JP5194267B2 - 緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 - Google Patents

緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 Download PDF

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Description

本発明は、封孔技術を利用した新規なサーメット皮膜の形成技術であって、具体的には、非導電性セラミック溶射皮膜を、この皮膜の開気孔部(外部に開かれた気孔部の呼称で、腐食性の液体、ガス成分の皮膜内部への進入通路となる)の中に電気亜鉛めっき法によってめっきめっき析出金属(亜鉛)を充填することにより、サーメット皮膜に変化させ、さらには緻密化する方法と、この方法の実施によって得られる緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材に関する提案である。
溶射法は、ArやHなどのガスプラズマ炎または炭化水素の燃焼炎などを用いて、金属(以下、合金を含めて金属と言う)やセラミックス、サーメットなどの粒子を、軟化もしくは溶融した状態にして被処理基材表面に吹付け、堆積させて皮膜状にする表面処理の方法である。この方法は、熱によって軟化したり溶融する材料であれば、ガラスやプラスチックをはじめ、融点の高いタングステン(融点3,387℃)、タンタル(融点2,996℃)などの金属はもとより、Al(融点2,015℃)、MgO(融点2,800℃)などの酸化物系セラミックスでも成膜することが可能であり、皮膜材料種の選択自由度が非常に大きいという特徴がある。このため、溶射皮膜の特性を利用した用途が、多くの産業分野に拡大している。
そして、溶射装置や溶射ガンなどのハード面の性能についても、これらの良し悪しが、溶射皮膜の品質に大きな影響を与えることから、品質の向上や生産性の向上と共に、さらなる改善、開発が世界的規模で精力的に行なわれている。例えば、特許文献1では、大気中で溶射された金属皮膜の粒子は、酸化物を多量に含むため、皮膜を構成する粒子間の相互結合力や基材との密着力低下原因となるとして、空気を排除した50hPa〜200hPaの低圧アルゴンガス雰囲気下でプラズマ溶射(減圧プラズマ溶射)する方法やその装置を提案している。
また、特許文献2では、炭化物サーメット粒子のように、高温の熱源中において、炭化物が分解したり酸化する現象を最少限に止めると共に熱源の運動エネルギーを最大限に利用して炭化物粒子の飛行速度を上げ、その粒子の被爆時間(温度)を極限まで短縮する、所謂、高速フレーム溶射法を提案している。
溶射皮膜の品質や溶射装置については、上述したように、改善されてきたが、溶射のプロセスについては、解明が未だ不十分である。例えば、溶射熱源中に投入された溶射粒子群には完全に溶融するものがある一方で、未溶融状態のままのものもあり、こうした粒子は基材表面に堆積した際、相互の融着が不完全ないしは不均等になることから、空隙(気孔)が不可避に発生し、これが皮膜の気孔となって顕在化する。
例えば、特許文献3によれば、減圧プラズマ溶射法で形成されたAlやYの溶射皮膜は、0.2〜7%程度の気孔が存在しているとの開示がある。即ち、これらの気孔の大部分は、貫通気孔(皮膜の外部から基材の表面まで続いている気孔)として存在しているため、使用環境の中では腐食性のガスや流体の侵入通路を提供することとなって、基材表面の腐食が進行し、該皮膜と基材との接合力の低下を招いて剥離する原因となる。
以上説明したように、溶射皮膜は、一般に、気孔が不可避に存在することから、従来、成膜後に封孔処理を施すことが奨励されている。例えば、JIS H 9302セラミック溶射作業標準では、セラミック溶射皮膜を形成した後、その表面に、無機系あるいは有機高分子系の封孔剤を塗布したり噴霧して、気孔内部に充填する方法が記載されている。
さらに、溶射皮膜の気孔を封孔するための方法、および封孔材については、次のような提案がある。
(1)特許文献4〜6には、耐食性を有するシリコーン、エチルシリケートなどの珪素化合物、合成樹脂などの有機高分子材料を用いて封孔する方法が開示されている。
(2)特許文献7、8には、金属アルコキシドや金属酸化物粒子などの非金属化合物を含む電解液中に溶射皮膜を浸漬した後、これを電解し、電気泳動法の原理を利用して皮膜の表面や気孔中に溶質成分や酸化物粒子を充填した後、これを加熱焼成する方法が開示されている。
(3)特許文献9には、可視光線によって硬化する有機高分子剤を溶射皮膜の表面に塗布し、気孔内を充填して封孔するとともに、自然光によって硬化させる技術が開示されている。
(4)また、発明者らも特許文献10において、溶射皮膜の表面を電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギーを照射した後、その表面に炭素と水素を主成分とするアモルファス状膜を被覆形成させる方法を提案した。
(5)特許文献11には、溶射皮膜の表面に対して、電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギー照射を行なって、表面近傍の溶射粒子を溶融させて気孔を熱的に消滅させる技術の提案もある。
特開平1−139749号公報 特開平9−67661号公報 特開2001−164354号公報 特開昭54−32422号公報 特開昭57−70275号公報 特開昭64−62453号公報 特開昭62−260096号公報 特開平7−41927号公報 特開平5−106014号公報 特開平7−321194号公報 特開平10−306363号公報
上掲の従来技術は、いずれもセラミック溶射皮膜の耐食性や耐摩耗性、耐熱性などの特性のいずれかの特性を改善するために行われる封孔技術であるが、次のような課題がある。
(1)珪素化合物などの無機系封孔剤による溶射皮膜の封孔技術は、比較的大きい開口部をもつ気孔をもつものに限定される他、アルカリ性水溶液中では珪素化合物が溶出するため、用途が限られるという欠点がある。
(2)有機高分子系封孔剤を用いる技術は、酸、アルカリなどには優れた耐食性を発揮するものの、温度の影響を受けやすいという欠点がある。例えば、一般の高分子系の封孔剤では150〜180℃で軟化したり、また分解がはじまり、200℃以上の温度では長時間の使用に耐えることができない。
(3)電気泳動現象を利用する封孔技術は、電気泳動作用が及ばない微細な気孔中には、電解液のみが侵入し、酸化物微粒子の大部分は皮膜の表面に滞留するために、完全な封孔処理ができない。また、酸化物微粒子自体には防食効果はなく、さらに金属アルコキシド自体は防食作用が十分でないうえ経時変化して、その機能を消失するという欠点がある。
(4)溶射皮膜の表面を電子ビームおよびレーザビームなどの高エネルギー照射処理によって溶融して封孔する技術は、溶融した溶射皮膜が凝固する際に体積収縮を起こして微細な割れを発生することがあり、完全な封孔技術になり得ない。
(5)溶射皮膜の表面に、炭素と水素を主成分とするアモルファス状膜を被覆する方法は、酸、アルカリなどに耐える効果はあるものの、450℃以上の温度ではアモルファス状膜が分解するため、高温環境への適用に問題がある。
(6)なお、その他、従来技術において、珪素系薬剤や高分子系封孔剤を利用する技術がある。これらの封孔剤は、表面張力および粘度が大きいため、微小な開気孔部への侵入が難しく、入口付近に留まっているため、完全な封孔処理ができない。しかも、封孔剤は、乾燥時に水分(浴剤)が揮発して体積が収縮するため充填部に隙間を発生させる。
(7)また、電気泳動法で封孔した金属アルコキシドや酸化物微粒子の充填部でも、加熱焼成に伴う水分の蒸発、体積の収縮は避けられず、加熱焼成工程の必須化によるエネルギー損失および生産コストの増加がある。
(8)なお、電気泳動法による封孔処理には、塩酸、硫酸などの危険な薬剤の使用を必要とするほか、酸化物として有害なPbOを使用が不可避であるという欠点がある。
(9)さらに、これらの電気泳動法をはじめ封孔剤による封孔処理技術には、共通の課題として、封孔剤が開気孔部の入口付近に留まり、気孔の内部まで侵入せず、溶射皮膜と基材との密着性向上および皮膜を構成する溶射粒子の相互結合力を強化することができない。何よりも、この技術は、サーメット皮膜形成の方法を提案するものではない。
本発明の目的は、従来技術が抱えている前述の課題を解決すること、とくに、基材表面に、耐食性と耐摩耗性に優れた緻密表面層をもつサーメット皮膜を形成する方法、なかでも非導電性セラミック溶射皮膜を電気めっき処理し、さらに高エネルギー照射処理することによって、緻密表面層をもつ、めっき析出亜鉛充填形サーメット皮膜に変化させる方法と、この方法によって得られるサーメット皮膜被覆部材とを提案することにある。
上記目的を実現する方法として、本発明は、導電性基材の表面に、多孔質非導電性セラミック溶射皮膜を被覆形成し、次いで、その多孔質非導電性セラミック溶射皮膜を被覆した基材を電気亜鉛めっき液中に浸漬し、該セラミック溶射皮膜被覆基材を陰極として直流の電気めっき処理を行うことによって、該非導電性セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部の貫通気孔中に侵入させた亜鉛めっき液からめっき亜鉛を析出させ、該開気孔及び貫通気孔をめっき析出亜鉛によって充填封孔した状態にすると共に、当該非導電性セラミック溶射皮膜をサーメット化させて、めっき析出亜鉛充填形サーメット皮膜に変え、次いで、このサーメット皮膜の表面を、電子ビームまたはレーザビームである高エネルギー照射処理して、皮膜表面を再溶融して緻密層を生成させることを特徴とする緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法を提案する。
ここで、この方法は、下記の知見に基づいて開発されたものである。
(1)この発明において、特徴的な第1の構成は、まず、導電性基材の表面に、直接またはアンダーコートを介して、非導電性セラミックの多孔質溶射皮膜を被覆形成することであり、次いで、その非導電性セラミック溶射皮膜を被覆してなる基材を、電気亜鉛めっき液中に浸漬し、導電性基材の方を陰極として直流通電し、該セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部にある気孔中にまで亜鉛めっき液を万遍なく侵入させ、かつ亜鉛を基材表面側から順次に析出させて、該溶射皮膜の気孔中に分散している気孔中にめっき析出亜鉛が充填された状態を導くことで、サーメット皮膜に変化させることにある。
(2)この発明において、特徴的な第2の構成は、前記サーメット皮膜、即ち、めっき析出亜鉛充填形サーメット皮膜の表面を、電子ビームまたはレーザビームである高エネルギー照射処理して、皮膜表面を再溶融して緻密化させることにより、緻密表面層をもつサーメット皮膜にして、より確実に封孔することである。
(3)この場合の電気亜鉛めっき処理において、めっき金属である亜鉛の析出は、非導電性セラミック溶射皮膜表面では起らず導電性をもつ基材表面(または導電性アンダーコートの表面)の側を起点として、析出した亜鉛が溶射皮膜の表面に向けて順次に皮膜内部に存在する粒子間に生成している隙間を選びつつ成長する。従って、溶射皮膜のサーメット化は下層から上層に向い、より長時間のめっき処理によって、やがて皮膜表面にも亜鉛めっき層を生成して、恰もめっき処理したようにすることもできる。
(4)一般に、めっき液からの亜鉛の析出反応、つまりめっき反応は、非導電性(非電気伝導性)のセラミック溶射皮膜を対象とする場合には起こらない(析出しない)。しかし、本願発明のように、貫通気孔を有する多孔質の非導電性セラミック溶射皮膜の下に金属などの導電性基材があるような場合には、その貫通気孔を介してめっき液が基材にまで達して電気的に導通することで、電気めっきが可能になる。即ち、電気めっき処理した場合、非導電性セラミック溶射皮膜が貫通気孔を有する多孔質素材でさえあれば、空隙部(貫通気孔および開気孔)、とくに溶射粒子の未接合部などの厚み方向に貫通する空隙(貫通気孔)を通ってめっき液が侵入して基材表面に達し、ここで、めっき液から金属が析出し、この金属も負に帯電しているため、その表面にも引き続き、めっき液から金属が析出し続けるため、やがて、めっき金属が気孔内に成長析出し、これが溶射皮膜全体の気孔に拡大していくので、結果的に、非導電性セラミック溶射皮膜内部に分散して存在している気孔がめっき金属によって充填され、やがてセラミック層はサーメット層に変化することになる。
(5)上述した説明からわかるように、めっき液からの亜鉛の析出反応とその成長は、溶射皮膜の内部、それも基材(またはアンダーコート)側から順次に始まり、溶射皮膜表面側に向って進み、最終的には、皮膜の表面にまで達することとなる。そして、上述したように、めっき処理時間を長くすると、該非導電性セラミック溶射皮膜の表面を完全に被覆するまでになり、該非導電性セラミック溶射皮膜がサーメット化して導電性皮膜になる。
また、本発明は、前記記載の方法によって形成される部材であって、導電性基材と、その表面に被覆形成された多孔質非導電性セラミック溶射皮膜の貫通気孔中に、電気亜鉛めっき処理時に析出するめっき析出亜鉛が充填封孔されて得られた導電性のめっき析出亜鉛充填形サーメット皮膜とからなり、かつこのサーメット皮膜の表面には、高エネルギー照射処理して得られる再溶融した緻密表面層が形成されていることを特徴とする緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材を提案する。
なお、本発明は下記の構成にすることが、より好ましい実施形態となる。
(1)前記多孔質非導電性セラミック溶射皮膜は、貫通気孔と開気孔を含む気孔率0.2%〜30%の皮膜であること。
(2)前記導電性基材と多孔質非導電性セラミック溶射皮膜との間に、必要に応じて導電性金属のアンダーコートを設けること。
(3)前記非導電性セラミック溶射皮膜は、酸化物系セラミック、非酸化物系セラミックおよびそれらの混合物のうちから選ばれる1種以上の非導電性セラミックスを用いて形成すること。
(4)前記導電性基材は、金属か非導電性基材の表面に導電性金属膜を被覆したもののいずれかを用いること。
(5)前記導電性基材の表面に施工するアンダーコートは、Al、Al−Ni、Al−Zn、Ni−Cr、Ni−Cr−AlおよびFe−Crおよび自溶合金などから選ばれる1種以上の金属または合金を用いること。
(6)前記非導電性セラミック溶射皮膜は、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、溶棒式フレーム溶射法、および爆発溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成されること。
(8)前記アンダーコートは、アーク溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法およびプラズマ溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成すること。
(9)前記非導電性セラミック溶射皮膜は、50〜5000μmの厚さにすること。
(10)前記基材の表面に形成されるアンダーコートは、10〜150μmの厚さにすること。
(11)前記高エネルギー照射処理によって形成される緻密表面層は、表面からの厚さが1〜30μmの範囲にあること。
上述した構成に係る本発明によれば、次のような効果が期待できる。例えば、導電性基材の表面に形成された非導電性セラミック溶射皮膜を、電気亜鉛めっき処理によってめっき析出亜鉛充填形サーメット皮膜に変えることができるので、たとえ既存の非導電性セラミック溶射皮膜からでも同様の金属の性質を付与したサーメット皮膜に変えることができる。しかも、高エネルギー照射処理によって、表面が再溶融して緻密化するので、耐食性と耐摩耗性ならびに皮膜密着性に優れた部材を得ることができる。
その他、本発明によれば、次のような効果も期待できる。
(1)導電性基材の表面に形成した非導電性セラミック溶射皮膜に対して電気亜鉛めっき処理を行うので、溶射皮膜の気孔部のみに、めっき、即ち、めっき析出亜鉛を析出充填することができるので、セラミック材のサーメット化と同時に封孔、緻密化が図れる。
(2)溶射皮膜の内部に立体的に存在するめっき液の侵入可能な貫通気孔・開気孔部や溶射粒子同士の不完全な相互接合部の隙間(空隙)などに、めっき液から析出しためっき亜鉛を充填することができるので、封孔を確実に果すとともに粒子間の相互結合力を向上させることができる。
(3)めっき金属(亜鉛)の析出は、導電性基材の表面側から始まり、時間の経過に伴なって、皮膜の表面方向へ進むという過程を辿るため、溶射皮膜の気孔部や基材と皮膜との境界に存在する隙間などもすべて、基材側から順次に充填封孔されていくので、基材の表面もめっき析出亜鉛による被覆(遮蔽)効果に優れ、基材の耐食性等の特性を向上させる。
(4)亜鉛めっき液は、非導電性セラミック溶射皮膜の中に立体的に存在する空隙部(貫通気孔、開気孔)に侵入し、めっき析出亜鉛を析出してそこの部分を充填していく中で、基材とも電気化学的に結合した状態で付着成長していくので、溶射皮膜全体の基材との密着性を向上させる。
(5)電気亜鉛めっきによるめっき析出亜鉛の析出反応は、基材表面側から始まり、時間の経過に伴なって、溶射皮膜の表面側へ向って順次に起るが、さらに長時間電流を通じると、最終的には皮膜表面に達し、その後、さらに通電するとめっき析出亜鉛は、皮膜表面に沿って成長を続け、外観上は、恰も前記サーメット皮膜の表面に直接電気亜鉛めっきを施したような状態になる。従って、亜鉛めっき製品の製造技術としても適用できる。
(6)めっき液から析出した亜鉛は、金属基材やアンダーコート金属に比較して、卑な電位を有するため、工業用水や海水などの腐食性液体が皮膜内部へ侵入した場合には、基材およびアンダーコートを電気化学的に防食する作用を発揮するので、溶射皮膜の長寿命化に貢献する。
本発明の方法を実施するための工程の流れを示したものである。 本発明方法の一形態を示す電気亜鉛めっき装置の略線図である。 非導電性Al溶射皮膜の表面にまで成長した電気亜鉛めっき処理液の断面ミクロ組織を示した写真である。
以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1は、本発明の方法を実施するための工程の流れを示したものである。以下、この工程順に従って本発明を説明する。
(1)基材の選定
本発明に使用する基材は、導電性(電気伝導性)を有する金属材料が用いられる。例えば、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、ステンレス鋼を含む各種の合金鋼、炭素鋼、Niおよびその合金などが好適である。鋼材の表面に、Ni、Ni−Crなどのめっき膜を形成した基材でもよい。ガラス、石英、プラスチック、セラミック焼結体のように、電気不良導体の基材に対しては、前処理を施した後、無電解めっき、CVD、PVDなどによって、導電性を付与するための金属の薄膜を被覆形成して、基材の表面のみを電気伝導体としたものについても、本発明の基材として使用することができる。
(2)基材表面への溶射皮膜の被覆
前記導電性基材表面に、非導電性セラミック溶射皮膜を形成するに当たっては、JIS H 9302に規定されているセラミック溶射作業標準に準拠して実施することが好ましい。例えば、基材表面のさびや油脂類などを除去した後、Al、SiCなどの研削粒子を吹付けて粗面化し、その表面に直接または金属質の導電性アンダーコートを施工した後に、それらの上に非導電性セラミックの溶射皮膜を形成する。
セラミック溶射皮膜の形成方法としては、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、溶棒式フレーム溶射法あるいは爆発溶射法などが好適に用いられる。
前記の導電性アンダーコートは、前記の各種溶射法に加え、アーク溶射法、フレーム溶射法などを用いることができるので、溶射法の種類については、特に制限はない。
(3)非導電性セラミック溶射材料
本発明において用いられる溶射皮膜形成用の溶射材料は、非導電性の材料であることが必要であり、これが前提条件である。その非導電性の程度は、皮膜を形成した基材をめっき液中に浸漬して通電した際に、皮膜の表面に直接、めっき金属が析出しないこと、例えば、ρ:1×0−5Ωcm程度以上の電気抵抗率を示すことが目安となる。このような基準から、本発明方法への適用が可能になるセラミック溶射皮膜形成用溶射材料の代表的な例を列挙すると下記の通りである。なお、非酸化物系セラミックス粒子についても、大気中や空気(酸素)を含む環境などの溶射熱源中では、粒子の表面に電気抵抗の大きい酸化膜を生成するものであれば、本発明の目的に使用することができる。
(I)酸化物系セラミック:Al、TiO、ZrO、Y、NiO、MgO、Cr、CoO、SiO、Al−TiO、Al−MgO、Al−Y、BaTiO、LaCrO、2MgO−SiOなど
(II)非酸化物系セラミック:TiN、TaN、AlN、BN、Si、NbN,MoSi、TiSi、CrB、ZrB、TaB、CV、TiC、SiC、HfCなど
(III)酸化物−非酸化物系セラミックの混合物および化合物:例えば、SiO−Al、−AlNなど
なお、非酸化物系セラミックのように、酸化物に比較すると電気抵抗値の小さいセラミックを成形する場合には、Alなどをアンダーコート的に施工した後、その上に非酸化物系セラミックを成膜する方法を推奨する。
上記溶射材料の粒径は、5〜100μmの大きさのものがよく、水プラズマ溶射法用粉末を除き、5〜50μmの範囲がより好適である。セラミックを棒状にして用いる溶棒式フレーム溶射法の材料については、棒状として用いて差支えない。
上述した溶射用材料を用いて被覆形成する溶射皮膜の厚さは、50〜5000μmの範囲が好適である。膜厚が50μm未満では、貫通気孔が多くなりすぎる上、被覆の効果が不充分になる。一般に、溶射皮膜の場合、必然的に多くの貫通気孔や開気孔が存在するが、本発明においてこれらの気孔部には、上述した電気めっき処理に際して析出するめっき金属が侵入して充填され、封孔される。一方、膜厚が2000μm、ときには5000μmに達する水プラズマ溶射皮膜では気孔径が大きくなって、粒子間結合力の低下が懸念される。ただし、この場合であっても2000μm、より好ましくは500μm以下であれば、次工程のめっき処理によって析出するめっき金属の充填現象によってこのような弱点も確実に解決することができる。
なお、本発明において、非導電性セラミック溶射皮膜は、少なくとも0.2%以上、好ましくは5%〜20%程度の気孔率を有する溶射皮膜であって、貫通気孔や開気孔、連通気孔を有する多孔質素材であることが有利であり、この気孔率の大きさに比例してサーメット化の程度が決定される。
(4)アンダーコート材料
アンダーコートは、基材と非導電性セラミック溶射皮膜の間にあって、基材に該セラミック溶射皮膜を直接形成するよりも、より高い密着力を発揮させるのに効果がある。とくに、本発明では、このアンダーコートは、次工程の電気めっき処理時において、めっき金属の析出起点ともなる重要な役割を果すものである。具体的には、Ni、Ni−Cr合金、Ni−Al合金およびNi−Cr−Al合金、自溶合金(JIS H 8302)などの導電性の金属・合金が好適に用いられる。なお、アンダーコートの厚さは、10〜150μmの範囲がよく、特に50〜100μmが好適である。
(5)電気亜鉛めっき処理
本発明において、この電気亜鉛めっき処理もまた重要である。この処理によって、前記非導電性セラミック溶射皮膜を、電気めっき析出亜鉛充填形サーメット皮膜に変化させることができると同時に皮膜気孔部の封孔ができ、必要に応じて、該サーメット皮膜の表面をめっき金属(亜鉛)で被覆した状態とすることができる。
即ち、この電気亜鉛めっき処理は、図2に示すように、前記非導電性セラミック溶射皮膜2にて被覆されている導電性基材1を、めっき液中に浸漬し、その基材1を陰極とすると共に、めっき金属3を陽極として直流を通電してめっきする方法である。例えば、めっき亜鉛の析出量は、基本的には通電電気量に略比例するが、本発明において、電流密度は、1A/dm〜30A/dm程度、好ましくは3A/dm〜10A/dm程度の直流電源を用い、温度20℃〜55℃程度の条件を採用することが好ましい。また、表1には、本発明において使用できる代表的なめっき浴組成の例を示す。
なお、めっき時間は、溶射皮膜の厚さ、気孔率によって大きく変化するが、その終点は気孔部の充填を目的とする場合には、上述したように、通電後、基材表面から析出しためっき金属が、皮膜の粒界を充填しつつ成長し、その先端が表面に露出した状態を外部から観察することによって判定する。つまり、この判定時期に相当する状態が気孔部の充填完了の目安となる。
Figure 0005194267
いずれのめっき液中であっても、酸化物系および非酸化物系の非導電性セラミック溶射皮膜自体は、化学的に安定しており溶出することはない。しかも、本発明で用いられるセラミック溶射皮膜は、非導電性であるため、該セラミック溶射皮膜の表面にめっき金属である亜鉛が析出することはないのが普通である。
本発明において、非導電性セラミック溶射皮膜の気孔中に、めっき金属である亜鉛が析出する理由は、セラミック溶射皮膜中の貫通気孔や開気孔、空隙部分からめっき液がそれらの気孔内部に侵入し、これらの気孔を通じて陰極として存在する導電性基材の表面、もしくはアンダーコート表面に順次に達して導通し、下記のような反応を起して、めっき金属を析出する。
めっき液中の金属(Zn)イオン → 陰極面にて電子を放出して金属(Zn)として析出する。
Figure 0005194267
このような電気亜鉛めっき処理において、通電を続けていると、導電性基材表面側の皮膜気孔内にまず、めっき金属である亜鉛が析出し、このようにして析出しためっき析出亜鉛は、基材表面側から、次第に溶射皮膜表面側の気孔に向って順次に析出(成長)しつづけ、セラミック溶射皮膜中の大半の空隙を埋めるように、とくに、めっき液が存在する大半の空隙部(完全な閉気孔を除く)内にめっき析出亜鉛が析出して充填封孔することとなる。該セラミック溶射皮膜の空隙内、即ち、貫通気孔や開気孔等は皮膜の厚さ方向に、立体的(三次元的)に存在しているため、それらのすべてがめっき析出亜鉛によって連続した状態で充填されていく。従って、めっき終了後の該セラミック溶射皮膜は、少なくとも開放気孔についてはめっき析出亜鉛によって完全に充填封孔された状態となると共に、その結果、該非導電性セラミック溶射皮膜の気孔にはめっき析出亜鉛が充填された状態になるから、正しくサーメット皮膜と化する。しかも、このような皮膜は、めっき析出亜鉛が基材と電気化学的作用によって接合しているため、基材との密着性が向上することはもちろん、セラミック粒子間の相互結合力の向上に対しても大きな役割を果して、皮膜全体の強度を向上させることになる。
そして、この処理において、めっき時間を延長すると、セラミック溶射皮膜の内部に存在するほとんど全ての気孔(空隙)が充填封孔され、やがて溶射皮膜の表面に達してここを被覆するまでになる。なお、めっき金属(亜鉛)の析出は、当初は溶射皮膜の基材側の下層部分から、微小な粒子状の亜鉛を析出していく。ただし、貫通気孔のない皮膜表面では、このようなめっき析出亜鉛粒子は確認できないため、本発明によれば、従来の技術では困難であった貫通気孔部の可視化が可能となる。つまり、この現象は、溶射皮膜の貫通気孔部の位置とその分布、程度を判定するための試験方法としても有効である。
以上説明したところからわかるように、実際の溶射皮膜の表面には多数の小さい貫通気孔部や開気孔が存在するため、皮膜の内部から成長して皮膜表面に達するめっき析出亜鉛は、多数の小さいの粒子として観察されるので、さらに通電を続けると、これらのめっき析出亜鉛粒子は、それぞれ成長して金属粒子同士が接合し合って、最終的には、サーメット皮膜の全表面が完全に被覆された状態となり、恰も溶射皮膜の表面にめっき処理を施したような外観を呈するようになる。
なお、電気亜鉛めっき処理によって析出する亜鉛の量は、亜鉛の電気化学当量によって支配されることは周知のとおりである。すなわち、めっき析出亜鉛の析出量(析出速度)は、個々の金属固有の数値を有するものの通電量に比例し、また、同じ通電量であれば通電時間に比例するので、通電量と通電時間を制御することによって、皮膜内部の空隙部への充填量および皮膜表面に被覆形成されて金属量を調整することができる。図3に示す実験の通電条件は、表1記載のA液を用い、温度:50〜60℃、電流密度:2A/dm、24時間で行ったものである。
図3は、導電性ステンレス鋼基材の表面に直接、大気プラズマ溶射法によって、Al溶射皮膜を形成し、次いで、電気亜鉛めっき処理したものの断面ミクロ組織を示したものである。亜鉛めっき液から析出した金属(Zn)は、基材表面側から順次、溶射皮膜を構成しているAl粒子の相互結合が不完全な空隙部、即ち、開気孔や貫通気孔を通って、溶射皮膜表面側へ向って成長し、その一部は、表面に粒子状となって露出している状況が見られる。本発明では、基本的に、このような状態を呈する皮膜をめっき処理の終点(めっき析出亜鉛充填形の亜鉛サーメット皮膜)と考え、次工程である高エネルギー照射処理へ移行する。ただし、用途によっては、めっき終了後、セラミック溶射皮膜の表面を機械加工し、その後、高エネルギー照射処理を実施しても差支えない。
(6)高エネルギー照射処理
この処理は、上述した電気亜鉛めっき処理を終えることによって、めっき析出亜鉛充填形のサーメット皮膜に変化した、その皮膜表面に対して、次に、電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギー照射処理を施して、該サーメット皮膜の表面を溶融し緻密化させる工程である。
(a)電子ビーム照射処理
電気亜鉛めっき処理を終えたサーメット皮膜を、減圧下の不活性ガス雰囲気下で電子ビーム処理を行なう。不活性ガス雰囲気中において皮膜表面を溶融処理する工程であるため、たとえ亜鉛が加熱溶融状態になったとしても、酸化することがない。従って、この高エネルギー照射処理後のサーメット皮膜表面におけるセラミック(Al)と亜鉛(Zn)の状態は、照射前と変化することがなく、ただ皮膜表面近傍のセラミック粒子と亜鉛とが溶融し、相互に融合しつつ、皮膜の表面緻密化状態になるだけである。
なお、電子ビーム照射条件としては、下記のようなものが推奨される。
照射雰囲気:1×10−1〜5×10−3MPaの不活性ガス雰囲気
照射出力:10〜30KeV
照射速度:1〜50mm/s
照射回数:1〜100回(連続または不連続)
(b)レーザビーム照射処理
亜鉛めっき処理したサーメット皮膜の表面に対して、COレーザ、YAGレーザ、半導体レーザ、エキシマレーザなどのレーザ熱源を照射して、該皮膜表面を溶融し、セラミック粒子同士の融合ならびに、めっき析出亜鉛(Zn)との接合化を果しつつ、皮膜表面の貫通気孔の原因となる開気孔部を完全に封孔する。レーザビーム照射処理の雰囲気は、空気中、不活性ガス中、減圧(真空)中など自由に選択できるが、亜鉛めっき金属の酸化を抑制するためには、不活性ガス中で照射することが好ましい。
レーザビーム照射条件としては、下記のようなものが推奨される。
レーザ出力:1〜10kW
ビーム面積:2〜10mm
ビーム走査速度:2〜20mm/s
照射回数:1〜100回(連続または不連続)
上記電子ビームまたはレーザビーム照射による溶融処理によって生成する緻密表面層は、皮膜の表面からの厚さで1〜30μmがよい。1μmより薄い場合は、照射効果、即ち再溶融、再結晶化、緻密化の効果、が十分でない場合があり、また、30μmより厚く処理しても照射効果が飽和するからである。
(7)高エネルギー照射したサーメット皮膜の性状
高エネルギー照射処理した本発明に係るめっき析出亜鉛を含むサーメット皮膜には、以下に示すような特徴がある。
(I)皮膜表面の平滑化
高エネルギー照射によって上記のようにして形成されたサーメット皮膜表面の溶融現象は、セラミック粒子のみならず、めっき液から析出した亜鉛とも相互に融合一体化するため、皮膜表面は平滑化する傾向がある。例えば、後述する実施例の知見によると、大気プラズマ溶射法によって形成したAl皮膜の表面は、最大表面粗さ(Ry)16〜32μmの範囲にあるが、照射後には(Ry)5〜15μm程度に平滑化することが確められている。
(II)皮膜表面の緻密化
一方、前記サーメット皮膜表面のセラミック粒子とめっき液から析出した亜鉛との溶融一体化現象は、皮膜表面の平滑化とともに、開気孔部の消滅化にも効果がある。この際、高エネルギー照射条件によっては、セラミック粒子が溶融状態から冷却・凝固するとき、体積の収縮を伴なうため、皮膜表面に微細な割れが発生することがある。皮膜の内部に貫通気孔が存在すると、割れ部から海水などが内部へ侵入して基材表面に達して腐食し、これが原因で皮膜が早期に剥離するが、本発明では、皮膜内部の空隙部に亜鉛が充填されているため、海水などが内部へ侵入することはない。また、侵入したとしても、亜鉛が基材などを電気化学的に防食するので、腐食の発生は極めて少ない。
なお、セラミック粒子のみの溶射皮膜表面を高エネルギー照射すると、冷却時の割れ発生率が高くなったり、割れが大きく成長するが、めっき液から析出した粒子状の亜鉛が混在するサーメット皮膜表面では、サーメットの構成金属成分である亜鉛が延性を示すので、こうした割れの発生を抑制する優れた効果がある。
(a)めっき析出亜鉛
めっき液から析出した亜鉛は、大小さまざまな樹枝状結晶の集合体となって、電流の流れる方向に発達しつつ、セラミック溶射皮膜の内部の空隙部を埋め(充填)ながら、最終的に皮膜表面側へと成長していく。皮膜の表面に露出するまでに成長した亜鉛もまた同じように結晶状態をしているが、これらの亜鉛を高エネルギー照射して溶融させると、樹枝状結晶が完全に消滅し、方向性のない、熱力学的にも安定した結晶状態に変化する。
酸化物セラミック粒子
ここでは代表的な酸化物セラミック粒子として、AlとYについて説明する。
(b)Al粒子
例えば、プラズマ溶射法で形成されたAl溶射皮膜の結晶型をX線回折すると、溶射前の結晶型に関係なく、γ―Al(立方晶型スピネル)を示すが、高エネルギー照射処理を施すと、大部分がα―Al(三方晶系鋼玉型)に変態し、結晶レベルでは粒子の物理化学的性質は安定する方向へ移行する。
(c)Y粒子
溶射用のY粒子の結晶構造は、正方晶系に属する立方晶のものが多い、この結晶のY粒子をプラズマ溶射すると、プラズマ熱源による急速加熱溶融と、基材表面での急速冷却の熱履歴を受けて、結晶構造が、立方晶(Cubic)の他に、単斜晶(mono clinic)を含む混晶からなる一次変態を行なう。この皮膜を高エネルギー照射処理を行なうと、正方晶系の結晶に二次変態し、前者に比較して安定した状態に移行する。
(実施例1)
この実施例は、表面に溶射皮膜を被覆形成した基材を亜鉛めっき処理することにより得られるサーメット皮膜に対し、高エネルギー照射処理したときの耐食性に及ぼす影響について調査した。
(1)基材
溶射皮膜形成用の基材として、SS400鋼(寸法:幅50mm×長さ50mm×厚さ3.2mm)を用い、その片面に下記の供試皮膜を形成した。
(2)溶射皮膜の種類と溶射法
上記基材表面に、アンダーコートとして、Ni−20Cr合金皮膜をフレーム溶射法によって形成した後、その表面にトップコートとして大気プラズマ溶射法によって、Al溶射皮膜を150μmの厚さに形成した。また、比較試験用の溶射皮膜として、フレーム溶射法によってZnを120μmの厚さに形成したものと、電気めっき法によってZn膜を20μmの厚さに被覆したものを準備した。溶射皮膜については気孔率が6%〜12%のものを用いた。
(3)亜鉛めっき処理
Al溶射皮膜を形成した試験片に対して、表1に示すBめっき液を用いてZnめっき膜を付着させた。めっき処理条件は、3A/dm、温度25℃とした。
(4)高エネルギー照射処理
上記Al溶射皮膜の表面に対して、電子ビームおよびレーザビームを照射して、溶射皮膜表面から5μm深さまでの領域を完全に再溶融させた試験片を作製した。なお、比較用の試験片として高エネルギー照射をしない溶射皮膜も準備した。
(5)腐食試験方法と条件
供試皮膜の耐食性は、JIS Z 2371の塩水噴霧試験を行って評価したが、試験皮膜の外観は、試験開始から100h後、500h後、1000h後ごとに試験片を取り出し、皮膜表面の赤さび発生の有無を記録することにより実施した。
(6)腐食試験結果
腐食試験結果を表2に示した。この結果から明らかなよう、比較例の亜鉛溶射皮膜(厚さ150μm)(No.13)、亜鉛めっき膜(厚さ20μm)(No.14)とも、100h後でも赤さびの発生は認められないが、500h試験後では、膜厚の薄いめっき膜では、皮膜が淡い黒色に変化し、1000h後には赤さびの発生が認められた。また、Zn溶射皮膜でも、1000h後には、亜鉛皮膜の消耗が激しい部分から変色がはじまっていたが、赤さびの発生は見られなかった。
以上の結果は、Znが保有する鉄の陰極防食作用によるものと考えられ、時間の経過に伴なってZnが次第に消耗することも示している。Al溶射皮膜の耐食性は、亜鉛めっき処理を施さない場合(No.1〜3、7〜9)には、腐食試験後500hにおいて、すでに赤さびが発生したり、変色する傾向が見られるが、亜鉛めっき処理をすることによって、(No.4〜6、10〜12)耐食性は大きく改善され、特に高エネルギー照射処理を施すことによって、皮膜表面を再溶融化して貫通気孔部を消滅させた皮膜(No.5、6、11、12)では、1000hの腐食試験によっても赤さびの発生は見られず優れた耐食性を発揮していた。高エネルギー照射処理をしても、亜鉛めっき処理のない溶射皮膜(No.2、3、8、9)では、耐食性を維持する期間が短いことも判明した。この原因は、高エネルギー照射処理して溶射皮膜表面を再溶融しても、溶融後の冷却過程時に発生する小さな割れ部からの塩水の侵入による腐食発生の可能性を示唆するものと考えられる。亜鉛めっき処理は、前記の塩水の皮膜内部への侵入があったとしても、その腐食作用を抑制する効果が大きいものと思われる。
Figure 0005194267
(実施例2)
この実施例では、Al溶射皮膜の耐食性を、亜鉛めっき処理と高エネルギー照射処理の有無との関係で調査した。
基材としてSS400鋼(寸法:幅50mm×長さ50mm×厚さ3.2mm)試験片の片面を、ブラスト処理により粗面化を施した後、その粗面化面に直接、減圧プラズマ溶射および水プラスマ溶射法によって、Al溶射皮膜を形成した。前者の膜厚は80μm、後者は120μmである。その後、これらのAl溶射皮膜に対して、亜鉛めっきと高エネルギー照射処理を施し、これらの処理を施したAlサーメット皮膜の耐食性をJIS Z2371規定の塩水噴霧試験を最長1000h実施し、皮膜表面に発生する赤さびの有無によって、耐食性を判定した。また、比較用の皮膜として、亜鉛めっき処理および高エネルギー照射処理をしないものも、前記塩水噴霧試験に供した。
表3は、以上の耐食性試験結果を要約したものである。この結果から明らかなように、比較例の亜鉛めっき無処理の試験片(No.1〜3、7〜9)では、高エネルギー照射処理の有無に拘らず、赤さびの発生が認められた。すなわち、Al溶射皮膜を高エネルギー照射処理を行なって、表面を再溶融しても、1000hに達する長時間腐食試験では、僅かながら塩水の皮膜内部への侵入があるため、赤さびの発生があったものと考えられる。
これに対して、本発明に適合する処理、即ち、亜鉛めっき処理と高エネルギー照射処理(電子ビームEB、レーザビーム)を施した皮膜(No.5、6、11、12)では、全く赤さびの発生は認められず、極めて優れた耐食性を発揮した。この結果は、高エネルギー照射処理面に、たとえ、微細な割れが存在しており、塩水が皮膜内部へ侵入したとしても、溶射皮膜の空隙部を充填した亜鉛の電気化学的防食作用によって、基材の腐食がほぼ完全に抑制されていることを物語っている。本発明の効果は、実施例1の大気プラズマ溶射皮膜のみならず、気孔率の低い減圧プラズマ溶射皮膜および気孔率の高い水プラズマ溶射皮膜に対しても同等に得られることが確認された。
Figure 0005194267
(実施例3)
この実施例では、本発明に従い電気亜鉛めっき処理して得たサーメット皮膜の表面を高エネルギー照射したものの耐摩耗性を調査した。
供試基材として、SUS410鋼(寸法:50mm×50mm×3.2mm厚さ)を用い、粗面化処理後のその片面に、大気プラズマ溶射法によって、Al、YAG(Al−Y化合物)皮膜を100mmの厚さに被覆した。その後、これらの溶射皮膜に亜鉛めっき処理を行い、さらに電子ビーム照射を行なった。
皮膜の摩耗試験は、JIS H 8503に規定されている。めっきの耐摩耗試験方法に準じた往復運動摩耗試験方法を適用した。試験条件は、荷重3.5N、往復速度40回/分を10回(計400回)行なった。なお、摩耗試験紙としてCC320、摩耗面積は30×12mmであった。また、評価は、試験前後における試験片の重量差から摩耗量を求めて比較した。
本発明においては、比較用の皮膜として防食溶射皮膜用Al(JIS H 8661)と、亜鉛めっき処理や高エネルギー照射処理を施さないAl、YAG皮膜を同条件で試験した。
試験結果を表4に要約した。この結果から明らかなように、比較例の防食用Al皮膜(No.9)は軟質であるため、大きな摩耗量を発生し、耐食性は有するものの耐摩耗性に乏しいことを示している。これに対し、亜鉛めっき処理の有無に拘らず、Al、YAGなどのセラミック溶射皮膜の摩耗量は少ない。特に、皮膜の表面を高エネルギー照射処理した皮膜の摩耗量は一段と少なくっていおり、優れた耐摩耗性を発揮していることがわかる。これらの特性は、亜鉛めっき処理の有無の関係のないことから、本発明に係る亜鉛めっき処理後に高エネルギー照射処理して得たサーメット皮膜は、電気亜鉛めっき処理の影響を受けることがなく、この皮膜特有の耐摩耗性を発揮することがうかがえる。
Figure 0005194267
この発明に係る技術は、海水、水道水、工業用水、雨水などの送供給配管用部材をはじめ、各種のポンプ、バルブ類の防食用皮膜として、また、セラミック溶射皮膜の特性を利用した耐摩耗性皮膜として利用可能性が大きい。また、電気めっき液を非水液の有機溶媒とすることによって、水溶液めっきでは不可能なAl、Tiなどの防食金属の析出もできるので、その用途は頗る大きい。
1 導電性基材
2 非導電性セラミック溶射皮膜
3 めっき金属
4 直流電源

Claims (16)

  1. 導電性基材の表面に、多孔質非導電性セラミック溶射皮膜を被覆形成し、次いで、その多孔質非導電性セラミック溶射皮膜を被覆した基材を電気亜鉛めっき液中に浸漬し、該セラミック溶射皮膜被覆基材を陰極として直流の電気めっき処理を行うことによって、該非導電性セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部の貫通気孔中に侵入させた亜鉛めっき液からめっき亜鉛を析出させ、該開気孔及び貫通気孔をめっき析出亜鉛によって充填封孔した状態にすると共に、当該非導電性セラミック溶射皮膜をサーメット化させて、めっき析出亜鉛充填形サーメット皮膜に変え、次いで、このサーメット皮膜の表面を、電子ビームまたはレーザビームである高エネルギー照射処理して、皮膜表面を再溶融して緻密層を生成させることを特徴とする緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
  2. 前記多孔質非導電性セラミック溶射皮膜は、貫通気孔と開気孔を含む気孔率0.2%〜30%の皮膜であることを特徴とする請求項1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
  3. 前記導電性基材と多孔質非導電性セラミック溶射皮膜との間に、必要に応じて導電性金属のアンダーコートを設けることを特徴とする請求項1または2に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
  4. 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、酸化物系セラミック、非酸化物系セラミックおよびそれらの混合物のうちから選ばれる1種以上の非導電性セラミックスを用いて形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
  5. 前記導電性基材は、金属か非導電性基材の表面に導電性金属膜を被覆したもののいずれかを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
  6. 前記導電性基材の表面に施工するアンダーコートは、Al、Al−Ni、Al−Zn、Ni−Cr、Ni−Cr−AlおよびFe−Crおよび自溶合金などから選ばれる1種以上の金属または合金を用いることを特徴とする請求項3に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
  7. 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、溶棒式フレーム溶射法、および爆発溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
  8. 前記アンダーコートは、アーク溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法およびプラズマ溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成することを特徴とする請求項3〜7のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
  9. 前記非導電性セラミック溶射皮膜の厚さは、50〜5000μm、前記アンダーコートの厚さが10〜150μであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
  10. 前記高エネルギー照射処理によって形成される緻密表面層は、表面から1〜30μmの厚さを有するものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
  11. 請求項1〜10のいずれか1に記載の方法によって形成されるものであって、導電性基材と、その表面に被覆形成された多孔質非導電性セラミック溶射皮膜の貫通気孔中に、電気亜鉛めっき処理時に析出するめっき析出亜鉛が充填封孔されて得られた導電性のめっき析出亜鉛充填形サーメット皮膜とからなり、かつこのサーメット皮膜の表面には、高エネルギー照射処理して得られる再溶融した緻密表面層が形成されていることを特徴とする緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材。
  12. 前記導電性基材と多孔質非導電性セラミック溶射皮膜との間に必要に応じて導電性金属のアンダーコートを設けることを特徴とする請求項11に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材。
  13. 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、酸化物系セラミック、非酸化物系セラミックおよびそれらの混合物のうちから選ばれる1種以上の非導電性セラミックスを用いることを特徴とする請求項11または12に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材。
  14. 前記導電性基材は、金属か非導電性基材の表面に導電性金属膜を被覆したもののいずれかを用いることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材。
  15. 前記導電性基材の表面に施工するアンダーコートは、Al、Al−Ni、Al−Zn、Ni−Cr、Ni−Cr−AlおよびFe−Crおよび自溶合金などから選ばれる1種以上の金属または合金を用いることを特徴とする請求項12に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材。
  16. 前記非導電性セラミック溶射皮膜の厚さは、50〜5000μm、前記アンダーコートの厚さは10〜150μm、緻密表面層は表面からの厚さが1〜30μmであることを特徴とする請求項11〜15のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材。
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