JP5597840B2 - フッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材およびその製造方法 - Google Patents

フッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材およびその製造方法 Download PDF

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本発明は、フッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材およびその製造方法に関し、特に非導電性酸化物系セラミック溶射皮膜の貫通気孔部にニッケル電気めっき金属を充填してなる酸化物サーメット複合皮膜とした後、その表面をフッ化処理してなる部材とその製造方法について提案するものである。
溶射法は、ArやHなどのガスプラズマ炎または炭化水素の燃焼炎などを用いて、金属(以下、合金を含めて金属と言う)やセラミックス、サーメットなどの粒子を、軟化もしくは溶融した状態にして被処理対象物(基材)の表面に吹付け、これらを堆積させて皮膜状にする表面処理技術の1つである。この技術は、熱によって軟化したり溶融する材料であれば、ガラスやプラスチックをはじめ、融点の高いタングステン(融点3,387℃)、タンタル(融点2,996℃)などの金属はもとより、Al(融点2,015℃)、MgO(融点2,800℃)などの酸化物系セラミックスでも成膜することが可能であり、皮膜材料種の選択自由度が非常に大きいという利点がある。このため、溶射皮膜の特性を利用した用途が、多くの産業分野に拡大している。
また、溶射装置や溶射ガンなどについても、これらの良し悪しが溶射皮膜の品質に大きく影響することから、品質の向上や生産性の向上と共に、さらなる改善や開発が精力的に行なわれている。例えば、特許文献1では、大気中で溶射された金属皮膜の粒子は酸化物を多量に含むため皮膜を構成する粒子間の相互結合力や基材との密着力低下原因となるとして、空気を排除した50hPa〜200hPaの低圧アルゴンガス雰囲気下でプラズマ溶射(減圧プラズマ溶射)する方法やその装置を提案している。
また、特許文献2では、大気中で溶射する場合でも、炭化物サーメット粒子のように、高温の熱源中において炭化物が分解したり酸化する現象を最少限に止めると共に熱源の運動エネルギーを最大限に利用して炭化物粒子の飛行速度を上げ、その粒子の被爆時間(温度)を極限まで短縮する高速フレーム溶射法を提案している。
このように従来、溶射皮膜の品質や溶射装置については十分に検討されてきたが、溶射皮膜の成膜プロセスについての検討は未だ不十分である。例えば、溶射熱源中に投入された溶射粒子群には完全に溶融するものがある一方で、未溶融状態のままのものもあり、こうした粒子は基材表面に堆積した際、相互の融着が不完全ないしは不均等になることから、空隙(気孔)が不可避に発生し、これが皮膜の気孔となって顕在化する問題がある。
例えば、特許文献3によれば、減圧プラズマ溶射法で形成されたAlやYの溶射皮膜は、0.2〜7%程度の気孔が存在していることが明らかにされている。即ち、これらの気孔の大部分は、貫通気孔(皮膜の外部から基材の表面まで続いている気孔)として存在しているため、使用環境の中では腐食性のガスや流体の浸入通路を提供することとなって、基材表面の腐食が進行し、該皮膜と基材との接合力の低下を招いて剥離する原因となる。
このように、溶射皮膜というのは、気孔が不可避に存在することから成膜後に封孔処理を施すことが奨励されている。例えば、JIS H 9302セラミック溶射作業標準では、セラミック溶射皮膜を形成した後、その表面に無機系あるいは有機高分子系の封孔剤を塗布したり噴霧して、気孔内部に充填する方法が記載されている。
また、溶射皮膜の気孔を封孔するための方法および封孔剤としては、次のような提案がある。
(1)特許文献4〜6には、耐食性を有するシリコーン、エチルシリケートなどの珪素化合物、合成樹脂などの有機高分子材料を用いて封孔する方法が開示されている。
(2)特許文献7、8には、金属アルコキシドや金属酸化物粒子などの非金属化合物を含む電解液中に溶射皮膜を浸漬したのちこれを電解し、電気泳動法の原理を利用して皮膜の表面や気孔中に溶質成分や酸化物粒子を充填した後、これを加熱焼成する方法が開示されている。
(3)特許文献9には、可視光線によって硬化する有機高分子剤を溶射皮膜の表面に塗布し、気孔内を充填して封孔するとともに、自然光によって硬化させる技術が開示されている。
(4)発明者らの提案に係る特許文献10には、溶射皮膜の表面を電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギーを照射した後、その表面に炭素と水素を主成分とするアモルファス状膜を被覆形成させる方法が開示されている。
(5)さらに、特許文献11には、溶射皮膜の表面に対して、電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギー照射を行なって、表面近傍の溶射粒子を溶融させて気孔を熱的に消滅させる技術が開示されている。
上掲の従来技術は、いずれもセラミック溶射皮膜の耐食性や耐摩耗性、耐熱性などの特性のいずれかの特性を改善するために行われる封孔技術であるが、次のような課題がある。
(1)珪素化合物などの無機系封孔剤による溶射皮膜の封孔技術は、比較的大きい開口部をもつ気孔をもつものに限定される他、アルカリ性水溶液中では珪素化合物が溶出するため、用途が限られるという問題がある。
(2)有機高分子系封孔剤を用いる技術は、酸、アルカリなどには優れた耐食性を発揮するものの、温度の影響を受けやすいという欠点がある。例えば、一般の高分子系の封孔剤では150〜180℃で軟化したり、また分解がはじまり、200℃以上の温度では長時間の使用に耐えることができない。
(3)電気泳動現象を利用する封孔技術は、電気泳動作用が及ばない微細な気孔中には、電解液のみが浸入して封孔効果がなく、一方で大きな気孔に浸入する酸化物微粒子自体には防食効果はなく、さらに金属アルコキシド自体は防食作用が十分でないうえ経時変化してその機能を容易に消失するという問題がある。
(4)溶射皮膜の表面を電子ビーム及びレーザービームなどの高エネルギ「照射処理によって溶融して封孔する技術は、溶融した溶射皮膜が凝固する際に体積収縮を起こして微細な割れを発生することがあり、完全な封孔技術になり得ない。
(5)溶射皮膜の表面に、炭素と水素を主成分とするアモルファス状膜を被覆する方法は、酸、アルカリなどに耐える効果はあるものの、450℃以上の温度ではアモルファス状膜が分解するため、高温環境への適用に問題がある。
(6)なお、その他、従来技術において、珪素系薬剤や高分子系封孔剤を利用する技術がある。これらの技術は、表面張力及び粘度が大きいため、微細な開気孔部への浸入が難しく入口付近に溜まっているため、完全な封孔処理ができない。しかも、封孔剤は、乾燥時に水分(浴剤)が揮発して体積が収縮するため充填部に隙間を発生させる。
(7)また、電気泳動法で封孔した金属アルコキシドや酸化物粒子の充填部でも、加熱焼成に伴う水分の蒸発、体積の収縮は避けられず、加熱焼成工程の必須化によるエネルギー損失及び生産コストの増加がある。
(8)なお、電気泳動法による封孔処理には、塩酸、硫酸などの危険な薬剤の使用を必要とするほか、酸化物として有害なPbOを使用が不可避であるという問題がある。
(9)さらに、これらの電気泳動法をはじめ封孔剤による封孔処理技術には、共通の課題として、封孔剤が開気孔部の入口付近に溜まって、気孔の内部にまで浸入せず、溶射皮膜と基材との密着性向上及び皮膜を構成する溶射粒子の相互結合力を強化することができない。何よりもこの技術は、サーメット溶射皮膜形成の方法を提案するものではない。
ところで前述した溶射皮膜被覆部材が、半導体加工装置部材、とくにハロゲンやハロゲン化合物が存在する環境下でプラズマ処理したり、プラズマ処理によらて発生する微細なパーティクルを洗浄除去することが必要な半導体加工装置の分野において使用される場合、さらに、以下のような表面処理を検討する必要があり、そのための従来技術についても幾つかの提案がある。
即ち、半導体加工および液晶製造プロセスに使用されるドライエッチャー、CVD、PVDなどの加工装置類では、シリコンやガラスなどの基板回路の高集積化に伴う微細加工とその精度向上の必要性から、加工環境として一段と高い清浄性が求められるようになってきた。その一方で、微細加工用の各種プロセスについては、フッ化物、塩化物をはじめとする腐食性の強い有害ガスあるいは水溶液を用いている。従って、これらのプロセスに配設されている部材類は腐食損耗速度が速く、その結果として、腐食生成物の発生とその飛散による二次的な環境汚染が懸念されている。
とくに、半導体ディバイスは、その素材が、SiやGa、As、Pなどから成る化合物半導体を主体としたものであり、その製造工程の多くは、真空もしくは減圧中で処理されるいわゆるドライプロセスに属し、これらの環境中において、各種の成膜、不純物の注入、エッチング、アッシング、洗浄などの処理が繰返し施されている。このようなドライプロセスに属する装置としては、酸化炉、CVD装置、PVD装置、エピタキシャル成長装置、イオン注入装置、拡散炉、反応性イオンエッチング装置およびこれらの装置に付属している配管、給排気ファン、真空ポンプ、バルブ類などの部材、部品がある。また、これらの装置類では、次に示すような腐食性の強い薬剤およびガスの使用が知られている。基本的には、BF、PF、PF、NF、WF、HFなどのフッ化物、BCl、PCl、PCl、POCl、AsCl、SnCl、TiCl、SiHCl、SiCl、HCl、Clなどの塩化物、HBrなどの臭化物、NH、ClFなどの使用も散見されている。
上述したハロゲン化物を用いるドライプロセスでは、反応の活性化と加工精度の向上のため、しばしばプラズマ(低温プラズマ)が用いられる。プラズマ使用環境中では、各種のハロゲン化物は腐食性の強い原子状またはイオン化したF、Cl、Br、Iとなって半導体素材の微細加工に大きな効果を発揮している。その一方で、プラズマ処理(特にプラズマエッチング処理)された半導体素材の表面からは、エッチング処理によって削りとられた微細なSiO、Si、Si、Wなどのパーティクルが環境中に浮遊し、これらが加工中あるいは加工後のディバイスの表面に付着してその品質を著しく低下させるという問題がある。
これらの対策の一つとしては、従来、アルミニウム陽極酸化物(アルマイト)による表面処理がある。その他、Al、Al・TiO、Yなどの酸化物をはじめ、周期律表IIIa族金属の酸化物を溶射法、蒸着法(CVD法、PVD法)などによって、装置用部材の表面を被覆したり、また、焼結材として利用する技術がある(特許文献12〜16)。
さらに最近では、YやY−Alの溶射皮膜表面を、レーザビームや電子ビームを照射して該溶射皮膜の表面を再溶融することによって、耐プラズマエロージョン性を向上させる技術も開示されている(特許文献17〜20)。
例えば、昨今の高性能半導体加工の製造環境の清浄化度を極限まで高める手段として、従来のY皮膜の耐プラズマエロージョン性能を凌駕する材料としてYF(フッ化イットリウム)を成膜状態で適用する方法が提案されている。具体的には、YAGなどの焼結体や周期律表IIIa族元素の酸化物の表面にYF膜を被覆したり(特許文献21、22)、YやYb、YFなどの混合物を成膜材料とした方法(特許文献23、24)、YFを成膜材料として溶射法によって被覆形成する方法が(特許文献25、26)に見られる。
特開平1−139749号公報 特開平9−67661号公報 特開2001−164354号公報 特開昭54−32422号公報 特開昭57−70275号公報 特開昭64−62453号公報 特開昭62−260096号公報 特開平7−41927号公報 特開平5−106014号公報 特開平7−321194号公報 特開平10−306363号公報 特公平6−36583号公報 特開平9−69554号公報 特開2001−164354号公報 特開平11−80925号公報 特開2007−107100号公報 特開2005−256093号公報 特開2005−256098号公報 特開2006−118053号公報 特開2007−217779号公報 特開2002−293630号公報 特開2002−252209号公報 特開2008−98660号公報 特開2005−243988号公報 特開2004−197181号公報 特開2002―037683号公報
本発明では特に、従来技術が抱えている次のような技術的課題を解決することが肝要である。
(1)溶射法によって形成されたY、Alなどの酸化物セラミック溶射皮膜をはじめ、Ni、Ni−Cr合金などの溶射皮膜は、ハロゲンによるプラズマエッチング環境においては比較的良好な耐久性を示す。しかし、溶射皮膜には共通の欠点として貫通気孔の存在がある。このため、プラズマエッチング加工のようなドライプロセスでは問題となることの少ない貫通気孔が、ウエットプロセスでは、致命的な欠点となることが少なくない。
(2)前記貫通孔が存在すると、例えば、次のような問題がある。即ち、半導体加工装置では、プラズマエッチング加工などのドライプロセス専用であっても、加工の進展に伴なって、エッチングによって削り出された微細なパーティクルが装置内に集積して、これが原因となって高品質の半導体加工製品の生産が困難となってくる。このため、装置はしばしば酸、アルカリ、純水などを用いて洗浄する必要がある。このような装置の洗浄作業時において、これらの水溶液が、皮膜表面の貫通気孔を通って内部へ浸入し、基材および皮膜のアンダーコートを化学的に腐食させ、被覆部材の耐久性が劣るという欠点がある。
(3)前記溶射皮膜の欠点を改善するための技術として、酸化物セラミック溶射皮膜の表面に対して電子ビームやレーザービームなどの高エネルギーを照射し、溶射皮膜を構成している溶射粒子どうしを互いに溶融し、融合させることにより、貫通気孔を消滅させる方法が知られている。この再溶融技術は、皮膜表面の開口気孔(含貫通気孔)を完全に消失するとともに、酸化物粒子を相互に融合させて耐プラズマエロージョン性を向上させることができる。しかし、高エネルギー照射による溶射皮膜の再溶融技術をフッ化物溶射皮膜に適用すると、高エネルギー照射面において、溶射粒子の再溶融後の冷却過程における体積の収縮現象によって、該皮膜表面に“ひび割れ”を発生することになる。そして、この“ひび割れ”が新しい貫通気孔の役割を果すことになるため、ウェットプロセスやドライプロセスの場合にも実施される洗浄作業用薬液・洗浄水の皮膜内部への浸入を防げないという問題が生じる。
(4)YFやAlF、MgFなどのフッ化物の粒子を溶射する方法では、ガスプラズマや化石燃料の燃焼フレームなどの熱源中において分解して、Fガスやフッ化物ガスを発生するため、作業環境を悪化する欠点があり、作業者の安全・衛生上の問題が頗る大きい。
(5)Yなどのセラミック溶射皮膜を形成した後、その皮膜表面をフッ化処理することによって、Y粒子の表面にYFなどの薄膜を生成させる方法では、溶射皮膜の貫通気孔が成膜時の状態で残存する。その結果、耐ハロゲン腐食性は向上するものの、洗浄水などの内部への浸入が容易になるため、皮膜内部における腐食の発生とそれに起因する溶射皮膜の早期剥離現象によって使用寿命が短いという問題がある。
本発明の目的は、従来技術が抱えている前述の課題を問題すること、特に主として耐久性に優れた部材、具体的には耐食性と耐プラズマエロージョン性とに優れたフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材と、それの有利な製造方法とを提案することにある。
上記目的は、基材表面に耐プラズマエロージョン性に優れると共に、非導電性を有するA1、Y、A1−Y複酸化物、原子番号57〜71元素の酸化物系セラミック溶射皮膜を形成した後、その溶射皮膜の貫通気孔部を耐食性と耐プラズマエロージョン性を示すニッケルめっき金属を充填して封孔することによって酸化物系サーメット複合皮膜とし、その後、この封孔とサーメット化の処理をされた酸化物系サーメット複合皮膜の表面をフッ化処理することによって、フッ化物膜を被覆してなる部材と、その部材の製造方法とを提案するものである。
上記部材の製造に当って、本発明は、導電性基材の表面に、まず、多孔質非導電性の酸化物系セラミック溶射皮膜を被覆形成し、次いで、その多孔質非導電性酸化物系セラミック溶射皮膜を有する基材を電気ニッケルめっき液中に浸漬し、該酸化物系セラミック溶射皮膜被覆基材を陰極として直流の電気めっき処理を行ない、このことによって、該非導電性の酸化物系セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部の気孔中に浸入させたニッケルめっき液からニッケルめっき金属を析出させて、充填状態を導くことによって、該非導電性酸化物系セラミック溶射皮膜をサーメット化させて、ニッケルめっき金属充填形サーメット溶射皮膜に変える。
次いで、前記ニッケルめっき処理後の酸化物系サーメット複合皮膜の表面に対して、ガス状のフッ素、フッ化物、KF、NaFなどの溶融塩、NHF、KFなどの水溶液などを用いてフッ化処理する。その結果、フッ化処理を行ったサーメット複合皮膜の表面では、酸化物系セラミックの溶射粒子表面の酸化物元素のフッ化物が(例えば、Y→YF、Al→AlF)膜状として生成し、またニッケルめっき金属粒子表面ではNiF膜が生成する。これらのフッ化物は、ハロゲン系ガス及びハロゲン系ガスのプラズマに曝露されても高い耐食性を発揮する。なお、前記フッ化処理に際しても、酸化物系セラミック溶射皮膜の貫通気孔部は、ニッケルめっき金属によって充填、封孔しているため、フッ化処理用の薬液が皮膜の内部へ浸入することはない。以下、本発明について詳しく説明する。
ここでは、この方法は、下記の知見に基づいて開発されたものである。
(1)本発明において、特徴的な第1の構成は、まず、導電性基材の表面に、直接またはアンダーコートを介して間接に、耐ハロゲン腐食性に優れると共に非導電性の酸化物系セラミックの多孔質溶射皮膜を被覆形成することであり、次いで、その非導電性の酸化物系セラミック溶射皮膜を被覆してなる基材を、電気ニッケルめっき液中に浸漬し、導電性基材の方を陰極として直流通電し、該セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部にある気孔中にまでニッケルめっき液を万遍なく浸入させ、かつニッケルめっき金属を基材表面側から順次に析出させて、該溶射皮膜の気孔中に分散している気孔中に充填された状態を導くことで、酸化物系のサーメット複合皮膜に変化させることにある。
(2)この発明において、特徴的な第2の構成は、前記ニッケルめっき金属充填構造の酸化物系サーメット複合皮膜の表面をフッ化処理して、該複合皮膜表面の酸化物系セラミック粒子とニッケルめっき金属粒子の両者を、それぞれのフッ化物の薄膜によって被覆した状態にすることにある。従って、フッ化処理後の酸化物系サーメット複合皮膜の表面は、すべて前記フッ化物の薄膜によって被覆されるので、ハロゲンガス雰囲気中に曝露されても、該サーメット複合皮膜を構成している酸化物粒子やニッケルめっき金属粒子が直接ハロゲンガスと接触することはない。
(3)電気ニッケルめっき処理においては、めっき金属であるニッケルの析出は、非導電性の酸化物系セラミック溶射皮膜表面では起らず、導電性をもつ基材表面(または導電性アンダーコートの表面)の側を起点として、析出したニッケルめっき金属が溶射皮膜の気基材側から表面に向けて順次に成長することになる。皮膜の内部に存在する開気孔や粒子間に生成している隙間を選びつつ成長する。従って、セラミック溶射皮膜のサーメット化は下層から上層に向い、より長時間のめっき処理によって、やがて該溶射皮膜表面にもニッケルめっき金属の層が生成して、恰もめっき処理したようにすることもできる。
(4)一般に、めっき液からのニッケルの析出反応、つまりめっき反応は、非導電性(非電気伝導性)のセラミック酸化物系溶射皮膜を対象とする場合には起こらない(析出しない)。しかし、本願発明のように、貫通気孔を有する多孔質の非導電性の酸化物系セラミック溶射皮膜の下に金属などの導電性基材があるような場合には、多孔質溶射皮膜に特有の貫通気孔を介してめっき液が基材にまで達して電気的に導通することで、電気めっきが可能になる。即ち、電気めっき処理した場合、非導電性の酸化物系セラミック溶射皮膜が貫通気孔を有する多孔質素材でさえあれば、空隙部(貫通気孔及び開気孔)、とくに溶射粒子の未接合部などの厚み方向に貫通する空隙(貫通気孔)を通ってめっき液が浸入して基材表面に達し、ここで、めっき液から金属が析出し、この金属も負に帯電しているため、その表面にも引き続き、めっき液から金属が析出し続ける。そのため、やがては、めっき金属が気孔内に析出して順次に成長し、これが溶射皮膜の厚み方向の全気孔に拡大していくので、結果的に、非導電性の酸化物系セラミック溶射皮膜内部に分散して存在している気孔がめっき金属によって充填され、やがてセラミック溶射皮膜はサーメット複合皮膜に変化することになる。
(5)上述した説明からわかるように、めっき液からのニッケルの析出反応とその成長は、酸化物系セラミック溶射皮膜の内部、それも基材(またはアンダーコート)側から順次に始まり、溶射皮膜表面側に向かって進み、最終的には、皮膜の表面にまで達することとなる。そして、上述したように、めっき処理時間を長くすると、該酸化物系非導電性セラミック溶射皮膜の表面を完全に被覆するまでになり、該酸化物系非導電性セラミック溶射皮膜がサーメット化して導電性皮膜になる。
以上説明した考え方の下に開発した本発明は、導電性基材と、その基材表面に被覆形成された非導電性のY、Alおよびランタノイド系金属元素の酸化物からなる多孔質セラミック溶射皮膜中の貫通気孔部をニッケルめっき金属によって充填封孔した構造を有するサーメット複合皮膜とからなり、該サーメット複合皮膜の表面、当該溶射皮膜の構成成分であるセラミック粒子および該溶射皮膜中の貫通気孔部内に充填され表面に露出した状態にあるニッケルめっき金属粒子のそれぞれがフッ化処理されることによって、酸化物粒子のフッ化物およびニッケルめっき金属粒子のフッ化物とによって形成されているフッ化物層によって被覆されていることを特徴とするフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材である。
また、本発明は、導電性基材の表面に、非導電性のY、Alおよびランタノイド系金属元素の酸化物からなる多孔質セラミック溶射皮膜を被覆形成し、次いで、その非導電性の多質セラミック溶射皮膜を被覆した基材を電気ニッケルめっき液中に浸漬して通電することによって、該非導電性多質セラミック溶射皮膜の開気孔部中にニッケルめっき金属を析出させ、そのニッケルめっき金属を非導電性の多孔質セラミック溶射皮膜の貫通気孔や隙間中に充填して封孔することによってサーメット複合皮膜に変化させ、
その後、該サーメット複合皮膜の表面をフッ化処理し、表面にある上記酸化物の粒子および上記貫通気孔部から表面に露出している上記ニッケルめっき金属粒子の両者をフッ化物粒子にしたものからなるフッ化物層を形成させて前記溶射皮膜表面を被覆することを特徴とするフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材の製造方法を提案する。
なお、本発明は下記の構成にすることが、より好ましい実施形態である。
(1)前記導電性基材とサーメット複合皮膜との間に、導電性のAl、Al−Zn、Ni、Ni−Al、Ni−CrおよびNi−Cr−Alから選ばれるいずれか1種以上であるアンダーコートを介在させてなること。
(2)前記導電性基材は、金属または表面に導電性金属膜を被覆した非導電性基材のいずれかであること。
(3) 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、貫通気孔と開気孔を含む0.2〜20vol%の気孔率を有する皮膜であること。
本発明によれば、次のような効果が期待できる。例えば、導電性基材の表面に形成された非導電性の酸化物系セラミック溶射皮膜の貫通気孔部を電気ニッケルめっきによって析出した金属ニッケルを充填することで酸化物系サーメット複合皮膜にすることができるので、セラミック溶射皮膜特有の多孔質で脆く、かつ熱や機械的衝撃に弱い性質を改善することができる。さらにこの酸化物系サーメット複合皮膜の表面をフッ化処理することによって、セラミック粒子とニッケルめっき金属粒子の表面に、それぞれ耐ハロゲン腐食性及び耐プラズマエロージョン性に優れたフッ化層膜を形成して皮膜化させることができる。
その他、本発明によれば、次のような効果も期待できる。
(1)導電性基材の表面を覆うように形成した非導電性セラミック溶射皮膜に対して、電気ニッケルめっき処理を行なうので、溶射皮膜の貫通気孔部のみに、めっき液から析出したニッケルめっき金属が充填封孔されることになるから、セラミック溶射皮膜がサーメット化(複合化)すると同時に、皮膜の封孔、膜表面の緻密化が図られ、洗浄水などの皮膜内部への浸入を防いで、防食機能を付与することができる。
(2)フッ化物溶射皮膜の内部に立体的に存在するめっき液の浸入可能な貫通気孔や開気孔部、あるいは溶射粒子同士の不完全な相互接合部の隙間(空隙)などに、めっき液から析出したニッケルめっき金属を充填することができるので、封孔を確実に果たすことができると共に粒子問の相互結合力を向上させることができる。
(3)ニッケルめっき金属の析出は、導電性基材の表面側から始まり、時間の経過とともに、皮膜表面に向けて進むという過程を辿るため、フッ化物溶射皮膜の気孔部や基材と皮膜との境界に存在する隙間などもすべて、基材側から順次に充填封孔されていくので、JIS H9302セラミック溶射作業標準などで規定されている無機および有機系封孔剤を皮膜表面に塗布する方法に比較して、封孔効果が大きく、また確実に行なわれる。
(4)皮膜の空隙中に浸入するニッケルめっき液は、非導電性フッ化物溶射皮膜の中に立体的に存在する空隙部(貫通気孔や開気孔)に浸入し、めっき液からニッケルを析出してそこの部分を充填していく中で、基材とも電気化学的に結合した状態で付着成長していくので、溶射皮膜全体の基材との密着性が向上することができる。
(5)本発明に係るAl、Y、YAGなどの酸化物系セラミックと貫通気孔部を充填したニッケルめっき金属は、ともに耐ハロゲン腐食及び耐プラズマエロージョン性に優れた材料である上、さらに、その酸化物系サーメット複合皮膜をフッ化処理することによって、それぞれの酸化物系セラミック粒子とニッケルめっき金属粒子のフッ化物層が形成されることによって、一般と高度な耐食性と耐プラズマエロージョン性を付加させることができる。
(6)本発明に係るセラミック粒子とニッケルめっき金属粒子の表面に被覆した、それぞれのフッ化物層は、F、C1、Brなどのハロゲンガスの腐食作用に優れた耐食性を有するとともに、これらのガス雰囲気中におけるプラズマ作用に対しても強い抵抗力を発揮する一方、たとえプラズマによって損傷を受けた場合でも、フッ化系のガスとなるものが多く、半導体加工製品の品質の低下原因となる固形状のパーティクルとなることが少ない。
(7)さらに、フッ化物層がプラズマによって損傷した場合であっても、このフッ化物膜をフッ化物系のガス雰囲気中で使用すると、損傷部にフッ化物層が再成することがあり、長期間にわたって使用することができる。
本発明の方法を実施するための工程の流れを示した模式図である。 本発明方法の一実施形態を示す電気ニッケルめっき装置の略線図である。 非導電性Al溶射皮膜を電気ニッケルめっき処理した皮膜表面のミクロ組織を示した写真である。(A)は、めっき前のAlの表面、(B)の皮膜表面に露出が始まっためっき析出ニッケル粒子、(C)は(B)の状態からさらにめっき時間を長くした場合のAlサーメット溶射皮膜である。
以下、本発明の好適実施形態について説明する。図1は、本発明の方法を実施するための工程の流れを示したものである。以下、その工程順に沿って、本発明の構成の詳細を説明する。
(1)基材の選定
本発明で使用可能な基材は、導電性(電気伝導性)を有する金属材料である。例えば、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、ステンレス鋼を含む各種の合金鋼、炭素鋼、ニッケルおよびその合金などが好適である。鋼材の表面に、ニッケルのめっき膜を形成した基材でもよい。ガラス、石英、プラスチック、セラミック焼結体のように、電気不良導体の基材に対しては、前処理を施した後に無電解めっきやCVD、PVDなどによって、導電性を付与するための金属の薄膜を被覆形成して、基材の表面のみを電気伝導体としたものについても、本発明の基材として使用することができる。
(2)基材表面へのセラミック溶射皮膜の被覆
前記導電性基材表面に、非導電性の酸化物などのセラミック溶射皮膜を形成するに先立って、JIS H 9302に規定されているセラミック溶射作業標準に準拠して実施することが好ましい。例えば、基材表面のさびや油脂類などを除去した後、Al、SiCなどの研削粒子を吹付けて粗面化し、その表面に直接または金属質の導電性アンダーコートを施工した後に、それらの上に非導電性のフッ化物溶射皮膜を形成する。
セラミック溶射皮膜の形成方法としては、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、溶棒式フレーム溶射法あるいは爆発溶射法などが好適に用いられる。
前記の導電性アンダーコートは、前記の各種溶射法に加え、アーク溶射法、フレーム溶射法などを用いることができるので、溶射法の種類については、特に制限はない。
(3)非導電性セラミック溶射材料
本発明において用いられる溶射皮膜形成用の溶射材料は、非導電性の材料であることが必要であり、また、半導体の加工環境下で使用されるハロゲン及びハロゲン化合物を含む気相中で発生するプラズマエロージョンに対しても優れた抵抗力を発揮するものが好適である。その非導電性の程度は、皮膜を形成した基材をニッケルめっき液中に浸漬して通電した際に、皮膜の表面に直接、めっき金属(ニッケル)が析出しないこと、例えば、ρ:1×10Ωcm程度以上の電気抵抗率を示すことが目安となる。このような基準から、本発明方法への適用が可能になる。例えば、酸化物系セラミック溶射皮膜形成用溶射材料の代表的な例を列挙すると下記の通りである。なお、非酸化物系セラミック粒子についても、大気中や空気(酸素)を含む環境などの溶射熱源中では、粒子の表面に電気抵抗の大きい酸化膜を生成するものであれば、本発明の目的に使用することができる。
元素の周期律表IIIb族のAl、同IIIa族のY、原子番号57〜71に属するランタノイド系金属などの酸化物をはじめ、A1−Yの混合体、YAGで表示されるA1とYの複酸化物などが好適である。原子番号57〜71の金属元素名は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジウム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の17種である。これらの金属酸化物を単体もしくは2種以上の混合物としても使用可能である。
上記溶射材料の粒径は、気孔率を考慮して5〜100μmの大きさのものがよく、水プラズマ溶射法用粉末を除き、5〜50μmの範囲がより好適である。セラミックを棒状にして用いる溶棒式フレーム溶射法の材料については、棒状として用いてもよい。また、アンダーコートの施工に電気アーク式溶射法を適用する場合には、線状のアンダーコート材料も用いてもよい。
上述した溶射材料を用いて被覆形成する溶射皮膜の厚さは、50〜1000μmの範囲が好適である。膜厚が50μm未満では、貫通気孔が皮膜に対して相対的に多くなりすぎる上、被覆の効果が不充分になる。一般に、溶射皮膜の場合、必然的に多くの貫通気孔や開気孔が存在するが、本発明においてはこれらの気孔部には、後で詳しく述べる電気ニッケルめっき処理に際して析出するニッケルめっき金属が浸入して充填され、封孔される。一方、膜厚が1000μm以下であれば、気孔中に充填されるめっき析出ニッケルによる耐プラズマエロージョン性が確保され、かつ皮膜内部への洗浄水などの浸入を防ぐのに効果がある。
なお、本発明に置いて、非導電性セラミック溶射皮膜は、少なくとも0.2%〜30%、好ましくは5%〜20%程度の気孔率を示す溶射皮膜が好ましく、貫通気孔や開気孔、連通気孔を有する多孔質素材であることが有利である。この気孔率の大きさに比例してサーメット化の程度が決定される。
(4)アンダーコート材料の選定
アンダーコートは、基材と非導電性セラミック溶射皮膜の間にあって、基材に該セラミック溶射皮膜を直接形成するよりも、より高い密着力を発揮させるのに効果がある。とくに、本発明では、このアンダーコートは、次工程の電気めっき処理時において、めっき金属の析出起点ともなる重要な役割を果たすものである。具体的には、Ni、Ni−Cr合金、Ni−Al合金などの導電性の金属・合金が好適に用いられる。なお、Ni−Cr−Al合金も使用できるが、生産コストの点で検討が必要である。また、アンダーコートの厚さは、10〜150μmの範囲がよく、特に50〜100μmが好適である。
(5)電気ニッケルめっき処理によるサーメット複合皮膜の形成
本発明において、この電気ニッケルめっき処理は極めて重要である。この処理によって、前記非導電性セラミック溶射皮膜を電気めっきニッケルめっき金属充填構造のサーメット複合皮膜に変化させることができると同時に皮膜気孔部の封孔ができる他、必要に応じて、該サーメット溶射皮膜の表面をめっき金属(ニッケル)で被覆した状態とすることができる。
図2は、この電気ニッケルめっき処理の原理を示す。この処理は、多孔質な非導電性のフッ化物溶射皮膜22にて被覆されている導電性基材21を、ニッケルめっき液中に浸漬し、その基材21を陰極とし、めっき金属23のニッケルを陽極として直流通電してめっきする方法である。例えば、めっき析出金属(Ni)の析出量は、基本的には通電電気量に略比例するが、本発明において、電流密度(電着面積100cm当たりの電流値)は0.5A/dm〜20A/dm程度、好ましくは3A/dm〜10A/dm程度の直流電源を用い、温度:20℃〜60℃程度の条件でめっき処理することが好ましい。以下、本発明において使用できる代表的なめっき浴組成の例を表1に示す。
この電気ニッケルめっき処理において、めっき時間は、酸化物溶射皮膜の厚さ、気孔率によっても変わるが、気孔内へのニッケルめっき金属の充填を目的とする場合、上述したように、通電後、析出したニッケルめっき金属が酸化物溶射皮膜の開気孔内に析出してこの部分を充填しつつ成長し、そのめっき析出金属(Ni)が酸化物皮膜表面に露出した状態を外部から観察することによって終点判定とする。つまり、この判定時期に相当する状態が気孔部の充填完了の目安となる。
Figure 0005597840
いずれのめっき液中であっても、本発明の酸化物系のセラミック溶射皮膜自体は、化学的に安定しており溶出することはない。しかも、本発明で用いられるセラミック溶射皮膜は、非導電性であるため、該セラミック溶射皮膜の表面に、析出しためっき金属ニッケルが該表面を覆ってめっき膜となることはない。なお、それにも拘わらずめっき液の酸性が強く、酸化物溶射皮膜が溶解するおそれがある場合には、アルカリ性または中性に近いめっき液の使用が推奨される。また、水溶液に代えて、有機溶媒や有機質溶融塩電解質のめっき液の使用も可能である。
本発明において、非導電性セラミック溶射皮膜の気孔中に、めっき金属であるニッケルが析出して封孔し、セラミック溶射皮膜を形造る理由は、該セラミック溶射皮膜中の貫通気孔や開気孔、空隙部分からめっき液がそれらの気孔内部に浸入し、これらの気孔を通じて陰極として存在する導電性基材の表面、もしくはアンダーコート表面に順次に到達する結果、電気的に導通し、下記のような反応を起して、めっき金属を析出する。
めっき液中の金属(Ni)イオン → 陰極面にて電子を放出して金属(Ni)として析出する。
Figure 0005597840
このような電気ニッケルめっき処理において、通電を続けていると、導電性基材の表面側にある皮膜気孔内にまず、めっき金属であるニッケルが析出し、このようにして析出しためっき金属であるニッケルは、基材表面側から順次にセラミック溶射皮膜の表面側に向って析出し乍ら、成長をつづけ、該セラミック溶射皮膜中の大半の空隙を埋めるように、とくに、めっき液が存在する大半の空隙部(完全な閉気孔を除く)内に、めっき析出金属であるニッケルが析出して充填封孔することとなる。この場合において、セラミック溶射皮膜の空隙内、即ち、貫通気孔や開気孔等は皮膜の厚さ方向に、立体的(三次元的)に存在しているため、それらのすべてがめっき析出ニッケルによって連続した状態で充填されていく結果、めっき終了後の該セラミック溶射皮膜は、少なくとも開放気孔部についてはニッケルめっき金属によって完全に充填封孔されることによって実質的にサーメット構造の状態となる。
しかも該非導電性フッ化物溶射皮膜の気孔にはニッケルめっき金属の粒子が基材と電気化学的作用によって接合することになるため、基材との密着性が向上することはもちろん、フッ化物粒子間の相互結合力の向上に対しても大きな役割を果たして、皮膜全体の強度を向上したフッ化物系サーメット複合皮膜になる。
そして、この電気ニッケルめっき処理において、めっき時間を延長すると、該酸化物溶射皮膜の内部に存在するほとんど全ての気孔(空隙)が充填封孔され、やがて溶射皮膜の表面に達してここを被覆するまでになる。なお、ニッケルめっき金属の析出は、当初は酸化物溶射皮膜の基材側の下層部分から、微小な粒子状のニッケルを析出していく。ただし、貫通気孔のない皮膜表面では、このようなめっきニッケルめっき金属の粒子は確認できないため、本発明によれば、従来の技術では困難であった貫通気孔部の可視化が可能となる。その結果、該非導電性セラミック溶射皮膜の気孔にはニッケルめっき金属が充填された状態になるから、正しくサーメット複合皮膜へ変化する。しかも、このような皮膜は、ニッケルめっき金属が基材と電気化学的作用によって接合しているため、基材との密着性が向上することはもちろん、セラミック粒子間の相互結合力の向上に対しても大きな役割を果たして、皮膜全体の強度を向上させることになる。
また、この電気ニッケルめっき処理において、めっき時間を延長すると、該セラミック溶射皮膜の内部に存在するほとんど全ての気孔(空隙)が充填封孔され、やがて溶射皮膜の表面に達してここを被覆するまでになる。なお、ニッケルめっき金属の析出は、当初は酸化物溶射皮膜の基材側の下層部分から、微小な粒子状のニッケルを析出していく。ただし、貫通気孔のない皮膜表面では、このようなめっきニッケルめっき金属の粒子は確認できないため、本発明によれば、従来の技術では困難であった貫通気孔部の可視化が可能となる。
以上の説明したところからわかるように、実際の溶射皮膜の表面には多数の小さい貫通気孔部や開気孔が存在するため、皮膜の内部から成長して皮膜表面に達するニッケルめっき金属の粒子は、多数の小さい粒子として観察されるので、さらに通電を続けると、これらのめっき析出ニッケルは、それぞれ成長して金属粒子同士が接合し合って、最終的には、サーメット複合皮膜の全表面が完全に被覆された状態となり、恰も該複合皮膜の表面にニッケルめっき処理を施したような外観を呈すようになる。
なお、電気ニッケルめっき処理によって析出するニッケルの量は、ニッケルの電気化学当量によって支配されることは周知のとおりである。即ち、ニッケルめっき金属の析出量(析出速度)は、個々の金属固有の数値を有するものの通電量に比例し、また、同じ通電量であれば通電時間に比例するので、通電量と通電時間を制御することによって、皮膜内部の空隙部への充填量および皮膜表面に被覆形成されて金属量を調整することができる。
図3は、電気ニッケルめっき処理後のA1溶射皮膜、即ちサーメット複合皮膜の断面ミクロ組織を示したものである。基材表面から析出を開始したニッケルめっき金属は、A1粒子の未接合部(空隙部)を通って、皮膜の表面に向って次第に成長し、その一部はすでに表面に露出している状態にある。
は、A1溶射皮膜表面部分、即ちサーメット複合皮膜の粒子状のニッケルめっき金属の分布状態を示したものである。粒子状のニッケルめっき金属は、ここでも通電時間の延長に伴なって、その数を増加させ、最終的には皮膜の表面を完全に被覆するようになる。本発明では、図(b)に示すような状態に達したときを、めっき処理の終了点とするが、その理由は、前記状態の皮膜内部の空隙部は、ほぼニッケルめっき金属によって充填されている可能性が大きいからである。また、セラミック溶射皮膜の内部に、多少の空隙部が残存しているとしても、ニッケルめっきの析出機構とその成長過程から明らかなように、皮膜表面の近傍に限定される。
電気めっき処理を終了した状態のセラミック溶射皮膜、即ちサーメット複合皮膜の表面は、粒子状のNiとセラミック粒子が不規則に混在した状態にある。このため、皮膜の用途によっては、所定の寸法・精度に皮膜表面を機械的に研削・研磨する工程を設けてもよい。
(6)フッ化物膜の被覆形成
次に、前述した電気ニッケルめっき処理後のサーメット複合皮膜の表面に対してフッ化処理を施す。そのため、被処理サーメット複合皮膜の表面の油脂類、指紋などの表面付着物がないことを確認し、次いで、このサーメット複合皮膜被覆部材を以下に示すフッ素あるいはフッ素化合物を含有する溶融塩または水溶液中に浸漬するか、フッ素ガスまたはフッ素化合物系ガスのガス成分と直接接触させることにより、フッ化処理する。具体的には、フッ化処理には次のような薬液を使用することができる。
a.溶融塩:フッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化リチウム(LiF)などから選ばれる1種以上の溶融塩
b.水溶液:フッ化水素アンモニウム(NHF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化水素アンモニウム(NHHF)、フッ化水素カリウム(KHF)、フッ化水素(HF)、フッ化水素ナトリウム(NaHF)、フッ化ナトリウム(NaF)などから選ばれる1種以上のフッ化物を溶解した水溶液
c.ガス成分:F(F)、HF、NF、PF、PF、BF、WFなど(これらは、室温ではガス状態で存在し、50〜60℃では、その大部分が気化している。)また、これらのガス成分を含む雰囲気で、プラズマを発生させて、F系ガスを活性化させた環境に曝露してもよい。
上記フッ化処理の条件は、溶融塩を用いる場合には、300℃〜700℃×1〜10時間、水溶液を用いる場合には、10℃〜100℃×1〜30時間、浸漬後、これを100℃〜110℃で0.5h〜3h加熱乾燥して皮膜の表面にフッ化物層を生成定着する操作を複数回繰り返し(好ましくは3〜5回)、ガス成分を用いる場合には、20℃〜300℃×30分〜24時間の条件が好ましい。
このようなフッ化処理によって、サーメット複合皮膜のとくにNiめっき金属の表面ではNiF、そして、セラミック(酸化物)粒子の表面ではセラミック(酸化物)のフッ化物(例えば、AlF、YFなど)が生成する。これらの各種フッ化処理の生成速度は、処理温度が高くなるほど、また処理時間が長くなるほど大きくフッ化物の膜厚も厚く成長する。
また、Niめっき金属面に生成するNiFの膜厚は0.1〜1μm、セラミック粒子の表面に生成するフッ化物の膜厚は0.2〜3μmの範囲であれば、優れた耐ハロゲン性と耐ハロゲン・プラズマエロージョン性を発揮することができる。
具体的には、前記NiF、AlF、YFなどのフッ化物膜は、F(F)、HF、NF、BF、などのフッ素やフッ化物系のガスに対しても、化学的に安定した状態を示すほか、HCl、C1、PC1などの塩化物系のハロゲンガスに対しても良好な耐食性を発揮し、半導体の精密加工用部材などに使用することができる。
なお、フッ化処理後のサーメット複合皮膜被覆部材は、水道水、純水などによって洗浄し、皮膜表面に付着残留している未反応のフッ化物などを除去する。この操作を行っても、本発明のフッ化膜被覆サーメット複合皮膜の気孔部は、電気めっきによって析出したNiによって完全に封孔されているため、洗浄水が皮膜内部へ浸入するようなことがなく、洗浄水に起因する皮膜内部の腐食損傷に起因する皮膜の剥離現象は、完全に防止できる。
(実施例1)
この実施例では、SS400鋼試験片(寸法:幅50mm×長さ70mm×厚さ3.2mm)の表面に直接、大気プラズマ溶射法よってA1、Y、YAGのセラミックスをそれぞれ100μmの厚さに形成した溶射皮膜を用い、この溶射皮膜の貫通気孔の有無をフェロキシル試験方法によって調査した。
なお、供試溶射皮膜は、成膜後電気めっき法によって、皮膜内部の空隙部(貫通気孔部)をめっき析出Niによって充填・封孔したもの及びガス法によってフッ化処理を施こした試験片についてもフェロキシル試験を行い、それぞれの処理の影響も調査した。
(1)フェロキシル試験(塩水噴霧試験)
このフェロキシル試験としては、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム10gおよび塩化ナトリウム15gを1リットルの蒸留水に溶解し、これを分析用ろ紙に十分含浸させ、その後、このろ紙を試験片表面に貼付し、30分間静置した後、ろ紙を剥がして、ろ紙面での青色斑点の有無を目視判定する方法によった。この方法によれば、アモルファス状膜に貫通気孔が存在するとフェロキシル試験液が浸透し、鉄基材界面に達して鉄イオンを生成させ、これにヘキサシアノ(III)酸カリウム塩が反応して、ろ紙の表面に青色斑点を生成することによって判定することができる。
(2)試験結果
試験結果を表2に示す。この結果から明らかなように、SS400鋼基材に直接酸化物系セラミック溶射皮膜の形成したものは、(No.3、4、7、8、11、12)すべて多数の青色斑点が発生し、皮膜が多孔質であるうえ、フェロキシル試験液が基材表面に達する貫通気孔であることが判明した。これに対して、電気Niめっき処理した皮膜は、(No.1、2、5、6、9、10)0.1/5cm程度の斑点数にとどまり、貫通気孔部が析出Niによって、ほぼ完全に封孔されていることが確認された。なお、比較例のフッ化処理したセラミック皮膜(No.3、7、11)にも多数の青色斑点が発生したことから、フッ化物層の生成だけでは、封孔効果に乏しいことも判明した。
Figure 0005597840
(実施例2)
この実施例では、SS400鋼の試験片(幅20mm×長さ30mm×厚さ5mm)の表面に直接、大気プラズマ溶射法によって、Y、Al、CeOセラミックを膜厚100μmの皮膜を形成したものを基本皮膜とし、これに電気めっきを施したもの。また、フッ化処理実施の有無を変動因子とした供試膜のHCl蒸気及びHF蒸気に対する耐食性を調査した。
(1)腐食試験方法
(a)HCl蒸気による腐食試験は、化学実験用のデーシケーターの低部に30%HCl水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊るすことによってHCl水溶液から発生するHCl蒸気に暴露する方法を採用した。腐食試験温度は30℃〜50℃、時間は96hrである。
(b)HF蒸気による腐食試験は、SUS316製のオートクレーブの底部にHF水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊すことによってHF蒸気による腐食試験を実施した。腐食試験温度は30℃〜50℃、曝露時間は96hrである。
(2)試験結果
表3は、上記腐食試験結果を要約したものである。この結果から明らかなように、SS400基材上に直接Y、Al、YAGの溶射皮膜を形成したものは、(No.3、4、7、8、11、12)は、皮膜のフッ化処理の有無に関係なく、多量の赤錆が皮膜表面に生成した。即ち、大気プラズマ溶射によって形成されたこの種のセラミック皮膜には、多くの貫通気孔が存在するため、HCl、HFなどの酸性ガスは、この貫通気孔を通って内部に浸入し、SS400鋼基材を腐食し赤錆を発生させたものである。また、成膜時に発生した貫通気孔を有するセラミック皮膜をフッ化処理しても、気孔を完全に封孔できないことも確認された。
一方、セラミック溶射皮膜を電気Niめっき処理によって貫通気孔を析出Niによって充填した試験片(No.1、2、5、6、9、10)は、フッ化処理の有無に拘わらず、赤錆の発生は全く認められず、電気めっき法による析出Niが皮膜の貫通気孔部を完全に封孔され、HCl、HF蒸発の内部浸入を防止したことが判明するとともに、電気めっき法で析出するNiめっき金属がHCl、HFのような強い腐食性を示す蒸気の腐食作用に対して、高い抵抗性を発揮することが判明した。
Figure 0005597840
(実施例3)
この実施例では、本発明に係るフッ化処理を施した酸化物系サーメット被覆皮膜の耐プラズマエロージョン性を調査した。基材として、JIS H4000規定の3003合金(寸法:50mm×50mm×5mm厚さ)を用いて、その表面に大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法を用いて、Yを80μmの厚さを被覆形成した。Y溶射皮膜の形成に当たっては、アンダーコートとしてNi−20mass%Cr合金を80μmの厚さに施工したものも準備した。このように形成したY溶射皮膜を実施例2と同じ条件の電気ニッケルめっき処理とフッ化処理を実施してサーメット複合皮膜を得た。また、比較例の皮膜としてBCの溶射皮膜も同条件で耐プラズマエロージョン性を調べた。
(1)プラズマガス雰囲気と流量条件
(100)/Ar(1000)/O(10)の混合ガスとCFを1分間当たり1cmの流量で流した。
(2)プラズマ照射条件
高周波電力:1300W、圧力:133.3Pa
(3)照射方法と照射時間
プラズマエロージョン試験は、前記供試溶射皮膜面が10mm×10mmの大きさの範囲が露出するように、他の部分をマスクし、20時間連続してプラズマ照射した後、エローション損傷量を減肉厚として、触針式粗さ計にて測定して評価した。
(4)試験結果
試験結果を表4に示す。この結果から明らかなように、比較例のBC溶射皮膜(No.9、10)はニッケルめっきを施してもエロージョン損傷量が14μmと大きく、耐プラズマエロージョン性に乏しいことが見られる。これに対し、Y溶射皮膜は、成膜の状態(No.6、8)でもBC皮膜に比較すると耐プラズマエロージョン性が向上しているが、その効果は低い。しかし、Y溶射皮膜を電気ニッケルめっき処理してニッケルを充填し封孔してなるサーメット状態の皮膜だとエロージョン損失量が激減し、さらにフッ化処理した皮膜面(No.5)では、優れた耐プラズエロージョン性が確認された。この実施例の結果は、大気プラズマ溶射法と減圧プラズマ溶射法で形成されたY系サーメット複合皮膜は、両者とも同等の損傷量であり、また、アンダーコートの存在の有無に拘わらず、優れた耐プラズマエロージョン性を発揮することが判明した。
Figure 0005597840
(実施例4)
この実施例では、ランタノイド系金属酸化系セラミック溶射物皮膜に対する電気的めっき処理及びフッ化処理の耐食性と耐プラズマエロージョン性効果について調査した。
(1)供試皮膜
基材としては、Al合金(A13003)(寸法:50mm×50mm×5mm)を用い、下記ランタノイド系金属の酸化物溶射皮膜を大気プラズマ溶射法によって、基材表面に直接110μmのフッ化物溶射皮膜を形成した。
皮膜材料:ScO、Eu、Dy、Er
なお、比較用のセラミックとして、12mass%Y−88mass%ZrOを用いた。
また成膜後のフッ化物皮膜は、表1記載のワット浴により、45℃、lA/dmの条件で実施し、フッ化処理はフッ化物ガス中のプラズマ環境中に60℃×10h放置する方法で行い、0.2〜0.5μm厚さのフッ化物層を形成させた。
(2)腐食損傷試験方法
(i)アルカリ浸漬試験
この実施例では、薬剤に対する耐食性試験として、供試皮膜を5%NaOH水溶液中に40℃の条件で1時間浸漬し、皮膜の表面から発生する水素ガス気泡の有無を目視観察することによって、フッ化処理を施した溶射皮膜の緻密性を調査した。この試験では、基材の露出部は耐薬品塗料を塗り、NaOH水溶液は皮膜表面から内部へ浸入するように準備した。もし、皮膜の気孔からNaOH水溶液が内部に浸入すると、基材(Al合金)と反応して水素ガスを発生するため、該皮膜の封孔の可否を判断できるからである。
Al+NaOH+HO → NaAlO+3/2H
また、耐プラズマエロージョン試験は、実施例3の場合と同じ条件で評価した。
(3)試験結果
試験結果を表5に示す。この結果から明らかなように、比較例の12%Y−88%ZrO皮膜(No.17〜20)は、電気めっきやフッ化処理を施しても、プラズマエロージョン量が大きく、皮膜そのものに耐プラズマエロージョン性に乏しいことが確認された。また、フッ化処理の有無に拘わらず、電気めっき法によって、セラミック溶射皮膜の貫通気孔をNiによって充填した皮膜(No.1、2、5、6、9、10、13、14、17、18)では、NaOH液の浸入を防止できるため、NaOHと基材との溶解反応が抑制されて、水素ガスの発生が認められなかった。
一方、ランタノイド系金属酸化物皮膜(No.1〜16)は、比較例の8%Y−ZrO皮膜(No.17〜20)に比べて、高いエロージョン特性を発揮するが、特に電気Niめっきとフッ化処理の両方を施した皮膜(No.1、5、9、13)では、プラズマエロージョン損失量は一段と少なく、優れた耐プラズマエロージョン性を有することが確認された。
Figure 0005597840
(実施例5)
この実施例では、セラミック溶射皮膜に対する電気Niめっき処理とフッ化処理の有無が皮膜の密着強さに及ぼす影響を調べた。
(1)供試皮膜試験片として、SS400鋼(寸法:直径25mm×厚さ5mm)の円板基材を用い、その両面をブラスト粗面化状態にした後、大気プラズマ溶射法によって、Y、YAG皮膜を厚さ100μmになるように被覆形成した。その後、表1記載のスルファミン酸液を用いたNiめっき処理を施した試験片皮膜の密着強さをJIS H8666規定のセラミック溶射皮膜の密着強さ測定方法に準じて評価した。なお、比較用セラミック溶射皮膜として、(i)溶射皮膜の形成した状態のもの、(ii)溶射皮膜に電気Niめっきを施したものについても、同条件で密着強さを調査した。
(2)試験結果
表6は、以上の測定結果を要約したものである。この結果から明らかなように、供試皮膜の密着強さは、電気Niめっき処理を施した皮膜(No.2、6)では、Niめっき処理のない皮膜(No.4、8)に比較して、Y、YAG皮膜とも10MPa以上の強さの向上が認められる。即ち、セラミック溶射皮膜の基材表面から析出を開始し析出したNiが、セラミック溶射皮膜を構成するセラミック粒子の境界に存在する隙間を充填しつつ、皮膜表面に成長する結果、セラミック粒子が析出Niによって強く固定されたためと考えられる。
しかし、Niめっき処理後のセラミック溶射皮膜の表面をフッ化処理すると、すべての供試皮膜(No.1、3、5、7)は、引っ張り応力が40MPa付近に達すると、フッ化処理面と接着剤との界面から剥離し、目的とする皮膜の密着強さ(基材とセラミック皮膜との界面)を計測することができなかった。この原因は、セラミック皮膜の表面に形成されているフッ化物層の薄膜の表面エネルギーが比較的小さいため、接着剤との接合強度が小さくなるためと思われる。
以上の結果から、フッ化処理した本発明に係るセラミック溶射皮膜の密着強さは、40MPa以上を有し、電気Niめっき処理の効果によって、高い密着強度を保有しているものと考えられる。
Figure 0005597840
本発明に係る技術は、高度な耐ハロゲン腐食性と耐プラズマエロージョン性が要求されている半導体の精密加工装置用部材に適用することができる。具体的には、ハロゲンおよびその化合物を含む処理ガスを用いて、プラズマ処理される装置に配設されているテッポシールド、バッフルプレート、フォーカスリング、インシュレータリング、シルドリング、ベローズカバー、電極などに加え、類似のガス雰囲気の化学プラント装置用部材などの耐食皮膜として利用できる。
1 導電性基材
2 フッ化物溶射皮膜
3 Ni陽極
4 直流電源

Claims (7)

  1. 導電性基材と、
    その基材表面に被覆形成された非導電性のY、Alおよびランタノイド系金属元素の酸化物からなる多孔質セラミック溶射皮膜の貫通気孔部をニッケルめっき金属によって充填封孔した構造を有するサーメット複合皮膜とからなり
    該サーメット複合皮膜の表面、当該溶射皮膜の構成成分であるセラミック粒子および該溶射皮膜中の貫通気孔部内に充填され表面に露出した状態にあるニッケルめっき金属粒子のそれぞれがフッ化処理されることによって、酸化物粒子のフッ化物およびニッケルめっき金属粒子のフッ化物とによって形成されているフッ化物層によって被覆されていることを特徴とするフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材。
  2. 前記導電性基材とサーメット複合皮膜との間に、導電性のAl、Al−Zn、Ni、Ni−Al、Ni−CrおよびNi−Cr−Alから選ばれるいずれか1種以上であるアンダーコートを介在させてなることを特徴とする請求項1に記載のフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材。
  3. 前記導電性基材は、金属または表面に導電性金属膜を被覆した非導電性基材のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載のフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材。
  4. 導電性基材の表面に、非導電性のY、Alおよびランタノイド系金属元素の酸化物からなる多孔質セラミック溶射皮膜を被覆形成し、次いで、その非導電性の多質セラミック溶射皮膜を被覆した基材を電気ニッケルめっき液中に浸漬して通電することによって、該非導電性多質セラミック溶射皮膜の開気孔部中にニッケルめっき金属を析出させ、そのニッケルめっき金属を非導電性の多孔質セラミック溶射皮膜の貫通気孔や隙間中に充填して封孔することによってサーメット複合皮膜に変化させ、
    その後、該サーメット複合皮膜の表面をフッ化処理し、表面にある上記酸化物の粒子および上記貫通気孔部から表面に露出している上記ニッケルめっき金属粒子の両者をフッ化物粒子にしたものからなるフッ化物層を形成させて前記溶射皮膜表面を被覆することを特徴とするフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材の製造方法。
  5. 前記非導電性多孔質セラミック溶射皮膜は、貫通気孔と開気孔を含む0.2〜20vol%の気孔率を有する皮膜であることを特徴とする請求項に記載のフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材の製造方法
  6. 前記導電性基材とサーメット複合皮膜との間に、導電性のAl、Al−Zn、Ni、Ni−Al、Ni−CrおよびNi−Cr−Alから選ばれるいずれか1種以上であるアンダーコートを介在させてなることを特徴とする請求項またはに記載のフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材の製造方法。
  7. 前記導電性基材は、金属または表面に導電性金属膜を被覆した非導電性基材のいずれかであることを特徴とする請求項のいずれか1に記載のフッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材の製造方法。
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