JP5604577B2 - SiCエピタキシャルウェハ - Google Patents

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Description

本発明はSiCエピタキシャルウェハに関するものである。
地球温暖化問題への対応として、省エネルギー技術の向上が求められている。多くの技術項目が取り上げられている中、電力変換時のエネルギーロスを低減するパワーエレクトロニクス技術は、基幹技術として位置づけられている。パワーエレクトロニクスは、従来シリコン(Si)半導体を用いて技術改良がなされ性能を向上させてきたが、シリコンの材料物性の限界からその性能向上も限界に近づきつつあると言われている。そのため、シリコンよりも物性限界を大きくとれる炭化珪素(SiC)に期待が集まっている。炭化珪素はシリコンに対して、例えば、バンドギャップは約3倍、絶縁破壊電界強度は約10倍、熱伝導度は約3倍という優れた物性を有しており、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
SiCデバイスの実用化の促進には、高品質の結晶成長技術、高品質のエピタキシャル成長技術の確立が不可欠である。
SiCは多くのポリタイプを有するが、実用的なSiCデバイスを作製する為に主に使用されているのは4H−SiCである。SiCデバイスの基板としては昇華法等で作製したバルク結晶から加工したSiC単結晶ウェハを用い、通常、この上にSiCデバイスの活性領域となるSiCエピタキシャル膜を化学的気相成長法(CVD)によって形成する。エピタキシャル膜中には基板に用いているポリタイプと異なるポリタイプが混入しやすく、例えば、基板に4H−SiCを使った場合には3C−SiCや8H−SiCが混入する。エピタキシャル成長は、これらの混入を抑制するため、SiC単結晶基板を微傾斜させてステップフロー成長(原子ステップからの横方向成長)させて行うのが一般的である。
<ステップバンチング及びその観察・評価>
SiC基板が2インチ程度までのサイズの場合、この微傾斜角度(オフ角)は主に8°が用いられてきた。このオフ角においてはウェハ表面のテラス幅が小さく、容易にステップフロー成長が得られる。しかし、オフ角が大きいほど、SiCインゴットから得られるウェハ枚数が少なくなる。そのため、3インチ以上のSiC基板においてはコスト削減の観点から、主に4°程度のオフ角のものが用いられている。4°程度のオフ角では、ウェハ表面のテラス幅が8°のオフ角の場合に比べて2倍になるため、ステップ端に取り込まれるマイグレーション原子の取り込まれ速度、すなわちステップ端の成長速度にバラツキが生じやすくなる。その結果、遅い成長速度を持つステップに速い成長速度を持つステップが追いついて合体し、ステップバンチングが発生する。特にエピタキシャル表面がSi面の場合、C面よりも表面原子のマイグレーションが抑えられるため、容易にステップバンチングを生じる。ここで、ステップバンチングとは、表面において原子ステップ(通常2〜10原子層程度)が集まって合体する現象をいい、この表面の段差自体を指すこともある。非特許文献1に典型的なステップバンチングが示されている。
従来、ステップバンチングの観察・評価は、微分干渉顕微鏡等の光学顕微鏡と原子分解能を有する原子間力顕微鏡(AFM)との組み合わせで行われることが多かった(例えば、非特許文献1、2)。
<ガスエッチング及び原料ガスの供給>
SiC単結晶基板上にSiCエピタキシャル膜を成膜する際には従来、機械研磨を行った後、化学的機械研磨(CMP)及びガスエッチングを順に行ってSiC単結晶基板の表面処理を行った後、化学的気相成長法によりSiCエピタキシャル膜を成膜していた。ガスエッチングは、研磨工程に起因するダメージや研磨痕(スクラッチ)の除去や表面平坦化のために、前処理として1500℃程度の高温で主に水素ガスを用いてエッチングを行うものである。
ガスエッチングに際しては、SiCエピタキシャル膜の原料ガスであるプロパン(C)ガスを水素雰囲気に添加しながら行われていた(特許文献1、特許文献2の段落[0002]、および非特許文献3)。非特許文献3に示されているように、水素ガスエッチングは良好なエピタキシャル表面を得るためには必須とされているが、水素のみではSiドロップレットが発生してしまうことが示されており、Cを添加することで、その発生を抑制できる効果があるとされている。
しかしながら、研磨によるダメージや研磨痕(スクラッチ)が、ガスエッチング後の基板表面にも残留していると、その後、その基板表面に形成されたエピタキシャル膜中に異種ポリタイプや転位、積層欠陥などが導入されてしまうという問題があった。そこでこれを回避するために、ガスエッチング時間を延長してエッチング量を増加させすぎてしまうと、今度は基板表面で表面再構成が生じて、エピタキシャル成長開始前に基板表面にステップバンチングを生じさせてしまうという問題があった。
そこで、このステップバンチングの発生を抑制するために、エッチング量を減少させる方法として、ガスエッチングに際して原料ガスであるシラン(SiH)ガスを水素ガスに添加しながら行う方法が提案された(特許文献2)。
特許文献1及び2のいずれの方法においても、SiCエピタキシャル膜の原料ガスであるCガス、又は、SiHガスを添加してガスエッチングを行うが、ガスエッチング後にその添加ガスを排気することなく、そのまま続けて他方のガスを導入してSiCエピタキシャル膜の成膜工程に入る(特許文献1の図2、特許文献2の図4)。すなわち、SiCエピタキシャル膜の成長を開始する前に、SiC基板の表面に、プロパン(C)ガス、又は、シラン(SiH)ガスが既に存在する状態となっている。
このように特許文献1及び2に代表されるような現在一般に行われている方法では、SiCエピタキシャル膜の成長を開始するに際して、原料ガスであるCガス及びSiHガスの供給は同時には行なっていなかった。
特許第4238357号公報 特開2005−277229号公報
Mater. Sci. Forum 527-529, (2006) pp. 239-242 Journal Cryst. Growth 291, (2006) pp. 370-374 Journal Cryst. Growth 291, (2002) pp. 1213-1218
原子分解能を有するAFM(以下「通常のAFM」という)は表面の原子配列を直接観察できるものの、最大観察範囲は10〜20μm□程度であり、それ以上の広範囲の測定は機構上困難である。しかしながら、SiCエピタキシャル膜表面のステップバンチングはウェハの端から端まで連続しているものと認識されていたため、光学顕微鏡と組み合わせることによって、そのAFMの機構上の欠点も特に不都合とされてはいなかった。
また、非特許文献2においては、AFMよりも広範囲の200μm〜1mm□程度の範囲を観察するのに微分干渉顕微鏡が用いられている。しかし、この微分干渉顕微鏡では、ステップの高さを定量化することができず、また、特に倍率が大きいときに数nmの高さのステップを検出することができないという不都合があった。
ステップバンチングはSiCエピタキシャル膜表面の平坦化を妨げるものであるから、SiCデバイスの高性能化のためにはその発生を抑制する必要がある。ステップバンチングは表面の段差であるため、特に、SiCエピタキシャル膜表面に酸化膜を形成し、その界面に通電させるMOSFETにおいて、その存在は動作性能および信頼性に致命的な影響を与える場合がある。そのため、従来からこのステップバンチングの抑制の研究は精力的に行われてきた。
このMOSFETを含めたSiCパワーデバイスの活性領域は通常のAFMの測定範囲よりも大きい。そのため、優れた特性を有するデバイスを作製可能とするエピタキシャル成長表面を得るためには、通常のAFMあるいは微分干渉顕微鏡による評価では十分とは言えない。
また、上述の通り、ガスエッチングの際に原料ガスであるCガス、又は、SiHガスを添加して行うのが一般的であり、その後にその添加ガスを排気することなくそのまま続けて他方のガスを導入してSiCエピタキシャル膜の成膜工程を行っていた。この場合、これらの原料ガスの基板表面への供給は同時になされていなかった。水素ガスだけでエッチングを行う場合もあったが、原料ガスの基板表面への同時供給の重要性は認識されていなかった。
<短いステップバンチング>
本発明者らは、高さ方向の感度がAFMと同程度であって、かつ、レーザー光を用い、微分干渉顕微鏡よりも広範囲を観察することができる光学式表面検査装置と、広範囲観察型のAFM(以下「広範囲観察型AFM」という)とを組み合わせて用いて、従来の方法でステップバンチングを抑制したとされたSiCエピタキシャルウェハの観察・評価を行い、通常のAFMや微分干渉顕微鏡では捉えることが困難なステップバンチングが表面の標準的な状態として存在することを見出した。
新たに存在を明らかにしたステップバンチングは、平均100μm程度の間隔で存在し、[1−100]方向に100〜500μmの長さを有していた。また、後述するが、このステップバンチングは、らせん転位が成長表面に現れて形成されるシャローピットが表面に段差を形成し、それが原因で発生するものであり、らせん転位は元々、エピタキシャル成長膜の基板として用いるSiC単結晶基板中に含まれるものなので、基板起因と言えるものである。
他方、従来既知のステップバンチング(以下、「従来のステップバンチング」という)は平均1.5μm程度の間隔で存在し、[1−100]方向に5mm以上の長さを有するものである(なお、本明細書では、ミラー指数の表記において、“−”はその直後の指数につくバーを意味する)。また、その発生は元々、SiC単結晶基板の表面はオフ角度があるため、表面にはそれに対応した原子ステップがあり、この原子ステップはエピタキシャル成長、あるいはガスエッチングの過程で移動するが、ステップ間でこの移動速度にばらつきが生じるとこれらのステップ同士がお互い合体して生ずるものであり、基板中の転位には関係なく発生するものである。
そこで、本明細書では、新たにその存在を明らかにしたステップバンチングを従来のステップバンチングと区別して、「短いステップバンチング」と記載する。
図1に、通常のAFM(Veeco Instrument社製Dimension V)によって観察したSiCエピタキシャルウェハ表面の10μm□のAFM像(立体表示の表面斜視像)を示す。図1(a)は従来のステップバンチングを示すAFM像であり、図1(b)は短いステップバンチングを示すAFM像である。
図1(b)に矢印Aで示したようなAFM像が得られた場合、又は、一画面の走査ではなくカンチレバーの数回の往復走査でこのようなAFM像の一部が得られた場合は、ノイズと判断されたり、又は、表面の標準的な状態を示すものではなく、たまたま特異な状態を有する領域を観察したものと判断されて、他の領域に移動して観察をするのが通常であった。そのため、短いステップバンチングは従来、通常のAFMや微分干渉顕微鏡においても観察されていたはずとも言えるが、少なくともSiCエピタキシャル膜表面の標準的な状態を示すものと認識されていなかったものである。
図2に、本発明で用いた広範囲観察型AFM(キーエンス社製ナノスケールハイブリッド顕微鏡VN−8000)によって観察したSiCエピタキシャル膜表面の200μm□のAFM像を示す。
図2(a)は従来のステップバンチングを示すAFM像であり、図2(b)は短いステップバンチングを示すAFM像である。
従来のステップバンチングについては図2(a)に示すように、通常のAFM像と同様、平均1.5μm程度の間隔で存在することが観察できる。これに対して、図2(b)には2本のライン(矢印B、C)が等しい間隔で安定に観察されていることがわかる。200μm□という広範囲でこのようにステップが安定に観察できることは単なるノイズや特異な表面領域を示すものではないこと、そして、従来のステップバンチングとは性質の異なるステップバンチングの存在を裏付けるものである。
短いステップバンチングの存在を他の表面検査装置でも確認するため、レーザー光を用いる光学式表面検査装置(KLA−Tencor社製Candela CS20)による観察を行った。この光学式表面検査装置は測定範囲が数μm□〜4インチ以上のウェハ全面と広範囲観察型AFMよりも大きいため、短いステップバンチングの密度を測定するのにも適している。
本発明で用いる光学式表面検査装置(KLA−Tencor社製Candela CS20と同じ原理で表面検査をする装置)とは、レーザー光をウェハに対して斜めに入射して、ウェハ表面からの散乱光の強度、および反射光の強度と反射位置を検出するシステムを有することを特徴とするものである。ウェハの表面はスパイラルスキャンされる。反射位置は、ウェハ表面の凸凹をなぞるように変化するため、この位置情報からラフネス(表面粗さ)を算出することができる。ステップバンチングに対応した周期の表面ラフネス情報を抽出するため、100μmのフィルターを計算時に使用し、ウェハ表面の長周期のうねり情報を除去する。
ただし、ステップバンチングは[1−100]方向に並行であるため、スパイラルスキャン中、レーザー光とスキャン方向が並行になってしまう領域では、ステップが検出されない。そのため、ラフネス情報の算出には、一般的な極座標における55°〜125°と235°〜305°のそれぞれ70°の範囲を選択する。また、スパイラルスキャンの中心はほとんどレーザー光が動かない特異点になってしまうため、その付近における反射光の位置情報は、ラフネスを反映しなくなる。そのため、中心のφ10mmの範囲は算出領域から除外した。このようにして設定される計算範囲はウェハ全面の約35%であるが、ステップバンチングについて、この範囲のモフォロジーは、ウェハ全面をほぼ反映している。このようにして計算されたラフネスは、AFMを用いて測定されたラフネスと相関があることから、実際の表面モフォロジーに即したものであることがわかる。
<短いステップバンチングの発生起源>
図3に、光学式表面検査装置で短いステップバンチングが観察されたSiCエピタキシャルウェハの微分干渉顕微鏡による観察結果を示す。矢印で示すように、顕著なシャローピットとそれに付随した短いステップバンチングを確認することができる。エピ層表面におけるシャローピットの深さは6.3nmであった。
さらに、図4に、このシャローピットの起源を確認するためにKOHエッチングを行った後の微分干渉顕微鏡による観察結果を示す。矢印でその一部を示すように、らせん転位の存在と付随する短いステップバンチングを確認できる。このことから、短いステップバンチングは、表面に発生したシャローピットの段差によってステップフォロー成長が阻害された結果、生じたものと推察できる。こうして、短いステップバンチングの発生の起源が基板から引き継がれたエピ層中のらせん転位に起因したシャローピットであることが理解できる。
以上の通り、本発明者らは、光学式表面検査装置と広範囲観察型AFMという従来とは異なる表面検査装置を組み合わせてSiCエピタキシャル膜表面を観察・評価することにより、この短いステップバンチングが表面の特異な状態ではなく、標準的な状態として存在することを見出した。そして、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、短いステップバンチングの起源を明らかにすると共に、その発生を抑制して、ステップバンチングフリーのSiCエピタキシャルウェハを製造する方法に到達したのである。
この短いステップバンチングの存在が品質バラツキの主原因の一つであったものと考えられる。
また、本発明者は、SiCエピタキシャル膜の成膜において、SiC単結晶基板表面に炭化珪素のエピタキシャル成長に必要とされる量のSiHガスとCガスを同時に供給することの重要性を見出したのである。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、ウェハの全面にステップバンチングがない、ステップバンチングフリーのSiCエピタキシャルウェハ及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、従来のステップバンチングとその発生起源が異なり、SiC基板に起因するステップバンチングを発見することに始まって、まず、その基板起因のステップバンチングを発生させないために基板の研磨工程において必要な条件を見出した。そして、かかる条件で研磨したSiC単結晶基板にガスエッチングを施してSiC単結晶基板を準備し、このSiC単結晶基板を用いれば、炭化珪素のエピタキシャル成長に必要とされる量のSiHガス及びCガスを所定の濃度比で基板表面に同時に供給して成膜を行い、さらに供給を同時に停止してガスを除くまで基板温度を保持し、その後に降温することによって、ステップバンチングフリーのSiCエピタキシャルウェハが得られることを見出したのである。
エピタキシャル成長は、基板に用いているポリタイプと異なるポリタイプが混入することを抑制するために、SiC単結晶基板を微傾斜させてステップフロー成長(原子ステップからの横方向成長)させて行う。一般に、傾斜角度を0.4°以上とすることで、ステップ端を成長表面に出して、ステップフロー成長させている。本発明でも0.4°以上の傾斜角とすることが望ましい。
本発明は、ステップバンチングが生じやすい低オフ角度の基板である5°以下の場合に有効である。本発明の効果は、傾斜角度0.4°〜5°の範囲で有効であるが、傾斜角度2°以上の場合には基板上のテラス幅が狭く、ステップフロー成長が促進されて鏡面が得られやすいため、特に有効である。
さらに一般に販売されている4°オフの基板は、傾斜角度の規格範囲は3.5°〜4.5°であるが、この傾斜角範囲を持つ4°オフ基板に対して特に有効である。4°オフ基板は、鏡面が得られやすいということで従来用いられていた規格品である8°オフ基板に比べて単結晶から切り出す場合のロスが少ないため低価格である。そのため、4°オフ基板に本出願の技術を適用することにより、品質が良好でコストの低いエピタキシャルウエハを得ることができる。
(1)0.4°〜5°のオフ角で傾斜させた4H−SiC単結晶基板上にSiCのエピタキシャル層を形成したSiCエピタキシャルウェハであって、SiCエピタキシャル層中のらせん転位に起因したシャローピットに連結したステップバンチングの線密度が5mm−1未満であることを特徴とするSiCエピタキシャルウェハ。
本発明において、「炭化珪素のエピタキシャル成長に必要とされる量」とは、温度を上げた基板の表面では、基板からのSiとCの脱離(昇華)と、吸着(成長)とが同時に生じており、脱離>吸着の場合にはガスエッチング、脱離<吸着の場合には成長という形になるが、ガスエッチング(清浄化工程)の際にSiH及び/又はCを添加する場合にこれら原料ガスの量は少ないので、仮に原料ガスを添加していても優勢なガスエッチングが生じるだけであるので、ガスエッチング時のSiHガス及び/又はCの供給量との差異を明確にする意である。
また、SiHガスとCガスとを同時に供給することができるが、この場合において、「同時に供給」とは、完全に同一時刻であることまでは要しないが、数秒以内であることを意味する。後述する実施例で示した装置ではSiHガス及びCガス供給の時間差を5秒以内にすると、ステップバンチングの発生を抑制できた。同時供給がステップバンチングの発生にどのように関わるのかそのメカニズムは不明ではあるが、成膜開始初期における2種類の原料ガスの空間濃度分布に関係するものと推測される。この原料ガスの空間濃度分布は装置の形状・構成にも依存するので、許容される供給時間差を具体的な数値を述べることはできないが、当業者であれば、数秒単位の時間差でステップバンチングの発生を調べることで、同時供給が許容する時間差を見つけることができる。
また、この場合において、前記清浄化する工程を、前記水素雰囲気に、SiHガス及び/又はCガスを添加して行い、前記エピタキシャル成長させる工程は、前記添加したガスを排気した後に開始してもよい。
上記の構成によれば、SiCエピタキシャル層中のらせん転位に起因したシャローピットに連結したステップバンチングの線密度が5mm−1未満であるSiCエピタキシャルウェハを提供することができる。
通常のAFMでSiCエピタキシャルウェハ表面のステップバンチングを観察した像であり、(a)従来のステップバンチング、(b)短いステップバンチング、を示す像である。 広範囲観察型AFMでSiCエピタキシャルウェハ表面のステップバンチングを観察した像であり、(a)従来のステップバンチング、(b)短いステップバンチング、を示す像である。 短いステップバンチングを含むSiCエピタキシャルウェハを微分干渉顕微鏡で観察した像である。 KOHエッチング後に図3で用いたウェハを微分干渉顕微鏡で観察した像である。 広範囲観察型AFMでSiCエピタキシャルウェハ表面を観察した像であり、(a)本発明のSiCエピタキシャルウェハ、(b)従来のSiCエピタキシャルウェハ、を示す像である。 レーザー光を用いる光学式表面検査装置でSiCエピタキシャルウェハ表面を観察した像であり、(a)本発明のSiCエピタキシャルウェハ、(b)従来のSiCエピタキシャルウェハ、を示す像である。 (a)本発明のSiC単結晶基板表面の断面を透過型電子顕微鏡で観察した像であり、(b)は(a)の拡大像である。 (a)従来のSiC単結晶基板表面の断面を透過型電子顕微鏡で観察した像であり、(b)は(a)の拡大像である。 比較例2のSiCエピタキシャルウェハ表面を(a)レーザー光を用いる光学式表面検査装置で観察した像であり、(b)広範囲観察型AFMで観察した像である。
以下、本発明を適用した一実施形態であるSiCエピタキシャルウェハ及びその製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。
[SiCエピタキシャルウェハ]
図5及び図6に、4°のオフ角で傾斜させた4H−SiC単結晶基板上にSiCのエピタキシャル層を成膜した、本発明の実施形態であるSiCエピタキシャルウェハを、広範囲観察型AFM及びレーザー光を用いる光学式表面検査装置(KLA−Tencor社製Candela CS20)で観察した結果を示す。
図5(a)は、本発明のSiCエピタキシャルウェハの表面の200μm□の広範囲観察型AFM像である。また、図5(b)に従来のSiCエピタキシャルウェハ表面の200μm□の広範囲観察型AFM像を示す。
本発明のSiCエピタキシャルウェハでは、全くステップが観察されなかった(ステップの線密度0本/mm−1)。このサンプルの他の領域についてもほとんどステップが観察されなかった。従って、短いステップバンチングを含めてステップバンチングフリーが実現されており、ステップの線密度は5mm−1以下であることがわかる。また、表面の二乗平均粗さRqは0.4nmであり、最大高低差Ryは0.7nmであった。同じサンプルでランダムに選んだ3個の領域の平均のRqは0.52nmであり、また、平均のRyは0.75nmであった。従って、観察した表面の二乗平均粗さRqが1.0nm以下であり、かつ、最大高低差Ryが3.0nm以下であることがわかる。
これに対して、従来のSiCエピタキシャルウェハでは、線密度340本/mm−1で多数のステップが合体したステップバンチングが観察された。このサンプルの他の3個の領域の平均のステップ線密度は362本/mm−1であった。また、ステップは観察範囲を超えて延びていることがわかる。
また、表面の二乗平均粗さRqは2.4nmであり、最大高低差Ryは3.6nmであった。同じサンプルでランダムに選んだ3個の領域の平均のRqは3.2nmであり、また、平均のRyは4.5nmであった。
図6(a)及び(b)にそれぞれ、図5(a)及び(b)の同一サンプルの1mm□範囲について、レーザー光を用いる光学式表面検査装置によって観察した像(以下「カンデラ像」という)を示す。
観察した表面の二乗平均粗さRqは、本発明のSiCエピタキシャルウェハでは1.2nmであった。従って、1.3nm以下であることがわかる。
これに対して、従来のSiCエピタキシャルウェハでは1.7nmであり、本発明と従来のSiCエピタキシャルウェハの表面平坦性に明らかな差異を有することがわかる。
[SiCエピタキシャルウェハの製造方法]
以下、本発明を適用した一実施形態であるSiCエピタキシャルウェハの製造方法について詳細に説明する。
<研磨工程>
研磨工程では、4H−SiC単結晶基板をその表面の格子乱れ層が3nm以下となるまで研磨する。
本明細書中で、「格子乱れ層」とは、TEMの格子像(格子が確認できる像)において、SiC単結晶の原子層(格子)に対応する縞状構造又はその縞の一部が明瞭になっていない層をいう。
まず、「格子乱れ層」の存在及び特徴を説明するために、図7及び図8に、研磨工程後のSiC単結晶基板の表面近傍の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す。
図7(a)、(b)は、本発明のSiC単結晶基板の例を示すTEM像である。
図7(a)で示したTEM像において表面の平坦性の乱れは観察できない。また、その拡大像である格子像(図7(b))において、最上層の原子層(格子)だけに乱れが観察され、その下の原子層(格子)からは明瞭な縞状構造が観察できる。矢印で挟まれた層が「格子乱れ層」である。
このTEM像から、表面の「格子乱れ層」が3nm以下であることが確認できる。
図8(a)、(b)は、3nm以上の格子乱れ層が表面に存在するSiC単結晶基板の例を示すTEM像である。
図8(a)で示したTEM像において明らかな表面平坦性の乱れが観察され、また、図8(a)で平坦に見える部分でも、その拡大像である格子像(図8(b))において、表面から6nm以上にわたって縞状構造の乱れが観察できる。
このTEM像において7nm程度の「格子乱れ層」(像中の右側の矢印で挟まれた層)が観察でき、このサンプルでは表面の「格子乱れ層」が3nm以下を達成できていないことがわかる。
以下に、本工程の実施形態について説明する。
研磨工程は、通常ラップと呼ばれる粗研磨、ポリッシュとよばれる精密研磨、さらに超精密研磨である化学的機械研磨(以下、CMPという)など複数の研磨工程が含まれる。研磨工程は湿式で行われることが多いが、この工程で共通するのは、研磨布を貼付した回転する定盤に、研磨スラリーを供給しつつ、炭化珪素基板を接着した研磨ヘッドを押しあてて行われることである。本発明で用いる研磨スラリーは、基本的にはそれらの形態で用いられるが、研磨スラリーを用いる湿式研磨であれば形態は問わない。
砥粒として用いられる粒子はこのpH領域において溶解せず分散する粒子であればよい。本発明においては研磨液のpHが2未満であるのが好ましく、この場合、研磨粒子としてはダイヤモンド、炭化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素などが使用できる。本発明において砥粒として用いられるのは平均径1〜400nm、望ましくは10〜200nm、さらに望ましくは10〜150nmの研磨粒子である。良好な最終仕上げ面を得るためには、粒子径の小さなものが安価に市販されている点でシリカが好適である。さらに好ましくはコロイダルシリカである。コロイダルシリカ等の研磨剤の粒径は、加工速度、面粗さ等の加工特性によって適宜選択することができる。より高い研磨速度を要求する場合は粒子径の大きな研磨材を使用することができる。面粗さが小さい、すなわち高度に平滑な面を必要とするときは小さな粒子径の研磨材を使用することができる。平均粒子径が400nmを超えるものは高価である割には研磨速度が高くなく、不経済である。粒子径が1nm未満のような極端に小さいものは研磨速度が著しく低下する。
研磨材粒子の添加量としては1質量%〜30質量%、望ましくは1.5質量%〜15質量%である。30質量%を超えると研磨材粒子の乾燥速度が速くなり、スクラッチの原因となる恐れが高くなり、また、不経済である。また、研磨材粒子が1質量%未満では加工速度が低くなりすぎるため好ましくない。
本発明における研磨スラリーは水系研磨スラリーであり、20℃におけるpHは2.0未満、望ましくは1.5未満、さらに望ましくは1.2未満である。pHが2.0以上の領域では十分な研磨速度が得られない。一方で、スラリーをpH2未満とすることによって、通常の室内環境下においても炭化珪素に対する化学的反応性が著しく増加し、超精密研磨が可能になる。炭化珪素は研磨スラリー中にある酸化物粒子の機械的作用によって直接除去されるのではなく、研磨液が炭化珪素単結晶表面を酸化ケイ素に化学反応させ、その酸化ケイ素を砥粒が機械作用的に取り除いていくという機構であると考えられる。したがって研磨液組成を炭化珪素が反応しやすくなるような液性にすること、すなわちpHを2未満にすることと、砥粒として適度な硬度をもつ酸化物粒子を選定することはスクラッチ傷や加工変質層のない、平滑な面を得るために非常に重要である。
研磨スラリーは、塩酸、硝酸、燐酸、硫酸からなる酸のうち、少なくとも1種類以上、望ましくは2種類以上を用いてpHを2未満になるよう調整する。複数の酸を用いることが有効であることの原因は不明であるが、実験で確かめられており、複数の酸が相互に作用し、効果を高めている可能性がある。酸の添加量としては、たとえば、硫酸0.5〜5質量%、燐酸0.5〜5質量%、硝酸0.5〜5質量%、塩酸0.5〜5質量%の範囲で、適宜、種類と量を選定し、pHが2未満となるようにするとよい。
無機酸が有効であるのは有機酸に比べ強酸であり、所定の強酸性研磨液に調整するには極めて好都合であるためである。有機酸を使用したのでは強酸性研磨液の調整に困難が伴う。
炭化珪素の研磨は、強酸性研磨液によって炭化珪素の表面に生成した酸化膜に対する反応性により、酸化層を酸化物粒子により除去することで行われるが、この表面酸化を加速するために、研磨スラリーに酸化剤を添加すると更に優れた効果が認められる。酸化剤としては過酸化水素、過塩素酸、重クロム酸カリウム、過硫酸アンモニウムサルフェートなどが挙げられる。たとえば、過酸化水素水であれば0.5〜5質量%、望ましくは1.5〜4質量%加えることにより研磨速度が向上するが、酸化剤は過酸化水素水に限定されるものではない。
研磨スラリーは研磨材のゲル化を抑制するためにゲル化防止剤を添加することが出来る。ゲル化防止剤の種類としては、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリエチレンホスホン酸等のリン酸エステル系のキレート剤が好適に用いられる。ゲル化防止剤は0.01〜6質量%の範囲、好ましくは0.05〜2質量%で添加するのがよい。
本発明の研磨工程において表面の格子乱れ層を3nm以下にするには、CMP前の機械研磨において加工圧力を350g/cm以下にし、直径5μm以下の砥粒を用いることによって、ダメージ層を50nmに抑えておくのが好ましく、さらにCMPにおいては、研磨スラリーとして平均粒子径が10nm〜150nmの研磨材粒子及び無機酸を含み、20℃におけるpHが2未満であるのが好ましく、研磨材粒子がシリカであって、1質量%から30質量%含むのがさらに好ましく、無機酸が塩酸、硝酸、燐酸、硫酸のうちの少なくとも1種類であるのがより好ましい。
<清浄化(ガスエッチング)工程>
清浄化工程では、水素雰囲気下で、前記研磨後の基板を1400〜1600℃にしてその表面を清浄化(ガスエッチング)する。
以下、本工程の実施形態について説明する。
ガスエッチングは、SiC単結晶基板を1400〜1600℃に保持し、水素ガスの流量を40〜120slm、圧力を100〜250mbarとして、5〜30分間行う。
研磨後のSiC単結晶基板を洗浄した後、基板をエピタキシャル成長装置例えば、量産型の複数枚プラネタリー型CVD装置内にセットする。装置内に水素ガスを導入後、圧力を100〜250mbarに調整する。その後、装置の温度を上げ、基板温度を1400〜1600℃、好ましくは1480℃以上にして、1〜30分間、水素ガスによって基板表面のガスエッチングを行う。かかる条件で水素ガスによるガスエッチングを行った場合、エッチング量は0.05〜0.4μm程度になる。
基板表面は研磨工程によりダメージを受けており、TEMにおいて「格子乱れ層」として検出できるダメージだけでなく、TEMによって検出できない格子の歪み等がさらに深くまで存在していると考えられる。ガスエッチングはこのようにダメージを受けた層(以下「ダメージ層」という)を除去することを目的としているが、ガスエッチングが十分ではなく、ダメージ層が残留すると、エピタキシャル成長層中に異種ポリタイプや転位、積層欠陥などが導入されてしまうし、また、エッチングを施しすぎると、基板表面で表面再構成が生じ、エピタキシャル成長開始前にステップバンチングを生じさせてしまう。そのため、ダメージ層とガスエッチング量とを最適化することが重要であるが、本発明者らは、鋭意研究の結果、ステップバンチングフリーのSiCエピタキシャルウェハの製造における十分条件として、基板表面の格子乱れ層を3nm以下にまで薄くした時のダメージ層と、上述のガスエッチング条件との組み合わせを見出したのである。
清浄化(ガスエッチング)工程後の基板の表面について、光学式表面検査装置を用いてウェハ全面の35%以上の領域を解析したエピタキシャル層最表面の二乗平均粗さRqが1.3nm以下であることが確認できる。また、原子間力顕微鏡を用いて測定した場合、10μm□では1.0nm以下であり、また、200μm□では1.0nm以下であり、かつ200μm□に観察される長さ100〜500μmのステップバンチング(短いステップバンチング)における最大高低差Ryが3.0nm以下であることが確認できる。また、このステップの線密度が5mm−1以下であることが確認できる。
この後の成膜工程及び降温工程において、この基板表面の平坦性を維持することが重要となる。
水素ガスにSiHガス及び/又はCガスを添加することもできる。らせん転位に起因したシャローピットに短いステップバンチングが付随して発生する場合があるが、リアクタ内の環境をSiリッチにするため、0.009mol%未満の濃度のSiHガスを水素ガスに添加してガスエッチングを行うことにより、シャローピットの深さを浅くすることができ、シャローピットに付随する短いステップバンチングの発生を抑制できる。
<成膜(エピタキシャル成長)工程>
成膜(エピタキシャル成長)工程では、前記清浄化後の基板の表面に、炭化珪素のエピタキシャル成長に必要とされる量のSiHガスとCガスとを濃度比C/Siが0.7〜1.2で同時に供給して炭化珪素をエピタキシャル成長させる。
また、上述したように、「同時に供給」とは、完全に同一時刻であることまでは要しないが、数秒以内であることを意味する。後述する実施例で示したアイクストロン社製Hot Wall SiC CVDを用いた場合、SiHガスとCガスの供給時間差が5秒以内であれば、ステップバンチングフリーのSiCエピタキシャルウェハが製造できた。
SiHガス及びCガスの各流量、圧力、基板温度はそれぞれ、15〜150sccm、3.5〜60sccm、80〜250mbar、1400〜1600℃の範囲で、膜厚とキャリア濃度の均一性、成長速度を制御しながら決定する。成膜開始と同時にドーピングガスとして窒素ガスを導入することで、エピタキシャル層中のキャリア濃度を制御することができる。成長中のステップバンチングを抑制する方法として成長表面におけるSi原子のマイグレーションを増やすために、供給する原料ガスの濃度比C/Siを低くすることが知られているが、本発明ではC/Siは0.7〜1.2である。また、成長速度は毎時3〜20μm程度である。成長させるエピタキシャル層は通常、膜厚については5〜20μm程度であり、キャリア濃度については2〜15×10−15cm−3程度である。
<降温工程>
降温工程では、SiHガスとCガスの供給を同時に停止し、SiHガスとCガスとを排気するまで基板温度を保持し、その後降温する。
成膜後、SiHガスとCガスの供給、並びにドーピングガスとして導入窒素ガスを止めて降温するが、このときにもSiCエピタキシャル膜表面ではガスエッチングが生じて表面のモフォロジーを悪化させ得る。この表面モフォロジーの悪化を抑制するため、SiHガスおよびCガスの供給を停止するタイミングと、降温のタイミングとが重要である。SiHガスとCガスの供給を同時に停止した後、供給したこれらのガスが基板表面から無くなるまで成長温度を保持し、その後平均毎分50℃程度の速度で室温まで降温することにより、モフォロジーの悪化が抑制されることがわかった。
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例では、原料ガスとしてSiHガスおよびCガス、ドーピングガスとしてNガス、キャリアガスおよびエッチングガスとしてHガスあるいはHClガスを使用し、量産型の複数枚プラネタリー型CVD装置であるアイクストロン社製Hot Wall SiC CVDによって、4H−SiC単結晶の(0001)面に対して<11−20>軸方向へ4°傾けたSi面にSiCエピタキシャル膜を成長させた。得られたエピタキシャルウェハ表面のラフネスについて、光学式表面検査装置(KLA−Tencor社製Candela CS20)と、通常のAFM及び広範囲観察型AFMを用いて調べた。広範囲観察型AFMとは、通常のAFMに比べて縦方向の分解能が低下している代わりに、200μm□程度の観察領域を持つAFMのことである。
(実施例1)
研磨工程において、CMP前の機械研磨は直径5μm以下の砥粒を用いて、加工圧力を350g/cmで行った。また、CMPは、研磨材粒子として平均粒子径が10〜150nmのシリカ粒子を用い、無機酸として硫酸を含み、20℃におけるpHが1.9の研磨スラリーを用いて、30分間行った。
研磨後の基板をRCA洗浄後、成長装置内に導入した。尚、RCA洗浄とは、Siウェハに対して一般的に用いられている湿式洗浄方法であり、硫酸・アンモニア・塩酸と過酸化水素水を混合した溶液ならびにフッ化水素酸水溶液を用いて、基板表面の有機物や重金属、パーティクルを除去することができる。
清浄化(ガスエッチング)工程は、水素ガスの流量90slm、リアクタ内圧力を200mbar、基板温度を1550℃で、10分間行った。
SiCエピタキシャル成長工程は、SiHガス及びCガスの流量を48sccm、17.6sccmで基板面に同時に供給されるようにCガスを供給後、3秒後、SiHガスを供給した。C/Siは1.1を選択した。リアクタ内圧力を200mbar、基板温度を1550℃として2時間成長工程を実施して、厚さ10μmのSiCエピタキシャル層を成膜した。
こうして作製したSiCエピタキシャルウェハについて、広範囲観察型AFM及び光学式表面検査装置で測定した結果はそれぞれ、図5(a)、図6(a)に示した通りであり、光学式表面検査装置で測定したRqは1.2nmであり、広範囲観察型AFMで測定したRqは0.4nmであり、最大高低差Ryは0.7nmであり、ステップバンチングは観察されなかった。
(実施例2)
実施例1とガスエッチングの条件を除いて同じ条件でSiCエピタキシャルウェハを製造した。ガスエッチング工程において、水素ガスに0.008mol%の濃度のSiHガスを添加して行った点が実施例1と異なる。
こうして作製したSiCエピタキシャルウェハについて、光学式表面検査装置及び広範囲観察型AFMで測定した。実施例1と同様のイメージが観察され、光学式表面検査装置で測定したRqは1.1nmであり、広範囲観察型AFMで測定したRqは0.4nm、最大高低差Ryは0.7nmであった。
(比較例1)
SiCエピタキシャル成長工程において、SiHガスとCガスとを濃度比C/Siを1.9として導入したこと、及び、Cガスを導入して30秒後にSiHガスを導入したことを除いて、実施例1と同じ条件でSiCエピタキシャルウェハを作製した。
作製したSiCエピタキシャルウェハの光学式表面検査装置、広範囲観察型AFMで測定した像はそれぞれ、図6(b)、図5(b)に示した通りである。
カンデラ像及びAFM像において、ウェハ表面全体に従来のステップバンチングが観察された。光学式表面検査装置で測定した二乗平均粗さRqは1.7nmであり、広範囲観察型AFMで測定した二乗平均粗さRqは2.4nmであり、最大高低差Ryは3.6nmであった。
(比較例2)
SiCエピタキシャル成長工程において、Cガスを導入して30秒後にSiHガスを導入したことを除いて、実施例1と同じ条件でSiCエピタキシャルウェハを作製した。従って、比較例1との比較では、SiHガスとCガスとを濃度比C/Siを1.1として導入した点が異なる。
図9(a)、(b)に、作製したSiCエピタキシャルウェハについて、カンデラ像、広範囲観察型AFM像を示す。
光学式表面検査装置で測定した二乗平均粗さRqは1.4nmであり、広範囲観察型AFMで測定した二乗平均粗さRqは1.4nmであり、最大高低差Ryは2.8nmであった。ステップの線密度は10本/mm−1であった。
カンデラ像及びAFM像のいずれにおいても、従来のステップバンチングは観察されなかった。この結果は、SiHガスとCガスとを濃度比C/Siが従来のステップバンチングの発生を抑制するのに重要であることを示している。そして、濃度比C/Siを0.7〜1.2の範囲にすることで従来のステップバンチングの発生を抑制できることを確認した。
他方、図9(a)のカンデラ像で、矢印でその一部を示すように、1mm□に複数の短いステップバンチングが観察された。この短いステップバンチングは本発明者らが発見したものであるが、この短いステップバンチングの発生を抑制することがステップバンチングフリーのSiCエピタキシャルウェハの作製には不可欠である。そして、本発明者らは鋭意研究の結果、「格子乱れ層」を3nm以下にしたSiC単結晶基板のガスエッチング後の表面に、炭化珪素のエピタキシャル成長に必要とされる量のSiHガスとCガスとを濃度比C/Siが0.7〜1.2で同時に供給することによって、短いステップバンチングの発生をも抑制できることを見出したのである。
本発明のSiCエピタキシャルウェハは、ステップバンチングフリーのSiCエピタキシャルウェハであり、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等種々の炭化珪素半導体装置の製造に利用することができる。

Claims (1)

  1. 0.4°〜5°のオフ角で傾斜させた4H−SiC単結晶基板上にSiCのエピタキシャル層を形成したSiCエピタキシャルウェハであって、SiCエピタキシャル層中のらせん転位に起因したシャローピットに連結したステップバンチングの線密度が5mm−1未満であることを特徴とするSiCエピタキシャルウェハ。
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