JP5595290B2 - 研磨装置 - Google Patents

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Description

本発明は、研磨具を回転させて研磨対象物に押し付けることにより研磨を行う研磨装置に関する。
溶接面の研磨や、光学機器などの精密装置の表面仕上げなど、様々な分野において研磨工程の自動化が行われている。これらの研磨工程では、一般に、金属または砥石で生成された研磨ホイールあるいはバフなどの研磨具を回転させて研磨対象物に押し付けることにより研磨を行う研磨装置が用いられている。
この研磨具を回転させて研磨対象物に押し付ける研磨装置を用いて自動研磨を行う際、研磨具を研磨対象物に押し付けるための位置制御と、研磨具の回転速度制御とを行う必要がある。そして、研磨具の回転速度制御を行うためのサーボモータを備えた研磨装置や、研磨具の押し付け圧力を測定するセンサを備え、押し付け圧力を制御する研磨装置など、様々なセンサやアクチュエータや制御機構を備えた研磨装置が提案されている。さらには、研磨具を研磨対象物に押し付けるための位置制御と、押し付けた後の圧力制御とを切り換えるなど、制御の切換を行う研磨装置も提案されている。例えば、特許文献1に示される自動バフ研磨装置は、研磨具を研磨対象物に押し付けるための位置制御と、研磨具の押し付け圧力を制御する圧接力制御とを切り換えるように構成されている。
特開平8−276361号公報
しかしながら、様々なセンサやアクチュエータや制御機構を備えた研磨装置は、複雑な制御を行うことが可能であるものの、これらセンサやアクチュエータや制御機構を格納するスペースを必要とするため装置を小型化することができず、また、生産コストが高くなってしまう。
また、制御の切換を行う研磨装置では、制御切換時にショックが生じるおそれがある。すなわち、位置制御から圧力制御に切り換える際に、制御量が急激に変動し、アクチュエータに負担がかかってしまうおそれがある。
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、装置の小型化や省コスト化が可能であり、また、制御の切換によるショックが生じない研磨装置を提供することにある。
この発明は上述した課題を解決するためになされたもので、本発明の一態様による研磨装置は、研磨対象物を研磨可能な研磨具と、該研磨具を回転させる回転駆動部と、前記研磨具を研磨対象物に対して進退させる移動駆動部と、前記研磨具の回転速度に応じて、前記研磨具の回転速度が目標回転速度よりも大きい場合には、前記研磨具が前記研磨対象物に対して進出するように前記移動駆動部を制御し、前記研磨具の回転速度が目標回転速度よりも小さい場合には、前記研磨具が前記研磨対象物に対して後退するように、前記移動駆動部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、検出した前記研磨具の回転速度と目標回転速度との差分である回転速度偏差を算出する回転速度偏差算出部と、前記回転速度偏差に基づいて制御補正量を算出する制御補正量算出部と、予め定めた前記移動駆動部の目標位置と検出した前記移動駆動部の現在位置との差分である位置偏差を算出する位置偏差算出部と、前記位置偏差に基づいて、前記移動駆動部に対する制御指令値を算出する位置制御部とを備え、前記位置偏差又は前記制御指令値のいずれか一方に前記制御補正量が加算されていることを特徴とする。
また、本発明の一態様による研磨装置は、上述の研磨装置であって、前記制御部は、前記研磨対象物に対する前記研磨具の押圧力に応じて変化する該研磨具の回転速度が予め定めた目標回転速度に近づくように、前記移動駆動部を制御することを特徴とする。
また、本発明の一態様による研磨装置は、上述の研磨装置であって、前記制御補正量算出部は、前記回転速度偏差に予め定めたゲインを乗算したゲイン乗算後回転速度偏差を算出するゲイン乗算部を有し、前記ゲイン乗算後回転速度偏差を前記制御補正量としていることを特徴とする。
また、本発明の一態様による研磨装置は、上述の研磨装置であって、前記制御補正量算出部は、前記ゲイン乗算後回転速度偏差が入力される積分特性フィルタをさらに備え、前記ゲイン乗算後回転速度偏差に代えて、前記積分特性フィルタの出力を前記制御補正量としていることを特徴とする。
また、本発明の一態様による研磨装置は、上述の研磨装置であって、前記制御補正量算出部は、前記回転速度偏差が所定の閾値以上の場合に、前記ゲインを予め定めた値よりも大きく設定するゲイン設定部を備えることを特徴とする。
また、本発明の一態様による研磨装置は、上述の研磨装置であって、前記制御部は、前記制御補正量算出部の算出する制御補正量が、前記研磨具を前記研磨対象物に対して後退させる制御を示すときに、前記研磨具の後退量を前記制御補正量の示す後退量よりも減少させた調整後制御補正量を出力する制御補正量調整部を備え、前記制御補正量に代えて、前記調整後制御補正量が、前記位置偏差又は前記制御指令値のいずれか一方に加算されていることを特徴とする。
また、本発明の一態様による研磨装置は、上述の研磨装置であって、前記制御補正量調整部は、前記制御補正量が、前記研磨具を前記研磨対象物に対して後退させる制御を示すときに、前記研磨具の後退量を減少させる係数を前記制御補正量に対して乗算して前記調整後制御補正量を算出することを特徴とする。
また、本発明の一態様による研磨装置は、上述の研磨装置であって、前記制御補正量調整部は、前記制御補正量が、前記研磨具を前記研磨対象物に対して所定の上限量以上後退させる制御を示すときに、前記研磨具を前記上限量後退させる制御を示す前記調整後制御補正量を算出することを特徴とする。
また、本発明の一態様による研磨装置は、上述の研磨装置であって、前記制御補正量算出部は、該制御補正量算出部への入力値に比例した値を示す比例要素と、過去に算出された制御補正量に基づく値を示す積分要素とを含む前記制御補正量を算出し、前記過去に算出された制御補正量が、前記研磨具を前記研磨対象物に対して後退させる制御を示すときに、前記積分要素の影響を小さくした前記制御補正量を算出することを特徴とする。
また、本発明の一態様による研磨装置は、上述の研磨装置であって、前記制御補正量算出部は、所定時間前に算出された制御補正量が、前記研磨具を前記研磨対象物に対して後退させる制御を示すときに、該所定時間前に算出された制御補正量に基づく値を示す積分要素を除外した前記制御補正量を算出することを特徴とする。
また、本発明の一態様による研磨装置は、上述の研磨装置であって、前記制御補正量算出部は、所定時間前に算出された制御補正量が、前記研磨具を前記研磨対象物に対して所定量以上後退させる制御を示す場合、前記所定時間前に算出された制御補正量を前記所定量に置き換えて、制御補正量を算出することを特徴とする。
また、本発明の一態様による研磨装置は、上述の研磨装置であって、前記制御補正量算出部は、前記研磨具の回転速度と目標回転速度と偏差に基づいて、前記偏差が大きいほど前記所定量を大きくすることを特徴とする。
本発明によれば、研磨装置の小型化や省コスト化が可能であり、また、制御の切換によるショックが生じない。
本発明の一実施形態における研磨装置の概略構成を示す構成図である。 同実施形態において、制御部が制御指令値を算出する処理手順を示すフローチャートである。 同実施形態において、不感帯処理部が不感帯処理に用いる関数の例を示す図である。 同実施形態において、リミッタ処理部がリミッタ処理部に用いる関数の例を示す図である。 同実施形態において、フィルタ部が備えるディジタルフィルタの特性を示すボード線図である。 研磨装置にて配管内部を研磨するための実施例を示す図である。 同実施例において得られた、研磨具の回転速度、および、研磨具の位置を示す図である。 本発明の第2の実施形態における研磨装置の概略構成を示す構成図である。 同実施形態において、ゲイン設定部がゲイン乗算部に設定するゲインの例を示す図である。 同実施形態において、制御部が制御指令値を算出する処理手順を示すフローチャートである。 本発明の第3の実施形態における研磨装置の概略構成を示す構成図である。 本発明の第4の実施形態における研磨装置の概略構成を示す構成図である。 本発明の第5の実施形態における研磨装置の概略構成を示す構成図である。 同実施形態における制御補正量と調整後制御補正量との関係を示す図である。 シミュレーションによって得られた、研磨装置の回転速度が振動する動作例を示す図である。 同実施形態におけるシミュレーションで得られた研磨装置の動作例を示す図である。 本発明の第6の実施形態における制御補正量と調整後制御補正量との関係を示す図である。 同実施形態におけるシミュレーションで得られた研磨装置の動作例を示す図である。 本発明の第7の実施形態における変数Y[m]の値と関数g(Y[m])の値との関係を示す図である。 研磨装置の回転速度が振動する動作例のシミュレーションにおける、フィルタ特性を示す式の各項目の値を示す図である。 同実施形態におけるシミュレーションで得られた研磨装置の動作例を示す図である。 図21で説明したシミュレーションにおいて、目標回転速度を変化させた際の研磨装置の動作例を示す図である。 本発明の第8の実施形態における変数Y[m]の値と関数g(Y[m])の値との関係を示す図である。 同実施形態における変数Δωの値と変数σの値との関係を示す図である。
<第1の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態における研磨装置1の概略構成を示す構成図である。同図において、研磨装置1は、研磨具11と、回転軸12と、回転駆動部13と、測定部14と、移動駆動部15と、移動軸16と、エアホース17と、台座18と、制御部20とを具備する。制御部20は、目標回転速度記憶部210と、回転速度算出部220と、回転速度偏差算出部230と、制御補正量算出部240と、不感帯処理部250と、リミッタ処理部260と、目標位置記憶部310と、総合目標位置算出部320と、総合位置偏差算出部330と、位置制御部340とを具備する。制御補正量算出部240は、ゲイン乗算部241と、フィルタ部(積分特性フィルタ)242とを具備する。
研磨具11は、例えば金属または砥石で生成された研磨ホイールあるいはバフであり、研磨面f1にて研磨対象物を研磨する。
回転駆動部13は、エアホース17にて供給される空気により、ほぼ一定のトルクを生じさせるエアモータを備え、回転自由に支持する回転軸12をエアモータのトルクで回転させることにより、研磨具11を回転させる。なお、回転駆動部13が、電動モータなどエアモータ以外の動力源を備えてトルクを生じさせるようにしてもよい。
回転軸12は、研磨具11の中心部分にて研磨具11を支持する軸であり、回転駆動部13の生じさせるトルクを研磨具11に伝達して研磨具11を回転させる。
測定部14は、角度センサを備え、回転軸12の回転角度を測定する。本実施形態では、回転軸12の回転角度と研磨具11の回転角度とは一致しており、回転軸12の回転速度と研磨具11の回転速度とは一致している。したがって、回転軸12の回転角度を測定することにより、研磨具11の回転速度を制御し得る。
移動駆動部15は、移動軸16を長手方向に進退可能に支持し、制御部20からの制御指令値に従って、移動軸16の長手方向に加力して当該移動軸を進退させることにより、研磨具11を研磨対象物に対して進退させる。
移動軸16は、回転駆動部13を支持する軸であり、移動駆動部15からの加力により長手方向に進退することで、回転駆動部13と回転軸12と研磨具11とを移動させる。あるいは、研磨具11が研磨対象物に接しているときは、移動駆動部15からの加力により研磨具11を研磨対象物に押し付ける。
エアホース17は、回転駆動部13に接続されるホースであり、エアコンプレッサから供給される空気を回転駆動部13に供給する。台座18は、移動駆動部15を支持する。
制御部20は、研磨具11の位置制御と、研磨具11の研磨対象物への押し付け量の制御による研磨具11の回転速度制御とを同時に行う。そのために、制御部20は、位置制御における偏差を、回転速度制御における偏差に基づいて補正し、補正した偏差に基づいて制御指令値を算出して移動駆動部15に出力する。具体的には、制御部20は、研磨具11の回転速度が目標回転速度よりも大きい場合には、研磨具11が研磨対象物に対して進出するように移動駆動部15を制御し、研磨具11の回転速度が目標回転速度よりも小さい場合には、研磨具11が研磨対象物に対して後退するように移動駆動部15を制御する制御指令値を出力する。制御部20は、制御指令値として、例えば、移動駆動部15が移動軸16に加えるべき力の大きさを示す指令値を出力する。
目標回転速度記憶部210は、研磨具11の回転速度の目標値を示す定数である、予め定めた目標回転速度を記憶する。
回転速度算出部220は、測定部14が測定する回転軸12の回転角度を微分(擬似微分)して、回転軸12の回転速度(角速度)を算出する。
回転速度偏差算出部230は減算器であり、目標回転速度記憶部210の記憶する目標回転速度から、回転速度算出部220の算出する回転軸12の回転速度を減算した回転速度偏差を算出する。
制御補正量算出部240は、回転速度偏差算出部230が算出する回転速度偏差に基づいて、研磨具11に対する積分制御を行うための制御補正量を算出する。
ゲイン乗算部241は乗算器を備え、回転速度偏差算出部230から出力される回転速度偏差に、ゲインを乗算する。ここでのゲインは、例えば予め設定される定数である。
フィルタ部242はディジタルフィルタを備え、ゲインを乗算された回転速度偏差に対してフィルタ処理を行って、前記研磨具11に対する積分制御を行うための制御補正量を算出する。
不感帯処理部250は、フィルタ部242から出力される制御補正量に対して、ハンチング防止のための不感帯を設ける不感帯処理を行う。
リミッタ処理部260は、制御指令値の過剰な変化を防止するために、不感帯処理された制御補正量を一定範囲内に丸め込むリミッタ処理を行う。
なお、後述するように、制御部20が、不感帯処理部250およびリミッタ処理部260を具備しなくてもよい。この場合、フィルタ部242は、算出した補正制御量を目標位置記憶部310に出力する。
目標位置記憶部310は、研磨具11を研磨対象物に接する向きに移動させる際の、研磨具11の位置の目標値を示す定数である、予め定めた目標位置を記憶する。
総合目標位置算出部320は加算器であり、目標位置記憶部310が記憶する目標位置に、リミッタ処理部260がリミッタ処理した制御補正量を加算した総合目標位置を算出する。
総合位置偏差算出部330は減算器であり、研磨具11の現在の位置(以下では、「実位置」と称する)を前記総合目標位置から減算した総合位置偏差を算出する。
位置制御部340は、総合位置偏差算出部330から出力される総合位置偏差に基づいて、例えばPID制御による制御指令値を算出して移動駆動部15に出力する。
次に、図2を参照して、制御部20の動作について説明する。
図2は、制御部20が制御指令値を算出する処理手順を示すフローチャートである。制御部20は、研磨装置1が動作する間、同図の処理を随時行って移動駆動部15に制御指令値を出力し続ける。
ステップS101〜S106では、研磨具11の回転速度を制御するための制御補正量を算出する。より具体的には、回転速度が目標回転速度に達していない場合(アンダースピードの場合)は、位置制御における目標位置を、研磨具11を後退させる向きに変位させる制御補正量を算出する。一方、回転速度が目標回転速度を超えている場合(オーバースピードの場合)は、位置制御における目標位置を、研磨具11を前進させる向きに変位させる制御補正量を算出する。
まず、回転速度算出部220が、測定部14から出力される回転軸12の回転角度測定値を微分して回転軸12の回転速度を算出する(ステップS101)。たとえば、回転速度算出部220は擬似微分回路を備え、回転軸12の回転角度測定値を擬似微分回路に入力して回転速度を算出する。なお、測定誤差の影響を軽減するため、回転速度算出部220が、測定部14からの回転角度測定値(例えば5点分)の移動平均をとってデータを平滑化するようにしてもよい。回転速度算出部220は、算出して回転速度を回転速度偏差算出部230に出力する。
次に、回転速度偏差算出部230が、目標回転速度記憶部210から目標回転速度を読み出し、回転速度算出部220から出力される回転速度から目標回転速度を減算して、回転速度偏差を算出する(ステップS102)。回転速度偏差算出部230は、算出した回転速度偏差をゲイン乗算部241に出力する。
そして、ゲイン乗算部241は、回転速度偏差算出部230から出力される回転速度偏差に、予め記憶するゲインを乗算する(ステップS103)。ゲイン乗算部241は、乗算結果をフィルタ部242に出力する。
また、フィルタ部242は、ゲイン乗算部241から出力される、ゲインを乗算された回転速度偏差に対してフィルタ処理を行って、前記研磨具11に対する積分制御を行うための制御補正量を算出する(ステップS104)。
次に、不感帯処理部250は、フィルタ部242から出力される制御補正量に対して、ハンチング防止のための不感帯を設ける不感帯処理を行う(ステップS105)。
図3は、不感帯処理部250が不感帯処理に用いる関数の例を示す図である。不感帯処理部250は、図3に示すように、フィルタ部242からの制御補正量が「0」に近い場合に、出力値を「0」とする。不感帯処理部250は、不感帯処理を行った制御補正量をリミッタ処理部260に出力する。
そして、リミッタ処理部260は、制御指令値の過剰な変化を防止するために、不感帯処理部250から出力される不感帯処理された制御補正量を一定範囲内に丸め込むリミッタ処理を行う(ステップS106)。
図4は、リミッタ処理部260がリミッタ処理部に用いる関数の例を示す図である。リミッタ処理部260は、図4に示すように、入力される制御補正量が所定の最大値以上の場合に最大値に丸め込み、所定の最小値未満の場合に最小値に丸め込む。リミッタ処理部260は、リミッタ処理を行った制御補正量を総合目標位置算出部320に出力する。
ステップS107〜S109では、位置制御における偏差(目標値と現在値との差)に、ステップS101〜S106にて算出した回転速度制御のための制御補正量を加え、PID制御による制御指令値を算出する。
まず、総合目標位置算出部320は、目標位置記憶部310から目標位置を読み出し、リミッタ処理部260から出力されるリミッタ処理された制御補正量を目標位置に加算して、総合目標位置を算出する(ステップS107)。ここで、目標位置記憶部310の記憶する目標位置は、研磨具11が研磨対象物に接する位置、あるいは、それよりも手前(移動駆動部15側)の位置に設定されている。研磨具11が研磨対象物に接した後、研磨具11の回転速度制御を行う際に、位置制御からの干渉を抑えるためである。総合目標位置算出部320は、算出した総合目標位置を総合位置偏差算出部330に出力する。
次に、総合位置偏差算出部330は、総合目標位置から研磨具11の実位置を減算して総合位置偏差を算出する(ステップS108)。具体的には、まず、移動駆動部15が、移動軸16を移動させた距離に基づいて、研磨具11の実位置を測定または算出して総合位置偏差算出部330に出力する。そして、総合位置偏差算出部330は、総合目標位置算出部320から出力される総合目標位置から、移動駆動部15から出力される実位置を減算して総合位置偏差を算出する。総合位置偏差算出部330は、算出した総合位置偏差を位置制御部340に出力する。
そして、位置制御部340は、総合位置偏差算出部330から出力される総合位置偏差に基づいて、PID制御による制御指令値を算出する(ステップS109)。位置制御部340は、算出した制御指令値を移動駆動部15に出力する。
次に、図5を参照して、フィルタ部242の行うフィルタ処理について説明する。
図5は、フィルタ部242が備えるディジタルフィルタの特性を示すボード線図である。同図の線Aは、式(1)で表現されるフィルタ(以下、「式(1)のフィルタ」と称する。式(2)、式(3)についても同様)の特性を示す。
Figure 0005595290
ここで、sはラプラス演算子を表す。また、線B1は、式(2)のフィルタの特性を示す。
Figure 0005595290
また、線B2は、式(3)のフィルタの特性を示す。
Figure 0005595290
まず、フィルタ部242の必要性について説明する。
前述したように、目標位置記憶部310の記憶する目標位置は、0以上、かつ、研磨具11が研磨対象物に接するまでに移動する位置以下の値に設定されている。特に、移動駆動部15から研磨対象物までの位置が変化する場合、目標位置は研磨具11が研磨対象物に接するまでに移動する位置よりも小さく設定されている。したがって、仮に、目標位置と実位置とにもとづく位置制御のみを行ったとすると、実位置が目標位置に到達した時点で、研磨具11が研磨対象物に接しないまま、研磨具11は移動しなくなってしまう。
一方、位置制御と同時に回転速度制御も行う場合、総合目標位置算出部320が、回転速度制御ための制御補正量を目標位置に加算することにより、実位置が目標位置に到達した後も、研磨具11が移動し得る。しかし、この場合、実位置が目標位置に到達した後も、研磨具11が移動するにつれて、移動制御部15から出力される実位置も研磨対象物側の位置に変化する。そして、この実位置は、位置制御部340に入力される総合位置偏差に反映される。このため、研磨具11は、制御補正量に相当する位置に移動すると、研磨具11が研磨対象物に接しない状態でも移動しなくなってしまう。
そこで、制御部20はフィルタ部242を備え、研磨具11に対する積分制御を行うことにより、研磨具11が研磨対象物に接するように制御する。なお、ここでいう積分制御とは、偏差のある状態が長時間継続するほど、制御指令値を大きく変化させる制御である。
次に、フィルタ部242に適したフィルタ特性について説明する。
フィルタ部242に適したフィルタ特性について調べるため、本願発明者は、式(2)、式(3)、式(1)の順にフィルタを設定して用いて実験を行った。
まず、フィルタ部242のフィルタを式(2)に設定する前の段階で、フィルタ部242に入力される信号を観察したところ、1Hz(ヘルツ)前後で発振していた。そこで、位相を確保して当該発振を防ぐため、3[rad/s(ラジアン毎秒)](0.5Hz)をカットオフとした2次のローパスフィルタ状のフィルタを採用し、式(2)に設定するに至った。さらに、ゲイン乗算部241のゲインを大きくすることにより、低域のゲインを大きくした。当該フィルタにて、目標回転速度にて研磨具11が研磨する良好な結果が得られた。ただし、低域のゲインが無限大とならない(収束する)ため、目標位置の設定によっては、研磨具11が研磨対象物と接しないまま移動しなくなってしまう現象が見受けられた。
なお、式(2)の分子を3倍の162にしてフィルタを設定すると、2〜3Hzの振動が大きくなった。
次に、研磨具11が研磨対象物と接しないまま移動しなくなってしまう現象を解消するために、低域のゲインが無限大となる、式(3)のフィルタを用いた。この場合、0.1Hz付近でゆっくりとした発振が見受けられた。
そこで、式(3)に近い特性を有しつつ、1[rad/s](0.16Hz)以下での位相遅れを緩和させて、式(1)に設定するに至った。当該フィルタにて、目標回転速度にて研磨具11が研磨する良好な結果が得られた。また、研磨具11が研磨対象物と接しないまま移動しなくなってしまう現象も解消された。なお、式(1)では、一般的な積分特性よりも高域のゲインを20dB(デシベル)程度小さくして、高域の振動を抑制している。また、ゲイン乗算部241のゲインは、0.006としている。
次に、図6、7を参照して、研磨装置1を用いた実施例、および、当該実施例にて測定されたデータについて説明する。
図6は、研磨装置1にて配管内部を研磨するための実施例を示す図である。同図において、研磨装置1の台座18は、円盤状の台Bに固定されている。そして、台Bが、配管Pの内部で回転することにより、研磨装置1は、配管Pの内側を周回しながら研磨(全周研磨)を行う。
ここで、台Bの中心と配管Pの中心とは一致しない(偏芯している)ため、台Bが回転するにつれて、移動駆動部15から配管Pの研磨対象物までの位置が変化する。そこで、移動駆動部15は、研磨対象物までの位置に応じて、研磨具11の位置を変化させる必要がある。
図7は、本実施例において得られた、研磨具11の回転速度、および、研磨具11の位置(移動駆動部15からの加力により、研磨対象物に向けて進出した位置)を示す図である。同図の線Rは回転速度を示し、線Dは位置を示す。なお、時刻t1は、制御部20による制御を開始した時刻を示している。また、時刻t2は、制御が終了した時刻を示す。時刻t2では、台Bが1周回転して研磨装置1が元の位置に戻った状態にある。線Rにより、時刻t1以降、研磨具11の回転速度が、回転速度目標値RTの近傍に、変化幅Wの範囲内で収束する様子が示されている。
同図に示される、回転速度の変化幅Wは、目標回転速度RTから、およそ±1%(プラスマイナス1パーセント)の範囲内に収まっていた。従って、研磨具11の回転速度制御が良好に行われていることが確認できた。
また、線Dは、ほぼサインカーブを描いている。これは、台Bの回転に伴って研磨具11の位置が変化し、研磨具11が配管Pの内側に接する状態が維持されていることを示している。このように、研磨具11の位置制御も良好に行われている。
以上により、研磨装置1にて良好に研磨を行えること、および、図5で説明したフィルタの有効性が示された。
なお、本実施例では、制御部20は、不感帯処理部250と、リミッタ処理部260とを具備せず、フィルタ部242は、生成した制御補正量を直接総合目標位置算出部320に出力している。研磨具11と研磨対象物との摩擦や、研磨具11の位置などの条件にもよるが、このように、制御部20が、不感帯処理部250と、リミッタ処理部260とを具備しない構成でも、良好な結果を期待できる。
なお、目標位置記憶部310の記憶する目標位置が、研磨具11が研磨対象物に接する位置に近い場合は、制御部20がフィルタ部242を具備しなくてもよい。この場合、ゲイン乗算部241は、回転速度偏差にゲインを乗算した乗算結果を不感帯処理部250に出力する。
以上のように、研磨装置1は、研磨具11の研磨対象物への押し付け量(移動駆動部15が研磨具11に対して加える力の強さ)にて、研磨具11の回転速度を制御するので、回転速度制御用のサーボモータ等を必要とせず、装置構成を簡単化できる。これにより、装置の小型化や省コスト化が可能である。
また、位置制御と回転速度制御の切換など、制御の切換を必要としないので、切換によるショックが生じない。
また、研磨具11がちびた場合(摩擦で磨り減って小さくなった場合)、単純な位置制御では、研磨具11の押し付け量が減少し、最終的には、研磨具11と研磨対象物とが非接触となってしまう。これを解消するためには、目標位置を設定し直す必要があり、ユーザに目標位置再設定の負担が生じてしまう。
これに対して、本実施形態の研磨装置1では、研磨具11がちびると研磨具11の回転速度が大きくなり、移動駆動部15は、制御部20からの指示に従って、研磨具11に対して研磨対象物に押し付けるように加力する。これにより、目標位置の再設定など、ユーザ操作を必要とせずに、研磨具11がちびた場合にも研磨具11の押し付け量および研磨具11の回転速度を一定に保つことができる。
<第2の実施形態>
図8は、本発明の第2の実施形態における研磨装置2の概略構成を示す構成図である。同図において、図1の各部に対応し、同様の機能を有する部分には、同一の符号(11〜18、210、220、230、241、242、250〜340)を付して説明を省略する。
図8の研磨装置2は、制御部40の制御補正量算出部440が、ゲイン設定部443を備える点で、図1の研磨装置1と異なる。
ゲイン設定部443は、回転速度偏差に応じて、ゲイン乗算部241が回転速度偏差に乗算するゲインを調節する。
図9は、ゲイン設定部443がゲイン乗算部241に設定するゲインの例を示す図である。同図のように、ゲイン設定部443は、回転速度偏差が所定の閾値以上の場合は、ゲインを大きくする。したがって、ゲイン設定部443は、研磨具11が研磨対象物から離れており、回転速度偏差が大きい場合に、ゲインを大きくする。これにより、移動駆動部15の移動軸16に対する加力を大きくして、研磨具11が、より速く研磨対象物に接するようにできる。
一方、回転速度偏差が閾値未満の場合は、ゲインを一定値(回転速度偏差が閾値以上の場合よりも小さい値)に設定する。したがって、ゲイン設定部443は、研磨具11が研磨対象物に押し付けられて、回転速度偏差が小さくなった場合に、ゲインを小さくする。これにより、研磨具11の研磨対象物への押し付け量を安定させ、研磨具11の回転速度を安定させることができる。
図10は、研磨装置2の制御部40が制御指令値を算出する処理手順を示すフローチャートである。同図のステップS201〜S202は、図2のステップS101〜S102と同様である。
ステップS203において、ゲイン設定部443は、回転速度偏差が閾値未満か否かを判定する。閾値未満であると判定した場合(ステップS203:YES)、ゲイン設定部443は、ゲインを一定値Kに設定し(ステップS211)、ステップS221に進む。
一方、ステップS203において、閾値以上であると判定した場合(ステップS203:NO)、ゲイン設定部443は、ゲインをKよりも大きい値に設定し(ステップS212)、ステップS221に進む。
例えば、ゲイン設定部443は、式(4)によりゲインKを算出してゲイン乗算部241に設定する。
Figure 0005595290
ここで、aは定数を示し、Θ’は閾値を示し、θ’は、回転速度偏差を示す。
ステップS221〜S227は、図2のステップS103〜S109と同様である。
<第3の実施形態>
図11は、本発明の第3の実施形態における研磨装置3の概略構成を示す構成図である。同図において、図1の各部に対応し、同様の機能を有する部分には、同一の符号(11〜18、210、220、230、241、250〜340)を付して説明を省略する。
図11の研磨装置3において、制御部60は、フィルタ部242を具備しない点で、図1の制御部20と異なる。また、制御部60は、総合位置偏差算出部330に代えて位置偏差算出部630を具備する。そして、位置偏差算出部630の位置(図1では総合位置偏差算出部330)と位置制御部340の位置とが制御部20と異なる。また、制御部60は、総合目標位置算出部320に代えて制御指令値補正部620を具備する点で、制御部20と異なる。
制御部60では、位置偏差算出部630は、移動駆動部15から出力される実移動量を取得し、目標位置記憶部310から読み出す目標位置から実移動量を減算して位置偏差を算出し、位置制御部340に出力する。位置制御部340は、位置偏差算出部630から出力される位置偏差に基づいて、PID制御による研磨具11の位置制御の制御指令値を算出して制御指令値補正部620に出力する。
また、目標回転速度記憶部210〜リミッタ処理部260は、フィルタ部242によるフィルタリングを行わない点を除いて図2の目標回転速度記憶部210〜リミッタ処理部260と同様の制御補正量(ゲイン乗算後回転速度偏差)を算出して制御指令値補正部620に出力する。
制御指令値補正部620は、位置制御部340からの制御指令値に制御補正量と加算する補正を行って、補正された制御指令値を移動駆動部15に出力する。
以上により、研磨装置3は、第1の実施形態の研磨装置1と同様、研磨具11の研磨対象物への押し付け量にて、研磨具11の回転速度を制御する。したがって、回転速度制御用のサーボモータ等を必要とせず、装置構成を簡単化できる。これにより、装置の小型化や省コスト化が可能である。
また、研磨装置1と同様、位置制御と回転速度制御の切換など、制御の切換を必要としないので、切換によるショックが生じない。
さらに、研磨装置1と同様、目標位置の再設定など、ユーザ操作を必要とせずに、研磨具11がちびた場合にも研磨具11の押し付け量および研磨具11の回転速度を一定に保つことができる。
なお、第1の実施形態の場合と同様、制御部60がフィルタ部242を具備するようにしてもよい。これにより、第1の実施形態の場合と同様、目標位置記憶部310の記憶する目標位置と、研磨具11が研磨対象物に接する位置との間の差が大きい場合にも、研磨具11が研磨対象物に接するように制御できる。
<第4の実施形態>
図12は、本発明の第4の実施形態における研磨装置4の概略構成を示す構成図である。同図において、図11の各部に対応し、同様の機能を有する部分には、同一の符号(11〜18、210、220、230、241、250〜340、620)を付して説明を省略する。
図12の研磨装置4は、制御部80が、ゲイン設定部443を備える点で図11の研磨装置3と異なる。このゲイン設定部443は、第2の実施形態で説明したゲイン設定部443と同様であり、同一の符号(443)を付して説明を省略する。
第2の実施形態の研磨装置2と同様、研磨装置4では、回転速度偏差が大きい場合には、ゲイン設定部443が、ゲインを大きくする。これにより、移動駆動部15の移動軸16に対する加力を大きくして、研磨具11が、より速く研磨対象物に接するようにできる。
また、研磨装置2と同様、研磨装置4では、ゲイン設定部443は、研磨具11が研磨対象物に押し付けられて、回転速度偏差が小さくなった場合には、ゲインを小さくする。これにより、研磨具11の研磨対象物への押し付け量を安定させ、研磨具11の回転速度を安定させることができる。
<第5の実施形態>
図13は、本発明の第5の実施形態における研磨装置5の概略構成を示す構成図である。同図において、図1の各部に対応し、同様の機能を有する部分には、同一の符号(11〜18、210〜340)を付して説明を省略する。
図13の研磨装置5は、制御部91が、制御補正量調整部911を備える点で、図1の研磨装置1と異なる。
制御補正量調整部911は、制御補正量算出部240の算出する制御補正量が、研磨具11を研磨対象物に対して後退させる制御を示すときに、制御補正量に係数を乗算することによって、研磨具11の後退量を制御補正量の示す後退量よりも減少させた調整後制御補正量を算出して出力する。
なお、以下では、研磨具11を研磨対象物に対して後退させる方向を「引き方向」と称し、研磨具11を研磨対象物に対して前進させる方向を「押し方向」と称する。
次に、制御補正量調整部911の算出する調整後制御補正量について、図14を参照して説明する。
図14は、制御補正量と調整後制御補正量との関係を示す図である。同図の横軸は、制御補正量算出部240が制御補正量調整部911に出力する制御補正量^Y(「^Y」はYハットを示す。以下同様)を示し、縦軸は、制御補正量調整部911が不感帯処理部250に出力する調整後制御補正量Yを示す。また、cは0≦c<1の定数である。
なお、同図において、制御補正量^Yおよび調整後制御補正量Yは、引き方向の制御を正の値として示されている。すなわち、制御補正量^Yが正の値の場合、その絶対値が大きいほど(同図に向かって右側ほど)研磨具11の後退量を大きくする制御を示す。逆に、制御補正量^Yが負の値の場合、その絶対値が大きいほど(同図に向かって左側ほど)研磨具11の前進量を大きくする制御を示す。また、調整後制御補正量Yが正の値の場合、その絶対値が大きいほど(同図に向かって上側ほど)研磨具11の後退量を大きくする制御を示す。逆に、調整後制御補正量Yが負の値の場合、その絶対値が大きいほど(同図に向かって下側ほど)研磨具11の前進量を大きくする制御を示す。以下の図においても同様である。
同図に示すように、制御補正量調整部911は、制御補正量^Yが引き方向の制御を示す場合(すなわち、制御補正量^Yが正の値の場合)は、制御補正量^Yの値に定数cを乗算した値を調整後制御補正量Yとして出力する。また、制御補正量調整部911は、制御補正量^Yが押し方向の制御を示す場合(すなわち、制御補正量^Yが負の値の場合)は、制御補正量^Yの値をそのまま調整後制御補正量Yとして出力する。また、制御補正量調整部911は、制御補正量^Yが、研磨具11を研磨対象物に対して進退させないことを示す場合(すなわち、制御補正量^Yの値が「0」の場合)は、調整後制御補正量Yとして「0」を出力する。
この制御補正量調整部911の処理の意義について、図15〜16を参照して説明する。
図15は、シミュレーションによって得られた、研磨装置の回転速度が振動する動作例を示す図である。同図の線L111は、移動駆動部15による研磨具11の駆動量(研磨対象物に対する進退方向への移動量ないし研磨対象物への押し付け量。以下「RC軸変位」と称する)を示し、線L121は、研磨具11の回転速度を示す。
なお、線L121の示す回転速度は、目標回転速度を1とし、無負荷時回転速度を1.2として正規化した値にて示されている。また、線L111の示すRC軸変位は、所定の点を基準にして、押し方向を正方向(図の上方向)として正規化した値にて示されている。また、同図における時刻は、シミュレーション開始時刻からの経過時間にて示されている。以下の図のRC軸変位の表示および研磨具11の回転速度の表示においても同様である。
本願発明者が、図1に示す研磨装置1(但し、不感帯処理部250と、リミッタ処理部260とを備えない。以下の説明において同様)の動作試験を行ったところ、多くの場合に良好な結果を得られたが、一部の場合において、研磨具11の回転速度が目標回転速度に収束せずに振動する現象が見受けられた。
そこで、本願発明者は、この研磨具11の回転速度が振動する場合の研磨装置1の動作をシミュレーションにて再現して、図15に示す結果を得た。なお、シミュレーションにおいても、研磨装置1が、不感帯制御部250と、リミッタ処理部260とを備えない構成とした。また、式(5)に示す離散化された計算式によって、上述の式(3)のフィルタの特性を表現してフィルタ部242とした。
Figure 0005595290
ここで、変数kはサンプリング回数(k番目のサンプリングタイミングにおけるデータであること)を示し、変数Y[i](i=k−2、k−1、k)は、i番目のサンプリングタイミングにおいて、総合目標位置算出部320に出力されるデータ(ここでは、フィルタ部242の出力する制御補正量)を示す。また、変数X[i](i=k−2、k−1、k)は、i番目のサンプリングタイミングにおいて、ゲイン乗算部241からフィルタ部242に出力される、ゲインを乗算された回転速度偏差を示す。また、係数αとαとβとβとβとは、フィルタの特性とサンプリング周期とに基づいて一意に定まる定数である。
なお、このシミュレーションにおいて、機械的な時間遅れを模擬するため、RC軸変位と研磨具11の回転速度の変化との間に無駄時間が設けられている。機械的な時間遅れの要員としては、例えば、研磨具11を引き方向に移動させすぎた場合に、研磨具11が研磨対象物から離れた状態となり、研磨具11が研磨対象物に再び接触するまでRC軸変位が回転速度に影響しなくなることが挙げられる。これに対して、研磨具11を押し方向に移動させる場合は、研磨具11と研磨対象物との機械的バネ剛性が抵抗となって、すなわち、研磨具11の押圧力に対する研磨対象物の応力により研磨具11の前進が抑制され、研磨具11を引き方向に移動させすぎた場合のような長い時間遅れは発生しない。
なお、機械的な時間遅れの影響に関して、機械的な時間遅れを模擬する上述の無駄時間を短くしてシミュレーションを行ったところ、研磨具11の回転速度が目標回転速度に収束することが確認された。
図15の時間t111においては、研磨具11が研磨対象物に接触しており、研磨具11の回転速度は、接触開始直後(時間t111の開始時刻付近)と接触終了直前(時間t111と時間t112との境界付近)を除いて目標回転速度1を下回っている。この時間t111のうち、70秒頃以後において、研磨具11が引き方向に制御され(従って、線L111の示すRC軸変位が減少し)、これに伴って線L112の示す研磨具11の目標回転速度が上昇している。そして、時間t111と時間t112との境界付近において、研磨具11の回転速度が目標回転速度1に到達した後短時間のうちに研磨具11が研磨対象物から離れ、時間t112においては、研磨具11が研磨対象物から離れた状態となっている。この時間t112においては、研磨具11が研磨対象物から離れているため、研磨具11の回転速度は無負荷回転速度1.2となっている。そして、時間t112において、研磨具11が押し方向に制御されて、時間t113では、再び研磨具11が研磨対象物に接触した状態となる。このように、研磨具11が研磨対象物に接触した状態と離れた状態とを繰り返し、これによって研磨具11の回転速度が振動している。
このシミュレーションにおける研磨装置1の動作より、研磨具11の回転速度が振動する要員として、(1)目標回転速度を得られる研磨具11の位置(以下では、研磨具11の「目標位置」と称する)が、研磨具11と研磨対象物とが接触するか離れるかの境界付近にあること、(2)研磨具11が研磨対象物に接触しているか離れているかによって研磨具11の回転速度が大きく変化すること、および、(3)研磨具11の回転速度検出と目標回転速度との偏差が、研磨具11の回転速度の変化に反映されるまでの遅れが挙げられる。さらに、(3)の遅れの要員としては、(3a)上述した機械的な時間遅れのほか、(3b)制御系の応答遅れが挙げられる。
ここで、研磨具11の目標位置の前後において、研磨具11の位置の変化と研磨具11の回転速度とが連続的に変化する関係にあれば、研磨具11の回転速度が目標回転速度に対してオーバーシュートないしアンダーシュートしても目標回転速度に収束することを期待できる。実際に、本願発明者の動作試験において、多くの場合に研磨具11の回転速度が目標回転速度に収束した。
これに対して、このシミュレーションの条件においては、研磨具11の位置が目標位置よりも引き方向に少し移動すると、すなわち、研磨具11の回転速度が目標回転速度よりも少し早くなると(上記(1))、研磨具11の目標回転速度が急激に、いわば離散的に変化して無負荷回転速度1.2となる(上記(2))。そして、上述した機械的な時間遅れにより、この無負荷回転速度の状態が一定時間維持され(上記(3a))、この無負荷回転速度に基づいて研磨具11を押し方向に制御する制御指令値が積分される。そして、この積分された制御指令値に基づく積分制御や、制御ゲインを低く設定していることによる応答の低さにより、研磨具11の回転速度が目標回転速度に達し、さらには目標回転速度よりも遅くなった後もしばらくの間、制御部20は、研磨具11を押方向に移動させる制御指令値を出力し続け(上記(3b))、研磨具11は研磨対象物に強く押し付けられる。このようにして、シミュレーションの条件の下では、研磨装置1は、研磨具11を研磨対象物から離した状態と、研磨具11を研磨対象物に強く押し付けた状態とを繰り返し、研磨具11の回転速度が振動してしまうと考えられる。
この振動を解消するため、制御補正量調整部911は、図14で説明したように、研磨具11を引き方向に制御する際に、制御補正量算出部240の出力する制御補正量^Yに0≦c<1の定数を乗算する。これにより、研磨具11が引き方向に移動する際の制御量が抑制され、研磨具11が研磨対象物から離れなくなることが期待される。そこで、本願発明者は、シミュレーションによって研磨装置5の動作を確認した。
図16は、このシミュレーションで得られた研磨装置5の動作例を示す図である。同図の線L211、L212、L213は、それぞれ、定数cの値が0.9、0.6、0.3の場合のRC軸変位を示し、線L221、L222、L223は、それぞれ、定数cの値が0.9、0.6、0.3の場合の研磨具11の回転速度を示す。
図15で説明したシミュレーションにおいて、式(5)で説明した計算式を式(6)に示す計算式に置き換えてフィルタ部242と制御補正量調整部911とすることにより、研磨装置5の構成(研磨装置1の動作試験およびシミュレーションと同様、研磨装置5は、不感帯処理部250とリミッタ処理部260とを備えない)としたところ、図16に示す動作例が得られた。
Figure 0005595290
ここで、変数kは、式(5)の場合と同様、サンプリング回数を示す。また、変数^Y[k]は、k番目のサンプリングタイミングにおいて、フィルタ部242が制御補正量調整部911に出力する制御補正量を示す。また、変数Y[i](i=k−2、k−1、k)は、i番目のサンプリングタイミングにおいて、総合目標位置算出部320に出力されるデータ(ここでは、制御補正量調整部911の出力する調整後制御補正量)を示す。また、変数X[i](i=k−2、k−1、k)は、式(5)の場合と同様、i番目のサンプリングタイミングにおいて、ゲイン乗算部241からフィルタ部242に出力される、ゲインを乗算された回転速度偏差を示す。また、係数αとαとβとβとβとは、式(5)の場合と同様、フィルタの特性とサンプリング周期とに基づいて一意に定まる定数である。
式(6)によると、制御補正量^Yが引き方向の制御を示す場合(すなわち、制御補正量^Yが正の値の場合)は、制御補正量^Yの値に定数cを乗算した値が調整後制御補正量Yとして算出される。また、制御補正量^Yが押し方向の制御を示す場合(すなわち、制御補正量^Yが負の値の場合)は、制御補正量^Yの値がそのまま調整後制御補正量Yとして算出される。また、制御補正量^Yが、研磨具11を研磨対象物に対する進退方向に移動させないことを示す場合(すなわち、制御補正量^Yの値が「0」の場合)は、調整後制御補正量Yとして「0」を出力する。すなわち、式(6)によって、図14に示される制御補正量調整部911の動作が実現される。
ここで、図16を参照すると、線L221、L222、L223のいずれにおいても、シミュレーション開始時付近で研磨具11の回転速度が無負荷回転速度1.2となったのみで、それ以後は、目標回転速度1程度あるいはそれ以下の回転速度となっている。すなわち、定数cの値が0.9、0.6、0.3のいずれの場合においても、シミュレーション開始時付近以外は、研磨具11が研磨対象物に接触した状態が維持されている。これによって、線L222および線L223においては、研磨具11の回転速度が目標回転速度1に収束し、また、線L221においては、研磨具11の回転速度が目標回転速度1に収束しつつある。RC軸変位を見ても、線L211、L212、L213のいずれも時間経過とともに変動幅が小さくなり、RC軸変位が約0.1に収束しているか、あるいは収束しつつある。
以上により、研磨具11の回転速度の振動が解消され、目標回転速度に収束することが示された。
以上のように、制御補正量算出部240のフィルタ部242が出力する制御補正量が、引き方向の制御を示す場合に、制御補正量調整部911が、研磨具11の後退量を制御補正量の示す後退量よりも減少させた調整後制御補正量を出力する。より具体的には、制御補正量調整部911は、研磨具11の後退量を減少させる係数εを制御補正量に対して乗算して制御補正量の値を小さくする処理を行うことによって、研磨具11の引き方向への制御量を抑制した調整後制御補正量を算出する。
これによって、研磨具11が引き方向にオーバーシュートする量を減らし、研磨具11の回転速度が目標回転速度に収束する可能性を高めることができる。
なお、シミュレーションにおいて、定数cの値を0.3よりも小さくしても、研磨具11の回転速度が目標回転速度に収束した。ただし、押し方向と引き方向とで応答性が大きく異なると、この応答性の違いによって何らかの不具合が生じるおそれがある。そこで、定数cの値は0.5程度以上に設定するのがよいと考えられる。
なお、上述したシミュレーションの場合と同様、研磨装置5の実機が上記式(6)を用いて調整後制御補正量を算出することによって、フィルタ部242と制御補正量調整部911とを実現するようにしてもよい。その際、項β[k-i](iは、非負の整数)の項数は、式(6)に示す3項(i=0、1、2)に限らない。フィルタ部242の特性や要求される精度に応じて、4項以上であってもよいし、2項以下であってもよい。同様に、項α[k-j](jは、非負の整数)の項数は、式(6)に示す2項(i=1、2)に限らず、3項以上であってもよいし、1項であってもよい。
同様に、研磨装置1や研磨装置2の実機が、上記式(5)を用いて制御補正量を算出することによって、フィルタ部242を実現するようにしてもよい。また、後述する第6の実施形態における研磨装置5の実機が、後述する式(7)を用いて調整後制御補正量を算出することによってフィルタ部242および制御補正量調整部911を実現するようにしてもよい。また、後述する第7の実施形態における研磨装置1の実機が、後述する式(8)を用いて制御補正量を算出することによって、フィルタ部242を実現するようにしてもよい。また、後述する第8の実施形態における研磨装置1の実機が、後述する式(9)および(10)を用いて制御補正量を算出することによって、フィルタ部242を実現するようにしてもよい。
これらの場合においても、項β[k-i](iは、非負の整数)の項数は、4項以上あるいは2項以下であってもよく、また、項α[k-j](jは、非負の整数)の項数は、3項以上あるいは1項であってもよい。
なお、第2の実施形態で説明したのと同様に、制御補正量算出部911がゲイン設定部443を備えるようにしてもよい。後述する第6、7、8の各実施形態においても同様である。
<第6の実施形態>
なお、制御補正量調整部911が出力する調整後制御補正量は、上述したものに限らない。本発明の第6の実施形態では、制御補正量調整部911が上記以外の調整後制御補正量を出力する例について説明する。
本実施形態における研磨装置の構成は、第5の実施形態における研磨装置5の構成と同様であり、制御補正量調整部911以外の各部の動作および機能は、図13の各部の動作および機能と同様である。そこで、本実施形態の構成図として図13を用い、制御補正量調整部911以外の各部の説明を省略する。第6の実施形態における研磨装置5では、制御補正量調整部911の出力する調整後制御補正量が、第5の実施形態で説明したものと異なる。
図17は、本実施形態における制御補正量と調整後制御補正量との関係を示す図である。図14の場合と同様、図17の横軸は制御補正量^Y(制御補正量調整部911への入力)を示し、縦軸は調整後制御補正量Y(制御補正量調整部911の出力)を示す。また、横軸および縦軸の方向も図14で説明したのと同様である。
同図に示すように、制御補正量調整部911は、制御補正量^Yの値に対して、値「1」を上限とした調整後制御補正量を算出し出力する。すなわち、制御補正量^Yの値が1以下の場合(すなわち、制御補正量が、押し方向の制御を示す場合、または、研磨具11を研磨対象物に対して進退させないことを示す場合、または、所定の上限量以下の引き方向の制御を示す場合)、制御補正量調整部911は、制御補正量^Yの値をそのまま調整後制御補正量Yとして出力する。一方、制御補正量^Yの値が1より大きい場合(すなわち、制御補正量が、所定の上限量より大きい引き方向の制御(すなわち、研磨具11を研磨対象物に対して後退させる制御)を示す場合)、制御補正量調整部911は、所定の上限量の引き方向の制御を示す値「1」を、調整後制御補正量Yとして出力する。
本実施形態における研磨装置5の動作を確認するため、本願発明者は、図15で説明したシミュレーションにおいて、式(5)で説明した計算式を式(7)に示す計算式に置き換えてフィルタ部242と制御補正量調整部911とすることにより、研磨装置5の構成(研磨装置1の動作試験およびシミュレーションと同様、研磨装置5は、不感帯処理部250とリミッタ処理部260とを備えない)とした。
Figure 0005595290
ここで、式(6)の場合と同様、変数kは、サンプリング回数を示し、変数^Y[k]は、k番目のサンプリングタイミングにおいて、フィルタ部242が制御補正量調整部911に出力する制御補正量を示し、変数Y[i](i=k−2、k−1、k)は、i番目のサンプリングタイミングにおいて、総合目標位置算出部320に出力されるデータ(制御補正量調整部911の出力する調整後制御補正量)を示し、変数X[i](i=k−2、k−1、k)は、i番目のサンプリングタイミングにおいて、ゲイン乗算部241からフィルタ部242に出力される、ゲインを乗算された回転速度偏差を示し、また、係数αとαとβとβとβとは、フィルタの特性とサンプリング周期とに基づいて一意に定まる定数である。
式(7)によると、制御補正量^Yの値が1以下の場合は、制御補正量^Yの値がそのまま調整後制御補正量Yとして算出される。一方、制御補正量^Yの値が1より大きい場合は、調整後制御補正量として値1が出力される。すなわち、式(7)によって、図17に示される制御補正量調整部911の動作が実現される。
図18は、このシミュレーションで得られた研磨装置5の動作例を示す図である。同図の線L311は、RC軸変位を示し、線L321は、研磨具11の回転速度を示す。
線L321が示すように、シミュレーション開始時付近において研磨具11の回転速度が無負荷回転速度1.2となったのみで、それ以後は、目標回転速度1程度あるいはそれ以下の回転速度となっている。すなわち、シミュレーション開始時付近以外は、研磨具11が研磨対象物に接触した状態が維持されている。これによって、研磨具11の回転速度が目標回転速度1に、ほぼ収束している。RC軸変位を見ても、線L311が示すように、時間経過とともにRC軸変位の変動幅が小さくなり、約0.1に、ほぼ収束している。
以上により、研磨具11の回転速度の振動が解消され、目標回転速度に収束することが示された。
なお、図17および式(7)で示した調整後制御補正量の上限値「1」は、試行錯誤的に決定された値である。この上限値は、研磨対象物の種類など研磨装置5の動作環境や、フィルタ242の特性などに応じて設定される。実機運用時にこの調整後制御補正量の上限値を決定する方法としては、例えば、0以上の様々な上限値を設定して研磨装置5の動作を調整し、その際の研磨装置5の動作環境および動作結果をログに記録しておいて、以後の調整の際、ログに基づいて上限値を決定する方法が考えられる。
以上のように、制御補正量算出部240のフィルタ部242が出力する制御補正量が、引き方向の制御を示す場合に、制御補正量調整部911が、研磨具11の後退量を制御補正量の示す後退量よりも減少させた調整後制御補正量を出力する。より具体的には、制御補正量調整部911は、制御補正量(が示す研磨具11の後退量)に上限を設け、制御補正量が、この上限以上に後退させる制御を示すときに、研磨具の後退量をこの上限とする調整後制御補正量を算出する。
これによって、研磨具11が引き方向にオーバーシュートする量を減らし、研磨具11の回転速度が目標回転速度に収束する可能性を高めることができる。
<第7の実施形態>
なお、研磨具11が引き方向にオーバーシュートする量を減らす方法は、上述した方法に限らない。本発明の第7の実施形態では、研磨装置が、研磨具11の引き方向の制御において積分要素の影響を除外することによってオーバーシュートする量を減少させる例について説明する。
本実施形態における研磨装置の構成は、第1の実施形態における研磨装置1の構成と同様であり、フィルタ部242以外の各部の動作および機能は、図1の各部の動作および機能と同様である。そこで、本実施形態の構成図として図1を用い、フィルタ部242以外の各部の説明を省略する。第7の実施形態における研磨装置1では、フィルタ部242の出力する制御補正量が、第1の実施形態で説明したものと異なる。
本実施形態におけるフィルタ部242は、式(8)に従って制御補正量Y[k]を算出する。
Figure 0005595290
ここで、式(6)の場合と同様、変数kは、サンプリング回数を示し、変数X[i](i=k−2、k−1、k)は、i番目のサンプリングタイミングにおいて、ゲイン乗算部241からフィルタ部242に出力される、ゲインを乗算された回転速度偏差を示し、また、係数αとαとβとβとβとは、フィルタの特性とサンプリング周期とに基づいて一意に定まる定数である。
また、変数Y[i](i=k−2、k−1、k)は、i番目のサンプリングタイミングにおいて、総合目標位置算出部320に出力されるデータ(ここでは、フィルタ部242出力する制御補正量)を示し、変数^Y[k]は、変数Y[k]に等しい。
式(8)に含まれる各項のうち、項β[k]は、フィルタ部242への現在の入力値に比例した値を示す項、すなわち、比例制御(比例要素)を示す項である。また、項−αg(Y[k-1])と、項−αg(Y[k-2])とは、フィルタ部242が過去に算出した制御補正量Y[k-1]またはY[k-2]に基づく値を示す項、すなわち、いずれも積分制御(積分要素)を示す項である。
ここで、図19は、変数Y[m]の値と関数g(Y[m])の値との関係を示す図である。
同図に示されるように、関数g(Y[m])は、上限値を0に設定されている。
すなわち、制御補正量算出部240(フィルタ部242)は、所定時間前(サンプリングタイミングk−1またはk−2)に算出された制御補正量Y[k-1]またはY[k-2]が、研磨具11を研磨対象物に対して後退させる制御を示すときに、積分要素の影響を小さくした制御補正量として、この所定時間前に算出された制御補正量Y[k-1]またはY[k-2]に基づく値を示す積分要素(項−αg(Y[k-1])または項−αg(Y[k-2]))を除外した(積分要素の項の値を「0」とした)制御補正量Y[k]を算出する。
ここで、係数αとαとβとβとβとは、フィルタの特性に応じて負の値となり得る。例えば、係数αまたはαの値が負である場合、式(8)において、引き方向の積分制御が抑制される。引き方向の積分制御を抑制することにより、研磨具11の引き方向へのオーバーシュート(行き過ぎ)が抑制されるとともに、研磨具11の回転速度が目標回転速度に到達した際の応答性が向上し、研磨具11の回転速度が目標回転速度に収束し易くなる。
この応答性の向上について、図20〜図22を参照して説明する。
図20は、図15で説明した、研磨装置1の回転速度が振動する動作例のシミュレーションにおける、式(5)の各項目の値を示す図である。図20において、線L411、L421、L431、L441、L451は、それぞれ項β[k-2]、β[k-1]、β[k]、αg(Y[k-1])、αg(Y[k-2])の値を示す。
同図において、項β[k-2]とβ[k-1]とβ[k]とについて見ると、その大きさ(絶対値)が0.1程度以下に収まっている。これに対して、項αg(Y[k-1])とαg(Y[k-2])とについて見ると、項αg(Y[k-1])の絶対値が最大で50近く、項αg(Y[k-2])の絶対値が最大で20近くとなっている。したがって、本シミュレーションでは、フィルタ部242の出力する制御補正量において、項β[k-2]、β[k-1]、β[k]の値よりも、項αg(Y[k-1])およびαg(Y[k-2])の値が支配的(制御補正量の値に大きな影響を及ぼす)となっている。
そこで、項αg(Y[k-1])またはαg(Y[k-2])の値が引き方向の積分制御を示す場合に、その項の値を0として引き方向の積分制御を抑制することによって、研磨具11の引き方向への制御量が抑制される。なお、式(8)の全体として引き方向へのオーバーシュートが抑制されればよく、必ずしも項αg(Y[k-1])およびαg(Y[k-2])の両方で引き方向へのオーバーシュートを抑制する必要はない。例えば、係数αの値が負、係数αの値が正となっていてもよい。
図21は、研磨装置1の動作例を示す図である。図15で説明したシミュレーションにおいて、式(5)で説明した計算式を式(8)に示す計算式に置き換えたところ、図16に示す動作例が得られた。図21の線L511はRC軸変位を示し、線L521は研磨具11の回転速度を示す。
線L521の示すように、研磨具11の回転速度は、シミュレーション開始時付近で無負荷回転速度1.2となったのみで、それ以後は、目標回転速度1程度あるいはそれ以下の回転速度となり、目標回転速度1に収束している。RC軸変位を見ても、時間経過とともに変動幅が小さくなり、RC軸変位が約0.1に収束している。
以上により、研磨具11の回転速度の振動が解消され、目標回転速度に収束することが示された。
更に、図21で説明したシミュレーションにおいて、目標回転速度を変化させて研磨具11の回転速度の追随性を確認したところ、良好な結果を得られた。
図22は、図21で説明したシミュレーションにおいて、目標回転速度を変化させた際の研磨装置1の動作例を示す図である。同図において、線L621は研磨具11の目標回転速度を示し、線L622は、研磨具11の回転速度を示す。また、線L611は、RC軸変位を示す。
線L621およびL622の示すように、研磨具11の回転速度は、目標回転速度の変化に追随して変化し、目標回転速度に対する研磨具11の回転速度の差の絶対値は、0.2程度以内に収まっている。これにより、目標回転速度の変化に対する研磨具11の回転速度の追随性が良好であることが示されている。特に、引き方向の制御における積分制御の要素を限定したことによる研磨具11の動作制御への悪影響は見受けられなかった。
以上のように、本実施形態における研磨装置1では、フィルタ部242が、引き方向の制御における積分制御の要素を制限した制御補正量を算出する。これにより、研磨具11の回転速度を目標回転速に収束させることができる。
<第8の実施形態>
なお、フィルタ部242が出力する制御補正量は、上述したものに限らない。本発明の第8の実施形態では、フィルタ部242が上記以外の制御補正量を出力する例について説明する。
本実施形態における研磨装置の構成は、第1の実施形態における研磨装置1の構成と同様であり、フィルタ部242以外の各部の動作および機能は、図1の各部の動作および機能と同様である。そこで、本実施形態の構成図として図1を用い、フィルタ部242以外の各部の説明を省略する。第8の実施形態における研磨装置1では、フィルタ部242の出力する制御補正量が、第1の実施形態で説明したものや、第7の実施形態で説明したものと異なる。
本実施形態におけるフィルタ部242は、式(9)に従って制御補正量Y[k]を算出する。
Figure 0005595290
ここで、式(8)の場合と同様、変数kは、サンプリング回数を示し、変数X[i](i=k−2、k−1、k)は、i番目のサンプリングタイミングにおいて、ゲイン乗算部241からフィルタ部242に出力される、ゲインを乗算された回転速度偏差を示し、また、係数αとαとβとβとβとは、フィルタの特性とサンプリング周期とに基づいて一意に定まる定数である。また、式(8)の場合と同様、変数Y[i](i=k−2、k−1、k)は、i番目のサンプリングタイミングにおいて、総合目標位置算出部320に出力されるデータ(ここでは、フィルタ部242出力する制御補正量)を示し、変数^Y[k]は、変数Y[k]に等しい。
また、式(8)で説明したのと同様、式(9)に含まれる各項のうち、項β[k]は、比例制御(比例要素)を示す項である。また、項−αg(Y[k-1])と、項−αg(Y[k-2])とは、いずれも積分制御(積分要素)を示す項である。
また、変数λは式(10)に示される値を取る。
Figure 0005595290
ここで、変数Δωは、目標回転速度と研磨具11の回転速度との偏差を、引き方向を正とし押し方向を負として、図15で説明したのと同様に正規化した値にて示す。また、σは非負の定数を示す。
これら式(9)および式(10)に示される関数g(Y[m])の特性および変数σの値は、図23および図24に示されるようになる。
図23は、変数Y[m]の値と関数g(Y[m])の値との関係を示す図である。また、図24は、変数Δωの値と変数σの値との関係を示す図である。
同図に示されるように、関数g(Y[m])は、上限値をλに設定されている。これにより、制御補正量に含まれる、積分制御を示す項−αg(Y[i])は、下限値を−αλに設定されている。
すなわち、制御補正量算出部240(フィルタ部242)は、所定時間前(サンプリングタイミングk−1またはk−2)に算出された制御補正量Y[k-1]またはY[k-2]が、研磨具11を研磨対象物に対して所定量(制御補正量の値λで示される研磨具11の後退量)以上後退させる制御を示すときに、積分要素の影響を小さくした制御補正量として、この所定時間前に算出された制御補正量Y[k-1]またはY[k-2]を、研磨具11を研磨対象物に対して上記の所定量後退させる制御を示す制御補正量としたときの(、すなわち、Y[k-1]=λまたはY[k-2]=λとしたときの)、制御補正量Y[k]を算出する。
また、式(10)を参照すると、制御補正量算出部240(フィルタ部242)は、研磨具11の回転速度と目標回転速度と偏差Δωに基づいて、偏差Δωが大きいほど上記の所定量を大きくする。
第7の実施形態で説明したように、同実施形態におけるフィルタ部242は、引き方向の制御において、制御量を制限する。図21および図22に示されるように、この制御量の制限による具体的な悪影響は見出されていないが、一般的には、制御量を制限することによって、応答性の低下や収束値付近での定常偏差等の問題が生じることがある。これらの問題の発生を防止するため、フィルタ部242においても、なるべく制御量を制限しないようにすることが考えられる。
そこで、引き方向の制御において、積分制御を算出する元となる関数g(Y[m])の上限値を、第7の実施形態では0としていたのに対し、第8の実施形態ではλ(λ≧0)として、制御量の制限を緩和している。
そして、式(10)や図24に示されるように、目標回転速度と研磨具11の回転速度との偏差Δωの値が大きいときは、λの値を大きく設定して制御量の制限を緩やかにし、偏差Δωの値が小さいときは、λの値を小さくすることにより積分制御の要素を限定する。積分制御の要素を限定することにより、研磨具11の引き方向への制御量が抑制されるとともに、研磨具11の回転速度が目標回転速度に到達した際の応答性が向上し、研磨具11の回転速度が目標回転速度に収束し易くなる。
以上のように、本実施形態における研磨装置1では、目標回転速度と研磨具11の回転速度との偏差に基づいて、フィルタ部242が積分制御の要素の上限値を設定する。そして、フィルタ部242は、設定した上限値に基づいて制御補正量を算出して出力する。これにより、第7の実施形態における研磨装置1との比較において制御量の抑制を少なくしつつ、研磨具11の回転速度を目標回転速に収束させることができる。
なお、第8の実施形態では、定数σの値を予め決定しておく必要がある点で、第7の実施形態の場合よりも手間がかかる。
そこで、まずは、式(8)の特性を示すフィルタ部242を用いて第7の実施形態における研磨装置1を実現することが考えられる。そして、この第7の実施形態における研磨装置1にて応答性を確認し、押し方向と引き方向とで応答性が異なる場合に、フィルタ部242の特性を式(9)および式(10)に示す特性に変更して第8の実施形態における研磨装置1を実現できる。これにより、第7の実施形態における研磨装置1では押し方向と引き方向とで応答性が異なる場合にのみ定数σの値を決定すればよくなるので、この定数σを決定する手間を省き得る。
なお、制御部20、40、60、80および91の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
1、2、3、4、5 研磨装置
11 研磨具
12 回転軸
13 回転駆動部
14 測定部
15 移動駆動部
16 移動軸
17 エアホース
18 台座
20、40、60、80 制御部
210 目標回転速度記憶部
220 回転速度算出部
230 回転速度偏差算出部
240、440 制御補正量算出部
241 ゲイン乗算部
242 フィルタ部
250 不感帯処理部
260 リミッタ処理部
310 目標位置記憶部
320 総合目標位置算出部
443 ゲイン設定部
620 制御指令値補正部
330 総合位置偏差算出部
630 位置偏差算出部
340 位置制御部
911 制御補正量調整部

Claims (12)

  1. 研磨対象物を研磨可能な研磨具と、
    該研磨具を回転させる回転駆動部と、
    前記研磨具を研磨対象物に対して進退させる移動駆動部と、
    前記研磨具の回転速度に応じて、前記研磨具の回転速度が目標回転速度よりも大きい場合には、前記研磨具が前記研磨対象物に対して進出するように前記移動駆動部を制御し、前記研磨具の回転速度が目標回転速度よりも小さい場合には、前記研磨具が前記研磨対象物に対して後退するように、前記移動駆動部を制御する制御部と、
    を備え
    前記制御部は、
    検出した前記研磨具の回転速度と目標回転速度との差分である回転速度偏差を算出する回転速度偏差算出部と、
    前記回転速度偏差に基づいて制御補正量を算出する制御補正量算出部と、
    予め定めた前記移動駆動部の目標位置と検出した前記移動駆動部の現在位置との差分である位置偏差を算出する位置偏差算出部と、
    前記位置偏差に基づいて、前記移動駆動部に対する制御指令値を算出する位置制御部とを備え、
    前記位置偏差又は前記制御指令値のいずれか一方に前記制御補正量が加算されていることを特徴とする研磨装置。
  2. 前記制御部は、
    前記研磨対象物に対する前記研磨具の押圧力に応じて変化する該研磨具の回転速度が予め定めた目標回転速度に近づくように、前記移動駆動部を制御することを特徴とする請求項に記載の研磨装置。
  3. 前記制御補正量算出部は、
    前記回転速度偏差に予め定めたゲインを乗算したゲイン乗算後回転速度偏差を算出するゲイン乗算部を有し、
    前記ゲイン乗算後回転速度偏差を前記制御補正量としていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の研磨装置。
  4. 前記制御補正量算出部は、
    前記ゲイン乗算後回転速度偏差が入力される積分特性フィルタをさらに備え、
    前記ゲイン乗算後回転速度偏差に代えて、前記積分特性フィルタの出力を前記制御補正量としていることを特徴とする請求項に記載の研磨装置。
  5. 前記制御補正量算出部は、
    前記回転速度偏差が所定の閾値以上の場合に、前記ゲインを予め定めた値よりも大きく設定するゲイン設定部を備えることを特徴とする請求項又はに記載の研磨装置。
  6. 前記制御部は、
    前記制御補正量算出部の算出する制御補正量が、前記研磨具を前記研磨対象物に対して後退させる制御を示すときに、前記研磨具の後退量を前記制御補正量の示す後退量よりも減少させた調整後制御補正量を出力する制御補正量調整部を備え、
    前記制御補正量に代えて、前記調整後制御補正量が、前記位置偏差又は前記制御指令値のいずれか一方に加算されていることを特徴とする請求項からのいずれか一項に記載の研磨装置。
  7. 前記制御補正量調整部は、
    前記制御補正量が、前記研磨具を前記研磨対象物に対して後退させる制御を示すときに、前記研磨具の後退量を減少させる係数を前記制御補正量に対して乗算して前記調整後制御補正量を算出することを特徴とする請求項に記載の研磨装置。
  8. 前記制御補正量調整部は、
    前記制御補正量が、前記研磨具を前記研磨対象物に対して所定の上限量以上後退させる制御を示すときに、前記研磨具を前記上限量後退させる制御を示す前記調整後制御補正量を算出することを特徴とする請求項または請求項に記載の研磨装置。
  9. 前記制御補正量算出部は、
    該制御補正量算出部への入力値に比例した値を示す比例要素と、過去に算出された制御補正量に基づく値を示す積分要素とを含む前記制御補正量を算出し、前記過去に算出された制御補正量が、前記研磨具を前記研磨対象物に対して後退させる制御を示すときに、前記積分要素の影響を小さくした前記制御補正量を算出することを特徴とする請求項からのいずれか一項に記載の研磨装置。
  10. 前記制御補正量算出部は、
    所定時間前に算出された制御補正量が、前記研磨具を前記研磨対象物に対して後退させる制御を示すときに、該所定時間前に算出された制御補正量に基づく値を示す積分要素を除外した前記制御補正量を算出することを特徴とする請求項に記載の研磨装置。
  11. 前記制御補正量算出部は、
    所定時間前に算出された制御補正量が、前記研磨具を前記研磨対象物に対して所定量以上後退させる制御を示す場合、前記所定時間前に算出された制御補正量を前記所定量に置き換えて、制御補正量を算出することを特徴とする請求項に記載の研磨装置。
  12. 前記制御補正量算出部は、
    前記研磨具の回転速度と目標回転速度と偏差に基づいて、前記偏差が大きいほど前記所定量を大きくすることを特徴とする請求項11に記載の研磨装置。
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