a.第1実施形態
以下、本発明の実施形態に係る車両用制動装置について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の各実施形態に共通の車両用制動装置Sのシステム構成を概略的に示している。
車両用制動装置Sは、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の回転に対して制動力を付与する制動部10を構成するブレーキユニット11,12,13,14を備えている。ブレーキユニット11〜14は、図1および図2に示すように、それぞれ、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2と一体的に回転するディスクロータと、ホイールシリンダWfr,Wfl,Wrl,Wrrを備えたキャリパとで構成されるディスクブレーキユニットである。なお、ディスクブレーキユニットの詳細な構造および作動については、従来から広く知られている構造および作動と同一である。このため、ディスクブレーキユニットの詳細な構造および作動に関する説明は省略する。
また、車両用制動装置Sは、ブレーキユニット11〜14(より詳しくは、ホイールシリンダWfr,Wfl,Wrl,Wrr)に供給する制動液圧としてのブレーキ液圧を制御するためのブレーキ液圧制御部20を備えている。ブレーキ液圧制御部20は、図2に概略的な構成を示すように、ブレーキペダルBPの操作力(すなわち踏力)に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部21と、ホイールシリンダWfr,Wfl,Wrl,Wrrに供給されるブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なFRブレーキ液圧調整部22と、FLブレーキ液圧調整部23と、RLブレーキ液圧調整部24と、RRブレーキ液圧調整部25と、還流ブレーキ液供給部26とを備えている。
ブレーキ液圧発生部21は、ブレーキペダルBPの操作に応じて作動するバキュームブースタVBと、このバキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。バキュームブースタVBは、図示省略のエンジンの動作時における吸気管内の空気圧力(負圧)を利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し、助勢された操作力(具体的には、運転者によるブレーキペダルBPへの踏力)をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。マスタシリンダMCは、第1ポートおよび第2ポートからなる2系統の出力ポートを有していて、リザーバRSからのブレーキ液の供給を受けて、前記助勢された踏力に応じた第1マスタシリンダ液圧を第1ポートから発生するようになっている。また、マスタシリンダMCは、第1マスタシリンダ液圧と略同一の液圧である第2マスタシリンダ液圧を第2ポートから発生するようになっている。
ここで、マスタシリンダMCの第1ポートは、リニア制御弁PC1を介して、FRブレーキ液圧調整部22の上流部およびRLブレーキ液圧調整部24の上流部のそれぞれと接続されており、FRブレーキ液圧調整部22およびRLブレーキ液圧調整部24の上流部には第1マスタシリンダ液圧がそれぞれ供給されるようになっている。同僚に、マスタシリンダMCの第2ポートは、リニア制御弁PC2を介して、FLブレーキ液圧調整部23の上流部およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部のそれぞれと接続されており、FLブレーキ液圧調整部23およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部には第2マスタシリンダ液圧がそれぞれ供給されるようになっている。
リニア制御弁PC1は、図2に示すように、2ポート2位置切替型の常開電磁開閉弁である。そして、リニア制御弁PC1は、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるとき、マスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部22の上流部およびRLブレーキ液圧調整部24の上流部とを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき、マスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部22の上流部およびRLブレーキ液圧調整部24の上流部との連通を遮断するようになっている。なお、リニア制御弁PC1には、図2に示すように、ブレーキ液がマスタシリンダMC側からFRブレーキ液圧調整部22の上流部およびRLブレーキ液圧調整部24の上流部への一方向のみに流通を許容するチェック弁が配設されている。これにより、リニア制御弁PC1が第2の位置にあるときでも、ブレーキペダルBPの操作によって第1マスタシリンダ液圧が所定液圧以上のときには、第1マスタシリンダ液圧がFRブレーキ液圧調整部22の上流部およびRLブレーキ液圧調整部24の上流部に供給されるようになっている。
リニア制御弁PC2も、図2に示すように、2ポート2位置切替型の常開電磁開閉弁である。そして、リニア制御弁PC2は、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるとき、マスタシリンダMCとFLブレーキ液圧調整部23の上流部およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部とを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき、マスタシリンダMCとFLブレーキ液圧調整部23の上流部およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部との連通を遮断するようになっている。なお、リニア制御弁PC2には、図2に示すように、ブレーキ液がマスタシリンダMC側からFLブレーキ液圧調整部23の上流部およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部への一方向のみに流通することを許容するチェック弁が配設されている。これにより、リニア制御弁PC2が第2の位置にあるときでも、ブレーキペダルBPの操作によって第2マスタシリンダ液圧以上のときには、第2マスタシリンダ液圧がFLブレーキ液圧調整部23の上流部およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部に供給されるようになっている。
FRブレーキ液圧調整部22は、2ポート2位置切替型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUfrと、2ポート2位置切替型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDfrとから構成されている。増圧弁PUfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるとき、FRブレーキ液圧調整部22の上流部とホイールシリンダWfrとを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき、FRブレーキ液圧調整部22の上流部とホイールシリンダWfrとの連通を遮断するようになっている。減圧弁PDfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるとき、ホイールシリンダWfrとリザーバRS1との連通を遮断するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき、ホイールシリンダWfrとリザーバRS1とを連通するようになっている。
これにより、増圧弁PUfrおよび減圧弁PDfrがともに図2に示す第1の位置にあるとき、FRブレーキ液圧調整部22の上流部のブレーキ液がホイールシリンダWfr内に供給されることにより、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は増圧されるようになっている。また、増圧弁PUfrが第2の位置にあり、かつ減圧弁PDfrが第1の位置にあるとき、FRブレーキ液圧調整部22の上流部のブレーキ液圧の増減にかかわらずホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は保持されるようになっている。さらに、増圧弁PUfrおよび減圧弁PDfrがともに第2の位置にあるとき、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRS1に還流されることにより、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は減圧されるようになっている。
また、増圧弁PDfrには、チェック弁CV1が配設されている。チェック弁CV1は、ブレーキ液がホイールシリンダWfr側からFRブレーキ液圧調整部22の上流部への一方向のみに流通することを許容するようになっている。これにより、FRブレーキ液圧調整部22の上流部(より具体的にはマスタシリンダMC)のブレーキ液の減圧、言い換えれば、運転者によるブレーキペダルBPの戻し操作に応じて、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧が迅速に減圧されるようになっている。
同様に、FLブレーキ液圧調整部23、RLブレーキ液圧調整部24およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部は、それぞれ、増圧弁PUflおよび減圧弁PDfl、増圧弁PUrlおよび減圧弁PDrl、増圧弁PUrrおよび減圧弁PDrrから構成されており、これらの各増圧弁および各減圧弁の切替位置が上記のように制御されることにより、ホイールシリンダWfl、ホイールシリンダWrlおよびホイールシリンダWrrのブレーキ液圧はそれぞれ増圧、保持または減圧されるようになっている。また、増圧弁PUfl、PUrl、PUrrのそれぞれにも上記チェック弁CV1と同様の機能を有するチェック弁CV2,CV3,CV4がそれぞれ増圧弁に並列に配設されている。
還流ブレーキ液供給部26は、後述するように電気的に制御されるアクチュエータとしての直流モータMTとこのモータMTによって同時に駆動される2つの液圧ポンプHP1,HP2とを備えている。液圧ポンプHP1は、減圧弁PDfrおよび減圧弁PDrlからそれぞれ還流されてきたリザーバRS1内のブレーキ液を汲み上げ、この汲み上げた(加圧された)ブレーキ液をチェック弁CV5,CV6を介してFRブレーキ液圧調整部22の上流部およびRLブレーキ液圧調整部24の上流部にそれぞれ供給するようになっている。同様に、液圧ポンプHP2は、減圧弁PDflおよび減圧弁PDrrからそれぞれ還流されてきたリザーバRS2内のブレーキ液を汲み上げ、この汲み上げた(加圧された)ブレーキ液をチェック弁CV7,CV8を介してFLブレーキ液圧調整部23の上流部およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部にそれぞれ供給するようになっている。
このように構成したブレーキ液圧制御部20によれば、それぞれの電磁開閉弁の切替位置を切り替えることにより、マスタシリンダMCおよび液圧ポンプHP1,HP2のうち、少なくともマスタシリンダMCから各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内に供給されるブレーキ液圧をそれぞれ独立して所定量だけ減圧、保持または増圧できる。これにより、走行中の車両を停車させるために運転者がブレーキペダルBPを踏み込み操作した場合には、例えば、マスタシリンダMCのブレーキ液を優先して各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内に供給することによってブレーキ液圧を増圧させるとともに、液圧ポンプHP1,HP2によって加圧されたブレーキ液を各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内に供給して、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2に制動力を付与することができる。
また、車両用制動装置Sは、後述するプログラムを実行することにより、ブレーキ液圧制御部20の作動、より詳しくは、リニア制御弁PC1、リニア制御弁PC2、FRブレーキ液圧調整部22、FLブレーキ液圧調整部23、RLブレーキ液圧調整部24およびRRブレーキ液圧調整部25のそれぞれの電磁弁を切替制御するとともに、還流ブレーキ液供給部26の液圧ポンプHP1,HP2(具体的にはモータMT)を駆動制御するための電気制御装置30を備えている。
電気制御装置30は、図1に示すように、マスタシリンダ液圧センサ31と、踏力センサ32とを備えている。マスタシリンダ液圧検出手段としてのマスタシリンダ液圧センサ31は、図2に具体的に示すように、ブレーキ液圧制御部20のマスタシリンダMCよりも下流側に組み付けられて、運転者によるブレーキペダルBPの操作力(踏力)に応じてマスタシリンダMCが発生したマスタシリンダ液圧Pmを表す信号を出力する。ここで、上述したように、マスタシリンダMCが発生する第1マスタシリンダ液圧および第2マスタシリンダ液圧は略同一であるため、マスタシリンダ液圧センサ31は、第1ポートおよび第2ポートのうちの少なくとも一方の下流側に組み付けられていればよい。操作力検出手段としての踏力センサ32は、ブレーキペダルBPに組み付けられていて、運転者によるブレーキペダルBPの操作に応じて入力された踏力Fを表す信号を出力する。
これらのマスタシリンダ液圧センサ31および踏力センサ32は、それぞれ、ブレーキ電子制御ユニット33(以下、単にブレーキECU33という)に接続されている。ブレーキECU33は、CPU、ROM、RAMなどを主要構成部品とするマイクロコンピュータであり、後述するプログラムを含む各種プログラムを実行することによってブレーキ液圧制御部20(具体的には、リニア制御弁PC1、リニア制御弁PC2、FRブレーキ液圧調整部22、FLブレーキ液圧調整部23、RLブレーキ液圧調整部24、RRブレーキ液圧調整部25および還流ブレーキ液供給部26)の作動を制御する。
このため、ブレーキECU33には、駆動回路34が接続されている。駆動回路34は、ブレーキECU33の制御に応じて、図示しないバッテリから供給された電力をブレーキ液圧制御部20に出力するものである。これにより、ブレーキECU33は、リニア制御弁PC1およびリニア制御弁PC2、FRブレーキ液圧調整部22、FLブレーキ液圧調整部23、RLブレーキ液圧調整部24およびRRブレーキ液圧調整部25の各増圧弁や各減圧弁を切替制御することができるとともに、還流ブレーキ液供給部26の液圧ポンプHP1,HP2すなわちモータMTを駆動制御することができる。
次に、上記のように構成した車両用制動装置Sの作動を説明する。車両用制動装置SのブレーキECU33は、図3に示す制動力制御プログラムを実行して、ブレーキ液圧制御部20の作動を制御する。具体的に説明すると、ブレーキECU33は、ステップS10にて、制動力制御プログラムの実行を開始してステップS11に進む。ステップS11においては、ブレーキECU33は、予め設定されたシステムチェックプログラムの実行により、ブレーキ液圧制御部20のシステムが正常であるか否かを判定する。すなわち、ブレーキECU33は、ブレーキ液圧制御部20のシステムが正常であれば、「Yes」と判定してステップS12に進む。一方、ブレーキ液圧制御部20のシステムに異常が発生していれば、ブレーキECU33は「No」と判定して後述するステップS23以降の各ステップ処理を実行する。
ステップS12においては、ブレーキECU33は、踏力センサ32によって検出された運転者によるブレーキペダルBPへの踏力Fを表す信号を入力し、ステップS13に進む。ステップS13においては、ブレーキECU33は、マスタシリンダ液圧センサ31によって検出されたマスタシリンダ液圧Pmを表す信号を入力し、ステップS14に進む。
ステップS14においては、ブレーキECU33は、バキュームブースタVBによる助勢限界を判定する。以下、この判定を具体的に説明する。一般的に、ブレーキ液圧発生部21が発生するマスタシリンダ液圧Pmは、運転者がブレーキペダルBPに入力する踏力Fに対し、バキュームブースタVBによる助勢が限界となる助勢限界点(Fsu,Psu)までは、踏力Fの変化(増加)に対して大きな傾きによって上昇し、助勢限界点(Fsu,Psu)を超えると踏力Fの変化(増加)に対して小さな傾きによって上昇する。ここで、ブレーキ液圧発生部21が発生するマスタシリンダ液圧PmはバキュームブースタVBが利用する負圧の大きさに応じて図4にて細実線により示すように変化するため、助勢限界点(Fsu,Psu)はバキュームブースタVBが利用する負圧の大きさに応じて変化する。
このようにバキュームブースタVBが利用する負圧の大きさに応じて変化する助勢限界点(Fsu,Psu)の関係は、図4にて太実線により示すように、実験的または設計的に決定することができる直線(以下、この直線を助勢限界関数という)として、例えば、下記式1のように表すことができる。
Psu=a1・Fsu+b1 …式1
ただし、前記式1中のa1はマスタシリンダ液圧Pmが上昇する状況において実験的または設計的に予め決定される助勢限界関数の傾き(変化勾配)を表し、b1は助勢限界関数のマスタシリンダ液圧座標軸における切片を表す。
今、前記式1により示される助勢限界関数に対して、図4にて太破線により示すように、踏力Fが増大する状況において助勢限界点(Fsu,Psu)よりも手前となるように平行移動した直線(以下、この直線を助勢限界判定関数という)を考える。この助勢限界判定関数は、助勢限界関数を踏力Fが小さい側に平行移動して決定されるため、下記式2のように表すことができる。
Psu=a1・(Fsu+c1)+b1 …式2
ただし、前記式2中のc1は、実験的または設計的に予め決定される助勢限界関数に対する平行移動量を表す。そして、前記式2を整理すると、助勢限界判定関数は下記式3により表すことができる。
Psu=a1・Fsu+(b1+a1・c1) …式3
一方、助勢限界点(Fsu,Psu)とマスタシリンダ液圧センサ31および踏力センサ32によって検出される実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fとの関係、より具体的には、差分の大きさは、例えば、前記式1に基づいて、下記式4によって表すことができる。
Psu−Pm=a1・(Fsu−F) …式4
したがって、前記式4を変形すると、下記式5が得られる。
Psu=a1・Fsu+(Pm−a1・F) …式5
なお、以下の説明においては、前記式5により表される関数を比較関数という。
ここで、前記式3により表される助勢限界判定関数と前記式5により表される比較関数とによれば、互いに切片が異なる直線を表している。そして、これら両式の切片に着目すると、図4にて太一点鎖線により示すように、比較関数における切片(Pm−a1・F)の値が助勢限界判定関数における切片(b1+a1・c1)の値よりも大きいときには比較関数は助勢限界判定関数に対して踏力Fの値が小さい側に位置しており、比較関数における切片(Pm−a1・F)の値が助勢限界判定関数における切片(b1+a1・c1)の値よりも小さいときには比較関数は助勢限界判定関数に対して踏力Fの値が大きい側すなわち助勢限界点(Fsu,Psu)に近づく方向に位置する。
すなわち、前記式3により表される助勢限界判定関数の切片(b1+a1・c1)の値(所定値)と前記式5により表される比較関数の切片(Pm−a1・F)、より詳しくは、マスタシリンダ液圧センサ31および踏力センサ32によって検出される実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fによって決定される値とを下記式6に従って比較することにより、バキュームブースタVBによる助勢限界を判定することができる。
(b1+a1・c)≧(Pm−a1・F) …式6
より具体的には、下記式6を変形した下記式7により表される関係が成立するか否かを判定することにより、実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fが助勢限界点(Fsu,Psu)よりも大きくなる前にバキュームブースタVBによる助勢限界を判定することができる。
(Pm−a1・F)−(b1+a1・c1)≦0 …式7
このため、ブレーキECU33は、ステップS14において、前記ステップS12およびステップS13にて入力した実踏力Fと実マスタシリンダ液圧Pmとを用いて、前記式7により表される助勢限界判定条件が成立するか否かを判定する。すなわち、ブレーキECU33は、助勢限界判定条件が成立していれば、実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fが助勢限界点(Fsu,Psu)に近づいているため、「Yes」と判定してステップS15に進む。一方、ブレーキECU33は、助勢限界判定条件が成立していなければ、実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fが助勢限界点(Fsu,Psu)に対して未だ近づいておらずバキュームブースタVBによる助勢が得られるため、「No」と判定して後述するステップS23に進む。
ステップS15においては、ブレーキECU33は、ブレーキ液圧制御部20における還流ブレーキ液供給部26の液圧ポンプHP1,HP2による加圧すなわちモータMTの駆動制御を開始(許可)する。具体的には、ブレーキECU33は、駆動回路34を駆動制御して、図示しないバッテリからモータMTに対して所定の駆動電流を供給する。これにより、モータMTは駆動を開始し、液圧ポンプHP1,HP2はリザーバRS1,RS2からブレーキ液を汲み上げて、加圧したブレーキ液をFRブレーキ液圧調整部22、FLブレーキ液圧調整部23、RLブレーキ液圧調整部24およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部に供給し始める。そして、ブレーキECU33は、液圧ポンプHP1,HP2の加圧制御を開始(許可)すると、ステップS16に進む。
ステップS16においては、ブレーキECU33は、前記ステップS14の助勢限界判定処理における助勢限界判定条件の成立回数を表すカウンタ値Cを「1」だけインクリメントする。そして、ブレーキECU33は、カウンタ値Cを「1」だけインクリメントすると、ステップS17に進む。
ステップS17においては、ブレーキECU33は、前記ステップS16にてインクリメントしたカウンタ値Cの値が「1」であるか否かを判定する。すなわち、ブレーキECU33は、カウンタ値Cの値が「1」であれば、言い換えれば、前記ステップS14の助勢限界判定処理における助勢限界判定条件が最初に成立したときであれば、「Yes」と判定してステップS18に進む。一方、ブレーキECU33は、カウンタ値Cの値が「1」よりも大きければ、「No」と判定し、後述するステップS20に進む。
ステップS18においては、ブレーキECU33は、前記ステップS14の助勢限界判定処理における助勢限界判定条件が最初に成立したときの実マスタシリンダ液圧Pmを、後述するステップS20にて設定する目標ブレーキ液圧Pbdを決定するための目標関数のブレーキ液圧座標軸方向の始点Pp0に決定する。そして、ブレーキECU33は、実マスタシリンダ液圧Pmを始点Pp0に決定すると、ステップS19に進む。
ステップS19においては、ブレーキECU33は、前記ステップS14の助勢限界判定処理における助勢限界判定条件が最初に成立したときの実踏力Fを、後述するステップS20にて設定する目標関数の踏力座標軸方向の始点Fp0に決定する。そして、ブレーキECU33は、実踏力Fを始点Fp0に決定すると、ステップS20に進む。
ステップS20においては、ブレーキECU33は、運転者がブレーキペダルBPに入力する踏力Fに対する目標制動液圧としての目標ブレーキ液圧Pbdを決定するための目標関数を設定する。以下、この目標関数の設定について詳細に説明する。
上述したように、前記ステップS14にて助勢限界判定処理を実行することにより、実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fが助勢限界点(Fsu,Psu)を超える前にバキュームブースタVBによる助勢限界を判定することができる。そして、この助勢限界判定処理によって助勢限界判定条件が成立している状況では、前記ステップS15にて液圧ポンプHP1,HP2による加圧を開始することができる。すなわち、実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fが助勢限界点(Fsu,Psu)になる前に液圧ポンプHP1,HP2による加圧を開始することができる。このため、図5に示すように、バキュームブースタVBによる助勢が付与されている状態における踏力Fの増大変化に対するマスタシリンダ液圧Pmすなわちブレーキ液圧Pbの上昇変化、言い換えれば、踏力Fの変化に対するブレーキ液圧Pbの変化勾配(傾き)を、助勢限界点(Fsu,Psu)を超えた後も維持することによって、ブレーキ液圧Pbを踏力Fの増大に対して常にリニアに変化(増大)させることができる。
このことに基づき、ブレーキECU33は、前記ステップS18およびステップS19にて設定したPp0およびFp0を始点(Fp0,Pp0)とする目標関数を下記式8に従って設定する。
Pbd=d1・F+(Pp0−d1・Fp0) …式8
ただし、前記式8中のd1は、目標関数の傾きすなわち踏力Fの変化に対するブレーキ液圧Pb(より具体的にはバキュームブースタVBによる助勢があるときのマスタシリンダ液圧Pm)の変化勾配を表すものであり、バキュームブースタVBによる助勢特性(例えば、バキュームブースタVBによるサーボ比など)に基づいて予め設定されるものである。したがって、前記式8によって表される目標関数に従って目標ブレーキ液圧Pbdを決定し、助勢限界点(Fsu,Psu)を超えた後に液圧ポンプHP1,HP2によってブレーキ液を加圧することにより、図5に示すように、助勢限界点(Fsu,Psu)にてリニアにブレーキ液圧Pbを増加させることができる。このように、目標関数を決定すると、ブレーキECU33は、ステップS21に進む。
ステップS21においては、ブレーキECU33は、前記式8(すなわち目標関数)によって決定される目標ブレーキ液圧Pbdと実マスタシリンダ液圧Pmとの偏差(差分)を演算し、図5に示す液圧ポンプHP1,HP2による目標ポンプ加圧量Ppdを演算する。すなわち、目標ポンプ加圧量Ppdは、下記式9に従って演算される。
Ppd=Pbd−Pm …式9
このように、目標ポンプ加圧量Ppdを演算することにより、助勢限界点(Fsu,Psu)を超えてバキュームブースタVBによる助勢が付与されない状況になると同時に、液圧ポンプHP1,HP2が目標ポンプ加圧量Ppdまでブレーキ液を加圧することによって、ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧を目標ブレーキ液圧Pbdと一致させることができる。そして、このように目標ポンプ加圧量Ppdを演算すると、ブレーキECU33は、ステップS22に進む。
ステップS22においては、ブレーキECU33は、駆動回路34を介して、リニア制御弁PC1、PC2の作動を制御する。なお、リニア制御弁PC1、PC2の作動制御については、所謂、PWM制御を採用することができるため、以下に簡単に説明しておく。
ステップS22においては、ブレーキECU33は、図示を省略するが、液圧ポンプHP1,HP2によるブレーキ液の加圧量に対するリニア制御弁PC1、PC2の駆動電流(より具体的には、弁開度)の関係を表すマップを予め記憶しており、このマップを参照することによって前記ステップS21にて演算した目標ポンプ加圧量Ppdに対応する目標駆動電流を決定する。そして、ブレーキECU33は、駆動回路34を駆動制御して、リニア制御弁PC1、PC2に目標駆動電流が流れるように、例えば、リニア制御弁PC1、PC2に流れる電流をフィードバックして、リニア制御弁PC1、PC2を作動させる。これにより、運転者がブレーキペダルBPに対して入力する踏力Fに起因して発生するマスタシリンダ液圧Pmに液圧ポンプHP1,HP2による目標ポンプ加圧量Ppdが加算された目標ブレーキ液圧PbdがFRブレーキ液圧調整部22、FLブレーキ液圧調整部23、RLブレーキ液圧調整部24およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部に供給される。したがって、ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧を目標ブレーキ液圧Pbdと一致させることができて、回転する車輪に適切な制動力を付与することができる。
このように、リニア制御弁PC1、PC2の作動を制御すると、ブレーキECU33は、ステップS25に進み、制動力制御プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短い時間の経過後、ブレーキECU33は、ふたたび、ステップS10にて制動力制御プログラムの実行を開始する。
一方、上述したように、前記ステップS11にてブレーキ液圧制御部20のシステムに異常が発生していれば、ブレーキECU33は「No」と判定してステップS23進む。また、前記ステップS14にて助勢限界判定条件が成立していなければ、ブレーキECU33は「No」と判定してステップS23に進む。
ステップS23においては、ブレーキECU33は、ブレーキ液圧制御部20における還流ブレーキ液供給部26の液圧ポンプHP1,HP2による加圧すなわちモータMTの駆動制御を停止(禁止)する。すなわち、前記ステップS11にて「No」と判定した場合には、ブレーキECU33はシステムに異常が発生しているためにモータMTの駆動を禁止し、前記ステップS14にて「No」と判定した場合には、バキュームブースタVBによる助勢が十分に付与される状況であるためにモータMTを駆動させる必要がない。したがって、ブレーキECU33は、前記ステップS11にて「No」と判定、または、前記ステップS14にて「No」と判定した場合には、ステップS23において、駆動回路34を介して液圧ポンプHP1,HP2による加圧を停止(禁止)させるとともに、リニア制御弁PC1、PC2の作動も停止(禁止)させる。
そして、ブレーキECU33は、前記ステップS23にて液圧ポンプHP1,HP2による加圧を禁止すると、続くステップS24にて、カウンタ値Cを「0」にリセットする。このように、カウンタ値Cを「0」にリセットすると、ブレーキECU33は、ステップS25に進んで制動力制御プログラム実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後、ふたたび、ステップS10にて制動力制御プログラムの実行を開始する。
以上の説明からも理解できるように、上記第1実施形態によれば、ブレーキECU33は、前記ステップS14にて、負圧の状態に応じて変化するバキュームブースタの助勢限界を考慮して予め設定された助勢限界関数に基づいて、前記式7に示すように、マスタシリンダ液圧センサ31によって検出された実マスタシリンダ液圧Pmと踏力センサ32によって検出された実踏力Fとを用いて設定される助勢限界判定条件が成立するか否かを判定することができる。これにより、ブレーキECU33は、検出された実マスタシリンダ液圧Pmと実踏力FとがバキュームブースタVBによる助勢限界であることを判定することができる。
そして、ブレーキECU33は、前記ステップS20において、前記ステップS18,S19にて設定した始点(Fp0,Pp0)と、バキュームブースタVBによる助勢があるときの踏力Fに対するブレーキ液圧Pbの変化勾配とを用いて、前記式8に示すように、目標ブレーキ液圧Pbdを決定するための目標関数を決定することができる。さらに、ブレーキECU33は、目標関数に従って決定される目標ブレーキ液圧Pbdと実マスタシリンダ液圧Pmとの差分すなわち目標ポンプ加圧量Ppdを前記式9に従って演算し,リニア制御弁PC1、PC2および液圧ポンプHP1,HP2を作動させて目標ポンプ加圧量Ppdを発生させることができる。
これにより、ブレーキECU33は、精度よく検出することができる実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fを用いてバキュームブースタVBによる助勢限界を正確に判定することができる。このため、実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力FがバキュームブースタVBによる助勢限界に向けて変化しているときには、タイミング良くすなわち遅れることなく液圧ポンプHP1,HP2による加圧を開始することができる。
また、バキュームブースタVBによる助勢限界を迎える前に助勢限界判定条件が成立したときの実踏力Fおよびマスタシリンダ液圧Pmを始点(Fp0,Pp0)とし、バキュームブースタVBによる助勢があるときの踏力Fに対するブレーキ液圧Pbの変化勾配とを用いて目標関数を設定することができるため、目標関数上においてバキュームブースタVBによる助勢から液圧ポンプHP1,HP2による助勢に連続的に変更することができる。したがって、バキュームブースタVBによる助勢限界の前後にて踏力Fとブレーキ液圧Pbとの関係を確実にリニアにすることができる。
さらに、目標ブレーキ液圧Pbdと実マスタシリンダ液圧Pmとの差分を表す目標ポンプ加圧量Ppdに基づいて液圧ポンプHP1,HP2による加圧を制御することができるため、バキュームブースタVBによる助勢限界になると同時に、液圧ポンプHP1,HP2が目標ポンプ加圧量Ppdまでブレーキ液を加圧することができる。したがって、液圧ポンプHP1,HP2の作動頻度を低減することができる。
b.第2実施形態
上記第1実施形態においては、運転者がブレーキ液圧を増加させるためにブレーキペダルBPを踏み込み操作する場合について、ブレーキECU33が助勢限界判定処理を実行し、適切なタイミングによって液圧ポンプHP1,HP2を加圧制御するように実施した。これに対して、運転者がブレーキ液圧を減少させるためにブレーキペダルBPを戻し操作する場合についても、ブレーキECU33が助勢限界判定処理を実行し、適切なタイミングによって液圧ポンプHP1,HP2を停止制御するように実施することも可能である。以下、この第2実施形態を詳細に説明するが、上記第1実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。
この第2実施形態においては、ブレーキECU33は、図6−1および図6−2に示す制動力制御プログラムを実行する。ここで、この第2実施形態における制動力制御プログラムは、上記第1実施形態における制動力制御プログラムに比して、図6−1に示すように前記ステップS14がステップS40に変更されるとともに、図6−2に示すようにステップS41〜ステップS44が追加される点で異なる。なお、この変更に伴って、前記ステップS11にて「No」と判定された後に前記ステップS24のリセット処理が実行される点でも異なる。
具体的に、この第2実施形態における制動力制御プログラムを説明すると、ブレーキECU33は、上記第1実施形態と同様に、ステップS11にてシステムが正常であるか否かを判定し、ステップS12およびステップS13にて実踏力Fおよび実マスタシリンダ液圧Pmを入力する。続いて、ブレーキECU33は、ステップS40にて、現在、運転者がブレーキペダルBPを踏み込み操作しており、かつ、前記式7により表される助勢限界判定条件が成立しているか否かを判定する。
すなわち、ブレーキECU33は、まず、前記ステップS12にて入力した実踏力Fを時間微分して踏力速度dF/dtを演算し、この踏力速度dF/dtが正の値であれば、運転者がブレーキペダルBPを踏み込み操作していると判定する。そして、運転者がブレーキペダルBPを踏み込み操作しているときに、前記式7により表される助勢限界判定条件が成立していれば、ブレーキECU33は「Yes」と判定し、ステップS15〜ステップS22およびステップS25の各ステップ処理を上記第1実施形態と同様に実行する。
一方、前記ステップS40にて、運転者がブレーキペダルBPを踏み込み操作していない、または、前記式7により表される助勢限界判定条件が成立していなければ、ブレーキECU33は「No」と判定して、図6−2に示すステップS41に進む。
ステップS41においては、ブレーキECU33は、現在、前記ステップS15〜S22の各ステップ処理により液圧ポンプHP1,HP2を加圧制御している状態で、運転者がブレーキペダルBPを戻し操作しており、かつ、戻し操作時の助勢限界判定条件が成立しているか否かを判定する。以下、この判定を具体的に説明する。
まず、ブレーキECU33は、踏力速度dF/dtが負の値であれば、運転者がブレーキペダルBPを戻し操作していると判定する。ところで、運転者がブレーキペダルBPを戻し操作しているときにおいても、ブレーキ液圧発生部21が発生するマスタシリンダ液圧Pmは、図7に示すように、運転者がブレーキペダルBPに入力する踏力Fに対し、バキュームブースタVB内の負圧の大きさに応じて変化する。したがって、戻し操作時における戻し助勢限界点(Fsd,Psd)も、踏み込み操作時と同様にバキュームブースタVB内の負圧の大きさに応じて変化する。
このため、この戻し操作時においても、図7にて太実線により示すように、実験的または設計的に決定されて、戻し助勢限界点(Fsd,Psd)の関係を表す直線(以下、この直線を戻し助勢限界関数という)は、例えば、下記式10のように表すことができる。
Psd=a2・Fsd+b2 …式10
ただし、前記式10中のa2はマスタシリンダ液圧Pmが減少する状況において実験的または設計的に予め決定される戻し助勢限界関数の傾き(変化勾配)を表し、b2は戻し助勢限界関数のマスタシリンダ液圧座標軸における切片を表す。
一方、戻し助勢限界点(Fsd,Psd)とマスタシリンダ液圧センサ31および踏力センサ32によって検出される実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fとの関係、より具体的には、差分の大きさは、例えば、前記式10に基づいて、下記式11によって表すことができる。
Psd−Pm=a2・(Fsd−F) …式11
したがって、前記式11を変形すると、下記式12が得られる。
Psd=a2・Fsd+(Pm−a2・F) …式12
なお、以下の説明においては、前記式12により表される関数を戻し比較関数という。
ここで、前記式10により表される戻し助勢限界関数と前記式12により表される戻し比較関数とによれば、互いに切片が異なる直線を表している。そして、これら両式の切片に着目すると、図7にて太一点鎖線により示すように、戻し比較関数における切片(Pm−a2・F)の値が戻し助勢限界関数における切片b2の値よりも小さいときには戻し比較関数は戻し助勢限界関数に対して踏力Fの値が大きい側すなわち液圧ポンプHP1,HP2が加圧制御されている側に位置しており、戻し比較関数における切片(Pm−a2・F)の値が戻し助勢限界関数における切片b2の値よりも大きいときには戻し比較関数は戻し助勢限界関数に対して踏力Fの値が小さい側すなわち戻し助勢限界点(Fsd,Psd)を超えてバキュームブースタVBによる助勢が付与される側に位置する。
すなわち、ブレーキペダルBPが戻し操作されている状況では、前記式10により表される戻し助勢限界関数の切片b2の値(所定値)と前記式12により表される戻し比較関数の切片(Pm−a2・F)、より詳しくは、マスタシリンダ液圧センサ31および踏力センサ32によって検出される実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fによって決定される値とを比較することにより、バキュームブースタVBによる助勢限界を判定することができる。これにより、下記式13をにより表される戻し助勢限界判定条件が成立するか否かを判定することによって、戻し助勢限界判定条件が成立しているときには実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fが戻し助勢限界点(Fsd,Psd)となるまで液圧ポンプHP1,HP2による加圧を許可し、戻し助勢限界判定条件が成立しないときには液圧ポンプHP1,HP2による加圧を停止(禁止)させることができる。
(Pm−a2・F)−b2≦0 …式13
このため、ブレーキECU33は、ステップS41において、運転者によってブレーキペダルBPが戻し操作されており、かつ、前記ステップS12およびステップS13にて入力した実踏力Fと実マスタシリンダ液圧Pmとを用いて前記式13により表される戻し助勢限界判定条件が成立するか否かを判定する。すなわち、ブレーキECU33は、運転者によってブレーキペダルBPが戻し操作されており、かつ、戻し助勢限界判定条件が成立していれば、実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fが未だ戻し助勢限界点(Fsu,Psu)に近づいておらず液圧ポンプHP1,HP2による加圧が必要であるため、「Yes」と判定してステップS42に進む。一方、ブレーキECU33は、運転者によってブレーキペダルBPが戻し操作されていない、または、戻し助勢限界判定条件が成立していなければ、実マスタシリンダ液圧Pmおよび実踏力Fが戻し助勢限界点(Fsu,Psu)を超えている(または一致している)ため、「No」と判定してステップS23に進む。
ステップS42においては、ブレーキECU33は、運転者が戻し操作によってブレーキペダルBPに入力する踏力Fに対する目標ブレーキ液圧Pbdを決定するための戻し目標関数を設定する。この場合、ブレーキECU33は、戻し操作時におけるバキュームブースタVBの助勢特性(例えば、バキュームブースタVBによるサーボ比など)に基づいて予め設定される傾きd2を用いて、上記第1実施形態と同様に、下記式14に従って戻し目標関数を設定する。
Pbd=d2・F+e …式14
ただし、前記式14中のeは、戻し目標関数が戻し助勢限界点(Fsu,Psu)を通るときの切片を表すものである。
したがって、前記式14によって表される戻し目標関数に従って目標ブレーキ液圧Pbdを決定し、液圧ポンプHP1,HP2によってブレーキ液を加圧することにより、戻し助勢限界点(Fsd,Psd)にてリニア(連続的に)にブレーキ液圧Pbを減少させることができる。このように、戻し目標関数を決定すると、ブレーキECU33は、ステップS21に進む。
ステップS43においては、ブレーキECU33は、前記式14(すなわち戻し目標関数)によって決定される目標ブレーキ液圧Pbdと実マスタシリンダ液圧Pmとの偏差(差分)を前記式9に従って演算し、液圧ポンプHP1,HP2による目標ポンプ加圧量Ppdを演算する。このように、戻し助勢限界点(Fsd,Psd)に向けて減少する目標ポンプ加圧量Ppdを演算することにより、戻し助勢限界点(Fsd,Psd)を超えてバキュームブースタVBによる助勢が付与される状況になると同時に、液圧ポンプHP1,HP2による加圧を適切に停止(禁止)させることができる。そして、このように目標ポンプ加圧量Ppdを演算すると、ブレーキECU33は、ステップS44に進む。
ステップS44においては、ブレーキECU33は、駆動回路34を介して、リニア制御弁PC1、PC2の作動を、上記第1実施形態におけるステップS22と同様に、PWM制御する。そして、ブレーキECU33は、図6−1のステップS25に進んで制動力制御プログラム実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後、ふたたび、ステップS10にて制動力制御プログラムの実行を開始する。
一方、上述したように、前記ステップS41にて、運転者がブレーキペダルBPを戻し操作していない、または、戻し助勢限界判定条件が成立していなければ、ブレーキECU33は「No」と判定してステップS23に進む。そして、ブレーキECU33は、ステップS23において、ブレーキ液圧制御部20における還流ブレーキ液供給部26の液圧ポンプHP1,HP2による加圧を停止(禁止)させるとともに、リニア制御弁PC1、PC2の作動も禁止(停止)させる。そして、ブレーキECU33は、図6−1のステップS25に進んで制動力制御プログラム実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後、ふたたび、ステップS10にて制動力制御プログラムの実行を開始する。
以上の説明からも理解できるように、上記第2実施形態によれば、運転者によるブレーキペダルBPの戻し操作時において、前記ステップS41にて戻し助勢限界判定条件が成立したときには液圧ポンプHP1,HP2を適切に加圧制御することができる。また、前記ステップ41にて戻し助勢限界判定条件が成立したときにはバキュームブースタVBによる助勢が付与される状態であるため、確実に液圧ポンプHP1,HP2の作動を停止(禁止)することができる。したがって、この第2実施形態においても、バキュームブースタVBによる助勢限界の前後にて踏力Fとブレーキ液圧Pbとの関係を確実にリニアにすることができる。その他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
c.第1変形例
上記第1および第2実施形態においては、前記式1によって表される助勢限界関数の傾きa1および切片b1と、前記式10によって表される戻し助勢限界関数の傾きa2および切片b2が実験的または設計的に予め決定されるものとして実施した。ところで、特に、バキュームブースタVBの助勢限界点(Fsu,Psu)に関しては、踏み込み操作時におけるブレーキペダルBPの踏み込み速度すなわち踏力速度dF/dtに応じて変化する。具体的には、図8に示すように、例えば、運転者がブレーキペダルBPを踏み込み操作する場合、踏み込み速度が小さい状況では助勢限界点(Fsu,Psu)は全体的に踏力Fが小さい側に移動する傾向を有し、踏み込み速度が大きい状況では助勢限界点(Fsu,Psu)は全体的に踏力Fが大きい側に移動する傾向を有する。したがって、このようなバキュームブースタVBの助勢限界点(Fsu,Psu)の変化傾向を加味して助勢限界関数を設定することによって、より正確に助勢限界判定条件を設定することができる。
より詳しく説明すると、図8にて太実線により示すように、踏み込み速度が小さい場合には助勢限界関数の傾きa1は小さくなるとともに切片b1は大きくなる傾向にある。一方、図8にて太一点鎖線により示すように、踏み込み速度が大きい場合には助勢限界関数の傾きa1は大きくなるとともに切片b1は小さくなる傾向にある。このため、ブレーキECU33は、前記ステップS14または前記ステップS40にて、助勢限界判定処理を実行するとき、まず、前記ステップS12にて入力した実踏力Fを時間微分して踏力速度dF/dtを演算する。続いて、ブレーキECU33は、図9に示すように、踏力速度dF/dtに対する傾きa1および切片b1の変化特性を表すマップを参照し、演算した踏力速度dF/dtに対応する傾きa1および切片b1を決定する。そして、ブレーキECU33は、踏力速度dF/dtの変化を加味して決定した傾きa1および切片b1を用いて前記式1に従い助勢限界関数を設定し、この設定した助勢限界関数に基づいて前記式7により表される助勢限界判定条件を設定する。これにより、前記ステップS14または前記ステップS40における助勢限界判定処理の精度を向上させることができ、より正確に液圧ポンプHP1,HP2の作動を制御することができる。
また、戻し助勢限界関数の傾きa2および切片b2についても、同様に、踏力速度dF/dtに対する傾きa2および切片b2の変化特性を表すマップを参照して踏力速度dF/dtの変化を加味し、前記式10に従って戻し助勢限界関数を設定することにより、前記ステップS41における戻し助勢限界判定処理の精度を向上させることができ、より正確に液圧ポンプHP1,HP2の作動を制御することができる。その他の効果については、上記第1実施形態および第2実施形態と同様である。
d.第2変形例
上記第1実施形態においては、前記式8により表される目標関数の傾きd1がバキュームブースタVBによる助勢特性に基づいて予め設定されるものとして実施した。また、上記第2実施形態においては、前記式14により表される目標関数の傾きd2がバキュームブースタVBによる助勢特性に基づいて予め設定されるものとして実施した。これらの場合、バキュームブースタVBの入出力特性すなわち入力としての実踏力Fと出力としての実マスタシリンダ液圧Pmを用いて、傾きd1および傾きd2を補正するように実施することも可能である。なお、以下の説明においては、上記第1実施形態における目標関数の傾きd1を補正する場合を例示して説明するが、上記第2実施形態における戻し目標関数の傾きd2についても同様に補正することができるため、その説明を省略する。
ブレーキECU33は、目標関数の傾きd1をバキュームブースタVBの入出力特性に基づいて補正するにあたり、図10に示す目標関数補正プログラムを実行する。すなわち、ブレーキECU33は、目標関数補正プログラムをステップS60にて開始し、続くステップS61にて、バキュームブースタVBのブースタ特性計測モードに移行する。ここで、特性計測モードへの移行は、例えば、車両出荷時や修理時におけるテストモード指示、あるいは、運転者による車両使用時における学習モード指示などに応じて移行されるとよい。このように特性計測モードに移行すると、ブレーキECU33は、ステップS62に進む。
ブレーキECU33は、ステップS62にて、図11に示すバキュームブースタVBの入出力特性図に基づき、実踏力Fに対する実マスタシリンダ液圧Pmの変化dPm/dF(以下、この変化を入出力特性変化dPm/dFという)がサーボ比測定開始スレッシュSth1よりも小さく、かつ、サーボ比測定終了スレッシュSth2よりも大きいか否かを判定する。ここで、入出力特性変化dPm/dFがサーボ比測定開始スレッシュSth1とサーボ比測定終了スレッシュSth2との間に存在する状態は、バキュームブースタVBの助勢により、実踏力Fの増加に伴ってマスタシリンダ液圧Pmが増加している状態に対応する。
そして、ブレーキECU33は、入出力特性変化dPm/dFがサーボ比測定開始スレッシュSth1よりも小さく、かつ、サーボ比測定終了スレッシュSth2よりも大きければ、「Yes」と判定してステップS63に進む。一方、ブレーキECU33は、入出力特性変化dPm/dFがサーボ比測定開始スレッシュSth1よりも大きい、または、サーボ比測定終了スレッシュSth2よりも小さければ、「No」と判定してステップS65に進む。
ステップS63においては、ブレーキECU33は、入出力特性変化dPm/dFがサーボ比測定開始スレッシュSth1よりも小さく、かつ、サーボ比測定終了スレッシュSth2よりも大きいと判定された回数を表すカウンタ値Cthを「1」だけインクリメントし、ステップS64に進む。ステップS64においては、ブレーキECU33は、バキュームブースタVBの助勢により、実踏力Fの増加に伴ってマスタシリンダ液圧Pmが増加しているときの入出力特性変化dPm/dFをカウンタ値Cthで除した値、すなわち、入出力特性変化dPm/dFがサーボ比測定開始スレッシュSth1よりも小さく、かつ、サーボ比測定終了スレッシュSth2よりも大きいときの平均勾配(傾き)を、補正前における目標関数の傾きd1をカウンタ値Cthで除した値に加算して、目標関数の傾きd1を補正する。これにより、バキュームブースタVBの実特性を反映して補正した目標関数の傾きd1を決定することができる。
そして、ブレーキECU33は、目標関数の傾きd1を補正すると、ステップS69に進んで目標関数補正プログラム実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後、ふたたび、ステップS60にて目標関数補正プログラムの実行を開始する。
一方、前記ステップS62にて「No」と判定すると、ブレーキECU33は、ステップS65を実行する。ステップS65においては、ブレーキECU33は、カウンタ値Cthが「1」よりも大きく、かつ、入出力特性変化dPm/dFがサーボ比測定終了スレッシュSth2よりも小さいか否かを判定する。ここで、入出力特性変化dPm/dFがサーボ比測定終了スレッシュSth2よりも小さい状態は、バキュームブースタVBが助勢限界を超えて助勢できないときに、実踏力Fの増加に伴ってマスタシリンダ液圧Pmが増加している状態に対応する。
そして、ブレーキECU33は、カウンタ値Cthが「1」よりも大きく、かつ、入出力特性変化dPm/dFがサーボ比測定終了スレッシュSth2よりも小さければ、「Yes」と判定してステップS66に進む。一方、ブレーキECU33は、カウンタ値Cthが「1」よりも大きいが、例えば、入出力特性変化dPm/dFがサーボ比測定開始スレッシュSth1よりも大きいときには、「No」と判定してステップS68に進む。
ステップS66においては、ブレーキECU33は、カウンタ値Cthが「1」よりも大きく、かつ、入出力特性変化dPm/dFがサーボ比測定終了スレッシュSth2よりも小さくなったときに最初にマスタシリンダ液圧センサ31から入力したマスタシリンダ液圧Pmを助勢限界点における助勢限界液圧Psuに設定し、踏力センサ32から入力した実踏力Fを助勢限界点における助勢限界踏力Fsuに設定する。これにより、バキュームブースタVBの実特性を反映して補正した助勢限界点(Fsu,Psu)を決定することができる。
そして、ブレーキECU33は、助勢限界点(Fsu,Psu)を決定すると、ステップS67にてバキュームブースタVBのブースタ特性計測モードを終了し、ステップS69にて目標関数補正プログラムの実行を終了する。なお、補正した目標関数の傾きd1および助勢限界点(Fsu,Psu)は、例えば、図示を省略するブレーキECU33の不揮発性RAMなどに記憶される。
一方、前記ステップS65にて「No」と判定すると、ブレーキECU33は、ステップS68にてカウンタ値Cthを「0」にリセットする。すなわち、この場合には、例えば、入出力特性変化dPm/dFがサーボ比測定開始スレッシュSth1よりも大きい状態であるため、入出力特性変化dPm/dFを用いて目標関数を補正することが適切ではない。このため、ブレーキECU33はカウンタ値Cthをリセット処理した後、ステップS69にて目標関数補正プログラム実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後、ふたたび、ステップS60にて目標関数補正プログラムの実行を開始する。
このように、目標関数補正プログラムを実行することにより、バキュームブースタVBの実際の入出力特性を表す実踏力Fと実マスタシリンダ液圧Pmとを用いて目標関数の傾きd1を補正し、助勢限界点(Fsu,Psu)を補正することができる。これにより、ブレーキECU33は、補正された目標関数の傾きd1を用いた前記式8に従って目標ブレーキ液圧Pbdを精度よく決定することができる。また、補正された助勢限界点(Fsu,Psu)を用いて前記式3により表される助勢限界判定関数や前記式5により表される比較関数を精度よく決定することができる。したがって、より適切に制動力制御、具体的には、助勢限界点(Fsu,Psu)近傍にて適切なタイミングによって液圧ポンプHP1,HP2による加圧制御を開始することができて、ブレーキ液圧Pbをリニアに変化させることができる。
本発明の実施にあたっては、上記各実施形態および各変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
例えば、上記第2実施形態においては、ブレーキECU33は、制動力制御プログラムのステップS41にて、前記式10により表される戻し助勢限界関数と前記式12により表される戻し比較関数とを比較し、これら両関数の切片を用いて前記式13により表される戻し助勢限界判定条件を決定するように実施した。この場合、例えば、上記第1実施形態における助勢限界判定条件のように、助勢限界判定関数を設定しておき、この助勢限界判定関数を用いて戻し助勢限界判定条件を決定するように実施することも可能である。
具体的には、図7にて細い鎖線により示すように、前記式10により表される戻し助勢限界関数に対して、踏力Fが減少する状況において戻し助勢限界点(Fsd,Psd)よりも手前となるように平行移動した戻し助勢限界判定関数を考える。この戻し助勢限界判定関数は、戻し助勢限界関数を踏力Fが大きい側に平行移動して決定されるため、下記式15のように表すことができる。
Psd=a2・(Fsd−c2)+b2 …式15
ただし、前記式15中のc2は、実験的または設計的に予め決定される戻し助勢限界関数に対する平行移動量を表す。そして、前記式15を整理すると、助勢限界判定関数は下記式16により表すことができる。
Psd=a2・Fsd+(b2−a2・c2) …式16
これにより、戻し助勢限界判定関数を用いた場合には、戻し助勢限界判定条件は、下記式17により表すことができる。
(Pm−a2・F)−(b2−a2・c2)≦0 …式17
これにより、例えば、前記式17により表される戻し助勢限界判定条件が成立したときに、前記式14に従って戻し目標関数を設定して目標ブレーキ液圧Pbdを決定し、液圧ポンプHP1,HP2によってブレーキ液を加圧することにより、戻し助勢限界点(Fsd,Psd)にてリニアにブレーキ液圧Pbを減少させることができる。
さらに、上記各実施形態および各変形例においては、ブレーキユニット11〜14としてディスクブレーキユニットを採用して実施した。しかしながら、この場合、ブレーキユニット11〜14としてブレーキドラムとブレーキシューとを備えたドラムブレーキユニットを採用して実施することも可能である。この場合であっても、制動力制御プログラムを実行することによって、還流ブレーキ液供給部26の液圧ポンプHP1、HP2すなわちモータMTの駆動を適切に制御することができるため、上記各実施形態および各変形例と同様の効果が期待できる。