JP5597840B2 - フッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
(1)特許文献4〜6には、耐食性を有するシリコーン、エチルシリケートなどの珪素化合物、合成樹脂などの有機高分子材料を用いて封孔する方法が開示されている。
(2)特許文献7、8には、金属アルコキシドや金属酸化物粒子などの非金属化合物を含む電解液中に溶射皮膜を浸漬したのちこれを電解し、電気泳動法の原理を利用して皮膜の表面や気孔中に溶質成分や酸化物粒子を充填した後、これを加熱焼成する方法が開示されている。
(3)特許文献9には、可視光線によって硬化する有機高分子剤を溶射皮膜の表面に塗布し、気孔内を充填して封孔するとともに、自然光によって硬化させる技術が開示されている。
(4)発明者らの提案に係る特許文献10には、溶射皮膜の表面を電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギーを照射した後、その表面に炭素と水素を主成分とするアモルファス状膜を被覆形成させる方法が開示されている。
(5)さらに、特許文献11には、溶射皮膜の表面に対して、電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギー照射を行なって、表面近傍の溶射粒子を溶融させて気孔を熱的に消滅させる技術が開示されている。
(1)珪素化合物などの無機系封孔剤による溶射皮膜の封孔技術は、比較的大きい開口部をもつ気孔をもつものに限定される他、アルカリ性水溶液中では珪素化合物が溶出するため、用途が限られるという問題がある。
(2)有機高分子系封孔剤を用いる技術は、酸、アルカリなどには優れた耐食性を発揮するものの、温度の影響を受けやすいという欠点がある。例えば、一般の高分子系の封孔剤では150〜180℃で軟化したり、また分解がはじまり、200℃以上の温度では長時間の使用に耐えることができない。
(3)電気泳動現象を利用する封孔技術は、電気泳動作用が及ばない微細な気孔中には、電解液のみが浸入して封孔効果がなく、一方で大きな気孔に浸入する酸化物微粒子自体には防食効果はなく、さらに金属アルコキシド自体は防食作用が十分でないうえ経時変化してその機能を容易に消失するという問題がある。
(4)溶射皮膜の表面を電子ビーム及びレーザービームなどの高エネルギ「照射処理によって溶融して封孔する技術は、溶融した溶射皮膜が凝固する際に体積収縮を起こして微細な割れを発生することがあり、完全な封孔技術になり得ない。
(5)溶射皮膜の表面に、炭素と水素を主成分とするアモルファス状膜を被覆する方法は、酸、アルカリなどに耐える効果はあるものの、450℃以上の温度ではアモルファス状膜が分解するため、高温環境への適用に問題がある。
(6)なお、その他、従来技術において、珪素系薬剤や高分子系封孔剤を利用する技術がある。これらの技術は、表面張力及び粘度が大きいため、微細な開気孔部への浸入が難しく入口付近に溜まっているため、完全な封孔処理ができない。しかも、封孔剤は、乾燥時に水分(浴剤)が揮発して体積が収縮するため充填部に隙間を発生させる。
(7)また、電気泳動法で封孔した金属アルコキシドや酸化物粒子の充填部でも、加熱焼成に伴う水分の蒸発、体積の収縮は避けられず、加熱焼成工程の必須化によるエネルギー損失及び生産コストの増加がある。
(8)なお、電気泳動法による封孔処理には、塩酸、硫酸などの危険な薬剤の使用を必要とするほか、酸化物として有害なPbOを使用が不可避であるという問題がある。
(9)さらに、これらの電気泳動法をはじめ封孔剤による封孔処理技術には、共通の課題として、封孔剤が開気孔部の入口付近に溜まって、気孔の内部にまで浸入せず、溶射皮膜と基材との密着性向上及び皮膜を構成する溶射粒子の相互結合力を強化することができない。何よりもこの技術は、サーメット溶射皮膜形成の方法を提案するものではない。
(1)溶射法によって形成されたY2O3、Al2O3などの酸化物セラミック溶射皮膜をはじめ、Ni、Ni−Cr合金などの溶射皮膜は、ハロゲンによるプラズマエッチング環境においては比較的良好な耐久性を示す。しかし、溶射皮膜には共通の欠点として貫通気孔の存在がある。このため、プラズマエッチング加工のようなドライプロセスでは問題となることの少ない貫通気孔が、ウエットプロセスでは、致命的な欠点となることが少なくない。
上記目的は、基材表面に耐プラズマエロージョン性に優れると共に、非導電性を有するA12O3、Y2O3、A12O3−Y2O3複酸化物、原子番号57〜71元素の酸化物系セラミック溶射皮膜を形成した後、その溶射皮膜の貫通気孔部を耐食性と耐プラズマエロージョン性を示すニッケルめっき金属を充填して封孔することによって酸化物系サーメット複合皮膜とし、その後、この封孔とサーメット化の処理をされた酸化物系サーメット複合皮膜の表面をフッ化処理することによって、フッ化物膜を被覆してなる部材と、その部材の製造方法とを提案するものである。
(1)本発明において、特徴的な第1の構成は、まず、導電性基材の表面に、直接またはアンダーコートを介して間接に、耐ハロゲン腐食性に優れると共に非導電性の酸化物系セラミックの多孔質溶射皮膜を被覆形成することであり、次いで、その非導電性の酸化物系セラミック溶射皮膜を被覆してなる基材を、電気ニッケルめっき液中に浸漬し、導電性基材の方を陰極として直流通電し、該セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部にある気孔中にまでニッケルめっき液を万遍なく浸入させ、かつニッケルめっき金属を基材表面側から順次に析出させて、該溶射皮膜の気孔中に分散している気孔中に充填された状態を導くことで、酸化物系のサーメット複合皮膜に変化させることにある。
その後、該サーメット複合皮膜の表面をフッ化処理し、表面にある上記酸化物の粒子および上記貫通気孔部から表面に露出している上記ニッケルめっき金属粒子の両者をフッ化物粒子にしたものからなるフッ化物層を形成させて、前記溶射皮膜表面を被覆することを特徴とするフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材の製造方法を提案する。
(1)前記導電性基材とサーメット複合皮膜との間に、導電性のAl、Al−Zn、Ni、Ni−Al、Ni−CrおよびNi−Cr−Alから選ばれるいずれか1種以上であるアンダーコートを介在させてなること。
(2)前記導電性基材は、金属または表面に導電性金属膜を被覆した非導電性基材のいずれかであること。
(3) 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、貫通気孔と開気孔を含む0.2〜20vol%の気孔率を有する皮膜であること。
(1)導電性基材の表面を覆うように形成した非導電性セラミック溶射皮膜に対して、電気ニッケルめっき処理を行なうので、溶射皮膜の貫通気孔部のみに、めっき液から析出したニッケルめっき金属が充填封孔されることになるから、セラミック溶射皮膜がサーメット化(複合化)すると同時に、皮膜の封孔、膜表面の緻密化が図られ、洗浄水などの皮膜内部への浸入を防いで、防食機能を付与することができる。
(1)基材の選定
本発明で使用可能な基材は、導電性(電気伝導性)を有する金属材料である。例えば、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、ステンレス鋼を含む各種の合金鋼、炭素鋼、ニッケルおよびその合金などが好適である。鋼材の表面に、ニッケルのめっき膜を形成した基材でもよい。ガラス、石英、プラスチック、セラミック焼結体のように、電気不良導体の基材に対しては、前処理を施した後に無電解めっきやCVD、PVDなどによって、導電性を付与するための金属の薄膜を被覆形成して、基材の表面のみを電気伝導体としたものについても、本発明の基材として使用することができる。
前記導電性基材表面に、非導電性の酸化物などのセラミック溶射皮膜を形成するに先立って、JIS H 9302に規定されているセラミック溶射作業標準に準拠して実施することが好ましい。例えば、基材表面のさびや油脂類などを除去した後、Al2O3、SiCなどの研削粒子を吹付けて粗面化し、その表面に直接または金属質の導電性アンダーコートを施工した後に、それらの上に非導電性のフッ化物溶射皮膜を形成する。
本発明において用いられる溶射皮膜形成用の溶射材料は、非導電性の材料であることが必要であり、また、半導体の加工環境下で使用されるハロゲン及びハロゲン化合物を含む気相中で発生するプラズマエロージョンに対しても優れた抵抗力を発揮するものが好適である。その非導電性の程度は、皮膜を形成した基材をニッケルめっき液中に浸漬して通電した際に、皮膜の表面に直接、めっき金属(ニッケル)が析出しないこと、例えば、ρ:1×105Ωcm程度以上の電気抵抗率を示すことが目安となる。このような基準から、本発明方法への適用が可能になる。例えば、酸化物系セラミック溶射皮膜形成用溶射材料の代表的な例を列挙すると下記の通りである。なお、非酸化物系セラミック粒子についても、大気中や空気(酸素)を含む環境などの溶射熱源中では、粒子の表面に電気抵抗の大きい酸化膜を生成するものであれば、本発明の目的に使用することができる。
アンダーコートは、基材と非導電性セラミック溶射皮膜の間にあって、基材に該セラミック溶射皮膜を直接形成するよりも、より高い密着力を発揮させるのに効果がある。とくに、本発明では、このアンダーコートは、次工程の電気めっき処理時において、めっき金属の析出起点ともなる重要な役割を果たすものである。具体的には、Ni、Ni−Cr合金、Ni−Al合金などの導電性の金属・合金が好適に用いられる。なお、Ni−Cr−Al合金も使用できるが、生産コストの点で検討が必要である。また、アンダーコートの厚さは、10〜150μmの範囲がよく、特に50〜100μmが好適である。
本発明において、この電気ニッケルめっき処理は極めて重要である。この処理によって、前記非導電性セラミック溶射皮膜を電気めっきニッケルめっき金属充填構造のサーメット複合皮膜に変化させることができると同時に皮膜気孔部の封孔ができる他、必要に応じて、該サーメット溶射皮膜の表面をめっき金属(ニッケル)で被覆した状態とすることができる。
次に、前述した電気ニッケルめっき処理後のサーメット複合皮膜の表面に対してフッ化処理を施す。そのため、被処理サーメット複合皮膜の表面の油脂類、指紋などの表面付着物がないことを確認し、次いで、このサーメット複合皮膜被覆部材を以下に示すフッ素あるいはフッ素化合物を含有する溶融塩または水溶液中に浸漬するか、フッ素ガスまたはフッ素化合物系ガスのガス成分と直接接触させることにより、フッ化処理する。具体的には、フッ化処理には次のような薬液を使用することができる。
a.溶融塩:フッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化リチウム(LiF)などから選ばれる1種以上の溶融塩
b.水溶液:フッ化水素アンモニウム(NH4F)、フッ化カリウム(KF)、フッ化水素アンモニウム(NH4HF2)、フッ化水素カリウム(KHF2)、フッ化水素(HF)、フッ化水素ナトリウム(NaHF2)、フッ化ナトリウム(NaF)などから選ばれる1種以上のフッ化物を溶解した水溶液
c.ガス成分:F(F2)、HF、NF3、PF3、PF5、BF3、WF3など(これらは、室温ではガス状態で存在し、50〜60℃では、その大部分が気化している。)また、これらのガス成分を含む雰囲気で、プラズマを発生させて、F系ガスを活性化させた環境に曝露してもよい。
この実施例では、SS400鋼試験片(寸法:幅50mm×長さ70mm×厚さ3.2mm)の表面に直接、大気プラズマ溶射法よってA12O3、Y2O3、YAGのセラミックスをそれぞれ100μmの厚さに形成した溶射皮膜を用い、この溶射皮膜の貫通気孔の有無をフェロキシル試験方法によって調査した。
なお、供試溶射皮膜は、成膜後電気めっき法によって、皮膜内部の空隙部(貫通気孔部)をめっき析出Niによって充填・封孔したもの及びガス法によってフッ化処理を施こした試験片についてもフェロキシル試験を行い、それぞれの処理の影響も調査した。
このフェロキシル試験としては、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム10gおよび塩化ナトリウム15gを1リットルの蒸留水に溶解し、これを分析用ろ紙に十分含浸させ、その後、このろ紙を試験片表面に貼付し、30分間静置した後、ろ紙を剥がして、ろ紙面での青色斑点の有無を目視判定する方法によった。この方法によれば、アモルファス状膜に貫通気孔が存在するとフェロキシル試験液が浸透し、鉄基材界面に達して鉄イオンを生成させ、これにヘキサシアノ(III)酸カリウム塩が反応して、ろ紙の表面に青色斑点を生成することによって判定することができる。
試験結果を表2に示す。この結果から明らかなように、SS400鋼基材に直接酸化物系セラミック溶射皮膜の形成したものは、(No.3、4、7、8、11、12)すべて多数の青色斑点が発生し、皮膜が多孔質であるうえ、フェロキシル試験液が基材表面に達する貫通気孔であることが判明した。これに対して、電気Niめっき処理した皮膜は、(No.1、2、5、6、9、10)0.1/5cm2程度の斑点数にとどまり、貫通気孔部が析出Niによって、ほぼ完全に封孔されていることが確認された。なお、比較例のフッ化処理したセラミック皮膜(No.3、7、11)にも多数の青色斑点が発生したことから、フッ化物層の生成だけでは、封孔効果に乏しいことも判明した。
この実施例では、SS400鋼の試験片(幅20mm×長さ30mm×厚さ5mm)の表面に直接、大気プラズマ溶射法によって、Y2O3、Al2O3、CeO2セラミックを膜厚100μmの皮膜を形成したものを基本皮膜とし、これに電気めっきを施したもの。また、フッ化処理実施の有無を変動因子とした供試膜のHCl蒸気及びHF蒸気に対する耐食性を調査した。
(a)HCl蒸気による腐食試験は、化学実験用のデーシケーターの低部に30%HCl水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊るすことによってHCl水溶液から発生するHCl蒸気に暴露する方法を採用した。腐食試験温度は30℃〜50℃、時間は96hrである。
(b)HF蒸気による腐食試験は、SUS316製のオートクレーブの底部にHF水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊すことによってHF蒸気による腐食試験を実施した。腐食試験温度は30℃〜50℃、曝露時間は96hrである。
表3は、上記腐食試験結果を要約したものである。この結果から明らかなように、SS400基材上に直接Y2O3、Al2O3、YAGの溶射皮膜を形成したものは、(No.3、4、7、8、11、12)は、皮膜のフッ化処理の有無に関係なく、多量の赤錆が皮膜表面に生成した。即ち、大気プラズマ溶射によって形成されたこの種のセラミック皮膜には、多くの貫通気孔が存在するため、HCl、HFなどの酸性ガスは、この貫通気孔を通って内部に浸入し、SS400鋼基材を腐食し赤錆を発生させたものである。また、成膜時に発生した貫通気孔を有するセラミック皮膜をフッ化処理しても、気孔を完全に封孔できないことも確認された。
この実施例では、本発明に係るフッ化処理を施した酸化物系サーメット被覆皮膜の耐プラズマエロージョン性を調査した。基材として、JIS H4000規定の3003合金(寸法:50mm×50mm×5mm厚さ)を用いて、その表面に大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法を用いて、Y2O3を80μmの厚さを被覆形成した。Y2O3溶射皮膜の形成に当たっては、アンダーコートとしてNi−20mass%Cr合金を80μmの厚さに施工したものも準備した。このように形成したY2O3溶射皮膜を実施例2と同じ条件の電気ニッケルめっき処理とフッ化処理を実施してサーメット複合皮膜を得た。また、比較例の皮膜としてB4Cの溶射皮膜も同条件で耐プラズマエロージョン性を調べた。
(100)/Ar(1000)/O2(10)の混合ガスとCF4を1分間当たり1cm3の流量で流した。
(2)プラズマ照射条件
高周波電力:1300W、圧力:133.3Pa
(3)照射方法と照射時間
プラズマエロージョン試験は、前記供試溶射皮膜面が10mm×10mmの大きさの範囲が露出するように、他の部分をマスクし、20時間連続してプラズマ照射した後、エローション損傷量を減肉厚として、触針式粗さ計にて測定して評価した。
試験結果を表4に示す。この結果から明らかなように、比較例のB4C溶射皮膜(No.9、10)はニッケルめっきを施してもエロージョン損傷量が14μmと大きく、耐プラズマエロージョン性に乏しいことが見られる。これに対し、Y2O3溶射皮膜は、成膜の状態(No.6、8)でもBC皮膜に比較すると耐プラズマエロージョン性が向上しているが、その効果は低い。しかし、Y2O3溶射皮膜を電気ニッケルめっき処理してニッケルを充填し封孔してなるサーメット状態の皮膜だとエロージョン損失量が激減し、さらにフッ化処理した皮膜面(No.5)では、優れた耐プラズエロージョン性が確認された。この実施例の結果は、大気プラズマ溶射法と減圧プラズマ溶射法で形成されたY2O3系サーメット複合皮膜は、両者とも同等の損傷量であり、また、アンダーコートの存在の有無に拘わらず、優れた耐プラズマエロージョン性を発揮することが判明した。
この実施例では、ランタノイド系金属酸化系セラミック溶射物皮膜に対する電気的めっき処理及びフッ化処理の耐食性と耐プラズマエロージョン性効果について調査した。
基材としては、Al合金(A13003)(寸法:50mm×50mm×5mm)を用い、下記ランタノイド系金属の酸化物溶射皮膜を大気プラズマ溶射法によって、基材表面に直接110μmのフッ化物溶射皮膜を形成した。
皮膜材料:ScO3、Eu2O3、Dy2O3、Er2O3
なお、比較用のセラミックとして、12mass%Y2O3−88mass%ZrO2を用いた。
また成膜後のフッ化物皮膜は、表1記載のワット浴により、45℃、lA/dm2の条件で実施し、フッ化処理はフッ化物ガス中のプラズマ環境中に60℃×10h放置する方法で行い、0.2〜0.5μm厚さのフッ化物層を形成させた。
(i)アルカリ浸漬試験
この実施例では、薬剤に対する耐食性試験として、供試皮膜を5%NaOH水溶液中に40℃の条件で1時間浸漬し、皮膜の表面から発生する水素ガス気泡の有無を目視観察することによって、フッ化処理を施した溶射皮膜の緻密性を調査した。この試験では、基材の露出部は耐薬品塗料を塗り、NaOH水溶液は皮膜表面から内部へ浸入するように準備した。もし、皮膜の気孔からNaOH水溶液が内部に浸入すると、基材(Al合金)と反応して水素ガスを発生するため、該皮膜の封孔の可否を判断できるからである。
Al+NaOH+H2O → NaAlO2+3/2H2
また、耐プラズマエロージョン試験は、実施例3の場合と同じ条件で評価した。
試験結果を表5に示す。この結果から明らかなように、比較例の12%Y2O3−88%ZrO2皮膜(No.17〜20)は、電気めっきやフッ化処理を施しても、プラズマエロージョン量が大きく、皮膜そのものに耐プラズマエロージョン性に乏しいことが確認された。また、フッ化処理の有無に拘わらず、電気めっき法によって、セラミック溶射皮膜の貫通気孔をNiによって充填した皮膜(No.1、2、5、6、9、10、13、14、17、18)では、NaOH液の浸入を防止できるため、NaOHと基材との溶解反応が抑制されて、水素ガスの発生が認められなかった。
一方、ランタノイド系金属酸化物皮膜(No.1〜16)は、比較例の8%Y2O3−ZrO2皮膜(No.17〜20)に比べて、高いエロージョン特性を発揮するが、特に電気Niめっきとフッ化処理の両方を施した皮膜(No.1、5、9、13)では、プラズマエロージョン損失量は一段と少なく、優れた耐プラズマエロージョン性を有することが確認された。
この実施例では、セラミック溶射皮膜に対する電気Niめっき処理とフッ化処理の有無が皮膜の密着強さに及ぼす影響を調べた。
(1)供試皮膜試験片として、SS400鋼(寸法:直径25mm×厚さ5mm)の円板基材を用い、その両面をブラスト粗面化状態にした後、大気プラズマ溶射法によって、Y2O3、YAG皮膜を厚さ100μmになるように被覆形成した。その後、表1記載のスルファミン酸液を用いたNiめっき処理を施した試験片皮膜の密着強さをJIS H8666規定のセラミック溶射皮膜の密着強さ測定方法に準じて評価した。なお、比較用セラミック溶射皮膜として、(i)溶射皮膜の形成した状態のもの、(ii)溶射皮膜に電気Niめっきを施したものについても、同条件で密着強さを調査した。
表6は、以上の測定結果を要約したものである。この結果から明らかなように、供試皮膜の密着強さは、電気Niめっき処理を施した皮膜(No.2、6)では、Niめっき処理のない皮膜(No.4、8)に比較して、Y2O3、YAG皮膜とも10MPa以上の強さの向上が認められる。即ち、セラミック溶射皮膜の基材表面から析出を開始し析出したNiが、セラミック溶射皮膜を構成するセラミック粒子の境界に存在する隙間を充填しつつ、皮膜表面に成長する結果、セラミック粒子が析出Niによって強く固定されたためと考えられる。
以上の結果から、フッ化処理した本発明に係るセラミック溶射皮膜の密着強さは、40MPa以上を有し、電気Niめっき処理の効果によって、高い密着強度を保有しているものと考えられる。
2 フッ化物溶射皮膜
3 Ni陽極
4 直流電源
Claims (7)
- 導電性基材と、
その基材表面に被覆形成された、非導電性のY、Alおよびランタノイド系金属元素の酸化物からなる多孔質セラミック溶射皮膜の貫通気孔部をニッケルめっき金属によって充填封孔した構造を有するサーメット複合皮膜とからなり、
該サーメット複合皮膜の表面が、当該溶射皮膜の構成成分であるセラミック粒子および該溶射皮膜中の貫通気孔部内に充填され表面に露出した状態にあるニッケルめっき金属粒子のそれぞれがフッ化処理されることによって、酸化物粒子のフッ化物およびニッケルめっき金属粒子のフッ化物とによって形成されているフッ化物層によって被覆されていることを特徴とするフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材。 - 前記導電性基材とサーメット複合皮膜との間に、導電性のAl、Al−Zn、Ni、Ni−Al、Ni−CrおよびNi−Cr−Alから選ばれるいずれか1種以上であるアンダーコートを介在させてなることを特徴とする請求項1に記載のフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材。
- 前記導電性基材は、金属または表面に導電性金属膜を被覆した非導電性基材のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載のフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材。
- 導電性基材の表面に、非導電性のY、Alおよびランタノイド系金属元素の酸化物からなる多孔質セラミック溶射皮膜を被覆形成し、次いで、その非導電性の多孔質セラミック溶射皮膜を被覆した基材を、電気ニッケルめっき液中に浸漬して通電することによって、該非導電性多孔質セラミック溶射皮膜の開気孔部中にニッケルめっき金属を析出させ、そのニッケルめっき金属を非導電性の多孔質セラミック溶射皮膜の貫通気孔や隙間中に充填して封孔することによってサーメット複合皮膜に変化させ、
その後、該サーメット複合皮膜の表面をフッ化処理し、表面にある上記酸化物の粒子および上記貫通気孔部から表面に露出している上記ニッケルめっき金属粒子の両者をフッ化物粒子にしたものからなるフッ化物層を形成させて、前記溶射皮膜表面を被覆することを特徴とするフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材の製造方法。 - 前記非導電性多孔質セラミック溶射皮膜は、貫通気孔と開気孔を含む0.2〜20vol%の気孔率を有する皮膜であることを特徴とする請求項4に記載のフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材の製造方法。
- 前記導電性基材とサーメット複合皮膜との間に、導電性のAl、Al−Zn、Ni、Ni−Al、Ni−CrおよびNi−Cr−Alから選ばれるいずれか1種以上であるアンダーコートを介在させてなることを特徴とする請求項4または5に記載のフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材の製造方法。
- 前記導電性基材は、金属または表面に導電性金属膜を被覆した非導電性基材のいずれかであることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1に記載のフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材の製造方法。
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