JP5597184B2 - 複合構造体及び建築物 - Google Patents

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Description

本発明は、鉄骨構造の中央部と鉄筋コンクリート構造の材端部によって梁や柱等のように長尺状に形成される複合構造体、及びそれが設けられる建築物に関するものである。
梁の長スパン化を目的として梁を軽量化するに際して、中央部を自重の軽い鉄骨構造にし、柱や壁などに接合させる材端部のみ鉄筋コンクリート構造にした複合構造梁が知られている(特許文献1−3参照)。
このような複合構造梁の形式としては、特許文献1,2に開示されているような鉄骨の端部を鉄筋コンクリート構造の材端部に埋め込む埋込み形式、特許文献3に開示されているような鉄骨を埋め込ませない非埋込み形式などがあり、非特許文献1では、これらの構造形式の力学についてモデル化した説明がなされている。
そして、特許文献1には、材端部の主筋と鉄骨とを連結させることなく力学的に一体化させた複合構造梁が開示されている。この複合構造梁においては、材端部の主筋の端部に円盤状の定着板を装着することによって主筋の定着を行っている。また、材端部の始端(鉄骨構造と鉄筋コンクリート構造との境界)と鉄骨の終端において、H形鋼のフランジとウエブに囲まれる部位に支圧プレートを設けることによって鉄骨の材端部からの抜け出しを防ぐ構造が開示されている。
一方、特許文献2には、第5図及び第6図に示されるように、材端部の始端において、鉄骨を挟んだ上下に長方形の定着板を配置し、その定着板に主筋の先端をナットによって接合する構造が開示されている。
特開2005−76379号公報 特開平1−268947号公報 特開2009−215748号公報
社団法人日本建築学会、「鋼コンクリート構造接合部の応力伝達と抵抗機構」、社団法人日本建築学会、2011年2月25日
しかしながら、特許文献1,2に開示された埋込み形式では、埋め込んだ鉄骨によって材端部の鉄筋コンクリートの負担せん断力が増加するという問題がある(非特許文献1、特許文献3の段落0004)。
このため、特許文献1,2には明確に開示されていない部分もあるが、実際にこれらの文献に開示されたような複合構造梁を構築するには、通常に比べて多くのせん断補強筋を材端部に配置しなければならない。特に、材端部の始端付近及び鉄骨の終端付近には、後述するように集中補強筋を配置しなければ鉄筋コンクリートの支圧反力を確保することができない。
このようにせん断補強筋や集中補強筋などの配筋量が増えると、材料費や施工費が増加するだけでなく、コンクリートを隅々まで充填しにくくなったり、バイブレータによる締め固め作業が難しくなったりしてコンクリートの品質に影響を与えるおそれがある。
なお、特許文献3のように鉄骨を材端部に埋め込ませない非埋込み形式は、上述したような材端部の負担せん断力が増加するという問題がないなど、埋込み形式とは異なる力学モデルになるため、2つの構造の詳細について同列に論じることはできない。
そこで、本発明は、鉄骨の一部を材端部に埋め込む埋込み形式において、材端部の負担せん断力の増加を低減できる、又はそれ故に材端部を短くしても既往のこの種の複合構造梁と同程度のせん断補強量で構造設計を成立させることができるために部材を軽量化することが可能な複合構造体、及びそれが設けられる建築物を提供することを目的としている。
前記目的を達成するために、本発明の複合構造体は、鉄骨構造の中央部と鉄筋コンクリート構造の材端部とによって長尺状に形成される複合構造体であって、前記中央部を形成するとともに前記材端部に一部が埋設される鋼材と、前記中央部と前記材端部との境界に配置されるとともに前記鋼材の外周を囲繞するように前記鋼材に溶接される境界プレートと、前記材端部に前記鋼材と略平行に配置されるとともに前記境界プレートに先端が固定される主筋と、前記鋼材及び前記主筋を囲むように軸方向に間隔を置いて複数配置されるせん断補強筋と、前記材端部に充填されるコンクリートとを備えたことを特徴とする。
ここで、前記主筋は前記境界プレートを貫通して先端が前記中央部側に突出するとともに、その先端に装着されるナットを介して前記境界プレートへの固定が行なわれる構成とするのが好ましい。
また、前記鋼材の終端は前記材端部内に配置されるとともに、前記鋼材の終端付近に集中補強筋が配置される構成にすることができる。さらに、前記鋼材の終端に、前記材端部に接合させる部材の内部に埋設されるアンカー部材を取り付けることができる。他方、前記鋼材の終端が、前記材端部に接合させる部材の内部に埋設される構成であってもよい。
また、前記鋼材は一対の平行なフランジがウエブによって連結された部材であるとともに、前記主筋は前記フランジの内側と外側の両方に配置される構成にすることができる。
そして、本発明の建築物は、上記の複合構造体の前記材端部を、鉄筋コンクリート構造の部材に接合させたことを特徴とする。
このように構成された本発明の複合構造体及び建物は、鉄骨構造の中央部と鉄筋コンクリート構造の材端部との境界に、鋼材の外周を囲繞するように境界プレートが配置される。そして、境界プレートと鋼材とが溶接によって一体化されるとともに、材端部の主筋の先端が境界プレートに固定される。
このような構造にすることによって、主筋の定着を行うことができるうえに鋼材の材端部からの抜け出しを防ぐことができる。また、境界プレートの面内剛性により主筋を軸直交方向に拘束することができるので、従来、材端部の始端(中央部側)付近に配置していた集中補強筋を省略することができる。
さらに、境界プレートが鋼材とも主筋とも一体化されていることによって、従来の複合構造梁の構造ではそのすべてが鋼材に伝達されてきたこの位置の存在曲げモーメントの一部を、材端部の鉄筋コンクリートに負担させることができるようになった。すなわち、鋼材と鉄筋コンクリートの負担分が示される曲げモーメント図において、材端部の始端に不連続点(段差)が生じることになり、その結果、材端部の鉄筋コンクリートが負担するせん断力は低下することになって、せん断補強筋の配筋量を低減することが可能になる。
また、材端部のせん断補強筋の配筋量を低減させない場合は、前記不連続点の段差分だけ鉄骨の埋め込み長さを短くしても、従来の複合構造梁と同程度のせん断補強量で構造設計を成立させることができるため、この範囲で鉄骨の埋め込み長さ、ひいては材端部の長さを自由に調整した設計ができる。例えば、材端部を短くした場合は、部材の軽量化を図ることができる。
また、主筋の先端が境界プレートを貫通してナットを介して固定される構成であれば、主筋を境界プレートに確実に固定することができる。さらに、主筋の先端を熱によって劣化させることもない。
そして、鋼材の終端が材端部内に配置される場合は、その終端付近に集中補強筋を配置させることで、後述するてこ機構を成立させるために必要な支圧反力を確保することができる。
一方、鋼材の終端に、材端部に接合させる部材の内部に埋設されるアンカー部材を取り付けることで、鋼材と鉄筋コンクリートの負担分が示される曲げモーメント図において、鋼材の終端にも不連続点(段差)を設けることができ、材端部の鉄筋コンクリートの負担せん断力の増加をさらに抑えることができる。
また、材端部に接合させる部材の内部に鋼材の終端を埋設すれば、終端が材端部内に配置される場合に終端付近に必要となる集中補強筋を省略することができる。
さらに、鋼材のフランジの内側と外側の両方に主筋を配置すれば、境界プレートに生じる面外曲げがフランジの内外に分散されるようになるため、力学的に有利な構造にすることができる。
本発明の実施の形態の複合構造梁の構成を示した説明図である。 柱間に複合構造梁が架け渡された梁柱構造物の構成を説明する斜視図である。 複合構造梁の構成を説明する図であって、(a)は図1のA−A矢視方向で見た断面図、(b)は図1のB−B矢視方向で見た断面図である。 鉄骨の終端を材端部内に埋め込む埋込み形式の複合構造梁の力学モデルを説明する図であって、(a)は力学モデルとてこ機構を説明する図、(b)は曲げモーメント図、(c)はせん断力図である。 従来の複合構造梁の構成と曲げモーメント図とを示した説明図である。 本実施の形態の複合構造梁の構成と曲げモーメント図とを示した説明図である。 実施例1で説明する本実施の形態の複合構造梁の実験結果を示した図である。 実施例1で説明する比較例の複合構造梁の実験結果を示した図である。 実施例2の複合構造梁の構成と曲げモーメント図とを示した説明図である。 実施例3の複合構造梁の構成と曲げモーメント図とを示した説明図である。 実施例4の複合構造梁の構成を示した説明図である。
以下、本発明の実施の形態の複合構造体としての複合構造梁1について図面を参照して説明する。図1,2は、複合構造梁1及びそれが設けられる建築物としての梁柱構造物2の構成を説明する図である。
まず、図2を参照しながら梁柱構造物2の全体構成について説明する。この梁柱構造物2は、鉄筋コンクリート構造の間隔を置いて構築される2本の柱21,21の上部間に、複合構造梁1が架け渡された構成となっている。
この複合構造梁1は、柱21の上部側面に接合させる材端部12と、材端部12,12間の中央部11とによって長尺状に形成される。また、材端部12は鉄筋コンクリート構造であり、中央部11は鉄骨構造となっている。
中央部11を形成する鉄骨3は、一対の平行なフランジ31,32がウエブ33によって連結された鋼材である。例えば、H形鋼材、I形鋼材、溝形鋼材などが使用できる。以下では、H形鋼材によって形成される鉄骨3を適用する場合について説明する。
中央部11は、図1に示すように鉄骨3の露出部3aに相当する。また、鉄骨3の端部は、埋設部3bとして材端部12に埋め込まれる。よって、材端部12は、鉄骨3の埋設部3bが埋め込まれているため、詳細にいえば一部が鉄骨鉄筋コンクリート構造になり得るといえる。
そして、中央部11と材端部12との境界、換言すると材端部12の始端となる端面には、境界プレート4が配置される。
この境界プレート4は、図1のA−A矢視方向で見た断面図である図3(a)に示すように、鉄骨3の外周を囲繞するように配置される。例えば、境界プレート4は、材端部12の端面形状と略同じ長方形の鋼板の中央に、鉄骨3の外形に合わせた穴をくり抜くことによって形成される。
また、境界プレート4とそれに貫通させた鉄骨3とは、溶接41によって接合される。溶接41は、図3(a)に示すように、鉄骨3の全周に沿って行われる。なお、溶接41は、所望する強度に達するのであれば、部分的に行うだけでもよい。
また、鉄骨3の露出部3aと埋設部3bとを別々の鋼材によって形成する場合は、材端部12の端面形状と略同じ長方形の上述したような鉄骨3のくり抜きのない鋼板を境界プレート4にして、その両側から露出部3aと埋設部3bとをそれぞれつき合わせて溶接接合させればよい。
そして、材端部12に埋設される鉄骨3の終端3cは、図1に示すように柱21との接合部より少し中央部11側に位置する。また、材端部12には、鉄骨3と略平行に主筋5A,5B,5C,5D,5E,5Fが配置される。
この主筋5A−5Fの端部(終端)は、柱21の内部に埋設される。図1では、主筋5A−5Fの端部に定着板を装着した形態を図示しているが、これに限定されるものではなく、端部をフック状に加工した形態であってもよい。
材端部12に接合させる柱21は、鉛直方向に立設される複数の主筋21a,・・・と、その外周を囲むとともに鉛直方向に間隔を置いて複数設置されるせん断補強筋21b,・・・と、コンクリート21cとによって、四角柱状に成形される。
そして、主筋5A−5Fの柱21側に突出する部分は、柱21の主筋21a,・・・やせん断補強筋21b,・・・に干渉しないように配置され、コンクリート21cによって一体化される。
一方、主筋5A−5Fの中央部11側の端部となる先端52は、図3(a)に示すように、境界プレート4にナット51を介して固定される。また、図1に示すように境界プレート4を挟んだ材端部12側にもナット51aが装着される。すなわち、2つのナット51,51aで境界プレート4を挟持することによって、主筋5A−5Fの先端52を境界プレート4に固定したことになる。
なお、図1,3に示すように、鉄骨3の上側のフランジ31の上方に配置されるのを主筋5A,・・・、そのフランジ31の両横に配置されるのを主筋5C,5Cとする。また、鉄骨3の下側のフランジ32の下方に配置されるのを主筋5B,・・・、そのフランジ32の両横に配置されるのを主筋5D,5Dとする。さらに、フランジ31の内側となる下方、換言するとウエブ33の上部の両横に配置されるのを主筋5E,5Eとする。そして、フランジ32の内側となる上方、換言するとウエブ33の下部の両横に配置されるのを主筋5F,5Fとする。
これらの主筋5A−5Fは、図1のB−B矢視方向で見た断面図である図3(b)に示すように、材端部12の内部においても鉄骨3の内側と外側の両方に配置される。
そして、鉄骨3及び主筋5A−5Fを囲むようにせん断補強筋6,6が配置される。この図3(b)では、鉄骨3の部分がラップするように左右にずらしてせん断補強筋6,6を配置しているが、これに限定されるものではない。
このようなせん断補強筋6は、図1に示すように複合構造梁1(材端部12)の軸方向に一定の間隔を置いて複数、配置される。このせん断補強筋6の間隔は、材端部12に作用するせん断力に基づいて算定される。なお、後述するように、鉄骨3を埋め込むことによって鉄筋コンクリートが負担するせん断力は割り増しされる。
そして、鉄骨3の終端3c付近には、集中補強筋7が配置される。この集中補強筋7は、他の箇所に設置されるせん断補強筋6の間隔を狭くすることによって形成できる。また、螺旋状に成形された鉄筋を使って集中補強筋7とすることもできる。
次に、本実施の形態の複合構造梁1の作用について、力学モデルを使って説明する。
図4に示した力学モデルは、非特許文献1に記載されている埋込み形式の複合構造梁を説明するためのものである。ここで、鉄骨の露出している部分の長さをLS、鉄骨の材端部に埋設される部分の長さをLbとする。
この力学モデルでは、図4(a)に示すように、鉄骨の先端(自由端)に集中荷重が作用すると、鉄筋コンクリートからの支圧反力に基づく材端部の始端付近を支点とするてこ機構が形成されると考えられる。ここで、自由端からてこの支点までの長さをLB1、支点から鉄骨の終端付近の作用点と仮定する位置までの長さをLB2とする。また、集中荷重の作用点でのせん断力をVとし、支点のせん断力をCB1とすると、鉄骨の終端側の作用点のせん断力はCB1−Vとなる。
この力学モデルに発生する曲げモーメントの分布図を図4(b)に示す。片持ち梁の先端に集中荷重が作用するときの曲げモーメントであるため、全体の曲げモーメント図は一定勾配Vの直角三角形分布となる。
このうち鉄骨が負担する曲げモーメントについて考えると、支点まで(LB1区間)はすべて鉄骨が負担することになり、支点から先(LB2区間)は鉄骨の終端側の作用点の曲げモーメントが0となるように鉄骨の負担分が一定勾配VSfで減少する。そして、鉄骨の負担分以外が鉄筋コンクリートの負担分(勾配VCf)となる。
このように曲げモーメントの分配が決まれば、せん断力も決まることになる。すなわちせん断力は、曲げモーメント図を軸方向に微分することによって求めることができるので、曲げモーメント図の勾配V,VSf,VCfがせん断力の大きさを示すことになる(図4(c)参照)。
そして、埋込み形式の力学モデルの特徴は、図4(c)を見ることによって理解することができる。仮に梁全体が一様な材質によって形成されていれば、せん断力図は図4(c)の鉄骨が露出している区間(LS区間)分と同様に梁先端から固定端までが一定の高さVの長方形分布となる。
これに対して材端部の鉄骨が埋め込まれている部分では、鉄骨が負担する逆方向のせん断力と、鉄筋コンクリートが負担する分のせん断力とが発生することになる。これがいわゆる材端部に鉄骨を埋め込んだことによる負担せん断力の増加である。特に、埋め込む鉄骨の長さが短いと曲げモーメント図の勾配VSf,VCfが大きくなるので、負担せん断力が大幅に増加することになる。
このような力学モデルを成立させるためには、鉄筋コンクリートが材軸直交方向に膨張するような割り裂き破壊に至らないように補強する必要がある。図5は、従来の複合構造梁aの構成を上段に、その曲げモーメント図を下段に示した図である。
この複合構造梁aは、鉄骨a3によって主に形成される中央部a1と、鉄骨a3の端部が埋め込まれる鉄筋コンクリート構造の材端部a2とを有している。また、中央部a1と材端部a2との境界にはプレートが配置されておらず、主筋a5は先端に装着した円盤状の定着板a4によってコンクリートa8に定着される。
そして、上述したてこ機構を成立させるために、材端部a2の始端付近(図4(a)で示した支点の位置)と鉄骨3の終端付近に集中補強筋a7,a7が配置される。また、増加した負担せん断力に対抗させるために、軸方向に間隔を置いて複数のせん断補強筋a6,・・・が配置される。
また、この複合構造梁aに作用するせん断力の大きさは、曲げモーメント図の勾配V,VSf,VCfから算定できる。ここで、勾配VSfから算定されるせん断力が鉄骨a3によって負担される分であり、勾配VCfから算定されるせん断力が鉄筋コンクリートによって負担される分である。よって、せん断補強筋a6の所要量は、VCfに基づいて算定される。
これに対して図6には、本実施の形態の複合構造梁1の構成を上段に、その曲げモーメント図を下段に示した。この曲げモーメント図を見るとわかるように、境界プレート4を設置した材端部12の始端において、図面上でPと示したような段差が生じている。この段差分が、境界プレート4を介して材端部12の鉄筋コンクリートに一部伝達される存在曲げモーメントPに相当する。
ここで、全体の曲げモーメント図は複合構造梁a(図5)と複合構造梁1(図6)とでは同じであるため、Pの段差が生じると、鉄骨分の勾配VSfが減少して勾配VSとなる。また、鉄筋コンクリート分の勾配VCfも減少して勾配VCとなる。
この結果、材端部12の負担せん断力の増加量も従来の境界プレート4がない複合構造梁aに比べて小さくなり、負担せん断力の増加に対抗させるために配置されるせん断補強筋6の配筋量を低減できるようになる。
このように構成された本実施の形態の複合構造梁1及び梁柱構造物2は、鉄骨構造の中央部11と鉄筋コンクリート構造の材端部12との境界に、鉄骨3の外周を囲繞するように境界プレート4が配置される。
そして、境界プレート4と鉄骨3とが溶接41によって一体化されるとともに、材端部12の主筋5A−5Fの先端52が境界プレート4に固定される。このような構造にすることによって、主筋5A−5Fの定着を行うことができるうえに鉄骨3の材端部12からの抜け出しを防ぐことができる。
また、境界プレート4の面内剛性により主筋5A−5Fを軸直交方向に拘束することで割り裂き破壊を防止できるので、これにより近傍の鉄筋コンクリートからの支圧反力を確保することになり、従来の複合構造梁aの材端部a2の始端(中央部a1側)付近に配置していた集中補強筋a7を、本実施の形態の複合構造梁1では省略することができる。
さらに、境界プレート4を配置したことによって材端部12の始端の曲げモーメント図に段差が生じ、材端部12の鉄筋コンクリートの曲げモーメント図の勾配VCも小さくなるため、鉄筋コンクリートが負担するせん断力が減少する。このため、せん断補強筋6の配筋量を従来の埋込み形式の複合構造梁aよりも低減することができる。
このように境界プレート4を使うことで合理的な設計をおこなうことができる。そして、せん断補強筋6や集中補強筋7などの配筋量が低減できれば、材料費や施工費が低減できるうえに、コンクリート8を材端部12の隅々にまで充填したりバイブレータによって締め固めたりする作業がしやすくなって、コンクリートの品質の良い材端部12を構築することができる。
また、コンクリート8を打設するための中央部11と材端部12との境界の型枠は、境界プレート4に兼用させることができるので、型枠の設置や撤去などの作業を省略することができる。
さらに、主筋5A−5Fの先端52が境界プレート4を貫通してナット51,51aによって固定される構成であれば、主筋5A−5Fの先端52を境界プレート4に確実に固定することができる。また、この固定方法であれば、主筋5A−5Fの端部を溶接などの熱によって劣化させることもない。
そして、鉄骨3の終端3cが材端部12内に配置される場合は、その終端3c付近に集中補強筋7を配置することで、てこ機構を成立させるために必要となる鉄筋コンクリートの支圧反力を確保することができる。
また、鉄骨3のフランジ31より上側及びフランジ32より下側と、フランジ31,32の内側との両方に主筋5A,5B,5E,5Fを配置すれば、境界プレート4に生じる面外曲げがフランジ31,32の内外に分散されるようになるため、力学的に有利な構造にすることができる。
以下、前記実施の形態で説明した複合構造梁1の効果を確認した実験結果について、図7,8を参照しながら説明する。
実験は、本実施の形態として図6に示した複合構造梁1について行うとともに、比較のために図5に示した複合構造梁aについても行った。ここで、複合構造梁1と複合構造梁aの相違点は、複合構造梁1には境界プレート4が配置されており、その境界プレート4に主筋5A−5Dの先端52が固定されているのに対して、複合構造梁aにはそれらの構成がない点である。その代わりに複合構造梁aには、主筋a5の先端に定着板a4が装着されるとともに、材端部a2の始端付近にも集中補強筋a7が配置されている。これ以外の構成は、複合構造梁1と複合構造梁aとで同じである。
実験は、図5,6の集中荷重V(黒塗り矢印参照)を作用させた位置(自由端)を上下に繰り返し変位させる、正負交番の静的漸増繰返し載荷によっておこなった。この自由端の変位(mm)を梁の長さ(LS+LC)(mm)で除した値が部材変形角(rad)となる。
そして、複合構造梁1の実験結果を図7に、比較としておこなった複合構造梁aの実験結果を図8に示した。縦軸が図5,6の集中荷重Vに相当するこれらの結果を見ると、境界プレート4のない複合構造梁aは、曲げ降伏前にせん断破壊して耐力が低下していることがわかる。
これに対して本実施の形態の複合構造梁1は、部材変形角が1/100radをやや超過した変形時に、柱21との接合部となる位置で曲げ降伏に至った。この曲げ降伏は設計通りのもので、計算値と実験結果とが一致していることは図からも読み取れる。
また、曲げせん断ひび割れは、境界プレート4のない複合構造梁aの方が複合構造梁1よりも低いせん断力で生じている。また、複合構造梁aは曲げせん断ひび割れが発生した後にひび割れが拡幅してせん断破壊した。
これに対して境界プレート4を配置した複合構造梁1は、曲げせん断ひび割れが卓越することなく曲げ降伏に至った。この結果から、境界プレート4を配置したことによって材端部12の負担せん断力の増大分が低減され、ひび割れの進展を抑えるとともに最終的な破壊形式が従来の複合構造梁aとは異なるものになったといえる。
そして、境界プレート4が配置された本実施の形態の複合構造梁1は、部材変形角が1/15radに至るまで安定した履歴を保つ良好な曲げ性能を示すことが確認できた。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
以下、前記実施の形態の複合構造梁1とは別の形態の複合構造梁1Aについて、図9を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語や同一符号を付して説明する。
前記実施の形態及び実施例1では、境界プレート4を配置した複合構造梁1の構成にすることによって、材端部12の負担せん断力の増加を抑えてせん断補強筋の配筋量を低減することができることを説明した。
これに対して実施例2では、負担せん断力を低減させる代わりに材端部12Aの長さを短くできることについて説明する。すなわち、実施例2の複合構造梁1Aは、図9に示すように、中央部11Aの長さLS1が複合構造梁1の中央部11の長さLSより長く、材端部12Aの長さLC1が複合構造梁1の材端部12の長さLCより短い。また、実施例2の複合構造梁1Aは、せん断補強筋6Aの配置間隔が複合構造梁aのせん断補強筋a6の配置間隔と同程度になる。
このようなせん断補強筋6A及び集中補強筋7の構成とすることによって、複合構造梁aと同程度のせん断力を負担できるようになる。すなわち、図9の下段の曲げモーメント図に示したように、鉄骨の負担分と鉄筋コンクリートの負担分とを複合構造梁aと同じ勾配VSf,VCfにすることができる。
この勾配VSf,VCfは、前記実施の形態で説明した複合構造梁1(図6)の勾配VS,VCよりも大きいため、材端部12Aの長さLC1は材端部12の長さLCより短くできる。
このように材端部12Aのせん断補強筋の配筋量を低減させない場合は、鉄骨3の埋設長さLb1を短くすることができるので、材端部12Aが短くなって複合構造梁1Aの軽量化を図ることができる。
複合構造梁1Aが軽量化できれば、揚重及び設置を容易におこなうことができる。また、使用する揚重機の小型化が可能になるので、施工費が低減できるうえに狭いスペースでも作業できるようになる。
さらに、複合構造梁1Aの自重が小さくなるので、それに接合させる柱21をスリム化することができる。また、さらなる長スパン化が可能になる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
以下、前記実施の形態又は実施例2の複合構造梁1,1Aとは別の形態の複合構造梁1Bについて、図10を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語や同一符号を付して説明する。
前記実施の形態及び実施例1,2で説明した複合構造梁1,1Aは、材端部12,12Aに埋設される鉄骨3の終端3cが、柱21から少し離れた位置にあるだけで、定着させるための部材が特別には設けられていなかった。
この実施例3で説明する複合構造梁1Bは、図10に示すように、中央部11Bと材端部12Bの長さは複合構造梁1(図6)と同じであるが、鉄骨3の終端3cにアンカー部材としてのアンカーボルト9,9が取り付けられている。
すなわち、鉄骨3の終端3cの上下のフランジ31,32間に取付板91が差し渡されており、その取付板91にアンカーボルト9の頭部92が固定される。
一方、アンカーボルト9のフック状に折り曲げられた端部は、材端部12Bを接合させる柱21の内部に埋設される。なお、ここでは端部がフック状に形成されたアンカーボルト9を使って説明するが、これに限定されるものではなく、フック加工に代えて端部に定着板が装着されたアンカー部材であってもよい。
このように鉄骨3の終端3cに取り付けられたアンカーボルト9,9を柱21に埋設させることで、鉄骨3の終端3cを柱21に定着させることができる。そして、図10の下段に示すように、アンカーボルト9,9による定着を行うことによって、鉄骨3の終端3c以降の鉄筋コンクリートが負担する分をアンカーボルト9,9で負担させることができる。
その結果、鉄骨3の終端3cにおいても、曲げモーメント図上でP1と示した段差が生じることになる。ここで、境界プレート4の位置でも曲げモーメント図上でPと示した段差が生じているので、材端部12Bに埋め込まれた鉄骨3の負担するせん断力を示す勾配VS1は、アンカーボルト9,9がない複合構造梁1(図6)の勾配VSに比べてさらに小さくなる。
また、鉄筋コンクリート分の勾配VC1も複合構造梁1(図6)の勾配VCよりも小さくなり、負担せん断力の増加がより減少することになる。このため、複合構造梁1Bのせん断補強筋6B,・・・の配筋量は、アンカーボルト9,9のない複合構造梁1のせん断補強筋6,・・・の配筋量よりも少なくすることができる。
このように、鉄骨3の終端3cに材端部12を接合させる柱21の内部に埋設されるアンカーボルト9,9を取り付けることで、鉄骨3の終端3cにも曲げモーメント図上で大幅な不連続点を設けることができ、鉄骨3を埋設したことによる材端部12Bの負担せん断力の増加を抑えることができる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
以下、前記実施の形態又は他の実施例の複合構造梁1,1A,1Bとは別の形態の複合構造梁1Cについて、図11を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語や同一符号を付して説明する。
前記実施の形態及び実施例1−3で説明した複合構造梁1,1A,1Bは、鉄骨3の終端3cが柱21から少し離れた材端部12,12A,12Bの内部に埋設されていた。
この実施例4で説明する複合構造梁1Cは、図11に示すように、中央部11Cと材端部12Cの長さは複合構造梁1(図6)と同じであるが、鉄骨3Aの終端3cが材端部12Cから突出して柱21の内部に埋設されている。
このように、材端部12Cを接合させる柱21の内部に鉄骨3Aの終端3cを埋設すれば、終端3cが大きな抵抗力を備えた鉄筋コンクリートの塊の中に埋め込まれることになるため、この位置の支圧反力が充分に確保される。よって、終端3c付近には上述したような集中補強筋7を配置する必要はなく、省略することができる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
例えば、前記実施の形態では、鉄筋コンクリート構造の柱21に複合構造梁1を接合した梁柱構造物2について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば鉄筋コンクリート構造の壁に複合構造梁1を接合した建築物であってもよい。
さらに、前記実施の形態及び実施例では、複合構造体として複合構造梁1,1A−1Cについて説明したが、これに限定されるものではなく、例えば柱脚が材端部となる複合構造柱であってもよい。
また、前記実施の形態及び実施例では、境界プレート4を貫通させた主筋5A−5Fの先端52をナット51,51aで固定する構成について説明したが、これに限定されるものではなく、境界プレート4の材端部12側の面に溶接で固定したナットに締結させたり、主筋の先端を境界プレート4に溶接で直接固定したりする構成であってもよい。
1,1A−1C 複合構造梁(複合構造体)
11,11A−11C 中央部
12,12A−12C 材端部
2 梁柱構造物(建築物)
21 柱(材端部に接合させる部材)
3,3A 鉄骨(鋼材)
31,32 フランジ
33 ウエブ
3c 終端
4 境界プレート
41 溶接
5A−5F 主筋
51,51a ナット
52 先端
6,6A,6B せん断補強筋
7 集中補強筋
8 コンクリート
9 アンカーボルト(アンカー部材)

Claims (6)

  1. 鉄骨構造の中央部と鉄筋コンクリート構造の材端部とによって長尺状に形成される複合構造体であって、
    前記中央部を形成するとともに前記材端部に一部が埋設される鋼材と、
    前記中央部と前記材端部との境界に配置されるとともに前記鋼材の外周を囲繞するように前記鋼材に溶接される境界プレートと、
    前記材端部に前記鋼材と略平行に配置されるとともに前記境界プレートに先端が固定される主筋と、
    前記鋼材及び前記主筋を囲むように軸方向に間隔を置いて複数配置されるせん断補強筋と、
    前記材端部に充填されるコンクリートとを備え
    前記鋼材は一対の平行なフランジがウエブによって連結された部材であるとともに、前記主筋は前記フランジの内側と外側の両方に配置されることを特徴とする複合構造体。
  2. 前記主筋は前記境界プレートを貫通して先端が前記中央部側に突出するとともに、その先端に装着されるナットを介して前記境界プレートへの固定が行なわれることを特徴とする請求項1に記載の複合構造体。
  3. 前記鋼材の終端は前記材端部内に配置されるとともに、前記鋼材の終端付近に集中補強筋が配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合構造体。
  4. 前記鋼材の終端に、前記材端部に接合させる部材の内部に埋設されるアンカー部材を取り付けたことを特徴とする請求項3に記載の複合構造体。
  5. 前記鋼材の終端が、前記材端部に接合させる部材の内部に埋設されることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合構造体。
  6. 請求項1乃至のいずれか一項に記載の複合構造体の前記材端部を、鉄筋コンクリート構造の部材に接合させたことを特徴とする建築物。
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