以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
(第一の実施の形態)
第一の実施の形態に係る電池単体の一例について、図1、図2を参照してその構造を説明する。図1に、第一の実施の形態に係わる扁平型非水電解質二次電池の断面模式図を示す。図2は、図1のAで示した円で囲われた部分を詳細に表す部分断面模式図を示す。
図1に示すように、外装部材7には、扁平状の捲回電極群6が収納されている。捲回電極群6は、正極3と負極4をその間にセパレータ5を介在させて渦巻状に捲回された構造を有する。非水電解質は、捲回電極群6に保持されている。
図2に示すように、捲回電極群6の最外周には負極4が位置しており、この負極4の内周側にセパレータ5、正極3、セパレータ5、負極4、セパレータ5、正極3、セパレータ5というように正極3と負極4がセパレータ5を介して交互に積層されている。負極4は、負極集電体4aと、負極集電体4aに担持された負極活物質含有層4bとを備えるものである。負極4の最外周に位置する部分では、負極集電体4aの片面のみに負極活物質含有層4bが形成されている。正極3は、正極集電体3aと、正極集電体3aに担持された正極活物質含有層3bとを備えるものである。
図1に示すように、帯状の正極端子1は、捲回電極群6の外周端近傍の正極集電体3aに電気的に接続されている。一方、帯状の負極端子2は、捲回電極群6の外周端近傍の負極集電体4aに電気的に接続されている。正極端子1及び負極端子2の先端は、外装部材7の同じ辺から外部に引き出されている。
以下、負極、非水電解質、正極、セパレータ、外装部材、正極端子、負極端子について詳細に説明する。
1)負極
負極は、負極集電体と、負極集電体の片面若しくは両面に担持され、負極活物質、負極導電剤および結着剤を含む負極層とを有する。
負極活物質は、平均細孔直径が50Å以上であるリチウムチタン複合酸化物粒子を含む。ここで、細孔とは、多孔質物質の内部に存在する表面まで通じた小さな孔を指す(岩波理化学辞典第5版参照)。また、リチウムチタン複合酸化物とは、リチウムチタン酸化物相か、リチウムチタン酸化物の構成要素の一部を異種元素で置換したリチウムチタン含有酸化物相のいずれかを含むものを意味する。優れた大電流特性とサイクル特性を得るためには、リチウムチタン複合酸化物は、リチウムチタン酸化物相を主たる構成相とすることが望ましい。主たる構成相とは、リチウムチタン複合酸化物の中で最も存在比率の高い構成相である。
構成相の存在比率は以下に説明する方法で確認することができる。
リチウムチタン複合酸化物粒子に対してX線回折測定を実施し、得られたX線回折パターンから複合酸化物の構成相を同定する。同定した構成相のメインピークの強度比を比較することによって、リチウムチタン複合酸化物の主たる構成相を特定することが可能である。
例えば、スピネル型のリチウムチタン複合酸化物(Li4+xTi5O12(xは0≦x≦3))の場合、不純物相として、アナタ−ゼ型TiO2、ルチル型TiO2、Li2TiO3等を含むことがある。このような物質に対して、Cu−Kαを用いたX線回折測定を実施すると、X線回折パターンから、Li4+xTi5O12(xは0≦x≦3)のメインピークは4.83Å(2θ:18°)、アナターゼ型TiO2、ルチル型TiO2、およびLi2TiO3の夫々のメインピークは3.51Å(2θ:25°)、3.25Å(2θ:27°)、および2.07Å(2θ:43°)の位置に現れる。これらの強度を比較することによって、主たる構成相を特定できる。
なお、スピネル型リチウムチタン複合酸化物を主たる構成相とする場合、X線回折法によるスピネル型チタン酸リチウムのメインピーク強度を100としたとき、ルチル型TiO2、アナターゼ型TiO2及びLi2TiO3のメインピーク強度をいずれも7以下とすることが好ましく、更に好ましくは3以下である。これら不純物相が少ないほど、リチウムイオンの拡散速度が向上し、さらにイオン伝導性および大電流特性が向上するためである。
リチウムチタン酸化物としては、例えば、スピネル構造を有するリチウムチタン酸化物(例えばLi4+xTi5O12(xは0≦x≦3))、ラムステライド型リチウムチタン酸化物(例えばLi2+yTi3O7(yは0≦y≦3))などを挙げることができる。スピネル構造を有するリチウムチタン酸化物によると、優れた充放電サイクル特性を得られるため、望ましい。
リチウムチタン複合酸化物は、リチウムチタン酸化物相及びリチウムチタン含有酸化物相以外の他の構成相を含むことを許容する。例えば、TiO2相、Li2TiO3相などを挙げることができる。
リチウムチタン複合酸化物粒子の平均細孔直径を前記範囲に規定する理由を説明する。リチウムチタン複合酸化物粒子の平均細孔直径を50〜500Åとすることにより、リチウムチタン複合酸化物粒子表面での非水電解質の濡れ性が向上し、非水電解質の含浸性が改善されるため、充放電サイクル寿命を向上させることができる。平均細孔直径を50Å以上とするのは、以下の理由による。リチウムチタン複合酸化物粒子表面では、非水電解質との反応により、僅かではあるが副反応物(有機物、あるいは無機物)が堆積する。平均細孔直径を50Å未満にすると、副反応物が成長した際に細孔が塞がれ、負極の保液性(非水電解質保持性)が低下し、大電流特性が低下する。したがって、平均細孔直径を50Å以上とすることが好ましく、更に好ましい範囲は、100Å以上である。一方、細孔が大きくなると粉体の強度が低下し、電極を高密度化する際に粉体が崩壊する恐れがある。したがって、電極を高密度化させる、すなわち体積エネルギー密度を向上させるために、その上限値を500Åとすることが望ましい。
また、細孔直径が10Å以下の領域にマイクロポアを有することが好ましい。リチウムチタン複合酸化物粒子にマイクロポアが存在すると、濡れ性の向上により非水電解質の含浸性が高まる他、リチウムチタン複合酸化物粒子の充放電反応に寄与しない領域が減少し、充放電容量を向上させることができる。十分な効果を得るために、細孔直径が10Å以下のマイクロポアの容積は0.001mL/g以上であることが好ましい。その上限値は特に限定されるものではないが、体積エネルギー密度の観点から、その上限値は0.01mL/gであることが望ましい。さらに好ましい範囲は、0.0015〜0.003mL/gである。
リチウムチタン複合酸化物粒子の細孔容積を0.01mL/g以上とすることにより、非水電解質の含浸がスムーズに進みリチウムチタン複合酸化物粒子全体が非水電解質に濡れ、充放電の際にリチウムチタン複合酸化物の反応が均等に進み、局所的に過電圧がかかることがなくなるため、充放電サイクル寿命を向上させることができる。また、非水電解質の保持性が向上することで、液枯れなどが発生し難くなり、更に充放電サイクル寿命を向上させることができる。より好ましい細孔容積は、0.02mL/g以上であり、更に好ましい範囲は0.1mL/g以上である。細孔容積の上限は特に限定されるものではないが、体積エネルギー密度の観点から、1mL/g以下とすることが望ましい。
リチウムチタン複合酸化物粒子の平均粒子径は1μm以下にすることが望ましい。これは、平均粒子径が1μmを超えると、平均細孔直径を本実施形態で規定する範囲に設定しても十分な含浸性を期待できないからである。但し、平均粒子径が小さ過ぎると、非水電解質の分布が負極側に偏り、正極での電解質の枯渇を招く恐れがあるため、その下限値は0.001μmにすることが好ましい。リチウムチタン複合酸化物粒子は、その平均粒子径が1μm以下で、かつN2吸着によるBET法での比表面積が5〜50m2/gの範囲であることがさらに望ましい。
以下、リチウムチタン複合酸化物粒子の製造方法の一例を説明する。
まず、Li源として、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウムなどのリチウム塩を用意する。これらを純水に所定量溶解させる。この溶液にリチウムとチタンの原子比が所定比率になるように酸化チタンを投入する。例えば、組成式Li4Ti5O12のスピネル型リチウムチタン酸化物を合成する場合、LiとTiの原子比は4:5となるように混合する。
次に、得られた溶液を攪拌しながら乾燥させ、焼成前駆体を得る。乾燥方法としては、噴霧乾燥、造粒乾燥、凍結乾燥あるいはこれらの組み合わせが挙げられる。得られた焼成前駆体を焼成し、リチウムチタン複合酸化物を得る。焼成は、大気中で行えば良く、酸素雰囲気、アルゴンなどを用いた不活性雰囲気中で行っても良い。
焼成は、680℃以上1000℃以下で1時間以上24時間以下程度行えば良い。好ましくは、720℃以上800℃以下で5時間以上10時間以下である。
680℃未満であると、酸化チタンとリチウム化合物の反応が不十分となり、アナターゼ型TiO2、ルチル型TiO2、Li2TiO3などの不純物相が増大し、電気容量が減少してしまう。1000℃を越えると、スピネル型チタン酸リチウムでは、焼結の進行により結晶子径が過剰に成長し、大電流性能を低下させてしまう。
上述の焼成により得られたリチウムチタン複合酸化物粒子を、以下に説明する条件で粉砕・再焼成することによって、一次粒子の細孔容積と平均細孔直径を制御することが可能となる。粉砕方法として例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には、エタノール、エチレングリコール、ベンゼンあるいはヘキサン等、公知の液体粉砕助剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。粉砕助剤は、粉砕効率の改善、微粉生成量の増大に効果的である。より好ましい方法は、ジルコニア製ボールをメディアに用いたボールミルであり、液体粉砕助剤を加えた湿式での粉砕が好ましい。更に、粉砕効率を向上させるポリオールなどの有機物を粉砕助剤として添加しても良い。ポリオールの種類は特に限定されないが、ペンタエリトリトール、トリエチロールエタン、トリメチロールプロパン等を単独又は組み合わせて使用できる。
再焼成の条件も、大気中で行えば良く、酸素雰囲気、アルゴンなどを用いた不活性雰囲気中で行っても良い。再焼成は、250℃以上900℃以下で1分以上10時間以下程度行えば良い。900℃以上であると、粉砕した粉末の焼成が進み、短時間の熱処理であっても細孔がつぶれてしまい、本実施形態に記載の細孔径分布が得られ難い。250℃未満であると湿式粉砕時に付着する不純物(有機物)を除去することができず、電池性能が低下してしまう。好ましくは、400℃以上700℃以下で10分以上3時間以下である。
また、平均細孔直径が50〜500Åのリチウムチタン複合酸化物粒子のpH値は10〜11.2の範囲内にすることが望ましい。チタン酸リチウムのようなリチウムチタン複合酸化物の焼成過程において、炭酸リチウムや水酸化リチウムなどが、チタン酸リチウムに取り込まれない未反応のLi成分に起因して副成される。この未反応Li成分を低減させ、pH値で示した時に11.2よりも小さくなることで、電池性能、特に、高温サイクル性能や出力性能を向上させることができる。
これは、活物質表面に残存する炭酸リチウムや水酸化リチウムなどの未反応Li成分が非水電解質と反応し、二酸化炭素や炭化水素ガスを発生させ、また、これらの副反応により活物質表面に抵抗成分となる有機皮膜を形成するためである。
しかしながら、チタン酸リチウム粉末を前述した条件で機械的に粉砕する場合、未反応Li成分が表面に露出することになり、pH値が11.2よりも大きくなって電池性能が低下する傾向がある。したがって、粉砕工程後に再焼成工程を行っている。再焼成を行うことで、表面に露呈された未反応リチウムが、活物質内部に取り込まれ、表面に残存する未反応Li成分を少なくすることができる。粉砕後の再焼成工程を施すことによって、pH値を11.2以下に制御することが可能となる。
チタン酸リチウムの原料となる水酸化リチウムや炭酸リチウムなどのLi源とチタン酸化物(例えば、アナターゼ型TiO2、ルチル型TiO2)を反応させる段階で、Li源の比率を下げることで、副生成する炭酸リチウムなどの余剰Liを低減させることは可能であるが、Li源の比率を低下させると得られる活物質中のリチウムの比率が低下し、その結果、チタン酸リチウムの電気容量が低下する。そのため、電気容量を高容量に保持するために、Li源を減量せずに、得られる活物質のpH値を10以上にすることが望ましい。
また、電気容量の維持と、副反応の低減を考慮し、pH値は10.3〜11の範囲であることがより好ましい。
なお、リチウムチタン複合酸化物粒子のpH値は以下の手順で測定できる。すなわち、リチウムチタン複合酸化物粒子2gを100mLの純水(25℃)に分散し、約10分間攪拌した後、活物質を濾過し、濾液を得る。この濾液のpH値をリチウムチタン複合酸化物粒子のpH値とする。
負極集電体は、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔であることが好ましい。過放電サイクルでの負極集電体の溶解・腐食劣化を防ぐことができる。
アルミニウム箔およびアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1%以下にすることが好ましい。
負極活物質含有層には導電剤を含有させることができる。導電剤としては、例えば、炭素材料、アルミニウム粉末などの金属粉末、TiOなどの導電性セラミックスを用いることができる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、コークス、炭素繊維、黒鉛が挙げられる。より好ましくは、熱処理温度が800〜2000℃の平均粒子径10μm以下のコークス、黒鉛、TiOの粉末、平均粒子径1μm以下の炭素繊維が好ましい。前記炭素材料のN2吸着によるBET比表面積は10m2/g以上が好ましい。
負極活物質含有層には結着剤を含有させることができる。結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム、コアシェルバインダーなどが挙げられる。
負極活物質、負極導電剤及び結着剤の配合比については、負極活物質は70重量%以上96重量%以下、負極導電剤は2重量%以上28重量%以下、結着剤は2重量%以上28重量%以下の範囲にすることが好ましい。負極導電剤量が2重量%未満であると、負極活物質含有層の集電性能が低下し、非水電解質電池の大電流特性が低下する恐れがある。また、結着剤量が2重量%未満であると、負極活物質含有層と負極集電体の結着性が低下し、サイクル特性が低下する可能性がある。一方、高容量化の観点から、負極導電剤及び結着剤は各々28重量%以下であることが好ましい。
負極は、例えば、負極活物質、負極導電剤及び結着剤を汎用されている溶媒に懸濁し作製したスラリーを、負極集電体に塗布し、乾燥し、負極活物質含有層を作製した後、プレスを施すことにより作製される。
非水電解質電池から負極活物質を採取して負極活物質の特性(細孔径分布測定、粒径測定など)を評価する場合、まず、アルゴンガス雰囲気において、非水電解質電池を解体して負極を取り出し、負極集電体から負極活物質含有層を剥がす。この負極活物質含有層をアセトンに分散させると、負極活物質に付着した導電剤及び結着剤はアセトンに溶解するため、負極活物質を抽出することができる。負極活物質から導電剤及び結着剤が除去されたことをX線回折等で確認した後、必要な特性評価を行う。
2)非水電解質
非水電解質は、電解質を有機溶媒に溶解することにより調整される液状非水電解質、液状電解質と高分子材料を複合化したゲル状非水電解質等が挙げられる。
非水電解質には、揮発性がなく、不燃性のイオン性液体からなる常温溶融塩を含有させたものを使用することが可能である。
液状非水電解質は、電解質を0.5mol/L以上2.5mol/L以下の濃度で有機溶媒に溶解することにより、調製される。
電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]などのリチウム塩が挙げられる。使用する電解質の種類は、1種類または2種類以上にすることができる。LiBF4を含む電解質は、負極活物質の非水電解質含浸性をさらに高めることができるため、好ましい。
有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート等の環状カーボネートや、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等の鎖状カーボネートや、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、ジオキソラン(DOX)等の環状エーテルや、ジメトキシエタン(DME)、ジエトエタン(DEE)等の鎖状エーテルや、γ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)等の単独若しくは混合溶媒を挙げることができる。
高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等を挙げることができる。
好ましい有機溶媒として、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびγ−ブチロラクトン(GBL)からなる群のうち、2種以上を混合した混合溶媒が挙げられる。さらに好ましい有機溶媒として、γ−ブチロラクトン(GBL)が挙げられる。この理由は以下の通りである。
まず第一に、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートは沸点や引火点が高く、熱安定性に優れるためである。
第二に、リチウムチタン酸化物は、1.5V(vs. Li/Li+)近傍の電位域でリチウムイオンを吸蔵・放出する。しかしながら、この電位域では、非水電解質の還元分解が起こるものの、リチウムチタン酸化物表面に非水電解質の還元生成物である皮膜を十分に形成できる程には起こらない。このため、リチウム吸蔵状態、すなわち充電状態で保存すると、リチウムチタン酸化物に吸蔵されていたリチウムイオンが徐々に非水電解質中に拡散し、所謂自己放電が生じてしまう。自己放電は、電池の保管環境が高温になると顕著に表れる。
負極の細孔径ならびに細孔容積を本実施形態に記載するように制御すると、負極と非水電解質との接触面積が増大するため、先述した自己放電がやや大きくなる傾向がある。
ここで、γ−ブチロラクトンは、鎖状カーボネートや環状カーボネートに比べて、還元されやすい。具体的には、γ−ブチロラクトン>>>エチレンカーボネート>プロピレンカーボネート>>ジメチルカーボネート>メチルエチルカーボネート>ジエチルカーボネートの順に還元されやすい。なお、>の数が多いほど、溶媒間の反応性に差があることを示している。
そのため、γ−ブチロラクトンを非水電解質中に含有させると、リチウムチタン酸化物の作動電位域においても、リチウムチタン酸化物の表面に良好な皮膜が形成できる。この結果、自己放電を抑制し、非水電解質電池の高温貯蔵特性を向上できる。
上述の混合溶媒についても、類似のことが言える。
また、還元され易い常温溶融塩においても、同様の効果が得られる。さらに、常温溶融塩の場合、酸化もされ易いため、正極に作用して、自己放電を抑制やサイクル寿命を向上させる効果がある。
より良質な保護皮膜を形成するためには、γ−ブチロラクトンの含有量を有機溶媒に対し40体積%以上95体積%以下とすることが好ましい。
γ−ブチロラクトンを含む非水電解質は、上述した優れた効果を示すものの、粘度が高く、電極への含浸性が低下してしまう。しかしながら、本実施形態の負極を用いると、γ−ブチロラクトンを含む非水電解質であっても、非水電解質の含浸をスムーズに行うことが可能になり、生産性を向上させると共に、出力特性及び充放電サイクル特性を向上させることが可能となる。更に粘度が高い常温溶融塩を用いた場合にも同様の効果が現れる。よって、本実施形態の負極は、γ−ブチロラクトンあるいは常温溶融塩を含む20℃での粘度が5cp以上の非水電解質でより顕著な効果を示す。
20℃での粘度の上限値は、30cpに設定することができる。
次いで、常温溶融塩を含む非水電解質について説明する。
常温溶融塩とは、常温において、少なくとも一部が液状を呈する塩を言い、常温とは電源が通常作動すると想定される温度範囲を言う。電源が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては60℃程度であり、下限は−40℃程度、場合によっては−20℃程度である。中でも、−20℃以上60℃以下の範囲が適している。
リチウムイオンを含有した常温溶融塩には、リチウムイオンと有機物カチオンとアニオンから構成されるイオン性融体を使用することが望ましい。また、このイオン性融体は、室温以下でも液状であることが好ましい。
前記有機物カチオンとしては、以下の化1に示す骨格を有するアルキルイミダゾリウムイオン、四級アンモニウムイオンが挙げられる。
前記アルキルイミダゾリウムイオンとしては、ジアルキルイミダゾリウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオン、テトラアルキルイミダゾリウムイオンなどが好ましい。ジアルキルイミダゾリウムとしては1−メチル−3−エチルイミダゾリウムイオン(MEI+)、トリアルキルイミダゾリウムイオンとしては、1,2−ジエチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン(DMPI+)、テトラアルキルイミダゾリウムイオンとして、1,2−ジエチル−3,4(5)−ジメチルイミダゾリウムイオンが好ましい。
前記四級アンモニムイオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンや環状アンモニウムイオンなどが好ましい。テトラアルキルアンモニウムイオンとしてはジメチルエチルメトキシアンモニウムイオン、ジメチルエチルメトキシメチルアンモニウムイオン、ジメチルエチルエトキシエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオンが好ましい。
上記アルキルイミダゾリウムイオンまたは四級アンモニウムイオン(特にテトラアルキルアンモニウムイオン)を用いることにより、融点を100℃以下、より好ましくは20℃以下にすることができる。さらに負極との反応性を低くすることができる。
前記リチウムイオンの濃度は、20mol%以下であることが好ましい。より好ましい範囲は、1〜10mol%の範囲である。前記範囲にすることにより、20℃以下の低温においても液状の常温溶融塩を容易に形成できる。また常温以下でも粘度を低くすることができ、イオン伝導度を高くすることができる。
前記アニオンとしては、BF4 -、PF6 -、AsF6 -、ClO4 -、CF3SO3 -、CF3COO-、CH3COO-、CO3 2-、N(CF3SO2)2 -、N(C2F5SO2)2 -、(CF3SO2)3C-などから選ばれる一種以上のアニオンと共存することが好ましい。複数のアニオンを共存することにより、融点が20℃以下の常温溶融塩を容易に形成できる。より好ましくは融点が0℃以下の常温溶融塩にすることができる。より好ましいアニオンとしては、BF4 -、CF3SO3 -、CF3COO-、CH3COO-、CO3 2-、N(CF3SO2)2 -、N(C2F5SO2)2 -、(CF3SO2)3C-が挙げられる。これらのアニオンによって0℃以下の常温溶融塩の形成がより容易になる。
3)正極
正極は、正極集電体と、正極集電体の片面若しくは両面に担持され、正極活物質、正極導電剤及び結着剤を含む正極活物質含有層とを有する。
正極活物質としては、酸化物、硫化物、ポリマー等が挙げられる。
例えば、酸化物としては、Liを吸蔵した二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、及び、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4またはLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCoyO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLiMnyCo1-yO2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiyO4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えば、LixFePO4、LixFe1-xMnyPO4、LixVPO4F、LixCoPO4など、0≦x≦1、0≦y≦1)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、バナジウム酸化物(例えばV2O5)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等が挙げられる。
例えば、ポリマーとしては、ポリアニリンやポリピロール等の導電性ポリマー材料、ジスルフィド系ポリマー材料等が挙げられる。その他に、イオウ(S)、フッ化カーボン等も使用できる。
高い正極電圧が得られる正極活物質としては、リチウムマンガン複合酸化物(LixMn2O4)、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LixNi1-yCoyO2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiyO4)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LixMnyCo1-yO2)、リチウムリン酸鉄(LixFePO4)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等が挙げられる。なお、x、yは0〜1の範囲であることが好ましい。
前記リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の組成はLiaNibCocMndO2(但し、モル比a,b,c及びdは0≦a≦1.1、0.1≦b≦0.5、0≦c≦0.9、0.1≦d≦0.5)であることが好ましい。
中でも、常温溶融塩を含む非水電解質を用いる際には、リチウムリン酸鉄、LixVPO4F、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物を用いることが、サイクル寿命の観点から好ましい。これは、上記正極活物質と常温溶融塩との反応性が少なくなるためである。
また、一次電池用の正極活物質には、例えば、二酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、硫化鉄、フッ化カーボンなどが挙げられる。
正極活物質の一次粒子径は、100nm以上1μm以下であると好ましい。100nm以上であると、工業生産上扱いやすい。1μm以下であると、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることができる。
正極活物質の比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上であると、リチウムイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保できる。10m2/g以下であると、工業生産上扱いやすく、良好な充放電サイクル性能を確保できる。
集電性能を高め、集電体との接触抵抗を抑えるための正極導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等の炭素質物を挙げることができる。
正極活物質と正極導電剤を結着させるための結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム等が挙げられる。
正極活物質、正極導電剤及び結着剤の配合比については、正極活物質は80重量%以上95重量%以下、正極導電剤は3重量%以上18重量%以下、結着剤は2重量%以上17重量%以下の範囲にすることが好ましい。正極導電剤については、3重量%以上であることにより上述した効果を発揮することができ、18重量%以下であることにより、高温保存下での正極導電剤表面での非水電解質の分解を低減することができる。結着剤については、2重量%以上であることにより十分な電極強度が得られ、17重量%以下であることにより、電極の絶縁体の配合量を減少させ、内部抵抗を減少できる。
正極は、例えば、正極活物質、正極導電剤及び結着剤を適当な溶媒に懸濁し、この懸濁し作製したスラリーを、正極集電体に塗布し、乾燥し、正極活物質含有層を作製した後、プレスを施すことにより作製される。その他、正極活物質、正極導電剤及び結着剤をペレット状に形成し、正極活物質含有層として用いても良い。
前記正極集電体は、アルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましく、負極集電体と同様にその平均結晶粒径は50μm以下であることが好ましい。より好ましくは、30μm以下である。更に好ましくは5μm以下である。前記平均結晶粒径が50μm以下であることにより、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔の強度を飛躍的に増大させることができ、正極を高いプレス圧で高密度化することが可能になり、電池容量を増大させることができる。
前記平均結晶粒径の範囲が50μm以下の範囲にあるアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔は、材料組織、不純物、加工条件、熱処理履歴、ならびに焼鈍条件など複数の因子に複雑に影響され、前記結晶粒径は製造工程の中で、前記諸因子を組合せて調整される。
アルミニウム箔およびアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素、などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1%以下にすることが好ましい。
4)セパレータ
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、またはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、合成樹脂製不織布等を挙げることができる。中でも、ポリエチレン又はポリプロピレンからなる多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能であり、安全性向上の観点から好ましい。
5)外装部材
外装部材としては、肉厚0.2mm以下のラミネートフィルムや、肉厚0.5mm以下の金属製容器が挙げられる。金属製容器の肉厚は、0.2mm以下であるとより好ましい。
形状としては、扁平型、角型、円筒型、コイン型、ボタン型、シート型、積層型等が挙げられる。なお、無論、携帯用電子機器等に積載される小型電池の他、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池でも良い。
ラミネートフィルムは、金属層と金属層を被覆する樹脂層とからなる多層フィルムである。軽量化のために、金属層はアルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、金属層を補強するためのものであり、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行うことにより成形する。
金属製容器は、アルミニウムまたはアルミニウム合金等が挙げられる。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属の含有量は1%以下にすることが好ましい。これにより、高温環境下での長期信頼性、放熱性を飛躍的に向上させることが可能となる。
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属缶は、平均結晶粒径が50μm以下であることが好ましい。より好ましくは30μm以下である。更に好ましくは5μm以下である。前記平均結晶粒径を50μm以下とすることによって、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属缶の強度を飛躍的に増大させることができ、より缶の薄肉化が可能になる。その結果、軽量かつ高出力で長期信頼性に優れた車載に適切な電池を実現することができる。
6)負極端子
負極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が0.4V以上3V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料から形成することができる。具体的には、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金、アルミニウムが挙げられる。接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料が好ましい。
7)正極端子
正極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が3V以上5V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料から形成することができる。具体的には、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金、アルミニウムが挙げられる。接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料が好ましい。
第一の実施形態に係る非水電解質電池は、前述した図1及び図2に示す構成のものに限らず、例えば、図3及び図4に示す構成にすることができる。図3は第一の実施形態に係る別の扁平型非水電解質二次電池を模式的に示す部分切欠斜視図で、図4は図3のB部の拡大断面図である。
図3に示すように、ラミネートフィルム製の外装部材8内には、積層型電極群9が収納されている。積層型電極群9は、図4に示すように、正極3と負極4とをその間にセパレータ5を介在させながら交互に積層した構造を有する。正極3は複数枚存在し、それぞれが正極集電体3aと、正極集電体3aの両面に担持された正極活物質含有層3bとを備える。負極4は複数枚存在し、それぞれが負極集電体4aと、負極集電体4aの両面に担持された負極活物質含有層4bとを備える。それぞれの負極4の負極集電体4aは、一辺が正極3から突出している。正極3から突出した負極集電体4aは、帯状の負極端子2に電気的に接続されている。帯状の負極端子2の先端は、外装部材8から外部に引き出されている。また、ここでは図示しないが、正極3の正極集電体3aは、負極集電体4aの突出辺と反対側に位置する辺が負極4から突出している。負極4から突出した正極集電体3aは、帯状の正極端子1に電気的に接続されている。帯状の正極端子1の先端は、負極端子2とは反対側に位置し、外装部材8の辺から外部に引き出されている。
(第二の実施の形態)
第二の実施の形態に係る電池パックは、第一の実施の形態に係る電池単体を複数有する。各々の電池単体は電気的に直列もしくは並列に配置され、組電池を為している。
第一の実施の形態に係る電池単体は組電池化に適しており、第二の実施の形態に係る電池パックは、サイクル特性に優れる。このことについて、説明する。
非水電解質の含浸性が向上すると、負極活物質表面全体を非水電解質と接触させることが可能となり、負極の利用率を均等にすることができる。このことによって、電池の容量個体差やインピーダンスの個体差を極めて小さくすることが可能となる。その結果、例えば、直列接続の組電池において、電池容量の個体差にともなう満充電時の電池電圧ばらつきを減少できる。このため、第二の実施の形態に係る電池パックは、組電池の制御性に優れ、サイクル特性を向上できる。
電池単体には、図1または図3に示す扁平型電池を使用することができる。
図5の電池パックにおける電池単体21は、図1に示す扁平型非水電解質電池から構成されている。複数の電池単体21は、正極端子1と負極端子2が突出している向きを一つに揃えて厚さ方向に積層されている。図6に示すように、電池単体21は、直列に接続されて組電池22をなしている。組電池22は、図5に示すように、粘着テープ23によって一体化されている。
正極端子1および負極端子2が突出する側面に対しては、プリント配線基板24が配置されている。プリント配線基板24には、図6に示すように、サーミスタ25、保護回路26および外部機器への通電用の端子27が搭載されている。
図5及び図6に示すように、組電池22の正極側配線28は、プリント配線基板24の保護回路26の正極側コネクタ29に電気的に接続されている。組電池22の負極側配線30は、プリント配線基板24の保護回路26の負極側コネクタ31に電気的に接続されている。
サーミスタ25は、電池単体21の温度を検知するためのもので、検知信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路と外部機器への通電用端子との間のプラス側配線31a及びマイナス側配線31bを遮断できる。所定の条件とは、例えば、サーミスタの検出温度が所定温度以上になったとき、電池単体21の過充電、過放電、過電流等を検知したとき等である。この検知方法は、個々の電池単体21もしくは電池単体21全体について行われる。個々の電池単体21を検知する場合、電池電圧を検知してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検知してもよい。後者の場合、個々の電池単体21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図6の場合、電池単体21それぞれに電圧検知のための配線32を接続し、これら配線32を通して検知信号が保護回路26に送信される。
組電池22について、正極端子1および負極端子2が突出する側面以外の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート33が配置される。正極端子1および負極端子2が突出する側面とプリント配線基板24との間には、ゴムもしくは樹脂からなるブロック状の保護ブロック34が配置される。
この組電池22は、各保護シート33、保護ブロック34およびプリント配線基板24と共に収納容器35に収納される。すなわち、収納容器35の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート33が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池22は、保護シート33及びプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。収納容器35の上面には、蓋36が取り付けられる。
なお、組電池22の固定には、粘着テープ23に代えて、熱収縮テープを用いても良い。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮チューブを周回させた後、該熱収縮チューブを熱収縮させて組電池を結束させる。
なお、図5,6に示した電池単体21は直列に接続されているが、電池容量を増大させるためには並列に接続しても良い。無論、組み上がった電池パックを直列、並列に接続することもできる。
また、電池パックの態様は用途により適宜変更される。
第二の実施の形態の電池パックの用途としては、大電流特性、さらにはサイクル特性が望まれるものが好ましい。具体的には、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用が挙げられる。特に、車載用が好適である。
なお、非水電解質としてプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびγ−ブチロラクトン(GBL)からなる群のうち、少なくとも2種以上を混合した混合溶媒、あるいはγ−ブチロラクトン(GBL)を含んだ場合、高温特性が望まれる用途が好ましい。具体的には、上述の車載用が挙げられる。
以下に実施例を説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものでない。
(実施例1)
<正極の作製>
まず、正極活物質としてリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)粉末90重量%、導電剤として、アセチレンブラック5重量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)5重量%をN−メチルピロリドン(NMP)に加えて混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布した後、乾燥し、プレスすることにより電極密度が3.3g/cm3の正極を作製した。
<負極の作製>
780℃で10時間の焼成により得られたスピネル型チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)を直径3mmのジルコニア製ボールをメディアとし、エタノール中で3時間ボールミル粉砕した。粉砕した粉末を500℃で1時間再焼成することによって、細孔容積が0.0106mL/g、平均細孔直径が78.2Åで、平均粒子径が0.89μmのスピネル型チタン酸リチウム粒子を合成した。
得られた負極活物質の平均粒子径は以下に説明する方法で測定した。
レーザー回折式分布測定装置(島津SALD-300)を用い、まず、ビーカーに試料を約0.1gと界面活性剤と1〜2mLの蒸留水を添加して十分に攪拌した後、攪拌水槽に注入し、2秒間隔で64回光度分布を測定し、粒度分布データを解析するという方法にて測定した。
得られた粒度分布図を図8に示す。図8の横軸がチタン酸リチウム粒子の粒径(μm)で、左側の縦軸が一定範囲の粒径を持つ粒子の体積頻度(%)で、右側の縦軸が、粒子の体積をその粒径が小さい方から積算することにより得られる体積累積頻度(%)である。体積累積頻度が50%の時の粒径を平均粒子径とした。
細孔容積及び平均細孔直径の測定は、以下の手順で行った。
負極活物質の細孔径分布を以下に説明するガス吸着法によって測定した。測定装置には、島津マイクロメリテックス ASAP−2010(窒素ガス吸着、細孔分布/比表面積測定)を使用した。試料は、負極活物質約1gを測定セルに採り、装置の前処理部で温度200℃で約15時間の脱ガス処理(減圧乾燥)を行った後、測定に供した。脱ガス処理の条件は、細孔直径が10Å以下のマイクロポアを有する試料に適した条件(フリースペース測定後のHeガス排気時間を3時間に設定)とする。
細孔直径が10〜3000Å(10Åを除く)のメソポア領域の解析にはBJH解析法を、細孔直径が10Å以下のマイクロポア領域の解析にはHorvath-Kawazoe解析法を用いた。細孔容積は、直径が10Åより大きく、かつ3000Å以下の細孔の容積、直径が10Å以下の細孔の容積、細孔直径分布全範囲での細孔容積に分けて下記表2に記載した。
窒素ガス吸着法について、簡単に説明する。この方法は、液体窒素温度下での窒素ガスの等温脱着曲線から細孔分布を求める方法である。この方法はある相対圧においては、半径Rpより大きい口径を持つ円筒形の細孔は厚さtの多分子層吸着が起こっており、Rpより小さい口径の細孔では毛管凝縮が起こっているとして等温脱着曲線を解析して細孔分布を求めるものである。相対圧とRp,tの関係はケルビンの下記(1)式で与えられる。
Rp−t=−(2σVcosθ)/(RTln(P/P0) (1)式
ここで、Rpは細孔半径、tは多分子吸着層の厚み、σは液体の表面張力、Vは液体のモル容積、θは液体の接触角、Rは気体定数、Tは絶対温度である。Pはサンプルセルの内圧、P0は飽和蒸気圧である。
この考え方で細孔分布を測定する方法には、BJH(Barrett-Joyner-Halenda)法、CI(Cranston-Inkley)法、DH(Dollimore-Hel)法などがある。しかし、毛管凝縮理論が適用できるのは細孔の大きさが1〜2nmまでとされており、これ以下の細孔は等温吸着曲線からMP法やHK(Horvath-Kawazoe)法で解析する。実施例での測定には、細孔直径が10〜3000Å(10Åを除く)のメソポア領域の解析にはBJH解析法を、細孔直径が10Å以下のマイクロポア領域の解析にはHK解析法を用いた。
測定法・原理等の詳細は、神保元二ら:「微粒子ハンドブック」朝倉書店、(1991)、早川宗八郎編:「粉体物性測定法」朝倉書店(1978)などを参照されたい。
平均細孔直径は以下に説明する方法で算出し、その結果を下記表2に併記した。
平均細孔直径は、BJH解析により求められる全細孔容積(V)の4倍(4V)を、BET比表面積(A)で除することによって求められる。
細孔を円筒細孔と仮定し、細孔直径をD、細孔の長さをLとすると、その体積V=πD2L/4、側面積A=πDLであるからD=4V/Aと求めることができる。
負極活物質のBET比表面積は、細孔径分布を算出した際に使用したのと同様な測定装置、すなわち島津マイクロメリテックス ASAP−2010を使用した。吸着ガスにはN2を使用し、サンプル重量は1gとした。測定結果を表2,4に示す。
負極活物質のpHは、前述した方法にて測定した。pH値を下記表1に示す。
合成したスピネル型チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)粉末を90重量%と、導電剤として900℃で焼成したコークス(d002が0.3465nm、平均粒子径が8.2μm、BET比表面積が11.2m2/g)を5重量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を5重量%とに、N−メチルピロリドン(NMP)を添加し、混合し、スラリーを調製した。得られたスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔(純度99.99%、平均結晶粒径10μm)からなる集電体の両面に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより電極密度が2.0g/cm3の負極を得た。
<電極群の作製>
正極、厚さ25μmのポリエチレン製の多孔質フィルムからなるセパレータ、負極、セパレータの順番に積層した後、渦巻き状に捲回した。これを90℃で加熱プレスすることにより、幅が30mmで、厚さが3.0mmの偏平状電極群を作製した。得られた電極群を、厚さが40μmのアルミニウム箔とアルミニウム箔の両面に形成されたポリプロピレン層とから構成された厚さが0.1mmのラミネートフィルムからなるパックに収納し、80℃で24時間真空乾燥を施した。
<液状非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)とγ−ブチロラクトン(GBL)が体積比率1:2で混合された混合溶媒に、電解質としてのLiBF4を1.5mol/L溶解することにより液状非水電解質を調製した。上記非水電解質の20℃の粘度は7.1cp(B型粘度計での測定値)であった。
電極群を収納したラミネートフィルムパック内に液状非水電解質を注入した後、パックをヒートシールにより完全密閉し、図1に示す構造を有し、幅が35mmで、厚さが3.2mm、かつ高さが65mmの非水電解質二次電池を作製した。
(実施例2〜7、比較例1〜3)
負極活物質であるチタン酸リチウムを合成する際のボールミル粉砕時間を下記表1に示す如く変更する以外は、実施例1と同様な手法でチタン酸リチウム粉末を合成し、非水電解質二次電池を作製した。負極活物質のpH、比表面積、細孔容積及び平均細孔直径を表1〜2に纏めた。
(参考例8)
1100℃で10時間の焼成により合成したラムステライド型Li2Ti3O7を、直径3mmのジルコニア製ボールをメディアとし、エタノール中で12時間ボールミル粉砕し、粉砕した粉末を500℃で再焼成することによって、平均粒子径が0.88μmで、pH、比表面積、細孔容積及び平均細孔直径が下記表1〜2に示す負極活物質を得た。
(実施例9、10、比較例4)
負極活物質であるチタン酸リチウムを合成する際のボールミル粉砕時間を下記表1に示す如く変更する以外は、参考例8と同様な手法でチタン酸リチウム粉末を合成し、非水電解質二次電池を作製した。負極活物質のpH、比表面積、細孔容積及び平均細孔直径を表1〜2に纏めた。
(比較例5)
比表面積、細孔容積及び平均細孔直径が下記表2に示す値の黒鉛粉末を負極活物質として使用すること以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
(実施例11)
エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)が体積比率1:2で混合された混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1mol/L溶解することにより液状非水電解質を調製した。この非水電解質の20℃の粘度は1.9cpであった。この非水電解質を用いる以外は、実施例4と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
(参考例12及び実施例13〜21)
負極活物質であるチタン酸リチウムを合成する際のボールミル粉砕時間を下記表3に示す如く変更する以外は、実施例1と同様な手法でチタン酸リチウム粉末を合成し、非水電解質二次電池を作製した。負極活物質のpH、比表面積、細孔容積及び平均細孔直径を表3〜4に纏めた。
比較例5以外の実施例、参考例8,12及び比較例の電池に対して、25℃環境下において、2.8Vの定電圧充電で1時間充電した後、0.2Aの低率放電を行い、0.2Aの放電容量を測定した。また、同条件で充電した後、3Aの高率放電を行い、3Aの放電容量を測定した。これらの結果から、0.2A放電容量に対する3A放電容量の比率を求めた。また、同条件で充電した後、600mAで1.5Vまで定電流放電する充放電を繰り返すサイクル試験を行った。充放電サイクル試験の寿命は初期容量の80%まで容量低下したときのサイクル数を寿命とした。測定結果を表2,4に示す。
比較例5の電池に対して、25℃環境下において、4.2Vの定電圧充電で1時間充電した後、0.2Aの低率放電を行い、0.2Aの放電容量を測定した。また、同条件で充電した後、3Aの高率放電を行い、3Aの放電容量を測定した。これらの結果から、0.2A放電容量に対する3A放電容量の比率を求めた。また、同条件で充電した後、600mAで1.5Vまで定電流放電する充放電を繰り返すサイクル試験を行った。充放電サイクル試験の寿命は初期容量の80%まで容量低下したときのサイクル数を寿命とした。測定結果を表2に示す。
表1〜表4の結果から、平均細孔直径が50〜500Åであるリチウムチタン複合酸化物粒子を含む実施例1〜7,9〜11,13〜21の負極活物質は、高率放電特性が70%以上と高く、サイクル寿命が400以上と長いことがわかる。
比較例1及び比較例4のように粉砕を加えずに負極活物質を合成すると、平均細孔直径が500Åを超える大きい値となる。比較例1,4の負極活物質では、微細な細孔が殆ど存在しないために、平均細孔直径が表面のマクロポアのサイズを反映した値となっている。このようなマクロポアは電解液の含浸性を高める働きが低く、高率放電特性及びサイクル性能の双方が低下したと推察できる。
粉砕を加えても比較例2のように短時間で済ませると、微細な細孔の形成量が少ないため、平均細孔直径は50Å未満となる。その結果、電解液の濡れ性が低くなるため、高率放電特性が実施例1〜7,9〜11,13〜21に比して劣ったものとなった。比較例2の条件での粉砕工程の後に再焼成工程を行って合成したのが比較例3の負極活物質である。再焼成工程の追加により、負極活物質のpHは低下したものの、平均細孔直径は変化しなかったため、電池特性は比較例2と変わらなかった。
比較例5の負極活物質は、炭素質物である。負極活物質として炭素質物を使用した場合、平均細孔直径を50Å以上にしても、サイクル特性が実施例1〜7,9〜11,13〜21に比して低くなった。
負極活物質の細孔径分布と電池特性との関係について更に詳しく述べる。
平均細孔直径については、実施例1〜7の比較により、平均細孔直径が100〜500Åの実施例3〜7の負極活物質の方が、平均細孔直径が100Å未満の実施例1,2の負極活物質に比較して高率放電特性とサイクル特性に優れていることがわかる。また、実施例9〜10に示す通り、チタン酸リチウムの組成を変更しても同様な傾向が得られている。
細孔容積については、細孔容積が0.01mL/g以上の実施例1の負極活物質よりも、細孔容積が0.02mL/g以上の実施例2の負極活物質の方が、高率放電特性とサイクル特性に優れている。細孔容積が0.1mL/g以上の実施例4〜7の負極活物質では、700サイクル以上の特に優れたサイクル特性が得られている。これらの結果から、大電流特性とサイクル特性の向上には、細孔容積を0.02mL/g以上にすることが望ましく、さらに好ましい範囲が0.1mL/g以上であることが理解できる。
負極活物質の組成としては、ラムステライド型チタン酸リチウムの実施例9〜10の負極活物質に比較して、スピネル型チタン酸リチウムの実施例1〜7の負極活物質の方がサイクル特性に優れており、スピネル型チタン酸リチウムが望ましいことがわかる。
図7に、Log微分細孔容積分布図(BHJ解析結果(脱着側))を示す。図7から求められる全細孔容積(V)の4倍をBET比表面積(A)で除した値が平均細孔直径である。図中の4曲線は、上から、実施例4、実施例3、実施例2、比較例2の負極活物質に相当する。図から実施例4>実施例3>実施例2>比較例2の順に細孔容積が小さくなることが理解できる。また、この結果とBET比表面積測定結果とから求められる平均細孔直径の大きさもこの序列となった。
実施例1〜7,9〜11,13〜21の負極活物質の凝集状態(一次粒子であるのか二次粒子であるのかの判断)を以下に説明する方法で確認した。
一次粒子と二次粒子の判断は、活物質を走査型電子顕微鏡(SEM)あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて、観察を行えば判断できる。更に、この顕微鏡観察と粒度分布測定を併用し、両者の結果を照らし合わせることでより確実に判断することができる。二次粒子を形成している場合、顕微鏡観察で確認される一次粒子サイズは粒度分布測定では反映されず、粒度分布測定では二次粒子サイズが反映されるためである。
図9に実施例2のスピネル型チタン酸リチウムの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。前述したレーザ回折による粒度分布測定で求めた平均粒子径は0.8μmであり、写真から確認できる粒子サイズと対応していた。よって、図9のスピネル型チタン酸リチウムは一次粒子で構成されると判断できる。
この方法により実施例1〜7,9〜11,13〜21の負極活物質は、一次粒子で構成されていると判断することができた。よって、実施例1〜7,9〜11,13〜21の負極活物質は、一次粒子の細孔径分布を規定したことにより、非水電解質電池の大電流特性とサイクル特性を改善することができたということができる。図10に、実施例2のスピネル型チタン酸リチウムのX線回折パターンを示す。
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。