以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。この場合、二輪車、三輪車、四輪車等の車両のうちの三輪車について説明する。
図3は本発明の第1の実施の形態における三輪車の右側面図、図4は本発明の第1の実施の形態における三輪車の背面図、図5は本発明の第1の実施の形態におけるリンク機構を示す図、図6は本発明の第1の実施の形態における三輪車を傾斜させた状態を示す図である。
図において、10は三輪車であり、該三輪車10は、車両本体Bd、及び該車両本体Bdに対して回転自在に配設された三つの車輪12F、12L、12Rを備える。
また、前記車両本体Bdは、乗員である運転者が搭乗するための搭乗部11、該搭乗部11と車輪12Fとを連結する前輪フォーク17、前記搭乗部11より後方に配設された支持部20、前記搭乗部11より前方に配設され、運転者が三輪車10を操縦するための操縦装置41、前記支持部20より後方に配設され、三輪車10の所定の傾斜部位、本実施の形態においては、三輪車10の全体を路面18に対して左右に傾斜(リーン)させるための車両傾斜装置43等を備える。なお、前記搭乗部11と支持部20とは図示されない連結部を介して連結される。
また、前記支持部20、車両傾斜装置43、車輪12L、12R等によって本体部61が、車輪12F、前輪フォーク17、操縦装置41等によって、三輪車10を操舵するための操舵部が、該操舵部及び搭乗部11によって搭乗・操舵部62が構成される。
前記車輪12Fは、車両本体Bdの前側における所定の位置、本実施の形態においては、三輪車10の幅方向における中央に、前記前輪フォーク17に対して回転自在に配設され、前輪として、かつ、操舵用の車輪(操舵輪)として機能する。なお、前記車輪12Fの車軸に、車速を検出する車速検出部としての車速センサ54が配設される。
また、車輪12L、12Rは、車両本体Bdの後側における所定の位置、本実施の形態においては、三輪車10の幅方向における左右の両端に、前記支持部20に対して回転自在に配設され、後輪として、かつ、走行用の車輪(駆動輪)として機能する。そのために、前記車輪12L、12Rには、それぞれ、三輪車10を走行させるための走行用の駆動部としての駆動モータ51L、51Rが配設され、該駆動モータ51L、51Rを駆動することによって車輪12L、12Rを回転させることができるようになっている。前記駆動モータ51L、51Rは、それぞれ車輪12L、12R内に収容され、インホイールモータを構成する。なお、Lhは、車輪12Fの車軸と車輪12L、12Rの車軸との距離、すなわち、前後輪間距離(ホイールベース)である。
本実施の形態において、前記駆動モータ51L、51Rとしては、速度制御、トルク制御等が可能なサーボモータが使用されるが、他の種類のモータを使用することができる。また、本実施の形態においては、駆動モータ51L、51Rがそれぞれ車輪12L、12R内に収容されるようになっているが、駆動モータを、車輪12Fに配設したり、各車輪12F、12L、12Rに配設したりすることができる。さらに、駆動モータを車両本体Bdの所定の箇所に配設し、駆動モータと車輪12Fとを連結したり、駆動モータと車輪12L、12Rとを連結したり、駆動モータと車輪12F、12L、12Rとを連結したりすることもできる。
さらに、本実施の形態においては、車両本体Bdの前側に一つの車輪12Fが、車両本体Bdの後側に二つの車輪12L、12Rが配設されるようになっているが、車両本体Bdの前側に二つの車輪を、車両本体Bdの後側に一つの車輪を配設することができる。また、車両が二輪車である場合は、車両本体の左右の両端に車輪が配設され、車両が四輪車である場合は、車両本体の前側及び後側の左右の両端に車輪が配設される。
また、前記搭乗部11は、運転者が着座するための部位である座席11a、該座席11aより前方に配設された、運転者の足を置くための部位であるフットレスト11b、該フットレスト11bの前端から斜めに立ち上げて配設された風よけ部11c、及び前記座席11aの後端から上方に向けて立ち上げて形成された背もたれ部11dを備える。なお、本実施の形態において、三輪車10は一人乗り用とされ、搭乗部11に運転者だけが搭乗することができるようになっているが、搭乗部11に運転者及び他の乗員を搭乗させたり、搭乗部11の後方の車輪12L、12Rの上に補助搭乗部を形成し、該補助搭乗部に他の乗員を搭乗させたりすることができる。
また、前記前輪フォーク17は、例えば、付勢部材としてのスプリングが内蔵されたテレスコピックタイプのフォークであり、サスペンション装置(懸架装置)として機能する。
そして、前記操縦装置41は、三輪車10の進行方向を変えたり、三輪車10を旋回させたりするための第1の操作部としての、かつ、操舵部材としてのハンドルバー41a、速度メータ、インジケータ等の表示要素としての図示されないメータ類、始動スイッチ、ボタン等の操作要素としての図示されないスイッチ類等を備える。なお、前記ハンドルバー41aに代えて、第1の操作部としての、かつ、操舵部材としてのステアリングホイール、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等を配設することができる。
また、風よけ部11cの上端には、図示されない操舵軸部材が、上端を下端より後方に位置させ、傾斜させた状態で回転自在に配設され、該操舵軸部材に前記ハンドルバー41a及び前輪フォーク17が取り付けられる。したがって、運転者が前記ハンドルバー41aを所定の操作量(操舵量)操作して操舵軸部材を回動させると、前輪フォーク17及び車輪12Fは前記ハンドルバー41aの操作量に応じた所定の舵角で回動させられ、三輪車10の進行方向を変える。
なお、前記ハンドルバー41aには、三輪車10を加速(発進も含む。)させるための第2の操作部としての、かつ、加速操作部材としての図示されないアクセルグリップ、三輪車10を減速(制動も含む。)させるための第3の操作部としての、かつ、第1の減速操作部材としてのブレーキレバーが配設される。また、フットレスト11bには、三輪車10を減速させるための第4の操作部としての、かつ、第2の減速操作部材としての図示されないブレーキペダル等が配設される。
したがって、運転者は、前記ハンドルバー41a、アクセルグリップ、ブレーキレバー、ブレーキペダル等を操作して、所定の走行条件(例えば、進行方向、旋回方向、旋回半径、走行速度等)で三輪車10を走行させることができる。
また、前記操縦装置41には、前記ハンドルバー41aの操作量、すなわち、操舵量としての操舵角を検出し、操舵角を表す操舵角センサ値θを出力する操舵量検出部としての図示されない操舵角センサ、前記アクセルグリップの操作量である加速操作量を検出する加速操作量検出部としての図示されないアクセルセンサ、前記ブレーキレバー、ブレーキペダル等の操作量である減速操作量を検出する減速操作量検出部としての図示されないブレーキセンサ等が配設される。なお、前記操舵角は、運転者が要求する三輪車10の要求旋回量を表す。
そして、前記車両傾斜装置43は、車輪12L、12Rを支持する支持機構としての、かつ、三輪車10の全体を傾斜させる車両傾斜機構としてのリンク機構30、及び該リンク機構30を作動させ、三輪車10を傾斜させるためのアクチュエータとしての、かつ、傾斜用の駆動部としてのリンクモータ25を備える。本実施の形態において、前記リンクモータ25としては、速度制御、トルク制御等が可能なサーボモータが使用されるが、他の種類のモータを使用することもできる。
前記リンク機構30は、車輪12Lの内側において、上下方向に延在させて配設され、駆動モータ51Lを支持する左側の縦リンクユニット33L、車輪12Rの内側において、上下方向に延在させて配設され、駆動モータ51Rを支持する右側の縦リンクユニット33R、前記縦リンクユニット33L、33Rの各上端部に対して相対的に回動自在に連結された上側の横リンクユニット31U、前記縦リンクユニット33L、33Rの各下端部に対して相対的に回動自在に連結された下側の横リンクユニット31D、及び上下方向に延在させて配設され、上端が前記支持部20に対して回転不能に固定され、横リンクユニット31U、31Dの中央部に対して相対的に回動自在に連結された中央縦部材21を備える。
前記駆動モータ51L、51Rは、それぞれ、固定部材としての図示されないケース、該ケースに取り付けられた図示されないステータ、該ステータに対して回転自在に配設された図示されないロータ、及び該ロータに取り付けられた図示されない出力軸を備え、前記各ケースがそれぞれ縦リンクユニット33L、33Rに固定され、各出力軸が車輪12L、12Rの軸に連結される。
また、前記リンクモータ25は、円筒の形状を有し、一端に取付フランジ22を備えた固定部材としてのケースcs1、該ケースcs1に取り付けられた図示されないステータ、該ステータに対して回転自在に配設された図示されないロータ、及び該ロータに取り付けられた出力軸Lshを備え、前記ケースcs1が取付フランジ22を介して支持部20及び中央縦部材21に対して回転不能に固定され、出力軸Lshが前記横リンクユニット31Uに対して回転不能に固定される。なお、前記出力軸Lshは、中央縦部材21と横リンクユニット31Uとを回転自在に連結する連結軸と同一軸上に配設される。
したがって、リンクモータ25を駆動して出力軸Lshをケースcs1に対して所定の角度だけ回転させると、横リンクユニット31Uが、支持部20及び中央縦部材21に対して前記所定の角度だけ回動させられ、その結果、リンク機構30が作動して屈曲させられる。その結果、図6に示されるように、三輪車10は前記所定の角度だけ傾斜させられる。これに伴って、車輪12F、12L、12Rは、路面18に対して鉛直な状態を表す鉛直状態から前記所定の角度だけ傾斜させられ、キャンバが付与された状態になる。
また、前記リンクモータ25は、出力軸Lshをケースcs1に対して任意の角度で回転不能に固定するための図示されないロック機構を備える。該ロック機構は、メカニカルな機構によって形成され、ロック機構によって出力軸Lshがケースcs1に対して回転不能に固定されている間、リンクモータ25において電力は消費されない。
本実施の形態においては、ケースcs1が支持部20及び中央縦部材21に対して回転不能に固定され、出力軸Lshが前記横リンクユニット31Uに対して回転不能に固定されるが、ケースcs1を前記横リンクユニット31Uに対して回転不能に固定し、出力軸Lshを支持部20及び中央縦部材21に対して回転不能に固定することができる。
前記車両本体Bdには、搭乗部11の後方若しくは下方又は支持部20に、駆動モータ51L、51R及びリンクモータ25のエネルギー供給源である図示されないバッテリ装置、及び図示されない制御部が配設される。
ところで、三輪車10を旋回させると、旋回経路における旋回中心から径方向外方に向けて遠心力が発生する。このとき、図6に示されるように、三輪車10を旋回中心側に傾斜させると、前記遠心力と三輪車10に加わる重力加速度とが相殺され、見かけ上、遠心力が重力加速度の分だけ小さくなる。すなわち、三輪車10の高さ方向に高さ方向軸sh1を、三輪車10の幅方向(高さ方向軸sh1に対して直角の方向)に幅方向軸sh2を採ると、遠心力の幅方向軸sh2上の成分、すなわち、幅方向成分が重力加速度の幅方向成分の分だけ小さくなる。このとき、遠心力の幅方向成分によって三輪車10に生じる横加速度が、重力加速度の幅方向成分によって三輪車10に生じる横加速度の分だけ小さくなる。
そして、遠心力の幅方向成分と重力加速度の幅方向成分とを等しくすると、三輪車10に生じる横加速度は零(0)になり、この状態で、三輪車10及び運転者には、見かけ上、遠心力の高さ方向軸sh1上の成分、すなわち、高さ方向成分と重力加速度の高さ方向成分との合成成分だけが加わる。
そこで、本実施の形態においては、旋回時に、三輪車10に生じる横加速度が0になるように三輪車10を運転者側に傾斜させることによって、旋回安定性を高くするとともに、車両を旋回させるに当たり、運転者が違和感を感じたり、不安を抱いたりすることがないようにしている。
そのために、三輪車10の所定の箇所、本実施の形態においては、背もたれ部11dの背面に、複数の、本実施の形態においては、二つの横加速度検出部としての第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが、互いに異なる高さに配設される。該第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、一般的な加速度センサ、ジャイロセンサ等から成るセンサであり、第1、第2の横加速度を検出し、それぞれ、検出値として第1横加速度センサ値a1及び第2横加速度センサ値a2を出力する。
本実施の形態においては、三輪車10に第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが配設されるようになっているが、三輪車10に横加速度センサを一つだけ配設することができる。
なお、三輪車10に横加速度センサを一つだけ配設する場合、不要な加速度成分が検出されてしまうことがある。例えば、三輪車10の走行中に、路面18の窪(くぼ)みに車輪12L、12Rのいずれか一方だけが落下した場合、三輪車10が傾斜させられ、それに伴って横加速度センサが変位するので、所定の横加速度が検出される。
また、三輪車10には、例えば、車輪12L、12Rのタイヤのような、弾性を有し、ばねとして機能する部位が存在するだけでなく、各部品間の接続部分等にガタが不可避的に発生する。したがって、ばねとして機能する部位の伸縮、ガタの発生等に伴って横加速度センサが変位するので、所定の横加速度が検出される。このように、遠心力に直接起因しない不要な加速度成分が検出されてしまうことがある。
本実施の形態においては、前述されたように、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが配設されるので、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bを適切な位置に配設することによって不要な加速度成分を取り除くことができる。
また、本実施の形態においては、図4に示されるように、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが、それぞれ、搭乗部11の背面において、重力方向における路面18からの距離、すなわち、高さがL1、L2の位置に配設され、該高さL1、L2は、
L1>L2
にされる。高さL1、L2の差で表されるセンサ間距離ΔLは、小さいほど第1横加速度センサ値a1と第2横加速度センサ値a2との差が小さくなるので、十分に大きく、例えば、0.3〔m〕以上になるように第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが配設される。
なお、三輪車10が傾斜させられる際の揺動中心、すなわち、ロール中心は、厳密には路面18よりわずかに下方に位置するが、本実施の形態においては、路面18上に位置すると考える。
前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、いずれも、リンク機構30よりも上方の、車輪12Fの車軸と左右の車輪12L、12Rの車軸との間の運転者に可能な限り近い箇所において、十分に剛性の高い部材に取り付けられることが望ましい。また、車両本体Bdがサスペンション等のばねで支持されている場合には、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bを、いずれも、いわゆる「ばね上」に配設することが望ましい。さらに、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、いずれも、三輪車10を上方から見たとき、進行方向に延在する三輪車10の中心軸上に位置させられ、中心軸に対してオフセットされないことが望ましい。
そして、三輪車10の旋回時に、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bによって横加速度が検出されると、前記制御部において、横加速度が0になるようにリンクモータ25のフィードバック制御が行われ、三輪車10が傾斜させられる。したがって、三輪車10に生じる横加速度が0になるので、旋回安定性を高くすることができる。
ところで、前記三輪車10は、幅方向における両側に車輪12L、12Rが配設されるので、幅方向寸法が大きく、運転者が、下車し、ハンドルバー41aを把持して三輪車10を鉛直な状態、すなわち、直立状態に置いたまま手押しで走行させる場合、運転者は不自然な体勢で三輪車10を前方に押す必要があり、三輪車10を手押しで走行させるのに困難を伴う。
そこで、本実施の形態においては、運転者が、下車し、ハンドルバー41aを把持して三輪車10を手押しで走行させる場合、運転者が三輪車10を図4に示される鉛直状態から任意の角度σだけ傾斜させると、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bによって横加速度が検出され、前記制御装置において、横加速度が0になるようにリンクモータ25のフィードバック制御が行われ、三輪車10が前記角度σを維持するようになっている。
次に、三輪車10の制御装置について説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態における三輪車の制御ブロック図である。
図において、46は三輪車10の全体の制御を行う制御部であり、三輪車10を傾斜させるための傾斜制御システムを構成する。そのために、前記制御部46の電源がオンにされている間、傾斜制御システムにおいて、所定の制御周期Ts(例えば、0.2〔ms〕)で各種の処理が行われる。また、前記制御部46は、コンピュータとして機能する演算装置としての図示されないCPU、第1の記憶装置としてのRAM、第2の記憶装置としてのROM、入出力インタフェース等を備え、前記RAM及びROMは、磁気ディスク、半導体メモリ等から成る。
前記制御部46には、第1横加速度センサ44a、第2横加速度センサ44b、第1の制御切替用の操作要素としての第1スイッチSw1、第2の制御切替用の操作要素としての第2スイッチSw2、操舵角センサ53、車速センサ54、リンクモータ25を駆動するためのインバータ装置等から成るモータ駆動部55等が接続される。前記第1スイッチSw1及び第2スイッチSw2は、運転者が押下することによってオフ又オンはにされる。なお、前記車速センサ54は車速を表す車速センサ値vを出力する。
運転者は、前記第1スイッチSw1をオフにすることによって、運転者が三輪車10に乗車し、駆動モータ51L、51Rの駆動力で三輪車10を走行させるための第1の制御モードである通常モードを選択することができ、オンにすることによって、運転者が三輪車10から下車し、手押しで三輪車10を走行させるための第2の制御モードである手押しモードを選択することができる。
前記通常モードが選択された場合、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bによって検出された第1、第2の横加速度に基づいて、三輪車10に生じる横加速度が0になるようにリンクモータ25のフィードバック制御が行われ、三輪車10の傾斜制御が行われる。
また、前記手押しモードが選択された場合、運転者が、第2スイッチSw2をオンにすると、三輪車10を手押しで走行させる際に、三輪車10を前記角度σだけ傾斜させるために必要な横加速度が設定され、その後、運転者が、第2スイッチSw2をオフにすると、傾斜制御用の横加速度、すなわち、制御用横加速度atで三輪車10の傾斜制御が行われる。
そのために、前記制御部46は、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bによって検出された第1、第2の横加速度に基づいて合成された横加速度、すなわち、合成横加速度aを算出する横加速度算出処理手段としての横加速度演算部48、操舵角センサ53によって検出された操舵角、及び車速センサ54によって検出された車速に基づいて、三輪車10に生じる横加速度を推定し、推定横加速度af(予測値)を算出する横加速度推定処理手段としての横加速度推定部49、前記制御用横加速度atを設定するとともに、制御用横加速度atに基づいてリンクモータ25を駆動するためのトルク指令値Tm* を出力する任意傾斜決定処理手段としての任意傾斜決定部50、並びに前記合成横加速度a、横加速度の予測値である推定横加速度af及び制御用横加速度atに基づいてリンクモータ25を駆動するためのトルク指令値To* を出力する傾斜制御処理手段としての傾斜制御部51を備える。
次に、前記制御部46の動作について説明する。
図7は本発明の第1の実施の形態における制御部の動作を示すメインフローチャート、図8は本発明の第1の実施の形態における横加速度演算部の動作を示すメインフローチャート、図9は本発明の第1の実施の形態における合成横加速度を算出する方法を説明するための概念図、図10は本発明の第1の実施の形態における任意傾斜決定処理のサブルーチンを示す図、図11は本発明の第1の実施の形態における横加速度推定部の動作を示すメインフローチャート、図12は本発明の第1の実施の形態におけるフィルタ処理のサブルーチンを示す図、図13は本発明の第1の実施の形態における傾斜制御処理のサブルーチンを示す図、図14は本発明の第1の実施の形態における三輪車を手押しで走行させる状態を示す図である。
この場合、制御部46の図示されない運転者操作判断処理手段は、運転者操作判断処理を行い、前記第1スイッチSw1がオンであるかどうかによって、手押しモードが選択されたかどうかを判断する(ステップS1)。前記第1スイッチSw1がオンであり、手押しモードが選択された場合、前記運転者操作判断処理手段は、手押しモードが選択されていることを表すフラグFLに1をセットし(ステップS2)、前記第2スイッチSw2がオンであるかどうかを判断する(ステップS3)。
前記第2スイッチSw2がオンである場合、前記任意傾斜決定部50は任意傾斜決定処理を行い、前記制御用横加速度atを設定する(ステップS4)。また、前記第2スイッチSw2がオフである場合、前記傾斜制御部51は傾斜制御処理を行い、手押しモードにおける傾斜制御を行う(ステップS5)。
前記第1スイッチSw1がオフであり、通常モードが選択された場合、前記運転者操作判断処理手段は、前記フラグFLに0をセットし(ステップS6)、前記制御用横加速度atを初期値である0にする(ステップS7)。したがって、運転者が手押しモードを選択して、制御用横加速度atが設定された後に、通常モードを選択したときに、手押しモードで設定された制御用横加速度atが、そのまま傾斜制御に適用されるのを防止する。
続いて、前記傾斜制御部51は、通常モードにおける傾斜制御を行う(ステップS7)。
次に、図8及び9に基づいて、前記横加速度演算部48の動作について説明する。
まず、前記横加速度演算部48は、横加速度算出処理を行い、前述されたように合成横加速度aを算出する。
そのために、前記横加速度演算部48は、第1横加速度センサ値a1及び第2横加速度センサ値a2を読み込み(ステップS11、S12)、第1、第2の横加速度の差を表す横加速度差Δa
Δa=a1−a2
を算出する(ステップS13)。
次に、前記横加速度演算部48は、第1横加速度センサ44aと第2横加速度センサ44bの高さL1、L2をROMから読み出すことによって取得し(ステップS14)、高さ方向軸sh1上の第1横加速度センサ44aと第2横加速度センサ44bとの距離、すなわち、センサ間距離ΔL
ΔL=L1−L2
を算出する(ステップS15)。なお、前記高さL1、L2はあらかじめROMに記録される。また、センサ間距離ΔLをあらかじめ算出し、ROMに記録することができる。
続いて、横加速度演算部48の図示されない合成横加速度算出処理手段は、合成横加速度算出処理を行い、第2横加速度センサ値a2、高さL2、センサ間距離ΔL及び横加速度差Δaに基づいて、合成横加速度aを式(1)に基づいて算出する(ステップS16)。
a=a2−(L2/ΔL)・Δa …(1)
なお、第1横加速度センサ値a1、高さL1、センサ間距離ΔL及び横加速度差Δaに基づいて、合成横加速度aを式(2)に基づいて算出することができる。
a=a1−(L1/ΔL)・Δa …(2)
この場合、式(1)及び(2)によって合成横加速度aを算出すると、理論上は同じ値を得ることができるが、三輪車10を傾斜させたときに円周方向の変位によって生じる加速度はロール中心からの距離に比例するので、実際には、ロール中心に近い方の第2横加速度センサ44bの検出値である第2横加速度センサ値a2を基準にして合成横加速度aを算出することが望ましい。そこで、本実施の形態においては、式(1)によって合成横加速度aが算出される。
そして、前記横加速度演算部48は、傾斜制御部51に算出した合成横加速度aを送る(ステップS17)。
次に、図10に基づいて、任意傾斜決定部50の動作について説明する。
運転者が前記第1スイッチSw1をオンにして手押しモードを選択し、続いて、第2スイッチSw2をオンにすると、任意傾斜決定部50の図示されない非駆動状態設定処理手段は、非駆動状態設定処理を行い、リンクモータ25の非駆動条件が成立したと判断し、リンクモータ25を、ロータを自由に回転させることができる非駆動状態、すなわち、フリー状態にする。
この状態で、運転者は、ハンドルバー41aを把持し、任意の角度σで三輪車10を傾斜させることができるようになるが、三輪車10を過剰に傾斜させると、三輪車10の重さによって運転者が三輪車10を支えるのが困難になってしまう。
そこで、本実施の形態においては、運転者が三輪車10を傾斜させたときに、前記角度σがあらかじめ閾(しきい)値±σth、本実施の形態においては、±10〔°〕によって
−10〔°〕≦σ≦+10〔°〕
の範囲(以下「第1の標準範囲」という。)に設定される。なお、前記角度σが負の値を採る場合、三輪車10は進行方向に向かって左側に傾斜させられ、前記角度σが正の値を採る場合、三輪車10は右側に傾斜させられる。
そして、前記角度σが第1の標準範囲に収まる場合、リンクモータ25はフリー状態に維持され、前記角度σが前記第1の標準範囲に収まらない場合、リンクモータ25によって所定のモータトルクが発生させられ、前記角度σが第1の標準範囲に対応する所定の値、本実施の形態においては、第1の境界値である−10〔°〕又は第2の境界値である+10〔°〕にされる。
そのために、前記任意傾斜決定部50の図示されない合成横加速度取得処理手段は、合成横加速度取得処理を行い、運転者が三輪車10を傾斜させたときの合成横加速度aを横加速度演算部48から読み込むことによって取得する(ステップS3−1)。
続いて、前記任意傾斜決定部50の図示されない角度判断処理手段としての横加速度判断処理手段は、角度判断処理としての横加速度判断処理を行い、重力加速度をGとしたとき、前記角度σが第1の標準範囲に収まるかどうかを、合成横加速度aが、
−0.17G≦a≦+0.17G
の範囲(以下「第2の標準範囲」という。)に収まるかどうかによって判断する(ステップS3−2、S3−3)。なお、合成横加速度aと角度σとは比例していて、合成横加速度aが−0.17Gである場合の角度σは−10〔°〕であり、合成横加速度aが+0.17Gである場合の角度σは+10〔°〕である。
そして、合成横加速度aが、第2の標準範囲に収まる場合、前記任意傾斜決定部50の図示されない角度設定処理手段としての任意傾斜決定用横加速度設定処理手段は、角度設定処理としての任意傾斜決定用横加速度設定処理を行い、リンクモータ25をフリー状態に維持するために、任意傾斜決定用の横加速度amを0にする(ステップS3−4)。続いて、任意傾斜決定部50の図示されない傾斜制御用横加速度設定処理手段は、傾斜制御用横加速度設定処理を行い、傾斜制御部51において前記角度σで三輪車10を保持することができるように、傾斜制御用の横加速度、すなわち、制御用横加速度atに合成横加速度aをセットする(ステップS3−5)。
また、合成横加速度aが、
a<−0.17G
である場合、前記任意傾斜決定用横加速度設定処理手段は、角度σが−10〔°〕より小さく(絶対値で大きく)ならないように、前記任意傾斜決定用の横加速度amを第2の標準範囲に対応する所定の値、本実施の形態においては、第1の境界値である−0.17Gにし(ステップS3−6)、前記傾斜制御用横加速度設定処理手段は、傾斜制御部51において−10〔°〕で三輪車10を保持することができるように、制御用横加速度atに任意傾斜決定用の横加速度amをセットする(ステップS3−7)。
また、合成横加速度aが、
a>+0.17G
である場合、前記任意傾斜決定用横加速度設定処理手段は、角度σが+10〔°〕より大きくならないように、前記任意傾斜決定用の横加速度amを第2の標準範囲に対応する所定の値、本実施の形態においては、第2の境界値である+0.17Gにし(ステップS3−8)、前記傾斜制御用横加速度設定処理手段は、傾斜制御部51において+10〔°〕で三輪車10を保持することができるように、制御用横加速度atに任意傾斜決定用の横加速度amをセットする(ステップS3−7)。
続いて、任意傾斜決定部50の図示されない任意傾斜決定用制御値算出処理手段は、任意傾斜決定用制御値算出処理を行い、前記横加速度amを読み込み、該横加速度am及び任意傾斜決定用の制御ゲイン、本実施の形態においては、比例ゲインGmpに基づいて、リンクモータ25を駆動するための任意傾斜決定用の制御値Um
Um=Gmp・am
を算出する(ステップS3−9)。
したがって、前記角度σが第1の標準範囲に収まり、前記合成横加速度aが第2の標準範囲に収まる場合、横加速度amが0にされるので、制御値Umも0にされる。また、前記角度σが第1の標準範囲に収まらず、前記合成横加速度aが第2の標準範囲に収まらない場合、横加速度amは−0.17G又は+0.17Gにされ、制御値Umは、Gmp・(−0.17G)又はGmp・(+0.17G)にされる。
そして、前記任意傾斜決定部50の図示されない任意傾斜決定用出力処理手段は、任意傾斜決定用出力処理を行い、前記制御値Umをトルク指令値Tm* としてモータ駆動部55に出力する(ステップS3−10)。
次に、図11及び12に基づいて、横加速度推定部49の動作について説明する。
まず、横加速度推定部49は、横加速度推定処理を行い、操舵角センサ値θ及び車速センサ値vを読み込むことによって取得する(ステップS21、S22)。
次に、横加速度推定部49の図示されないフィルタ処理手段は、フィルタ処理を行い、操舵角センサ値θに対してフィルタ処理を行う(ステップS23)。そのために、前記フィルタ処理手段は、制御周期Tsを読み込み(ステップS23−1)、車速センサ値vに対応するカットオフ周波数w(v)を算出する(ステップS23−2)。なお、本実施の形態において、カットオフ周波数w(v)は、車速に反比例する関数で表されるが、他の関数で表すことができる。なお、ROMのマップに車速とカットオフ周波数w(v)とをあらかじめ対応させて記録しておき、マップを参照してカットオフ周波数w(v)を読み出すことによって取得することもできる。
続いて、前記フィルタ処理手段は、前回の傾斜制御で算出された操舵角ΨoldをRAMから読み出し(ステップS23−3)、前記操舵角Ψold、制御周期Ts、カットオフ周波数w(v)及び操舵角センサ値θに基づいて、式(3)によって、フィルタ処理された操舵角、すなわち、処理操舵角Ψ(t)を算出する(ステップS23−4)。なお、操舵角Ψoldの初期値は0にされる。
該式(3)は、バンドパスフィルタとして一般的に使用されるIIR(Infinite Impulse Response)フィルタであり、一次遅れ系のローパスフィルタであるカットオフ周波数可変ローパスフィルタを表す。このように、車速に応じてカットオフ周波数w(v)を変化させてフィルタ処理が行われるので、三輪車10を高速で走行させたとき、すなわち、高速走行時における安定性(以下「走行安定性」という。)を高くすることができる。
続いて、前記フィルタ処理手段は、処理操舵角Ψ(t)を操舵角ΨoldとしてRAMに記録する(ステップS23−5)。
このようにして、前記フィルタ処理において処理操舵角Ψ(t)が算出されると、前記横加速度推定部49の図示されない推定横加速度算出処理手段は、推定横加速度算出処理を行い、前後輪間距離Lhを読み込み(ステップS24)、該前後輪間距離Lh、車速センサ値v及び処理操舵角Ψ(t)に基づいて、式(4)によって、推定横加速度afを算出する(ステップS25)。
なお、前記推定横加速度afは、ハンドルバー41aの操舵によって生じる横加速度、及び三輪車10の旋回によって生じる遠心力を表す。
そして、前記横加速度推定部49は、傾斜制御部51に推定横加速度afを送る(ステップS26)。
次に、図13に基づいて、傾斜制御部51の動作について説明する。
この場合、傾斜制御部51は手押しモード及び通常モードで傾斜制御を行うようになっているので、手押しモードと通常モードとで動作が異なる。
すなわち、傾斜制御部51は、傾斜制御処理を行い、通常モードが選択されている場合、合成横加速度a、制御用横加速度at及び推定横加速度afに基づいて傾斜制御を行い、手押しモードが選択されている場合、制御用横加速度at及び合成横加速度aに基づいて傾斜制御を行う。なお、通常モードが選択されている場合、前述されたように、制御用横加速度atは0にされるので、実質的に、合成横加速度a及び推定横加速度afに基づいて傾斜制御が行われる。
そのために、傾斜制御部51の図示されないモード判断処理手段は、モード判断処理を行い、フラグFLを読み込み、フラグFLが0であるかどうかによって、通常モードが選択されているかどうかを判断する(ステップS5−1)。フラグFLが0であり、通常モードが選択されている場合、前記傾斜制御部51の図示されない横加速度取得処理手段は、横加速度取得処理を行い、横加速度演算部48から合成横加速度aを読み込む(ステップS5−3)。
続いて、前記傾斜制御部51の図示されない微分値算出処理手段は、微分値算出処理を行い、RAMから前回の傾斜制御で記録された合成横加速度aoldを読み出すとともに、制御周期Tsを読み込み、合成横加速度aの微分値δa
δa=da/dt
=(a−aold)/Ts
を算出する(ステップS5−4)。そして、前記微分値算出処理手段は、合成横加速度aを合成横加速度aoldとしてRAMに記録する。なお、合成横加速度aoldの初期値は0にされる。
続いて、前記傾斜制御部51の図示されない第1の制御値算出処理手段としての比例制御値算出処理手段は、第1の制御値算出処理としての比例制御値算出処理を行い、比例制御用の第1の制御ゲインとしての比例ゲインGp、合成横加速度a及び制御用横加速度atに基づいて、第1の制御値としての比例制御値Up
Up=Gp(a−at)
を算出する(ステップS5−5)。
次に、前記傾斜制御部51の図示されない第2の制御値算出処理手段としての微分制御値算出処理手段は、第2の制御値算出処理としての微分制御値算出処理を行い、微分制御用の第2の制御ゲインとしての微分ゲインGd及び微分値δaに基づいて、第2の制御値としての微分制御値Ud
Ud=Gd・δa
を算出する(ステップS5−6)。
続いて、前記モード判断処理手段は、フラグFLを読み込み、フラグFLが0であるかどうかによって、通常モードが選択されているかどうかを判断する(ステップS5−7)。この場合、フラグFLが0であり、通常モードが選択されているので、前記横加速度取得処理手段は、横加速度推定部49から推定横加速度afを読み込むことによって取得する(ステップS5−8)。
続いて、前記微分値算出処理手段は、RAMから前回の傾斜制御で記録された推定横加速度afoldを読み出すとともに、制御周期Tsを読み込み、推定横加速度afの微分値δaf
δaf=daf/dt
=(af−afold)/Ts
を算出する。そして、前記傾斜制御部51の図示されない推定微分値算出処理手段は、推定微分値算出処理を行い、推定横加速度afを推定横加速度afoldとしてRAMに記録する(ステップS5−9)。なお、推定横加速度afoldの初期値は0にされる。
次に、前記傾斜制御部51の図示されない第3の制御値算出処理手段としての推定微分制御値算出処理手段は、第3の制御値算出処理としての推定微分制御値算出処理を行い、微分制御用の第3の制御ゲインとしての微分ゲインGdf及び微分値δafに基づいて、第3の制御値としての推定微分制御値Udf
Udf=Gdf・δaf
を算出する(ステップS5−10)。
続いて、前記傾斜制御部51の図示されない第4の制御値算出処理手段としての傾斜制御用制御値算出処理手段は、第4の制御値算出処理としての傾斜制御用制御値算出処理を行い、比例制御値Up、微分制御値Ud及び推定微分制御値Udfを読み込み、傾斜制御用の制御値Uo
Uo=Up+Ud+Udf
を算出する(ステップS5−11)。
そして、前記傾斜制御部51の図示されない傾斜制御用出力処理手段は、傾斜制御用出力処理を行い、前記制御値Uoをトルク指令値To* としてモータ駆動部55に出力する(ステップS5−12)。
これに対して、前記モード判断処理において、フラグFLが1であり、手押しモードが選択されている場合、前記横加速度取得処理手段は、任意傾斜決定部50から制御用横加速度atを読み込むとともに(ステップS5−2)、横加速度演算部48から合成横加速度aを読み込む(ステップS5−3)。
続いて、前記微分値算出処理手段は、合成横加速度aの微分値δa
δa=da/dt
=(a−aold)/Ts
を算出し(ステップS5−4)、前記比例制御値算出処理手段は、比例ゲインGp、合成横加速度a及び制御用横加速度atに基づいて、比例制御値Up
Up=Gp(a−at)
を算出する(ステップS5−5)。
次に、前記微分制御値算出処理手段は、微分制御用の第2の制御ゲインとしての微分ゲインGd、及び微分値δaに基づいて、第2の制御値としての微分制御値Ud
Ud=Gd・δa
を算出する(ステップS5−6)。
続いて、前記モード判断処理手段は、フラグFLを読み込み、フラグFLが0であるかどうかによって、通常モードが選択されているかどうかを判断する(ステップS5−7)。この場合、フラグFLが1であり、手押しモードが選択されているので、前記傾斜制御用制御値算出処理手段は、比例制御値Up及び微分制御値Udを読み込み、傾斜制御用の制御値Uo
Uo=Up+Ud
を算出する(ステップS5−11)。
そして、前記傾斜制御用出力処理手段は、前記制御値Uoをトルク指令値To* としてモータ駆動部55に出力する(ステップS5−12)。
このように、本実施の形態においては、通常モードが選択されている場合に、三輪車10の旋回時に三輪車10に生じる横加速度、すなわち、第1、第2の横加速度の合成横加速度aが0なるように、三輪車10が傾斜させられるので、遠心力の幅方向成分と重力加速度の幅方向成分とが等しくなる。したがって、三輪車10の旋回安定性を高くすることができる。
また、三輪車10及び運転者には、見かけ上、遠心力の高さ方向成分と重力加速度の高さ方向成分との合成成分だけが加わるので、運転者が三輪車10を手押しで走行させるに当たり、違和感を感じたり、不安を抱いたりすることがない。
そして、手押しモードが選択されている場合、図14に示されるように、運転者が任意の角度σで三輪車10を傾斜させたときに、前記角度σが第1の標準範囲に収まり、かつ、前記合成横加速度aが第2の標準範囲に収まる場合は、横加速度amが0にされ、制御値Umも0にされるので、リンクモータ25はフリー状態のままにされ、前記角度σが第1の標準範囲に収まらず、前記合成横加速度aが第2の標準範囲に収まらない場合、横加速度amは−0.17G又は+0.17Gにされ、制御値Umは、Gmp・(−0.17G)又はGmp・(+0.17G)にされるので、リンクモータ25によって所定のモータトルクが発生させられ、前記角度σが−10〔°〕又は+10〔°〕にされる。したがって、運転者は三輪車10を容易に支えることができる。
そして、その後、傾斜制御によって、三輪車10が、運転者が傾斜させたときの角度σ、−10〔°〕又は+10〔°〕に保持されるので、運転者は、不自然な体勢で三輪車10を前方に押す必要がなくなり、三輪車10を運転者側に傾斜させた状態で、手押しで容易に走行させることができる。
また、三輪車10を走行させる場合に、リンクモータ25によって発生させられたモータトルクによって三輪車10が支えられるので、運転者は、三輪車10を支える必要がなくなり、前方に押すだけでよくなる。したがって、三輪車10を手押しで一層容易に走行させることができる。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
図15は本発明の第2の実施の形態における三輪車の背面図、図16は本発明の第2の実施の形態における三輪車を部分的に傾斜させた状態を示す図である。
図において、Frはフレームであり、該フレームFrに支持部20が取り付けられるとともに、フレームFrによって車輪12L、12Rが回転自在に支持される。
前記支持部20と搭乗部11とが、図示されない揺動軸を中心に、ロール方向に揺動自在に連結され、前記支持部20、フレームFr、車両傾斜装置43、車輪12L、12R等によって本体部61が、車輪12F、前輪フォーク17(図2)、操縦装置41等によって、三輪車10を操舵するための操舵部が、該操舵部及び搭乗部11によって搭乗・操舵部62が構成される。
この場合、前記車両傾斜装置43は、三輪車10の所定の傾斜部位、本実施の形態においては、搭乗・操舵部62を路面18に対して左右に傾斜させる。そのために、前記車両傾斜装置43は、搭乗・操舵部62を傾斜させるためのアクチュエータとしての、かつ、傾斜用の駆動部としてのリンクモータ25を備え、該リンクモータ25を回動させることによって、図16に示されるように、本体部61に対して、軸sh3を揺動中心に、かつ、ロール中心にして搭乗・操作部62を揺動させることができる。なお、前記リンクモータ25の出力軸Lshと前記軸sh3とを一致させることができる。
搭乗部11における背もたれ部11dの背面に、複数の、本実施の形態においては、二つの横加速度検出部としての第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが互いに異なる高さに配設される。
また、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、いずれも、軸sh3の上側又は下側、本実施の形態においては、上側に配設される。なお、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bの一方は、可能な限り、軸sh3に近接させて配設される。
この場合、合成横加速度aを算出するに当たり、前記高さL1、L2に代えて、軸sh3から第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bまでの距離L3、L4が使用される。
このように、本実施の形態においては、搭乗・操舵部62だけを揺動させることができるので、運転者が、下車し、ハンドルバー41aを把持して三輪車10を任意の角度σだけ傾斜させる際に、傾斜させるために必要な力を小さくすることができるとともに、三輪車10を支えるために必要な力を小さくすることができる。
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。