JP5194267B2 - 緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 - Google Patents
緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 Download PDFInfo
- Publication number
- JP5194267B2 JP5194267B2 JP2010204499A JP2010204499A JP5194267B2 JP 5194267 B2 JP5194267 B2 JP 5194267B2 JP 2010204499 A JP2010204499 A JP 2010204499A JP 2010204499 A JP2010204499 A JP 2010204499A JP 5194267 B2 JP5194267 B2 JP 5194267B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- film
- coating
- cermet
- conductive
- surface layer
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Fee Related
Links
Images
Landscapes
- Other Surface Treatments For Metallic Materials (AREA)
- Coating By Spraying Or Casting (AREA)
Description
(1)特許文献4〜6には、耐食性を有するシリコーン、エチルシリケートなどの珪素化合物、合成樹脂などの有機高分子材料を用いて封孔する方法が開示されている。
(2)特許文献7、8には、金属アルコキシドや金属酸化物粒子などの非金属化合物を含む電解液中に溶射皮膜を浸漬した後、これを電解し、電気泳動法の原理を利用して皮膜の表面や気孔中に溶質成分や酸化物粒子を充填した後、これを加熱焼成する方法が開示されている。
(3)特許文献9には、可視光線によって硬化する有機高分子剤を溶射皮膜の表面に塗布し、気孔内を充填して封孔するとともに、自然光によって硬化させる技術が開示されている。
(4)また、発明者らも特許文献10において、溶射皮膜の表面を電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギーを照射した後、その表面に炭素と水素を主成分とするアモルファス状膜を被覆形成させる方法を提案した。
(5)特許文献11には、溶射皮膜の表面に対して、電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギー照射を行なって、表面近傍の溶射粒子を溶融させて気孔を熱的に消滅させる技術の提案もある。
(1)珪素化合物などの無機系封孔剤による溶射皮膜の封孔技術は、比較的大きい開口部をもつ気孔をもつものに限定される他、アルカリ性水溶液中では珪素化合物が溶出するため、用途が限られるという欠点がある。
(2)有機高分子系封孔剤を用いる技術は、酸、アルカリなどには優れた耐食性を発揮するものの、温度の影響を受けやすいという欠点がある。例えば、一般の高分子系の封孔剤では150〜180℃で軟化したり、また分解がはじまり、200℃以上の温度では長時間の使用に耐えることができない。
(3)電気泳動現象を利用する封孔技術は、電気泳動作用が及ばない微細な気孔中には、電解液のみが侵入し、酸化物微粒子の大部分は皮膜の表面に滞留するために、完全な封孔処理ができない。また、酸化物微粒子自体には防食効果はなく、さらに金属アルコキシド自体は防食作用が十分でないうえ経時変化して、その機能を消失するという欠点がある。
(4)溶射皮膜の表面を電子ビームおよびレーザビームなどの高エネルギー照射処理によって溶融して封孔する技術は、溶融した溶射皮膜が凝固する際に体積収縮を起こして微細な割れを発生することがあり、完全な封孔技術になり得ない。
(5)溶射皮膜の表面に、炭素と水素を主成分とするアモルファス状膜を被覆する方法は、酸、アルカリなどに耐える効果はあるものの、450℃以上の温度ではアモルファス状膜が分解するため、高温環境への適用に問題がある。
(6)なお、その他、従来技術において、珪素系薬剤や高分子系封孔剤を利用する技術がある。これらの封孔剤は、表面張力および粘度が大きいため、微小な開気孔部への侵入が難しく、入口付近に留まっているため、完全な封孔処理ができない。しかも、封孔剤は、乾燥時に水分(浴剤)が揮発して体積が収縮するため充填部に隙間を発生させる。
(7)また、電気泳動法で封孔した金属アルコキシドや酸化物微粒子の充填部でも、加熱焼成に伴う水分の蒸発、体積の収縮は避けられず、加熱焼成工程の必須化によるエネルギー損失および生産コストの増加がある。
(8)なお、電気泳動法による封孔処理には、塩酸、硫酸などの危険な薬剤の使用を必要とするほか、酸化物として有害なPbOを使用が不可避であるという欠点がある。
(9)さらに、これらの電気泳動法をはじめ封孔剤による封孔処理技術には、共通の課題として、封孔剤が開気孔部の入口付近に留まり、気孔の内部まで侵入せず、溶射皮膜と基材との密着性向上および皮膜を構成する溶射粒子の相互結合力を強化することができない。何よりも、この技術は、サーメット皮膜形成の方法を提案するものではない。
(1)この発明において、特徴的な第1の構成は、まず、導電性基材の表面に、直接またはアンダーコートを介して、非導電性セラミックの多孔質溶射皮膜を被覆形成することであり、次いで、その非導電性セラミック溶射皮膜を被覆してなる基材を、電気亜鉛めっき液中に浸漬し、導電性基材の方を陰極として直流通電し、該セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部にある気孔中にまで亜鉛めっき液を万遍なく侵入させ、かつ亜鉛を基材表面側から順次に析出させて、該溶射皮膜の気孔中に分散している気孔中にめっき析出亜鉛が充填された状態を導くことで、サーメット皮膜に変化させることにある。
(2)この発明において、特徴的な第2の構成は、前記サーメット皮膜、即ち、めっき析出亜鉛充填形サーメット皮膜の表面を、電子ビームまたはレーザビームである高エネルギー照射処理して、皮膜表面を再溶融して緻密化させることにより、緻密表面層をもつサーメット皮膜にして、より確実に封孔することである。
(3)この場合の電気亜鉛めっき処理において、めっき金属である亜鉛の析出は、非導電性セラミック溶射皮膜表面では起らず導電性をもつ基材表面(または導電性アンダーコートの表面)の側を起点として、析出した亜鉛が溶射皮膜の表面に向けて順次に皮膜内部に存在する粒子間に生成している隙間を選びつつ成長する。従って、溶射皮膜のサーメット化は下層から上層に向い、より長時間のめっき処理によって、やがて皮膜表面にも亜鉛めっき層を生成して、恰もめっき処理したようにすることもできる。
(4)一般に、めっき液からの亜鉛の析出反応、つまりめっき反応は、非導電性(非電気伝導性)のセラミック溶射皮膜を対象とする場合には起こらない(析出しない)。しかし、本願発明のように、貫通気孔を有する多孔質の非導電性セラミック溶射皮膜の下に金属などの導電性基材があるような場合には、その貫通気孔を介してめっき液が基材にまで達して電気的に導通することで、電気めっきが可能になる。即ち、電気めっき処理した場合、非導電性セラミック溶射皮膜が貫通気孔を有する多孔質素材でさえあれば、空隙部(貫通気孔および開気孔)、とくに溶射粒子の未接合部などの厚み方向に貫通する空隙(貫通気孔)を通ってめっき液が侵入して基材表面に達し、ここで、めっき液から金属が析出し、この金属も負に帯電しているため、その表面にも引き続き、めっき液から金属が析出し続けるため、やがて、めっき金属が気孔内に成長析出し、これが溶射皮膜全体の気孔に拡大していくので、結果的に、非導電性セラミック溶射皮膜内部に分散して存在している気孔がめっき金属によって充填され、やがてセラミック層はサーメット層に変化することになる。
(5)上述した説明からわかるように、めっき液からの亜鉛の析出反応とその成長は、溶射皮膜の内部、それも基材(またはアンダーコート)側から順次に始まり、溶射皮膜表面側に向って進み、最終的には、皮膜の表面にまで達することとなる。そして、上述したように、めっき処理時間を長くすると、該非導電性セラミック溶射皮膜の表面を完全に被覆するまでになり、該非導電性セラミック溶射皮膜がサーメット化して導電性皮膜になる。
(1)前記多孔質非導電性セラミック溶射皮膜は、貫通気孔と開気孔を含む気孔率0.2%〜30%の皮膜であること。
(2)前記導電性基材と多孔質非導電性セラミック溶射皮膜との間に、必要に応じて導電性金属のアンダーコートを設けること。
(3)前記非導電性セラミック溶射皮膜は、酸化物系セラミック、非酸化物系セラミックおよびそれらの混合物のうちから選ばれる1種以上の非導電性セラミックスを用いて形成すること。
(4)前記導電性基材は、金属か非導電性基材の表面に導電性金属膜を被覆したもののいずれかを用いること。
(5)前記導電性基材の表面に施工するアンダーコートは、Al、Al−Ni、Al−Zn、Ni−Cr、Ni−Cr−AlおよびFe−Crおよび自溶合金などから選ばれる1種以上の金属または合金を用いること。
(6)前記非導電性セラミック溶射皮膜は、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、溶棒式フレーム溶射法、および爆発溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成されること。
(8)前記アンダーコートは、アーク溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法およびプラズマ溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成すること。
(9)前記非導電性セラミック溶射皮膜は、50〜5000μmの厚さにすること。
(10)前記基材の表面に形成されるアンダーコートは、10〜150μmの厚さにすること。
(11)前記高エネルギー照射処理によって形成される緻密表面層は、表面からの厚さが1〜30μmの範囲にあること。
(1)導電性基材の表面に形成した非導電性セラミック溶射皮膜に対して電気亜鉛めっき処理を行うので、溶射皮膜の気孔部のみに、めっき、即ち、めっき析出亜鉛を析出充填することができるので、セラミック材のサーメット化と同時に封孔、緻密化が図れる。
(2)溶射皮膜の内部に立体的に存在するめっき液の侵入可能な貫通気孔・開気孔部や溶射粒子同士の不完全な相互接合部の隙間(空隙)などに、めっき液から析出しためっき亜鉛を充填することができるので、封孔を確実に果すとともに粒子間の相互結合力を向上させることができる。
(3)めっき金属(亜鉛)の析出は、導電性基材の表面側から始まり、時間の経過に伴なって、皮膜の表面方向へ進むという過程を辿るため、溶射皮膜の気孔部や基材と皮膜との境界に存在する隙間などもすべて、基材側から順次に充填封孔されていくので、基材の表面もめっき析出亜鉛による被覆(遮蔽)効果に優れ、基材の耐食性等の特性を向上させる。
(4)亜鉛めっき液は、非導電性セラミック溶射皮膜の中に立体的に存在する空隙部(貫通気孔、開気孔)に侵入し、めっき析出亜鉛を析出してそこの部分を充填していく中で、基材とも電気化学的に結合した状態で付着成長していくので、溶射皮膜全体の基材との密着性を向上させる。
(5)電気亜鉛めっきによるめっき析出亜鉛の析出反応は、基材表面側から始まり、時間の経過に伴なって、溶射皮膜の表面側へ向って順次に起るが、さらに長時間電流を通じると、最終的には皮膜表面に達し、その後、さらに通電するとめっき析出亜鉛は、皮膜表面に沿って成長を続け、外観上は、恰も前記サーメット皮膜の表面に直接電気亜鉛めっきを施したような状態になる。従って、亜鉛めっき製品の製造技術としても適用できる。
(6)めっき液から析出した亜鉛は、金属基材やアンダーコート金属に比較して、卑な電位を有するため、工業用水や海水などの腐食性液体が皮膜内部へ侵入した場合には、基材およびアンダーコートを電気化学的に防食する作用を発揮するので、溶射皮膜の長寿命化に貢献する。
(1)基材の選定
本発明に使用する基材は、導電性(電気伝導性)を有する金属材料が用いられる。例えば、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、ステンレス鋼を含む各種の合金鋼、炭素鋼、Niおよびその合金などが好適である。鋼材の表面に、Ni、Ni−Crなどのめっき膜を形成した基材でもよい。ガラス、石英、プラスチック、セラミック焼結体のように、電気不良導体の基材に対しては、前処理を施した後、無電解めっき、CVD、PVDなどによって、導電性を付与するための金属の薄膜を被覆形成して、基材の表面のみを電気伝導体としたものについても、本発明の基材として使用することができる。
前記導電性基材表面に、非導電性セラミック溶射皮膜を形成するに当たっては、JIS H 9302に規定されているセラミック溶射作業標準に準拠して実施することが好ましい。例えば、基材表面のさびや油脂類などを除去した後、Al2O3、SiCなどの研削粒子を吹付けて粗面化し、その表面に直接または金属質の導電性アンダーコートを施工した後に、それらの上に非導電性セラミックの溶射皮膜を形成する。
本発明において用いられる溶射皮膜形成用の溶射材料は、非導電性の材料であることが必要であり、これが前提条件である。その非導電性の程度は、皮膜を形成した基材をめっき液中に浸漬して通電した際に、皮膜の表面に直接、めっき金属が析出しないこと、例えば、ρ:1×0−5Ωcm程度以上の電気抵抗率を示すことが目安となる。このような基準から、本発明方法への適用が可能になるセラミック溶射皮膜形成用溶射材料の代表的な例を列挙すると下記の通りである。なお、非酸化物系セラミックス粒子についても、大気中や空気(酸素)を含む環境などの溶射熱源中では、粒子の表面に電気抵抗の大きい酸化膜を生成するものであれば、本発明の目的に使用することができる。
(II)非酸化物系セラミック:TiN、TaN、AlN、BN、Si3N4、NbN,MoSi2、TiSi2、CrB2、ZrB2、TaB、CV、TiC、SiC、HfCなど
(III)酸化物−非酸化物系セラミックの混合物および化合物:例えば、SiO2−Al2O3、−AlNなど
なお、非酸化物系セラミックのように、酸化物に比較すると電気抵抗値の小さいセラミックを成形する場合には、Al2O3などをアンダーコート的に施工した後、その上に非酸化物系セラミックを成膜する方法を推奨する。
アンダーコートは、基材と非導電性セラミック溶射皮膜の間にあって、基材に該セラミック溶射皮膜を直接形成するよりも、より高い密着力を発揮させるのに効果がある。とくに、本発明では、このアンダーコートは、次工程の電気めっき処理時において、めっき金属の析出起点ともなる重要な役割を果すものである。具体的には、Ni、Ni−Cr合金、Ni−Al合金およびNi−Cr−Al合金、自溶合金(JIS H 8302)などの導電性の金属・合金が好適に用いられる。なお、アンダーコートの厚さは、10〜150μmの範囲がよく、特に50〜100μmが好適である。
本発明において、この電気亜鉛めっき処理もまた重要である。この処理によって、前記非導電性セラミック溶射皮膜を、電気めっき析出亜鉛充填形サーメット皮膜に変化させることができると同時に皮膜気孔部の封孔ができ、必要に応じて、該サーメット皮膜の表面をめっき金属(亜鉛)で被覆した状態とすることができる。
なお、めっき時間は、溶射皮膜の厚さ、気孔率によって大きく変化するが、その終点は気孔部の充填を目的とする場合には、上述したように、通電後、基材表面から析出しためっき金属が、皮膜の粒界を充填しつつ成長し、その先端が表面に露出した状態を外部から観察することによって判定する。つまり、この判定時期に相当する状態が気孔部の充填完了の目安となる。
この処理は、上述した電気亜鉛めっき処理を終えることによって、めっき析出亜鉛充填形のサーメット皮膜に変化した、その皮膜表面に対して、次に、電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギー照射処理を施して、該サーメット皮膜の表面を溶融し緻密化させる工程である。
(a)電子ビーム照射処理
電気亜鉛めっき処理を終えたサーメット皮膜を、減圧下の不活性ガス雰囲気下で電子ビーム処理を行なう。不活性ガス雰囲気中において皮膜表面を溶融処理する工程であるため、たとえ亜鉛が加熱溶融状態になったとしても、酸化することがない。従って、この高エネルギー照射処理後のサーメット皮膜表面におけるセラミック(Al2O3)と亜鉛(Zn)の状態は、照射前と変化することがなく、ただ皮膜表面近傍のセラミック粒子と亜鉛とが溶融し、相互に融合しつつ、皮膜の表面緻密化状態になるだけである。
照射雰囲気:1×10−1〜5×10−3MPaの不活性ガス雰囲気
照射出力:10〜30KeV
照射速度:1〜50mm/s
照射回数:1〜100回(連続または不連続)
亜鉛めっき処理したサーメット皮膜の表面に対して、CO2レーザ、YAGレーザ、半導体レーザ、エキシマレーザなどのレーザ熱源を照射して、該皮膜表面を溶融し、セラミック粒子同士の融合ならびに、めっき析出亜鉛(Zn)との接合化を果しつつ、皮膜表面の貫通気孔の原因となる開気孔部を完全に封孔する。レーザビーム照射処理の雰囲気は、空気中、不活性ガス中、減圧(真空)中など自由に選択できるが、亜鉛めっき金属の酸化を抑制するためには、不活性ガス中で照射することが好ましい。
レーザ出力:1〜10kW
ビーム面積:2〜10mm2
ビーム走査速度:2〜20mm/s
照射回数:1〜100回(連続または不連続)
高エネルギー照射処理した本発明に係るめっき析出亜鉛を含むサーメット皮膜には、以下に示すような特徴がある。
(I)皮膜表面の平滑化
高エネルギー照射によって上記のようにして形成されたサーメット皮膜表面の溶融現象は、セラミック粒子のみならず、めっき液から析出した亜鉛とも相互に融合一体化するため、皮膜表面は平滑化する傾向がある。例えば、後述する実施例の知見によると、大気プラズマ溶射法によって形成したAl2O3皮膜の表面は、最大表面粗さ(Ry)16〜32μmの範囲にあるが、照射後には(Ry)5〜15μm程度に平滑化することが確められている。
一方、前記サーメット皮膜表面のセラミック粒子とめっき液から析出した亜鉛との溶融一体化現象は、皮膜表面の平滑化とともに、開気孔部の消滅化にも効果がある。この際、高エネルギー照射条件によっては、セラミック粒子が溶融状態から冷却・凝固するとき、体積の収縮を伴なうため、皮膜表面に微細な割れが発生することがある。皮膜の内部に貫通気孔が存在すると、割れ部から海水などが内部へ侵入して基材表面に達して腐食し、これが原因で皮膜が早期に剥離するが、本発明では、皮膜内部の空隙部に亜鉛が充填されているため、海水などが内部へ侵入することはない。また、侵入したとしても、亜鉛が基材などを電気化学的に防食するので、腐食の発生は極めて少ない。
なお、セラミック粒子のみの溶射皮膜表面を高エネルギー照射すると、冷却時の割れ発生率が高くなったり、割れが大きく成長するが、めっき液から析出した粒子状の亜鉛が混在するサーメット皮膜表面では、サーメットの構成金属成分である亜鉛が延性を示すので、こうした割れの発生を抑制する優れた効果がある。
めっき液から析出した亜鉛は、大小さまざまな樹枝状結晶の集合体となって、電流の流れる方向に発達しつつ、セラミック溶射皮膜の内部の空隙部を埋め(充填)ながら、最終的に皮膜表面側へと成長していく。皮膜の表面に露出するまでに成長した亜鉛もまた同じように結晶状態をしているが、これらの亜鉛を高エネルギー照射して溶融させると、樹枝状結晶が完全に消滅し、方向性のない、熱力学的にも安定した結晶状態に変化する。
ここでは代表的な酸化物セラミック粒子として、Al2O3とY2O3について説明する。
(b)Al2O3粒子
例えば、プラズマ溶射法で形成されたAl2O3溶射皮膜の結晶型をX線回折すると、溶射前の結晶型に関係なく、γ―Al2O3(立方晶型スピネル)を示すが、高エネルギー照射処理を施すと、大部分がα―Al2O3(三方晶系鋼玉型)に変態し、結晶レベルでは粒子の物理化学的性質は安定する方向へ移行する。
(c)Y2O3粒子
溶射用のY2O3粒子の結晶構造は、正方晶系に属する立方晶のものが多い、この結晶のY2O3粒子をプラズマ溶射すると、プラズマ熱源による急速加熱溶融と、基材表面での急速冷却の熱履歴を受けて、結晶構造が、立方晶(Cubic)の他に、単斜晶(mono clinic)を含む混晶からなる一次変態を行なう。この皮膜を高エネルギー照射処理を行なうと、正方晶系の結晶に二次変態し、前者に比較して安定した状態に移行する。
この実施例は、表面に溶射皮膜を被覆形成した基材を亜鉛めっき処理することにより得られるサーメット皮膜に対し、高エネルギー照射処理したときの耐食性に及ぼす影響について調査した。
(1)基材
溶射皮膜形成用の基材として、SS400鋼(寸法:幅50mm×長さ50mm×厚さ3.2mm)を用い、その片面に下記の供試皮膜を形成した。
上記基材表面に、アンダーコートとして、Ni−20Cr合金皮膜をフレーム溶射法によって形成した後、その表面にトップコートとして大気プラズマ溶射法によって、Al2O3溶射皮膜を150μmの厚さに形成した。また、比較試験用の溶射皮膜として、フレーム溶射法によってZnを120μmの厚さに形成したものと、電気めっき法によってZn膜を20μmの厚さに被覆したものを準備した。溶射皮膜については気孔率が6%〜12%のものを用いた。
Al2O3溶射皮膜を形成した試験片に対して、表1に示すBめっき液を用いてZnめっき膜を付着させた。めっき処理条件は、3A/dm2、温度25℃とした。
上記Al2O3溶射皮膜の表面に対して、電子ビームおよびレーザビームを照射して、溶射皮膜表面から5μm深さまでの領域を完全に再溶融させた試験片を作製した。なお、比較用の試験片として高エネルギー照射をしない溶射皮膜も準備した。
供試皮膜の耐食性は、JIS Z 2371の塩水噴霧試験を行って評価したが、試験皮膜の外観は、試験開始から100h後、500h後、1000h後ごとに試験片を取り出し、皮膜表面の赤さび発生の有無を記録することにより実施した。
腐食試験結果を表2に示した。この結果から明らかなよう、比較例の亜鉛溶射皮膜(厚さ150μm)(No.13)、亜鉛めっき膜(厚さ20μm)(No.14)とも、100h後でも赤さびの発生は認められないが、500h試験後では、膜厚の薄いめっき膜では、皮膜が淡い黒色に変化し、1000h後には赤さびの発生が認められた。また、Zn溶射皮膜でも、1000h後には、亜鉛皮膜の消耗が激しい部分から変色がはじまっていたが、赤さびの発生は見られなかった。
この実施例では、Al2O3溶射皮膜の耐食性を、亜鉛めっき処理と高エネルギー照射処理の有無との関係で調査した。
基材としてSS400鋼(寸法:幅50mm×長さ50mm×厚さ3.2mm)試験片の片面を、ブラスト処理により粗面化を施した後、その粗面化面に直接、減圧プラズマ溶射および水プラスマ溶射法によって、Al2O3溶射皮膜を形成した。前者の膜厚は80μm、後者は120μmである。その後、これらのAl2O3溶射皮膜に対して、亜鉛めっきと高エネルギー照射処理を施し、これらの処理を施したAl2O3サーメット皮膜の耐食性をJIS Z2371規定の塩水噴霧試験を最長1000h実施し、皮膜表面に発生する赤さびの有無によって、耐食性を判定した。また、比較用の皮膜として、亜鉛めっき処理および高エネルギー照射処理をしないものも、前記塩水噴霧試験に供した。
この実施例では、本発明に従い電気亜鉛めっき処理して得たサーメット皮膜の表面を高エネルギー照射したものの耐摩耗性を調査した。
供試基材として、SUS410鋼(寸法:50mm×50mm×3.2mm厚さ)を用い、粗面化処理後のその片面に、大気プラズマ溶射法によって、Al2O3、YAG(Al2O3−Y2O3化合物)皮膜を100mmの厚さに被覆した。その後、これらの溶射皮膜に亜鉛めっき処理を行い、さらに電子ビーム照射を行なった。
2 非導電性セラミック溶射皮膜
3 めっき金属
4 直流電源
Claims (16)
- 導電性基材の表面に、多孔質非導電性セラミック溶射皮膜を被覆形成し、次いで、その多孔質非導電性セラミック溶射皮膜を被覆した基材を電気亜鉛めっき液中に浸漬し、該セラミック溶射皮膜被覆基材を陰極として直流の電気めっき処理を行うことによって、該非導電性セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部の貫通気孔中に侵入させた亜鉛めっき液からめっき亜鉛を析出させ、該開気孔及び貫通気孔をめっき析出亜鉛によって充填封孔した状態にすると共に、当該非導電性セラミック溶射皮膜をサーメット化させて、めっき析出亜鉛充填形サーメット皮膜に変え、次いで、このサーメット皮膜の表面を、電子ビームまたはレーザビームである高エネルギー照射処理して、皮膜表面を再溶融して緻密層を生成させることを特徴とする緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
- 前記多孔質非導電性セラミック溶射皮膜は、貫通気孔と開気孔を含む気孔率0.2%〜30%の皮膜であることを特徴とする請求項1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
- 前記導電性基材と多孔質非導電性セラミック溶射皮膜との間に、必要に応じて導電性金属のアンダーコートを設けることを特徴とする請求項1または2に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
- 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、酸化物系セラミック、非酸化物系セラミックおよびそれらの混合物のうちから選ばれる1種以上の非導電性セラミックスを用いて形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
- 前記導電性基材は、金属か非導電性基材の表面に導電性金属膜を被覆したもののいずれかを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
- 前記導電性基材の表面に施工するアンダーコートは、Al、Al−Ni、Al−Zn、Ni−Cr、Ni−Cr−AlおよびFe−Crおよび自溶合金などから選ばれる1種以上の金属または合金を用いることを特徴とする請求項3に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
- 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、溶棒式フレーム溶射法、および爆発溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
- 前記アンダーコートは、アーク溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法およびプラズマ溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成することを特徴とする請求項3〜7のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
- 前記非導電性セラミック溶射皮膜の厚さは、50〜5000μm、前記アンダーコートの厚さが10〜150μであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
- 前記高エネルギー照射処理によって形成される緻密表面層は、表面から1〜30μmの厚さを有するものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法。
- 請求項1〜10のいずれか1に記載の方法によって形成されるものであって、導電性基材と、その表面に被覆形成された多孔質非導電性セラミック溶射皮膜の貫通気孔中に、電気亜鉛めっき処理時に析出するめっき析出亜鉛が充填封孔されて得られた導電性のめっき析出亜鉛充填形サーメット皮膜とからなり、かつこのサーメット皮膜の表面には、高エネルギー照射処理して得られる再溶融した緻密表面層が形成されていることを特徴とする緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材。
- 前記導電性基材と多孔質非導電性セラミック溶射皮膜との間に必要に応じて導電性金属のアンダーコートを設けることを特徴とする請求項11に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材。
- 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、酸化物系セラミック、非酸化物系セラミックおよびそれらの混合物のうちから選ばれる1種以上の非導電性セラミックスを用いることを特徴とする請求項11または12に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材。
- 前記導電性基材は、金属か非導電性基材の表面に導電性金属膜を被覆したもののいずれかを用いることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材。
- 前記導電性基材の表面に施工するアンダーコートは、Al、Al−Ni、Al−Zn、Ni−Cr、Ni−Cr−AlおよびFe−Crおよび自溶合金などから選ばれる1種以上の金属または合金を用いることを特徴とする請求項12に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材。
- 前記非導電性セラミック溶射皮膜の厚さは、50〜5000μm、前記アンダーコートの厚さは10〜150μm、緻密表面層は表面からの厚さが1〜30μmであることを特徴とする請求項11〜15のいずれか1に記載の緻密表面層をもつサーメット皮膜被覆部材。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2010204499A JP5194267B2 (ja) | 2010-09-13 | 2010-09-13 | 緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2010204499A JP5194267B2 (ja) | 2010-09-13 | 2010-09-13 | 緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2012057240A JP2012057240A (ja) | 2012-03-22 |
JP5194267B2 true JP5194267B2 (ja) | 2013-05-08 |
Family
ID=46054683
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2010204499A Expired - Fee Related JP5194267B2 (ja) | 2010-09-13 | 2010-09-13 | 緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP5194267B2 (ja) |
Families Citing this family (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP5629898B2 (ja) * | 2010-09-13 | 2014-11-26 | トーカロ株式会社 | 耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 |
JP2016222979A (ja) * | 2015-06-01 | 2016-12-28 | 悦三 吉野 | 遮熱断熱材及びその製造方法、並びに遮熱断熱皮膜及びその形成方法 |
Family Cites Families (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPS61104062A (ja) * | 1984-10-23 | 1986-05-22 | Tsukishima Kikai Co Ltd | 金属またはセラミツク溶射被膜の封孔処理方法 |
JPH02236264A (ja) * | 1989-03-09 | 1990-09-19 | Tocalo Co Ltd | 防音・防振部材 |
-
2010
- 2010-09-13 JP JP2010204499A patent/JP5194267B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2012057240A (ja) | 2012-03-22 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
Hakimizad et al. | The effect of pulse waveforms on surface morphology, composition and corrosion behavior of Al2O3 and Al2O3/TiO2 nano-composite PEO coatings on 7075 aluminum alloy | |
CN103590008B (zh) | 一种在TiAl合金和MCrAlY涂层间制备Al2O3扩散障的方法 | |
AU737350B2 (en) | Electro-plating process | |
CN111424229B (zh) | 耐液态金属合金浸蚀复合涂层的制备方法 | |
JP5194267B2 (ja) | 緻密表面層をもつサーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 | |
TW201433451A (zh) | 改善覆著力的複合材料及其製造方法 | |
JP5629898B2 (ja) | 耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 | |
JP5597840B2 (ja) | フッ化物膜被覆サーメット複合皮膜被覆部材およびその製造方法 | |
JP5194266B2 (ja) | サーメット皮膜の形成方法 | |
CN108441912B (zh) | 铝合金表面Al3C4-Al2O3-ZrO2耐磨复合涂层的制备方法 | |
KR102153162B1 (ko) | 알루미늄합금 도금강판의 표면처리방법 및 이에 따라 제조된 알루미늄합금 도금강판 | |
Rehman et al. | Investigation of hybrid PEO coatings on AZ31B magnesium alloy in alkaline K 2 ZrF 6–Na 2 SiO 3 electrolyte solution | |
US20100126878A1 (en) | Method for Electrolytic Stripping of Spray Metal Coated Substrate | |
Manjunatha et al. | The effect of sealing on the wear behaviour of plasma sprayed Mo coating | |
JP5651848B2 (ja) | フッ化物サーメット複合皮膜被覆部材およびその製造方法 | |
CN101054700A (zh) | 镁合金表面直接电沉积锌镍合金的方法 | |
RU2774682C1 (ru) | Электрохимический способ нанесения медных защитных покрытий из галогенидных расплавов на поверхность стали 12Х18Н10Т | |
CN1936092B (zh) | 一种镁合金表面直接电沉积锌的方法 | |
WO2024178456A1 (en) | Plasma electrolytic deposition surface coatings for oxide-forming alloys | |
JP3431715B2 (ja) | 耐久性に優れる溶射被覆電極の製造方法 | |
US20240159156A1 (en) | Methods for creating a nickel strike layer and nickel electrolytic bondcoat onto a non-conductive carbon fiber composite surface and the coating system derived therefrom | |
JPH0791625B2 (ja) | 溶融亜鉛浴浸漬部材およびその製造方法 | |
AKTUĞ et al. | Characterization of Al 2 Ti/Al 3 Ti-based intermetallic and Al 2 O 3/TiO 2-based oxide composite coatings fabricated on Ti6Al4V alloy. | |
JP2000282210A (ja) | 耐食性溶射皮膜とその製造方法 | |
Aktug et al. | Characterization of Al2Ti/Al3Ti-based intermetallic and Al2O3/TiO2-based oxide composite coatings fabricated on Ti6Al4V alloy |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20120927 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20121009 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20121206 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20130108 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20130111 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20160215 Year of fee payment: 3 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Ref document number: 5194267 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |