる炭水化物誘導体は、該炭水化物誘導体の構成糖のヒドロキシル基が2種類以上の置換基で置換されており、かつ前記置換基のうち少なくとも1種が少なくとも一つの芳香環を有する。
本発明に用いられる炭水化物誘導体は、用いられる置換基を含め、下記一般式(1)で表される構造を有することが好ましい。
一般式(1)
(OH)p−G−(L1−R1q(L2−R2r
一般式(1)中、Gは単糖残基または、多糖類残基を表し、L1およびL2はそれぞれ独立に−O−、−CO−、−NR3−のいずれか一つを表し、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に水素原子または一価の置換基を表し、R1およびR2の少なくとも一方は芳香環を有する。pは0以上の整数を表し、qおよびrはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しい。
前記Gの好ましい範囲は、後述する構成糖の好ましい範囲と同様である。
前記L1およびL2は、−O−または−CO−であることが好ましく、−O−であることがより好ましい。前記L1およびL2が−O−である場合は、エーテル結合またはエステル結合由来の連結基であることが特に好ましく、エステル結合由来の連結基であることがより特に好ましい。
また、前記L1およびL2がそれぞれ複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
前記R1、R2およびR3は、一価の置換基であることが好ましい。特に、前記L1およびL2が−O−である場合(すなわち前記炭水化物誘導体中のヒドロキシル基にR1、R2およびR3が置換している場合)、前記R1、R2およびR3は置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアミノ基の中から選択されることが好ましく、置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、あるいは置換または無置換のアリール基であることがより好ましく、無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、あるいは、無置換のアリール基であることが特に好ましい。
また、前記R1、R2およびR3がそれぞれ複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
前記pは0以上の整数を表し、好ましい範囲は後述する単糖ユニット当たりのヒドロキシル基の数の好ましい範囲と同様である。
前記qおよび前記rはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、前記条件(a)および(b)を満たす範囲であれば好ましい範囲については特に制限はない。
また、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しいため、前記p、qおよびrの上限値は前記Gの構造に応じて一意に決定される。
前記炭水化物誘導体の置換基の好ましい例としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、2−シアノエチル基、ベンジル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜24、より好ましくは6〜18、特に好ましくは6〜12のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基)、アシル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアシル基、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、トルイル基、フタリル基など)、アミド基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアミド、例えばホルムアミド基、アセトアミド基など)、イミド基(好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数4〜12、特に好ましくは炭素数4〜8のアミド基、例えば、スクシイミド基、フタルイミド基など)を挙げることができる。
このうち、前記少なくとも一つの芳香環を有する置換基としては、前記条件(b)を満たすための構造において例示した置換基が好ましい。本発明では、前記炭水化物誘導体中のヒドロキシル基の置換基が少なくとも一つのベンジル基を含むことが湿度に対する耐性の向上の観点からより好ましい。また、同様に本発明では、前記炭水化物誘導体中のヒドロキシル基の置換基が、少なくとも一つのフェニルアセチル基を含むことが湿度に対する耐性の向上の観点からより好ましい。
前記炭水化物誘導体の構成糖のヒドロキシル基が2種類以上の置換基で置換されているが、本発明では、前記炭水化物誘導体中のヒドロキシル基の置換基が、芳香環を含まない置換基を少なくとも一つ含むことが、ヘイズ低減の観点から好ましい。
前記芳香環を含まない置換基としては、例えば、アルキル基、アシル基などを挙げることができ、その中でもアセチル基、プロピル基およびt−ブチル基が好ましく、前記炭水化物誘導体中のヒドロキシル基の芳香環を含まない置換基が少なくとも一つのアセチル基を含むことがヘイズ低減の観点から好ましい。
−単糖ユニット当たりのヒドロキシル基の数−
また、本発明に用いられる炭水化物誘導体中の単糖ユニット当たりのヒドロキシル基の数(以下、ヒドロキシル基含率とも言う)は、1以下であることが好ましい。ヒドロキシル基含率を前記範囲に制御することにより、高温高湿経時における炭水化物誘導体の偏光子層への移動およびPVA-ヨウ素錯体の破壊を抑制でき、高温高湿経時における偏光子性能の劣化を抑制する点から好ましい。
−構成糖−
本発明に用いられる炭水化物誘導体は、単糖または2〜5個の単糖単位を含む炭水化物の誘導体であることが好ましく、単糖または2個の単糖単位を含む炭水化物の誘導体であることがより好ましい。
前記炭水化物誘導体を好ましく構成する単糖または多糖は、分子中の置換可能な基(例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基など)が少なくとも2種の置換基で置換されており、かつ前記置換基のうち少なくとも1種が少なくとも一つの芳香環を有する置換基で置換されていることを特徴とする。
前記単糖または2〜10個の単糖単位を含む炭水化物の例としては、例えば、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、フルクトース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、トレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロース、トレハロサミン、コウジビオース、ニゲロース、マルトース、マルチトール、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、ラクトサミン、ラクチトール、ラクツロース、メリビオース、プリメベロース、ルチノース、シラビオース、スクロース、スクラロース、ツラノース、ビシアノース、セロトリオース、カコトリオース、ゲンチアノース、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マンニノトリオース、メレジトース、パノース、プランテオース、ラフィノース、ソラトリオース、ウンベリフェロース、リコテトラオース、マルトテトラオース、スタキオース、バルトペンタオース、ベルバルコース、マルトヘキサオース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。
好ましくは、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、トレハロース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、スクラロース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールであり、さらに好ましくは、アラビノース、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンであり、特に好ましくは、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、キシリトール、ソルビトールである。
(炭水化物誘導体の具体例)
前記炭水化物誘導体はピラノース構造またはフラノース構造を有することが好ましく、中でもピラノース構造のみ(ピラノース構造を複数有する多糖構造も含む)を有することが特に好ましい。
本発明に用いられる炭水化物誘導体の好ましい例と、本発明に含まれない炭水化物誘導体の例としては、以下のものを挙げることができる。ただし、本発明で用いることができる炭水化物誘導体は、これらに限定されるものではない。なお、以下の構造式中、Rはそれぞれ独立に任意の置換基を表し、複数のRは同一であっても、異なっていてもよい。
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(入手方法)
前記炭水化物誘導体の入手方法としては、市販品として(株)東京化成製、アルドリッチ製等から入手可能であり、もしくは市販の炭水化物に対して既知のエステル誘導体化法(例えば、特開平8−245678号公報に記載の方法)を行うことにより合成可能である。
(添加量)
これらの前記条件(a)および前記条件(b)などをともに満たす前記炭水化物誘導体(本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体)の添加量は、セルロースアシレート100質量部に対して1〜30質量部である。1質量%以上であれば、偏光子耐久性改良効果が得られやすく、また30質量%以下であれば、ブリードアウトも発生しにくい。より好ましい添加量はセルロースアシレート100質量部に対して1〜20質量部であり、さらに好ましい添加量は2〜15質量部であり、特に好ましくは5〜12質量部である。
また、本発明のフィルムが、本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体以外のその他の炭水化物誘導体を含む場合も、全ての炭水化物誘導体の好ましい添加量は、本発明に単独で用いられる前記炭水化物誘導体の添加量の好ましい範囲と同様である。
本発明のフィルムに含まれる炭水化物誘導体の全量に対する、本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体の割合は、50〜100質量%であることが好ましく、70〜100質量%であることがより好ましく、100質量%であること、すなわち本発明のフィルムに含まれる炭水化物誘導体の全てが本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体であることが特に好ましい。
本発明のフィルムが炭水化物誘導体を2種以上の含有する場合、本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体と、本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体以外のその他の炭水化物誘導体との添加量の割合(質量比)は、50:50〜100:0であることが好ましく、60:40〜100:0であることがより好ましく、70:30〜100:0であることが特に好ましい。
前記炭水化物誘導体をセルロースアシレートフィルムに添加するタイミングは、製膜される時点で添加されていれば特に限定されない。例えば、セルロースアシレートの合成時点で添加してもよいし、ドープ調製時セルロースアシレートと混合してもよい。
<セルロースアシレート>
次に本発明で使用するセルロースアシレートについて詳しく説明する。
セルロースアシレートの置換度は、セルロースの構成単位((β)1,4−グリコシド結合しているグルコース)に存在している、3つの水酸基がアシル化されている割合を意味する。置換度(アシル化度)は、セルロースの構成単位質量当りの結合脂肪酸量を測定して算出することができる。本発明において、セルロース体の置換度はセルロース体を重水素置換されたジメチルスルフォキシド等の溶剤に溶解して13C−NMRスペクトルを測定し、アシル基中のカルボニル炭素のピーク強度比から求めることにより算出することができる。セルロースアシレートの残存水酸基をセルロースアシレート自身が有するアシル基とは異なる他のアシル基に置換したのち、13C−NMR測定により求めることができる。測定方法の詳細については、手塚他(Carbohydrate.Res., 273(1995)83-91)に記載がある。
本発明におけるセルロースアシレートは、アシル化度が1.50〜2.98であるセルロースアセテートが好ましい。前記アシル化度は2.00〜2.97がさらに好ましい。
本発明のセルロースアシレートのアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が特に好ましい。
2種類以上のアシル基からなる混合脂肪酸エステルも本発明のセルロースアシレートとして好ましく用いることができる。この場合も、アシル基としてはアセチル基と炭素数が3〜4のアシル基が好ましい。また、アセチル基の置換度は2.5未満が好ましく、1.9未満がさらに好ましい。
本発明においては、置換基および/または置換度の異なる2種のセルロースアシレートを併用、混合して用いてもよいし、後述の共流延法などにより、異なるセルロースアシレートからなる複数層からなるフィルムを形成してもよい。
さらに特開2008−20896号公報の〔0023〕〜〔0038〕に記載の脂肪酸アシル基と置換もしくは無置換の芳香族アシル基とを有する混合酸エステルも本発明に好まく用いることができる。
本発明で用いられるセルロースアシレートは、250〜800の質量平均重合度を有することが好ましく、300〜600の質量平均重合度を有することがさらに好ましい。また本発明で用いられるセルロースアシレートは、70000〜230000の数平均分子量を有することが好ましく、75000〜230000の数平均分子量を有することがさらに好ましく、78000〜120000の数平均分子量を有することが最も好ましい。
本発明で用いられるセルロースアシレートは、アシル化剤として酸無水物や酸塩化物を用いて合成できる。前記アシル化剤が酸無水物である場合は、反応溶媒として有機酸(例えば、酢酸)や塩化メチレンが使用される。また、触媒として、硫酸のようなプロトン性触媒を用いることができる。アシル化剤が酸塩化物である場合は、触媒として塩基性化合物を用いることができる。工業的に最も一般的な合成方法では、セルロースをアセチル基および他のアシル基に対応する有機酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)またはそれらの酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)を含む混合有機酸成分でエステル化してセルロースエステルを合成する。
前記方法においては、綿花リンターや木材パルプのようなセルロースは、酢酸のような有機酸で活性化処理した後、硫酸触媒の存在下で、上記のような有機酸成分の混合液を用いてエステル化する場合が多い。有機酸無水物成分は、一般にセルロース中に存在する水酸基の量に対して過剰量で使用する。このエステル化処理では、エステル化反応に加えてセルロース主鎖(β)1,4−グリコシド結合)の加水分解反応(解重合反応)が進行する。主鎖の加水分解反応が進むとセルロースエステルの重合度が低下し、製造するセルロースエステルフィルムの物性が低下する。そのため、反応温度のような反応条件は、得られるセルロースエステルの重合度や分子量を考慮して決定することが好ましい。
<セルロースアシレートフィルムの製造方法>
本発明におけるセルロースアシレートフィルムは、ソルベントキャスト法により製造することができる。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。
前記有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
前記エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。また、前記エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、前記有機溶媒として用いることができる。前記有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する溶媒の上述の好ましい炭素原子数範囲内であることが好ましい。
前記炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
前記炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
前記炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
また、2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
また、2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
セルロースアシレート溶液(ドープ)は、0℃以上の温度(常温または高温)で処理することからなる一般的な方法で調製することができる。セルロースアシレート溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレート溶液中におけるセルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
セルロースアシレート溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを撹拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で撹拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、且つ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら撹拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は撹拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
撹拌は、容器内部に撹拌翼を設けて、これを用いて行うことが好ましい。撹拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。撹拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
冷却溶解法により、セルロースアシレート溶液を調製することもできる。冷却溶解法の詳細については、特開2007−86748号公報の〔0115〕〜〔0122〕に記載されている技術を用いることができる。
では、通常の溶解方法ではセルロースアシレートを溶解させることが困難な有機溶媒中にも、セルロースアシレートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアシレートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
冷却溶解法では、最初に室温で有機溶媒中にセルロースアシレートを撹拌しながら徐々に添加する。セルロースアシレートの量は、この混合物中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
次に、混合物を−100〜−10℃(好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。冷却によりセルロースアシレートと有機溶媒の混合物は固化する。
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を、冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
さらに、冷却した混合物を0〜200℃(好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは0〜120℃、最も好ましくは0〜50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアシレートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよく、温浴中で加温してもよい。加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を、加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
以上のようにして、均一なセルロースアシレート溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量計(DSC)による測定によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保することが好ましい。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造する。ドープにはレターデーション発現剤を添加することが好ましい。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。
ソルベントキャスト法における乾燥方法については、米国特許第2,336,310号、同2,367,603号、同2,492,078号、同2,492,977号、同2,492,978号、同2,607,704号、同2,739,069号および同2,739,070号の各明細書、英国特許第640731号および同736892号の各明細書、並びに特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号および同62−115035号の各公報に記載がある。バンドまたはドラム上での乾燥は空気、窒素などの不活性ガスを送風することにより行なうことができる。
また、得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100℃〜160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して、残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)を用いて2層以上の流延を行いフィルム化することもできる。この場合、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを作製することが好ましい。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10〜40質量%の範囲となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
2層以上の複数のセルロースアシレート液を流延する場合、複数のセルロースアシレート溶液を流延することが可能であり、支持体の進行方向に間隔をおいて設けられた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよい。これらは、例えば、特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および特開平11−198285号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによっても、フィルム化することもできる。これは、例えば、特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、および、特開平6−134933号の各公報に記載の方法を用いることができる。さらに特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高・低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押し出すセルロースアシレートフィルムの流延方法を用いることもできる。
また、2個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフィルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フィルムを作製することもできる。例えば、特公昭44−20235号公報に記載の方法を挙げることができる。
流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液を用いてもよいし、異なるセルロースアシレート溶液を2種以上用いてもよい。複数のセルロースアシレート層に機能をもたせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押し出せばよい。さらに本発明におけるセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)と同時に流延することもできる。
従来の単層液では、必要なフィルムの厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押し出すことが必要である。その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。この問題の解決方法として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができる。
セルロースアシレートフィルムには、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン等)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。また、前記劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.2質量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01質量%以上であれば、劣化防止剤の効果が十分に発揮されるので好ましく、添加量が1質量%以下であれば、フィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)などが生じにくいので好ましい。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
また、セルロースアシレートフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
本発明において2次平均粒子径の小さな粒子を有するセルロースアシレートフィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作成し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレート溶液(ドープ液)と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子がさらに再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行い、これを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がさらに好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤微粒子の添加量は1m3あたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがさらに好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。
使用される溶剤は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。本発明におけるセルロースアシレートフィルムの製造に用いる巻き取り機は、一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
(延伸処理)
本発明のセルロースアシレートフィルムには、延伸処理をおこなうこともできる。延伸処理によりセルロースアシレートフィルムに所望のレターデーションを付与することが可能である。セルロースアシレートフィルムの延伸方向は幅方向、長手方向のいずれでも好ましい。
幅方向に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号などの各公報に記載されている。
フィルムの延伸は、加熱条件下で実施する。フィルムは、乾燥中の処理で延伸することができ、特に溶媒が残存する場合は有効である。長手方向の延伸の場合、例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。幅方向の延伸の場合、フィルムの巾をテンターで保持しながら搬送して、テンターの巾を徐々に広げることによってもフィルムを延伸できる。フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)もできる。
本発明のセルロースアシレートフィルムの延伸は、セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度Tgを用いて、(Tg−5℃)〜(Tg+40℃)の温度で行うことが好ましく、Tg〜(Tg+35℃)であることがより好ましく、(Tg+10℃)〜(Tg+30℃)であることが特に好ましい。乾膜の場合、130℃〜200℃が好ましい。
また、流延後にドープ溶剤が残存した状態で延伸を行う場合、乾膜よりも低い温度で延伸が可能となり、この場合、100℃〜170℃が好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルムの延伸倍率(延伸前のフィルムに対する伸び率)は、1%〜200%が好ましく、5%〜150%がさらに好ましい。とくに、幅方向に1%〜200%で延伸するのが好ましく、さらに好ましくは5%〜150%、特に好ましくは30〜45%である。
延伸速度は1%/分〜300%/分が好ましく、10%/分〜300%/分がさらに好ましく、30%/分〜300%/分が最も好ましい。
また、本発明における延伸セルロースアシレートフィルムは、最大延伸倍率まで延伸したのちに、最大延伸倍率より低い延伸倍率で一定時間保持する工程(以下、「緩和工程」と称することがある。)を経て製造されることが好ましい。緩和工程における延伸倍率は最大延伸倍率の50%〜99%が好ましく、70%〜97%がさらに好ましく、90%〜95%が最も好ましい。また、緩和工程の時間は1秒〜120秒が好ましく、5秒〜100秒がさらに好ましい。
さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムは幅方向にフィルムを把持しながら収縮させる収縮工程を含むことにより好ましく製造することができる。
フィルムの幅方向に延伸する延伸工程と、フィルムの搬送方向(長手方向)に収縮させる収縮工程を含むことを特徴とする製造方法においてはパンタグラフ式あるいはリニアモーター式のテンターによって保持し、フィルムの幅方向に延伸しながら搬送方向にはクリップの間隔を徐々に狭めることでフィルムを収縮させることが出来る。
前記で説明した方法は、延伸工程と収縮工程の少なくとも一部が、同時に行われているということができる。
なお、上記のようなフィルムの長手方向または幅方向のいずれか一方を延伸し、同時にもう一方を収縮させ、同時にフィルムの膜厚を増加させる延伸工程を具体的に行う延伸装置として、市金工業社製FITZ機などを望ましく用いることができる。この装置に関しては(特開2001−38802号公報)に記載されている。
延伸工程における延伸倍率および収縮工程における収縮率としては目的とする面内のレターデーションReおよび厚さ方向のレターデーションRthの値により、任意に適切な値を選択することができるが、延伸工程における延伸倍率が10%以上であり、かつ収縮工程における収縮率を5%以上とすることが好ましい。
特に、フィルムの幅方向に10%以上延伸する延伸工程と、フィルムの幅方向にフィルムを把持しながらフィルムの搬送方向を5%以上収縮させる収縮工程とを含むことが好ましい。
なお、本発明でいう収縮率とは、収縮方向における収縮前のフィルムの長さに対する収縮後のフィルムの収縮した長さの割合を意味する。
収縮率としては5〜40%が好ましく、10〜30%が特に好ましい。
<セルロースアシレートフィルムの特性>
(レターデーション)
次に本発明セルロースアシレートフィルムの特性について詳しく説明する。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、下記式(1)〜(4)の関係を満たすことが好ましい。
0nm<Re<300nm ・・・式(1)
−50nm<Rth<400nm ・・・式(2)
式(1)においてReは0nm〜200nmが好ましく、0nm〜150nmがより好ましい。
また、式(2)においてRthは−30nm〜350nmが好ましく、−10nm〜300nmがより好ましい。
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。また、本明細書中、特にことわりがなくRe、Rthと言う場合、波長548nmにおけるReおよびRthを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基に、以下の式(21)および式(22)よりRthを算出することもできる。
Figure 0005606110
注記:
上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値をあらわす。式(21)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。dはフィルムの厚さを表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(22)
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
(セルロースアシレートフィルムの厚み)
本発明におけるセルロースアシレートフィルムの厚みは30μm〜100μmが好ましく、30μm〜80μmがさらに好ましく、30μm〜60μmが最も好ましい。
(セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度)
ガラス転移温度の測定は、以下の方法により測定する。本発明のセルロースアシレートフィルム試料24mm×36mmを、25℃、相対湿度60%で2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA-225(アイティー計測制御株式会社製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜200℃、周波数1Hzで測定した。縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度をとり、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に観察される貯蔵弾性率の急激な減少に対して、JIS K7121−1987の図3に記載の方法によりガラス転移温度Tgを求めた。
(セルロースアシレートフィルムの含水率)
本発明のセルロースアシレートフィルムの25℃、相対湿度80%における平衡含水率は、0〜5.0%であることが好ましい。前記平衡含水率は、より好ましくは0.1〜4.0%である。平衡含水率が5.0%以下であれば、水の可塑化効果によるセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度低下が小さく、高温高湿下の偏光子性能劣化を抑制する点から好ましい。
含水率の測定法は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))にてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料重量(g)で除して算出した。
<鹸化処理>
本発明のセルロースアシレートフィルムはアルカリ鹸化処理することによりポリビニルアルコールのような偏光子の材料との密着性を付与し、偏光板保護フィルムとして用いることができる。鹸化の方法については、特開2007−86748号公報の〔0211〕と〔0212〕に記載され、偏光板の偏光子の作り方、偏光板の光学特性等については同公報の〔0213〕〜〔0255〕に記載されており、これらの記載を基に本発明のフィルムを保護フィルムに用いた偏光板を作製することができる。
例えば本発明のセルロースアシレートフィルムに対するアルカリ鹸化処理は、フィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。前記アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオンの濃度は0.1〜5.0mol/Lの範囲にあることが好ましく、0.5〜4.0mol/Lの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温〜90℃の範囲にあることが好ましく、40〜70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
[偏光板]
偏光板は、一般に、偏光子およびその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる。一方の保護膜として、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いることができる。他方の保護膜は、通常のセルロースアセテートフィルムを用いてもよい。偏光子には、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子がある。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。本発明のセルロースアシレートフィルムを偏光板保護膜として用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロースアシレートフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。保護膜処理面と偏光子を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。偏光板は偏光子およびその両面を保護する保護膜で構成されており、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルムおよびセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
本発明のセルロースアシレートフィルムの偏光子への貼り合せ方は、偏光子の透過軸と本発明のセルロースアシレートフィルムの遅相軸が実質的に平行となるように貼り合せることが好ましい。
本発明の液晶表示装置において、偏光板の透過軸と本発明のセルロースアシレートフィルムの遅相軸が、実質的に平行であることが好ましい。ここで、実質的に平行であるとは、本発明のセルロースアシレートフィルムの主屈折率nxの方向と偏光板の透過軸の方向とは、そのずれが5°以内であることをいい、1°以内、好ましくは0.5°以内であることが好ましい。ずれが1°より大きいと、偏光板クロスニコル下での偏光度性能が低下して光抜けが生じて好ましくない。
偏光板の直交透過率CTは、UV3100PC(島津製作所社製)を用いて測定した。測定では、380nm〜780nmの範囲で測定し、10回測定の平均値を用いた。
偏光板耐久性試験は(1)偏光板のみと(2)偏光板をガラスに粘着剤を介して貼り付けた、2種類の形態で次のように行った。(1)の偏光板のみの測定は、2つの偏光子の間に光学補償膜本発明のセルロースアシレートフィルムが挟まれるように組み合わせて直交、同じのものを2つ用意する。(2)の偏光板をガラスに粘着剤を介して貼り付けた形態での測定は、ガラスの上に偏光板を光学補償膜本発明のセルロースアシレートフィルムがガラス側にくるように貼り付けたサンプル(約5cm×5cm)を2つ作成する。単板直交透過率測定ではこのサンプルのフィルムの側を光源に向けてセットして測定する。2つのサンプルをそれぞれ測定し、その平均値を単板直交透過率とする。本発明の実施例では、上記(1)および(2)の試験方法のうち、(2)の試験方法を採用した。
偏光性能の好ましい範囲としては直交透過率CTがCT≦2.0であり、より好ましい範囲としてはCT≦1.3(単位はいずれも%)である。
また偏光板耐久性試験ではその変化量はより小さいほうが好ましい。本発明の偏光板は、60℃、相対湿度95%に7日間静置させたときの直交透過率の変化量(%)が0.05%以下である。
ここで、変化量とは試験後測定値から試験前測定値を差し引いた値である。
上記直交透過率の変化量の範囲を満たせば、偏光板の高温高湿下で長時間使用中あるいは保管中の安定性が確保でき、好ましい。
<偏光板の機能化>
本発明における偏光板は、ディスプレイの視認性向上のための反射防止フィルム、輝度向上フィルムや、ハードコート層、前方散乱層、アンチグレア(防眩)層等の機能層を有する光学フィルムと複合した機能化偏光板としても好ましく使用される。機能化のための反射防止フィルム、輝度向上フィルム、他の機能性光学フィルム、ハードコート層、前方散乱層、アンチグレア層については、特開2007−86748号公報の〔0257〕〜〔0276〕に記載され、これらの記載を基に機能化した偏光板を作成することができる。
(反射防止フィルム)
本発明における偏光板は反射防止フィルムと組み合わせて使用することができる。反射防止フィルムは、フッ素系ポリマー等の低屈折率素材を単層付与しただけの反射率1.5%程度のフィルム、または薄膜の多層干渉を利用した反射率1%以下のフィルムのいずれも使用できる。本発明では、透明支持体上に低屈折率層、および低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(即ち、高屈折率層、中屈折率層)を積層した構成が好ましく使用される。また、日東技報,vol.38,No.1,May,2000,26頁〜28頁や特開2002−301783号公報などに記載された反射防止フィルムも好ましく使用できる。
各層の屈折率は以下の関係を満足する。
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率
反射防止フィルムに用いる透明支持体は、前述の偏光子の保護フィルムに使用する透明ポリマーフィルムを好ましく使用することができる。
低屈折率層の屈折率は1.20〜1.55であることが好ましく、さらに好ましくは1.30〜1.50である。低屈折率層は、耐擦傷性、防汚性を有する最外層として使用することが好ましい。耐擦傷性向上のため、シリコーン基を含有する含シリコーン化合物や、フッ素を含有する含フッ素化合物等の素材を用い表面への滑り性を付与することも好ましく行われる。
前記含フッ素化合物としては、例えば、特開平9−222503号公報[0018]〜[0026]、同11−38202号公報[0019]〜[0030]、特開2001−40284号公報[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物を好ましく使用することができる。
前記含シリコーン化合物はポリシロキサン構造を有する化合物が好ましいが、反応性シリコーン(例えば、サイラプレーン(チッソ(株)製)や両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報)等を使用することもできる。シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化させてもよい(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報、特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報記載の化合物等)。
低屈折率層には、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820号公報の[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有させることも好ましく行うことができる。
前記低屈折率層は、気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されてもよいが、安価に製造できる点で、塗布法で形成することが好ましい。塗布法としては、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、マイクログラビア法を好ましく使用することができる。
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmであることが最も好ましい。
中屈折率層および高屈折率層は、平均粒子サイズ100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子をマトリックス用材料に分散した構成とすることが好ましい。高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物、例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等を好ましく使用できる。
このような超微粒子は、粒子表面を表面処理剤で処理したり(シランカップリング剤等:特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908号公報、アニオン性化合物或は有機金属カップリング剤:特開2001−310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造としたり(特開2001−166104号公報等)、特定の分散剤を併用する(例えば、特開平11−153703号公報、米国特許第6,210,858B1明細書、特開2002−2776069号公報等)等の態様で使用することができる。
前記マトリックス用材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等を使用できるが、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の多官能性材料や、特開2001−293818号公報等に記載の金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜を使用することもできる。
前記高屈折率層の屈折率は、1.70〜2.20であることが好ましい。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
前記中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
前記反射防止フィルムのヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。また、膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
(輝度向上フィルム)
本発明における偏光板は、輝度向上フィルムと組み合わせて使用することができる。輝度向上フィルムは、円偏光もしくは直線偏光の分離機能を有しており、偏光板とバックライトとの間に配置され、一方の円偏光もしくは直線偏光をバックライト側に後方反射もしくは後方散乱する。バックライト部からの再反射光は、部分的に偏光状態を変化させ、輝度向上フィルムおよび偏光板に再入射する際、部分的に透過するため、この過程を繰り返すことにより光利用率が向上し、正面輝度が1.4倍程度に向上する。輝度向上フィルムとしては異方性反射方式および異方性散乱方式が知られており、いずれも本発明における偏光板と組み合わせることができる。
異方性反射方式では、一軸延伸フィルムと未延伸フィルムとを多重に積層して、延伸方向の屈折率差を大きくすることにより反射率ならびに透過率の異方性を有する輝度向上フィルムが知られており、誘電体ミラーの原理を用いた多層膜方式(国際公開第95/17691号パンフレット、国際公開第95/17692号パンフレット、国際公開第95/17699号パンフレットの各明細書記載)やコレステリック液晶方式(欧州特許606940A2号明細書、特開平8−271731号公報記載)が知られている。誘電体ミラーの原理を用いた多層方式の輝度向上フィルムとしてはDBEF―E、DBEF−D、DBEF−M(いずれも3M社製)、コレステリック液晶方式の輝度向上フィルムとしてはNIPOCS(日東電工(株)製)が本発明で好ましく使用される。NIPOCSについては、日東技報,vol.38,No.1,May,2000,19頁〜21頁などを参考にすることができる。
また、本発明では国際公開第97/32223号パンフレット、国際公開第97/32224号パンフレット、国際公開第97/32225号パンフレット、国際公開第97/32226号パンフレットの各明細書および特開平9−274108号、同11−174231号の各公報に記載された正の固有複屈折性ポリマーと負の固有複屈折性ポリマーとをブレンドして一軸延伸した異方性散乱方式の輝度向上フィルムと組み合わせて使用することも好ましい。異方性散乱方式輝度向上フィルムとしては、DRPF−H(3M社製)が好ましい。
(他の機能性光学フィルム)
本発明における偏光板は、さらに、ハードコート層、前方散乱層、アンチグレア(防眩)層、ガスバリア層、滑り層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けた機能性光学フィルムと組み合わせて使用することも好ましい。また、これらの機能層は、前述の反射防止フィルムにおける反射防止層、あるいは光学異方性層等と同一層内で相互に複合して使用することも好ましい。これらの機能層は、偏光子側および偏光子と反対面(より空気側の面)のどちらか片面、または両面に設けて使用できる。
(ハードコート層)
本発明における偏光板は耐擦傷性等の力学的強度を付与するため、ハードコート層を透明支持体の表面に設けた機能性光学フィルムと組み合わせることが好ましく行われる。ハードコート層を、前述の反射防止フィルムに適用して用いる場合は、特に、透明支持体と高屈折率層の間に設けることが好ましい。
前記ハードコート層は、光および/または熱による硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成されることが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、または、加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、国際公開第00/46617号パンフレット等記載のものを好ましく使用することができる。
ハードコート層の膜厚は、0.2μm〜100μmであることが好ましい。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。また、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
ハードコート層を形成する材料は、エチレン性不飽和基を含む化合物、開環重合性基を含む化合物を用いることができ、これらの化合物は単独あるいは組み合わせて用いることができる。エチレン性不飽和基を含む化合物の好ましい例としては、エチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のポリオールのポリアクリレート類;ビスフェノールAジグリシジルエーテルのジアクリレート、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのジアクリレート等のエポキシアクリレート類;ポリイソシナネートとヒドロキシエチルアクリレート等の水酸基含有アクリレートの反応によって得られるウレタンアクリレート等を好ましい化合物として挙げることができる。また、市販化合物としては、EB−600、EB−40、EB−140、EB−1150、EB−1290K、IRR214、EB−2220、TMPTA、TMPTMA(以上、ダイセル・ユーシービー(株)製)、UV−6300、UV−1700B(以上、日本合成化学工業(株)製)等が挙げられる。
また、開環重合性基を含む化合物の好ましい例としては、グリシジルエーテル類としてエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシルエーテル、クレゾールノボラック樹脂のポリグリシジルエーテル、フェノールノボラック樹脂のポリグリシジルエーテルなど、脂環式エポキシ類としてセロキサイド2021P、セロキサイド2081、エポリードGT−301、エポリードGT−401、EHPE3150CE(以上、ダイセル化学工業(株)製)、フェノールノボラック樹脂のポリシクロヘキシルエポキシメチルエーテルなど、オキセタン類としてOXT−121、OXT−221、OX−SQ、PNOX−1009(以上、東亞合成(株)製)などが挙げられる。その他にグリシジル(メタ)アクリレートの重合体、或いはグリシジル(メタ)アクリレートと共重合できるモノマーとの共重合体をハードコート層に使用することもできる。
ハードコート層には、ハードコート層の硬化収縮の低減、基材との密着性の向上、本発明においてハードコート処理物品のカールを低減するため、ケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウム等の酸化物微粒子やポリエチレン、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリジメチルシロキサン等の架橋粒子、SBR、NBRなどの架橋ゴム微粒子等の有機微粒子等の架橋微粒子を添加することも好ましく行われる。これらの架橋微粒子の平均粒子サイズは、1nm〜20000nmであることが好ましい。また、架橋微粒子の形状は、球状、棒状、針状、板状など特に制限無く使用できる。微粒子の添加量は硬化後のハードコート層の60体積%以下であることが好ましく、40体積%以下がより好ましい。
上記で記載した無機微粒子を添加する場合、一般にバインダーポリマーとの親和性が悪いため、ケイ素、アルミニウム、チタニウム等の金属を含有し、かつアルコキシド基、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の官能基を有する表面処理剤を用いて表面処理を行うことも好ましく行われる。
ハードコート層は、熱または活性エネルギー線を用いて硬化することが好ましく、その中でも放射線、ガンマー線、アルファー線、電子線、紫外線等の活性エネルギー線を用いることがより好ましく、安全性、生産性を考えると電子線、紫外線を用いることが特に好ましい。熱で硬化させる場合は、プラスチック自身の耐熱性を考えて、加熱温度は140℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以下である。
(前方散乱層)
前方散乱層は、本発明における偏光板を液晶表示装置に適用した際の、上下左右方向の視野角特性(色相と輝度分布)改良するために使用される。本発明では、前方散乱層は屈折率の異なる微粒子をバインダー分散した構成が好ましく、例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子との相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等の構成を使用することができる。また、本発明における偏光板をヘイズの視野角特性を制御するため、住友化学(株)の技術レポート「光機能性フィルム」31頁〜39頁に記載された「ルミスティ」と組み合わせて使用することも好ましく行うことができる。
(アンチグレア層)
アンチグレア(防眩)層は、反射光を散乱させ映り込みを防止するために使用される。アンチグレア機能は、液晶表示装置の最表面(表示側)に凹凸を形成することにより得られる。アンチグレア機能を有する光学フィルムのヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。
フィルム表面に凹凸を形成する方法は、例えば、微粒子を添加して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、比較的大きな粒子(粒子サイズ0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成する方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、フィルム表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等を好ましく使用することができる。
[液晶表示装置]
次に本発明の液晶表示装置について説明する。
図1は、本発明の液晶表示装置の例を示す概略図である。図1において、液晶表示装置10は、液晶層5とこの上下に配置された液晶セル上電極基板3および液晶セル下電極基板6とを有する液晶セル、液晶セルの両側に配置された上側偏光板1および下側偏光板8からなる。液晶セルと各偏光板との間にカラーフィルターを配置してもよい。前記液晶表示装置10を透過型として使用する場合は、冷陰極あるいは熱陰極蛍光管、あるいは発光ダイオード、フィールドエミッション素子、エレクトロルミネッセント素子を光源とするバックライトを背面に配置する。
上側偏光板1および下側偏光板8は、それぞれ2枚の保護フィルムで偏光子を挟むように積層した構成を有しており、本発明の液晶表示装置10は、一方の偏光板の液晶セル側の保護フィルムが上記の式(1)〜(4)の特性を有し、他方の偏光板の液晶セル側の保護フィルムが上記の式(8)〜(12)の特性を有するのが好ましい。本発明の液晶表示装置10は、装置の外側(液晶セルから遠い側)から、透明保護フィルム、偏光子、本発明のセルロースアシレートフィルムの順序で積層することが好ましい。
液晶表示装置10には、画像直視型、画像投影型や光変調型が含まれる。TFTやMIMのような3端子または2端子半導体素子を用いたアクティブマトリックス液晶表示装置が本発明は有効である。もちろん時分割駆動と呼ばれるSTNモードに代表されるパッシブマトリックス液晶表示装置でも有効である。
(VAモード)
本発明の液晶表示装置の液晶セルはVAモードであることが好ましい。
VAモードでは上下基板間に誘電異方性が負で、Δn=0.0813、Δε=−4.6程度の液晶をラビング配向により、液晶分子の配向方向を示すダイレクタ、いわゆるチルト角を、約89°で作製する。図1における液晶層5の厚さdは3.5μm程度に設定してあることが好ましい。ここで厚さdと屈折率異方性Δnとの積Δndの大きさにより白表示時の明るさが変化する。このため最大の明るさを得るためには液晶層の厚みを0.2μm〜0.5μmの範囲になるように設定する。
液晶セルの上側偏光板1の吸収軸2と下側偏光板8の吸収軸9は略直交に積層する。液晶セル上電極基板3および液晶セル下電極基板6のそれぞれの配向膜の内側には透明電極(図示せず)が形成されるが、電極に駆動電圧を印加しない非駆動状態では、液晶層5中の液晶分子は、基板面に対して概略垂直に配向し、その結果液晶パネルを通過する光の偏光状態はほとんど変化しない。すなわち、液晶表示装置では、非駆動状態において理想的な黒表示を実現する。これに対し、駆動状態では、液晶分子は基板面に平行な方向に傾斜し、液晶パネルを通過する光はかかる傾斜した液晶分子により偏光状態を変化させる。換言すると、液晶表示装置では、駆動状態において白表示が得られる。なお図1において、符号4および7は、配向制御方向である。
ここでは上下基板間に電界が印加されるため、電界方向に垂直に液晶分子が応答するような、誘電率異方性が負の液晶材料を使用することが好ましい。また電極を一方の基板に配置し、電界が基板面に平行の横方向に印加される場合は、液晶材料は正の誘電率異方性を有するものを使用する。
またVAモードの液晶表示装置では、TNモードの液晶表示装置で一般的に使われているカイラル剤の添加は、動的応答特性の劣化させるため用いることは少ないが、配向不良を低減するために添加されることもある。
VAモードの特徴は、高速応答であることと、コントラストが高いことである。しかし、コントラストは正面では高いが、斜め方向では劣化する課題がある。黒表示時に液晶分子は基板面に垂直に配向している。正面から観察すると、液晶分子の複屈折はほとんどないため透過率は低く、高コントラストが得られる。しかし、斜めから観察した場合は液晶分子に複屈折が生じる。さらに上下の偏光板吸収軸の交差角が、正面では90°の直交であるが、斜めから見た場合は90°より大きくなる。この2つの要因のために斜め方向では漏れ光が生じ、コントラストが低下する。これを解決するために光学補償シート(位相差フィルム)として、本発明のセルロースアシレートフィルムを配置する。
また白表示時には液晶分子が傾斜しているが、傾斜方向とその逆方向では、斜めから観察した時の液晶分子の複屈折の大きさが異なり、輝度や色調に差が生じる。これを解決するためには、液晶表示装置の一画素を複数の領域に分割するマルチドメインと呼ばれる構造にすることも好ましい。
(マルチドメイン)
例えば、VA方式では液晶分子が電界印加により、一つの画素内で異なる複数の領域に傾斜することで視角特性が平均化される。一画素内で配向を分割するには、電極にスリットを設けたり、突起を設け、電界方向を変えたり電界密度に偏りを持たせる。全方向で均等な視野角を得るにはこの分割数を多くすればよいが、4分割、あるいは8分割以上することでほぼ均等な視野角が得られる。特に8分割時は偏光板吸収軸を任意の角度に設定できるので好ましい。
また配向分割の領域境界では、液晶分子が応答しづらい。そのためノーマリーブラック表示では黒表示が維持されるため、輝度低下が問題となる。そこで液晶材料にカイラル剤を添加して境界領域を小さくすることが可能である。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[比較例1]
〔セルロースアシレートフィルムの作製〕
(セルロースアシレート溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液1を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液1の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
アセチル置換度2.43、重合度340のセルロースアセテート
100.0質量部
炭水化物誘導体105 10.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 402.0質量部
メタノール(第2溶媒) 60.0質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(マット剤溶液2の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤溶液2を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤溶液2の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、
日本アエロジル(株)製) 2.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 75.0質量部
メタノール(第2溶媒) 12.7質量部
前記セルロースアシレート溶液1 10.3質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
上記マット剤溶液2の1.3質量部とセルロースアシレート溶液1を98.7質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合した。混合した溶液を、バンド流延機を用いて流延し、100℃で残留溶媒含量40%まで乾燥した後、フィルムを剥ぎ取った。剥ぎ取ったフィルムは、さらに140℃の雰囲気温度で20分乾燥させた。乾燥後のフィルムを、テンター延伸装置を用いて180℃の雰囲気下で搬送方向と垂直方向に35%延伸し、比較例1のセルロースアシレートフィルムを製造した。製造されたセルロースアシレートフィルムの膜厚は50μmであった。
〔セルロースアシレートフィルムの鹸化処理〕
次に、作製した比較例1のセルロースアシレートフィルムを、2.3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に、55℃で3分間浸漬した。室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.05mol/Lの硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。このようにして、比較例1のセルロースアシレートフィルムについて表面の鹸化処理を行った。
〔偏光板の作製〕
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。
鹸化処理した比較例1のセルロースアシレートフィルムを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の片側に貼り付けた。市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士写真フイルム(株)製)に同様の鹸化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、作成した比較例1のセルロースアシレートフィルムを貼り付けてある側とは反対側の偏光子の面に鹸化処理後のセルローストリアセテートフィルムを貼り付けた。
この際、偏光子の透過軸と作成した比較例1のセルロースアシレートフィルムの遅相軸とは平行になるように配置した。また、偏光子の透過軸と市販のセルローストリアセテートフィルムの遅相軸とは、直交するように配置した。
このようにして比較例1の偏光板を作製した。
[実施例1〜8、比較例2〜13]
〔セルロースアシレートフィルムの作製〕
比較例1においてセルロースアシレートの置換度、炭水化物誘導体の種類および添加量、延伸温度および延伸倍率、フィルム厚みを下記表5に記載したとおりに変更した以外は比較例1と同様にして、実施例1〜8および比較例2〜13のセルロースアシレートフィルムを製造した。
なお、下記表5中、炭水化物誘導体の添加量は、セルロースアシレート樹脂100質量部に対する質量部を表す。
〔セルロースアシレートフィルムの鹸化処理と偏光板の作製〕
実施例1〜8および比較例2〜13のセルロースアシレートフィルムについても、それぞれ比較例1と同様にしてけん化処理および偏光板作製を行い、実施例1〜8の偏光板および比較例2〜13の偏光板を作製した。
<評価>
(含水率の測定)
以上のようにして製造した各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムについて、試料7mm×35mmを25℃相対湿度80%の環境下に2時間以上を調湿した後、水分測定器、試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))にてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料重量(g)で除して算出した。得られた結果を下記表5に記載した。
(レターデーションの測定)
各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムについて、自動複屈折率計(KOBRA−WR、王子計測機器(株)製)により25℃で、相対湿度60%における波長446nm、548nm、および629nmにおけるReおよびRthをそれぞれ測定した。下記表5に、Re(548nm)の値をRe欄に、Re(629nm)−Re(446nm)を計算した値をΔRe(629−446)欄に、Re(548nm)の値をRth欄に、それぞれ記載した。
(ヘイズの測定)
各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムについて、試料40mm×80mmを、25℃、相対湿度60%の環境下で、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定した。得られた結果を下記表5に記載した。
(偏光板耐久性の評価)
上記で作製した各実施例および比較例偏光板について、波長410nmにおける偏光子の直交透過率を本明細書に記載した方法で測定した。
その後、実施例1〜6、比較例1〜7、12および13の偏光板については、60℃、相対湿度95%の環境下で7日間保存した後の直交透過率を測定した。その後、本明細書に記載の方法で、経時前後の直交透過率の変化率を求めた。この結果を7日経時の偏光子耐久性として下記表5に記載した。
一方、実施例7と比較例8および9の偏光板については、60℃、相対湿度90%の環境下で14日間保存した後の偏光子クロス直交透過率を測定し、同様に経時前後の直交透過率の変化を求めた。この結果を14日経時の偏光子耐久性として下記表5に記載した。
さらに、実施例8と比較例10および11の偏光板については、60℃、相対湿度90%の環境下で21日間保存した後の偏光子クロス直交透過率を測定し、同様に経時前後の直交透過率の変化を求めた。この結果を21日経時の偏光子耐久性として下記表5に記載した。なお、下記表5中、比較例13では、フィルムの透明性が著しく低下しているため、レターデーションおよび偏光子耐久性直交透過率を測定することができなかった。
Figure 0005606110
Figure 0005606110
Figure 0005606110
化合物C:ペンタ―O―アセチル―β―D―グルコピラノシド。
化合物D−2:国際公開WO2009―011229号公報の例示化合物D−2。
化合物E:サッカロースオクタベンゾエート。
さらに、実施例7および8、比較例8〜11について、7日経時時の偏光子耐久性を測定したところ、実施例7および8では0.05%以下であり、比較例8〜11では0.05%を超えることがわかった。
上記表5などの結果から、本発明で規定する条件を満たす特定の炭水化物誘導体を使用したセルロースアシレートフィルムは含水率が低く、かつ光学特性の発現性が良好であり、かつヘイズが低く好ましいことがわかった。さらに本発明のセルロースアシレートフィルムを使用した偏光板は、高温高湿経時後の偏光子の劣化がおきにくいことがわかった。
一方、特に実施例1〜6と同様のセルロースアシレートを用いた比較例1〜9については、以下の傾向がわかった。具体的には、芳香環を含む置換基1種のみを有する炭水化物誘導体を添加した比較例1〜3では、7日経時時の偏光子耐久性が0.05%を超えていた。芳香環を含まない置換基1種のみを有し、かつ、ClogP値が本発明の範囲外である炭水化物誘導体を添加した比較例4および5では、フィルム含水率が高い上、7日経時時の偏光子耐久性が0.05%を超えていた。芳香環を含む置換基1種のみを有し、かつ、ε最大値が本発明の範囲外である炭水化物誘導体を添加した比較例6では、7日経時時の偏光子耐久性が0.05%を超えていた。芳香環を含まない置換基3種を有し、かつ、ClogP値が本発明の範囲外である炭水化物誘導体を添加した比較例7では、フィルム含水率が高く、ヘイズも高く、7日経時時の偏光子耐久性が0.05%を超えていた。
また、比較例12より、本発明で規定する条件を満たす特定の炭水化物誘導体の添加量が本発明の範囲よりも少ない場合はフィルム含水率が高いことがわかった。比較例13より、本発明で規定する条件を満たす特定の炭水化物誘導体の添加量が本発明の範囲を超える場合はフィルム含水率が高いことがわかった。
〔液晶表示装置の作製〕
市販の液晶テレビ(SONY(株)のブラビアJ5000)の2枚の偏光板をはがし、視認者側およびバックライト側に実施例2のセルロースアシレートフィルムを用いた本発明の偏光板を、実施例2のセルロースアシレートフィルムがそれぞれ液晶セル側となるように、粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸が上下方向に、そして、バックライト側の偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。このようにして作製した本発明の液晶表示装置は市販の液晶テレビに対して、環境湿度を変えても斜めから観察した場合のコントラスト変化および色味変化が小さく、かつ高温高湿下で長時間使用してもコントラストの低下が小さく、好ましかった。
[比較例14]
〔セルロースアシレートフィルムの作製〕
(セルロースアシレート溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液4を調製した。
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セルロースアシレート溶液4の組成
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アセチル置換度2.39、重合度400のセルロースアセテート
100.0質量部
炭水化物誘導体215 2.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 425.0質量部
メタノール(第2溶媒) 48.0質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(マット剤溶液5の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤溶液2を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤溶液5の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、
日本アエロジル(株)製) 7.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 80.7質量部
メタノール(第2溶媒) 10.2質量部
前記セルロースアシレート溶液4 5.3質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
上記マット剤溶液5の1.3質量部とセルロースアシレート溶液4を98.7質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合した。混合した溶液を、バンド流延機を用いて流延し、80℃で残留溶媒含量30%まで乾燥した後、フィルムを剥ぎ取った。剥ぎ取ったフィルムは、テンター延伸装置を用いて150℃の雰囲気下で搬送方向と垂直方向に30%延伸し、比較例14のセルロースアシレートフィルムを製造した。製造されたセルロースアシレートフィルムの膜厚は40μmであった。
[実施例9〜12]
〔セルロースアシレートフィルムの作製〕
比較例14において炭水化物誘導体の種類および添加量を下記表6に記載したとおりに変更した以外は比較例14と同様にして、実施例9〜12のセルロースアシレートフィルムを製造した。なお、表6中、炭水化物誘導体の添加量は、セルロースアシレートに対する比率(質量%)を表す。
(高温高湿経時後のヘイズの測定)
実施例9〜12および比較例14のセルロースアシレートフィルムについて、試料40mm×80mmを、80℃相対湿度90%で7日間保管した後に、25℃、相対湿度60%の環境下で、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定した。得られた結果を下記表6に記載した。
Figure 0005606110
表6の結果から、平均ClogP値が本発明の範囲を満たす実施例9〜12は、比較例9に対して、含水率が低く、光学特性の発現性が良好な上、80℃相対湿度90%で7日保管後のフィルムのヘイズが低く好ましいことがわかった。とりわけ、置換度比率の異なる複数の本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体を混合した実施例10と実施例11は、一つの置換度比率の炭水化合物誘導体のみを添加した実施例9よりもさらにヘイズが低く、特に好ましいことがわかった。一方、置換度比率の異なる複数の炭水化物誘導体として、本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体と、本発明に単独で用いられる炭水化物誘導体以外のその他の炭水化物誘導体を併用した実施例12では、比較例9と実施例9の中間程度の評価となることがわかった。
1 上側偏光板
2 上側偏光板吸収軸の方向
3 液晶セル上電極基板
4 上基板の配向制御方向
5 液晶層
6 液晶セル下電極基板
7 下基板の配向制御方向
8 下側偏光板
9 下側偏光板吸収軸の方向
10 液晶表示装置

Claims (7)

  1. セルロースアシレートと、
    下記の条件(a)および(b)を満たし、ヒドロキシル基が2種類以上の置換基で置換されており、かつ前記置換基のうち少なくとも1種が少なくとも一つの芳香環を有する炭水化物誘導体とを含み、
    前記炭水化物誘導体は単糖構造としてピラノース構造のみを有し、
    前記炭水化物誘導体のヒドロキシル基の少なくとも一つの芳香環を有する置換基がベンジル基、ベンゾイル基またはフェニルアセチル基であり、
    前記炭水化物誘導体中のヒドロキシル基の一つの芳香環を有する置換基で置換されていないヒドロキシル基は、いずれもアセチル基で置換され、
    前記炭水化物誘導体は前記少なくとも一つの芳香環を有する置換基の置換度が3以下であり、
    前記セルロースアシレート100質量部に対して前記炭水化物誘導体を質量部〜15質量部含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
    条件(a)ClogP値が0〜5.5。
    条件(b)230nm〜700nmの波長範囲のモル吸光係数の最大値が50×103以下。
  2. 前記セルロースアシレート100質量部に対して前記炭水化物誘導体を9.9質量部〜15質量部含むことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
  3. 前記炭水化物誘導体中のヒドロキシル基の置換基が、芳香環を含まない置換基を少なくとも一つ含むことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
  4. 置換基の導入比率が異なる少なくとも2種類以上の前記炭水化物誘導体を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
  5. 請求項1〜のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを含むことを特徴とする位相差フィルム。
  6. 請求項1〜のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは請求項に記載の位相差フィルムを含んでなる偏光板。
  7. 請求項1〜のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、請求項に記載の位相差フィルムまたは請求項に記載の偏光板を含んでなる液晶表示装置。
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