以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態における車両の構成を示す右側面図、図2は本発明の実施の形態における車両のリンク機構の構成を示す図、図3は本発明の実施の形態における車両の構成を示す背面図である。なお、図3において、(a)は車体が直立している状態を示す図、(b)は車体が傾斜している状態を示す図である。
図において、10は、本実施の形態における車両であり、車体の駆動部としての本体部20と、乗員が搭乗して操舵する操舵部としての搭乗部11と、車体の前方において幅方向の中心に配設された前輪である操舵輪としての車輪12Fと、後輪として後方に配設された駆動輪である左側の車輪12L及び右側の車輪12Rとを有する。さらに、前記車両10は、車体を左右に傾斜させる、すなわち、リーンさせるためのリーン機構、すなわち、車体傾斜機構として、左右の車輪12L及び12Rを支持するリンク機構30と、該リンク機構30を作動させるアクチュエータである傾斜用アクチュエータ装置としてのリンクモータ25とを有する。なお、前記車両10は、前輪が左右二輪であって後輪が一輪の三輪車であってもよいし、前輪及び後輪が左右二輪の四輪車であってもよいが、本実施の形態においては、図に示されるように、前輪が一輪であって後輪が左右二輪の三輪車である場合について説明する。
旋回時には、左右の車輪12L及び12Rの路面18に対する角度、すなわち、キャンバ角を変化させるとともに、搭乗部11及び本体部20を含む車体を旋回内輪側へ傾斜させることによって、旋回性能の向上と乗員の快適性の確保とを図ることができるようになっている。すなわち、前記車両10は車体を横方向(左右方向)にも傾斜させることができる。なお、図2及び3(a)に示される例においては、左右の車輪12L及び12Rは路面18に対して直立している、すなわち、キャンバ角が0度になっている。また、図3(b)に示される例においては、左右の車輪12L及び12Rは路面18に対して右方向に傾斜している、すなわち、キャンバ角が付与されている。
前記リンク機構30は、左側の車輪12L及び該車輪12Lに駆動力を付与する電気モータ等から成る左側の回転駆動装置51Lを支持する左側の縦リンクユニット33Lと、右側の車輪12R及び該車輪12Rに駆動力を付与する電気モータ等から成る右側の回転駆動装置51Rを支持する右側の縦リンクユニット33Rと、左右の縦リンクユニット33L及び33Rの上端同士を連結する上側の横リンクユニット31Uと、左右の縦リンクユニット33L及び33Rの下端同士を連結する下側の横リンクユニット31Dと、本体部20に上端が固定され、上下に延在する中央縦部材21とを有する。また、左右の縦リンクユニット33L及び33Rと上下の横リンクユニット31U及び31Dとは回転可能に連結されている。さらに、上下の横リンクユニット31U及び31Dは、その中央部で中央縦部材21と回転可能に連結されている。なお、左右の車輪12L及び12R、左右の回転駆動装置51L及び51R、左右の縦リンクユニット33L及び33R、並びに、上下の横リンクユニット31U及び31Dを統合的に説明する場合には、車輪12、回転駆動装置51、縦リンクユニット33及び横リンクユニット31として説明する。
そして、駆動用アクチュエータ装置としての前記回転駆動装置51は、いわゆるインホイールモータであって、固定子としてのボディが縦リンクユニット33に固定され、前記ボディに回転可能に取り付けられた回転子としての回転軸が車輪12の軸に接続され、前記回転軸の回転によって車輪12を回転させる。なお、前記回転駆動装置51は、インホイールモータ以外の種類のモータであってもよい。
また、前記リンクモータ25は、電気モータ等を含む回転式の電動アクチュエータであって、固定子としての円筒状のボディと、該ボディに回転可能に取り付けられた回転子としての回転軸とを備えるものであり、前記ボディが取付フランジ22を介して本体部20に固定され、前記回転軸がリンク機構30の上側の横リンクユニット31Uに固定されている。なお、リンクモータ25の回転軸は、本体部20を傾斜させる傾斜軸として機能し、中央縦部材21と上側の横リンクユニット31Uとの連結部分の回転軸と同軸になっている。そして、リンクモータ25を駆動して回転軸をボディに対して回転させると、本体部20及び該本体部20に固定された中央縦部材21に対して上側の横リンクユニット31Uが回動し、リンク機構30が作動する、すなわち、屈伸する。これにより、本体部20を傾斜させることができる。なお、リンクモータ25は、その回転軸が本体部20及び中央縦部材21に固定され、そのボディが上側の横リンクユニット31Uに固定されていてもよい。
なお、リンクモータ25は、回転軸をボディに対して回転不能に固定する図示されないロック機構を備える。該ロック機構は、メカニカルな機構であって、回転軸をボディに対して回転不能に固定している間には電力を消費しないものであることが望ましい。前記ロック機構によって、回転軸をボディに対して所定の角度で回転不能に固定することができる。
前記搭乗部11は、本体部20の前端に図示されない連結部を介して連結される。該連結部は、搭乗部11と本体部20とを所定の方向に相対的に変位可能に連結する機能を有していてもよい。
また、前記搭乗部11は、座席11a、フットレスト11b及び風よけ部11cを備える。前記座席11aは、車両10の走行中に乗員が着座するための部位である。また、前記フットレスト11bは、乗員の足部を支持するための部位であり、座席11aの前方側(図1(a)における右側)下方に配設される。
さらに、搭乗部11の後方若しくは下方又は本体部20には、図示されないバッテリ装置が配設されている。該バッテリ装置は、回転駆動装置51及びリンクモータ25のエネルギ供給源である。また、搭乗部11の後方若しくは下方又は本体部20には、図示されない制御装置、インバータ装置、各種センサ等が収納されている。
そして、座席11aの前方には、操縦装置41が配設されている。該操縦装置41には、操舵装置としてのハンドルバー41a、速度メータ等のメータ、インジケータ、スイッチ等の操縦に必要な部材が配設されている。乗員は、前記ハンドルバー41a及びその他の部材を操作して、車両10の走行状態(例えば、進行方向、走行速度、旋回方向、旋回半径等)を指示する。なお、乗員が要求する車体の要求旋回量を出力するための手段である操舵装置として、ハンドルバー41aに代えて他の装置、例えば、ステアリングホイール、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を操舵装置として使用することもできる。
なお、車輪12Fは、サスペンション装置(懸架装置)の一部である前輪フォーク17を介して搭乗部11に接続されている。前記サスペンション装置は、例えば、一般的なオートバイ、自転車等において使用されている前輪用のサスペンション装置と同様の装置であり、前記前輪フォーク17は、例えば、スプリングを内蔵したテレスコピックタイプのフォークである。そして、一般的なオートバイ、自転車等の場合と同様に、乗員によるハンドルバー41aの操作に応じて操舵輪としての車輪12Fは舵角を変化させ、これにより、車両10の進行方向が変化する。
具体的には、前記ハンドルバー41aは、図示されない操舵軸部材の上端に接続され、操舵軸部材の下端には前輪フォーク17の上端が接続されている。前記操舵軸部材は、上端が下端よりも後方に位置するように斜めに傾斜した状態で、搭乗部11が備える図示されないフレーム部材に、回転可能に取り付けられている。
さらに、車両10は、後述されるスロットルグリップ35を操縦装置の一部として備える。前記スロットルグリップ35は、一般的なオートバイ、自転車等において使用されているスロットルグリップと同様の部材であり、ハンドルバー41aの一端に回転可能に取り付けられ、その回転角度、すなわち、スロットル開度に応じて、車両10を加速するような走行指令を入力する装置である。
本実施の形態において、車両10は横加速度センサ44を有する。該横加速度センサ44は、一般的な加速度センサ、ジャイロセンサ等から成るセンサであって、車両10の横加速度、すなわち、車体の幅方向としての横方向(図3における左右方向)の加速度を検出する。
車両10は、旋回時に車体を旋回内側に傾斜させて安定させるので、車体を傾斜させることによって、旋回時の旋回外側への遠心力と重力とが釣り合うような角度になるように制御される。このような制御を行うことによって、例えば、路面18が進行方向と垂直な方向(進行方向に対する左右方向)に傾斜していたとしても、常に車体を水平に保つことが可能になる。これにより、車体と乗員には、見かけ上、常に重力が鉛直下向きにかかっていることになり、違和感が低減され、また、車両10の安定性が向上する。
そこで、本実施の形態においては、傾斜する車体の横方向の加速度を検出するために、横加速度センサ44を車体に取り付け、横加速度センサ44の出力がゼロとなるようにフィードバック制御を行う。これにより、旋回時に作用する遠心力と重力とが釣り合う傾斜角まで、車体を傾斜させることができる。また、進行方向と垂直な方向に路面18が傾斜している場合でも、車体が鉛直になる傾斜角となるように制御することができる。なお、前記横加速度センサ44は、車体の幅方向の中心、すなわち、車体の縦方向軸線上に位置するように配設されている。
しかし、横加速度センサ44が1つであると、不要加速度成分をも検出してしまうことがある。例えば、車両10の走行中、路面18の窪(くぼ)みに左右の車輪12L及び12Rのいずれか一方のみが落下する場合があり得る。この場合、車体が傾斜するので、横加速度センサ44は、周方向に変位し、周方向の加速度を検出することになる。つまり、遠心力や重力に直接由来しない加速度成分、すなわち、不要加速度成分が検出されてしまう。
また、車両10は、例えば、車輪12L及び12Rのタイヤ部分のように弾性を備え、ばねとして機能する部分を含み、また、各部材の接続部等に不可避的なガタが含まれる。そのため、横加速度センサ44は、不可避的なガタやばねを介して車体に取り付けられていると考えられるので、ガタやばねの変位によって生じる加速度をも不要加速度成分として検出してしまう。
このような不要加速度成分は、車体傾斜制御システムの制御性を悪化させる可能性がある。例えば、車体傾斜制御システムの制御ゲインを大きくすると、不要加速度成分に起因する制御系の振動、発散等が発生するので、応答性を向上させようとしても制御ゲインを大きくすることができなくなってしまう。
そこで、本実施の形態においては、横加速度センサ44が複数であって、互いに異なる高さに配設されている。図1及び3に示される例において、横加速度センサ44は、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bの2つであって、第1横加速度センサ44aと第2横加速度センサ44bとは互いに異なる高さ位置に配設されている。第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bの位置を適切に選択することで、効果的に不要加速度成分を取り除くことができる。
具体的には、図3(a)に示されるように、第1横加速度センサ44aは、搭乗部11の背面において、路面18からの距離、すなわち、高さがL1 の位置に配設されている。また、第2横加速度センサ44bは、搭乗部11の背面又は本体部20の上面において、路面18からの距離、すなわち、高さがL2 の位置に配設されている。なお、L1 >L2 である。そして、旋回走行時に、図3(b)に示されるように、車体を旋回内側(図において右側)に傾けた状態で旋回すると、第1横加速度センサ44aは、横方向の加速度を検出して検出値a1 を出力し、第2横加速度センサ44bは、横方向の加速度を検出して検出値a2 を出力する。なお、車体が傾く際の傾斜運動の中心、すなわち、ロール中心は、厳密には路面18よりわずかに下方に位置するが、実際上は、概略路面18と等しい位置であると考えられる。
前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、ともに、十分に剛性の高い部材に取り付けられることが望ましい。また、L1 とL2 との差は、小さいと検出値a1 及びa2 の差が小さくなるので、十分に大きいこと、例えば、0.3〔m〕以上、とすることが望ましい。さらに、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、ともに、リンク機構30よりも上方に配設されることが望ましい。さらに、車体がサスペンション等のばねで車体が支持されている場合、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、ともに、いわゆる「ばね上」に配設されることが望ましい。さらに、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、ともに、前輪である車輪12Fの車軸と後輪である車輪12L及び12Rの車軸との間に配設されることが望ましい。さらに、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、ともに、可能な限り乗員の近くに配設されることが望ましい。さらに、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、ともに、上側から観て進行方向に延在する車両中心軸上に位置すること、すなわち、進行方向に関してオフセットされないことが望ましい。
また、本実施の形態における車両10は、制御装置の一部としての車体傾斜制御システムを有する。該車体傾斜制御システムは、一種のコンピュータシステムであり、ECU(Electronic Control Unit)等から成る傾斜制御装置を備える。該傾斜制御装置は、プロセッサ等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、スロットルグリップ35、横加速度センサ44、回転駆動装置51及びリンクモータ25に接続されている。
前記傾斜制御装置は、旋回走行の際には、フィードバック制御を行い、車体の傾斜角度が、横加速度センサ44が検出する横加速度の値がゼロとなるような角度になるように、リンクモータ25を作動させる。つまり、旋回外側への遠心力と重力とが釣り合って、横方向の加速度成分がゼロとなるような角度になるように、車体の傾斜角度を制御する。これにより、車体及び搭乗部11に搭乗している乗員には、車体の縦方向軸線と平行な方向の力が作用することとなる。したがって、車体の安定を維持することができ、また、旋回性能を向上させることができる。また、乗員が違和感を感じることがなく、乗り心地が向上する。
次に、前記車体傾斜制御システムの構成について説明する。
図4は本発明の実施の形態における車体傾斜制御システムの構成を示すブロック図である。
図において、46は傾斜制御装置としての傾斜制御ECUであり、走行指令装置の1つとしてのスロットルグリップ35、第1横加速度センサ44a、第2横加速度センサ44b、インホイールモータである回転駆動装置51、及び、リンクモータ25に接続されている。
また、前記傾斜制御ECU46は、駆動輪制御部49、演算部48及び傾斜制御部47を備える。そして、前記駆動輪制御部49は、スロットルグリップ35の回転角度、すなわち、スロットル開度、及び、演算部48の出力するスロットル開度入力許可に基づいて回転駆動装置51を作動させるためのトルク指令値を出力する。
なお、前記演算部48は、初期傾斜演算部48a及び横加速度演算部48bを備える。前記初期傾斜演算部48aは、車両10を起動させた直後の状態、すなわち、初期状態における車体傾斜制御に必要な条件を演算して出力する。なお、スロットル開度入力許可は初期傾斜演算部48a及び横加速度演算部48bによって出力される。また、該横加速度演算部48bは、初期状態及び定常走行状態において、横加速度としての合成横加速度を演算して出力する。
そして、前記傾斜制御部47は、前記横加速度演算部48bが出力した合成横加速度に基づいてリンクモータ25を作動させるための速度指令値を出力する。
次に、前記構成の車両10の動作について説明する。まず、定常走行状態における合成横加速度の算出について説明する。
図5は本発明の実施の形態における旋回走行時の車体の傾斜動作を説明する力学モデルを示す図である。
旋回走行が開始されると、車体傾斜制御システムは車体傾斜制御処理を開始する。姿勢制御が行われることで、車両10は、リンク機構30によって、旋回走行時には、図3(b)に示されるように、車体を旋回内側(図において右側)に傾けた状態で旋回する。また、旋回走行時には、旋回外側への遠心力が車体に作用するとともに、車体を旋回内側に傾けたことによって重力の横方向成分が発生する。そして、横加速度演算部48bは、横加速度演算処理を実行し、合成横加速度ac を算出して傾斜制御部47に出力する。すると、該傾斜制御部47は、フィードバック制御を行い、合成横加速度ac の値がゼロとなるような制御値としての速度指令値をリンクモータ25に出力する。
なお、車体傾斜制御処理は、車両10の電源が投入されている間、車体傾斜制御システムによって繰り返し所定の制御周期TS (例えば、5〔ms〕)で実行される処理であり、旋回時において、旋回性能の向上と乗員の快適性の確保とを図る処理である。
なお、図5において、44Aは車体において第1横加速度センサ44aの配設された位置を示す第1センサ位置であり、44Bは車体において第2横加速度センサ44bの配設された位置を示す第2センサ位置である。
第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが検出してその検出値を出力する加速度は、〈1〉旋回時に車体に作用する遠心力、〈2〉車体を旋回内側に傾けたことによって発生する重力の横方向成分、〈3〉左右の車輪12L及び12Rのいずれか一方のみが路面18の窪みに落下することによる車体の傾斜、ガタやばねの変位等により第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが周方向に変位することによって生じる加速度、並びに、〈4〉リンクモータ25の作動又はその反作用により第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが周方向に変位することによって生じる加速度、の4つであると考えられる。これら4つの加速度のうち、前記〈1〉及び〈2〉は第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bの高さ、すなわち、L1 及びL2 と無関係である。一方、前記〈3〉及び〈4〉は、周方向に変位することによって生じる加速度であるから、ロール中心からの距離に比例する、すなわち、概略L1 及びL2 に比例する。
ここで、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが検出してその検出値を出力する〈3〉の加速度をaX1及びaX2とし、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが検出してその検出値を出力する〈4〉の加速度をaM1及びaM2とする。また、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが検出してその検出値を出力する〈1〉の加速度をaT とし、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが検出してその検出値を出力する〈2〉の加速度をaG とする。なお、前記〈1〉及び〈2〉は、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bの高さに無関係なので、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bの検出値は等しい。
そして、左右の車輪12L及び12Rのいずれか一方のみが路面18の窪みに落下することによる車体の傾斜、ガタやばねの変位等による周方向の変位の角速度をωR とし、その角加速度をωR ’とする。また、リンクモータ25の作動又はその反作用による周方向の変位の角速度をωM とし、その角加速度をωM ’とする。なお、角速度ωM 又は角加速度ωM ’は、リンク角センサの検出値から取得することができる。
すると、aX1=L1 ωR ’、aX2=L2 ωR ’、aM1=L1 ωM ’、aM2=L2 ωM ’となる。
また、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが検出して出力する加速度の検出値をa1 及びa2 とすると、a1 及びa2 は、4つの加速度〈1〉〜〈4〉の合計であるから、次の式(1)及び(2)で表される。
a1 =aT +aG +L1 ωR ’+L1 ωM ’ ・・・式(1)
a2 =aT +aG +L2 ωR ’+L2 ωM ’ ・・・式(2)
そして、式(1)から式(2)を減算すると、次の式(3)を得ることができる。
a1 −a2 =(L1 −L2 )ωR ’+(L1 −L2 )ωM ’ ・・・式(3)
ここで、L1 及びL2 の値は、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bの高さであるから既知である。また、ωM ’の値は、リンクモータ25の角速度ωM の微分値であるから既知である。すると、式(3)の右辺においては、第1項のωR ’の値のみが未知であり、他の値はすべて既知である。したがって、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bの検出値a1 及びa2 から、ωR ’の値を得ることが可能である。つまり、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bの検出値a1 及びa2 に基づいて、不要加速度成分を取り除くことができる。
そこで、横加速度演算部48bは、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bの検出値a1 及びa2 に基づいて、合成横加速度ac を算出する。該合成横加速度ac は、横加速度センサ44が1つである場合における横加速度センサ値に相当する値であって、第1横加速度センサ値a1 と第2横加速度センサ値a2 とを合成した値であり、次の式(4)及び(5)によって得られる。
ac =a2 −(L2 /ΔL)Δa ・・・式(4)
ac =a1 −(L1 /ΔL)Δa ・・・式(5)
なお、Δaは、加速度差であって、次の式(6)によって表される。
Δa=a1 −a2 ・・・式(6)
また、ΔLは次の式(7)によって表される。
ΔL=L1 −L2 ・・・式(7)
理論上は、式(4)によっても式(5)によっても、同じ値を得ることができるが、周方向の変位によって生じる加速度はロール中心からの距離に比例するので、実際上は、ロール中心により近い方の横加速度センサ44、すなわち、第2横加速度センサ44bの検出値であるa2 を基準にすることが望ましい。そこで、本実施の形態においては、式(4)によって合成横加速度ac を算出することとする。
次に、車両10の電源を投入した直後、すなわち、起動直後の状態である初期状態における車体の傾斜制御について説明する。
図6は本発明の実施の形態における制御系のブロック図である。
前述のように、定常走行状態における車体傾斜制御処理では、横加速度演算部48bが合成横加速度ac を算出すると、傾斜制御部47は、フィードバック制御を行い、合成横加速度ac の値がゼロとなるような速度指令値をリンクモータ25に出力する。
しかし、前回の運転の終了時点における横方向の路面傾斜角度が現在の路面傾斜と異なっている場合、前回の運転の終了が異常終了だった場合等のように最初から横方向に車体が傾斜状態にある場合に、前述のような車体傾斜制御処理を開始すると、開始当初から合成横加速度ac の値がある程度大きくなっているので、傾斜制御部47が出力する速度指令値も大きな値となり、リンクモータ25が大きな速度指令値に従って始動することとなる。その結果、車体姿勢の変化が速くなり、乗員が不快に感じることがある。
そこで、本実施の形態においては、起動直後の状態である初期状態においては、制御モードを初期状態モードとし、合成横加速度ac から目標横加速度atargetを減算した値を傾斜制御部47へ出力することによって、リンクモータ25に出力される速度指令値の値を緩和するようになっている。すなわち、目標横加速度atargetを適切に制御することによって、車両10の起動時における車体の傾斜を任意の変化速度で復帰させることができるようにする。
具体的には、初期状態モードの制御は、合成横加速度ac の値をゼロにするような制御ではなく(もっとも、最終的には合成横加速度ac の値をゼロにするのではあるが)、起動時の合成横加速度ac の値に基づいて設定される目標横加速度atargetに従って傾斜制御部47への出力値を決定する。
また、初期状態において傾斜している車体の姿勢を直立状態に復帰させている時には、スロットル開度の値をゼロとして取り扱うことによって、車両10を走行させないようにして、安全性を確保する。つまり、初期状態モードでは駆動輪の駆動を不許可とする。
さらに、起動時の合成横加速度ac の値、すなわち、初期値ainitがあらかじめ設定された閾(しきい)値以上である場合には、車体の姿勢を直立状態に復帰させることが不可能であると判定し、車体の傾斜制御を停止する。例えば、車両10がすでに転倒している場合や、車体の姿勢を直立状態に復帰させるには、リンクモータ25の発生するトルクが不足している場合には、車体の姿勢を直立状態に復帰させることが不可能であると判定する。
そして、車体の姿勢を直立状態に復帰させ、合成横加速度ac の値がゼロに近い閾値となると、初期状態における車体傾斜制御処理から定常走行状態における車体傾斜制御処理に移行する。また、スロットル開度の値も受け付け、車両10を走行可能とする。
本実施の形態における車体傾斜制御処理では、図6に示されるようなフィードバック制御が行われる。図において、f1 は前記式(4)で表される伝達関数である。また、GP は比例制御動作の制御ゲインであり、GD は微分制御動作の制御ゲインであり、sは微分要素である。
次に、目標横加速度atargetの設定方法について具体的に説明する。
図7は本発明の実施の形態における目標横加速度の変化を示す第1の図、図8は本発明の実施の形態における目標横加速度の変化を示す第2の図である。なお、図7及び8において(a)は目標横加速度の時間変化を示す図、(b)は対応する車体傾斜角の時間変化を示す図である。
まず、車両10の起動時における合成横加速度ac の値を初期値ainitとして設定する。続いて、次の式(8)によって目標横加速度atargetを設定する。
ここで、tは車両10が起動してからの経過時間であり、kは復帰速度係数であって車体の姿勢を直立状態に復帰させる際の車体の変化速度を示す係数であり、あらかじめ設定される。また、sgn(x)は、xの正負の符号を示す関数である。さらに、図7(b)及び8(b)に示されるθは車体傾斜角であり、車体の縦方向軸線の鉛直線に対する角度である。
前記式(8)から、目標横加速度atargetの値は、合成横加速度ac の初期値ainitから始まって、時間の経過とともに減少してゼロとなるように変化することが分かる。前述のように、本実施の形態においては、起動直後の状態である初期状態においては、合成横加速度ac から目標横加速度atargetを減算した値を傾斜制御部47へ出力するのであるから、目標横加速度atargetの値がこのように変化することによって、傾斜制御部47へ出力される値は、ゼロから始まって時間の経過とともに増加して合成横加速度ac の値となることが分かる。
例えば、鉛直線に対して車体の縦方向軸線が30度傾斜している状態から、5秒かけて車体の姿勢を直立状態に復帰させる場合、復帰速度係数kの値は、0.1〔m/s3 〕となる。そして、目標横加速度atargetは、図7(a)に示されるように変化し、それに対応して、車体傾斜角θは、図7(b)に示されるように変化する。
図7(a)から、目標横加速度atargetは、リニア(直線的)に減少してゼロとなることが分かる。また、車体傾斜角θも、目標横加速度atargetとほぼ同様に漸減してゼロとなることが分かる。つまり、初期状態における車体傾斜制御処理から定常走行状態における車体傾斜制御処理に移行する時点では、車体の姿勢が直立状態となり、目標横加速度atargetもゼロとなる。
なお、図7(a)において、目標横加速度atargetを示す直線の傾斜は復帰速度係数kを表し、Y切片は合成横加速度ac の初期値ainitを表し、X切片は直立状態に復帰するまでの時間を表している。したがって、復帰速度係数kが一定に設定されている場合、車両10の起動時における車体傾斜角θが小さくて初期値ainitの値が小さければ、目標横加速度atargetを示す直線は、全体として下方に平行移動し、その結果、直立状態に復帰するまでの時間が短くなる。逆に、車両10の起動時における車体傾斜角θが大きくて初期値ainitの値が大きければ、目標横加速度atargetを示す直線は、全体として上方に平行移動し、その結果、直立状態に復帰するまでの時間が長くなる。
目標横加速度atargetは、時間の変化とともに減少するのであれば、必ずしもリニアに減少する必要はなく、例えば、図8(a)に示されるように、ロジスティック曲線に沿って減少するようにしてもよい。この場合、例えば、鉛直線に対して車体の縦方向軸線が30度傾斜している状態から、5秒かけて車体の姿勢を直立状態に復帰させるには、次の式(9)によって目標横加速度atargetを設定する。
これにより、目標横加速度atargetは、図8(a)に示されるように変化し、それに対応して、車体傾斜角θは、図8(b)に示されるように変化する。
目標横加速度atargetを前記式(9)によって設定すると、起動時直後において傾斜制御部47へ出力される値の増加率を抑制することができるので、車体姿勢の変化速度がより抑制され、乗り心地がより向上する。
次に、前記車両10の動作について具体的に説明する。まず、全体の動作について説明する。
図9は本発明の実施の形態における車両の全体の動作を示すフローチャートである。
車両10の電源が投入され、車両10が起動すると、初期傾斜演算部48aは初期傾斜演算処理を実行する(ステップS1)。そして、初期状態における車体傾斜制御処理を実行すべき状態、すなわち、初期傾斜状態から、定常走行状態における車体傾斜制御処理を実行すべき状態、すなわち、定常傾斜状態に移行すべきであると判断すると、フラグFlgの値を1とするとともに、スロットル開度入力許可を駆動輪制御部49に出力する。
なお、フラグFlgの初期値はゼロに設定されている。また、目標横加速度atargetの初期値も同様にゼロに設定され、前回の車体傾斜制御処理の実行時に保存された合成横加速度ac の値であるaold の初期値も同様にゼロに設定されている。
続いて、横加速度演算部48bは横加速度演算処理を実行する(ステップS2)。具体的には、フラグFlgの値が1である場合には、定常走行状態における車体傾斜制御処理を実行し、フラグFlgの値がゼロである場合には、初期状態における車体傾斜制御処理を実行する。
続いて、傾斜制御部47は傾斜制御処理を実行する(ステップS3)。具体的には、横加速度演算部48bが出力した合成横加速度ac に基づいて算出した速度指令値をリンクモータ25へ出力する。
続いて、駆動輪制御部49は駆動輪制御処理を実行する(ステップS4)。具体的には、スロットルグリップ35からのスロットル開度に基づいて算出した速度指令値を回転駆動装置51へ出力する。なお、車両10が起動した後は、スロットル開度入力許可を初期傾斜演算部48aが受け取るまでは、スロットル開度を受信しない。
そして、駆動輪制御部49が駆動輪制御処理を実行した後は、横加速度演算処理以降の処理が繰り返し実行される。すなわち、横加速度演算処理、傾斜制御処理及び駆動輪制御処理は、車両10の電源が投入されている間、所定の制御周期TS で繰り返し実行されるようになっている。
次に、初期傾斜演算処理の動作について詳細に説明する。
図10は本発明の実施の形態における初期傾斜演算処理の動作を示すサブルーチンである。
車両10の電源が投入され、車両10が起動すると、初期傾斜演算部48aは初期傾斜演算処理を開始し、まず、第1横加速度センサ44aから第1横加速度センサ値a1 を取得するとともに(ステップS1−1)、第2横加速度センサ44bから第2横加速度センサ値a2 を取得する(ステップS1−2)。
続いて、初期傾斜演算部48aは、合成横加速度ac を算出する(ステップS1−3)。なお、合成横加速度ac は、前述のように、式(4)によって算出される。
続いて、初期傾斜演算部48aは、算出した合成横加速度ac の値を初期値ainitとして設定し(ステップS1−4)、あらかじめ設定された傾斜フェイル値af を記憶手段から取得する(ステップS1−5)。傾斜フェイル値af は、例えば、車両10がすでに転倒している場合や、車体の姿勢を直立状態に復帰させるには、リンクモータ25の発生するトルクが不足している場合に、車体の姿勢を直立状態に復帰させることが不可能であると判定するために使用される閾値である。傾斜フェイル値af は、例えば、車体傾斜角θが20〜25度程度である状態に対応する合成横加速度ac の値である。
そして、初期傾斜演算部48aは、初期値ainitが傾斜フェイル値af 未満であるか否かを判断する(ステップS1−6)。ここで、初期値ainitが傾斜フェイル値af 未満でない、すなわち、初期値ainitが傾斜フェイル値af 以上である場合、初期傾斜演算部48aは、車体の姿勢を直立状態に復帰させることが不可能であると判定し、エラーを出力する。これにより、車体の傾斜制御を停止する。
また、初期値ainitが傾斜フェイル値af 未満である場合、初期傾斜演算部48aは、あらかじめ設定された初期傾斜判定値aj を記憶手段から取得する(ステップS1−7)。初期傾斜判定値aj は、車体の姿勢が直立状態に復帰し、初期状態における車体傾斜制御処理から定常走行状態における車体傾斜制御処理に移行すべきであると判定するために使用される閾値である。初期傾斜判定値aj は、例えば、車体傾斜角θが1〜2度程度である状態に対応する合成横加速度ac の値である。
そして、初期傾斜演算部48aは、初期値ainitが初期傾斜判定値aj を超えているか否かを判断する(ステップS1−8)。ここで、初期値ainitが初期傾斜判定値aj を超えている場合、初期傾斜演算部48aは、定常走行状態における車体傾斜制御処理に移行すべきでない、すなわち、初期状態における車体傾斜制御処理を続行すべきであると判定し、そのまま処理を終了する。
また、初期値ainitが初期傾斜判定値aj を超えていない、すなわち、初期値ainitが初期傾斜判定値aj 以下である場合、初期傾斜演算部48aは、定常走行状態における車体傾斜制御処理に移行すべきであると判定し、フラグFlgの値を1とするとともに、スロットル開度入力許可を出力して(ステップS1−9)、処理を終了する。
次に、横加速度演算処理の動作について詳細に説明する。ここでは、説明の都合上、目標横加速度atargetが前記式(8)によって設定される場合についてのみ説明する。
図11は本発明の実施の形態における横加速度演算処理の動作を示すサブルーチンである。
横加速度演算部48bは、まず、フラグFlgの値が1であるか否かを判断する(ステップS2−1)。そして、フラグFlgの値が1でない、すなわち、フラグFlgの値がゼロである場合、初期状態における車体傾斜制御処理を続行している状態であるので、横加速度演算部48bは、あらかじめ設定された復帰速度係数kを記憶手段から取得するとともに(ステップS2−2)、車両10が起動してからの経過時間tをタイマー等の計時手段から取得する(ステップS2−3)。
続いて、横加速度演算部48bは、初期値ainitの絶対値が復帰速度係数kに経過時間tを乗じた値、すなわち、ktを超えているか否かを判断する(ステップS2−4)。ここで、初期値ainitの絶対値がktを超えている場合、横加速度演算部48bは、目標横加速度atargetを算出する(ステップS2−5)。なお、目標横加速度atargetは、前記式(8)によって算出される。また、初期値ainitの絶対値がktを超えていない、すなわち、kt以下である場合、横加速度演算部48bは、フラグFlgの値を1とするとともに目標横加速度atargetの値をゼロとし、スロットル開度入力許可を出力する(ステップS2−6)。
ここで、初期値ainitの絶対値がkt以下である場合とは、前記式(8)においては、右辺の第1項の値が第2項の値以上である場合であって、図7(a)においては、目標横加速度atargetを示す直線上で図示されていないX軸以下の範囲にある場合を意味する。つまり、図7(a)において車両10の起動時からの時間が5秒を経過し、目標横加速度atargetの正負の符号が車両10の起動時とは逆転したことを意味する。要するに、車体の姿勢が直立状態に復帰してしまい、定常走行状態における車体傾斜制御処理を実行すべき状態にあることを意味する。したがって、初期値ainitの絶対値がkt以下である場合には、フラグFlgの値を1とするとともに目標横加速度atargetの値をゼロとし、スロットル開度入力許可を出力するようになっている。
一方、初期値ainitの絶対値がktを超えている場合とは、その逆であって、車体の姿勢が直立状態に復帰しておらず、初期状態における車体傾斜制御処理を実行すべき状態にあることを意味する。したがって、初期値ainitの絶対値がktを超えている場合には、目標横加速度atargetを算出するようになっている。
続いて、横加速度演算部48bは、第1横加速度センサ44aから第1横加速度センサ値a1 を取得するとともに(ステップS2−7)、第2横加速度センサ44bから第2横加速度センサ値a2 を取得する(ステップS2−8)。
続いて、横加速度演算部48bは、合成横加速度ac を算出する(ステップS2−9)。なお、合成横加速度ac は、前述のように、式(4)によって算出される。
続いて、横加速度演算部48bは、算出した合成横加速度ac の値から目標横加速度atargetの値を減算した値を合成横加速度ac の値として設定し(ステップS2−10)、傾斜制御部47へ合成横加速度ac を送出して(ステップS2−11)、処理を終了する。
なお、フラグFlgの値が1であるか否かを判断してフラグFlgの値が1である場合、横加速度演算部48bは、そのまま、第1横加速度センサ44aから第1横加速度センサ値a1 を取得して、以降の動作を行う。すなわち、ステップS2−2〜S2−6を行うことなく、ステップS2−7〜S2−11を行う。
次に、傾斜制御処理の動作について詳細に説明する。
図12は本発明の実施の形態における傾斜制御処理の動作を示すサブルーチンである。
傾斜制御部47は、まず、横加速度演算部48bから合成横加速度ac を受信する(ステップS3−1)。
続いて、傾斜制御部47は、aold 呼出を行う(ステップS3−2)。aold は、前回の車体傾斜制御処理実行時に保存された合成横加速度ac の値であり、初期設定においては、aold =0とされている。
続いて、傾斜制御部47は、制御周期TS を取得し(ステップS3−3)、合成横加速度ac の微分値を算出する(ステップS3−4)。ここで、ac の微分値をΔac とすると、該Δac は次の式(10)によって算出される。
Δac =(ac −aold )/TS ・・・式(10)
そして、傾斜制御部47は、aold =ac として保存する(ステップS3−5)。つまり、今回の車体傾斜制御処理実行時に取得した合成横加速度ac の値をaold として、記憶手段に保存する。
続いて、傾斜制御部47は、第1制御値UP を算出する(ステップS3−6)。ここで、比例制御動作の制御ゲイン、すなわち、比例ゲインをGP とすると、第1制御値UP は次の式(11)によって算出される。
UP =GP ac ・・・式(11)
続いて、傾斜制御部47は、第2制御値UD を算出する(ステップS3−7)。ここで、微分制御動作の制御ゲイン、すなわち、微分時間をGD とすると、第2制御値UD は次の式(12)によって算出される。
UD =GD Δac ・・・式(12)
続いて、傾斜制御部47は、第3制御値Uを算出する(ステップS3−8)。第3制御値Uは、第1制御値UP と第2制御値UD との合計であり、次の式(13)によって算出される。
U=UP +UD ・・・式(13)
最後に、傾斜制御部47は、第3制御値Uをリンクモータ速度指令値としてリンクモータ25へ出力して(ステップS3−9)、処理を終了する。
次に、駆動輪制御処理の動作について詳細に説明する。
図13は本発明の実施の形態における駆動輪制御処理の動作を示すサブルーチンである。
駆動輪制御部49は、まず、スロットル開度入力許可があるか否か、すなわち、演算部48からスロットル開度入力許可を受信したか否かを判断する(ステップS4−1)。
そして、スロットル開度入力許可を受信している場合、駆動輪制御部49は、スロットルグリップ35からスロットル開度を受信する(ステップS4−2)。また、スロットル開度入力許可を受信していない場合、駆動輪制御部49は、スロットル開度の値をゼロに設定する(ステップS4−3)。
続いて、駆動輪制御部49は、最大トルク指令値τWmax呼出を行う(ステップS4−4)。最大トルク指令値τWmaxは、車輪12を駆動するモータである回転駆動装置51に駆動輪制御部49が送信するトルク指令値τW の最大値であって、あらかじめ設定され、記憶手段に保存されている。
続いて、駆動輪制御部49は、トルク指令値τW を算出する(ステップS4−5)。トルク指令値τW は、次の式(14)によって算出される。
τW =τWmax×(スロットル開度) ・・・式(14)
最後に、駆動輪制御部49は、トルク指令値τW を回転駆動装置51へ出力して(ステップS4−6)、処理を終了する。
このように、本実施の形態においては、車両10の起動直後には、車体の傾斜の制御モードを初期状態モードとし、起動時の合成横加速度ac の値に基づいて設定される目標横加速度atargetに従って傾斜制御部47への出力値を決定する。これにより、車両10の起動時における車体の傾斜を任意の変化速度で復帰させることができる。したがって、起動時に傾斜状態から直立状態に復帰するように車体の姿勢が変化しても、乗員が不快に感じることがない。
また、初期状態モードでは、すなわち、初期状態において傾斜している車体の姿勢を直立状態に復帰させている時には、スロットル開度の値をゼロとして取り扱うことによって、車両10を走行させないようにして、安全性を確保する。
さらに、起動時の合成横加速度ac の値、すなわち、初期値ainitがあらかじめ設定された閾値以上である場合には、車体の姿勢を直立状態に復帰させることが不可能であると判定し、車体の傾斜制御を停止する。
そして、車体の姿勢を直立状態に復帰させ、合成横加速度ac の値がゼロに近い閾値となると、初期状態における車体傾斜制御処理から定常走行状態における車体傾斜制御処理に移行する。また、スロットル開度の値も受け付け、車両10を走行可能とする。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。